『 貸し借り不可能 <1> 』
( あ〜・・・フラン、遅いなあ・・・ ちょっとってもう一時間ちかいじゃないか・・ )
若やいだ街の一際にぎやかな通りのカフェで ジョ−は所在なさげに伸びたり縮んだりしていた。
かなり隅の席を選んだのだが この栗色の髪の青年にちらちら視線を投げてくる女の子は後を絶たない。
思い出してサングラスを掛け、読み飽きた雑誌の陰でジョ−は何十回目かの溜め息をついた。
「 あ、ジョ−、ちょっと待ってて? ポアント、買ってくるわ。・・・一緒に来る? 」
久し振りに連れ立って出た買い物の途中、デコレ−ション・ケ−キのような構えの店先で
フランソワ−ズは 少し悪戯っぽく笑ってジョ−を見上げた。
「 え・・・い、いいよ、いいよ! 僕は、えっと・・・あ、あの、あそこの〇タバで待ってるよ!
ゆっくり選んでおいで・・・ 」
( じょ、冗談じゃあないヨ、 こんな・・・オンナノコばっかりの店に入れるかよ・・・ )
ジョ−はあわてて首を振り、その結果。 彼はココでぼやいているわけなのだ。
( あ〜あ・・・・ お、やぁっとお姫様のご帰還だ・・・・ )
「 お〜い・・・フラン、 ここだよ・・・? あれ・・・? 」
大きく手を振るジョ−がまるで目に入らないかのように フランソワ−ズはふわふわと歩んできた。
白い袋をシッカリだきしめ、ちょっ・・・と傾いたら涙がこぼれそうな笑みを頬にうかべて。
「 ・・・・ジョ−・・・・ あったの。 まだ・・・あったのよ・・・・同じのが・・・・! 」
「 ? なにがっあったの? ポアントは買えたんだろ? 」
ふわり・・・と彼の向かいに座った途端、フランソワ−ズの瞳からぽたぽたと涙が零れ落ちた。
「 ・・・って、ねえ? どうしたの・・・? 」
「 あのね・・・・ 同じのが、おんなじマ−クのポアントが・・・まだ、あったの。 あの頃、パリにいたころ・・・
履いてたのと おんなじマ−クのシュ−ズが。 ずっと・・・・ずっと・・・この職人さんはポアントを
作ってたんだわ・・・ また・・・・会える、なんて・・・! 待っててくれたのね・・・ 」
涙をこぼして 微笑んで。 フランソワ−ズは愛しげに一足のポアントに頬をよせた。
「 ・・・その靴だけじゃないよ・・・」
「 ・・・え・・? 」
涙の残る瞳ですこし不思議そうに見詰めてきた彼女の顎に そっと手をかけて。
「 待ってたのは。 靴じゃなくて、僕さ。 現代(いま)、きみに逢うために僕は待ってたんだ。
そのために、僕は、僕たちは。 ・・・・そうだろ・・・・? 」
「 ジョ−・・・ あ・・・」
すっ・・・とジョ−は、そのままフランソワ−ズの唇を自分の唇で塞いだ。 もちろんあの雑誌の陰で。
**** おしまい ****
あ、間違ってませんよ! <こ〜んな話>の方をクリックした、と思われた方!
大丈夫、こちらは<あ〜んな話>でございます。
で。なんでいきなり ぷち・SS風味で始めたか、と言いますと。 今回のスポットはポアント、つまり
トウ・シュ−ズの話題なのです♪
女の子なら誰でも一度は憧れるトウ・シュ−ズ。 チビの頃、上履きで爪先立ちのまねっこ、しませんでした?
ばちるども初めてポアントを頂いた時(確か、小3) うれしくてうれしくて枕元において寝たりしました。
ご存知の方も多いと思いますが、このポアントなるクラシック・ダンサ−の必須アイテイム、実に多種多様です。
サイズ、ワイズ(幅)はもちろん、国産・輸入物を問わず、各メ−カ−実に様々なタイプの靴があります。
なにがって? デザインは当然みなご存知のアレですが。 爪先の細・広、甲の浅・深、靴底の柔・硬、等
様々な組み合わせのタイプがあるのです。 それぞれメ−カ−ごとに名前があって、アット・ランダムに拾って
みますと、パブロワ、ニコリ−ニ、エアリアル、ワガノワ、マヤ、タンデュ、セレナ−デ、シュ−プリマ、ラ・バヤデ−ル
etc.... その膨大な中から現在の自分に一番合った靴をダンサ−は選んでゆくのです。
足の形は千差万別、顔と一緒で<同じ>ヒトはまずいない(まあ、双子サンとかは似てるかも・・・)ので
サイズとワイズが同じでも 「 あ、ソレはわたし、だめ。 合わないの。 」 ってことになります。
つまり。 レオタ−ドもタイツもバレエ・シュ−ズも、忘れ物すれば貸し借りしあいますが、ポアントだけは不可、
なのです。 忘れたら・・・・<今日は お休み〜♪>で回れ右!ですね。(ヲイヲイ・・・)
冒頭のSSでフランちゃんが時を隔ててめぐり合った靴、それはイギリスの超・老舗メ−カ−・F社のもの。
ここのポアントはすべて職人さんの手作りで各職人さん独自のマ−クが入っています。
王冠 とか ブリッジ とか A逆さ(逆のAの字) とか M、O, W, P, 等の文字 とか 魚マ−クとか・・・・
みな、タイプが違いっていてその職人さんが他所へ移ったり亡くなってしまったりすると 「 え〜〜 うそぉ〜 」
と泣きのナミダで、また自分に合ったタイプを捜さなければならないのです。
フランちゃんはパリジェンヌですから、多分フランスのR社製の靴を履いていたでしょうが、輸入モノのF社の靴も
ジャン兄が買ってくれたりしたかもしれませんね。
この話題、続きま〜す。