『 おつかい ― (2) ― 』
わたし この能力
( ちから ) 嫌い … !
彼女は 振り絞るみたいな声で ぼそっと言った。
「 ・・・ え ? 」
「 ・・・・・・ 」
振り向いたジョーは 彼女がそっと涙を抑えているのを見てしまった。
「 ・・・・ 」
彼は なにも言えず ― そっと彼女の肩を抱き寄せた。
ほっそりとした身体が すとん ・・・と 彼の腕の中に落ちた。
「 あ ごめ・・・ 」
彼はあわてて離そうとしたが。
「 ・・・ ううん ごめん ちょっとだけこうしててくれる? 」
くぐもった彼女の声が 聞こえた。
「 あ ・・・ き きみがよければ ・・・・ 」
「 ごめん ・・・ 」
ジョーの胸で 金色のアタマが小さく震えていた ・・・
「 ・・・・ 」
彼は ただ ただそっと そのほっそりとした背中を撫でていた。
育った施設で 泣きじゃくる幼い子供をなぐさめていた時みたいに。
そう なのだ。
フランソワーズは 本当に自分に搭載されてしまった特殊能力を嫌っていた。
憎んでいた、と言ってもいい。
やっと脱出した後、なんとか平穏な日々を得てからは
頑なに その稼働を拒んでいた。
そう なのだ ― が。
「 すぴか〜〜〜〜 どこ いったの〜〜 お返事はあ〜〜〜 」
庭に出て フランソワーズは声を張り上げる。
「 ・・・・ おか〜さん 」
脇では すばるがしっかりと彼女のスカートを握りしめている。
「 すばる。 すぴか、どこに行ったの? 」
「 ・・・ しらない ・・・ 」
「 だって一緒にオヤツ 食べていたでしょう? 」
「 しらない〜〜 すぴか おやつもってった ・・・ 」
「 え〜〜 オヤツを? もう〜〜 ちょっと目を離したら ・・・
すぴか〜〜〜 ( 感度 レンジともに アップ ! ) 」
「 おか〜さ〜〜〜ん 」
「 ?? すぴかさん どこ 」
「 き のうえ〜〜〜 」
「 え? ( ず〜〜む ! あ いた ! 木の 上 ! )
すぴか! いま お母さんが助けにゆくからねっ 」
彼女は 裏庭の樫の樹の下にとんでいった。
「 すぴかさん そこにいて! お母さん、今のぼって 」
「 え〜〜 いい〜〜 アタシ いくよぉ〜〜 」
「 え?? あ きゃあ〜〜〜 だめぇ〜〜〜 」
「 ぽ〜〜ん 」
ばさ。 ・・・・ すとん。
フランソワーズは 木の上から飛び降りてきた娘を
無事に抱き留めることができた。
「 わ〜〜〜い 」
「 ふう〜 すぴか〜〜〜 わ〜い じゃあありません〜〜 」
( あ〜〜〜 003 でよかった〜〜〜 )
「 おか〜〜さん すぴか とんだよ〜〜 」
「 すぴかさん。 とばなくていいの。 それに オヤツ・・・
ごちそうさま、してないでしょう? 」
「 した! アタシ ちゃ〜んと ごちそ〜さま してから
きのぼり、 したの。 」
「 あのね、お庭に出るときはお母さんに言ってから。 いい? 」
「 アタシ いったよ〜〜 」
「 お母さんは聞いてません。 それから木登りはだめ。 」
「 なんで〜〜〜〜
」
「 だって・・・ 落ちたら危ないでしょう? 」
「 アタシ、おちないもん。 」
「 ん〜〜〜 それじゃ 木登り、するときもお母さんに言うの いい? 」
「 おか〜さん いないときは 」
「 お父さんかおじいちゃまに言うの。 いい? わかりましたか 」
「 ・・・ ウン ・・・ 」
「 でも・・・ 高いトコまでよく登ったわねえ 〜 怖くないの? 」
「 こわくない〜〜 きのぼり だいすき〜〜〜 」
「 ・・・ ( こりゃ 庭への監視レベルは最高にしておかなくちゃ・・・ )」
お母さんは ちょっと困った顔をしたけど すぴかの金色のアタマを
優しく撫で撫で〜〜〜 してくれた。
部分・サーチ、 開発しなくちゃ・・・
003はこそ・・・っと呟いていた。
「 すばる〜
行きますよ〜 」
玄関で待つフランソワーズは 少々イライラしてきた。
毎朝のことなのだが ― すばるは登校するための支度が 遅い。
同じ日に生まれた姉・すぴかは せっかちだし早く登校したいので
弟を待っていてはくれない。
「 アタシ 先 行くね イッテキマス〜〜 」
「 すぴかさん。 ちょっと待っててあげてくれない? 」
「 なんで?? アタシはちゃ〜〜〜んと用意してご飯もたべて
歯磨きもしたんだよ? いく! 」
「 ええ ええ そうね。 でもね ちょっとだけ ・・・ 」
「 ちょっと ってどのくらい? 一分? 二分? 」
「 え〜〜と もうちょっと・・・ 」
「 やだ。 すばるがのろくさしてるのがいけないんだもん。
アタシ、 ゆみちゃん達となわとび するんだもん。 いく! 」
「 ・・・ わかったわ。 いってらっしゃい 気をつけてね 」
「 はあい♪ 」
ため息まじりの母に ほっぺに ちゅ してもらい
すぴかは 元気いっぱい坂道を駆け下りていった。
「 すばるっ はやくしなさいっ 」
母の声音は またワン・トーン上がった。
「 う〜ん ・・・ おか〜さん 僕
行けない〜
」
ランドセルを背負ってはいるが 茶色アタマがのんびり玄関にやってきた。
「 なんで。
どこか痛いの? 」
「 ん〜んん 僕のこうぼうさん が ね
いない … 」
「 え!? 」
「
こうぼうさん たびにでたのかなあ〜
お〜い こうぼうさ〜ん 」
「 ! すばる 昨日 どこに置いたの?
校帽をおくとこ 決まっているでしょう? 」
「 ・・・ う〜ん
わすれた〜 」
「 もう〜 〜〜 早くしないと遅刻よ! 」
「 でも こうぼうさん 〜
どこかなあ 」
ぷつ。 のんびり息子に 母はキレた。
家中 ず〜〜〜む アップ ・・・ !
ん〜〜 !
「 すばる! お部屋のベッドの向こう側! みていらっしゃい
早く! 」
「 お部屋? あ〜 そうかあ〜〜 」
「 はやくっ! ランドセルはここに置いてっ 」
「 わかった〜 」
ぱった ぱった ぱった。 彼は普通の足取りで二階に上っていった。
そうなのだ。
この時期 ―
ちょこまかするチビどもの 監視! に 彼女は 003の能力を
存分に駆使した。
そして ついには部分的にズーム・アップできるまでになっていた。
余談だが ・・・
「 なに? 003のスーパー視覚? ・・・ いや改造なんぞしておらんぞ。
ああ 精度アップはしたが。 部分ズーム?? そんなことはやっとらん 」
ギルモア博士は言下に言い切った。
と すれば。 彼女は彼女自身で < 能力 > を アップさせたわけだ。
「 ・・・ ひえ〜〜〜 すっげ〜〜〜 フラン〜〜〜〜 」
ジョーは密かに 妻の特殊能力? に 畏敬の念を抱いた・・・
そんなフランソワーズではあるが。
ただし
ダンサーとして生きる時には サイボーグ的な能力一切を使わない。
視聴覚はもちろん、体力やバランス感覚についても だ。
毎朝 レッスンのためにスタジオに入る時
彼女は すべての サイボーグ体 としてのスイッチを オフ にする。
そして フランソワ−ズ・アルヌール
として活動する。
朝のクラス ― ピアノの音がながれ ダンサーたちは粛々とレッスンを受ける。
声をあげるのは 主宰者として指導をするマダムだけだ。
「 ほら〜 そこ
上に抜いて〜
」
センターでは アダージオ、 数名のダンサーが踊る。
後列の金髪が ぐらり、と揺れた。
「 ! ほら 足に頼ってるからよ 引き上げて〜 」
「 … 」
金髪は 頷くと 途中からついてゆく。
ああ〜〜〜 脚 〜〜 落ちた ・・・
う〜〜ん ・・・ !
バランス センサー を
オン に すれば 難なくこなせるだろう。
でも ―
それは わたし
じゃないもの。
ぐらぐら〜〜 してるのが 本当のわたし。
きゅ・・・っと唇を噛み 二度めには絶対揺れない! とすみっこで
自習する。
「 はい そうでしょ 脚だけでおどらない 」
二回目は なんとか踊りきった。
ふう ・・・ まだまだ ね ・・・
「 あ ・・・ フランソワーズ? ピルエット、首のつけ方、もうちょっと
〜〜〜 待ってから返す! あと一回転 増えるわ 」
「 は はい ・・・ 」
朝のプロフェッショナル・クラスでは 皆 三回転くらい平気で回る。
フランソワーズも 回転技は得意なつもりだった。
でも ダブルがせいぜいでトリプルをトライするとどうしても
着地がズレてしまうのだ。
・・・ う〜〜〜ん ・・・
ニホンジンって ほんと 腰が強いのねえ ・・・
ウラヤマシイ・・・と本当に思う。
でも ここで踊ってゆくんだから
― 頑張らなくちゃ !
ブランクがあったし その後復帰した後も妊娠・出産で休まざるをえなかった。
勿論、 それはシアワセな理由なんだけれども。
ついてゆくわっ !
踊れるんだもの、最高に幸せよね フラン?
タオルで汗と一緒に滲んでくる涙を拭う。
「 Next ! アレグロね〜〜 右足前 から〜 」
ほっとするヒマもなく 彼女はマダムの指示に集中した。
え? え? ブリゼ・ボレ で バッチュいれて??
う〜〜〜〜 マダムのアレグロって〜〜
も〜〜〜 なんなのぉ〜〜〜
アレグロ は 昔から苦手だった。
それなのに この主宰者の老婦人は滅茶苦茶に凝った振りをつける。
そしてダンサーたちはごく当たり前の顔で踊るのだ。
うそ〜〜〜 どっち 向いてるの え?え?
「 フランソワーズ! 顔の向き、ちゃんと付けてごらん? 」
「 ・・・ 」
「 そうね〜〜 ちゃんと覚えてね 」
「 ・・・ 」
こそっと後ろに下がり ぶつぶつ・・・自習をする。
― そして ラストは グラン・フェッテ。
「 はい 5人づつね〜〜 」
う ・・・っ やるっきゃないわ!
バランス・センサー や オート・リカバー を使えば 身体は自動的に
水平バランスをとってくれるだろう。
その上で踊れば どのパも安定してこなせる ― はずである。
でも。 それは わたし じゃないもの。
本当のわたし は ぐらぐら〜 バランスを崩し
アレグロを間違えちゃうし
グラン・フェッテ は落っこちる ・・・
そう それが わたし。
だから 努力してゆくのよ
わたし が わたし であるために!
「 お疲れさまでしたあ〜〜〜 」
「 バイバイ〜〜 あ フランソワーズ〜〜 今度お茶しよ?
ちょっとい〜感じなカフェ、みつけたの 」
「 みちよ〜〜 嬉しい♪ 誘ってね〜 」
「 ウン。 アタシも今日はバイトだからさ〜 ママ がんばって 」
「 メルシ〜〜 じゃあね 」
「 じゃね〜〜 」
ひらひら 手を振り 大きなバッグを抱えて フランソワーズは
スタジオを飛び出した。
ああ 今日はチビたち、 はやく帰ってくるのよね〜〜
買い物は後回しで・・・ とにかく帰らなくちゃ!
出来る限り < お帰りなさい > をする。
学校からもどる子供たちを 笑顔で迎える ― これはフランソワーズが
自分自身に課している < やくそく > なのだ。
もうちょっと大きくなれば ― 子供たちだけでもお留守番 できるでしょ
でも ・・・ 今は。
さあ〜〜〜 頑張れ わたし。
お母さん は 猛ダッシュだ。
地元駅に降りれば 即 < 眼と耳 > は オンにする。
そして 子供たちの様子を確認 ― 学校にいる時間ならサーチは遠慮する。
「 よかった・・・ じゃ オヤツの準備ね〜〜 」
にっこり ・・・ 笑顔はなんとなく自分自身へのエネルギーにも
なるのかも しれない。
この時期 ― 双子の乳幼児期 ― どこかの敵が サイボーグ達に
ちょっかいをかけてこなかったのは 実に賢明な選択であった。
いや
敵側にとって、賢明 なのである。
なにせ 全ての動物・鳥類 における 不動の真実 ―
子連れのメスは最強 にして 危険
を 我らが003も遺憾無く発揮していたから。
万が一
コドモらに害をなそうとしようものなら 誰であれ
彼女は一瞬の躊躇もなく即 撃破 瞬殺しただろう。
それがたとえ ― ありえないが ―
ジョーであっても。
ああ 本当に! サイボーグ003 で よかったわ〜〜〜
彼女は日々 心から思い、自分に搭載された能力を駆使し そして
感謝しつつ 過ごしている。
******************
「 た だいまあ〜〜〜〜 」
「 ただいま 」
「 帰ったよ 」
「 お帰りなさい〜〜 お使い ごくろうさま 」
すぴかとすばるが お父さんと一緒にかえってくると
お母さんが にこにこ・・・玄関で待っていた。
「 お帰りなさい〜〜 ちゅ♪ ちゅ♪ 」
二人ともほっぺにキスをもらって も〜〜 大ニコニコ・・・
「 ・・・ あ〜〜〜 いいな〜〜〜 二人とも〜〜〜 」
「 ジョーったら・・・ お父さんは あと。 」
「 ちぇ 」
お父さんとお母さんの間に 子供たちが割り込んでくる。
「 おか〜さん! あのね あのね やおやさん うりきれ〜〜 でね。
すばると えきまえす〜ぱ〜 にいったの。 」
「 まあ ありがとう〜〜 すぴかさん 重かったでしょう? 」
「 えへへ・・・ すばると半分コでもってきた〜〜 」
「 じゃがいも! あるべるとおじさんのじゃがいも〜〜〜
えきまえす〜ぱ〜 で かったんだ〜 」
「 ありがとう すばるも 二人でよく持てたわね 」
「「 えへへ〜〜 」」
あ そだ・・・って すぴかは ポッケの中身をお母さんに渡した。
「 おつり〜〜 と れし〜と 」
「 はい ありがとう。 あら ・・・?
ねえ バスには乗らなかったの?? 行きも帰りも? 」
「 ウン。 おかね ないもん 」
「 あ ・・・ そうだわねえ 商店街の八百屋さん 売り切れなんて
思ってもみなかったから・・・ ごめんね〜〜 二人とも・・・
いっぱい歩いちゃったわね 」
きゅう〜〜〜 お母さんは 子供たちを ぎゅ した。
「「 わっはは〜〜〜ん 」」
すぴかもすばるも 最高にご機嫌ちゃんだ。
「 うん ホントにさ ・・・ 国道で二人みつけて びっくりさ。
早帰りの上に歩きで ホント よかったけど 」
「 まあ〜〜 そうなの〜〜
でも 売り切れだから駅前スーパーって よく考えたわね すぴか 」
「 えへへ〜〜 」
「 すばるも駅前スーパ―のこと、よく覚えてたわね 」
「 えっへっへ〜 」
「 お母さん 助かっちゃった。 美味しいじゃがいも料理 作るわね 」
「 ホントにすごいよ〜 さあ オヤツにしよ!
ねえ フラン、 途中でね 団子とお煎餅、買ってきたんだ〜 」
「 え 商店街のお菓子屋さんで? きゃ〜〜〜 うれし〜〜 」
「 晩御飯前だけど ・・・ いいよね? いっぱい歩いたし 」
「 ええ ええ。 二人とも 手を洗ってウガイね〜〜 」
「 「 わあ〜〜〜い 」」
二人は お父さんにランドセルを預けたまま バス・ルームに跳んでいった。
「 ふふふ ・・・ ああ 安心したわ 」
「 うん ・・・ すごいねえ 子供の成長ってさ ・・・
ついこの前 真っ赤な顔で生まれてきたと思ってたらさ 」
「 ふふふ もう立派な 」
「 クソガキさ。 しっかしランドセルって重いのな〜〜〜 」
「 そうねえ ふふふ ご苦労さま。
ねえ ・・・ お団子・・・ あんこのも買ってきてくれた? 」
「 はい。 きみの好きなこしあんと みたらしと。
すぴかの好きな 海苔煎餅。 あ これはアルベルトも好きだから 」
「 そうね そうね〜〜〜 うふふ〜〜〜 じゃあオイシイお茶と
チビたちは ミルク・ティ かな 」
「 うへ・・・ ミルク・ティで みたらしだんご 喰うのかあ・・・ 」
「 ま いいんじゃない? あ お父さんも手を洗って〜〜 」
「 はいはい ウガイしてきます。 」
「 あ その前に 」
「 うん? あ ・・・ 」
ジョーとフランソワーズは にっこり・・・腕を絡めあいキスを交わした。
― 翌日。
アルベルトは いつものようにごく当たり前のカンジでやってきた。
「 よう。 ― ただいま かな 」
「 いらっしゃ〜〜〜い アルベルト〜〜〜 」
「 フラン・・・ 」
彼はごく普通に 彼女を抱き寄せ軽くキスをする。
う ・・・ う〜〜
< 家族 > なんだし毎度お馴染みの光景なのだが
今だに ジョーはどうも なんとも 妙〜〜〜な気分になってしまうのだ・・・
「 い いらっしゃい アルベルト 」
「 おう 世話になるよ 博士は元気かい 」
「 うん。 お待ちかねさ それと ・・・ 」
「 ? 」
わ〜〜〜〜〜〜 どどどどど ・・・!
歓声と一緒に つむじ風 が リビングから駆けだしてきた。
「「 あるべるとおじさ〜〜〜〜ん っ !! 」」
どうん〜〜〜 色違いのアタマが飛び付いてきた。
「 おう〜〜〜 すぴか すばる〜〜 元気そうだな 」
「 うん ! げんき! アタシね きのぼり じょうずになったよ〜〜 」
「 えへ 僕! よこすかせんの駅 ぜんぶ いえる〜〜 」
「 そうか! 二人とも大きくなったんだな 」
「「 うん! 」」
すぴかもすばるも アルベルトおじさんに齧り付いていて離れない。
「 おいおい ・・・ ちょいと離れてくれないか?
土産があるんだぞ 」
「 わはは〜〜〜い 」
「 え〜〜と ・・・ 」
アルベルトは玄関でスーツ・ケースを開け始めた。
「 あ あらら・・・ お荷物はお部屋にどうぞ?
さあ あなた達〜〜 運ぶのお手伝いして? それから
お茶にしましょう
」
「 ああ すまんね 」
「「 は〜〜〜い 」」
チビ達は てんでに伯父さんの荷物に取り付いた。
家族で テイー・テーブルを囲んだ。
双子はちゃんと行儀よくしていたから アルベルト伯父さんは
ちゃんとお土産をくれた。
「 わ あ〜い〜〜〜 」
「 すばる。 ひとつだけ よ。 いい? 」
「 う うん ・・・ どれにしよっかな〜〜〜 ♪ 」
すばる はお土産のチョコレートの箱を開け もう夢中だ。
すぴか はドイツの街の写真集を熱心にめくっている。
「 どうだ? 興味 あるのかい 」
「 ・・・ キレイだね〜〜 いろんな髪のひと いっぱい 」
「 あ? そうだなあ でもすぴかの髪が一番キレイだぞ 」
「 え へへへ♪ 」
「 これはね 俺の国さ。 すぴかの母さんの国の隣なんだ 」
「 ふうん ・・・ お母さんのくには ここじゃないの? 」
「 あ〜 そりゃニッポンもだが。
すぴかの母さんの生まれ育った国は フランス だ。 」
「 うん しってる。 アタシ いってみたいな〜〜〜 」
「 おう もうちょっと大きくなったらいつでも来い。
案内してやるぞ 」
「 ほんと?? あ でも アタシ えいご しらないよ? 」
「 ははは 母さんの国のコトバはフランス語さ。
今はね、学校でしっかり勉強しておけよ 」
「 うん。 アタシ 『歩み』 は 全部 < よくがんばりました > だよ〜〜 」
「 そうか そうか。 うん 」
アルベルトは 相好を崩している。
・・・ ね〜 彼のあんな顔って ・・・
ウン。 初めてみるね〜〜〜
双子の両親は こっそり・・・ 目と目で会話していた。
子供達が 遊びに出かけた後 ―
大人だけで 紅茶にブランディなどをいれて楽しんでいる。
近況報告の他には いろいろ・・・おしゃべりに花が咲く。
「 ねえ アルベルト。 聞いても いい 」
「 なんだ。 ・・・ あ〜〜 この海苔煎餅、 うまいなあ 」
「 ふふふ ・・・ あ あのね。
004であること ― どう思っている? 」
「 その・・普通の生活で なんだけど
」
フランソワーズもジョーも ちょっと真剣な顔だ。
「 うん? 俺か。
そうさな ― 拘りはひとつだけ だ 」
「 ひとつ だけ? 」
「 ああ。 どんな時も 俺が主だ。 俺が機械の身体を使う。
機械が俺を支配するのでは ない。 」
「 ・・・ そう そうだよね! 」
「 ええ そうね。 機械を使うのよ、わたし達。
わたし、この便利な機械の身体を コキ使っているの。 うふふふ 」
三人は に〜んまり ・・・ 意味のある笑みを交わしていた。
翌朝 ― まだ アラームが鳴るずいぶん前の時間。
「 ・・・・ ん ・・・? 」
なにかの気配で フランソワーズは目を覚ませた。
「 ん ・・・ん ・・・? 」
習慣的に隣に手を伸ばしたが ― リネンはひんやりとしていた。
「 ・・・ え?? ジョー ・・・? 」
「 やあ 起こしちゃったかな ごめん 」
ベッドの外から 低い声が聞こえてきた。
「 !? どうしたの、 ジョー 」
びっくり、起き上がれば
― 夫婦の寝室には 赤い防護服をまとい長いマフラーを流す
サイボーグ009 が立っていた。
「 !? なに ・・・か あったの?? アルベルトは ・・・ 」
「 し〜〜〜。 なにもないよ。 きみは眠っていたまえ 」
「 眠って・・・って なんで??
どうしてその恰好をしているの? 正直に教えて。
わたしだって ! 」
「 はい きみは 003だよ。
あの さ。 ちょいと加速装置のテスト稼働してくる。 」
「 か 加速装置の ?
」
「 うん。 昨夜のさ アルベルトとハナシじゃないけど ・・・
いざって時に 動かない〜〜じゃ 困るだろ 」
「 それは そうだけど ・・・ 」
「 それに加速装置を使うなら この服じゃないと ― マズイだろ? 」
「 あ ああ そうねえ 」
「 じゃ ちょっと海岸線を走ってくるね。 あ〜〜 窓、開けといてくれる?
こっちから戻るから 」
「 了解。 あ ちょっと待って。 五分。 」
「 いいけど・・・? 」
「 五分よ〜〜 ! 」
ジョーの奥さんは パジャマのまま クローゼットに飛び込み・・
きっちり三分後に出てきた ― サイボーグ003 として。
「 はい お待たせ。 」
「 ! え き きみも?? 」
「 そうよ。 003としての 超視覚と超聴覚、ばっちりチェックします。
009の軌道をしっかり追跡するわ。 」
「 お〜 頼もしいな 」
「 だって わたしだって 003として錆び付いてちゃ 困るもの。
はい 窓はちゃんと開けていますから。 こっち側ならチビ達は
気がつかないわ 」
「 うん。 それじゃ ― ちょっと走ってくる 」
「 了解。 」
カチ。 シュ ッ −−−
独特の空気の匂いを残し、 009の姿は消えた。
「 ・・・・ ん〜〜〜 ・・・ 感度良好〜〜〜 」
003は 009の軌道を追跡し確認した。
10分後 ― 一陣のつむじ風が二階の窓に吹きこんだのだった。
「 おはよう 」
キッチンでお湯を沸かしていると アルベルトが降りてきた。
「 おはよう アルベルト。 今 熱々のコーヒー 淹れるわ 」
「 おう ダンケ。 ・・・ 今朝のウオーミング アップの調子は
上々だな 」
「 ! あら。 聞こえちゃった?? 」
「 ふふん ・・・ あの音がすると自動的に目が覚める。
俺も しっかり アイツの足音を確認したぞ 」
「 うふふ ・・・ そう? はい コーヒー。 」
「 ダンケ。 〜〜〜〜 ん ・・・ 上手になったな 」
「 メルシ。 あら ? あなた達〜〜 もう起きたの? 」
「 は? 」
ぱたぱたぱた〜〜〜〜 とたたたたた〜〜〜
フランソワーズの言葉が終わらないうちに
パジャマ姿がふたつ、キッチンに飛び込んできた。
「 おか〜さん ! おと〜さん、おつかいにいった ・・・? 」
「 え?? 」
「 おと〜さん じゃがいも かってきた? 」
「 え?? 」
「 おと〜さんも おつかい なんだあ〜〜 」
「 僕たちと いっしょだね〜〜 」
・・・ コドモは 何でもしっている ・・・?
*************************** Fin. *************************
Last updated : 10,23,2018.
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************* ひと言 *************
< 使っている > 限り ニンゲンだ と
思うのです。
はい 双子ちゃんは 最強です〜〜♪♪