『 ぼうけん ! ― (6) ― 』
― パッション & ディザイア ―
カタン −−−
「 ただいま戻りました ・・・ あら ? 」
フランソワーズは 玄関で首を傾げた。
この邸の玄関のセキュリティは鉄壁だが 住人は顔認識で出入りは楽だ。
「 ・・・ まだ帰ってないのかしら ・・・
ジョー ・・・ 今日はバイトだったっけか ・・・ 」
よいしょ ・・・っと買い物袋を持ちあげた。
「 おお お帰り〜〜 すまんな 気がつかんで 」
博士が慌てた様子で 玄関ホールに出てきた。
「 博士。 いいえぇ ただいま戻りました。 」
「 うむ お帰り〜〜 買い物 ありがとうよ 」
「 美味しそうな枇杷がありました、 きっと甘いですよね 」
「 おお そうかい それは楽しみじゃのう〜〜
ウチの裏山でも 熟れ始めているなあ 」
「 ええ ええ ちっちゃな実ですけどね 」
二人は笑いあいつつ 玄関からキッチンに向かう。
「 あの〜 ジョーは まだ帰っていません? 」
「 ああ 彼にはちょいと仕事を頼んでなあ
横須賀まで出かけておるんじゃ 」
「 あら そうなんですか。 」
「 ― だが ・・・ 」
「 え? 」
「 ちょいと帰りが遅いのだよ・・・
ま 彼のことじゃから心配はいらんはず なのだが 」
「 横須賀の どこですか? 」
「 横須賀病院じゃ。 医療機器、精密機器を届けてもらった。
先方からは受け取った、との報告はきておるのじゃが 」
「 まだ戻ってない ? 」
「 うむ ・・・ 彼は寄り道することはないじゃろ? 」
「 そうですよねえ ジェットなら どこかでふらふら〜〜〜って
十分考えられますけど 」
「 そうそう ・・・ ジョーは 」
「 ちょっと < 視て > みますね。
正確な座標 わかります? 」
「 ああ 住所はここじゃ 」
博士は スマホで 横須賀病院の位置情報を出した。
「 ― 了解。 ・・・・・ 」
「 どうじゃね 」
「 ・・・ 少なくとも病院周辺には 見えません 」
「 そうか まあ ジョーのことじゃから 」
「 う〜〜ん 帰り道の方にレンジを広げてみます ・・・・ 」
「 電車で帰ると思うがの 」
「 ええ ・・・・ 〜〜〜〜 あっ ! 」
フランソワーズは 鋭い声を上げた。
「 ! ど どうしたっ ?? 」
「 崖 ・・・ いえ 草地が・・・・ 踏み崩れてて ず〜〜っと
崖下まで 」
「 ・・・・ 」
「 見つけましたっ ! 」
「 無事か? 」
「 ・・・ わかりません。 なぜか草地に転がってて・・・ 埋もれてる? 」
「 どこか損傷しているのかもしれん。 すぐに 」
「 わたし、行ってきますっ クルマ 出しますね 」
「 うむ ワシも行く。 応急手当キットを 」
「 博士、どうかメンテナンス・ルームでスタンバイをお願いします 」
「 しかし 」
「 すぐには 命に別状はなさそう ・・・ に見えます。
呼吸音も確認できますし ・・・ 」
「 そう か 」
「 街外れですけど・・・ 誰かにみつかって救急車〜 なんてことに
なったら大変です。 わたし すぐに行ってきます。 」
「 うむ・・・ 気をつけてな 」
「 はい。 行ってきますっ 」
フランソワーズは そのまま玄関に戻り ― そそくさと出かけた。
「 ・・・ ジョー どうした?? 009ともあろう者が ・・・ 」
心配顔で しかし博士も足早に地下のメンテナンス・ルームに
降りていった。
しまむら・じょ〜 ・・・ ?
目ヲ 開ケテ じょ〜
アタマの中で オジサン声と甲高い少年の声が コダマしている。
う 〜〜〜 ・・・?
・・・ み 皆? あ イワンもいる のか?
ジョーは 必死に目を凝らす なかなか視界がクリアにならない。
な なんで ・・・ ??
・・・あ ?
どうして ぼく ここでひっくり返ってるんだ ・・?
だんだんと霧が晴れてきた ・・・と思っていると
起キテ じょ〜 !!
「 う ん ・・・ 」
ぱあ〜〜〜っと光が眩しい〜 と ジョーは目を細めたが
次の瞬間 ― 騎士たちの顔が見えてきた。
「 う ・・・ あ ひ 姫君 は ・・・ 」
「 あ 気がついた 」
「 おう よかったなあ 」
「 あの ひ 姫君は 」
「 大丈夫。 お前がしっかり抱いていてくれたから
姫君は ご無事だぞ 」
「 よ ・・・ かった ・・・ 」
「 よく姫君を護ってくれた・・・ ありがとう! 」
「 よくやったぞ ぼ〜い 」
先輩の騎士たちが口々に礼を述べてくれる。
「 あ・・・ いや ぼくは ・・・ 」
アリガト お兄ちゃん
ぼ〜〜っとしているアタマに また少年の声が響いてきた。
「 え ・・・? 」
「 あ 急に起きてはだめだ。 まだ横になっていろや 」
「 これ 替えまひょなあ 」
丸まっちい騎士が ジョーの額の濡れた布を換えてくれた。
「 あ ・・・ ありがとう です ・・・
あのう 姫君は ・・・ 」
「 わたしはここよ。 しまむら・じょ〜 本当にありがとう 」
「 あ 姫様〜〜 」
不意に爽やかな香りがして す・・・ 温かく柔らかいものが彼の頬に触れた。
??? あ〜〜〜〜〜〜 ??
ふ フラン ・・・・
うっ は〜〜〜〜〜〜 ♪♪♪
「 そなたのお蔭で助かりました。
黒い幽霊も滅ぼすこともできたし ― ディザイア王国の王子殿も
こうして救出できました。 」
「 ・・・・ え ・・? 」
ヤア。 じょ〜 初メマシテ
ジョーの目の前に6〜7歳の少年がいた。
「 ・・・ お 王子サマ ? 」
「 そうだ。 殿下は黒い幽霊に囚われ幽閉されていたのだ。 」
「 ・・・ つくづくわっるいヤツですね〜〜〜 」
「 ははは そのつくづく悪いヤツ を倒したのはお前だぞ
しまむら・じょ〜 いや じょ〜騎士 」
スキン・ヘッド氏が 深々と会釈をした。
「 え あ そ そんな ・・・ 」
「 じょ〜騎士。 ディザイア王国の王子殿下だ。 」
「 あ ! お お目にかかれて 光栄です〜〜 」
ジョーは慌てて身を起こすと きちんと作法に適った挨拶をした。
何回か繰り返せば 平成っ子でもなんとかカタチになるのだ。
じょ〜 アリガトウ!
僕ヲ 自由二シテクレテ
少年はにこにこしているが なぜか言葉を発しない。
しかし ジョーのアタマの中にはちゃんと彼の声が響いている。
「 殿下。 御礼を申し上げるのはぼくの方です
あの時 ・・・ 拾いあげてくださったのは殿下ですね? 」
アハ ワカッチャッタ ?
ウン 君達ヲ てれぽ〜と シタヨ〜〜
黒イ幽霊ノ軛カラ 解放シテクレタンダモノ
ソレクライ御礼シテ 当然サ
「 ありがとうございます〜〜
殿下のお蔭で ぼくと姫君はこうして ・・・ 戻ってくることが
できました。 」
ウフ ・・・ ボク達 ともだちダヨ
じょ〜 ? ソウダヨネ
ふわり。 小さな手が差し出された。
「 はい。 」
ジョーはその手をしっかりと握った。
・・・ あれ?
な なんかこのシーン、ぼく知ってる??
「 あ あの さ。 もしかして・・・
君って ・・・ イワン? 」
し〜〜〜〜〜〜っ !
今ハ ソシテ ここデハ ソノ名前ジャナイヨ
ぼく ハ ぱっしょん王国 ノ 王子さま サ
「 あ ご ごめん ・・・
あの〜〜 さ ・・・ たびたびゴメン ・・・・
けど 君 ・・・ フラン姫の そのう〜〜 婚約者 なの ・・・? 」
エ ?
ア ソッカ〜〜〜 ごめん じょ〜
小さな銀髪の少年は ジョーの後ろに佇んでいる姫君の前に
とことこ・・・ 歩いてゆく。
「 殿下? なにか御用ですか? 」
「 ふらんそわーず王女様。 王女様、 僕ヨリ モットすてきナ
男性ガ 待ッテイルヨ〜〜。 」
「 はい? 」
「 僕達、ウマレル前二 父上同士ガ決メタ許婚ダヨネ ? 」
「 はい わたしは父からそう聞かされております。 」
「 ウ〜〜ン ダカラ サ。 今ハ 自由 二シヨウヨ 」
「 ・・・ はい?
」
「 ふらんそわーず王女様、 恋ヲシヨウヨ! 」
「 ・・・ はい? 」
「 ネ? 」
「 ― あ
では わたしは殿下にフラれてしまったのですね
」
「
ゴメン ふらんそわーず姫ニ モットフサワシイひと ガ イルヨ
ね じょ〜 ? 」
「 え あ あのぅ〜 そのう〜〜〜 」
え〜〜〜 フラン姫 好きなんだけどぉ〜〜
ぼくには 岬の家に フランがいるんだもんな〜
いや 二人は同一人物か?
「 ほっほ〜〜〜〜 お姫さんもじょ〜はんも戻ってきはったし〜〜
ほんなら 王子はんをお国へお送りいたしまひょなあ 〜 」
丸まっちい騎士が 陽気に声をあげた。
「 おお そうだな。 さあ 帰国の旅へと出発しようではないか 」
スキン・ヘッド氏も同意し、 皆はそれぞれ支度を始めた。
「 あるべると先輩 あ その花 ・・・ 」
ジョーは自分の旅嚢 ( リュックみたいなもの ) の側に
白銀の騎士が佇んでいるのに 声をかけた。
「 ん? あ じょ〜 」
「 ・・・ あ あの椿 ・・・ 」
「 うむ ・・・ あの五人姉妹が消えた時 この花がぼろり、と
落ちた。 」
彼は 両手で大切そうに萎れた白い椿の花を掬いあげている。
「 ・・・ そっか ・・・ あの人たちは椿の精だったんだ ・・・ 」
「 ・・・ 身を挺して我々を護ってくれた 」
「 ねえ 帰りにあの椿の群生地を通りますよね、
故郷に 帰してあげませんか 」
「 ああ それがいいな。 お前 なんか急にオトナっぽくなったぞ 」
「 え えへ? そっかな〜〜〜
あ そろそろ出発です。 」
「 おう ・・・ ありがとう わすれない。 」
白銀の騎士は 萎れた花にそ・・・っと口づけをした。
わいわい がやがや ほほほ あははは
高声の会話や 華やかな笑い声が大広間の満ち溢れている。
宮殿のお抱え楽師たちも ここぞ! と 腕にヨリをかけて演奏するので
妙なる音曲もながれ ・・・ まあ〜〜 ともかく賑やかこの上ない。
ディザイア王国 の 王宮は喜びでいっぱいである。
「 フラン よく よく 無事に戻ってくれた ・・・ 」
「 兄上。 ただいま 戻りました。
騎士諸君の協力で 黒い幽霊を討伐いたしました。
そして パッション王国の王子殿下を ご救出もうしあげました。 」
兄王の前で フランソワーズ姫は片膝つき報告をしている。
「 うむ うむ 本当にご苦労だった。 さあ 立っておくれ。
ありがとう〜〜 フラン〜〜 ああ 戻ってくれて本当に ・・・ 」
「 ジャン兄さま ・・・ 」
兄妹は 今 普通の 兄と妹にもどり再会の熱い抱擁を交わす。
うっぴゃ ・・・ ホントに兄さん だよねえ
後ろに控えるジョーは ニホンジンなので かな〜りフクザツな気分らしい。
「 さあ 今宵はそなた達の無事凱旋を祝しての宴だ。
騎士諸君ともども 存分に楽しんでおくれ。 」
「 兄上 ありがとうございます。 」
「 うむ あ ・・・ 姫? 今宵の宴では 美しく着飾っておくれ 」
「 え ・・・ わたしはこの姿が ・・・ 」
「 いやいや 騎士たち 民たち 皆がそなたの美し姿を
望んでおるよ。 ― なあ じょ〜 ? 」
へ ・・??
いきなり話題を振られて 後ろに控えていたジョーは びっくり☆
「 は ・・・ 」
「 そなたの働きには深く 深く感謝している。
私に代わって よく・・・・ 姫を護ってくれた ・・・ ありがとう 」
「 ・・・ は へ 陛下 ・・・ 」
だひゃ〜〜〜〜 ジャン兄さん だあ〜〜〜
「 そなたはやはり 伝説の少年 だったのだな。
できれば これからもずっとこの王国に残って騎士として活躍してほしい 」
「 陛下 ・・・ 」
ジョーは 恭しくアタマをさげる。
「 そして これは ・・・ 」
ジャン王は ぐっとジョーに近づき声を低くした。
「 私の希望なのだが ― フラン姫を幸せにしてやってはくれないか 」
「 は ・・・ 」
「 そなたとフラン姫に 国の西方を任せたいのだ 」
「 ・・・・ 」
・・・ そ そりゃ ・・・ 困るよ ジャン兄さん
ぼくは やっぱし岬の家に戻りたい・・・
「 兄上? 」
「 いや ・・・ さあさ 皆 ゆっくりして・・
今宵は祝いの宴を存分に楽しんでほしい 」
陛下〜〜〜〜 広間に詰めた側近たちは優雅に会釈をした。
・・・ さて その数時間後
「 ちがう! また 左足が遅れたぞ 」
「 あ・・・ す すんません いてっ 」
「 ほうら まちがった場所に足を出すから 踏まれるのだ 」
「 ・・ ひえ〜〜〜 」
「 ご婦人方の靴は 痛いぞう〜〜〜 」
「 ひえ・・・ 」
「 で あるから 踏まれないよう しっかりリードしたまえ。 」
「 へ〜〜い ・・・・ 」
城の一室で ジョーは特訓を受けていた ― そう ダンスの!
「 ふぇ〜〜〜ん ぼくにダンスは無理なんだってばあ〜〜 」
「 騎士がなにをいうか。 優雅にレディをリードできてこそ
一人前の騎士だぞ。 ほれ もう一回!
吾輩を フランソワーズ姫様だと思うのだ〜〜 」
「 ひえ〜〜〜〜 ぐれ〜と って意外とすぱるた〜〜 」
「 ごちゃごちゃ言っておらんで! ステップを覚えよ!
そして 今宵の舞踏会では姫君を最高に美しく踊られせ
もうしあげるのだ〜〜 」
「 ひえ〜〜〜〜 いてっ 」
「 ほら また間違えたぞっ 」
ひ〜〜〜〜ん ・・・ フラン〜〜〜〜
特訓は ( 当然 ) 昼ごはん抜き! で 続けられた とか・・・
ぱんぱらぱらぱ〜〜〜〜ん ♪♪
高らかに ラッパが鳴り響き ― ディザイア王国の大広間では
戦勝祝賀の宴 が始まった。
国王夫妻が ゆっくりと中央の玉座に着くと
一際 艶やかな裳裾を引いて 姫君が御出座しとなる。
ざわざわ ・・・・ ほ 〜〜〜〜〜 うわ ぁ ・・・
姫君は 薄い水色が基調のドレス、 チュールをふんだんに使い
真珠とアクアマリンが そちこちに輝く。
結いあげられた豊かな金髪にも 宝玉のティアラが美しい。
ほう ・・・・ なんと すばらしい ・・・!
姫君さま ・・・! ああ 立派なレディになられて・・・
周囲の人々は日頃 彼女の騎士姿ばかり眺めているので
あちこちからそのあまりの美しさに 感歎のため息・吐息が揚がる。
「 姫 ごらん? 皆が そなたに見とれているよ? 」
「 兄上 ・・・ とんでもございません。
身についてない借り着のようだ、と みな 笑っているのでしょう 」
「 ふふ ・・・ そう思うものなど この世にはおらんよ。 」
「 皆 ・・・ 今宵はありがとう 」
最初に ほんの一言だけ ジャン国王陛下からのお言葉があり ―
陛下は 堅苦しいことはあまり好まれない ― あとはすぐに無礼講となった。
無礼講といっても そこはさすがにディザイア王国、
集う人々は 優雅に語り合いそして微笑を交わす。
♪♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪ ♪ 〜〜〜〜
お抱え楽師達が 妙なる調べを演奏しはじめる。
「 おお ・・・ 踊っていただけますか マダム? 」
「 はい 喜んで 」
「 踊りませんか お嬢さん 」
「 はい! 」
何組かの 踊り自慢カップルが大広間の床をすべるように踊り始めた。
「 ( しまむら・じょ〜 行けっ ! ) 」
スキン・ヘッドの騎士は どん! と ジョーの背をド突く。
「 う ・・・ わあ・・・ 」
「 ( はやく! 姫君をダンスにお誘いもうしあげるのだ! ) 」
「 ・・・ え ・・・ ま 間違えたら どうしよ ・・・ 」
「 ( ごたごた言っておらんで ゆけ! ) 」
う〜〜〜 あ あとは 勇気だけだっ!
「 ひ 姫君 い いえ フランソワーズ王女殿下。
そのう ・・・ あのう ・・・ お 踊って頂けます か ?
あの ・・・ もし足 踏んじゃったらごめんなさい〜〜〜 あの・・・ 」
す ・・・ 真珠色の手袋が差し出された。
う わあ ・・・・ !!!
「 お 踊ってくださるの ですか 」
「 さあ ― 」
「 は はい〜〜〜 」
なぜか 姫君に手を引かれ? ジョーは広間の中央に進みでた。
「 で では お願いします 」
「 こちらこそ 」
フランソワーズ姫は にっこり微笑みジョーの腕に身体を預けた。
♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪ ♪♪♪ 〜〜〜〜
ワルツの優しい三拍子に乗って ふたりはゆるゆると踊り始めた。
「 じょ〜? 」
「 ・・・ 」
「 ?? しまむら・じょ〜? 」
「 ! は はい? なんでしょう〜〜〜
すいません ぼく ・・・ 超〜緊張してて・・・ 」
「 気楽にせよ。 ワルツではないか 」
「 え え ・・・ でも 三拍子ってムズカシイなあ〜〜 」
「 ??? 初歩的な足運びだと思うが 」
「 あ は ぼく 初心者なんで〜〜 」
「 ほう? あ ― じょ〜 は わたしが嫌いか? 」
「 いいえ いいえ! 」
「 そうか よかった ・・・ うれしい。 」
「 姫さま・・・? 」
「 では わたしが そなたに求婚したら 」
「 姫様。 」
ジョーは踊りつつ さ・・・・っと姫に口づけをし彼女の言葉を封じた。
「 ・・・ ? 」
「 姫様。 それ以上はおっしゃらないでください。
ぼくには ココロに決めたヒトがいるのです。 」
「 そう か ・・・ 」
「 あ あの でも そのヒトは もしかしたら アナタなのかもしれないし
違う運命をもったアナタなのかもしれない けど 」
「 ??? 」
「 あ ごめん でもね きみにはきっと ・・・ 別のじょ〜 が
現れます 茶色の瞳の じょー がね 」
「 ・・・ どうしてわかる 」
「 ぼくが突然現れたように ― 別のじょ〜 がきっと現れます。
だって 姫様は素敵だもの ・・・・! ものすごく。 」
「 ・・・ ありがとう じょ〜
ふふ ・・・ 不思議だな ・・・ 」
「 はい?? 」
「 フラれてしまったのに なぜか清々しい気分だ 」
「 姫さま ・・・ ああ なんて ・・・
どこからどこまで ぼくの好きなフランなんだあ〜〜〜 」
「 ?? 」
二人は優雅に踊りつつ それとなくバルコニーへと移動していった。
わいわい ・・・ がやがや ・・・・ ほほほ ふふふ
大広間では 騎士たちも次々にお相手をみつけ踊り始めた。
「 ・・・ ふん ・・・ 」
白銀の騎士は 隅のテーブルで静かに杯を傾けていた。
彼はあまり舞踏会などは好みではない のかもしれない。
― その時
「 あ あの ・・・ 失礼ですがお水を お持ちですか 」
茶色の髪の女性が 静かに尋ねてきた。
豊かに結いあげた艶やかな髪には 真っ赤な花が差してある。
「 ? ・・・ そ その花は 」
「 騎士さま ゴブリンの森に椿の林があるのをご存じですか 」
「 知っています。 ただ・・・ あそこは白い花だけ 」
「 はい 私もそう思っていました。
でも 今朝 遠駆けにでかけて通りかかりましたら ・・・
一本だけ 真っ赤な花をつけておりました。 」
「 ・・・ ビーナ・・・ 」
「 ・・・? 」
「 あ いや なんでもありません。
貴女の美しい髪を飾っている赤い椿は そこで ? 」
「 はい。 なぜか ひと際艶やかなこの花が
アタシを お城におつれください
と 話かけてきたのです。 ・・ 笑ってくださっても結構よ 」
「 いえ いいえ。 お聞かせください 」
「 それで一本、手折ってきたのですが ・・・
すこし元気がなくなったみたいで お水に差してあげたいのです。 」
「 レディ。 ただいまお持ちいたします。
失礼ですが お名前を伺ってもよろしいですか 」
「 はい わたくしは ヒルデガード と申します 騎士さま。 」
「 ありがとうございます。 私は あるべると 」
白銀の騎士は レディの前に片膝をついた。
さわさわさわ −−−−−− 夜風が心地よい。
「 おお 星が ・・・ 」
「 あ 本当だあ〜〜 キレイですねえ 姫さま 」
ジョーとフランソワーズ姫は バルコニーに並び空を見上げている。
「 姫さま ― どうぞ お幸せに 」
「 じょ〜? 」
「 ぼく いつも どこでも 姫さまの幸せを祈っています。 」
「 ・・・ 」
「 しあわせに ・・・ ! 」
あ ・・・ じょ〜 ・・・???
ふわり。 フラン姫の隣で ジョーの姿が揺れ ― 次の瞬間 消えていた。
「 ! ジョー !! ジョー 〜〜〜 」
「 ・・・ う ・・・ あ ? 」
ぺち ぺち ぺち ―
頬を軽く叩かれていることに ジョーは気がついた。
「 ・・・ あ ここ・・・ バルコニー ・・・? 」
「 ジョー〜〜 気がついた?? 」
「 ・・・ あ 星の数が 急に へった・・・? 」
やっとクリアになった視界には 暗い空と緑の草と ― そして ・・・
「 !? ふ フラン !? いや 姫君?? 」
「 ジョー〜〜 よかったあ〜〜 え? まあ なあに? 」
「 ・・・ あ いや なんでも ・・・
う・・・? なんだって ぼく こんなトコに・・・? 」
ジョーはゆっくり身体を起こした。
どうやら 草地の中に転がっていた らしい。
そして 目の前には懐かしい碧い瞳が心配そうに彼を見つめているのだ。
「 ジョー! どこか不具合、感知できる?
セルフ・チェックがアラーム 鳴らしている? 」
「 ・・・ あ。 」
ヒュ―――ン ・・・ 途端に体内システムが起動し始めた。
「 あ ああ ( そっか ぼくは 009 なんだっけ ) 」
「 大丈夫? 」
「 うん ・・・ 異常ナシ さ。 」
「 よかった! さあ 帰りましょう。 細かい説明は後よ・・・
この崖の上に車を止めてあるの。 歩ける? 」
「 ・・・ うん ありがとう。 うん もう 大丈夫。
ごめん、 ぼく 不注意で崖からすべり落ちたんだ 」
「 まあ 」
「 それで なんかどっか打ち処が悪かったみたいで さ・・・
ちょっとくたばってたらしいよ。 はは ・・・ だらしないね 」
「 ジョー 本当に大丈夫なのね? 」
「 009のセルフ・リカバリーを信じてくれよ。
・・・ ごめん 心配かけちゃった ね ・・・ フラン 」
「 ジョー ・・・ いいのよ、さあ 帰りましょう 」
「 ウン ・・・ ぼく達の家に ね 姫君 」
「 え ? 」
「 いや なんでも ・・・ ああ あの路地は ・・・? 」
崖の上に戻り 車に乗り込んだ。
「 わたしが運転するわ 」
「 ありがとう。 ・・・ あれ ? 」
「 なあに 」
「 ううん なんでもない 」
「 そう? じゃ 」
シュバ −−− 車は静かに動きだした。
帰路 どこにも 『 マジック・ドラゴン 』 の看板を見つけることは
できなかった。
あ ・・・ あっちの世界に帰っちゃったのかなあ
あの緑の石のペンダント ・・・ 失くしちゃったし
フランソワーズ姫さま〜〜
どうか 幸せに ・・・ !
シューーーー 二人を乗せたクルマは岬の家へと帰って行った。
― さて その数日後。
ジョーは再び横須賀病院を訪ねていた。
「 はい 今 彼がきますよ 」
ドクター・サトウは にこにこ・・・ ジョーを案内してくれた。
広い面会室で ジョーはちょっと緊張して待っていた。
パタン ・・・
クリーム色のドア開くと 薄い髪の色の少年が駆け出してきた。
「 あ ! お兄ちゃん! ありがと〜〜〜〜
ボク また はしれるよ〜〜〜 どこでも ゆける〜〜〜 」
彼が ぽ〜〜ん とジョーの腕に飛び込んだ。
「 そんなに駆けて 大丈夫かい 」
「 うん! ボク たくさん走れるんだ〜〜〜 新しい足 ありがと! 」
少年は きゅう〜とジョーにしがみついた。
あ このコは パッション王国の王子サマ・・・
あ そっか !
自由に開放 って このコトだったんだね!
「 あ は 〜〜 ちょっと遅れたけど 誕生日 おめでとう〜〜 」
あははは うふふふ〜〜〜
明るい笑い声が そこいら中のひとびとの笑顔を誘っていた。
うん ぼくの ぼうけん は
こういう ハッピーエンド だったんだあ〜
えへ めでたし めでたし ってコトだね♪
************************* Fin. *************************
Last updated : 06,11,2019.
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************ ひと言 ************
ああ やっと終わりました 〜〜〜〜〜
はあ ・・・ めでたし めでたし ☆
( やれやれ ・・・ ((+_+)) )