『 この木 なんの木 ― (1) ― 』
****** おことわり *******
え〜 書き手本人はあのCMの企業とは
何の関わりもございませんです。
それに目を留めたのは あの地に初めて上陸してまだ間もない時期だった。
午前中のあっけらかんと どこまでも明るく、そして穏やかな陽光の中で 見た。
< 庭 > といわれた区域の片隅に それはひょこん、と生えていた。
細い茎には不似合な葉を数枚広げていたが ふらりふらりと風に揺れはしても倒れることはなかった。
フランソワーズは 近寄って屈みこみしげしげと眺めた。
「 ・・・ 大きな葉っぱ ・・・ これ ・・・ 草? なのかしら 」
彼女はそうっと その肉厚でつやつや・・・ まるで油でも塗りつけたみたいに陽を照り返している葉を摘まんでみる。
「 ・・・ ふうん ・・・ これって。 食器代わりにもなりそう ねえ ・・・ 」
つるん、とした感触、 でも香りもないし、芯の奥に蕾が隠れていることもなかった。
「 へえ ・・・ やっぱりこれは草なのかしら。 面白いわね ・・・ 」
仲間の中には植生に詳しい者もいる。 千切って持って帰れば あれこれ・・・教えてくれるだろう。
しかし なぜか彼女の指先は躊躇った。
瑞々しい そして手ごたえのある存在を 摘み取るのはイヤだった。
この葉っぱだって 生きているんだもの。 千切ったら可哀想だわ
小さな命に敏感になっている自分が少し可笑しい気もしたけれど。
「 ・・・ でも アナタはココにいるのがいいみたい。 また 来るわね。 」
ひっそり片隅に でもなんとなくのんびり葉を揺らしている姿が気に入った。
こっそり話しかけたくなる ・・・そんな雰囲気を持つ < 草 > なのだ。
ぱさり。 細い軸に似合わず肉厚でつやつやした葉は 暢気な気分さえ、感じられる。
「 初めまして。 この国に来たのは初めてなの。 ヨロシク ・・・ 」
もう一回、 葉っぱを摘まんで 彼女は挨拶をしてみた。
「 うふふ ・・・ なんか楽しい草 ね? ・・・ ふふふ 」
あ。 わたし。 笑ってる ・・・?
自分自身の笑い声に驚き そうっと口元に手を当てた。 唇が ・・・ 笑っていた。
ずっと ・・・ 長い長い間 忘れていた。 そんなこと、する余裕も必然も なかった。
― でも いま。
わたし。 笑ってる・・・ 笑っていたんだ ・・・!
・・・ 笑えたのね ・・・! 笑うってこと、 出来るんだ ・・・
ほろり ・・・。 顔に当てていた指に 涙が伝わってきた。
「 あ ・・・ やだ ・・・ なんなのよ ・・・ なんで泣くの ・・ 」
ほろり ほろ ほろ ほろ ・・・
「 ・・・ や やだ ・・・ もう ・・・ うふふ ・・・可笑しいわね、 わたし ・・・ 」
ほろほろほろ ― 本人の言葉とは裏腹に 大粒の涙が転がり落ちていった。
「 お〜〜い ・・・? 003はん? ちょいと手伝うてや〜〜〜 」
暢気な中国人の声が 母屋から響いてきた。
「 あ ・・・ いっけない・・・ お昼の <しこみ> とやらにかかるって言ってたわね・・・ 」
彼女は 立ち上がり きゅ・・っと袖口で涙を拭った。
「 イヤねえ・・・ ハンカチも忘れているわ ・・・ せっかくのブラウスが濡れてしまったわ 」
「 003は〜〜ん? 応援 頼むでェ〜〜〜 」
「 はぁ〜〜い ! 」 再び飛んできた声に これまた大声で応え、彼女は歩き出した。
「 楽しい草 さん? また ね ・・・ 」
庭の片隅で そのちっぽけな < 草 > は ふるん、と風にその身を揺らせていた。
― それは ゼロゼロ・ナンバー・サイボーグ達があの島から脱出した頃のこと・・・
「 こんにちは、 楽しい草さん? 元気かしら。 」
フランソワーズは如雨露を手に 裏庭の片隅までやってきた。
「 ねえ? ここのお家のお庭 ・・・ 好きに手入れしてもいいですって!
家主さんのコズミ先生がね、おっしゃったの。 うれしいわあ ・・・
お水はいかが? ずっと表の花壇の方からお水をあげてきたの。
最後になっちゃってごめんなさい。 はい どうぞ・・・」
ぷるるん ・・・ シャワーの水滴が葉っぱの上で細かい粒になって転げる。
「 あら 可愛い。 お水の宝石みたい ・・・ ころころ きらきら・・・キレイねえ・・・
ふうん ・・・? アナタはとっても元気だけれど 花が咲いたりはしないのかしら? 」
茎が随分としっかりしてきたし 葉っぱの数も増えてきた。
「 あのね。 わたし達 ・・・ しばらくここに住んでいるの。
その間に お花とか見られると嬉しいんだけどなあ ・・・ またくるわね〜 」
カラになった如雨露を提げて 彼女はのんびり戻っていった。
古い屋敷の周囲に広がる庭は 不意に <居住者> が増えた頃から少しづつ整えられ始めた。
長年 伸び放題だった庭樹やら 草だらけだった花壇も人手が入った。
誰が言い出したわけでもないのだが ヒマをみつけてはぷらぷら庭を歩く仲間が増えた。
もちろん フランソワーズは朝晩の水遣りを日々の習慣にしていた。
う〜〜ん・・・! いいお天気・・・! ここは本当に温暖な地域なのね ・・・
縁側 というちょっと変わったバルコニーから 庭に降りると彼女はゆっくりと裏庭に回る。
「 まあ 005? 植物にも詳しいの? 」
仲間の一人、寡黙な巨人が剪定ばさみを手にぼうぼう伸びた樹の前に立っていた。
彼は 人々と交わるよりも自然の中にいる方を好む男だった。
「 ・・・ いや。 しかし 樹の声、きこえる。 ここを切ってほしい、と言っている。 」
「 樹の声? ふうん ・・・ 」
「 この庭の樹、おしゃべりしたがっている。 ・・・ 楽しい庭 だ。 」
「 楽しい庭 ・・・? 」
改めて見回すと ― 伸び放題の生垣に目がいった。
「 あらら・・・ 本当ね。 切ってくれ〜〜って言ってるみたい。 」
「 うむ。 俺の仕事のようだ。 」
「 ええ そうね! じゃあ わたし、花壇の手入れをするわ。 」
「 うむ。 頼む。 」
「 任せて! ず〜っとね、アパルトマン暮らしだったから ・・・ お庭の手入れって
憧れていたのよ。 ここのお家は本当に広いお庭があるから楽しいわ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
巨人は 黙々と庭樹と向き合い始めていた。
「 ・・・ じゃ わたしはまず草取りから ね〜〜 」
彼女は 雑草だらけの花壇の方に歩いていった。
そこは 花壇 とは 名ばかりの雑草の巣窟 ・・・ 境界にレンガが埋めてあるので辛うじて
他の地面と区別がつくだけだ。
「 ・・・ あ〜ら ・・・ これはヒドイはねえ ・・・ えっと 枯れた雑草を抜いて土に肥料を入れて。
う〜ん 肥料って・・・どこで売ってるのかしら? 花屋さんってこの国にもあるのかなあ・・・
そうだわ! 今からならチューリップやヒヤシンスを植えられるかも・・・ 」
楽しい想像ににこにこして彼女はまずはぼうぼうの雑草と格闘を始めた。
「 −−−− えいッ !!! あ ! もう〜〜 また根が切れちゃったァ〜〜 」
ほんのちょっと ・・・ のつもりが夢中になり ― かなり泥塗れになった頃
「 ― ぼくも 仲間にいれてくれるかな? 」
不意に ちょっと照れ臭いみたいな声が聞こえた。
「 え ? 」
「 あ あの。 ぼくもさ ・・・ その草取りとか手伝いたいだけど ・・・ いいかなあ。 」
「 ジョー !? だって雑草抜きよ? 服も汚れるわ。 」
ほら・・・と手を広げてみれば 服は本当にどろどろに近くなっていた。
「 知ってるさあ〜 ぼくって 雑草抜きとか結構巧いんだぜ? 」
「 ・・・ え そ そうなの? 」
「 特技っていえるかも〜なレベルなんだから。 あのなァ コツがあるんだ。 」
「 コツ? 雑草抜きに? 」
「 うん。 それでね、しっかり根から抜かないと・・・ すぐにまた生えてくるからね。 」
「 詳しいのね。 」
「 だから〜〜 特技って言っただろ? チビの頃から当番でやってたから。 」
「 とうばん? 」
「 あ ああ う〜ん 順番ってことかな。 」
「 ふうん ・・・ あら ホント、上手ねえ〜 」
彼は ずぼずぼと手強い雑草を根元から抜いてゆく。
「 かなり長い間 放ってあったみたいだね。 」
「 そうね ・・・ 広いお庭だから ・・・ 」
「 そうかもな。 あ ねえ この花壇さ、チューリップとか植えたらいいよねえ。 」
「 ― それ わたしのアイディア! 」
「 は??? 」
「 それは〜〜 もう売約済みですって言ったの! 」
「 売約済み?? 」
「 ・・・って言わない? まあいいわ。 ねえ お花屋さんってこの国にあるの? 」
「 はあ?? 」
「 あ ・・・ やっぱりないのかしら。 お花屋さんってわかる? 花とか苗とか売っている店の
ことなんだけど。 知ってるかなあ・・・ 」
「 あのね・・・ そんな店、大昔からあるよ! なにか買いたいわけ? 」
「 あら そうなの? よかった〜〜 あのね、肥料とか欲しいの。 あと ・・・ できれば
お花の種とか ・・・ そうよ! チューリップの球根も欲しいわ。 」
「 わかった。じゃあさ、一緒に街まで出ようよ。 そうだな〜ヨコハマまで行けばいろいろあるよ。 」
「 ・・・ ヨコハマ? 」
「 うん。 古くからある港街なんだ。 」
「 そうなの・・・ あの ・・・ 出歩いても平気かしら。 」
「 ?? 平気って・・・ なにが。 」
「 そのう ・・・ 目立ったりしない? 」
「 めだつ ?? 」
「 だってわたし ・・・ この国のヒトたちとは髪や目の色が違うでしょう?
ここに住んでいることがわかってしまったら ・・・ その ・・・ 」
「 え ・・・ だ〜〜いじょうぶだって。 あ〜でも確かに目出つかもな〜 」
「 ・・・ やっぱり ・・・? それじゃ 買い物は諦めるわ。 」
「 こんなにキレイな女の子と一緒なら そりゃ目立つよ〜〜 」
「 え ・・・ やだ そんなコト ・・・ 」
「 あは♪ 大丈夫だよ、ホントに。 ヨコハマって外国人のヒト、たくさんいるし。
ほら ぼくを見て。 ぼくだってちょっと ・・・ この辺りのヒトたちと違うだろ。 」
「 ・・・え ・・・ あ ・・・ 」
目の前でにこにこ笑っている青年は セピアの髪に同じくセピアの赤味の強い瞳を持つ。
顔立ちも近辺の人々やTVなどで見る <この国のヒトたち> とは若干違っていた。
「 ね? ヨコハマ、行こうよ。 花屋だけじゃなくて ・・・ 女の子は買い物とか好きだろ? 」
「 ・・・ 009 ・・・ 」
「 ぼく、あんまり詳しくないけど ・・・ 服とかの店もたくさんあるし。
見て歩くだけでも楽しいんだろ、 女の子はさ 」
「 そ そうね ・・・ 冬服とかも欲しいなって思ってたの。 」
「 あ そうだね。 それじゃ決まり決まり〜〜♪ あ 皆の冬服、見てこようか。
ぼくさ ・・・ 服とかよくわかんないから アドバイスしてくれたら嬉しいなあ〜 」
「 そうね! うふふ ・・・ 楽しみ〜〜 」
「 それじゃ ・・・ ここの草取りをともかく完了しちゃおうよ。 」
「 ええ! ねえ ・・・ 春が楽しみ ね。 いろんなお花、植えたいな。 」
「 うん! 」
彼はまた にっこりすると 熱心に雑草と格闘を始めた。
「 ・・・ く〜〜〜 ! 根が深いなあ〜〜 えい! 」
「 あ 手伝うわ! う〜〜〜ん ・・・! 」
並んで引っ張ったり 土を掘り返したり ― ますます泥だらけになってしまったけれど。
・・・ このヒト ・・・ いいカンジ ・・・
009 って。 こんなヒトだったんだ ・・・
はにかみ屋で大人しいヒト ― そんな印象が強かった。
< 戦場 > では冷徹なほどの強さも見せたが どこか戸惑っている印象もあった。
でも。 ― 今 一緒に庭弄りをしている彼は とても穏やかだ。
いいな ・・・ こんなヒト ・・・
ちょっとお兄ちゃんに似てる・・・って思ったけど ・・・
こんなに優しい目のヒトだって 判らなかったわ
ほっぺたにまで泥を飛ばしつつ フランソワーズはほんのりと微笑していた。
その日 なんとか表庭の花壇からは 生い茂っていた雑草や枯れ草は姿を消した。
「 おはよう! 楽しい草さん。 ねえねえ 見て? この服 ・・・ どう?
昨日ね、 大きな街まで行って買ってきたの! こんなのが流行なんですって 」
真新しい如雨露を持って フランソワーズはご機嫌でやってきた。
「 うふふ ・・・ どう? アナタにも見せたくて。 〜〜 ねえ 似会う? 」
裏庭で 彼女はくるりくるり・・・と回ってみせた。
明るい色彩の服が翻り そして 金の髪がきらきらと陽に輝く。
「 大きな街でね ・・・ ヨコハマ。 本当にいろいろな国の人がいたの。
服とか靴とか見て ・・・ 雑誌も買ったわ、フランスの! 嬉しくて〜〜♪♪
あ そうよ、ちゃ〜んとね、 肥料も買ってきたから ・・・ アナタにも上げるわね。 」
水を掛ければ 肉厚の葉に水滴がころころとちらばる。
「 ふんふん〜〜 ♪ ・・・ あら? 下の方の葉っぱ ・・・ 色が少しヘンじゃない? 」
彼女は屈みこんで 小さな草の葉っぱをしげしげと眺めた。
「 ・・・ え ・・・ これって・・・ 枯れてきた・・・の? うそ・・・!
お水、ちゃんとあげてたのに・・・ 肥料をあげなかったから? でも でも ・・・・ 」
そう・・・っとその変色してきた葉に触れてみたが 確かに少しカサカサしている。
「 ・・・ 枯れちゃうのかしら ・・・ 」
鼻の奥がつん・・・としてきた。 今から肥料を沢山上げたら・・・大丈夫かしら。
シャベルで その草の回りを引っ掻き始めたとき、 櫟の木の向こうに仲間の巨躯がみえた。
「 あ! 彼にきいてみるわ! ・・・ ジェロニモ〜〜〜 ねえねえ ちょっときて〜〜〜 」
彼女は勢いよく立つと 仲間の所に駆けよった。
「 ― 枯れた? 」
「 ええ。 枯れ始めた・・・ のかも。 だって葉っぱが 色もヘンだし元気もないの。 」
「 どこだ。 」
「 え? だからね、こう・・・大きな葉っぱが全体的に色がね 」
「 その 木 はどこだ? 」
「 え あ あ こっちよ! 裏庭なの、裏の隅っこのほう ! 」
フランソワーズはジェロニモ Jr.の大きな手をぐいぐいと引いた。
小さな草 の前に褐色の巨躯を小さく屈めて − 彼はじっと観察をしている。
いや じっと耳を清ませて草の声を聞いているかも・・・しれない。
一緒に眺めていたのだが フランソワーズはだんだんいらいらしてきた。
「 ねえ ねえ ジェロニモ この草 ・・・ ね? ほら 葉っぱが赤くなってきちゃったの・・・
この草、 枯れてしまうの? 」
「 うむ ・・・ 」
「 ねえ〜〜 今から肥料を沢山あげても だめかしら? 」
「 ・・・ ちがうと思う。 これは冬を前に紅葉しているのだろう。 」
「 紅葉? ・・・ あ! マロニエみたいに? でも ・・・黄色じゃないわよ? 赤っぽくない? 」
「 黄色 赤 茶 ・・・ いろいろある。 」
「 あ ああ そうなの? ふうん ・・・ じゃあ コレは・・・草じゃあないのかしらね? 」
「 初めて見る植物だ。 」
「 そうよねえ ・・・ でも枯れてしまう訳じゃあないのね? 」
「 うむ。 茎がしっかりしている。 」
「 よかった〜〜 それじゃ 春になるとまた葉っぱが生えてくるのかしら。 」
「 多分 そうだろう。 これは ・・・ 木 かもしれない。 」
「 ふうん ・・・ でもいいわ、元気なら。 ありがとう〜〜ジェロニモ。
じゃあ わたし、花壇の皆にお水をあげるわね。 」
「 むう ・・・ この庭 庭になってきた。 」
「 え? なあに、どういうこと? ここのお家はお庭が広くていいわよねえ。 」
「 庭、 住む人の手が入って 庭になる。 家も同じだ。 ヒトが住んで 家になる。 」
「 ・・・ そうねえ。 わたし このお家、とても気に入ってよ。
できれば ・・・ ドクター・コズミが許してくだされば ・・・ ずっと住んでいたい ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
寡黙な巨人は なにも応えなかった。 彼はだまって庭を眺めていた。
― 結局。 彼らはその屋敷に長居はできなかった。
ヤツラ は 執拗に追ってきた。
脱走した彼ら ― ゼロゼロナンバーたちを抹殺すべく、この極東の島国までもやってきた。
「 あ〜あ ・・・ ひで〜な〜 」
「 うむ。 半壊、 いや ほぼ全壊というべきだろう。 」
「 アイヤ〜〜〜 コズミ先生に申し訳あらへんなあ〜 」
半分以上 瓦礫と化してしまった < 家 > の前に集まり 彼らは盛大にボヤいていた。
暗殺者どもを迎え討ち ― なんとか辛うじて勝ちをひろった。
しかし ― 彼らの < 家 > は とばっちりを喰い、 破壊されてしまった。
「 ほっほ ・・・ まあ 誰にも大きな怪我はなかったし。
ウチもなあ 母屋はほとんど無事じゃったから ― まあよかった、ということじゃな。 」
当主のご老人は鷹揚に笑っている。
「 いや〜〜 コズミ君・・・! 本当に申し訳ない! ここは修理するから ・・・ 」
「 そうですよ、ギルモア博士。 ねえ ぼく達で修理しようよ。 」
「 あ〜 そうだなあ my boy 〜〜 オヌシ、なかなかいい事をいうなあ〜 」
「 だ な。 とりあえず瓦礫の片付けから始めるか。 」
「 お〜〜 任せろって〜〜 おし! 」
気の早いヤツが 早速瓦礫をかき回しはじめた。
「 まあ まてまて ・・・ 一応計画を建てんと。 まずは〜 」
「 ・・・ ちょっと ・・・ごめんなさい・・・ 」
フランソワーズは小声で呟くと その場を離れた。
土木作業の手順を打ち合わせているオトコ達は 気がついてはいないらしい。
「 ・・・ こっちが裏庭 ・・・だと思うのね ・・・ 」
半壊した母屋を避けて遠回りし 裏庭に出た。
「 ・・・ うわ ・・・ ひど ・・・ 」
そこにも焼け落ちた壁の一部やら 焦げた庭木の枝が散乱していた。
「 ・・・ こっちも結構ヒドイわ ・・・ おうち、壊してしまったわね ・・・
あ ・・・ こんなに木が折れてる ・・・ あ ナツミカンの実が落ちてるわ・・・ 」
拾い上げた小さな青い実から ほわり、と爽やかな香が匂いたつ。
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ せっかく生っていたのに ・・・ 」
手にした実に こっそり謝った。
裏庭の方はそれほど被害はなく、ほぼ以前の風景を留めていた。
「 え ・・・っと ・・・? こっちの隅っこ・・・ あら結構葉っぱが落ちてるわねえ ・・・ 」
落ち葉を掻き分け 小枝を片寄せてゆけば ―
ほとんど茎だけになった あの草が ひょろろん ・・・と 立っていた。
「 ・・・! ああ ああ ・・・! よかった・・・! 生きてたのね! 楽しい草さん ・・・! 」
思わず草の側に座り込み、 フランソワーズはそうっとそうっと茎に触れていた。
「 よかった ・・・ アナタがここにいてくれるなら わたし、頑張れるわ。
アナタがもっと大きくなって沢山葉っぱをつけてくれるようになるといいなあ。
そうしたらきっと花が咲くわね。 どんな花かしらね? 」
細っこい茎は どことなくごつごつしていて なかなか頼もしい。
その日以来 再び彼女はしばしばその草の側にしゃがみ込むことが多くなった。
「 ねえねえ いつかアナタだってわたしの背を超えるかもしれないし。
どんな草になるのかなあ・・・ つやつやしたあの葉っぱがたくさん付くのよね 」
「 ね ・・・ 聞いて? あのヒトってカンジいいな・・・って思わない? 」
「 え? 誰かって? ほら〜〜 あのヒトよ。 いつも一緒にいてくれるヒトで・・・
ほら 髪と目の色が同じ・・・ で。 いつも後ろで静か微笑んでいるヒト♪ 」
「 初めはねえ ・・・ ちょっとだけ兄さんに似てるかな・・・って思ったりもしたわ。
でも中身は全然違ってた・・・ それも いいな って ・・・ 思うけど ・・・ 」
「 ・・・ ねえ ? やっとお家がキレイになったの。 皆で直したのよ。
バス・ルームはちょっと自慢かもね〜〜 」
「 冬なのにこの地域はあんまり寒くないわよねえ ・・・ ねえねえ冬の海っていいわねえ〜 」
独り言のつもりではなかった。 ちゃんと話し合い手が居る と思っている。
「 いつもわたしのおしゃべり、聞いてくれてありがとう〜〜
ねえ 楽しい草さん? あなたのことも教えてよ。 ねえ この国のヒトなの? 」
ひょろん ・・・とした茎は 葉が落ちてしまっていたが 枯れてはいない。
茎はちょっとだけ太くなった風だったし、 弾力があり瑞々しい。
「 ・・・ ふうん? 春になったら またあの葉っぱが出てくるの? そうなの? 」
「 あら ナイショ? いいわ 楽しみにしているから。
ねえ? きっとここは春が早いわね。 だって冬なのにちっとも寒くないし・・・
あ 雪が降らないのはちょっと・・・淋しいけど。 」
季節が替わり 新しい年を迎え ― このまま平穏な生活が続のか・・・とも思われていた。
― それは突然 やってきた。
事態はばたばたと進み ・・・ 彼らは再び深紅の特殊な服を纏い戦への日々に突入してゆく。
安穏な時が流れていた屋敷は 俄かに緊張した空気に包まれ始めた。
タタタタタ ・・・・・
夕闇の中 軽やかな足音が近づいてきた。
「 ご ・・・ ごめんね! お水! お水を上げるの、遅くなっちゃって! 」
如雨露を抱えて フランソワーズが息を弾ませている。
「 忘れていたんじゃないのよ? ちゃ〜んと用意していたんだけど ・・・
もう忙しくて。 ・・・ 最近 お天気続きだし 暗くなる前に! って気が気じゃなかったわ。 」
シャワシャワと 細かい水流が落ちてゆく。
「 ね? これは 新芽 でしょう? やっぱり春になったから新しい芽を伸ばすのね?
ねえ 花は咲くの? どんな色なのかなあ・・・ 見たい ・・・な ・・・ 」
― コトン。 カラになった如雨露が 地面に落ちた。
「 見たい な ・・・ 見た い ・・・ けど ・・・・
さようなら ・・・なの。 楽しい草 さん ・・・ わたしの大切なお友達 ・・・ 」
屈みこみ そうっと ・・・ まだ幾分か頼りない茎を撫でる。
「 ・・・ ありがと ・・・ 楽しい草さん ・・・ アナタがいてくれて ・・・ わたし ・・・ 」
ほろり、 ほろほろ。 大粒な涙が 濡れた地面に落ちた。
「 ・・・ ずっと ・・・ ここに居てくれる? ねえ・・・ そうしたら わたし ・・・
もう一度 ここに戻れる わ。 きっと ・・・ 戻れる ・・・ 」
「 なんだ ・・・ お前も気分転換か。 」
夕闇に中から聞き慣れた声が聞こえた。
「 ・・・ アルベルト ・・・ 散歩? 」
「 ふふん ・・・ あ〜あ 休暇もオシマイってことさ。
まあ なあ・・・ ここの気のいい爺さんにはすっかり迷惑をかけちまったな・・・
それだけが心残りだ。 」
「 また ・・・ 来ればいいのよ。 その時には修理や掃除を担当するの。 」
「 ふん ・・・ そう 願いたいもんだが ・・・ 」
アルベルトは ふん・・・と嘯いてタバコの吸い挿しを手近な葉の上に翳した。
「 あ! だ だめよ!! 葉っぱにタバコ、押し付けいないで!! 」
「 !? な なんだ?? 」
「 だから〜〜 この葉っぱさんは 友達 なの! 」
「 はあ?? 」
「 大切な友達にタバコで 穴なんかあけないでッ 」
「 ・・・ は ??? ナンか 俺・・・まずいこと したか?? 」
あまりの彼女の剣幕に アルベルトは吸い挿しを持ったまま固まっている。
「 だから〜〜 そのタバコ!! この葉っぱに乗せないでよッ! 」
「 ・・・ 葉っぱ? ・・・ ああ このちっこい木か? 」
「 木 だと思う? 草 じゃなくて ・・・ 」
「 ああ。 俺は植物には詳しくないが ・・・ 」
彼は 吸い挿しを足元の石に捻ると、 フランソワーズの草の側にしゃがんだ。
「 多分 実生の木なんだろ? この近辺に似た葉っぱの木、あるだろうさ。 」
「 え〜〜〜 そう?? 」
「 あんまり注意してなかったからわからんが。 ああ ジョーのヤツなら知ってるんじゃないか。
なにせ母国なんだから。 」
「 あ・・・ そういえば 彼に訊いてみたこと、なかったわ。 」
「 なら出撃前にきいておけ。 」
「 そうね。 心残りはイヤだし。 アナタもそう言ってたでしょ。 未練は残したくないもの。 」
「 おい? 俺はな。 そんな意味で言ったのじゃないぞ。 」
「 え? 」
「 心を残す。 また 来るために。 戻ってくるための標識として、 だ。
お前もそんなこと、言っただろうが。 」
「 あ ・・・ そう そうよね! わたし。 必ずまた戻るわ。 ここに ・・・
だから ・・・ < 楽しい草 > さん。 その時は艶やかな葉っぱで迎えてちょうだいね。 」
「 ― だから 木 だと思うが ・・・ 」
「 いいの。 < 楽しい草 > って名前なの。 ・・・ 戻って来た時、 木 になってたら・・・
その時、考えなおすわ。 」
「 ― このガンコモノめ 。 」
「 ええ ガンコなんです、わたし。 だから 必ず全員でまた! ここに戻りましょ。 」
「 は ・・・ やられたな。 その意気だ。 ― 行こう。 」
「 ええ。 負けないわ。 」
「 それは俺のセリフだ。 俺達は ― 負けない。 」
「 ん。 」
二人はしっかりと頷き合い しずかな足取りで屋敷へと戻っていった。
― その夜。 一隻の潜航艇が密かに付近の海から姿を消した。
なにもかも ― 破壊され尽くしていた。
そこには なにも残ってなかった。
急な坂を登ってきて 彼らが見たのは ― ただの荒地だった。
カツン カツン ・・・ 靴底に当たるのは瓦礫ばかり。 大きなモノはほとんど残っていない。
「 ふん ・・・ 焼け野原ってヤツか。 」
「 そうだなあ。 ヤツら 徹底的に破壊していったからなあ ・・・ 」
彼らはしばし呆然とその地に佇んでいた。
いったい どれほどの時間 ( とき ) が過ぎたといいうのだ?
この地を 離れたのは ― いや あの地下帝国で闘っていたのはどのくらいの期間だったのだろう。
目の前には 瓦礫だらけの間から雑草が生い茂っている地が広がっていた。
「 ・・・ ここ ・・・ 玄関 だったわ ・・・ 」
「 あ そうだね。 こっちは ― テラスでさ。 皆でバーベキューしたね。 」
「 あ〜〜 そんでもってよ! こっから二階を伝って屋根に登れたじゃん? 」
「 そんなコト、するのは君だけだよ、ジェット。 」
「 二人とも足元、気をつけてね? 不安定だから ・・・ 転ばないで・・・」
「 おいおい〜〜 病人扱いはもうやめろってばよ〜〜 」
「 大丈夫だよ、フランソワーズ。 ここまで ちゃんと歩いてきたんだし。 」
「 そうね ・・・ あ ジェット、屋根にはまだ登っちゃダメよ? 」
「 わ〜〜ってるって! 」
若いメンバー達は それでも少しは楽しげだった。
一番年若い少年の雰囲気を濃く残す二人は 一際はしゃいでいた。
彼らの側で フランソワーズは気が気ではない。
「 もう〜〜 気をつけてね? やっと外出できるようになったんだから・・・ 」
「 だ〜から♪ もう元通りってことサ 」
「 心配性はちっとも治ってないね、 フランソワーズ? 」
「 まあ! ず〜〜〜っと医療カプセルの中でやっと生きてきたのは だあれ? 」
「 う〜〜〜 ソレ 言うなって〜〜〜 」
「 だったら。 大人しくして頂戴。 あなた達の経過を見て やっと皆でここに来たんですもの。 」
「 はいはい ・・・ あ〜〜 おっかない看護士さんだなあ〜〜 」
皆が 笑った。 お互い、笑えることがとても嬉しかった。
やっと ― もとに戻った ・・・
誰もが そんな安堵感にほっとしている。
地下帝国での闘いが始まる前 ― ほんの僅かの間だが この地には彼らの < 家 > があった。
コズミ邸での居候から脱出し それぞれ自分達の生活を営み始めたいた。
短い時間だったけれど それはやはり楽しい輝いた日々だった ― と 誰もが感じていた。
「 ホントに ・・・ みんな なくなっちゃった ・・・ 」
フランソワーズが ぽつり、と言った。
「 ・・・ あ ・・・ うん ・・・ 」
「 だ な ・・・ 」
「 寒いわ ・・・ 」
ひゅるり ― 海風はこんなにキツかったか ・・・と彼女は首を竦めた。
陽射しを受けて 海原はきらきらと揺れている。
あまりの明るさにすっかり失念していたけれど まだまだ寒い季節の最中なのだ。
「 ね・・・? 二人とも・・・ そろそろ戻ったほうがいいんじゃない? 」
「 まったまた〜〜 」
のっぽの赤毛が口を尖らせて言い返そうとした。
「 ― 礎石 ちゃんと残っている。 」
寡黙な巨人が ぼそり、と言った。
「 そして 新しい緑 芽を吹いている 」
無骨な しかし信じられないほど繊細にうごく指が 瓦礫の間を指した。
「 やあ ・・・ 本当だね。 すごねえ〜〜 こんな石ころばかりの所で ・・・ 」
「 ほっほ〜〜 帰る場所、残ってるネ! それだけでもめっけモンあるネ !
な〜に ・・・ また始めまひょ み〜んな居るさかい、なんとかなるヨ ! 」
大人の明るい声に 彼らは気を取り直した。
― そう ・・・ また 始めればいい。 それだけのことだ。
「 ふん ・・・ なるほど な。 」
「 そうだね。 ともかく足掛かりはあるんだからね〜 うん、ゼロからじゃないよね。 」
「 左様 〜〜 新築ではなく再建だ。 やってやろうじゃないか 諸君! 」
呆然と立ち尽くしていた仲間たちは 今はしっかりと地を踏みしめている。
「 博士とよ〜く相談しよう。 ともかく土地はあるんだからな。 」
「 うん。 今度こそ 僕達のホーム・グラウンドにするんだからね。 強固な家を! 」
「 ほっほ〜〜 ワテな〜〜 稼ぎまっせ〜〜〜 店はな、無事やさかい。
そっちは任せといてや〜〜 」
「 お〜〜〜し! って オレ、 なにすればいいんだ〜〜〜 」
「 お前は邪魔するな。 それが任務だ。 」
「 っだとぉ〜〜 」
「 ほらほら 邪魔しない。 」
「 だからァ〜〜 なにをすれば 〜〜〜 」
「 まずは 雑草退治から だな。 」
「 そうそう そして瓦礫の片付けだ。 やることは山ほどあるぞ〜〜 」
「 ちぇっ ! 」
やっと 仲間達の間に笑い声が湧き上がってきた。
「 よかった ・・・ 皆で笑いあう なんて日 ・・・ もう来ないのかしら て思ってて・・・
夜にふ・・・っと昔のお家とか思い出すと どうしても涙が止まらなかったわ。 」
「 マドモアゼル? なんだかオヌシ、 やたらと涙もろいのであるなあ?
・・・ 恋人が元気になって 春爛漫♪ のはずだろうが。 」
「 え そ そんなこと! あ わたし。 ちょっとお庭を見て来るわね。 」
ぷるん、と顔を振り 彼女はぱっと駆け出していった。
「 まあ〜〜 元気なお嬢であるなあ〜〜 」
「 ほっほ♪ フランソワーズはんは元気印がウリやからな〜 」
「 おい? 聞こえるぞ〜 」
「 あははは ・・・ でもいいんじゃないかい。 僕達 彼女の元気にパワー貰うもの。 」
「 うん! ぼく ・・・ 彼女の笑顔で元気が出るんだ。 彼女の声で元気が 」
「「 あ〜〜〜 はいはい・・・ ノロケは結構〜〜 」」
「 のろけ?? ぼく、ぼくの感想を言っただけ なんだけど・・・ 」
― わっはっは ・・・
目をぱちくりしているジョーに 仲間たちが声を上げて笑った。
「 ・・・ 元気かな。 元気よね? きっと ・・・ ううん、必ず! 」
やはり瓦礫だらけの地を突っ切り、見覚えのあるぼうぼうと枝を伸ばした植え込みを回る。
「 えっと ・・・ ここに温室があったはず ・・・ で、 物干しがあっちだから ・・・ 」
きょろきょろしつつ 歩を緩めてゆく。
! ・・・・ あったわ ・・!
視界の中に ひょろん ・・・ と枝を伸ばした植物が入ってきた。
「 ― あった・・・! 楽しい草 さん・・・! 」
ここに居を定めたときに あの < 楽しい草 > を 譲ってもらった。
「 コズミ先生。 こんにちは。 」
「 おや ・・・ これはお嬢さん。 こんにちは お元気そうじゃな。
お引越しは一段落つきましたかな。 」
「 はい なんとか・・・ 先生も お元気そうですね。 」
「 ふぉっふぉっふぉ・・・ 諸君がいなくなってつまらないですなあ〜〜
いつでもまた遊びにおいでなさい。 待っておりますよ。 」
「 ありがとうございます〜〜 あ あの。 ・・・ 今日はお願いがありまして ・・・ 」
「 願い? はて・・・ワシに、かな。 」
「 はい。 そのう・・・これはわたし個人のお願いなんですけど・・・
― あの ・・・ 草を一本、 頂けませんか。 」
「 ??? 草 ですかな? 」
「 はい。 こちらのお庭の隅っこで見つけた草なんですけど。
わたし、とても心魅かれて ・・・ 友達みたいな気がして。 ずっと世話をしていたんです。 」
「 ほう? はて?? そんな草がありましたかな??
ウチの裏庭は本当に草ぼうぼう ・・・ 雑草が跋扈しておるだけのはず・・・ 」
「 あの。 なんという草かわからないのですけど・・・・
以前にコチラが襲撃されたときにも 生き残っていました。 」
「 ほう〜〜 それは縁起のよい草ですな。 どうぞどうぞ お嬢さんのお友達を
新しいお家にお連れください。 」
「 まあ ありがとうございます! ・・・ うれしいわ〜〜 」
・・・ そんな経緯でフランソワーズの <楽しい草> は 海辺の崖っぷちの屋敷・・・
やはりその裏庭を 新しい住処 としていたのだった。
< 楽しい草 > はちゃんと立っていた。
背が伸びてひょろん・・・とした枝も何本か増えて ― 半分は焼け焦げていた。
「 ・・・ ああ ・・・ ここにも火が来たのね ・・・ ごめんね・・・ 」
フランソワーズは側にしゃがみ込むと そっと焦げた茎を撫でた。
「 葉っぱも焼けてしまったのかしら。 あら ・・・ これは 」
茎は半分焦げた部分があるけれど その先端には ― つん!と尖ったものがみえた。
「 え・・・ これ もしかして・・・ 」
新芽 かもしれない・・・! フランソワーズはどきどきしつつ でもただじっと見つめていた。
「 ・・・ やっぱりここだったね。 」
― サクサクサク ・・・ 聞きなれた足音の合間に大好きな声が混じる。
「 うふ・・・ わかっちゃった? 」
「 だってさ ・・・ きみ、庭いじりとか花とかすごく好きだろ? ず〜っとそんなことする時間、
なかったんだろうし・・・ 」
「 仕方ないわ。 でも ほら・・・ またここに帰ってきたわ。
わたし、 またここのお庭に花壇を作るの。 薔薇のアーチも作りたいわ。 」
「 うわあ ・・・ すごいねえ あ ぼく、さ。 またチューリップ、植えたいなあ。 」
「 あら いいわね! 今からでも間に合うかも・・・ 」
「 ホント? じゃあ 明日にでも花屋に行こうよ。 」
「 え ・・・ まだあんまり出歩かない方がいいんじゃない? 」
ジョー達が 通常の生活になんとか戻れたのはつい最近のことなのだ。
「 え〜〜 もう大丈夫さあ〜〜 リハビリだよ、リハビリ〜〜 」
「 そう? じゃあ 博士に伺ってみるわね。
あ・・・ そうだわ。 ねえ ジョー。 これ ・・・ なんという草? 」
フランソワーズは彼を 彼女の <友達> の側に連れていった。
「 え・・・ あ〜〜 これ。 草じゃないよ。 」
「 草じゃないの? じゃあ やっぱりなんかの木かしら・・・ 」
「 うん この葉っぱなら 多分 ― かきだよ。 」
「 かき ・・・? オイスターの木・・・? あ オイスターのえさになるの? 」
「 は?? オイスター ・・・? 」
「 かき っていうのでしょ。 日本のオイスター、とっても美味しいわよね。
わたし 生が一番好きよ。 」
「 ・・・ かきって普通は生で食べるだけだよ? 」
「 え ・・・ そう?? でも大人がフライにしてくれるじゃない? 」
「 ふ フライ?? 」
「 ええ。 あ、 チャウダーもいいわよね〜 冬はとっても美味しいし ・・・ 」
「 ちゃうだー ・・・? あ。 それ 牡蠣 だろ。 」
「 そうよ かき。 」
「 あは ・・・ これはね 柿。 果物さ。 」
「 ・・・ 果物?? じゃあ いつか果物の実が生るの?? 」
「 あ〜 多分。 でもさ、これちっこいからず〜〜っと先だよ 多分 ・・・ 」
「 そう? でもいいわ。 うふふ〜〜 楽しみ〜〜〜♪
ねえ ジョー。 この < 楽しい草 > さん はわたしのお友達なの。 」
「 ふうん ・・・ いつか 実が生るといいね。 」
「 ね? いつか ね。 」
「 ― あ 〜〜 あの さ。 」
「 なあに。 」
「 そのう ・・・ この木をさ 」
「 < 楽しい草 > さんっていうの。 」
「 あ ごめん ・・・ 草 じゃないんだけど ・・・ まあいいや。
そのう ・・ この 草さん をさ。 ぼくも世話して いいかな。 そのう ・・・
きみと一緒に さ ・・・ ずっと。 」
「 ― え 」
「 だから ― そういうコト なんだけど。 」
「 ・・・ ジョー ・・・! 」
「 あの ・・・ 」
ぷるるん ― 見詰め合う二人の足元で ちっこい木が楽しそうに揺れた。
出たり入ったり ― 時にはまたもや全焼したりもしたが ・・・
彼らは この地にしっかりと住み着いた。
建物 は どっしりと彼らの 家 になり、 庭はきちんと手入れがされ花々が咲き匂い ―
彼女は相変わらず 庭弄りに精を出し、 寡黙な巨人もたまに姿をあらわし
庭樹たちと語り合っていた。
裏庭の < 楽しい草 > いや、 ちっこい木 は すこしづつ幹を太らせ枝を張っていった。
ぱたぱたぱた ・・・・ その日の足音は 少々乱暴に聞こえた。
「 ・・・ ジョーったら ・・・ ひどいわ! ねえ < 楽しい草 > さん、 聞いて! 」
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: 07,09,2013. index / next
********* 途中ですが
あのCM〜〜〜 好きなんですよ〜〜
・・・ でもって相変わらず全然 009 じゃありません・・・