『 腕の中 ― (1) ― 』

 

 

 

  ふんふんふ〜〜〜〜ん♪♪  

 

山内タクヤは このところ超〜〜〜ご機嫌ちゃんである。

彼は 首都にある中堅どころのバレエ団に所属するバレエ・ダンサー・・・

所謂 新進気鋭の若手・・・ それも 有望な若手 である。

 

「 よっ おっはよ〜〜 っす ! 」

 

路を歩いていても   ふんふ〜〜ん♪   ハナウタだ。

 

「 お。 タマぁ〜〜 元気かあ?   あ これ 喰えるかあ〜〜

 俺の昼メシだけど  ・・・  ほい。 」

塀の上の地域猫にも パンを千切ってシェア。

怪訝な顔をしてるにゃんこに 手を振って、かる〜〜い足取りで

歩いてゆく。

 

     へっへっへ〜〜

 

     チャンスはちゃんと降ってくる〜〜♪

     しっかりつかむぜぇ〜〜〜 

 

     パートナーは あの子だし♪

 

          へっへっへ〜〜〜

 

なにせ ―

次の公演で GP ( グラン・パ・ド・ドウ ) がまわってきた!

パートナーは 密かに想いを掛けていた あの・彼女☆

 「 な〜にせ ふらんす人 だもんな〜〜〜

 あの金髪がさ〜〜〜 いいよな〜〜〜  碧い瞳もさ〜〜〜〜

 そりゃ? 俺よかすこし年上だけど  んなこと かんけ〜ね〜し 」

演目は 『 ドン・キホーテ 』 ― 彼はこのヴァリエーションでコンクール入賞している。

 

 「 やってやるぜぇ〜〜〜 

  さ −−−− っいこうの バジル、 踊っちゃる!

 へへへ ・・・ 飛んで回って〜〜 みてろぉ〜〜 」

 

パートナーの彼女は いつも控えめに微笑んでいる存在だ。

押しの強さ とか 自己顕示ぎらぎら〜 は 全く感じられない。

 

「 ふふふ〜〜  地味っぽいけどよ いいコだぜ〜〜

 俺 初めて見たときから ちゃあ〜〜んと目ぇ 付けてたんだ♪

 このリハで 仲良くなる!  へっへっへ〜〜〜〜 」

 

遅刻気味だって朝のクラスだって イチバン に来ている。

レッスン中も 超〜〜〜真面目 ・・・

自分自身のテクニックに ばっちり磨きをかけている ― つもり。

 

 

 ― その朝

 

  ありがとうございましたァ〜〜

 

  はい お疲れ様〜〜  ピアニストさん ありがとう♪

 

拍手とレヴェランスで 朝のクラスは終了した。

「 あ ・・・ っと? 今日から 自主リハ、オッケーだからね

 空いてるスタジオ 使ってね 」

バレエ団の主宰者のマダムは に〜〜っこり、全員に伝えた。

 

   へ〜い  はあい  了解っす〜〜〜

 

ダンサー達はてんでに返事をし でも スタジオ中に ぱ・・・っと

緊張感が走ったのも事実だ。

 

「 ふふふ ・・・ いい傾向だわ♪

 あ。 タクヤ〜〜  ちゃんと自主リハ するのよ?

 フランソワーズに迷惑 かけないように! 

「 あ はぁ 〜〜〜 へ〜い 」

タクヤは ぺこん、とアタマを下げたが。

 

    じょ〜〜〜だんでしょ〜〜〜

    この俺様が がっつりリードするぜぇ

 

「 あの 山内さん? 

例の金髪美女が ひそ・・・っと声をかけてきた。

ブルーの稽古着が 汗でびたくただ。

「 おう?  !! ふ フランソワーズ ・・・さん 」

「 さん はいりません。

 ねえ Cスタで自主リハ いいですか? 」

「 あ ああ  ・・・ お願いシマス 

「 うふ? こちらこそね〜〜〜 じゃ 12時から 

「 お お〜〜  あ 俺も タクヤ っす。

 山内サン じゃねっす〜〜  ふ フランソワーズ。 」

「 え?  あ そうね〜 それでは のちほど〜〜  タクヤ 」

「 うっす! ( わっは〜〜〜〜 ) 」

タクヤは 文字通り天まで飛んでゆきたい!!!! と思った・・・

 

   わっははは〜〜〜〜ん♪

   さあ パ・ド・ドウ だあ〜〜〜

 

   彼女と踊るんだぜえ〜〜

 

自然に 足が < 踊りだす >

「 俺がリードするんだ。  ああ 最高にうまく踊らせてやるさ! 」

彼は 自信と期待でも〜〜〜 どうかなりそう〜〜〜 だった。

 

 

さて。 その数十分後 ― 

 

 

    〜〜〜〜♪♪  ♪♪

 

優雅で それでいて快活な音楽が流れている。

誰もが よ〜〜〜〜く聞き慣れた、でも 一種、憧れの曲だ。

これをきっちり踊れるのは ( 指定の振り・速度通りに )

選ばれた踊り手だけだ。

 

   ・・・ しかし。   しかし だ。 

 

Cスタジオのセンターでは ―  一組のダンサーが  揉めていた。

 

「 ! ちょ ちょっと待って。 引っ張らないで 

「 ああ? 」

「 わたしのバランスを知って! 」

「 俺がリードするよ? 」

「 そうじゃないと思うけど?  わたしのセンター、ずらさないで

 引っ張らないで このまま回して。 」

「 だ〜から 俺が手を引いてやってるだろ〜〜 

 しっかり立っててくれよ 」

「 ! あのね。 わたし、ちゃんと立ってます。

 だから その地点で プロムナードして。 」

「 だから〜〜〜 俺がリードするから。

 君は脚、上げてればい〜んだって ! 

「 ― タクヤ さん。 」

す・・っとフランソワーズの表情が変わり、 彼女はぱたん、と

脚をおろした。

「 ジョーク ? それとも ― 本気でそう思っているの? 」

「 ・・・え。  あ ああ〜〜 本気さ!

 第一 俺はそうやって今まで パ・ド・ドウを踊ってきたんだ 」

「 ― 本気なら。  ・・・ わたし この役を降りさせて

 もらうわ。 」

 ぴりり。 彼女はもうにこり、ともしない。

いつだって柔らかな微笑を浮かべている彼女とは 全くの別人だ。

その白い頬からは 表情が消え、仮面のごとき冷たい顔だ。

「 な ・・・ 今さらなに言うんだよ? 」

「 今さらもなにも。  そういう考え方のヒトとGPは

 踊れません。 わたし 怪我したくないわ。

 どなたか他の方をさがして。」

「 おい。 そっちこそマジかよ? 」

「 はい? わたしはいつだって真剣ですけど? 」

「 だ〜〜ったら真剣にリハしようぜ?

 なにカリカリしてるんだよ  

「 カリカリなんかしてません。  

 当然のことを言っただけです。  失礼。 」

「 お おい〜〜  ちょっと待てってば 」

「 なにか?  貴方が都合のいいパートナーを見つけてください。

 わたしは辞退します、 怪我したくありません。 」

「 ― フランソワーズ。 」

 

「 こ〜ら。  いいオトナ同士がどうした? 」

 

緊迫した空気の中に 穏やかな、ちょっとのんびりとさせした声が

入ってきた。

 

「 ??? あ  カトウ先生・・・ 」

「 ・・・ども 

フランソワーズもタクヤも その初老の男性に礼儀正しく

レヴェランスをした。

彼は このバレエ団で講師もやっている大ベテランの先輩ダンサーで

現役バリバリの頃は プリンシパルとして多くの作品を踊っていた。

特に 若い頃は  回転のカトウ  といわれ

彼のテクニックは群を抜き 海外バレエ団にも何回も主演した経験をもつ。

現在、バレエ団では ボーイズ・クラスも担当、団員はもちろん、生徒達からも

慕われ ファンが多い。

 

先生は 言い合っていた二人の間にゆっくりと入ってきた。

「 タクヤ。  お前なあ オンナノコ、支えたこと、あるか? 」

彼は いつもののんびりした調子で タクヤに聞く。

「 カトウせんせ〜〜 俺 シロウトちゃいまっせ〜〜 」

「 わかってるよ  けどなあ やっぱり初心者だろ?

 パートナーっていう点では ね

「 ? 」

「 タクヤ。 お前のせいじゃないよ。 チャンスが少なかったんだ。

 日本じゃ パ・ド・ドウ クラス なんてほとんど

ないからなあ・・・  きっちり習ってないだろ? 」

「 そりゃ ・・・ けど 俺、何回か踊ってますぅ 」

「 そうだろうけど。 この際だ きっちり勉強しろ 」

「 へ〜い 」

タクヤは尊敬する大先輩の言葉には 素直に頷く。

フランソワーズも 静かに耳を傾けている。

「 フランソワーズ? ちょっと・・・ お相手願えるかな 」

「 は はい! 」

先生は フランソワーズにちょっと会釈をしてから

手を差し伸べた。

「 お前ら 『 ドンキ 』 だろ?

 さっき揉めてたなあ・・・ アラベスク・プロムナード。 

 ・・・ どうぞ? 」

「 は  はい ! 」

す・・・っとアラベスクで立った彼女は 先生に手を預けた。

 

    するするする ・・・ 

 

彼女は きっちり美しいアラベスクの姿勢を保ったまま

滑るみたいにプロムナードしてゆく。

「 ・・・ っと。  お〜 さすがに軽いな  ありがとう 」

「 いえ こちらこそ・・・ 」

「 ・・・・ 」

タクヤは二人の様子を食い入るように見つめている。

「 俺は彼女の周りを歩いただけ。   

 彼女の立っている重心を起点にね。 手は添えていただけ。 」

「 へ  え ・・・ 」

「 彼女はしっかりまっすぐにキープできてるから・・・

 こ〜れができてないコと組むと オトコは苦労するけどな 

「 ・・・ へ え ・・・ 

「 こっちがやることは パートナーの重心を見極めることかな。

 あとは ― GPを踊るような相手は 一人でもちゃんとやるさ 」

「 え ・・・ 」

「 なんだ? 意外そうだな 

 こっちが引っ張り回しているワケじゃないんだ 」

「 ・・・ あ いや・・・ でも ピルエットとかは

 俺らが回してやってるじゃないっすか 

「 そうかな?  ・・・ 百聞はってヤツかな。

 フランソワーズ、 ちょっと頼める? 」

「 あ はい 」

「 普通に・・・ アンディオールで。 」

「 はい。 」

カトウ先生は フランソワーズの後ろに回るとサポートの体勢をとる。

「 ・・・ 」

フランソワーズは ごく自然にプレパレーションをし 

 

      くるくるくるくる 〜〜〜〜

 

彼女は軽くまるでバネ仕掛けての人形みたいに なんの雑作もなく

回転し続けた。

「 ・・・ すげ ・・・ 」

「 〜〜ん 止めるね  」

「 はい  ・・・ ふふふ カトウ先生〜〜 ありがとうございます 

 こんなに回れるって思ってなかったです 」

回転を止め 彼女はにっこり御礼をいう。

「 ん〜〜  やっぱ先生〜〜 回してたじゃんか 」

「 いや? 俺は彼女のウエストに指二本、添えていただけだよ 

「 え ・・・ 」

「 すご〜いです〜〜  あのね 先生はわたしの中心がズレないように

 手を添えていてくださったの。

 だから わたしはセンターをずらさずに常に正しい位置で

 回り続けた ってこと 」

「 ― ということさ。 

 オトコの役割は 引っ張ったり持ち上げたりすることじゃない。

 彼女が最大に輝けるように ちょいと手を貸す・・・ってことだ 」

「 ・・・ う 〜ん ・・・? 」

「 彼女がいつも以上に上手く踊ったとすれば

 それはサポートは大成功だった ・・・って証明なんだ。 」

「 ・・・・ 」

タクヤは 黙ってカトウ先生の手をみている。

「 別になにもないよ?  ほら 」

先生は ぱっと両手を広げた。

大きな掌 そして 長いしなやかな指。

一見 まあ 普通の中年男性の手だが ― これは魔法使いの手 なのだ。

 

      ・・・ すごい ・・・

 

      ああ カトウ先生と踊ってみたかったなあ

      『 ジゼル 』 組んでみたいなあ〜〜

 

      すごい すごい! 

      さっきのサポート・・・

      わたし 羽根が生えたみたいだった

 

      ・・・ うふ ・・・

      ちょっとジョーの手に似てるかも〜〜

 

フランソワーズは うっとりした顔で眺めている。

「 だから。  ケンカなんかするなよ?

 そのヒマがあったら 二人でよ〜〜く打合せてしろ。 」

「 打合せ ? 」

「 その過程でモメていいのさ 試行錯誤するんだ 」

「 へ〜〜い 」

「 お前ら 期待の新コンビ なんだからな・・・

 いいかい 二人とも。 自分が 自分が〜 じゃだめだ。

 ヴァリエーションじゃないんだ。  わかるな? 」

先生は じ〜っとフランソワーズを見て に・・・っと笑った。

 

      君は 既婚者だから。

      わかるだろう?

      パートナーとの調和 がさ

 

「 ・・・・ 」

微妙〜な視線に 彼女もすぐ気付き軽く頷き返した。

 

      はい。

      ウチでも パートナーと

      < 組んで > ますからね〜〜

 

「 『 ドンキ 』 だろ?

  あ〜〜  じゃ 出だしだけ 踊ってみるか フランソワーズ?」

「 は はい!  よろしくお願いシマス 」

フランソワーズは 上に羽織っていたニットを脱ぎすて、

音響機器の側に駆け寄った。

「 俺 だします。 」

タクヤがすっと寄ってきた。

彼も もう全身が 目 という雰囲気だ。

「 あ ・・・ 振りは オペラ座版でゆくかい 」

「 ! 先生がおよろしければ ・・・ 嬉しいです! 」

「 では 」

二人は 軽く会釈をし合い センター奥にポ―ズした。

 

  〜〜〜〜♪♪♪  ♪♪  お馴染みの前奏が始まる。

 

二人がポーズを解いて センターに歩みでて ―  踊り始める。

 

    ふ ・・・ ん ・・・?

 

タクヤは カトウ先生の動きをじ〜〜〜っと追っている。

バランスを取るフランソワーズを カトウ先生は絶妙のタイミングで

サポートをする。

あ ・・・ ? と思わせる寸前、もちろん音にはちゃんと合っている。

 

「 ・・・ くっそ〜〜〜〜 すげ〜な〜〜 

 

悔しいけどタクヤは自然に 感歎の吐息が漏れてしまう。

 

もちろん ジャンプの高さとか脚の角度は 若いタクヤの方が

優れているだろう。 

だけど そんなことはモンダイではなのだ。

先生の 伸びやかなジャンプ  そして 女子顔負けの爪先の美しさ。

回転も さり気なくウエストに手を当てるだけで パートナーは

二回も三回も多く回るのだ。

 

     う〜〜〜〜〜 ・・・・

     サポートのテクだけじゃね〜よ〜

 

     ジャンプだってセゴン・ターンだって

     ・・・ すげ〜よ〜〜〜

     それに ― あの爪先 !

 

     フラン〜〜〜 なんて笑顔なんだよ?

     俺と踊って そんな輝く笑顔、見せたか??

 

     う〜〜〜〜〜

     ・・・ 俺 まだまだ だ ・・・

 

もう 溜息を吐く余裕すら、ない。

タクヤは息まで詰めて 目の前のパ・ド・ドウを見つめる。

今 彼にできるのは 全身全霊でカトウ先生のテクを 

学び盗みとることだけだ。

 

   ♪♪ 〜〜〜 ♪♪♪ 〜〜〜〜

 

ダンサーなら誰もが口ずさめる有名なあの音楽と共に

二人は実に滑らかに踊ってゆく。

 

アチチュード・プロムナード とか ピルエットとか。

カトウ先生がサポートすると フランソワーズは羽根みたいに軽くおどる。

そして 恍惚に近い歓喜の表情を浮かべているのだ。

 

     ・・・ お 俺の パートナーが。

 

     負けね〜から 俺。

     よぉ〜し。 ばっちり習得する。

 

タクヤは 硬く固く拳を握りしめ、自分自身に誓う。

 

   〜〜〜 ♪♪  ♪。

 

音楽が終わり キトリとバジルはにこやか〜に微笑あっている。

「 ・・・ふ〜〜〜 はあ 久し振りに 楽しかったよ!

 フランソワーズ、 きみはしっかりと勉強してきているね 」

「 いえ ・・・ カトウ先生。 

 わたし ・・・ こんなに踊れたのって 初めてかも・・・

 ありがとうございました 」

「 いやいや ・・・ ワカモノには勝てないから。

 タクヤ。  お前たちはお前達の踊りを創ってゆけよ 

「 あ ・・・ はい 」

「 いいか  パートナーが最高に輝けるよう サポートする。

 それが オトコの仕事だぞ。 」

「 ・・・・ 」

タクヤは 黙って深くうなずいた。

「 フランソワーズ。  一人で踊るな。 

 二人で踊る それが パ・ド・ドウ だろ  わかるな? 」

「 

―  はい。 」

それじゃ ・・・ 健闘を祈る! ぴ・・・っと手を揚げ

カトウ先生は またのんびりと出ていった。

 

「 ・・・ はあ ・・・ かっこいいわあ〜〜 

「 ち・・・っくしょ〜〜〜 すげ〜よな〜 」

「 ふふふ あれが < 王子サマ > よね〜〜 」

「 そ。 プリンシパルのプリンシパルたる所以 ってこと。

 ・・・ くそ〜〜〜〜〜  勝てね〜 」

「 あ〜ら 先生に勝とう なんて 20年早いんじゃなあい? 」

「 ・・・う ・・ まあ  な 」

「 ね。 ごめんなさい ・・・ 言い過ぎたわ。

 二人で ― 頑張りましょ 」

「 ああ。 俺も ごめん。  やっぱ俺、経験 足りないし。

 いろいろ・・・・そのう〜〜 指摘してくれよな 」

「 ん。 わたしにも ね 

 

  す・・・っと白い手が差し出された。

 

  ぐ。 大きな手が握り返す。

 

「「 よろしく ! 」」

二人は 正面からじっと見つめあった。

・・・ もしかして 初めてだったかもしれない。

 

「 あの さ。 リハ・・・ 延長してやってゆくかい 」

「 ・・・ あ〜〜 ごめんなさい〜〜  今日はこれで帰らないと・・・ 」

「 あ そっか・・・ 教えとかあるんだ? 」

「 ええ  ・・・ ウチ、遠いでしょ ごめんなさいね 

「 いや そんな 」

「 次のリハまでに しっかり自分のパート、固めておくわ。 」

「 俺もさ。 うん ・・・ サポートも研究しておく。

 カトウ先生のクラス、しっかり勉強する! 」

「 ふふふ  期待してまあす。 それじゃ ・・・ また ね 」

ちょん・・・と彼の手をつつき 小さく投げキスをする。

そして 彼女はさささ・・・と出て行った。

 

     ・・・ うっひゃあ〜〜〜〜

 

     な なんて ・・・ 可愛いんだあ〜〜〜

     す  好き だな ・・・ 好きだよっ

 

     うん。 俺が君を最高の踊りをさせてやる!

     ああ そうさ。

 

     俺が最高のパートナーになるんだ

   

     フランソワーズ ・・・ 俺のパートナー!

 

どうも 彼のハートにぽっぽと火を点けてしまった・・・らしい。

 

 

 

 ― さて。    その日の夜のこと。

 海辺の洋館、ギルモア邸では。

 

「 ・・・ あ〜〜〜  ふう ・・・ 

フランソワーズは 大きくため息をつくとソファに座り込んだ。

「 あ〜 ・・・ いった〜〜いなあ ・・・ 」

誰もいないリビング、 彼女は脚をソファに上げ、呻いた。

「 ・・・  やっぱ剥けちゃったかあ・・・

 明日のクラス、辛いかも ・・・ ううう 」

フランソワーズは 白い素足をかかえ呻吟していた。

時計の針はそろそろ深夜を指すころ。

やっと帰ってきたジョーは いま 風呂場でご機嫌ちゃんだ。

 「 ・・・ あ〜〜 ・・・ ごはん、用意しなくちゃ ・・・

 あ〜あ ・・・ いててて 

この家の主婦は素足にスリッパをひっかけて キッチンに向かった。

 

 

― 今日の午後 ・・・

 

大急ぎで帰宅、コドモ達のオヤツ・タイムになんとか間に合った。

「 ね〜ね〜   おか〜さ〜〜ん   きょうねえ〜 」

「 おか〜さ〜〜ん ・・・ うふ。   おか〜さ〜ん 」

手作りのオヤツを食べさせ 纏わりついてくる子供たちの相手をし

< 今日あったこと > を聞いてやり・・・

「 ほらほら 宿題、 やってらっしゃい。

 おかあさんは 晩ご飯の準備、しなくちゃ 」

「 アタシ お使い、ゆくよ? 」

「 僕ぅ せんぎり できるよ? 」

「 はい ありがとう。 じゃ お手伝い お願いね 」

「「 うん♪♪ 」」

「 そしてね キッチンで宿題 やろうね。 お母さん 見るから。

 持ってらっしゃい。 」

「「 ・・・ はあい ・・・ 」」

不承不承 チビ達は宿題を持ってきた  が。

 

「 ん〜〜〜? あ〜〜?    あれえ  」

「 ? すばるクン。    ほら 繰り上がり、忘れてるでしょ 」

「 あ  あ〜〜〜 そっかあ 」

フランソワーズは菜箸を持ったまま 息子の宿題に顔を突っ込む。

「 ね〜 おか〜さん おんどく、きいて 

「 はい。  すぴかさん   ちょっとまってね〜 ガスの火 小さくするから 」

「 おか〜さん。 僕 おなべ みてる〜〜 」

「 すばるクン 算数ドリル 終わったの 」

「 うん!  僕さ〜〜 ひきざん とくい〜〜♪ 

「 そうなの? じゃあ お願いね〜〜 はい。 」

母は息子に菜箸を渡した。

彼はもっと小さい頃から キッチン大好き・お料理少年 で

マイ包丁も持ち、お鍋番くらいお茶の子〜〜 なのだ。

「 おか〜さん? いい? よむね〜〜 

「 はい。 どうぞ  すぴかさん  」

「 え・・っと。   もちもちのき   」

彼女の娘は 高い声ではっきりと教科書を読みはじめた。

「 ・・・ じっさまといっしょに ねているのでした〜  」

ガス台の前から すばるが口を合わせる。

「 すばる〜〜 言わないで〜〜 

「 ごめ〜〜ん 」

「 すばるクン?  覚えているの? 」

「 うん いっかいよめば おぼえるよね〜〜〜 」

「 ・・・ すごいわねえ ・・・ お母さんは覚えられません。

 あ すばるクン お鍋〜〜 

「 あ! うわ〜〜〜 まぜまぜまぜ〜〜〜〜 ・・・  」

「 コゲた? 」

「 ・・・ん  へいき! ガス とめるね〜 」

「 そうね。 じゃあ そろそろご飯にしよっか 」

「「 うん !!! 」」

 

晩御飯の仕上げをし、子供たちに食べさせ

宿題をみてやり   今日ね〜   を聞いてやり お風呂に追い立て

 ―  やっとベッドに送りこんだ。

 

    は  あ ・・・・

 

や〜〜〜っと 自分自身を < 構って > やる時間となった。

「 ・・・ あ  もうすぐジョー、帰ってくるわね 

 でも ちょっと ・・・   あ〜〜 指、 派手に剥けてるわあ 」

博士に作ってもらった特殊絆創膏 を広げる。

「 明日のクラス ・・・ 痛いだろうなあ ・・ う〜〜 」

 

  ぴんぽ〜〜ん  玄関のチャイムが鳴る。

 

「 ! お帰りなさ〜〜〜い!! 」

 ペタペタペタペタ  ・・・ 彼女は裸足のまま玄関に飛んでいった。

 

 

「 ん〜〜〜〜  美味かったぁ〜〜 」

ジョーは満足の吐息で 箸をおいた。

「 ・・・ ご馳走様でした。  あ〜〜 シアワセ ・・・ 

 遅くにごめんな〜 」

「 ジョーこそ 遅くまでお仕事、お疲れ様 ・・・ ありがと♪

 ふふふ  今夜の煮物はほとんどすばる製よ  

  

   とぽぽぽ ・・・ フランソワーズは熱いお茶を淹れた。

 

「 へ え〜  アイツ ますます料理少年だな 」

「 そうね〜 すごく助かるの。 すばるにお鍋の番を任せて

 わたし、サラダとか作れるでしょ 」

「 あ〜 そうだねえ ・・・  ねえ フラン。

 その足 ・・・ どうかしたのかい  」

ジョーの視線が 彼の細君の足元に落ちる。

「 え ・・・ あ ・・・ あのう 」

フランソワーズは 素足にカタチばかりスリッパをひっかけていたのだ。

「 ・・・ 次の舞台、近いのかい? 」

「 ジョー。 そうなのよ 」

「 大変・・・?  足   どうしたのさ 裸足で。 」

ジョーは ちゃんと気付いているのだ。

「 え  あ  う〜〜ん     あのね ちょっとレッスン、ハードで・・・

 足の指の皮、剥けちゃった 」

「 え。 指の皮・・・?  むけた??     だって ― 」

「 そ〜なんですけど。    どうもね〜〜 BGはダンサーの足について

 大変無知だったのね〜。  003の足の仕様は 大変ヤワなの。 」

フランソワーズは少し茶化したけれど ジョーは引っ掛からなかった。

「 ― 博士に相談した? 」

「 ええ。 ちゃんと特別の絆創膏を作って頂いているわ 」

「 そっか それなら 心配ないね 

「 ・・・ え  ええ ・・・ 」

 

       ずきん。  足指の損傷が痛む ・・・

 

確かに 損傷部分は保護されているけれど ― 明日 また ポアントを履き

同じところが 当たる のだ。

 

       ・・・ あ〜あ

       これ ダンサーじゃないと この痛さ、

       わかんないわよねえ・・・

 

       痛いんだわねえ ・・・

       あ〜あ ・・・

 

フランソワーズは こっそりため息を吐く。

「 なあ 今晩の筑前煮 すご〜〜くいい味だった! 

「 ふふふ すばる、張り切って煮てくれたもの。

 あ ちょっち焦げてなかった? 」

「 ううん 全然〜〜  」

「 そうそう このイチゴ。   すぴかが温室から探してきたの。

 どこに生ってるかよ〜く知ってるのよ〜〜 」

「 へえ 〜〜  温室はすぴかの縄張りだもんなあ 

 ・・・ん ♪  あまあ〜〜い♪ 」

ジョーは 小粒のイチゴを摘み もう笑顔満開だ。

「 あっは・・・   いいなあ〜〜 ウチって最高さ♪  」

 

家族が笑顔なら ― それでいいわ

フランソワーズは 自分のコト は呑み込んだ。

 

        ずきん ・・・  

 

ベッドの中でも 足の傷は疼いていた。

生身なら たとえ一晩でも少しは自然治癒するだろう。

でも。  サイボーグの皮膚は < 作りモノ >。

やはり 自然に勝るモノはこの世にはありえない のかもしれない。

 

Last updated : 02.01.2022.                 index       /      next

 

***********   途中ですが

バレエ物、 なんのこっちゃ? なトコもあるかも  <m(__)m>

パ・ド・ドウ云々〜 は むか〜し先生に教わったコト・・・

当時は なんのこっちゃ? と思ったですが (^-^;

お話の時間軸として 拙作 『王子サマがいいの』 の

前です〜〜  タクヤく〜〜ん がんばれ♪