『 好きになったヒト ― (1) ― 』
ガヤガヤ ガヤ ・・・・
朝のクラスが終わり、 スタジオからダンサーたちが次々に出てくる。
まっすぐに更衣室に向かう人、 廊下の掲示板をゆっくり読むモノ
または 自習できるスタジオに行くもの ・・・ 様々だ。
「 あ〜〜〜 ・・・ フランソワーズ〜〜 今日って 教え? 」
「 みちよ・・・ ううん 今日はお休み 」
「 う〜〜 そっかあ〜〜 今日はアタシが教え なんだ〜〜
ねえ ねえ 今度こそ絶対 お茶 しようね〜〜 」
「 ええ 楽しみ。 ねえ 表参道の手前にねえ ちょっと落ち着いたカフェ
みつけたの。 フランス人のマスターでね〜〜
カフェ・オ・レ 最高よ 」
「 わ〜〜〜〜〜 いきたい〜〜〜〜 あさって ど? 」
「 おっけ〜〜 」
「 うん♪ じゃ ね〜〜 わあ〜〜 急がなくちゃ 」
立ち話をしていた丸顔の黒髪は 更衣室に駆けこみ 金髪美人は
こぽこぽ・・・掲示板の前にやってきた。
「 ・・・ ふ〜〜ん あ〜〜 もう次のパフォーマンス かあ・・・ 」
彼女は のんびり拾い読みしている。
「 よ。 フラン〜〜 お疲れ〜〜 」
後ろから ぽん、と彼女の肩を叩いたのは長身のイケメン。
「 あ タクヤ。 今朝もよく跳んでたわね〜 」
「 あっは。 あんなモンさ〜 なあ すばる、元気か? 」
「 ええ 元気よ〜〜 またタクヤお兄さんに会いたい〜〜って。
今度 公演につれてくるわね 」
「 お〜〜〜 俺様のファン第一号だからな〜〜 」
「 よく言うわ〜〜 ファンの女子 山ほど〜〜じゃない 」
「 男子のファンは すばる が最初! 」
「 きゃは 今のところすばるの 憧れのおに〜さん みたいよ? 」
「 たは ・・・ 」
イケメン、 いや 山内タクヤ は かな〜〜りフクザツな笑顔で応えた。
俺 ・・・ 好きなんだ!
ああ 愛してるんだよ〜〜〜
すばる〜〜 じゃなくて !
フランソワーズぅ〜〜〜〜
そう、彼は かつてなにも知らずに? フランソワーズに一目ぼれをし
かなりの間 その想いを温めていた。
ダンサーとしての実力もピカ一、留学帰り のイケメンで
女子の熱い視線が常に絡まってくる存在 なのだが ご本人は
かなりピュア いや 天然?で 実は! 純情 なのだ。
ある日 − 金髪碧眼の彼女が 異国で熱心に頑張っている姿に出会い
彼はきゅい〜〜ん・・・と
ハートを撃ち抜かれてしまった。
「 ・・・ ! いいなあ〜〜〜 彼女ぉ〜〜〜〜
ばっちし☆タイプ〜 組んでみたいしな 留学生かな〜 いやまさかな〜 」
では どんな女子なのか?? 彼は彼なりにアンテナを伸ばして
ぼちぼち集めた情報によると ―
彼女は フランス人。
湘南地域に住んでいる。
父親の仕事の事情で しばらくブランクがあった
今は このバレエ団でがんばっている。
お父さん は 温厚な紳士だが 厳しいヒトなので
そそくさ〜 と帰宅する。
公演や パフォーマンスには あまり参加できない
などなど ・・・ であった。
「 ふうん 〜〜〜 」
一見 無関心を装っているが 彼の視線は常に < カノジョ > を
追っていた。 レッスン中も だ。
・・・ っとにカワイイなあ〜〜〜
ほら ・・・ 金髪がさ 天使のわっかみたいだ・・・
綺麗な踊り方だよなあ〜〜 クラシカルだな
フランスって ああいう風に踊るのが主流なのかなあ
NYとかとは ちょっち違うけど
優雅だな〜〜 お姫 躍ったらぴったりだよ〜〜
いいぜ〜〜〜 イマドキ ああいう上品なコって
なかなかいね〜し〜〜 わは ・・・
ご本人は 気づいていないが 彼の目は完全に < はあと > に
なっていた。
「 ふ〜〜ん ・・・? タクヤぁ〜〜 残念だねえ
フランソワーズ は < 完売済 > だよん 」
仲良しの みちよサン は くす・・・っと笑い静観している。
「 あ〜らら・・・ 坊やってば。 それはムズカシイ恋だわねえ〜
彼女んとこ、熱愛夫婦なのよぉ〜 ま 恋は自由ね〜 うふふ・・・ 」
経験豊かなマダムは ひとり笑いを噛み殺していた。
このバレエ団の主宰者であるこのヒトは 恋多き人生を歩んできた
歴戦のツワモノ、 なんだってお見通し なのだ。
タクヤは だ〜れも気づいてはいない、と確信しつつ
全身で? < カノジョ > を 追う日々なのだ。
クラスの後も ―
「 な〜〜 タクヤぁ 今日 ひまぁ? 」
「 あ? 」
「 たまには メシ 食ってかね? 」
同世代の仲間は しばしば声をかけてくる。
そりゃ ワカモノ同士 いろいろ・・・ 遊びたい年頃なのだ。
「 あ〜〜 わりぃ 俺 今日 バイトなんだ 」
「 そっか〜 じゃ またなあ 」
「 ごめ! 」
バイト と言いつつも タクヤはレッスン後 熱心に自習している。
「 ・・・ いい踊りして、注目してもらうんだ。
彼女と踊りたい、彼女を組めば コンクールなんてちょろいぜ〜〜 」
「 そんでもってよ〜 ゴールデンコンビ とかなって・・・
あちこち公演に出て ・・ いつか熱愛カプ〜〜〜♪
なんちっち〜〜〜〜〜 だははは〜〜〜 」
彼はもう自分自身の想像、 いや妄想? に 酔っていた・・・
「 ふうん ・・・ なかなか頑張ってるわねぇ
次、 GPで勉強してもらいましょうか 」
マダムは 事務所に行く途中、ちらり、と自習用スタジオを見ていった。
( いらぬ注 : GP ・・・ グラン・パ・ド・ドゥ のこと )
そして ある日。
タクヤは スタジオで母親を待っていた茶髪の少年と知り合い ・・・
「 僕 しまむら すばる! 」
温かい瞳のニコニコ少年、 彼はすっかり気に入ってしまった のだが。
「 ふふふ〜〜 わたしの息子。 すばるクン。
このコ、双子の片割れでね〜〜 娘もいるのよ 」
え ・・・・!?!??
鍾愛するヒトににっこり最高の笑顔 で告げられて ―
彼は文字通り 言葉を失った。
む む むすこ ・・・ だってぇ???
だって ・・・ このコ 10歳くらい じゃん
うっそだろ〜〜〜〜〜〜〜 人妻で母親??
― で でも でも〜〜〜 好きなんだぁ〜〜〜
「 ばいばあ〜〜〜い タクヤお兄さ〜〜〜ん 」
「 お おう〜 すばる・・・ 」
「 お兄さ〜〜〜ん また えっと とぅ〜る あんれ〜る、おしえてね〜〜〜 」
「 おう。 またな〜〜 」
わさわさ手を振って 茶髪少年は笑顔で帰っていった ―
しっかり おか〜さん の手を握って。
おか〜さん ・・・ なのかぁ・・・・
・・・ おか〜さん かあ ・・
かなりの努力で タクヤはともかく笑顔で母息子を見送った。
・・・ ウソだろ ・・・
空に向かって叫びたい気分だったが ― ふと。
「 ・・・ < おと〜さん > って 誰だ?
フラン、旦那サンのこと、ひとっ言も言わないよなあ?
今まで一度も聞いたこと ねえぞ? 」
同じ年代の女子の間では < フランソワーズのカレシ > のことは
有名なのだが ・・・ そりゃ 男子の耳には入らないだろう。
「 あ ・・・ もしかして フラン、今 < ひとり > か?
すばるとその片割れつれて 実家に戻ってる のかも〜〜 」
うんうん・・・と タクヤは一人で力強く頷く。
公演のたびに 温厚そうな老紳士が迎えにきているのは
以前から知っていた。
「 そ〜だよな〜〜 一回だけだけど〜〜 ゴ挨拶したじゃん 俺〜〜
そっか〜〜 あのお父さんも心配だよなあ 」
フランの 元・旦那ってどんなヤツなんだ??
ジョーは 勝手に! < 元・旦那 > にされている・・・
「 すばるの父親だろ?? あ〜〜んなカワイイ息子がいるのに!
フランを捨てるなんて と〜んでもない野郎だっ 」
ジョーは ますます勝手に! < ダメ・男 > にされてゆく・・・
「 許せねぇ! あ そうだよ〜〜 フランのブランクって。
ソイツのせいなんだ。
結婚したら家庭に入れ とか 家のコトやれ! とか
コドモの世話は全部やれ とか! う〜〜〜〜
そうやって彼女を拘束してだんだな〜〜 許せん ! 」
ジョーは どんどん < 横暴・旦那 > になってゆく・・・
「 きっとよ〜! 俺のいうこと きけ! って殴ったりもして〜
そんな旦那からさ〜逃げて 子供つれて実家にもどって。
やっとレッスン 再開できたんだぜ なんてこった〜
あのお父さんもさ 孫たちの面倒はみるからしっかりレッスンしておいで
って。 応援してくれてんだ〜〜
そんな旦那とは きっぱり別れちまえ〜〜〜 」
ジョーは 完全に DV旦那 にされてしまった ・・・
「 そんな環境なのに ・・・ 明るくにっこり笑ってさあ 〜〜〜
ああ ・・・ なんていいコなんだあ ・・・・ 」
ふう 〜〜〜 ・・・ ちょいとピンク色のため息がもれる。
「 ? すばる って。 10歳くらいだよなあ?
! ・・・ってことは 彼女って。 俺よか 年上 かあ ・・・・?? 」
一瞬 彼の頬は強張ったが。
「 いや。 そんなこと、問題じゃない。
一つ 二つ 年上でも 俺は全然気にしない。
物理的年齢なんて かんけ〜ね〜よ ・・・ あの笑顔が さあ ( はあと )」
俺は! フランソワーズが 好き なんだあ〜〜〜〜 !!
その頃 ―
へ〜〜〜 っくしょ ・・・ !
都心のとある雑誌編集室では。
茶髪の社員が やたらとくしゃみをしていた。
「 島ちゃ〜ん 風邪 ? 」
「 え い いえ そんなはずは 」
「 だって今日 くしゃみ連発じゃん 」
「 ・・ですね あ マスクしますから 」
「 いやあ そんなんじゃなくてさ。 風邪なら早く帰宅・休養だよ 」
「 平気です、校了前だし 」
「 無理すんなよ 島ちゃんにぶっ倒られたら困るのね〜 」
「 はい 無理しません〜 」
「 そ〜そ〜。 愛する奥方 と 可愛いチビちゃんズ に
移さないようにね 〜 」
「 はい〜〜 ・・・ へっくしょん! 」
う〜〜 なんだあ??
009が 風邪 引くかなあ ・・・
ぶ〜〜〜 ・・・・
ジョーは派手にハナをかみつつ 仕事を続けていた。
( ジョーく〜〜ん 風邪は引かなくても ウワサの種になれば
くしゃみ連発だよ サイボーグでも ― 多分 )
そんなある朝 ― 都心にあるバレエ・スタジオでは・・・
ざわざわざわ たたたた・・・ 大きなバッグを抱えたダンサーたちが
次々 入ってくる。
おはよ〜〜 おはよ〜ございます〜〜〜
眠そう〜〜な顔、 元気な顔、世間様の朝よりちょこっと遅い朝のスタジオ光景だ。
「 おはよ〜ございます〜〜 」
「 フランソワーズさん おはようございます あら? 」
事務所のヒトが ちょいと目を見張った。
「 こんにちは〜〜 」
金髪のチビ娘が フランソワーズの側に立っている。
「 おはようございます〜〜 今朝は こぶ付きなのよ〜
インフルで学級閉鎖なんですって。 ひとりで留守番ってのもな〜って
連れてきちゃったわ 」
「 しまむら すぴか です 」
ぺこん と そのチビはお辞儀をした。
「 まあ まあ すぴかちゃん? お母さん そっくりね〜〜〜 」
「 えへ・・・ 」
「 大人しくさせますから ・・・ スタジオの外で待たせても
いいですか? 」
「 ええ ええ どうぞ。 この前は えっと・・・ すばる君? 」
「 そ! すばるは アタシのおとうと で〜す 」
金髪おさげ は はきはきと答える。
「 そうなの〜 」
「 双子なんです。 すぴかの方が今は背も高いけど 」
「 まあまあ 今朝は 親子どんぶり なの 」
マダムが ひょい、と顔をみせた。
「 あ おはようございます〜〜 娘のすぴかです〜 」
「 お おはよ〜 ございます〜〜 」
金髪のチビっこは 緊張した顔で、でも丁寧にレヴェランスをした。
「 あら うふふ おはよう〜〜 チビちゃん えっと
マドモアゼル・すぴか? 」
「 はい! せんせい 」
「 あの僕の兄弟なのね? 」
「 はい。 双子の片割れなんです。 すいません、
大人しくさせますから 見学させてください。 」
「 ええ ええ 大丈夫。
チビちゃん、アナタも踊るの? 」
「 はい せんせい。 アタシもバレエ ならってます 」
「 そうなの〜〜 じゃ 朝のレッスン、
よ〜〜く見学していってね 」
「 はい せんせい! あ おか〜さん はやくおきがえ しなくちゃ 」
「 あ そうね、 すぴか。それじゃ ちょっとここで
待っていられる? 」
「 いられる! 」
お手製のリュックを背負ったチビっこは ぶんぶんアタマを縦に振る。
金色のお下げが賑やかに揺れた。
「 じゃあ このイス ・・・ 座ってみててね〜〜 」
「 ハイ。 」
事務所のヒトがもってきてくれたイスに すぴかはちんまり座った。
「 お? フランの小型版がいる・・・ ? 」
背の高い男子が更衣室から 出てきた。
「 ・・・ あ。 もしかして ・・・
あ〜〜 おはよう〜〜 お嬢ちゃん。 きみって もしかして
すばるクンのきょうだい? 」
「 ? ハイ。 すばる アタシのおと〜とです 」
「 そっか〜〜〜 そうだよなあ〜〜
うん こんなにフランソワーズそっくりなんだもんな〜〜〜
あ お嬢さん 名前 きいていい?
」
「 え ・・・ 」
「 あ 僕は 山内タクヤ。 すばる君のトモダチさ 」
「 あ! ・・・タクヤお兄さん?
すばるがね〜〜 すっげかっこい〜〜って 」
「 え へへへ〜〜 そっかあ? 」
「 うん! すばるね、タクヤお兄さんの大ファン なんだって!」
「 そっか〜〜〜 ぐふふ♪ そ〜だろ〜な〜 」
「 あ アタシね しまむら すぴか。 」
「 すぴかちゃん かあ〜 可愛いなあ〜〜 」
すぴかは 黙ってじっとしていれば フランソワーズそっくりの
美少女 なのだ。 < 黙って・じっとしていれば > だ。
「 あ〜 おかあさん そっくりだね〜〜
おと〜さ・・・・ いや おウチのヒトは? 」
タクヤは なにげな〜〜い風に聞いてみた。
「 おうちのひと? うん みんな げんきだよ〜〜
すばるがね〜〜 タクヤお兄さんに またあいたい〜〜って 」
「 そっか? 俺もすばる君に会いたいな。
あの ・・・さあ。 すぴかちゃん は そのう〜〜〜
おウチのヒト達・・・ 好きかい? 」
「 え? あ ・・・ う〜〜〜ん ・・・? 」
「 あ ごめん、ヘンなコト 聞いてごめん〜〜〜 」
「 ??? 」
すぴかは 妙〜な顔をした。
だって ―
すぴか は お父さんとお母さん そして おじいちゃまは < 大好き >
< 好き > は コズミのおじいちゃま とか 学校のトモダチ
すばる は 半分は自分自身なので < 好き > とかとは別なのだ。
だから ちょいと考えていただけなんだけど・・・・
「 タクヤ! な〜にオンナノコにちょっかい出してるの〜〜
クラス 始めますよっ 」
スタジオの入口から さっきの先生が顔を出した。
「 あ やべ〜〜 すんません〜〜〜
じゃ すぴかちゃん またな〜〜〜 」
「 ウン、 ばいばい〜〜 」
タクヤお兄さんは あわててスタジオの中に駆けこんだ。
「 おか〜さん ・・・ あ いた! タクヤお兄さん も・・・ 」
すぴかは廊下側の窓に オデコを押し付けた。
― その日の夜
「 そんでね〜〜〜 タクヤお兄さん、 すっご〜くとんでた〜〜 」
「 こ〜〜やってさ とんで〜〜 くるくる〜〜〜 って
まわってたでしょ? 」
「 うん! かっこいかった〜〜 」
晩御飯が終わって、 すぴかとすばるは < タクヤお兄さん > の話題で
わいわい〜〜 盛り上がっていた。
「 まあまあ 二人とも・・・タクヤのファンになった? 」
「「 うん! 」」
「 おか〜さん タクヤお兄さんと おどる? 」
すぴかが 真剣な顔できいた。
「 え〜 そうねえ でもタクヤはもっと若い女の子と踊るのよ 」
「 ?? おか〜さん だって おんなのこだよね ? 」
すばるも 不思議そう〜〜な顔をしている。
「 おう 勿論。 お母さんは オンナノコ さ。 」
「「 おと〜さ〜〜〜ん 」」
ジョーがお風呂から上がってきたのだ。 子供たちは飛びついてゆく。
「 お〜〜う 重たいなあ 二人とも〜〜 」
「 ねえねえ〜〜 タクヤお兄さんって かっこいいんだよ〜 」
「 すっごくね とんで〜 まわるんだ〜〜 」
「 ? お母さんのバレエ団のヒトかい 」
「「 そ!! 」」
「 ふうん ・・・ 」
「 あのね すばるの相手 してくれて・・・
今日も すぴかとおしゃべりしてくれたわ。 優しいの。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 僕たち 仲良し なんだよ〜〜 」
「 そっか〜 よかったなあ すばる 」
「 ウン。 あのね〜〜 タクヤお兄さんってば 好きなコ がいるんだけど
なかなかいっしょにむぎちゃ、のめないんだって 」
「 むぎちゃ?? 」
「 そ。 」
( いらぬ宣伝 : この辺りの事情 拙作 『 王子サマがいいの 』参照 )
「 ふうん すばるのトモダチかあ 」
「 アタシもトモダチだよっ 」
「 そ〜か そ〜か よかったなあ〜〜 二人とも〜〜 」
ジョーのアタマの中では すばるを引きのばしたみたいな
ひょろり〜とした気のいい少年 が < タクヤお兄さん > として
イメージ されていた。
コドモたちは お父さんと少しでも一緒にわいわい・・・できて
嬉しそうだった。
ジョーは おやすみなさ〜〜い をして 子供部屋までつれていった。
「 ふう〜 やっとベッドに入ったよ〜 」
「 ご苦労様〜〜 ありがと ジョー
二人共 おと〜さん まだ〜〜 って ずっと言ってたのよ 」
「 あ〜〜 もうちょっち早くかえってくるよ
ぼくも チビたちと遊びたい〜〜〜 」
「 お願いします。 」
「 なあ < タクヤお兄さん > って きみの後輩かい? 」
「 え タクヤ? ええ いいコなの。 NYへ留学しててね 〜
まだまだ若いから いろいろ経験を積んで頑張ってほしいな〜〜って 」
「 ほう〜 そうか〜 」
「 そうだわ あのね 次の公演 ・・・ どう? って言われたんだけど
あの ・・・ 出てもいい? 」
「 え〜〜すごいじゃないか〜〜 勿論だよ! なにを踊るのかい 」
「 演目はまだ決まってないみたい。
小作品集で GP やってみない?って マダムが 」
「 ぐらん・ぱ・ど・どぅ って あの〜〜 男性とおどるヤツだろ? 」
「 そうよ。 」
「 わ〜〜〜お〜〜〜 頑張れよぉ〜〜 」
「 ありがと ジョー。 リハはなるべく遅くならないようにしてもらうから 」
「 いいよ いいよ 気にするな。
ぼくもなるべく早く帰る。 仕事、持ち帰れるようになったからね 」
「 まあ そうなの? 」
「 ああ PCがあればなんでもできるしね〜
チビたちには ぼくから頼むから。 学校から帰って留守番できるよなって。
大丈夫、 あいつら しっかりしてるよ。 」
「 ありがとう ジョー・・・ 」
「 なんだよぉ もう ・・・ 」
ジョーは 愛妻をひきよせると 涙が滲んだ目尻に軽くキスをした。
「 ・・・ うふ ・・・ うれし ・・・ 」
「 こ〜ら もう〜〜 公演、チビたち 連れて見にゆくからな〜 」
「 うん ・・・ 」
「 ほらほら 」
きゅうう〜〜 大きな手がほっそりした肩を抱き寄せる。
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 ぼくの素敵な奥さんの 最高の舞台に〜〜 キス♪ 」
「 ・・・・・ あ ジョー 晩ご飯! 好きな親子煮よ 」
「 わお〜〜〜♪ 」
ジョーは 嬉々として遅い晩御飯のテーブルについた。
このヒトって ― どういう人なのかしら
フランソワーズは 夫をつくづくと眺めてしまう。
彼女が作った熱々〜〜の親子煮 を はふはふ〜〜 実に美味しそうに
食べている。 幸せそう〜な表情だ。
ふうん ・・・ こんな顔 するのねえ ・・・
< 付き合い > は 長い。
とんでもない状況での とんでもない出会い だった・・・
あれから ずっと ― ほぼ ずっと一緒に いる。
出会ったその日から 彼女は彼に魅かれていた。
「 でも ・・・ ず〜っと < 仲間 > だったし 」
共に硝煙漂う戦場を走りぬけてきた。
そして ― 10年以上前に 人生という戦場で一緒に生きるパートナー となった。
「 ふうん ・・・・? 」
「 んま〜〜 え なに? 」
思わず呟いた声に ジョーは箸を止めた。
「 あ ううん あの〜〜 美味しそう〜〜に食べてくれるな〜〜って
」
「 うは〜〜 だってすっげ美味いもん♪
ぼくさ、これ大好きなんだよ〜〜 うま〜〜 うふふふ 」
彼はまた目の前の料理に 夢中になっている。
「 ふふふ 気に入ってくれて嬉しいわあ
」
「 んま〜〜〜 ああ さいこ〜 はふはふ〜〜〜 」
よ〜くわかってる、と思っていた ― 彼のこと。
だってねえ ・・・ 一緒にいた時間、長いし。
ひとつ屋根の下で暮らしてたし ・・・
極限状態でも 共にすごしたし
わたし ジョーのことは よくわかっているわ。
そう 思っていた ― が。
結婚し < マダム・シマムラ > となり、 素顔を突き合わせ
一番身近な存在として暮らすようになったとき
え〜〜〜〜〜〜〜 うっそ〜〜〜〜〜
その叫びで 彼女のココロはいっぱいになっていた。
え え ええ?
ジョー って こ〜いうヒト だったの??
それまでの年月での付き合いの日々は なんだったのか − わが目を疑った。
「 ・・・ でもね〜〜 それはジョーも同じだと思うのね〜〜 」
「 あ〜〜〜 ウマかったぁ〜〜 え なにが同じ? 」
彼はほっぺをピンク色にして 箸を静かに置くところだった。
「 え あ ・・・ ううん なんでも ・・・ あ お味はどう? 」
「 ものすご〜〜く美味しかったです。 ご馳走様でした。 」
彼は姿勢を正しきちんと手を合わせた。
「 ・・・ あ お茶いれるわ。 日本茶? 麦茶? 」
「 あ〜〜 う〜んと・・・ 麦茶 いい? 」
「 ええ 熱々にするわね 」
「 お願いします。 ふぁ〜〜〜 」
満足そう〜〜に お腹をぽんぽん叩いている。
「 なあ チビ達さあ〜 どんどん大きくなるなあ〜 」
「 え ああ そうねえ。 すぴかの方が背も高いのよ 」
「 あは それは後からすばるが 追い抜くさあ〜 」
「 そうね 」
「 う〜〜ん アイツらと遊びたいなあ〜〜 」
「 日曜に遊んでやって。 」
「 もちろん〜〜 ぼくの最高〜〜の元気のモトなんだもんな〜
えへへ ・・・ 精神年齢 一緒だからかもな 」
「 ふふふ・・・ チビ達もおと〜さんと遊びたい〜〜って。
今日もね 少しでもおしゃべりできて楽しかったみたいよ 」
「 ぼくも さ♪ 」
「 うふふ はい 熱々麦茶 」
「 お〜〜 ありがと。 ・・・ んま〜〜〜 」
こ〜んなにコドモ好きなヒトだったなんてねぇ・・・
またしても 感心して彼の顔を見つめてしまう。
< 子煩悩 > という言葉を コズミ老先生から教わったとき、
ジョーくんもその一人じゃな〜 と言われ滅茶苦茶に納得できた。
彼は 子供たちが生まれて また変わった、と思う。
ひょっとして。
ジョーは いえ 009 は 今が最強 かも。
・・・ よかった〜〜 009が敵じゃなくて
実は 003 も < 今が最強 > なのだが・・・
ご本人は 少しも気がついてはいない。
「 ・・・ さあ〜て と。 」
「 お休みなさい ・・・ 」
「 あれ 片づけ、手伝うよぉ〜 」
「 え いいわよ、 ジョー、疲れているでしょう? 」
「 うん 疲れてる。 だから さ♪ 」
ちゅ。 彼は彼女の耳の後ろにキスをする。
「 ・・・ん もう ・・・ 」
「 ね? いいだろ? 急いで片づけてさあ 〜 」
「 もう 〜〜 」
「 うっふっふ〜 さあ 洗いモノはぼくがやるからね〜 」
「 お願いします 」
ジョーは手際よく皿や茶碗を洗い始めた。
フランソワーズも キッチンを片づける。
うふふ ・・・ えへへ ・・・
あつ〜〜い ・ あまぁ〜〜い 時間が 二人を待っている〜〜♪
がやがやがや −−−−
バレエ団の廊下、掲示板の前でダンサー達があつまっている。
「 あ パフォーマンスの? 」
「 そうみたい 今度は小品集って聞いたけど 」
「 ふうん? 」
それぞれが 自分の名前をさがし ―
「 ・・・・ う ・・・ お ・・・ 」
妙な声が聞こえる。
「 ?? なに だれ? 」
「 ん? タクヤじゃん? 」
「 へ なに〜〜 」
「 タクヤって なにやるわけ? 」
「 えっと ・・・ ああ これかあ 」
『 眠りの森の美女 』三幕より 結婚式のGP
フランソワーズ・アルヌール 山内タクヤ
「 ・・・け けっこんしき の ・・ ・・・・ ! 」
人垣の中で タクヤは棒立ちになっていた。
Last updated : 001,15,2019.
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*********** 途中ですが
久々〜〜 あの! 彼氏 登場です♪
それぞれの < すきになったひと > について
あれこれ・・・ 続きます♪