『 しっあわっせ わぁ〜♪ ― (1) ―  』

 

 

 

 

    わっせ わっせ わっせ −−−−

 

ジョーは自分自身に声をかけ 勢いをつけて足を進めてゆく。

両手にはぱんぱんのレジ袋 背中のリュックには根菜類が詰め込まれ

長ネギやらセロリが顔を半分 見せている。

なおかつ 片手はコロコロも引き、そこにも荷物が限界まで括り付け

られている。

 

「 ・・・ う〜〜〜  あと半分〜  がんば! ぼく! 」

 

彼が家族と暮らす家の前には 例のなが〜〜くて急な坂が ある。

昭和の体育会系が 準備運動と称して駆け上る・・・ってヤツだ。

気弱なヒト は即 Uターンする類の坂だ。

 しかし。  彼は 青年男子、若い ( はず )。

加えて 彼は 島村ジョー氏は ― さいぼーぐ である。

ふつ〜のヒト とは全然違う腕力・脚力の持ち主 のはず ― である が。

 

「 う〜〜〜 やっぱ ・・・ ちょいきっつい かなあ 」

 

はあ 〜〜〜  彼はとうとう足を止め 坂の途中でとりあえず

手に持っていた荷物を全部 道に置いた。

「 ひ え〜〜〜〜  ・・・ 重量っていうか 嵩張る〜〜〜

 形状も重さも違うこまこましたモノを10コ持つよか

 100トンのロボット ぶん投げる方が楽 だよなあ ・・・ 」

最新型・最強 ( のはず ) のサイボーグは 額の汗を拭いつつ

荷物の山の前でため息 吐息 ・・・

「 う〜〜〜 で〜も フランが チビ達が 待ってるから・・・

 よおし  ゆくぞぉ〜〜 」

 

   ガシガシ ガシ ―  

 

島村クンは すべての荷物を持ち直すと 大股で歩き始めた。

彼のココロを占めている < 想い > は ・・・

< ぼくがやらなければ! 進め 正義の味方〜〜〜 > の決意、

さ〜すが さいぼーぐ009〜♪ 勇気いっぱい すてき〜〜〜〜  ではなく。

 

    はあ〜〜  ああ 紙おむつは配送にしてよかった 

 

 ・・・ と しみじみ思いつつ 彼は坂道を上ってゆくのだった。

 

 

現在、買い出しはもっぱらジョーが担当している。

駐車場のある大型スーパーを利用する時は 当然、クルマをだす。

彼のクルマはスマートな乗用車から 軽ワゴン に替わっている。

 ― だって 普通の乗用車では < 間に合わない > から。

 

「 ・・・ ただいまあ〜〜〜 」

玄関はできるだけ そ〜〜〜〜っとドアを開け 

できるだけ小声で ひそ・・・っと言う。

そして しばらく家の中に耳を欹てていた。

「 ・・・・ ん。 大丈夫 らしいな〜〜 よかったぁ〜〜 

 

  ごと・・・ 出来るだけ静かに荷物を置く。

 

「 えっと ・・・ こっちは冷蔵庫ゆき のモノばっかのはず。

 あ たまご たまご〜〜〜 ・・・ 無事!  よし。 」

彼は再び 荷物の山を持ち上げキッチンに入っていった。

 

 

    カタ −−−。   

 

キッチンはいつも清潔できっちり片付いていて  気持ちがいい。

 

    ふうん ・・・ さすが フランだなあ〜〜

    シンク ぴかぴかだし♪

    ふふふ  ちょっと二人でお茶でもしよっかな〜〜

 

「 フラン〜〜〜 いま 帰ったよぉ・・・? 」

 

    ・・・ あ ・・・? 

 

「 くう 〜〜〜〜〜〜 ・・・・ 」

彼の耳に 小さな、でもはっきりとした イビキ が聞こえてきた。

「 ・・・ え ・・・  あ〜〜〜 」

 

      くう〜〜    すう すう すう ・・・

 

キッチンのテーブルにエプロン姿のままで 彼の愛妻が突っ伏して

 ― ぐっすり眠っている。

 

「 あ は ・・・ やあ よ〜〜く寝てるなあ〜  」

ジョーは思わず 彼女の寝顔を覗きこみ微笑んでしまう。

「 うふふ ・・・ きみもこ〜〜んな顔で居眠り、するんだねえ

 あは・・・ かわいい〜〜 」

彼は 飽かず 愛する人の顔を眺めている。

 

 しっかり者  いつも笑顔の頑張り屋さん  気配りの人

 若いのにきちんとした奥さん   お若いママさん、いいね!

 

いつの間にか そんな言葉が彼女の代名詞みたいになってきていた。

「 ありがと ・・・ ごめんね・・・ ぼく もっともっと

 チビ達の面倒、みなくちゃダメだよね ・・・ 」

 

   ―  そうなのだ。  島村さんち は 子育て真っ最中♪

 

< おと〜さん > は 仕事も忙しくなってきた時期なのだが

二人の天使がこの家に飛来した時、一秒の躊躇いもなく  育休  を取って

育児戦線に参入した。

 ・・・ なんでもかんでも × ( かける )2 なのだ。

ひとり のほほ〜〜んとしている訳には とてもゆかない。

 と いうか・・・

「 え? だってさ。 ウチ ・・・ 二人 なんだよ?

 ミルクだってオムツだって風呂だって ― ひとりじゃ 無理 さ。

 ぼくが やらなきゃ ウチは回らないよ 」

「 育児は母親の仕事?  なんで??  誰が決めたのかなあ そんな。

 ぼくと分担しなくちゃ フランは潰れちゃうぜ?

 え〜〜〜〜  だあってさ ぼく達の ぼくとフランのチビ達 だよ?

 も〜 これは運命だと思って!  腹を括ったってわけさ 」

 

も〜大変なんだぁって顔で。 やっちゃんらんね〜よって 顔で。

 ― でも ね。

 彼は なんだかとて〜〜〜も嬉しそうに言うのだ。

 

 

「 えっと・・・ 冷蔵庫に入れるものは ちゃんと入れたし。

 根菜類は別にしてあるよ〜〜  あ 洗濯モノ、取り込んでくるからさ・・・

 もうしばらく 眠っていなよね 」

 

彼は タオルケットをそう〜〜っと彼女の背中にかけた。

そして もっとそう〜〜〜っと ・・・ 足音 忍ばせリビングを覗く。

真ん中に どどん、 とベビーベッドが据えてあり・・・

広めなベッドの中には  くうくうネンネしている姿が ふたつ。

 

     ふふふ  ・・・

     こうやってる時は  天使 なんだけどなあ

 

     ・・・ えへ へ ・・・

     ああ もう〜〜〜 なんて カワイイんだぁ〜〜 

 

手強い〜〜〜テキ達 は 色違いの髪をくっつけ合い 眠っている。

 

     ・・・ う〜〜〜 かわいい〜〜〜

     食べちゃいたいくらいだ・・・!

 

     なあ   これ ぼくの家族  ぼくのコドモ なんだよ?

     ねえ 信じられるかい?

     ぼくの ぼくだけの家族 なんだよ〜〜〜〜

 

ジョーの目尻は へな〜〜っと下がり 自然に涙まで滲んできてしまう。

「 ・・・ すぴか〜〜 すばる〜〜〜 

 いっぱいネンネしていっぱいミルク飲んで 大きくなれよ〜〜〜

 おと〜さんですよぉ〜〜  えへへへ ・・・ 」

指で そうっとそうっと娘と息子のほっぺに触れてみる。

「 うっひゃあ〜〜  ぷっくぷく で あったかい・・・

 ああ ああ  かわいい ・・・ かわいいよう 〜〜〜 」

ジョーは 二人の顔のそばにこそ・・・っと自分の顔を寄せた。

 

     ― 護る。

     なにがあっても ぼくが護る。

 

     ああ どんな時でも。

     命にかえても。 

 

     ううん。 どんなにボロボロになっても

     生きてお前たちを護るから! 

 

かつて感じたことのない、熱く強く逞しい意志が勇気が 彼を貫く。

「 ― ありがと ・・・ ぼくらのトコに来てくれて 」

温かい涙が ベビーベッドに水玉模様を描いていた。

 

 

    ・・・ う  う〜〜ん・・・?

 

キッチンのテーブルの上では 金髪のアタマがゆっくりと動きだした。

 

「 ・・・ !  や だ ・・・ わたし 寝ちゃったのね・・・

 あら  これ・・・? 

 

肩からタオルケットがすべりおちる。

フランソワーズは そっと拾いあげた。 

子供たち用のものを日向に広げておいたのだ。

「 ・・・ ジョー ? ああ 掛けてくれたのね ・・・ 

 ん? あ 冷蔵庫も食糧庫も 満杯ね  オムツも・・・

 ありがとう ・・・ !    あ らら。 

 

リビングに入れば ― 

 

ベビーベッドに上半身を突っ込んで ―  彼は寝ていた。

チビたちのあんよが 彼らの父の髪を蹴飛ばしていたが・・

なんとも嬉しそうな表情で ジョーは熟睡していた。

 

「 あらら ・・・ ふふふ  なんて顔してるの?

 ジョーのこ〜〜んなに シアワセそう〜〜な笑顔、初めてみるわ 

 

白い指が 愛しい人の そして 愛しい子供たちの頬を そっと撫でる。

フランソワーズは 彼女の子供たちの父の寝顔を 飽かず眺めていた。

 

    ふふふ ・・・ 

    なんて顔してるのよ ジョー?

    え? ぼくは幸せです って 言いたいの?

 

    いいえ そうじゃありませ〜〜ん

    シアワセ なのは  わ た し よ。

 

    ジョーの奥さんで ジョーのコドモ達を生んで

    さっいこ〜〜〜〜に幸せなのは

 

       わ  た  し  ♪

 

ほんわか笑顔になった母も そう・・・っと父子の側に添い寝して。

島村さんちの人々はいつの間にか 団子になって

 すやあ〜〜〜〜 ・・・・ と 眠ってしまいました とさ。

 

 

 

 ― そ〜〜んな 穏やかで 時には静かな時間が流れていたのは 

ほんのひと時 だった ・・・

 

「 きゃ〜〜〜〜  とりさん とりさんよ〜〜〜〜〜 」

「 すぴか! ちょ ちょっと待って〜〜〜〜 」

「 おか〜さ〜〜ん とりさん〜〜〜〜〜 ぴ〜〜ちゃん〜 」

「 待ちなさい〜〜 とまって〜〜〜 すぴかぁ〜〜〜 」

「 ね〜〜 ね〜〜 アタシ とりさん〜〜 とりさんよぉ〜〜〜〜 」

 

   タカタカタカタカタカ −−−−

 

赤い長靴は 信じられないほど素早く動き ・・・

母の叫びもむなしく すぴかはあっと言う間に坂道を駆け下りてゆく。

 

「 すぴか〜〜〜〜〜〜 !!!   とまって! 」

小石を蹴散らし 母が本気で飛ぶ勢いで追いかけ ― やっと < 確捕 >。

ちいさな身体を 両腕で抑えることになんとか成功した。

抱き留めないと このチビっ子はするり、とすり抜けていってしまう。

「 あははは〜〜〜 おか〜さ〜〜ん だっこ?  

「 す す  すぴか  ( はあ はあ はあ はあ・・・・ ) 」

「 ん? なに〜〜 おか〜さん  はあはあ  ってなあに 」

「 はあ はあ ・・・ おか〜さんは! すぴかさんみたいに

 ( はあはあ ) はやく走れません!

 ねえ ひとりでご門から出ては だめ でしょう? 」

「 すぴか ひとりじゃないもん 」

「 え ? 」

「 すばると〜〜〜 いっしょだもん 」

「 ・・・え すばる ・・・? 」

「 ウン。 ごもんのとこにいるよ〜〜 すばる。 」

「 !  ・・・ いらっしゃいっ! 」

次の瞬間 母はちっこい娘を横抱きにして 猛然と坂道を

駆け上っていった。

 

      く〜〜〜〜〜〜〜〜

      な なんだって 003に加速装置が搭載されてないの??

 

      それって〜〜〜 あんまりじゃない??

 

      う〜〜〜〜〜〜

 

でもまあ あの急坂を三才の娘を < 持って > 駆け登れるのだから

やっぱり 003はちゃんと? サイボーグ なわけで・・・

 

「 す す すばる〜〜〜〜〜〜 どこ〜〜〜〜〜〜 」

門の前までくるなり 大声で息子を呼んだ。

「 すばる??? どこにいるの??? 

 ああ ああ あのこ、 下に降りていったのかしら・・・・

 え もしかして ここから・・・ 」

道の端は 草地になっていて ― その下は海岸までの超急斜面。

落ちたら  ・・・  考えたくは なかった。

「 だから! ガードレールを付けてって言ってるのに!

 わかったよ〜〜って 返事ばっかで ・・・  」

めちゃくちゃ上がったテンションで 目を眩ませつつ斜面を探そうと

すれば ・・・

       もぞもぞもぞ。   脇に抱えた荷物が動きだす。

「 おか〜さ〜〜ん  おりる〜〜〜 」

「・・・え??  あ ああ ごめんなさい、すぴかさん 」

フランソワーズは 横抱きにしていた娘を下ろした。

「 さ お手手つないで。  今 走ったらだめ。 」

駆けださないように 娘の小さな手をしっかりと握る。

足場を確かめてから 彼女は斜面にぐっと乗りだそうとした。

「 −−− すばる ・・・どこ?! 」

 

     きゅ。  小さな手が握り返し手きた。

 

「 すぴか。 ちょっとじっとしてて・・・ 」

「 ― すばる 

「 ええ すばるを探さないと ! 」

「 すばる  あっち 

娘は 小さな手の小さな指で 門のほうを差している。

「 ・・・へ?? 」

「 すばる〜〜〜  すばる〜〜〜 」

「 ・・・? 」

 

    ひょこん。  門の内側から茶色のアタマが覗いている!

 

「 す すばる??? 」

「 おか〜さ〜〜ん うふふ〜〜〜 」

「 すばる! ここにいたの?? 」

「 ウン。 ・・・ あ すぴか〜〜〜  ねえ ありさん いるよ〜〜 

「 ありさん? 」

「 そ!  あっちいってちょん ちょん♪ だよ 〜 」

「 どこぉ〜〜〜 」

すぴかは母の手を振り切って 門の内側に入ってしまった。

 

      え。  うそ・・・ すばる??

 

「 ふんふん〜〜 あ おか〜さ〜ん 

すぴかを追って駆けてきた母の足元では 大地色の瞳がに〜〜っこり・・

彼女を見上げていた。

「 す すばる ・・・  ここに いたの? 」

「 あ?  うん  あのね ありさん〜〜〜 」

「 どこどこ〜〜 すばる〜〜 」

すぴかが 母を押しのけすばるの側にしゃがみ込む。

「 ここ〜〜  ほらあ ありさんのおうち、 あるみたい  」

「 え どこどこ   あ ほんとだあ〜〜 」

「 ね!  ありさん いっぱいくるよ〜〜 」

「 うわ すご〜 ・・・ 」

 

どうやら すばるは ずっと門の内側で蟻の巣を観察していたらしい。

 

「 ・・・ すばる ・・・ 」

「 なあに〜〜 おか〜さん 

「 ・・・ ああ よかった ・・・ ! 」

母は思わず小さなムスコを抱き上げ ほおずりしてしまった。

「 あ アタシも〜〜〜 ね〜〜〜 」

「 はいはい 」

跳び付いてきたムスメも一緒に抱っこして フランソワーズは

二つのまあるいほっぺに キス キス キス♪

「 えへへへ〜〜〜 おか〜さ〜〜ん 

「 うふふふ おか〜さ〜ん 」

「 ね? いいこと?  二人とも。  ひとりでご門から出ては

 いけません。  いい? 」

「 おか〜さ〜〜ん すばるとなら いい? 」

「 だめ。 おとなと一緒のときだけ。 

 そして いい? 二人で一緒にいること。 いいですか 」

「「 ・・・ はあい ・・・  」」

「 ― それじゃ お家にもどってオヤツにしましょ 」

「「 わあい  」」

 

      はあ ・・・ ああ やれやれ ・・・

 

おか〜さんは 内心、大息を吐いていた・・・

ようするに ―  

双子があんよするようになると ―  現場は混乱の日々!  なのだった。

 

 

    むぐむぐむぐ   ごっくん  ぺちゃぺちゃ  ばりばり

 

オヤツの時間は かなり賑やか ・・・

というか マナー違反が横行しているのだが ―  ここは目を瞑って。

 

      いっぱい食べて・・・

      そして 少しづつお行儀を覚えてね〜〜

 

フランソワーズは 柔らかいビスケットとお煎餅をお皿に追加する。

 

「 むぐ〜〜〜  えへへ 」

「 すぴか。  おせんべい すきねえ 」

「 うん! アタシ おせんべ すき! 」

すぴかは歯ごたえのあるものを好み 小さいけど丈夫な歯で

ばりばり食べる。 煎餅でも野菜ステイックでも豪快に齧るのだ。

 

「 ねえ すぴか。 すぴかは走るの すき? 」

「 うん! すき! 

「 じゃ おか〜さんにおしえて? 」

「 あ? 」

「 どうやったら はやく走れるの? 」

「 ん・・・・ ?? はしるっておもうの 

「 そう ・・・ 」

フランソワーズは 屈託なく笑う顔にキスをして自分と同じ色の髪を

静かに撫でた。

 

実際、すぴかはめちゃくちゃに俊足だった。

あんよを始めるとほぼ同時に た〜〜〜〜っと走り始めた。

 ― そう。神様は 009の娘に天然の加速装置を搭載なさったのだ。

 

      ほ・・・っんとうに速いのよねえ・・・

 

母は もうため息吐息である。

この娘の父が加速する時は <あの音> が003には聞きとれるので 

すぐに判別できる。

 しか〜〜し。 

彼女の娘はなんの前触れもなく! 突如 トップ・ギアで疾走し始めるのだ。

 

      ・・・ 凄いわよねえ ・・・

      すぴかに比べたら ・・・

      ジョーってば かなりアナログよねえ?

      だあって 今時 タッチ・パネルでもなく

      いちいち スイッチ 押してるんですものねえ

 

      ウチの最新式 は すぴか かも・・・

 

母は ちょいと複雑なため息をついたりも する。

 

さらに ―

すばるもすぴかも 滅茶苦茶に耳がよかった。

もちろん チビ達は100%生身で特別な聴覚強化装置をつけている訳もない。

 で あるけれど・・  とにかく なんでも聞こえちゃうのだ。

ジョーは 「 あいつら 地獄耳 だなあ 」 なんて言っている。

 

「 あ〜〜  オヤツ、 むしぱん 〜〜 すき♪ 」

ほんのちょっと母が呟いた独り言を ちゃ〜〜んと拾ってしまう。

「 のみすぎ ってなに〜〜 じゅ〜す いっぱいのむの?? 」

父のボヤキまで 彼らの耳に入ってしまうらしい。

「 ね〜〜 すずめさん おはよ〜〜って 」

「 ざば〜〜ん がいっぱいだよ?  たいふうってなに? 」

自然界の音にも とても敏感なのだ。

父と母は そっと肩を竦める。

「 ― うっかり独り言 言えないなあ 

「 ホントよねえ ・・・  どうしてなの?? 」

「 さあ ・・・ ここの環境のせいかな 」

「 環境?? ウチの? 」

「 ウン。 田舎で 自然や鳥たちの声がいっぱいだし・・・

 感性が磨かれた のかな 」

「 そう ねえ・・・ でもね 赤ちゃんの頃から音に興味があったみたいよ?

 窓を開けておくと ご機嫌だったもの、二人とも 」

「 あ〜 そうだなあ  都会の騒音に聴覚がダメージを受けてない とか 

「 そっか ・・・ ( 003の超聴覚は とっくに負けてるわね ) 」

「 なに? 元気ないじゃん 」

「 ・・・ ううん 別になんでも ・・・ 」

 

       それにしても。

       いつだって最強で最新なのは ニンゲン ね

 

       最新型 なんていっても ツクリモノは

       どんどん時代遅れのお古になってゆくんだわ・・・

 

       ― それで いいのよね  きっと

 

フランソワーズは なんだかとても複雑な気分になってしまう。

嬉しいような でも <お古> になり果てるのも辛い。

そんなブルーな気分を癒してくれるのは ― 子供達の笑顔 なのだ。

 

       そうよね!

       この笑顔をず〜〜っと護るの。

       それが ジョーとわたしの 使命。

 

       ・・・ このヒトと結婚してよかったわ!

       ジョー ・・・

       チビ達を  ありがとう !!!        

 

 「 な なんだよ〜〜 なにかついてる? ぼくの顔 ・・・ 」

じ〜〜〜っと見つめてくる細君に ジョーは思わず自分の頬を撫でた。

「 あ ・・・ ううん〜〜 なんにも 」

「 そっかあ?   だってやけに見てるから さ 」

「 うふふ ・・・ パルドン。 すぴかに似てるわ って 」

「 え・・・ そうか?  すぴかはきみ寄りだと思うけど・・・ 」

「 それは外見でしょ。 中身はねえ あのコはお父さん似よ 」

「 そうか な ・・・ えへへ なんか嬉しい〜〜 」

「 ふふふ ・・・ あ  一緒に海にゆく〜〜って待ってたわ 」

「 そっか〜〜 この前 約束したんだけど・・・

 すぴか〜 ごめんな〜〜 帰りが遅くて・・・

 日曜日は きっと! 」

「 ふふふ  そうそう、すばるがねえ ダンゴ虫競争する〜って

 待ってるわよ 」

「 お〜〜〜  よしよし・・・ 」

「 ありがと、ジョー。 お願いね〜〜 」

「 了解〜〜  あ〜〜〜 早く週末になんないかなあ〜〜 」

 

 

 ― そんな風に ジョーは休日はずっとチビ達の相手で過ごす。

 

    ぶんぶん ぶ〜〜〜〜ん ・・・ !

 

ジョーはぐるぐる〜〜腕を回しつつ リビングに降りてきた。

「 おっはよ〜〜〜〜 」

「 あら おはよう ジョー 

「 あら? ってなに 」

食卓の脇から フランソワーズは笑顔で夫を迎える。

「 え だって・・・ 平日は な〜かなか起きれないじゃない? 」

「 ・・・ すんません ・・・ ご迷惑をおかけいたします〜  」

「 ま いいわ。 では そろそろ台風達が起きますよ〜 」

「  ― 了解! 週末は任せて! 

 あ フラン、 レッスンとかショッピングとか行きなね。

 食事? あ〜 なんとかするさあ  チビ達とね♪ 

「 あ  お弁当を ・・・ 」

「 いい いい。  きみ 自分のために週末、使えよな 」

「 ・・・ ありがとう ジョー 」

「 ぼくこそ〜〜 チビ達を任せてくれてありがと!

 あ〜〜〜 嬉しくてスキップしちゃうぜ(^^♪ 」

彼は 本当に芯からチビ達と一緒にいるのが楽しいのだ。

その姿勢は 子供達が赤ちゃん時代から全然変わっていない。

 

「 ごめんなさい せっかくのお休みなのに ・・・ 」

「 え〜〜〜 だからチビ達と遊ぶんだ♪ 待ちに待った週末だよぉ 」

「 ・・・ お仕事、大変なのに ・・・ 疲れてるでしょ?  」

「 おいおい〜〜 それって誰に向かって言ってるのさ?

 只今の発言は〜〜 009への侮辱だよ? 」

「 あら それは失礼しました 

   ・・・ あ  すぴかが起きたわ 」

ほんの一瞬 視線を二階に向けてから 003はにっこりした。

「 お。 そんじゃ〜 ちゃんとおっきできるか 見てくるね 

 003の聴覚はさすがだね〜〜 」

「 うふふん   お願いしまあす 」

 

 ― 島村さんちの休日は 賑やかに始まるのである。

 

 

 

   ぼすん。   ジョーは ソファに座り込んだ。

 

平日の夜中・・・ 家族は皆寝静まっている。

ちょっとお茶が飲みたくて リビングに降りてきたのだ。

壁に掛かっているカレンダーを ぼんやり眺めていた・・・ 

 

「 ふっふっふ〜〜〜  は〜やく来い来い 週末サンっとぉ 」

ジョーは カレンダーの青い字と赤い字 を にこにこ眺めている。

「 そうだ 今週は チビ達も一緒にガレージ掃除 すっかな〜

 すぴかもすばるも 手伝ってくれるよな  へへへ・・・

 邪魔ばっかかもしれないけどさ〜〜

 あ 庭でごはん 食べてもいいよなあ〜〜 おにぎり つくってさ♪

 あ〜〜〜 はやく週末になんないかなあ ・・・ 」

ジョーはあれこれ計画をたて 一人でにこにこしていた ・・・

 

     ―   あれ。

 

     この気分  ・・・ 前にも知ってるよな ぼく。

     めっちゃ週末が楽しみで 

     めっちゃ待ってたんだよ うん

 

     ・・・ いつだったっけ?

 

 

「 ジョーくん  きたよ〜〜 さあ なにして遊ぶ? 」

「 宿題 やったかな?  ジョーくん 

おに〜さん や おね〜さん が にこにこ笑顔でやって来る。

「 わあ〜〜〜 あのね あのね さっか〜〜 やろ! 」

「 しゅくだい やったよ! みる? 

ジョーは もうあっちこっちに笑顔を振りまいて もう大変・・・

ジョーだけじゃない。

同じ施設のコドモ達は み〜〜んな おに〜さん やら おね〜さんに

相手をしてもらって 顔を真っ赤にして喜んでいた。

 

 

     あ  そうだ そうだ・・・!

     教会の施設にいる頃 だよなあ

 

     ・・・ まだ小学生も低学年かなあ

     マモルお兄ちゃん  ユキコお姉ちゃん 

     ・・・ ああ 思い出した!

     そうだよ〜〜〜

 

ジョーは 湯呑みを置いて、手を叩いた。

「 うん・・・ 週末はいつも大きなお兄さんや お姉さんが

 来てくれてたんだ・・・ 

 

彼のいたのは教会付属の施設 ― 当時 カトリック系の大学から

ボランティアの学生たちが 多数来てくれていた。

彼らは 子供たちの相手をしたり 勉強をみてくれたり・・・

楽しい時間を週末ごとに一緒に過ごしていたのだ。

 

「 あ〜 すごく楽しみにしてたんだよなあ・・・

 あれは大学のサークルだったのかなあ  皆 優しくて熱心だったよ。

 ああ 懐かしい ・・・ 」

珍しく 彼は幼少時代を温かい気持ちで振りかえっていた   が。

 

         つきん ・・・ !

 

突然  ものすごく淋しい ものすごく悲しい キモチが蘇った。

 

       ・・ いっちゃった ・・・ 

        また おいてきぼり 

 

そんな言葉が 心の中から浮き上がって来、ジョーを慌てさせた。

 

「 な  なんだ???    え・・・ ??? 」

 

       マモルお兄ちゃん ユキコお姉ちゃん

 

           おかあさん〜〜〜!!!

 

       どうして ぼくを おいてゆくの??

 

 

Last updated : 03.15.2022.                   index       /      next

 

 

********  途中ですが

ほんわか話  ちょっと切ない方向かな〜〜

チビ時代のコトって ある日突然 鮮やかに

思い出したり します ・・・