*******  忘れている方のために  ******

     作中の [    ] 内は ジョゼフ君の筆談メモです。

 

 

 

 

 

   ―  え ・・・?

 

わたし、思わず聞き返してたわ。

・・・だって。  そんなこと、望んでいるなんて ・・・ そっくりよ?

 

   ―  皆で笑って暮らしたいんだ ・・・ か 家族と一緒に。

 

耳の付け根まで真っ赤になって。  うふふふ・・・ 可愛いわ

そう  望みはたったひとつだけ それでね、 いつだって同じなのですって

 

     わたしもよ ・・・ 

 

・・・ そうか、って。 やっぱり真っ赤になって笑って頷いていたわ  ―  ジョゼフ。

 

 

 

 

 

    『  ただ それだけ ― (2) ― 』

 

 

 

 

 

「 誕生日?  ・・・ どうしてそんなこと、聞くんだい。 」

彼は特別不機嫌ではないが さりとて機嫌が良いわけもなく。

どちらかと言えば 無関心な様子で聞き返した。

「 え ・・・ ただ 聞いてみただけ。  いつ? 」

「 ・・・ ぼく達の誕生日なんて意味、ないだろう? 

 もう 成長することはないのだから。  そんな ・・・誕生日なんて ・・・ 」

「 そうだけど。  でも あなたが生まれた記念の日には変わりはないでしょう? 」

フランソワーズは少し驚いたが何気ない風に問いかえした。

 

    ・・・ あら。  この人、 気に障ったのかしら ・・・

    へえ ・・・ 珍しいわね ・・・

 

長めの前髪が隠しているので 彼の表情はよくわからない。 

しかし声のトーンがいつもとちがう。

ぶっきらぼう・・・・とまでは行かないけれど感情を押し込めている・・・みいだ。

 

    やっぱり ・・・ なにか気になることがあるのね。

    わかるわよ? だってあなたはいつだって明るい声で応えるもの。

 

だいたい、彼 ― 島村ジョー は いつも穏やかな表情をしていた。

赤い服を纏っている時ですら 彼は淡々としていることが多かった。

激昂するわけでもなく、悪態をつくわけでもなく  ― 彼は淡々と <敵> を撃退した。

そして 日常のごくありふれた日々も 淡々と過していた。

仲間たちの後ろに目立たずに立ち、 そして 穏やかな笑みを浮かべている。

そんな 彼  に、フランソワーズは初め、反発すら覚えたものだ。

「 もう!  嬉しいならはっきり笑ったらどう?  イヤならきっぱり断るべきでしょう?? 

 どっちでもない、なんてなんなの、全然わからない! 

「 そう怒るな。  アレがアイツの性格なんだろう ・・・ いや国民性、かもなあ。 」

「 国民性?? 」

「 ああ。 ヤツは ・・・ 日本人 だと言ったよな?

 あの国の人々は いつも穏やかに微笑っているんだ。 どんな時でも・・・ 」

「 そ そうなの?? そんなのヘンだわ。 悲しい時には泣いて、可笑しいときには笑って。

 腹がたてば怒るべきだわ! 」

感情の豊かなパリジェンヌにはとても信じ難いことだった。

  ・・・ しかしまあ、 一つ屋根の下に共に住むにおいて彼の性格は弊害になることはない。

この地に住み始め、 彼らは ― 博士とイワン、 そしてフランソワーズとジョー  は

とても静かに淡々とした日々を送っていたのだ。   彼らはそんな日々が気に入っていた。

フランソワーズは この国で暮らすうちに彼の曖昧な微笑みに慣れた。

そして それがジョーの心の防護壁であることに気が付いた。

 

    ・・・ ジョー。  わたし 決めたの。

    わたし、 あなたのそのドアをこじ開けて壁の内へずかずか踏み込んでゆくわ。

    わたし、 遠慮なんかしないわ。  

    ・・・ ジョー。  だってわたし、 愛しているんだもの! 

 

パリジェンヌの果敢な攻撃に さしものサイボーグ009、いや 島村ジョーも陥落し。

彼と彼女は 仲間たち公認の仲 となった・・・ 穏やかな日々は淡々と続いた。    

  それが ―  今回のミッションで途切れたのだった。  

 

 

 

  ― 誕生日を教えて?

フランソワーズはちょっとだけ意地悪い気分でじっとジョーを見つめていた。

「 ・・・! ほ 本当にその日なのかアヤシイものさ。 

 ぼくは孤児院育ちだからな。  誕生日だって ・・・ 本当かどうか・・・ 」

 ぷつ・・・っとそれだけ言うと ジョーはばさり、と新聞を広げその影に身をかくした。

「 そ そうなの? でも ・・・ 生まれた日を祝ってもいいと思うわ? 」

「 ・・・ きみはそうしたらいいだろう? 

「 勿論。 それで皆にも同じことをしたいの。  お誕生日はいつ? 」

にっこり極上の笑をうかべ 彼女はじわり、と詰め寄った。

「 ・・・・・・・ 

ジョーはぼそり、と日にちを告げるとまた新聞を楯にしてしまった。

「 まあ いい季節なのね。 素敵 ・・・ わたし一年中で五月がいっとう好きよ。 」

「 ・・・・・・ 

ジョーはだんまりを決め込み、こんどこそはっきりと不機嫌な空気を纏ってしまった。

「 そうなんだ? それじゃ・・・ その日にはシフォン・ケーキ、焼くわ。 得意なのよ。

 そうねえ・・・ 5月なら ・・・ 苺! いちごで飾るわ〜〜 」

「 ・・・・・・ 」

彼女はかなりわざとらしく嬉々としてみせたが ジョーは相変わらず新聞の後ろ。

ウンともスンともいってこない。

 

      うふふふ・・・わかってるわ〜〜

      新聞紙の向こうでず〜〜〜っと聞き耳をたてているのでしょ♪

 

      いいのよ、照れ屋サン。  うふふふ・・・

 

「 さ〜て それじゃ・・・っと。 買出しに行ってくるわね〜〜 」

「 ・・・・・・・ 」

「 ふんふんふん ♪ 」

彼女がエプロンをはずし、仕度をはじめれば ― 彼はむす・・・としたままいつの間にか

ジャケットを羽織り車のキーを手にしている。

「 ・・・ 荷物もちと運び屋、いるんだろ。 」

「 ええ ありがとう。  さあ 今夜の何にしようかな♪ 」

フランソワーズはご機嫌でジョーの車に乗り込むのだった。

 

   そんな 彼が。  笑顔の陰に頑なさを、そしてその後ろに不器用さを隠していた彼が。

今では、ケーキに飾る苺の出来具合を心配するようになった・・・

「 フラン ・・・ なんかさ、今年の苺、イマイチ いい色になってないんだ。 」

「 あら そう? それじゃ・・・今年は違うケーキにする? マンゴーとかもいいわね。 」

「 え! だ だめだよ。 ・・・ 苺がいいんだ。 」

「 ・・・ それじゃ お店で買ってくる? 大きな粒の、売ってるもの。 」

「 だ だめだってば。  ウチの苺がいいんだ、ウチのが。 」

ジョーはかなりムキになり、結局毎年彼のバースデーには フランソワーズお手製の

苺のシフォン・ケーキが食卓を飾るのである。

そして 必ずパティシエの弟子を志願する。

「 ふふふ ・・・ 誕生日を答えることだけにも拘っていた人がねえ? 」

「 ? なにか言った? 」

「 いいえ な〜〜んにも。  ねえ ちょっとクリームの味見、してくれる? 」

「 うん いいよ♪ 」

いそいそと洗い物なんぞ手伝っている彼の開けっ広げな笑顔が とても嬉しかった・・・

 

 

 

「 ・・・ ジョー ・・・ 皆 ・・・ 早く帰ってきて ・・・ 」

ジェロニモと一緒に一足さきに戻った家で 彼女は毎日空を眺め海をみつめ祈っていた。

「 ねえ ・・・ 小鳥さん? わたしの代わりに飛んでいって・・・

 そして皆の様子を教えてちょうだい。 」

ベッド・サイドに置いた木彫りの小鳥に話かけ そっとその丸っこいアタマを撫でてやったりした。

「 気に入ったか。 」

「 ええ ・・・ ありがとう、ジェロニモ。   本当の飛び立ちそうね、この小鳥さん・・・ 」

「 ・・・ 魂は飛ぶかもしれない。 」

「 え・・?   この小鳥さんの魂が? 」

「 いや。  この国の古い古い物語にそんな話があった。

 現身 ( うつしみ ) では戻れない距離も 魂ならば往く・・・と な。 

「 まあ ・・・ それで ? 」

「 いや。 ただ そんな話があった、というだけだ。 気にするな。 」

「 ・・・ でも ・・・ 」

フランソワーズは続きが聞きたかったが なぜかジェロニモはぷつり、と話を切ってしまった。

「 ・・・ そう ・・・  わたしに出来ることは本当にただ祈ることだけ ね・・・・ 」

「 温室はどうだった?  苺の出来具合は。 」

「 え ・・・  ええ。  ・・・ ジョーのお誕生日には美味しいのが生ると思うわ。 」

「 そんな先でなくても大丈夫だろう。  」

「 ・・・ ええ  そうね。 」

「 フランソワーズ。  大丈夫だ、ジョーたちは苺が熟れきる前に還ってくる。 」 

大きな掌が ぽん・・・と亜麻色の髪に置かれた。

「 お前の誕生日、もうすぐだ。  ジョーは必ず。」

「 うふ・・ ありがとう、 ジェロニモ。 

「 苺とお前の笑顔 ― ジョーはきっと楽しみにしている。 」

「 ふふふ ・・・ 苺だけ、かもね? 」

「 かも しれんが。 

二人は静かに笑いあった。

 

  ― そんな話をしたのは。  まだ少しだけ海風が冷たい頃だった。

 

 

 

 

     そうよ ・・・ ジョー ・・・!  皆。

     温室の苺は もう美味しくなっているの。

 

     熟れすぎてしまう前に  ・・・ 帰ってきて・・・・

 

[ あの フランソワーズ? 

ジョゼフが つんつん・・・と彼女の肩を突いた。

「 ・・・ あ ・・・ え?  」

[ どうしたの。 空ばっかり見つめて。 ]

視線を戻せば ― セピアの瞳が心配そうに覗き込んでいる。

「 ! ・・・・じょ  ・・・ ジョー ?? 」

[ ジョー? それは 誰。 

「 ・・・ あ ・・・ 」

 

     ・・・ いっけない ・・・ 

     彼は ・・・ ジョゼフ 。  ジョー じゃないのよ、フランソワーズ

 

[ 気分、悪い? 海岸にいて寒かった? ]

「 ごめんなさい、大丈夫よ、ジョゼフ。 ちょっと・・・ 思い出していただけ。 」

[ 思い出していた? ]

「 え ええ・・・ ちょっとだけ、よ。 」

[ ―  < ジョー >  のこと? ]

「 え ? 」

[ フランソワーズの大切な ひと? ]

「 え ・・・ その ・・・ 仲間の一人よ、 そう <家族> みたいな・・・ 」

[ 僕と似てる? ]

「 ・・・え ?? 」

[ フランソワーズ・・・じっと僕を見てるけど君は <僕> を見ていないもの ]

「 そ そんなこと ・・・ないわ。  」

[ ― ほんとう? ]

「 ええ 本当よ。  ・・・さ さあ・・・もう帰りましょう。 お茶の用意、しましょ。 」

フランソワーズはさり気なく繋いでいた手を  ―  離した。

二人はゆっくりと邸の門をくぐった。

 

 

 

「 ジェロニモ ・・・ なにか連絡はあった? 」

「 ・・・ 今 入った。 」

「 え!? それで ・・・ どうなの? 」

フランソワーズは 崖っぷちの家に戻るなりリビングにいた仲間に聞いた。

「 フランソワーズ。  ・・・ 成功次第 帰る、そうだ。 」

「 ・・・え ・・・ あ ああ ・・・ そう ・・・ じゃ・・・まだ?」

「 いろいろ・・・面倒なこともあるらしい。 」

「 面倒なこと? 」

「 ああ。 

「 だ  誰か 負傷した・・・の? 

「 いや。 皆元気だ。 」

ジェロニモは言葉を選んで答えた。  側にはジョゼフも一緒にいるのだ。

「 もう少し待っていればいい。 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

ぽすん ― 彼女はソファに座りこんだ。

 

     ジョー ・・・・ !  どうしているの、元気なの?

     ・・・ お願い、 伝言でもなんでもいいから なにか言って!

 

俯いた顔が熱くなってきた。  ・・・ な、 涙なんか落とさない・・から・・・!

羽織っていたパーカーの裾を きゅっと握り締めた。

何時の間にか 横にジョゼフが座っていた。

[ お家の人たちは まだ帰らないの ? ]

「 そう・・・みたい。  もう少し ・・・ 待つわ。 」

[ きっとすぐだよ。 ]

「 そう ・・・ そう ね。   あ ・・・ ランチにしましょうね。 」

[ 手伝うよ。 なんでも言って? ]

「 ありがとう! え〜と ・・・ それじゃサンドイッチでも作りましょうか。

 ハムと卵はあるし。  あら〜 これじゃパンが足りないわねえ・・・ 」

[ 御飯 あります? 僕、チャーハンとか作れますよ。 ]

「 え・・・?  今は炊いていないの。  その ・・・ ジョーがいないから・・・ 」

[ フランソワーズは御飯が好きじゃないの? ]

「 え そ そんなコト、ないわ。  でも あの ・・・ 」

「 二人で温室に行ってこい。  フランソワーズ、 サラダ菜と、スナップエンドウを頼む。 」

珍しくジェロニモが口を挟んだ。

「 え? なに?  もう一度ゆっくり言って? 」

[ サラダ菜とスナップエンドウ、だって。 

「 あ  ありがとう、ジョゼフ!   はい わかったわ。

 ついでに苺も♪  もう随分と美味しいはずよ?  ジョゼフ、手伝ってね。 」

[ よろこんで。 ]

「 じゃ・・・ このバスケット持って? 温室はこっちよ。 」

[ あ  待って ・・・ ]

クスクスクス ・・・  あははは・・・・

若い笑い声が崖っぷちに建つ家に 響いていた。

 

 

裏庭にでれば 洗濯もの乾し場の奥には帳大人のハーヴ畑とジェロニモの温室が見える。

扉をあければむっとした暖気とともに青臭い植物の香りがこぼれでてきた。

二人は低い天井の下、 腰を屈めて歩いた。

[ 本格的だね。 家族のひとは農業をやっているの? ]

「 ううん。 ここはジェロニモの <趣味> なの。 いろんな野菜を作っているわ。 」

[ 趣味! すごいなあ・・・ ]

「 ほら ここよ。  えっと なんだったかしら ・・・? 」

[ スナップエンドウ、でしょ。 あと  ・・・?  

「 あとはねえ・・・ サラダ菜ね。 それからあっちに苺があるの、それもお願い・・・ 」

[ うん。  うわあ〜〜〜 ・・・ すごい ・・・ ]

渡された籠はたちまち一杯になる。  野菜が終ると苺の畝の方へまわった。

「 あら いい色になったわね。 ・・・ これなら間に合うわ。 」

[ 間に合う?  ・・・ なにに? ]

「 え・・・ あの な なでも・・・ないわ。  ああほら この籠に摘んで? 」

[ 了解。  うわあ 美味しそう・・・ 甘いかなあ? ]

ジョゼフは摘みつつ そっぽを向いてぽいっと一粒口に放る。

「 ・・・あら。 つまみ食いをしてはダメよ、ジョゼフ〜〜 」

[ えへへ・・・わかった? ]

「 お口が染まっているわ。  ふふふ 沢山あるから・・・ちょっとはいいけど? 」

[ ふふふ 君の口も赤くなってま〜す ]

「 ・・・ あ ・・・ もう〜〜〜 」

「 はははは ・・・・ 」

「 うふふふ ・・・ 」

「 ・・・ ありがとう。 こんなに楽しいの、初めてだ ・・・ 」

「 ジョゼフ ・・・ 」

[ フランソワーズ。 君の <家族> は皆優しいね。 ]

「 え ・・・ そ そう?  ・・・ そうねえ。 皆 優しいわ。 」

[ 家族がいるって ・・・ いいなあ。 

「 あ あの・・・ 皆はわたしの本当の家族じゃなくて ・・・ あの ・・・ 」

言いかけ 言い澱んだ彼女の前につい、とメモ帳が突き出される。

[ すとっぷ。  一緒に住んで仲良しなら ・・・< 家族 > だろ? ]

「 え ええ ・・・ そうね・・・ 

 あ それじゃ。 今は ジョゼフも <家族> だわ。 」

フランソワーズは彼のメモ帳にそっと手を当てた。

[ か  ぞ   く  ・・・? ]

「 そうよ。 だって一緒に住んでいいて仲良しでしょう? 」

[ う うん ・・・ ]

「 ねえ? ジョゼフの望みは なあに。 」

[ 望み? ]

「 ええ。 そうねえ 夢・・・っていうか。 憧れ とか? 」

[ 夢 ? 僕の ・・・ 夢? ]

「 そうよ。  ほら・・・ パイロットになりたい、とか宇宙に行きたい とか ・・・

 皆 そんな夢、持っているでしょう?  」

[ フランソワーズの夢 は?  聞いてもいい? ]

セピアの瞳が ひた、と見つめている。

「 え ・・・ あ わたしの夢 ・・・ 夢は あの。

 愛するひとといつも一緒にいたい なあ・・・って。  可笑しいでしょ、笑っていいわ。 」

自然に 頬が染まった。

[ そのヒトって   < ジョー >? 

「 え! そ そんなわけじゃ ・・・ あのほら、仲間とか家族とか・・・

 無理かもしれないけど ・・・ お兄ちゃんとか ・・・ 」

そう・・・とジョゼフは頷くと、足元の苺畑に屈みこんだ。

ハサミが温室越しの光に輝き そのたびに赤い実が籠の中に増えてゆく。

フランソワーズも黙って彼の側に屈みこむ。 

[ 僕の夢 は ね。 ]

「 ええ なあに。 」

[ 僕の夢は ―  一緒に笑って暮らしたい ・・・ その ・・・ か 家族と ]

「 ジョゼフ ・・・ 」

[ フランソワーズ ・・・  ]

ジョゼフは籠から真っ赤な苺を一粒 摘み上げた。 そして ―

ゆっくりとフランソワーズの肩に腕をまわし抱き寄せた。

[ ・・・・・・・・ ]

  パサ・・・ メモ帳が苺の上に落ちる。

「 ・・・な なに、 ジョゼフ・・・え? 」

彼は彼女のほほに手をかけ、唇にキスをした ― 苺を真ん中に挟んで。 

真昼の白い陽射しが 温室越しの陽射しが 二人を明るくつつんでいた。

 

 

 

  ・・・・ カーテンを引いてない ・・・

 

ジェロニモ はゆっくりとリビングを突っ切ると、海側の窓へと近づいた。

早春の夜、海は穏やかで波間に揺れる星影からも凍て付く光は消えている。

「 あら ・・・ ごめんなさい、忘れていたわ。 」

フランソワーズがお茶のトレイを持って入ってきた。

「 フランソワーズ。  疲れていないか。 」

「 大丈夫、元気よ。  ・・・・ あ ありがとう ジョゼフ 」

彼女の後ろから ジョゼフがお茶ポットを捧げてついてきた。

「 熱いから気をつけてね・・・ そこに・・・ええ コースターの上に置いてくれる? 」

[ ・・・・・・・・ 

少年は神妙な顔つきで ポットをそっとテーブルの上においた。

「 俺が淹れよう。 」

ボソ・・・ッと言って、ジェロニモはポットを取り上げた。

ジョゼフは目を丸くして眺めている。

「 あ ありがとう・・・  美味しいお茶になるわね。 」

「 ・・・ これはいい茶葉だな。 」

いい匂いの湯気が湧き上がり流れ 三人をつつむ ・・・ 

[ こうやって入れるんだ? お茶って ]

ジョゼフが 眼を丸くしている。

[ 僕のいたところでは  お茶って麦茶くらいだった・・・ ]

「 こういうお茶も美味しいでしょう? 

[ これ ・・・ 紅茶でしょ? ほんとうにいい匂いだなあ・・・ ]

「 そうよ。 味、覚えてね。 ああ ほら苺。 さっき摘んできたのよ。 美味しそうね。 」

ガラスんの鉢に 赤い実が山ほど盛られている。

[ あ  うん・・・   あれ、これは?  小鳥?? ]

ジョゼフはソファの隅からなにかを取り上げた。 

「 ああ それはね、わたしの大切な <おともだち>  」

[ おともだち? だってこれ・・・ 木彫りの鳥、だろ? ]

「 ええ。  ジェロニモが作ってくれたの。  ずっと一緒にいたくてここに持ってきたの。 」

[ ふうん・・・わあ これ いいね 僕、小鳥って大好きさ。 

ジョゼフは小鳥を掌にのせ、丸い頭をなで羽根の曲線を指で辿っている。

[ とっても暖かいね ・・・ この小鳥 ・・・ ]

「 でしょ。  本当の小鳥は飛んでいってしまうけれど・・・ このコはずっと側にいてくれるわ。 」

[ うん ・・・ でも一人で淋しいかも ]

「 それならば 番いを作ろう。 」

ジェロニモはしずかにカップを置くと 立ち上がった。

「 材料を取ってくる。 ]

「 ま まあ・・・ジェロニモ、 今すぐじゃなくていいのに・・・ 」

少し驚いている彼女を後に、寡黙な巨人はスタスタとリビングを出ていった。

[ すごいね・・・・ こんなの、作れちゃうんだ。 ]

「 そうね 彼の作ったものは皆 ・・・ こう、暖かいなって思うわ。 」

[ うん ・・・ こうやってると今にも飛び出しそうだよね。 ]

よほど気に入ったのか、ジョゼフは両手で小鳥を包み 眼の高さに持ち上げて眺めたりしている。

「 ・・・ ジョゼフ。  気に入った? 」

[ うん ものすごく。  ・・・ いいなあ これ。 ]

ジョゼフは満面の笑顔で 小さな木彫りのことりをながめそうっと摩ったりした。

 

       あら。   こんなに嬉しそうな顔 ・・・ 初めて ・・・

       うふふふ・・・ 本当にジョーと似ているわね、

 

       ・・・ ううん  ・・・ いつものジョーじゃなくて 

       そうね、 クビクロと遊んでいた時 とか・・・

       海で皆で泳いでいたとき とか・・・・

 

       ジョー・・・ こんな風に笑うわよね・・・

 

フランソワーズは そんなジョゼフをしばらく見ていたが。 く・・っと何かを飲み込んでから口を開いた。

「 あげる わ。 

[ ・・・ え ?? 

「 あげるわ、 そのコ。  ジョゼフにあげる。 」

[ だ だめだよ!  だってこれ・・・ フランソワーズにって 作ってくれたんだろう?? ]

「 そうだけど。  でもきっとそのコ・・・ジョゼフと一緒に居たいって思っているわ。 」

[ ・・・ で でも ・・・ ]

「 大丈夫、 わたしはもう一羽の方を大切にするから。 」

[ で でも  ・・・ でも ・・・ ]

「 お願い。  ね? 」

[ ・・・ ・・・・・・・ 

ジョゼフはメモ帳を放り出して、フランソワーズに抱きついてしまった。

「 あ あらら ・・・・  」

「 ・・・・・・・・・・ 」

「 あ り が と う、  そう言っているのでしょう? 」

「 ・・・・・・・ 」

ジョゼフは ぶんぶんと首を縦に振り顔を真っ赤にして彼女から離れた。

[ ごめんなさい。 ]

「 いいのよ ジョゼフ ・・・ 

彼はじっとフランソワーズを見つめていたが ― 淋しい笑みを浮かべて視線を逸らせた。

 

 

 

 

 

   ― ズズズズズッズ ・・・・・!

 

「 !! しまった!  雪廂が崩れるッ 」

「 上昇だ、急げ! 」

「 っきしょ〜〜! エンジンが全開しねェ〜〜〜 」

「 慌てるな、一旦下降してフル・パワーで急上昇しろ。 」

「 り 了解!! 」

がくん、と一旦衝撃があり そのあと機体は猛スピードで上昇していった。

「 うわわわ −−−−− ! 」

「 博士!! 大丈夫ですか! 」

「 どひゃあ〜〜〜  あんさん ちと乱暴ですがな〜〜 」

「 ・・・と ともかく脱出したぜ 」

「 いかん、 ジョーは! 」

完全な水平飛行になる前に 博士はメディカル・ルームに飛び込んだ。

 

サイボーグ達は苦戦していた。

苦戦、というよりも地の利を生かした敵の基地は難攻不落に近かった。

ジョーとジェロニモを欠き、さらに万能に近い <眼と耳> を欠き ・・・ ミッションは難航した。

 

「 ・・・ 博士、 どうなんです? 」

「 ・・・・・・ 」

博士は重い足取りでメディカル・ルームから戻ってきた。

「 博士。 boy はまだ ・・・ 眠り姫を決め込んでいるんですかね? 

「 ・・・ 状態は安定しておる。  メカ部分は勿論、脳波にも異常はない。 」

「 それなら なぜ意識が戻らないんです? なにか他の損傷があるんですか。 」

「 いや。  ただ ただ009は目覚めんのじゃよ。

 脳波も深層睡眠の様子を出しどおした。 」

「 あいや〜〜〜 いい加減に起きるアルね!

 そや! 美味しいモンつくったるわ、ええ匂い嗅いだら眼ぇもさめますやろ。 」

「 ・・・わからん。 なぜか009は今、外界からの刺激には一切反応を示さんのだ。 」

「  ― 外界からの? それはつまり ・・・

 ジョーのヤツは自分の意志で 自分の中に閉じこもっている・・・と? 」

「 うむ ・・・ まあ ちょっと違うが 似たようなものかの。

 無理矢理覚醒さえれば 脳自体どころか精神的にもダメージを当ててしまうだろう。 」

「 ・・・ ち! そんじゃ 俺っち、どうすりゃい〜〜んだよッ 」

キレた赤毛に アルベルトが低く唸った。

「 黙れ。 喚いても解決にならん。 」

「 そ ・・・そうだよ。  さぁともかく作戦を練り直そうよ。

 どんな鉄壁に見える基地でも必ず盲点はあるはずさ! 」

落ち込んだ雰囲気を払拭しようと ピュンマが懸命にとりなす。

「 そやそや!  ほんじゃ、ワテはオヤツの用意、してきまひょな。 」

「 たとえ苦境にたってもテイー・タイムを欠かさんのが紳士の嗜みだ。 おっほん 」

「 そうだな ・・・ 雪雲の上にでれば安全だ。 

「 ・・・ え〜と・・・? ああ 海側の崖のほうが雪が少ないようだよ? そっちに停泊しよう。

 ジェット? 座標を送るよ。 」

「 お〜らい!  ・・・・と 途中まではオートでゆくぞ〜 」

ドルフィン号のコクピットは 少しだけほっとした空気が流れた。

  しかし。  ジョーは まだ目覚めない。

 

     おい、 ジョー?  いつまで眠っている気か?

     誕生日は  フランの誕生日は もうすぐだぞ・・・

 

アルベルトは憮然として 外の白い闇を睨んでいた。

 

 

 

 

  波の音がすこしだけ軽くなったのかもしれない。 

 

 ―  そんな風に思えるのは自分だけだろうか。

フランソワーズはテラスから目路はるか広がる大海原をながめていた。

 

まだ 聞くことができない。  普通の会話は唇の動きでほぼ、理解できる。

ジョゼフとはメモ帳が <音> の替わりになっている。

住み慣れた家に戻ってきたのだし、日常生活にはほどんと支障はない。

TVは見るだけ、ラジオはまったく役にたたないが、新聞があれば事足りる。  

でも 海の 風の 鳥たちの <音> が聞こえないのはとても淋しい ・・・

「 ・・・ そうねえ ・・・ずっと ずっと ですもの。

 ここに来てからずっと ・・・ 何時だって波の音が、そして風が木々を揺らす音が

 側にいてくれたのよね ・・・ 」

空の 海の 色や 風の強さで季節の移ろいは感じることができるけれど・・・

「 皆 ・・・ どうしたの?  すぐに還ってきてくれる って信じていたのに。 」

定期通信は入ってきているらしい。

ジェロニモが受信しているが ・・・

 

「 皆 無事だ。 心配はいらない。 」

 

彼はいつもそのフレーズだけ、答えるとぴたり、と口を閉ざしてしまう。

「 信じるしかないわ ・・・ 今のわたしには ・・・ 」

 

    ふう ・・・・・  

 

不安な吐息が海風に浚われていった。

「 ・・・ ?  あら ジョゼフ? 

テラスへのサッシを開く音がして、すぐに軽い足音が続いた。

[ 買い物に行ってきます。 店はどこにありますか? ]

「 え ?  ああ 夕食の? 」

[ そう。 あのね、 冷蔵庫には冷凍食品しかないんだ。 ]

「 ・・・ あ ・・・・ 

[ 野菜は裏のハウスから採ってこれるけど。  肉とか魚とか卵とか・・・ 必要だろ? ]

「 あ アア  そうね。  すっかり忘れていたわ。 」

[ だから買い物。 僕、行ってきます。 道を教えて? ]

「 ・・・ わたしも一緒に行くわ! 

[  え。 

 

さんざん渋い顔をするジェロニモを 拝み倒し。

フランソワーズはジョゼフと一緒に坂道を下っていった。

[ 本当に大丈夫?  ・・・まだ 病み上がりなのでしょう? ]

「 大丈夫よ。  病気じゃない、って言ったでしょう?

 それにねえ、甘やかしていると筋肉はどんどん弱ってしまうわ。 」

[ じゃ 荷物は全部僕が持つから! ]

「 あら・・・ ジョゼフこそ大丈夫?  食料品って結構重いのよ? 」

[ 平気さ。 ぼくだって オトコだよ! ]

「 はいはい ・・・ あ そこの十字路を左よ。 」

[ おっけ〜〜 ]

「 あ ・・・ 待って待って。 そんなに走らないでよ〜〜 」

フランソワーズはあわててジョゼフの後を追ってゆく。

「 ・・・ はあ ・・・  待ってってば。 」

やっと追いつき、 ぽん、と背を叩けばジョゼフはびっくりした顔で振り返る。

「 ???  」

「 まって  ったら! 」

[ あ・・・ ごめん ・・・ ]

「 もう〜〜〜 ・・・ 男の子っていっつも自分のペースなんだからァ〜  」

[ だから ごめん、ってば・・・ ]

「 ・・・ もう。  ・・・ ふふふふふ ・・・ 」

「  ・・・・・・・・・・ 」

二人は顔を見合わせたまま湧き上がってくる笑いに負けて ― 大笑いしてしまった。

「 あ あはは ・・・ もう〜〜 イヤねえ ・・・ 」

[ あは。  でも ― 僕。 こんなの、夢だったんだ。 

 か、家族と一緒に買い物とか行って 笑ったり ・・・ 時々ケンカしたり ・・・ ]

「 ジョゼフ ・・・ あの 」

先に視線を逸らせたのは フランソワーズだった。

「 ・・・あ あの ・・・ 」

[ 買い物、しなくちゃ。  スーパーはどこ。 

「 ・・・ もう少し先よ。 」

[ わかった。 ]

二人は少し離れると黙って歩きはじめた。

  ― ひゅん ・・・  名残の木枯らしが二人の頭の上を駆け抜けていった。

 

 

 

 

「 ― 強行突破だ ! 」

「 おい 待て! 」

「 い〜や! も〜待てね。  突っ切るぞ、皆しっかり捕まってろ〜〜〜 」

「 ったく! 」

「 いや・・・ いいかもしれないよ? アチラさんもまさかって思ってるだろうし! 」

「 ハイナ〜〜 ワテはいっつでん、準備おっけ〜やで! 」

「 − よし。  博士! しっかりシート・ベルト締めてエア・バッグも使ってください! 」

「 わ わかった! 」

「 お〜〜し!  行くぞ!! 」

 

    ザザザザ −−−−−−− ・・・ !

 

ドルフィン号は雪の荒野を半ば滑落しつつ 下降していった。

「 うわッ!  我輩の腰にひびく〜〜 」

 

サイボーグ達は最終攻撃を仕掛けた。

ずっと風雪に阻まれ敵の基地、ほんの小さな基地を攻めあぐねていた。

BGの残党も 地の利を十分に生かし巧みに攻撃をかわしていた。

  そして ついに。 赤毛が痺れを切らした、ということだ。

 

「 おら〜〜〜 いっちょ お見舞いするぞ〜〜 」

レーザー砲が吹雪を切り裂いてゆく。

   ― ガックン ・・・ ガガ ・・・・!

機体が大きく揺れた。 迎撃のレーザーを後尾に喰らったらしい。

全員 シートから転げ落ちそうになった。

「 ・・・ とぉ〜〜  あぶね〜〜 」

「 博士! 大丈夫ですか!? 」

「 う・・・ うむ・・・・ なんとか・・・ 」

「 おい、気をつけろ!  攻撃に気を取られると ! 」

「 くそ〜〜〜 こらァ ここで落ちるなァ〜〜 」

   ガガガ −−−−−!  ズザザザザザ −−−−−!!

「 うお〜〜 こりゃ 舌、噛みそうだ〜〜 」

ドルフィン号は大きくバウンドしつつ 左右にローリングし始めた。

「 おい 上昇しろ! 」

「 ・・・く ・・・! 雪で ・・・ 凍て付いてやがる! 」

 

「 ぼくがやる。  ― 君は攻撃しろ。 」

 

赤毛の隣 ― 空席のパイロット・シートにす、っと防護服姿が座った。

「 ??  じょ ジョー !!! 」

「 !?  ジョー! 大丈夫なのか!? 」

全員が立ち上がりかけた ・・・・

「 皆 座れ。  シート・ベルト、着用! 行くぞ! 」

「 あ ああ ・・・ 」

 

    ガクン ・・・!

 

もう一回揺れると、ドルフィン号は一気に上昇した。

「 ふう −−−−−−− 」

コクピットに全員の吐息が満ちた。

「 ジェット。 ここから旋回して急降下するから。  狙い撃ちだ。 」

「 了解〜〜〜っとくらァ 」

「 よし。 ジョー、操縦はまかせる。 こっちも攻撃する。

 ピュンマ、 目標座標セットしてくれ。

 グレート、大人 !  予備攻撃システム オープンだ! 」

「「「  了解〜〜 !!! 」」」

ドルフィン号は残党どもの基地めがけて 一直線に滑空してゆく。

 

「 ― フランソワーズが 呼んでる ・・・! 

 

「 なに、なんだ?  ジョー 」

「 聞こえたんだ。  フランソワーズが呼んでる。 だから  ― 早く還るんだ!!! 」

「 ・・・ わ わかった ・・・ 」

ジョーはそれきり口を噤み。 前だけを見つめていた。

 

  ― ドルフィン号は あっと言う間にミッションを完了させ雪雲を突っ切り消えていった。

 

 

「 ・・・・・? 」

突然、ジョゼフは顔をあげるとカーテンの下りた窓をじっと見つめている。

夕食後 フランソワーズもジェロニモも そしてジョゼフもそれぞれリビングで寛いでいた。

「 どうしたの、ジョゼフ? 

[ わからないけど ―  外で なにか音がしたんだ。 ]

「 音? 」

フランソワーズは窓に寄ってカーテンを少しずらした。

「 ・・・ よく ・・・わからないわ。  ちょっと見てくるわね。 」

「 待て。 俺が見てくる。 お前たちはここにいろ。 」

後ろでジェロニモが 立ち上がった。

「 この家のセキュリティは万全だ。 家から出るな、いいな。 」

「 判ったわ。  ジェロニモ ・・・ 気をつけて! 」

「 ・・・・・ 」

ちょっと手を上げて、寡黙な巨人は静かに出ていった。

 

 

 

   ― ジャリ ・・・・

門の外に誰かがいる。

フランソワーズは反射的にジョゼフを抑えて共に身を低くした。

「 ・・・・? 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワーズは黙ったまま 門の外を指した。

 

10分 待ったがジェロニモは戻ってこない。

とうとうフランソワーズは痺れを切らし スーパーガンを隠し持つとそっと玄関から外にでた。

[ 僕も行く。 ]

「 ダメよ!  危険だわ。 」

[ 僕が護るよ! ] 

「 ・・・ それじゃ ・・・ 裏口から出て反対側に周りましょう。 」

[ 了解! 

二人は 足音を忍ばせ、庭を横切った。

 

邸の門の前に 数人の影が忍びよっていた

フランソワーズは背後に回り スーパーガンを構えた。

 

「 ―  誰 !? 

 

  !!   !    闇夜に声にならない悪態が飛び同時に複数の足音が駆け出した。

「 待ちなさいよ! 」

フランソワーズは そのまま崖の方へ追った。

松林が途切れたところで ふ・・・っと逃げてゆくヤツラの気配が消えた。

「 ??  出てきなさいッ !  どこのコソ泥なの!? 」 

 

    ザザザ ・・・・!  ビシ ・・・!

 

彼女の足元に数発 何かが炸裂した。

「 ・・・ く ・・・! 」

じりじりとフランソワーズは崖っぷちに追い詰められてゆく。

 

    ビシ ッ !   ビシ  ビシ ・・・!

 

突然 人影が彼女の前に飛び出してきた。

「 ・・・ あ  あぶないッ  フランソワーズ ・・・! 」

「 !?  ジョゼフ ・・・! あなた、声が ・・・! 喋れるのね! 」

「 あ ああ  ・・・ フランソワーズ、 きみも耳が  聞こえるんだ? 」

「 あ。  ええ ・・・ どうして? 」

「 どうして。  ―  ああ !!  あぶない・・・・!! 」

ジョゼフはフランソワーズの前に飛び出した。

 

    パ  −−− −−− ・・・・ン ・・・! 

 

その瞬間にくぐもった音が響き 少年の身体が宙に跳じきとばされた。

「 !!  ジョゼフ  !! 」

「 フランソワーズ ・・・・ さよなら ・・・ 」

闇夜に彼の笑顔だけが  見えた。   そして  ―  消えた。

少年の笑顔が 彼女の目に焼きついた。

「 ジョゼフ !?  ・・・ だめよ、だめ。  そんなの ダメよ ・・・ 

フランソワーズは 起き上がり懸命に彼をさがし、追った。  

  ― そして再び 鈍い音が響いた。

 

    パ −−−−−− ・・・・ ン ・・・!

 

「 きゃあ 〜〜〜  ジョー −−−−−− ・・・・!! 」

  

    −−−−   シュ ・・・ !!!

 

不意に ― 彼女がよく知っている、知りすぎている音が 聞こえた。

次の瞬間 彼女はがっちりと二本の腕に抱えられていた。

「 !? 」

「  ・・・ フラン!?  大丈夫か! 

「  ジョー ・・・・! 」

「 ・・・ フラン。 ただいま。 」

「 ジョー 、 ジョー ・・・・! 」

二人はそのまま 固く固く抱き合った。

 

 

「 え? 誰もいなかったよ。 きみを撃とうとしたヤツはとっくに始末した。 」

「 ・・・ 誰も・・・? 」

「 ああ。  ヤツらはきみが崖っぷちに立っていたので 狙ったんだ。

 恐らく BGの残党の一派が研究所を嗅ぎつけたんだろうな。 」

「 ・・・ え ・・・ わたし ・・・だけ? 

「 そうだよ。 でもなんだってあんなところに居たんだい? 」

「 ・・・ ジョーを ・・・ 呼んだの。 」

「 そうか!  うん、ぼくも  きみの声が聞こえたから。  ぼくを呼ぶ声が ・・・ 」

「 わたしの 声 ? 」

「 そうなんだ。  それで目が覚めた・・・ ずっと機能停止状態だったそうだ。 」

「 まあ ・・・! 

「 でも  ふふふ ・・・ 笑ってくれよ? 夢の中で帰ってきてた。

 きみを護らなくちゃ、って。  そうさ、 きみとの約束を守らなくちゃ・・・って。 」

「 ・・・ ジョー ・・・ 

「 気持ちばっかり焦っていたのかもしれない・・・ 」

「 ううん ・・・ 」

フランソワーズは伸び上がると ジョーの首に腕を絡めた。

「 ジョーは ・・・ ちゃんとわたしの側に居てくれたわ。 」

「 ??   でも あんな危ない目に合わせてしまって。 ごめん ・・・ 」

「 ううん ううん。   ね  子供の頃 ・・・ ジョゼフ って呼ばれていた? 

「 え。 ・・・ あ うん ・・・ 神父様が ね。  そう呼んでくれた。 」

「 そう ・・・ そうだったの。 」

 

     ちいさなジョー  ううん、 ジョゼフ。  

・・・ ありがとう。   あなたが 好き だったわ・・・

 

「 なに? 

「 ううん  なでもないの。 」

「 あ ・・・ あの。 きみの誕生日 ・・・ 明日だよね。  ごめん、何にも ・・・ 」

「 うふふ ・・・わたしがほしいモノはね。  ・・・ あなたの側にいること。

 ・・・ただ それだけ よ。 」

「 フラン・・・ ぼくもさ。  きみと笑って暮らしたい。 」

「 ジョー ・・・ 」

二人はゆっくりと < 家 > に向かって歩きだした。

 

 

 

    ***** いろいろと解説的おまけ *****

 

「 そりゃ 『 菊花の契 』 だろ、 古い話だ。 」

ジェロニモの拘束を外しつつ アルベルトが言った。

彼は多勢に無勢、まんまと捕捉されていたのだ。

「 現身 ( うつしみ )は一日に千里は行けぬが 魂はよく千里をもゆく、だろ。

 約束を守るために自害したオトコの話。 」

「 そうだったな。  しかしアレは確か 」

「 ああ。 一種の男色文学だな。 はん、ジョーのことだ、勘違いでもしたんだろうよ。 」

「 違いない。 しかし戻ってきたのだから褒めてやろう。 」

「 そうだな。 ま これで無事に姫君の誕生日だ。 」

 

   

そのころ。 当の二人は  ― 

「 ・・・これに似た木彫りの小鳥、 持っていた? 」   

フランソワーズは彫りあがったばかりの作品をジョーに見せた。

「 え? ・・・ うん 持ってたよ。 ずっと・・・・ぼくの数少ないタカタモノだったんだ・・・ 

 今になって ・・・ あれだけは惜しいなあって思うもん。 」

「 きっとね、小鳥もジョーのことが好きだったのよ。 」

「 え ・・・? あ うん ・・・・そう かな・・・ 

 でもこれ・・・ よく似てるよ。  ぼくのは手垢でもっと汚れていたけどさ。 」

「 そう? 本当に可愛いわよね。 」

「 うん ・・・ あの さあ・・・ 」

「 だめ。 あげない。 」

「 え〜〜  」

「 これは わたしの♪ 」

「 ちょっとだけ貸して。 ちょっとだけ〜〜 」

「 だぁめ。 」

「 ・・・けち。 」

「 うふふふふ  ふふふふ 」

二人は見つめあい 笑い合い ・・・いつのまにかキスをして。

 

  ― 月がちかり、と波間に光を落としている。  明日は そろそろ春一番が吹くのかもしれない。

 

 

 

***************************   Fin.   *****************************

 

Last updated : 06,07,2011.                  index       /       back

 

 

**********   ひと言   *********

やっと終りました。

そ〜なんです、アレはオトコ同士の 約束 なんですが・・・

ちいさなジョー あなたが・・・ のセリフをフランちゃんに言ってほしくて

延々書いたのでした。 

書きたくないけど・・・ジョゼフは 少年・ジョー なのだヨ!