『 静寂 ― (3) ― 』
ふんふん 〜〜〜〜 ふん♪
機嫌のよいハナウタが リビングから流れてきている。
カーテンを引き払った窓からは 春の朝の光が存分に差し込む。
「 ほ ・・・ 気持ちのいい朝であるなあ 」
ピンクのエプロンをひっぱり グレートは上機嫌で箒を使っている。
「 よ・・っと。 あれ これはジョーのペンじゃないのか
昨日 さんざん探しておったが 」
ソファの後ろから < 落としモノ > を拾いあげ
散らばっていた雑誌をラックに収め 乱雑に畳まれた新聞紙を
きっちりと折りなおした。
「 ふん 〜〜 ま これが ホーム ってことだが。
この様子を目の当たりにしたら
あの独逸の几帳面氏はさぞかし 渋面 だろうなあ 」
箒で ざざざ ・・・と埃を掃き出す。
「 ふむ? 窓も拭いておく かな
広いし・・・ いっそモップにでも変身するか?? 」
彼は 光いっぱいの窓に向かい しばし思案していた。
「 おはようございまあ〜〜す ・・・ あら グレート?? 」
爽やかな声と一緒に フランソワーズが入ってきた。
「 おう グッド・も〜にんぐ マドモアゼル? 」
「 おはようございます♪ あら そのエプロン お似合いよ 」
「 メルシ〜〜 吾輩もこれは気に入っておるよ 」
「 愛用? 」
「 御意 」
「 あら お掃除、してくださったの?? 」
「 ああ 早朝なのでな 箒でちょちょ・・・っと
今晩 ピアニスト氏が来るから きっちりしておかんと な? 」
彼は パチン とウィンクを送る。
ほい、 と彼は先ほど拾ったペンを彼女に渡した。
「 ふふふ そうねえ あ ・・・ これ ジョーのよね
どこにありました? 」
「 この後ろに落ちておったよ 」
「 やあだあ〜〜 よく探したのかしら
ないない〜〜って 騒いでたわよねえ 」
「 ははは 青春とは失せものを探す日々なり かと 」
「 ええ?? なんのこと? 」
「 いやいや マドモアゼルにはご無縁かと・・・ 」
「 ?? あ 皆と話ができた? 」
フランソワーズは リビングにある共有PCをちらり、と見た。
「 おう。 皆の衆、いろいろと教えてくれたぞ。 」
「 ふうん ・・・
あ アルベルトが来るなら 今晩 ジャガイモ増量だわね 」
「 そうさな。 また ジャパニーズ・ボーイの応援を
頼むとするか 」
「 ええ。 ジョーってば 皮剥き、上手なのよ 」
「 ほう ヤツはハウス・キーパーに向いているかもな 」
「 そうかも! あ 朝ご飯にしましょ 」
「 手伝うぞ〜〜 」
「 あ それじゃ コーヒーを ・・・ そうだわ
今朝は とびきり美味しいティ をお願いします。 」
「 ほ? 了解 了解〜〜
腕にヨリをかけて 美味なるイングリッシュ・ブレックファースト・ティ
を ご用意いたしますぞ 」
「 最高♪ お願いします 」
「 ・・・ 」
グレートは 丁寧に会釈をすると 肩を並べてキッチンに入った。
数日来 グレートは仲間達と直接連絡をとっていた。
今のところ仲間たちのほとんどが 世界各地の故郷にもどっている。
緊急事態と 特別のイベント ― メンバーの誕生日 やら
クリスマス、新年 ・・・ ― 以外 彼らは故郷の地で
ごく平安に いや ひっそりと暮らしているのだ。
「 ふ〜〜〜 ああ やっと返事を貰えたな ・・・ 」
グレートが PCの前でげんなりした顔だ。
「 あら どうしたの? 誰なの、返事をしてくれなかったのは 」
洗濯モノを畳みつつ フランソワーズが笑っている。
「 フラン〜〜 これもアイロンするの? 」
ジョーがそのまた後ろから聞く。
「 ジョー。 お願い。・・・ってそれ、 あなたのシャツよ? 」
「 あ? そうだけど・・・ アイロン しなくても 」
「 だめ。 襟元とかぴしっと決めなくちゃ。 」
「 そっかなあ ・・・ いいけど さ 」
「 ジョー、アイロン上手だから〜〜 お願い 」
「 えへへ・・・・そう? 」
「 そうよ〜 チカラもあるからばっちりよ?
あ ついでにわたしのプリーツ・スカートも
プレスしてくださる? 」
「 おっけ〜 任せてよ〜〜 ♪ 」
「 ありがと 頼もしいわあ〜 」
ふんふんふ〜〜〜ん♪ すぐにジョーのハナウタが聞こえてきた。
「 ・・・ げに女性というものは 」
「 ? なあに、グレート? 」
「 いやいや 独り言でござるよ。 」
グレートは慌ててモニターの陰に顔をひっこめた。
My boy〜〜〜
お前さんの将来は ― 見えた な
みごと 知らぬ間に 尻の下、か・・・
ま それがお前さんのシアワセなら
それで いい か
「 ねえグレート。 誰とメールしていたの 」
「 あ ああ ・・・ ジェロニモ Jr. さ。
や〜〜〜っとこさ 返信を貰えた 」
「 うふふ ・・・ 普段から彼 メールとか好まないわよね 」
「 左様〜〜 このままならエマージェンシー・コール を
使うところだったよ 」
「 まあ 」
「 何回も送って やっと返信さ えらくそっけない返事が
返ってきただけだ 」
「 彼にも聞いたの? < 静寂 > について 」
「 ああ。 奴さんが一番詳しいと思ってな 」
「 詳しい? 」
「 身近か というか ・・・ 彼そのものが静寂の中にいる、
と予測したのだがね 」
「 ・・・ 違ったの? 」
「 うむ ― 奴さんの答えは
「 <静寂> ・・・俺の周りは 大変賑やかだ。 静寂など ない 」
「 ほう 最近はそっちもヒトが増えたのかな 」
「 ヒト ではない。 人間はいないが 生命は満ち溢れている。
沢山の鳥たち 動物たち ・・・ 昆虫たちも だ。 」
「 ああ なるほどなあ 」
「 都会の中は なにも聞こえない。 虚しい沈黙だけだ
都会こそ 静寂だ 」
・・・ということだったのさ 」
「 生命たちの声 ってことね そっか・・・
都会こそ静寂 って なんかカッコいいわ 」
「 なにやら演歌の歌詞のようだがなあ 」
「 演歌??? ふ〜〜ん なんか意外ねえ 」
「 うむ ・・・ 逆に 最も静寂とは逆の場所にいる、
と 予測していたヤツが 」
「 あ ジェット でしょう? 」
「 ご明察。 アイツこそ喧騒の真っ只中で
暮らしていると思うだろうが ― 普通 ・・・ 」
「 そうねえ。 NYですものねえ 」
「 だろう? それが さ ― 」
グレートは モニターの側にあるボタンを押した。
zzzzz ・・・ 耳障りな雑音が飛び出す
「 きゃ ・・・ やだ〜 操作 間違えてない? 止めて 」
フランソワーズが慌てて耳を押さえた。
「 申し訳ない〜〜 でも これはヤツが送ってきた音なのさ
レコードしておいたのだが・・・
いやはや スカ○プの扱いに慣れとらんのかね ジェットは 」
「 ・・・ もう 聞こえない? 」
「 大丈夫さ 最初だけだから・・・っと ここから聞こう 」
「 ・・・・ 」
フランソワーズは 恐る恐る耳から手を離した。
最初はやはりガサガサ ゴソゴソ・・・雑音が聞こえた。
いや 雑音 ではなく 機械の側でなにかやっている らしい。
やがて 聞きなれたスラング満載のおしゃべりが流れてくる。
「 よ〜〜〜 グレートぉ〜〜〜 え なに?
せいじゃく?? こっちは静かなわけ ね〜じゃんか〜 」
「 はあん? ああ 空の上はよ 賑やかだぜえ〜〜〜 」
「 なにがってよぉ 空気の流れってすげ〜〜いろんな音が
するんだぜ? 風ったって めっちゃいろいろあるし?
気っ持ちいんだぜ〜〜 風の声 聞くってよ 」
「 へ?? 成層圏は ― やっぱ賑やかだった な ・・・
空気ないだろって? でもよ〜 ちゃんと こう〜〜
音 感じるぜ。 宇宙の音 ってのかなあ 」
「 オレは よ、いっつも 音の中 がいい。
死んじまうのは 別に怖くなんかね〜けど?
音がない世界 は ゴメンだぜ。 じゃ な〜〜 」
ガリガリ ゴソゴソ プチッ! 最後まで雑音混じりで
NYからの おしゃべり は終わった。
「 ― ということだ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 空の上は 賑やかなのね 」
「 うん? そう らしいな。
ヤツは我々とは ちょいと違った賑やかさの中にいるらしい 」
「 やっぱりね ジェットは 静寂 とは無縁なのよ〜
だいたい無口なジェット なんて考えられなでしょ 」
「 そりゃそうだ 」
「 でも 空の上 とか 宇宙って 音がないのかな って
思ってたわ。 賑やか なのか ・・・ 」
「 ふむ ・・・ まあ 普通の < 音 > とは
少し違うだろうがな 」
「 なにか 不思議な世界 ね 」
「 世の中は 皆同じじゃないってことさ 」
「 ね ・・・ 」
「 アフリカの地も 同様らしいな 」
「 あ ピュンマね? 」
「 うむ アフリカの旦那も同じことを言ったぞ 」
「 アフリカは 賑やかよねえ〜〜 ニンゲン以外に
動物とか 鳥とかいっぱいいるし 」
「 左様 左様。 咆哮する声 鳴き声 ・・・
大地を揺るがす足音 とか な 」
「 生物の宝庫だから賑やかよね 」
「 吾輩もそう思っていたのだが ― 」
「 あら 違うの? 」
「 いや 賑やか は 賑やか なのだが 」
「 なんだい グレート。 話って 」
「 おう ピュンマ お主の生きる地について
少々伺いたい 」
「 へえ?? なに え 静寂?? 」
「 左様。 お主の周辺は 如何かな 」
「 え〜〜 僕のところ? そりゃ
サバンナは もう賑やかだよぉ〜〜 」
「 やはり な。 吼え声とか 鳴き声 か 」
「 声? ううん 言葉 だよ 」
「 言葉? 動物や鳥が か 」
「 勿論。 ヒトの言葉だけが 言葉じゃないからね
鳥には鳥の、 ライオンや像には それぞれの言葉があるんだ。
虫だって同じだよ 」
「 虫もか 」
「 うん。 蜜蜂がどうしてぶんぶん言うのさ?
日本のカラスはおしゃべりだよね 」
「 う〜〜〜む ・・・ なるほど ・・・ 」
「 夜はね 夜の声 がきこえてくる。
夜のサバンナは昼間よりか 賑やかさ 」
「 ほう ・・・ 」
「 だから 僕は 静寂 とは無縁の生活かなあ
静かなのは まあ僕のココロの中くらい さ 」
「 ・・・ な〜〜るほど ・・・ う〜〜む 」
「 次の舞台の取材かい?? ねえ その台本、
よかったら送ってくれるかい 読みたい〜〜 」
「 わかった わかった 送ってしんぜよう 」
「 サンキュ♪ 」
「 ― ということだと。 」
「 ふうん ・・・ 夜のサバンナって魅惑的ね 」
「 ああ 水の中もきっと賑やか なのだろう 」
「 あ そうよね! 海なんて きっとすご〜〜〜い賑やかも
生命で溢れているんですものね 」
「 うむ ・・・ その意味でも ピュンマも それは賑やかな
世界に生きておるのだろうよ 」
「 そうねえ この世は 音、音楽でいっぱい ね 」
「 マドモアゼル〜〜 そなたも詩人だなあ 」
「 うふふ・・・ アーティストって言ってくださらない? 」
「 これは これは 失礼いたしました、芸術家嬢 」
「 ふふふ メルシ〜〜 ミスタ・名優さん 」
「 忝い。 」
「 ねえ ねえ もう一人! ほら 食の名人はなんて?? 」
「 おう 大人かい? 勿論訊いたさ。 」
「 ね それで それで?? 」
「 ああ 料理大人 はなあ ― 」
「 なんやて?? 静寂? あかん あかん。
モノゴト、なんだってな ちゃんと言わな わからへんで。
黙ってるんは 御飯を頂いてる時だけや。
ほいでも た〜だ黙ってるんと ちゃうで。
お腹の中でなあ じ・・っと考えるんや。 」
「 腹の中で か? 腹へったな〜 とか か? 」
「 は? なにいうてるんや。
考えること、いうたら そら きまっとるやん。
この味 どう変えたらええやろ
どないしたらもっと美味くなるやろ ちゅうことや 」
「 ほう? そのためにモノを食べるのかい 」
「 そうや。 もっともっと美味いモン、作るために
ワテらは 今日のご飯、頂くのんやで 」
「 つまり 食べるために食べる、ということだと 」
「 へ ・・・え〜〜〜 大人も 賑やかな世界で生きているのね 」
「 らしい な 」
「 ふうん ・・・ わたし達 世界中のいろんなとこで
生きているけど どこも 静寂 とは程遠いってことかしら 」
「 そうかもしれんな マドモアゼル。
お 時に あの美味いポテトはあるのかい 」
「 え? ああ きたあかり ね?
大丈夫。 商店街の八百屋さんにお願いして 大箱で届けて
もらってるの。 」
「 ほうほう そりゃいい。 ピアニスト氏だけじゃないぞ
吾輩もあの芋がお気に入りだよ 」
「 ね〜〜〜 美味しいもの。
この国には 本当に美味しいお野菜やお魚があるわねえ 」
「 だ な。
さあ 今晩はまた奴さんと < 議論 > だなあ 」
「 ふふふ ・・・ 英独戦争? 」
「 おう。 大英帝国は 負けはせん 」
「 さあねえ〜 独逸は手強いわよ 」
「 ふむ ・・・ 美味い晩飯を頼む 」
「 了解! 」
まだ春浅いギルモア邸は ふんわり〜〜温かい。
― その日の夕方。
銀髪のピアニスト氏は 悠然とギルモア邸に戻ってきた。
「 おい。 グレート! 聞きたいことがある。 」
玄関で 開口一番、彼はぶすっと言う。
「 アルベルト いらっしゃい! え なあに 」
フランソワーズがとびきりの笑顔で迎えたが 彼の仏頂面は
なかなか解消しない。
「 やあ ・・・ グレート いるか 」
「 ええ ええ。 グレートぉ〜〜〜 」
「 あ いい いい。 自分で探す。 」
「 そう? あ 荷物 」
「 アルベルト〜〜〜 お帰り〜 あ 荷物、運ぶよ 」
ジョーも 顔を覗かせる。
「 いいのか? また重いぞ。」
「 また楽譜? 任せてよ〜 ぼくを誰だと 」
彼は 一応腕まくりをして キャリー・ケースに手を伸ばした。
「 ふん 今回のは全部地下のロフトへ
フランソワ―ズの稽古場に運んでくれ 009さんよ 」
「 え 地下? 」
「 フランソワーズが許可してくれた。
あそこのピアノを弾く。 あそこなら音も漏れないからな 」
「 別にリビングのピアノでもいいじゃん?
ここいらのご近所には 家なんかないもん。 騒音の問題は 」
「 < ご近所 > じゃない。
四六時中 ピアノの音が響くぞ? 真夜中も 早朝も。
お前や博士には < 騒音 > になる 」
「 え ・・・ そっかなあ 」
「 そうだ。 地下へ運んでくれるのか? 」
「 任せてくれよ! このくらい軽い 軽い〜〜
あ そうだ 今晩、きたあかり のフライ、山盛りだよ〜〜 」
ジョーは キャリー・ケースを ひょい、と持ち上げると
地下のロフトへ すたすたと運んで行った。
「 ― アイツの取り柄は < お人好し > だな 」
アルベルトは ジョーの後ろ姿を見送りつつぽそっと
呟いていた。
「 お〜〜 これは我らがピアニスト氏〜 うぇるかむ ばっく 」
スキン・ヘッド氏は リビングの入口で慇懃に会釈をした。
「 ミスター・俳優。 来たぞ 」
「 待ちかねておったよ 」
「 ところで ― 」
バサリ。 挨拶もそこそこに 彼らは厚い冊子を取りだす。
「 これは なんなんだ! どういう意味か!
アルベルトは 台本を突き出す。
ぱらり、と捲られたそのページには ―
戯曲の最終ページには なにも書かれていない。
「 なんで白紙なんだ?? 」
「 吾輩の解釈で演じてくれ とさ 」
「 ほう ? で お前さんはどう演じる? 」
「 それが ずっと不明だったんだが 」
「 ― だが? 」
「 うむ。 ジョーの発言で わかった、と思ったな 」
「 アイツが か? 」
「 ああ。 アイツにも聞いてみたのさ。
お前さんにとって 静寂 とはなにかね と 」
「 ふふん? ワカモノはなんと言った? 」
「 ふむ それがなあ・・・
吾輩は自分の耳目が節穴だった と深く反省をしたな 」
「 は?? どういう意味だ 」
「 うむ。 アイツは ジョーはいつものあっけらかんとした表情で
吾輩の質問を聞いていたのだよ ―
前日 晩ご飯を終え 皆はリビングでのんびりしていた。
博士は 囲碁の定石本を広げ没頭している。
フランソワ―ズは 裁縫道具を持ち出し ポアントにリボンを
縫い付けるお決まりの作業を始めた。
ジョーは 愛用のグローブの手入れに余念がない。
グレートは そろそろ手擦れがしていきた台本を前に
それとなく < 家族 > の様子を観察していた が。
あ? そうだ ・・・
ジョーのヤツ いつか言ってたじゃないか
彼は はた と手を打ちたい気分だ。
そうだ そうだ!
加速装置の不具合の時 時間が止まった世界にいた と。
音がなくて 孤独だった と
永遠にあの孤独が続くのか と
気が狂いそうだった ・・・ と な!
うん これは 聞いてみなければ。
「 なあ ジョー ? 」
グレートは 眼鏡を拭いつつ何気な〜く彼の声をかけてみた。
「 ふんふ〜〜ん ・・・ オリーブ・オイルとか
塗ってみようかなあ・・・ え なに? 」
ジョーは グローブを填めたまま 顔を向けた。
「 ちょいと 聞いてもいいかい 」
「 え なに〜〜 」
「 いや なに ・・・ ちょっとしたことなんだが ね 」
「 ?? 」
「 あ〜〜 その なあ ・・・
いつか お前さん、加速装置のトラブルでエライ目にあった
とか言ってただろう? 」
「 ・・・ あ うん そんなこと、あったかも 」
「 その時 ― どんな心持だったのかね 」
「 こころもち・・・って なに? 」
「 あ あ〜〜 ( わからんのか・・・ 日本人だろうが! )
そうさなあ どんな風に感じてたのかな 」
ジョーは 一瞬視線を中空に飛ばし 表情を消した。
およ? ヤバいか??
「 あ すまん 悪いこと、聞いたか 」
「 ・・・ そんなコト ない けど・・・
う〜ん ・・・あんまり思い出したくないなあ・・・
そうだなあ 閉じ込められた って感じかなあ 」
「 閉じ込められた?? 」
「 ウン。 そう 自分の心の中に 閉じ込められた・・・って
なんかヘンな表現だけど 」
「 自分の心の中 か 」
「 うん。 ものすごく静かで音もなにもなくて・・・
もしかして 一番静かで深いのは 心の中 かなあ
・・・なんて思ったんだ ぼく 」
「 そう か・・・ 」
「 あんな中にずっと閉じ込められてるのは ゴメンだな。 」
「 ・・・だろう なあ ・・・ 」
「 えへ でもね ぼく、今なら平気なんだ 」
「 え??? どうして?? 」
「 えへへ ・・・だってさ〜〜 ぼくのココロの中には
フランの笑顔 があるも〜〜ん♪ 」
ひそひそ声で グレートの耳元に囁くと
茶髪ボーイは 花が開くみたいにほんわり・・・笑ったのだ。
「 あ・・・ ははは この〜〜〜 ノロけやがって〜〜 」
「 えへへへ♪ 」
ふうん・・??
コイツは ― 見かけほど コドモ じゃないんだな
グレートは少年と戯れつつも しっかりと感じていた。
ジョーが 静寂の孤独 を 一番身をもって知っていたのだ。
静寂 とは ― 誰もの心の中に ある のか ・・・
「 ― と まあ ヤツが言ったのさ。
心の中が 一番深い静寂だ と 」
「 ・・・ ふむ ・・・ 」
アルベルトは 腕組みをしつつ深い唸り声を上げた。
「 それで 台本の白紙ぺージを見た時に
ああ そうか と思ったぞ。
楽聖氏は その心の深い静寂の中で 彼自身の 音 を聴き
音 を紡ぎ ― 作品を作った ・・・ と。 」
「 ― そうか 俺に その音を奏でろ というのか 」
「 お前さんなら いや お前さんにしか表現できない、と
吾輩は信じているよ。 」
「 ― あ り が と う 」
「 それは 吾輩の言葉だ 」
がし。
芸術に人生を捧げた男たちは 固い握手を交わした。
― そして。
その作品は 無事初日を迎えた。
舞台は 第一幕の終わりでさえ スタンディング・オベイション満載
客席は 嵐のような拍手に満ち溢れた。
「 ・・・ すっご〜〜い〜〜〜 わあ〜〜 」
フランソワーズは ハンカチを握りしめ頬を染めている。
「 うん ・・・ なんか ぼく、ぞくぞくしてきた〜〜 」
「 ね! グレートも アルベルトも 凄すぎよぉ〜 」
「 やっべ〜〜 よ ヤバすぎだあ 」
「 あ ちょっと化粧室 行ってくる・・・
わたし 知らない間に泣いてたみたいなのよ 」
「 えへ・・・ かわいいよう〜 フラン ・・・ 」
「 もう〜 ジョーったら 」
ちゅ。 可愛いキスが ジョーの頬にとんできた。
うっは〜〜〜〜〜 ♪♪♪
一人 舞い上がっている少年を置いて フランソワーズは
幕間のロビーの雰囲気を 楽しんでいた。
「 あら フランソワーズ 」
「 あ マダム こんばんは。 」
洒落た身なりの老婦人が 声をかけてきた。
フランソワーズの通うバレエ・カンパニーの主宰者の女性だ。
「 あなたも観劇? 」
「 あ はい あのう ・・・ アルベルトが 」
「 そうよね! 私、彼の演奏を楽しみに伺ったんだけど・・・
いいわあ〜〜〜 この芝居! 演奏 最高だし。」
「 はい! 」
「 ねえ あの主演の方 ご存知? 」
「 あ はい・・・ 」
「 紹介してくださる? 創作欲 湧くのねえ〜〜〜
踊りにしたいのよ! わくわくするわ!
それと ヘル・アルベルトにね
またいつか私のクラスで 弾いてくださいってお願いしておいてね 」
「 はい !! 」
りんご〜〜〜ん 開幕ベルが華やかに鳴り響く
『 静寂 』 第二幕。
グレートの渾身の演技 と アルベルトの至高の演奏が 始まった。
************************* Fin. ***********************
Last updated : 03,24,2020.
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************* ひと言 ***********
このお芝居 見たい〜〜〜〜〜 (*´▽`*)
グレートとアルベルトって 芸術論で
徹夜で討議しそうですよね〜〜
3 4 7 で すごい舞台ができる かも??
9番さんは ・・・ 舞台装置担当???