『 グリーン ・ グリーン ― (3) ― 』
そこは 花園というよりも花の海だった。
むせかえるような芳香の中に 極彩色の花の波が音もなくうねっている。
かすかに空気が流れていたが風向きを調整してあるのか、葉の一枚、花びらのひとひらも揺れてはいなかった。
「 ・・・ まあ ・・・・ 」
フランソワーズは思わず足を止め、目の前に広がる華やかな海をぼうっと見渡してしまった。
「 ・・・ すごい ・・・ 何万本もありそう ・・・ 」
「 いかがです? お気に召しましたかな。 」
「 ムッシュ・エッカーマン ・・・ 」
「 ここはとっておきの花園、 私だけのプライベート空間なのです。 」
「 ・・・ キレイですね。 」
「 お褒めに預かり光栄です。 この花園だけは自動培養ではなく、手作業で栽培しているのです。 」
「 ああ ・・・ それでこんなキレイなのですね。
作っている方の愛情を受けて・・・ どの花も輝いていますわ。 」
「 それで この中から選り抜きの花だけで花束を作りました。 あなただけのために、フランソワーズ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
「 どうぞ こちらに用意してあります。 ほんの少しご足労願います。
ああ勿論お好みの花をご自由に摘んでくださっても結構ですよ。 」
「 あの ・・・ 仲間達が待っていますので。 花束はお気持ちだけで結構ですわ。
この・・・ お花の海を見せてくださってありがとうございました。 」
「 いえ! お仲間には先ほどお知らせしてありますので。 どうぞご心配なく。
こちらへどうぞ。 マドモアゼル・フランソワーズ ・・・ 」
「 あ ・・・ あの・・・ 」
カール・エッカーマンは フランソワーズの手を引くと 早足で薔薇苑の中を突っ切っていった。
「 マドモアゼル・フランソワーズ 」
野菜工場見学の後、先発隊とエレベーターに乗り込む寸前に 呼び止められた。
サイボーグ達は実験未来都市で 気が進まぬまま渋々一泊した。
エッカーマン博士と旧交を温めたいギルモア博士のため ― そう思って彼らは何とか自分自身を納得させた。
VIP待遇、という振れ込みのコテージで一夜を過したのだ。
朝一番で出発し 故郷の <家> に帰還予定だった。
未来都市の出口ゲートに向かう彼らの足取りは 自然に軽く無意識に速度は上がっていた。
「 ・・・ はい、なんでしょう。 ムッシュ・エッカーマン。 」
フランソワーズは素直に振り向き、 エレベーターの中の仲間に先に行くよう合図をした。
「 お帰りの間際に申し訳ありません。 今回の御礼に ささやかですが花束をお贈りしたいのですが。
ほんの数分、付き合ってくださいませんか。 」
「 え・・・ あの。 もう帰還の時間が・・・ 」
「 なに、すぐです。 どうも私は貴女をはじめサイボーグ諸君のご機嫌を損ねてしまったようですね・・
せめてものお詫びとささやかな御礼の気持ちを受け取ってください。 」
「 ・・・ ムッシュ・エッカーマン ・・・ 機嫌を損ねるって そんな・・・ 」
淡い色をした瞳が じっと彼女を見つめている。
ほわ・・・ん と甘い香りが漂ってきた。
・・・ あら。 このヒト・・・・
こんなに淋しい目をしていた・・・?
・・・ あ ・・・ら ? な なんだか ・・・・ ふんわり いい気持ち ・・・
この香りに ・・・ 酔ったのかしら ・・・
・・・ これは ・・・ 薔薇 ・・・?
「 あの・・・ 」
「 こちらのエレベーターを使えば直接私の庭にでられます。
そこで花束を。 なに、お好きな花を摘んでくだされば それを花束にして進呈しますよ。 」
「 ・・・ え ええ。 でも ・・・ 仲間たちに ・・・ ひと言断らないと あっ! 」
不意に足元がゆらめき 彼女は思わず目の前に立つ青年にぶつかりそうになった。
・・・ あ ・・・ 何・・・?
なんだか 足が ・・・ あら・・・?
「 あ・・・す すみません。 失礼しました、 ミスタ・エッカーマン ・・・ 」
「 おや。 少しお疲れのようですね。 どうぞこちらへ・・・ 」
「 ・・・ あ は はい ・・・ 」
イケナイ イケナイ ・・・ イッテハイケナイ!
朦朧としてゆく意識の中でさかんにアラームが鳴り響くのだが 手も脚もひどく重い。
彼女は ひどくぎこちない足取りで青年の後について行った。
― 二人が野菜工場の隅にある別のエレベーターに乗り込んだことに仲間達は気がついていない。
「 ・・・ あ ・・・ 空が・・・? 」
カールに手を引っ張られ花の海の中を進んでゆくうちに ふ・・・っと周囲の明るさが変わった。
フランソワーズは顔をあげ、ゆっくりまわりの空を眺めた。
青空の一部が 徐々に変色してきている。 西の空だけではなく全体の色が変わってきていた。
「 ・・・・?? 空の色が・・・ 夕焼け? そんな時間ではないわね。
太陽が雲の陰にでも隠れたかって思ったけれど・・・ ここは人工太陽灯だったわね ・・・ 」
「 おお お気に召しましたか。 あれは人工オーロラですよ。
これもこの未来都市の機能の一つです。 ドームの内壁を利用するのですが、特殊な光を当てて
人々は自宅にいながらにして オーロラや雪景色を楽しむことができます。 」
「 ・・・ 人工オーロラ ですか。 」
「 オーロラの見える空のもと 薔薇の海に囲まれていたい・・・貴女もそんな光景を夢みるでしょう? 」
「 わたしの ・・・ 夢・・・? 」
「 そう、あなたの長年の夢を全て叶えて差し上げましょう。 私の館へ ようこそ。 」
カールは会釈すると 再び彼女の手を取り歩き始めた。
「 御案内、いたします。 マドモアゼル・フランソワーズ
ここから先は 完全にプライベート・ゾーン・・・ 愛するヒトのために作りました。 」
「 ・・・ は ・・・ い ・・・ 」
カールは薔薇苑を突っ切りどんどん進んでゆく。
やがて 二人はこじんまりとした館の前に辿りついた。
「 ・・・ ここ ・・・ は? 」
「 ここは <南の館> なに、私のちょっとした休憩所・・・コテージです。
ここにはいれるのは私が許可したものだけです。
どうぞ マドモアゼル・フランソワーズ。 」
・・・ なに ・・・? なにかが纏わり着いてくるみたい
おかしいわね? ここにはなにもないのに・・・
ほんわり ・・・ いい気持ち・・・
・・・ なにか ・・・ 忘れてない、わたし?
あ・・・ら ・・・ なんだか急に 身体が ・・・
・・・ う ごかな ・・・・
コテージのドアを通ったときから 彼女の歩みは次第にゆっくりになっていった。
ネムッチャダメ・・・ どこかから小さな声が聞こえた、と思ったのだが。
次の瞬間 ― フランソワーズの意識は ことん、と途切れてしまった。
― フランソワーズは どこだ ?!
ジョーの呻き声にも近い怒声に 全員が凍りついた。
「 ・・・え あ ・・・ 後のエレベーターに乗ったはずじゃねえか? 」
「 うんにゃ。 ワテらとは一緒やないで。 ・・・ はよ、探したげてぇな! 」
「 うん、・・・さ 捜すんだ! 」
「 了解! しかしどうやって・・? ドルフィン号をここに呼ぶか? 」
「 いや。 この都市は街角に オープンの情報端末があるはずだ。 さがせ。 」
「 オーライ。 お あったぜ。 」
「 よし、僕がコントロール・タワーを呼び出すよ。
ジョー、君はこの・・・僕の小型端末で直接ギルモア博士を呼び出してくれ。
博士にも応援を頼もう。 」
「 ピュンマ、 ありがとう! 」
「 おい、オレ、ひとっ飛びしてよ、上から捜してみるぜ。
昨夜のコテージから ずっとこっちまで。 今朝来た道を確認してくら。 ほんじゃ・・! 」
「 よし 慎重にやれ。 恐らく ・・・ 事故などではないな。 」
「 アルベルト! どういう意味かい。 」
「 ふん・・・ この都市はご自慢の自己修復機能とやらが完備されているんだ。
コントロールは完全に復帰しているから <事故> が発生する可能性はゼロに近い。 」
「 ほんなら アルベルトはん! フラソワーズはんは浚われた、いうのんか! 」
「 おそらく、な。 だいたいあのお喋りヤロウはどこに消えたんだ? 」
「 うん? そういえば姿が見えんな。 」
「 ― センターに繋がったよ。 あ・・・返信が入った!
え〜と ・・・ 発信者認識コード 003 おい、フランソワーズからだよ! 」
「 なんだって?! 」
全員が 街角にあるモニターの前に駆け寄ってきた。
「 ・・・フランソワーズ。 どこにいるのか。 」
「 これ、画像も出るはずなんだけど・・・ ああ 待って・・・調整するよ ・・・ 」
ピュンマが盛んに端末を操作している。
「 ・・・出た! 」
大型のモニターが瞬き、亜麻色の髪の女性を映し出した。
「 皆! 心配かけてごめんなさい。 わたしは大丈夫だから安心して。
少しのんびりして行きたいから・・・皆さん、どうぞ先に帰還して下さいな。 」
モニターには 一面の花園が映りその中でフランソワーズがにこやかに微笑んでいる。
頬はうっすら桜色に染まり、とても元気そうだ。
「 ここはとてもキレイで気に入ったわ ・・・・ わたしの夢の花園なの ・・・
こんな場所でゆっくり過ごしたいなあってずっと思っていたのよ。 」
つ・・・っと手を伸ばし 彼女は足元の野菊を一輪折り取った。
ちょっとだけ唇を寄せると ぽ〜ん・・・とこちら側に向かって投げて寄こした。
「 心配しないで。 それじゃ・・・ 」
次の瞬間 モニター画面はブラック・アウトした。
「 あ!! おい、どうした、故障か? 」
「 ・・・ いや、これは発信者、つまりフランソワーズが通信を切っただけ、さ。 」
「 切った? こちらからの返事も待たずに か? 」
「 フランソワーズはんは そないな子ォやないで。 」
「 でもなあ あの声も姿も・・・ どこから見てもマドモアゼルだぜ。 」
「 ― ちがう。 あれは彼女じゃない。 」
ジョーが 憮然として言い切った。
「 でもよ〜 お前も見たろ? アレは彼女だったぜ? 」
「 ちがう。 フランは ・・・ 恐らく彼女が一番ここを去りたがっていた。 こわい、とも言っていた・・・
今直ぐにでも発ちたいってね。
それに あの花・・・ 彼女は無用に花を摘んで捨てたりはしないよ。 」
「 むう・・・ そうだ。 彼女は命の重みを知っている。 」
「 よっしゃ! そんじゃもう一回しらみつぶしに捜索、掛けるぜ! もいっかい行ってくら! 」
「 おい 待て! ・・・ ち! 気の早いヤツめ! 闇雲にさがしても仕方ないだろうが。 」
「 まあまあ アルベルトはん、 あれが彼のええとこでっせ。 」
「 そうだねえ。 それじゃ僕達も捜索開始しよう! 」
「 ふん。 この端末、というよりこの都市にあるシステムは使えんな。 」
「 うん。 アイツが拘っているのなら、完全に偽装プログラムが入っているだろからね。
さっきの画像と同じさ。 アレは合成画像だよ、それもあまり巧くない、ね。 」
「 それならば ぼく達のシステムを使うまでだ。
博士の持っている小型端末をドルフィンのメイン・コンピューターと接続しよう。
あとはぼく達がそれに同調すればいいのさ。 」
「 へえ・・・ ジョーってば 随分詳しくなったねえ?? 」
「 え ・・・ピュンマ ・・・うん、実はフランに少しづつ教わっているんだ。
その・・・電子工学の基礎を ね。 」
「 そうか〜 そりゃいいね! 個人教授かあ〜 ふふふ・・・ さぞかし熱心に習っているんだろうね♪ 」
「 ぴゅ ぴゅんま! 」
「 まあまあ・・・ いいことさ♪ よ〜し! それじゃ博士に頼んで・・・ んん? その博士からの通信だ。 」
彼らが動きだす前に 博士からの連絡が入った。
「 博士? ジョーです、 どうしました? 」
「 おお〜〜 ジョー! 大変なんじゃ。 スフィンクスが・・・スフィンクスが行方不明だ! 」
「 スフィンクス??? それって・・・確か・・・ 」
「 博士! この都市をコントロールしてるコンピューターの名前ですよね? 」
ピュンマが上手く引き継いだ。
「 さよう。 未来都市を構築しているすべてのシステムを管理・統括しているメイン・コンピューターじゃよ。
今朝から 応答が鈍くなっておったそうじゃが。 今 完全に ― 」
「 博士! 我輩らも大変なんです。 マドモアゼルが行方不明、 全くの神隠し状態です。
それで 博士と我輩らで捜索を開始しようと思っていたのですよ。 」
「 なに? ふ フランソワーズが!? 」
「 そうです。 ふん! 大方の予測はついていますぜ。 ヤロウの邪恋は やっかいですぜ。 」
例の ・・・ こちらの都市を <統括> しているアイツ。
もっともアイツの姿も突然消えちまったのですが・・・ 」
「 ヤツがクサい。 やたらとフランに色目、使ってましたからね。 」
「 ぼく達が知りたいのは スフィンクスじゃなくて カール・エッカーマンの所在なんです。 」
ジョーが珍しくも博士の話に割り込んだ。
「 ジョーか? ああ そうじゃよ。 スフィンクスじゃ!
あの青年、カール・エッカーマン こそが スフィンクスの姿なんじゃ。 」
「 えええ?? どういうことですか! 」
「 うむ ・・・ これは極秘なのだが。
カールは ・・・ 彼はな、スフィンクスの分身での。
まあ いわばスフィンクスの手脚、 彼は ― アンドロイド なのじゃ。 」
「 ・・・・ えええ・・・???? 」
回線を繋いでいた全員が 息を飲み黙りこんでしまった。
「 サイボーグ ではないのですか? タワーで出合った時にはそんなニュアンスだったと思うけど? 」
「 いや。 これはエッカーマン博士が言うのじゃから間違いはない。
彼は ・・・ サイボーグではない。 脳組織も ・・・ 人工頭脳なのじゃ。 」
「 ・・・ そうですか。
それでコントロール・タワーの方にもカールの所在は掴めないのですか。 」
「 そうなんじゃ、彼は自らアクセスを断ってしまっての。
おい、フランソワーズが行方不明って こちらの件と関わりがあるのか。 」
「 大有りだぜ! 博士〜〜 ヤツはよ、フランにちょっかい出しやがってよ! 」
「 いわゆる 横恋慕 というヤツですな。 」
「 な、 なんじゃと・?? しかし 彼は ・・・ その ・・・ 」
「 ああ、ようく判ってますよ! 奴さんは機械なんだ。 それなのにアイツは恋をしたんだ。
生まれて初めての恋を ・・・ それも サイボーグ003 に! 」
「 ・・・ お〜〜 怖 ・・・ 」
「 博士! こちらは僕たちで探します。 そちらでも出来る限りカールの足取りを追跡してください。 」
「 よ よし・・・! しかし お前達・・・ あまり無茶するなよ。 」
「 大丈夫ですよ。 さあ 皆! まずはあの <野菜工場 > からだ。
脳波通信のチャンネルを同調、 全開にしておいてくれ。 」
「 了解! 」
サイボーグ達は 油断なく周囲を見回した。
・・・ 部屋中に甘い香りが漂っている。
ちろろ・・・と銀のスプーンがソーサーの上で揺れた。
「 如何ですか。 このお茶にも薔薇のエッセンスを加えているのです。 」
「 ・・・ この甘い香りは 薔薇でしたのね。 」
コテージの中は 落ち着いた雰囲気だった。
広い部屋は穏やかな色調で統一されていてほっと一息つける空間になっている。
カールが彼女を案内するとまもなく 熱いお茶のオート・ワゴンが飛んできた。
一目でブランド物とわかる茶器に いい香りのお茶が最適の温度で注がれてゆく。
フランソワーズは ぼんやりとティーカップを眺めていた。
「 ・・・ いい匂い ・・・ 心の奥まで滲み入るみたい・・・
ここの花園の薔薇から採ったのですか。 」
「 そうです、何万本もの薔薇の、蕾だけを煮詰めて蒸留して得た 薔薇のエキスですよ。
薔薇の全てが凝縮されて詰まっています。 」
「 ・・・・・・・ 」
「 あなたは ・・・ この薔薇のエッセンスのような方だ。 美のエッセンスで出来ている方・・・ 」
「 お上手ばっかり。 ご存知でしょう、 わたしは ・・・ ツクリモノです。 」
「 ツクリモノ? いや それが それこそが美の極致なのですよ。
この都市だけでなく 薔薇苑も全て手を加えてこの美しさにしたのです。
同じ大きさの花が同じ時期に同じ香りを放って咲きます、いや咲くようにプログラムしました。
この美は完全に作り上げたものだからからこそ、美しいのです。 」
「 ・・・ ムッシュ・エッカーマン ・・・・ 」
「 ここに貴女が加われば ・・・ 私の作った街は完璧になる!
貴女の愛が加われば ・・・ 私に同調してくだされば。
フランソワーズさん、貴女の愛が私を完璧にしてくれる。 」
「 ・・・ 仰ることがよくわかりません。 」
「 私の愛を受け入れてください ! 愛しています、フランソワーズ。 」
カールは立ち上がると側にやってきて彼女の両手を握った。
「 私は メカの力で完璧な都市を作り、メカの力の偉大さを全世界に知らしめたい・・・
そのためにも 貴女がほしい。 」
「 本気で仰っているのですか。 」
「 当たり前です。 この街は貴女のお好みのままに作り変えて行きます。
貴女は薔薇の海に囲まれ オーロラを眺めて微笑んでいてくれればいい。
私だけに微笑み 私だけを愛すればいい。
そうしてくれるなら、フランソワーズ 。 貴女にとっても有益なことを全て差し上げますよ? 」
「 ・・・・有益 ? 」
彼女はカールの手から両手を抜くと静かに立ち上がった。
「 ムッシュウ・エッカーマン。 あなたとは価値観が違うようですわ。
わたしは不ぞろいで不完全でも 自然 が一番美しいと思います。
・・・ わたしのこの容姿はツクリモノ ・・・ 美しくはありません。 」
「 フランソワーズ・・・? 貴女の声が ・・・ き 聞こえない・・・? 」
「 自分と異なるモノは 理解不可能、ですか? 聞く意思のない事柄は耳に入らないのでしょうね。
・・・ 私はこれで失礼します。 仲間達も待っていますから。 」
「 ・・・ そ んなことは 許さない・・ 」
「 え ? 」
「 貴女が私と同調するように作りかえます。 」
「 ・・・え?? あ ああっ?! 」
突然 天井から透明なカプセルが下りてきて 彼女をするり、と覆ってしまった。
「 私を拒否するものは許さない。 貴女を私に <同調> させる ・・・! 」
「 な、なにをするのですか! ・・・ あ ・・・ああ ・・・ 」
違う空気がカプセル内に満たされ ・・・ 彼女はそのまま昏倒してしまった。
「 そう・・・貴女を私と<同じ>にすれば。 この機械の身体からも逃れられる・・・・!
次の命を得られる・・・・! その中でワタシは ・・・ ヒトとして甦る・・・!!」
カールはカプセルの中に横たわる女性 ( ひと ) に 熱い視線を注ぎ続けていた。
「 なんだ〜〜〜!? うわ ・・・! 」
「 気をつけろ。 この都市の全メカはアイツがコントロールしているのだからな! 」
「 ・・・ わっ!! ふう〜〜 まるで狙い撃ちだな。 」
「 完全に狙い撃ちだよ。 アイツは僕たちに照準を合わせているんだ。 」
「 ふん 独自の衛星もあると聞いたからな。 GPS機能の精度も桁違いなんだろう。 」
「 くそっ! どこに ・・・ どこに彼女を隠したんだ? 」
「 諸君 脳波通信の周波数を変換するのじゃ。 現在のままでは全てハッキングされるぞ。 」
「 サンキュ、博士〜〜 ったく〜〜 うぜぇヤツだぜ! 」
サイボーグ達は苦戦を強いられていた。
なにせ地の利もないし、相手は都市全体を統括している巨大コンピューターである。
彼らの行動は筒抜けで 行く先々で妨害に遭った。
攻撃は実に巧妙で サイボーグ達を分散させ戦力の低下を狙っているのは明らかだ。
「 ・・・ 散るな! 」
「 いや。 全員拡散、退避してくれ。 」
「 009!? 」
「 アルベルト。 ― ぼくだ。 スフィンクスはぼくが標的なんだ。 」
「 なんだって?! 」
「 皆 ぼくから離れろ! 巻き添えを喰うぞ! 」
「 へん、バカにすんなって。 こんなヤワなもんで遣れるオレじゃねえっ! 」
「 そやそや! ワテらを舐めたらあかん!! おっちゃんをなめたらあかんのんや!」
「 ふふん・・・ それなら僕たちも楽だってことさ。 ジョーを中心に迎撃すればいいんだから。
攻撃も ジョーを芯にすればオッケーってことだからね。 」
「 ほうほう スフィンクスとやらは オツムに血が昇っているらしいな。
ふん ・・・ 恋は盲目ってことか 」
「 ああ? 恋だって〜? 」
「 左様。 お主、気がつかなかったのか? あの饒舌ヤロウの目付き・・・
やけに自信たっぷりで嫌味な若造だったが、アイツの目だけはいつも ちろちろ・うろうろ・・・
われらがマドモアゼルだけを追っていたではないか。 」
「 え。 そ、そっかァ? ・・・ あ! ってことは ジョーを狙うってことは 」
「 ふん、鈍いヤツめ。 ヤツはフランをモノにしようと <恋敵> を潰しに掛かったってことだ。 」
「 ふふん・・・! そうやすやすと仲間を渡すと思っているのか?
― オレ達が 許さない・・・! 」
「 〜〜〜ん〜〜 あらよっとォ〜〜 行くぜ〜〜 」
赤毛ののっぽは唐突に飛び上がると ひょい、と反転し四方八方を気ままに撃ちまくった。
「 へ ・・ へへへ・・・ こういうヤツには 気紛れ が一番苦手なんだろ! 」
ざま〜みろ〜・・・と毒づきつつ・・・彼は巧みに迎撃をかわしている。
「 なんてヤツだ・・・ 呆れてモノも言えん。 」
「 そう怒るなって、アルベルト。 うん ・・・ 彼の考えはある意味的を得ているよ。
さしものスフィンクスも 気紛れ には対処できないらしい。 」
ドーーーーーーン ・・・・!
一瞬、地面が揺れた。 はるか彼方で白煙が上がった。
「 ほら。 どこかで <中り> らしいよ? 」
「 ・・・ ありがとう 皆! 」
「 仲間のことで礼を言われる筋合いはないぞ。 おい、全員でフランを取り戻すんだ! 」
「 諸君! 聞こえるか! 」
「 博士! なんですか。 」
「 うむ・・・ 諸君の脳波通信で彼女に、フランソワーズに呼びかけるのだ。
彼女の意識が覚醒すれば 現在位置もはっきりする。 」
「 な〜る・・・ おし! 皆でフランを呼ぼうぜ。 」
「 うむ。 精神 ( こころ ) を起こそう 」
― フランソワーズ !! 応えるんだ ・・・!!
「 ・・・ だ だれ ・・・? 誰かが・・・ 呼んでいる・・・? 」
淡い虹色の空のもと、フランソワーズはふ・・・っと空を仰いだ。
ずっと この空間にいる ずっと ずっと。 そんな気が ・・・ する。
虹色の空と溢れる薔薇の海に囲まれてゆらゆら・・・漂いうとうとしていた。
「 ? フランソワーズ? どうかしたのかい。 」
「 ・・・ カール ・・・ 誰かがわたしを呼んでいる・・ みたい 」
「 !・・・ そんなはずない。 気のせいだよ。 ここにいるのは僕と君だけだ。 」
「 ・・・ でも ・・・ この声 ・・・ どこかで ああ とても懐かしい声が・・・ 」
「 フランソワーズ! 僕を 僕だけを見るんだ! 」
カールは彼女の肩を引き寄せた。
「 ・・・ え でも この声 ・・・ 知っているの、とてもよく知っているのよ・・・!
わたし ・・・ 行かなくちゃ ・・・ 」
「 だめだ! フランソワーズ ! ここから出ることは 許さない!
君を呼んでいるヤツを ・・・ 壊してやる! 」
「 カール・・・! 」
「 君は 僕のものだ。 君を僕に ― スフィンクスに同調させる! 」
「 うわ・・・! いきなり・・・ え。 同調?? アイツ〜 フランに手ェ出す気だな! 」
「 な、なんだって? アイツ ・・・ 本気か?!」
サイボーグ達の頭の中に スフィンクスの <声> がびんびん響いてきた。
先ほどの <気紛れ攻撃> が功を奏したのかもしない。
スフィンクスの回路の一端が オープンになったのだ。
「 ― こっちへおいで。 フランソワーズ! 」
ジョーの声が空気を突き抜けて強く響く。
「 そこにいてはいけない。 こっちへ ぼく達のところへおいで。 ― ぼくのところへ! 」
「 ・・・ アイヤ〜〜 ジョーはん、 本気ィでっせ・・・ 」
「 うん。 迫力が全然ちがうね。 すげ〜や・・・ 」
「 だな! ・・・ スフィンクスっちゃ バッカなヤツ!!! 」
「 そうだな。 ヤツは自ら墓穴を掘った。 」
「 うむ。 自業自得だ。 」
「 ああ。 009を本気で怒らせるとはな。 ― それも003がらみで、な・・・ 」
「「「 スフィンクス・・・ ほっんとに バッカなヤツ!! 」」」
「 ・・・ んん? あ・・・ 妨害ノイズが消えた・・・! 」
おお!!! マドモアゼル〜〜〜!!! 覚醒したか・・・!? 」
全員が脳波通信の精度を最大限に引き上げ呼びかけを続けた。
― フランソワーズ!! 応えてくれ!
「 ・・・ あ! 」
「 うん? ジョー、どうした。 」
「 聞こえたッ 彼女の声! ・・・ こっちだ !! 」
「 あ!? ジョ ジョー ・・・??? 」
仲間たちがあっけに取られている前で 彼は地を蹴り ― 次の瞬間その姿はかき消えた。
「 ? ああ ・・・加速したんだな。 」
「 そうだね。 でも ・・・ どこへ? 」
「 わからんが ・・・ もしかしたらフランが拉致された場所は空中にあるのかもしれない。 」
「 あ そうか! 下ばかり探していたけれど・・・ 」
「 そんならワイらは 呼び続けまひょ。 どないしてもドアをこじ開けな、あかんよって。 」
「 うむ。 強い力が 心が必要だ。 」
「 ああ。 」
― ジョー ! フランソワーズ! 現在位置の座標を送れ!
薔薇の海の中で フランソワーズは真正面から その青年と向きあっていた。
「 なぜ こんなことをするの。 どうして。 」
「 フランソワーズ。 君が僕と同調してくれれば この未来都市をより完璧なものに仕上げられる。
君の力を私は必要としているのです。 」
「 力・・・って。 私はあなたからみればずっと不完全な存在よ。
完璧を目指すためにはお角違いだわ。 それに完璧って そんなこと、なぜ必要なの。 」
「 すべてはコントロールされ、規格に合っていなければならない。
その管理をし、全てを統括するのが僕の仕事なのだ。 」
カールは淡々と述べているが、有無を言わせぬ口調だ。
「 そこには愛が必要だ。 に・・・ にんげん で居るために。
君の愛があれば より完璧に全てをコントロールできるのだ。 にんげんでさえも。 」
「 人間を ・・・ コントロールですって? なんということを! あなただって人間でしょう?
・・・ あ・・ あなたは ・・・!
カール・エッカーマン。 あなたは ・・・ サイボーグじゃないのね。 あなたは ・・・
あなたは アンドロイド ― ! 」
「 ち ちがう ちがう ちがう −−−−−− ! 僕の脳にあるデータは全て人間の、
カール・エッカーマンのものだ。 」
「 データはそうかもしれないけれど。 その保管場所は人工頭脳だわ。
忘れたの? わたしは 003 ・・・ 見ようと思えば身体の中までだって可能だわ。
アンドロイドさん? 愛はね、強制できるものではないのよ。 どんなに優れた機械でも。 」
「 だまれ だまれ だまれ −−−−−− ・・・・ !
ぼ 僕は わ 私は かーる えっか〜〜〜まん ・・・ ! 」
突然 カールはカクカクと前後に身体を揺らすと フランソワーズの首に手をまわした。
「 な、なに ・・・ う ・・ ぅうううう 」
尋常ではない力が ぐいぐいと彼女の首を締め付ける。
彼女もサイボーグ、生身の女性よりはるかに強い筋力を持っているが アンドロイド相手では
とても太刀打ちできない。
「 ・・・ く ・・・ ジョー −−−− !! 」
意識が途切れる寸前に 彼女は全身全霊を込めてその名を呼んだ。
― シュ −−−−−− ッ !
彼女の <声> が響いてわずかの後に 一陣の突風が飛び込んできた。
「 ?! だ ダレだ ! ココに は はいれ ない は ず 」
「 放せ。 その手を ― 放すんだ ・・・!! 」
「 ・・・ガ ・・・?? 」
「 放せ。 」
ぞくり、と背筋が凍る怒気がジョーの声から迸る。
それはアンドロイドでさえも 一瞬たじろがせた。
― バ −−−− −−−− !!!!
たちまちスーパーガンが炸裂し <カール・エッカーマン> のボディが床に転がるまで
ものの数分と経たなかった。
フランソワーズが再び目を開いたとき、 目の前には見慣れたセピアの瞳があった。
「 あ・・・ ジョ ・・・ − ごほ ・・・ごほ ううう ・・・ 」
「 フラン!!! ああ 酷い・・・ことを・・・! 」
「 ジョ ・・・ よく ここが わかった わ ね ごほ・・・ 」
「 きみの <声> が聞こえて。 空中からだった・・・ でもなにも見えないんだ。
ステルス化か偏光スペクトルかなにかで可視領域から隠していたのかもしれないと思ってさ。
ともかく きみの声の方向に加速しつつジャンプしたんだ。 」
「 ま ・・・あ ・・・ なんて む ちゃ ごほ ・・・! 」
ジョーの姿を見て気が緩んだのか 彼女は地にくたくたと座りこんでしまった。
「 フラン! フランソワーズ!!! 大丈夫か! 」
「 ・・・ え ええ ・・・う っ ごほ ・・・ごほ ごほ・・・ 」
「 首を見せてみろ。 ・・・ くそぅ〜〜 あのヤロウ〜〜!! 」
「 ・・・ ジョ ・・・ わたし だ 大丈夫 だ から・・・ ごほ・・・! 」
「 なにが 大丈夫 だよ! もう少し遅れていたら ・・・ きみの咽喉は・・・ ! 」
「 ・・・でも 間に合ったわ? あなたはちゃんと来てくれた・・・ ごほ・・・ 」
「 もう しゃべるな。 すぐに博士の所へ行こう。 」
「 ・・・ ええ ・・・。 ・・・ ねえ? 完全に破壊してしまったの? 」
彼女はジョーの腕の中から そ・・・っと視線をずらせた。
そこには ― 小さな破裂音を立てつつくしゃり、と潰れた機械体が転がっていた。
「 いや。 ふん、本当なら完璧に破壊しつくしたかったけど。
・・・ 一応 エッカーマン博士の <作品> だからね。 頭部の人工脳は狙ってない。 」
「 そう・・・ よかった・・・! 」
「 フラン ・・・ きみってヒトは・・・ 」
「 ふふふ・・・ ジョーが来てくれるって信じていたから・・・ちっとも怖くなんか ・・・ごほ・・・ごほ! 」
「 もうしゃべるなって言ったろ。 さ ・・・ちょっと辛抱しろよ。
前加速状態で コントロール・タワーまで突っ走るから! 」
ジョーはしっかりとフランソワーズを抱えなおした。
「 ・・・ ジョー? 」
「 こら、しゃべるなって。 」
「 これ だけ 言わせて。 ごほ ・・・ ジョー ・・・ あ い し て る ♪ 」
「 ・・・ バカ。 ・・・ 行くぞ! 」
赤い疾風が薔薇だらけの庭を駆け抜けていった。
実験未来都市は各地でシステム・トラブルが発生していた。
信号機が狂いエア・カーやケーブル・トレインの事故が多発している。
突如ビルのスプリンクラーや 消火栓が動きだし水を噴き上げ 微風が流れるはずの
通風孔からは熱風が噴出しドーム内を荒れ狂っている。
住民たちは 逃げ惑い命からがら建物の中に閉じこもった。
コントロール・タワー内部は騒然としていた。
「 博士!! 」
「 おお! ジョー! フランソワーズ!! よかった よかったなあ〜 」
「 博士 彼女の咽喉を診てやってください! 」
「 ・・・ なんだ これは・・・! 酷い・・・ もう少しで気管が潰されてしまうところじゃぞ! 」
「 ・・・ ごほ・・・ だ い じょううぶ です から ごほ・・・ 」
「 喋るな。 一体誰がこんな・・・ おお こちらへおいで。 応急処置をせねば 」
「 カールですよ、アイツが! 」
「 なんじゃと? 倅が・・・ そ それで倅はどこに? 」
「 エッカーマン博士・・・ 薔薇苑の中のコテージです。 なぜか宙に浮いてましたけど。
彼がフランソワーズの首を。 」
「 ・・・ な、なんということを・・・! すまん、すまん〜〜お嬢さん!
<カール>の方も暴走していたのか・・・! 」
エッカーマン博士は制御室から転がり出てきて、頭を抱えている。
「 カールの方も? ・・・ 途中で見たのですが 都市の機能がトラブル続発のようですね。 」
「 そうなのですよ。 < スフィンクス> がなぜか突然暴走し始めましてな。
こちらではコントロールが不能になりかかっているのです! 」
「 な ・・・ なんだって?? なぜ? 」
「 原因不明です。 突如 ・・・ メモリーコアの一部が爆発してしまい・・・
次々と都市機能を預かるサーバーがダウンし始めているのですじゃ。 なぜだ??? 」
「 ・・・ かーる ・・・ね ごほ・・・ 彼が壊れた ・・・から ・・・ 」
「 カール・・・! お前はなぜ・・・勝手な行動をする・・・・ なぜ ・・・ なぜ?? 」
エッカーマン博士は頭を抱え座り込んでしまった。
「 博士。 彼女を救うために・・・ その・・・カールのボディを攻撃しましたけど
アタマは ・・・ 肝心のアタマ・・・ 人工脳にはダメージを与えていません。
・・・ その ・・・ごく普通のアンドロイドとしてなら修理すれば活動できると思います。 」
「 ・・・ ジョー君、でしたな。 ありがとう ・・・ ありがとう・・・
君の大切な人をとんでもない目に遭わせたヤツなのに・・・ 」
「 博士 ・・・。 」
「 アイツは カールはなあ ・・・可哀想なヤツで・・・ 母親は早くに亡くしワシが男手ひとつで育てました。
ええ 事故に遭ってもう・・・身体は即死に近い状態でした。
なんとか脳組織だけでも救いたい、と思ったのですが・・・
当時の私達の技術では サイボーグにするにも損傷が激しくて・・・ 不可能じゃった・・・ 」
「 え ・・・ それでは・・・ 」
「 そう・・・メモリーデータを呼び出すのが精一杯でした。
・・・仕方なく そのデータをアンドロイドの人工脳にインプットしました。」
「 ・・・ まあ ・・・ ごほ ・・・ 」
「 アイツは <カール> は。 そのことを酷く怒っていました。
こんな身体にするのなら いっそ記憶も何もかも<処分>してほしかった、と。
なぜ こんな身体にした、とワシを詰り謗りました・・・ 勝手すぎる、と ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
ギルモア博士が辛そうに顔を背けた。 フランソワーズの白い傷だらけの手が老人の手をつつむ。
「 ?? フラン・・・ソワーズ・・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
彼女は ただゆっくりと頷き、そっとギルモア博士の手を取り頬を寄せた。
「 ・・・ フラン ソワーズ・・・ 」
「 ギルモア君 ・・・・ 君が羨ましいのう・・・
ワシは ・・・ワシはな、ただ アイツに ・・・ カールに、生きていてほしかっただけなんじゃ。
たとえ・・・ 機械の姿になってしまっても カールに生きていてほしかった・・・! 」
「 ・・・ そうですか・・・
エッカーマン博士 ・・・ 彼は ごほっ あの庭の薔薇だけは ・・・ごほッ
手作りで栽培 し ている と 言ってま した・・ ごほ ごほ・・・ 」
「 え・・・ 手作で・・・? 」
「 ええ ・・・ きっと ごほっ 記憶の底には ・・・ 優しい気持ちが のこって・・ 」
「 フラン! もう喋ってはだめだ!
博士、なるべく早く帰らなくては! ドルフィン号を呼びましょう! 」
「 うむ・・・ しかし、 まずここを出ることが先決だ。
スフィンクスの暴走を止めなればならん。 」
「 でも・・・どうやって?? コントロール・タワーでも不可能なんですよ? 」
「 うん ・・・ でもなんとか なる、かもしれないよ。 」
「 ?? ピュンマ!? ああ皆も・・・ 」
戸口からどやどやとサイボーグ達が駆け込んできた。
ピュンマはさっそくコントロール・ルームのメイン・コンピューターを覗いている。
「 ピュンマ ・・・ どういうことかい。 なんとかなる、って。 」
「 ジョー ・・・ うん、さっきさ、ジェットの気紛れ激射を見てて気が付いたんだけど。
100%の管理を誇るっていうアイツは 気まぐれとか不意打ち、出たトコ勝負とか・・・
そうだな、そんな人間臭い事象にひどく脆いんだ。
脆いっていうか・・・対処できずにパニックなるんだね。 」
「 は〜ん?? じゃ、オレが最適の武器ってことか〜〜 」
赤毛のノッポがあきれ返っている。
「 だから僕たちで 同時にアットランダムに・・・<騒動>を起こせば。
ヤツはパニックを起こして沈黙するよ。 」
「 そうか・・! 完璧に対抗するには 人間臭く・・・ってことだね。 」
「 ふむ・・・ 一理あるな。 天然自然が一番強い、ということか。 」
「 よし。 それでは ・・・ 都市の人々の安全を考慮して <暴れる> か。
全員で分散して <攻撃> だ。 」
「 おう! ・・・エッカーマン博士。 我輩らがあとで修理いたすので しばしご勘弁を! 」
ギルモア博士とフランソワーズを残し サイボーグ達はてんでに都市内に散って行った。
― そして。
万能完璧コンピューター・スフィンクス はあっけなく沈黙した。
ドームの亀裂から砂漠の熱風が吹き込み 管理されている街路樹や林はたちまち枯れた。
「 この ・・・種を ごほ・・・ 撒いてみて くだ・・さい ・・・ 」
「 お嬢さん・・・ 」
ドルフィン号に乗り込む間際、フランソワーズはエッカーマン博士に小さな袋を渡した。
「 ウチの庭に咲いた ・・・ 草花の種 です ・・・雑草に 混じって・・・咲いてました
きっと丈夫 ですわ ・・・ カールも 本当は花が ごほ・・・ 好きだったのですよね・・・ 」
「 ・・・ おお おお ・・・ ありがとう ・・・ありがとう・・・! 」
「 フラン、本当にもうひと言も喋ったらダメだ! さあ 行くぞ! 」
ドルフィン号は <夢の実験未来都市> から 静かに離れた。
「 フラン? そっちへ行ってもいいかい ・・・ ?? 」
「 ・・・ ええ 勿論・・・ 」
ジョーはトレイを捧げ ・・・ あぶなっかしい足取りでやってきた。
「 お茶と ・・・薬を持ってきた・・・んだけど・・・うわっ 」
「 あ ・・・あらら ・・・ 大丈夫? 」
「 ・・・ う うん ・・・ ああ ちょっとこぼれちゃった・・・ 」
「 いいわよ。 秋のお日様でそのうち乾くわ。 」
庭を臨むテラスで フランソワーズは毛布に包まって座っていた。
あの時の怪我がやっと癒え、博士からベッドを離れる許可が下りた。
「 ・・・ 夏 ・・・ 終っちゃったわね・・・・ 」
「 うん? ・・・ ああ そっか・・・あの雑草の海がウソみたいだなあ。 」
「 本当・・・ ちょっと淋しいわ。 」
「 え・・・雑草なんかないほうがいいじゃないか。 」
「 ええ ・・・ でも 緑がある方が好きなの。 また 花の種を撒くわね。
今度は・・・春に咲く花よ。 」
「 あ いいなあ。 手伝うから・・・ 早く元気になれよな。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
二人は じっと見つめあい笑みを交わす。
手を繋ぐことも肩を寄せることもしていないが こころはじんわりと温かい。
「 ねえ。 いつか,・・・ ここも緑の野に還れればいいわね ・・・ 」
「 え? 」
「 野原よ・・ 雑草の海 がいいわ・・・ いつか わたしたちがいなくなった後に ・・・ 」
「 ・・・フラン ・・・・ 」
「 ね・・・? 」
「 ・・・ そうだね ・・・ その日まで 一緒だよ。 」
「 ・・・ ええ ・・・ ジョー・・・ 」
― 二人の前に秋の日を受け、名残の鳳仙花が頼りなく揺れている。
・・・ ぱん ・・・ ひそやかに季節最後のタネが散った。
*************************** Fin ****************************
Last
updated : 09.28.2010.
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************ ひと言 ************
やっと終わりました・・・・
なんか初めに目指していた方向とちょっと違ってしまったかも・・・・
事件を起こすのは本当に大変です・・・
<すふぃんくす> は無害なただの・コンピューターに生まれ変わります。
あの原作・ラスト は こちらではナシです〜〜★
最後までお付き合いくださった方がいらしたら・・・ありがとうございました<(_
_)>