『 いらかの波と ― (2) ― 』
わっせ わっせ わっせ・・・・
ジョーは 文字通り 大荷物を抱えて海岸通り商店街のメイン・ストリートに出てきた。
「 お客さ〜〜〜ん 持てますぅ?? それもあとで一緒に届けるよ? 」
店の親父さんは心配してくれたが・・・
「 あ 大丈夫です〜〜〜 あの ミカンと梅の木、届けてくだされば〜〜
あ ! あと肥料も ・・・ すいません〜〜 」
「 いや すまないのはこっちだよ その苗・・・ 持てるかい? 」
ジョーは両手のビニール袋の中に 花の苗を苺の苗をぎっちり・・・詰め込んでいるのだ。
「 はい! えへ・・・ 早く帰ってウチの庭に植えたいんです 」
「 ふ〜〜〜ん 若いのに、兄ちゃん、なかなかシブい趣味なんだね〜〜
ま ウチの苗は皆丈夫だからね〜〜 苺は路地植えかい 」
「 あ・・・ 一応 ちっこい温室があるので そこで 」
「 あ〜 そりゃ安心だ。 潮風には当てないほうがいいよ 」
「 はい。 あ これからもいろいろ・・・相談に来ていいですか? 」
「 もっちろんだよ。 あの梅はなあ いい色の花が咲くよ。 大事に育ててくれや 」
「 はい! ・・・ えへへ フランと一緒に〜〜〜♪ 」
「 あ カノジョと一緒かい そりゃいいや・・・ そんなら ほい これはオマケ♪
カノジョにプレゼントしたげな〜 」
植木屋の親父は細い苗木をぽん、とジョーの荷物に追加した。
「 え・・・ いいですか〜 これは? 」
「 柿の木さ。 桃栗三年 柿八年って言ってね〜 ま、あんたらの子供が登って実をもぐよ〜〜 」
「 え! ・・・ あ あは ・・・ そ そうなれば いいなあ〜 」
「 がんばんな、兄ちゃん! いつでもまたおいで 」
「 はい ありがとうございます〜〜 」
― ってことで ジョーは荷物と一緒に国道沿いに歩き始めた。
「 うっひゃ・・・ う〜〜 歩きにくい ・・・ 」
重量的にはサイボーグにとっては へ でもないのだが ともかく嵩張る。
それに・・・
「 う〜〜ん ・・・ 乱暴に持ったら つぼみが潰れちゃうし・・
いっけね〜〜 これじゃ苺がひっくり返っちゃうよぉ ・・・
うおっとぉ〜〜〜 あ 土がこぼれちゃう〜〜〜 いっけね〜〜 」
よろよろ よれよれ・・・ ジョーの足取りは蛇行してゆく。
「 よいしょ よいしょ。 あとはこの坂をがんばればっと ・・・ 」
フランソワーズは 野菜と干物と 鯉のぼり〜 を担いでここまでやってきた。
「 ふふふ〜〜〜 いい買い物、できちゃった♪
今晩は 鯵の干物 に 大根おろし。 トマトとぶろっこり、で サラダね。
そうそうマヨネーズ、作って美味しくいただきましょ。
あとは ・・・ そうだわ < まぜごはんのもと > を買ったから・・・
炊飯器で美味しく仕上げましょ♪ きゃ〜〜〜 たのしみ〜〜〜 」
こちらは嵩張る荷物もへっちゃら・・・ ハナウタ混じりである。
「 ふんふんふ〜〜〜ん♪ ・・・ あ ら? 」
ちょいと道の反対側を眺めれば ― よれよれ歩いてくる < 荷物 > がある。
「 なあに アレ・・・ え??? ジョー?? 」
荷物の間から見慣れた茶髪がゆらゆら〜〜している。
「 え・・・ なにを持ってるのかしら。 あら 木???
え〜〜 どうしてよろよろ・・・しているの?? 」
彼女自身も沢山の荷物を抱えつつ 駆けだした。
「 ジョー〜〜〜〜 !! 大丈夫? 」
「 ふえ ・・・ え? あ〜〜〜 フラン〜〜〜 おっとぉ〜〜 」
思わず荷物から手を離しそうになり 慌てて抱えなおした。
「 うわっち ! いっけね〜〜〜 あ いちご! だ 大丈夫か?? 」
彼はそのまま道端に座りこんだ。
「 ジョー!! ど どうしたの??? 」
「 ・・・ あ フラン〜〜 きみも買い物、たくさんだね 」
「 え? ええ ・・・ ねえ どうしたの? いきなり座り込んじゃうんだもの 」
「 あ ・・・ あは ・・・ あの さ。 これ・・
潰しそうになっちゃったんで さ 」
ジョーは 抱えていた袋をそ〜〜っと開いてみた。
「 ・・・ あ 無事だあ〜〜 思わずぎゅっともっちゃったからさ 」
「 なあに? 見てもいい 」
「 あ うん いいよ。 ・・・ えへ きみ 好きかな〜〜
」
「 あら? ・・・ これ なにかの ・・・ 苗? 」
「 ウン。 こっちの袋は花なんだけど これは ・・・ あ よ〜く見て 」
「 ? 白い可愛い花ね ・・・ あ!! ちっちゃい実、み〜つけた♪
これ い ち ご ね??? 」
「 ぴんぽ〜〜〜ん。 テラスでも栽培できるんだって。
でもさ せっかく裏庭に温室あるから・・・あそこに植えようかな〜〜って 」
「 きゃ♪ いいわあ〜〜 わたしね、お庭のあるお家って憧れだったの〜〜
ね ジェロニモの温室に植えさせてもらいましょ 」
「 ウン。 こっちの花は ・・・ 花壇にうえようっかな ・・・って。
あの〜〜〜 ・・・ きみ 庭いじりとか す 好き? 」
「 大好きよ〜〜〜 すてき♪ ジョーのお買いもの、素敵すぎ〜〜 」
「 えへへ・・・ ありがと。 あ きみの荷物、持つよ 」
「 あら 大丈夫よ。 こっちはね食糧。 今日の晩御飯は・・・うふふふ〜〜
お楽しみに。 」
「 わ なんだろう?? これ オマケ? 」
ジョーは 袋から飛び出していた ミニチュア鯉のぼり を指した。
「 え??? オマケじゃないわよ〜〜 これ、飾るの。
ジョー はつぜっく でしょう? 」
「 ・・・え?? 」
「 教わったの。 五月五日は たんごのせっく で 男の子の日で・・・
え〜〜と 初めてお祝いするおせっく は はつぜっく っていうのでしょ? 」
「 あ ・・・ は〜〜 確かにそうだけど ・・・ 」
「 ね♪ ジョーもここに来て 初めてのおせっくですものね〜〜
だから こいのぼり 飾ってお祝いよ 」
「 あ そ そうだね〜〜 あは 可愛いじゃん、これ 」
「 でしょ。 でもね〜〜〜 ホンバンの日にはもっとサプライズがある予定よ 」
「 ほ ほんばん?? 」
「 そ。 五月五日よ。 わたし、頑張るから。
さ ウチに帰りましょ。 晩ご飯ね〜〜 あ ちょっと手伝ってね?
ウチに ひちりん ってある? 」
「 ひ ひちりん? ・・・ それって 七輪 じゃないかな 」
「 そう? その 〜〜りん、 あるかしら。 」
「 さあ〜〜〜 そういうのってもうないと思うよ、今の二ホンには・・・
二ホン昔話 とかで見たけど ・・・ 」
「 ふ〜〜ん それじゃレンジでいいわ。 手伝ってね〜〜 」
「 う うん ・・・ それにこの苗・・ 早く植えてあげないと 」
「 あ そうね。 お水がご馳走ですもんね 」
「 うん。 あのぅ・・・ い 一緒に 植えないかな・・・ 」
「 なにと? 」
「 へ? 」
「 苺の苗と一緒になにを植えるの? 」
「 あ ・・ そのう 〜〜 」
「 ふ〜〜ん あ ! こっちは ミニ・トマト ね! これを一緒に植えるわけね?
わ〜〜〜 ジェロニモの温室、すっごく素敵な野菜室 になるわね 」
「 あ そ そうだね 」
「 うふふ〜〜 収穫が楽しみ♪ ね お茶にね ケーク・サレ 焼くからね。 」
「 ケークサレ? けーきかあ〜〜 ウチでけーきが作れるってすごいよねえ〜〜
きみのけーき、皆美味しいし。 ぼく 大好き〜〜〜 け〜くされ、食べたい♪ 」
「 まあ そう? よかった♪ わたしのお得意なの〜〜〜
楽しみにしててね〜〜〜 」
「 うん! あ きみは・・・? 」
「 うふふ〜〜 わたし、これからちょっと秘密の作業があるの うふふ 」
「 ひみつ?? なになに〜〜〜 」
「 な〜いしょ♪ 待っててね、 こっちも楽しみにしててね〜〜 じゃ お茶の時間にね 」
「 う うん ・・・ 一緒に植えたかったのになあ ・・・ 」
ジョーはちょっとしょんぼり・・・ 彼女の後ろから坂を上ってゆく。
ごそ ごそ ごそ ・・・・
ロフトの奥まで潜りこみ フランソワーズが ― ?
「 こっちかなあ〜〜〜 えっと?? あっ あった!
えいっ〜〜〜 でてこ〜〜い えいっ ! 」
ドンっ !! ガラガラ〜〜〜 がっしゃん・・・・!
「 うわあ〜〜〜 きゃ ・・・! 」
ロフトのドアを跳ねとばし 金髪美女が転げ出てきた。
「 ・・・ いった〜〜〜〜 ・・・・ ああ でもこれだけあれば ! 」
床に座り込んでもしっかり手に握っているのは なにやら白っぽい布だ。
ばふっ ・・・・ 両手で広げればかなりの大きさ。
「 ドルフィン号の部品を包んであったんですって ・・・・
丈夫そうな布ね〜〜 これを切って縫って・・ うふふふ♪
おっきなお魚を描くわ ♪ ま〜ずは型紙をつくらないとね 」
手元のミニチュアをじっくりと観察した。
だだだだ だだだだだ ・・・・ だだだだ・・・
リビングの隅にちんまり置いてあった足踏みミシンが 軽快な音を立てている。
「 ん〜〜〜〜〜〜 ・・・ まっすぐに縫うんだから簡単だけど・・・
この前のカーテンよりも大きいかな〜〜〜 」
だだだ だだだだだ ― ひたすら白い布を縫ってゆく。
― ガチャ。 ドアが開いてジョーが遠慮がちに顔を覗かせた。
「 あ あのう〜〜〜 ? 」
「 ん〜〜〜 ? あら ジョー なあに。 」
「 うん あの・・・ お茶 ・・・ 」
「 ! あ そうだったわね〜〜 きゃ〜〜 ケーク・サレ〜〜〜〜 」
フランソワーズはミシンの前から跳びあがった。
「 けーき♪ あの・・・ ぼくが作ろうか? 教えてくれれば・・・ 」
「 ううん 材料はね、もう用意してあるの。 あとは じゅわ〜〜〜っと
焼くだけなの。 オーブンに入れればいいのよ、 今 作るわね 」
「 手伝うよ〜〜 どうやって焼くのか見たいんだ 」
「 あら 普通にオーブンで焼くだけだけど ・・・ じゃ 手伝ってね。 」
「 うん ♪ 」
ジョーはもうにこにこして一緒にキッチンに入った。
「 おいしい! これ オイシイねえ〜〜 」
焼き上がった一見、パウンド・ケーキみたいな ピースをジョーは嬉々として頬張った。
「 あら そう? 気に入ってくれた? 」
「 うん♪ ボリュームあるし〜〜 ソーセージやハムの切れっぱしに
タマネギとかピーマンとか〜〜 ん〜〜〜 オカズいりお焼きだね
ね〜〜〜 博士、オイシイですよねえ
」
「 うむ うむ ・・・ ホット・ケーキで甘くないというのもいいのう〜〜
しっかり食事になるな
」
「 ね〜〜 オカズパンだあ〜〜 あ〜〜 うま〜〜 」
「 ・・・ あのね。 ケーク・サレ っていうの。 」
「 やっぱ け〜き なんだ? へえ〜〜 きみの国じゃ甘くないオカズけーき
が あるんだね〜〜〜 ん〜〜〜〜〜 焼きそばパン よか美味い♪ 」
「 ・・・ オカズけーき じゃないんだけど ・・・ 」
「 ん〜〜〜 おいし♪ ぼく これ 大好き! ねえねえ また 作ってね 」
ジョーは大きく切り分けたピースを三個、ぺろりと平らげた。
「 いいわ。 あのね。 ケーク・サレ っていうの。 覚えて。 」
「 あ うん。 〜〜〜〜 はあ〜〜〜 美味しかったあ〜〜
あ そうだ 苺とプチ・トマトね、ちゃんと植えたよ〜〜 あとで さ・・・
見に行こうよ・・・い 一緒に ・・・ 」
「 まあ そうなの? ありがと〜〜〜 うふふ〜〜 収穫が楽しみね 」
「 うん 苺はわりとはやく食べれるかもな〜〜 」
「 ジェロニモの温室、素敵よね〜〜 ウチのサラダはいつでも超〜フレッシュになるわ ね。
さあ わたし これからちょっと作業したいのね 」
「 あ お茶の後片づけ ぼくがするから。 ― なにか作っているのかい 」
「 ええ ちょっとね ミシンで 」
「 ふうん ・・・? 」
ジョーはリビングの隅のミシンの方を眺めた。
すこし生成りっぽい色の布が それも大きな布が広げられている。
「 カーテン? 」
「 ううん、 ちがうの。 あの布ね〜 ドルフィン号の 掃除用の布、ロフトに余っているから・・・って
博士に頂いたの。 」
「 あ〜〜 なにか縫うのかい? 掃除にでも使うのかと思ったぞ 」
「 ええ ちょっと閃いたんです。 使わない布 もったいないし 」
「 へえ・・・ ドルフィンのねえ・・・ なに作るの? 」
「 うふふ〜〜〜 ナイショ♪ もうすぐできるから・・・楽しみにしてて 」
「 え? 」
「 これ ね。 ジョーのものなの。 だから仕上がり 待ってて〜〜 」
「 ぼ ぼくの?? カーテンじゃないし・・・ 服とも 違うよね? 」
「 ぶ〜〜〜♪ うふふ・・・ あ そうだ!
あとでお願いが一つあるのよ。 楽しみにしててね 」
「 う うん?? ぼく 片づけしたら苺の水やりと・・・・ あと
庭で木 植えてるね。 柿と梅 買ってきたんだ 」
「 まあ ウメ? あのいい匂いの花の木でしょう?? すてき! 」
「 えへ・・・ きみ、あのにおい、好きって言ってたから・・・ 紅い花の、買ってきたんだ・・・
ちっこい木だけど ・・・ 次の春には花が咲くよ 」
「 いいわ いいわ〜〜 大きくなるの、楽しみよ〜〜
かきって・・・ オイスター・・・? オイスターが獲れる木なの? 」
「 あは そっちの 牡蠣 じゃなくて。フルーツさ。 秋に生るんだ 美味しいよ 」
「 ほう〜〜 柿か。 いいのう〜〜 楽しみじゃな 」
「 ええ でもまだ今年は無理かな ・・・ 」
「 柿は接ぎ木をせんと すぐには実をつけんそうじゃよ。 コズミ君から聞いたよ」
「 そうなんですか ・・・ あ いそいで仕上げてなくちゃ ジョー 後片付け
お願いします〜〜 」
ぺこん、とお辞儀して フランソワーズはミシンの前に座った。
ふんふ〜〜ん・・・ 残りのケーク・サレ を全部お腹に収めると
ジョーも上機嫌で洗いモノを始めた。
だだだだ・・・・ だだだだ・・・・
「 ・・・っと。 これでいっかな〜〜〜 あとは 絵を描かなくちゃ。
え〜〜と・・・お魚、よね。 なにがいいかなあ〜〜 強そうなシャーク?
それとも 大きなクジラ や イルカもいいわね〜 う〜〜ん ・・?
あ! 鯵!! 鯵を描きましょ ! 鯵 がいいわ。
あのおいしい〜〜〜 鯵! ジョーが元気なオトコの子になりますようにってね
たんごのせっく に お庭に飾るの。 うふふ〜〜〜 ステキ 」
ばっさ!
フランソワーズは縫いあげた細長い、でも巨大な袋状のものを広げた。
「 ちょっと大きすぎたかなあ・・・ ま いいわ。
どうぞジョーが ずっと元気でいますように。 絵の具も買ってきたのよね〜〜
水に強いっていうのを選んだわ。 」
リビングの床に新聞紙を敷くと フランソワーズは縫いあげた袋を置いた。
「 鯵・・・って あの干物みたいな顔で泳いでいるのかしら ・・・
あ あの干物屋さんのらっぴんぐ・ぺーぱーに 鯵の絵があったわ! 」
キッチンから もってきた紙にはちゃ〜〜んと鯵が描いてある。
「 よぉ〜〜し ・・・ 」
絵の具とマジックを並べ、彼女は豪快に描きはじめた。
ガタン。 キッチンの裏口が開いた。
「 ふう ・・・ 木 植えたよ〜〜 苺にも水 やってきた〜 」
ジョーがぱたぱたジーンズを叩きつつ上がってきた。
「 フラン? 」
「 あ こっちよ〜〜 リビング。 」
「 あの ・・・ 入っていい 」
「 い〜わよ〜〜 今 完成したとこ。 見て見てぇ〜〜 」
「 え なに なに〜〜〜 」
ぱたぱたぱた ・・・・
「 きみの作品って ― う わあ〜〜〜 でっか〜〜〜 」
「 うふふ ・・・ あのね これ。 こいのぼり。
ジョーの はつぜっく用の こいのぼり よ 」
「 わ ぁ〜〜〜 ぼくだけの鯉のぼり! ぼくのための 鯉のぼり!! 」
「 ホントはお店で買いたかったんだけど・・・ 大きいのって今はねえ
もう売ってないんですって。 注文すればいいのだけど、高いみたい・・・
だから わたしが作ったの。 」
「 ・・・ う わ ・・・ 」
「 あ あの ・・・ 気にいらない ・・・? 」
「 さ 最高だ〜〜〜あ 〜〜〜〜〜 」
「 そ そう?? 」
ジョーの あまりの喜びように フランソワーズの方が驚いてしまった。
「 え ・・・ 今までも そのう・・・ ムカシももってたでしょう?
その・・・ こいのぼり。 二ホンのオトコノコは皆 もってるって・・・
商店街で おばあさんが教えてくれたわ 」
「 あ〜 うん ぼくが育った施設にもあったよ 鯉のぼり。
どっかの篤志家の寄付でさ。 どでか〜いのが教会の庭にひらひらしてた・・・ 」
「 あ それじゃ・・・ こんなの、いや ・・・? 」
「 ううん ううん ううん!!!
だって! たしかにすげ〜でっかくて なんか高そう〜〜 なモンだったけど。
でも それは < みんなの鯉のぼり > だもの。 」
「 − え ・・・ 」
「 施設に、って。 孤児たち皆に って もらったんだ。
ぼくのためだけ のじゃあないんだ 」
「 ・・・ そ そう ・・・ あ これはね!
わたしが ジョーのために。 ジョーが丈夫に育ってりっぱなオトコノコに
なるよに〜〜 って 作ったのよ 」
「 ありがと〜〜〜〜 うわあ〜〜〜〜 嬉しいなあ ・・・
あ ・・・ この魚 ・・・ もしかして 鯵? 」
「 ぴんぽ〜〜〜ん♪ あのね ものすご〜〜〜くオイシイ鯵の干物 を
買ってきたの。 だから の美味しい鯵みたくにジョーがなりますよに〜って。 」
「 あは ・・・ うん 鯵の鯉のぼりを持ってるヤツなんて ぼく一人だよ!
わ〜〜〜〜 いいなあ〜〜 あ そうだ!
これ ・・・ 庭にポールを立てて泳がそう! 早速穴、掘ろう 」
「 ・・・ 気にってくれた? 」
「 もっちろん♪ ・・・ あ あのね。 はつぜっく ってさ。
生まれて初めてのお節句 って意味なんだ。 」
「 え!?!? そ そうなの? 」
「 ウン。 でも さ。ぼくにとっては やっぱり初節句かも。
だってここに住んで ・・・ 新しい人生だもの。 」
「 ごめんなさい ・・・ そんな意味だったのね 」
「 なんで ごめんなさい なんだい? ぼく ほっんとう〜〜にうれしいんだあ〜
あ・・・ 名前 書いてもいいかなア
」
「 ええ ええ どうぞ。 ここに絵の具、あるから 」
「 よぉ〜〜し ・・・ 」
ジョーは 筆にたっぷり絵具を含ませると、美味しそう〜〜〜な・巨大鯵の
腹の下に しまむら ジョー と くっきり書きこんだ。
「 あら いいわねえ〜〜〜 」
「 ほう? これは立派なモノを作ったなあ 」
博士も顔を覗かせた。
「 あら 博士 ・・・ うふ これ・・・ 鯉のぼり のつもりなんですけど 」
「 博士。 ぼくの ぼくだけの鯉のぼりです ! 」
「 うん うん いいもんだ。 五月の空に悠々〜と泳がせておやり 」
「 はい! ふふふ〜〜 い〜ら〜か〜のな〜み〜と〜〜〜♪ 」
「 なあに その歌 」
「 鯉のぼりの歌 さ。 ムカシはね〜〜 鯉のぼりは この家には
元気な男子がいるよって印だったんだって。 」
「 そうなの〜〜 あ じゃあ 今度 イワンの分も作ってあげようかしら。
今度 帰ってきたとき、喜んでくれるかも 」
「 あ いいねえ〜〜 そうだなあ 今度は赤い魚、 描いてよ 」
「 赤いの? いいわ・・・ 巨大金魚にしよっかな〜〜
」
「 いいかも いいかも〜〜〜 」
「 ね? さっきの こいのぼりの歌 教えて? 歌いなが絵を描くわ。 」
「 いいよ〜 い〜ら〜か〜の ♪ 」
二人は けたけた笑いつつ 巨大金魚・鯉のぼり を作り始めた。
そんな彼らを 博士はにこにこ・・・ 眺めている。
「 ふふふ ・・・ おまえたちのチビさんのために ここに鯉のぼりが
泳ぐのは いつかのう 〜 」
「 え? なんですか 」
「 いやなに ワシの独り言さ。 ・・・ い〜ら〜か〜のな〜み〜♪ 」
博士も ふんふん・・・ こいのぼりのうた をハナウタ混じりの歌うのだった。
― 何年かの後 ・・・
梅は毎年こぼれんばかりにいい香の花をつけ 裏庭の柿もぽつぽつ実をつけ始めている。
〜〜 い〜ら〜〜か〜〜の な〜〜〜み〜〜〜とぉ〜〜〜
元気な歌声が聞こえてきた。
「 わっせ・・っと。 さあ〜〜 これでいいかな〜〜
すぴか すばる〜〜 鯉のぼり、 上げるぞぉ〜〜
」
ジョーは 立て終わったポールの根本をしっかりと踏み固めた。
彼の脚の周りには 色違いの髪をしたチビちゃんが二人、纏わりついている。
「 わ〜〜〜 こいのろび〜〜 こいのろび〜〜 」
「 のろび〜〜 おと〜さん〜〜 」
「 そうだよ。 一番上のひらひらしたのは 吹き流し。 その次のが 」
「 アタシ、しってる! おっきな・まごい♪ 」
「 そうだね〜 すぴか。 その下の赤いのが 」
「 ひごい〜〜〜♪ 」
「 当たり。 すばる、 ほら すばるの鯉のぼりだよ。 」
「 わ〜〜〜〜 」
「 ・・・ アタシのは 」
「 あ ごめん、 すぴか と すばる の鯉のぼりだね。 」
「 ウン。 あ ・・・ もういっこ、いる〜 」
金髪お下げのチビちゃんは 熱心に見上げている。
緋鯉の次には でっかい鯵 が泳いでいるのだ。
「 うん? あ〜 あれは お父さんのさ。 」
「 お父さんの? アタシ、ほしい! 」
「 だ〜め。 これは お父さんの! 」
「 アタシ ほしい〜〜〜 」
「 だ〜め。 あれはお父さんの宝モノなのだ。 」
「 え〜〜〜〜 」
「 すぴか〜〜 すばる〜〜 ジョー〜〜 柏餅、頂きましょう〜〜 」
テラスからお母さんの声が聞こえてきた。
「 わ〜〜〜 かしわもち〜〜 」
「 もち〜〜 」
「 オヤツだね〜〜 さあ 手を洗ってこようね 」
「「 うん♪ 」」
やねよ〜〜り〜〜〜♪ 岬の家に賑やかな歌声が響くのだった。
**************************** Fin.
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Last updated : 05,02,2017.
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***************** ひと言 ***************
なんてことない・季節話 ・・・
あの崖っぷちの家だったら でっかい鯉のぼりも大丈夫ですよね