『  されど愛しき日々  − (2) −  』

 

 

 

***  さて 後編ですが ***

こちらは以前に 【 島村さんち 】 に めぼうき様 がお書きになった 

poco a poco 』の発展編・・・と思ってください。

 すこうしお話を足してみましたが・・・

 

 

 

 

 

「 ・・・ あらあ。 雨・・・ 」

月曜の朝、フランソワ−ズはカ−テンを開けて溜息をついてしまった。

幼稚園の入園式から一週間、ほぼ好天が続いた。

フランソワ−ズは前後に <荷物> を乗せての自転車通園もだんだん上手になり、

<荷物>達の方も上手に 乗っかれるようになっていた。

すぴかはにぎやかにお喋りをし、すれ違う全然知らない人にも手を振ったりはしゃいでいるが

<立ち上がる> ことだけはしなくなった。

すばるは相変わらずぴたり!と母の背にへばりついているが 多少揺れても泣き出したりはしない。

時々彼のハナウタが フランソワ−ズの背中で聞こえくる。

「 ねえ、すぴか。 幼稚園で、なにがいちばん面白い? 」

「 え〜 アタシ〜 かけっこ! 」

「 かけっこ? お遊戯じゃなくて? 」

「 うん! だ〜〜〜ってはしるの。 アタシ、いちばんなの! 」

「 まあ、そうなの。  すばるは? 」

「 ・・・ ねんど 」

母の背中でぼそ・・・っと息子の声がする。

「 ねんど? ・・・ああ、工作の時間ね? すばるは何をつくるのかな。 」

「 おだんご。 」

「 今度お母さんにも見せて? 」

「 ・・・・・・ 」

「 ねえ、すばる? あら・・・おねむなのかな。 」

すばるはまたぴたっとフランソワ−ズの背にへばりつき 黙ってしまった。

行きかえりのそんな会話も フランソワ−ズは結構楽しんでいる。

自転車通園って いいわね。

そうだわ〜 今度、ジョ−にも一回やらせてあげようかな。

そんな余裕も出てきていたのだが。

 

その日はあいにく朝から雨。

 

   あ〜あ。 せっかく上手くいってたのに。

   雨じゃね。 傘を片手の運転は怖いし・・・第一、子供達がぬれてしまうわ。

   しょうがない。 今日は歩いて行きましょう。

 

フランソワ−ズは普段よりもかなり早めに出かける支度を始めた。

出勤前のジョ−も 気に掛かる様子だ。

「 ・・・ やっぱり、ぼく、遅刻して行こうかな。 チビ達を車で園に送ってから・・・ 」

「 大丈夫よ、ジョ−。 どうぞいつも通りに出勤してちょうだい。

 雨の時には歩くんだって練習しなくちゃ。  だってあなた、雨の度に遅刻するわけには

 ゆかないでしょう? 」

「 ・・・ うん ・・・ それはそうなんだけど・・・ 」

「 ほらほら。 ジョ−も急がないと・・・ 雨の日は道が混むわ。 」

「 う、うん ・・・ それじゃ。 イッテキマス 」

「 はい、行ってらっしゃい。  あ! お弁当持った? 」

「 勿論♪ それじゃ ・・・ お先に一口〜〜 」

「 きゃ♪ ・・・・んん ・・・ン・・・・・  もう〜〜 ジョ−ったら! 」

「 ははは・・・ じゃア 行ってくる。 」

ジョ−は出がけに彼の細君のキスを盗み 上機嫌で出勤していった。

 

「 ふふふ・・・。  さて。 こちらは ― 戦闘開始! だわ。 」

ジョ−を送りだし、フランソワ−ズはぴしゃ!と自分の頬を叩いた。

 

 

 

 

 

「 あ・・・車がくるわ! すぴか、こっちにいらっしゃい! 」

「 う・・・うん。 すばるは? 」

「 こっち側にいるわ。 危ないなあ・・・二人とも! フェンスに ぴったんこ〜ってくっついて! 」

「「 は〜い! ぴったんこ☆ 」」

母子は狭い道で 塀にへばりついて車をやり過ごした。

派手な水しぶきをあげ、車はすれすれにすり抜けていった。

「 あ〜あ ・・・ もうびしょびしょねえ・・・ 」

「 びしょびしょ〜 びしょっびしょ♪ 」

「 じゃぶ〜ん・・・! わあ〜 お池みたい♪ 」

「 ああ、すばる! ほら、傘を拾って? あら! すぴか! わざわざ水溜りに入らないで! 」

なんとか車をやり過ごしたが 子供達はあっちに寄りこっちにひっかかり・・・

傘なんかまるで役にたたず びしょびしょになっている。

母自身も すっかり濡れてしまった。

 

子供達も傘をさせば、どうもまだ足元が心配で母は二人の手をしっかりと握ることになる。

左右の手を子供達に占領されると・・・ 傘がさせない。

多少の雨なら・・・と思っていたのだがあいにくかなりの降りになってしまった。

レイン・コ−トのフ−ドくらいでは到底凌げるものではない。

フランソワ−ズの髪から雨のしずくが滴りおちてきた。

 

「 ・・・ しょうがないわ。 すぴか? お母さんのレインコ−トを握って。 

 お母さん、傘をさすから。 一緒に入ってゆきましょう。 」

「 ・・・ う ・・・うん ・・・  でもでも〜〜 アタシ、やっぱりヤだ〜〜 」

「 じゃあ、すばる? ちょっとお手々離して? お母さん、傘を差す・・・ 」

「 ・・・ やだ! 」

「 ねえ〜〜 お願いよ? すぴか、お姉さんでしょう? 」

「 ・・・・・・ 」

珍しくすぴかは きゅ・・・っと口を結んだまま、頭をぶんぶん振っている。

「 すばる? 男の子でしょう? ちょっとだけ・・・ 」

「 やだ! やだやだやだ〜〜〜 」

子供達も不安なのだろう、母の手にしがみ付いたまま・・・ 親子は完全に立ち往生してしまった。

「 ね? ちょっとだけよ。 ほら・・・ 早くしないと幼稚園、始まってしまうわよ。

 先生もお友達も ・・・ みんな待ってるわ。 」

「 ・・・・ でも・・・ ヤだ。 」

「 やだ〜〜 やだやだ。 」

「 二人ともお願いよ〜〜〜 お母さんの方が泣きたくなっちゃうわ。 」

 

「 あの・・・ どうぞ? 」

 

明るい声がして、 す・・・っと傘がフランソワ−ズに差しかけられた。

「 ・・・・ え? 」

「 随分降ってきましたわね。 さあ、お嬢ちゃんの手を握ってますから・・・

 その間に傘をお差しになって? 」

フランソワ−ズたちのすぐ脇に 小柄な女性がにこにこ・・・傘を差しかけている。

彼女も 片手にすばる達と同じくらいの小さな男の子の手を握っていた。

「 あ・・・ ありがとうございます!  すぴか? ちょっとの間、この方と手を繋いでて? 」

「 いらっしゃい、お嬢ちゃん。 」

「 ・・・ すぴか。 」

「 え ? 」

「 す ぴ か。 アタシ、おじょうちゃん、じゃないもん。 しまむら すぴか、よ。 」

「 あらあら・・・ ごめんなさい。 それではすぴかちゃん? 

 お母さんが傘を差して髪を拭かれているあいだ・・・ おばちゃんと待ってましょうね。 」

「 ・・・ うん。 」

「 すみません! ありがとうございます。 あ、わたし、島村といいます。 」

「 ええ、ええ。 知っていますよ。 すぴかちゃん達と同じクラスの わたなべ です。 」

「 まあ! そうなんですか。 どうぞよろしくお願いします。 」

「 はい、こちらこそ。 仲良くしてくださいね。 すぴかちゃんと ・・・? 」

「 あ、こっちは すばる。 ウチは双子なんです。 すばる? ご挨拶は。 」

「 ・・・・ コンニチハ ・・・・ 」

「 ああ、ほら。 早く拭かないと・・・ 」

「 あ! すみません〜〜 」

 

「 ・・・ゥ ・・・ うえ〜〜〜〜ん ・・・・  」

 

「 あらら?? 」

男の子の泣き声に母親同士ははっとして視線をおとした。

 

 

 

 

「 それでどうしたんだい。 すばるが泣いたのか。 」

「 ・・・ ううん。 それがねえ・・・ 」

フランソワ−ズはブランディ・グラスを持ち直し ふか〜く溜息をついた。

隣のジョ−も グラスを揺らしつつ笑いをこらえるのに懸命のようだ。

 

雨は夜になってもまだ降り続いていた。

カ−テンを引き、リビングのメイン・ライトを落としてジョ−とフランソワ−ズは夜のティ−・タイムを楽しんでいた。

お茶はいつのまにかブランディ−に替わり芳醇な香りがリビングに漂いだした。

二人はソファで とりとめもないお喋りをしている。

ジョ−の帰りはおそく、彼は子供達と おやすみなさい を言うのに間に合わなかった。

どんなに遅くなっても ジョ−は今日一日の子供達の様子を聞きたがる。

「 それが・・・・? 」

「 泣き出したのは わたなべ君。 泣かしたのは! ウチのお嬢さん! 」

「 ・・・あは。 やるなあ〜〜 すぴか! 」

「 ジョ−ォ! 冗談じゃないわよ〜 男の子を泣かすなんて! 」

「 あはは・・・ ごめんごめん。 でもどうして? まさか ・・・ 殴ったんじゃ・・? 」

「 いいえぇ。 それが、ね! 」

ふうう〜〜〜 ・・・・ 特大の溜息をついてジョ−の奥さんは話を続けた。

 

 

 

ぐしゅぐしゅ泣いている男の子の側で すぴかはお口を への字 に結んで立っていた。

「 すぴか! なにをしたの!? 」

「 だって! このコ、おハナ、ちんっ!ってしないんだもん。 

 アタシがかわりに ちん!ってやってあげたら〜 泣いたの。 」

「 ・・・うっく ・・・ ふぇ〜〜ん ・・・ 」

「 あらあら・・・ ありがとう、すぴかちゃん。 大地、ちゃんとちん!しなくちゃ駄目でしょう? 」

「 す、すみません〜〜 」

「 いえいえ、いいんですのよ。 ウチの子がだらしないだけ。

 すぴかちゃん、偉いわね。 さすがにお姉ちゃんだわ。 」

「 ・・・ え・・・えへへへへ・・・ 」

「 本当にごめんなさい。 わたなべ君、ごめんなさいね。 ほら、すぴか。 ごめんなさい、は? 」

「 ・・・・・ 」

「 すぴか! 」

「 だって ・・・ アタシ、ごめんなさい、じゃないもん。 」

「 すぴかちゃんのお母さん、もう怒らないであげてくださいな。

 すぴかちゃん。 これから大地と仲良く遊んでちょうだい。 」

「 ・・・ う、うん。  ・・・ だいちくん・・・ ごめん・・・ 」

「 ・・・ うっく ・・・ 」

すぴかが近づくと わたなべだいち君 はお母さんのスカ−トの陰に隠れてしまった。

この二人、じつに最悪の出会いをしたのだ。

 

 

 

「 あははは・・・・ アイツらしいなあ。 そういえばよくすばるのハナをちん!ってやってるよな。 」

「 そりゃ、すばるは弟だし。 でも よそ様のボクにまで!

 わたし、もう顔から火が出たわ・・・ 」

「 ははは・・・ それでさ、そのお母さん、わたなべさん? 笑ってくれたんだろ。 」

「 ええ。 とてもカンジのいい方でよかったわ。 もう・・・平謝りに謝ったけど。 」

「 それならいいじゃないか。 これから仲良くしたらいいよ。 」

ジョ−は笑いが止まらないらしい。

「 お母さんとは上手くやってゆけそうなんだけど・・・ 」

「 ? 」

「 肝心のボクがね。 それからずっとすぴかのこと見ると泣くのよ。 こわい〜って。 」

「 あははは・・・・ アイツってば見た目と中味の差がありすぎだからなあ。

 ちょっと見は天使だけど。 中味はなあ。 なかなかの豪傑だもんな。

 でも いいじゃないか。 ぼくは好きだな、つよい女の子♪ ふふふ〜 お母さんに似たのさ 」

「 え・・! なんですって?? 」

「 あ〜いや、なんでもないって。 ふふん、ぼくの天使は 小さな方も大きな方も強くて可愛いのさ。

 ・・・ここにいる大きな天使は特別に・・・ ふふふ ・・・ 」

「 ・・・ きゃ ・・・だめ・・・ 」

ジョ−はフランソワ−ズの唇を吸った。

ほのかにフランディの香が口中に広がり、彼女自身の香りと入り混じりジョ−のこころと身体

をくらくらと刺激する。

「 ・・・ 美味しい・・・ なあ、もっと味わってもいい? 」

「 ・・・ く ・・・ ここじゃ ・・・ イヤ。 」

「 勿論・・・ それじゃご案内しますよ、ぼくのお姫サマ・・・ 」

「 ・・・ 明日も早いのでしょう? 大丈夫? 」

「 平気平気 ・・・ 明日へエネルギ−は きみから貰うから・・・・ んんん・・・ 」

「 もう ・・・ あ ・・・ ぁぁあ ・・・ 」

ジョ−のくちびるがフランソワ−ズの襟元を押し広げてゆく。

「 ・・・ それじゃ。 参りますか、姫君 ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

 

   ・・・ ぱこん ・・・

 

ジョ−の腕に抱かれたフランソワ−ズの脚から スリッパが脱げ落ちる。

それきり・・・ ギルモア邸は静かな夜の帳に包まれていった。

 

 

こうして春爛漫の雨の日に、島村さんちの双子と そしてお母さんにも新しいお友達ができた。

子供たちどうしよりも フランソワ−ズが一番嬉しかったのかもしれない。

長い間 紅一点 だった彼女は、本当に久し振りで同性の友達とこころおきないおしゃべりに

興じるのだった。

バレエの友達とは別に、子供達のこと、日々の生活のことなどをおしゃべりし、

わたなべ君のお母さんと親しくなったのをきっかけに所謂 ママ達 もすこしづつ増えていった。

 

 

 

「 お母さ〜〜ん! 」

「 ・・・ お母さん! 」

「 は〜い♪ お帰りなさい、二人とも。 」

お迎えに待つ母の元に 双子の姉弟が駆けて来る。

フランソワ−ズは身をかがめ、両腕をひろげて我が子たちを抱きしめた。

「 せんせ〜 さようなら! 」

「 はい、さようなら すぴかちゃん、 すばるクン。 」

「 失礼します、先生。 」

「 島村さん、お迎えご苦労様です。 また明日・・・ 」

見送りに出ていた先生にご挨拶をして フランソワ−ズは子供達の手を引き自転車置き場に向かった。

「 お母さん、 お母さんってば。 」

「 はい、なあに。 ・・・ ほら、前に乗って、すぴか。

フランソワ−ズはよいしょっと娘を前のシ−トに座らせた。

「 お母さん、あのねえ〜〜 」

「 はい、ちょっと待ってね。 すばる〜〜 帰りますよ? あ、さようなら〜わたなべ君 」

「 ばいば〜い・・・ あ、お母さん、僕も乗る〜〜 」

雨の日に出会って以来、すばるとわたなべ君は大の仲良しになっていた。

二人ともおっとりしたマイペ−ス型なので ウマがあうのかもしれない。

今日も 一緒になにやら葉っぱをにぎって遊んでいた。

「 すぴか。 わたなべ君にばいばいは。 」

「 ・・・ ヤだ。 」

「 まあ、そんなこと言っちゃだめよ。 お友達でしょう? 」

「 だって! わたなべ君 にげるんだもん。 」

「 ( あら〜〜 初対面の印象が滅茶苦茶に悪かったものね・・・ ) そ、そう?

 でもご挨拶はしなくちゃ。 ほら、わたなべ君もお母様の自転車よ? ばいば〜いって! 」

「 ・・・・・・・・ 」

すぴかはむすっとして それでもひらひら手を振ってみせたが

わたなべ君は さ・・・っとお母さんの背中にくっついてしまった。

「 あらら・・・ さ、ウチも帰りましょ。 すばる〜 いい? 」

「 ・・・ うん。 ちゃんとつかまった。 」

小さな手が しっかりフランソワ−ズのブラウスを握っている。

 

   あ〜あ ・・・ ブラウス、シワシワだわ・・・ お気に入りなんだけどなあ・・・

   お迎えの時にはジャ−ジとかトレ−ナ−にしたほうが無難ね。

 

「 お母さん、お母さ〜ん。 あのねえ。 すばるってばね〜〜 」

すぴかが反り返って母を見ている。

「 すぴか。 ちゃんと前、向いて。  なあに? すばるがどうかしたの。 」

「 うん ・・・  あのねえ、すばるってばね! またおべんとう、おのこししたんだよ〜 」

「 え! なんですって?  ・・・ すばる、そうなの? 」

「 ・・・・・・・ 」

ねじ向いた母に すばるはまたまたぴたり、とお顔を母の背中にくっつけてしまった。

 

   もう〜〜〜 今朝は大傑作!って思ってたのに・・・・

   なんでかなあ。 ウチでの御飯は普通に食べるのに。

 

新しい生活にも大分なれたころ、<お弁当>が始まった。

フランソワ−ズは大張り切りで 用意していた可愛いお弁当箱にサンドイッチやら

サラダなどを持たせてやっているのだが。

 

すばるが <お残し> するのである。

 

元気ものの姉娘は初日からぺろり、と平らげ空っぽなお弁当箱を持って帰ってきた。

「 お母さ〜ん さんどいっち、好き! ねえねえ、ぷちとまと、もっといれて! 」

「 はいはい。 あら、綺麗に食べてくれてお母さん、嬉しいな♪

 ぷちトマト、ね。 じゃ、あとで一緒にお買い物にゆきましょ。 」

「 うん! わ〜いわ〜い♪ ぷちトマト〜〜 ぷち・ぷち・ぷち〜〜 」

跳びはねているすぴかの横で・・・

「 あら。 ・・・ すばる。 お腹いっぱいなの? 」

「 ・・・・・ 」

弟息子はぶんぶんと首を振る。

彼のお弁当箱には サラダがほとんどそのまま残っていた。

「 どうしてお残し、するのかな。 」

「 ・・・ さんどいっち、好き。 」

「 そうね。 サラダはいや? すばる、お家の御飯ではお野菜も食べられるでしょう? 」

「 ・・・・・・ 」

このチビのガンコ者は お口を閉じたままただ首を振っている。

 

   ・・・ま〜た始まった・・・・! このコは一旦強情をはるともうだめなのよね。

   野菜嫌い、なんとかならないかなあ・・・

 

すばるは赤ちゃんの時から大人しい子なのだが、 < いや > なことにはなかなか妥協しなかった。

離乳食のころから野菜が苦手らしく、母の悩みの種なのだが・・・

「 それじゃね、明日はすばるが好き〜〜っていうお弁当にるすから。

 お残ししないのよ? いいわね。 」

「 ・・・ ウン ・・・・ 」

ぼそっと一言つぶやき、こくんと縦に振ったセピア色の頭をフランソワ−ズはきゅ・・・っと抱き寄せた。

「 いい子ね。 大好きよ〜〜 すばる。 」

「 ・・・・ お母さ〜ん ・・・ 」

やだ、こんなトコ、ジョ−にそっくり・・・

言い出したらかなり拘るジョ−の性格を思い出し、フランソワ−ズの唇には笑みが浮かぶ。

 

   ふふふ・・・ 妙なトコが似るものなのね・・・・

   ジョ−も こんなカンジの子供だったのかしら。

 

フランソワ−ズの脳裏にすばるとよく似た色の髪の男の子が浮かび上がる。

背格好までそっくりなそのコは なぜか後ろを向いてしゃがみこんでいた。

・・・ そう、ひとりぽっちで。

彼の側には抱きとめてくれる温かい胸も 高い高いをしてくれる逞しい腕も ない。

小さな背中が すこし震えていた・・・

 

   ・・・ ジョ− ・・・・ ! わたしが。 わたしがいるわ・・・!

     ほら! わたしがいっぱい いっぱい 愛してあげる ・・・

 

「 ? お母さん? どうしたの〜 ? 

「 ・・・ !  あ・・・ ご、ごめんなさいね、すばる。 びっくりしちゃったかな・・・ 」

「 ううん。 あ・・・ お母さ〜ん いい匂い〜〜 」

思わず抱き締めてしまった彼女の息子は にこにこと顔をすりつけている。

 

   すばる・・・! ええ、勿論すぴかも。 

   あなた達は いつもいつもにこにこしていてね。 

 

子供達が幸せなら。 二人がいつも笑っていたら。

ジョ−は、彼女の夫は こころの奥に沈めた寂しさの記憶を忘れてくれるかもしれない。

せめて 温かいものに変えられたら・・・と彼女は願わずにはいられなかった。

 

   ・・・ でも。 それとコレは・・・別!

   さあ、すばる君? 明日は絶対に、ぜ〜〜ったいに! 食べてもらいますからね。

 

これこそ母のウデの見せ所だわ・・・とフランソワ−ズは大いに張り切っていた。

そして。

 

 

「 お母さ〜〜ん ! 」

「 ・・・ お母さん、 お母さ〜ん 」

「 はい、お帰りなさい。 楽しかった? 」

「 うん♪ ねえねえ〜〜 おべんとう〜〜 たまごやき、すごくおいしかった〜〜 」

「 まあまあよかったこと。( オムレツなんですけど? )  ・・・・ すばるは? 」

フランソワ−ズはしっかり自分のスカ−トにへばりついている息子に微笑みかけた。

「 ・・・ う、うん。 ふりかけ、すき。 」

「 そう〜〜 よかったわ。 ( ふりかけ だけ?? ) さあ、帰りましょ 」

・・・ まあ、お家に帰ってから、ね。

フランソワ−ズは よいしょ!と子供達を自転車の前後に乗せた。

 

カラン・・・

フランソワ−ズは期待をこめてちっちゃなお弁当箱のフタをあけた。

 

   ・・・・ どうしてぇ〜〜〜 !! 信じられな〜〜い!!

 

娘のお弁当箱はきれいにからっぽ。 息子のは。 

フリカケ御飯はきれいに平らげ 母会心の作:野菜入りオムレツが でん!と居残りをしていた。

はああ・・・・

母はがっくり、しばらく息子の食べ残しをじ〜っと見つめているばかりだった。

 

 

「 ええ、ええ。 それでね。 お残しするの! ええ、野菜だけ。 

 普段からあんまり得意じゃないのよ、でも丸々残すなんて・・・ねえ、張大人、どうしたらいいのかしら。 」

フランソワ−ズは必死の面持ちで受話器をにぎっている。

連日のすばるの <お残し>に、 ついに食の専門家にアドヴァイスを求めたのだ。

 

「 ほっほ。 子供の好き嫌いはたいがい神経アル。 好きなモンに混ぜ込んだらええ。 」

「 ええ、ちゃんとね、オムレツに仕立ててみたの。卵焼きは大好きだから。 でも・・・ 」

「 ダイジョブ、そのうち、な〜んでもばりばり食べる坊になりまっせえ。 

 オトコノコはな、だんだんゆっくり大きくなりまんのや。 お母はん、焦りなさんな。 」

電話の向こうののんびりした声に フランソワ−ズはす・・・っと肩のチカラが抜けた。

「 そ・・・ そうかしら。 」

「 そうアル。 ジョ−はんにも聞いてみなはれ。 

 フランソワ−ズ、サラダだけが野菜料理やありまへんで。 煮付けやら炒めものやら・・・

 根菜類も立派な野菜や、いうことを忘れたらあきまへん。 」

「 ・・・ あ! そうね、そうだわ! お芋類やらパンプキン、玉葱も、ねえ? 」

「 そや。 和風に炊き上げてもお子達は喜びまっせ。 」

「 そうよね、 わあ、ありがとう、大人〜〜 」

「 イヤ〜〜 チビさん達の元気なお顔、また見せたって。 」

「 ええ、ええ。 また皆で伺います。 ごめんなさい、忙しい時間に・・・ 」

「 ナニネ。 わてらの可愛い坊や嬢やのためや。 いつでもかましまへんで。 」

何回も御礼を言って電話を切ったとき、ジョ−の車の音が聞こえてきた。

 

   あ♪ 丁度よかったわ!

 

今までの 眉間に縦ジワはどこへやら、フランソワ−ズは飛び切りの笑顔で玄関へ駆け出していった。

 

 

「 ほう? すばるはそんなに好き嫌いがあったかね。 」

「 う〜ん・・・ ぼくは特に気が付かないけどなあ ・・・ 」

ジョ−の夕食も終わり、大人達はリビングで食後のお茶を楽しんでいた。

「 あら! 離乳食のころからあのコはお野菜が苦手なのよ? わたし、何回も言ってるわ。

 ジュ−スにしてみたり、細かく刻んでカレ−に入れたり結構苦心しているの。 」

「 あは。 ごめんごめん。 あんまり一緒に食事とかできないから・・・ 」

「 そうよね・・・仕方ないわよね。

 ねえ、ジョ−。 あなたも子供の頃、好き嫌いをした? 苦手なものってあった? 」

ジョ−はなんでもよく食べる。 特にフランソワ−ズの作った料理はいつも残したことがない。

「 ジョ−もピ−マンやキャベツが苦手だった? 」

「 ・・・・・・・ 」

ジョ−はだまってティ−・カップを置いた。

「 ぼくは・・・ 好き嫌い言っても誰もとりあってくれなかったから・・・

 それに残したら・・・他に食べるものはなかったろ、だから何でも食べたよ。 」

「 ・・・・あ ・・・・ そ、そうね・・・ ごめんなさい。 」

「 なんだよ、きみが謝ることないだろ? 」

「 ・・・ でも ・・・ 」

「 ぼくはそんな特殊な環境にいたからね。 好き嫌いはなかったけど・・・

 今の子供達はなあ・・・ でも、そのうちにね、 」

ジョ−はなんだか懐かしそうに笑った。

「 も〜一年中腹が減って腹が減ってしょうもない時期になるのさ。

 食べても食べても腹減った〜〜ってね。 そんな頃には好き嫌いなんて消えているよ。 」

「 そう? そんなものなの、男の子って・・・・ 」

「 そうじゃった、そうじゃった。 はるか昔のことだが、このワシにもそんな時代があったぞ。 」

ギルモア博士までが懐かしそうに頷いている。

「 そうですよね。 フラン、きみのお兄さんだって ・・・ そうだったんじゃないかな。

 学校から帰ってきてやたらと食べていた頃があったと思うよ。 」

「 え・・・・ う〜ん ・・・どうだったかしら・・・ 」

フランソワ−ズは兄・ジャンとは少し歳が離れているのであまり鮮明な記憶はなかった。

しかし。  ・・・ お兄ちゃん、すごい・・・

幼い日、バゲットにハムとチ−ズを挟み豪快に齧り付いている兄を目を丸くして眺めていた

記憶はあった。

「 う〜ん ・・・ そういえば・・・ 」

すぐに自分のスカ−トにへばりついてくるあのちっちゃなすばるも そんな<男の子>に

なるのだろうか。 フランソワ−ズはなにかとても不思議な気持ちだった。

「 そう・・・ ねえ・・・。  でもどうしてこんなに違うのかしらね、あの子たち。

 一緒に生まれてきた双子、同じわたし達の子供なのに・・・・ 」

元気ものではきはきとお話ができ、お日様の匂いがする 姉娘のすぴか。

生まれる前から <一緒> な弟のすばるはおっとりと気持ちの優しい 男の子。

フランソワ−ズは我が子たちが 不思議に思える。

 

「 フランソワ−ズ。 それは違うぞ。 」

「 え・・・?? 」

手にしていたパイプを磨いていた博士が ぽつりと行った。

「 あの子達は <同じ> ではないよ。  すぴかとすばるは別々のニンゲンじゃぞ。 」

「 あ・・・・ 」

「 たまたま時を同じゅうして誕生したがの、すぴかはすぴか。 すばるはすばる、

 別々の心をもった別々の人間なんだ。 だから 違っていて当たり前なんじゃよ。 」

「 ああ・・・ そうですねえ。 なんでもかんでも<双子>って

 一括りに考えては ・・・ 変な言い方ですけど・・・ アイツらに失礼ですね。 」

ジョ−がうんうん、と大きく頭を振っている。

「 ・・・ そう・・・か。 そうよね・・・違っていて当たり前・・・なのね。 」

「 まあ、フランソワ−ズ、 そう思い詰めることはないよ。

 野菜嫌い・・・と言ってもまるきり受け付けないわけでもあるまい。 

 成長すれば好みも変わるじゃろうよ。 」

「 ええ・・・ 気長に付き合ってゆきますわ。 」

 

   別々のニンゲン ・・・ そうか、そうなのよね。

   あの子達は 別々で それでわたしとも 別の人間なの・・・よねえ・・・

 

ついこの前。

自分自身の下腹からすべり出てきた 子供達。

あの二人がお腹の中で小さな手脚を突っ張ったり蹴飛ばしたりしていた感覚を

フランソワ−ズは今でも ちゃんと覚えている。

いつまでも 自分の分身 ・・・ 自然にそんな風に思っていたのかもしれない。

 

   そっか・・・。  あの子達は わたしの一部 じゃないのよね。

 

外見は自分とよく似た娘も ジョ−の小型版みたいな息子も。

いずれは別々の人生を歩んでゆく 別々のニンゲンなのだ。

・・・ 殊に自分達は特殊な事情を抱えている。 一緒に暮らせる時間 ( とき ) は限られている。

<その日> は。

まだまだ先だけれど、でもはるか未来ではない。

 

でも。 ええ、それだから余計に! 心はいつだって繋がっているはず・・・

フランソワ−ズは二つの寝顔を思い浮かべ、すぐにでも抱き締めたい想いがこみ上げてきていた。

 

   すばる・・・・! すぴか・・・!

   

もう子供部屋でぐっすりと眠っている二人がたまらなく愛しかった。

ひらり・・・ はらり・・・

ほんの少し開けてあったテラスへのドアから 散り遅れた花びらが舞い込んできた。

入園式の日、 咲き誇っていた桜はすでに若い葉を青々と茂らせている。

穏やかな春の日が やさしい時間 ( とき ) がゆるゆると流れていった。

 

 

 

「 ・・・ あらら・・・ どこから拾ってきたのかしら・・・ 」

こちん ・・・ かちん ・・・ ぱらぱら・・・・

すぴかのスモックのポケットから なにやら小さなものがぱらぱらと零れ落ちた。

「 なにこれ?  石・・・かしら。 あら〜これってミニカ−じゃない?

 すばるのでもないわねえ・・・ 」

フランソワ−ズは洗濯モノの山の前で溜息をついた。

「 明日 園で聞いてみなくちゃ・・・ またどこかのボクに貰ったのかなあ。 」

ぱさ・・・

やれやれ・・・と今度は息子のスモックを振るった。

「 ・・・? このハンカチ・・・すばるのじゃないわね? ピンクだし・・・

 すぴかのでもないし・・・ 」

すばるのスモックのぽっけには どこかのお嬢ちゃんのハンカチが入っていた。

小さなピンクのそれはすぴかも好きなネコのキャラクラタ−模様なのだが・・・

「 ・・・ きむら あい ちゃん、か。 でも そんなコ、すばるの組にいたかしらねえ? 」

すみっこに書いてある名前は馴染みのないものだった。

 

入園式から1ヶ月ほど、子供達もそして母も新しい生活にすっかり慣れた。

五月晴れの上天気が続き、皆元気に外で遊びまわっているらしい。

園で着るスモックも盛大に汚してくることが多くなった。

・・・ もっとも大抵はすぴかで すばるのスモックは手を拭いた跡が残っている程度なのだが・・・

フランソワ−ズは小さな洗濯モノを沢山乾すのが日課になっていた。

「 う〜ん・・・っと。 コレでおしまいかな。 このお天気ならあっという間にパリっと乾くわね。

 そうだわ、ジョ−の上着も。 もうそろそろ裏ナシのを出しておかなくちゃ。 

 ふんふんふん〜〜♪ お迎えタイムjまで・・・ あら、カフェ・オ・レでも飲めるわ〜 」

多忙な主婦はご機嫌で庭を突っ切っていった。

 

「 ・・・ あら。 これ・・・ 」

ジョ−の初夏用の上着を出し、冬からずっと着ていたス−ツを一まとめにし・・・

さて、クリ−ニングに出そうとポケットを検めていたのだが。

一着の上着のポケットから ハンカチが出てきた。

ふわ・・・っと微かに甘い香りがして、セミの羽みたいな薄モノにはイニシャルの縫い取りがある。

「 ・・・ M ・・・って。 だれ。 」

フランソワ−ズは目の前にかざし、思わず声に出してしまった。

 

  ・・・ まったく・・・! ええ、ええ、わかっているわ。

  どうせ どこかの誰かが こっそり勝手に突っ込んだ・・・のでしょう?

 

結婚してからも、ジョ−の周りにはなぜか、女性が寄ってくるようだった。

もちろん、彼は全然気にもとめず意識もしていないのだが 相手の方が放っておかない・・・らしい。

バレンタインやクリスマス、はてはバ−スディにはいまだにプレゼントの山なのだ。

もっとも子供達が生まれてから、ジョ−はどこにでもチビ達の写真を持ち歩き、

編集部のデスクにもかざり果てはPCの壁紙にまで採用しているので周囲は引き気味ではある。

しかし ・・・

 

ふん・・・ もう慣れっこよ。 ご苦労様ね〜

ぽい、と彼女はそのハンカチを洗濯カゴに放り込んだ。

ええ! 問題は。 こっちのちっちゃなハンカチの方だわね〜〜

 

 

「 みにかー? アタシのじゃないよ。 」

「 ええ、それはわかってるわ。 あなたのスモックのぽっけに入っていたのよ。

 誰かから貰ったの? 」

「 ・・・ う〜〜ん ・・・ あ。 タカシくんかなあ。 まさとクンかも・・・ やっちゃんかなあ・・・ 」

お家に帰ってから母の問いに すぴかは真剣な顔で考えこんでいる。

「 思い出して。 明日、お返ししなくちゃ。 

「 う〜ん あげる〜って言ってたよ。 」

「 だから、誰が。 」

「 ・・・え〜と・・・う〜〜ん??? 」

「 それに、すばる? このハンカチ。 きむら あい ちゃんってだあれ。 お隣の組の子? 」

「 ・・・ しらない。 」

「 だってすぱるのぽっけに入っていたのよ〜 これも貰ったの? 」

「 うん。 おおきなお姉さんから。 」

「 お姉さん?? 」

「 かわいい〜って。 お水、飲んでいたらくれたの。 」

「 ??? 可愛い?? ・・・・ あら? ジョ−・・・・? 」

「 あ〜〜 お父さ〜〜ん! 」

「 お父さん〜〜!! 」

リビングの戸口に現れた父親に 子供達は歓声をあげて飛びついた。

「 まあ、お帰りなさい。 ごめんなさい、ちっとも気が付かなかったわ。 」

「 やあ ただいま〜〜 わ・・・ すぴか〜〜ほら、 高いぞ〜〜 」

「 きゃ〜〜〜♪ きゃ〜〜〜♪ 」

「 お父さん、お父さ〜ん 僕も 僕も〜〜 」

「 よし。 泣くなよ? すばる。 」

「 ・・・う・・・ うん!  僕 泣かない。 」

「 よおし。 すぴか、ちょっとしっかりつかまってろよ。 」

「 うん! 」

すぴかは肩車になってジョ−の頭にくっついている。

「 よし・・・ じゃあ、すばるも ほうら・・・高い高い〜〜 」

「 わ ・・・・ う ・・・っく。 」

珍しくすばるもジョ−に持ち上げてもらい、泣き笑いみたいな顔になっていた。

「 ジョ−。 どうしたの、随分早いのね。 」

「 うん。 先週も休みナシだったから。 たまには家庭サ−ビスしろよ〜って編集長が。 」

「 まあ、そうなの。 よかったわねえ・・・ 」

「 うん! おい、すばる? 大丈夫か。 」

「 う ・・・ 降りる。 降ろして〜〜〜 お父さん・・・ 」

「 よし。 泣かなかったな、偉いぞ。 」

「 ・・・えへへへへ・・・・ 」

父親に頭を撫でてもらい、すばるはご満悦である。

「 よ〜し。 すぴかも降ろすぞ。 ほ〜ら・・・ 」

「 きゃ〜〜〜♪♪ 」

ぽん・・・っと父の肩の上から着地させてもらいすぴかは大喜びだ。

「 すばる〜 ねえ、明日。 これ、 きむら あい ちゃんにお返ししてね。」

「 へえ? 女の子からハンカチもらったのか〜 凄いぞ〜すばる。 」

「 えへへへ・・・ 」

 

   あ〜〜もう! このコは間違いなく!ジョ−の息子だわねえ! 

   ヘンなところ、似ないでほしいわ・・・!

 

意味もわからず ( 多分 ・・・ ) にこにこしている息子にフランソワ−ズは少々カチン、と来ていた。

「 ジョ−。 ・・・ これ。 背広のポケットに仕舞ってありましたけど。

 どなたの? お返ししたほうがいいのじゃなくって。 」

「 え? ・・・・ これ? このハンカチが?」

「 そうです。 ジョ−のお気に入りの細い濃紺のストライプの上着に入ってました。 はい。 」

「 ・・・・? 」

目の前に出されたハンカチに ジョ−は首を捻っている。

「 これ ・・・ 覚えがないなあ? きみのじゃないのかい。 」

「 違います。 ・・・ どなたかがこっそり入れたのかしら? 」

「 まさか・・・ 」

「 ・・・ええ、そうよね。 二人も子供がいるのに。 こんなに可愛い子供達がいるのに・・・

 ジョ−、あなたってヒトは! まだこんな ・・・ ハンカチをくれるヒトがいるの? 

 いつも綺麗な女のヒト達に囲まれているから みんな若くてオシャレで・・・ 

 こんなお化粧もロクにしてない子持ちのオバサンなんか おかしくて相手にできないでしょうね・・・・! 」

「 おいおい フランソワ−ズ。  何を言ってるんだ? バカなこと、言うんじゃないよ。 」

「 だって。 だって ジョ−が・・・! 」

 

「 う ・・・ うっく ・・・  」

「 アタシ・・・ くすん ・・・ 」

 

「 すばる? 」

「 ・・・ すぴか? 」

突然 足元から泣き声の二重唱が沸き上がって来た。

「 アタシ・・・ みにかーね、まさと君にもらったの。あしたかえすね。ごめんなさい 〜 」

「 ・・・・  ご、ごめんなさい  ハンカチ〜〜 ハンカチ・・・ 」

 すばるは言葉が続かずいきなり泣き出してしまった。 すぴかのお目々も洪水寸前である。 

「 あらあら どうしたの、二人とも?

「  あれ〜泣くなんて可笑しいなあ。 なあお母さん?

「  そうよ、 ハンカチもミニカーも あげる〜って言われたのでしょう? 明日 お返しすればいいのよ。 」

フランソワ−ズは姉弟が自分に叱られた・・・と泣いているのだと思ったのだ。

「 ・・・  だって。 だって〜 お父さんのぽっけのハンカチ、 お母さん 怒ってるもん・・・ 」

 ・・・・ ぽろぽろぽろり 

ついにすぴかの碧い瞳から涙が溢れだした。

「 あ・・・  」

「 ・・・ や ・・・ まずかったなあ・・・ 」

 ジョーとフランソワ―ズは思わず顔を見合わせた。  セピアの碧の目は無言の会話を交わした。

 

   わかるんだな ・・・ ぼく達が言っているコト・・・

 

   そうね、もう赤ちゃんじゃないのよね ・・・

 

「 怒ってないわよ、ほら。 お母さん、笑っているでしょう? 

フランソワ−ズは屈みこんで娘と息子を抱き寄せる。

「 そうだよ。 お父さんが間違えて持ってきちゃったのがいけないんだ。

 ダメだね、お父さんは・・・ 」

「 あら・・・ そんなことないわ。 すぴかやすばるのお父さんは世界でいちば〜〜ん素敵よ♪ 」

「 ・・・ や ・・・ そうかな〜〜  お母さんこそ。 世界一だよ。 」

 

  ( ・・・ごめん。 )

  ( わたしこそ・・・・ごめんなさい。  ねえ、喧嘩は・・・ やめましょう )

  ( うん、やめよう。 特に子供達の前では・・・ )

  ( ええ、ええ。 うふふ・・・ 二人っきりの時に ・・・ ね♪ )

  ( ・・・ おいおい ・・・? )

 

ちょびっとズルをしてお父さんとお母さんは内緒の通信をしていた。

 

 

「 ・・・ ふふふ ・・・ もう寝ちゃったわ。 」

「 ん・・・? ああ ほんとうだ。  ははは・・・すぴか、すごい寝相だなあ。 」

両親の間に挟まって 二人ともつい今まではしゃいでいたのだが・・・

いつの間にか大人しくなり、もう寝息を立てていた。

晩御飯のあと、島村さんち の4人はぎゅうぎゅうソファに詰まってバナナを食べた。

 

「 あらら・・・ もう・・・このコは・・・ 」

「 いいさ、いいさ。 これがすぴかなんだもの。 」

「 すばるは・・・ やだわ・・・わたしのスカ−トを握りしめている。 

 これも・・・ これがすばるなのね。 」

「 そうだね〜。  なあ、たっくさんたっくさん ・・・ 愛してるよ〜〜。 」

「 ええ、ええ。 わたし達を選んでくれた・・・わたし達の天使ですもの。 」

フランソワ−ズはちっちゃなほっぺにキスをした。

「 ぼくに ・・・ 愛することを教えてくれた天使たち・・・

 でもな〜〜 やっぱり ぼくが一番好きなのは♪ 」

「 まあ! ジョ−ったら。 このコたちより好きなものがあるの?? 」

「 勿論。 この天使達をぼくの腕の中に届けてくれた、ぼくの女神サマ。

 ・・・・ きみ、さ。 フランソワ−ズ、きみが一番大事なんだ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・・ 」

「 さあ♪ 天使達はお休みの時間だし。

 これからは ヨコシマな欲望いっぱ〜〜いな・ニンゲンたちの時間だぞ〜 」

「 ・・・・ ん ・・・・ もう ・・・ や ・・・・  

 

娘はお転婆ではねっかえり。 息子はお野菜が苦手の引っ込み思案。

明日もいろんなことがあるだろう。

泣いたり・笑ったり。  そして 怒ったり・しょげてみたり。

でも。 そんな当たり前の日々のなんと素敵なことか・・・

 

ジョ−とフランソワ−ズは この愛しい日々を精一杯大切に生きたい・・・!と思った。

 

 

 

************    Fin.   *************

 

Last updated : 04,22,2008.                     back        /       index

 

 

******  ひと言  ******

やっと終りました・・・! いやあ・・・ 双子ちゃんのパワ−に引き摺られたです(#^.^#)

すばる君は将来 お嫁さんになる女性と運命的な出会い?をしましたが、

すぴかちゃんも!! 劇的な?出会いをしていたのでした(>_<)

お子ちゃま達の可愛いエピソ−ドを沢山教えて下さった めぼうき様〜〜♪♪

いつもいつもありがとうございます〜〜 <(_ _)>

皆様  のほほ・・・んとした一時、お楽しみ頂けましたら幸いでございます。