『 静寂 ―(1)― 』
ザザザ −−−− ・・・・きゅ。
その車は 信じられないほど静かに ― いや 優雅に
所定の位置に止まった。
パーキングエリアは 満車に近かった。
「 ふう ・・・ なんとか停められた ・・・ 」
「 よかったわあ〜〜 ジョ― 駐車 上手ねえ 」
「 ふふ〜〜ん♪ 実は得意なんだ〜〜 って
さあ 降りよう。 あ チケットは ・・・ 」
「 ご安心ください、 ちゃ〜んとわたしが持ってます。 」
「 サンキュ。 じゃ そっちから降りて 」
「 ええ ・・・ ああ 花束、無事ね。
ふふふ ・・・ とても素敵よね〜 」
フランソワーズは 後部座席に固定しておいた花束を
こそっと手に取った。
「 ウン ・・・ グレート 喜ぶよ〜〜 」
「 そうね そうね。 あ ジョー この紙袋 持ってくれる? 」
「 オッケ― 」
「 あ ジャケット! ほら 忘れないで 」
「 あ いけね〜〜 きっちりしないとな〜 」
「 そうよ。 我らが主演俳優氏のためにも ね 」
「 うぴゃ ・・・ 肩 凝りそう・・・ 」
「 うふふ 帰りに アイスを食べましょうねえ ジョー君♪ 」
「 わあい・・・ って それママのセリフだろう? 」
「 まあ いいじゃないの 」
くすくす笑い合いつつ 二人は車を降りた。
「 えっと・・・ 入口は・・・ あ まだ開場時間前か 」
ジョーはちらり、と腕時計を確認する。
「 大丈夫、楽屋口から入れるわ。 ココの劇場 使ったことあるから
こっちよ 」
「 ダメだよ〜〜 ルール違反は ナシ! 」
「 はあい 」
「 開場時間まであと少しさ。 のんびり待とうよ。 」
「 そうね。 あら ずいぶんヒトがいるわよ 」
「 ホントだ〜〜
」
「 前評判、いいのよ。 演劇雑誌だけじゃなくて
ネットなんかでも話題になってたわ。 」
「 そうなんだ ・・・ ぼく そういう方面には疎くて 」
「 じゃ しっか〜〜り見てね。 」
「 うん ・・・ あは なんか緊張してきちゃったよ 」
「 うふふ それも楽しいわ。 あ 開いたようよ 」
ジョーとフランソワーズは 人々の列に並び
ゆっくりと劇場内に入っていった。
カツカツカツ コツコツコツ ・・・
期待に満ちた人々の熱気が 劇場に満ちてゆく。
「 まだ時間あるわ。 楽屋に行きましょう。 」
「 あ うん。 どっち? 」
「 この奥のドアよ。 失礼しま〜〜す 」
「 ・・・ うわ 」
フランソワーズは 慣れた足取りで舞台裏に入ってゆく。
ジョーは あわてて彼女の後を追った。
華やかなホールの雰囲気とは 相反し < 裏 > は
薄暗くごたごたしていた。
出演者が少ないので 思いの他混雑はしていないが それでも
舞台関係者たちが 頻繁に行き来している。
「 わ ・・・ なんかすご ・・・・」
「 えっと ああ グレートはこっちの楽屋ね 」
「 え あ そう? 」
場慣れしているのか、ずんずん進んでゆく彼女の後に
ジョーはきょろきょろしつつついてゆく。
トントン トン
「 ハロ〜〜 グレート? 入ってもいいですか 」
「 オッケ〜 カム イン 」
陽気な声が返ってきた。
「 は〜〜い ミスタ・ブリテン? コングラッチュレイション 」
フランソワーズは ドアから まず花束を差し出した。
「 ほ? 」
「 うふふ〜〜 グレート〜 」
真紅の薔薇の花束をささげ 彼女は笑顔を楽屋に入れている。
「 おお〜〜〜 これは 我らがマドモアゼル〜〜
忝い これは 美しい・・・ マドモアゼル そなたと
そっくりだな 」
「 あらあ〜〜 お上手ね、 お世辞でも嬉しいわ 」
「 お世辞? なんの 吾輩は真実しか語らんよ 」
「 どうぞ よい舞台を♪ 」
「 メルシ、マドモアゼル 」
俳優氏は慇懃に腰をかがめ 白い手を取り ―
ちゅ。
― 心を込めて 接吻をした。
ひゃあ ・・・・
なんか 騎士をお姫さま だあ〜〜〜
ジョーは突っ立ったまま言葉もでない。
「 うふふ ・・・ 楽しみにしています。 初日 グッド・ラック(^^♪ 」
「 メルシ 」
舞台人どうしは に〜 っと笑みと交わしている。
「 は あ ・・・・ 」
そんな二人の側で ジョーはぽかん・・と半分口をあけ!
眺めていた。
「 さ これから仕上げね 失礼します 」
「 忝い〜〜 あ アルベルトの部屋は隣だ 」
「 ありがとう さ ジョー 行くわよ 」
「 あ ああ うん ・・・ グレート 頑張って 」
ジョーは ジャケットの裾を引っ張られ 慌てて
手を振った。
「 おう my boy、 了解だ 」
「 う うん じゃ ね 」
「 ほら 行くわよ 」
「 うん 」
若者たちは そそくさと楽屋部屋を出た。
「 ― グレート 緊張してた 珍しいわ 」
「 え そ そう??? いつものグレートと同じ・・・
に見えたけど ・・・ 」
「 そんな風に演じてたのだと思うわ。
だって 初日なのよ? どんな名俳優だって緊張するわ。
当たり前なの。 だから グレートは 」
「 普通 のフリしてたってこと か ・・ 」
「 そうね 多分。 」
「 じゃ・・・? 」
「 それだけ集中してると思うわ。 すごい舞台が見られそう! 」
「 そっか ・・・ あ アルベルトの楽屋は 」
「 え〜と あ こっちだわ。 ・・・ だめね 」
フランソワーズは ドアの前でぴたり、と足を止めた。
「 え なんで? ノックして入れば 」
「 ・・・・ 」
彼女は 黙って小さな張り紙を指した。
Don't disturb ご遠慮ください
「 あ ・・・ 」
「 彼 本番前は独りになりたいのでしょ。
いいわ ここに ・・・ 花束とカード、置いてゆきましょ 」
ことん。 彼女はスミレの花束を ドアの脇に置いた。
「 そうだね。 この花束 気に入ってくれるといいね 」
「 ええ。 さ 客席に戻りましょう 」
「 ウン。 あ は なんかぼくがドキドキしてきた〜〜 」
「 うふふ わたしもよ ああ 自分で踊るほうが
ずっと楽だわあ 」
「 ふうん そんなモンなんだねえ 」
「 さあ わたし達は客席で 思いっ切り楽しみましょうよ 」
「 そうだね〜 」
ジョーは ― ちょこっとギクシャクしたけれど ― 彼女に腕を
差し出した。
「 うふ♪ メルシ 」
白い腕がするり、と預けられた。
えっへっへ〜〜〜 ♪ 最高〜〜〜
ぼくのカノジョで〜〜す♪
彼は 堂々と彼女をエスコート、羨望と嫉妬の視線を集めつつ
ホールの中に入っていった。
― さて 楽屋では
カチャ ・・・・
ドアが静かに開き 燕尾服の銀髪が入ってきた。
「 ・・・・ 」
化粧前で仕上げを終えた役者は 黙って彼に視線を送る。
「 ・・・ よう 音楽家 」
「 どうした お前。 緊張するなんて 珍しいな 」
「 お前さんは緊張せんのかい。
演奏会前は いつもリラックス〜〜 ってヤツか 」
銀髪氏は 手袋をきっちり嵌めた指をきしきし動かしている。
「 ふん 俺は最高に緊張してるぞ。
お前の求める音が 奏でられるか 心臓が爆発しそうさ 」
「 ほ・・・お前さんでも 」
「 当たり前だ。 緊張しなくなったら お終いだろうが?
芸術家としては 」
「 確かに。 ・・・ 脚が震える 」
「 指がもつれそうだ 」
「 ほ お前さん よく言うな。 マシンガンをぶっ放すか 」
「 ヘソのスイッチで変身したのか 」
ははは ・・・ 二人にしか通じない笑い声があがる
「 俺達には ― 仲間がいる 」
アルベルトは 燕尾服の胸に差した一輪のスミレを指した。
「 うむ ! 」
グレートは 真紅の薔薇に顔を埋める。
り〜んご〜〜〜ん りんご〜〜ん
二ベルが鳴った。 まもなく緞帳が上がる。
「 行こう。 わが友よ 」
「 ・・・ 」
役者とピアニストは にっと瞬間の笑みを交わした。
『 静寂 ― しじま ― 』
主演: グレート・ブリテン ピアノ演奏: アルベルト・ハインリヒ
今期話題の注目作が、まずはトウキョウで幕を開けた。
ジョーとフランソワーズは 客席で背筋を伸ばしかなり緊張して
幕が上がるのを 心待ちにしていた。
「 ・・・ やだ わたし 」
「 え なに? 」
「 あ ごめんなさい なんでもないわ 」
「 そう・・・? 」
フランソワ―ズは 隣に囁き口を閉じた。
やだ ・・・ 掌 汗だらけ・・・
なに緊張してるの フランソワーズ?
自分の舞台なら ― 袖で最終チェックしてる頃ね
こんなに緊張する舞台って 初めてかも・・・
そう ね あの日から始まったんだわ
ほんの少しの間に 彼女は思い出を辿った。
それは ・・・ 数か月前 まだまだ寒さの残る頃のこと ―
カタン ―
玄関のドアが 静かに開いて 閉まった。
「 ただいま。 」
落ち着いた声が聞こえてきた。
「 あ グレート・・? 早いのね・・・
グレート〜〜 お帰りなさい〜〜〜 」
フランソワーズは エプロンで手を拭きつつ玄関に出た。
「 おう マドモアゼル。 もう夕食の準備かね 」
「 ううん オヤツよ♪ すごく美味しいイチゴをね
沢山買えたから 即席イチゴパフェ を作ってたの 」
「 うほ♪ もうイチゴかい。
それは それは ・・・早めに帰宅して正解だったな
あ 小生の分も ? 」
「 勿論♪ 甘党のジョン・ブルさん☆ 」
「 忝い。 では着替えてくるかな 」
「 ええ あ ウガイ・手洗い お願いしま〜す 」
「 了解 了解 」
グレートは 笑ってバス・ルームに消えた。
「 ふふふ ・・・ 後ろ姿 カッコイイのよねえ・・・
さすが名優さんね。 ジョーなんかとても敵わないわ 」
「 え なに〜〜〜 ? 」
ひょい、と玄関の納戸から 茶髪アタマが現れた。
「 わ!? な・・・ なんでそんなトコにいるの〜〜 」
「 え? ああ ちょっとさあ 探しモノ・・・
ねえ ぼくのグローブと球、しらない ? 」
「 ぐろーぶ?? 納戸に手袋なんか仕舞わないわよ??
手袋ならお部屋のチェストの引き出し でしょう? 」
「 あ 野球の。 ボールもさあ どっかにあるはずなんだけど 」
「 野球? 知りません〜〜 ねえ 手 洗ってきて。
オヤツよ♪ ふふふ いちごぱふぇ☆ 」
「 いちご ぱふぇ!?!? わっほほほ〜〜〜〜ん
」
ジョーは ドタドタ・・ 駆けて行った。
ことん ことん ことん。
ガラスの器が イチゴとアイスクリーム、そして ミルク・ジュレを
満載にして運ばれてきた。
「 はい、我が家の春で〜す 」
フランソワーズの声も弾んでいる。
「 わあ〜〜〜 美味しそうだあ〜〜〜」
「 おう 一足先に 春 だなあ 」
テーブルに並んだ いちごぱふぇ に 歓声が上がった。
「 いっただっきま〜〜す むぐ〜〜〜〜 おいし〜〜〜 」
「 ふむ ・・・ 目から春 口からも春 というところだな 」
「 うふふ 相変わらずねえ グレート ・・・
あ お友達とはゆっくりできたの? 」
「 おう 久々銀座でお茶をしたよ。
あふたぬ〜ん・てぃ は 本国のものより美味いな 」
グレートは 友人の戯曲家に会うためにわざわざ来日したのだ。
通常、舞台活動は ロンドンを拠点としている彼にしては珍しい。
「 ん〜〜〜〜 んま〜〜〜 シアワセ〜〜〜 」
ジョーは グラスの中の春 に全てを奪われている らしい。
「 ふふ ・・・ ほんとうに 春の味 ねえ 」
そうだな、と俳優氏も頷く。
「 時に ― ピアニスト氏は 本国かね 」
「 え アルベルト? ・・・多分 ・・・
演奏旅行に出るとは 聞いてないから 」
「 そうか。 連絡したいのだが 」
「 メールは ダメなの? 」
「 う〜ん できれば直接、話をしたいのだよ 」
「 それなら電話してみたら。
アルベルトって PCやスマホはあまり使わないっぽいわよ 」
「 なるほどな 」
「 なあに なにか彼に御用? 」
「 うむ 次の舞台で賛助出演を頼みたいのさ 」
「 あ アルベルトに??? え でも舞台って 演劇でしょう?? 」
「 そうなのだが 」
「 ・・・それ 無理じゃない?? 彼 演技は ・・・ 」
「 いやいや ピアノ演奏を任せたいのさ。
奴さんの専門、というか たしか ベートーヴェン弾き であったな? 」
「 ええ ・・・ ベートーヴェン とか リスト とか
重厚なものが得意みたいよ 」
「 ふ〜む ますます彼にしか頼めんなあ 」
「 ??? どういこと ?? 」
― 実は ・・・・と グレートは一口 お茶を飲んでから
話し始めた。
彼の来日は 件( くだん )の戯曲家氏直々の招聘だった。
かの御仁は日本人にしては 重いテーマの作品を数々手掛けている、
所謂 < 硬派 > な作家なのだが ―
「 これを 上演しよう、と言うのさ。」
パサリ。 グレートは 分厚い冊子を取りだした。
「 ・・・ 台本? 」
「 まだゲラ刷りだが な 」
「 タイトル ・・・ 『 静寂 』??? せいじゃく って
しずかなこと・・・? 」
「 しじま と読むそうだ。 ほぼ一人芝居なんだが 」
彼は ぱらぱら・・・台本をめくっている。
「 主人公の他に 数名出演者がいるが
大半は主人公だけだ。 ただ 音楽がとても重要な役割・・・
というか 出演者に近いのだよ 」
「 よくわからないけど ・・・ その音楽を
アルベルトに頼みたいってこと? 」
「 まあ そうなのだよ。
戯曲家は 音楽家は吾輩が選んでくれ、と言うのさ 」
「 ふうん ・・・ ねえ どんなお話なの 」
フランソワーズは 分厚い台本を指した。
「 マドモアゼルになら 話てもいいか な ・・・
おい 他言無用だぞ? 」
「 わかってます。 ねえ 教えて 教えて〜〜 」
「 うむ。 一人の音楽家の晩年のモノローグ かな
一言でいえば 」
「 音楽家 ・・・ タイトルは 『 静寂 』 よね
う〜〜ん ・・・ 晩年 ねえ 」
フランソワーズしばらく宙に目を据え 考えていたが
「 あ わかった!! ベートーヴェンね 主人公は 」
「 御意。 」
グレートは慇懃に会釈をした。
「 さすがマドモアゼル。 芸術家仲間に垣根はないな 」
「 うふふ ・・ そのくらいは知っていてよ?
『 静寂 』 って 彼の聴覚障害のことね? 」
「 ほほう ますますご聡明であられるな 我らが姫君。
その通りさ。 それで 」
「 ああ それで アルベルト ね? 」
「 まさに ― 」
俳優氏は 分厚い台本を ぴん、と指で弾いてみせた。
『 静寂 ( しじま ) 』
ベートーヴェンの晩年を描く、ほぼ主人公だけの一人芝居だ。
彼の作曲した多くのピアノ曲の大半が 演奏される。
しかし それは決して BGM ではない。
作曲家として また 一人の人間としての心情を 苦悩を
そして 歓喜を 表現する大切な < 助演者 > なのだ。
「 吾輩を一番理解している音楽家は 」
「 アルベルトしか 考えられないわよね 」
「 で あろう? しかし 稽古から本番まで
かなりの時間を掛ける。 それだけ拘束時間も長い。
奴さんの演奏活動を 妨害しかねんからな 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
「 吾輩としては アイツと演じたい。 」
「 そうよねえ あ 稽古はこっちで? 」
「 うむ。 その戯曲家は日本人なのさ。
吾輩なら 日本語の芝居もオッケーだろうってわけさ。 」
グレートは 日本の舞台でも活躍をしている。
彼のこなれた日本語での芝居を 望むプロデューサーは 多い。
「 こっちだって いい芝居をする適役な俳優氏は
たくさんいるだろう と言ったのだがね 」
「 そしたら? 」
「 ベートーヴェンなんだぞ?っていうんだよ。
とにかく < 西洋人 > にやって欲しいんだと 」
「 ふふふ それだけじゃないでしょう?
グレート、貴方の名声は こちらでも轟いているわよ? 」
「 忝い 」
彼は 彼女の手を取り 軽くキスをした。
「 それでは ピアニスト氏に電話してみるか 」
「 そうね。 きっと二つ返事で飛んでくるわ 」
「 そう願いたいけれどなあ 」
ぽりぽり・・・ スキン・ヘッドを掻きつつ グレートは
リビングへ行った。
「 ん〜〜〜ま〜〜〜 はあ〜〜
あれ ?? グレートは?? 」
茶髪アタマは やっとパフェの器から顔を上げた。
「 ・・・ 今 気づいたの? 」
「 う〜〜ん だってさ〜 このパフェ・・・もう最高!
イチゴとジュレとアイスの組み合わせ 絶品だよ〜〜
ジュレとイチゴ。 アイスとイチゴ どっちもいいよなあ
いっそ全部一緒に口に入れたら どうかな? 」
「 ・・・ それ 考えながら食べてたの? 」
「 あ? 今 思っただけさあ〜〜
食べる時には 食べることに集中しなきゃ !
あ〜〜 もう半分 食べちゃったんだなあ 」
彼は 名残惜しそう〜〜に器を眺めている。
「 ジュレならまだ残ってるけど ・・・ 足す? 」
「 わ!!! いいの?? 」
「 ええ。 たくさん作ったから 」
「 わお〜〜〜〜 お願いしますぅ〜〜〜 」
「 はいはい 」
「 むふふふふ〜〜〜 はっぴ〜〜 あげいん♪ 」
フランソワーズは ジョーの満面の笑みを眺めてから
キッチンに戻った。
・・・ ま いっか ・・・
あの笑顔は 皆をシアワセにするもの ね
BGだって知らないだろうなあ
009には スウィーツ! ってね ・・・
まもなく ジュレを満載、ちょこっとイチゴも乗った器が
トレイの上に準備された。
「 はい どうぞ 」
「 う わ〜〜〜〜〜〜〜〜 シアワセ 〜〜〜〜 」
ジョーは それこそ感極まった風で さっそくジュレとイチゴの虜となった。
ジョーの至福の時 かあ ・・・
・・・ わたし イチゴぱふぇ に負けそうかも
フランソワーズは 少しばかり複雑な想いもしないでは ない。
「 やれやれ ・・・ 」
グレートが リビングから戻ってきた。
「 あら もうお話、終わったの? 」
「 ああ 」
「 アルベルト いたでしょう? 」
どさり、 と グレートはテーブルの前に座った。
あら ・・・・ 浮かない顔 ねえ
まさか 断わられた???
でも アレベルトもスケジュール あるし ・・・
「 あの ・・・ ? ああ お茶 淹れ直しましょうか? 」
気をつかう彼女に 俳優氏は破顔してくれた。
「 〜〜〜〜 怒鳴られた・・・ 」
「 え なんで 」
「 時差を考えろ とさ 」
「 あ〜〜〜 そうねえ・・・ 今 真夜中だわ 」
「 左様。 しっかり忘れておったよ 」
「 ホント! あ で お仕事の件は? 」
「 チケットが取れ次第 来る、とさ 」
「 まあ 〜〜〜 よかったわ!
あ ピアノ、調律 頼んでおくわ 」
「 よろしくな〜 ああ 奴さんからの伝言だ マドモアゼル。 」
「 伝言? わたしに? 」
「 左様。 えっと・・・ きたあかり をたのむ だと 」
「 あ は ふふふ 了解です♪ 」
「 なんのことかね?? 暗号か? 」
「 うふふ ・・・ じゃがいも の種類よ。
日本の品種でねぇ 美味しいの! 彼 大好物なのよ 」
「 ほう〜〜 吾輩も頂きたいものだ 」
「 はいはい ジョーに頼んでたくさん買ってくるわ。
足りなかったら産地まで行ってもらうわね 」
「 産地? どこだね? 」
「 えっと 確か ― 北海道 ・・・ 」
「 うひゃあ ・・・ 」
「 加速装置、使えばすぐでしょ。 耐加速の箱、博士が
作ってくださったし。 」
「 はは あ ・・・ 時に 博士は? 」
「 珍しく学会よ。 アメリカで ・・・ ジェットが護衛してるわ。
週末にはお戻りになるはず。 」
「 ほう そうか ・・・ 」
グレートは 冷めてしまったお茶を 一口含んだ。
「 時に ― マドモアゼル。
ちょいと質問して よろしいかな 」
「 え なにかしら 」
「 ふむ。 マドモアゼルにとって 静寂 とはなにかね 」
「 え ・・・? 」
フランソワーズの顔から 一瞬、す・・・っと表情が消えた。
固い顔 ― ツクリモノの印象が強い顔だ。
「 ― 申し訳ない。 不愉快な質問だったかな 」
「 あ ・・・ ううん そんなこと ないわ。
ない けど ・・・ 」
「 ああ 不躾なことを聞いてしまったな・・・
すまん 忘れてほしい 」
「 いいのよ グレート。 貴方の役作りの参考になるなら ・・・
でも あまりいいアドバイスじゃないかも 」
「 なぜだね 」
「 わたしは 静寂 とは真逆の状態にいるんだもの。
その ・・・ 特にあの服を着ている時は 」
「 ああ そうだな。 我らが情報収集塔だものなあ 」
「 ・・・ そうねえ ・・・
わたしは自分の意志で完全に音をシャット・アウトもできるわ。
そんなこと したことはないけど。 」
「 ふむ? 不慮の事故で そうなったことは あるかい 」
「 ええ < 壊れて > しまったことは何回も ・・・
003の耳 が壊れれば わたしの本来の聴覚もダメになるの。
静寂は 安らぎかって? とんでもないわ。
沈黙というワイヤーで雁字搦めにされる気分よ
こう・・ぎりぎりと壁が迫ってくるわ。
できれば もう経験したくはないわ 」
「 ふむ ・・・ 壁 か 」
「 そうよ 灰色のとてつもなく巨大な壁 ね 」
「 沈黙 というワイヤー ・・・ か 」
「 そんな感じ。
あ ほら、日本のマンガなんかで しずか〜〜〜な場面に
シ −−−− ン って文字が書いてあるでしょう? 」
「 ああ ああ アレな!
慣れるまでは なんのことかと思っていたよ 」
「 ・・・ グレート、マンガ 読むの?? 」
「 おいおい マドモアゼル〜〜〜
この国の漫画は 世界に誇る芸術 だと思うぞ ? 」
「 ジョーが喜ぶわよ 」
「 なるほど なあ ・・・ 」
グレートは しばし考え込んでいた。
「 あ〜〜〜 美味しかったぁ〜〜〜
フラン〜〜〜 最高っす! シアワセだあ〜〜〜 」
ジョーが 空のガラスの器の前で ほっこりしている。
「 まあ よかったわ 」
「 ねえ グレートもそう思うだろ? 」
「 ・・・・・ 」
「 あれ いちご 好きじゃなかった? 」
「 ・・・ 」
「 あのね グレートはお仕事のことで アタマがいっぱい
なのよ。 」
「 ああ そうなんだ 大変だねえ 」
「 そうだわ! ジョー 買い出しお願いね 」
「 あ いいよ なに? 」
「 ジャガイモ! < きたあかり > が欲しいの 」
「 おっけ〜〜〜 」
― この後 ジョーは防護服を着るハメになった とか・・・
Last updated : 03,10,2020.
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********** 途中ですが
え〜〜 問題の? 戯曲は 完全な捏造です〜〜
グレート、ファンなんです (*^^*)
続きます〜〜