『   大潮   − (2) −   』

 

 

 

 

 

 

「 おとうさん、おとうさん! かいじゅうだ! すぴか、かいじゅうをひろった〜〜 」

 

「 え・・・   なんだって? 」

「 なあに、どうしたの? 」

娘の甲高い声に ジョーとフランソワーズはイッキに現実に引き戻されてしまった。

しかし ・・・ 目の前には茫洋と穏やかな海がたゆたっていて・・・

 

   

    ざざざざ −− −−−−−   ざ − ・・・・!

 

 

波が一際大きく − そしてゆったりと砂浜にその裳裾を広げてゆく。

さっきまで乾いていた砂が もうしっとりと重い色になっている。

いま 潮はゆっくりと満ちてきていた。  

午後の日に照らされて 浜辺には人々がのんびりと散っていた・・・・

平和な 穏やかな 時間がまったりとながれ・・・ていたのだが。

 

タタタタ・・・・! 砂浜なんてものともせずに、すぴかは全速力で駆け寄ってきた。

 

   「 うん、あのね!  かいじゅう なの。  ほら!  」

 

小さな手がしっかり握った赤いバケツを父と母の前に得意気に差し出した。

「 かいじゅう・・・?  かいじゅうって あの怪獣、かい? 」

ジョーが がお〜〜という手つきをしてみせた。

「 うん! おとうさん!  うちゅうのかなた から しんりゃくしてきたのかもしれない〜〜

 ちきゅうのききだよ!  ・・・あ、でも ちっちゃいからコドモなのかなあ。 」

「 ・・・ かいじゅう・・・・?  ゴジラとか・・・ かめんらいだ〜 みたいなのとか? 」

フランソワーズも首をひねりつつ・・・娘の赤いバケツを指さした。

「 おかあさん。 かめんらいだ〜 はかいじゅうじゃないよ。 」

「 あら、そうなの? ・・・ で ・・・ ソレはすぴかのバケツに入っている・・・の? 」

「 うん。 なみがね〜 ざざざざ〜〜ってきて、かえって・・・そしたら、このコがね、いたの。 

 だから・・・すぴか、そうっとひろってバケツにいれたの。 ・・・ほら! 」

「 へえ? ・・・・うわ・・・  なんだぁ これ。 」

「 え、え? どれどれ〜〜 お母さんにもみせて・・・ う ・・・! 」

 

     ※※★★**(  きゃ〜〜〜〜〜〜 !!! ) 

 

「 ね? かいじゅう でしょ。 」

「 怪獣 ・・・ っぽいな、確かに。  あれ・・・フラン、どうした? 」

「 ジ じょ・・・・ わたし・・・・ダメ。 こうゆうの ・・・ だめ〜〜〜 ! 」

「 見なくていい!  さ・・・こっち、おいで。 」

「 ・・・ ごめんなさい・・・ 」

ジョーは縋りついてきた細君をそっと後ろ手にかばった。

「 おかあさん ・・・ どうしたの? 」

「 ああ、うん。 お母さんはね・・・ そのう〜 こういうの、苦手なんだよ。 」

「 おや。 どうしました?  すぴかちゃん、何を捕まえてきたのかな。 」

「 あ、どらっぐ・すとあ の おじさ〜〜ん! ねえねえ みて! すぴかね、かいじゅうをつかまえたよ! 」

「 ん? ・・・・ おお〜〜 こりゃ 美味そうな海鼠だなあ〜〜 ! 」

 

「 な  ま  こ ・・・? 」

 

「 そうだよ。 これは赤海鼠。 海鼠の中でも特にウマイのさ。 酢の物とか塩辛にもなるんだ。 」

「 ・・・ たべる、の・・? 」

「 へえ〜〜 コレが海鼠ですか。 初めて見ましたよ。 ふうん・・・ こりゃ・・・すごい。 」

「 ははは・・・ すぴかちゃんじゃないけど、確かに怪獣っぽいよね。 

 他にも青いのとか黒いのもいてね。  最近はなかなかお目にかかれなくなったなあ。

 あれ? 奥さん ・・・ どうかしたのかい。 」

「 あ・・・ いえ・・・ あのぅ・・・ そういう・・・ ぬめっとしたモノ、ダメなんです〜〜 」

「 あっはっは・・・ そりゃそうだよね、キモチ悪いよなあ。 奥さんには無理か。

 よし! それじゃコレは オレが料理してやるよ。   すぴかちゃん、大収穫だねえ。 」

ドラッグ・ストアの主人は すぴかのバケツに手を伸ばした。

 

「 ・・・ だめ! 」

 

すぴかはバケツを持ったまま、ぱっと跳び下がった。

「 すぴか? おじさんが美味しく料理してくださるんだよ。 」

「 だめ〜〜 たべちゃだめ。  まこちゃん、 すぴかのトモダチだもん。 」

「「「 まこちゃん ・・・?? 」」」

オトナ達は 声を合わせ・・・ お口を ん!と引き結んでいる少女をみつめた。

「 うん。 なまこ の まこちゃん。   きっとおんなのこだよ、あかくてきれいだし。

 すぴか、まこちゃんをかう! おウチにつれてかえるんだ。 」

「 ・・・ 飼う、ですって〜〜!? 」

ジョーの陰で フランソワーズの悲鳴に近い声があがった。

「 飼うって ・・・ そりゃちょっと無理だよ、すぴかちゃん。 」

「 そうだよ、すぴか。 これは海に住む生き物だからね。 いつも新鮮な海水が必要だろう? 

 世話をするのだって大変さ。 」

「 すばるだって、 き〜すけ、かってるもん。 」

「 き〜すけ は 金魚だもの。  そのぅ〜〜 まこ・・ちゃん はちょっとなあ・・・ 」

「 え〜〜 すぴか、ちゃんとおせわするよ? まいにちうみのみず、もってくる!

 おうちのしたのうみからさ、とってくる。 ね〜ね〜 おとうさ〜ん、 いいでしょう? 」

「 う〜〜ん ・・・ ? だってエサも判らないしなあ・・・ なまこのエサ?? 」

「 ダメですッ!!! 」

「 ・・・ おかあさん ・・・ 」

「 フラン ・・・ ( あ、 そんなにキツく言わなくても ・・・ ) 」

「 お願いだから! すぴか、 ・・・ ソレをお家に連れて帰る、なんて言わないで〜〜 ! 」

「 ・・・ おかあさん ・・・ まこちゃん ・・・ きらい? すぴかのおともだち、きらいなの? 」

すぴかの大きな瞳、母譲りの碧い綺麗な瞳から ぽろぽろぽろ・・・・ 涙がこぼれ落ちた。

 

   あれ・・・ すぴかが泣くなんて・・・ 珍しいなあ・・・

 

ジョーはちょっと意外に思い、娘と まこちゃん をしげしげと眺めてしまった。

 

「 ほいほいほい・・・ どないしはってん? 」

「 あ、大人・・・ すぴかがね、捕まえたんだけど。 飼うっていうんだ。 」

「 捕まえた? ヤドカリでもいたアルか。 」

ドジョウ髭をゆらしつつ 張大人が悠然と現れた。

特製 粽の評判は上々 ・・・ 貝料理のレシピもおそわって大人としては大収穫の日のようだ。

「 いや。 ヤドカリなら・・・まだ、よかったんだけど。  ほら・・・これ。 」

ジョーは 娘の赤いバケツを指した。

すぴかはぎっちりバケツの手を握り締めていて、泣きべそで突っ立っている。

「 お〜やおや、 嬢や。 どないしたん? べっぴんさんが台無しでっせ。 」

「 ・・・張おじさん ・・・ すぴかのおともだち・・・ すきだよね?  」

「 嬢やのお友達? どれ・・・ おっちゃんにも見せてな。 」

「 ・・・ うん。  」

「 ・・・ あいや〜〜〜 こりゃ かわいい海鼠やんか〜〜 」

「 うん。 なまこのまこちゃん。 あかくてきれいでしょ。 」

「 ほんまやな〜〜 赤いきれいなべべ、着てるなあ。 これ・・・嬢やが捕まえたんか。 」

「 うん。 あ・・・なみがね、もってきたのをひろったの。 」

「 ほうほう・・・ 嬢やはこの海鼠の恩人やなあ。 」

「 まこちゃん、だよ。 すぴかのおともだち。 ねえ 張おじさん〜〜 

 すぴか、このコ、おうちにつれてゆきたいの。 でも ・・・ おかあさんはだめ!って・・・  」

「 はは〜〜ん ・・・ そりゃ、フランソワーズはんはち〜と・・・苦手やろなあ。 」

「 それでね みんなはまこちゃんをたべるっていうの。 」

「 そりゃ、海鼠は美味しゅうおまっせ。 中華料理でも高級食材やよって。 」

「 ・・・! 張おじさんも・・・ すぴかのおともだち・・・・たべる・・・? 」

「 すぴか。 僕、たべない。 いっしょにおせわ、しよ。 き〜すけもおともだちができてよろこぶよ。 」

「 ・・・・! すばる〜〜〜 

いつのまにか すばるが姉の側にたち、一緒にバケツの手を握っている。

「 すばる・・・ き〜すけと一緒・・・はちょっと無理だよ。 」

「 おとうさん。 僕、ちゃんとき〜すけにおはなし、するから。 なかよくしなさいね、って。 」

「 すばる〜〜 そういう問題じゃなくて、だね〜 」

「 ジョー・・・ お願い! アレを連れて帰る、なんて・・・言わないで! 」

「 おとうさ〜ん、おねがい〜〜 すぴかのおともだち、たべないで〜〜 

 おかあさん、 すぴかがちゃんとおせわするから。  おねがい、おねがい〜〜〜 」

「 う〜〜ん ・・・・ 」

妻子に両方から取り縋られ・・・ ジョーは、 天下無敵の最強サイボーグは心底困っていた。

 

 

「 アキラ〜〜  アキラ?  すまんですが、ウチの孫を見んかったですかなあ? 」

「 あ・・・町会長さん。 どうしたんですか? お孫さん?  」

<まこちゃん> を囲んで波打ち際に集まっているところに 町会長のタナカ老人がやってきた。

「 そうなんです。 一緒に弁当、食べて・・・ しばらく波打ち際で遊んでおったんじゃが・・・ 

 はて、何処へいったのかな・・・ 」

「 あの・・・ ご家族と一緒では? 」

「 町会長さん、 今日はアキラ坊は一人参加だったかな。 」

ドラッグ・ストアの主人も ず〜〜っと浜を見渡しつつ、タナカ老人に訊いた。

「 そうなんだ。 息子は今日も仕事で・・・嫁は今、コレなんで留守番。 ワシが孫を連れてきたんじゃけど。 」

町会長サンは お腹の前で大きく弧を描いてみせた。

「 ああ、そうだったなあ。 もうすぐ兄チャンになるのに・・・ どこ、行ったんだろ。 」

「 アキラ君・・・ですか。 え〜と・・・あ、朝、一緒にいた小学生の坊やですね? 」

「 おう、島村さん、よく覚えていなさるなあ。 そうです、小学2年なんですが・・・ 」

「 ちょっと皆で手分けして捜しましょう。 ・・・ かなり潮が満ちてきましたからね。 」

「 あら・・・本当。 すぴか、すばる。  こっちへいらっしゃい。 浜辺に戻りましょう。 」

「 ・・・ おかあさん。 まこちゃん といっしょでも ・・・ いい? 

「 ・・・ う ・・・・ い、いいわ。 さあ、ほら・・・ 」

「 うん! 」 

すぴかは ゴシ・・・っ!と涙を拭うと 母の手をきゅう〜〜っと握った。

 

    ごめんね〜〜 すぴか。  すぴかのこと、勿論大好きよ!

    ・・・ でも ・・・ その ぬめぬめしたのだけは ・・・ 勘弁して・・・

 

「 ぼくも〜〜〜 ! 」

ぱしゃぱしゃ・・・・ すばるが駆けてきて母のパーカーの裾を握った。

「 それじゃ・・・ 上陸しま〜す。  アキラ君はどこへ行ったのかしらね。 」

フランソワーズはコドモ達を連れて 浜辺にあがり、 ず〜〜っと海に向き直った。

「 ・・・ ふうん・・・ 随分波が押し寄せ ・・・ あ!!? 」

「 おかあさん? どうしたの。 」

「 おかあさ〜ん♪ 」

コドモ達が左右から手を引っ張り縋りついてきた。

しかし 島村夫人は宙に視線を据えたまま・・・ 微動だにしない。

 

≪ ジョー!  見つけたわ!! 

≪ ?! なんだ? フランソワーズ、 どうした? 

≪ アキラ君。  見つけたわ〜〜 沖にある岩に取り残されてしまったようよ。

≪ おお〜さすが 003。 その岩の座標と距離を頼む。 ≫

≪ 了解。  ・・・あ! 大変〜〜急いで、ジョ・・・いえ 009! ≫

≪ どうした? 詳細を報告せよ。 ≫

≪ 岩、じゃないわ! ・・・多分、埋め立てに使った廃材だったのよ。 

 久し振りに海面に露出して、今また水位があがって ・・・ 根元から揺らぎ始めたわ! ≫

≪ 了解。 ・・・ 座標、確認した。 これより救助に向かう。 回線は常時オープンに。 ≫

≪ 了解! ・・・ あ、ジョー?  加速装置、 はダメよ! ≫

≪ ・・・うわ・・・っとォ〜〜 ありがとう! あやうく ・・・ ボロンチョになるトコだった! ≫

≪ よかったわ〜〜 ジョ−の換えのぱんつは持ってきてないのよ〜〜 ≫

≪ ・・・ 激しくテンションが下がるアドヴァイスをありがとう・・・ ≫

≪ あら〜 ごめんなさい?  あ! 急いで〜〜 大きく潮が満ちてきたわ! ≫

≪ 了解! ≫

 

ばちゃ・・・! 

すこし離れた海面が 一瞬激しく波飛沫をあげ・・・すぐに鎮まった。    

 

≪ 009? アキラ君は無事よ。 ただ・・・使っている場所に・・・ ああ、大波がくる! 

≪ 了解。 ・・・ ああ、この廃材は放置されていたらしね。 困ったもんだなあ・・・ ≫

≪ 気をつけて。 防護服、着ていないのよ? コドモもいるし。 ≫

≪ 003? 廃材の構造をサーチしてくれ。 崩れ易い方向は避けて近づくから ≫

≪ 了解。 ・・・ 9時の方向から接近せよ。 加速はダメよ〜! ≫

≪ 了解。 ≫

 

    ・・・ すごい・・・! やっぱり009ね。 

    飛沫も飛ばさずに泳いでゆくわ・・・ あと少し ・・・

 

フランソワーズはこっそり口元に微かな笑みを浮かべつつ・・・ 海の彼方を見つめている。

 

ジョーは水中から廃材の砦に近づいていった。

「 ・・・ あ〜 こりゃ、酷いなあ。 海中の部分は錆びてぼろぼろだ。 台風の大波がきたら

 完全に押し流さるな。  あ・・・ あそこにいる! 」

少年の白い脚が ひらひらしているのをみつけることができた。

ジョーは少しだけ逆戻りしてから ゆっくりと海面にでた。

「 ・・・ お〜〜い ! アキラ君かい? 

「 あ! ・・・だれ? 」

「 今朝、一緒に潮干狩りに参加したものだよ。  ・・・ 岬の研究所、知ってる? 」

「 知ってる!  あ・・・ すぴかちゃんの・・・おとうさん? 」

「 そうだよ、よく知ってるね。  アキラ君 ・・・ 怪我はないかい。 」

「 うん。 僕・・・ オジイチャンに内緒でここまで来たんだ。 上に登って休んでたら・・・急に海が・・・ 」

「 満潮になってきたからね。 この付近は干満の差が激しいんだ。 」

「 ・・・ 恐くて・・・ 誰も来てくれないと思ってた〜〜 ! 」

少年は怯えた目でジョーを見つめている。

「 さ・・・ おいで。 ぼくと一緒に帰ろう。 君のお家の人たちも心配してるよ。 」

「 ・・・ 僕 ・・・ パパもママも来てないから。 」

「 お祖父さんが凄く心配していたよ。 ・・・ あ。 ( マズいな・・・根元の揺れ具合だと 次の波で・・・  ) 

 アキラ君? ほんのしばらくの間 ・・・目を瞑っていてくれるかい? 」

「 え・・・ いいよ? 瞑った! 」

「 よし。  ・・・ !!! 」

「 ???? 」

ジョーは少年を ぽ〜〜ん・・・・と空中に放り投げた。 そして ・・・

≪ 003? 廃材の砦の中心をサーチしてくれ。中心の廃材を応急で補強して・・凌ぐ! ≫

≪ 了解 ―   009? 陸から見て3時の方向に伸びる鉄材が軸になっているわ。 ≫

≪ 了解! ・・・ 海中なら大丈夫だと思うから! ≫

≪ ・・・え??  ちょっと ジョー?!  009!! 加速装置・・・? ≫

  

  ・・・・ カチ ・・・! 

 

  ジュ −−−−!!

 

海中が急に泡立ち ・・・ 廃材砦の周辺の水だけが激しく揺れ動いた。

 

「 よし。   ・・・・と。  アキラ君? もう目を開けていいよ。 」

ジョーは落下してきた少年をしっかりと抱きとめると 笑って声をかけた。

「 ・・・う・・? 僕 ・・・どうしたの?  なんか ・・・ 飛んだ? 」

「 おや? 夢でも見たんじゃないかな。  さ・・・帰ろう。 ぼくに捕まって? 」

「 うん・・・ ありがとう・・・! すぴかちゃんのお父さん。 」

「 もう一人で勝手に行動してはだめだぞ? パパやママに心配かけてはいけないよ。 」

「 ウン・・・・ でもパパはいつも帰りが遅いし。 ママはもうすぐ赤ちゃんが生まれるから・・・ 」

「 へえ、いいなあ。 もうすぐお兄ちゃんだね! それなら ・・・なおさらだよ。 」

「 ・・・ ごめんなさい。 」

「 ごめんなさい、はオジイチャンやパパやママに言うんだ。 いいね。 」

「 ・・・ ウン ・・・ わかった・・・ 」

ジョーはアキラ少年を背中に捕まらせ、悠々と泳いでいった。

 

 

 

「 おかあさん、おかあさんってば。  ねえ、 おとうさんは?  」

「 おとうさ〜ん・・・ おとうさん、また うみのなか ? 」

「 ・・・ え・・・? あ、ああ・・・ごめんね、二人とも。 お母さん、ちょっとぼ〜っとしていたみたい・・・ 」

「 おかあさん・・・おとうさん・・・いないよ? 」

「 すぴか、大丈夫よ。 お父さんね、 ほら・・・アキラ君を助けにいったの。 」

「 たすけに?  あきらくん、どこにいるの? 」

「 あ・・・ え〜と・・・ なんだかね〜 海の方に捜しに行ったのよ、お父さん・・・ 」

 

 

「 やあ〜 こんにちは! 海岸通り町内会の方々ですよね? 」

「 ・・・ はい? え、ええ・・・そうですけど。 」

スーツを着た若い男性がにこにこ・・・浜辺に降りてきた。

ビジネス・ケースを提げているところをみると 休日出勤の帰り、といった様子だ。

「 あ、僕、タナカです〜 アキラの父なんですけど・・・ 」

「 まあ、そうですの? それじゃ 町内会長さんの 」

「 お〜〜 会長んとこの。 会長〜〜 御宅の倅が来たぞ〜〜! 」

ドラッグ・ストアの主人がタナカ老人を呼んでくれた。

「 すいません、オジサン。  あ・・・ 親父〜〜 ここ、ここ。 」

「 ・・・ おい〜〜 大変だ〜〜 アキラが・・・アキラがなあ〜〜 

「 え?! 親父! アキラが・・・どうかしたのかい! だって・・・今日はあいつ、親父と一緒のはずだろう?」

「 そ・・・ そうなんだが ・・・ はあ ・・・ふう ・・・ 」

タナカ老人は砂浜を駆け寄ってきて、息が上がってしまったようだ。

「 親父! アキラはどこだい? 」

「 今、 皆で捜しているとこなんだよ。 こちらの・・・島村さんのダンナさんが海の方まで・・・ 」

「 え!? 海に?  ・・・ アキラ〜〜〜!? 」

 

≪ ・・・003? 少年を保護した。 大丈夫、廃材砦も応急補強したよ。 ≫

≪ よかったわ!  今ね・・・ 彼のお父さんが見えてるの。 ≫

≪ お、そうか。 それじゃ・・・ 今から帰還する。 少年は元気だ。 ≫

≪ 了解。 ・・・ ご苦労さま。 すごいわ〜〜 さすが 009 〜〜 cyu♪ ≫

≪ お〜 サンキュ♪ 003〜〜♪ ≫

 

「 これ、頼むよ、父さん。 オレ、アキラを捜してくる! 」

「 あ・・・ おい〜〜 お前、服が・・・・ 」

アキラ君のお父さんは ば・・・・!っと上着と荷物を浜辺に捨て、波打ち際めがけて駆け出した。

「 あの! アキラ君のお父さん!  今 ・・・ ウチの主人がアキラ君を見つけましたわ。

 ほら・・・この先から 一緒に泳いで・・・ 」

「 ええ!?  アキラ〜〜〜 !!! 」

彼は そのまま・・・・ ばしゃばしゃ海に突っ込んで行き、ジョーが泳いでくる方向に突進した。

「 ・・・ あ。 アキラ君のお父さんですか。 ・・・ お願いします! 

ジョーは背中にしがみ付いていた少年を ひょい、と抱き換え、父親に手渡した。

「 え? ・・・ あ! ああ〜〜 アキラ!! 」

「 パパ〜〜〜!! 」

大人がようやく背が立つほどの深さの海で 父親は息子をがっちりと抱き止めた。

「 アキラ〜〜 お前・・・ よかった・・・・! 」

「 パパ〜〜〜 このオジサンが助けてくれたんだ〜〜 ! 」

 

   ・・・ オジサン ・・・!?

 

ジョーは一瞬。 足を海底の砂にずるり・・・と滑らせてしまった。

「 だ、大丈夫ですか??  あ・・・僕、このコの父です。 」

「 あ・・・どうも。 島村です。 いや〜 助かった・・・ ちょっと脚をすべらせました。 」

「 いや! こっちこそ! アキラをありがとうございました!! 」

「 パパ〜〜 パパ〜〜〜! 」

「 大丈夫、水も飲んでないみたいです。 沖の方まで浅瀬だと思っていて・・・ 満ち潮で取り残された

 みたいですよ。  あの廃材の山はどうにかしないと危ないですね。 」

「 え・・・ ああ! そういえば岩みたく突き出してますよねえ。 あれは・・・僕がガキの頃から

 ず〜っとあったんですよ、よくよじ登って遊んだ・・・ うん、もう海水に腐食してきて危険ですね。 」

父親はしっかりと息子を背負いなおした。

「 さあ・・・上がりましょう。 今度、撤去しましょう。 あ、なにか許可が必要なのかな。 」

「 う〜ん・・? 親父に聞いてみます。 一応<町会長>ですからね。 」

「 よろしくお願いします。 撤去作業の時にはお手伝いします。 」

「 ああ〜 助かります〜〜 」

二人はざばざばと海から上がってきた。

 

「 アキラ〜〜!! おお、 無事か! 」

「 アキラ坊! よかった〜〜〜  おお、父さんにしっかりオンブして・・・ 」

「 いやあ〜〜 こちらの、島村さんが助けてくださって。 」

心配していた町内会の人達が わ・・・っと波打ち際に駆け寄ってきた。

「 うわあ〜〜 凄いなあ! 」

「 こういう若いヒトが町会にいてくれると 心強いですよねえ〜 」

皆、ほっと一安心で、タオルを差し出してくれるヒトもいた。

「 いや・・・ 一緒に泳いで帰ってきただけですよ。 」

「 ・・・ すぴかちゃんのオトウサン!  ありがとう〜〜! 」

アキラ君は父親の背から降りると、ジョーにぴょこん!と頭を下げ ・・・ 

「 オジイチャン。 パパ・・・ ごめんなさい・・・! 」

「 ・・・ アキラ ・・・ よかった・・・ よかったな〜〜  

「 ・・・ こいつ! あ〜あ・・・ パパのスーツ・・・ こりゃ、もうだめだなあ。 」

「 ママに叱られるね。 僕、ごめんなさい、するから! 

「 アキラ・・・ こいつぅ〜〜 」

アキラ君のパパは こし・・・と息子の頭を小突き ・・・ そのまま きゅう〜っと抱き寄せた。

「 いいさ、いいさ。 一緒に叱られよう! 」

「 うん! 」

 

「 おお〜〜 よかったな〜〜 アキラ坊〜〜 会長サン、一安心だね。 」

「 ああ・・・ワシはもう〜〜腰が抜けた・・・ 」

「 あはは・・・ しっかりしてくれよ。 すっかり満潮だな。 そろそろお開きにするかい。 」

ドラッグ・ストアの主人は ず〜〜っと浜を見渡した。

 

あんなに大きく広がっていた浜はすっかり消えて ゆったりとでも確実に波が押し寄せてきていた。

午後の温かい空気が いっそう強く磯の香りを運んでくる。

 

  ・・・ザ ・・・・ ザザザザ ・・・・  ザ ・・・・!

 

波よりも土手の松並木が 海風に大きくその枝を揺すり音を立てていた。

 

「 ・・・ そうじゃなあ。 ぼつぼつ ・・・ 引き上げるとするか。 」

「 はいよ。 お〜〜い・・・! 町会のみなさ〜〜ん・・・! そろそろ・・・引き上げましょ〜〜う! 」

 

 

「 ・・・ ジョー。 ご苦労様。 」

「 いや。  ごめん、フラン。 加速装置、使っちゃったよ。 」

「 ええ、わかっていたわ。 すごい・・・って思った! あのコを空中に <退避> させて

 おいたのでしょう? その間に廃材を補強したのね。 」

「 うん。 ぼく一人にならないと加速できないから。 海中で・・・ってのは流石に冒険だったよ。 」

「 そうね、初めてかもしれなくてよ?  ・・・ あら・・・やっぱり服がダメージね。 

 でも、あなたの咄嗟の判断は さすが009! よ♪ 」

「  ふふふ・・・さすが 003。 お見通しだね。 」

「 そりゃ・・・ 長年のパートナーですから。  ・・・ ジョー、素敵♪ 」

「 サンキュ♪ 」

ジョーは寄り添う妻の唇にさ・・・っとキスを落とし・・・それから初めてしげしげと自分の服を見つめた。

「 あは・・・ 濡れていてよかった、って感じだな。 ぼろぼろっぽいのが誤魔化せる。

 燃えてはいないけど・・・ 生地が。  ぼくも <おかあさんに叱られよう> だ。 」

「 ・・・ こんな素敵な <おとうさん>、誰が叱るの。 ・・・んんん ・・・ 」

今度は甘いキスがジョーの唇に降ってきた。

「 ・・・ えへへへ・・・なんか・・・得した気分〜〜 」

 

「 ・・・・ おとうさん ・・・  」

渚で寄り添う二人の側で小さな声がぽつ・・・っとジョーを呼んだ。

「 すぴか・・・ なんだい、どうしたの。 」

「 おとうさん ・・・ びしょびしょだね。 」

「 うん? ・・・ああ、沖まで泳いでいっちゃったからね。 ははは・・・せっかく乾いてたぱんつも

 またぐしょ濡れだよ。 」

「 ・・・ おとうさん。 ぱんつ、ぬれてもかっこいい! 」

「 うわ〜〜 ありがとう、すぴか。  そうそう・・・すぴかはあのアキラ君、知ってるのかい。 」

「 ・・・ あのおとこのこ? う〜ん・・・どらっぐ・すとあ でみたよ。 」

「 ふうん ・・・そうか、ボーイフレンドじゃないのか! ・・・ よかった! 」

「 ジョーったら。 すぴかはまだ幼稚園よ? なに、焦っているのよ・・・ 」

「 フラン! 幼稚園でも! 油断はできないよ〜〜 うん。 」

「 まあ ・・・・! 」

ジョーは 足元にいる娘の頭にぽん・・・と手の平を乗せた。 

「 ぼくのタカラモノだもの。 ・・・ 誰にもやらない。 」

「 あらら・・・ 大変だわね〜 」

「 ・・・ おとうさん。 アタシね。 ・・・ まこちゃん、ね・・・ 」

「 あ! そうだよ。  ・・・ まこちゃん ・・・だったよねえ・・・ 」

ジョーは娘がぎっちり握って下げているバケツをそうっと覗き込んだ。

 

    ・・・うわ。 いるよ〜〜 しっかり。  どうしようか・・・

    フランは絶対に、絶対にダメ!って言うし・・・

 

「 ウン。  あの、ね。 すぴか ・・・ まこちゃんをおうちにかえしてあげる・・・ 」

「 え? なに、なんだって? 」

「 まこちゃん・・・・さ。 あのコとおんなじだよね。 おうちにかえれなくなってたんだよね・・・ 」

すぴかは じ〜っとバケツを覗き込んでいる。

彼女の愛用の赤いバケツの底には  ―  

ど派手な色彩の ・・・ ぬめっとした<かいじゅう>が鎮座ましましていた。

「 あ・・・ そうだよねえ。 まこちゃんのお家は海の底だよ、きっと。 」

ジョーの後ろで うんうん! とフランソワーズが必死で頷いている。

「 おとうさんもおかあさんも。  ・・・ もしかしたら・・・おとうとも いるよね。 」

「 そうだねえ・・・ みんな、きっとまこちゃんがいなくなった!って捜しているよ。 

 ・・・ なあ、すぴか。  まこちゃんも帰りたいって思ってるさ。 」

「 ・・・ そうだよね。  アタシ・・・ ばいばい、する。 」

「 そっか。 ・・・ それじゃ、お父さんと一緒にまこちゃんを送ってあげようよ。 」

「 ・・・ ん。 」

 

ジョーはすぴかと手を繋いで 海に入っていった。

先ほど遊んでいた渚はとうに波に覆われている。 

二人は すぴかのヒザの辺りまでぼしゃぼしゃと沖に向かって歩いていった。

「 すぴか。 大丈夫かい、転ばないようにな。  」

「 うん。 ・・・ ここで ばいばい したら・・・まこちゃん、ちゃんとおうちにかえれるかな。 」

「 そうだなあ〜 ・・・ あ、じゃあ、お父さんがすぴかをオンブして もうちょっと沖にでよう。

 そこで 二人でまこちゃんとばいばいしようよ。 」

「 うん!  」

すぴかは元気よく、ぐっちょり濡れた父親の背中に乗っかった。

「 おとうさん  いいよ〜 」

「 よ〜し。 しっかりつかまっていろよ! 」

「 うん! 」

ジョーは娘を背中に片手で揺すり上げ、赤いバケツを空いた手で持った。

「 出発進行〜・・・っと。  すぴか、大丈夫かい。 」

「 おっけ〜〜 うわ〜・・・おおきななみがくるよ、おとうさん。 」

「 よし・・・ あの波が引くときに放すか・・・ 」

「 ・・・ そ だね ・・・ 

 

「 待って〜〜〜 待ってちょうだい・・・! 」

 

「 ・・・ あれ? おかあさんだよ、おとうさん。 」

「 うん? ・・・ あれ、どうしたんだろう。  ・・・ フラン〜〜 なんだ〜い! 」

ジョーは娘をオンブしたまま、波打ち際からじゃばじゃば駆けてくる妻に 振り返った。

「 ジョー −−−− ・・・! す ぴ〜か〜〜 !! 」

「 あれ。 おとうさん? ・・・ おかあさんさ、すばるのこと、オンブしてるよ。 」

「 ホントだ・・・ なんだろう・・・ 」

「 待って! ジョーもすぴかも ・・・ 待って待って!  ・・・ はい、追いついた〜・・・ 」

「 フランソワーズ。 すばるも。 どうしたんだい、何かあったのかい。 」

「 おかあさん・・・ すばる〜〜 」

「 おとうさ〜〜ん♪ す〜ぴか〜 まこちゃんもいる? 」

フランソワーズは息子を背負ったまま、 ジョーの側で大息をついている。

「 は・・・・ は〜〜・・・・ ああ、もう! すばるも重くなって・・・ 」

「 あはは・・・ すぴかもすばるも〜 もう赤ちゃんじゃないからな。 」

「 ホント・・・はあ・・・ 」

「 おかあさん ・・・ だいじょうぶ? 」

「 ・・・ ええ、ええ。  あのね。 お母さんも! お母さんもすばるも一緒に

 すぴかの お友達 にバイバイ〜〜 をさせて・・・・ 」

「 おかあさん〜〜〜 !! 」

「 フラン ・・・ いいのかい。 ・・・ その ・・・ 平気? 」

「 ええ。 すぴかのお友達だもの。 お母さんもちゃんとお別れがしたいわ。 」

「 ・・・ おかあさん ・・・! おかあさんも まこちゃんのこと、すきなんだね〜〜  」

「 う ・・・・ そ、そうなの! そうなのよ。 すぴかのお友達ですもの・・・ ( ううう・・・ ) 」

「 僕も! 僕も〜〜 まこちゃんにバイバイしたい〜〜 

「 よし、わかった。 それじゃ・・・ 皆で まこちゃん を送ってあげようよ。

 迷わずにお家に帰るんだよ〜〜ってね。 」

「「 うん!  おとうさん! 」」

 

 

    ザザザ −−−−−  ザ − ・・・・・・・

 

 

次の大波が引いていった時に すぴかは赤い模様のオトモダチと ばいばい をした。

 

 

 

「 ・・・ いっちゃった・・・・ 」

「 そうだね、 お家に帰っていったんだよ。 」

「 ・・・ うん ・・・・ 」

「 すぴか。 偉いぞ。 すぴかはとっても優しい女の子だね。 」

「 ・・・ ん ・・・ おと ・・・ う・・・さん ・・・ 」

こし・・・。  すぴかは涙でべとべとのお顔をお父さんのびしょくたのシャツに擦りつけた。

「 すぴか。 おかあさんね、優しくて可愛いすぴかのこと、 だ〜いすきよ。」

ちゅ・・・。  今度はお母さんが涙の痕だらけのすぴかのほっぺにキスをしてくれた。

「 ・・・ ん ・・・ おかあさん ・・・ すぴか ・・・ すぴかも  おかあさ〜〜ん・・・ 」

ぽろぽろぽろ・・・・  新しい涙がすぴかのほっぺを転がり落ちていった。

 

    ごめんね・・・・ ごめんね、すぴか。

    あなたは とってもブキッチョなのよね ・・・ 

    とっても とっても ナイーヴなのに ・・・ 思っていることを素直にあらわせないのよね

    ホント・・・ ジョーにそっくり・・・

 

フランソワーズはもう一回娘の頬に唇を寄せると、小さな瑠璃玉を吸い取ってやった。

「 さ・・・ 帰りましょう。  あ〜らら・・・ 皆 びしょびしょになっちゃったわねえ。 」

「 あ〜〜 ほんとだ〜  あはは〜〜 僕もまたおしり、つめたい〜 」

「 ・・・ アタシも。 おかあさん、アタシのぱんつ・・・ある? 」

「 ええ、ちゃ〜んと濡れないように浜辺に置いてありますよ。 さ・・・戻って着替えましょ。 」

「 よ〜し・・・ それじゃ、ついでだよ。 すばるもすぴかも、ここでじゃぶじゃぶ砂を落としてゆこう。 」

「 え・・・ ここで? 

「 そうさ。 じゃぶじゃぶ〜〜って海に手や脚の砂を流すんだ。 あとは、お父さんが運んでやる! 」

「「 うわ〜〜〜い♪ 」」

双子達は大喜びで <じゃぶじゃぶ>〜〜 海で手脚についた砂を洗い、 あとは・・・

「「 おとうさ〜ん!  キレイにしたよ〜 」」

「 よ〜し!  すぴか〜〜 よ・・・・っと! 」

「 ・・・ きゃ〜い♪ 」

「 しっかり捕まってろよ。 次、 すばる〜〜  よッ!」

「 うわぁ〜〜・・・ こわい〜〜 」

「 泣くな! オトコだろ。 」

ジョーは軽々と二人の我が子を背中に背負った。

「 あら〜〜 二人とも。 いいなあ〜 お父さんのお背中で。 」

「 おかあさ〜〜ん♪ おかあさんも ぱんつ、ぬれたの? 」

「 ・・・ え?! ・・・・ い、いいえ。 お母さんは全然〜〜 平気よ! 」

「 へえ〜〜 そうかな〜〜  きみのお気に入りな水色のパンツ、無事なのかな〜 

 なんなら・・・ きみも じゃぶじゃぶして行くかい? 」

「 ジョーォ!!  もう〜〜! お母さんは先に帰ります! 」

フランソワーズはぱっと振り返ると じゃぼじゃぼ・・・盛大に波を蹴立てて浜目指して駆け出した。

 

「 あ〜あ ・・・ あれじゃ ・・・ お母さんもぱんつびしょびしょだねえ・・・ 」

「 おかあさんのぱんつ〜 ぱ〜んつ びしょびしょ〜♪ 」

「 おとうさん ・・・ はやくおうちにかえろ。 」

「 そうだね。 よいしょ・・・っと。  ああ〜 二人とも、重い・重い〜〜 」

「 うみ〜ばいばい♪  まこちゃ〜ん・・・・! ばいばい・・・ 」

「 ば〜いば〜〜い・・・!! 」

 

   ざざざ ーーーーー ・・・・・ ざ −−−−   !

 

 

そろそろ夕風になるのか、穏やかな海面も少しだけ波が高くなってきた。

町内会一同は ぎっしりと重い、本日の収穫の袋やら網をさげ、浜辺を引き上げていった。

今晩の食卓は きっと海の幸がいろいろな形で登場するのだろう。

 

大潮の浜は今はもうすっかり海中に隠れ、 夕方の風と一緒にゆらゆら波が押し寄せてきていた。

 

 

 

 

親子4人、ぐちょぐちょで坂道を登って岬の我が家に戻ってゆけば・・・・

 

「 ほいほい・・・ ま〜〜 お父はんもお母はんも・・・み〜んなぐっちょりやんか!

 ヨロシ、 海の幸の晩御飯はワテが引きうけますよって。 嬢やと坊はオジイチャンとお風呂や。 」

一足先に帰っていた張大人が にこにこ顔で迎えてくれた。

「 大人 ・・・ すまないなあ。 ほら、こんなに獲れたんだよ。 」

ジョーはまだ海水が滴っている<本日の収穫>を 持ち上げたみせた。

「 ほうほうほう〜 仰山おますなあ!  今晩は御馳走でっせ〜〜 」

「 ・・・ 張おじさん ・・・ あの、ね。 まこちゃん、ね・・・ 」

「 ん? 嬢や、どないしたん。 あの赤くて綺麗なオトモダチはどこアルか。 

「 うん ・・・ あのね。 まこちゃん ・・・ おうちにかえしたの。 」

「 かえした?  エライ!! ま〜〜なんてエライ子ォやんか、嬢やは〜〜 」

「 ・・・ おじさん ・・・ 」

張大人はくちゃ・・・とすぴかの頭を撫でると 彼女の前に屈みこんだ。

「 嬢や、ほんまにええ子やな。 さ・・・ お風呂でもっと別嬪さんになって来るアルね。 」

「 うん。 うん ・・・ 張おじさん・・・ 」

 

「 さあ、チビさん達? ワシと一緒にお風呂に入ろうなあ。 それで、 しおひがり の話を

 た〜くさん聞かせておくれ。 」

「「 うん! わ〜〜い♪ おじいちゃまとおふろ〜〜 」」

コドモ達は びちょびちょのまま、博士の手にぶら下がっている。

「 博士・・・ すみません。 お風呂、沸かしておいて下さったのですね。

 ああ、あなた達〜〜 だめよ、おじいちゃまが濡れてしまうでしょ。 」

「 な〜に 構わんよ。 ・・・ いろいろ用意があるのだろ? 今晩の・・・ 」

博士は ちら・・・っとジョーの方を見てからフランソワーズに笑いかけた。

「 はい。 ・・・ それじゃ・・・ コドモたちのこと、お願いしますわ。 」

「 おお、おお。 喜んで。  さあ〜〜 チビさん達。 お風呂で海の話を報告しておくれ。

 クジラがいたかなあ ? 」

「 あのね、あのね〜〜 かいじゅう がいたの! 」

「 かいじゅう〜〜 あかいかいじゅうだったんだ〜〜 」

コドモたちは口々に <ほうこく> をしつつ博士をバス・ルームに引っ張って行った。

 

「 あらら・・・もう 大騒ぎね。  ジョー? あなた、とりあえずシャワーだけでも浴びる? 」

「 うん・・・そうだな。 じゃあ、ちょっと。 あ・・・ きみは? 」

「 わたしは手脚を洗えば平気よ。 すばるをオンブしたけど・・・ 」

「 ・・・ ぱんつ は濡れてないって? ぼくが調べてやろうか? きみのお気に入りの水色〜は・・・ 」

ジョーはす〜っと目の前にある恰好のいいヒップを撫で上げた。

「 ジョーォ!! 

「 ははは・・・ お〜〜コワ。 退散 退散〜〜 」

ジョーは笑い声をあげ 二階に駆け上がっていった。

夫婦の寝室の奥には シャワーと洗面台が備わった小部屋があるのだ。

「 ・・・ もう・・・!  さ・・・わたしはともかく着替えて・・・ 

 ケーキよ、ケーキ! 本日のメインを仕上げなくちゃ、ね。 」

フランソワーズも、着替えを取りに寝室に向かった。

 

 

 

「 ・・・ 大人? こっちの調理台、使ってもいいかしら? 」

「 かましまへんで。 ワテの方は粗方、終わりましたさかい。 あとは・・・蒸しものの仕上げでんねん。 」

「 まあ、そうなの? すごい〜〜  今晩の御馳走が楽しみだわ。 」

「 ほっほ。 なんせ獲れ獲れの海の幸でっせ、ほっぺたがおっこちますがな。 

 お・・・ フランソワーズはんは ケーキでっか。 」

「 そうなの。 台はもう昨日のうちに焼いておいたから・・・ あとは飾りつけ。  

 生クリームも買ってあるし。 苺もね・・・  あら? なあに、すぴか。 」

「 ・・・ おや。 嬢や、もうお風呂、あがったんか。 」

二人は キッチンの入り口で モジモジしているすぴかを手招きした。

 

「 ・・・ おかあさん  張おじさん ・・・ 」

「 なあに。 あら〜 綺麗に髪を洗って頂いて・・・ おじいちゃまはお上手ねえ。 」

フランソワーズはまだしっとりしている娘の髪に そっと手を当てた。

「 ウン。  あの・・・さ。 きょう ・・・ おとうさんのおたんじょうび、だよね。 」

「 そうよ。 だから ほら。 これからケーキの飾りつけをするのよ。 」

フランソワーズは調理台の上の スポンジ・ケーキの台を娘に見せた。

「 おかあさん ・・・ アタシ。 アタシとすばる ・・・ ぷれぜんと、わすれちゃった・・・ 」

「 ぷれぜんと・・・?  ああ、お父さんのお誕生日の? 」

「 ウン。  ・・・ おえかき・かーど も おりがみ も。 わすれちゃった・・・ 

 ・・・ どうしよう〜〜 おとうさん、きっとがっかりする・・・よね・・・ 」

折角ぴかぴかになっているすぴかのお顔が きゅ・・・っと歪んでしまっている。

「 あらあら・・・ それじゃね。 お母さんのお手伝いをして頂戴。 」

「 いいよ。 でも ・・・ ぷれぜんと ・・・ 」

「 あの、ね。 お母さん、今、お父さんのバースデー・ケーキ、作っているの。

 すぴかとすばるは 飾りつけ、をやってくれるかしら。 」

「 え・・・ ほんとう〜〜 ?! 」

「 ええ、 お願い。 あ・・・それじゃ・・・ お庭の畑に行ってね、苺を摘んできてちょうだい。

 いっちば〜〜ん美味しそうな・・・ 甘くてお父さんが うわ〜〜 って喜ぶ苺を選んできて? 

 すばると一緒に・・・ ね? 」

「 うん!!! アタシ、いっちばんおいしいいちご、 とってくるね! す〜ばる〜〜〜 」

「 あ・・・! ほら、すぴか! この・・・ボウルに入れてきてちょうだい? 」

「 は〜〜い!  すばる〜〜、いちご、とりにゆくよ〜〜 」

「 ・・・ なに〜〜 すぴか〜〜 」

 

タッタッタッ ・・・・・

 

相変わらずのんびりした足音が近づいてきてが、せっかちな姉娘はもう裏庭に飛び出していった。

 

「 ・・・ あらあら・・・ 苺、潰さなければいいのだけれど・・・ 」

「 ほっほっ〜 フランソワーズはん。 安生、待っておいでな。 ちっさい子ォ達の指は

 やわらかいモノを摘むのにはええかもしれんで。 お母はんはケーキの用意、しときなはれや。 」

「 そうね、ありがとう、大人。 さ〜て、それでは・・・ 生クリームを泡立てましょうか。

 お砂糖、たっぷり入れなくっちゃ♪ 」

「 ほっほっ〜 ジョーはんはも〜〜えろう甘党やさかいなあ。 

 あま〜〜いあんさんらぁには あま〜〜〜いケーキがぴったしやで。 」

「 まあ・・・ 大人ったら・・・・ 」

キッチンには良い匂いと笑い声があふれ・・・ やがて家中が ふうんわり〜〜甘い空気でいっぱいになった。

 

  ― 5月 16日   

  かつては。  そう・・・ この素晴しい女性とめぐり逢うまでは 最低な日だった。

  しかし

  その日は、今、 ジョーにとって 感謝の日 となっていた。

 

 

 

 

「 ・・・ あら。 すぴか。 ・・・まだ起きていたの? 」

「 ・・・ おかあさん ・・・  」

子供部屋を覗きにきて、 フランソワーズは目を見張った。

窓辺に 小さな影がへばりついて外を眺めていたのだ。

 

張大人の心尽くしの 海の幸・大人風晩御飯 を 皆で満喫し。

真っ赤な苺 てんこ盛り〜〜 なバースデー・ケーキに大満足して。

<おとうさんのおたんじょうび> は 賑やかに終った。

元気いっぱいのコドモ達は いつもより早くにオネムの時間となったらしく、

早々に おやすみなさい をした ・・・・ のだったのだけれど。

 

「 どうしたの。 こわい夢、みたの。 」

「 ・・・ ううん ・・・ 

フランソワーズは子供部屋を横切ると 窓に張り付いていた娘を抱き上げた。

「 なあに? すぴかは何を見ていたのかな。 お母さんにも教えて? 」

「 ・・・ まこちゃん ・・・ さ。 おうち、かえれたよね・・・? 」

「 え ・・・( う・・・ あの映像が焼き付いて〜〜 )   そ、そうね・・・ 」

「 まこちゃんのおとうさんとおかあさん、 おかえり〜〜ってまこちゃん、だっこしてるよね。 」

「 ええ、ええ。 そうよ、よかった、よかった〜〜って。皆で喜んでいるわ。 」

「 ・・・ そ だよね ・・・ 」

くすん ・・・ ちっちゃくお鼻を鳴らすと すぴかはお母さんの胸にきゅ〜っとお顔を押し付けた。 

「 ねえ、すぴか。 偉かったわね。 ・・・まこちゃんも喜んでるわよ。 すぴかちゃん、ありがとう〜って。 」

「 ・・・ また あそびにくるかな。 」

「 う・・・ ( 来なくていいわ〜〜! ) そ、そうねえ・・・ でもオウチ、遠いのよ、きっと。 」

「 そっか・・・ 」

「 でもね、 きっと・・・すぴかちゃん、ず〜っとオトモダチよ、って言ってるわ。 」

「 ・・・ そ だね・・・ 」

「 すぴか。 お母さんの大事な大事なすぴか。 だ〜い好きよ・・・ 」

「 ・・・ ん ・・・ アタシ ・・・も ・・・ 」

すぴかはごにょごにょ・・・ 言ってそのまま、お母さんの胸で眠ってしまった。

 

    ふふふ ・・・ しっかりモノのお姉ちゃん、だけど。

    まだまだ 可愛い赤ちゃん、なのよねえ・・・ ふふふ・・・・

 

フランソワーズはピンクのほっぺにキスをすると、そうっと娘をベッドに寝かせた。

 

「 ・・・ きみは。  きみってヒトは。  本当に ・・・  」

ふいに子供部屋の戸口で 低い声がした。

「 ・・・ ?  ジョー・・・ ああ、びっくりした・・・ 」

「 子供部屋に行ったきり、なかなか帰ってこないから・・・ どうかしたのかな、と思ってさ。

 ぼくのお姫様は もうネンネしたかい。 」

「 あらら・・・心配しちゃった? 大丈夫、ジョーの <宝モノ>達はぐっすり、よ。 」

「 ・・・ よかった。 なんかさ。 コイツらがちょっと羨ましいや。 」

「 なあに、息子や娘にヤキモチやいて。 ジョーったら・・・ 」

「 だってさ。 こんな素敵な女性 ( ひと ) は世界に一人しかいないもんな。 

 ああ・・・ きみって。  最高の母親だよ・・・! 」

ジョーは ぎゅ・・・・っと最愛のヒトのしなやかな肢体を抱きしめた。

「 あら。 最高のこいびと って言って・・・ 」

「 ・・・ ふふふ ・・・ それはベッドで囁くことにするよ・・・ んん♪  ぼく、今がんがんに満ち潮なんだ! 」

軽々と彼女を抱き上げ、 ジョーはその唇にキスをする。

「 んん・・・ 大潮の時だって・・・愛しているわ・・・! 」

するり、と白い腕がジョーの首に絡まった。

 

    恋人たちの夜、  ふたりの愛の波が音をたてて押し寄せてくるのだった・・・・

 

 

 

 

****************************      Fin.     ******************************

 

Last updated : 05,19,2009.                            back             /            index

 

 

 

***********     ひと言    ************

やっと終わりました〜〜 はぁ・・・・ もう、とんだお誕生日だったね、ジョー君?

え〜と。 バレバレですが。 ジョーが少年を助けるシーンは 原作 <べトナム編> の

あの場面のパクリでございます〜〜 どうぞ寛大なお目こぼしを・・・ <(_ _)>

しかし! 水中で加速装置・・・って稼働しますかね??? これは ・・・ 謎です!!

その辺りはてきと〜にスルーしてくださいませ、なにせメカ音痴の書き手ですので・・・

あと。  な  ま  こ ・・・・! (-_-;)

企画相棒様の 「 波打ち際になまこが転がってたのよね・・・ 」 の一言から

生まれたエピソードなのですが。  検索して写真みて・・・  悶絶!

フランお母さんの叫び、はワタクシの叫び、でございます★★★

のほほ〜〜ん・・・島村さんち のお誕生日話〜〜 相棒様とも〜〜何回も何回も長電話〜〜

で練り練りいたしました。 楽しんで頂けましたら幸いでございます。

ひと言なりとでもご感想を頂戴できましたら・・・・ 狂喜乱舞〜〜♪♪   <(_ _)>