『  晴れますか  ― (1) ―  』 

 

 

 

 

 

*******  はじめに *******

このお話は 【 Eve Green 】 様宅の <島村さんち>設定を

拝借しています。 ジョーとフランソワーズの双子の子供たち、

すぴかとすばるが小学校低学年の頃のこと・・・

 

 

 

 

 

「 ねえねえ おかあさ〜ん あめ、ふるかな。 ねえねえ・・・ 」

「 あめ、ふらないよね? ぜったいにふらないよね! 」

「 きのうもそのまえもさ、あさ、あめふったけど。 夕方にはやんだもん、ふらないよね! 」

「 ぼく、てるてるぼうず におねがいしたもん、ふらないよ。 」

「「 ねえねえ おかあさ〜ん  」」

 

朝、目覚めた時から 島村さんちの双子の姉弟はず〜〜っと。ず〜〜〜〜っと同じ事を

何回も何回も何回も・・・飽きずに繰り返し母に纏わりついている。

パジャマから着替える時も 顔を洗うときも 朝御飯を食べるときも ランドセルを背負うときも

・・・・ すぴかとすばるはず〜っと同じ質問を母に投げかけていた。

そして。

双子達の母も ず〜〜〜っとず〜〜〜〜っと同じコトを答えていた。

「 そうねえ。 この分なら大丈夫かな? 」

「 絶対・・・っていうことはないのよ。 何にでもね。 」

「 昨日と今日は同じじゃないの。 でももう降らないで欲しいわ、お母さんも。 」

「 そうね、沢山作ったものねえ。 」

 

「 すぴか〜 すばる? イッテキマス、の時間でしょ。 」

いつもは黙っていても鉄砲玉みたいに飛び出してゆく姉娘も 今日は窓辺に張り付いている。

のんびり屋の弟息子は まだしっかりマグカップを抱えて姉の隣に立っていた。

「「 ねえねえ、 おかあさ〜ん? あめ さあ、ふらないよねえ? 」」

 

   ・・・ んんん 〜〜〜 もう〜〜〜 !!  ( ぶち★ )

 

・・・ ついに ― 母はキレてしまった・・・・!

「 ・・・ 天気予報屋さんに聞いてちょうだい! ほら、早く出かけないと遅刻よ?

 ああ・・・おじいちゃまにイッテキマス、のご挨拶は? 」

「「  おじいちゃま〜〜 イッテキマス!!  ねえ、おかあさ〜ん、あめ、さぁ・・・ 」」

「 降りません!!! お母さんが降らせませんッ ! 」

「「 うわ〜〜い♪ 」」

 

   バターーーーン!!

 

双子達は母の宣言に大喜び、玄関のドアの音も高らかに登校していった。

「 もう〜〜 お玄関のドアは静かに・・・ ああ、花瓶が・・・ 本当にもう・・・ 」

衝撃でひっくり返った花瓶を起こし、エプロンで零れた水を拭い ・・・フランソワーズは特大の溜息をついた。

「 ・・・なんじゃね、チビさん達、えらく天気を気にしていたじゃないか。 」

「 博士 ・・・ 本当にもう〜〜あのコ達ったら今朝から、いいえ、昨日からもう同じ事ばっかりなんです。

 晴れる? 晴れるよね? きっと絶対晴れるよね・・・って! 」

「 ははは・・・ コドモは一つの事に執着するものさ。  」

博士はテラスからのんびり引き上げてきた。 テラスには博士秘蔵の盆栽類がトコロ狭しと並んでいるのだ。

古ぼけた麦藁帽子をばさり、と脱ぐと汗を拭っている。

「 蒸してきたの・・・ まあ、この分なら雨は降らんじゃろう。 」

「 そうですか! よかったわ〜〜 ふふふ・・・宣言しちゃいましたから。 降ったら大変・・・ 」

「 ははは・・・母さん、恨まれるかの。 それで遠足でもあるのかな。 」

「 いいえェ。 縁日の・・・ ほら、国道の向こうにある神社の縁日なんです。 夏には夜店もでますでしょ。」

「 おお、おお。 あそこか。 うん、ワシも時々散歩で足を伸ばすがのう。

 ほう・・・ 夜店か。 日本独特のカーニバル・・・といったところじゃな。 不思議な雰囲気の夜じゃなあ 」

「 ええ。 毎年、あまり変わり映えないのですけど・・・今年はジョーが、約束したんですの。 

 今年の夜店は一緒に行こうね・・・って。 それでもう・・・昨日から二人とも大騒ぎ・・・ 」

「 ははは・・・ 久しぶりに父さんを一緒で嬉しいのじゃろう。 

 ジョーのやつ、このところずっと午前様ではないか。 」

「 ええ。 もう忙しくて忙しくて・・・  ほとんど寝に帰ってくるだけでしょう?

 大変だから都内のビジネス・インにでも泊まってきたら・・・って進めたのですけど・・・ 」

 

 

「 え? どうして? 

「 どうして・・・って。 だって遅くまでお仕事をして、ここまで帰ってくるの、疲れるでしょう?

 時間もかかるし。 オフィスの近くのホテルに泊まれば往復の時間の分、ゆっくり休めるわ。 」

「 そんなこと・・・! コドモ達の寝顔を見れば疲れなんて吹き飛んじゃうよ。 それに・・・ 」

ジョーはするり、と彼の細君の腰に腕を回した。

その日の夜もジョーの帰宅は日付変更線を越えており、さすがにフランソワーズも気になってきたのだ。

しかし、彼女の心配顔をヨソに当の本人は 満面の笑みを浮かべている。

「 毎晩、きみに会いたいから。 きみの顔を見て、きみの声を聞いて きみを抱き締めて。

 ・・・ こうやってキスすれば ・・・ んんん 」

「 ・・・きゃ・・!  んんん ・・・  ジョー・・・・ったら ・・・ 」

「 ・・・ほら。 ぼくは元気さ。 ぼくを <ウチ> から締め出さないでくれよ。 」

「 ・・・ ごめんなさい。 わたしだって毎晩ジョーの顔、見たいの。 ジョーと一緒に・・・寝たい・・・の。」

「 ふふふ・・・やっと白状したね、奥サン? それじゃ・・・リクエストにお応えして♪ 」

ジョーはそのまま ひょい、と彼女を抱き上げた。

「 あん・・・! そ、そういう意味じゃなくて・・・ ベッドでちょっとはハナシも聞いて欲しい・・・ 」

「 <そういうのじゃない意味>なんて知らないよ。 あは、こういう時にはこの身体に感謝♪だな〜 」

「 ・・・ もう ・・・ ジョーったら・・・ 」

その夜はとうとうそのままベッドに直行し ― 二人は熱い夜を過したのである    が。

 

 

「 あの・・・ コホン・・・。 どうしてもコドモ達の顔を見たいんですって。 その・・・毎晩。 」

「 そうか、アイツは子煩悩じゃなあ。 うんうん・・・ 」

博士はにこにこと眼の前の若妻を ― なぜか顔を赤らめていたが ― を見やった。

 

    なんとまあ・・・・ このコは妻になり母になり ますます綺麗になったことよ・・・!

    匂うが如き、とはまさに今の彼女のためにある比喩かもしれんなあ・・・

 

「 え・・・ええ。 それで今日は久し振りに早く帰れるから一緒に神社の縁日に行こう・・・って

 先週のうちに約束したんです。 」

「 ほう〜〜 それはそれは・・・ なるほど、それでチビさん達は大騒ぎじゃったのか。 」

「 ええ。 もう・・・ 晴れるよね? 晴れるよねえ〜〜 の繰り返し! 

 ちゃんとTVで天気予報も見せましたし。 何回も一緒に空を見たのですけど・・・・ 」

「 ははは・・・・ チビさん達は楽しみとドキドキで胸がはち切れそうなんじゃろうな。

 まあ・・・ この分なら今晩、急な雨の心配はなかろうよ。 」

「 ええ、そう願いたいです。 お洗濯モノも溜まっているし・・・

 あ! 博士、リネン類とか出してくださいね! 大きなモノも洗ってしまいますから。 

 さあ〜〜 ジョーのパジャマも持ってこなくちゃ! 」

フランソワーズはぱたぱたと二階へ駆け上がっていった。

エプロンの蝶結びが ― 縦に留っている蝶だったけれど ― ふりふり背中で揺れている。

「 ほいほい、ありがとうよ。 ・・・ いや〜 祭りの縁日か・・・ うん、そうじゃ・・・・! 

 街には確か ・・・うんうん・・・あった、あったぞ。 花屋と茶葉屋の並びだったな・・・! 」

ギルモア博士は一人、リビングでぽん・・・と手を打った。

「 おお〜〜い・・・フランソワーズ? ワシはちょいと・・・ 駅前まで行ってくるでの。

 なにか買い物があればついでに行くぞ? 」

ひょい、と階段から彼女が顔を覗かせた。

「 え・・・? 駅前へ? あらら・・・ 御用ならわたしが行きますわ? 」

「 いや・・・ あ〜 本! 本屋に用があるから。 ワシが自分で行く。 」

「 そうですか? それじゃ・・・お気をつけになって・・・ ああ、バスの時刻表は冷蔵庫に貼って

 ありますから。 」

「 ほいほい、了解。 ・・・う〜ん・・・ やはり蛍草がいいかのう・・・ 」

「 はい? 」

「 い、いや! なんでもない。 さ・・・ 支度して出かけなければな。 」

「 行ってらっしゃい。  あ、ランチまでにはお帰りになりますよね? 」

「 うむ、そのつもりじゃよ。 さあて、そうじゃ、チビさん達に西瓜でも買ってこようかの 」

「 え! 西瓜って重いんですのよ〜〜 そんなこと、なさらないで。 

 博士〜〜 お願いですから あまり無茶はしないでくださいね。 」

「 ほい、わかっておるよ。  それじゃ・・・勝手に出るからな。 」

「 はい、行ってらっしゃい・・・ 」

「 ・・・ うむ。」

博士は軽く頷くと、麦藁帽子とタオルを手にのんびりとリビングを出ていった。

 

・・・ふわり ・・・ 

そろそろ梅雨も終るのか、かなり熱気を含んだ風がリビングのカーテンを揺らしていった。

 

 

 

「 え〜〜〜 これ、きていいの? 」

「 うわ・・・ これ・・・ き〜すけ、だ! き〜すけがいっぱいいるよ、ほら ほら〜〜! 」

「 アタシのは ・・・ とんぼ! これ、トンボでしょ、おじいちゃま! 」

「 き〜すけ・・・ こんなトコにいたんだ・・・ おじいちゃま〜〜 ありがとう。 」

学校から帰ってきた子供たちは ランドセルもリビングに転がしたまま、大騒ぎをしている。

部屋の真ん中にはコドモ用の浴衣と三尺帯が ちらばっていた。

すぴかは赤蜻蛉の、そしてすばるは赤い金魚模様の浴衣を手に大喜びだ。

包み紙の奥には どうやら大人用のものも見え隠れしている。

博士の <買い物> は夏祭り用の浴衣だったのだ。

梅雨明け間近の午前中、地元の商店街で島村さんち・皆の浴衣を買ってきてくれた。

「 ほうほう・・・ 気に入ってくれたかい。 それはよかった・・・

 うん、すぴか。 お前が着ると赤トンボが飛んでいるみたいに見えるじゃろうなあ。 」

「 え、 そ、そっかな〜〜 アタシ、着てみてもいい? 」

「 ああ、いいよ。 じゃがな、ワシは上手く着付けてやれんで・・・お母さんに頼みなさい。 

 お。 すばる。 お前、なかなかかっこいいぞ? 」

「 えへへへ・・・ こうやって・・・きるんだよね? おじいちゃまやコズミのおじいちゃまとおなじだ〜 」

すばるは見よう見まねでガウンみたいに浴衣を羽織って見せた。

「 うんうん・・・ よう見ておるな、お前は・・・ おお、フランソワーズ? お前にもあるぞ。 」

カチャ・・・っと陶器の触れ合う音と 馥郁たる紅茶の香りが流れてきた。

「 博士・・・・ 本当に申し訳ありません・・・ さあさ、あなた達? ちゃんと手を洗って嗽していらっしゃい。

 キッチンにオヤツが用意してありますよ。 」

「 うわ〜〜い♪ アタシ! いっちば〜〜ん! 」

すぴかがぱっとバスルームに駆け出していった。

「 僕・・・ き〜すけといっしょにオヤツ、たべたいなあ・・・ 」

すばるは浴衣の模様の金魚をそっと撫でている。 

「 き〜すけ、ちゃんと待っててくれるわよ。 すばるクン、また一緒だね〜って。 」

「 ・・・そう・・・かな。 き〜すけ・・・ また一緒、だよね。 」

ほろり・・・と小さな雫が糊の効いた浴衣地におちた。

すばるが幼稚園前から大事に育てていた金魚の き〜すけ、

もとはといえば縁日の金魚掬いの戦利品だった。

どうにも頼りない、ひよひよした和金だったのだが、すばるの心を込めた <お世話> のお蔭か長生きし、

今年の春の初めに、とうとう天寿を全うした。

初めて体験する身近な ― それも大切な ― 存在の 死 ・・・

すばるは生まれて初めて <失う> ということを身をもって知った。

以来、彼はすこうし・・・ 性格が変わってきた・・・風に母は感じていた。

「 ええ、オヤツを食べたら着てみましょうね。 ほら・・・すばるもお手々を洗っていらっしゃい。

 あなたの浴衣はお母さんが畳んでおくから。 」

「 うん! お母さん。 」

満面の笑みを浮かべ すばるは浴衣を母に渡し姉の後を追った。

 

    ・・・ うわ・・・ このコの笑顔って・・・

    もう〜〜〜 ジョー、そっくり ・・・・!

 

きゅん・・・! と我が子の笑顔にどきどきし。 そんな自分になおさら頬を染め。

フランソワーズはまたも一人で大汗をかいていた。

 

「 ははは・・・ よかったわい、 チビさん達に気に入ってもらえたようじゃなあ。 」

「 ええ、初めてですもの。 ありがとうございます、博士。 」

「 いやいや・・ ワシがな、チビさん達の浴衣姿を見たいのじゃよ。 

 そうそう、これはお前達に、じゃ。 ジョーのと、フランソワーズ、お前にも・・・ どうかな。 」

「 え・・・ わたしにも、ですか。 あらだって・・・一人では着られないし・・・ 」

「 まあ、見てごらん。 これならお前の髪にもよう映ると思うがの。 」

博士はにこにこして、包みを開いた。

「 ・・・ わあ ・・・ 綺麗・・・ これ、あの草ですわよね、ほら・・・え〜と・・・? 」

「 蛍草、じゃよ。 この時季になかなか可憐な花をつける。 呉服屋のオヤジがな・・・

 この季節にだけ、出る柄ですと自慢しておったぞ。 」

「 ・・・ まあ ・・・ 」 

ふわり、と捌いた浴衣は藍地、裾から一面に蛍草が白く染め抜かれ、花は鴇いろ、葉に宿る露は浅黄だ。

よく見れば裾近くには淡く観世水が流れ ・・・ まさに一幅の絵画だった。

「 素敵・・・ キモノとはまた違った魅力ですね。 あの・・・いいのですか。 あのお高いのじゃ・・・? 」

「 ははは・・・そんな余計なコトは心配するな。 娘は黙って親父に甘えておればいいのじゃよ。 」

博士はぽん、と亜麻色の髪に手を当てた。

「 たまにはワシにもお前達の父親としての出番をおくれ。 」

「 ・・・ はい、おとうさん。 まあ・・・ ジョーのは これ、波模様・・ですかしら。 」

「 そうじゃよ、白地に紺の濃淡で一面の波模様・・・ 遠くから見ると紺地に見える。 」

「 ・・・ あら、本当・・・ キモノって洋服にはない不思議な魅力がありますね。 」

「 あはは・・・ これは浴衣じゃ、ほんの遊び心の染めだ、と呉服屋のオヤジは笑っておった。 」

「 そうですか・・・ う〜ん、これじゃますますお天気が気になってきちゃった♪

 博士・・・ 晴れますわよね? 今夜・・・ 」

「 おいおい・・・ 母さんまでコドモ達の真似かの? 」

「 あら。 いやだわ、わたしったら・・・ 」

<父と娘>は顔を見合わせ、思わず笑みをもらしてしまった。

 

「 おかあさん、おかあさ〜〜ん! アタシ、 ゆかた きる〜〜 」

「 ぼくも。 おかあさん、ぼくもき〜すけ、きる! それでき〜すけといっしょにあそぶんだ〜 」

ぱたぱたぱた・・・  コドモ達がリビングに駆け戻ってきた。

「 あら・・・あなた達、オヤツは? カリントウとお煎餅、出しておいたでしょ。 」

「 もうたべちゃった! アタシ〜〜 はやくゆかた、きたい〜〜 」

「 ・・ 僕、あとでゆっくりたべるから・・・ ぽっけにいれた〜 」

「 え・・・ あ〜あ・・・ すばる、ポッケの中、べたべたよ・・・ ほら、カリントウ、出して・・・ 」

「 ・・・ あとでたべる。 僕、とっておくの。 」

「 はいはい、わかったわ。 でもポッケの中だと・・・つぶれちゃうでしょ。 お母さんが預かっておくわ。 」

ね・・・? と差し出された手に すばるはしぶしぶ・・・ 大好きなかりんとうを乗せた。

「 ( うわ・・べとべとじゃない・・・) はい、お預かり、ね。 」

「 おかあさ〜〜ん、これ、どうやってきるの。 このひも〜〜 えぷろんみたい。 」

「 え? 浴衣も帯を使って着るのよ。 ほら・・・ 可愛いのがあるでしょう? 」

「 このふりふりしたの? わ〜 やわらかい〜〜 ふにょ〜んってのびるよ? 」

すぴかは淡い色ばかりを使った三尺帯を引っ張ったり振り回したりしている。

「 あらら・・・だめよ、そんなことしちゃ。 ちっちゃいコはね、これでふわっと結ぶだけでいいの。 

 じゃ・・・ちょっといらっしゃい。 あらら・・・ お洋服、脱がなくてもいいのよ。 」

コドモの浴衣ならなんとか着せてやれるかな・・・とフランソワーズはまず赤蜻蛉模様の方を

広げていた。 

 

    あら。 本当に可愛いわねえ・・・ このコには花模様なんかよりずっとよく似会うわ・・・

    ・・・ え。 このヒモ、なに?  あらあ〜〜? 浴衣にしっかり縫い付けてあるわ?

 

「 ・・・ おかあさん、もういい? 」

「 あ ・・・ ちょ ちょっと、もうちょっと待って? え〜と・・・ このヒモは・・・どうやるのかしら・・・ 」

「 おかあさん、まだ。 」

「 う〜ん ・・・ ちょっと待ってね。 キモノの時って ・・・ こんなヒモ、付いてなかったわよねえ?

 このふわふわなのが帯でしょう? だったらこのヒモはどうやって結ぶのかしら??? 

「 どうじゃな。 二人とも、上手に着られたかの。 」

「 あ、博士。 ちょっと教えてください。 浴衣は着慣れていらっしゃるから・・・ 」

「 いや〜〜 ワシはコズミ君の見よう見真似じゃからなあ。 しかし、そんなにムズカシことはないぞ? 」

「 え・・・ええ。 あの。 このヒモってどういう風に処理するのですか。 

 オトナ用のには・・・付いてないですよねえ・・・ 」

「 うん・・・? あれ、本当じゃな。 はて・・・ コレはなんだ? 」

博士もすぴかの浴衣の前たてに縫い付けられた紐 ― というより幅の狭い布なのだが ― を

手に 首を捻っている。

「 アタシ・・・ これ、きれないの? ・・・ おとうさんにみせたい ・・・ 」

「 ええ、ええ、そうね。 ごめんね、すぴか。 もうちょっと待って頂戴ね。 う〜ん・・・?

 ・・・ ああ、そうだわ! わたなべ君のお母様に伺ってみましょう。 」

「 わ〜い♪ わたなべくんもね〜 いっしょにえんにち、いこうねっていってたんだ〜 」

「 あら、そうなの? それなら丁度いいわね。 あら、今お忙しいかなあ・・・ 」

少々気がひけつつも、フランソワーズは大いに期待してナンバーを押した。

 

 

いつも、いつも妙なことばかり尋ねているので、フランソワーズは大いに恐縮しつつ切り出したのだが、

わたなべ君のお母さんは実に気さくに、そしてなんでもない風に答えてくれた。

「 ああ・・・それはね、つけ紐を後ろで交差して前に持ってくればいいのよ。 それであまりきつくない様に

 結んで。 しっぽは巻き込むの。 その上に三尺帯を巻いてね ・・・ 」

「 ・・・ あ あのう ・・・ すみません、つけひも ・・・って このヒモのことですか。 」

「 え? ああ、そうよ。 それをね、後ろにもっていって 」

「 ・・・ は ・・・はあ・・・ 」

「 あ、電話はお分かりにならないわよねえ。  そうだわ、これからウチにいらっしゃらない?

 ウチの大地にも着せますから・・・ すばる君やすぴかちゃんも一緒に着ましょうよ。 」

「 え・・・ いいのですか。 ご迷惑じゃ・・・ 晩御飯の準備とか・・・ 」

「 いいの、いいの。 今晩はもうカレーが作ってあるし。 すぐに着られますよ、どうぞ? 」

「 まあ ・・・ それじゃ・・・ お願いします。 すぐに・・・すぐに準備して伺いますね! 」

「 ええ、お待ちしています。 うふふふ・・・嬉しいわ、美味しいお茶を用意しておくわね。 

 久し振りにお喋り、しましょうよ。 」

「 ありがとうございます! それじゃ・・・ ごめんくださいませ。 」

ふうう〜〜〜 と大きく溜息をつくと、フランソワーズは受話器を置いた。

「 ・・・ わかったかの? 

「 ええ。 あ・・・いいえ、それが・・・ ちょっとこれから行ってきます! 」

「 これから? どこへ、かね。 」

「 着付け教室・・・いえ! わたなべ君の御宅へ! お母様が着せてあげしょう、って

 言ってくださったんです。 」

「 おお、そりゃ〜よかった! ささ・・・・行っておいで。 」

「 はい。 すばる、すぴか? お帽子を取っていらっしゃい。 おでかけしますよ。 」

「 おでかけ? だって・・・ ゆかたは? おかあさん。 」

「 浴衣を持って。 わたなべ君のお母様が 上手に着せてくださるのですって。 」

「 うわ〜〜 よかった〜〜 すばる〜〜 おでかけだって! 」

「 おでかけ? どこへ。 」

「 わたなべ君ち! ゆかた、きにゆくんだって! 

 とんぼのきんぎょのゆかた、わたなべ君、びっくりするよ、きっと。 」

「 そうなんだ〜〜 うわ〜〜い、わたなべ君にも き〜すけ、みせたげよう・・・ 」

「 すばるってば! はやく〜〜 おぼうし、もってきてって。 おかあさんが。 」

「 う、うん・・・ ちょっとまって・・・ き〜すけ、きれるんだね! 」

「 アタシ、あかとんぼだも〜ん♪ おそらだってとべちゃう〜〜 ぶう〜〜〜ん! 」

タカタカタカ・・・・ コドモ達は大変な勢いで階段を駆け上っていった。

 

 

 

 

 

「 ただいま・・・。  ??? お〜い・・・ フラン?  ただいま・・・? 」

ジョーは玄関で立ち止まり、じ〜〜〜っと耳を澄ませていた。

「 ・・・ あれ・・・ ヘンだなあ。 誰もいないのかな? なにも聞こえない・・・ 」

わざわざ集中しなくても、このドアを開ければ いつもいろいろな音が飛び込んでくる。

テレビの音やら 小さな足音、 時にはなにやら高声でのおしゃべりや泣き声・・・

いけません! これ! ・・・ と母の叱る声やら だあってェ〜 ・・・ の声に混じって

時間によっては いい匂と一緒に皿・小鉢がテーブルに触れる音も聞こえてきたりもするのだ。

要するに ・・・ 日々の生活の音がにぎやかに響いてきて温かい<家庭>という空気が彼を取り囲む。 

そして ―

 

  ― ジョー! お帰りなさい。 お仕事、お疲れさま・・・

 

彼の最愛の女性 ( ひと ) が蕩ける笑みを浮かべ迎えてくれる・・・のだが。

 

  

    シ −−−−− ン ・・・

 

 

今日はそんな文字が実際に玄関ポーチの高い天井に満ちているみたいなのだ。

7月の初め、夕方といってもまだまだ青空も見える時刻なのだが・・・

ジョーの大事な家の中からは はと時計の振り子の音だけが聞こえるのだった。

ジョーはチラリ、と時計を眺め思わず・・・ 奥歯のスイッチを舌先で確認してまった。

「 ・・・ あ ああ。 ちゃんと off になっているよな・・・ 」

ほっと胸をなでおろしている自分自身にジョーは苦笑する。

以前の加速装置のトラブルは、彼にとってかなりキツいトラウマになっていた。

普段はすっかり忘れていた あの底知れぬ恐怖が す・・・っと彼の背筋を冷たくする。

「 ふん・・・ だらしないヤツだな、島村ジョー? 」

ぶるん・・・と頭を振って、息を吸い込み。  

 

「 た だ い ま。  」

 

返ってきたのはずっと聞こえる波の音だけだった。

・・・ やっぱり留守なのか。 

ジョーはかなりがっかりし、たった今までの軽い足取りはどこへやら、のろのろと靴を脱ぎ、

スリッパをひっかけリビングに向かった。

 

ぱたん  ぱたん  ぱたん ・・・

 

普段は気にもとめていない、スリッパの音がやけに大きく聞こえる。

「 今日は早く帰る・・・って言ったのに・・・。  コレ ・・・ どうしようか。 ふん、いいか・・・ 」

抱えていた大きな花束を 彼は無造作にソファに放り投げた。

カサブランカの甘い香りが リビング中に ぱあ・・・っと広がってゆく。

すぴかの靴下やらジョーの雑誌、博士が置き忘れた眼鏡やら、フランソワーズの針仕事まで、

ごたごた散らばった <日常> にはおよそ不似合いな香り・・・かもしれなかった。

「 珍しいコト、しすぎたかなあ・・・ だけど。 ぼくだってたまには、花くらい持ってかえるさ! 」

ふん・・・! 

ジョーはハナを鳴らすと、盛大にスリッパを引き摺って雑然としたリビングを抜けてゆく。

ぱったん ぱったん ぱったん ・・・

 ― でも、 今日はどこからのお小言はとんで来ない。

 ・・・ ふん ・・・!

ジョーはますます不機嫌になり キッチンの入り口に掛かる玉簾を跳ね上げた。

 

 

靴やスリッパを引き摺らないで・・・。

新婚当時から 島村さんちの奥さんは喧しく言い続けている。

 

 

「 ・・・ ジョー ・・・? 」

彼の細君は針仕事からふと顔を上げ、彼をじっと見つめる。

「 あ。 ごめん・・・ 煩いよね。 」

ジョーは慌ててスリッパを脱ぎ、靴下裸足になった。

「 あら、なにも脱がなくてもいいのに・・・ 」

「 うん・・・でも、ごめん。 ぼくの悪い癖だよね。 」

「 ・・・ ありがとう、ジョー・・・・ 」

「 ウウン ・・・ 

「 きゃ・・・くすぐったい・・・ うふふ・・・ 」

「 うわ♪ ・・・ ふふふ 」

見つめあってはじゃれあっていたのはまだ湯気もたつ新婚時代だったけれど。

お蔭でギルモア邸では履物を引き摺る音は 聞こえなくなっていた・・・・ 昨日までは。

 

 

 

「 ・・・ なんか、ないかな。 ・・・ カップ・ラーメン、買置きあるかなあ・・・  ん? 」

いつもはいい匂いがただよい、彼の奥さんが恰好のよいヒップに上に縦蝶結びをひらひらさせて

行き来しているキッチンが 今日はここも し・・・ん としていた。

「 お茶の用意 ・・・ もしてないや。 な〜んだ・・・ 皆でどこに行ったのさ・・・・! 」

ジョーはますます不機嫌になり、テーブルの上を見回した。

「 ああ、チビ達のオヤツか。 ふうん・・・ 」

テーブルの上にはピンクとブルー、お揃いのマグ・カップが並んでいた。

いや・・・ ミルク・ティが半分残っていたりしてどうやら単に出しっ放しなようだ。

おなじく、放置されたお皿には齧りかけのおせんべいとべとついたカリントウが転がっている。

「 ・・・ 今日のオヤツはお煎餅にカリントウ、か。 」

 

フランソワーズと結婚したばかりの頃、 ジョーは毎日彼女の手作りケーキが食べられるかも・・・と

内心 わくわくしていた。   ・・・ しかし。

お茶の時間に出てくるのは 市販のクッキーやらお煎餅ばかりだった。

「 え? ケーキ?  そりゃ、ウチのキッチンで焼くのは簡単よ。 

 でも・・・ 特別な日にだけ、食べるからケーキはよけいに美味しいのじゃないかしら。 」

ケーキを焼かないのかな〜という夫の問いに新妻はきっぱりと答えたものだ。

「 だから・・・ 家族のお誕生日とか記念日、あとはクリスマス。 

 そんな特別の時にだけ、ケーキを焼こうと思うの。 

「 そう・・・だね。 特別な日、だけか。  あ・・・ でもさ、博士と君の誕生日は続いているし。

 イワンはいつなんだ? あとぼくが5月だろ。 もうちょっとプラスして ・・・だめ? 」

「 まあ、ジョーったら。 コドモみたい・・・ あ・・・ あの、ね。

 もし、もしもよ? 家族が・・・ そのう・・・増えればケーキを焼く日、も増えるわ・・・よね。 」

「 うん、そうだけど。 それじゃまたワン公とかにゃんこを飼おうか?? 」

「 ・・・ え ・・・ そ、そうね。 ええ ・・・ ペット・・・ もいいわね。

 でも ・・・家族が ・・・ 増えればいいわね・・・ 」

「 うん、賑やかな方が楽しいもんね。 わんこもにゃんこも赤ちゃんの頃から一緒なら

 友達になれる、って聞いたよ。 」

「 ・・・ あ・・・ 赤ちゃんの・・・・? そ、そうなの・・・ 」

「 うん、そうだって。  あれ? 暑いのかい。 顔、真っ赤だよ? 」

「 え・・! な、なんでもないの。 ちょっと・・・ネ 」

「 ふうん? なんでもない、ならいいけどさ。 」

フランソワーズがなぜ耳の付け根まで赤くなっているのか 当時のジョーにはさっぱりわからなかった。

 

ぼすん・・・ ずずずず ・・・

座り込んだ椅子を盛大に引き摺り ( これも日頃から固く禁じられていることなのだけれど ・・・ )

ジョーはぼんやりテーブルに上に肘をついた。

「 ・・・ 父親って。 孤独だよなあ〜 普段、昼間、居ないからなあ ・・・ 」

カリリ ・・・  パリンポリン ・・・

ジョーは大して気にもとめずに、コドモ達の食べかけ放置なオヤツを口に運んでいた。

「 ・・・ ウチがこんなに静かなことって。 アイツらが生まれてから初めてかもなあ・・・ 」

所在なさ気に ジョーはキッチンからリビングをず〜〜っと見回した。

昼間にはいつも、どこかに誰かの姿が見えどこかで誰かの声がして ウチ全体が活動しているのに。

ぱたり。

ジョーはキッチンのテーブルに突っ伏してみた。

「 あ〜あ・・・ ! もう寝ちまおうかなあ・・・ せっかく必死で仕事、片付けてきたのになあ。

 ・・・ 一人か ・・・ ふうん ・・・ 」

施設育ちの彼は 思い返してみればず〜〜っと <人々>の中で暮らし・育ってきた。

思春期を迎えれば <ひとり> に憧れ、一度でいいから一人きりで食事をし、眠りたい!と

切望したりしていたのだが・・・

「 ふん。 あんなのはただの無いモノねだり、さ。 一人で食べたって・・・美味しくなんかない。 」

カリリ・・・・ ばりん・ぽりん・・・・

ジョーは無意識にテーブルの上にあったお菓子を摘まみ続け ・・・ とうとう全部食べてしまった。

「 一人の部屋? ・・・・ 冗談じゃないよ、ドルフィン号のキャビンだってぼく達は一緒なんだぜ?

 フラン・・・ きみの豊かな髪が好きさ、 きみの滑らかな身体が側にいなくちゃ、眠れない。

 そうさ、こればっかりは絶対に・・・絶対にチビ達にだって譲るもんか! 」

・・・どん! ・・・カララ・・・・

拳でテーブルを叩いた拍子に 空になったマグカップが転がり床に落ちた。

「 おっと・・・ ああ、空でよかった。 ・・・ あれ? さっき半分くらい残っていたよなあ・・・? 

 気のせい、かな・・・ 」

どうやら、ジョーはいつのまにか冷えたミルク・ティも飲んでしまったらしいのだが・・・

「 ちぇ。 皆、どこへ行ったのかな。 お父さんはどうせ遅いから皆でファミレスにでもゆきましょう・・・

 なんて出かけたのかな。 ふん ・・・ オムライスは美味しいだろうさ ・・・ 」

ぱたり・・・!

ジョーはとうとう本気でテーブルに突っ伏してしまった。

・・・そして 連日の疲れでいつの間にやら寝息をたて始めていた。

 

 

「 ただいま〜〜〜!!  おじいちゃま! 見てみて〜〜 とんぼさんよ〜〜 」

タタタタタ・・・・  タカタカタカ・・・・・

賑やかな声が賑やかな足音をつれて 玄関から飛び込んできた。

「 おじいちゃま〜〜 き〜すけもいっしょなんだ〜 みて〜〜 」

「 只今戻りました。 博士・・・?   あら? この靴・・・ ジョー!? 」

「 え〜〜〜 おとうさん、かえってきているの? おとうさ〜〜ん! ただいま〜〜 」

「 え。 おとうさん、いるの? わあい、おとうさ〜〜ん! 」

コドモ達は 浴衣姿に大はしゃぎでリビングに駆けていってしまった。

「 ええ・・・ この靴、お父さんのだもの。  あら、二人とももういないわ。

 ああ、博士。 ただいま帰りました。 」

「 おお、お帰り。 ・・・・ これは・・・・ おおなんとよう似合っているなあ・・・! 」

ギルモア博士は書斎から顔をだし、たちまち相好を崩した。

そろそろ夕闇がただよってくる時刻、薄暗くなった玄関ポーチに大輪の藍色の花が咲いていた。

ゆらめく裾には小川が流れ岸辺には露草が揺れ・・・・

そして なによりも美しい花がしっとりと魅惑の笑顔を見せている。

「 ・・・ 可笑しくないですか? 帯とか・・・着付けとか。 ここまで帰ってくる間に崩れていません?」

藍の花はくるり・・・と回ってみせた。

「 おお おお・・・ この柄はお前にぴったりじゃなあ。 本当によう映る・・・ 」

「 ありがとうございます。 博士、ジョー、もう帰っていますの? 」

「 ・・・ああ? さあ・・・ワシは気がつかんかったぞ。 ずっと書斎におったでなあ。 」

「 そうですか。 ほら、靴が脱いでありますから。 きっと寝室に直行したのかも・・・ 

 ちょっと覗いてきますね。 」

「 すまんな・・・ ワシは全然わすれておった・・・ 」

「 いつも遅くて当たり前、ですものね。 ジョーも一緒にお茶・・・ あら? 」

「 うん? どうしたね。 」

フランソワーズの真剣な顔につられ、博士も思わず熱心に耳を澄ませてみた・・・

 

「 ・・・ アタシのみるく・てぃ〜〜〜 あとでのもうってとっておいたのに・・・ 」

「 かりんとう・・・ 僕のかりんとうは? ぽっけにいれといたら おかあさんがだめって・・・ 」

なんだか雲行きのアヤシイ声がキッチンの方から聞こえてきた・・・!

「 ・・・・ ・・・・ 」

「 ・・・? ・・・・!?  ・・・・〜〜 ・・・・〜〜〜 」

 

「 ・・・え?! ヤだわ〜〜 ジョーってば! 」

「 なになに? いったいどうしたのじゃ? ワシにも <中継> しておくれ。 」

「 ジョーったらキッチンにいますわ。 それで・・・ 」

「 なに、それで? 」

 

  う・わ〜〜〜ん ・・・!  

 

ついに甲高い泣き声が響いてきた! フランソワーズは浴衣の裾捌きに苦心しつつ

大急ぎでキッチンに駆けて行った。

しかしほぼ同時に・・・

「 おとうさん〜〜 アタシのミルク・ティ− のんじゃったぁ〜〜 」

「 おとうさ〜〜ん・・・僕、 あとでたべよう・・・ってかりんとう、とっておいたのに・・・ 」

「「 うわ〜〜〜〜ん ・・・・!! 」」

ただならぬ、混声二部合唱がギルモア邸中に響きわたった・・・

 

 

 

カッコロ。 ガタガタタ・・・ カタカタ ・・・ ペタペタ・・・・ タタタタ・・・

み〜んなそれぞれの音を響かせ、島村さんの一家は近所の神社に繰り出した。

初夏のおそい夕闇も やっと辺りに漂いはじめ、時折吹きぬける風も爽やかな夜になった。

「 ふふふ・・・ お母さんの宣言どおりに 雨は降らなんだなあ。 」

「 あら・・・ほんとうですわね。 ふふふ・・・博士ったら。 」

「 お〜お・・・ ジョーのヤツ、すばるより着付けがへたクソじゃなあ。 」

「 ・・・ イヤだわ〜〜 本当に。 裾を蹴立ててしまうから・・・

 博士が一番お上手ですわねえ。  下駄も楽々履いていらっしゃるし。 」

「 なに、こんなモノは慣れじゃよ。 この国の気候はワシら、年寄りにはキモノや浴衣がぴったりなんじゃ。

 コズミ君のアドバイスのおかげでワシは快適にすごせるよ。 」

「 まあ、そうなんですか。  ・・・ あらら・・・ ジョーってば、子供たちにあんなにひっぱられて・・・ 」

「 ははは・・・・ 久し振りに父さんと一緒で嬉しいのじゃろうて。 」

「 ええ ・・・ 」

 

     ふふふ・・・ 一番喜んでいるのは ジョー自身じゃないかしら・・・

 

フランソワーズは博士とのんびり歩きつつ、前を行く夫とコドモたちを眺めていた。

 

しかし 実際は。

 

「 おとうさん〜〜 やくそくよ! そーす・せんべい 買ってね。 」

「 ぼく〜〜〜 わたあめ♪ あとね、あんずあめも〜〜 」

「 おとうさんってば。 アタシのオヤツ、食べちゃったんだもん。 」

「 僕のカリントウ・・・・ き〜すけといっしょに食べたかったのに・・・ 」

「 ・・・ わかったよ〜 わかったから袂をあんまりひっぱるなってば。

 ああ、夜店でちゃんと買ってやる! お母さんがダメって言っても買ってやるから! 」

「 うわ〜〜〜い♪♪ 」

「 ・・・ だからさ、そんなに浴衣をひっぱらないでくれ〜〜

 お父さんだって浴衣、着るのはヘタくそなんだ。 おじいちゃまみたいに楽々と動けないんだよ。」

「 じゃ、手、つないで〜 おとうさんといっしょだも〜ん♪ 」

「 僕も! 僕も〜〜〜 ね、おとうさ〜ん♪ 」

「 こら・・・そんなにひっぱるなって言ったろ。 ・・・まあ、いいや。 一緒に縁日だ。 」

「「 うん!! 」

ジョーは両手に子供たちをぶらさげて ひょこひょこ歩いてゆく。

藍の濃淡な波にもみえる浴衣地に 生成りの細帯を締め、その姿はかなり粋でイナセなはず・・・なのだが。

どう見ても幼い弟妹の子守りを頼まれた<大きい兄ちゃん>にしか見えなかった。

 

「 ・・・あ〜らら・・・ でも楽しそうね。 すぴかもすばるも・・・ううん、ジョーが一番はしゃいでいるわね。 」

子供達に引っ張られジョーのセピアの髪はあっという間に人混みに紛れてしまった。

 

日頃は辺鄙な海沿いの町なのだが、縁日の夜はかなり賑わっている。

フランソワ―ズは人混みを下駄で歩く自信がなくて 神社の鳥居の側に佇んでいた。

博士は 地元の顔見知りな人々と挨拶を交わしたり 縁日の外れに店開きしている植木屋を冷やかしたり

  ―  すっかり夜店の雰囲気に溶け込んでいる。

「 ・・・  ふ〜ん だ。 せっかく素敵な浴衣を買って頂いたのに ・・・

  ジョーったら何にも言ってくれないんだもの。 こんな素敵なユカタ、初めてなのに。 」

フランソワーズは境内の外れで そっとユカタに咲く蛍草を撫でた。

 

 

「「 おとうさ〜〜〜ん!! みて みて〜〜〜 」」

ジョ−のキッチンでの転寝は コドモ達の歓声が終わりを告げた。

「 うわ〜 可愛いね〜二人とも。  すぴかのは トンボか〜 赤トンボだね〜 

うん、おとうさん♪  おじいちゃまがね すぴかがきるとトンボもとんでみえるぞ って  」

すぴかは三尺帯をふわふわさせてジャンプしてみせた。 

亜麻色のお下げも ぽん・・・と揺れる。 

「 すごいな〜 ほんとだね〜  ・・・  すばるのは  ああ、金魚だね?

  おとうさん〜  き〜すけなんだ、き〜すけ、こんなトコにいたんだよ〜 

子供達にまとわりつかれ、でもジョーは満面の笑みだ。

  ジョー?  あなたの浴衣もね、あるのよ。博士がみんなの分を買ってくださったの。 」

「 え、そうなのかい。  あ・・・ ただいま〜〜 フラン♪ 」

「 おかえりなさい。  ( あ。 キスはちょっとお預けよ? ) 」

「 ( え〜〜〜 そんなぁ〜〜〜 )  え・・・ そ、そうなのかい・・・ 」

「 ほら、ジョーも。 これ、着てみて? そして約束どおり皆で縁日に行きましょうよ。 」

「「 うわ〜〜〜〜い♪♪ 」」

 

 

    お帰りなさい、のキス、お預けにしたから?

    ・・・ ジョー、あなたってば、わたしの浴衣姿、ちら・・・っと見たきりよね・・・

 

宵闇もだんだんと濃くなってゆき、夜店に架かる灯りがいっそう明るく見えてきた。

ざわざわざわ・・・・

人々の声やら足音やら・・・ どこからか流れてくる祭り囃しの音楽が

フランソワーズには潮騒にも似て聞こえていた。

 

    ・・・・ せっかく おめかししてきたのに。  ツマンナイの・・・

    やっぱり子持ちの < おかあさん > には興味がないのかしら ・・・

 

    ・・・ ジョーの ・・・ 意地悪・・・!

 

・・・ ぽつん ・・・ と一粒。

大きな水玉が 彼女の下駄の爪先に落ちた。

 

 

 

Last updated : 06,30,2009.                    index           /           next

 

 

 

******  途中ですが・・・

す、すみません〜〜〜 またまた終わりませんでした <(_ _)>

例によって のほほ〜ん・しまむらさんち、 例によってな〜にも起きません。

でも みんな元気です、泣いたり笑ったり怒ったりして仲良しです♪

・・・ あと一回〜〜 お付き合いくださいませ〜〜〜 <(_ _)>