『 包丁と万年筆 ― (1) ― 』
町はずれの岬の突端に建つ ちょいと古びて みえる 洋館には
一組の家族が暮らしている。
日本人だ、という茶髪の若いご主人と 金髪碧眼美人の若奥さん、そのどちらかの
親御さんとおぼしき白髪の好々爺なご隠居さん ― そして。
双子の姉・弟 すぴかさん と すばるクン が わいわい・がやがや〜〜
笑ったり怒ったり泣いたりして・・・ 元気に暮らしている。
地元の商店街でも人気のこの一家 ・・・ 少子化とかいる田舎だけど
しっくり地域に溶け込んでいる。
― さて。
島村すばるクンの趣味は ― 料理である。
彼はな〜〜んと愛用の < まい包丁 > をもっている。 これは小学一年のクリスマス・プレゼント。
彼がそれはそれは熱心にサンタさんにお願いをし、お手伝いに精をだし苦手なお野菜も一所懸命食べた結果
― その年のクリスマスの朝、すばるクンの枕元には ホンモノの ( 子供用とか
ではなく! ) 包丁が ― 刀身に すばる と名前まで入っている! ―
静かに新しい持ち主を待っていた のであった。
「 ・・・ う わ・・・・! これ ほんもの? 」
すばるは着替えるのも忘れ そ〜〜〜〜っと開いた包みの中でじんわり青く光っている
刃物を 瞬きも忘れて見つめていた。
「 おはよう すばる? あれ まだパジャマなのかな〜 」
とんとん・・・と子供部屋のドアをノックしてお父さんが顔をだした。
「 おと〜〜さん!!! あのさ あのさ〜〜〜〜 サンタさんがさ〜〜〜
僕に ほうちょう!!! ねえ 僕のほうちょう !! 」
「 あ すごいなあ〜〜〜 お父さんにもよ〜〜く見せてくれるかな? 」
「 うん! みて みて〜〜〜 ココに 僕のなまえ・・・ 」
ぷっくりした指が 刃に刻まれた銘をそう・・・っと撫でる。
「 ほう〜〜 スゴイなあ。 すばる、これは一生モノだね。 」
「 いっしょうもの? 」
「 そうだよ。 すばるが大きくなって お嫁さんをもらってお父さんになっても
ず〜〜〜〜っと使うんだ。
」
「 うわわ・・・ 僕ね! お母さんをお嫁さんにするんだ〜〜 」
「 え。 」
「 もう決めてるから。 」
「 えっと・・・ お母さんは〜〜〜 もうお父さんのオクサンで〜 」
「 ウン、 お母さんは僕とすぴかのお母さんさ。 で もって僕がいっちば〜ん
すきな女の子だから。 お嫁さんにするよ。 き〜まりっと。 」
「 あ〜〜〜 それは〜〜 」
「 ね! お父さん。 僕 これ・・・・つかっていい? 」
「 あ〜 えっと まずはちゃんと着替えて顔を洗ってからだ。
いつまでもパジャマのままだと風邪をひくよ 」
「 うん! うわ〜〜〜〜い♪ 」
すばるは 勢いよくベッドから飛び降りた。
のんびり屋の彼は 毎朝起きるのが苦手で母の手を焼かせているのだが
( ほんとうに! 誰かさん そっくりなんだから・・・ とは この家の
女主人の発言 )
その日は とっと着替えたたた・・・っと顔を洗いに飛んでいった。
う〜〜んとチビの頃から すばる はキッチンが好きだった。
いや 彼はお母さんのくっつき虫だったので < くっついて > キッチンに
いることが多かったのでもあるが。
食事時でなくても 母と一緒にキッチンに入り浸りだ。
同じ日に生まれた < 姉 > すぴか は 一応お母さんを追ってくるが
「 おか〜さん ・・・ うめぼし ちょうだい。 」
「 おっきいの? カリカリ梅干し? 」
「 かりかり〜〜 」
「 待ってね〜 ・・・っと〜〜 はい あ〜ん? 」
「 あ〜〜〜ん 」
ぽい、と小粒の梅干しを放り込んでもらいご機嫌ちゃんだ。
「 んん〜〜〜〜 おいし〜〜 アタシ、 こうえん でえみちゃんたちとあそぶ〜 」
「 はい いってらっしゃい。 タタン・タ・タン〜♪ 聞いたら帰ること。 いい?
」
「 うん! 」
タタン・タ・タン とは この近辺で5時に流れる < お家に帰ろう音楽 > なのだ。
すぴかは 梅干しを口にいれ外に飛び出していった。
「 すばるクン? すばるクンはお外に遊びにゆかないの?
すぴかさんとえみちゃんたちと公園で遊びましょう? 」
「 僕 いい。 」
「 どうして? ヒロクンたちもいるわよ きっと。 」
「 僕 いい。 僕 おかあさんのおてつだいする。 」
「 ありがと。 でもね 今すばるクンができることはないわ。
お母さんだけで大丈夫。 だから 」
「 おか〜さん おりょうり おしまい? 」
「 え? ううん これから人参やじゃがいもやタマネギを切ってお鍋で煮るのよ。 」
「 僕 みててもいい 」
「 いいけど ・・・ 面白くないと思うわ? 」
「 僕 みてる。 」
「 そう? それじゃね 約束。 お母さんが包丁でとんとん・・・・って
お野菜を切っているときに すばるクンは手をださないでね?
包丁で すばるクンの指が切れちゃったらたいへん! わかった? 」
「 うん、 わかった。 僕・・・ みてる。 」
すばるは背中に手を回し じ〜〜〜〜っと母の手元 ― というか包丁の動きを
見ていた。
へえ・・・? ナイフとかに興味があるのかしら
あ そういえば ジャン兄さんも缶切りとかいろいろくっついたナイフ・・・
もってたっけ・・・
ふふふ ・・・ すばるも男の子なのねえ
母は時々ちら・・・っと息子に視線を送ったが すばるはポトフの材料が
無事にお鍋に収まるまで それはそれは熱心に眺めていた。
「 〜〜〜っと これでおしまい。 」
火加減を調節すると フランソワーズはぱん、と手を打った。
「 もうできたの??? 」
すばるの目はまん丸だ。
「 え? ううん これからね お鍋の中でぼこぼこぼこ〜〜って煮るのよ。 」
「 ふうん・・・ もう ほうちょうとんとん・・・おしまい? 」
「 そうね、切るのはおしまい かな。 」
「 ふうん。 あ 僕〜〜 JRみてくる〜〜 」
「 あら一人で? 」
「 ウウン。 わたなべクンといっしょ。 4じにやくそくしてるんだ〜 」
「 あら そうだったの? えっと・・・・丁度好い時間ね。
じゃ 気をつけてね。 踏切では遊びません、よ。 」
「 あそばな〜いも〜ん。 二人でJRのあてっこするんだ 〜 」
「 あてっこ?? 」
「 ウン! こんどのしゃたいが 何型か? って 」
「 へえ ・・・ お母さんには全然わからないわ。 気をつけてね。 」
「 ウン。 いってきま〜〜す〜〜〜 」
すばるはにこにこ・・・出かけていった。
ふう ・・ やれやれ・・・
オトコノコだものね やっぱり電車とかに興味があるのね〜
いいことだわ キッチンにいるよりずっといいわ
フランソワーズはほっとして サラダのドレッシングを作りはじめた。
その翌朝のこと・・・
( 昨夜は勿論! 美味しい〜〜 ポトフとサラダを家族で堪能した )
「 ね〜ね〜〜 おか〜さん・・・ と〜すとにじゃむ〜〜 」
すばるは食卓でゴネていた。
「 ちゃんと塗ってありますよ? ほら〜〜 はやく食べてちょうだい すばる。
すぴかはもうとっくにお玄関で待ってますよ
」
「 すばる〜〜〜〜〜 まだ〜〜〜〜〜 」
玄関から 多分いらいらしているらしきすぴかの声が飛んできた。
「 すぴかさ〜ん もうちょっと待っててね〜〜
ほら すばるクン、食べて。
」
「 じゃむ ぬって。 」
「 塗ってあります。 ほら〜〜 すばるクンの好きな苺ジャムよ? 」
「 もっとぬって 」
「 え〜〜 これでいいでしょう? 」
「 じゃ はちみつ ぬって 」
「 ジャムじゃ嫌なの? 」
「 ウウン。 じゃむに〜〜 はちみつ。 」
「 ! ・・・ 今日だけよ! 」
「 わい〜〜〜♪ 」
母は たら〜り・・・ハチミツをトーストに垂らすと、ぱたぱた玄関に出ていった。
「 すぴかさ〜ん ごめんね もうちょっとだけ待ってて・・・ 」
「 も〜〜〜 アタシ 先にいくよ〜〜〜〜 」
ジレジレしている姉娘を宥め 急いでキッチンに戻ってくると ―
すばるは 蟻さんでも眩暈がしそ〜な激甘・トーストをむぐむぐ・・・美味しそう〜に
一切れ平らげていた。 お皿にはもう一切れ 残っている。
「 こっちも〜 」
「 これはね オヤツにとっておくから。 ね? 」
「 う〜ん ・・・ たべないでね〜〜 おか〜さん 」
「 食べませんっ 」
「 すばる〜〜〜 アタシ さきにがっこういくっ 」
玄関の声はもうクライマックス? に達している。
「 すぴかさ〜〜ん あと3分! ほら すばる〜〜 ミルク 飲んで! 」
「 おか〜さん おさとう いれた? 」
「 ・・・ ミルクにもお砂糖いれるの??? だってこんなに甘いトースト食べて 」
「 おさとう〜〜 いれて 」
「 今日が最後よっ! ・・・ ほら 飲んでっ 」
「 ・・・・ん〜〜〜〜〜〜 ごちそうさま〜 あぶくぶくしてくる〜 」
「 ううう・・・ ほら 行きましょっ ! 」
ついに 母はのんびり息子を抱えてバス・ルーム経由で玄関に届けた。
「 すぴかさん〜〜 ごめんね〜〜〜 さあ 行ってらっしゃい。 」
「 すばる おそい〜〜〜〜っ 」
「 あは いってきま〜す おか〜さん。 ね〜〜 こんどね〜〜
とーすとに〜 じゃむ と ちーず と はちみつ と〜 」
「 ほらほら 行ってらっしゃい! 」
母は 子供たちのランドセルを押して玄関から出した。
門の前で 手を振りつつ 子供たちを見送る。
カタカタ・・・ ランドセルを揺らし小さい影は無事に家の前の坂を下りて
登校していった。
・・・ やれやれ ・・・
フランソワーズはため息をつき ついでに う〜〜〜ん ・・・ と伸び〜〜をしてから
玄関にもどった。
「 ! うわ 〜〜〜 な なんだ?? 今朝のトーストは??? 」
キッチンから ジョーの叫び?が聞こえる。
? あ! すばるの ジャム+はちみつ・トースト、お皿にのせたまま・・・
「 ・・・・! ジョー〜〜〜〜 食べちゃだめ〜〜〜〜 」
フランソワーズは絶叫しつつ 家に駆けこんだ。
ダダダダダ ・・・ ! バンっ!
当家の女主人が 髪を振り乱しキッチンに飛び込んできた。
「 ジョー っ!! た 食べちゃ った ・・・? 」
「 ?? え。 ど 毒でも入っているの?? 」
テーブルの前では 当家の若主人が口を微妙〜〜に歪めかなり努力をして
口の中のモノを呑みこもうとしていた。
「 う ううん ・・・ でも それ やっぱり・・・ 毒 かも 」
「 え??? だってすばるのお皿に乗っていたよ? 」
「 ええ すばるが食べた残り よ。 」
「 ?? ぼくが食べたら毒なのかい? 〜〜〜〜 う〜〜〜〜 む ・・・ ! 」
ジョーはなんとか ソレ を飲み下した。
「 ・・・ うっは〜〜〜 ・・・ なんかものすごい衝撃だったんだけど・・・
このトーストって なに?? なにが着いてるんだ? 」
彼は 一口齧ったパンをしげしげと見つめる。
「 べつに ・・・普通のモノよ。 苺ジャムと ハチミツ。 」
「 い 苺ジャムとハチミツ?? う〜〜〜 どうりで劇的に甘かったわけだ〜
うん? しかしもうちょっと他の甘さもあったような・・・? 」
「 え! ・・・ あ〜〜〜 マーマレードも塗ったんだわ! すばるってば! 」
フランソワーズはテーブルに出してあったマーマレードの瓶をさした。
「 げへ・・・ すばるってば滅茶苦茶甘党なんだなあ チョコとか好きだよね。
しかしまあちょいと その 甘すぎだよね? これ・・・
フラン、きみ よく塗りたくっていいって言ったね。 」
「 だめって言ったんだけど ・・・ 玄関ではすぴかがジレジレしてたし ・・・
ともかく朝ご飯食べさせなくちゃ・・・って思ってしょうがなく。
けど どうしてあんなに甘党なのかしらね?? 」
「 う〜〜ん・・・? 生まれつき かなあ。 すぴかは全然違うよねえ 」
「 ええ すぴかはしょっぱいモノのが好きなのよ。 辛いのも平気だわね 」
「 へえ ・・・ オトナの味覚なのかなあ。
ま 双子っても全然違って面白いじゃないか 」
「 ― でもね ホント すばるの甘いモノ好きはちょっと行きすぎかも 」
「 チビの頃は皆甘いモノ好きだよ。 ぼくだってそうだったもの。 」
「 あらァ〜 ジョーは今でも、でしょう? 」
「 え あ〜〜〜 うん まあね〜 」
ジョーは今でもコーヒーや紅茶に砂糖を3コ入れる。
「 朝のトーストは バターだけでいいと思うわ わたし。
すぴかなんてバターにマヨネーズぬってトマトとかのっけてばりばり食べるわよ。
過度の糖分摂取はいくらジョーでも健康によくないと思います わたし。 」
「 すぴかは ・・・ 野生児だ 」
「 え なに? 」
「 いや なんでもないデス。 う〜〜ん しかし肥満児になってもなあ・・・
うん、今度一緒にごく一般的なトースト、作ってみるか すばると さ。 」
「 あら そう? それじゃ 普通のトーストの美味しさを教えてやってね 」
「 うん。 そういえばアイツ、キッチン好きだよなあ? 」
「 そう? そうかしら・・・ わたしにくっついてくるだけよ きっと。 」
「 う〜ん? ぼくが焼きそばとか作るとき すげ〜〜熱心に見てるぜ?
野菜を洗う とか手伝えるし 」
「 ふうん? ま ともかく 宜しくご指導願いますね 」
「 へいへい あ ほら きみ 出かけないと 」
「 ! きゃ〜〜 大変〜〜〜〜 」
「 キッチンは片しておくからさ。 あ 駅まで送ろうか?
今日 ぼく 在宅仕事だからさ 」
「 大丈夫! 急げば 30分のバスに間に合うから ・・・ じゃ イッテキマス〜
加速そ〜〜〜〜ち!!!! 」
かち! っと音声表示までして フランソワーズはばたばたと二階に駆けあがっていった。
「 ・・・ ふふ カチ、か。 えへへ・・・
実はさ結構これ・・・ 美味しいな〜と思ったんだよな 一口目はびっくりしたけど 」
ジョーは食卓の前に座りなおすと息子が残した ジャム はちみつ マーマレード ・
トースト をのんびり平らげた。
赤みがかった茶色の瞳に じわ〜〜〜っと涙が盛り上がってきた。
「 ぼ 僕の オヤツ ・・・ 」
「 なあ ・・・すばる〜〜 ごめんって言っただろう? 」
「 ・・・ 僕のオヤツ・・・ お父さんってば食べちゃった ・・・ 」
「 だから ごめんって。 お父さんさ〜 朝ご飯食べようと思って降りてきたら
と〜〜ってもおいしそうだったんで ― それで その 」
「 僕 ・・・ 学校からかえってきたらたべるって お母さんにいっといたのに。
僕 すごく〜〜たのしみにしてたのに 」
ジョーの小さなムスコは 半分涙目になっている。
「 ごめん! な 今から一緒に トースト作ろうよ? な? 」
「 いっしょに? お父さんと? 」
「 そ! ほら〜〜 今からトーストするからさ 塗るもの、考えて すばる。 」
「 わ♪ それじゃね〜〜 え〜〜と ・ じゃむ と〜〜 はちみつ と〜〜
おさとう と〜〜 め〜ぷるしろっぷ と〜〜 」
「 すと〜〜っぷ。 甘いものばっかだよ? 」
「 あまいの すき〜〜 」
「 う〜ん・・・ じゃ さ。 いちご のっけようよ? 生の苺をさ。
庭の温室から摘んでこよう! すぴか〜〜 すぴかも行かないかい
」
ジョーは お煎餅をばりばり齧っている彼の娘に声をかけた。
「 ばり ばり ばり 〜〜〜 むぐ? なに〜〜〜 お父さん 」
「 あのさ、 苺トースト 作ろうとおもって 一緒に苺 摘みにゆこうよ。 」
「 いちごとーすとぉ? ・・・ 甘いの やだもん アタシ。 」
「 あ・・・じゃあさ プチ・トマト とか バジル とか摘んできて
マヨネーズ・トースト するかい? 」
「 うわ♪ やるやる〜〜〜 ねえ ねえ お父さん、からしまよね〜ず って
めっちゃオイシイよ〜〜 知ってる? 」
「 からし・・・って あの辛いやつ?? すぴか 食べれられるのかい? 」
「 ウン! だ〜〜いすき〜〜〜 しゅうまい とか ぎょ〜ざ のときに
カラシ、たべるもん。 」
「 へえ ・・・ ま とにかく一緒に温室に行こうよ 」
「 「 うん ! 」 」
親子はわらわら裏庭の温室に飛んでいった。
ザルの中には いちご。 ― 大小さまざま ・・・ ついでに熟れ具合もさまざま。
まん丸なプチ・トマト ― こちらも青味が勝っているものも混じっている。
葉っぱ いろいろ ― 多分 全部食用 のはず。温室の中にな毒になるものは植えていない。
キッチン・テーブルの上は 賑やか だ。 大収穫かもしれない。
「 わ〜〜〜 いっぱい〜〜〜 」
「 いちご たべたい〜〜 」
「 まて まて。 今日は一緒に料理、だろ? 」
「 うん ! アタシね〜〜〜 カラシまよね〜ず に おしょうゆ! 」
「 僕 おさとう と はちみつ〜〜〜 」
「 ( うげ ・・・ ) さあ どれにしようかな? まずはトースト、
作ろうよ。 手を洗って〜 」
「「 わい〜〜 」」
「 お父さんが パンを切るから。 二人でトースターにいれてくれ。 」
「 ウン 」
「 あ 包丁を使っているときに 手をださない。 あぶないからね 」
「 うん ・・・ すご〜〜 」
ジョーは パン切りナイフで結構上手にスライスをした。
子供たちは じ〜〜っと眺めて ふ〜〜〜っと息を吐いた。
「 おとうさん ・・・ ほうちょうってすごい〜〜〜〜 」
「 あ〜 これはねえ パンを切るせんもんの包丁でね そんなに切れるモノじゃないんだよ 」
「 え〜〜 パンさん、きれ〜〜うすくなってく〜〜 」
「 うおっほん。 それはお父さんの腕がいいからさ 」
「 うで? お父さんの手が いいこなの? 」
「 あ〜 そういう意味じゃなくて ・・・ 」
「 お父さんがじょうずってこと! 」
すぴかも側にきて口を挟む。
「 ね〜 ね〜〜〜 お父さん、 アタシもぱん、きってみたい〜 」
「 お やってみるかい? ちょっとくらい厚く切ってもいいよ 」
「 わ〜〜 えっとお? 」
「 そうそう 反対の手でパンを押さえて 包丁でゴシゴシやらないんだ。
す〜〜っとひっぱるみたいに ・・・ あ 上手いぞ〜〜 すぴか〜〜〜 」
「 えへ♪ いちまい き〜れたっ♪ これ アタシ食べていい? 」
「 いいよ〜 何を乗せるか考えておくれ。 」
「 うん! アタシね〜〜 バター にうめぼしと〜ノリのつくだに! 」
「 へ ・・・え ・・・ 」
「 おと〜さん。 僕もほうちょう つかってみたい。 」
「 お いいよ。 パン 切ってみるかい。 」
「 僕。 おやさい、きりたい。 」
「 やさい?? う〜〜ん ・・・ あ それじゃポテト・サラダ つくろうか?
晩ご飯用にさ。 お母さんのお手伝いだ。 」
「 ウン! 僕 だいすき〜〜〜〜 」
「 あ アタシもすき! ねえねえ たまねぎさんとニンジンさん いれて! 」
「 おっけ〜 じゃあさ。 すばる、きゅうり、切ってみようか。 」
「 キュウリ? ・・・ すきくないけどきる! 」
「 自分で切ったキュウリならオイシイさ。 え〜〜と これ、切ろう。
お父さんの隣においで。 」
「 うん。 」
すばるは ものすご〜〜〜く真剣な顔でまな板の前に立った。
― その日。 すばるは初めて包丁を使い キュウリを薄切りにした。
ちょびっと厚ぼったい < 薄切り > だったけれど、 彼はと〜〜〜っても満足し
晩御飯にゆっくり味わいつつ嬉しそうに食べていた。
そして その日から < ほうちょう > は 彼の憧れとなった。
キュウリやナスが上手に切れるようになると 次はジャガイモに挑戦した。
「 ジャガイモの方を動かしてゆくんだよ。 ナイフはあんまりゴシゴシしない。 」
「 こ こう・・・? 」
ぷっくりした短い指が 懸命にナイフを握っている。
「 そうそう ずず〜〜っとジャガイモをまわしていってごらん。 」
「 う うん ・・・ 」
小さな手に ジャガイモがやけに大きくみえる。
「 お〜〜〜 上手いぞ〜〜 その調子 ・・・ 」
「 う うん ・・・ 」
すばるは寄り目になりそうなくらいじ〜〜っとナイフとジャガイモを見つめている。
「 ほ〜ら〜〜〜 ちゃんと皮がむけてきたよ〜〜 」
「 う うん・・・・ はあ〜〜〜 」
やがて切れ切れの皮をそこいらへんにまき散らしつつ なんとか・・・ ジャガイモは
剥けた!
「 ・・・ や た・・・! 」
「 すごいぞ〜〜 すばる。 もう一個、チャレンジしてみるかい。 」
「 ウン! やる。 」
すばるは再び 黙々とジャガイモに取り組み始めた。
「 ・・・ ジョー ・・・ 大丈夫かしら ・・・ 」
フランソワーズはガス台の前からチラチラ・・・心配そう〜に見ている。
「 大丈夫、上手いもんさ。 な すばる? 」
「 う うん ・・・ 」
今のすばるには ジャガイモとナイフしか目に入っていない。
「 ・・・ あ ・・・・ 指 切りそう〜〜 」
「 平気だよ、あれはペティ・ナイフだから切れ味もそんなに鋭くない。
それに ちょっとくらい指 切っても、それも勉強さ。 」
「 え でも・・・・ 」
「 きみだってちょっとした怪我くらい、しただろう? 料理を教わったころにさ 」
「 え ええ ・・・ それは そうだったけど・・・ 」
「 なんでも練習だよ。 」
「 そう ねえ ・・・ でも ジョーって案外お料理するのね?
もしかして 料理少年だったの? 」
「 いやあ ・・・ ぼくはさ 出来ることはなんでもしなくちゃならなかったから・・・」
「 え? 」
「 育った施設はさ、人手不足で・・・買い出し当番とか料理当番とかあったんだ。
だから ― まあ さんざん手を切ったりヤケドしたりしたけど ね 」
「 ごめんなさい。 ― ありがとう ジョー ・・・・ 」
「 え? 」
「 あ〜〜〜 ジョーがすばるのお父さんでほっんと〜〜に よかったわ♪ 」
「 あは? ・・・お。 全部剥けたかい、すばる? 」
「 ・・・ ウン! お父さん〜〜〜 」
すばるは 剥き終えたジャガイモ ― 見た目はドガヒョガしてたけど ― を前に
得意満面に に・・・っと笑った。
それから ― 指をちょいと切ったり 熱いフライパンに触っちゃったり 湯気で
思わぬヤケドをしたり − いろいろあったが すばるは < 料理少年 > に成長した。
「 お母さん? その人参、 面取りしないとダメだよ。 」
「 え〜〜〜 面倒くさ ・・・ 」
「 煮しめは手抜き厳禁。 あ 膾は僕がやるから。 手、ださないで。 」
「 ― わかりました。 」
数年後には 島村さんちのお節料理はほぼ・・・すばるの手作りとなった。
便利で助かるけど ― あの 上から目線 はなんなの〜〜〜〜
こと料理に限っては すばるが岬の家に君臨していた。
さて。 島村すぴかさん は。
「 それ なあに、おじいちゃま。 」
リビングで手紙を書いていた博士の手元に すぴかの視線はくぎ付けだった。
Last updated : 05,24,2016.
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********* 途中ですが
え〜〜 お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズ? です〜〜
双子ちゃんの < こだわり > について ・・・