『  ぼうけん !  ― (6) ―  』

     ―  パッション ディザイア ― 

 

 

 

 

 

 

  カタン −−−

 

「 ただいま戻りました ・・・  あら ? 」

フランソワーズは 玄関で首を傾げた。

この邸の玄関のセキュリティは鉄壁だが 住人は顔認識で出入りは楽だ。

「 ・・・ まだ帰ってないのかしら ・・・ 

 ジョー ・・・ 今日はバイトだったっけか ・・・ 」

よいしょ ・・・っと買い物袋を持ちあげた。

 

「 おお お帰り〜〜  すまんな 気がつかんで 」

博士が慌てた様子で 玄関ホールに出てきた。

「 博士。  いいえぇ ただいま戻りました。 」

「 うむ お帰り〜〜 買い物 ありがとうよ 」

「 美味しそうな枇杷がありました、 きっと甘いですよね 」

「 おお そうかい それは楽しみじゃのう〜〜

 ウチの裏山でも 熟れ始めているなあ  」

「 ええ ええ ちっちゃな実ですけどね 」

二人は笑いあいつつ 玄関からキッチンに向かう。

  

「 あの〜 ジョーは まだ帰っていません? 」

「 ああ 彼にはちょいと仕事を頼んでなあ 

 横須賀まで出かけておるんじゃ 」

「 あら そうなんですか。 」

「 ― だが ・・・ 」

「 え? 」

「 ちょいと帰りが遅いのだよ・・・

 ま 彼のことじゃから心配はいらんはず なのだが 」

「 横須賀の どこですか? 」

「 横須賀病院じゃ。  医療機器、精密機器を届けてもらった。

 先方からは受け取った、との報告はきておるのじゃが 」

「 まだ戻ってない ? 

「 うむ ・・・  彼は寄り道することはないじゃろ? 」

「 そうですよねえ ジェットなら どこかでふらふら〜〜〜って

 十分考えられますけど 」

「 そうそう ・・・ ジョーは 」

「 ちょっと < 視て > みますね。

 正確な座標 わかります? 」

「 ああ 住所はここじゃ 」

博士は スマホで 横須賀病院の位置情報を出した。

「 ―  了解。   ・・・・・ 」

「 どうじゃね 」

「 ・・・ 少なくとも病院周辺には 見えません 」

「 そうか まあ ジョーのことじゃから 」

「 う〜〜ん 帰り道の方にレンジを広げてみます ・・・・ 」

「 電車で帰ると思うがの 」

「 ええ  ・・・・ 〜〜〜〜   あっ ! 」

フランソワーズは 鋭い声を上げた。

「 ! ど どうしたっ ?? 」

「 崖 ・・・ いえ 草地が・・・・ 踏み崩れてて ず〜〜っと

 崖下まで  」

「 ・・・・ 」

 

      「  見つけましたっ ! 

 

「 無事か? 」

「 ・・・ わかりません。 なぜか草地に転がってて・・・ 埋もれてる? 」

「 どこか損傷しているのかもしれん。 すぐに 」

「 わたし、行ってきますっ  クルマ 出しますね 」

「 うむ  ワシも行く。 応急手当キットを

「 博士、どうかメンテナンス・ルームでスタンバイをお願いします 」

「 しかし 

「 すぐには 命に別状はなさそう ・・・ に見えます。

 呼吸音も確認できますし ・・・ 」

「 そう か 」 

「 街外れですけど・・・ 誰かにみつかって救急車〜 なんてことに

 なったら大変です。 わたし すぐに行ってきます。 」

「 うむ・・・ 気をつけてな 

「 はい。  行ってきますっ 」

フランソワーズは そのまま玄関に戻り ― そそくさと出かけた。

「 ・・・ ジョー どうした??  009ともあろう者が ・・・ 」

心配顔で しかし博士も足早に地下のメンテナンス・ルームに

降りていった。

 

 

 

    しまむら・じょ〜 ・・・ ?

 

    目ヲ 開ケテ  じょ〜

 

 

アタマの中で オジサン声と甲高い少年の声が コダマしている。

 

    う 〜〜〜  ・・・?

    ・・・ み 皆?  あ  イワンもいる のか?

 

ジョーは 必死に目を凝らす  なかなか視界がクリアにならない。

 

    な なんで ・・・ ??

    ・・・あ ? 

    どうして ぼく ここでひっくり返ってるんだ ・・?

 

だんだんと霧が晴れてきた ・・・と思っていると

 

       起キテ  じょ〜 !!

 

「 う   ん ・・・ 」

ぱあ〜〜〜っと光が眩しい〜 と ジョーは目を細めたが

次の瞬間 ―  騎士たちの顔が見えてきた。

 

「 う ・・・ あ  ひ 姫君 は ・・・ 

「 あ 気がついた 

「 おう よかったなあ 」

「 あの  ひ  姫君は  

「 大丈夫。 お前がしっかり抱いていてくれたから 

 姫君は ご無事だぞ 」

「 よ ・・・ かった ・・・ 」

「 よく姫君を護ってくれた・・・ ありがとう! 」

「 よくやったぞ  ぼ〜い 

先輩の騎士たちが口々に礼を述べてくれる。

「 あ・・・ いや ぼくは ・・・ 」

 

      アリガト  お兄ちゃん

 

ぼ〜〜っとしているアタマに また少年の声が響いてきた。

「 え ・・・? 」

「 あ 急に起きてはだめだ。 まだ横になっていろや 」

「 これ 替えまひょなあ 」

丸まっちい騎士が ジョーの額の濡れた布を換えてくれた。

「 あ ・・・ ありがとう です ・・・

 あのう  姫君は ・・・ 」

「 わたしはここよ。  しまむら・じょ〜  本当にありがとう 」

「 あ 姫様〜〜 」

不意に爽やかな香りがして  す・・・ 温かく柔らかいものが彼の頬に触れた。

 

     ???  あ〜〜〜〜〜〜 ??

     ふ フラン ・・・・

 

     うっ は〜〜〜〜〜〜 ♪♪♪

 

「 そなたのお蔭で助かりました。

 黒い幽霊も滅ぼすこともできたし ― ディザイア王国の王子殿も

 こうして救出できました。 」

「 ・・・・ え ・・? 」

 

     ヤア。 じょ〜  初メマシテ 

 

ジョーの目の前に6〜7歳の少年がいた。

「 ・・・ お 王子サマ ? 

「 そうだ。  殿下は黒い幽霊に囚われ幽閉されていたのだ。 」

「 ・・・ つくづくわっるいヤツですね〜〜〜 」

「 ははは そのつくづく悪いヤツ を倒したのはお前だぞ

 しまむら・じょ〜 いや じょ〜騎士 」

スキン・ヘッド氏が 深々と会釈をした。

「 え あ  そ そんな ・・・ 」

「 じょ〜騎士。 ディザイア王国の王子殿下だ。 」

「 あ !  お お目にかかれて 光栄です〜〜 

ジョーは慌てて身を起こすと きちんと作法に適った挨拶をした。

何回か繰り返せば 平成っ子でもなんとかカタチになるのだ。

 

      じょ〜  アリガトウ!

      僕ヲ 自由二シテクレテ 

 

少年はにこにこしているが なぜか言葉を発しない。

しかし ジョーのアタマの中にはちゃんと彼の声が響いている。

「 殿下。 御礼を申し上げるのはぼくの方です

 あの時 ・・・ 拾いあげてくださったのは殿下ですね? 」

 

      アハ ワカッチャッタ ?

      ウン 君達ヲ てれぽ〜と シタヨ〜〜

 

      黒イ幽霊ノ軛カラ 解放シテクレタンダモノ

      ソレクライ御礼シテ 当然サ

 

「 ありがとうございます〜〜  

 殿下のお蔭で ぼくと姫君はこうして ・・・ 戻ってくることが

 できました。 」

 

      ウフ  ・・・ ボク達 ともだちダヨ 

      じょ〜 ?  ソウダヨネ

 

ふわり。 小さな手が差し出された。

「 はい。 」

ジョーはその手をしっかりと握った。

 

     ・・・  あれ?

 

     な なんかこのシーン、ぼく知ってる??

 

「 あ あの さ。  もしかして・・・

 君って ・・・ イワン? 」

 

       し〜〜〜〜〜〜っ !

       今ハ ソシテ ここデハ ソノ名前ジャナイヨ

 

       ぼく ハ ぱっしょん王国 ノ 王子さま サ

 

「 あ ご ごめん ・・・ 

 あの〜〜 さ ・・・ たびたびゴメン ・・・・

 けど 君 ・・・ フラン姫の そのう〜〜 婚約者 なの ・・・? 

 

       エ ?  

       ア ソッカ〜〜〜  ごめん じょ〜

 

小さな銀髪の少年は ジョーの後ろに佇んでいる姫君の前に

とことこ・・・ 歩いてゆく。

「 殿下? なにか御用ですか? 」

「 ふらんそわーず王女様。  王女様、  僕ヨリ モットすてきナ

 男性ガ 待ッテイルヨ〜〜。 」

「 はい? 

「 僕達、ウマレル前二 父上同士ガ決メタ許婚ダヨネ ? 」

「 はい わたしは父からそう聞かされております。 」

「 ウ〜〜ン  ダカラ サ。  今ハ 自由 二シヨウヨ 」

「 ・・・ はい?  

「 ふらんそわーず王女様、 恋ヲシヨウヨ! 」

「 ・・・  はい? 

「 ネ?  」

「 ―  あ  では わたしは殿下にフラれてしまったのですね 

  ゴメン ふらんそわーず姫ニ モットフサワシイひと イルヨ

   じょ〜  ? 」

  あ  あのぅ〜  そのう〜〜〜 」

 

     え〜〜〜  フラン姫 好きなんだけどぉ〜〜

     ぼくには 岬の家に フランがいるんだもんな〜

 

     いや 二人は同一人物か?

 

「 ほっほ〜〜〜〜  お姫さんもじょ〜はんも戻ってきはったし〜〜

 ほんなら 王子はんをお国へお送りいたしまひょなあ 〜 

丸まっちい騎士が 陽気に声をあげた。

「 おお そうだな。  さあ 帰国の旅へと出発しようではないか 

スキン・ヘッド氏も同意し、 皆はそれぞれ支度を始めた。

 

「 あるべると先輩  あ  その花 ・・・ 」

ジョーは自分の旅嚢 ( リュックみたいなもの ) の側に

白銀の騎士が佇んでいるのに 声をかけた。

「 ん?  あ じょ〜 

「 ・・・  あ あの椿 ・・・ 」

「 うむ ・・・ あの五人姉妹が消えた時  この花がぼろり、と

 落ちた。 」

彼は 両手で大切そうに萎れた白い椿の花を掬いあげている。

「 ・・・ そっか ・・・ あの人たちは椿の精だったんだ ・・・ 」

「 ・・・ 身を挺して我々を護ってくれた 」

「 ねえ 帰りにあの椿の群生地を通りますよね、

 故郷に 帰してあげませんか 

「 ああ それがいいな。  お前 なんか急にオトナっぽくなったぞ 」

「 え えへ? そっかな〜〜〜 

 あ そろそろ出発です。 

「 おう  ・・・ ありがとう  わすれない。 」

白銀の騎士は 萎れた花にそ・・・っと口づけをした。

 

    

 

 

    わいわい がやがや  ほほほ  あははは 

 

高声の会話や 華やかな笑い声が大広間の満ち溢れている。

宮殿のお抱え楽師たちも ここぞ! と 腕にヨリをかけて演奏するので

妙なる音曲もながれ  ・・・ まあ〜〜 ともかく賑やかこの上ない。

 

ディザイア王国 の 王宮は喜びでいっぱいである。

 

「 フラン  よく よく 無事に戻ってくれた ・・・ 」

「 兄上。 ただいま 戻りました。

 騎士諸君の協力で 黒い幽霊を討伐いたしました。

 そして  パッション王国の王子殿下を ご救出もうしあげました。 」

兄王の前で フランソワーズ姫は片膝つき報告をしている。

「 うむ うむ  本当にご苦労だった。 さあ 立っておくれ。

 ありがとう〜〜 フラン〜〜 ああ 戻ってくれて本当に ・・・ 」

「 ジャン兄さま ・・・ 」

兄妹は 今 普通の 兄と妹にもどり再会の熱い抱擁を交わす。

 

     うっぴゃ ・・・ ホントに兄さん だよねえ

 

後ろに控えるジョーは ニホンジンなので かな〜りフクザツな気分らしい。

「 さあ 今宵はそなた達の無事凱旋を祝しての宴だ。

 騎士諸君ともども 存分に楽しんでおくれ。 

「 兄上  ありがとうございます。 」

「 うむ  あ ・・・ 姫? 今宵の宴では 美しく着飾っておくれ  」

「 え ・・・ わたしはこの姿が ・・・ 」

「 いやいや  騎士たち 民たち 皆がそなたの美し姿を

 望んでおるよ。  ―  なあ じょ〜 ? 」

 

      へ ・・??

 

いきなり話題を振られて 後ろに控えていたジョーは びっくり☆

 

「 は ・・・ 」

「 そなたの働きには深く 深く感謝している。

 私に代わって よく・・・・ 姫を護ってくれた ・・・ ありがとう 」

「 ・・・ は  へ 陛下 ・・・ 」

 

      だひゃ〜〜〜〜  ジャン兄さん だあ〜〜〜

 

「 そなたはやはり 伝説の少年 だったのだな。

 できれば これからもずっとこの王国に残って騎士として活躍してほしい 」

「 陛下 ・・・ 」

ジョーは 恭しくアタマをさげる。

「 そして  これは ・・・ 」

ジャン王は ぐっとジョーに近づき声を低くした。

「 私の希望なのだが ―  フラン姫を幸せにしてやってはくれないか 」

「 は ・・・ 

「 そなたとフラン姫に 国の西方を任せたいのだ 」

「 ・・・・ 」

 

      ・・・ そ そりゃ ・・・ 困るよ ジャン兄さん

      ぼくは  やっぱし岬の家に戻りたい・・・

 

「 兄上? 」

「 いや ・・・ さあさ  皆 ゆっくりして・・

 今宵は祝いの宴を存分に楽しんでほしい 

 

    陛下〜〜〜〜    広間に詰めた側近たちは優雅に会釈をした。

 

 

 ・・・ さて  その数時間後

 

「 ちがう! また 左足が遅れたぞ 」

「 あ・・・ す すんません  いてっ 

「 ほうら まちがった場所に足を出すから 踏まれるのだ 

「 ・・ ひえ〜〜〜 」

「 ご婦人方の靴は  痛いぞう〜〜〜 」

「 ひえ・・・ 」

「 で あるから 踏まれないよう しっかりリードしたまえ。 」

「 へ〜〜い ・・・・ 」

城の一室で ジョーは特訓を受けていた  ―  そう ダンスの!

「 ふぇ〜〜〜ん  ぼくにダンスは無理なんだってばあ〜〜 

「 騎士がなにをいうか。 優雅にレディをリードできてこそ

 一人前の騎士だぞ。 ほれ もう一回!

 吾輩を フランソワーズ姫様だと思うのだ〜〜 」

「 ひえ〜〜〜〜  ぐれ〜と って意外とすぱるた〜〜 」

「 ごちゃごちゃ言っておらんで!  ステップを覚えよ!  

 そして 今宵の舞踏会では姫君を最高に美しく踊られせ

 もうしあげるのだ〜〜 

「   ひえ〜〜〜〜   いてっ 」

「 ほら また間違えたぞっ 」

 

       ひ〜〜〜〜ん ・・・ フラン〜〜〜〜 

 

特訓は ( 当然 ) 昼ごはん抜き! で 続けられた とか・・・

 

 

 

    ぱんぱらぱらぱ〜〜〜〜ん ♪♪

 

高らかに ラッパが鳴り響き ―  ディザイア王国の大広間では

戦勝祝賀の宴 が始まった。

国王夫妻が ゆっくりと中央の玉座に着くと

一際 艶やかな裳裾を引いて 姫君が御出座しとなる。

 

   ざわざわ ・・・・   ほ 〜〜〜〜〜  うわ ぁ ・・・

 

姫君は 薄い水色が基調のドレス、 チュールをふんだんに使い

真珠とアクアマリンが そちこちに輝く。

結いあげられた豊かな金髪にも 宝玉のティアラが美しい。

 

  ほう ・・・・  なんと すばらしい ・・・!

 

  姫君さま ・・・! ああ 立派なレディになられて・・・

 

周囲の人々は日頃 彼女の騎士姿ばかり眺めているので

あちこちからそのあまりの美しさに 感歎のため息・吐息が揚がる。

 

「 姫 ごらん? 皆が そなたに見とれているよ? 」

「 兄上 ・・・ とんでもございません。

 身についてない借り着のようだ、と みな 笑っているのでしょう 」

「 ふふ ・・・ そう思うものなど この世にはおらんよ。 」

 

    「 皆 ・・・ 今宵はありがとう 」

 

最初に ほんの一言だけ ジャン国王陛下からのお言葉があり ―

陛下は 堅苦しいことはあまり好まれない ― あとはすぐに無礼講となった。

 

無礼講といっても そこはさすがにディザイア王国、

集う人々は 優雅に語り合いそして微笑を交わす。

 

     ♪♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪  ♪ 〜〜〜〜

 

お抱え楽師達が 妙なる調べを演奏しはじめる。

 

「 おお ・・・ 踊っていただけますか マダム? 」

「 はい 喜んで 」

「 踊りませんか お嬢さん  」

「 はい! 」

 

何組かの 踊り自慢カップルが大広間の床をすべるように踊り始めた。

 

「 ( しまむら・じょ〜  行けっ ! ) 」

スキン・ヘッドの騎士は どん! と ジョーの背をド突く。

「  う ・・・ わあ・・・ 」

「 ( はやく! 姫君をダンスにお誘いもうしあげるのだ! ) 」

「 ・・・ え ・・・ ま 間違えたら どうしよ ・・・ 」

「 ( ごたごた言っておらんで  ゆけ! ) 

 

       う〜〜〜  あ あとは 勇気だけだっ!

 

「 ひ 姫君 い いえ フランソワーズ王女殿下。

 そのう ・・・ あのう ・・・ お 踊って頂けます  か ? 

 あの ・・・ もし足 踏んじゃったらごめんなさい〜〜〜  あの・・・ 」

 

 す ・・・  真珠色の手袋が差し出された。

 

 

       う  わあ ・・・・  !!!

 

「 お 踊ってくださるの ですか 」

「 さあ ― 

「 は はい〜〜〜 

なぜか 姫君に手を引かれ? ジョーは広間の中央に進みでた。

「 で では お願いします 

「 こちらこそ 

フランソワーズ姫は にっこり微笑みジョーの腕に身体を預けた。

 

   ♪ 〜〜〜〜 ♪♪♪  ♪♪♪  〜〜〜〜

 

ワルツの優しい三拍子に乗って ふたりはゆるゆると踊り始めた。

 

「 じょ〜? 」

「 ・・・ 」

「 ?? しまむら・じょ〜? 」

「 ! は はい? なんでしょう〜〜〜

 すいません  ぼく ・・・ 超〜緊張してて・・・ 」

「 気楽にせよ。 ワルツではないか 

「 え え ・・・ でも 三拍子ってムズカシイなあ〜〜 」

「 ??? 初歩的な足運びだと思うが 」

「 あ は  ぼく  初心者なんで〜〜 」

「 ほう?  あ ―  じょ〜 は わたしが嫌いか? 」

「 いいえ いいえ!  」

「 そうか よかった ・・・ うれしい。 

「 姫さま・・・? 」

「 では わたしが そなたに求婚したら 」

「 姫様。 」

ジョーは踊りつつ さ・・・・っと姫に口づけをし彼女の言葉を封じた。

「 ・・・ ? 

「 姫様。 それ以上はおっしゃらないでください。

 ぼくには ココロに決めたヒトがいるのです。

「 そう か ・・・ 」

「 あ あの  でも そのヒトは もしかしたら アナタなのかもしれないし

 違う運命をもったアナタなのかもしれない  けど 」

「 ??? 」

「 あ ごめん  でもね  きみにはきっと ・・・ 別のじょ〜 が

 現れます 茶色の瞳の じょー がね 

「 ・・・ どうしてわかる 

「 ぼくが突然現れたように ― 別のじょ〜 がきっと現れます。

 だって 姫様は素敵だもの ・・・・! ものすごく。 」

「 ・・・ ありがとう じょ〜

 ふふ ・・・ 不思議だな ・・・ 

「 はい?? 」

「 フラれてしまったのに  なぜか清々しい気分だ 

「 姫さま ・・・ ああ なんて ・・・

 どこからどこまで ぼくの好きなフランなんだあ〜〜〜 」

「 ?? 」

二人は優雅に踊りつつ それとなくバルコニーへと移動していった。

 

 

  わいわい ・・・ がやがや ・・・・ ほほほ  ふふふ

 

大広間では 騎士たちも次々にお相手をみつけ踊り始めた。

「 ・・・ ふん ・・・ 」

白銀の騎士は 隅のテーブルで静かに杯を傾けていた。

彼はあまり舞踏会などは好みではない のかもしれない。

 

 ― その時 

 

「 あ  あの ・・・ 失礼ですがお水を お持ちですか 」

茶色の髪の女性が 静かに尋ねてきた。

豊かに結いあげた艶やかな髪には 真っ赤な花が差してある。

「 ?  ・・・ そ その花は 」

「 騎士さま  ゴブリンの森に椿の林があるのをご存じですか  」

「 知っています。 ただ・・・ あそこは白い花だけ 」

「 はい 私もそう思っていました。

 でも  今朝 遠駆けにでかけて通りかかりましたら ・・・

 一本だけ 真っ赤な花をつけておりました。 

「 ・・・ ビーナ・・・ 」

「 ・・・? 

「 あ いや  なんでもありません。

 貴女の美しい髪を飾っている赤い椿は そこで ? 」

「 はい。  なぜか ひと際艶やかなこの花が

 

    アタシを お城におつれください 

 

 と 話かけてきたのです。  ・・ 笑ってくださっても結構よ 」

「 いえ いいえ。 お聞かせください 」

「 それで一本、手折ってきたのですが ・・・

 すこし元気がなくなったみたいで お水に差してあげたいのです。 」

「 レディ。 ただいまお持ちいたします。

 失礼ですが お名前を伺ってもよろしいですか 」

「 はい  わたくしは  ヒルデガード と申します 騎士さま。 」

「 ありがとうございます。  私は あるべると 」

白銀の騎士は レディの前に片膝をついた。

 

 

  さわさわさわ −−−−−−  夜風が心地よい。

 

「 おお 星が ・・・ 」

「 あ 本当だあ〜〜  キレイですねえ 姫さま 」

ジョーとフランソワーズ姫は バルコニーに並び空を見上げている。

「 姫さま ― どうぞ お幸せに 」

「 じょ〜?  」

「 ぼく いつも どこでも 姫さまの幸せを祈っています。 」

「 ・・・ 」

「 しあわせに ・・・ ! 」

 

    あ  ・・・  じょ〜 ・・・??? 

 

 ふわり。 フラン姫の隣で ジョーの姿が揺れ ― 次の瞬間 消えていた。

 

 

 

 

「 !  ジョー !!  ジョー 〜〜〜  」

「 ・・・  う ・・・  あ ? 」

 

     ぺち ぺち ぺち ―  

頬を軽く叩かれていることに  ジョーは気がついた。

 

「 ・・・ あ  ここ・・・ バルコニー ・・・? 

「 ジョー〜〜  気がついた?? 」

「 ・・・ あ 星の数が 急に へった・・・? 」

 

やっとクリアになった視界には 暗い空と緑の草と ― そして ・・・

 

「 !?  ふ フラン !? いや 姫君?? 」

「 ジョー〜〜 よかったあ〜〜   え? まあ なあに? 」

「 ・・・ あ いや なんでも ・・・

 う・・・? なんだって ぼく こんなトコに・・・? 」

ジョーはゆっくり身体を起こした。

どうやら 草地の中に転がっていた  らしい。

そして 目の前には懐かしい碧い瞳が心配そうに彼を見つめているのだ。

「 ジョー!  どこか不具合、感知できる?

  セルフ・チェックがアラーム 鳴らしている? 」

「 ・・・ あ。 」

 

    ヒュ―――ン ・・・  途端に体内システムが起動し始めた。

 

「 あ ああ  (  そっか  ぼくは  009 なんだっけ ) 」

「 大丈夫? 」

「 うん ・・・ 異常ナシ さ。 

「 よかった!  さあ 帰りましょう。 細かい説明は後よ・・・

 この崖の上に車を止めてあるの。  歩ける? 

「 ・・・ うん ありがとう。  うん もう 大丈夫。

 ごめん、 ぼく 不注意で崖からすべり落ちたんだ 」

「 まあ 」

「 それで なんかどっか打ち処が悪かったみたいで さ・・・

 ちょっとくたばってたらしいよ。  はは ・・・ だらしないね 」

「 ジョー  本当に大丈夫なのね? 」

「 009のセルフ・リカバリーを信じてくれよ。

 ・・・ ごめん 心配かけちゃった ね ・・・ フラン 」

「 ジョー ・・・ いいのよ、さあ 帰りましょう 」

「 ウン ・・・ ぼく達の家に ね  姫君 」

「 え  ? 」

「 いや なんでも ・・・  ああ あの路地は ・・・? 」

崖の上に戻り 車に乗り込んだ。

「 わたしが運転するわ 」

「 ありがとう。  ・・・ あれ ? 」

「 なあに 」

「 ううん  なんでもない 」

「 そう? じゃ 」

  シュバ −−−   車は静かに動きだした。

帰路 どこにも  『 マジック・ドラゴン 』   の看板を見つけることは

できなかった。

 

    あ ・・・ あっちの世界に帰っちゃったのかなあ

    あの緑の石のペンダント ・・・ 失くしちゃったし

 

    フランソワーズ姫さま〜〜 

    どうか 幸せに ・・・ !

 

  シューーーー   二人を乗せたクルマは岬の家へと帰って行った。

 

 

 ― さて その数日後。

 

ジョーは再び横須賀病院を訪ねていた。

「 はい 今 彼がきますよ 」

ドクター・サトウは にこにこ・・・ ジョーを案内してくれた。

広い面会室で ジョーはちょっと緊張して待っていた。

 

  パタン ・・・  

 

クリーム色のドア開くと 薄い髪の色の少年が駆け出してきた。 

 

「 あ !  お兄ちゃん!  ありがと〜〜〜〜

 ボク また はしれるよ〜〜〜  どこでも  ゆける〜〜〜 」

 

彼が ぽ〜〜ん とジョーの腕に飛び込んだ。

「 そんなに駆けて 大丈夫かい 」

「 うん! ボク たくさん走れるんだ〜〜〜  新しい足 ありがと! 」

少年は きゅう〜とジョーにしがみついた。

 

    あ  このコは パッション王国の王子サマ・・・

 

    あ そっか !

    自由に開放 って  このコトだったんだね!

 

「 あ は 〜〜  ちょっと遅れたけど 誕生日 おめでとう〜〜 」

 

         あははは うふふふ〜〜〜  

 

 明るい笑い声が そこいら中のひとびとの笑顔を誘っていた。

 

     うん  ぼくの ぼうけん は

     こういう ハッピーエンド だったんだあ〜

 

     えへ  めでたし めでたし  ってコトだね♪

 

 

*************************     Fin.    *************************

Last updated : 06,11,2019.                 back     /    index

 

************   ひと言  ************

ああ やっと終わりました 〜〜〜〜〜

はあ  ・・・ めでたし めでたし ☆

( やれやれ ・・・ ((+_+)) )