『 きみと あなたと ― (1) ―  』

 

  

 

 

 

 

 かんかんに晴れたある晩秋の朝 のこと。

 

「 わ〜〜〜 やっば〜〜  ね 寝坊した??  」

 

島村ジョーは例によってぎりぎりの時間に起きていた。

 − いや 目覚まし時計三個に 起こされた、というのが事実であるが。

ベッドから飛び出て パジャマを脱ぎ棄て ・・・

ふと 窓からの陽射しに気づいた。

 

「 ?  お  晴れだあ〜  へえ ・・・? 」

 

窓を押し開ければ きんきんに冷えた空気がどっと入りこんできた。

「 ・・・ いい天気だなあ〜〜〜 う〜〜〜ん 

 うひゃ・・・ 冷えるなあ  ・・・ へ〜〜っくしょい! 」

特大のくしゃみ が飛び出した。

サイボーグだって 寒いのだ。

「 ひえ 〜 シャツ シャツ〜〜 」

慌てて服を着て さささ・・・っと髪を撫でる。

「 う〜 なんだってこんなに癖ッ毛なんだよ〜〜  もう えいっ

何回 撫でつけてもジョーの前髪の一部は ぴん っと

真上に跳ねあがってしまう。

「 う〜〜〜〜 強力ムース 使ってもダメなんだよなあ ・・・ 

 ま 昔っからの癖っ毛だから しょ〜もないかあ 」

( BGの 毛髪担当者 は かなりの腕利きだった・・・らしい )

「 ! いっけね〜〜〜 朝食! 今朝、当番じゃんか ! 

 ヤバ ・・・ ! 」

 

   バタバタバタ −−−  部屋を飛び出し階下へ駆け下りた。

 

「 お おはよ 〜〜 」

「 あ おはよう ジョー。 」

金髪の美人が明るく笑いかけてくれる。

 

     えへ・・・ も〜〜 最高♪

 

彼にとってこれまでの人生で 超苦手だった < 早起き > だが

今 ・・・ 楽しみ になってきている。

 

     サイボーグにされて よかった〜〜 ♪

     へへへ〜〜〜  これはナイショだけどさ

 

     こんな美人を一つ屋根の下で暮らせるなんて〜〜

 

 ― なんて心の叫びには そっとフタをして。

ジョーは わざわざ眠そ〜〜な顔をしてみせる。

「 ふぁ〜〜〜 眠いよ〜〜う  」

「 ふふふ お寝坊さん☆ 」

 

   ちょん。  白い指が ジョーのほっぺに触れた。

 

     わっはは〜〜〜〜ん(^^

     ちょ〜〜〜 らっき〜〜〜〜

 

跳びあがりたい気分なのだが ― 敢えて なんでもないさ の顔をする。

「 あは  フランソワ―ズ 〜〜  晴れだね〜〜 」

「 ええ ホント いいお天気ね  冬も近いのにこんなに明るいなんて! 

 も〜〜 わたし 感激だわ 」

「 え?  あ〜 関東の冬ってね〜 こんな日 多いよ 」

「 まあ そうなの?  素敵! 最高よ〜〜

 パリではねえ 冬はもう薄暗くて寒くて・・・

 お昼すぎには もうライトを点けるわ 」

「 へえ ・・・ ここいら辺の冬は かんかんに晴れてさ〜

 風がびゅ〜〜〜っと吹いて からっからの乾燥さ 」

「 そうなの・・・ ああ でもお日様の光って最高よ!

 こんなにいいお天気の冬 って 初めてだわ。

 ちょっとピクニックにでも行きたいカンジ ・・・ 」

「 ぴくにっく?  あ〜〜 行こうよ 」

「 ・・え? 」

「 弁当作ってさ  海岸は寒そうだけどちょっと山の方に

 入ってみてもいいし。  日溜りは温かいよ 

「 え い いいの? 」

「 ぼくも行きたいもん。 ねえ 行ってみようよ 

  あ ・・・ 何か予定 ある? 

「 ううん。  嬉しい!  ランチ作るわ〜〜 」

「 ぼくも手伝うよ!  」

「 あ  その前に朝ご飯ね〜 」

「 あはは そうだね 今朝はぼく、当番なんだけど

  朝ごはん〜 なにかリクエスト ある? 

「 あ オムレツ・・・ ジョーは好き? 」

「 大好きさ♪ 」

「 よかったわ  ね わたし、作るわ、得意なの。

「 わお。 じゃ ぼく コーヒーいれて パン焼くね 」

「 ありがと ジョー 」

 

「 おはよう 」

博士がキッチンに入ってきた。

「 あ おはようございます〜  お帰りなさい 」

「 おはよ〜〜っす。 え お帰りなさい? 」

「 博士はね 毎朝ウォーキングなさっているの 」

「 へえ〜〜〜 すっげ 」

「 いやいや 脚を鍛えておかんとなあ ・・・

 それにここは 穏やかな気候で景色も素晴らしい 」

「 どうぞ 顔 洗ってらして。 すぐに朝ご飯です 」

「 博士〜〜 コーヒーでいいですか 」

「 たのむ 」

 

三人は 朝陽いっぱいの部屋で楽しく美味しく朝御飯を頂いた。

 

朝食後、 ささ・・・っと片づけ ランチ作りに取り掛かった。

「 おべんと おべんと うれしいな〜〜♪  

 ねえ なに もってゆく? 」

「 そうねえ〜〜  ウチにあるモノで ・・・ 

 あ 御飯 炊いておけばよかったわねえ 」

「 あ〜 いいよ。 こんどね、 お握り 作ろう 

「 おにぎり・・?  教えてね 」

「 うん♪ 

「 え〜〜と ・・・? 今 あるモノは 〜 」

「 食糧の棚、 見てみるよ 」

「 お願いね  飲み物は・・・ 」

二人で キッチンを右往左往した。

 

  ― そして

 

クラッカーにチーズ、熱い珈琲をポットに入れて。

勿論 チョコレートも。 買い置きのバナナと一緒にバスケットに詰めて。

 

「 え〜と? あ あと れじゃー・シートもいるな〜〜 」

「 そうね  確か玄関のストレッジに仕舞ったと思うわ 」

「 探してくる〜  あ あのさ 帽子、被った方がいいよ? 」

「 え ・・・冬なのに? 

「 ウン。 冬の晴れの日って お日様じりじり〜〜 なんだ。

 オンナノコ は 日焼け、困るだろ? 」

「 ふふふ ありがと♪  ジャケットもいるかしら 」

「 パーカーとかでいいよ。 あ ぼく 玄関に用意しておくからさ

 きみ 支度しておいでよ  」

「 ありがとう  ちょっと待っててね 」

「 うん。  え〜と あとは ・・・ 」

 

    うっははは〜〜〜ん♪ 彼女とぴくにっく(^^

 

    こ これって ! で〜と だよね〜〜〜

    わははは〜〜ん♪

    ・・・ あ リンゴも持ってこ〜〜

 

    うひゃあ〜〜〜 (^◇^)

 

とんでもない運命に翻弄され ― あの島で 彼女 と出会った。

そして ジョーは彼女に一目惚れしちゃったのだ。

 

だから 彼は必死で仲間たちに付いてきた。

どうしても どうしても 彼女を護りたかったから。

どんなことしても 彼女と一緒に居たかったから。

 

    ・・・ くっそぅ〜〜〜 !

    009 に なるんだ! なってやる!

 

    最強の戦士に なるんだ〜〜〜

 

島村ジョー は 自ら進んで 009 になるべく頑張った。

そして それは現在でも続いている。

 

  だけど。 そのコトは 彼だけのナイショである。

 

 

 

   ザザザザ −−−−− ・・・・ !

 

里山から眺める海は キラキラと輝いていた。

冬の陽をうけ 凪いだ海面には光の粒をばら撒いたみたいだ。

 

「 きゃあ〜〜 すてき!  ねえ 海ってこんなに綺麗? 」

「 うん そうだね〜  あ この辺に座る? 」

「 もうちょっと・・・ 登ってみても いい? 」

「 いいよ。 でもお腹 空かない? 

「 まだ平気。  あ ジョー お腹空いた? 

「 あ 大丈夫。  ちょっと水分補給するね〜〜 」

ジョーは バッグからペットボトルを取りだした。

「 きみも飲む フラン? 」

「 ん〜 まだいいわ。  あら それ・・・ 麦茶? 

「 ・・・ あ? これ?  ううん コーク。 」

「 ・・・ 冬にコカ 飲むの? 」

「 べつに〜 一年中飲むよ  」

どう? と 彼は別のペット・ボトルを取りだした。

「 あ ううん ありがと。 わたしはお水かお茶にするわ 」

「 おっけ〜〜 えっと・・・ あ これこれ・・・

 はい、 えびあん、もってきたよ〜〜 

「 まあ ありがとう。  ・・・ 美味しい〜〜

 咽喉、乾いていたのね 

「 ふふ  ・・・ じゃ もうちょっと上まで行こうか 

「 ええ!  あ〜〜〜 すご〜〜くいい気分〜〜 」

「 うん  ホント いい天気だし ・・・

 小春日和 だよ 」

「 ?? はる? なの? 」

「 あ〜〜 そう言うんだ。 秋の終わりとか冬にさ〜

 こんなぽかぽか・・・ する日のこと。 」

「 ふうん ・・・ こはるびより ・・・ 

 素敵な言葉ね 

「 そっかな〜〜  あ ほら あそこまで登ろうか 」

「 うん! 」

「 あ〜〜 いい風だな〜〜 」

「 ホント・・・ あ 枯草の香り!  まあ 小さな花が咲いてる〜〜 」

二人は のんびり のんびり 里山を上っていった。

 

「 ここにしよっか シート、敷くね 」

「 ええ。 あ 手伝うわ〜 」

「 サンキュ  じゃ そっち引っ張てくれる? 」

「 はい。  これでいい ? 」

「 うん  この石を重石にして・・・ 」

「 こっちはおっけーよ〜 

 

海の見える枯草の日溜りで ― レジャー・シートを敷いた。

バスケットを開けて お弁当を開く。

 

「 ・・・ 気持ち いいね〜〜 」

「 そうね  お日様 〜〜 いっぱい ・・・ 」

「 ふふふ ・・・ ぼく さ あの 」

「 ? なあに 」

「 ウン  あの ・・・ ここにこうしていられて ・・・

 いいなあ〜って 

「 ・・・え 

「 なんか こんな生活 ・・・ いいよね。 いい感じだよね〜〜 」

「 ・・・ そう なの? 」

「 うん 」

「 ジョー。 あなたは 今のあなたが 幸せ? そう思ってる? 」

「 え  あ  うん そうだなあ〜 」

「 そう思って、感じて暮らしてるの ? 」

「 ・・・ うん ・・・  だっていいなあ〜って思わない?

 そりゃ ミッションがあればすぐに飛び出すけど ・・・

 ぼく 今の生活 好きだな 」

「 そう。  ・・・ わかったわ。

 どう感じるか どう思うか は 個人の自由ですものね 」

フランソワーズは 持っていたリンゴを静かにトレイに置いた。

怒った様子では ない。 声の調子も ごく普通だし 表情も普通だ。

 

   でも ―  ぴきん。  彼女の周りの空気が凍えていた。

 

「 ・・・ あ ・・? 」

 

   な なんかヤバいこと 言ったか  ぼく・・・?  

   なにも 言ってない よね?

 

「 あ ・・・ オレンジもあるよ? あは ちがった、これミカンだな〜

 ねえ 食べる? 

ジョーは なるべく < いつもと同じ > 雰囲気で話しかける。

 

「 ―  もう十分。 美味しい林檎でした。 」

フランソワーズは リンゴの最後の一欠けをゆっくりと食べた。

「 あ そ そう?  それじゃ ・・・ あ パンケーキも

 持ってきたんだ〜〜 食べる?  

「 いいえ もう十分です。  」

「 そ う? 」

「 ええ。   ねえ ジョー。 」

「 うん? 」

「 貴方が 今の生活に幸せを感じて生きてるって それはイイコトね。 」

「 ・・・ きみは ちがう の? フラン ・・・ 」

「 わたしと貴方は別のニンゲンだから 別の感情を持っていても当然。

 それについて どうこう思ってはいないわ。 

「 ・・・・ 」

「 わたし は 勿論 今の生活は素敵だと思ってる。 」

「 そうなんだ?  よかった〜〜 」

「 ― でも。  この身体になって ・・・ 改造されて 

 シアワセ だなんて思えるはずない。 」

「 ・・・ え ・・・・ 」

「 ギルモア博士は 率直な方よ。 今は 信頼しているわ。

 でも。 わたしをこの身体に改造したのは I.ギルモア なのよ。

 それは 貴方も同じ。 」

「 ・・・ そう だけど でも! 」

「 ええ。 あの島から脱出できたわ。 博士が引っ張ってくれた。

 でも 事実は事実。 消すことはできないわ 」

「 じゃ ・・・ きみは 恨んでいる ? その・・・ 博士のこと 」

「 ・・・ わからない。  でも忘れてはいない、ってこと。 」

「 そ ・・・っか・・・ 」

「 ごめんなさいね、 なんか嫌な気分にさせてしまったかしら 

「 そ そんなこと ないけど。  

 あの ぼくこそ ごめん。 なんか勝手にはしゃいで ・・・ 」

「 気にしないで〜〜  こんな気持ちのいい日に こんな素敵な場所で 

 楽しい気分になるわよ〜〜  わたしだってとてもいい気持ちよ 

「 ・・・ でも ・・・ 勝手にぼくの そのう〜〜 感覚を

 押し付けて さ 」

「 あら 押し付けてなんかいないわよ? 

 ジョーはジョーの感覚、 わたしはわたしってこと。 

「 う ・・・ ん ・・・ 」

「 ごめんなさい わたしって 嫌な女の子ね  」

「 そ ! そんなこと! 」

 

  ガサ ・・・ !  ジョーは 思わず彼女の手を握っていた。

 

「 あ  あの ・・・? 」

フランソワーズが 目を丸くしている。

「 あ! ご ごめん ・・・ 」

「 べつに ・・・ちょっとびっくりしただけよ 」

「 ごめん。 ぼく ぼくって! 酷い脳天気だよね ・・・ 

 自分の感情だけで 騒いでさ  周りも同じだと思いこんでさ 

 さっいて〜〜だよ!  ごめん ・・・

 ぼくの言うこと、ってか ぼくの存在、超〜〜〜〜不愉快だよね 」

ジョーは ぎゅっと彼女の手を握ったままだ。

「 ねえ そんなに気にしないで。

 わたし 勿論、今の環境には感謝してるし 楽しんでいるわ。

 三人で暮らしてるのも 好きよ 」

「 ・・・ でも  ・・・  あ! ごめん! 」

彼は 温かい細い手をぱっと離した。

 

    ちょっと ・・・ 惜しいなあ〜〜

    ・・・ あったかい手 だった・・・

 

「 ね そんな顔 しな〜い。 

 ジョーがどう感じているか どう思うか は ジョーの自由よ。

 そのことについて負の意識を持つ必要はないわ  」

「 でも !   

「 ふふ・・・ ジョーのあけっぴろげなとこ、

 最高に好きよ。 」

「 え ・・・ え〜〜 す  すき ・・・? 」

「 うふふ ・・・ ジョーはとっても素直なのよね 」

  

    す  すき??   うひゃあ〜〜〜〜〜  

    うぴゃ〜〜〜  ホントかよ〜〜〜

 

ジョーは もうその一言で舞いあがってしまった。

たった今までの 忸怩たる思いは吹っ飛んだ。

 

    ・・・ え へ ・・・

    そ そんなに 嫌われてるわけじゃ ないよね?

 

萎れていた心が ぽわん・・・っと浮上してきた。

 

    笑顔 みたいなあ 〜〜

    なんも意識してない 笑顔が さ 

 

「 あ ね〜 今 思い出したんだけど。 帰りにさ ちょっと寄ってこうよ 

「 ?? なにするの 

「 うん ・・・ この前見つけたんだけど この近所の畑で 」

「 は はたけ?? 」

「 そ!  畑。  ねえ イモ、好き? 」

「 い いも??  いもって あのお芋? 」

「 そ。 あのさ 芋ほり って知ってる? 」

「 い いも ほり?  そのイモって ジャガイモ?? 

「 あ サツマイモ。 え〜とね・・・ スウィート・ポテトの材料! 」

「 まあ あの甘いお芋?  え〜〜〜 あれが とれるの?? 

「 そ。 取れる、というか 掘りだすんだけど。 」

「 ほ 掘るの?? あのお芋は土の中に生っているのね 」

「 ああ うん。 ジャガイモなんかと同じさ。 」

「 へえ〜〜〜 そうなの・・・ その畑、この近くにあるの? 」

「 ウン。 幼稚園とか小学生向けに 畑、解放してるんだ。

 平日だから多分 ・・・ オッケーだよ 」

「 ホント??  行きたい!  ・・・ いい? 」

「 ウン! 行こうよ〜〜〜  ここで腹ごしらえしてさ。」

「 わあ 嬉しい〜〜 楽しみ〜〜 」

 

     ・・・ よかった ・・・

     フランの笑顔 ・・・ 好きだなあ〜〜 

     ううん フランがいつだって笑顔でいてくれるのが

     ぼくの 望み だ!

 

ジョーとフランソワーズは バナナやらクラッカーを食べ終わり

里山の日溜りから腰を あげた。

 

「 う〜〜ん  ここから山道を突っ切ってゆけば早道かも。 」

「 あら 本当? それじゃ このまま・・・ 行く? 」

「 薮の中とか突っ切るかもしれないけど 」

「 いい いい ! 秋の里山の中を歩くって すてき〜〜 」

「 よっし それじゃ 出発だあ 」

「 了解〜〜 」

 

  ガサ ガサ ガサ。  二人は枯れた雑草の中を歩き始めた。

 

薮の中は案外とほっこり温かく 楽しいハイキングとなった。

目的の観光・芋ほり園 は すぐにわかった。

ジョーの予想通り、平日の昼間なので来園者は他にいない。

 

「 あ〜〜 ゆっくり掘っててくださいよ〜〜う 

農園のオバチャンは にこにこ案内してくれた。

「 はい ありがとうございます! 」

「 お兄さん、  彼女 ・・・キレイなヒトだねえ〜〜 カノジョさん? 」

「 え あ あ〜〜〜  えへへへ・・・ 」

「 しっかり捕まえときなさいよ お芋でね 」

オバチャンは ばっち〜〜ん とジョーのオシリを叩いてくれた。

「 だぴゃ えへへ はい〜  」 

「 ジョー・・・ ここから入っていいの? 」

フランソワーズは農園の入口で待っている。

「 あ そうみたいだよ〜〜  ゆっくりどうぞってさ  」

「 まあ そうなの?  お芋さ〜〜ん ? 」

 

  農園は 土だらけの畝あり 緑の葉っぱもしゃもしゃの畝あり だ。

 

「 どこでとるの? 」

「 えっと ・・・ さ ― 3 だって。  あ ここだあ 」

小さなプレートを見つつ 二人は目的の畝の前に立った。

「 じゃ これで掘ってゆこ。 はい シャベル 」

「 ええ ・・・ こう ・・? 」

畝に ゆっくりシャベルをいれれば ― 

 

     おわ?   わあ〜〜〜〜 

 

  ぼこぼこ・・・っ  ずごごごご・・・・

 

黒い土の中から 続々と出てくるサツマイモ。 大きいのも 小さいのも。

「 すご〜〜い〜〜〜 ホントに土の中にいるのね〜〜 

「 わは ・・・ いっぱいあるね 」

「 これ ・・・ 頂いていいの? 」

「 芋ほりに来たんだもの、収穫しようよ 」

「 うわ〜〜 うわ〜〜 すご〜〜い〜〜〜  

 ねえ ジョーは前にも来たことがあるの? 」

「 ウン。 芋ほりって 保育園や小学校じゃ 秋の遠足の定番なんだ

 日本人なら 皆 一回や二回、経験があるよ 」

「 ふう〜ん  わ おっき〜〜 

「 ほら それ とって。 」

「 ええ  わ ちっちゃいのもある〜〜 同じ枝に付いてるのに 

「 それってさ 枝じゃなくて 地下茎 っていうんだ。

 サツマイモは 根っこに養分が溜まったものです って習ったな 」

「 ふう〜〜ん  一緒に育ってもいろんな大きさとか

 カタチがあるのねえ 」

「 あは そりゃそうだよ〜  野菜やイモにも いろいろあり さ。 」

「 そう よね ・・・ 同じお芋でも いろいろあって当たり前 よね

 ヒトと同じ ・・・ ええ わかってるの わかってる けど・・・ 」

フランソワーズの手が 止まった。

収穫したでっかいサツマイモを手に じ〜〜っと見つめている。

「 あ〜〜 それ 気に入った?  今晩、美味しく食べようよ 

ジョーは 彼女の気分を替えたくてわざと明るく言った。

「 ・・・ え ええ ・・・ 」

「 ねえ どうやって食べたら美味しいのかなあ? 

 フラン、 きみ なにかお勧めのメニュウ ある? 」

「 え サツマイモ の?  わたし ・・・ スウィート・ポテトしか

 知らないわ  昔 母が作ってくれたの ・・・ 」

「 あ〜 あの甘い洋菓子だろ? それ 作ってよ〜

 あと オカズになるのは ・・・ 天ぷらくらいしか知らなくて 」

「 ふふふ ・・・ ジョーのお母様はどんなお料理を作って

 くださったの? 」

「 ・・・ あ ぼく さ。 前にも言ったと思うけど 施設で育ったんだ 

 だから 所謂 < お袋の味 > って知らなくて 

「 ・・・え? 

「 母親って 記憶ないしね 」

< しまむら・じょー > が 教会の施設で暮らしていたのは

知っていた。  

彼女の友人の中にも いろいろ事情があって施設出身のヒトもいた。

成年前に 両親と離別・死別して 施設で育った・・・ という子供は

珍しくはない。

彼もそのような境遇だったのだろう、と推測していた。

 

      しかし ― 

 

   え・・?

   家が  ない?   

   もしかして    普通のおうちで 育ってない 

 

   お母さん のこと ・・・ 知らない ??

 

「 あ  あの ずっと・・・? 」

「 え? ぼく? あ うん。 赤ん坊の頃からさ。 」

「 そ そうなの・・・ 」

「 あの施設が 家 みたいってか 家 だったんだ。

 神父さまが親代わりをしてくださって・・・ 」

「 ・・・ ご ごめんなさい ・・・ ! 」

「 え なんで謝るの?  別にさ 滅茶苦茶不幸だったわけじゃないよ?

 ちゃんと学校にも通ってたし お腹減らしてたこともない。

 お小遣いも少しはもらえたしね 」

「 ・・・ そ そう・・・? 」

「 ウン。 でもね〜〜 家庭料理って知らなくて ・・・

 フラン、教えてくれる?  」

「 え ええ ・・・ このおっきなお芋さん、美味しく食べなくちゃ

 あ 焼き芋 ってこのイモよねえ? 」

「 そうだね〜 でも 焼き芋はオカズにはならないから 」

「 あ そうか  ねえ ここの農場の方に聞いてみましょうか 」

「 いいね〜  もっと収穫しようよ 」

「 そうね! 

 

  ぼこぼこ ・・・  土の中からサツマイモが陽気な顔を出す。

 

「 すげ〜な〜〜 でっか ! 

「 ホント ! 」

フランソワーズは 夢中になっているフリをして こそ・・・っと

彼の横顔を伺っていた。

いつもの 穏やかで優しい表情だ。

 

 でも ― 彼は 家族 も 母 も知らずに生きてきたのだ。

 

       わたし ! わたしこそ 大バカモノだわ !

      彼の気持ち ・・・ 全然考えなくて

 

      自分のコトばっかり で ・・・

      一人で 不機嫌になって ―

 

      いい年して 赤ん坊みたいよ フランソワーズ!

      考えナシの おバカさん !

 

 

フランソワーズの両親は彼女がオトナになる前に 亡くなった。

しかし 彼女はたっぷり・・・愛され大切にされ育った。

特段、裕福な家庭ではなかったが 夏には一家でバカンスで田舎のコテージで

過ごしたし 日々の暮らしは 温かかった。

 

「 ね〜〜 すっげ大収穫だよ〜〜 」

「 すごいわ 」

「 わははは〜〜ん これさ、コズミ先生のとこにも持ってゆこうか 」

「 あら そうね。 」

「 ね すうぃ〜〜と・ぽてと、 作って! 」

「 はい 了解♪ 」

芋の袋を担いで ジョーはご機嫌ちゃんだ。

 

    あ ・・・ いい笑顔 ・・・

    わたし  ―  

    どうやったら ジョーの本当の笑顔 を護れるかしら。

 

    彼が ココロからシアワセ って思える時って ・・?

 

フランソワーズは 芋畑の間を真剣な顔をして歩いていた。

 

 

Last updated : 11,19,2019.             index     /     next

 

***********  途中ですが

こりゃ 平ゼロ・ジョー ですねえ ・・・

彼は 一見穏やかで 優し気だけど

内側には 溶鉱炉 なんじゃないかな〜〜〜と

思ったりもしています。  フランちゃん どうする?