『 きみと あなたと ― (1) ― 』
かんかんに晴れたある晩秋の朝 のこと。
「 わ〜〜〜 やっば〜〜 ね 寝坊した?? 」
島村ジョーは例によってぎりぎりの時間に起きていた。
− いや 目覚まし時計三個に 起こされた、というのが事実であるが。
ベッドから飛び出て パジャマを脱ぎ棄て ・・・
ふと 窓からの陽射しに気づいた。
「 ? お 晴れだあ〜 へえ ・・・? 」
窓を押し開ければ きんきんに冷えた空気がどっと入りこんできた。
「 ・・・ いい天気だなあ〜〜〜 う〜〜〜ん
うひゃ・・・ 冷えるなあ ・・・ へ〜〜っくしょい! 」
特大のくしゃみ が飛び出した。
サイボーグだって 寒いのだ。
「 ひえ 〜 シャツ シャツ〜〜 」
慌てて服を着て さささ・・・っと髪を撫でる。
「 う〜 なんだってこんなに癖ッ毛なんだよ〜〜 もう えいっ 」
何回 撫でつけてもジョーの前髪の一部は ぴん っと
真上に跳ねあがってしまう。
「 う〜〜〜〜 強力ムース 使ってもダメなんだよなあ ・・・
ま 昔っからの癖っ毛だから しょ〜もないかあ 」
( BGの 毛髪担当者 は かなりの腕利きだった・・・らしい )
「 ! いっけね〜〜〜 朝食! 今朝、当番じゃんか !
ヤバ ・・・ ! 」
バタバタバタ −−− 部屋を飛び出し階下へ駆け下りた。
「 お おはよ 〜〜 」
「 あ おはよう ジョー。 」
金髪の美人が明るく笑いかけてくれる。
えへ・・・ も〜〜 最高♪
彼にとってこれまでの人生で 超苦手だった < 早起き > だが
今 ・・・ 楽しみ になってきている。
サイボーグにされて よかった〜〜 ♪
へへへ〜〜〜 これはナイショだけどさ
こんな美人を一つ屋根の下で暮らせるなんて〜〜
― なんて心の叫びには そっとフタをして。
ジョーは わざわざ眠そ〜〜な顔をしてみせる。
「 ふぁ〜〜〜 眠いよ〜〜う 」
「 ふふふ お寝坊さん☆ 」
ちょん。 白い指が ジョーのほっぺに触れた。
わっはは〜〜〜〜ん(^^♪
ちょ〜〜〜 らっき〜〜〜〜
跳びあがりたい気分なのだが ― 敢えて なんでもないさ の顔をする。
「 あは フランソワ―ズ 〜〜 晴れだね〜〜 」
「 ええ ホント いいお天気ね 冬も近いのにこんなに明るいなんて!
も〜〜 わたし 感激だわ 」
「 え? あ〜 関東の冬ってね〜 こんな日 多いよ 」
「 まあ そうなの? 素敵! 最高よ〜〜
パリではねえ 冬はもう薄暗くて寒くて・・・
お昼すぎには もうライトを点けるわ 」
「 へえ ・・・ ここいら辺の冬は かんかんに晴れてさ〜
風がびゅ〜〜〜っと吹いて からっからの乾燥さ 」
「 そうなの・・・ ああ でもお日様の光って最高よ!
こんなにいいお天気の冬 って 初めてだわ。
ちょっとピクニックにでも行きたいカンジ ・・・ 」
「 ぴくにっく? あ〜〜 行こうよ 」
「 ・・え? 」
「 弁当作ってさ 海岸は寒そうだけどちょっと山の方に
入ってみてもいいし。 日溜りは温かいよ 」
「 え い いいの? 」
「 ぼくも行きたいもん。 ねえ 行ってみようよ
あ ・・・ 何か予定 ある? 」
「 ううん。 嬉しい! ランチ作るわ〜〜 」
「 ぼくも手伝うよ! 」
「 あ その前に朝ご飯ね〜 」
「 あはは そうだね 今朝はぼく、当番なんだけど
朝ごはん〜 なにかリクエスト ある? 」
「 あ オムレツ・・・ ジョーは好き? 」
「 大好きさ♪ 」
「 よかったわ ね わたし、作るわ、得意なの。
「 わお。 じゃ ぼく コーヒーいれて パン焼くね 」
「 ありがと ジョー 」
「 おはよう 」
博士がキッチンに入ってきた。
「 あ おはようございます〜 お帰りなさい 」
「 おはよ〜〜っす。 え お帰りなさい? 」
「 博士はね 毎朝ウォーキングなさっているの 」
「 へえ〜〜〜 すっげ 」
「 いやいや 脚を鍛えておかんとなあ ・・・
それにここは 穏やかな気候で景色も素晴らしい 」
「 どうぞ 顔 洗ってらして。 すぐに朝ご飯です 」
「 博士〜〜 コーヒーでいいですか 」
「 たのむ 」
三人は 朝陽いっぱいの部屋で楽しく美味しく朝御飯を頂いた。
朝食後、 ささ・・・っと片づけ ランチ作りに取り掛かった。
「 おべんと おべんと うれしいな〜〜♪
ねえ なに もってゆく? 」
「 そうねえ〜〜 ウチにあるモノで ・・・
あ 御飯 炊いておけばよかったわねえ 」
「 あ〜 いいよ。 こんどね、 お握り 作ろう 」
「 おにぎり・・? 教えてね 」
「 うん♪ 」
「 え〜〜と ・・・? 今 あるモノは 〜 」
「 食糧の棚、 見てみるよ 」
「 お願いね 飲み物は・・・ 」
二人で キッチンを右往左往した。
― そして
クラッカーにチーズ、熱い珈琲をポットに入れて。
勿論 チョコレートも。 買い置きのバナナと一緒にバスケットに詰めて。
「 え〜と? あ あと れじゃー・シートもいるな〜〜 」
「 そうね 確か玄関のストレッジに仕舞ったと思うわ 」
「 探してくる〜 あ あのさ 帽子、被った方がいいよ? 」
「 え ・・・冬なのに? 」
「 ウン。 冬の晴れの日って お日様じりじり〜〜 なんだ。
オンナノコ は 日焼け、困るだろ? 」
「 ふふふ ありがと♪ ジャケットもいるかしら 」
「 パーカーとかでいいよ。 あ ぼく 玄関に用意しておくからさ
きみ 支度しておいでよ 」
「 ありがとう ちょっと待っててね 」
「 うん。 え〜と あとは ・・・ 」
うっははは〜〜〜ん♪ 彼女とぴくにっく(^^♪
こ これって ! で〜と だよね〜〜〜
わははは〜〜ん♪
・・・ あ リンゴも持ってこ〜〜
うひゃあ〜〜〜 (^◇^)
とんでもない運命に翻弄され ― あの島で 彼女 と出会った。
そして ジョーは彼女に一目惚れしちゃったのだ。
だから 彼は必死で仲間たちに付いてきた。
どうしても どうしても 彼女を護りたかったから。
どんなことしても 彼女と一緒に居たかったから。
・・・ くっそぅ〜〜〜 !
009 に なるんだ! なってやる!
最強の戦士に なるんだ〜〜〜
島村ジョー は 自ら進んで 009 になるべく頑張った。
そして それは現在でも続いている。
だけど。 そのコトは 彼だけのナイショである。
ザザザザ −−−−− ・・・・ !
里山から眺める海は キラキラと輝いていた。
冬の陽をうけ 凪いだ海面には光の粒をばら撒いたみたいだ。
「 きゃあ〜〜 すてき! ねえ 海ってこんなに綺麗? 」
「 うん そうだね〜 あ この辺に座る? 」
「 もうちょっと・・・ 登ってみても いい? 」
「 いいよ。 でもお腹 空かない? 」
「 まだ平気。 あ ジョー お腹空いた? 」
「 あ 大丈夫。 ちょっと水分補給するね〜〜 」
ジョーは バッグからペットボトルを取りだした。
「 きみも飲む フラン? 」
「 ん〜 まだいいわ。 あら それ・・・ 麦茶? 」
「 ・・・ あ? これ? ううん コーク。 」
「 ・・・ 冬にコカ 飲むの? 」
「 べつに〜 一年中飲むよ 」
どう? と 彼は別のペット・ボトルを取りだした。
「 あ ううん ありがと。 わたしはお水かお茶にするわ 」
「 おっけ〜〜 えっと・・・ あ これこれ・・・
はい、 えびあん、もってきたよ〜〜 」
「 まあ ありがとう。 ・・・ 美味しい〜〜
咽喉、乾いていたのね 」
「 ふふ ・・・ じゃ もうちょっと上まで行こうか 」
「 ええ! あ〜〜〜 すご〜〜くいい気分〜〜 」
「 うん ホント いい天気だし ・・・
小春日和 だよ 」
「 ?? はる? なの? 」
「 あ〜〜 そう言うんだ。 秋の終わりとか冬にさ〜
こんなぽかぽか・・・ する日のこと。 」
「 ふうん ・・・ こはるびより ・・・
素敵な言葉ね 」
「 そっかな〜〜 あ ほら あそこまで登ろうか 」
「 うん! 」
「 あ〜〜 いい風だな〜〜 」
「 ホント・・・ あ 枯草の香り! まあ 小さな花が咲いてる〜〜 」
二人は のんびり のんびり 里山を上っていった。
「 ここにしよっか シート、敷くね 」
「 ええ。 あ 手伝うわ〜 」
「 サンキュ じゃ そっち引っ張てくれる? 」
「 はい。 これでいい ? 」
「 うん この石を重石にして・・・ 」
「 こっちはおっけーよ〜 」
海の見える枯草の日溜りで ― レジャー・シートを敷いた。
バスケットを開けて お弁当を開く。
「 ・・・ 気持ち いいね〜〜 」
「 そうね お日様 〜〜 いっぱい ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ ぼく さ あの 」
「 ? なあに 」
「 ウン あの ・・・ ここにこうしていられて ・・・
いいなあ〜って 」
「 ・・・え 」
「 なんか こんな生活 ・・・ いいよね。 いい感じだよね〜〜 」
「 ・・・ そう なの? 」
「 うん 」
「 ジョー。 あなたは 今のあなたが 幸せ? そう思ってる? 」
「 え あ うん そうだなあ〜 」
「 そう思って、感じて暮らしてるの ? 」
「 ・・・ うん ・・・ だっていいなあ〜って思わない?
そりゃ ミッションがあればすぐに飛び出すけど ・・・
ぼく 今の生活 好きだな 」
「 そう。 ・・・ わかったわ。
どう感じるか どう思うか は 個人の自由ですものね 」
フランソワーズは 持っていたリンゴを静かにトレイに置いた。
怒った様子では ない。 声の調子も ごく普通だし 表情も普通だ。
でも ― ぴきん。 彼女の周りの空気が凍えていた。
「 ・・・ あ ・・? 」
な なんかヤバいこと 言ったか ぼく・・・?
なにも 言ってない よね?
「 あ ・・・ オレンジもあるよ? あは ちがった、これミカンだな〜
ねえ 食べる? 」
ジョーは なるべく < いつもと同じ > 雰囲気で話しかける。
「 ― もう十分。 美味しい林檎でした。 」
フランソワーズは リンゴの最後の一欠けをゆっくりと食べた。
「 あ そ そう? それじゃ ・・・ あ パンケーキも
持ってきたんだ〜〜 食べる?
」
「 いいえ もう十分です。 」
「 そ う? 」
「 ええ。 ねえ ジョー。 」
「 うん? 」
「 貴方が 今の生活に幸せを感じて生きてるって それはイイコトね。 」
「 ・・・ きみは ちがう の? フラン ・・・ 」
「 わたしと貴方は別のニンゲンだから 別の感情を持っていても当然。
それについて どうこう思ってはいないわ。 」
「 ・・・・ 」
「 わたし は 勿論 今の生活は素敵だと思ってる。 」
「 そうなんだ? よかった〜〜 」
「 ― でも。 この身体になって ・・・ 改造されて
シアワセ だなんて思えるはずない。 」
「 ・・・ え ・・・・ 」
「 ギルモア博士は 率直な方よ。 今は 信頼しているわ。
でも。 わたしをこの身体に改造したのは I.ギルモア なのよ。
それは 貴方も同じ。 」
「 ・・・ そう だけど でも! 」
「 ええ。 あの島から脱出できたわ。 博士が引っ張ってくれた。
でも 事実は事実。 消すことはできないわ 」
「 じゃ ・・・ きみは 恨んでいる ? その・・・ 博士のこと 」
「 ・・・ わからない。 でも忘れてはいない、ってこと。 」
「 そ ・・・っか・・・ 」
「 ごめんなさいね、 なんか嫌な気分にさせてしまったかしら 」
「 そ そんなこと ないけど。
あの ぼくこそ ごめん。 なんか勝手にはしゃいで ・・・ 」
「 気にしないで〜〜 こんな気持ちのいい日に こんな素敵な場所で
楽しい気分になるわよ〜〜 わたしだってとてもいい気持ちよ 」
「 ・・・ でも ・・・ 勝手にぼくの そのう〜〜 感覚を
押し付けて さ 」
「 あら 押し付けてなんかいないわよ?
ジョーはジョーの感覚、 わたしはわたしってこと。 」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
「 ごめんなさい わたしって 嫌な女の子ね 」
「 そ ! そんなこと! 」
ガサ ・・・ ! ジョーは 思わず彼女の手を握っていた。
「 あ あの ・・・? 」
フランソワーズが 目を丸くしている。
「 あ! ご ごめん ・・・ 」
「 べつに ・・・ちょっとびっくりしただけよ 」
「 ごめん。 ぼく ぼくって! 酷い脳天気だよね ・・・
自分の感情だけで 騒いでさ 周りも同じだと思いこんでさ
さっいて〜〜だよ! ごめん ・・・
ぼくの言うこと、ってか ぼくの存在、超〜〜〜〜不愉快だよね 」
ジョーは ぎゅっと彼女の手を握ったままだ。
「 ねえ そんなに気にしないで。
わたし 勿論、今の環境には感謝してるし 楽しんでいるわ。
三人で暮らしてるのも 好きよ 」
「 ・・・ でも ・・・ あ! ごめん! 」
彼は 温かい細い手をぱっと離した。
ちょっと ・・・ 惜しいなあ〜〜
・・・ あったかい手 だった・・・
「 ね そんな顔 しな〜い。
ジョーがどう感じているか どう思うか は ジョーの自由よ。
そのことについて負の意識を持つ必要はないわ 」
「 でも !
」
「 ふふ・・・ ジョーのあけっぴろげなとこ、
最高に好きよ。 」
「 え ・・・ え〜〜 す すき ・・・? 」
「 うふふ ・・・ ジョーはとっても素直なのよね 」
す すき?? うひゃあ〜〜〜〜〜
うぴゃ〜〜〜 ホントかよ〜〜〜
ジョーは もうその一言で舞いあがってしまった。
たった今までの 忸怩たる思いは吹っ飛んだ。
・・・ え へ ・・・
そ そんなに 嫌われてるわけじゃ ないよね?
萎れていた心が ぽわん・・・っと浮上してきた。
笑顔 みたいなあ 〜〜
なんも意識してない 笑顔が さ
「 あ ね〜 今 思い出したんだけど。 帰りにさ ちょっと寄ってこうよ 」
「 ?? なにするの 」
「 うん ・・・ この前見つけたんだけど この近所の畑で 」
「 は はたけ?? 」
「 そ! 畑。 ねえ イモ、好き? 」
「 い いも?? いもって あのお芋? 」
「 そ。 あのさ 芋ほり って知ってる? 」
「 い いも ほり? そのイモって ジャガイモ?? 」
「 あ サツマイモ。 え〜とね・・・ スウィート・ポテトの材料! 」
「 まあ あの甘いお芋? え〜〜〜 あれが とれるの?? 」
「 そ。 取れる、というか 掘りだすんだけど。 」
「 ほ 掘るの?? あのお芋は土の中に生っているのね 」
「 ああ うん。 ジャガイモなんかと同じさ。 」
「 へえ〜〜〜 そうなの・・・ その畑、この近くにあるの? 」
「 ウン。 幼稚園とか小学生向けに 畑、解放してるんだ。
平日だから多分 ・・・ オッケーだよ 」
「 ホント?? 行きたい! ・・・ いい? 」
「 ウン! 行こうよ〜〜〜 ここで腹ごしらえしてさ。」
「 わあ 嬉しい〜〜 楽しみ〜〜 」
・・・ よかった ・・・
フランの笑顔 ・・・ 好きだなあ〜〜
ううん フランがいつだって笑顔でいてくれるのが
ぼくの 望み だ!
ジョーとフランソワーズは バナナやらクラッカーを食べ終わり
里山の日溜りから腰を あげた。
「 う〜〜ん ここから山道を突っ切ってゆけば早道かも。 」
「 あら 本当? それじゃ このまま・・・ 行く? 」
「 薮の中とか突っ切るかもしれないけど 」
「 いい いい ! 秋の里山の中を歩くって すてき〜〜 」
「 よっし それじゃ 出発だあ 」
「 了解〜〜 」
ガサ ガサ ガサ。 二人は枯れた雑草の中を歩き始めた。
薮の中は案外とほっこり温かく 楽しいハイキングとなった。
目的の観光・芋ほり園 は すぐにわかった。
ジョーの予想通り、平日の昼間なので来園者は他にいない。
「 あ〜〜 ゆっくり掘っててくださいよ〜〜う 」
農園のオバチャンは にこにこ案内してくれた。
「 はい ありがとうございます! 」
「 お兄さん、 彼女 ・・・キレイなヒトだねえ〜〜 カノジョさん? 」
「 え あ あ〜〜〜 えへへへ・・・ 」
「 しっかり捕まえときなさいよ お芋でね 」
オバチャンは ばっち〜〜ん とジョーのオシリを叩いてくれた。
「 だぴゃ えへへ はい〜 」
「 ジョー・・・ ここから入っていいの? 」
フランソワーズは農園の入口で待っている。
「 あ そうみたいだよ〜〜 ゆっくりどうぞってさ 」
「 まあ そうなの? お芋さ〜〜ん ? 」
農園は 土だらけの畝あり 緑の葉っぱもしゃもしゃの畝あり だ。
「 どこでとるの? 」
「 えっと ・・・ さ ― 3 だって。 あ ここだあ 」
小さなプレートを見つつ 二人は目的の畝の前に立った。
「 じゃ これで掘ってゆこ。 はい シャベル 」
「 ええ ・・・ こう ・・? 」
畝に ゆっくりシャベルをいれれば ―
おわ? わあ〜〜〜〜
ぼこぼこ・・・っ ずごごごご・・・・
黒い土の中から 続々と出てくるサツマイモ。 大きいのも 小さいのも。
「 すご〜〜い〜〜〜 ホントに土の中にいるのね〜〜 」
「 わは ・・・ いっぱいあるね 」
「 これ ・・・ 頂いていいの? 」
「 芋ほりに来たんだもの、収穫しようよ 」
「 うわ〜〜 うわ〜〜 すご〜〜い〜〜〜
ねえ ジョーは前にも来たことがあるの? 」
「 ウン。 芋ほりって 保育園や小学校じゃ 秋の遠足の定番なんだ
日本人なら 皆 一回や二回、経験があるよ 」
「 ふう〜ん わ おっき〜〜 」
「 ほら それ とって。 」
「 ええ わ ちっちゃいのもある〜〜 同じ枝に付いてるのに 」
「 それってさ 枝じゃなくて 地下茎 っていうんだ。
サツマイモは 根っこに養分が溜まったものです って習ったな 」
「 ふう〜〜ん 一緒に育ってもいろんな大きさとか
カタチがあるのねえ 」
「 あは そりゃそうだよ〜 野菜やイモにも いろいろあり さ。 」
「 そう よね ・・・ 同じお芋でも いろいろあって当たり前 よね
ヒトと同じ ・・・ ええ わかってるの わかってる けど・・・ 」
フランソワーズの手が 止まった。
収穫したでっかいサツマイモを手に じ〜〜っと見つめている。
「 あ〜〜 それ 気に入った? 今晩、美味しく食べようよ 」
ジョーは 彼女の気分を替えたくてわざと明るく言った。
「 ・・・ え ええ ・・・ 」
「 ねえ どうやって食べたら美味しいのかなあ?
フラン、 きみ なにかお勧めのメニュウ ある? 」
「 え サツマイモ の? わたし ・・・ スウィート・ポテトしか
知らないわ 昔 母が作ってくれたの ・・・ 」
「 あ〜 あの甘い洋菓子だろ? それ 作ってよ〜
あと オカズになるのは ・・・ 天ぷらくらいしか知らなくて 」
「 ふふふ ・・・ ジョーのお母様はどんなお料理を作って
くださったの? 」
「 ・・・ あ ぼく さ。 前にも言ったと思うけど 施設で育ったんだ
だから 所謂 < お袋の味 > って知らなくて 」
「 ・・・え? 」
「 母親って 記憶ないしね 」
< しまむら・じょー > が 教会の施設で暮らしていたのは
知っていた。
彼女の友人の中にも いろいろ事情があって施設出身のヒトもいた。
成年前に 両親と離別・死別して 施設で育った・・・ という子供は
珍しくはない。
彼もそのような境遇だったのだろう、と推測していた。
しかし ―
え・・?
家が
ない?
もしかして
普通のおうちで 育ってない
の … ?
お母さん のこと ・・・ 知らない ??
「 あ あの ずっと・・・? 」
「 え? ぼく? あ うん。 赤ん坊の頃からさ。 」
「 そ そうなの・・・ 」
「 あの施設が 家 みたいってか 家 だったんだ。
神父さまが親代わりをしてくださって・・・ 」
「 ・・・ ご ごめんなさい ・・・ ! 」
「 え なんで謝るの? 別にさ 滅茶苦茶不幸だったわけじゃないよ?
ちゃんと学校にも通ってたし お腹減らしてたこともない。
お小遣いも少しはもらえたしね 」
「 ・・・ そ そう・・・? 」
「 ウン。 でもね〜〜 家庭料理って知らなくて ・・・
フラン、教えてくれる? 」
「 え ええ ・・・ このおっきなお芋さん、美味しく食べなくちゃ
あ 焼き芋 ってこのイモよねえ? 」
「 そうだね〜 でも 焼き芋はオカズにはならないから 」
「 あ そうか ねえ ここの農場の方に聞いてみましょうか 」
「 いいね〜 もっと収穫しようよ 」
「 そうね! 」
ぼこぼこ ・・・ 土の中からサツマイモが陽気な顔を出す。
「 すげ〜な〜〜 でっか ! 」
「 ホント ! 」
フランソワーズは 夢中になっているフリをして こそ・・・っと
彼の横顔を伺っていた。
いつもの 穏やかで優しい表情だ。
でも ― 彼は 家族 も 母 も知らずに生きてきたのだ。
わたし ! わたしこそ 大バカモノだわ !
彼の気持ち ・・・ 全然考えなくて
自分のコトばっかり で ・・・
一人で 不機嫌になって ―
いい年して 赤ん坊みたいよ フランソワーズ!
考えナシの おバカさん !
フランソワーズの両親は彼女がオトナになる前に 亡くなった。
しかし 彼女はたっぷり・・・愛され大切にされ育った。
特段、裕福な家庭ではなかったが 夏には一家でバカンスで田舎のコテージで
過ごしたし 日々の暮らしは 温かかった。
「 ね〜〜 すっげ大収穫だよ〜〜 」
「 すごいわ 」
「 わははは〜〜ん これさ、コズミ先生のとこにも持ってゆこうか 」
「 あら そうね。 」
「 ね すうぃ〜〜と・ぽてと、 作って! 」
「 はい 了解♪ 」
芋の袋を担いで ジョーはご機嫌ちゃんだ。
あ ・・・ いい笑顔 ・・・
わたし ―
どうやったら ジョーの本当の笑顔 を護れるかしら。
彼が ココロからシアワセ って思える時って ・・?
フランソワーズは 芋畑の間を真剣な顔をして歩いていた。
Last updated : 11,19,2019.
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*********** 途中ですが
こりゃ 平ゼロ・ジョー ですねえ ・・・
彼は 一見穏やかで 優し気だけど
内側には 溶鉱炉 なんじゃないかな〜〜〜と
思ったりもしています。 フランちゃん どうする?