『 卒業写真  ― (2) ― 』

 

 

 

 

    ドドド ・・・・ ズ −−−− ン ・・・ !

 

 

サイボーグ達の背後では 先ほど仕掛けてきた装置が正確に作動し

建物はぐずぐずと崩壊を始めていた。

もうもうと立ち上がる白煙だけが 付近の空間を埋めてゆく・・・

 

 あとは速やかに撤退、この地を去るのみだ。

 

 ―  しかし。

 

サイボーグ達は ぴたり、と動きを止めていた。

 

  ≪ 009が 遅れている ≫

 

008からの連絡で 彼らは動きを止め瓦礫に身を潜めた。

撤退は可能な限り速いにこしたことは ない。

しかし 彼らは動かない。

 

 ≪ 作戦中から ちょっとヘンだった 

 ≪ ・・・ どこか不具合があるのか 誰か知ってるか

 ≪ え  そんなこと 聞いてないわ ≫

 ≪ う〜ん 確かに 始めから ちょっとヘンというか 

   反応が遅い? 感じがしたけど  ≫

 

≪ あ !!  通じたわっ  009! 

 

003の通信に 全員が一斉に通信を開いた。

 

≪ !  009!  後方注意!!! ≫

≪ データ送るわ!  即 撤退! ≫

≪ 俺たちの位置 わかるか。 送るぞ ≫

 

≪ え?  あ 本当だ  やべ〜〜  うわっち ・・・ ≫

 

≪ ! あんのバカがあ〜 ≫

 

次の瞬間 004のマシンガンが援護射撃に入った。

 

≪ 009!  自動翻訳機 on にして! ≫

≪ へ?  ・・・ あ ごめ・・・ ぼくのフランス語じゃ

 やっぱダメかあ ≫

≪ 今は! ミッション中。 島村ジョー じゃなくて 009 なのよ! ≫

≪ ぐだぐだ言っている場合じゃない! 

 

≪ ・・・ ごめん! ≫

 

途端に009の動きはスムーズになりすぐに仲間たちと合流した。

 

≪ ごめ・・・ すぐにドルフィン、発進させるね! ≫

 

  カチ。  シュ・・・!  赤い風が駆け抜けていった。

 

≪ ・・・ なんなんだ アイツ〜〜 ≫

≪ あのね・・・ ああ 後で話すわ〜〜 今は ≫

≪ そうだね 撤退しよう。 僕が殿 やるから ≫

≪ サンクス、008。 大人 ゆくぞぉ ≫

≪ ほっほ〜〜 ワテ 先に行きまっせ〜〜 

 美味しいゴハン 用意せなあかん〜〜 ≫

 

  ドドドド ・・・ 丸っこいモノが駆け抜けていった。

 

≪ ふん  全員 撤退 ≫

≪ 了解 ≫

司令塔・004の通信で 赤い服の集団はたちまちその地から消えた。

 

 

「 ・・・ 時と場所を弁えろ。 」

「 ごめ・・・ すいませんでした 」

 

ドルフィン号のコクピットで 009はパイロット席から立ち上がり

全員にアタマを下げた。

 

「 謝らなくてもいいけど。 でも本当に危険だよ? 

「 ピュンマ。 君が気づいてくれなかったら ―  ホントにごめん 」

「 そんなこと、もういいってば。 

 だけど どうして翻訳機を off にしていたのかい 」

「 ・・・ あ〜 あのう ・・・

 さ 最近 語学講座 に通い始めてて ・・・ フランス語の。

 他の言葉も あのう・・・ ラジオ講座とかで勉強してて 」

「 はあ ???  お前 自動翻訳機 イカれたのか?? 」

「 ううん ・・・ そう じゃないんだけど。 

 あ〜〜  そのう ちゃんと自分で理解したいな〜〜 って思って

 自分のアタマで皆の声を聞いて理解して返事できたらなあ・・・って

 だから その ・・・ 」

「 勉学に励むのは結構だがな。 時と場合を 」

「 アルベルト。 ジョーはもうわかってると思うわ。 」

「 フラン〜〜 」

「 フランソワーズ。 甘やかすな 」

「 いいえ。 ジョー ようく判ったはずよね。

 まだまだ勉強不足、実用には程遠いってこと。 」

「 ・・・ はい ・・・ 」

「 なぜ自動翻訳機が搭載されているか 考えて。

 戦場では些細な齟齬も遅れも命とりになるってこと。

 ジョー一人のことじゃないわ、わたし達全員を巻き込む可能性だって

 あるわ。 」

「 お前 キツいなア フランよ〜〜 」

「 ジェット。 当然だ。  ジョー 本当に分かったか 」

「 ・・・ 申し訳ありませんでした 」

 

ジョーは もう一度全員に最敬礼をした。

 

「 さあ〜〜〜  あとは美味いモン喰って〜〜

 のんびり お帰り さ。 ふぁ〜〜〜 オレ ちょいと寝るわ 」

ジェットはさっさと自分のコンパートへ引き上げた。

「 もうすぐ美味しいご飯 できまっせ〜〜〜〜 」

簡易キッチンから 明るい声が響いてくる。

ドルフィンは自動操縦、他のメンバーもそれぞれ寛ぎ始めた。

 

「 ・・・ は あ ・・・ 」

ジョーは すとん、とサブ・パイロット席に腰を落とした。

その必要はないのだが モニタ―を眺めナヴィを確かめたりしている。

彼は普段は ほわん〜 とした空気を漂わせているのだが 

さすがに 落ち込んでいるらしく 仲間たちは < そっとしておく >

態度に出ていた。

 

≪ おい ジョー 

突然の通信に 彼は ぴくり、と身体を動かしてしまった。

≪ ! アルベルト。 なに?? ≫

≪ し。 お前だけに回路を開いてるんだ 知らん顔してろ ≫

≪ へ? ・・・ あ  うん ・・・ で なに? ≫

≪ 語学習得の いい方法を教えてやる ≫

≪  ! なに なに?? ≫

≪ 他言無用だぞ。 特にフランソワーズには  ≫

≪ う?  うん ・・・ ≫

≪ あのな 語学習得 読み の場合は ぽるの小説を読め ≫

≪ へ??? ≫

≪ 先が知りたくて 熱心に読むからな。 辞書も使うし ≫

≪ あ アルベルトも・・・? 

≪ ふふん 日本語習得、とくに古典文学を読みたくて な ≫

≪ こ こ こてん??? あ・・・ げんじものがたり とか?? ≫

≪ そうだ。 ≫

≪ 古典に・・・ ぽるの ある・・? 

≪ あのな〜 オマエの国の文学だぞ?

 ・・・ 教科書に載ってない部分は ほとんど18禁だと思え ≫

≪ ひえ〜〜〜〜〜〜〜〜 ≫

≪ とにかく なんだっていいんだ、ハマっているジャンルで

 外国語の習得を目指せ ≫

≪ ・・・ わ わかったよ  ありがとう ≫

≪ ふん。 健闘を祈る ≫

 

 ぶち。  突然の通信はやはり突然ブチ切れた。

 

「 ・・・ はあ〜〜〜   ぽるの かあ・・・ 」

彼とて18歳男子、ベッドに下に隠匿するよ〜なグラビア雑誌などには

おおいに興味は ある。 あって当然だ。 

もちろん 覗いたこともある  ―  が。

「 なんかさ〜 活字になってると恥ずかしいんだよね〜〜

 写真とか漫画の方がまだマシかなあ 」

 

   はあ〜〜〜   大きなため息が漏れてしまう。

 

「 ジョー? どうしたの 疲れた? 」

にこやかに、優しく。 ソフトに フランソワーズが訊ねてきた。

「 え? あ ・・・う ううん ううん〜〜〜

 あ もうすぐ日本だな〜〜〜 って  ・・・ 」

「 ? あら まだよ。 ナヴィの情報 チェックして? 」

「 え ・・・ あ そ そう そうだね〜  あは 

「 ??  ねえ 大丈夫? どこか損傷したのではない?

 博士にきちんとチェックしてもらった方が 」

「 あ え う ううん ううん ダイジョブさ 

 あ〜〜 きみはぼくを誰だと ・・・ 」

「 わかってますってば。 だから心配なの 」

「 え・・っと ・・・ ( どういう意味さ! )

 あ。 いっけね〜 ぼく 宿題しないと! 

「 ? ああ 語学講座の? 」

「 そ! 一回 休んだから・・・ その分 先生が

 てーむ ( 短い作文 ) を出してくれたんだ。

 ちょっとここで書いてもいいかなあ 」

「 テーム? あら 懐かしい・・・ 

 いいんじゃない? 日本近郊までずっと自動操縦だし

 皆 好き勝手なこと、してるから構わないと思うわ。 」

「 そだね〜  じゃ ・・・ 」

彼は コクピットの収納ケースからごく普通のノートと鉛筆、

そして 小型辞書を取りだす。

パイロット席に座り コンソール盤の上にノートを広げる。

「 よ・・し  えっと タイトルは ・・・ 」

辞書を引き 後ろの不規則動詞の活用表を確かめ ・・・

天下無敵? 最新最強のサイボーグ戦士 009 は

< しゅくだい > に没頭した。

 

    お ・・・ 学生がいるぞ

 

    ほう〜〜 懐かしい姿だなあ 吾輩も・・・

 

    あ 僕も予算案のタタキ台 組んでおかないと

 

    ストレッチしておかなくちゃ! コンパートへ行こ!

 

彼の姿に 仲間たちはそれぞれの < 日常 > への復帰準備を

始めるのだった。

 

     そうだよ! アレって  マジ使えねぇ〜〜〜

     ( 日常には ね )

 

そんな感想を共有しつつ・・・。

 

    ヴィ −−−−−−   ドルフィン号は順行してゆく。

 

 

 

 

  ガラ ッ !  古いドアが勢いよく開く。

 

「 おっは〜〜  」

「 わ! ジャック〜〜〜 おっは! 」

「 お〜〜 おっはあ 

古い教室の黒板前 少年が二人、ぶんぶん手を振って迎えてくれた。

 

     うは。 でへへへ・・・ 照れるぅ〜〜

     でも うっれし〜〜〜

 

ジョーも ひらひら手を振りつつ席についた。

「 ジャック〜〜  やっぱオレら 三人いね〜とつまんねぇよ 」

「 だよな〜〜 あ ノート、コピっといた 」

「 あ めるし〜〜〜 たすかる〜〜〜 」

「 おめ 宿題 やってきた? 」

「 う ん ・・・ 書いたけど・・・ 短い ・・・ 」

「 わかんない単語とか あってさ 」

 

    ぼんじゅ〜〜る め・ぞんふぉん〜〜〜

 

開けっ放しのドアの前で デュポン先生がにこにこ・・・立っている

 

  あ ・・・ ぼんじゅ〜〜る むっしゅう〜〜〜 !!!

 

三人は 声を合わせ大口をあけ しっかりと発音した。

 

「 ぼん! め ぞんふぉん〜〜  サア 授業デス 」

今日も フランス語講座・初級 が始まった。

 

宿題のテーム ( 短い作文 ) について先生が問う。

 

「 パスカル。  君はどんなコト、書きたいですか 

 パスカルのやりたいコトは なんですか 」

「 俺・・・ あ 僕。

 あ〜〜 古着専門のブティック で バイト しています。 」

彼は とつとつとフランス語で語る。

「 ・・・ 俺 いつか 作る方 になりたい 」

「 作るほう??  なに 作る?

ルイが質問をする。

「 あ ・・・ 服とか? 」

ジャックが助け船をだす。

「 ん。 売るのも楽しいけど 俺の作った服、売りたい 」

「 ひえ〜〜〜 でざいなー とか? 」

「 ん〜〜 そんなトコかなあ 

日本語のおしゃべりになったので デュポン先生がアドバイスをする

「 クチュリエ ですネ  作りたい服はドレスですか 」

「 えっと・・・ 俺 いろ〜んなヒトが きもちよ〜〜くきれる服、

 つくりたいっす 」

「 ぼん! それ テームに書いてみまショ 」

「 え ・・・ っとぉ〜〜 

「 自分の興味あること 書いてみまショ フランス語で! 」

パスカルは う〜〜〜と呻りつつも ちびちび書き始めた。

 

「 ジャックは? どんな仕事 したいデスカ 」

「 あ ぼく ・・・ 今 出版社の編集部でバイト してて ・・・

 雑誌とか編集したいデス 

「 ほう〜〜 クリエイターですか 」

「 ん〜〜 いろんな 違う文化 や 話題 発信したいデス。

 ぼくは 紙媒体にこだわりたい 」

「 ぱぴえ? 」

「 あ ・・・ えっとぉ り〜ぶる ( 本 ) という意味です 」

「 ぼん! それ 論文にもなるテーマ。 さあ書いてみましょ 

「 えっと・・ 途中まで書いたんだけど ・・・ わかんなくて 」

「 ぼん。 ミンナの知恵 かりましょ 」

「 ・・・ 」

ジョー いや < ジャック > は 書きかけのノートを

皆の前に 広げるのだった。

 

「 ルイは ビストロの きゅいじ〜ぬ で仕事ですね 」

「 はい!  オレ いつか自分の店もってシェフになりたいっす ! 」

「 ぼん! テーブル・マナー フランス語でやりまショ 」

「 !!! 

ルイはもうぶんぶん首を縦に振り 目と耳をもう < 全開 > にしていた。

デュポン先生は フランス語で料理の説明をしつつ

少年たちに さりげなく洗練された本格的なテーブル・マナーを

教えたのだ。

 

「 あ そっか こうやってナイフ 使うのか〜〜 」

「 へへへ なんかヤバくね? オレ こんど ふらんど・ちきん、

 ナイフとフォークで食ってみせる〜〜 」

「 め・ぞんふぉん?  食事の席で ムッシュウは ですネ〜〜 

 こうしまス。 」

「 ・・・ ふんふん 」

「 ほえ〜〜 

デュポン先生は ちょいと古いけど < 紳士として > の振舞も

さりげな〜〜く教えてくれた。

生意気盛りの年頃だが 三人は超〜〜〜真面目に耳を傾ける。

 

    そっか ・・・ 

 

    ん。 俺 かっこよくなる!

 

    ムッシュウ って 呼ばれるようになるんだ。

 

 

マナーを守りましょう とか 行儀よく とか 言われれば

たちまち反発するだろうけれど。

親とか学校の教師に アタマごなしにがんがん言われれば

うっせぇ〜だの シカトだの する〜〜 だろうけれど。

 

 ― 敬愛し信頼している < オレらのせんせ〜 > の言葉は

少年たちのこころに素直に入っていった。

かれらは  フランス語初級 講座で < 学ぶ > というコトを

身につけていったのだ。

 

若さ だけは余るほどあるけれど 教養とか文化とかは素寒貧だった少年たち。

彼らは フランス語と一緒にもりもりと吸収していった。

 

ルイもパスカルも ― そして < ジャック > も。

 

 

 

  コツコツコツ  カツカツカツ ・・・ 足音は軽い。

 

「 あ ・・・ こっち 空いてるよ フラン〜 」

「 まあ よかったわ 」

 

日曜日 ジョーはフランソワーズとヨコハマ方面に出かけていた。

モトマチの賑やかな商店街を二人であちこち覗いて歩いた。

午後のひととき アウト・ドアのカフェをみつけた。

遠くに港が望めて 爽やかだ。

石畳の広場に白いテーブルとイスが置いてある。

 

「 はい どうぞ 」

「 めるし。 ・・・ あら 」

椅子を引いてくれた彼の顔を フランソワーズはまじまじと見つめる。

「 ? なに? どうか した? 」

「 え・・・ あ ううん ・・・ あ〜〜

 ジョーって。  なんか 変わった? 」

「 へ??? なんか って ・・・? 」

「 だって・・・ 椅子 引いてくれたり ・・・

 ショッピングの間も いろいろ・・・ 荷物もってくれたり

 お店のドア 開けてくれたり 」

「 あ え〜〜〜 とぉ 〜〜 」

 

     へ へへへ  デュポン先生のいうと〜りにした!

     やったね♪ へへへ・・・

 

そっぽを向いて なんとな〜く照れていると・・・

「 うふ♪ す て き よ♪

 わたし ステキなムッシュウとデートできて 嬉しいわ♪ 」

 

    ちゅ。  小さなキスが ジョーのほっぺに飛んできた。

 

 「  !  ( う ッわ〜〜〜〜〜〜 !やた〜〜〜 ) 

 え へへ  き きもちい〜 ね〜〜 」

「 ?? 」

「 あ あ あの ほら天気いいし〜〜 

 しゅるぽん だみにょん ろにぱす ろにだむ〜〜 」

ジョーは 自然にデュポン先生に教わった童謡を口ずさむ。

「 ! ジョー!  知ってるの!? 」

「 え あ  うん ・・   きみも? 」

「 もっちろん♪  しゅるぽん だみにょん ろにぱす とうざご♪ 」

「 う っわ〜〜〜 ぼくの歌 わかったんだ〜〜 」

「 もっちろんよ ジョー 発音 上手くなったわね  」

「 え へへへ ・・・  この歌、ぽぴゅらー? 」

「 ええ チビの頃から歌ってたもの。  みいんな 知ってるわ

 あ  日本語でも ・・・? 」

「 うん。 あのさ こんな感じ 」

 

   あびによんのはしで〜〜 ♪

 

「 ろ〜にぱす ろ〜にだむ♪  きゃ 一緒ねえ 

フランソワーズは すぐに声を合わせてくれた。

「 そだね〜〜 」

「 ふふふ フランス語と日本語って案外相性いいのかも 」

「 うん! ・・・ ぼ ぼく達も ・・・ 

「 うふん♪ 」

ぱっちん☆ 彼女は カフェ・オ・レ のカップ越しに

ウィンクを送ってくれた。

 

     わっははは〜〜〜〜ん♪

     ・・・ 決めたァ

  

ジョーは 春の風に舞いあがる花びら 状態になっていた。

 

 

― ハラジュクの人通りの多い小路にある店で。 

 

「 じゃ このセンで仕入れてくから。

 お前 接客 頼むな。 」

「 は はい・・・ ! 」

ついこの間までは単なるバイトの店番・少年、

今は 接客主任 となったパスカルは 胸を張った。

 

    ・・・ おし。

    任せとけ。

    毎晩 ラジオでフランス語番組 聞いてるし。

 

    お オレには デュポン先生 がいるんだあ!

 

パスカルがバイトをしている店は 接客で定評を得て固定客が付き始めた。

やり手の店長は 徐々に仕入れを婦人物中心にかえてゆき

バイトの店番を接客主任にした。

店は どこにでもある古着屋 から 洗練されたブティック に変わっていった。

 

   カラン〜〜  店のドア・カリヨンが鳴る。

 

「 あ いらっしゃいませ〜〜 」

長身の少年が飛んでいってドアを押さえる。

「 ぼんじゅ〜る まだむ 」

「 ぼんじゅ〜る もん・ぷち。 」

少し年配の灰色の髪の婦人が にこやかに入ってきた。

( 以下 フランス語会話 )

 

「 お天気 いいわねえ〜 日本の春は早いわ 

 ねえ 今日はお友達を誘ってきたの。

「 初めまして マダム。 ようこそいらっしゃいました 」

少年は 慇懃に身をかがめ 後ろにいた年配婦人の手の甲にキスをした。

「 ぼんじゅ〜る   まあ 素敵な店員さんね 」

「 ありがとうございます  さあ  どうぞ どうぞ 」

彼は さりげなく二人に椅子を進める。

「 マダム方。 花見はなさいましたか 」

「 これから行こうかな って思って 」

「 そうですか  花見によく映えるジャケットが入りましたよ 

 合わせるスカーフもあります

「 あら そう? みせて みせて 

「 どうぞ こちらへ 」

 

彼の行き届いた接客態度に口コミで外国人客が増えて行った。

 

 「 ・・・ マダム。 申し訳ありません、こういう時には

 なんと言えばよいのですか 」

「 あらあ パスカル。 それはね 

 

彼はわからない時は 素直に質問し教えを乞う。

そんな素直な態度も 大いに気に入られる要因となった らしい。

 

    お オレ。 

    もっと着易い服 つくる。

    おばちゃん や ばあちゃんが 

    楽しく着れる  服 !

    オレが作る オレの服 !

 

パスカルは 目的に向かって密かに驀進して行った。

 

 

 

 ―  こんな風に フランス語初級 のクラスは 一年間続いた。

 

最後には 三人ともめでたくフランス語検定準2級 ( 大3修了程度 )

に合格し。

「 とれびや〜〜ん!!!  め ぞんふぉん〜〜〜〜 とれびあん!! 」

デュポン先生は 自分のコトみたいに大喜びをしてくれた。

「 えっへっへ〜〜〜 

「 あっはっは〜〜〜 」

「 でへへへ〜〜〜 

 

    やったぜ〜〜〜   俺ら〜〜〜    ぶらヴぉ〜〜〜〜

 

それぞれが 全力で文字通り獅子奮迅の努力の結果掴んだ < 勝利 >、

彼らは初めて自分自身の手で掴んだ < 勝利 > に

しっかりと背中を押してもらった。

 

   講座終了後 ―

 

少年たちはそれぞれが 人生の奮闘時代 に突入し 

なんとなく疎遠になってしまった。

 

 それが ・・・

 

ひょんなキッカケで パスカルはジャックと仕事で巡りあう。

 ( この辺りは 『 言霊 』 参照してくださいネ )

 

「 ・・・ なあ パスカル。 デュポン先生 どうしているかなあ 」

「 あ 先生?  うん お元気だよ〜 」

「 そっか〜〜   なあ こんどさあ   できたら ・・・ 」

「 お。 ルイ 誘ってみる。 」

「 ん! 頼むわ パスカル。 」

 

三人は なんとか < 万障繰り合わせ > 現役引退の老神父を訊ねた。

老デュポン先生は 大喜び、昔と変わらぬ張りのある声で

彼らに話しかけてくれた。

 

「 ぶらヴぉ〜〜 みんな 大きくなりマシタ ・・・! 」

「 あっは 神父さま〜 俺ら もうオジサンっすよ〜 」

「 そうですよ ぼく 双子のチビっこのおと〜さんです 」

「 オレも ルイも <ぱぱ> になりました 」

 

「 ぼん! ぼん! とれびや〜〜ん   め・ぞんふぉん〜〜 」

 

「「「 えへへへへ・・・・ 」」」

「 そうです そうです、 三人に 卒業証書 をあげましょ。 」

「 え ・・・ でもオレら 卒業試験 うけてないですよ? 」

「 い〜え 皆 フランスのマドモアゼルを射止めました。

 ちゃんと フランス語で口説けた証拠。 

 

不思議なことに ルイ パスカル ジャック は

三人とも フランス人の嫁さん をもらっていた。

 

「 え ・・・ あ  いやあ〜〜 」

「 だはは・・・ 」

「 僕 未だに嫁に発音 直されてるし? 」

「 ぼん ぼん! とれびや〜〜ん  め・ぞんふぉん〜〜 」

老神父は 立派になった教え子たちの姿ににこにこしっぱなしだ。

中年オヤジ達3人で 老恩師を囲んで そして写真。

 

「 そうだ ・・・ 俺 ずっと持っているんだ  コレ 」

「 ! 俺もさ! 

「 ・・・ うん! 」

三人は ぼろぼろになった古い写真を

それぞれがとても大事そう〜〜に 取りだした。

 

がらんとした教室で ぼさぼさした雰囲気のワカモノが三人。

ぎこちな〜〜く笑っている・・・

机の上には 開いたノートに教科書 食べかけのパン。

お世辞にも 楽しい学生時代 には見えない。

ホンモノの19歳が 若さと不安定さでいっぱいの若者たちの

ぎこちない笑顔。 ちょっと感じる不安な視線。  

 

    でも そこには紛れもなく 青春 がある。

 

      ふふふ   ははは   あははは・・・

 

親となり 社会でばりばり働く三人の < オジサン > は

まことに屈託なく 声をあげて笑い合う  ―  だって 同級生 だから。

 

       この思い出があるから また進める。

 

 

    あな〜たは  わたしの。    せいしゅん そのもの〜〜♪

 

 

 

*******  オマケ ******

 

「 ふ〜〜ん  不思議ねえ 

フランソワーズは 二枚の写真をしげしげと眺めている。

「 あ? なにが。 」

「 この写真・・・ ジョーの顔 よ 」

「 え。 なんか ヘン? 」

「 んん〜〜ん。 こっちの古い方は 確かに18歳の顔 で

 この前撮ったのは ちゃ〜んとオジサンの顔だわ 」

「 お オジサン・・・って〜〜 あのな〜〜

 きみ ぼくを誰だと〜〜〜 

「 だって ほら。

 これって 二人の子持ちのサラリーマン って顔になってるわよ  」

「 !  そ  そりゃ?   妻子を抱えて〜 日々 苦労多くて 」

「 ふふふ そうねえ〜〜 」

「 あ でも。 きみだって〜〜 しっかりオバサンだぜ? 

 ぼくの奥さん! 」

「 !  ま まあ ・・・ 

 ・・・ いいわ 確かに。 わたし達 そういうトシですものね 」

 「 だろ? 」

 

009 と 003 は、いや 島村夫妻は 

に〜〜んまり ・・・と ふか〜〜い笑顔を交わしあうのだった。

 

 

**********************        Fin.      **********************

Last updated : 03,30,2021.               back     /     index

 

 

**********   ひと言   *******

ジョー君にだって こんな 青春 があってもいいよね?

自分的に大切な思い出 は いつも自分の背中を

押してくれますよね〜〜〜 (*^_^*)

ジョーく〜〜ん  がんばれぇ〜〜〜〜