『  奇々怪々 ― (2) ―   』

 

 

 

 

 

 

 

 

  ガガガガガガガ −−−−−  !!!

 

 

004のマシンガンが炸裂し、塔の中は激しい共鳴の響きでいっぱいになった。

「  ふん ! 逃げ足の早いヤツらめ!  」

アルベルトは 半ば砕けた石床を忌々し気に踏みしめた。

 

   コッ ・・・・!

 

小石がひとつ、彼の前に落ちてきた。

「 ふ ・・・・ん ! 思わせぶりな合図だな。 さっさと出てきたらどうだ! 」

塔内は石床だけではなく回廊も 今までの闘いでかなり破壊されてしまっている。

潜んでいるには絶好の 瓦礫の山 がいたるところに出来上がった。

「 よし ・・・ 」

油断なく身構えつつも アルベルトはじりじりと回廊を上り始めた。

「 狭い塔内よりも外の方がずっと気持ちいいぞ〜〜 ― 雌雄を決するには

 やはりお天道様の元がいい。  行くぞ! 」

彼はバッと足元を蹴ると一目散に階段を駆け上がった。

 

   ヴィ 〜〜〜〜〜 !!!   三本のレーザーが彼を執拗に追ってくる。

 

 ガバ ・・・!  アルベルトは回廊の一番上まで ― ともかく <屋上> まで

相手を引っ張り出した。  

「 ふふん。 ここなら余計な障害ブツはないぞ。来い! おれは逃げも隠れもしない! 」

     ヒュウ −−−−− ・・・・・

 

先ほどまでの青空が 俄に雲で覆われだし湿り気を含んだ風が吹いてきた。

ざわざわと城の周囲で木々が大きく揺れている。

「 ― お望み通り 嵐  か ・・・ 」

ちらり、と空を見上げ アルベルトは忌々し気に視線を上げた。

 

   ガサ ・・・    ズサ!      トッ !

 

複数の足音が  ― 彼を遠目に囲みゆるゆると巡回し始めた。

 「 ・・・ そう来たか。 」

彼は古城の屋上に佇み じっと耳を澄ます。

 ごうごうと吹く風  その風に振り回される木々の葉擦れ  引きちぎれる葉や小枝・・・

そんな自然の音の中から聞こえてくる < 機械音 > ・・・

それはアルベルトだけを狙っている < 機械 > 達の音なのだ。

「 ふん!  ・・・ますます奇々怪々ってとこだな。 」

 

   シュ ・・・!   ズサササ !  トトトトッ !

 

彼を包囲している足音が 変わった。 

「 ! 加速したのか!?  加速装置は009の他は002に搭載されているだけのはずだが

 ・・・ いや それは俺達の場合だな。 」

クソッ! 彼は歯噛みをしつつ自分を中心に徐々に狭まってくる音の渦に集中した。

いかに動体視力が優れていたとしても 加速中のサイボーグを目視はできない。

「 む ・・・いま 奴らは三人で俺を狙っている! ふん 見損なうなよ! 

 はっきりと冷たい殺意が突き刺さってくるからな ・・・ 」

 ズ ・・・ 彼はゆっくりとスーパーガンを持ち直した。

「 音に ・・・ 惑わされてはダメだ!  」

さすがにグリップを握る手に 掻くはずもない冷や汗が湧いてくる・・・ 気がした。

「 くそ ・・・ !    うん? これは・・・こんなシーンを知っているぞ? 」

不意に。 鼻の奥がチリチリと焦げるがごとき想いが そして情景が彼の脳裏に浮かんだ。

 

  あれは ― あれは  いつのことだ ・・?!

 

 「 そうだ ! あの・・・ あの時と同じ ! 」

アルベルトは  ゆっくりと息を吐くと 慎重にスーパーガンを構えた。

「 ふん! ・・・ こんなことに使いたくはない! こんなことに な! 」

包囲してくる音の壁はますます狭まってくる。

  「 …!! !  」

 

     ヴィ −−−−−−−−−−− !!!

 

一条の光線が アルベルトのスーパーガンから大気を切り裂いた。

 

       パアアアアアン  ・・・・!

 

甲高い音をともに なにかが宙に跳ね上がり ― そしてなにもない空間から 

赤い防護服姿がゆっくりと倒れ出てきた。

 

   ズサ −−−− !   ソレは 茶髪を石床にめり込ませ動きを止めた。

「 トドメを刺すのは 死神の役目 か ・・・ 」

アルベルトは もはやピクリとも動かない < サイボーグ戦士 > の頭部を破壊した。

「 ・・・ ふん、 はやり な。 

 ああ そうさ。 俺は思い出したんだ ― あの時のことを。

 そして < 俺はお前の走る音の特徴を知っている > ことを思い出した! 

 あの時は 違う方 を狙ったが 今日は その音 に照準を合わせたのさ。

 おい そこの機械ども! 」 

 

     ヴィ −−− !    ヴィ 〜〜〜 !

 

ふり向き様に トリガーを引いた。

 ガガガガ ・・・!    グヴァ 〜〜〜

バチバチバチ 〜〜〜  シュ 〜〜〜〜 ・・・ 火花が散り白煙が突如中空に吹き出し ・・

ほどなくして二体の機械が転がり出て、 彼の足元で完全に動かなくなった。

冷徹な眼でよくよく観察すれば いずれも実に精巧に作られた機械人間 ― アンドロイドだ。

これならば サイボーグにかなり類似した存在といえるだろう。

 ただし ― 今 足元に転がっている動かないメカには ヒトである部分は皆無なのだ。

 

    「 クソ〜〜〜! 誰だ ! こんな手の込んだことを企んだのは! 」

 

グシャ!  アルベルトは壊れた残骸を乱暴に足蹴にした。

「 でてこい !!  ニセの、いや アンドロイドの 004! 」

 

   うわ〜〜〜〜 ん ・・・・  彼の言葉は石壁に共鳴し散ってゆく。

 

「 ふん! それでは今度こそ こっちから行くぞ ! 」

右手のマシンガンは もはやほぼ使用不可能だ。  この場所の接近戦となると

使用できる武器は スーパーガンだけだ。

膝にはミサイルが充填してあるが塔の中で発射すれば ― 結果は考えたくもなかった。

「 こっちは丸腰に近いってことだな。  おい 頼むぞ!  」

変形した手に握るスーパーガンをちょいと眺めてから グリップを握りなおす。

 

  ガツ ・・・!  彼は重い一歩を踏み出した。

 

  ヒュウ −−−−−・・・・・  塔の中から風が舞い上がってくる。

このどこかにアレは姿を潜め じっとアルベルトを見つめているに違いない。

「 野郎の熱い視線は お断りだぜ。 ふん! 」

 

カツン  カツーーン  カツーーーーン  ・・・・  

 

 

 

    お 〜〜〜〜  い  ・・・・  アルベルト ぉ 〜〜〜〜

 

黴臭い風にのって声が聞こえてきた。

「 う ・・・?  」

反射的に彼は石壁にへばりつき 辺りを窺った。

「 絶対こっちよ!   ちょっと待って!  ・・・・ んん〜〜〜 あ ! 見つけたわ!」

高い声が反響してわんわん響いている。

「 ねえ〜〜〜〜 アルベルト〜〜〜 そんなとこに隠れてないで! 降りてきてよっ 」

「 は ・・・!  フランには敵わねえなあ・・・ 本物の003には さ。」

ひょい、と肩を竦めると 彼は壁際から離れ石段のてっぺんに立った。

 

    おう ・・・!  ここにいるぞ〜〜〜〜!!

 

わあ〜 とか ぎゃあ! とか。 ウソ!?  とか  いやいや現実でござるよ とか。

わいわい話し声が賑やかに上ってくる。

思わずにやり、といつものシニカルな笑みを浮かべたが ふと足が止まった。

 

    ・・・ まてよ? 簡単に信用しては ・・・

 

「 お〜〜〜い 早く降りてこいよ〜〜 」

「 へ! こっちから行くぜ! こっちゃ気が短いんだっ 」

  ズザッ !!  爆発音と土埃と共に 赤毛ののっぽが ズ −−−− ! と

飛び上がってきた。

「 よっ!  ? なんで〜 えらくショボい恰好じゃんか? 」

「 あ ・・・ ああ コレか 」

アルベルトは改めて 焼けこげの目立つ赤い服に目を落とした。

派手なはずのマフラーも 端から焦げだしている。

「 あ〜 ・・・ うん、 大人の高熱になあ 」

「 へ??? 大人ならオレらとず〜〜っと一緒だったぜ。 な〜〜〜〜?! 」

赤毛のアメリカンは 石の回廊に向かって怒鳴った。

「 ほっほっほ〜〜 そうでっせ〜〜〜  なあ はよおいでぇな〜〜 

 ご飯にしまひょ。  美味しいご飯、た〜んと作りまっせ〜〜 」

「 アルベルト〜〜〜 ねえ 今からわたし、行くわよ ! 」

「 ちょ ちょっと待って フラン〜〜 ぼくも一緒に行くからさ! 」

「 あ〜ん ジョーったら〜〜早く 早く〜〜 先に行くわ! 」

「 待ってくれよ 〜〜〜 お〜い ・・・!  」

 

   カンカンカン   コツコツコツ  ザザザザ ・・・・

 

いくつもの足音が 笑い声やら叫び声がわらわらと立ち上ってきた。

 

   あ  は ・・・ ま たとえ罠でも ― いいか!

   どうせやられるなら 笑ってやられてやるさ !

 

「 ― いま 行くぞ ! 」

「 あ! 待てって〜〜〜 」

 

  ザザザザザザ −−−−−−   アルベルトは勢いよく崩れかけた石階段を降りて行った。

 

 

 

「 あ〜〜〜〜 来た来た〜〜〜 」

「 な〜んだ、おぬしにしては珍しくごゆっくりだな。 先に始めちまうところだったぞ 」

塔の入口に広がる空間に < 仲間たち > が集まっていた。

「 あ ・・・ ああ まあ な。 」

石段を降り切ったところで アルベルトは足を止めた。

 

    ・・・ 仲間たち − 今度は、今度こそはホンモノだろうな???

 

「 アルベルト! 君のところにもニセ博士が来ただろう? 皆のところを回って来た・・

 みたいなことを言っていたもの。 」

ジョーが真顔で訊く。

「 そうなのよ! 世界中を回ってきたから疲れた・・・とか言って研究所に来たのよ!

 すごく巧にカモフラージュしていたから わたしの < 目 > でもすぐには見抜けなかったわ。 」

「 そうなんだ。 危うく引っかかるところだったんだけど フランソワーズがね〜  ね? 」

「 ええ! 目 や 耳 なんか使わなくてもちゃんとわかったわ。 

 だってね、 ウチに帰ってきて < ただいま > も言わないなんて ・・・・

 博士のはずないし、わたし達の仲間のはずないもの。 」

ね〜〜〜 とジョーとフランソワーズは微笑んで目と目を見合わせる。

 はあ〜〜〜  またかよ・・・・ はいはい ・・・ 後ろで仲間たちが肩を竦めたり

やれやれ・・という顔をしているのだが、本人たちは一向に気が付いていない。

「 は! それで ・・・? 」

「 うん。 フランがさ、 ちがうわ! って通信してきたから。 

 向うはうまく騙したと思って油断していたからね − 一発さ。 かなり精巧にできた

 アンドロイドだったけど ・・・ 攻撃力は皆無だったよ。 」

「 それでね 急遽全員に召集をかけて ここまで来たんだ。 」

「 は ・・・ そうなのか ・・・ 」

どっと ・・・ そう簡単に疲れるはずのない身体に 急激に疲労感が襲ってきた。

「 で さ。僕達も急いで駆け付け  ― あれ どうしたんだい、アルベルト? 」

「 皆って 全員か? 」

「 そうだよ、 あ 001はさ、たまたま夜の時間に突入だったもんでさ

 データだけ出してぐっすり、さ。 ホンモノの博士と一緒に留守番さ。 」

ピュンマが少し饒舌気味なのは少し興奮しているせいかもしれない。

「 それでさ〜  あれ???  おいおい 大丈夫かい? 」

いきなり すとん、と座り込んでしまった<死神>、そんな彼の様子に皆 仰天した。

「 まあ! やはりどこか損傷したの? 応急手当用キット、もってきてよかったわ。 」

「 あ オレ 取ってくるぜ〜 どこだ? 」

「 ドルフィン号の中よ。」

「 おうよ〜 そんならオレ様がひとっ飛び だぜ。 んじゃ〜 」

「 あ 大丈夫だ〜〜  」

塔の入口から飛び出そうとした赤毛を慌てて呼び止めた。

「 でも ・・・ 」

「 いや 損傷じゃないさ。 ちょっとばかり気が抜けてしまっただけだ 」

「 気が抜けたァ〜〜??  おいおい〜〜 吾輩らは心底おぬしを心配したんだぞ?

 この古城に向かったことだけはわかったが ここにつけば貸し切りに付休業中ってことで

 中に入れてもらえずに足止めを喰わされていたのだぞ。 」

「 ハイナ。 遠巻きに監視しとったらな〜 ドンパチ聞こえよってがらがら回廊やら

 くずれて来よるしぃ〜〜 」

「 そうなんだ。 そのうち轟音がして破壊されたメカ類がごろごろ落ちてくるし・・・

 フランが全部 < 見る > って言ってたんだけど、 あの塔にはなにかシールド加工が

 施されているらしくて ・・・ 」

「 ええ、どうしても中が見えなくて。 人為的にシールドしてあるのかそれとも塔に使われている石が 

もともと特殊な成分を含んでいるのか・・・それは分からないけれど。 」

「 それでどうしても塔の中に入る!って聞かないんだ〜〜 」

「 だって! ジョー!  塔の中でなにが起こっているかサーチするためには! 」

「 だめだよ! なにが起こっているか全くわからない場所なんだ! 」

「 だからこそ 索敵が必要でしょ。 臨機応変に行動してサーチできるのはわたしだけだわ。」

「 だめだ。 きみを行かせるわけにはいかないよ。」

「 どうしてよ?? わたしだってサイボーグの一員よ、003なのよっ 」

「 わかってるってば。 だけどそれとこれとは 」

「 はいはい〜〜〜 夫婦喧嘩はもうそこで打ち止め! 」

「 え!? ふ 夫婦だ、なんて ・・・ その ぼく達はそんなんじゃ・・・ 」

「 そうよ〜〜 誤解されるようなこと、軽々しく口にしないで! 」

「 へ〜へ〜 よ〜くわかりました!  さあ〜〜〜飯にしようぜ!  」

「 お〜〜〜〜 早く飲もうぜ〜〜  な!  」

赤毛のアメリカンがバンバン〜アルベルトの背中をたたく。

「 そやそや〜〜〜  皆〜〜 はよ集まってや〜〜 ほれココ片づけてや〜 

 ジェロニモはん、荷物運んでや〜 」

「 むう。 その前に掃除だ。 この地に挨拶、していない。 」

寡黙な巨人はもくもくと瓦礫だの焼け焦げたメカの破片を片づけ始めた。

「 へいへい  あ〜〜〜〜面倒くせぇ〜〜〜  」

「 ほら 文句言わないでやるの! その残骸、まとめてドルフィン号に運んで。 」

「 なんでだよ〜〜 産廃だろ? 」

「 博士からの注文よ。 よっく分析して今回の首謀者を割り出したいらしいわ。 」

「 へ! 終わっちまったことなのによ〜〜 年寄ってのは〜〜 」

「 ジェット! 」

「 へいへい すんませんね〜〜 」

「 ねえ フラン〜〜  ほら ここの庭園、素晴らしいよ。 花壇とかも 」

「 まあ〜 ほんとう・・・矢車菊が綺麗ねえ ね 後で一緒に散歩しましょ、ジョー♪ 」

「 ウン いいよ♪ 」

「 はいはい どうぞご存分にイチャクチャしてください 〜〜  」

「 ま! イチャクチャってなによ〜〜〜 イチャクチャって! 」

 

     くっ  あはははははは  −−−−−−−  ・・・・!

 

突然湧き上がった大笑いに サイボーグ達は皆ぎょっとして動きを止めてしまった。

  ― アルベルトが。 あのシニカルで気難し屋が 大爆笑しているのだ。

 

    え ・・・・  マジ・・・?

    

    ちょ・・・ ホントにホンモノの 004 かね???

 

    ねえ ・・・ 大丈夫かしら ・・・ どこか配線が切れたとか・・・

 

コソコソささやきあっているだけで誰も動かない、いや動けない。

「 ・・・ あ〜〜 ・・・ あの アルベルト? 」

さんざんお互いに突き合ったのち、ジョーが恐る恐る声をかけてきた。

「 あの ・・・ だ 大丈夫? どこか その ・・・ 不具合 がある とか? 」

「 あはははは ・・・・  ? うん、なんだ ジョー。 トイレに行きたいのか? 」

「 え! ち 違うよ! き 君のことが心配で ・・・なあ みんな? 」

ジョーは援護射撃を求める顔で仲間たちを振り返る。

 

   うんうん   んだんだ   そうよねえ   だよ!

 

全員が黙って、でもとて〜〜も真剣な顔で首を縦にカクカク振っているのだ。

「 あ?  ・・・・ あ〜 今 笑っていたからか? 」

  ― カクカク。 またもや全員が首を振る。

「 あは ・・・ いやなにちょっとな〜 自分自身の判断が正しいと思って

 可笑しくてな。  あ〜〜〜〜 お前らはやっぱり 俺の仲間達 だなって。 」

「 ???? んなこと あったり前じゃね? 」

「 あはは そうだな、当たり前だなよなあ〜〜  さあ !  飲んで食って〜〜〜

 古城のロマン  を満喫しようじゃないか! 」

アルベルトは 立ち尽くしていた仲間たちを掻き分けて テーブルに近寄った。

 

殺風景な塔の入口広間だが 005が持ち込んだ大テーブルに料理が次々に並び始めた。

「 ほっほっほ〜〜〜  さあ皆〜〜〜 た〜んと食べてや〜〜

 ここの厨房借りてな、出来立てのほやほややで〜〜〜 ここいらの野菜やら肉やら 

 仰山使わせてもろたで〜〜 」

 

わあ〜〜〜 !  防護服の戦士達 は たちまち いつもの仲間たち に戻り

湯気を上げている料理に群がった。

「 んん 〜〜〜〜〜 うめぇ〜〜〜〜 この肉、なんだ? 」

「 そりゃあんさん、イノシシやがな。 」

「 げ★ 」

「 あらあ〜 美味しいわよぉ〜 ねえ ジョー? 」

「 あ う  うん ・・・ 」

ジョーが微妙な表情で懸命に咀嚼しているものを飲み込もうとしている。

「 イノシシとか馬肉って 美味しいわよねえ? 」

「 左様 左様。 ついでい 兎や家鴨も旨いぞ。 」

「 ああ そうだな。 俺も家鴨は好物だな。 」

欧州組は余裕の笑顔だ。

「 う うさぎ?  あひる?? ・・・ ぼ ぼくはちょっと・・・

 あ !  そうだよ、ねえ アルベルト〜〜 教えて欲しいんだけど。 」

「 んん〜〜〜〜 旨い!   ん? なんだ、ジョー? 」

アルベルトは 長い箸を器用に操り大人の特製メニュウを片っ端から堪能している。

「 あの!  どうやって見破ったのかな? その ・・・ 」

「 は? これは家鴨じゃないぞ、普通のチキンだ。 」

「 あ そう? ・・・ じゃなくて! この城で < 待っていた > メンバーが

 みんなニセモノだってことを、さ。 」

「 ああ そのことか ・・・ 」

「 うん。 かなり精巧なアンドロイドだったみたいだし ・・・

 フランソワーズも わたしでも見抜けなかったかもしれない・・・って言ってたし。 」

ジョーは真剣は顔で彼を見つめている。

 

    ほう ・・・ コイツはやっぱりリーダーとしての自覚があるんだなあ〜

    なかなか いい傾向だぜ ・・・

 

「 どうして判断できたのかな、教えてください。 」

「 あ は ・・・ 誰が企んだか知らんがな。 かなり用意周到で悪賢いヤツだな。

 多分 例のフリードキンの失敗を知っていたんだな。 」

「 え・・・ あの ・・・ 幻影島でのミッションを? 」

「 そうだ。 あの時、フリードキンは我々のクローンを作成し対決してきた。 」

「 うん!  ああ あの時は本当に危なく引っかかるところだったよ〜 」

「 しかし お前は見破った。 クローンはサイボーグじゃないってことを な。

 それを知って、今回の首謀者は俺達のことをより詳しく研究したわけさ 」」

「 け 研究??? 」

「 ああ。 それぞれのサイボーグ戦士としての機能やらこれまでの戦い方とか ・・・

 その気になれば、データはかなり集められただろうさ。 」

「 ・・・ なんか ・・・ イヤねえ・・・ 」

「 そいつは俺達を斃すか 自分の支配下に置こうと計画したんだろう。

 それでほぼ戦闘機能としては互角の < サイボーグ戦士たち > を造りあげた。 」

「 アンドロイドの、だね。 」

「 ああ。 ただソイツは戦闘用サイボーグの機能だけを追及したのさ。 」

「 え・・・ どういうことかな? 」

「 ジョー〜〜 お前、相変わらず鈍いぞ! 

 つまり 俺達の本質、ヒトとしての性格やら嗜好まで調べなかったんだ。 」

「 本質??? う〜〜ん ??? 」

「 あ そうか〜〜 そうなんだ? そりゃ・・・専門バカってことだねえ。 」

ジョーは目を白黒させているが 北京ダックを包みつつ、ピュンマはクスクス笑っている。

「 なるほどなあ〜〜 仏造って魂入れず、ということですかな、ご同輩。 」

「 え え 〜〜 どういうことなんだい? 説明してくれよ〜〜 」

ジョーは一人、話に乗れない ― らしい。

「 あのなあ〜〜 このニブチンめ! ではとっくと解説してやるよ!

 ニセモノたちも宴会を開いたさ。 ニセの006も料理人として造られていた。 」

アルベルトはぐ・・・っとジョッキのビールを飲み干すと、小皿の料理を持ち上げた。

「 確かに 料理の味はなあ どれもこれも張々湖飯店の味だったさ。 」

「 ぇ?じゃ じゃあどうして 」

「 し! ジョー、ちょっと黙っていてくださる? 」

「 ・・・あ  フラン ・・・ すいません。 」

ジョーはフランソワーズにマフラーを引かれて すごすごと席に戻った。

「 まあ 聞けよ。 けど ― 天下の天才・料理人が酒類から先に運んでくるかね? 

 酒は料理の友、が大人のコンセプトだろ。  」

「 さいでっせ〜〜 御酒だけをぐびぐび・・・・いうのんは邪道や、思っとるや。 」

「 え ・・・ う〜〜〜ん ・・・! 」

「 料理は大人作のホンモノをどこかで手に入れ、念入りなコピーを作ったんだろうさ。

 もっとも俺はほとんど口にしなかったから よくはわからんが。 」

「 ほっ!  アルベルトはん、あんさん、賢いデ。 妙〜なもん、食うたら舌がオカシク

 なりまんがな〜〜 」

「 まさしく正論だな。 ほれ〜〜 銘酒で口直しと行こうではないか! 」

グレートが どぼどぼとジンをグラスに注ぐ。

「 おっと〜〜 その辺で 〜〜  」

「 え それじゃ料理のことだけで 奴らは偽物だって見破ったのかい?  」

ジョーだけが生真面目にいろいろ質問している。

他のメンバー達はそろそろ < 出来上がり > つつある。

「 まあな いろいろ小さな違和感がそこここにあってな。 」

「 いわかん ってなんだよ? 」

「 うん。 まあ なんというか ・・・ 例えば クイーンズ・イングリッシュを

 流暢に操り、紳士然とした 002 ってのは 」

「 ありえんよ〜〜  ありえん! 」

「 きゃははは〜〜〜 ヤだあ〜〜 腹筋 痛い〜〜〜 」

当人以外、全員腹を抱えている。

「 ぷぷぷぷ・・・ いやそういう細かい観察から導き出した結論だったのかい? 」

ピュンマが笑いすぎで涙を拭きつつ、聞いた。

「 い〜〜やいやいや。 なによりも決定的なことがあった。  お・・・ダンケ・・・・ 」

カラになっていたグラスに フランソワ―ズがなみなみと銘酒を注ぐ。

「 美酒には美人の酌が合う ・・・ ってな〜〜〜 」

「 うふん♪ ねえ 〜〜 それで? 決定的なこと、ってなあに? 」

「 ん〜〜〜〜んま♪  あ? どれは さ、お前さんさ。 」

「 え ・・・?? わたし??? 」

「 ああ そうさ。 

 ふふん 首謀者はおそらく天才的なサイボーグ工学者かもしれん。

 アンドロイドに俺たちの能力 ( ちから ) のほとんどを搭載させていたからな。

  だが な。 

 その分、 人間 ( ひと ) の機微や心情にはとんと疎かったんだ。 」

「 しんじょう??? 」

「 そうだ。  ここにいる俺の仲間たちよ、全員に訊くが。

 フランソワーズが瀕死の負傷をしたのに 平然としているジョー なんて 」

 

         「  ありえない〜〜〜!!  」

 

全員が思わず声を上げていた。

「 ・・・ ってコトさ。」

アルベルトは ひょい、と肩を竦めると真っ赤になっている二人を振り返った。

「  !!! ぼ ぼく達はそんなんじゃ〜〜〜 なあ?」

「 え ・・・ そ そうなの ・・・ ・・・  

「 い いや! そういう意味じゃなくて〜〜 一番大切なのはきみで〜〜

 それは一生変わらないけど あの その つまり なんだ〜〜 」

「 もう〜〜〜 ジョーったら ・・・ 知らないっ ! 」

真っ赤な頬に両手を当て亜麻色の髪を翻し 彼女は塔から飛び出して行った。

「 おらおら〜〜〜 追い掛けて行かなくちゃ〜〜〜 」

「 そやそや〜〜 そんまま二人で仲ようお出かけしなはれ〜〜〜 」

「 いいね! このまま速攻 ・ はねむ〜ん でいいんでないかい?

 真冬の根雪も 二人の愛でたちまちほわほわ〜〜〜 なんてどう?? 」

「 いやいや。 ここは我々が遠慮しよう。

 古城での究極のロマンチックな一夜 を 二人にプレゼントしようではないか〜〜 」

「 ひゃっひゃっひゃ〜 ジョーはん、はよ追い掛けなはれ〜〜 」

 どん! と料理人にド突かれ、009も真っ赤になりつつ、広間を出ていった。

「 やれやれ ・・・ 相変わらず世話のかかるヤツだな ・・・ 」

「 ははは やっぱりお主は 本物の004だな。 」

「 なにを今更 ・・・ お? そういえば < 狩り > の対象だった

 ニセ004 とやらはどうしたんだ? 皆で仕留めたのか? 」

「 え ・・・ 」

「 あ〜 」

「 ・・・むう 」

居合わせた仲間たちは皆 微妙な表情で視線を逸らせた。

「 おい? なんなんだ?? はっきり言え! 」

「 あ〜〜 ・・・ これはギルモア博士の推察なんだが ・・・

 そもそもニセ004 は存在していないらしい。 」

「 な ・・・ なんだと?? 」

「 だから おぬしを誘い出す餌だったのさ。 首謀者はおぬしを捕縛したがっていた。

 捕縛して思い通りに動くサイボーグ戦士に造り変えようとしていた のだろう、とさ。 」

「 な ・・・ なんだ そりゃ・・・ 」

「 ああ ますます本当に 奇々怪々・・・てことさ。 」

「 け !  あ〜〜〜〜 ケッタクソ悪ィ〜〜〜 マジかよ〜〜〜 

 お〜〜い 験直しに飲もうぜ〜〜〜 !  」  

赤毛のアメリカンの提案に 男たちは嬉々として杯を取り上げた。

「 おうよ!  これからは 大人の時間 だ ・・・ 」

 に・・・っと唇の端をねじ上げた004に 誰もが 

 

      あ  これは本当にホンモノの004だ    とほっと安堵したのだった。

 

 

 

*********************************    Fin.    **********************************

 

Last updated : 02,25,2014.                   back        /       index

 

 

 

 

*******************     ひと言   ******************

ははは ・・・ やっと終わりました ・・・

やっぱ 4話 になってしまいましたよ ・・・・

すいません〜〜〜〜 ごめんね、ジョー君 フランちゃ〜ん