『 いらかの波と ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

 わっせ わっせ わっせ・・・・

 

ジョーは 文字通り 大荷物を抱えて海岸通り商店街のメイン・ストリートに出てきた。

「 お客さ〜〜〜ん 持てますぅ??  それもあとで一緒に届けるよ? 」

店の親父さんは心配してくれたが・・・ 

「 あ 大丈夫です〜〜〜 あの ミカンと梅の木、届けてくだされば〜〜

 あ ! あと肥料も ・・・ すいません〜〜 」

「 いや すまないのはこっちだよ その苗・・・ 持てるかい? 」

ジョーは両手のビニール袋の中に 花の苗を苺の苗をぎっちり・・・詰め込んでいるのだ。

「 はい!  えへ・・・ 早く帰ってウチの庭に植えたいんです  」

「 ふ〜〜〜ん 若いのに、兄ちゃん、なかなかシブい趣味なんだね〜〜

 ま ウチの苗は皆丈夫だからね〜〜  苺は路地植えかい 

「 あ・・・ 一応 ちっこい温室があるので そこで 

「 あ〜 そりゃ安心だ。 潮風には当てないほうがいいよ 」

「 はい。  あ これからもいろいろ・・・相談に来ていいですか? 」

「 もっちろんだよ。 あの梅はなあ いい色の花が咲くよ。 大事に育ててくれや 」

「 はい!  ・・・ えへへ フランと一緒に〜〜〜♪ 

「 あ カノジョと一緒かい そりゃいいや・・・ そんなら ほい これはオマケ♪

 カノジョにプレゼントしたげな〜 」

植木屋の親父は細い苗木をぽん、とジョーの荷物に追加した。

「 え・・・ いいですか〜 これは? 」

「 柿の木さ。 桃栗三年 柿八年って言ってね〜 ま、あんたらの子供が登って実をもぐよ〜〜 

「 え! ・・・ あ あは ・・・ そ そうなれば  いいなあ〜 

「 がんばんな、兄ちゃん!  いつでもまたおいで 

「 はい ありがとうございます〜〜 」

 

 ― ってことで ジョーは荷物と一緒に国道沿いに歩き始めた。

「 うっひゃ・・・ う〜〜 歩きにくい ・・・ 

重量的にはサイボーグにとっては へ でもないのだが ともかく嵩張る。

それに・・・

「 う〜〜ん ・・・ 乱暴に持ったら つぼみが潰れちゃうし・・

 いっけね〜〜 これじゃ苺がひっくり返っちゃうよぉ ・・・ 

 うおっとぉ〜〜〜  あ 土がこぼれちゃう〜〜〜  いっけね〜〜 」

よろよろ  よれよれ・・・ ジョーの足取りは蛇行してゆく。

 

 

 

「 よいしょ よいしょ。  あとはこの坂をがんばればっと ・・・ 」

フランソワーズは 野菜と干物と 鯉のぼり〜 を担いでここまでやってきた。

「 ふふふ〜〜〜 いい買い物、できちゃった♪

 今晩は 鯵の干物 に 大根おろし。  トマトとぶろっこり、で サラダね。

 そうそうマヨネーズ、作って美味しくいただきましょ。

 あとは ・・・ そうだわ < まぜごはんのもと > を買ったから・・・

 炊飯器で美味しく仕上げましょ♪  きゃ〜〜〜 たのしみ〜〜〜 」

こちらは嵩張る荷物もへっちゃら・・・ ハナウタ混じりである。

 「 ふんふんふ〜〜〜ん♪   ・・・ あ ら?  」

ちょいと道の反対側を眺めれば ― よれよれ歩いてくる < 荷物 > がある。

「 なあに アレ・・・  え???  ジョー?? 」

荷物の間から見慣れた茶髪がゆらゆら〜〜している。

「 え・・・ なにを持ってるのかしら。   あら  木???  

 え〜〜 どうしてよろよろ・・・しているの??  」

彼女自身も沢山の荷物を抱えつつ 駆けだした。

 

「 ジョー〜〜〜〜 !!  大丈夫? 」

 

「 ふえ ・・・  え?  あ〜〜〜 フラン〜〜〜  おっとぉ〜〜 」

思わず荷物から手を離しそうになり 慌てて抱えなおした。

「 うわっち !  いっけね〜〜〜  あ いちご! だ 大丈夫か?? 」

彼はそのまま道端に座りこんだ。

「 ジョー!! ど どうしたの??? 」

「 ・・・ あ フラン〜〜  きみも買い物、たくさんだね 」

「 え? ええ ・・・ ねえ どうしたの? いきなり座り込んじゃうんだもの 」

「 あ ・・・ あは ・・・ あの さ。 これ・・

 潰しそうになっちゃったんで さ  」

ジョーは 抱えていた袋をそ〜〜っと開いてみた。

「 ・・・ あ 無事だあ〜〜  思わずぎゅっともっちゃったからさ 」

「 なあに?  見てもいい 」

「 あ うん いいよ。 ・・・ えへ きみ 好きかな〜〜  

「 あら?  ・・・ これ なにかの ・・・ 苗? 」 

「 ウン。 こっちの袋は花なんだけど これは ・・・ あ よ〜く見て 」

「 ? 白い可愛い花ね ・・・ あ!! ちっちゃい実、み〜つけた♪  

 これ  い ち ご ね??? 」

「 ぴんぽ〜〜〜ん。  テラスでも栽培できるんだって。

 でもさ せっかく裏庭に温室あるから・・・あそこに植えようかな〜〜って 

「 きゃ♪ いいわあ〜〜 わたしね、お庭のあるお家って憧れだったの〜〜

 ね  ジェロニモの温室に植えさせてもらいましょ 

「 ウン。 こっちの花は ・・・ 花壇にうえようっかな ・・・って。

 あの〜〜〜 ・・・ きみ 庭いじりとか す 好き? 」

「 大好きよ〜〜〜 すてき♪  ジョーのお買いもの、素敵すぎ〜〜 」

「 えへへ・・・ ありがと。 あ きみの荷物、持つよ 

「 あら 大丈夫よ。 こっちはね食糧。 今日の晩御飯は・・・うふふふ〜〜

 お楽しみに。 」

「 わ なんだろう??  これ オマケ? 」

ジョーは 袋から飛び出していた ミニチュア鯉のぼり を指した。

「 え???  オマケじゃないわよ〜〜  これ、飾るの。

 ジョー はつぜっく でしょう? 

「 ・・・え?? 」

「 教わったの。 五月五日は たんごのせっく で 男の子の日で・・・ 

 え〜〜と 初めてお祝いするおせっく は  はつぜっく  っていうのでしょ? 」

「 あ ・・・ は〜〜 確かにそうだけど ・・・ 」

「 ね♪ ジョーもここに来て 初めてのおせっくですものね〜〜

 だから こいのぼり 飾ってお祝いよ 」

「 あ そ そうだね〜〜 あは 可愛いじゃん、これ 」

「 でしょ。 でもね〜〜〜 ホンバンの日にはもっとサプライズがある予定よ 」

「 ほ ほんばん?? 

「 そ。 五月五日よ。 わたし、頑張るから。 

 さ ウチに帰りましょ。  晩ご飯ね〜〜 あ ちょっと手伝ってね?

 ウチに ひちりん ってある? 

「 ひ ひちりん?   ・・・ それって 七輪 じゃないかな 」

「 そう?  その 〜〜りん、 あるかしら。 」

「 さあ〜〜〜 そういうのってもうないと思うよ、今の二ホンには・・・

 二ホン昔話 とかで見たけど ・・・ 」

「 ふ〜〜ん それじゃレンジでいいわ。 手伝ってね〜〜 」

「 う うん ・・・ それにこの苗・・ 早く植えてあげないと 」

「 あ そうね。 お水がご馳走ですもんね 」

「 うん。  あのぅ・・・ い 一緒に 植えないかな・・・ 」

「 なにと? 」

「 へ? 」

「 苺の苗と一緒になにを植えるの? 」

「 あ ・・ そのう 〜〜 」

「 ふ〜〜ん  あ ! こっちは ミニ・トマト ね! これを一緒に植えるわけね? 

わ〜〜〜 ジェロニモの温室、すっごく素敵な野菜室 になるわね 

「 あ そ そうだね 」

「 うふふ〜〜 収穫が楽しみ♪ ね お茶にね ケーク・サレ 焼くからね。 」

「 ケークサレ?  けーきかあ〜〜 ウチでけーきが作れるってすごいよねえ〜〜

 きみのけーき、皆美味しいし。 ぼく 大好き〜〜〜  け〜くされ、食べたい♪ 」

「 まあ そう? よかった♪ わたしのお得意なの〜〜〜 

 楽しみにしててね〜〜〜 」

「 うん!  あ きみは・・・? 」

「 うふふ〜〜 わたし、これからちょっと秘密の作業があるの  うふふ  」

「 ひみつ?? なになに〜〜〜 」

「 な〜いしょ♪  待っててね、 こっちも楽しみにしててね〜〜  じゃ お茶の時間にね 」

「 う うん ・・・  一緒に植えたかったのになあ ・・・ 」

ジョーはちょっとしょんぼり・・・ 彼女の後ろから坂を上ってゆく。

 

 ごそ ごそ  ごそ ・・・・

ロフトの奥まで潜りこみ フランソワーズが ― ?

「 こっちかなあ〜〜〜   えっと??   あっ あった! 

 えいっ〜〜〜  でてこ〜〜い えいっ ! 」

 

  ドンっ !! ガラガラ〜〜〜 がっしゃん・・・・!

 

「 うわあ〜〜〜  きゃ ・・・! 」

ロフトのドアを跳ねとばし 金髪美女が転げ出てきた。

「 ・・・ いった〜〜〜〜 ・・・・  ああ でもこれだけあれば ! 」

床に座り込んでもしっかり手に握っているのは なにやら白っぽい布だ。

  ばふっ ・・・・ 両手で広げればかなりの大きさ。

「 ドルフィン号の部品を包んであったんですって ・・・・

 丈夫そうな布ね〜〜  これを切って縫って・・ うふふふ♪

 おっきなお魚を描くわ ♪   ま〜ずは型紙をつくらないとね 」

手元のミニチュアをじっくりと観察した。

 

 

  だだだだ   だだだだだ ・・・・ だだだだ・・・

 

リビングの隅にちんまり置いてあった足踏みミシンが 軽快な音を立てている。

「 ん〜〜〜〜〜〜 ・・・  まっすぐに縫うんだから簡単だけど・・・

 この前のカーテンよりも大きいかな〜〜〜  

だだだ だだだだだ  ―  ひたすら白い布を縫ってゆく。

 

  ― ガチャ。  ドアが開いてジョーが遠慮がちに顔を覗かせた。

「 あ あのう〜〜〜 ? 」

「 ん〜〜〜  ?  あら ジョー なあに。 」

「 うん  あの・・・ お茶 ・・・ 」

「 ! あ そうだったわね〜〜  きゃ〜〜 ケーク・サレ〜〜〜〜 」

フランソワーズはミシンの前から跳びあがった。

「 けーき♪  あの・・・ ぼくが作ろうか?  教えてくれれば・・・ 」

「 ううん 材料はね、もう用意してあるの。 あとは じゅわ〜〜〜っと

 焼くだけなの。 オーブンに入れればいいのよ、 今 作るわね 

「 手伝うよ〜〜 どうやって焼くのか見たいんだ 」

「 あら 普通にオーブンで焼くだけだけど ・・・ じゃ 手伝ってね。 」

「 うん ♪ 

ジョーはもうにこにこして一緒にキッチンに入った。

 

 

「 おいしい!  これ オイシイねえ〜〜 

焼き上がった一見、パウンド・ケーキみたいな ピースをジョーは嬉々として頬張った。

「 あら そう? 気に入ってくれた? 

「 うん♪  ボリュームあるし〜〜 ソーセージやハムの切れっぱしに

 タマネギとかピーマンとか〜〜  ん〜〜〜  オカズいりお焼きだね 

 ね〜〜〜 博士、オイシイですよねえ 

「 うむ うむ ・・・ ホット・ケーキで甘くないというのもいいのう〜〜

 しっかり食事になるな  

「 ね〜〜 オカズパンだあ〜〜 あ〜〜 うま〜〜 」

「 ・・・ あのね。 ケーク・サレ っていうの。 

「 やっぱ け〜き なんだ?  へえ〜〜 きみの国じゃ甘くないオカズけーき 

 が あるんだね〜〜〜  ん〜〜〜〜〜 焼きそばパン よか美味い♪ 

「 ・・・ オカズけーき  じゃないんだけど ・・・ 」

「 ん〜〜〜 おいし♪  ぼく これ 大好き!  ねえねえ また 作ってね 

ジョーは大きく切り分けたピースを三個、ぺろりと平らげた。

「 いいわ。 あのね。 ケーク・サレ っていうの。 覚えて。 」

「 あ  うん。 〜〜〜〜 はあ〜〜〜 美味しかったあ〜〜

 あ そうだ 苺とプチ・トマトね、ちゃんと植えたよ〜〜 あとで さ・・・

 見に行こうよ・・・い 一緒に ・・・ 」

「 まあ そうなの? ありがと〜〜〜 うふふ〜〜 収穫が楽しみね 」

「 うん 苺はわりとはやく食べれるかもな〜〜 

「 ジェロニモの温室、素敵よね〜〜 ウチのサラダはいつでも超〜フレッシュになるわ ね。 

 さあ わたし これからちょっと作業したいのね 」

「 あ お茶の後片づけ ぼくがするから。  ― なにか作っているのかい 」

「 ええ ちょっとね  ミシンで  

「 ふうん ・・・? 」

ジョーはリビングの隅のミシンの方を眺めた。

すこし生成りっぽい色の布が それも大きな布が広げられている。

「 カーテン? 」

「 ううん、 ちがうの。 あの布ね〜 ドルフィン号の 掃除用の布、ロフトに余っているから・・・って

博士に頂いたの。 

「 あ〜〜 なにか縫うのかい? 掃除にでも使うのかと思ったぞ 」

「 ええ ちょっと閃いたんです。  使わない布 もったいないし 」

「 へえ・・・ ドルフィンのねえ・・・  なに作るの? 」

「 うふふ〜〜〜  ナイショ♪ もうすぐできるから・・・楽しみにしてて 」

「 え?  」

「 これ ね。 ジョーのものなの。 だから仕上がり 待ってて〜〜 」

「 ぼ ぼくの??  カーテンじゃないし・・・ 服とも 違うよね? 」

「 ぶ〜〜〜♪  うふふ・・・ あ そうだ!

 あとでお願いが一つあるのよ。 楽しみにしててね 」

「 う うん??  ぼく 片づけしたら苺の水やりと・・・・ あと

 庭で木 植えてるね。 柿と梅 買ってきたんだ 」

「 まあ ウメ? あのいい匂いの花の木でしょう??  すてき! 」

「 えへ・・・ きみ、あのにおい、好きって言ってたから・・・ 紅い花の、買ってきたんだ・・・

 ちっこい木だけど ・・・ 次の春には花が咲くよ 

「 いいわ いいわ〜〜  大きくなるの、楽しみよ〜〜  

かきって・・・  オイスター・・・?  オイスターが獲れる木なの? 」

「 あは そっちの 牡蠣 じゃなくて。フルーツさ。 秋に生るんだ 美味しいよ

「 ほう〜〜 柿か。 いいのう〜〜 楽しみじゃな 

「 ええ でもまだ今年は無理かな ・・・ 

「 柿は接ぎ木をせんと すぐには実をつけんそうじゃよ。 コズミ君から聞いたよ」

「 そうなんですか ・・・ あ いそいで仕上げてなくちゃ  ジョー 後片付け

 お願いします〜〜 

ぺこん、とお辞儀して フランソワーズはミシンの前に座った。

 

 ふんふ〜〜ん・・・ 残りのケーク・サレ を全部お腹に収めると

ジョーも上機嫌で洗いモノを始めた。

 

 

 

  だだだだ・・・・ だだだだ・・・・

 

「 ・・・っと。 これでいっかな〜〜〜 あとは 絵を描かなくちゃ。 

 え〜〜と・・・お魚、よね。 なにがいいかなあ〜〜 強そうなシャーク?

 それとも 大きなクジラ や イルカもいいわね〜  う〜〜ん ・・?

  あ!  鯵!! 鯵を描きましょ ! 鯵 がいいわ。

 あのおいしい〜〜〜 鯵!  ジョーが元気なオトコの子になりますようにってね

 たんごのせっく に お庭に飾るの。 うふふ〜〜〜 ステキ  

 

 ばっさ!  

フランソワーズは縫いあげた細長い、でも巨大な袋状のものを広げた。

「 ちょっと大きすぎたかなあ・・・ ま いいわ。 

どうぞジョーが ずっと元気でいますように。  絵の具も買ってきたのよね〜〜

 水に強いっていうのを選んだわ。 

リビングの床に新聞紙を敷くと フランソワーズは縫いあげた袋を置いた。

「 鯵・・・って あの干物みたいな顔で泳いでいるのかしら ・・・ 

あ あの干物屋さんのらっぴんぐ・ぺーぱーに 鯵の絵があったわ! 」

キッチンから もってきた紙にはちゃ〜〜んと鯵が描いてある。

「 よぉ〜〜し ・・・ 」

絵の具とマジックを並べ、彼女は豪快に描きはじめた。

 

 

 ガタン。  キッチンの裏口が開いた。

 

「 ふう ・・・ 木 植えたよ〜〜 苺にも水 やってきた〜 」

ジョーがぱたぱたジーンズを叩きつつ上がってきた。

「 フラン?  」

「 あ こっちよ〜〜 リビング。  」

「 あの ・・・ 入っていい 

「 い〜わよ〜〜 今 完成したとこ。  見て見てぇ〜〜 」

「 え なに なに〜〜〜 」

 

  ぱたぱたぱた ・・・・

 

「 きみの作品って  ―  う わあ〜〜〜 でっか〜〜〜 

「 うふふ ・・・ あのね これ。  こいのぼり。

 ジョーの はつぜっく用の こいのぼり よ  」

「 わ ぁ〜〜〜   ぼくだけの鯉のぼり!   ぼくのための 鯉のぼり!! 」

「 ホントはお店で買いたかったんだけど・・・ 大きいのって今はねえ

 もう売ってないんですって。 注文すればいいのだけど、高いみたい・・・

 だから わたしが作ったの。 」

「 ・・・ う   わ ・・・ 」

「 あ あの ・・・ 気にいらない ・・・? 」

 

        「  さ 最高だ〜〜〜あ 〜〜〜〜〜 」

 

「 そ そう?? 

ジョーの あまりの喜びように フランソワーズの方が驚いてしまった。

「 え ・・・ 今までも そのう・・・ ムカシももってたでしょう? 

 その・・・ こいのぼり。 二ホンのオトコノコは皆 もってるって・・・

 商店街で おばあさんが教えてくれたわ 」

「 あ〜 うん ぼくが育った施設にもあったよ 鯉のぼり。

 どっかの篤志家の寄付でさ。 どでか〜いのが教会の庭にひらひらしてた・・・ 」

「 あ それじゃ・・・ こんなの、いや ・・・? 」

「 ううん ううん ううん!!!

 だって! たしかにすげ〜でっかくて なんか高そう〜〜 なモンだったけど。

 でも それは < みんなの鯉のぼり > だもの。 」

「 − え ・・・ 」

「 施設に、って。 孤児たち皆に って もらったんだ。

 ぼくのためだけ のじゃあないんだ 」

「 ・・・ そ そう ・・・  あ これはね!

 わたしが ジョーのために。 ジョーが丈夫に育ってりっぱなオトコノコに

 なるよに〜〜 って 作ったのよ 」

「 ありがと〜〜〜〜 うわあ〜〜〜〜 嬉しいなあ ・・・

 あ ・・・ この魚 ・・・ もしかして 鯵? 」

「 ぴんぽ〜〜〜ん♪  あのね ものすご〜〜〜くオイシイ鯵の干物 を

 買ってきたの。 だから の美味しい鯵みたくにジョーがなりますよに〜って。 」

「 あは ・・・ うん 鯵の鯉のぼりを持ってるヤツなんて ぼく一人だよ!

 わ〜〜〜〜 いいなあ〜〜 あ そうだ!          

 これ ・・・ 庭にポールを立てて泳がそう! 早速穴、掘ろう 」

「 ・・・ 気にってくれた? 」

「 もっちろん♪  ・・・ あ あのね。 はつぜっく ってさ。

 生まれて初めてのお節句 って意味なんだ。 

「 え!?!? そ そうなの? 」

「 ウン。 でも さ。ぼくにとっては やっぱり初節句かも。

 だってここに住んで ・・・ 新しい人生だもの。 」

「 ごめんなさい ・・・ そんな意味だったのね 

「 なんで ごめんなさい なんだい? ぼく ほっんとう〜〜にうれしいんだあ〜

 あ・・・ 名前 書いてもいいかなア  

「 ええ ええ どうぞ。  ここに絵の具、あるから 」

「 よぉ〜〜し ・・・ 」

ジョーは 筆にたっぷり絵具を含ませると、美味しそう〜〜〜な・巨大鯵の

 腹の下に  しまむら ジョー と くっきり書きこんだ。

「 あら いいわねえ〜〜〜  」

「 ほう?  これは立派なモノを作ったなあ 」

博士も顔を覗かせた。

「 あら 博士 ・・・ うふ これ・・・ 鯉のぼり のつもりなんですけど 」

「 博士。 ぼくの ぼくだけの鯉のぼりです ! 」

「 うん うん いいもんだ。  五月の空に悠々〜と泳がせておやり 

「 はい!  ふふふ〜〜  い〜ら〜か〜のな〜み〜と〜〜〜♪ 」

「 なあに その歌 」

「 鯉のぼりの歌 さ。  ムカシはね〜〜 鯉のぼりは この家には

 元気な男子がいるよって印だったんだって。 」

「 そうなの〜〜  あ じゃあ 今度 イワンの分も作ってあげようかしら。

 今度 帰ってきたとき、喜んでくれるかも 

「 あ いいねえ〜〜 そうだなあ 今度は赤い魚、 描いてよ 

「 赤いの? いいわ・・・ 巨大金魚にしよっかな〜〜  

「 いいかも いいかも〜〜〜 」

「 ね? さっきの こいのぼりの歌 教えて?  歌いなが絵を描くわ。 」

「 いいよ〜  い〜ら〜か〜の ♪ 」

二人は けたけた笑いつつ 巨大金魚・鯉のぼり を作り始めた。

そんな彼らを 博士はにこにこ・・・ 眺めている。

「 ふふふ ・・・ おまえたちのチビさんのために ここに鯉のぼりが

 泳ぐのは いつかのう 〜 」

「 え?  なんですか 

「 いやなに ワシの独り言さ。 ・・・ い〜ら〜か〜のな〜み〜♪ 

博士も ふんふん・・・ こいのぼりのうた をハナウタ混じりの歌うのだった。

 

 

  ―  何年かの後 ・・・

 

梅は毎年こぼれんばかりにいい香の花をつけ 裏庭の柿もぽつぽつ実をつけ始めている。

 

  〜〜 い〜ら〜〜か〜〜の な〜〜〜み〜〜〜とぉ〜〜〜

 

元気な歌声が聞こえてきた。

「 わっせ・・っと。  さあ〜〜 これでいいかな〜〜 

 すぴか すばる〜〜 鯉のぼり、 上げるぞぉ〜〜  

ジョーは 立て終わったポールの根本をしっかりと踏み固めた。

彼の脚の周りには 色違いの髪をしたチビちゃんが二人、纏わりついている。

「 わ〜〜〜 こいのろび〜〜 こいのろび〜〜 」

「 のろび〜〜 おと〜さん〜〜 

「 そうだよ。  一番上のひらひらしたのは 吹き流し。 その次のが 」

「 アタシ、しってる!  おっきな・まごい♪ 

「 そうだね〜 すぴか。 その下の赤いのが 」

「 ひごい〜〜〜♪  」

「 当たり。  すばる、 ほら すばるの鯉のぼりだよ。 

「 わ〜〜〜〜 

「 ・・・ アタシのは 」

「 あ ごめん、 すぴか と すばる の鯉のぼりだね。 」

「 ウン。  あ ・・・ もういっこ、いる〜 」

金髪お下げのチビちゃんは 熱心に見上げている。

緋鯉の次には でっかい鯵 が泳いでいるのだ。

「 うん?  あ〜 あれは お父さんのさ。 」

「 お父さんの?  アタシ、ほしい! 」

「 だ〜め。 これは お父さんの! 」

「 アタシ ほしい〜〜〜 」

「 だ〜め。 あれはお父さんの宝モノなのだ。 」

「 え〜〜〜〜 

 

「 すぴか〜〜 すばる〜〜 ジョー〜〜  柏餅、頂きましょう〜〜 」

 

テラスからお母さんの声が聞こえてきた。

 

「 わ〜〜〜 かしわもち〜〜 」

「 もち〜〜 」

「 オヤツだね〜〜 さあ 手を洗ってこようね 

「「 うん♪  」」

 

  やねよ〜〜り〜〜〜♪    岬の家に賑やかな歌声が響くのだった。

 

 

 

****************************       Fin.      ****************************

 

Last updated : 05,02,2017.                  back      /     index

 

 

*****************   ひと言   ***************

なんてことない・季節話 ・・・

あの崖っぷちの家だったら でっかい鯉のぼりも大丈夫ですよね