『 リーダーの条件 ― (2) ― 』
シュバ シュバ シュバ ・・・・ !!!
圧縮音と共に 空気が揺れる。
「 もう一回。 」
003の乾いた声が響く。
「 ・・・ !! 」
009は 長めの前髪をかき上げため息をつく。
「 どれも一発命中じゃないわ。 」
「 ・・・ 」
「 もう一回。 」
「 ・・・ 」
彼は スーパーガンを握り直し 前方の的に向かった。
照明も薄暗い地下で 009はひたすらマトに向かって撃っている。
ギルモア博士と00ナンバーサイボーグ達はこの地に辿りついた後
コズミ博士の別邸に居候をしている。
「 ふぉ ふぉ ふぉ ・・・ 地下など自由に広げてもらって
かまわんよ。 なに こんな辺鄙な土地 誰も気にはせんよ 」
ご当主のコズミ氏は 鷹揚な老紳士だった。
「 え いいのですか。 こんな大人数でお世話になっているのに 」
「 賑やかになっていいなあ〜〜 ま 気楽にすごしてくれたまえ 」
母屋は典型的な日本家屋で 009はよく縁側にお邪魔をし
昼寝をしたりしていた。
「 地下 ・・・ ちょいと広げたよ。 ロフト兼シェルターになるよ 」
「 それはいいな 」
「 ねえ ・・・ 荷物入れるまえにちょっと使ってもいいかしら? 」
珍しく003が 口をはさんだ。
「 え いいけど なにに使うの? 」
008は少し驚いた顔だ。
「 ええ あのね 射撃の訓練したいの。 」
「 射撃の?? なんで?? 君 ぴかイチじゃん 」
「 あ わたし じゃなくて。 あの 」
彼女の表情を見て 008はぴん、ときやた。
「 ・・・ あ〜〜。 うん あれ? ご本人は 」
「 ふん ・・・ 縁側で昼寝だ 」
「 あは ・・・ そりゃ〜〜〜 特訓だね 」
笑いだした008を 004はやっちゃらんない・・の顔で見る。
「 ・・・ったくもう! 全然危機感がないんだもの!
ちょっと呼んでくるわ 」
「 ま〜 故郷でのんびりしてるんだろ〜 」
「 そんな余裕 ないはずよ。 008 あなただって見てたでしょう?
・・・ あの撃ち方。 」
「 あ うん まあね。 初めてなんだから さ 」
「 だから訓練するの。 失礼。 」
003は にこり、ともせずに席を立ち部屋を出ていった。
「 ・・・ お〜〜 コワ ・・・ 」
「 ふん 彼女は正論だ。 いつまでもシロウトさんでいてもらっちゃ
困る。 」
「 ははは ・・・ あのボーイの意識が 009 と適合すれば
すぐに スーパーヒーロー になれるさ。 」
007は のんびりと紅茶の香を楽しんでいる。
「 ほっほ〜〜〜 お嬢さん、えろう怒ってはるな 」
「 あはは・・・ ま〜〜 いんじゃないかな〜〜
ちょっと僕 この辺りをまわってくるね。 水路とか気になるし 」
008は お茶を飲み干すを立ち上がった。
「 裏の雑木林 見回る。 ・・・ この地は いい。
大地が 生きている。 」
「 ふうん ・・・ 頼む 」
005は 片手をあげ静かに出ていった。
「 ほんで 飛び屋さんはどないしてん 」
「 寝てる 」
「 ? 部屋で かいな 」
「 いや。 屋根の上 」
「 屋根 やて??? 」
「 ナントカと煙は高いところに上がるって な 」
「 はっは 吾輩はご老体達のご機嫌伺いだ
なにか必要なものがあれば 買い出しにゆくぞ 」
「 あいや〜〜〜 ちょい 厨房に寄ってや〜〜 」
「 はいよ 」
サイボーグたちの午後のお茶は 穏やかにお開きとなった。
シュバ シュバ シュバ ・・・・ !!!
「 もう一回。 」
003は にこり、ともせずに言う。
「 ・・・ くそ〜〜〜 」
009は ぐ・・・っと口を引き結び スーパーガンを構えなおす。
「 りきんでも ダメ 」
「 う ・・・ 」
「 そんな力いっぱい握ったら ブレるだけ 」
「 む ・・・ 」
009は 銃を持ち直した。
「 ・・・ どうしてもほんの少し銃口が下がってしまうんだ ・・・!
身体の均衡が ブレているのかな 」
「 それなら 最初から少し上を狙えばいいことだわ 」
「 え・・・?? 」
「 お遊びの射撃とは違うのよ? いかに射撃の精度を上げるか、でしょ。
それも即行で。 フォームとか云々〜〜言ってる場合じゃないわ。 」
「 それは ・・・ そうだけど 」
「 自分自身の身体のクセをしること。 」
「 ・・・ あ 」
「 そのクセに対応する。 そして 自分自身の身体を信じること。 それが全て 」
「 わかった 」
009は 前方の的を睨みすえた。
・・・・ あ この言葉 ・・・
003 いや フランソワーズは 自分自身のコトバに少し心が動いた。
「 ・・・ わたし 聞いてたわ ・・ そして かみしめた わ ・・・ 」
シュ シュ シュ ・・・
軽快な音楽の合い間に 自分の脚が空を切る音が 聞こえる ― 気がする。
「 ・・・ ん ・・・・ あ ? あ〜〜〜 」
フランソワーズは バランスを崩しがくん、と脚を落としてしまった。
♪♪ ♪ 〜〜〜〜〜
彼女の隣で カトリーヌは 調子を落とさずに回り続けている。
う〜〜〜ん ・・・・ すごいわ
カトリーヌ、 回転モノ 得意だものねえ
フランソワーズは後ろにさがりつつ 仲間を見つめている。
「 そうだ カトリーヌ ・・・ 」
先生は 短く声をかけただけで見守っている。
〜〜〜〜〜 ♪。
スタッ。 ブルネットの少女は 32回まわりきり きっちりと着地をした。
「 うん 随分安定してきたな。 最初の ・・・ 」
バレエ・マスターの先生は 2〜3 テクニック上の注意を与えた。
「 はい。 」
カトリーヌは こくん、と頷いた。
全然 なんでもないみたい・・・・
う〜〜〜ん すごい〜〜〜
「 フランソワーズ。 」
「 ! は はい? 」
「 途中でやめない 」
「 ・・・ ・・・ 」
「 いいか 自分自身の脚を信じろ。 」
「 ・・・・ 」
そりゃ 信じたいけど〜〜〜〜
いつも 途中でちょこっと傾くのよね〜〜
なんでかなあ
ダンマリを決め込んでいる彼女に 先生は重ねて言ってくれた。
「 あのな。 自分の身体の癖を知るんだ。
それに応じて ― 回ってみろ。 」
― え ・・・・?
「 どうしても右に寄ってしまうなら 自分で左に少し傾けてみれば
いいだろう? 誰だって完全にフラットな身体を持っているわけ
じゃないんだ 」
「 は はい ・・・ 」
「 クラスでは左右対称にまっすぐになるよう レッスンするさ。
それを完全にマスターするのは理想だ。 」
だけど、 と 先生は言葉を切った。
「 理想どうりには なかなか行かない そうだろ? 」
うん うん ・・・・!
クラス中のダンサーが 皆 こくん、と頷いた。
「 だから 自分なりに ― 対処するんだ。
そのためには 自分自身の身体をよく知り − 信じろ 」
そう か ・・・ !
フランソワーズは 稽古場の隅でしっかりと頷いた。
しゅ しゅ しゅ ・・・ !
グラン・フェッテは その日から 彼女の楽しみ にかわった。
そう だったわ。 あの時 ・・・・
「 そっか わかった。 うん ・・・これで 」
シュバ −−−−−− ・・・・
009のスーパーガンは まるで違う動きをしていた。
「 わかった ! わかったよ ありがとう〜〜〜 003 」
「 よかったわね。 これでわたし達 安心よ 」
「 ごめん ・・・ 」
「 謝る必要ありません。 わたし達は 仲間 なんだから 」
「 ・・・ うん! 」
ぱあ〜〜〜 ・・・・ 少年の笑顔はとても眩しかった。
「 じゃ ね。 練習はこれでおしまい。 」
「 うん。 ありがとう〜〜〜 003! 」
「 どういたしまして。 あ ここはわたしが片づけるから ・・・
ピュンマたちの手伝いをお願い。 」
「 りょ〜かい! ホント ありがと! 」
にこ。 彼はまた笑った。
春の陽射しみたい ね ・・・
003は 少しだけ頬を緩め ロフトの中を片づけた。
「 さあ これでいいわ。 ふうん ずいぶん広いわねえ
・・・ 稽古場も このくらいあった かな 」
先ほどの記憶が また蘇る。
懐かしいレッスン場 ― 長年使い込まれ艶がでた床 ・・・
バーは 中央がすこし撓んでいたっけ。
「 ・・・ 自分自身の脚を信じろ か ・・・ 」
彼女は 鏡もなにもない部屋の、 がらんとした中央に出て
本当に おそるおそる ことん、 と回ってみた。
あ ・・・ ?
以前とはまるで違う感覚だ。 ツクリモノの身体のバランスは 生身の頃とは
全然変わっていた。
それでも 彼女は もう一回。 しっかりとプレパレーションをとり 床を蹴る。
ことん。 一回転し きっちりと四番に降りた。
「 ・・・ ! 」
それから ― もう夢中になった。
ピルエットを繰り返し アチチュード・ターンをし アラベスク・ターンにつなげ・・・
003 いや フランソワーズは踊り続ける。
で きる かも ・・・!
最後は中央に出て グラン・フェッテ を始めた。
ダブル・ピルエットから 〜〜〜
シュ シュ シュ ・・・・ 脚が ツクリモノの脚が空を切る。
「 ・・・ ! あ あ〜〜〜 」
軸脚がずれて ― ズタ −−−− ン !!!
派手に吹っ飛んだ。
「 ・・・ あ たたた・・・ いった〜〜〜 」
床の上でしたたか打ったオシリをさすり 足が脚が無事であるか確かめた。
「 あ は? やだ〜〜 こんな習慣、忘れてると思ってたのに 」
打撲の痛み、なんだか懐かしい痛みに顔をしかめつつも ・・・・
ふ ふふふ ふふふ ・・・ フランソワーズは次第に大きく笑い始めた。
「 ふふふ ふふふ〜〜〜〜 」
彼女は声をあげて笑った。
あの頃とは 全然違うけど ―
でも。
また 踊れる かもしれない
… !
床から立ち上がり 足を見る。
靴下はまっくろだ。
また ポアント 履けるかも しれない
また ヴァリエーションを踊れる かも
そうよ わたし 踊るの!
薄暗いロフトが フランソワーズには明るく輝いてみえた。
翌日から 彼女は密かにレッスンを開始した。
「 ・・・ アルベルトおじさん。 僕 相談があるんだ 」
茶髪の少年が もじもじしている。
「 ん? なんだ。 」
アルベルトは新聞の向こうから わざとのんびりと応えた。
おいおい ・・・ 俺は青少年悩み相談室 か!
オマエらには立派な両親がいるだろうに ・・・
「 ウン。 あの さ ・・・ 」
「 だから なんだ。 明確に論理だてて言え。 中学生だろ 」
「 う ・・・ん・・・ 」
すばるはしばらく口を閉じてじ〜〜〜っと床を見つめていた。
ほう ・・・?
チビの頃の甘ったれすばる とはちょっと違う顔だぞ
アルベルトは新聞の影から甥っ子の様子を観察する。
・・・ なんか髪の色 薄くなってきたなあ
親父よかお袋さんの髪に近い ぞ?
そうだ 相棒は濃い髪になってきていたなあ
ふ〜〜ん 思春期だしいろいろ変化するのか
「 うん。 あのね アルベルトおじさん 」
すばるは 大きくうなずくとしっかり顔を上げた。
「 僕、島村すばる はぁ 」
少年は とつとつと語り始めた。
「 ふん ・・・・? 」
004は この少年が一生懸命順序立てて話すのに耳を傾ける。
「 それで。 え〜〜と ・・・ 僕は。
アルベルト伯父さんに なんらかのアドバイスを貰えればなあ
と 思うのでした。 」
は?? おや 真顔だな、冗談じゃないって顔だ。
「 俺は この国の弓など 写真で見たことがあるだけだぞ 」
「 あ〜 その〜〜〜 特に和弓だけじゃなくていいのです。
はたして どうすればマトに当たるか が問題です。 」
真面目に言ってるな?
・・・ コイツ、まだ語彙が少ないんだろう
アルベルトは笑いだしたいのを堪え ことさらさり気なく答える。
「 すばるは部活で練習をしているんだろう? コーチや上級生もいるんだろ 」
「 うん。 部活のセンセイは しはん なんだ。 先輩も上手だよ 」
「 おう それならそのヒトたちの指導通りに練習して 」
「 うん。 練習してるんだけどぉ〜〜 いっつもまがるんだ 」
「 ?? なにが まがるって 」
「 だから〜〜 矢。 」
「 マトに当たらないのか 」
「 当たるよ〜 けど 曲がるから的中じゃないんだ ちょっとズレる 」
「 てきちゅう? 」
「 あ 真ん中に当たることです 」
「 そうか。 真ん中にヒットってことだな 」
「 そう。 それでね〜〜 試合とかするんだ。
ですから 僕としましては現状をいかに改善するか が当面の
問題なのです。 」
すばるはまた 奇妙な口調になった。
ぷ ・・・ なんだ コイツ。
ははあ 客観的なコトは自分のコトバで言えないのか
アルベルトは咳払いでこみ上げる笑いを散らす。
「 的中ねえ。 あ〜 それならおまえのお袋さんに聞け 」
「 え〜〜〜 おか〜さんに?? 」
「 ああ。 」
「 おか〜さん 弓 やってたの? 」
「 いいや。 でもお前の親父もお袋さんにしごかれてたぞ 」
「 え〜〜〜 」
「 なにかに命中させる ってお前のお袋さんの得意技だ。 」
「 へ え〜〜〜 しらなかったぁ〜 」
すばるは 開けっ放し?な顔になり 心底驚いている。
「 一度 聞いてみたかったんだが。
すばる、お前なぜ 弓 を始めたのかい? 」
「 え〜 ・・・ ? う〜ん なんつ〜かあ〜
・・・
こう〜
しゅばっ て
命中するの 気分い〜じゃん? 」
「 あ〜
すばる お前は確かにあのお袋さんの子だな 」
「 ? 僕 ずっとウチのおか〜さんのこどもだけど? 」
「 そりゃそうだ。 まあ 手始めに親父に聞いてみろ。 」
「 おと〜さん?? おと〜さん 部活やってなかったって言ったよ 」
「 いや 命中させるコツ について さ。 」
「 ふ〜〜〜ん ・・・・? 」
すばるはど〜も怪しんでいる ― らしい。
「 お前の親父なら 訓練、いや 練習方法を知ってるぞ
」
「 ふうん・・?? でもさ アルベルトおじさんはどう思う? 」
「 自分自身を信じろ。 信じられるまで訓練するんだ。 」
「 練習しろってこと? 」
「 そうだ。 ただやみくもに数を重ねろっていうんじゃない。
自分自身が納得がゆく方法をみつけて訓練するんだ。 」
「 なっとく? 」
「 弓のことはわからないが ― 自分自身の身体を意のままに使いこなせる
自分自身の身体を よく知る、 かな。 」
「 よく知る ? 」
「 そうだ。 まったく左右対称の身体なんてありえんからな。
もし ― 癖を発見したら修正可能か 見極めろ 」
「 う〜〜ん 」
「 不可能、 と思ったら ― いいか 諦めるじゃない。
それに対応するんだ 」
「 対応? 神対応 とか 塩対応 とか? 」
「 ? なんだ それ。 ようするに 目の前の課題を解決するべく
練習するのさ
」
「 う〜〜〜ん〜〜〜 困難な局面デス 」
「 あ・・・っと。 オマエ 本 読め。 ライト・ノベルでも
雑誌でもなんでもいいから たくさん本を読むんだ。
言葉を豊かにしておけよ。 」
「 え 僕 読んでるもん。 」
ほら〜〜 と 彼はバッグの中から 鉄道ジャーナル と 今月の時刻表
を取りだした。
「 あ? あ〜〜 すばるは テツ だったな 」
「 そ♪ 新幹線の上とか どんなんだろ〜な〜〜 」
お おおおっと〜〜〜
・・・ 親父と同じシュミ かよ
アルベルトはさり気なく話題をもどす。
「 裏庭にあるんだろ 練習場 」
「 ウン。 でも 矢は射らない約束。 」
「 まあな 危ないものな ちょいとおまえのフォームを見せてくれ 」
「 おっけ〜〜〜 行こ、おじさん 」
「 おうよ 」
二人は 裏庭に出てきた。
物干し場の向こうに すぴかのバスケ・ゴール が揺れている。
木製のポールの周りは地面が踏み固められて堅く締まっている。
彼女が頻繁にドリブル・シュート練習をしている様子だ。
「 あの ここに立って ― アレがマト 」
「 うん? あ〜 あれか
お ・・・ 結構距離があるなあ 」
所定の位置に立つと 的の中心はペットボトルの蓋くらいにみえる。
― それに当てるのは 勿論004には増差もないことだが・・・
中学生の少年には 大変なことだ。
「 そ? お父さんに距離 計ってもらって設置したんだ 」
「 ほう ・・ それで すばるはここで弓を引いて シュミレーション
するわけだな ? 」
「 しゅみ ・・・ なに? 」
「 あ〜 < 矢があるつもり > で 弓を引く練習をしてるんだろ 」
「 そ〜〜 こう ・・・ して 」
すばるは す・・・っと姿勢を正すと すすす・・っと流れるような動きで
板の上に立ち 弓を取り上げた ― そして きり −−−− と引き絞る。
ほう? 一応 サマになってるじゃないか
「 ・・・ で しゅ ・・・! 」
すばるは 矢を放った音を口真似した。
「 なるほどなあ その動作は決まっているのかい 」
「 ウン。 いっこでも違うコトしたら反則なんだ〜〜 」
「 厳しいんだな。
」
「 えっと。 弓道は伝統を重んじるスポーツです。
どの所作をとっても正しく矢を射るために不可欠な動作なのです。 」
は ・・・ < と 教わりました > ってことか
アルベルトは笑いをかみ殺すのにかなり苦労した。
「 なるほど。 なかなかサマになっているぞ ― それで曲がるのか 」
「 ウン。 ど〜してなのか わかんないんだ〜〜 」
「 ふん 」
アルベルトは 右手の手袋を取った。 その下からは< 普通の >手が現れる。
ギルモア博士と001が 心血を注いで作った004の、 いや
アルベルトの 手 なのだ。
もちろん その下は百戦錬磨のマシンガン・アームであるが ・・・
「 俺は 指が商売道具だから その弓を引くことはできない。
アドバイスはできんが すばるの姿勢は 正しい と思うぞ 」
「 ほんと?? でも ど〜して ちょこっと曲がるんだろ?? 」
「 自分では < まっすぐ > のつもりなのだろう 」
「 ん〜〜〜 姿勢が悪いのかな〜 まっすぐ立ってるつもりなんだけど 」
「 鏡で見たか 他人に矯正してもらったかい 」
「 ウン。 でも まがるんだ〜〜 」
「 ほ ・・・ それじゃ お袋さんに聞いてみろ 」
「 え〜〜〜 おか〜さんに〜〜 」
「 そうさ。 姿勢 とか まっすぐ は ダンサーには必須だろ 」
「 あ そっか〜〜〜 ・・・タクヤお兄さんも まっすぐに飛んでみろって 」
「 だろ? 専門家に任せろ 」
「 ん! ありがと〜〜〜 アルベルトおじさん 」
「 ふふん ・・・・ かっこいいぞ、すばる。
もう一回 弓を引く姿をみせてくれ 」
「 うん!! 僕 秋の新人戦に出たいんだ みて! 」
すばるは張り切って また静かに姿勢を正し弓を引く体勢にはいった。
中学生ながら 彼の動作は流れるようで無駄がない。
勿論 すばるは今まで仕舞とか 日本舞踊 など習ったことも見たことすら
ないだろう。
見よう見真似から始めたはずのその所作は ― すでに彼自身の動きになっていた。
ふうん ・・・ のんびり坊主 だと思っていたが
コイツは 倦まず弛まず努力するヤツ か・・・
う〜〜ん これは隠れた才能だなあ
大器晩成 か。
ふふふ・・・ジョーとフラン、どっちに似たんだか・・・
アルベルトはじ〜〜んわり 心の底から温かい気持ちに包まれた。
コイツと あの姉貴 ― お前たち、望む道を行け。
俺はそのためには なんだって手助けするぞ
ひゅん ひゅん ― 弦が するどく大気を震わせていた。
〜〜〜 ♪♪ ♪♪ ♪
ショパンのノクターンが 静かにリビングに流れる。
「 ・・・ ああ いいわねえ ・・・ 」
フランソワーズはソファに身を埋め ― 目を閉じ聞きほれている。
ふふふ ・・・ 脚が動いてるよ、奥さん
隣でジョーは ブランディ・グラスの影に笑みを隠す。
「 ・・・ ふん ふん ・・・ 」
博士も心地よさそうに身体を揺すっている。
〜〜〜♪ 音が すう・・・っと消えた。
「 ・・・ あ〜〜 」
「 ありがとうよ アルベルト。 次は 君の好きな曲をたのむ 」
博士は 深い満足の吐息をついた。
「 御意。」
ひと息入れると 彼は重厚な音を奏で始めた。
家族全員での わいわい〜〜〜 賑やかな晩御飯の後 ・・・
子供達は やっとのことでベッドに入り ― オトナたちの時間となった。
「 いいコ達だ ・・・ 二人とも 」
「 うむ うむ ・・・ ワシは本当に幸せじゃよ 」
「 あらあ〜〜 もう毎日大変なのよ!
あの二人の連合軍はね BG なんかよりもず〜〜〜っと手強いの ! 」
「 そ。 もう年々手に負えなくなってきてさ 〜
もう バリバリの反抗期突入 〜〜なんだ。 」
「 ふふふ それも成長の証 だろう? 」
「 そりゃ〜 まあそうだけど ・・・ 」
「 いつまでもチビっこじゃない、ってわかってるけど ・・・ 」
両親は 顔を見合わせため息 だ。
「 すぴかも すばるも。 リーダーの資質があるな。
いずれ ― 二人とも ヒトの先頭に立つ人物になる。 」
「 ・・・ 別に いいんだ、 普通にシアワセに生きてゆければ 」
「 そうよね 」
「 ふふふ いや アイツらはいつでもより高みを目指し生きてゆくよ 」
「 え ・・・ 」
「 なにせ ジョー と フランソワーズ の 子供達 なんだから 」
「「 え ・・・ 」」
「 ふふふ あの子達は溢れる愛の中におるからじゃよ 」
博士に言葉に 皆温かい想いにつつまれるのだった。
― リーダーの条件は 愛。 そうだよね、 すぴか すばる。
*************************** Fin.
*************************
Last updated : 08,14,2018.
back / index
************** ひと言 **************
弓道については ネット検索オンリー ですので
どうぞ 目を瞑ってやってください〜〜 <m(__)m>
グラン・フェッテ 云々 は マジです、
ふ・・・っと気が散ったりすると 落っこちます★★★
あ ショパンのノクターン は 『 レ・シルフィード 』の
音です〜〜