『 されど愛しき日々   − ( 1 ) −  』

 

 

 

*****  はじめに  *****

この物語は【 Eve Green 】様方の <島村さんち> の設定を

拝借しております。 ジョ−とフランソワ−ズの双子の子供達が

幼稚園に上がる歳の頃のこと・・・

 

 

 

 

ふんふんふん〜〜♪♪

陽気な鼻歌が自然に零れてくる。 

とんとんとん〜〜♪♪

足音もひとりでに軽やかにステップを踏んでいる。

う〜〜ん・・・! とお日様に向かって伸びをすれば いっぱいの笑みがもう溢れそうだ。

 

  ・・・ふふふ〜〜♪ 楽勝よ、楽勝〜〜〜

  準備はばっちり♪ あとは説明会だけね。

 

島村さんちの奥さんは 一人でにんまり・・・ 会心の笑みを浮かべた。

そう・・・! もうすぐ。 あとちょっとで!

自由な日々が戻ってくる・・・!

そりゃ 初めはほんの数時間だけど。 で・も♪ 一人っきりでいられるなんて・・・もう最高!

いっつもスカ−トの両側にくっついている4本の手から ちょっとだけ解放されるのだ・・・!

 

  そりゃね。 あの子たちはわたしのタカタモノよ。 わたしの天使たち・・・

  ・・・ でもね。 <お母さん>業にだって休日があってもいいと思うわ。

 

ふんふんふ〜〜ん♪♪

鼻歌が一段と高いト−ンになった。

そうなのだ。 この春 ・・・ 島村さんちの双子は幼稚園に通い始めるのである。

 

 

この春。

フランソワ−ズは二つの<新しい挑戦>をした。

一つ目は自転車。

地元の自転車屋さんから中古のママチャリを安く譲ってもらった。

 

「 どうかの? 乗り心地は・・・・ 」

「 わ〜〜 自転車なんて・・・ 久し振りです〜〜  きゃい♪ 」

フランソワ−ズは亜麻色の髪を風に靡かせ 博士の前を勢いよく通りすぎた。

ペダルを踏む足も軽く、ハンドル捌きも上々である。

「 なにか〜〜 不具合はないかね〜〜〜 ! バランスとか??  」

「 え??? いいえェ〜〜 すごく気持ちイイです〜〜〜 」

銀色に輝く自転車は あっと言う間に庭のはずれまで行ってしまった。

 

「 おチビさん達を乗せるんじゃろう? ・・・ ちょっとワシに任せなさい。 」

「 え・・・ でも、あの。 <普通の>自転車ですから・・・ 子供達を送り迎えするだけの・・・ 」

双子達が通う予定の幼稚園には所謂 <園バス> はなかった。

それに、この辺鄙な場所からの毎日の送り迎えには自転車は不可欠だった。

「 だから、じゃ。 ワシが絶対安全装置を装着しておこう。 」

「 ・・・ あの ・・・・ 」

フランソワ−ズが引いてきた中古の自転車を見て、博士は眉を上げた。

「 お前、チビさん達を前後に乗せるつもりじゃろう? それならば少々細工をしておかねばの。 」

「 はあ・・・ 」

「 なに、別に<空飛ぶ自転車> や <戦闘用自転車> にするわけじゃないから。

 万一 お前がハンドルを切り損ねても絶対に倒れない<仕掛け>にしておくよ。 」

「 ああ、そうですね! ありがとうございます。 」

フランソワ−ズは博士の おじいちゃまの心配 に笑みを浮かべ頷いたが・・・

 

   それは・・・ そうね、 安全第一。 

   でも、ね。 わたしのバランス感覚を見縊らないでくださいね、博士。

 

「 ・・・ ほれ、これで完成。 」

「 まあ、もうできたのですか。 」 

ほんの数分、博士はドライバ−とペンチを操っていたがじきに身を起こした。

自転車は ― どこにも変わったところは見あたらない。

「 あの・・・? 」

「 ははは・・・ どこをいじったかわからんじゃろう? それでいいんじゃよ。

 いざという時には ちゃんとチビさん達とお前を守ってくれるからの。 」

「 はい。 ありがとうございます。 」

 

「 お母さ〜〜〜ん! ただいま〜〜〜 」

「 お母さん、どこ。 お母さ〜ん ・・・? 」

門の方から賑やかな声が響いてきた。

ジョ−と一緒に近所のス−パ−まで出かけた姉弟は 相変わらず元気いっぱいだ。

「 ただいま〜〜 フランソワ−ズ? 」

「 はぁい !  こっちよ、お庭の方。 お祖父ちゃまと一緒。 」

ぱたぱたぱた・・・・・ たたたたた・・・・・

小さな足音が ぐるりと庭先に回ってきた。

「 ただいま! お母さん〜〜 」

「 お母さ〜〜〜ん! 

双子達は小さな手を懸命に伸ばして ぴたり、とフランソワ−ズの脚にへばりついた。

「 あらら・・・ 二人とも。  あ、 そうだわ、ちょうどいいわ。 ねえ・・・ ちょっと。 」

フランソワ−ズは二人の頬にキスをして、よいしょ、とまずすぴかを抱き上げた。

「 きゃ〜〜♪ 高い高いして〜〜 お母さん。 

「 え・・・ それはお父さんにお願いしてね。 えっと・・・ あなたが前かな〜 」

大喜びで足をばたつかせている娘を フランソワ−ズはまず自転車の前に乗せた。

「 ・・・ お母さん〜〜 お母さ〜〜ん 僕も〜僕も〜〜 」

「 はいはい。 じゃ、すばるは後ろね。 お母さんの背中によ〜〜くくっついているのよ。 」

「 ? ・・・ わ・・・ う、 うん・・・ 」

「 おお、おかえり。 そうじゃそうじゃ。 試運転をしてみたらよかろう。 」

「 はい、ちょうどいいですわよね。 」

フランソワ−ズは前後に子供達をのせ 颯爽と自転車に跨った。

前後の <荷物> はなかなか重く少々運転し難いのだが・・・

そこは並の女性とは筋力も反射神経もちがう。

 

   ・・・・ サイボ−グでよかった・・・!  初めて・・・感謝しちゃう♪

 

サイボ−グ003は 軽々とペダルを漕いでゆく。

ギルモア邸の裏庭はかなり広く外れは地元の雑木林に繋がっている。

ぐるり・・・一周するだけでも結構距離があるのだ。

「 ただいま〜〜 買い物、冷蔵庫に入れておいたよ。  あれ? 」

ジョ−がのんびりテラスから現れた。

「 あ、ほら〜 お父さんよ〜 お父さ〜んって お手々振ってごらん? 」

「 きゃ〜〜〜い お父さ〜〜〜ん!! やっほ〜〜 」

前座席から大きく乗り出し両手を振り回してすぴかはご機嫌である。

「 ほら? すばる? お父さ〜〜んって? 」

「 ・・・ やだッ! 」

きゅ・・・ フランソワ−ズのスカ−トをちっちゃな手がしっかりと握り締め

背中にはすばるの身体がぴたりと張り付いた。

「 あらら・・ どうしたの?  」

「 ・・・ 揺れるんだもん・・・・ こ、怖い・・・ こわい〜〜 」

「 大丈夫よ、すばる。 お母さん、ちゃんと運転してるから。 ほらお父さ〜んって? 」

フランソワ−ズはかなりスピ−ドを出したまま、後ろの息子を振り返った。

その瞬間  

「 わ〜〜 アタシ、立てるよ〜〜 」

すぴかが前座席で無理矢理立ち上がった・・・!

「 あ・・・! だめよ、すぴかったら! ・・・ きゃ〜ッ 」

「 危ないッ !!! 」

 

がくん・・・っとハンドルを取られ バランスが崩れる。

前後の <荷物> 達が勝手に動くのでフランソワ−ズはハンドル操作を捕られてしまったのだ。

・・・ 倒れるッ ・・・! と思った瞬間、 目の端でジョ−が消えるのが見え・・・

 

「 ・・・ あら? 

「 あれ? 」

 

次の瞬間、 自転車はなにごともなくゆっくと止まり・・・

側には少し焼け焦げた匂いを纏ったジョ−が 目をぱちくりして立っていた。

 

「 ・・・ ジョ−・・・ 加速して支えてくれた・・・の? 」

「 いや。 加速はしたけど。 ぼくが手を出す前に自転車は勝手にバランスを戻して止まった・・・よ? 」

「 お父さ〜ん  見て見て〜〜 アタシ、 立てるんだよ〜〜 」

「 ・・・う ・・・ お父さん・・・・ お父さ〜〜ん ・・・ 降ろして〜〜 」

 

「 ほっほ。 なかなか上々の出来じゃったな。 」

「「 博士・・・?? 」」

なんだか判らずに顔を見合わせている若夫婦のもとに ギルモア博士が満足顔で加わった。

「 自動自転車停止装置 ・・・ ABS はばっちり作動したようじゃな。 」

「 ABS 〜〜 ??? 」

「 Automatic Bicycle Stop System じゃ。 ほれ、電車なんぞにくっついておるじゃろ。

 アレをちょいと改良してみたのじゃ。 」

「 じゃあ、さっきちょちょい・・・ってくっつけて下さった装置が? 」

「 さよう。 どんなにバランスを崩してもセンサ−が働いて安全地帯にもどす。

 なにごともなかったじゃろう? 」

「 え・・・ ええ。 もう完全にひっくり返ったと思いましたもの。 」

「 よしよし。 ワシもこれで安心してお母さんとちびさん達を送りだせるわい。 」

「 博士、ありがとうございます。 」

ジョ−は律儀に博士に頭をさげ・・・ 自転車の前後に乗った子供達に向き直った。

「 すぴか。 そこで立ち上がったら絶対にダメだ。 

 お母さんがバランスを崩して、自転車が倒れ・・・そこに車が来たら大変だよ?

 いいね、立たないこと。 お父さんと約束だ。 」

「 う ・・・ うん。  あ♪ ゆ〜びきりげんまんッ! 〜〜針せんぼんの〜ます♪ 」

す・・・っと差し出されて父親の小指に ちいさな指を絡ませてすぴかはご機嫌である。

「 ・・・ お父さ〜ん ・・・ お母さ〜〜ん・・・・ 降ろしてェ〜〜 」

「 あらら・・・ ごめんね、すばる。 ほら・・・ 」

半分ベソをかいている息子を フランソワ−ズは慌てて自転車から抱き下ろした。

「 はい。  ・・・あら? も〜〜 甘えん坊なんだから・・・・ 」

すばるはそのまま母の胸にかじりついている。

「 ・・・・ すばる。 」

「 なに、お父さん ? 」

すばるは母にくっついたまま、もうにこにこ顔で父親を見ている。

 

  ・・・ あ! おい〜〜 ソコはぼくの <専用> なんだぞ!

  いかに息子とはいえ・・・ う〜〜ん コイツはぼくの永遠のライバルかも・・・

 

フランソワ−ズの胸にぴたり、と取り付いている小さな息子を

ジョ−は実に実に複雑な心境でじ〜〜〜っと見つめていた。

「 ねえ? 今度は前に乗ってみない? 風がひゅるるん〜〜っていい気持ちよ? 」

「 ・・・ やだ。 お母さんの後ろがいい。 」

「 じゃあな、 代わりばんこにしなさい。 朝、すぴかが前なら帰りはすばるが前、だ。 」

「 え〜〜〜 アタシ〜〜 ずっと前がいい〜〜 !」

「 僕 ・・・ お母さんと一緒がいい。 」

「 だめだ。 替わりばんこ。 いいね。 」

「「 は〜い 」」

「 さあ、皆。 お手々を洗ってきて? オヤツにしましょう。 

 博士、グレ−トが送ってくれたお茶を淹れますわ。 

「 ほう、それは嬉しいな。 どれ、ワシも・・・ おお、そうじゃ。

 チビさん達〜〜 おじいちゃんと一緒にお手々を洗いにゆこう? 」

「 わ〜い お祖父ちゃまと〜〜♪

 ねえ、ねえ、お祖父ちゃま? またお手々でぴゅ・・・ってお水飛ばして? 」

「 あ〜〜 僕も見たい〜〜〜 」

「 ほい、それじゃお風呂場へ れっつ・ご〜 じゃ。 」

「 わ〜〜い れっつご〜〜!! 」

「 れっつご〜〜♪ 」

双子達は博士の手を引いて にぎやかにバスル−ムへ行った。

 

「 ああ・・・ やれやれ。 ほっとしたわ。 」

「 それはぼくのセリフだ。 本当に ・・・あのまま引っくり返ったら、と思うとぞっとするよ・・・・ 」

「 まさかすぴかが立ち上がるなんて思わなかったもの。

 すばるは背中にへばりついてわたし、身動きが取れなかったのよ〜〜 」

「 ふむ・・・。  まあ・・・ 博士の何とかいう装置があるから・・・ 」

「 ABS。 」

「 そうそれさ。 でも気をつけて乗ってくれよ? いつも加速装置で駆けつけるわけには

 行かないんだからな。 」

「 ・・・ そうそういつも服を燃やされちゃ、こちらもたまらないわ。

 ねえ? お茶の前にシャワ−使ってきたら? ・・・焦げ臭いわよ。 

「 そ・・・そうかな。 」

「 すぴかがお目々をまん丸にしてあなたのこと、見てたわ。 あの子・・・すごく敏感だから

 あんまりあの子の前で加速とか・・・ しないでね。 」

「 了解。 なあ? すばるってあんなに泣き虫だっけか。 

「 え?  う〜ん・・・ あの子はおっとりしているのね。 気持ちが優しいのよ。

 お家でご本を読んだりする方が好きみたい。 

「 ふうん ・・・ それできみの胸にすりすりするわけなんだ?  ( 気持ちよさそうな顔してさ! ) 」

「 すりすりってなにが。 」

「 いや・・・ なんでもない。 さあ、ぼく達も手を洗ってお茶だ♪ 」

「 はいはい。 ふふふ〜〜 でもこれで送り迎えはばっちりだわ。 

 この自転車なら安心だし。 子供達をつれてお買い物にもゆけるわね。 嬉しいわ〜 」

「 じゃあ、コレは・・・  とりあえず玄関の横に止めておくから。 

 そうだ。 ・・・ すばるのヤツさ。 もうちょっと鍛えたほうがいいかもな〜 」

「 大丈夫よ。 男のコって女の子よりも甘えん坊で赤ちゃんなのよ。 

 そのうち 放っておいても、 自分でがんがん自転車乗り回すようになるわ。 」

「 そう願いたいよ。 きみ・・・あんまり甘やかすなよ? 」

「 はいはい、わかってます。  ジョ−はすばるに厳しいのね。 」

「 そりゃ・・・ アイツは長男だもの、しっかりしてもらわなくちゃ。 」

「 へええ? そういう風に考えるの? 面白いわねえ、日本の人たちって。 」

「 そうかなあ。  ま、今は美味しいお茶タイムを頼むよ。 」

「 ああ、そうだったわね。  ・・・それじゃ あとお願い〜〜 」

「 うん・・・ 」

 

ぱたぱたぱた・・・ 軽い足取りでフランソワ−ズはテラスから家に上がっていった。

汗ばんだ身体にブラウスが纏わり付き、身体のラインがばっちり浮きでてみえる。

ジョ−は彼の細君の後ろ姿をじっくりと眺め楽しんでいた。

 

   ・・・ 相変わらず・・・ 魅惑的な身体だよ・・・!

   ふふふ・・・ ぼくだけのモノだからな。 

   ・・・そうさ、たとえ息子にだって! きみの胸に気軽に触れて欲しくない!

 

ジョ−は一人で息巻き、からからと自転車を引いていった。

ともかく 島村さんちの奥さんの一個目の<挑戦 >は結果上々であった。

 

 

 

 

<挑戦> の二つ目は お弁当づくり。

子供達が通う幼稚園は小規模なので給食設備はない。 お昼には皆が <お母さんのお弁当> を広げる。

「 お弁当、ねえ・・・。 ランチ・ボックスのことよね。 

 ええ、任せて! ちっちゃいころママンが作ってくれたランチ・・・あんなのを作ればいいのよね。 」

そう・・・ 昔。 当たり前の楽しい日々がず〜っと一生続く・・・と信じていたころ。

母は毎朝手早く でも とびきり美味しいサンドイッチやらサラダを作り持たせてくれた。

そうよね。 あれを思い出して・・・ 

あのコたちが食べる量なんてたかが知れてるし。 朝御飯のついでにちょちょ・・・っとね。

 

これも島村さんちの奥さんには 楽勝コ−スだったようだ。

 

初めは子供達の小さなお弁当 ・・・ と思っていたのだが。

「 ねえ、ジョ−♪ ちょっと見て? これ・・・ 」

「 うん? なんだい。  ・・・ ままごと用の食器・・・? 」

「 いやぁだ。 これ、子供達のお弁当箱なの。 」

「 弁当ばこ? 」

「 そうよ。 あの幼稚園は皆 お弁当 なの。 これから・・・毎朝つくらなくちゃ 」

「 毎朝? 大変だねえ。 」

「 あら、どうして? 子供の食べる分なんてたいしたコトじゃないわ。

 さささ・・・っとサンドイッチでも作っちゃう♪ ほら・・・可愛いでしょう?

 お揃いでお弁当・ナプキンやスプ−ンも買ってきたの。 」

「 へえ・・・ 色違いで可愛いなあ。 そうか・・・ お弁当、かあ・・・・ 」

「 ね♪ いいでしょう。 きっと二人とも喜んで食べてくれると思うわ。 」

フランソワ−ズはにこにことお弁当箱やナプキンを眺めている。

「 ・・・あの、さ。 二つ作るのもみっつも ・・・ そんなに手間・・・かな? 」

「 え? みっつ・・・? 」

「 うん ・・・ そのゥ・・・・ もしよかったら・・・ ぼくもさ。 持って行きたいな〜って。 」

「 ??? なにを? 」

「 そうゥ ・・・ だから、さ。 三つ目。 」

「 三つ目 ??? 」

「 ・・・ ( う〜〜ん 鈍いなあ! ) ぼくもきみの手作弁当が食べたいんだ!

 もう、さ。 ず〜〜っとチビの頃からの憧れだったんだ!  」

「 ・・・ まあ そうなの。 それじゃ・・・ ジョ−の御弁当箱も買って来なくちゃ、 」

「 へへへ・・・ 嬉しいなあ。 楽しみだなあ ♪ 」

最近なにかともったいぶった様子の父親が 実は一番嬉しかったのかもしれない。

「 どうぞ お楽しみに。 」

「 あ。 ・・・ 御飯がいいな。 」

「 ・・・ え?? 」

「 お弁当さ。 御飯がいいなあ。 あ、勿論たまにはサンドイッチもいいけど。

 ぼくのは出来れば 御飯にオカズ・・・ってのがいい。 」

「 ・・・・ わかったわ。 」

 

   あなたの <出来れば〜> って <そうしてくれ>ってことなのよね。

   ・・・ まあ、いいわ。 前の晩のおかず、ちょっと多めに作ってその残りを入れればいいし。 

   あとは・・・ なんだっけ・・・そうそう、ウメボシとノリの準備ね。

 

「 う〜ん♪楽しみだな。 四月からぼくも一年生気分だよ。 」

「 まあまあ・・・ あら、それじゃ 毎朝ちゃんと 一人で! 起きてください、島村ジョ−君! 」

「 ・・・ えっと〜〜 それで説明会はいつだっけ? 」

「 はい・・・? ( もう! すぐにハナシをはぐらかすんだから・・・ ) 」

「 入園準備の説明会。 いろいろ・・・あるはずだよ。 持ち物とか準備するものとか。 」

「 そうなの? 幼稚園に置いてあるモノを代々使う、とかじゃないの? 」

「 いや・・・ そういうモノもあるけど。 バッグとか座布団とか・・・必要だよ、きっと。 」

「 座布団??? クッションのことでしょう??  ジョ−、詳しいのね。 」

「 う〜ん・・・ 子供の頃さ、神父様や寮母さんが一生懸命準備してくれたんだ。

 そんなこと、初めてだったから・・・ すごく嬉しくて。 こっそり取っておいりしたっけ。 」

「 ・・・ そうなの。 ふふふ・・・それじゃ ジョ−の分も作りましょうか?

 えっと・・・ バッグにざぶとん?  しまむら じょ− って名前を書いてさしあげてよ。 」

「 あはは・・・ あ! そうだそうだ。 名前、名前だよ〜〜 」

「 名前がどうかした? 」

「 うん。 持ち物にはね、ぜ〜〜〜んぶ。ハンカチやら靴にも!名前を書かないといけないはずだよ。 」

「 ああ、そうね。 失くさないように。 」

「 そうね・・・って、フラン!  大丈夫か? その・・・ 書ける? 」

「 あら! 失礼しちゃうわ、ジョ−。 わたし、子供達の名前くらいちゃんと書けますわよ。 」

「 そうかい。  ・・・ でも、ウチはなんでも二倍なんだぞ〜〜 」

「 ええ、そんなの、赤ちゃんの時から覚悟の上よ。 ・・・ でも手伝ってね? 」

「 ああ。 そりゃ ぼくも覚悟してるから。 ・・・ 頑張ろうな! 」

「 え? ええ・・・ 」

可笑しなジョ−。  しまむら すばる  しまむら すぴか って書くだけじゃない?

奥様は ちょっと時代がズレたフランス人 ― にっぽんの事情にはとんと疎かったのである。

ともかく。

お弁当作りについても 島村さんちの奥さんは自信満々だった。

・・・ 問題は <作る> ことだけじゃないということには全く気が回ってはいなかった。

 

 

こうして 島村さんちの双子が幼稚園に入園する日が近づいてきていた。

春にはまだ少し早いけれど、いっぱいのお日様にギルモア邸周辺では早春の花が咲き始め

人々はほっと一息いれる。

そして

まずは 新入園児の保護者説明会の日が やってきた。

 

 

こんにちは。 え・・・っと島村さん?  あら。 あのゥ・・・ 日本語、おわかりになります? 」

「 こんにちは!  島村すぴか と 島村すばる の母です。  はい、大丈夫ですよ。 」

「 ああ、よかった。 それじゃ ・・・ これを一式お持ちになってお席へどうぞ。 」

「 ありがとうございます。  」

( ・・・ え? これ ・・・ 全部? )

どさり、と渡された書類の厚さに フランソワ−ズは一瞬目を疑った。

 

   ? こんなに?  ああ、きっとダイレクト・メ−ルみたいなものが混じっているね。

   え〜と ・・・ ああ、ここが空いてるわ・・・

 

島村さんちのお母さんは端っこの席にしずかに腰をおろした。

やがて 園長先生がおでましとなり<説明会>が 始まった。

フランソワ−ズはすっと背を伸ばし、極上の笑みを浮かべ熱心に耳を傾けていた。

 

 

   ・・・ はい? 

 

フランソワ−ズは にっこり笑顔を貼り付けたまま・・・固まっていた。

目の前には 細々とした < お願い > やら < 注意事項 > がびっしり書かれたプリントの山、

白くてすんなり細い指が その上で小刻みに震えている。

目を上げれば依然として園長先生が熱弁をふるっているのだが。

 

・・・これって。この書類の字って。 ・・・ あれって。園長先生のお話って。

ぜ〜んぶ 日本語 のはずよね????

 

今日は大事なお話を聞き漏らしてはマズイと思ったので こっそりと自動翻訳機のスイッチをいれていた。

フランソワ−ズは日常生活では極力彼らの能力 ( ちから ) は使わない。

コトバの面では彼女はもうたいがいの日本語は理解できるし、TVのニュ−スもちゃんと聞き取れる。

日頃の生活で特に不自由に感じることもなくなっていた。

 

でも ・・・ でもでもでもでも〜〜

 

確かに日本語のはずなのだがさっぱり意味不明の言葉の総攻撃に003は孤軍奮戦し・・・

ギブアップ寸前になっていた。

 

ふりこみこうざ? ほしょうにん? いんかんしょうめい?  ・・・ なに、それ。

ぼうさいずきん? ・・・・ どうして おざぶとん が ぼうさいずきん なの??

きんちゃく型?  ・・・ どうしてお弁当を包むのが普通のナプキンじゃいけないの??

おどうぐいれのばっぐ? ・・・ どうして大きさまで決めるの??? 

制服のサイズ・・・ああ、そうね。 うわばき??? なあに、それ。 くれよんに名前??

・・・ほけん? 幼稚園に通うのにどうして子供が保険にはいるの???

 

   ・・・ ここ ・・・ 日本、よね? 地球上よね? なにがなんだか・・・???

   わたしの自動翻訳機、壊れたのかしら・・・!

 

「 フラン?  フランソワ−ズ・・・? 」

「 ・・・ え??? 」

ぽん・・・と肩に手を置かれ、フランソワ−ズははっと我に帰った。

ず〜〜っと書類を見つめていので 一瞬目の前がぼやけてしまったが馴染んだ香ですぐに判った。

顔をあげればセピアの瞳が 心配そうに彼女を見つめていた。

「 ・・・ ぼくだよ。 ほら、しっかりして? 」

「 ジョ−?? どうしたの?? あ・・・! いけない・・・ 先生方のお話の途中なのよ? 」

「 大丈夫だよ。 説明会はもう終ってる。 」

「 え・・・・ ?!  あ、あら。 誰も・・・・? 」

慌てて周りを見回せば 園児用の教室には人影はなかった。

「 わたし・・・ 夢中でコレ、読んでたから・・・ 」

「 ふふふ・・・ きみらしいなあ。 もしかして苦戦してるかな、と思って寄ってみたんだけど。

 大丈夫みたいだね、 入園準備。 」

「 ・・・・ 大丈夫 ・・・ じゃない・・・ 」

「 え? 

「 ・・・ 大丈夫じゃないの! 全然大丈夫じゃないわ。 どうしよう〜〜 ・・・ 」

「 なんだ、それでず〜っと? 」

「 ・・・ ジョ−。 わたし・・・ こんなじゃお母さん失格だわ・・・! 」

ぽろり。 ほろほろほろ・・・・

一粒落ちた涙が呼び水になり フランソワ−ズの涙は止まらなくなってしまった。

「 ・・・あれれれ・・・・ 泣かなくてもいいよ、なあ、フラン? 」

「 だって ・・・ だって・・・ 」

「 ちゃんと園長先生や係りの先生方の説明があったんだろう? 」

「 ・・・ ええ。 それにコレ・・・ 規則集やらなんとか申し込み書とかバッグのサイズとか。

 ねえ! どうしてクッションが <ずきん> になるの? ずきん ってなあに。 」

ばさり、と書類の山を フランソワ−ズはジョ−の前に押しやった。

「 え? ・・・ ああ、これはなあ。 銀行関係とかは難しいかもな。

 さ、とにかくウチに帰ろうよ。 それで一緒にゆっくり見てゆこう。 」

「 ・・・ええ・・・  わたし。 一人でばっちり出来ると思ってたのに。

 他のお母さん達・・・ みんなすらすら読んで・・・ おしゃべりなんかしていたわ。

 わたし ・・・ 自動翻訳機、使ってもわからないことばっかり・・・ 」

ほろり・・・ほろほろ・・・

またまた大粒の涙が碧い瞳から零れ始めた。

「 あ・・・ また・・・ほら、泣くなってば。 ウチに帰ってお茶でも飲もうよ?

 アイツらも待ってるぞ〜 」

「 ・・・・え・・・ あ! ジョ−! 子供達は?? 」

「 大丈夫、博士がちゃ〜んと見ていてくださるよ。 」

「 余計に心配だわ。 ううん、博士が、よ。 あのコ達の相手をしていたら・・・

 きっと博士はくたくたになってひっくり返ってしまうわ! 」

フランソワ−ズは 勢いよくたちあがった。

「 ジョ− ! 早く帰りましょ! 」

ちょっと心配そうにこちらをちらちら眺めていた園の先生にご挨拶をしてから大急ぎで帰宅した。

 

「 博士・・・! 大丈夫ですか〜〜! 」

ギルモア邸につくなり、フランソワ−ズは家に駆け込んでいった。

 

   ・・・ やれやれ。  まあ、でも機嫌が直ってよかったよ。

   やっぱりまだ細かい書類はわかんないよな。 うん、無理ないよ・・・

 

ジョ−は彼の奥さんがほっぽり出していったプリントの山を手に取った。

「 ・・・ 月謝納入用の口座開設か。  保険? ああ、通園時のな。 ふ〜ん ・・・

 ずきん がどうのって言ってたけど。 ・・・あ、 防災頭巾のことか。 まあ・・・フランスでは

 被らないだろうなあ・・・・ お弁当入れに布バッグ? ・・・ひえ〜〜出た!名前書き〜〜 」

ぱらぱらと お知らせ やら 園の決まり やらを捲りジョ−は溜息をついた。

こりゃ どうも自分がやるしかないらしい。

なにせ何でも × ( かける ) 2、 徹夜も覚悟だな〜〜と腹を括った。

・・・しかし。 

ふんふんふん 〜〜 ♪♪

鼻歌が自然と零れ出てくる。 足だってスキップしたい気分なのだ。

 

   ふふふ・・・ コレだよ、これ♪ 家族なんだよな〜 いいよな〜〜

   我が子のために徹夜・・・ なんて最高だよ♪

 

生まれて初めて持った <家庭の味> にジョ−は上機嫌なのだった。

 

 

 

ことん。

ジョ−がポットをテーブルの脇に置いた。

「 さあ、準備完了。 ミッション完遂へ向けて・・・出発だ! 」

「 了解〜〜♪ ふふふ・・・ 防護服を着ないミッションね。 」

「 ほら、003? 真面目に頼むよ。 これは今までにない過酷なミッションなんだぜ?

 食料も、ほら、コ−ヒ−もちゃんと用意したから。 何が何でも頑張る! 」

「 はいはい 009。 え〜っとわたしはそれじゃ布製バッグからゆこうかな。  」

「 よし。 ぼくは銀行・保険関係を引き受けるから。 それじゃ ・・・ 戦闘開始! 」

「 了解♪  えっと ・・・ 出来上がり寸法がっと・・・

 あ! ねえねえ、ジョ−。 明日のお弁当はなにがいい? 」

「 ・・・・ え? なんでもいいけど。 あ〜御飯にフリカケでハートとか書くの・・・止めてくれよ〜 」

「 あら、どうして。 楽しいじゃない♪ お昼にお弁当、拡げて・・・燃えるような愛の確認よ♪ 」

「 う・・・ そりゃアイシテルけど。 編集部の皆がわざわざ見にくるんだぜ。 」

「 わ〜お♪ それならもっと張り切っちゃうわ。 明日は アイシテル って書こうかな♪ 」

「 おい〜勘弁してくれよ・・・ あ! お喋り厳禁〜〜 集中、集中〜! 」

「 は〜い・・・ ( だって手だけ動かしていると退屈なんだもの ) 」

カリカリカリ ・・・   ジョキジョキジョキ・・・ ちくちくちく〜〜

暫く リビングには作業の音がかすかに響くだけの静寂がひろがっていた。

 

「 ねえねえ ジョ−。 」

「 なんだい? 」

「 このバッグの模様、見て? ドルフィン号よ♪ 」

「 え!?  ・・・・ ぼくにはイルカにしかみえないけど・・・? 」

「 あら、そうよ。 表はイルカ。 それで〜裏がね〜〜 ほら♪ ドルフィンよ〜 」

「 ・・・・ ああ、 そ、そうだね・・・ 」

フランソフ−ズがひっくり返してみせた裏には 翼が生えた船 みたいなアップリケが見えた。

ジョ−はびっくりして手に取ったが ほっと胸をなでおろした。

 

  ・・・ 特撮モノのメカ・キャラ・・・に見てもらえる・・・よな?

  だけど・・・ウチの奥さんはどういう神経なんだ???

 

「 いいけどね・・・・ でも、どうしてドルフィン号なのかい。 それに そのバッグ二枚ともブル−だよ?

 すぴかはピンクとかの方がいいんじゃないかなあ。 」

「 あら〜 だって。 わたし達、いつでも一緒に居たいじゃない? ドルフィンだって仲間だもの。

 色はね〜 すぴか自身のリクエストなの♪  すばるは <すぴかと一緒>ならなんでもいいのよ。 」

「 ・・・ へえ ・・・  さ! 作業続行〜〜 あと、きみは防災頭巾とお弁当カバ−だろ。 」

「 ええ。  あのね〜 それでね〜 」

「 し。 おしゃべりはあとだ、003。 」

「 ・・・ は〜い ( もうすぐチ−ズ・パイが焼けるんだけどな・・・ ) 」

カリカリカリ ・・・  ちくちくちく ・・・  ( ちょっとミシン、使ってくるわね )

フランソワ−ズは静かに出入りし、 ジョ−はひたすらペンを走らせていた。

 

「 ねえねえ ジョ−。 」

「 ・・・ なんだ!? 」

「 あら、こわい。 わたし、作業完了。 ジョ−は? 」

「 ( ひえ〜〜 きみって手早いのな・・・ ) う、うん。 あとは博士にここと ・・・ココに

 署名して頂けば終わり。  じゃ。 最大の難関 ・ なまえかき に移るか! 」

「 ・・・いいけど。 その前にちょっと休憩しない?  お茶・・・ 」

「 いや。 時間、押してるだろ〜 このままイッキに進むぞ! ここからは協同作業だ。 」

「 きゃ♪ 久々のコンビ・プレイね〜〜。 タイミング、合うといいわね。 

「 うぉっほん!  それじゃ 名前書き作戦 開始!

 いいかい、初めはぼくがこの・・・・<おなまえシ−ル>に記入するからさ、きみはどんどん

 貼っていってほしい。  はがれないようにしっかり、な。 」

「 了解。 ねえ、わたしにも書かせて? 」

「 え・・・ だってこんな細いトコに書けるかい。 ぜんぶ平仮名だぞ。 」

「 ウン。 多分・・・・ 」

「 よし。 じゃあ ・・・ まずは手拭用タオルから! 」

「 わ〜〜 了解! 」

夫婦はテ−ブルを挟み 頭を付きあわせて記入作業に没頭し始めた。

 

   ・・・ しまむら すばる  しまむら すばる  しまむら すばる ・・・と。

   しまむら すぴか  しまむら すぴか  しまむら すぴか〜〜  

   ふうう ・・・ こんなに <しまむら> って書くの初めてだなあ・・・

 

かなり細かい作業だった。 なにせ子供用のハサミやらお箸、歯ブラシ、そしてクレヨン・・・

そのひとつひとつに貼る <おなまえシ−ル> に 細字のボ−ルペンで記入してゆく。

日本人のジョ−でさえ、気をつけていないとだんだん字が大きくなったり崩してしまったりする。

 

   これは フランには無理だなあ。  あいつ、<書く>ってイマイチ苦手だもの・・・

 

また涙ぐんでいるのじゃないか・・・とジョ−はそっと顔を上げた。

が。

 

ふんふんふん〜〜♪♪

しまむら すばる  ・・・   しまむら すばる ・・・  しまむら すばる ・・・ ♪

はい、 今度は ・・・しまむら すぴか ・・・ しまむら すぴか ・・・ しまむら すぴか ☆☆☆

 

フランソワ−ズは ゆっくりだが丁寧に そして楽し気にボ−ルペンを動かしている。

にこにこ・・・自然の笑みが口元に溢れ、頬がちょっと上気していてとても綺麗だった。

 

「 ・・・ きみ。 楽しそうだね。 」

「 ・・・ え? あら だって。 あの子達の名前を書くのって大好きよ。

 ああ、わたし、お母さんだな〜〜って嬉しくなっちゃうわ。  ジョ−もそうでしょ? 」

「 え・・・・ あ。うん、それは勿論だけど。 書きにくいだろ? 」

「 ううん。 だってこれが あの子達の名前なんだもの。 ジョ−とわたしの子供達のね。 

 わたし・・・ しまむらさんちのヒト になれたんだな〜〜ってすごく嬉しいの。 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ きみってひとは・・・ 」

「 え・・? あ・・・・ きゃ・・・♪ 」

ジョ−はするり、と長い腕をのばし彼の細君の顔に当てるとキスを盗んだ。

「 よ〜〜し♪ 頑張っちゃうぞ〜〜〜 終ったらご褒美くれる? 」

「 ええ、さっき言ったでしょう、チ−ズ・パイを焼いたのよ。 あれを・・・ きゃ・・・ 」

ジョ−はもう一回、彼女の唇をキスで封じた。

「 ぼくが食べたいのは〜♪ この魅惑的な ぼくの奥さん さ。 

 早く作業を終れば〜〜 それだけゆっくり♪ ・・・・な? 」

「 もう・・・  あら。でもちゃんと書いてください? 大事な息子と娘のためなのよ。 」

「 了解、了解〜〜〜 003♪  それじゃ・・・ぼくは加速そ〜〜うち で・・・ 」

「 あ! ダメだってば、ジョ−・・・・! 燃えちゃうでしょう! 」

「 ふふふ・・・ 冗談さ。  でも、気分は加速装置でゆくぞ! 」

「 はいはい・・・ ふふふ ・・・ 」

若い夫婦は幼い我が子たちのために 再び作業に没頭していった。

 

 

「 ・・・・ と! 任務完了! 

  からん・・!

ジョ−はず〜〜っと握っていた油性ボールペンをテーブルの上に投げ出した。

「 は・・・・! 疲れた〜〜 加速装置の使用限度オ−バ−ってとこだな〜〜」

ううん〜〜と伸びをしてから 彼は目の前のこまごま・ちまちました可愛らしいモノの山を眺めた。

「 ふうん・・・こんなにいろいろなものがいるんだねえ。  フラン? 」

「 ・・・ ミッション中に話かけないでください! ・・・ しまむら すばる  しまむら すばる・・・ 」

「 失礼! 003、続行してください。 」

「 了解・・・! 」

ジョ−はそう・・・っと立ち上がりキッチンに出て行った。

 

   ・・・ えっと。 あとは・・・あら、くれよん、ね。 

   まあ、可愛い。 どんな絵を描くのかなあ。 すぴかは ・・・お花とかお人形さんとか・・・は

   絶対に描かないわねえ・・・ すばるは ケ−キかチョコかしら。

 

フランソワ−ズは楽し気にボ−ルペンを動かし続けた。

そう・・・・ こんなに沢山ではなかったけれど。

ちっちゃなフランソワ−ズが学校に上がるとき、

やはり父や母が用意してくれた真新しいノ−トやよそ行きの服があったっけ。

一瞬 あの古い家の居間の香り − 父のタバコやら母のトワレ、そして美味しいマカロンの香りが

蘇った。

 

   ・・・ パパ、 ママン ・・・ お兄さん・・・・

   わたしもね、ママンになったのよ・・・・ いつかわたしの子供達を見てほしい・・・

 

手元の字がぼやけた。

いけない・・・! あとちょっとなのに・・・  あら?

不意に ミルクティ−の香りが降って来た。

「 ・・・あら? 」

「 差し入れで〜す。 代わるよ。 熱いうちに、さ・・・  」

ジョ−が湯気の立つカップをテーブルに置いた。

「 わあ〜〜 嬉しいわ、ありがとう、ジョ−。 」

「 お疲れ様・・・ ねえ、フラン? 」

「 ? なあに ・・・ あ・・・ きゃ・・・ 」

顔をあげた妻に ジョ−はテ−ブル越しにキスをした。

「 うん、これでぼくも疲れが取れた・・・ちょっとだけ。 」

「 あら、そんなにお疲れ? そうだわ、ワインでも開けましょうか。 」

「 う〜ん・・・ それよりも、さ? 」

ジョ−はもう一度彼の愛妻の唇を味わうと こそ・・・っと耳元でささやいた。

 

   ・・・ はやく〜〜終らして♪ お茶よりもワインよりも

   きみ が欲しいなあ。 ご褒美、くれるって言ったろ?

 

   ・・・ もう ・・・ 手のかかる大きな坊やねえ・・・・

 

ふふふふ・・・・  

若い父と母は 目と目を見合わせ 唇を合わせ やがてひとつに溶け合っていった。

春はもうすぐ♪ ・・・・ つい、そこまでやって来ている。

 

 

 

「 はい、 ち〜〜〜ず♪ 」

「「「「 ち〜〜ず♪ 」」」」

綻び始めたまだ若い桜の木の脇に 親子4人が並んでいる。

父と母の前に亜麻色の髪の娘とセピアの髪の息子が神妙な顔をして立っている。

「 ・・・ ほらほら? ち〜ず、だぞ? チビさんたち。 」

カメラを構えるギルモア博士は困り顔である。

「 どうしたの? ほら、笑って。 」

「 すぴか、すばる? いつも ち〜ず、得意だろう? ほら。 」

父も母も代わる代わる機嫌を取るのだが ・・・ 双子の姉弟はむすっとしたままだ。

 

入園式も無事におわり、島村さん一家は岬の洋館に帰ってきた。

夫婦ほとんど徹夜の作業で 必要書類も布製バッグも防災頭巾兼用座布団も。

そして こまごま・こまごました<お道具> にも ぜ〜〜んぶちゃんと名前が書いてある。

作業用のスモックだって二人とも母の刺繍入りだ。

ともかく。 ほぼ完璧な準備で島村さんちのお嬢ちゃんと坊ちゃんは幼稚園デビュウをしたのだった。

 

「 ふふふ・・・ 慣れない場所で大勢のヒトに会って緊張したのかの。

 よいよい、そんな顔もまた楽しい記録じゃて。 どれ・・・一枚。 」

パチリ。

「 ・・・・ きゃ! イヤですわ〜〜博士。 わたし、髪がくしゃくしゃ・・・ 」

「 ぼく ・・・ 目を瞑ったかも・・・ 」

「 ははは・・・ お前たちも緊張して疲れたろ。 さあさ、オヤツにしようなあ。

 今日はスペシャルだぞ。 」

「 え? 」

「 ・・・ アイヤ〜〜 お帰りアル! もうすぐ皆の好きな桃饅が蒸けるアルよ〜〜 」

テラスからまるまっちい顔がのぞき、お玉をぶんぶん振っている。

「 まあ。 張大人! 」

「 わあ・・・ わざわざ来てくれたのかあ〜〜 ありがとう〜〜 」

「 ・・・ ももまん? おやつ、ももまんなの。 」

「 そうよ、張伯父様が すぴかやすばるのために・・・って。 」

「 さあ〜〜 みんなで美味しいおやつを食べような。 」

「 わ〜〜 ももまん〜〜 ももまん♪ も・も・ま〜〜〜ん♪」

すばるが早速 ももまんそんぐ を披露してちょんちょん跳びはねている。

「 さ、お家にはいりましょ。 」

ジョ−とフランソワ−ズは子供達を真ん中に手を繋いで玄関にむかった。

 

門の脇の桜は そんな幸せな後ろ姿に微笑みを送っていた・・・もかもしれない。

 

   やったわ〜〜 幼稚園、楽勝ね♪

   明日っからは 自転車通園よ、 ふふふ・・・・

 

島村さんち奥さんは 上機嫌だった。  ・・・ すくなくともこの時点では。

 

 

 

Last updated : 04,15,2008.                       index      /      next

 

 

******   途中ですが 

すみません〜〜〜 終りませんでした。 宜しければあと一回お付き合いくださいませ。

<島村さんち> 今回は 入園準備の大騒ぎ であります。

な〜んの事件もなくたらたら当たり前の・のほほ〜んな日々が続きます。

なにも起こりません、でもみんな 幸せ です♪♪

・・・ しかし。 前回、お嫁さんを貰うことになった人物が まだお母さんにへばりついているのって

なんだか 妙な気分です〜〜 (^_^;)

ジョ−君、相変わらず ヤキモチ焼き・・・   タイトルは某小説のパクリです〜〜 

楽しい一時を味わっていただけましたら 幸いでございます。