『 腕の中 ― (3) ― 』

 

 

 

 

   おはよ〜〜〜ございまあす   おはよっす〜〜〜〜

 

ダンサー達が軽くあいさつを交わしつつ スタジオに入ってくる。

普通の世間一般としては ちょこっと遅い時間だけれど

彼ら・彼女らにとっては 十分 < 早い > ときなのだ。

 

「 おっは〜〜〜〜 」

「 ・・・元気だね  」

朝から びんびん張り切っている若い子もいるが

大半は ぼ〜〜〜っとしつつストレッチ・・・して床に転がったり。

まあ 眠ってはいない。  半分は眠ってるかもしれないけど・・・

それぞれのやり方で 自分自身の身体を < 起こして > いるのだ。

 

        さあ がんばるわ!

  

       足は ・・・ ( ぴこぴこ )

       う〜〜ん なんとか < 皮膚 > は

       くっついている かな・・・

 

フランソワーズは 保温用のもこもこ靴下の中で足指をうごかしつつ

スタジオに入った。

 

「 ・・・ おっはよ〜〜 ございまあす 〜〜  」

なんとな〜く 声が小さくなってしまう。

「 あ おはよ フラン〜〜 大丈夫? 」

仲良しのみちよが いつものバーの場所で手を振っている。

「 みちよ〜〜  ウン なんとか・・・ ぶかぶかのスニーカーできたわ。

 ひえぴた、いいわね! いっぱい貼ってきたわ 」

「 あはは まあ  あんまし無理しない方がいいよ 」

「 ん ・・・ ありがとう〜〜   あ。 」

フランソワーズは タオルを肩にかけると ぱっと

入口に駆けて行った。

「 タクヤさん!  おはようございます〜〜〜

 あの・・・・ 昨日はいきなりキャンセルして・・・ ごめんなさい! 」

「 あ ふ フランソワーズ ・・・ さん・・・

 え?  あ  あのう〜〜 俺も昨日 ・・・・ 」

いつも元気印の 山内タクヤくん。 なんだか冴えない雰囲気だ。

・・・ 寝足りない、というカンジでもない。

「 え? タクヤさん 朝のクラスには見えなかったけど 」

「 あ うん 俺。  あ〜 カトウ先生んとこ、行ったんだ 」

「 カトウ先生って あのカトウ先生?  ここの・・・? 」

「 ウン。  パ・ド・ドウ クラス 受けたんだ。

 カトウ先生んトコで 」

「 へえ??  いいなあ〜〜〜 ねえ わたしも受けたいわ 

「 あ ・・・・男性パート ってかサポートのテク専門 なんだ 

「 へえ〜〜  カトウ先生のテク、しっかり教わった? 」

「 うん! って言いたいけど ・・・ 」

 

   はあ〜〜〜〜    う ・・・ ぃてててて〜〜〜

 

タクヤは大きなため息を吐くと 腰と腕を擦っている。

「 ?? どうしたの? 」

「 ・・・ 筋肉痛。  も〜〜〜 めったくたしごかれた・・・

 ユリ先生がパートナー やってくれたんだけどぉ

 チビの頃みたく ・・・ めたくそ★ 怒鳴られた〜〜   」

「 ユリ先生?  あの ササキ・ユリ先生のこと? 」

「 そ。 あ〜〜 カトウ先生のオクサンさ。  おっかね〜んだ・・・ 」

「 ふうん ・・・? 」

「 俺  クラスで筋肉痛 なんて久々・・ うううう 」

タクヤは文字通り 呻吟 している。

 

 

 ― そう。 彼は昨日 徹底的に鍛えられたのだ。

 

      ♪〜〜〜〜 ♪♪♪

 

もう 何回、いや 何十回 同じ曲の同じパートをリピートしただろうか・・・

「 ・・・ ・・・! 」

タクヤは 半ば朦朧としつつ 目の前のパートナーを支える。

「 ・・・ ん〜〜 そうそう そんな感じ〜〜  いいわよ〜 」

「 ・・・ へ? 

「 続けて 続けて〜〜 ラストまで行こうよ 」

「 は  はい 

 

百万回 ( のように思える ) の繰り返しの後、

腕はしびれて感覚もなくなってきた時 ・・・

さんざん怒られたトコロは 難なく通過できた。

 

「 〜〜〜 ん〜〜  少しはわかったみたいね〜〜〜 

 ほら 男性ヴァリエーション〜〜 続けようよ

 さあ 思いっ切り跳んで〜〜 」

「 ・・・ あ は ・・・ 」

聞き慣れた音で タクヤはのびのび〜〜〜〜 思いっ切り跳ね飛び

豪快に ブルーバードのヴァリエーションを踊った。

 

「 ふんふん  さすがね♪ じゃ コーダ ゆこうか? 

 連続のブリゼ・ボレ がんばれ〜〜〜〜 

「 ・・・ は  はい 」

きゅ。 奥歯をかみしめ タクヤはスタジオ後方から出ていった。

 

「 どうだい。 少しは参考になったかな 」

カトウ先生は 踊り終わった彼に にこやかに聞く。

「 は はい!!  もの ・・・ すご〜〜く ! 」

タクヤは 少年みたいに目を輝かせている。

「 そりゃ よかった ・・・

 さて 最後のメニュウは 筋トレ だ 」

「 き 筋トレ ぇ〜〜〜 ? 」

「 ああ。 オンナノコ、支えて持ち上げるんだぞ?

 筋力なくて どうする〜〜〜  いけ〜  ほれ! 」

 

 

「 ・・・ってさ。 クラスの最後に 腹筋・背筋〜〜

 トドメは 指立て伏せ50回 ・・・ 」

タクヤは レッスン前から疲れきった声を出す。

「 ゆびたてふせ ・・・? って 指で  やるの? 」

フランソワーズの目は もうまん丸でこぼれ落ちそうだ。

「 そ・・・ オトコはさ フィンガー とかあるじゃん?

 ピルエットのサポートも 指が命 だって・・・ 」

「 すご ・・・ タクヤ できるの? 」

「 やった・・・  けど 俺 ・・・ 全身筋肉痛で 〜〜

 ベッドで金縛り状態 さ 」

「 うわあ ・・・ 」

「 あっちもこっちも ココもアソコもいって〜の〜〜〜〜 」

「 ・・・ 今朝 レッスン、大丈夫? 」

「 大丈夫ってことになってる・・・ 」

「 どういう意味? ・・・ わたし その日本語のニュアンス、

 わからないわ 」

「 マドモアゼル。  カトウ先生がな ・・・

 明日の朝、クラス、休むなよ! 筋肉痛はもう一回使えば

 消えるからな   ・・・って。

 も〜〜 みえみえで さ・・・ 」

「 あは すご〜〜い〜〜〜 神対応だわあ〜 」

「 ソレ ちょっち使い方が違う ・・・ 」

「 え なあに? 」

「 いえ なんでも。  とにかく ― クラス、死ぬ気で  やる 」

「 素敵!  でも死なないでね 」

「 ・・・ はいよ 」

あっかるく励まされ?  タクヤも気持ちが盛り上がってきたらしい。

「 ん〜〜〜   あ? フラン〜〜〜

 君も昨日 ・・・ クラス 休んだ? 」

「 いいえ?  途中で抜けたけど ・・・ 出たわ。 」

「 そ? あ 足、痛いって・・・・ 」

「 そ〜なのです。  ズル剥けしまして。 

 履ける靴がなくて。 庭サンダルできました。 」

「 え〜〜〜〜〜 マジィ? フランが?? 」

「 だあって 裸足でこれないでしょう? 」

「 ま そりゃ・・・ 」

「 だから唯一履ける靴で来たの。 」

「 ひえ〜〜〜〜 

「 でもね〜〜 帰りは・・・ 車で  

 あ そうだわ! 

 ねえねえ ユリ先生ってカトウ先生の奥様なの?? 」

「 あ? あ〜  フラン、知らんかったかあ・・・

 家にスタジオ、あってさ、二人でバレエ・スタジオもやってるよ 」

「 へえ・・・ いいわねえ〜〜 そういうの、理想だわ 」

「 え・・・ふ フランもそう思うか? 」

「 ええ。 ダンサーなら皆 そんな風な将来、いいな〜って 

 思うでしょ? 」

「 ・・・・・・ 」

タクヤは ぶんぶん首を縦に振った。

 

     いいわねえ〜  タクヤと一緒なら 理想だわ

 

     わたし そんな風な将来 夢見ちゃう

 

 ・・・ と 彼の耳には < 聞こえた > のだ ・・・ !

 

「 ??  どしたの? 顔 赤いわよ? 

「 え ・・ あ  その〜〜  ヒーター 熱いなあ〜って 」

「 ??  点けたばかりよ?  ― あ マダムよ 」

「 ・・・っとぉ 

 

    おはよう〜  さあ 始めますよ。

 

ぴん、とした声が響き ダンサー達は全員が立ち上がり

 ぴ・・・っ! と 姿勢を正した。

 

  〜〜〜♪♪  ♪♪♪  

 

ピアノの音が滑らかに響き始め バレエ団の朝のレッスンが始まった。

 

「 ・・・ プリエ 〜〜 っと ・・・ 」

フランソワーズは いつもより数倍、神経を使っていた。

「 ん ・・・ 足さん  どう? 」

何気な〜い顔をしつつ 足の剥けた部分へ意識を集中する。

昨日 貼り替えた < 新しい皮膚 > は 狭い部分なので馴染みが悪い。

張り付けた絆創膏が 緩んでいるみたいな感覚なのだ。

 

      んん〜〜〜 ?

      な なんか  浮きそう・・・

 

      っ!  いった〜〜〜〜

      ああ 半分 剥がれちゃったかしら

 

「 ・・・ タンジュ と ( いった〜〜〜 ) 」

歩いて来た時には ほとんど感じなかった 違和感 が

もりもり?盛り上がってきて ― ついに 痛みに変わった。

「 ・・・ くう〜〜〜  昨日よかマシだけど ・・・

 ああ でもこれで全部剥がれちゃったら ・・・

 ・・・ うわあ★  痛い汗がでてきた ・・・ 」

 

      人魚姫 の気持ち、わかるわぁ〜〜

      一足あるく毎に ナイフの上・・か

 

( < ありえる > じゃないよ。 原作・人魚姫! )

 

かなり自虐的というか Mの極みな気分になってきた。

それでも それでも、だ。

なんとか バーは最後まで頑張った。

いつもとは違う 冷たいいや〜〜〜な汗が全身から滲み出てしまった。

 

  ありがとございましたあ〜  はい お疲れさま〜〜〜

 

拍手と共に全員でレヴェランスを交わした時

す〜〜〜っと血の気が引く思いで 足がふらついた。

 

 

      ! ・・・ だめよ フランソワーズ!

 

唇を噛み締め 足を踏み締め ― 何気ない風を装った。

 

      ―  はあ 〜〜〜〜 ・・・・

 

      リハ ・・・ できるかなあ

 

よれよれしつつ なんとか更衣室に入った。

「 ・・・ あ〜〜〜 やっぱ半分 剥がれてる・・・ 」

そうっと特殊絆創膏をめくって < 新しい皮膚 > を

観察したが ―  博士の苦労は半分、ぱ〜になっていた。

「 ・・・ 痛いワケだわ 」

「 あ〜 フランソワーズ  また剥けちゃった? 」

「 あ みちよ・・・ うん。 っていうか・・・

 昨日のトコ、発展型 ・・・ 」

「 あや〜〜 辛いねえ  リハなんでしょう? 」

「 ウン  しょうがない。 やるわ! 」

「 無理すんなって。 あんまし痛いの我慢してると

 貧血おこすよ〜〜 アタシ ぶっ倒れたこと、あるから 」

「 ・・・ え ・・・ そうなの・・・?

 ・・・ 死なないように気をつけマス 」

「 うん。 死なないでね〜〜 フランソワーズぅ 〜〜 」

冗談半分、 でも 幾分かは 本気だ。

 

      ・・・ やるっきゃないわ。

 

      なんだっけか? こういう時に言うセリフ・・・

      〜〜〜〜 あ〜〜?   

      ( あ 思い出したぁ )

 

      あ あとは 勇気だけだっ!!!  だわ

 

 ― きゅ。  

 

フランソワーズはもう一度、ポアントに足を入れリボンをきつく結んだ。

 

 

 

 

「 足。 まだ痛いのか? 」

自主リハのために空きスタジオに入るなり タクヤが口を開いた。

「 ・・・ え 」

「 すっげ微妙〜〜な顔してたじゃん? クラス中 ずっと さ 

 今もちょい 引きずってるだろ 」

「 あら バレちゃった? 」

「 そりゃ 〜ね  剥けたか? 」

「 昨日のトコ  また 半分くらい ・・・ 」

「 じゃ。 素足でやろうぜ 

「 え  」 

「 とても靴 履ける状態じゃないだろ?

 素足でいいよ。  ちゃんとサポートするから。 

 どうしても無理なら ―  休め 」

「 わかったわ。  ・・・ がんばる。 」

フランソワーズは ポアントを履かず バレエ・シューズも脱いだ。

そして 靴下だけでチャレンジだ。

 

      う〜〜〜〜  痛くはないけど ・・・ 

      ― これ 大変!

 

「 ・・・ 脹脛 ぱんぱんかも・・・  

「 じゃ さ。 真っ直ぐに立っててくれよ  俺 君のセンターで

 サポートするから 」

「 わかったわ 」

「 アダージオ、アタマっからやってみようぜ〜〜

 あ ピルエットとか回らんでいいからさ 」

「 メルシ〜〜〜 」

 

クラシックの振り、女性のパートは基本、ポアントで踊るのが前提である。

その振りを バレエ・シューズや 素足で踊るのはかなり大変なのだ。

( ポアント・クラス を バレエ・シューズで受けると

 脚 びんびんになっちゃうのだよ )

 

  〜〜〜♪♪  ♪♪

 

よ〜〜く聞き慣れた音楽と共に 二人はひとつ ひとつ お互いに

位置を確かめてゆく。

「 ・・・ ん〜〜 ここでリフト  いいか? 」

「 そう ・・・ はいっ! 」

「 よ・・っとぉ〜〜  お いい感じでね? 」

フランソワーズが踏み切るタイミングを読み、タクヤは片手で

高々とリフトする。

「 あ〜〜 そう! とても安定してるわ〜〜

 ・・・ ねえ 重い? 」

「 いや この位置なら全然・・・ いいね! 降ろすよ 」

「 はい。  ・・・ ん〜〜 いい感じ♪ 」

「 へへ  なんかいいね〜〜 」

「 タクヤってば腕力アップ? 」

「 そんなこと、ね〜よ  フランの位置、わかったんだ 」

「 そうなの? なんかね〜 すごく踊りやすくなったわ〜〜

 やっぱ ポアント履いて踊りたいわあ 」

「 ― 今日はやめとけって。 また ひどくなるぜ、その足 」

「 う〜ん・・・ そうします。 」

「 な〜んかやたら素直だね 」

「 あら わたし いつも素直ですけど? 」

「 そっかな〜〜  って まあ いっか。 

 うん ・・・ 俺 カトウ先生に大感謝だな〜 」

「 そうよねえ  ダンサーでカップルって 素敵よね 」

「 ・・ふ フランも そう思う? 

「 ええ。 理想よお〜〜〜 」

「 だ だよな!  ( えへへへ 同じ思いじゃん(^^♪ ) 」

「 あんな風にトシ とりたいわよねえ できれば 」

「 ! ! ! 」 

タクヤは ぶんぶん首を縦に振っている。

 

      へえ・・・? なんか気持ち、入ってるわね〜

      ああ きっとカトウ先生のこと 尊敬してるのね。

      うんうん 彼の目標なのかな〜〜

 

      なかなかかわいいトコ あるじゃない?

      うふふ〜〜  あらら?

      ねえ タクヤってちょっとすばるに似てるかな?

      カワイイとこ、いっぱいねえ

 

      そうよね〜〜 すばるとたいして変わらないものね

 

      ふふふ タクヤ君、がんばろうね〜〜〜

      おか〜さんも頑張るからさ。

 

フランソワーズは すっかりお母さん気分にもどり にこにこしている。

 

「 あ  えへ・・・ あは ・・・ 」

彼女の笑顔を もう〜〜 タクヤはヨダレが垂れそうな気分で

ほけ〜〜〜っと眺めるだけだ。

 

      うわはは〜〜〜ん♪

      俺たち <りそう> は同じじゃん(^^

 

      やた〜〜〜〜〜〜♪

      へへへ〜〜〜〜  な こ〜いうの、

      相思相愛ってんだろ?

 

      うはははは うへへへ〜〜〜

      やっぱな〜 二人でスタジオ開いてさ。

      うん エトワール・バレエスタジオ がいい!

 

      そんでもって 俺ら、思いっ切りGP 踊るんだ〜〜

  

      ダンサー同士さ うん 最良のパートナーになる!

      舞台でも人生でも ♪♪♪

 

      うっぴゃ〜〜〜  言ッちまったあ〜〜〜 (>_<)

 

 

 「 さ 続き、やりましょ。

 ごめんね、素足だけど。 リフトの部分ならできるから・・・ 

 ね タクヤ?  」

「 あ ・・・ あ  ああ ・・・ 」

「 ?? なあに どうかした?  顔、 赤いわよ? 」

「 え ?  あ  ぃ  いや ・・・ 」

「 ? そう?   タクヤってば実はとっても優しいのね 」

「 え ?? 」

「 あれこれ勝手なこと、言って、ごめんなさい。

 二人で話しあって ・・・ 最良のパ・ド・ドウ にしましょ 」

「 お おう!  フラン・・・ 

「 え なあに 

「 あ あ〜〜 きみって うん きみも 優しいな 」

「 え そう?? そうかしら・・・・?

  ん 〜〜 でもね、最近 感謝しなくちゃな〜〜って思って。 」

「 へ??  あ ああ そだな〜〜 」

「 でしょ?  皆がいてくれるから 頑張れるのよね 」

「 あ  ああ  そだな〜〜  うん  」

タクヤは ぼ〜〜〜っと舞いあがっているので

 

    タクヤがいてくれるから   と自主変換して聞こえる。

 

フランソワーズは これも思い込みが激しいので

 

    家族が ジョーが いてくれるから  と言ったつもりなのだ。

 

「「 とにかく しっかり踊って頑張ろうね! 」」

 

ドンキ組の自主リハは 時間いっぱい続いた。

 

 

「 ・・・ あ  じゃ  な〜〜〜 」

タクヤは 力なくふわふわ〜 手を振った。

その日も リハが終わるとフランソワーズはさっさと帰ってしまった。

「 ・・・ ちぇ 〜〜〜  ( がっかり ) 」

タクヤは のろくさ着替えるとバレエ団の玄関ロビーまでのろくさ出てきた。

 

      ・・・ お茶くらい 一緒させてくれよぉ

      親父さん ウルサイのかなあ・・・

 

彼はぼ〜〜っと空を眺めていた。

 

  とん。  背中を軽く叩かれた。

 

「 ・・・ ん?  」

「 あらあ〜 タクヤく〜ん  そっちの組も終わったの 」

みちよが まん丸の目をくるん〜〜と回した。

「 あ   みちよちゃん〜〜 お疲れ〜〜 」

「 お疲れサマ〜〜  フランソワーズは?  あ〜 もう帰ったかぁ 

「 なあ みちよちゃん。 ちょい、教えてくれよ

 フランちのおと〜さんって どんな感じ? 」

「 へ?? おと〜さん?  ・・・あ〜〜 優しそ〜なヒトだよ 

 学者でお医者さんで なんか研究してるって。

 白い髭でさ〜〜 かっこいいの。

 あ アタシ 専用トウ・パッド作ってもらってさ すっげ〜〜快適よん 」

「 ふ〜〜ん 

「 公演の時とか必ず来てるよ〜 マダムとはフランス語で話してる 」

「 あ〜 ・・・ フランス人だもんなあ 

「 そんでもってめっちゃフランソワーズのこと、大事〜〜にしてるな 

 まあ 一人娘だからね〜〜〜 」

「 ふうん ・・・ そっかあ・・・ ふうん 」

 

 この時 タクヤはまたしても! 致命的な?ミスをしている。

みちよちゃんは ウソなど言っていない。 彼女はかなり正確に

フランソワーズのお家のことを教えている。

ただ ―  みちよちゃんは < お父さんは > と聞かれたから

その通り < お父さんのこと > を答えただけなのだ。

もし・・・ < 家族は > と聞かれたら 別に隠すことでもないので

イケメン・ダンナと双子ちゃんのことをちゃんと伝えただろう。

 

「 そっかあ〜〜〜   ・・・ まず お父さん だな。 」

「 へ?? なに??? 」

「 いやあ・・・ なんでも・・・ あ みちよちゃん達 どう? 

 ・・・ 『 ライモンダ 』 だろ  

「 そ〜なんだ(^^♪  ふふふ〜〜〜 セキグチ君とは相性いいし?

 みちよ姐さんの小粋な踊り、楽しみにしてて〜〜 」

「 あは すげ〜な〜〜〜 」

「 ふふふん  あ ねえ フランソワーズ、足 平気? 

 な〜〜んかひどくズル剥けみたいだけど 」

「 あ〜 痛そうだった・・・ だから今日は裸足でやったのさ 」

「 へ え〜〜〜〜? 」

みちよはつくづくと この元気印の青年を見つめる。

「 な なんだよ? 」

「 あ〜〜 いや  ・・・ タクヤ君ってば変わったね〜〜 」

「 俺が???  へ??? 」

「 ウン。 な〜んか オトナになったね〜〜ってことさ 」

「 ??? 

「 ま ね〜 年上の女性( ひと ) からよ〜〜〜く学ぶんだわね 」

「 あ?  ああ ・・・ 

「 じゃね〜〜 ま お互いに頑張ろうね! 」

 

   バンっ!  

 

みちよはタクヤの背中に一発お見舞いすると けらけら笑いつつ

帰っていった。

「 ・・・ いって〜〜  チカラ持ちなんだからぁ〜

 ふ ふん! そりゃ 彼女は俺よかちょっと年上だけど 

 イマドキそんなんかんけ〜ね〜し? 

 ―  俺は俺の踊りで びしっ!と 彼女のパートナーを務める!

 そんでもって フランに最高〜〜のキトリを踊らせてやる! 」

彼は ぐ・・・っと拳を固め天を仰ぎ ― 決心する。

 

     そんでもって そんでもって ― そんでもって さ!

 

( 以下 タクヤ君わ〜るど )

 

  ブラヴォ〜〜〜〜  万雷の拍手が続く

「 ・・・!  タクヤ〜〜〜〜 最高よ〜〜〜 」

フランソワーズは袖に引っ込むなり 彼に抱き付いた。

「 あ は・・・・ フランソワーズ 君こそ 」

彼は軽く彼女を抱き留める。

「 ああ ありがとう! わたし こんなドンキ踊れたの 初めて!

 ああ ああ タクヤ〜〜 あなたって最高のパートナーね 

「 いやあ  ・・・ 君が素晴らしいからさ。

 俺のベスト・パートナーさん♪ 」

「 メルシ〜〜〜  ( ちゅ ) 」

「 ふふふ  なあ フランソワーズ 」

「 はい? 」

「 ―  あ〜  パートナーになってくれる? 

 ・・・ そのう  人生の 」

「 !  タクヤ〜〜〜  」

   熱い唇が タクヤの唇に重ねられた。

  

      わっはは〜〜〜〜ん♪  

 

 

妄想の中で タクヤはしっかりと彼女を抱きしめていた・・

「 ― で 俺。 彼女に申し込む! ああ 絶対に! 」

 

      ぐ。  タクヤはもう一度 拳を握り締めた。

 

「 やる! 俺は絶対に彼女を この腕の中で最高に輝かせるんだ! 」

 

 

   **** 作者のオマケ

 

   そして 彼はその後 衝撃の事実と直面するので〜す(^_-)-

   『 王子サマの条件  』 で どうぞ♪♪

 

 

 

― さて その日の夕暮れの頃

 

ギルモア邸のリビングで ・・・

 

「 おか〜〜さ〜〜ん  ねえ ねえ きいて きいて〜〜

 今日 たいいくの時間にね〜〜〜 」

「 え すごいなあ すぴかさん  なわとび名人ねえ 」

「 おか〜さ〜ん  ・・・ うふふ♪ 」

「 なあに すばるくん 」

「 うふ おか〜さ〜ん ・・・ なんでもなあい♪ 」

「 も〜〜〜 甘えん坊さんばっかりねえ・・・ 

 そうだわ お煎餅 買ってきたのよ〜  すばるには カルメ焼き 」

「「 うわ 」」

「 皆でオヤツたいむ、しましょっか。 」

「「 うん!! 」」

果たして ― リビングのソファで 姉弟はお母さんを挟んで

ぎゅ〜〜づめに座って美味しく楽しく オヤツを頂いた。

 

       うふふ ・・・

              あったか〜〜い ♪

 

       この温もりがわたしの腕のなかで

       いつもわたしを支えてくれるんだわ ・・・

 

「 すぴかさん すばるくん 」

「「 なに〜〜 おか〜さ〜ん 」」

「 うふふ・・・ なんでもなあい♪  ( きゅう〜 ) 」

フランソワーズは両腕をまわし子供達を抱きしめた。

「 えへ? ヘンなおか〜さん 」

「 うふふ〜ん おかし〜 おか〜さん 」

 

  ぴんぽ〜〜ん   玄関チャイムが鳴った。

 

「 あ お父さんだわ 」

「 わ〜〜〜〜 おと〜さ〜〜〜ん 」

「 おと〜さ〜〜ん〜〜〜〜 」

子供たちは玄関にすっとんで行った。

 

    ああ・・・ わたし ・・・ 

    この家族の腕の中にいられて 幸せよ

     ― 最高のチカラもらえるの。

 

     なんだって出来るわ。

 

    ジョー。  すぴか  すばる。

    お母さん 頑張るからねっ!

 

    神様  ありがとうございます ・・・

 

フランソワーズは そっと十字を切り天に感謝を奉げた。

「 ジョー?  お帰りなさい 」

いつもの、でも 最高〜〜に甘い声が玄関に響いていた。

 

 

 

           **********

 

 

 

「 ―  さあ 行こう 」

タクヤは 手を差し出した。

「 ええ。 行きましょう 」

フランソワーズは軽く手を乗せた。

 

   カツカツカツ。  キトリとバジルが 板付きに立った。

 

  〜〜〜♪♪   ♪♪   音楽が流れだす。

 

    さあ 最高の踊りを!     あなたの・きみの 腕の中で。

 

 

**********************         Fin.       *******************

Last updated : 02.15.2022.                back      /     index

 

**********     ひと言   *********

タクヤ君って ほ・・・・っんとうに いいコ だなあ (^_-)-

クラス中に沢山ネタ拾えました♪

パ・ド・ドゥ って ひらひら〜〜 楽そうに見えるけど

大変なんですヨ  (@_@)