『 おべんと おべんと 嬉しいな ― (2) ― 』
ふ 〜〜〜 ・・・・
ジョーはまだ熱いお茶を飲み干し 満足のため息を吐いた。
「 ・・・ ん〜〜 ああ 美味かったぁ 」
こそっと呟くと 彼は目の前の弁当箱を
きっちり きっちり 小風呂敷 ( 兼ランチョン・マット ) で
包みあげた。
ちょん ちょん。
風呂敷にアップリケされているクマさんの鼻先を突いてみる。
「 ふふふ ・・・ お前も元気かい?
お前の本当の御主人は 元気いっぱいだよ〜 」
しまむら すぴか
大きな文字がクマさんの下にならんでいる。
これは すぴかが幼稚園時代に使っていたもので
<第二の人生> として 現在は彼女の父親と行動を共にしているのだ。
ちなみに これは日替わりで、翌日は電車のアップリケの風呂敷。
しまむら すばる と大書きしてあるものだ。
食べこぼしのシミも点々・・・ まあいいか。
「 さあ て と。 午後も頑張るかあ〜〜 」
昼休みも真っ只中、 ジョーの務め先である雑誌社の編集部、
珍しく閑散としているそのオフィスの中で 彼は誰はばかることなく
う〜〜〜ん ・・・と伸びをした。
ふんふんふ〜〜〜ん♪ 帰りはバッグも軽いな〜〜
ハナウタ混じりに包みを鞄に仕舞いこんだ。
「 おし。 やるぞ〜〜〜 」
ジョーは たった今、食べ終わった弁当が もりもりと
活力の源になってゆくのを感じていた。
「 さあて と。 午後イチで ・・・ ああ 確認だな。
あ ○○先生んとこ 原稿取り〜〜 まだかあ・・・
あの先生もなあ いい加減 Web入稿にしてくれないかなあ 」
ぶつぶつ言いつつ、 彼はオフィスの外に出た。
「 ふんふんふ〜〜〜ん♪ ちょこっと外気、吸ってこよ 」
カンカン カン −−− 屋上めざし階段を上っていった。
あっは♪ 今日も美味い弁当だったあ
・・・ ふ ふ ふ〜〜〜♪
しっあわっせだなあ〜〜〜〜〜
おっべんと おっべんと うれしいな〜〜♪
ジョーはふんふんハナウタ混じり、超〜〜ご機嫌ちゃんだ。
う〜〜〜ん ・・・
心身ともに栄養補給 完了〜〜っと。
さあて。 午後もばりばり仕事するぞぉ〜〜
弁当ひとつでここまで 前向き人生 になれるのだから
さすが 009 というか ・・・ 単細胞 というか。
もしかして彼の奥方はこのことに気付いている のかもしれない。
つま〜り。 弁当さえ ばっちり作っておけば
彼女のご亭主は 文句もいわずシアワセそう〜〜に
馬車馬のごとくばりばりと働くのだ ・・・ という真実を。
さて。 ( 閑話休題 )
ジョーと < 弁当 > との付き合いは長い。
彼は 教会付属の児童保護施設で育った。
公共の補助はあるし 信者たちや企業からの寄付もあったから
衣食住はきちんと確保されていた。
寒さに震えることもなく お腹を減らして彷徨うこともなく。
保護児童一人一人に暖かい寝具とベッドが与えられていた。
贅沢ではないけれど 生きてゆく に事欠くことはなかった ・・・
弁当が必要な時には ちゃんと用意してもらえたし
決して粗末なものなどではなかった。
もちろん コンビニ弁当 でもなく菓子パンでもない。
ちゃんと 寮母さんの手作りで味もなかなか・・・だ。
行事の時とかお弁当が必要な中高生に作ってくれた。
栄養のバランスも考えてあり量も十分。
― ただ。 皆 同じ なのだ。
ヒロシ も エミリ も そして ジョーも。
弁当箱はそれぞれ個人所有だったが 管理は自分の責任。
前日にちゃんと洗っておかなければ 翌日の弁当はナシだった。
そして メニュウは ・・・ あまり変わらなかったけど・・・
作ってもらえるだけでシアワセなんだ、と思っていた。
もっともっと恵まれない子供達がいることも ちゃんと知っていた。
だけど。 それでも ・・・
ぼくだけのもの ではなかったのだ。
「 あ〜 これ ウチの昨夜のオカズだあ〜〜 」
「 お ハンバーグじゃん? いいな〜 」
「 よくね〜よ〜 昨夜も同じモノ 喰ったんだぜぇ
あ〜 パン 買ってこよかなあ 」
「 か〜ちゃん 怒るぜ 」
「 ・・・ ちぇ ったくなあ〜〜〜 」
そんな同級生の会話は 聞こえないフリで聞き流す。
不愉快なこと 辛いこと は 黙って受け流す ―
それが < 複雑な家庭環境 > で育ったジョーが
いつの間にか身につけた処世術 っだったのかもしれない。
は? 島村? ・・・ ああ そんなヤツ いたな〜
いたっけ? ・・・ あ〜 あの茶髪かあ
だから同級生の中でも 存在感は薄かった。
そんな存在が食べていた弁当、 なんて 誰も意識してはいない・・・
それで結構。 こんな自分に注意なんか払わないでくれ。
好奇と差別の目でみるだけなのだったら ― 放っておいてくれ。
ジョ―は 身を屈め縮こまり世界を拒否していた。
世界の海に埋もれ 人々の波に飲まれ 誰にも気づかれず ひっそり。
そんな風に 一生すごすのだろう と思っていた ・・・
しかし
運命の滅茶苦茶に近いとんでもない展開の結果 ―
な〜〜〜んと 金髪美女の仏蘭西娘 と結婚できる こととなった。
( 別に 彼女とケッコンできたのは BGのお蔭 じゃあないけど )
機械仕掛けの身体の改造された ・・・ なんてことは
この驚天動地?の出来事と比べれば 取るに足らないことだった。
もちろん なが〜〜〜〜いお付き合いの年月を経て やっとこさ
死ぬほどの勇気を振り絞った末 なのだが。
彼はその時の情景を 死ぬまで忘れない・・・と密かに思っている。
「 あの ・・・ ごめん。 あの もしよかったら なんだけど 」
ジョーは おずおずと彼女に言った。
「 ?? なあに? あ 洗濯モノ? それなら洗濯機に 」
「 ち ちがうよぉ〜〜〜 あの ね 」
「 はい? 」
「 ぼ ぼくと け け けっこん してくれますか 」
「 ?? 誰が 」
「 ! き きみ! き きみと! 」
「 わたしと?? 誰が? 」
「 ぼ ぼく!! ふ ふらんそわーずさん !
ぼくと けっこん してくださいっ !!! 」
「 ・・・・ 」
なにかぽんぽん言われるか と覚悟していたのだが
かの美貌のパリジェンヌは しばらくまじまじと彼を見つめて
やがて 頬を染め こっくり 頷いてくれたのだった!
やっほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜 !!!
ウチだあ〜〜〜 ゴハンだあ〜〜〜
! 弁当だあ〜〜〜〜〜
ぼくだけの・ウチ
ぼくだけの・ご飯 弁当
ぼくだけの フラン〜〜〜〜 !!
ジョーは 有頂天になった。
― 別に弁当のためにプロポーズしたのでは ないけれど・・・
こうして 彼は < 自分だけの > モノを
手にいれることが出来た と思った。
・・・ そ〜れはちょっとばかり 甘い希望 だったのだけど・・・
ともあれ彼は彼の愛するヒトと 自分だけの世界=家庭 を営んでゆくことになる。
他人と寝食を共にするのだ ― 当然 いろいろある。
嬉しいことばっかではない。
でも 彼は手を携えて共に歩くヒトを得たのだ。
― やっるぞぉ〜〜〜〜〜 !!!
二人だけでどこかに引っ越し独立する わけでもないので
表面上は 特に変わったコトはなかった ・・・
もちろん 彼女のために 戦う ことも当然であるけれど。
「 あ あの さ。 護るから。 ぼ ぼくが 」
「 ? なにを? ジョーはなにを護るの 」
「 え。 あ〜〜〜 そのう ・・・ きみ を 」
「 え? きゃあ〜〜〜 ジョーってば さっいこうのジョークねえ〜 」
彼女は もう最高に明るい声で高らかに笑った・・・のである。
「 え ・・・ あ あのう〜〜 ジョーク じゃ ・・・ 」
「 うふふふ 嬉しいわぁ〜(^^♪
ジョーってこんなに楽しい人だったのね〜〜 素敵!
ね ・・・ あ い し て るぅ♪ 」
ちゅ♪
ジョーの新妻さんはほっぺに ちう をしてくれたのだった・・・
― ほっぺ に。 幼な子のように。 ・・・ 新婚なのに。
結婚生活は 長い同棲期間があったから 特に ちょ〜〜〜〜しんせん
な日々ではなかった。 でも・・・
うへへへ ・・・
このヒト ぼくのオクサンでぇ〜〜す
ジョーは 時々声を上げて世界中に宣伝したい! と思うこともあった。
ま いっか♪
二人で ほっこり巣篭りだあい♪
きみがいるう きみが側にいるぅ
きみと一緒だあ〜〜〜
のんびり ・ まったり ・ ほっこり な日々は巡り
さらに ジョーもフランソワーズも 自分自身の目標に向かいつつ
そして 二人の生活を 淡々と送っていた。
これは最高に安定し充実した 二人三脚 だった。
どちらかがどちらかへ寄りかかるのではなく お互いがしっかりと
自立しつつ寄り添える・・・ なんて ♪
うへへへ ・・・ し〜あわ〜せ〜〜〜〜♪
ジョーは いささかヒモが解けた状態になっていた。
( つまりこの時期 009 はかなり弱体化?していた・・・のかも )
が。
そんな日々は ― たちまち消え去ったのだ。
そう 双子のチビ達が 二人の元にやってきた時から。
【島村さんち】 は チビっこ達のウチ になり
ジョーもフランソワーズも 必死のてんてこ舞いの日々となった。
なにせ 二人でがっちりスクラム組んで絶対に護らなければならない存在が
二人も! 彼らの前に現れたのだから。
無我夢中の、そのことにすら気付けない日々が続いた ・・・
アイシテル だの 恋シイヒト だの 言ってるヒマや余裕はなかった。
ワンオペ? ― 双子相手には 絶対にむり〜〜〜 だ。 腕は二本しか ない。
役割分担? ― 決めてる間に手が空いてる方がやる、にしなければ一日は終わらない。
とにかく! この二つの小さな命を育ててゆくことに
ジョ― も フランソワーズ も 必死だった。
― さて そしてその数年後。
小さな命達は ナマイキ盛りの小学生 となった・・・
ジャ ッ ・・・ ! シャ シャ シャ ・・・
中華鍋から賑やかな音が聞こえてきた。
「 うわ〜〜〜 あ いいにおい〜〜〜 くんくん♪ 」
「 そっか ・・・ にんにく は さっといためて 出す か 」
母が立つレンジの横に すばるが張り付いている。
すぴかは そのすぐ後ろにいて キッチンではすばるが優先なのだ。
そして 島村さんち では
危ないから 子供は向こうに行ってなさい
は 存在しない言葉だ。
火の熱さ 火事の危険なこと 火傷の痛さ。
両親は きちんと子供たちに教え ちらっと体験もさせている。
包丁の鋭さ 大きな怪我に繋がること 深い傷は重大。
マイ・包丁を欲しがった息子に 父も母も真剣に教えた。
すばるは ちまちました怪我なら もう体験済みだ。
「 油が跳ねるからね〜 気をつけて 」
あっちへいってなさい、 じゃない。
一粒 二粒 飛んできて当然なのだ。
< 熱さ > を、身をもって知ることができる。
そうすれば 真剣に注意するようになる。
「 今からお湯を切るわよ〜 湯気って熱いのよ 」
手をださないで じゃない。
ちょっとばかり火傷をしてもいい。 そうすれば二度と余計な手出しはしなくなる。
どうやれば 熱い思いをしないですむか考えるだろう。
焼きそば は 順当に出来上がった。
「 さあ そろそろいいかな〜〜 」
「 あ おか〜さん アタシ お皿 もってくる〜〜 」
「 おか〜さん 僕 お皿にもりつけ いい? 」
「 すぴかさあん ありがとう〜 すばるくん じゃあ お願い。
トング使うといいわ はい。 」
「 はい みんなのお皿 ! 」
「 で〜は もりつけ しま〜す 」
「 すばるクン 焼きそばは熱々が美味しいでしょ?
ぱぱぱっと できるかな〜〜〜 」
「 できる! きゅう食とうばん で やったもん 」
「 すばる お皿〜〜〜 ならべたよ〜ん
いち に さん し。 これでいい? 」
「 うん。 ― いきます っ ! 」
すばるは 案外手早くそして見目よくお皿に盛りつけた。
「 ん〜〜 じゃん。 できました♪ 」
「 わあ〜〜〜 すばる すご〜〜い〜〜
お昼のやきそば だあ〜〜〜〜 」
「 あらあ〜 二人とも上手にできました♪ 」
「 ほうほう これは美味しそうじゃな。
熱い焼きそばには 冷たい麦茶でどうかな 」
博士が 冷えた麦茶を用意してくれた。
「 わぁ〜〜 おじいちゃま〜 ♪ おいしそ〜〜 」
いっただっきまあ〜〜〜〜す !
お昼ご飯の時間には ちょっと遅くなってしまったけれど
皆 にこにこ〜〜 食卓を囲んだ。
「 〜〜〜〜 おいし〜〜〜〜〜〜 」
「 ・・・ お いし ・・・ 」
「 ふむふむ 千切りが細かくて口当たりがよいなあ
すばるの腕は たいしたもんだ 」
「 ええ 本当に ・・・ あら モヤシが美味しいわ
すぴかさん 丁寧に髭を取ってくれたのね 」
「「 えっへっへ〜〜〜〜 」」
チビ達は お腹も心も満足 ・ 満腹 の昼ごはんとなった。
「「 ごちそ〜さま でしたぁ 」」
「 美味しかったよ、すぴか も すばる も
すごい腕だなあ 」
「 えへへへ〜〜 張おじさん みたい? 」
「 張おじさん すごいほうちょう もってるんだ〜 」
「 ねえ 今度張伯父さんにお話してみたら?
二人とも 明日の餃子作りもお願いできるわね 」
「「 うん!!! 」」
「 まあ 元気にお返事ができたわね〜〜
じゃ 明日はね お父さんも参加だから。
お父さんのいうこと、よ〜くきいてね 」
「 おか〜さん 」
すぴかが 母の顔をじ〜〜〜っとみている。
「 おか〜さ〜〜ん 」
すばるが 母のエプロンを引っ張る。
「 なんですか 」
「 アタシ達で ぎょ〜ざ つくれるから! 」
「 僕、う〜〜んとちっさくきれるから! 」
「 ええ ええ 知ってますよ 」
「 アタシ達のいうこと、よ〜〜くきいて って
おと〜さんにいって。 」
「 おと〜さんにいってね おか〜さん 」
「 え ・・・? 」
「 アタシとすばる ぎょ〜ざつくれるからね〜〜
ね〜〜 すばる? 」
「 ウン ね〜〜 すぴか 」
「「 おと〜さん みてて っていって! 」」
こういう時の < 双子 > の結託力? は
ちょっと敵わないものがある ― たとえ親であっても。
彼らは ほんの赤ちゃんの頃からスクラムを組んで
親たちに対抗してきた。
ひゃあ ・・・ やられらたわね〜
ま いっか。
ジョーには 下働き をやってもらうわ
そうよね〜
包丁捌きはすばるの方が上手いし
具を包むの、すぴかは滅茶苦茶得意だし
・・・ ジョー、下働きでこき使われてね〜〜
さすが? 我が子達〜 と思ったけれど
お母さんは にっこり受け止めた。
「 はい わかったわ。 二人でできます って言っておくわね 」
「「 うん!! 」」
「 うふふ 明日が楽しみね〜〜
じゃ 御馳走様 してお皿を洗うの、手伝ってね 」
「 はあい ・・・ すばる〜〜 はやくたべちゃいな〜 」
「 う うん ・・・ 」
すばるは お皿に残っていた焼きそばを お口に詰め込んだ。
「 あらら ・・・ ゆっくり食べていいのよ すばる 」
むぐむぐむぐ ・・・ ごっくん。
「 ね〜 おか〜さん。 僕 おためし したいんだ〜 」
食べ終わった小さな息子が 真剣な表情で母を見上げる。
「 え なあに? 」
「 あの ね。 じゃむ・ぎょうざ。 つくって いい? 」
「 え?? な なに・ぎょうざ ですって? 」
「 じゃむ。 じゃむ・ぎょうざ。 できればいちご・じゃむ が
いんだけど〜〜〜 」
「 餃子に ・・ジャムをつけて食べる の ・・・? 」
( う ・・・ 想像するだけで うげ★ )
「 ち が〜〜うよ〜〜〜 ぎょうざ のなかに じゃむ! 」
「 ああ 中に ・・・ ね。
え? 餃子の皮でジャムを包むってこと? 」
「 そ! そんでね〜〜 ふらいぱんで じゃ〜〜って焼くんだ〜〜
あっつあつの じゃむ・ぎょうざ! 」
「 ・・・あ〜〜〜 イチゴ・パイ みたくなるのかな?
うん 美味しそう〜〜〜 作って〜〜〜 」
「 うん♪ 」
― ということで 材料にいちごジャムの瓶も加わった。
う〜〜〜ん ・・・?
ま 楽しい餃子屋さん になるかしらね〜
ジョー?
下働き 兼 監督、お願いね〜〜
うふふ ・・・
わたしは少しヒマな日曜の午後になりそう♪
あ そうだわ ヨコハマまでショッピング、行こうかな〜
あの靴、欲しいのよね
フランソワーズは に〜〜んまり していた。
― さて 問題の日曜日。
「 すぴか すばる〜〜〜 ほら ご飯つくり、するぞ〜〜〜 」
午後三時過ぎ。 ジョーはキッチンで子供たちを呼んだ。
フランソワーズのエプロンを借り 手も洗い・・・
彼としては スタンバイ・完了 だ。
「 お〜〜い お母さんと約束したんだろ〜〜〜 」
父が呼べば いつもなら子供たちは飛んでくる のだが。
「 ?? あれえ ・・・ どうしたのかなあ
すぴか〜〜 すばる〜〜〜〜 」
カタン。 ベランダのサッシが開いて すぴかが顔をだした。
「 ・・・ おと〜さん。 せんたくモノ、とりこんだ?
おか〜さんが言ってたでしょ 」
「 え ・・・あ まだ だ ・・・ 」
「 おと〜さん? おふろばのおそうじ おわった?
おか〜さんがいってたよ 」
「 え ・・・ あ。 い いま すぐ! 」
ジョーはエプロンを外し バス・ルームに飛んでいってしまった。
「 おと〜さ〜〜ん せんたくモノ わすれないでね〜〜 」
すぴかが 無慈悲に? その背中に追い打ちをかけていた・・・
「 すぴか。 ぎょうざつくり 始めよ? 」
「 うん。 すばる。 手 あらった! 」
「 おっけ〜〜 僕 きざみさぎょう はじめるね 」
「 アタシ お肉 かいとうして ぎょうざの皮、出すね 」
「「 おっけ〜〜〜 」」
二人は着々と 準備を始めた。
お互いに ちら・・・っと見て 自分自身の作業に没頭した。
バタバタ バタ −−−
「 お〜い 掃除、終わったぞう〜 洗濯モノも取り込んだぞ 」
ジョーが 賑やかにキッチンに入ってきた。
「 二人とも〜 待たせてごめん! 今から急げば ― ん? 」
トントントン トトトト ・・・
包丁はリズミカルに動き まな板の上には千切りの山ができてゆく。
ぺたぺたぺた ・・・ ささささ
薄い皮が 丁寧にならべられてゆく。
「 あ あれ ・・ 」
ジョーは 半ば呆然として我が子達の様子を眺めているだけだ。
「 ああ おと〜さん。 そこ、気をつけて。 ぎょうざのカワ、
ひろげてあるから 」
「 え? あ お おう ・・・ 」
「 ・・・・ おと〜さん。 しいたけ、ゴミをはらってくれる?
あ 洗わないでね〜 」
「 え? あ お おう ・・・ 」
「 えっとぉ? 手 あらった おと〜さん 」
「 え? あ うん。 ばっちり消毒もしたよ 」
「 そ。 そんじゃ しいたけのイシヅキ とって 」
「 ?? いし・・? なんだ それ 」
「 え・・・ あのさ シイタケの足! とって。
あ すてないでよ〜〜 それもきざむんだから 」
「 あ ああ すまん ・・・ 」
「 おと〜さん タナの上から おっきなボウル、とって。
そう・・・ それ! 」
「 あ ・・・ はい これ。 」
大きなボウルを差し出す父を すぴかはじろっと見つめた。
「 ― あらって。 」
「 あ す すまん ・・・ え〜 これでいいかい 」
「 ん〜 フキンでふいてね〜 あ そこ おいて。 」
「 うん ・・・ ここでいいかな 」
「 すぴか〜〜 おにく はかって〜 」
「 おっけ〜〜 えっと・・・ うん これでいっか。 」
「 さんきゅ で〜わ ちょうみりょう いれます〜〜〜 」
「 りょうかい。 ここにならべてあるよん すぷーんも。 」
「 すぴか はかって。 」
「 うん ・・・ を 大さじ いっぱい。 はいっ 」
「 はいっ ざ・・・ いれました! つぎです 」
「 はいっ ○○ を 小さじ いっぱい。 はいっ 」
「 はいっ ぱ・・・ いれました! 」
双子たちは絶妙な掛け合い? で とっとと餃子の中身を作ってゆく。
お父さん 呆然と眺める中、餃子は着々とできあがってゆく。
「 へ え ・・・ なんか すげ ・・・ 」
「 ? なに おと〜さん 」
「 おと〜さん ごよう? 」
チビ達の視線が 一斉に父に向けられる。
「 え! あ ・・・ あ〜〜〜 う ううん ・・・
なんでもアリマセン どうぞ 続けてください 」
「 ? そ? 」
「 ? じゃあ ま〜ぜまぜ しまあす。
うわあ けっこう いっぱいだよ〜〜〜 すばる 」
「 ウン。 こっち もってるから すぴか、 まぜて 」
子供の手には かなり大きすぎるボウルに チビ達は少しばかり
苦心している。
ジョーは もぞもぞと二人に近づく。
「 あ ・・・ なあ ここはお父さんにやらせてくれるかなあ 」
「「 え 」」
「 お父さんがさ まぜまぜ〜〜〜するから。
うまくまぜまぜ〜 できたら 二人で皮に包んでくれる? 」
「 あ〜〜 うん それ いいかも。 ねえ すばる? 」
「 ・・・ あ〜 そだね〜
僕 いっぱい切ったし すぴか たくさん計ったし
おと〜さんも出番 ないとね〜〜 」
「 そ だね〜 じゃあ はい おと〜さん 」
ずい。 中身いっぱいのボウルが ジョーへ押し出された。
「 お。 サンキュ。 で〜〜は 豪快にまぜまぜまぜ〜〜〜〜 」
がた ごと がた ごと。 大きなボウルがゆれる。
「 ! アタシ こっちおさえるから すばる〜〜 」
「 うん 僕 こっち! 」
「 ありがと〜〜〜 二人とも〜〜
ようし〜〜 張り切って ま〜ぜまぜまぜ ♪ 」
ジョーは 腕まくりをしヘラを駆使して 具材を混ぜ合わせた。
テクニック というよりも かなり腕力にモノを言わせた のだが。
「「 わあ おと〜さん すご〜〜い〜〜〜 」」
・・・ やっと 父は称賛の言葉 を頂けた。 やっと。
「 おいし〜〜〜〜 」
結局 大皿いっぱいの餃子 は そのまま鉄板で焼いて熱々を
皆でわいわい食べた。
白菜とネギのスープ は 豆腐を加えて楽しむことになった。
「 ・・・ おいし〜〜〜 」
「 おいし ・・・ じゃむぎょうざ もおいし〜 」
「 うん うん ほんに美味しかったなあ 」
「 ほんとね! あ〜〜 美味しかったわあ〜 」
「 ふふふ 二人が頑張って作ったからなあ うまかったよ♪ うん 」
家族はみ〜〜んな大満足・・・
「 あ。 ・・・ どうしようかしら。 」
突然 お母さんが声を上げた。
「 ど〜したの おか〜さん 」
「 おか〜さん ?? 」
「 ええ あのね。 今晩の餃子だけど。
と〜〜〜っても美味しいけど ・・・
あのう〜〜 明日のお父さんのお弁当にはね〜〜 」
「「 なんで?? 」」
チビ達は不思議そうだ。
「 皆で食べてるから分からないけど。
・・・ 餃子ってすご〜〜く ・・・ におうのよ。
ニンニク とか ニラ とか。 ネギとかも・・・
お弁当に持ってゆくと ・・・ 周りに迷惑かも ・・・ 」
「 え〜〜〜 ぼくは 持ってゆきたいなあ〜〜 」
珍しく お父さんが子供達の前で情けない声を上げた。
「 でも ・・・ 冷凍の海老フライがあるから それで 」
「 え・・・・ 」
「 おと〜さん がっかりしないで〜〜 」
「 おと〜さ〜ん えびふらい おいしいよ ・・・
ぎょうざ おいしいけど ・・・ 」
チビ達は 口々に父を慰めてくれた。
「 ・・・ ありがと すぴか すばる ・・・ 」
「 おっほん。 ここはワシに任せてなさい 」
「「 おじいちゃま ? 」」
博士は得々として ボトルを一本取りだした。
中には 白い錠剤みたいなものが詰まっている。
「 これを使えばいい 」
「 ??? なに〜〜 」
「 らむね?? 」
「 いやいや。 これは 無臭玉 だ。
植物由来の原料でな これを使えば匂いはカットできるのじゃ 」
へ え ・・・?
家族全員が そのラムネみたいな錠剤を見つめる。
「 これはワシの発明でなあ 張々湖飯店では ガムにして客に配っている。
これを擦り潰し布に塗ってな それで包んでゆけば 」
「 あ ・・・ 臭いは漏れない? 」
「 と 思うがな。 まあ ではまず皆 これを一粒づつ。
明日 におうと困るからな 」
は〜〜〜〜い♪
翌日。 ジョーは 最高に美味しい餃子弁当 を 大にっこにこで
職場に持っていった。
会社でも ジョーは歌ってしまう。 こっそり だけど。
だって最高〜〜〜に 楽しみで幸せな時間だから。
おべんと おべんと うれしいな〜〜〜♪
*******************
カサ ・・・ カサ カサ ・・・
〜〜〜♪♪ ・・・ ♪ ♪ ・・・
ぼろぼろのその布を広げるとき 彼はいつも歌ってしまう。
もっともそれは 密かな呟きにしか聞こえないけれど ・・・
「 ・・・ 美味しかったな ・・・ どの弁当も ・・・
楽しかったな ・・・ どの日もどの年も ・・・ 」
ただのボロ布に近いそれは 模様も褪せところどころに文字の切れ端が
消え残っているだけだ。
もちろん意味はわからない ・・・ ジョーだけが読める。
彼のコドモ達はとっくにその天寿を幸せに終えた。
最後まで側にいてくれた妻が 先にいってからもう久しい。
それでも彼は 永遠の18歳のまま ― 遠い日に想いを巡らせる。
「 ごめん ・・・ いつまでも だらしないかな。
でも いいだろ?
ぼくにも本当に幸せな日々があった って証拠なんだもの 」
なあ? みんな ・・・ なあ ・・・
彼は はるか空の果てに視線をとばす そして つぶやく。
おべんと おべんと うれしいな ・・・
*********************** Fin. *********************
Last updated : 12.28.2021.
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************** ひと言 *************
【島村さんち】 シリーズは いつも どこか ・・・・
切ないのです ・・・・ (._.)
でも ジョー君。 シアワセ だったよね?