『 グリーン・グリーン ― (1) ― 』
その年の夏は 本当に暑かった。
巷では 猛暑日 とか 熱帯夜 とかの言葉がいたるところで人々の口に上り、
熱中症に注意しましょう、が毎朝の合言葉のようになっていた。
あまりの暑さに 日中人々は帽子や日傘の陰に縮こまり俯いて足早に街を通りすぎるのだった。
・・・ だれもが長い夏にうんざりしていた。
「 ああ ・・・ 今日も暑くなりそうねえ・・・ 」
フランソワーズはふう〜〜〜っと大きく溜息を吐いた。
リビングからテラスに出るだけで じりじりと照りつける日差しが肌に痛いほどなのだ。
「 でも これはどうしてもやらなくちゃね! 」
ぐる〜〜〜っと目の前の庭をながめ、彼女は重々しく頷いた。
「 これは緊急ミッションよ! ・・・ このままだと緑の海に埋没するわ。 」
岬の突端に建つちょいと古びた洋館・ギルモア邸・・・・
その実体は外観とはかなりかけ離れたハイテク駆使の一種の小要塞にちかい存在である。
しかしさすがに・・・その夏は 暑かった。
無論 年中快適温度・湿度を保持するのは簡単だし、窓を全部閉め切ってすごすことも可能だ。
住人たちの特殊な <事情> を考えれば 気密性の高い住居でも問題はないはずだ。
しかし 彼らはごく普通に生活することを好んだ。
つまり ・・・
春には明るい色のカーテンに変え、窓を開けはじめ 夏には網戸にして涼風を通し風鈴を鳴らした。
秋の夜はテラスに出て大海原に上る名月を愛で 冬になれば日中の陽射しに集まり温まった。
そう、彼らは ― 定住しているのは 博士とイワン、フランソワーズとジョーなのだが ―
温暖なこの地方の暮らしを、 ゆっくりと移り替わる四季を 楽しんだ。
だから その年の暑い夏も普通に遣り過ごそうとしていた。
「 ほっんとうに 今年のお日様はどうしちゃったのかしらね。 元気すぎるわよ・・・
昨夜はさすがにずっとクーラーを入れてしまったわ・・・・ 」
フランソワーズは額に纏わる前髪を払い、後ろはしゃっきりと一つに結った。
「 ジョーもこんなに暑い夏は 初めてって言ってたわねえ。 これじゃ南の島みたい ・・・ 」
この邸は自然の力をうまく取り入れていて、夏は裏山からの涼風が吹きぬけ
冬には木枯らしを避ける方向に設計してある。
それでも その年の夏は暑く、時には寝苦しい夜もあったのだ。
「 あ そうだわ! ジョーにたのんで裏の井戸にスイカを冷しておきましょう。
オヤツにはきっと美味しくなるわね。
それにしてもこの暑いのにいつまで寝ているつもりかしら?? メモを置いておきましょ・・・ 」
ジョーは 相変わらず早起きは苦手らしい。
この暑い夏でも平気で寝坊し いつもと同じに一番最後に朝食をとっている。
「 さあて、オヤツを楽しみに 頑張らなくっちゃ。 まずは・・・っと・・・ 」
彼女は う〜〜ん!と精一杯伸びをした。
そして 両腕をぐるぐる回し、ついでに前後左右の屈伸運動もして
( ・・・ ちら・・っと周囲を確かめてから )
ひょい・・・と右脚を耳の横まで持ち上げ きゅきゅっと引き寄せた。
「 ・・・っと。 準備完了〜〜 それじゃ ・・・ フランソワーズ〜〜 行きます! 」
高らかに宣言すると彼女はがしがし庭へ降りてゆき ― 草むしりを開始した。
広い庭には 夏草が我が物顔に繁茂している。
ギルモア邸はかなり広い敷地に建っていて、広い庭を持っていた。
この地に住み着いた当初は石ころと瓦礫だらけで 垣根を模してぐるりに常緑樹が植えてあるだけだった。
「 ・・・ 仲間を呼ぼう。 」
最初に口火を切ったのは 普段無口な巨躯の持ち主だ。
「 仲間?? 故郷に帰っているみんなのこと? 」
「 いや・・・ 緑の仲間だ。 緑をここに呼ぼう。 庭 を造る。 」
「 まあ、いいわね! わたし ず〜〜っと広いお庭って憧れていたのよ。
アパルトマン住いで 庭なんてなかったから。 テラスの植木鉢が小さな緑だったの。 」
「 アイヤ〜〜 ええやんか〜 ワテ、畑で野菜をつくったるで。 皆はんにとれとれを食べさしたるわ。
美味いでェ〜〜〜 ついでに店で使うたら安上がりでええ。 」
紅一点と料理人がすぐに <乗った>
「 ・・・ あ それじゃ ぼく、土を掘ったり水やりしたり・・・手伝うよ。 あ、肥料もいるよね〜
あんまり園芸とか知らないけど・・・ 」
唯一の地元国民はセピアの瞳を輝かせ笑う。
「 ぼくもさ・・・ < ウチの庭 > って。 憧れていたんだ。 」
「 ほう〜 ガーデニングとな。 うむ、なかなかよい趣味だぞ? イングリッシュ・ガーデンなぞ、いいな。
では ・・・我輩はまずはわが国花である薔薇の苗でも調達してこよう。 」
英国紳士も 大いに乗り気を示した。
「 ふむ ・・・ 庭 か。 ちと海風が気になるな。 ここの土壌も塩分が多いかもしれん。
どれ・・・ サンプルを採取して調査しよう。 土壌改良剤の肥料を作るぞ。 」
老ご当主の協力もとりつけ、岬の邸の周囲にはだんだんと緑豊かな庭が広がっていった。
その後 邸は何回か焼失・倒壊の憂き目を見たが 庭はなんとか生き残った。
ここしばらくは穏やかな日々が流れ 邸もいい具合に古びてきている。
今 表庭は主に花木やら果樹が そして裏には野菜畑と温室が並んでいる。
メンバー全員がこの家に集まるのは 年に数えるほどだ。
この国に定住する仲間もそれぞれの仕事がいそがしく、いきおい庭の手入れは
フランソワーズの役目となった。
・・・ 勿論、というか当然 ・・・ 傍らにはジョーの姿がある。
「 お水 お水〜〜 この暑さですもの、いっぱいあげなくちゃ・・・ 」
「 あ ぼくがやるよ。 なあ ホースでば〜〜〜っと撒こうか。 」
「 そうねえ・・・ 畑以外はお願いしようかしら。 」
「 え ・・・ 畑はだめ? 」
「 実の生り具合とか虫の駆除があるから・・・ゆっくり様子を見ながらお水を上げるわ。 」
「 ふむ・・・ それではな、畑用のスプリンクラーを設置しよう。 噴水の具合を調節してな。
そうすれば生り物にもやさしいじゃろうからの。 なに、すぐに出来るぞ。 」
「 わあ〜〜 博士、 ありがとうございます。 」
「 ふうん・・・・そうかあ。 ただ水を撒けばいいってもんじゃないだなあ・・・ 」
「 そうねえ。 今年はこの暑さでスイカやトマトやナスがとても元気よ。
ジョー、あとで美味しそうなスイカ、裏の畑から 選んでくださる?
オヤツにね、う〜〜んと冷して頂きましょう。 」
「 うわ〜〜〜 いいね! うん! じゃ その前に水やりだね。 」
「 おねがいね〜 」
ジョーに手伝ってもらいつつ 彼女は楽しげに庭いじりに精をだしていた。
大地からの恵みを受け取れるようになる頃には 岬の家の周辺は緑豊かな地に変わっていた。
「 フランソワーズ。 手伝おう。 」
只今戦闘中・・・の彼女に うしろからおおきな影がのそり、と近づいてきた。
「 まあ ジェロニモ・・・ 昨夜遅くに着いたばかりでしょ、疲れてない?
この暑さよ、慣れるまでのんびりしていてね。 」
ジェロニモ Jr.はメンテナンスのために来日したばかりだ。
彼はしかし 故郷でと同じに早朝に起き、温室やら畑の世話を手伝ってくれている。
「 身体を動かしているほうがいい。 ・・・ この相手は手強いぞ。
俺はこっち側から攻めてゆく。 」
「 そうなのよ、ちょっと目を離すとねえ・・・ でも 頑張るわ、ありがとう。 」
「 うむ・・・ 」
二人はてんでに 緑の海 に沈み込み、雑草退治を始めた。
「 うん・・・しょ!! うわ・・・すご・・・ あら? こんなとこにお花が・・・ 可愛い!」
「 ・・・ それは 鳳仙花 だ。 」
「 ほうせんか・・・? 」
「 ああ。 俺もこの土地で初めて見た。 一年草だが淡い色の花が美しい。 」
「 ほんとう・・・可愛いわ。 あら これは実・・・ あ ・・・ 弾けちゃった・・・ 」
「 うむ ・・・ その実は触れるとすぐ弾けて種をとばす。 そうやって増えてきたのだろう。 」
「 ふうん ・・・ ほうせんか か。 あら?でもこのお花の種、撒いた覚えはないわよ?
あ ジョーが撒いたのかしら・・・ 」
「 ・・・ いや。 鳥や風の贈り物だろう。 」
「 鳥や風・・?? あ ・・・ こんなところに金魚草が咲いてる!
まあ、この色はウチにはないわね? 嬉しい・・・ でも どうして?? 」
「 フランソワーズ、金魚草も鳳仙花も ・・・ この雑草も同じだ。 」
「 え・・・ 同じって・・・ ああ、鳥や風が運んできたの? 」
「 そうだ。 鳳仙花の種のように弾けて飛んで風に浚われたり鳥のエサになり・・・
フンとなって別の地に落ち 芽生える、というわけだ。 」
「 ・・・ ああ そうなのね。 ふうん・・・ 知らず知らずに新しい仲間が増えるのね。 」
「 ああ。 余計なヤツラも増えるが。 こうやって植物達は新しい地を目指す。
・・・ ヒトも同じだ。 」
「 ヒトも ・・・ そう ね ・・・
皆新しい土地で 新しい家族を作ってゆくのよね。 」
「 うむ。 」
わたしも この ほうせんか と同じね・・・
・・・ 全然知らなかった場所に いつの間にか根付いているわ
ねえ ・・・・? 新入りさん?
ウチの庭で沢山お花を咲かせてね。
そして ぱん・・・って種をとばして?
白い指が そっと淡い色の花を、小さな実をなでる。
「 気にいったか。 」
「 ・・・え? ええ ・・・ お花も可愛いけど。 この実が弾けるのが好き。
ねえ、花壇に植えてもいいかしら。 」
「 うむ。 雑草の中では気の毒だ。 夏の花だ、暑さにもつよいだろう。 」
「 じゃ・・・ 玄関の脇にも植えようかしら。 種が飛べば来年はもっと増えるわね。 」
「 うむ ・・・ 綺麗でいい。 」
二人は 再び緑の海にしゃがみ込んだ。
ほうせんか や 金魚草・・・
皆 元気にがんばっているのね。
わたしも この地で新しい種を実らせて ・・・
・・・ 飛ばせるかしら ・・・ 飛ばしたい・・・!
・・・ ジョー ・・・ あなた と ・・・
草いきれの中で 彼女はひとり、頬を染めていた。
「 ・・・お〜〜い!! フラン〜〜 ジェロニモ〜〜 どこだ〜〜 」
二人の作業が かなりはかどったころ、 アタマの上に声が流れた。
「 あら ・・・ ジョー・・・ 」
「 ・・・ うむ。 」
よいしょ・・・! 草取り隊 は緑の海から浮上した。
あまりの接近急上昇に ジョーはびっくりし、二三歩跳びのいた。
「 うわ・・・!? びっくりした〜〜〜 ・・・・ 」
「 お早う ジョー。 あら どうしたの。 」
「 い ・・・いや・・・ こんなに近くにいると思わなかったんでね・・・ ああ 驚いた〜 」
「 ふふふ・・・ ジョーが起きてくる前に一仕事、しちゃったわ。
どう・・・ かなり <緑の海> が狭くなったでしょ。 」
「 うん。 ごめ〜ん ぼくも手伝うよ! あ、 スイカね、ちゃんと裏の井戸に冷しておいたよ。 」
「 まあ ありがとう。 そうだわ、ねえ、ジョー。 ホウセンカ、見つけたら抜いちゃいやよ。
それとね、 種を取っておいてくれる。 」
「 え・・・ うん いいけど。 鳳仙花・・・ ウチの庭にあったっけ? 」
「 雑草に混じって咲いていたの。 あとで玄関の方に移植するわ。
・・・ 鳥さんや風のプレゼントですって。 」
「 ??? それじゃ・・・ぼくはどの辺りから潜航しようかな・・? 」
「 じゃ・・・・ こっちをお願い。 三人で取り掛かればそぐに終わる・・・終わればいいわね。 」
「 よ〜〜し・・・! 深く静かに潜行するぞ〜〜 」
ジョーは 軍手を填め雑草の海に 身を投じた。
ふふふ・・・ これでかなり捗るわ・・・
・・・ あ ここにもホウセンカ ・・・ キレイ ・・・
こんにちは いらっしゃいませ
わたしも あなたと同じなの
わたしも 遠くからこの地に飛んできたの
・・・ わたしも 次の花 を残せるかしら・・・
ジョー ・・・・! わたし・・・あなたの ・・・
シュ ・・・ ガサゴソ ・・・ ボコ・・・
草いきれの中から ジョーの作業の音が聞こえる。
丹念に雑草を根元から引き抜き、土を払っている。
真剣なセピアの瞳が 彼女には見える ・・・ 気がした。
この地に来て、一つ屋根の下に暮らし。 想い合う二人は ごく自然に寄り添った。
しかし共寝をするようになったのはそんなに前のことではない。
仲間たちも温かい笑みを送ってくれ、二人はこの邸で平穏な日々を送っている。
あなたの ・・・ こども ・・・
・・・ ジョー ・・・ あなたも それを 望んでくれている・・・?
白い指がそっと触れれば 鳳仙花は思いがけず勢いよく種を飛ばす・・・
「 あ・・・ 待って! ちゃんと集めておかなくちゃ・・・ 」
地面に散らばったほんの小さな粒を 彼女は丹念に拾いあつめる。
「 フラン〜〜 こっちにも鳳仙花、あるよ? ああ 白粉花もあるなあ・・・ 」
「 え そうなの? ねえねえ・・・種を集めておいてね?
ウチの庭だけじゃなくて ・・・ ほら、裏山や国道の方にも撒いてもいいわよね。
来年、 この辺りがお花でいっぱいの夏になったらステキだわ。 」
「 あは・・・きみらしいアイディアだね〜 うん、それじゃ集めるね。 」
「 お願いね。 あら こうやって新しい<仲間>を捜していると 草むしりも楽しいわ。 」
「 ふふふ・・・ ぼく、こんなに楽しい草むしりって初めてだよ。
さあ〜〜 冷えたスイカめざして〜〜 あとちょっとだぞ〜〜 」
ぱん ・・・ また小さな実が弾けた。
畑や温室の成果は皆の食卓をにぎわした。
食べきれない分を フランソワーズは酒に漬けたり砂糖で煮込んだりした。
ピクルスも作り・・・ ギルモア邸のキッチンの奥には保存用のビンが並ぶようになった。
窓辺には ニンニクやら鷹のツメが下がる。
ジョーはキッチンに来るたびに 目新しいものを発見していた。
「 ・・・ うわ〜〜 すご〜い・・・なあ・・・ 」
「 そう? どこのお家にもあるものばかりよ? ハーブ用の畑も作ろうかな・・・ 」
「 ふうん・・・ そうなんだ〜〜 ・・・ ウチって。 いいね。 」
「 わたしが育った頃は・・・ 今みたいに豊かじゃなかったの。
畑のもの とか お肉 とか・・・ 素材で買っていろいろ加工したのよ。
・・・出来合い食品って・・・あまりなかったわ、だから家で作らなければ食べられなかったし。 」
「 ふうん ・・・ でもさ〜 自然って。 何にでも姿を変えてゆくんだね。
ねえ? ぼく、作り方はよく知らないんだけど ・・・ 梅酒 とか 梅干もつくろうよ。
裏庭に 張大人が大きな梅の木を植えていただろ。 」
「 うめ? ・・・ ああ! 春のはじめに白い良い匂いの花が咲いたわよね。
そうそう、あれが梅干のモト なのよね? いいわ、面白そう・・・
作り方、さっそく大人に教えてもらわなくちゃ。 」
「 きみも梅干、好きだろ? ・・・ あれ、 それはなんだい。 」
「 ・・・ これ? 」
「 うん。 ただの雑草に見えるんだけど。 」
キッチンの片隅に 引き抜いてきた雑草が一束置いてある。
「 雑草には違いないのだけれど。 これを燻すとその煙がね、虫除けになるのですって。
ジェロニモ Jr.が教えてくれたの。 」
「 ・・・・ 虫避け? ・・・・ ああ ああ! 蚊取り線香 みたいなもんか〜〜 ふうん ・・・ 」
「 わたし達には必要ないけれど・・・ 博士やイワンには大事なものでしょ。 」
「 ぼくもね、 あの匂いを嗅ぐと ああ 夏だなあ〜〜 って気になるんだ。
夏の大切な演出家 さ。 じゃあ ぼくが燻すよ。 」
「 そう? ありがとう・・・ それじゃ・・・・冷たい飲み物、用意するわね。
え〜と・・・ あ、 苺 と バナナ、 どっちがすき? 」
「 え ・・・ う〜〜ん ・・・? ・・・ う〜〜ん ・・・・?? 」
「 ジョー・・・どうしたの。 」
「 ・・・・ き 決められないのさ。 苺 か バナナか???
両方とも好きなんだ〜〜 ど ・・・ どうしよう・・・?? 」
「 いやだ・・・ ふふふ ・・・じゃあね、特別に両方作るわ。 今日のオヤツよ♪ 」
「 うわ〜〜 すげ〜〜 やった! ・・・ でも 何になるのかな? 」
「 うふふふ・・・ ちょっと待っていてね。 」
フランソワーズは 苺の砂糖煮を保存したビンと冷凍庫からバナナを出してきた。
「 ・・・・? 」
そして期待に満ち満ちたジョーの目の前で いちご・サイダー と バナナ・ミルクシェイク が出来上がった。
「 ・・・・ うわあ ・・・・ 」
「 簡単オヤツでごめんなさいね。 この苺・・・ウチの温室で採れたのの中で形のよくないのとか
潰れてしまったのを煮ておいたの。 バナナはね、これは安売りの時に沢山買って冷凍したのよ。
どうかしら・・・? 」
「 ・・・ !!! 美味しいよ!! すご〜〜く すごく・・・! ちゃんと苺やバナナが残ってる〜
こんなの、飲んだことないよ・・・! 」
「 よかった・・・ 苺サイダーはわたしの母のお得意だったの。
今はもっと美味しいものがいっぱいあるから・・・ 笑わないでね。 」
「 笑うなんて! こんなに美味しいの、初めてさ! どこにも売ってないよ。
そうか〜〜 ・・・ うん、感激♪ ウチの庭もたいしたもんだね。 」
「 そうね。 お店で売っているのみたいにキレイじゃないけど・・・
その分、味がしっかりしているかんじ。 」
「 うん。 ・・・ あ〜〜〜 美味しい♪ 」
彼は苺サイダーも バナナミルクシェイクも きれいに平らげた。
「 秋にはね、葡萄が採れるでしょ。 楽しみだわ〜 」
「 うん! ああ 柿もあるよねえ。 その前に無花果だろ、そうそう 夏蜜柑もあったね! 」
「 ええ。 あれはね、皮を使ってマーマレードにするつもり。 」
「 うわお〜〜・・・ すげ〜〜 」
ジョーはキッチンに入り浸っている時間が長くなってきた。
暑さの中にも 季節はこっそり・こっそり進んでいた。
草むしりをした翌日も ジョーはあれこれ庭を見回り、その後で裏山にごそごそ入って行った。
「 ただいま・・・ なあ、ちょっと お土産があるんだ。 」
ランチタイムに ジョーはにこにこして現れた。
フランソワーズは午前中、畑の世話をし垣根ぞいのヒバの樹に水遣りをしていた。
「
まあ なあに? 」
「 ・・・ これ。 先週の大雨で落ちたみたいなんだけど 」
ころり と小さな物がジョーの手のひらから転がり落ちた。
「 ? ・・・ あら 木の実
ね? いろいろな形があるのね。 」
「 うん 確かに木の実だけど ・・・ どんぐり
さ。
」
「 どんぐり …?
わあ
青くて可愛いのね、皆帽子を被ってるわ〜 ふふふ・・・小人さんみたい。 」
「 本当は茶色になってから落ちるんだけどね。 ちょっと早いな、皆。 」
「 ふ〜ん ・・・ 栗 に似てるわね 食べられるの? 」
白い指先が ひとつひとつを抓みあげしげしげと観察している。
「 いや〜 どうかな? 昔 飢饉の時にはたべたりしたそうだけど …
今はね? ぼくらにはオモチャさ。
ちょっと待ってて ・・・ああ 爪楊枝とか あるかな〜
あと 先の尖ったものもあるといいだけど …
」
「 先の尖ったもの? ・・・ええと? ああ
これはどう? 串カツ用の金串・・・ はい
これ。 」
「 うん ありがとう それじゃな〜 これを・・・
ちょ ちょ〜い ほら できたよ
。 」
ジョーは手の中でどんぐり達に爪楊枝を差し込んだ。
「 ・・・ ?
まあ コマね?
そうでしょう? お正月に教わったわ、 あのコマでしょ。 」
「 うん, 自然のコマさ。 ほ〜ら
回してみるよ、見てて? 」
「
ええ ・・・ わあ〜〜〜 」
ジョーは丸まっちいずんぐりしたどんぐりを手に取ると ちょい
とひねってテーブルの上に放った。
「 ・・・
あ? わあ〜
回ってるわ〜 すごい〜
」
「 よ〜し・・・ じゃ
こっちも な・・・ よ・・・っと・・・ 」
今度は細長いどんぐりがするする回り始めた。
「 すご・・・・ ジョーってば魔法使いみたいよ〜〜 これ、動力なんて・・・ないわよね? 」
「 あは、普通のコマと同じさ。 うん・・・よく回ってるな。 」
「 へえ〜〜 可愛いわあ〜〜 ステキ♪ こんな実があるなんて知らなかったわ。 」
フランソワーズはテーブルと同じ高さの目線に腰を落とし、どんぐりのダンスに夢中だ。
「 きみはこんな遊び、知らないと思うけどさ・・・
ぼく達、子供の頃には施設の仲間とよく作ったんだ。学校の友達はあまり興味なかったみたいだけど。」
「 あら そうなの? 勿体無いわねえ・・・こんなに可愛いのに。 」
「 うん・・・ ぼく達 ・・・ ゲームとかはお下がりの中古品ばっかりだったから・・・
自分達だけで こんなの作って遊んでたのさ。
秋にはポケットの中はどんぐりでぎゅうぎゅうだったよ。 それから ・・・ ほら! 」
「 きゃ・・・・ なあに?? 」
ジョーは ひょい、とまたまた小さなものを彼女めがけて投げて寄こした。
緑色のそれは フランソワーズのカットソーの肩に留った。
「 え・・・ あら。 なに、これ〜〜 くっついたわ? 」
「 くっつきムシ・・・なんて言ってたけど。 植物の実・・・種だと思うよ?
ほら・・・このとげとげが衣類の繊維に絡みつくんだ。 」
「 ・・・ 本当〜〜〜 これ、ニットのものだったらもっとよくくっつくわね。 」
「 うん。 秋から冬にかけて 雑木林に入ると沢山くっついてきたよ。
集めてさ、皆でぶつけっこして遊んだなあ。 」
「 そうなの〜〜 ふうん ・・・ きゃ・・・トゲトゲが結構痛いのね。
よし・・・とれたわ。 ・・・ えい・・・! 」
「 お・・・ くっついたぞ〜〜 これはどうかな、それっ! 」
「 ・・・・わ・・・! きゃ〜〜髪についちゃった〜〜 」
「 ごめん! ・・・ ちょっとじっとしてて・・・ 絡まってるよ・・・ 」
「 あら ジョー。 あなたのGパンの裾にも なにかくっついているわよ? 」
「 うん? ・・・ これはね〜たしか イノコヅチ? これも草の実だったかな・・・ 」
「 ふうん 面白いのねえ・・・ 」
二人は 草や木の実を相手に子供みたいにはしゃいでいた。
「 そうやって 木や草はテリトリーを広げてゆく。 」
ジェロニモ Jr.がリビングの隅からぼそり、と呟いた。
「 ・・・え? テリトリー? 」
「 そうだ。 ヒトに付いて行って思わぬ場所で芽吹く。 花の種と同じだ。
適応できる場所ならば繁殖し 駄目なところでは枯れてゆく。 それが自然の姿だ。 」
きゅ・・・・ 彼はなにか植物のツルを何本も伸ばしている。
「 ふうん ・・・ あら それはなあに。 」
「 うむ。 アケビの蔓だ。もうすこし乾かして籠を編む。 イワンのクーファンにでもするといい。 」
「 あら すてき♪ いいわね〜〜 」
「 うん なんかさ・・・ 暑いのもいいかな、って思えてきた。
暑い夏があって 実りの秋が来るだものなあ。 」
「 そうねえ・・・ ああ でもね! 今年みたいなのは ・・・ 暑すぎ! 」
「 今年はね・・・ あ! スイカ!! 今日も冷しておいたんだ! 」
ジョーはばたばたとキッチンの勝手口から 出ていった。
<自然> は 仲良くしていれば日々の平凡な生活を鮮やかに彩ってくれるのだ。
この邸では<自然>からもっとも遠ざかってしまった身体の人々が
ひっそりと<自然>に寄り添って暮らしている。
「 ・・・ うん うん ・・・わかった。 それじゃ準備が出来次第発つよ。
うん。 とりあえず一旦、切る。 了解 ・・・ それじゃ・・・ 」
ジョーは静かに電話を切った。
「 ― ジョー。 」
「 うん。 アルベルトからだ。 ちょいと遠出することになった。 ― < しごと > だ。」
「 ・・・・・! わかったわ。 大人とグレートに連絡するわね。
ああ ジェロニモ Jr.がこっちにいてよかった! 」
カレンダーは秋の月にかわっても 相変わらず暑い日々が続いていた。
ジェロニモ Jr.がメンテナンスを無事に終えたころ、アルベルトから電話が入った。
意外にも 彼はジェロニモ Jr.の故郷に近い場所にいるのだという。
「 そやかて なんでまたアルベルトはんがそげなトコに居てはりますねん。 」
「 ほう・・・あの御仁が新大陸とは珍しいなあ。 」
急をきき 邸に駆けつけた在日組は ジョーの話を聞き、目を見張った。
グレートも張大人も 仕事を放り出してやってきたのだ。
「 うん それがさ。 ちょっと小さな <仕事> で怪しいデータを追っていて・・・
アメリカに渡ったそうだよ。 そうしたら小規模な基地にブチ当たったんだ。」
「 ほう・・・ 奴さんに宝くじでも買わせるか? 」
「 なんでやねん。 」
「 あた〜りぃ〜〜〜♪♪ 」
「 あんさん、マジメに聞きなはれや。 」
「 それでね・・・ ジェットを呼んで破壊工作をしたのだけれど 残党を取り逃がしてしまったそうよ。
ソイツらが逃亡して・・・挙句に果に逃げ込んだのが・・・ 」
「 今 評判の 砂漠の楽園 ― ドーム型・未来都市 というわけじゃよ。
あの都市の根幹設計はワシの旧い友人が手がけておっての。 彼の長年の夢じゃった。
是非、助けにゆかねば・・・! 」
「 そうですね。 わたしもその都市のことはいくらかデータを見ました。
実験未来都市・・・だそうですね。 」
「 そうじゃよ。 ワシの旧友 ― Dr.エッカーマンの長年の宿願での。
砂漠の中のドーム都市なのじゃが、 完全にコンピューターによって制御されておるそうだ。 」
「 へえ・・・ 防衛機能は万全、というわけですか。 」
「 あら? それじゃ ・・・ どうしてアルベルトが追っていた残党が紛れ込んだの?
なにか・・・ その都市のシステムにミスがあったのかしら。 」
「 うむ・・・ それは現地へ行ってみないことにはわからんが。 」
「 そうですね。 しかし・・・ あの二人が取り逃がしたってことは
相当手強いヤツラだってことですかね。 」
「 わからんが・・・ 全員で力を合わせて作戦に当たっておくれ。
万が一、 残党どもに都市の中枢コンピュータを占拠されたら大変じゃからな。 」
「 はい。 それでは・・・ドルフィンの準備が出来次第、現地に飛びます。 」
「 そやな。 ゴキブリはとっとと始末せなあかん。 」
「 全くだ。 ついでにその実験未来都市とやらを じっくり見学させてもらおうじゃないか。 」
「 ワシもな、興味がある。 都市機能だけでなく環境も全面的にコントロールできるそうじゃ。 」
「 ・・・ 環境も ですか? 」
「 ああ そうじゃ。 なにせ 砂漠のドーム都市じゃからな。 」
「 あ・・・ そうですわね。 ・・・ そうね、そうしなければ人間は生きてゆけないわね・・・ 」
「 ともかくその都市を統括するコンピューター・システムに ヤツラの侵入を阻止しなければ!
実際に一万人以上の人々が生活しておるのだから。 」
「 はい! ― ピュンマを拾ってからアメリカに向かおう。
最終目的地は ロスアンゼルス郊外の砂漠、 ― ドーム都市だ。 」
「 ― 了解 」
サイボーグたちは静かに席を立ち それぞれの <仕度> を始めた。
・・・・ う ・・・ すこし冷えるな・・・
ジョーはぼんやりと思いつつ 寝返りを打った。
反対側のリネンの表面は ひんやりとしていて気持ちがいい。
昼間はまだ暑熱がのこり厳しい陽射しが注いでいるが 朝晩はさすがに過しやすくなってきた。
うん ・・・ ? まだ夜明けじゃない・・・か・・・
部屋の中にはまだ仄かに 夜 が漂っていて、空気はし・・・・んと静まりかえっていた。
昨夜は遅くなってしまった・・・ 彼女との夜に時を惜しんだ。
こうしてゆっくりと自分たちのベッドで朝を迎えるのもしばらくお預けになる・・・
・・・ あれ ・・・ フラン・・・?
何気に伸ばした腕に触るのは どこまでもリネンの海だけだ。
寝返りを打った隣に 寄り添うはずの彼女の姿はなかった。
もう 起きたのか ・・・?
ジョーはゆっくり起き上がり薄暗い部屋の中を見回す。
<出かける準備> といっても 荷造りをするわけではない。 必要最低限のものを持ってゆくだけだ。
ただ ― 彼女はいつも さりげなく身辺を片付けていた。
時間が許せば寝室だけでなくリビングまで ざっと掃除していた。
「 ・・・え? どうしてって・・・ そうねえ・・・別に特別な意味はないの。
強いて言えば 帰ってきた時に気分がいいから、かしら。 」
なぜ掃除までするのか、と聞かれ 彼女自身も少々怪訝な面持ちだった。
「 気分がいいから? 」
「 ええ。 ただいま・・・って疲れて戻ったとき、少しでもきちんとしていたら嬉しいじゃない? 」
「 あ ああ ・・・ そうだねえ ・・・
うん それじゃ ・・・ 気持ちよく帰ってくるため、か。 」
「 そう ・・・ そうね。 そのことを道標にしたいわ。 ・・・ 楽しい旅・・・じゃないから。 」
「 ・・・ うん。 」
そんな会話を思い出し ジョーは改めてきちんと整頓された部屋を眺めた。
― コトン ・・・
寝室のドアが 静かに開いた。
TシャツにGパンの、普段着の彼女が立っていた。 ・・・ ジーンズの裾やら膝には泥がついている。
「 ・・・ フラン ・・・ どうしたの・・・ 」
「 ?! ジョー ・・・! 起きていたの? ・・・・びっくりした・・・ 」
「 びっくりはぼくだよ ・・・ きみ、いないんだもの。 」
「 あら ・・・ ええ ちょっと ね。 < 忘れ物 > 」
「 忘れ物 ・・・? 」
フランソワーズは少し躊躇い、戸口でぱたぱたとジーンズを叩いている。
「 忘れ物って・・・ なにを? 」
「 ええ ・・・ 砂漠の中の街にね、もってゆこうと思って。 ウチの庭からのお土産だけど。 」
「 ・・・ お土産?? 」
ジョーはますます首を捻ってしまう。
「 これ ・・・ このコ達にも旅をさせてあげるわ。 う〜んと遠くまで。 」
「 ・・・・? やあ これは・・・ 」
フランソワーズが差し出した封筒の中には ― いろいろな形の小さな種が入っていた。
「 草取りの時に 集めた種だね? 鳳仙花や白粉花・・・・」
「 ええ それもあるけれど。 ほら・・・ これはジョーが取ってきた <くっつき虫>。
もしかして雑草の実かもしれないけど。 賑やかな方が楽しいでしょ。 」
「 そうか〜 あ・・・ もしかして雑草とかは持込禁止、かもな。 」
「 あの都市は一万人以上が暮らしているのでしょう? 雑草くらいどこにでも生えているわよ、きっと。 」
「 そりゃま、そうだね。 ・・・ うん、いいね。 ドーム都市も花でいっぱいになればいいね。 」
「 ええ・・・ 花と緑で一杯の未来都市、なんてステキでしょ。
そのためにも < しごと >、手早くきっちり遣ってしまわないと・・・ 」
「 うん。 ・・・ きみとのんびり暮らしてゆくためにも! 」
「 ・・・ ジョー 見て? ― キレイ ・・・ ね 」
彼女は窓辺から庭を見下ろしている。
ジョーもベッドを出て、彼女のすぐ脇に並んだ。
「 夜明け前ってちょっと不思議な空気の色だなあ・・・ 花の色が余計に鮮やかだね。 」
「 ねえ? ・・・ ほうせんか が咲いている間に ・・・帰ってこられるかしら・・・ 」
「 そう願いたいけどな。 」
「 願いましょ。 願えば必ず現実になる・・・ そう思うの。
・・・ふふふ・・・今さっき、お庭でね。 少しだけ次の季節の準備をしておいたの。
でも・・・ その前に戻って来たいわ。 」
「 次の季節の準備?? 庭で かい・・・ 」
「 ええ。 ちょこっとだけだけど サプライズよ♪ その日を楽しみにしていましょ。」
彼女は窓辺引き返すと 泥だらけの手を振ってバスルームへ行った。
「 ・・・サプライズ?? バナナ・ケーキでも作って冷凍にしておいてくれたのかい? 」
「 いや〜だ、違うわよ〜 帰ってきてからのお楽しみ♪
わたし、ついでだからシャワー浴びてくるわ。 ジョー、まだ寝ていて大丈夫よ? 」
す・・・と珊瑚色の唇が ジョーの頬をかすめ、そのままひらり、と部屋から出て行ってしまった。
「 あ・・・ う うん ・・・・ 」
シャラリ ・・・
ジョーの掌で。 ちいさな袋の中身は陽気な音を奏でた。
「 ― よし。 これで任務完了だ。 」
アルベルトが コンソール盤の前でゆっくりと宣言した。
「 ・・・ よかったわ・・・! お疲れさま、 皆 ! ねえ、ドルフィン号への集合を掛けていい? 」
「 頼む。 いや それにしてもなかなかしぶといヤツらだったな。
皆に来てもらって本当によかった・・・・ 」
「 わたし達 全員が力を合わせれば どんな相手にだって負けはしないわ。
それじゃ ・・・ 皆 ! 任務終了〜〜 ! 」
「 おうよ! 空中はばっちりだぜ〜〜 」
「 了解。 水路を再点検してから戻るよ。 お疲れさん! 」
「 異常なし。 了解。 」
「 アイヤ〜〜〜 了解やで〜〜 」
「 終わり良ければ全てよし、だな。 」
「 了解! 居住区を再確認してから戻るね。 ナヴィ、ありがとう。 」
全員から小気味のよい返事が戻ってきた。
砂漠のドーム都市でのミッションは 順当に終了した。
ヤツラは巧妙に都市内に紛れこんでいたが、サイボーグ達が全員揃えば残党狩りは簡単だった。
彼らは 博士の旧友の作り上げた < 実験未来都市 > から ゴキブリどもをたちまちのうちに
駆除したのだ。
「 諸君 ・・・ ありがとう! これでエッカーマン君も安心だろう。 」
「 博士。 それじゃ・・・俺達はこれで。 ドルフィン号を帰還させます。 」
「 あ・・・いやいや。 折角ここまで来たのだからの。
ゆっくり未来都市とやらを見学さえてもらおうじゃないか。 」
「 しかし ・・・ 」
「 いや〜 実はな。 エッカーマン君から諸君を案内してくれ、と矢の催促でなあ・・・
ワシの携帯は先ほどから鳴りっぱなしなんじゃよ。 」
「 まあ ・・・ ね、アルベルト? 博士もゆっくりお友達とお会いになりたいでしょうから・・・
わたし達もご挨拶くらいしてゆきましょうよ。 」
「 ・・・ あまり気が進まんが・・・。 博士の希望とあれば・・・。 」
「 お願い・・・。 わたしもね、ちょっとだけ覗いてみたいの。 」
「 ・・・ フランソワーズ、お前まで・・・ ふん、それじゃ本当に <ゴアイサツ> だけだぞ。 」
アルベルトは不承不承 ドルフィン号の帰還準備を停止した。
「 ありがとう! でも どうして気が進まないの? キレイな街じゃない? 」
「 確かに ― 整ってはいる。 住居地区のインフラは完璧なまで整っている。
公園などの緑化地域も多く、きちんと整備されている。 ・・・ しかし、だな。 」
「 しかし・・? 」
「 ・・・ ああ。 この都市全体が どうも虫が好かんのだ。 」
「 まあ ・・・ アルベルトらしくない理由ねえ。 皆はどうかしら。
ともかく 見学だけもしてみましょうよ? 都市全体の非常事態を解除すればまた印象も
違ってくるかもしれないわ。 」
「 ・・・ うむ。 ま・・・お前はジョーとゆっくり散歩でもしてこい。
なんならハネムーンにしてもいいぞ? 邪魔ものどもはさっさと引き上げる。 」
「 アルベルト! よ ・・・ 余計なこと、言わないで・・・
あ! 皆が帰ってきたわ。 迎えに行ってきま〜す ! 」
頬を染めたまま フランソワーズはぱたぱたとコクピットから駆け出していった。
「 は・・・! 今更・・・なんだ、ってんだ。
しかしなあ ・・・ 実験未来都市・・・か。 こんなトコに住むヤツラの気が知れんな! 」
アルベルトはまだぶつくさ言いつつ がつん!と床を蹴飛ばした。
結局 エッカーマン博士の少々強引な <ご招待> に引き摺れ、サイボーグ達は都市中枢の
コントロール・タワーに出向くことになった。
「 ほう・・・ ドーム都市、と言うが緑が多いなあ。 公園があちこちにある。 」
「 ほんとうね! 公園だけじゃなくてほら・・・ ビルは皆道路からかなり距離を取って建ててあるわ。
道路の両側は緑化地帯ね。 」
「 アイヤ〜〜 ええやんか。 夏は陰になって涼しおまっせ。 ワテやったら苦瓜、植えますな。 」
「 ・・・ふうん ・・・ 都市部にも川を流してあるね。 これはキレイな水だなあ。
再生処理済、の下水なのかな。 」
「 へえ・・・! セントラル・パークみてェな公園だぜ! ジョガーが結構いたぜ。 」
「 ふん・・・ おそらく地下ケーブルで水分補給は万全なのだろう。
雨は降らないはずの都市でこれだけの緑を保っているのだからな。 」
サイボーグ達は 途中でエア・カーを降り、三々五々街中を歩いていった。
建物は上に伸びているので 地上には緑地が多く閉鎖空間ということを忘れさせる。
「 すごいね・・・ 狭い都市いる気がしないや。 」
「 そうね。 さっきドルフィン号から監視して気がついたのだけど
ドームの内側周囲は大きな樹でびっしり囲まれているの。 樹が護っているみたい・・・ 」
「 ほう? 守護の森 かな。 これは洒落た舞台だな。 」
「 ・・・ 舞台 ・・・? 」
「 さよう。 人生も これまた一つの舞台。 都市もまた 然り。 」
グレートは 大仰にお辞儀をしてみせた。
「 まあ ・・・ 本当にあの森は大きな垣根みたい。 ・・・ ? ! ・・・ 」
軽やかに弾んでいた彼女の足が ぴたり、と止まった。
「 ・・・・? ん・・・どうしたんだい、フランソワーズ? 」
「 ・・・ あ あれ・・・ あの森 ・・・ 」
「 森? 森って・・・ ああ、今はなしていたドームの際にあるヤツかい。 」
「 ・・・ ええ。 ちょっと <見て> みたの。
ああ さっきは気がつかなかったわ! そうよ、普通は判らないわ・・ 」
きゅ・・・っと 彼女の指がジョーの腕に食い込んだ。
「 フラン? 」
「 ・・・ ジョー。 ・・・ あの森の樹 ・・・ 全部同じ高さだわ・・・!
何十万本の樹が ・・・ 皆同じ高さで同じ枝ぶりなの・・・! 」
「 ・・・! な、なだって?? それは人工のものなのかい。 」
「 ・・・ いいえ いいえ。 どの木もどの木も 小枝一本 葉、一枚まで全部 <ホンモノ>よ。
でも ・・・ でも・・・どうしてかわからないけど・・・
全部 ・・・ 全部同じカタチなの・・・! 」
「 なんだって ― !? 」
サイボーグ達は 思わず足を止めたが、目的地のコントロール・タワーは目と鼻の先だった。
「 ・・・ ともかく今は エッカーマン博士との <ゴアイサツ> が先だ。
ギルモア博士の顔も立てないとな。 」
「 そうだね。 ・・・フラン ・・・ あとで詳しくサーチしよう。 」
「 ジョー ・・・ そうね・・・ 」
彼らは相変わらず緑溢れる舗道を歩いてゆき、ほどなくしてタワーの入り口に到着した。
「 あら 可愛い・・・ ミニ・ヒマワリの花壇ね。 」
「 あは・・・本当だ。 小さいヒマワリもいいねえ ・・・ あ、一人のっぽがいる。 」
「 ふふふ ・・・ ひゅん、と背伸びしたかったのね、きっと。 」
「 失礼、お嬢さん。 」
いきなり後ろから手が伸びてきた そして ― ひょろり、と伸びた一本を引き抜いた。
「 まあ・・・! なにをなさるのですか・・・ 」
フランソワーズが驚いて振り向けば 一人の青年が苦笑いしている。
「 いや・・・ ここは50センチの花、と決まっていますので。
規格外のものは 排除しなければなりません。 ― 失礼。 」
くちゃ・・・・っと手の中で花を潰すと 彼はスタスタと入り口の中に消えた。
「 ・・・ 引き抜かなくてもいいのに・・・ のっぽだってキレイに咲いていたわ・・・ 」
「 おお〜い フラン? 早くおいで・・・ 」
「 あ ・・・ 待って! 今・・・ゆくわ。 」
彼女は仲間達の元に駆けていった。
「 それでは 諸君。 <ゴアイサツ> に伺おう。 」
グレートが大真面目で 全員の先頭に立ち建物の中に入っていった。
「 ― ようこそサイボーグ諸君 わが未来都市・スフィンクスへ!
わたしが カール・エッカーマン ・・・ この都市プロジェクトの統括者です。 」
広々としたコントロール・ルームの中央に スマートなジャケットを着た青年が立っていた。
「 あ ・・・ あなたは ・・・ 」
「 おお。 お嬢さん。 またお会いしましたね。 」
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updated : 09,14,2010.
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******** 途中ですが
またまた続く、です。
原作 + 平ゼロ 設定・・・ってかなりの御都合設定ですが。
以前にも同じ話を題材にしましたが ( 『 田舎町編 』 )
今回はちがった切り口で 書いてみようと思っています。
お宜しければ あと一回お付き合いくださいませ <(_ _)>