『  静寂  ―(1)― 

 

 

 

 

   ザザザ −−−−  ・・・・きゅ。

 

その車は 信じられないほど静かに ― いや 優雅に

所定の位置に止まった。

パーキングエリアは 満車に近かった。

「 ふう ・・・ なんとか停められた ・・・ 」

「 よかったわあ〜〜  ジョ― 駐車 上手ねえ 

「 ふふ〜〜ん♪ 実は得意なんだ〜〜  って

 さあ 降りよう。 あ チケットは ・・・ 

「 ご安心ください、 ちゃ〜んとわたしが持ってます。 」

「 サンキュ。 じゃ そっちから降りて 

「 ええ ・・・ ああ 花束、無事ね。

 ふふふ ・・・ とても素敵よね〜 

フランソワーズは 後部座席に固定しておいた花束を

こそっと手に取った。

「 ウン ・・・ グレート 喜ぶよ〜〜 」

「 そうね そうね。 あ ジョー この紙袋 持ってくれる?  」

「 オッケ― 」

「 あ ジャケット!  ほら 忘れないで 」

「 あ いけね〜〜  きっちりしないとな〜 」

「 そうよ。 我らが主演俳優氏のためにも ね 

「 うぴゃ ・・・ 肩 凝りそう・・・ 」

「 うふふ 帰りに アイスを食べましょうねえ ジョー君♪ 

「 わあい・・・ って それママのセリフだろう? 」

「 まあ いいじゃないの 」

くすくす笑い合いつつ 二人は車を降りた。

 

「 えっと・・・ 入口は・・・ あ まだ開場時間前か 

ジョーはちらり、と腕時計を確認する。

「 大丈夫、楽屋口から入れるわ。 ココの劇場 使ったことあるから

 こっちよ 

「 ダメだよ〜〜 ルール違反は ナシ! 」

「 はあい 」

「 開場時間まであと少しさ。 のんびり待とうよ。 」

「 そうね。  あら ずいぶんヒトがいるわよ 」

「 ホントだ〜〜  

「 前評判、いいのよ。 演劇雑誌だけじゃなくて

 ネットなんかでも話題になってたわ。 」

「 そうなんだ ・・・ ぼく そういう方面には疎くて 」

「 じゃ しっか〜〜り見てね。 」

「 うん ・・・ あは なんか緊張してきちゃったよ 」

「 うふふ それも楽しいわ。 あ 開いたようよ 

ジョーとフランソワーズは 人々の列に並び

ゆっくりと劇場内に入っていった。

 

  カツカツカツ  コツコツコツ ・・・

 

期待に満ちた人々の熱気が 劇場に満ちてゆく。

「 まだ時間あるわ。 楽屋に行きましょう。 」

「 あ うん。 どっち? 」

「 この奥のドアよ。  失礼しま〜〜す 

「 ・・・ うわ 」

フランソワーズは 慣れた足取りで舞台裏に入ってゆく。

ジョーは あわてて彼女の後を追った。

 

華やかなホールの雰囲気とは 相反し < 裏 > は

薄暗くごたごたしていた。

出演者が少ないので 思いの他混雑はしていないが それでも

舞台関係者たちが 頻繁に行き来している。

 

「 わ ・・・ なんかすご ・・・・」

「 えっと ああ グレートはこっちの楽屋ね 」

「 え あ そう? 」

場慣れしているのか、ずんずん進んでゆく彼女の後に 

ジョーはきょろきょろしつつついてゆく。

 

    トントン  トン 

 

「 ハロ〜〜 グレート? 入ってもいいですか 

「 オッケ〜  カム イン 」

陽気な声が返ってきた。

「 は〜〜い ミスタ・ブリテン?  コングラッチュレイション 」

フランソワーズは ドアから まず花束を差し出した。

「 ほ? 」

「 うふふ〜〜 グレート〜 」

真紅の薔薇の花束をささげ 彼女は笑顔を楽屋に入れている。

「 おお〜〜〜 これは 我らがマドモアゼル〜〜

 忝い  これは 美しい・・・ マドモアゼル そなたと

 そっくりだな 」

「 あらあ〜〜 お上手ね、 お世辞でも嬉しいわ 」

「 お世辞? なんの 吾輩は真実しか語らんよ 」

「 どうぞ よい舞台を♪ 」

「 メルシ、マドモアゼル 」

俳優氏は慇懃に腰をかがめ 白い手を取り ―

 

  ちゅ。

 

― 心を込めて 接吻をした。

 

      ひゃあ ・・・・

      なんか 騎士をお姫さま  だあ〜〜〜

 

ジョーは突っ立ったまま言葉もでない。

「 うふふ ・・・ 楽しみにしています。 初日 グッド・ラック(^^♪ 」

「 メルシ 」

舞台人どうしは に〜 っと笑みと交わしている。

 

「 は あ ・・・・ 」

そんな二人の側で ジョーはぽかん・・と半分口をあけ!

眺めていた。

「 さ これから仕上げね 失礼します 」

「 忝い〜〜 あ アルベルトの部屋は隣だ 」

「 ありがとう   さ ジョー 行くわよ 

「 あ  ああ うん ・・・ グレート 頑張って 」

ジョーは ジャケットの裾を引っ張られ 慌てて

手を振った。

「 おう my boy、 了解だ 」

「 う  うん  じゃ ね 」

「 ほら 行くわよ 」

「 うん 」

若者たちは そそくさと楽屋部屋を出た。

 

「 ― グレート 緊張してた  珍しいわ 

「 え そ そう??? いつものグレートと同じ・・・

 に見えたけど ・・・ 」

「 そんな風に演じてたのだと思うわ。

 だって 初日なのよ? どんな名俳優だって緊張するわ。

 当たり前なの。 だから グレートは 」

「 普通 のフリしてたってこと か ・・ 」

「 そうね 多分。 」

「 じゃ・・・? 」

「 それだけ集中してると思うわ。 すごい舞台が見られそう! 」

「 そっか ・・・ あ アルベルトの楽屋は 」

「 え〜と あ こっちだわ。  ・・・ だめね 」

フランソワーズは ドアの前でぴたり、と足を止めた。

「 え なんで? ノックして入れば 」

「 ・・・・ 」

彼女は 黙って小さな張り紙を指した。

 

   Don't disturb  ご遠慮ください

 

「 あ ・・・ 」

「 彼 本番前は独りになりたいのでしょ。

 いいわ ここに ・・・ 花束とカード、置いてゆきましょ 」

  ことん。  彼女はスミレの花束を ドアの脇に置いた。

「 そうだね。  この花束 気に入ってくれるといいね 」

「 ええ。  さ 客席に戻りましょう 」

「 ウン。  あ は なんかぼくがドキドキしてきた〜〜 」

「 うふふ わたしもよ  ああ 自分で踊るほうが

 ずっと楽だわあ 」

「 ふうん そんなモンなんだねえ 」

「 さあ わたし達は客席で 思いっ切り楽しみましょうよ 」

「 そうだね〜 」

ジョーは ― ちょこっとギクシャクしたけれど ― 彼女に腕を

差し出した。

「 うふ♪  メルシ 

白い腕がするり、と預けられた。

 

    えっへっへ〜〜〜 ♪  最高〜〜〜

    ぼくのカノジョで〜〜す♪

 

彼は 堂々と彼女をエスコート、羨望と嫉妬の視線を集めつつ

ホールの中に入っていった。

 

 

 ― さて 楽屋では

 

  カチャ ・・・・

 

ドアが静かに開き 燕尾服の銀髪が入ってきた。

 

「 ・・・・ 」

化粧前で仕上げを終えた役者は 黙って彼に視線を送る。

「 ・・・ よう 音楽家 」

「 どうした お前。 緊張するなんて 珍しいな 」

「 お前さんは緊張せんのかい。 

 演奏会前は いつもリラックス〜〜 ってヤツか 

銀髪氏は 手袋をきっちり嵌めた指をきしきし動かしている。

「 ふん 俺は最高に緊張してるぞ。

 お前の求める音が 奏でられるか  心臓が爆発しそうさ 」

「 ほ・・・お前さんでも 」

「 当たり前だ。  緊張しなくなったら  お終いだろうが?

 芸術家としては 」

「 確かに。 ・・・ 脚が震える 」

「 指がもつれそうだ 」

「 ほ お前さん よく言うな。 マシンガンをぶっ放すか 」

「 ヘソのスイッチで変身したのか 」

 

    ははは ・・・ 二人にしか通じない笑い声があがる

 

「 俺達には  ―  仲間がいる 」

アルベルトは 燕尾服の胸に差した一輪のスミレを指した。

「 うむ ! 」

グレートは 真紅の薔薇に顔を埋める。

 

     り〜んご〜〜〜ん   りんご〜〜ん

 

二ベルが鳴った。  まもなく緞帳が上がる。

「 行こう。  わが友よ 」

「 ・・・ 」

役者とピアニストは にっと瞬間の笑みを交わした。

 

 

   『 静寂 ― しじま ― 』

 

 主演: グレート・ブリテン   ピアノ演奏: アルベルト・ハインリヒ

 

今期話題の注目作が、まずはトウキョウで幕を開けた。

 

 

ジョーとフランソワーズは 客席で背筋を伸ばしかなり緊張して

幕が上がるのを 心待ちにしていた。

 

「 ・・・  やだ  わたし 」

「 え なに? 」

「 あ ごめんなさい なんでもないわ 」

「 そう・・・? 」

フランソワ―ズは 隣に囁き口を閉じた。

 

    やだ ・・・ 掌 汗だらけ・・・

    なに緊張してるの フランソワーズ?

 

    自分の舞台なら ― 袖で最終チェックしてる頃ね

    こんなに緊張する舞台って 初めてかも・・・

 

     そう ね  あの日から始まったんだわ

 

 

ほんの少しの間に 彼女は思い出を辿った。

 それは ・・・ 数か月前 まだまだ寒さの残る頃のこと ―

 

 

  カタン ―  

 

玄関のドアが 静かに開いて 閉まった。

「 ただいま。 」

落ち着いた声が聞こえてきた。

 

「 あ グレート・・?  早いのね・・・

 グレート〜〜 お帰りなさい〜〜〜 」

フランソワーズは エプロンで手を拭きつつ玄関に出た。

「 おう マドモアゼル。  もう夕食の準備かね 」

「 ううん オヤツよ♪  すごく美味しいイチゴをね

 沢山買えたから  即席イチゴパフェ を作ってたの 」

「 うほ♪ もうイチゴかい。

 それは それは ・・・早めに帰宅して正解だったな

 あ 小生の分も ? 」

「 勿論♪ 甘党のジョン・ブルさん☆ 

「 忝い。 では着替えてくるかな 」

「 ええ あ ウガイ・手洗い お願いしま〜す 」

「 了解 了解 」

グレートは 笑ってバス・ルームに消えた。

「 ふふふ ・・・ 後ろ姿 カッコイイのよねえ・・・

 さすが名優さんね。 ジョーなんかとても敵わないわ 」

「 え なに〜〜〜 ? 」

 

  ひょい、と玄関の納戸から 茶髪アタマが現れた。

 

「 わ!? な・・・ なんでそんなトコにいるの〜〜 」

「 え? ああ ちょっとさあ 探しモノ・・・

 ねえ ぼくのグローブと球、しらない ? 」

「 ぐろーぶ??  納戸に手袋なんか仕舞わないわよ?? 

 手袋ならお部屋のチェストの引き出し でしょう? 」

「 あ 野球の。 ボールもさあ どっかにあるはずなんだけど 」

「 野球? 知りません〜〜  ねえ 手 洗ってきて。

 オヤツよ♪ ふふふ いちごぱふぇ☆ 」

「 いちご ぱふぇ!?!? わっほほほ〜〜〜〜ん  

ジョーは ドタドタ・・ 駆けて行った。

 

 

  ことん ことん  ことん。

 

ガラスの器が イチゴとアイスクリーム、そして ミルク・ジュレを

満載にして運ばれてきた。

「 はい、我が家の春で〜す 」

フランソワーズの声も弾んでいる。

「 わあ〜〜〜 美味しそうだあ〜〜〜」

「 おう 一足先に 春 だなあ 」

テーブルに並んだ いちごぱふぇ に 歓声が上がった。

「 いっただっきま〜〜す  むぐ〜〜〜〜 おいし〜〜〜 」

「 ふむ ・・・ 目から春 口からも春 というところだな 

「 うふふ 相変わらずねえ グレート ・・・

 あ お友達とはゆっくりできたの? 」

「 おう 久々銀座でお茶をしたよ。

 あふたぬ〜ん・てぃ は 本国のものより美味いな 」

グレートは 友人の戯曲家に会うためにわざわざ来日したのだ。

通常、舞台活動は ロンドンを拠点としている彼にしては珍しい。

「 ん〜〜〜〜  んま〜〜〜 シアワセ〜〜〜 」

ジョーは グラスの中の春 に全てを奪われている らしい。

「 ふふ ・・・ ほんとうに 春の味 ねえ 」

そうだな、と俳優氏も頷く。

 

「 時に ― ピアニスト氏は 本国かね  」

「 え アルベルト?  ・・・多分 ・・・

 演奏旅行に出るとは 聞いてないから 」

「 そうか。 連絡したいのだが 

「 メールは ダメなの? 」

「 う〜ん できれば直接、話をしたいのだよ 」

「 それなら電話してみたら。 

 アルベルトって PCやスマホはあまり使わないっぽいわよ 」

「 なるほどな 

「 なあに なにか彼に御用? 」

「 うむ 次の舞台で賛助出演を頼みたいのさ  」

「 あ アルベルトに???  え でも舞台って 演劇でしょう?? 」

「 そうなのだが 」

「 ・・・それ 無理じゃない?? 彼 演技は ・・・ 」

「 いやいや ピアノ演奏を任せたいのさ。

 奴さんの専門、というか たしか ベートーヴェン弾き であったな? 」

「 ええ ・・・ ベートーヴェン とか リスト とか

 重厚なものが得意みたいよ 

「 ふ〜む  ますます彼にしか頼めんなあ 」

「 ??? どういこと ?? 」

 

 ― 実は ・・・・と グレートは一口 お茶を飲んでから

話し始めた。

 

彼の来日は 件( くだん )の戯曲家氏直々の招聘だった。

かの御仁は日本人にしては 重いテーマの作品を数々手掛けている、

所謂 < 硬派 >  な作家なのだが ―

 

「 これを 上演しよう、と言うのさ。」

パサリ。  グレートは 分厚い冊子を取りだした。

「 ・・・ 台本? 」

「 まだゲラ刷りだが な 」

「 タイトル ・・・ 『 静寂 』??? せいじゃく って

 しずかなこと・・・? 」

「 しじま と読むそうだ。 ほぼ一人芝居なんだが 」

彼は ぱらぱら・・・台本をめくっている。

「 主人公の他に 数名出演者がいるが

 大半は主人公だけだ。 ただ 音楽がとても重要な役割・・・

 というか 出演者に近いのだよ 」

「 よくわからないけど ・・・ その音楽を

 アルベルトに頼みたいってこと? 」

「 まあ そうなのだよ。

 戯曲家は 音楽家は吾輩が選んでくれ、と言うのさ 」

「 ふうん ・・・ ねえ どんなお話なの 

フランソワーズは 分厚い台本を指した。

「 マドモアゼルになら 話てもいいか な ・・・

 おい 他言無用だぞ? 」

「 わかってます。  ねえ 教えて 教えて〜〜 

「 うむ。  一人の音楽家の晩年のモノローグ かな

 一言でいえば 

「 音楽家 ・・・ タイトルは 『 静寂 』 よね

 う〜〜ん ・・・ 晩年 ねえ 」

フランソワーズしばらく宙に目を据え 考えていたが

 

「 あ わかった!!  ベートーヴェンね 主人公は 

「 御意。

グレートは慇懃に会釈をした。

「 さすがマドモアゼル。  芸術家仲間に垣根はないな 

「 うふふ ・・ そのくらいは知っていてよ?

 『 静寂 』 って 彼の聴覚障害のことね? 」

「 ほほう ますますご聡明であられるな 我らが姫君。

 その通りさ。  それで 」

「 ああ それで アルベルト ね? 」

「 まさに ― 」

俳優氏は 分厚い台本を ぴん、と指で弾いてみせた。

 

『 静寂 ( しじま ) 』

ベートーヴェンの晩年を描く、ほぼ主人公だけの一人芝居だ。

彼の作曲した多くのピアノ曲の大半が 演奏される。

しかし それは決して BGM ではない。

作曲家として また 一人の人間としての心情を 苦悩を

そして 歓喜を 表現する大切な < 助演者 > なのだ。

 

「 吾輩を一番理解している音楽家は 」

「 アルベルトしか 考えられないわよね 

「 で あろう?  しかし 稽古から本番まで

 かなりの時間を掛ける。 それだけ拘束時間も長い。

 奴さんの演奏活動を 妨害しかねんからな 」

「 う〜〜ん ・・・ 

「 吾輩としては  アイツと演じたい。 」

「 そうよねえ  あ 稽古はこっちで? 」

「 うむ。 その戯曲家は日本人なのさ。

 吾輩なら 日本語の芝居もオッケーだろうってわけさ。 」

 

グレートは 日本の舞台でも活躍をしている。

彼のこなれた日本語での芝居を 望むプロデューサーは 多い。

「 こっちだって いい芝居をする適役な俳優氏は

 たくさんいるだろう と言ったのだがね 

「 そしたら? 」

「 ベートーヴェンなんだぞ?っていうんだよ。 

 とにかく < 西洋人 > にやって欲しいんだと  」

「 ふふふ それだけじゃないでしょう?

 グレート、貴方の名声は こちらでも轟いているわよ? 」

「 忝い 」

彼は 彼女の手を取り 軽くキスをした。

「 それでは ピアニスト氏に電話してみるか 」

「 そうね。 きっと二つ返事で飛んでくるわ 」

「 そう願いたいけれどなあ 

ぽりぽり・・・ スキン・ヘッドを掻きつつ グレートは

リビングへ行った。

 

「 ん〜〜〜ま〜〜〜   はあ〜〜  

 あれ ?? グレートは?? 」

茶髪アタマは やっとパフェの器から顔を上げた。

「 ・・・ 今 気づいたの? 」

「 う〜〜ん だってさ〜 このパフェ・・・もう最高!

 イチゴとジュレとアイスの組み合わせ 絶品だよ〜〜

 ジュレとイチゴ。 アイスとイチゴ どっちもいいよなあ

 いっそ全部一緒に口に入れたら どうかな? 」

「 ・・・ それ 考えながら食べてたの? 」

「 あ? 今 思っただけさあ〜〜

 食べる時には 食べることに集中しなきゃ !

 あ〜〜 もう半分 食べちゃったんだなあ 

彼は 名残惜しそう〜〜に器を眺めている。

「 ジュレならまだ残ってるけど ・・・ 足す? 

「 わ!!! いいの?? 」

「 ええ。 たくさん作ったから 」

「 わお〜〜〜〜 お願いしますぅ〜〜〜 

「 はいはい 」

「 むふふふふ〜〜〜 はっぴ〜〜 あげいん♪ 」

フランソワーズは ジョーの満面の笑みを眺めてから

キッチンに戻った。

 

   ・・・ ま いっか ・・・

   あの笑顔は 皆をシアワセにするもの ね

 

   BGだって知らないだろうなあ

   009には スウィーツ! ってね ・・・

 

まもなく ジュレを満載、ちょこっとイチゴも乗った器が

トレイの上に準備された。

 

「 はい どうぞ 」

「 う わ〜〜〜〜〜〜〜〜   シアワセ 〜〜〜〜 」

ジョーは それこそ感極まった風で さっそくジュレとイチゴの虜となった。

 

   ジョーの至福の時 かあ ・・・

 

   ・・・ わたし イチゴぱふぇ に負けそうかも

 

フランソワーズは 少しばかり複雑な想いもしないでは ない。

 

「 やれやれ ・・・ 」

グレートが リビングから戻ってきた。

「 あら もうお話、終わったの? 」

「 ああ 

「 アルベルト いたでしょう? 」

どさり、 と グレートはテーブルの前に座った。

 

   あら  ・・・・ 浮かない顔 ねえ

   まさか 断わられた???

 

   でも アレベルトもスケジュール あるし ・・・

 

「 あの ・・・ ?  ああ お茶 淹れ直しましょうか? 」

気をつかう彼女に 俳優氏は破顔してくれた。

「 〜〜〜〜 怒鳴られた・・・ 」

「 え なんで 」

「 時差を考えろ とさ  」

「 あ〜〜〜 そうねえ・・・ 今 真夜中だわ 」

「 左様。 しっかり忘れておったよ 」

「 ホント! あ で お仕事の件は? 」

「 チケットが取れ次第 来る、とさ 」

「 まあ 〜〜〜 よかったわ! 

 あ ピアノ、調律 頼んでおくわ 」

「 よろしくな〜  ああ 奴さんからの伝言だ マドモアゼル。 」

「 伝言? わたしに? 」

「 左様。 えっと・・・ きたあかり をたのむ だと 」

「 あ  は ふふふ 了解です♪ 」

「 なんのことかね?? 暗号か? 」

「 うふふ ・・・ じゃがいも の種類よ。

 日本の品種でねぇ 美味しいの!  彼 大好物なのよ 

「 ほう〜〜 吾輩も頂きたいものだ 

「 はいはい ジョーに頼んでたくさん買ってくるわ。

 足りなかったら産地まで行ってもらうわね 」

「 産地? どこだね? 」

「 えっと 確か ― 北海道 ・・・ 」

「 うひゃあ ・・・ 」

「 加速装置、使えばすぐでしょ。 耐加速の箱、博士が

 作ってくださったし。 」

「 はは あ ・・・ 時に 博士は? 」

「 珍しく学会よ。 アメリカで ・・・ ジェットが護衛してるわ。

 週末にはお戻りになるはず。 」

「 ほう そうか ・・・ 」

グレートは 冷めてしまったお茶を 一口含んだ。

 

「 時に ― マドモアゼル。 

 ちょいと質問して よろしいかな 

「 え なにかしら 」

「 ふむ。  マドモアゼルにとって 静寂 とはなにかね 」

「 え ・・・? 」

フランソワーズの顔から 一瞬、す・・・っと表情が消えた。

固い顔 ― ツクリモノの印象が強い顔だ。

 

「 ― 申し訳ない。 不愉快な質問だったかな 

「 あ ・・・ ううん そんなこと ないわ。

 ない けど ・・・ 」

「 ああ 不躾なことを聞いてしまったな・・・

 すまん 忘れてほしい 」

「 いいのよ グレート。 貴方の役作りの参考になるなら ・・・

 でも あまりいいアドバイスじゃないかも 」

「 なぜだね 

「 わたしは 静寂 とは真逆の状態にいるんだもの。

 その ・・・ 特にあの服を着ている時は  」

「 ああ そうだな。 我らが情報収集塔だものなあ 」

「 ・・・ そうねえ ・・・

 わたしは自分の意志で完全に音をシャット・アウトもできるわ。

 そんなこと したことはないけど。 

「 ふむ?  不慮の事故で そうなったことは あるかい 」

「 ええ < 壊れて > しまったことは何回も ・・・

 003の耳 が壊れれば わたしの本来の聴覚もダメになるの。

 静寂は 安らぎかって?  とんでもないわ。

 沈黙というワイヤーで雁字搦めにされる気分よ

 こう・・ぎりぎりと壁が迫ってくるわ。

 できれば もう経験したくはないわ 

「 ふむ ・・・ 壁 か 」

「 そうよ  灰色のとてつもなく巨大な壁 ね 」

「 沈黙 というワイヤー  ・・・ か 

「 そんな感じ。  

 あ ほら、日本のマンガなんかで しずか〜〜〜な場面に

 シ −−−− ン って文字が書いてあるでしょう? 

「 ああ ああ アレな!

 慣れるまでは なんのことかと思っていたよ 」

「 ・・・ グレート、マンガ 読むの?? 」

「 おいおい マドモアゼル〜〜〜

 この国の漫画は 世界に誇る芸術 だと思うぞ ? 」

「 ジョーが喜ぶわよ 」

「 なるほど  なあ ・・・ 」

 

グレートは しばし考え込んでいた。

 

「 あ〜〜〜 美味しかったぁ〜〜〜

 フラン〜〜〜 最高っす! シアワセだあ〜〜〜 」

ジョーが 空のガラスの器の前で ほっこりしている。

「 まあ よかったわ 」

「 ねえ グレートもそう思うだろ? 」

「 ・・・・・ 」

「 あれ いちご 好きじゃなかった? 」

「 ・・・ 」

「 あのね グレートはお仕事のことで アタマがいっぱい

 なのよ。 」

「 ああ そうなんだ 大変だねえ 」

「 そうだわ!  ジョー 買い出しお願いね 」

「 あ いいよ なに? 」

「 ジャガイモ!  < きたあかり > が欲しいの 

「 おっけ〜〜〜 」

 

  ― この後 ジョーは防護服を着るハメになった とか・・・

 

 

Last updated : 03,10,2020.               index     /     next

 

**********   途中ですが

え〜〜 問題の? 戯曲は 完全な捏造です〜〜

グレート、ファンなんです (*^^*)

続きます〜〜