『 想い出 ほろほろ ― (2) ― 』
かた かたかた ・・・・
ジョーは 自分の腕が震えるのを止めることができない。
手にとった大判のフレームを 落とさないようにするのが精一杯だった。
「 ・・・ な なんだよ ジョー! だらしない。
さ サイボーグが震えるなんて ・・・ そんな有り得ない ・・・ 」
自嘲めいて自分を叱咤してみたが 手の震えは止まらない。
いや それは手の問題ではなく 心が震えているからだろう。
それでも 彼は手にしているものを 元の場所に戻すことができないのだ。
どうしても どうしても その写真から目を離せない。
― その写真は
わりとありふれた年配の男性と女性が門の前に並んでいる。
門は いつもの見慣れた・はずの ウチの門 なのだが
アイアンレースに 少し錆が浮いてみえる。
そして その前にいる男女は 二人とも髪は白く 顔には多くの皺が刻まれ
それでも 朗かに微笑んでいるのだ。
「 で でも ・・・ これ ・・・ この写真 ・・・
この男性は ・・・ああ ぼくがもし年とったらこんな感じになったかな・・・
フランもこんな風に年齢を重ねたんだろうなあ 」
ジョーは そうっと 深い深い愛情をこめて
その写真を その二人の顔を 撫でる。
愛しい温かい想いが溢れ ・・・ それは透明な雫となって頬を伝い落ちる。
「 すぴか ・・・! すばる ・・・
ああ お前たちは二人とも 幸せに生きたんだ ね 」
やっと震えが止まった手で 彼は丁寧に写真を戻した。
「 こっち側は ・・・ 知らないのばっかだ ・・・ 」
思い切って先に視線を転じてみた。
ジョーは一瞬 引き返そう、としたけれど 足は勝手に前に進んでしまう。
脚は 彼自身より遥かに 彼の欲望に正直なのだ。
「 ・・・ あ ・・・ 」
一枚 一枚の写真に 彼は食い入るように見つめる。
― だって 一番知りたくて 一番見たい光景 が並んでいるのだから。
写真の中のコドモ達は どんどん成長してゆく。
すんなり伸びた脚を出した姉 と まだぷっくりしている弟が
に・・・っと笑って並ぶ 校門の前。
二人の肩には 白い花びらが散っている。
「 ・・・ 卒業式 か? 小学校だな
あは ・・・ こんなに大きくなるんだ ・・・ 」
この二人はついさっき ジョーの腕に飛び付いてきたのだ。
まだ 飛び付かなければ届かない。 背丈はジョーの腰くらいまでだ。
ふっと 柔らかい笑みが唇に上ってきた。
もうやめよう! と思いつつも ジョーは並ぶ写真を見続けてしまう。
ぶかぶかの制服姿 ・・・ すぴかはスカートが気に入らず
すばるは ネクタイをしきりに弄っている。
ぐん、と背が伸びた弟、姉は相変らずぎちぎちに編んだお下げ髪だ。
「 お〜〜 青春! だなあ。 あ やっと姉貴の背に追いついたか
いやあ ・・・ お母さん似だねえ すぴか 」
初めて見るのにこんなに懐かしい。 温かい気持ちがこみ上げてくる。
見てはいけない、 見るべきではない と思いつつも
ジョーの視線はどんどん先に進んでしまう。
「 だめだ、ここでお終いにするんだ! ・・・ ああ でも・・・
お。 この制服は・・・ 高校生か! すばる、デカくなったなあ
ふふふ 強気の面構えは変わらないねえ すぴか 」
微笑つつ眺めていたが 一瞬、視線が浮いた。
ここにあるのは 確かに家族の写真なのだが ― 途中からは
< 二人 > だけのものばかり。
つまり 彼らの両親の姿が写っているものが 一枚もないのだ。
「 最初は ああ ぼく達の結婚式 とか チビ達が生まれた頃のには
ぼくもフランも写っているよなあ ・・・?
なんでアイツらだけの写真ばかりなんだ? 」
ジョーは 少しだけ暖炉から離れて眺め直してみた。
中央に大きなフレームがあり 左右に多くの小型の写真が並ぶ。
彼はしばらくしげしげと全体の光景を見ていたが ・・・
「 ・・・ これ ・・・ もしかして。
アイツらが 並べたのかも。 ぼくらに見せるため に・・・?
ぼくらが去った後お二人の人生を 生きざまを
ぼくらに見せてくれるための写真 なのか 」
そうか ・・・ そうなんだ ね?
・・・ すぴか すばる !
熱い熱い想いが ほろほろと湧きあがりそしてこぼれ落ちてゆく。
あのチビ達は こんなにも温かい気持ちを残していってくれたのだ。
「 わかってくれたんだ ・・・ ああ こんな親だけど
ホントに本当に 愛しているよ 大好きなんだ!
ぼくらのところに生まれてきてくれて ありがとう !! 」
ジョーは かっきりと顔を上げまた一枚 一枚 写真を見つめてゆく。
不意に 彼はくしゃ・・・っと顔を歪めた。
悲しいのではない 悲しむ必要などないのだ けれど・・・
嬉しさと切なさと そして 一抹の淋しさがいっぺんに押し寄せた。
その写真は ―
「 ・・・ お おめでとう ・・・ !! 」
確かに知ってる面影がある女性の幸せな花嫁姿。
そして 次に並ぶ写真は ―
かちこちに緊張して でも 喜びにあふれた花婿さん。
こ れ ・・・
ああ 絶対に見られないだろうなって思ってたけど
ああ ああ なんて 可愛い・・・!
ああ ああ なんて 凛々しい ・・・!
「 よかった ・・・! おめでとう おめでとう おめでとう
ぼくは、父さんは いつでもどこでもいつまでも お前たちのこと、
大好きだよ〜〜 お前たちの幸せを心から祈っている ・・・! 」
オトコが泣くなんて と一生懸命抑えてきた。
サイボーグが泣くなんて 滑稽だよ 有り得ない〜 と自嘲もしていた。
だけど もう限界だった。
・・・ うう ・・・
島村ジョー は 滂沱と流れ落ちる涙を拭うこともなく
その幸せの二枚を 見つめ続けた。
「 ! ・・・ ここに長居するわけには 行かないぞ!
ぼくは いつもの < ウチ > に戻って フランと協力して
チビ達を育てて行かなくちゃならないんだ!
そうだよ こんな幸せな人生を送らせなくちゃ! 」
その部屋から引き上げるのには かなりの意志のチカラが必要だった。
「 くっそ〜〜〜〜 ここで思い出に埋もれるわけには
いかないんだよ〜〜〜 ジョー 立つんだっ ! 」
必死の思いで その部屋のドアを閉めようとした その時
ありがとう! おとうさん。
「 ・・・ あ 」
彼はたしかに その声を聞いた。 よおく知った二つの声を 聞いた。
・・・ お前たち ・・・
ありがとう! すぴか すばる
キィ ・・・ パタン。 トン トン トン ・・・
くらくら眩暈を感じつつ ジョーは屋根裏に戻った。
― いや 逃げ帰った。
幸いにも その部屋は先ほどとは寸分も変わってはいない。
「 ・・・ あ よかった・・・ ここは
」
ほ・・っと胸をなでおろし 彼は古いソファに崩れ落ちるみたいに座った。
そう ・・・ か・・・
そうなんだね 幸せに ・・・
ぼく達が いなくなっても
二人きりになっても
まっすぐに 明るく 生きてくれたのか
温かい想いと共に それをおおきく超える切なさが襲ってきた。
いつかは ― それもそう遠くはないうちに ― あの子達の前から
姿を消さなければならない。
年を取らないバケモノは いつまでもこの普通の世界に居ては
ならないのだ。
そのことは 細君との間に子供を授かった時から 覚悟してきたはず
なのだ が。
わかってる わかってるんだ ・・・
でも。 見たくない。
気付かないフリを していたい・・・!
「 ・・・ ああ また一年 経ってしまったのね 」
「 フラン ・・・ 」
子供たちが誕生日を迎えるたびに 心からその成長を祝しつつも
彼の細君はぽつり・・・と 嘆く。
それも 彼の胸の中で 彼だけに聞こえるように。
「 あの子たちと一緒にいられる時間が また一年減ってしまったわ
ああ ああ ずっとこのままだったら いいのに! 」
「 ・・・ フラン 」
「 わかってる わかってる わ・・・
そんなこと、あの子たちがお腹の中にいる時から わかってるの!
・・・ でも でも ね 」
「 ・・・・ 」
そんな時、ジョーは 黙って彼女を抱きしめるしか ない。
ごめん ・・・ すぴか すばる
お父さん達は こんなバケモノは
コドモを持つべきでは なかったのかも・・
何回も 心の中で謝ってきた。 謝ってすむことではないけれど・・・
だけど ― この魅惑に日々を返上しよう なんて思ったことはない。
どんな結果が待ちうけようと それまでの輝ける愛おしい日々を
手放すことなんか できない。
だって 二つの命と共に 笑ったり泣いたり 時には怒ったり
懸命に生きる日々は なんと素晴らしいことか!
それはなにものにも 代えがたい。
「 ・・・ ごめんなあ ・・・
こんな親を許してくれ ・・・ ごめん、本当に 」
ジョーは ぼんやりと屋根裏部屋の梁を見上げた。
見慣れた光景だなあ、と ぼ〜〜っと眺めていたが。
! ここは < いつものウチ > だぞ?
この部屋は ドアの外とは別次元なの か?
がばっと立ち上がり 改めて部屋の外に向かい感覚を研ぎ澄ませる。
003ほどではないが 009も常人を遥かに超えた聴力を持っている。
・・・ 聞こえる ・・・!
リビングからだ これは ああ
鳩時計の音だ!
さっきは 静まり返っていたのに
ということは 今 この部屋の外は ・・・
さっきとは違う世界 ってことか
パラレル・ワールド??
そんなコトは 小説の中だけだろ??
だが 現実にぼくは ・・・ 違う世界を見た
夢かって? とんでもない!
どれもはっきりした現実だった・・・
・・・ じゃあ なんなんだ??
「 ! いつまで ここでぐずぐずしてるワケには行かないぞ。
とにかく 行動を起こさなければ。
おい しっかりしろ ジョー! 」
現状認識がまず第一、と 彼は腹を括った。
周囲をしっかりとサーチしてから、
もう一回 そ・・っとドアを開け廊下に出た。
カタン ― 案外ドアはスムーズに開いた。
「 ・・・うん? あ れ ・・・ 」
先ほどとは また様子が違っていた。
隅々にあんなに 積もっていた埃はどこにも見られない。
廊下のカーテンは ちゃんと洗濯してあるし、窓も輝いている。
なにより ― 空気が 生きていた。
ととと わいわい あははは〜〜〜 うふふふ
階下からは 人の気配がし子供の高声が聞こえてくる。
家中が活気のある雰囲気に包まれているのだ。
温かい空気が この三階にまでほんわり・・・と漂ってきている。
「 誰か いる? 下のリビング・・・?
女性と子供の声も するぞ。 これは 」
キシ ・・・ 足音を忍ばせつつ階下への階段の方に向かう。
トントントン !
突然 軽い足音が駆け上ってきた。
「 ! 」
ジョーは 素早く元のいた場所、屋根裏部屋へと立ち戻った。
そ・・・っとドアを閉め ほんの数秒の後 ―
ガタン バンッ !
それはそれは 勢いよくドアが開いて ― 一人の女性が顔を突っ込んだ。
「 やだ すばる! こんなトコにいて〜〜
掃除すませて お客さん用のクッション 出してね! 」
「 ・・・へ? 」
「 古雑誌なんか めくってないでよ〜 歌穂ちゃんに言い付けるからね!」
「 ・・・ は あ 」
「 しっかりしてよ 年末で忙しいのよ ぼけっとしてるヒマないわ
ま〜ちゃんが呼んでるよ! はやくね! 」
ドン バタン!
その女性は 言いたいことをぽんぽん言うと また突然
ドアを開けて出て行ってしまった。
豆鉄砲喰らった鳩 よりも ぽけ・・っとしているジョーを残して。
「 ・・・ あ あの ・・・ 」
ジョーは 突っ立ったまま 彼女が出て行ったドアを凝視していた。
だって 彼女は。 あんまりにも 彼の細君に似ていたから。
ただ一つ、全く異なる点が あった。
だから 彼は彼女を自分の妻だ、とは一瞬でも思わなかったのだ。
そう あの女性は ―
フランに良く似た ・・・ すぴか! そうだね。
「 は はは ・・・ 相変わらずなんだなあ ・・・
もう すぐにわかったさ。
お前のお母さんは 天地がひっくり返ったとしても
お父さんに ああいう風には言わないのさ
・・・ ふふふ ああ でも すぴかってば ホントに・・・
お前のその威勢の良さは 誰に似たのだろうねえ 」
びっくり、を通りすぎると じんわり・・・温かい想いが押し寄せる。
その温かさに溺れていたくなってしまう。
「 いっけない ダメだぞ ジョー。
このドアを開けて 踏み出すんだ。
そして どうあっても ― いつもの < ウチ > に帰る! 」
彼は全身の感覚をMaxにまで引き上げ ドアの外をサーチした。
「 ・・・ ん。 外の廊下には 誰もいない な。
でも 人の気配はちゃんと感じる。
「 よし。 ― 行くぞ! 」
ジョーは ドアの前に立つとノブを握りゆっくりと回した。
カ チャ ・・・ キ −−
ほんの少しの音と軋みを残しドアは開き 彼は廊下に滑りでた。
「 あ。 ・・・ ここは < ウチ > だ! 」
彼は一瞬で 笑顔になった。
足元の絨毯に 足跡のシミを見つけたからだ。
わ お! 戻ってきたぞ!
さっき この部屋に入った時の 廊下 だ
このシミ!
靴下が少し濡れてて ・・・絨毯を汚したのさ
まだ完全に乾ききっちゃいない
ふふふ フランに怒られる〜〜
「 いや このシミはずっと残しておくべき かな〜〜
まあ いいさ。 奥さんの顔、 見に行こっと 」
ほとんどスキップに近い足取りで ジョーはリビングへ
下りていった。
リビングは ― 案の定 というか 相変わらず というか・・
元気な声が響いている。
「 だ〜か〜ら〜〜 アタシがふくの 」
「 ・・・ 僕 ふく 」
「 ひとりでいいの。 あんたは外そうじ! 」
「 僕も まど ふく〜 」
「 アタシがやる。 」
「 僕! 」
「 アタシったら アタシ! 」
リビングのフレンチドアの前で 姉弟が言い合っている。
「 いい加減にしてちょうだい。 二人で拭けばいいでしょう!? 」
キッチンから フランソワーズの声が聞こえてきた。
「 おか〜さん ・・・ だって先にアタシが 」
「 僕も 拭く〜〜〜 」
「 だ〜から〜〜〜〜 」
「 僕 ふくんだ! 」
「 アタシがやるの。 雑巾 ちょうだい。 」
「 やだ。 」
「 すばる〜〜 」
「 やだ 」
ドタン ゴトン ・・・ バタン。
「 !! 二人ともっ 止めなさいっ!!
二人で拭けばいいんです。 すぴかは内側、 すばるは外側。
はい どうぞ。 」
エプロン姿のまま腕組みをした母に チビ達は逆らえない。
「 ・・・ ふぇ〜〜い 」
「 う〜ん 」
「 ちゃんとお返事しなさい。 すぴかさん すばるくん 」
「「 は い ! 」」
「 よろしい。 では 分業開始です。 」
「「 へ〜〜い 」」
カラリ。 フレンチ・ドアを開けすばるがテラスに出た。
「 すばる〜〜 いっせ〜のせ で拭くよぉ 」
「 ・・・ なに?? 」
「 だ〜からぁ いっせ〜のせっ で ふくの! 」
「 わあった 〜 」
「 じゃ いっせ〜の〜〜せっ !!! 」
「 ・・・わああ〜 はやすぎ〜〜〜 すぴか〜〜 」
「 アンタが遅くすぎ〜〜 すばる! 」
姉弟はぶ〜たれつつ窓拭きを始めたが さっそく外と内で
揉めている。
「 声 大きいです。 窓をふくのに そんな大声はいりません 」
またまたキッチンから 母の小言が飛んできた。
「 ふぇ〜い ・・・ も〜 なんで聞こえるわけぇ〜〜
」
「 すぴか〜〜 ほら こっち〜〜 」
「 あ まって まって〜〜 今〜〜 」
「 へへへ おもしろ〜〜 」
「 ふふふ たのし〜〜 」
二人は すぐに外と内できゃらきゃら・・・笑い声をあげつつ
実体と影 みたいな恰好で窓拭きを進めてゆく。
へ え ・・・ 息の合ったもんっだなあ
さっすが 双子・・・ 以心伝心ってやつか
ジョーは リビングの入口で彼らの作業を眺めていた。
ああ ・・・ ウチだよ ・・・
この賑やかさ この騒々しさ が
ぼくの、ぼくとフランの ウチ なんだ
彼はしばし じ〜〜っと目の前の光景に見とれた、いや 見惚れた。
「 やあだ ジョーってば。 どうしたの?? 」
不意に 後ろからよく聞きなれた声が飛んできた。
振り返れば この世で一番愛している笑顔 があった。
フラン ・・・ !
ああ ぼくの女性 ( ひと )
ぼくだけの ひと!
「 え 」
「 水でも跳ねたの? 顔。 汚れてるわ 」
「 ? ・・・ おわ?? なんだあ 」
つるり、と 顔を拭ってみれば ―
涙の痕に ホコリが付いて筋みたいになっていたらしい。
え ・・・ やだなあ
おい だらしないぜ ジョー
オトコだろ お前!
「 うひゃあ カッコ悪いなあ 」
彼は自分の手に付いたホコリに 驚いたフリをし
掌で ごしごしこすった。 今 滲んでいた涙も拭いた。
「 屋根裏部屋って そんなに汚かった?
はやく 洗っていらっしゃいよ 」
「 あ うん ― ごめん ちょっとだけ 」
「 え? ・・・ あら 」
きゅ。 ジョーは彼の細君を抱きしめ す・・・っと唇を盗んだ。
「 ・・・ ん〜〜 やあだ ちゃんと顔 洗ってきてよ 」
「 あはは ごめ〜〜んねえ 」
「 ふふふ キライじゃないわ ううん 素敵♪ 」
ちゅ。 お返しのキスがホコリを避けてか 唇に降ってきた。
「 わっはは〜〜〜ん 洗ってくる〜 」
バタバタバタ 彼はわざと足音を立て駆けていった。
「 もう〜〜 ・・・ 悪戯っこなんだからあ 」
ジョーの細君は にこにこ笑ってキッチンに引っ込んだ。
「 ふ〜〜んふんふん♪ あれ アイツら まだいるのか 」
ジョーは上機嫌でリビングに戻ってきた。
だか〜ら〜〜 上からふくの!
やだ。 下からじゅんじゅんにふく。
上から!
やだ。 下から。
チビ達はガラス戸を挟んで わいわいやっていた。
「 ありゃあ お前たち お使いは? もう済ませたのかい 」
「 んん〜〜ん これからいく〜
あ ねえ おと〜さん おと〜さんも一緒に行こうよ〜〜〜 」
「 ね おと〜さん いっしょ〜〜 おつかい〜〜 」
「 あ そうだなあ じゃあ 三人でゆくかい 」
「「 わあお〜〜〜 」」
「 じゃあ すぴか すばる、窓拭き きっちりすませろ 」
「 おっけ〜〜 いくよ〜 すばる 」
「 すぴかあ〜 ん ・・ いっ せ〜の〜〜〜 」
あははは きゃははは ・・・
姉と弟はまたしても大騒ぎしつつ なんとか掃除を終わらせた。
「 お〜い お前たち〜〜 手、洗って。 雑巾片して。
ダウン 着て、帽子 手袋 しておいで 」
「「 はあ〜〜〜い 」」
ドタドタ バタバタ ・・・ 元気な足音が子供部屋に向かった。
「 あら ジョーも行くの? 」
キッチンから フランソワーズが戻ってきた。
「 おう。 しっかり監督するからな 」
「 ありがと♪ あ それじゃ 買い物、追加ね〜〜
トイレット・ペーパーに テイッシュ。 あと 洗濯洗剤も買ってきて
そうだわ 蜜柑と白菜もお願いね 」
「 ・・・ うへえ 」
「 ね〜〜 おか〜さん! おか〜さんも いっしょ しよ? 」
「 おか〜さん も〜〜 一緒がいい! 」
チビ達が 母親に纏わりつく。
「 え ・・・ あ そうねえ わたしも外に出たいかな 」
「 うん うん それがいいよ! 皆でゆこう。
自転車 全部手入れはしてあるから!
なあ 戸締りとかしとくから フラン、支度しておいでよ 」
「 あら そう? じゃあ ・・・ しっかり防寒してくるわね 」
家族で 商店街にお買いもの 皆揃って お買いもの。
晩御飯のオカズに トイレット・ペーパーに 石鹸に お蜜柑に。
ついでに皆の好きな 焼き芋 をどっさり。
わっせ わっせ〜〜〜
自転車にいっぱい荷物 積んで 坂道 はいほ〜〜♪
「 すばる〜〜 ちゃんと押す! 」
「 ん〜〜〜 っしょぉ〜〜〜 」
「 すばる ほら ハンドルをしっかりつかめ 」
「 うん ・・・ っしょお〜〜〜 」
「 すぴか 大丈夫かい ゆっくりでいいんだよ 」
「 へ〜〜き! アタシ 先頭〜〜〜 行くよっ 」
「 あ〜〜ら じゃあ お母さんもすぴかさんと! 」
先頭を娘と妻の自転車が 進んでゆく。
ジョーは息子と それを追ってゆく。
「 わあ〜〜 待ってくれえ〜〜〜
すばる ほら 行こう! 」
「 ん・・・ ん〜〜〜 が がんばる〜〜〜 」
「 ほら いっちに いっちに 」
「 ん ん ・・・ いっち に ・・・ 」
あ は ・・・ これが ぼくの家族
これが ぼくの ぼくとフランの 思い出
チビ達の 思い出 ・・・!
シャ 〜〜〜 自転車で風を切り坂道を登る。
そうなのだ。 この一つ 一つの光景が あの写真達の後ろに連なっている。
想い出は あとから あとから 溢れ出る
ほろほろ ほろほろ ・・・ こぼれおちる
― どこに? あなたの こころ に。
想い出 ほろほろ
****** 楽しい・オマケ
ある年の暮れの ある日 ―
すぴかは リビングに降りてきて目を見張った。
「 ?? すばる?? なんで あんた ここにいるのよ? 」
「 ?? なに言ってんだよ〜 すぴか。
僕 頼まれた買い物に行ってきたとこだぜ ふ〜〜 おも・・・ 」
「 うそぉ〜〜 だってあんた 今さっき物置にいたじゃんか 」
「 へ?? 物置 って ・・・ あの三階の? 」
「 そうよ! あそこの屋根裏部屋で 古雑誌とかひっくり返して
いたんでしょう? アタシの姿みて 慌てて部屋に戻ってさ〜 」
「 はあ?? だ〜か〜ら。 買い物に行ってたって。 俺。
ほら! これ 証拠! 」
彼は でっかいトートバッグを差し出した。
「 ・・・ ありゃ。 そ だねえ ・・・ じゃあ ・・・
なんなの あれ だって確かに すばるだった ・・・はず 」
「 ふ ふん! え ・・・ あ ・・・?
なあ ・・ それって・・・ 」
「 あ。 なんか髪、茶色だったかも。
じゃあ ・・・ もしか して。 」
「 ああ。 もしかして 」
すばるは 金茶の自分の髪をわさわさしてみせた。
「 あそこだもんねえ・・・ 屋根裏部屋。 」
「 ウン。 あの三階だからさあ ありえるな 」
「 ・・・ あれは おとうさん か も ・・・ 」
「 ん。 父さん だよ 」
「 だ ね。 お父さん だね 」
姉と弟は 見つめ合い 少しばかりの涙と懐かしい微笑を交わした。
********************** Fin.
**********************
Last updated : 01,05,2021.
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********** ひと言 **********
う〜〜〜 旧年中に書き上げたかったのですが・・・・
新年早々 切ないハナシですみません〜 <m(__)m>
【しまむらさんち】シリーズは いつも切なさが
底に響いているのだなあ・・・と思うのです・・・