『 白鳥達のみずうみ ― （４）― 』
チャッポ −−− ン ・・・
湖の中央あたりで 少し高い水音がした。
― 魚が飛び跳ねた ・・・か いや カエルが飛び込んだのかも しれない。
その晩は 風もあまり強くなく、湖はとろりとした水面に星達の瞬きを映していた。
ザワ ・・・
岸辺の一角に動くモノの気配があった。
近寄って見れば数人の若者が屯している。
・・・ 一見 猟師の仲間たちが未明の狩に待機している ・・・ 風なのだが。
「 ・・・ ふぁ〜〜〜〜 ジョーのヤツ おせ〜な〜〜 」
剣の手入れをしていた赤毛が 大あくびをした。
「 仕方ないよ。王城に忍び込むのは大変だからね〜〜 」
「 城の行事は遅くまで続く。 ジョーは慎重を期しているのだろうよ。 」
「 そう ・・・ ならいいのですが・・・ 」
片隅から沈んだ遠慮勝ちな声も聞こえる。
「 おや なにかご心配でもおありかな、若公。 」
「 いえ ・・・ ジョー君のことですから大丈夫だと思いますが ・・・
ただ 今宵はあの大梟めの姿が見当たりません。 もしやまたなにかよからぬ妖術を
使っているのでは ・・ と気になっていて・・・ 」
端正な顔立ちの若者が手にした羽根をじっと見つめている。
「 むう ・・・ 今晩は空気が重い。 ひと波乱 あるかもしれない。 」
ぬ・・・と巨躯の持ち主が立ちあがると 手にしていた小枝の束を焚火にくべた。
パア ・・・・ ！ 一瞬 火は大きく燃え上がり 辺りを広く照らした。
「 う〜〜〜 ・・・ ！ 黙って待つってのは性に合わねんだ〜〜
なあ ちょいと付き合えよ！ 」
カン ・・・ ！ 赤毛は立ち上がるなり剣をぬいて 銀髪に若者に振り下ろした。
「 っ！ 危ない。 っとに単純なヤツだなあ 〜 」
「 なんでもいいじゃん、 付き合えよ〜〜 」
「 仕方のないヤツ ・・・ それじゃ ― 行くぞ！ 」
「 おう〜〜 そうこなくっちゃな〜〜〜 」
「 ふん ・・・！ 」
カン カン カンカン ・・・・！
二人の若者の剣が華麗に当たり合い、燃える火の照り返しを受け鋭い光を飛ばすのだった。
「 ほっほ〜〜〜 楽しいアルなあ〜〜〜 夜食に焼売、作ったデ〜〜 」
「 お。 これはいいなあ〜 どれ 一つ。 」
「 グレートはん！ 」
「 まあ いいじゃないか。 ・・・ しかしそれにしても我らが BOY は遅いな ・・・ 」
「 そやな・・・ 夜食、仰山とっといたるワ。 」
「 頼むよ ・・・ 」
ふうう 〜〜〜 ・・・ 中年紳士は大きくため息をつくと空に視線を飛ばす。
湖の上に 細い細い三日月がやっと姿を見せ始めていた。
バッサ バッサ 〜〜〜〜 大梟が翼を広げ 悠々と旋回している。
夜もまだ深く 目覚めているのは中天に昇ってきた月とその裳裾みたいに散らばり夢を見ている
なんとも頼りない星々だけ ・・・ 森の獣や小鳥たちもまだまだ寝床の中だ。
「 こわい 〜〜〜 」
「 大丈夫 大丈夫よ 坊や。 この湖の畔にはアイツはやってこないからね 」
「 そうなの？ 」
「 ええ。 白鳥の騎士たちが護ってくれているのよ。 」
「 ふうん ・・・ 強いんだねえ〜〜 白鳥の騎士さんたち 」
「 そうね。 さあ 安心してお休み ・・・ 」
「 うん！ 母さん〜〜〜 」
小鳥たちの巣で 雛鳥たちは安心して親鳥の羽毛に顔をうずめるのだった。
バサ バサ バサ 〜〜〜〜
大梟は湖を横目で睨みつつ、巣穴のある大樟の木までもどってきた。
「 わ〜〜〜〜はっはっは・・・ 実に爽快だ〜〜〜〜
あのじゃじゃ馬姫の野望を砕いてやったぞ！
ふふん！ 乙女の愛の誓い なんぞ、立てられてたまるかって！ 」
バサ 〜〜〜〜 ッ ・・・ 大梟はカモフラージュした洞窟に滑り込むと ―
ぼぼ〜〜〜ん 〜〜〜 ・・・！
たちまち ＜ 北の侯爵 ＞ 、 いや 黒づくめの悪魔の姿に戻った。
「 わ〜〜〜はっはっは〜〜〜 これであの白鳥らも希望は打ち砕かれたぞ。
ふふん、永遠にあの姿で吾輩の足元を右往左往するがいいさ！ 」
パタパタ。 彼の後ろで小さなカラスが羽根を動かしている。
「 ゴ主人サマ ゴ主人サマ 〜〜〜 」
「 うん？ ・・・ ああ お前、カールか。 うん ご苦労だったな〜〜
タラシ役もなかなかどうして決まってたぞ〜〜 さて術を解くか ・・・ 」
パチン、 と黒の悪魔が指を弾くと ― カラスは消え そこには二本の羽根が落ちているだけだ。
「 ふん ・・・ 所詮 ツクリモノはツクリモノ ・・・ それ以上にはなれん。 」
悪魔は ぽいっと羽根を炉の中にくべてしまった。
「 さあ〜〜て。 次はこの前 湖でみたあの美少年を狙うかな。 ふっふっふっ〜〜〜 」
スカールは上機嫌で酒瓶からグラスを満たし 獣の皮を敷いた長椅子に寛いだ。
「 ふっふっふ〜〜〜 やがてはこの森も全てこの手に収まるな〜 」
シュバ −−−！ 突然 一本の矢が悪魔のすぐ横の壁に突き立った。
「 ？！ な 何やつだ！？ ここをスカール様の居城と知っての狼藉か！ 」
すたっ！ 外の闇から一人の青年が飛び込んできた。
「 覚悟しろ ！！ ぶらっく・ ご〜すと め ！！！ 」
「 はあああ？？ お前は〜〜〜 あの白鳥のこわっぱだな！？ 」
「 いかにも。 今宵のお前の姫君への侮辱は許しがたい！ 」
「 あ？ ・・・ ああ お前 高窓の張り付いて見ていたな〜
このスカールの術で 入ってこれなかったなあ あっはっは〜〜〜 」
「 妖術を使って 姫君を誑かした！ 清らかな姫君に手をだすな！ 」
「 ほう ？ お前はどこに目が付いているのかね？
吾輩は 指の一本も姫に触れてはおらんワ！ わ〜っはっは〜〜〜 」
「 ふん！ カールを操っていたのは お前だろう！ 」
「 カール？ なんのことかな。 」
「 しらばっくれるな！ 舞踏会にお前が連れて行った若者だ。」
「 若者？ はっはっは ・・・ アヤツはただのツクリモノ。 とっくに始末したぞ。」
スカールはちらり、と暖炉の燃えカスに目をやりに〜んまりと笑う。
「 ふふふ〜〜〜〜 お前らを白鳥に変えたのは 好みのオトコ達を集めておくためだ。
ふふん ・・・ でしゃばりオンナなんぞに術を破られてたまるか！ 」
「 くそっ この悪魔め！！ 」
バ −−−− ！ 青年は剣を抜き スカールに跳びかかってゆくが ・・・
「 お〜〜っと ・・・ そんな軟弱な剣では吾輩には効かぬな〜〜 」
ぱっとかわされ 反対に足蹴にされてしまった。
「 ・・・ うううう・・・ くそ〜〜〜 負けて たまるか〜〜！ 」
青年は跳ね起きると また果敢に飛びかかってゆく。
「 今度こそ！ くらえっ！ 」
振り下ろした剣には 確かに手ごたえがあったのだが ―
ばさ〜〜〜〜 ・・・！ スカールはするり、抜け出してしまった。
「 な なんだ？？？ ぼくの剣が仕留めたはずなのに！ 」
「 わ〜〜っはっは ・・・ただの剣など吾輩に傷をつけることなどできぬワ。
さあ 今度はこっちからゆくぞ！ こわっぱ！ 」
「 くそ〜〜〜〜 ・・・ わああ〜〜〜 」
飛びかかっても 蹴りかかっても ジョーは逆に投げ飛ばされてしまう。
「 ・・・ う ・・・ う〜〜〜 」
倒れたまま 彼はなかなか起き上がれない。
「 若！ 助太刀にきたぞ！ 」
「 ジョー ！ 俺達にも一矢報いさせてくれ〜〜 」
洞窟の入り口から 仲間たちの声が響いてきた。
「 ・・・ ああ 皆 〜〜 あ あぶない ・・・ ここは ・・・ 」
「 な〜にいってんだ、オレにも一発殴らせろ〜〜〜 」
「 あ ・・・ ジェット ・・・ 」
さ・・っと赤毛の若者が飛びかかってゆく が。
「 う？ う わあ 〜〜〜〜〜〜 ！！！ 」
またまたするりとかわされ 彼は洞窟に壁に叩きつけられてしまった。
「 ・・・ う ・・・ うううう 」
「 ジェット！！？ 大丈夫かい、しっかりしろ〜〜 」
「 ムウ。 俺に任せろ。 」
ぬ・・・っと巨漢が ジョーを後ろに庇い前にでた。
「 ！ ジェロニモ 〜〜 」
「 ふん？ いくら形 （ なり ） が大きくても 飛べなければ相手にはならん！ 」
ばさ〜〜〜〜 ・・・・！ スカールは背に翼を広げ 巨漢の鉄拳を軽くかわす。
「 飛び道具が所望か？ くらえっ！！ 」
ぴゅ ぴゅ ぴゅっ ！！！ 鋭い矢が悪魔めがけて飛んでゆく。
「 アルベルト！ ありがとう〜〜 」
「 ふん。 ジョーよ、剣だけで立ち向かうのは無謀というものだ。
弓矢を使え！ 〜〜〜〜 っ！ ・・・ うん？ 」
パン パン パン 〜〜 悪魔の翼は軽々と矢を叩き落とす。
「 わ〜〜〜はっはっは〜〜〜 吾輩に勝とうなどと無謀な夢はとっとと諦めよ〜〜 」
「 くそ〜〜〜 」
「 ・・・ ありがとう アルベルト。 こ これは ぼくがやるっきゃないんだ。 」
「 ジョー？ お前 ・・・ なにを？ 」
「 見ててくれ。 いや 見届けてくれ。 」
「 ジョー！ やめろ 〜〜〜 」
「 か 加速 そ〜〜ち・・・！ 」
ジョーがあらん限りのチカラを振り絞り 黒い悪魔に飛びかかった。
バーーーン ！！！ 青年の身体はまたも叩きのめされ、岩盤に落下してしまった。
「 は〜っはっはっは・・・ 往生際の悪いヤツめ〜〜〜 それほど死にたいのか？
それならば このスカール様が自らトドメを刺してやろう。 は〜っはっはっは 」
「 ・・・ う ううう ・・・・ 」
「 ジョ― 〜〜〜〜 ！！ 」
仲間たちの声に ジョーは辛うじて身を起こすが ―
「 ふっふっふ〜〜〜〜 では その柔らかい喉笛を掻き切ってやるかな〜〜 」
バサ〜〜〜〜 黒い翼を一振り、悪魔はジョーの上に伸し掛かった。
「 覚悟せよ〜〜〜 うひひひ 美味そうな美々しいオノコよ〜〜〜 。」
スカールはにやり、と笑った。 その時・・・
「 まて！ わたしが相手になってやる！ 」
涼やかな声が響き さっと一人の少年が飛び込んできた。
「 ！？ ・・・ フラン ・・・？ 」
ほとんど動かなくなっていたジョーが 辛うじて首を起こした。
「 そうです。 ああ ジョー様！ 大丈夫ですか！？ 」
「 ぼ ぼくのことは 心配しないで ・・・ それよりこんなところに来てはいけない・・ 」
「 いいえ！ 全てはわたしが愚かにもスカールめの目くらましにかかってしまったから
いけないのです。 自分の失態は自分で償います！ こいっ 悪魔め。
さあ 堂々と広いところで勝負しようじゃないか！ 」
少年は きっ！っと 悪魔を真正面から見据えた。
「 ふん ・・・ なかなか度胸のあるこわっぱだな。
ふふふ・・・ 頬を染めてなんとまあ〜 美味そうな美少年〜〜〜〜♪ 」
「 なんだって？ 」
「 いや こっちのこと ・・・ よかろう 崖の上で勝負だ。 」
「 よし！ 」
少年は駆け出し 湖の上に張りだした断崖の端に立った。
「 こい！！ 相手に不足はないっ 」
少年、いや フランソワーズ姫はしっかりと矢をつがえ ひょうっと放つ。
バサバサバサ 〜〜〜 スカールは梟の翼で巧に避けてしまう。
「 わ〜〜〜〜はっはっは ・・・ そんなチャチなもの、吾輩には通用せんぞ〜〜 」
「 く っそ〜〜〜 ！ ああ わたしにも翼があったら 〜〜〜 」
「 ふふん〜 それではこっちからお見舞いするかな？
ふん 瀕死のヤツには興味はないからな〜 活きのよい美少年〜〜 これが一番！ 」
ザザザ −−−−− ・・・・ 悪魔は翼を大きくひろげ滑空する。
ヤツは虎視眈々と 少年に襲い掛かるスキを狙っているのだ。
ザザザ ズザ −−−−− ！！！ 翼の端でぴしり ぴしり、と攻撃してくる。
「 く ・・・ぅ 」
「 もし。 この翼をお付けなさい。 」
姫君の後ろから 落ち着いた声がかかった。
「 え？？ あ あなたは ・・・ ！？ 」
「 私もあの悪魔に捕えられ魔法を掛けられてしまった者です。
さあ この翼をつけて！ あなたならきっと飛べます！ 」
金髪の若者は びっしりと羽根を並べた大きな翼を差し出した。
「 さあ！ これを！ 」
姫君は 翼に手をだすどころか、黙ってじ〜〜っと その青年を見つめているだけだ。
「 早く！ 」
「 あ の ・・・まさか ・・・ お兄さま？！ 」
「 ・・・ ？ 」
「 ねえ そうでしょう、ジャン兄さま ね！ わたし です、妹のフランソワーズです。 」
「 ふ らんそ わーず ・・・？ 」
「 はい！ お兄さまの妹です、この王国の国王夫妻を両親に生まれました。
覚えていらっしゃいませんか？ 」
「 フランソワ―ズ ・・・ ああ 誰か小さくて愛しいモノがいつもいつも 私の後ろを
追ってきていた ・・・ ふんわりと柔らかく可愛い存在 ・・・ 」
若者は姫君を見つめつつ 呟く。
「 お〜っと危ない！ さ この羽根を付けろ。 そうすればヤツと互角に戦える！ 」
銀髪の青年が二人の間に入った。
「 すまんな〜〜 久々の兄妹対面に水を差して 悪かった。
しかし アイツを ― スカールをどうしても撃ち滅ぼさねば。 さあこの羽根を付けて！ 」
「 おお すまんです、アルベルトさん。 さあこれを！ 」
金髪の成年は ばさり、と羽毛で出来たコートを差し出した。
「 ありがとう、 ジャン兄さま！ 」
「 きみに一番似合いますよ。 さあ これを付ければ鳥と同じように空を飛べます！ 」
「 は はい ・・・ わあ〜〜〜 軽い〜〜 」
「 この羽根は、白鳥の騎士のみなさんが一生懸命集めてくれました。
アイツはきっと次は西南の方から攻めてきますから その時に接近戦に持ち込んで！ 」
「 わかりました。 ありがとうございます。 」
姫君は羽毛のコートで身をつつむと 弓矢と剣の在処を確かめる。
「 ― さあ〜〜〜 行くぞ！ スカール 〜〜〜 覚悟しろよ っ 」
たたた ・・・・ っ 彼女は再び 台地の上へと走り出た。
「 ふん。 無駄な悪あがきは止めて さっさと吾輩の支配下にはいるのだ〜〜〜 」
ばさ〜〜〜 ばさばさ〜〜 スカールの羽根が起こす風で なかなか矢の照準が定まらない。
「 くっそ〜〜〜 ようし・・・ さっきもらった羽根のコートで ・・・ 」
「 ちょい待ちな。 オレがよ〜 ヤツの気をそらすぜ。 そのスキにヤレ！ 」
ひゅん ・・・ 赤毛の青年が飛び上がる。 彼にも特別な翼があるらしかった。
「 わあ〜〜〜 ありがとう〜〜〜 ！ 」
「 こんくらいど〜ってことねぇよ〜 ほら今だ〜〜〜 いけ！！ 」
「 了解！！！ 」
ざざざ ッ！！ 赤毛の ＜ 鳥 ＞ が薮の中から急上昇、空へと一直線に飛んでゆく。
「 むむ？？？ 吾輩を出し抜こうというのか〜〜〜 そうは行かんぞっ ！ 」
一瞬 ― 悪魔は空を凝視し ・・・ 地上への警戒がゼロになった。
「 ― くらえっ ！！ 愛と正義の矢を受けてみよっ ！ 」
きりきりと引き絞った弓弦が しゅぽ〜〜〜ん ・・・・と 白い手から離れた。
シュバ −−−−− ・・・・ ！！！
白木を焼いて硬くした矢は 恐ろしい速度で飛んでゆき ― ドス ッ ！
「 ！？ う わあ〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・ 不覚 〜〜〜 ・・・
く くそぅ〜〜〜〜 しかしそう簡単に吾輩は死なぬぞ 〜〜 うううう 」
バサ ・・・ 瀕死のチカラで スカールはまだ翼を動かす。
「 なんというヤツ？！ 不死身だというのは本当なのか！？ 」
「 おい 大丈夫か？ 」
銀髪の騎士が 脚を引きずりつつやってきた。 彼もどうやら手負いらしい。
姫君も 生暖かいモノがつ・・・・っと左腕から滴り落ちてくるのを感じていた。
ち・・・！ 左腕のどこかをやられたわ。
・・・ 弓を引くときに狙いがブレるかも ・・・
ほんの一瞬 彼女は自分自身の腕に視線を落とした。
「 ・・・ ふ フラン 〜〜 あぶないっ！ 」
ズサ ・・・・ 土気色の顔をしたジョーが 姫君に抱き付いて庇う。
ザバ 〜〜〜〜 ・・・・ 大梟が降下してきたが ジョーが全身で阻止した。
ガッ ！！！ 大梟の爪が ジョーの背中を切り裂く。
「 うっ ・・・！！！ 」
「 あ ・・・ ジョー 〜〜〜！！ しっかりして〜〜 」
「 ・・・ ふ フラン ・・・ きみは ・・・？ 」
「 わたしは大丈夫。 あなたがアイツの攻撃を受けてくれたから・・・
ああ 酷い怪我 ・・・ 今 すぐに手当を 」
「 だ だめだ ！ 油断するなっ スカールを ・・ 撃つんだっ 」
「 で でも ジョー 〜〜 」
「 いけっ ヤツを斃せるのは き きみしか い いない ・・・ 」
ぐい、と血まみれの腕が 彼女を押し返す。
「 ・・・・ ジョー 。 わかったわ。 必ず勝つから あなたも頑張って。 」
「 ・・・ そ それでこそ ・・・ ぼくの 愛した ひと ・・・ フラン ・・・ 」
「 ジョー ・・・ 」
二人の視線が結ばれ しっかりと見つめあう。 そして・・・
すとん。 彼は優しい微笑みを残し ― 目を閉じた。
「 ・・・ ジョー？？ ね むった ・・・ の？ 」
バサ〜〜・・・ また不気味な羽音が聞こえてきた。
「 う〜〜〜む ・・・・ ううう ううう あと一歩であったのに〜〜
く くそ 〜〜〜 ！ 」
バササ 〜〜〜 低空を滑空して大梟が これが最後 と覆ってくる。
ズザ・・・っと スカールの爪が姫君の服を裂いた。 白い肌が露わになった。
「 きゃ〜〜 もう〜〜 イヤらしいヤツ！ 」
「 これを！ 」
「 兄さま〜〜 」
ぽ〜〜ん ・・・ と長いマフラーが飛んできた。
「 ありがとう 兄さま！ ・・・ ようし。」
投げてくれたマフラーを胴に巻くと 姫君は再び果敢にスカールに挑んでゆく。
「 こいっ 相手になってやるっ ！ 」
「 ぐうう〜〜〜〜・・・ この往生際の悪いこわっぱめ〜〜〜
こうなったら〜〜 イッキに喉笛を〜〜 」
スカールが 大きな翼で滑空し捨て身となって姫君に襲いかかってきた。
ガシ。 ヤツの爪が 姫君の防護鎧の肩の辺りを掴んだ ― が。
ぐふふふふ〜〜〜♪ さあ がぶり と〜〜
ぐふ？ ・・・ うぇ？？？ な なんだ？？？
― げ。
え〜〜〜 お前は オンナノコだったのかあ〜〜〜
「 ？ ええ そうよ。 わたくしは ギルモア国王の第一王女 フランソワーズ三世！
悪魔め！ 正義の刃を受けてみよっ えいっ！！！ 」
シャキーン ・・・！ フランソワーズ姫は 剣と抜くと渾身の気合いをこめて切りつけた。
・・・！ う ！？ うぐぐぐぐ 〜〜〜〜
く 苦しい 〜〜〜〜〜 うぐ ううう〜〜
吾輩の 唯一の弱点を ・・・ どうやって見破ったのだ ・・
・・・ 女子は ダメ なんだぁ 〜〜〜〜
ぐ ぐ ぐわぁ ・・・・ 〜〜〜〜 ぐふ・・・っ
・・・ごぼ ・・・ ごぼ ・・・ ご ふ ・・・っ ・・・
ぶぅわ〜〜か〜〜な〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・
大梟の姿を借りた悪魔は 転げのたうちまわり ― やがて息絶えた。
すると ・・・ 不思議や その姿はたちまち塵となって風に吹き飛ばされて散っていった。
「 ・・・や やった わ ・・・ 」
「 よくやった ・・・！ フランソワーズ姫 いや 小さなファンション ・・・ 」
優しい呼びかけに 姫君はぱっと顔を輝かせた。
「 まあ お兄さま〜〜 思い出してくださいましたの？ 」
「 ああ ああ 思い出したさ。 ちっちゃなファン ・・・
父上と母上と そして この兄の宝モノの可愛い小さなファンション〜〜 」
「 ジャンお兄さま〜〜 あ！ ジョーは？！ 」
「 ・・・ それが ・・・ 彼は ・・・ 」
ジャン青年は 声を落とし仲間たちが固まっている崖の上を見た。
「 え！？ ジョー ・・・！！ 」
姫君は弓矢も剣も放り出し 駆けだしていった。
「 ジョー！ スカールをやったわ！！ ねえ 約束通りにアイツを斃したわ！
これで呪いは解けるの！ ねえ ジョー 〜〜 ・・・ 」
「 ・・・ 姫 ・・・・ 」
グレートが 静かに首を振り目を伏せた。
「 え・・・ そ そんな ・・・ ウソでしょう？？ ジョー ！！！ 」
彼女はまわりの人間を押しのけ 彼の側に飛んでゆく。
「 ・・・ ジョー ・・・？ ねえ 目を 開けて？ 」
そう・・・と 彼の手を取ったが ぽとり。 その手は力なく落ちた。
「 う ・・・ そ・・・ そんな だって だって約束したじゃない！？ ねえ〜〜 」
姫君は 静かに横たわる彼に縋り付いた。
「 プリンセス？ コイツは最後のチカラを振り絞って プリンセスをお護りしたのだよ。 」
「 そ そんなのって いや！ いやぁ〜〜〜 ・・・ 」
「 なあ ほら ・・・ こんなにも穏やかに優しい笑みは見たことがない。
ジョーは満足して逝ったんだ ・・・ 」
呪いを解かれた 白鳥の騎士たちは皆、静かに頭を垂れ・・・リーダーの死を悼む。
ゆらり。 フランソワーズ姫は ジョーの亡骸を抱え立ち上がった。
「 ・・・ ジョー ・・・ 誓いは守るわ。 わたしの愛する御方は未来永劫あなただけ・・・
ねえ この永遠の湖で星になって結婚しましょう。 これがわたし達の結婚式よ。 」
「 姫！！ 」 「 ファンション！ 」 「 フランソワーズ姫〜〜〜 」
皆が口々に彼女を引き留めた が。
「 皆様 ジャン兄様 ・・・ 皆様の幸せを心から祈っておりますわ。
お兄さま ・・・ どうぞお父様をお助けして いずれよい国王となってください。
ああ そろそろお日様が昇ってまいりますわね ― さあ ゆきましょう。 」
彼女は愛しい人をしっかりとその腕に抱き 夜明け前の湖を見下ろした
・・・ フラン ・・・
「 え？ あ〜〜〜 ジョー ！？ 」
事切れた恋人が にっこりと笑顔を見せ彼女の腕の中から立ち上がった。
「 ありがとう ・・・ 愛しているよ、大きな声で言える。 」
「 わたくしも。 さあ 参りましょう。 」
「 うん。 」
二人はしっかりと抱き合い 深く深く口づけを交わす ― そしてそのまま ・・・
ざぶん ・・・・ 瑠璃色に染まる湖は恋人たちを飲みこんだ。
「 ・・・ こ こんなことが ・・・ 」
「 ・・・・ 」
騎士たちは皆湖畔で呆然としている ― その時。
恋人たちよ ・・・ もう悲しまないくてよい。
愛する者たちよ 愛は何よりも強いのだよ
どこからともなく ＜ 天の声 ＞ が 響いてきた。
そして 湖がさ・・・っと割れて虹色の貝に乗った二人が手を取りあい微笑んでいる。
「 ねえ あの声 ・・・ ？ 」
「 え？ ああ 彼の声 じゃないかな。 」
「 彼の声？ 」
「 うん。 それにね ― やっぱり神様は超えられない試練はお与えにはならないんだよ。」
「 そうね。 ジョー ・・・ 愛してるわ〜〜 」
「 ぼくも・・・ フランソワーズ〜〜 」
「 二人の 流れ星ね ！ 」
「 うん。 これからはずっと一緒さ。 」
ちゃ〜〜〜んちゃらちゃらちゃ〜〜らら〜〜〜〜
夜明けの湖に 天上の調べがひろがってゆく。
「 フランソワーズ姫 ・・ ありがとう。 さあ これがぼく達の結婚だ。 」
「 ジョー王子様。 うれしい ・・・ ！ 」
虹色の貝の船は恋人たちを乗せ湖の上を滑り ・・・ いつしか曙色の空へ 天へと
昇ってゆくのだった。
****** ご存知と思いますが ・・・ 『 白鳥の湖 』 の解説 ******
初期のラストは 星になって結婚しよう だったのです。
それが 資本主義的退廃的結末だ！ ってことで 赤い北の大国（ 当時 ） で 愛は悪魔に
打ち勝つ！・改訂版が。
今でもいろいろな版があり あらすじは同じですが多種多様な演出があります。
昨今では 愛は何よりも強し！ ってことで悪魔を斃し呪いが解けてめでたし めでたし・・・が多いです。
最後に白鳥達はアタマの羽根飾りを取ったりする演出もあるしね。
・・・しかし オデットさん〜〜 あんなマザコン王子と結婚しても苦労するよ？
ど〜〜こがいいのかなあ・・・ ワタシ的には 遊び人の裏切りモノでも アルブレヒトの方が
好きですにゃ。
全４幕のグランド・バレエ、慣れない方は ２幕とか眠くなっちゃうかも・・・・・
主役やソリスト以外は たいてい ２・４幕組 （ 白鳥たち ） と １・３幕組 （ 王子の友人たち 各国の踊り ）
に分かれます。
白鳥たち は 場所取り命！ 揃えること命！ で 神経削るからな〜〜〜 感情移入もできないし
・・・ あんまし面白くないです。
しかし クラシック・バレエの代名詞みたいな作品ですから 是非！ 一度はホンモノの舞台を
ご観賞ください。 ＤＶＤではね〜〜 やはりあの劇場の雰囲気は ナマが一番です♪
*********************** Fin. ****************************
Last updated : 29,07,2014.
back / index
******** ひと言 ********
短くて すみません 〜〜〜 <m(__)m>
これでお終いです。