『 この向う側 ― (1) ― 』
ピンポン ・・・ ピンポン 〜〜
玄関のチャイムが鳴った。
リビングで ジョーが怪訝な顔をした。
「 ? ・・・ ああ 博士がお帰りかあ ・・・
でも なんで? ドアはぼく達をちゃんと認識するのになあ 」
ぴんぽ −−−− ん !
チャイムはしつこく鳴り続ける。
「 はいは〜〜い 今 でますよぉ〜〜
」
ジョーは 声を張り上げ返事をすると 慎重に立ち上がった。
「 ・・・ っと。 土を混ぜないように・・・ 」
彼が座っていた周辺には ―
新聞紙が 何枚も広げられていて その上に土やらジャリっぽいものやら
植木鉢やらが 置いてある。
そして 真ん中には なにやらトゲトゲした植物が鎮座していた。
「 は〜〜い いま 開けます〜〜〜 」
ガチャリ。
ジョーは玄関のタタキに降りて ドアを開けた。
「 博士〜〜 お帰りなさい どうし・・? 」
「 おう ただいま ジョー。 ちょっと荷物を頼む 」
「 へ??? 」
「 これだ。 いいか そっと受け取れ そ〜〜っと だ! 」
「 は はい・・・ 」
彼は 差し出された細長い布包みを慎重に受け取った。
「 軽・・・! これ なんです? 」
「 わ! 乱暴に揺らすな〜〜 このまま そう・・・っと
そう〜〜っと 奥の和室に運んでおくれ 」
「 和室に? は はい 」
「 ふう〜〜〜 持ってくるだけでえらく緊張してしまったな・・・
あ フランソワーズは? 」
「 まだで〜す 今日はジュニア・クラスの教えの日だから 」
思わず 振り向けば 博士は大慌て。
「 わ〜〜 ジョー! ちゃんと前をみて歩いておくれ 」
「 ?? は はあ ・・・
」
「 そのまま そのまま! 和室まで 頼む 」
「 は あ・・・ 」
ズズズズ −−− 彼は珍妙なすり足で進んでいった。
町外れに建つギルモア邸。
現在の定住民は ご当主のギルモア博士 茶髪の青年 そして
金髪美女。
時々多国籍な年齢もまちまちな ( 赤ん坊まで! )オトコ共が出入りするが
別段 何事も起きないので 近隣の人々は気に留めてはいない。
茶髪の若者は地元の住民になにかと親切だし 館を切り盛りする金髪美女は
地元商店街では人気ものになってきている。
さて ― その一見洋風の舘には 和室 が一部屋あるのだ。
中二階にもなる奥の間だが 北側に低い掃き出し窓があり
夏はとても涼しく 冬は暖房なしでもほんのり温かい。
床の間と違い棚が設えてあり、青畳が心地よい香りを漂わせる。
「 ふ ・・・ 以前から憧れておったのだよ。 」
邸が出来上がったとき、 博士は一番にこの部屋を確認した。
「 わあ 和室があるんだ? へえ・・・・ 」
ジョーは 後ろから覗きこみ、感心した面持ちだ。
「 わ し つ? ・・・ あら なんにもないのね?
これから家具をいれるの? 」
フランソワーズは本格的な和室を初めて見たので 目を丸くしている。
「 あ 和室ってね 基本、家具とか・・・置かないんだ。 」
「 え!? そうなの??? 夜はどうやって寝るの? 」
「 あ〜 押入れにね 布団が入ってるのさ。
それを出して敷いて ・・・ 休むんだ。 」
「 ふとん? ふうん ・・・
あ ねえジョーも こういうお部屋で育ったの? 」
「 あ〜 ぼくは施設育ちだから・・・ 普通にベッドさ。
でも和室もあったし・・・ ドラマや漫画なんかでも見るし 」
「 ふうん ・・・ すっきり広いのね 」
「 博士〜 掃除 します? 」
「 ああ 後でよいよ。 ここは まあ エキストラ・ルームだな。
ジョー 遠慮なく使っておくれ 」
「 わお〜〜 ありがとうございます〜〜 」
「 ・・・ 踊っても いいかしら 」
「 それは勘弁しておくれ。 タタミが・・・
ああ ストレッチなんぞには好きに使ってよいよ 気持ちいいぞ 」
へえ ・・・
ふうん ・・・?
ワカモノたちは興味津々で その八畳間を眺めるのだった。
一階は 広いリビングにキッチン、ダイニング・ルーム。
博士の書斎とバス・トイレにランドリー・ルームも並ぶ。
メンバーたちの個室は 二階。 もっとも定住しているのは
若い二人だけなのだが・・・
そんな一見 普通の邸だが 地下にはメンテナンス・ルームを始め
ハイ・テクの < 工場 > がこの家の基盤として存在する。
― さて その和室は ・・・
博士は 思索にふける時などに頻繁に使用し
コズミ老が泊まりにくれば 客間になる。
ジョーは たびたび大の字になり昼寝を楽しんでいる。
フランソワーズはスウェット上下で ストレッチ・・・ というか
ごろごろ転がって喜んでいた。
最近 ジョーが凝っているサボテン が ちょこん、と
床の間に飾ってあることもあり これはこれでなかなか趣があった。
「 ほう〜〜 ワシらの家らしくて いいかもしれんなあ 」
「 そうですか! このサボテン〜 このトゲトゲの具合を整えるのが
なかなかムズカシくて 」
「 ふん・・・? これも一種の盆栽かのう 」
「 さ あ・・・? 」
「 お花 飾りたいのですけど ・・・ いいですか
」
フランソワーズも この部屋が気に入った様子だ。
「 おお ありがとうよ 下の納戸に花瓶があったはずじゃが 」
「 ええ ・・・ でもこんなのも いいかなあ〜って 」
コトン。
庭の小菊と狗尾草が数本、ガラスのコップにさしてある。
「 あ〜〜 なんか面白いなあ〜〜
これ・・・ 猫じゃらし じゃん? 」
「 おう これもいいなあ 」
「 ここって なんかこう 簡素なものが合うな〜って思って 」
「 うむ うむ ・・・ あえてなにも置かない空間 とは
とても心休まるものじゃな 」
「 そうですねえ 」
「 ええ ・・・ 不思議なお部屋ですわ 」
ワカモノたちもそれなりに気に入っているらしかった。
そろそろ梅雨時期、 和室は人気になりそうだった。
― さて。 ジョーが恭しく運んだ箱は。
「 ああ ・・・ そこの床の間に置いておくれ 」
「 はい。 ・・・ これでいいですか 」
「 うむ ありがとうよ では 」
博士は 床の間に向かって正座をした。
「 これじゃ 」
「 ・・・ なんです これ。 」
博士は ものすご〜〜〜く慎重な手つきでその細長い箱をあけ
中から 棒状のものを取りだした。
「 掛け軸じゃよ 」
「 ?? かけじく ・・・? 」
「 さよう。 床の間に掛けて観賞するものじゃ。 」
「 ・・・ 絵とかポスターみたいなモンですか? 」
「 少し違うが ・・・
これは由緒ある掛け軸だそうで、 コズミ君が遅ればせながら
新築祝いに、と贈ってくれたのじゃ 」
「 へえ・・・? 」
「 ・・・ 見てごらん 」
慎重な手つきで 博士はするするとその棒状のもの開いてゆく。
細かい模様の布のような紙に 長細い絵が貼ってある。
和紙に描かれた 古い絵だ。
「 なにが見えるね? 」
「 え〜〜 っと ・・・?
」
ジョーは 身を乗り出し、じ〜〜〜っと掛け軸に眺め入る。
その < 絵 > は 墨で描かれているらしく
淡い色彩が施されている。
手前は 紅葉の始まった木々 そして奥は深山か ・・・
その緑の闇のもっと奥には 花の樹も見え隠れしている。
「 ・・・ なんか 四季が全部入ってる みたい だ ・・・ 」
「 ほう〜〜 なかなかイイコトを言うなあ
流石に お前は日本人じゃな 」
「 そんなこと・・・ないですけど ・・・
でも この絵の森 すっごく深そう〜って感じます 」
「 ふむ ・・・?
」
この時 博士はジョーの言葉がなぜか心に引っ掛かっていた・・・
「 これ ・・・ 古いモノなんですか?
え〜〜と ・・・ なんて言ったかなあ ・・・
あ ! こっとう でしたっけ?? 」
「 ふふふ そうじゃよ。 骨董品 じゃ 」
「 じゃ めっちゃ高いんじゃ・・? 」
「 コズミ君の家にあったものだ、と言っておったよ 」
「 そうなんだ〜〜 」
「 ふ〜ん ・・・ この部屋に合っているなあ
さすが コズミくんじゃ 」
「 ・・・ ここに森がある みたいですね 」
「 ジョー、 昼寝の時には森の夢が見られるかもしれんぞ 」
「 えへへ・・・ そう かな?
あ・・・ サボテン、 置いてもいいですか?
・・・ この掛け軸と合わない かあ・・・ 」
「 いやいや 面白い取り合わせじゃよ うん 」
「 そっかあ〜 」
ジョーは しばらくじ〜〜〜っと眺めていた が。
「 ・・・!? 」
彼は不意に降り返った。
「 ・・・ あれえ ・・・? 」
「 ? どうしたね 」
「 え あ ・・・ いえ なんか ・・・
誰かに呼ばれたみたいな ・・・ 気のせいかなあ 」
「 ・・・ まあ のんびりここで掛け軸を眺めるのも
いいのではないかい 」
「 ええ ・・・ 不思議空間 だなあ
へへ・・・ あとでフランソワーズにも見せましょう 」
「 そうだのう ここは なにか別世界のごとくに感じるなあ 」
博士は 腕組みをしたまま掛け軸にじ〜っと視線を送っていた。
ともあれ この奥まった一部屋はちょっと変わった雰囲気の、
それでいて とても心休まる場所 になっていった。
コトン。
フランソワーズは静かに襖を開ける。
「 さあ ここもお掃除しなくちゃね〜〜 」
箒とハタキ そして 雑巾を運びいれる。
「 タタミのあるお部屋のお掃除って コズミ先生に伺ったのよ。
掃除機でが〜〜〜っとやるんじゃないのですってね。 」
ぱた ぱた ぱた ・・・
まずは ハタキを違い棚にかける。
「 こう・・・やってホコリを落として・・・っと
あとは このホウキで ・・・ 」
さささ ささささ
「 えっと・・・ タタミのメに沿って 掃く・・・ 」
カサ コソ ・・・ なにかが音を立てた。
「 ?? ゴミ・・・? 」
彼女は 膝をついて箒の先を眺めてみた。
「 え・・・ これって 落ち葉?? 」
そう・・・っと指で摘み上げてみた が。
「 落ち葉 よねえ 確かに。 でも ― 」
彼女は 改めて座敷を見回す。
ここは この邸でもかなり奥まった場所なのだ。
外部と直接つながっているのは 北側の低い掃き出し窓だけで
そこは真夏以外 開けることはない。
「 ??? こんなところまで 入ってくる?? 」
拾いあげた落ち葉に特に変わったところはなく 秋になれば家の周りに
沢山舞い落ちているものだ。
「 だれかの身体にくっついてきたのかしら・・・
ふうん ・・・? 」
彼女の視線は なぜかあの掛け軸に向いてしまう。
「 ・・・ あ〜 ここにも秋の樹があるわねえ
でも ― 絵だし。 気にしすぎよね 」
ぺたん、と膝を抱え床の間に向かい合う。
( 正座はできないのだ)
フランソワーズは あらためてしげしげと掛け軸を眺めた。
「 ふうん ・・・ 手前は 秋の木々 よね
でも ・・・ あら すてき! その向こうの木はまだ青々としてるし
わあ〜〜 もっと向こうには 花が咲いた木がみえるわ!
すごいわ 奥にむかってパノラマになってるのかしら・・・
面白い手法ねえ・・・ 」
彼女は 引き寄せられるみたいに掛け軸に近づいてゆく。
「 ・・・ こうやって見ていると
ふふふ ・・・ この林の奥に引きこまれそうよ 」
す ・・・ 何気なく手が掛け軸に伸びてゆく。
いや 自然に指が吸い寄せられらた ・・・ のかもしれない。
「 ・・・ この林 ・・・ 歩いて みたい な
あの木の奥には なにがあるのかしら ・・・
あ? ちょっとだけ黄色の葉っぱがみえたかも??
もしかして マロニエの樹が ある かも ・・・
え? え・・・? もう一回 みせて ・・・! 」
彼女は どんどん顔を寄せてゆく ・・・ その時。
フラン〜〜〜〜〜 博士がちょっと来てくれって〜〜〜
襖のもっと向こうから ジョーの声が呼んでいる。
「 ・・・あ ・・・ はあい 今 行くわぁ〜〜
えっと・・・ お掃除の道具は 後でとりにくればいいわね 」
フランソワーズは 襖をしめると小走りに去っていった。
カサリ。 カサ ・・・
床の間に また 落ち葉が散った。
・・・ どこからか ・・・
まだ だれもそのことに気を留めてはいない。
コトコト コト。 ちょん ちょん ・・・
ジョーはものすご〜〜く慎重な手つきで小石を植木鉢に並べている。
「 ・・・ う〜〜ん これで いいかなあ ・・・
えっと ・・・ こっち側にエサ じゃなくて ごはん、いれて 」
ピンセットを使い固形の小さな肥料を置く。
「 サボテンコちゃ〜〜ん どんな花が咲くのかなあ
えへ なんかすごい楽しみ〜〜〜 」
彼は そう〜〜っとトゲトゲのアタマ?を 撫でている。
「 ジョー! あのね 買い出しに 」
「 うわ?? ああ フランソワーズ ・・・ ああ びっくりした〜
サボテンコちゃん ごめんね〜 」
ジョーは 目の前の鉢物にごにょごにょ言っている。
「 ?? ジョー どうしたの?? 」
「 ・・・ で さ。 あ? ああ フラン〜〜
ゴメン なんか用? 」
「 ・・・ 誰と喋ってたの? 」
「 え? なにも言ってないけど・・・ あ 買い出し? 」
「 ええ ・・・ よかったら車 出してくれないかしら 」
「 あ いいよ〜〜 ついでだからさ 駅の向うのおっきな
ショッピング・モール 行ってみようよ? 」
「 ありがと〜〜 お野菜とかいっぱい買いたいし・・・
お米 ってどこで買うのがいいのかしら 」
「 あ あのねえ 海岸通り商店街の米屋さんが イチオシ!
あ あと 花屋さんに寄ってもいいかなあ 」
「 ええ 勿論。 春向きの球根も買いたいわ。
ジョーは ・・? 」
「 あ ぼく サボテンのごはんと小石。 」
「 最近 ハマってるわねえ 」
「 えへへ あのさ 花が咲いたら 座敷に飾ろっかな〜〜って 」
「 ざ し き ? 」
「 あ 和室のこと。 あそこの床の間にね 」
「 ああ いいかも ・・・
ねえ 日本には < いけばな > ってあるのでしょう? 」
「 ウン えっと・・・ 華道 って言うのかな
こう〜〜 平たい鉢にいろんな花 差すみたい 」
「 わたし 興味あるのよねえ
わたしもね あの和室になにか置いてみたいの 」
「 あ いいねえ コズミ先生に聞いてみようよ 」
「 ええ そうね! あ じゃあ 買い物、行きましょ 」
「 うん。 じゃあ 行ってくるね サボテンコちゃん☆ 」
「 ? 誰に言ってるの? 」
「 あ〜 いや なんでも ・・・ さ 行くよ〜〜
あ ジャケット、もってった方がいいかも〜〜 」
「 そうね そうね ふふ ちょこっとドライブ気分ね 」
「 うん♪ 」
賑やかにはしゃぎつつ 二人は出かけていった。
コトン。 サボテンの鉢が ・・・ 少し揺れた。
― 数時間後
「 ただいま〜〜 サボテンコちゃ〜〜ん☆
あたらしい土とごはん 買ってきたよ〜ん 」
レジ袋と新聞紙を持って ジョーが戻ってきた。
「 ふふふ〜〜ん ・・・ 花屋のおっちゃんにちゃんと聞いて
きたんだ〜〜 ぼくのお世話は間違ってないって♪
ばっちり準備すれば座敷で作業してもいいよね 」
あれ ― ???
襖を開けて ― ジョーはきょろきょろしている。
「 ・・・ 置いていった ・・・ よな?
ぼくのサボテン どこだ? 」
床の間には 掛け軸がかかり 森閑とした空間が広がっている。
違い棚も フランソワーズが丁寧に掃除をしているので
ホコリなんぞはたまっていない。
「 ・・・? あ 博士がもっていった のかなあ??
まさか ・・・ え〜〜 でもぉ ・・・・
どこいっちゃったんだ? だって誰ももってゆくわけ ないじゃん 」
なんで ・・・? 突然 消えるなんて
彼は ぺたん、と畳に座り込んでしまった。
「 え ・・・ ぼくのサボテンコちゃん ・・・ どこだあ
なんでなんだよう ・・・ 」
まったく彼らしくないのだが ジョーはそのまま脚を投げ出し・・・
ごろん、と寝転がってしまった。
じょー ・・・・
「 ・・・ん? 誰か 呼んだ ・・? 」
ふっと起き上がってみれば ― 林の中に佇んでいた。
「 え??? こ ここ ・・・ どこだ??
だって たった今まで 和室にいた ・・・ はずだよ? 」
ジョーは慎重に周囲を見回す。
003ほどではないが 009も 常人を遥かに超える 視聴覚を
持っている。
ぴぴぴぴぴ ぴちゅ ぴちゅ ぴちゅ
どんなに聴覚の精度を上げてみても 聞こえてくるのは
鳥たちのさえずりと 木々の間を抜けてゆく風の音 と
そして 葉擦れの音だけだ。
「 ・・・ 夢 みてるのか なあ ・・・
ここはどこなんだ? お〜〜い 誰かいませんか〜〜〜 」
ジョーは警戒しつつ 歩き出した。
「 ・・・ ? なんか ・・・ ここ、知ってる気分?
この木の枝のカンジ、 すごく見覚えがある・・・ 」
秋色に染まった葉をつけた木々の間をぬけると
今度は 緑濃い雑木林になった。
「 ・・・??? どういうことなんだろう・・・? 」
さくさく さく ・・
軽い足音が聞こえてきた。
「 ! だれか 来る !
」
ジョーは 大きな樹の陰に身体を寄せた。
さくさく ・・・ 足音が近づいてくる。
「 ・・・ オンナのひと だ ・・・ 若いカンジだな〜
あ 日本人 かな 」
?? あれえ ・・・?
このヒトに どこかで 会ったことがある かも・・・?
ささささ ・・・ ジョーは気が付けばその若い女性の前に
立っていた。
水色のワンピース、フレア・スカートが 黒髪が
爽やかな風に やさしく揺れている。
「 あの! 」
「 ・・・ はい? 」
ジョーは 彼女をまじまじと見つめてしまい ・・・
言葉が続かない。
「 う あ ・・・ すいません ・・・ 」
「 間違えました? 」
「 ・・・多分 」
「 そう? ・・・ 」
黒目がちのその女性は 花が開くみたいにほんわりとほほ笑んでくれた。
「 あ す すいません ・・・ 」
「 いいえ ・・・ お探しの方、見つかりますように 」
「 あ あ ありがとうございます ・・・ 」
「 ・・・ 」
彼女は また微笑んでそのまま行き過ぎようとしたが ふっと
足をとめ ジョーを振り返った。
「 これ。 もしかして あなたのかしら 」
差し出されたのは 小さな鉢植えの多肉植物。
「 え? あ! サボテンコ! 」
「 ?? さぼてん こ? 」
「 あ あは ・・・ その〜〜〜 そのコの名前で ・・・ 」
「 そうなの? はい じゃあ サボテンコさん をどうぞ。 」
「 ! す すいません〜〜 どこにありました??
これ 探してたんです〜〜 」
「 よかったわね。 これ・・・ あちらの公園のベンチにね
ちょこん、と置いてあったの。 」
「 え 公園のベンチ ですか?? 」
「 ええ。 誰かの忘れ物かなあって 管理事務所に持って
行こうと思ってたのよ 」
「 そうなんですか ・・・
あのう〜〜 でも どうしてぼくのだと思ったんですか? 」
「 う〜〜ん わからないけど ・・・ なんとなく・・
貴方、 なにかを探してる雰囲気だったし 」
「 そ そうなんですか ・・・ ありがとうございます!
ぼく、さぼてん・ビギナー なんですけど〜
頑張って花、咲かせよう〜って 」
「 まあ 素敵ね。 咲くといいですね 」
「 はい! ・・・ あ いろいろシツレイしました 」
ジョーは サボテンの鉢を持ったまま ぺこり、とアタマを下げた。
「 あら ら ・・・ そんなこと・・・
あの ね。 私も ― 会いたいヒトがいます 」
「 へ え ? 」
「 でも 会えないほうが いいみたい・・・
私は ずっと見てますから 」
「 ・・・ え ?? 」
にこ ・・・ 優しい黒い瞳が ジョーに微笑かける
「 ・・・ ! ・・・ 」
彼は 身体の奥底から温かい気持ちでいっぱいになってしまった。
「 ・・・ じゃあ ・・・ ね 」
彼女は するり、と彼の横をすり抜けてゆく。
「 あ あの! 」
「 はい? 」
「 この・・・ サボテンコ!
は 花が咲いたら ・・・ 見てください!
ぼく 見せにきますから ! 」
「 ・・・ ありがとう ・・・
いつも 見ているわ 」
「 ・・・・ 」
ジョーは ただひたすらじっとじ〜〜っと その女性 ( ひと ) の
後ろ姿を見つめていた。
ぼく なぜ 見てるのかなあ・・・・
「 ジョー? ねえ ジョーってば 」
ちょん ちょん。 誰かが肩に手を掛けてきた。
「 ・・・・? 」
振り向いた途端 ― 明るい空は消え 薄暗い和室が広がった。
「 ・・・ あ れ ・・・? 」
「 ジョー 寝ぼけた? 」
彼の側には フランソワーズの笑顔がみえる。
「 え・・・? 」
「 昼寝 してたでしょう? あ さっき覗いたとき、
ここにはいなかったみたいだけど ・・・ 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 ねえ お茶 淹れるわ。 オーツ・ビスケット 焼いたの 」
「 あ ・・・? 」
「 ほら ジョーの好きなの。 レーズンも入れてみたわ 」
「 あ ああ ・・・ 」
「 ?? 目 覚めた? お茶 いらない? 」
「 ・・・ あ ああ ごめん。 イタダキマス。
きみのオーツ・ビスケット、 大好きなんだ〜〜 」
「 ふふふ ・・・ 熱々よ〜〜 」
「 わはは お茶にしようよ 」
「 博士もお好きなの。 ・・・ あら サボテンさん ・・・
ねえ 日当たりのよい処に置いたほうがいいのじゃない? 」
「 あ うん ・・・ 下のリビングに置こうかなって 」
「 それがいいわ。 ああ 春には花壇も賑やかになるわね 」
「 うん 」
ス ― ・・・ ジョーは静かに座敷の襖を閉めた。
そして 閉めきる直前、もう一度床の間に視線を向けた。
一幅の少々古びた掛け軸は ひっそりとそこにあった。
「 ・・・ 夢・・・? いや そんな 」
お前も 一緒だった よな?
ジョーは 手にした鉢植えに呟いていた。
Last updated : 06.23.2020.
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************* 途中ですが
ミステリーとかじゃないです〜〜〜 (*_*;
ジョーの サボテンについてのあれこれ・・・・
例によって ウソ800万〜〜♪
お見逃しくださいませ〜〜〜 <m(__)m>