『 卒業写真  ― (2) ― 』
    ドドド ・・・・ ズ −−−− ン ・・・ !
サイボーグ達の背後では 先ほど仕掛けてきた装置が正確に作動し
建物はぐずぐずと崩壊を始めていた。
もうもうと立ち上がる白煙だけが 付近の空間を埋めてゆく・・・
 あとは速やかに撤退、この地を去るのみだ。
 ―  しかし。
サイボーグ達は ぴたり、と動きを止めていた。
  ≪ 009が 遅れている ≫
008からの連絡で 彼らは動きを止め瓦礫に身を潜めた。
撤退は可能な限り速いにこしたことは ない。
しかし 彼らは動かない。
 ≪ 作戦中から ちょっとヘンだった  ≫
 ≪ ・・・ どこか不具合があるのか 誰か知ってるか ≫
 ≪ え  そんなこと 聞いてないわ ≫
 ≪ う〜ん 確かに 始めから ちょっとヘンというか 
   反応が遅い? 感じがしたけど  ≫
≪ あ !!  通じたわっ  009!  ≫
003の通信に 全員が一斉に通信を開いた。
≪ !  009!  後方注意!!! ≫
≪ データ送るわ!  即 撤退! ≫
≪ 俺たちの位置 わかるか。 送るぞ ≫
≪ え?  あ 本当だ  やべ〜〜  うわっち ・・・ ≫
≪ ! あんのバカがあ〜 ≫
次の瞬間 004のマシンガンが援護射撃に入った。
≪ 009!  自動翻訳機 on にして! ≫
≪ へ?  ・・・ あ ごめ・・・ ぼくのフランス語じゃ
 やっぱダメかあ ≫
≪ 今は! ミッション中。 島村ジョー じゃなくて 009 なのよ! ≫
≪ ぐだぐだ言っている場合じゃない!  ≫
≪ ・・・ ごめん! ≫
途端に009の動きはスムーズになりすぐに仲間たちと合流した。
≪ ごめ・・・ すぐにドルフィン、発進させるね! ≫
  カチ。  シュ・・・!  赤い風が駆け抜けていった。
≪ ・・・ なんなんだ アイツ〜〜 ≫
≪ あのね・・・ ああ 後で話すわ〜〜 今は ≫
≪ そうだね 撤退しよう。 僕が殿 やるから ≫
≪ サンクス、008。 大人 ゆくぞぉ ≫
≪ ほっほ〜〜 ワテ 先に行きまっせ〜〜 
 美味しいゴハン 用意せなあかん〜〜 ≫
  ドドドド ・・・ 丸っこいモノが駆け抜けていった。
≪ ふん  全員 撤退 ≫
≪ 了解 ≫
司令塔・004の通信で 赤い服の集団はたちまちその地から消えた。
「 ・・・ 時と場所を弁えろ。 」
「 ごめ・・・ すいませんでした 」
ドルフィン号のコクピットで 009はパイロット席から立ち上がり
全員にアタマを下げた。
「 謝らなくてもいいけど。 でも本当に危険だよ?  」
「 ピュンマ。 君が気づいてくれなかったら ―  ホントにごめん 」
「 そんなこと、もういいってば。 
 だけど どうして翻訳機を off にしていたのかい 」
「 ・・・ あ〜 あのう ・・・
 さ 最近 語学講座 に通い始めてて ・・・ フランス語の。
 他の言葉も あのう・・・ ラジオ講座とかで勉強してて 」
「 はあ ???  お前 自動翻訳機 イカれたのか?? 」
「 ううん ・・・ そう じゃないんだけど。 
 あ〜〜  そのう ちゃんと自分で理解したいな〜〜 って思って
 自分のアタマで皆の声を聞いて理解して返事できたらなあ・・・って
 だから その ・・・ 」
「 勉学に励むのは結構だがな。 時と場合を 」
「 アルベルト。 ジョーはもうわかってると思うわ。 」
「 フラン〜〜 」
「 フランソワーズ。 甘やかすな 」
「 いいえ。 ジョー ようく判ったはずよね。
 まだまだ勉強不足、実用には程遠いってこと。 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 なぜ自動翻訳機が搭載されているか 考えて。
 戦場では些細な齟齬も遅れも命とりになるってこと。
 ジョー一人のことじゃないわ、わたし達全員を巻き込む可能性だって
 あるわ。 」
「 お前 キツいなア フランよ〜〜 」
「 ジェット。 当然だ。  ジョー 本当に分かったか 」
「 ・・・ 申し訳ありませんでした 」
ジョーは もう一度全員に最敬礼をした。
「 さあ〜〜〜  あとは美味いモン喰って〜〜
 のんびり お帰り さ。 ふぁ〜〜〜 オレ ちょいと寝るわ 」
ジェットはさっさと自分のコンパートへ引き上げた。
「 もうすぐ美味しいご飯 できまっせ〜〜〜〜 」
簡易キッチンから 明るい声が響いてくる。
ドルフィンは自動操縦、他のメンバーもそれぞれ寛ぎ始めた。
「 ・・・ は あ ・・・ 」
ジョーは すとん、とサブ・パイロット席に腰を落とした。
その必要はないのだが モニタ―を眺めナヴィを確かめたりしている。
彼は普段は ほわん〜 とした空気を漂わせているのだが 
さすがに 落ち込んでいるらしく 仲間たちは < そっとしておく >
態度に出ていた。
≪ おい ジョー  ≫
突然の通信に 彼は ぴくり、と身体を動かしてしまった。
≪ ! アルベルト。 なに?? ≫
≪ し。 お前だけに回路を開いてるんだ 知らん顔してろ ≫
≪ へ? ・・・ あ  うん ・・・ で なに? ≫
≪ 語学習得の いい方法を教えてやる ≫
≪  ! なに なに?? ≫
≪ 他言無用だぞ。 特にフランソワーズには  ≫
≪ う?  うん ・・・ ≫
≪ あのな 語学習得 読み の場合は ぽるの小説を読め ≫
≪ へ??? ≫
≪ 先が知りたくて 熱心に読むからな。 辞書も使うし ≫
≪ あ アルベルトも・・・?  ≫
≪ ふふん 日本語習得、とくに古典文学を読みたくて な ≫
≪ こ こ こてん??? あ・・・ げんじものがたり とか?? ≫
≪ そうだ。 ≫
≪ 古典に・・・ ぽるの ある・・?  ≫
≪ あのな〜 オマエの国の文学だぞ?
 ・・・ 教科書に載ってない部分は ほとんど18禁だと思え ≫
≪ ひえ〜〜〜〜〜〜〜〜 ≫
≪ とにかく なんだっていいんだ、ハマっているジャンルで
 外国語の習得を目指せ ≫
≪ ・・・ わ わかったよ  ありがとう ≫
≪ ふん。 健闘を祈る ≫
 ぶち。  突然の通信はやはり突然ブチ切れた。
「 ・・・ はあ〜〜〜   ぽるの かあ・・・ 」
彼とて18歳男子、ベッドに下に隠匿するよ〜なグラビア雑誌などには
おおいに興味は ある。 あって当然だ。 
もちろん 覗いたこともある  ―  が。
「 なんかさ〜 活字になってると恥ずかしいんだよね〜〜
 写真とか漫画の方がまだマシかなあ 」
   はあ〜〜〜   大きなため息が漏れてしまう。
「 ジョー? どうしたの 疲れた? 」
にこやかに、優しく。 ソフトに フランソワーズが訊ねてきた。
「 え? あ ・・・う ううん ううん〜〜〜
 あ もうすぐ日本だな〜〜〜 って  ・・・ 」
「 ? あら まだよ。 ナヴィの情報 チェックして? 」
「 え ・・・ あ そ そう そうだね〜  あは  」
「 ??  ねえ 大丈夫? どこか損傷したのではない?
 博士にきちんとチェックしてもらった方が 」
「 あ え う ううん ううん ダイジョブさ 
 あ〜〜 きみはぼくを誰だと ・・・ 」
「 わかってますってば。 だから心配なの 」
「 え・・っと ・・・ ( どういう意味さ! )
 あ。 いっけね〜 ぼく 宿題しないと!  」
「 ? ああ 語学講座の? 」
「 そ! 一回 休んだから・・・ その分 先生が
 てーむ ( 短い作文 ) を出してくれたんだ。
 ちょっとここで書いてもいいかなあ 」
「 テーム? あら 懐かしい・・・ 
 いいんじゃない? 日本近郊までずっと自動操縦だし
 皆 好き勝手なこと、してるから構わないと思うわ。 」
「 そだね〜  じゃ ・・・ 」
彼は コクピットの収納ケースからごく普通のノートと鉛筆、
そして 小型辞書を取りだす。
パイロット席に座り コンソール盤の上にノートを広げる。
「 よ・・し  えっと タイトルは ・・・ 」
辞書を引き 後ろの不規則動詞の活用表を確かめ ・・・
天下無敵? 最新最強のサイボーグ戦士 009 は
< しゅくだい > に没頭した。
    お ・・・ 学生がいるぞ
    ほう〜〜 懐かしい姿だなあ 吾輩も・・・
    あ 僕も予算案のタタキ台 組んでおかないと
    ストレッチしておかなくちゃ! コンパートへ行こ!
彼の姿に 仲間たちはそれぞれの < 日常 > への復帰準備を
始めるのだった。
     そうだよ! アレって  マジ使えねぇ〜〜〜
     ( 日常には ね )
そんな感想を共有しつつ・・・。
    ヴィ −−−−−−   ドルフィン号は順行してゆく。
  ガラ ッ !  古いドアが勢いよく開く。
「 おっは〜〜  」
「 わ! ジャック〜〜〜 おっは! 」
「 お〜〜 おっはあ  」
古い教室の黒板前 少年が二人、ぶんぶん手を振って迎えてくれた。
     うは。 でへへへ・・・ 照れるぅ〜〜
     でも うっれし〜〜〜
ジョーも ひらひら手を振りつつ席についた。
「 ジャック〜〜  やっぱオレら 三人いね〜とつまんねぇよ 」
「 だよな〜〜 あ ノート、コピっといた 」
「 あ めるし〜〜〜 たすかる〜〜〜 」
「 おめ 宿題 やってきた? 」
「 う ん ・・・ 書いたけど・・・ 短い ・・・ 」
「 わかんない単語とか あってさ 」
    ぼんじゅ〜〜る め・ぞんふぉん〜〜〜
開けっ放しのドアの前で デュポン先生がにこにこ・・・立っている
  あ ・・・ ぼんじゅ〜〜る むっしゅう〜〜〜 !!!
三人は 声を合わせ大口をあけ しっかりと発音した。
 
「 ぼん! め ぞんふぉん〜〜  サア 授業デス 」
今日も フランス語講座・初級 が始まった。
宿題のテーム ( 短い作文 ) について先生が問う。
「 パスカル。  君はどんなコト、書きたいですか 
 パスカルのやりたいコトは なんですか 」
「 俺・・・ あ 僕。
 あ〜〜 古着専門のブティック で バイト しています。 」
彼は とつとつとフランス語で語る。
「 ・・・ 俺 いつか 作る方 になりたい 」
「 作るほう??  なに 作る? 」
ルイが質問をする。
「 あ ・・・ 服とか? 」
ジャックが助け船をだす。
「 ん。 売るのも楽しいけど 俺の作った服、売りたい 」
「 ひえ〜〜〜 でざいなー とか? 」
「 ん〜〜 そんなトコかなあ  」
日本語のおしゃべりになったので デュポン先生がアドバイスをする
「 クチュリエ ですネ  作りたい服はドレスですか 」
「 えっと・・・ 俺 いろ〜んなヒトが きもちよ〜〜くきれる服、
 つくりたいっす 」
「 ぼん! それ テームに書いてみまショ 」
「 え ・・・ っとぉ〜〜  」
「 自分の興味あること 書いてみまショ フランス語で! 」
パスカルは う〜〜〜と呻りつつも ちびちび書き始めた。
「 ジャックは? どんな仕事 したいデスカ 」
「 あ ぼく ・・・ 今 出版社の編集部でバイト してて ・・・
 雑誌とか編集したいデス  」
「 ほう〜〜 クリエイターですか 」
「 ん〜〜 いろんな 違う文化 や 話題 発信したいデス。
 ぼくは 紙媒体にこだわりたい 」
「 ぱぴえ? 」
「 あ ・・・ えっとぉ り〜ぶる ( 本 ) という意味です 」
「 ぼん! それ 論文にもなるテーマ。 さあ書いてみましょ  」
「 えっと・・ 途中まで書いたんだけど ・・・ わかんなくて 」
「 ぼん。 ミンナの知恵 かりましょ 」
「 ・・・ 」
ジョー いや < ジャック > は 書きかけのノートを
皆の前に 広げるのだった。
「 ルイは ビストロの きゅいじ〜ぬ で仕事ですね 」
「 はい!  オレ いつか自分の店もってシェフになりたいっす ! 」
「 ぼん! テーブル・マナー フランス語でやりまショ 」
「 !!!  」
ルイはもうぶんぶん首を縦に振り 目と耳をもう < 全開 > にしていた。
デュポン先生は フランス語で料理の説明をしつつ
少年たちに さりげなく洗練された本格的なテーブル・マナーを
教えたのだ。
「 あ そっか こうやってナイフ 使うのか〜〜 」
「 へへへ なんかヤバくね? オレ こんど ふらんど・ちきん、
 ナイフとフォークで食ってみせる〜〜 」
「 め・ぞんふぉん?  食事の席で ムッシュウは ですネ〜〜 
 こうしまス。 」
「 ・・・ ふんふん 」
「 ほえ〜〜  」
デュポン先生は ちょいと古いけど < 紳士として > の振舞も
さりげな〜〜く教えてくれた。
生意気盛りの年頃だが 三人は超〜〜〜真面目に耳を傾ける。
    そっか ・・・ 
    ん。 俺 かっこよくなる!
    ムッシュウ って 呼ばれるようになるんだ。
マナーを守りましょう とか 行儀よく とか 言われれば
たちまち反発するだろうけれど。
親とか学校の教師に アタマごなしにがんがん言われれば
うっせぇ〜だの シカトだの する〜〜 だろうけれど。
 ― 敬愛し信頼している < オレらのせんせ〜 > の言葉は
少年たちのこころに素直に入っていった。
かれらは  フランス語初級 講座で < 学ぶ > というコトを
身につけていったのだ。
若さ だけは余るほどあるけれど 教養とか文化とかは素寒貧だった少年たち。
彼らは フランス語と一緒にもりもりと吸収していった。
ルイもパスカルも ― そして < ジャック > も。
  コツコツコツ  カツカツカツ ・・・ 足音は軽い。
「 あ ・・・ こっち 空いてるよ フラン〜 」
「 まあ よかったわ 」
日曜日 ジョーはフランソワーズとヨコハマ方面に出かけていた。
モトマチの賑やかな商店街を二人であちこち覗いて歩いた。
午後のひととき アウト・ドアのカフェをみつけた。
遠くに港が望めて 爽やかだ。
石畳の広場に白いテーブルとイスが置いてある。
「 はい どうぞ 」
「 めるし。 ・・・ あら 」
椅子を引いてくれた彼の顔を フランソワーズはまじまじと見つめる。
「 ? なに? どうか した? 」
「 え・・・ あ ううん ・・・ あ〜〜
 ジョーって。  なんか 変わった? 」
「 へ??? なんか って ・・・? 」
「 だって・・・ 椅子 引いてくれたり ・・・
 ショッピングの間も いろいろ・・・ 荷物もってくれたり
 お店のドア 開けてくれたり 」
「 あ え〜〜〜 とぉ 〜〜 」
     へ へへへ  デュポン先生のいうと〜りにした!
     やったね♪ へへへ・・・
そっぽを向いて なんとな〜く照れていると・・・
「 うふ♪ す て き よ♪
 わたし ステキなムッシュウとデートできて 嬉しいわ♪ 」
    ちゅ。  小さなキスが ジョーのほっぺに飛んできた。
 「  !  ( う ッわ〜〜〜〜〜〜 !やた〜〜〜 ) 
 え へへ  き きもちい〜 ね〜〜 」
「 ?? 」
「 あ あ あの ほら天気いいし〜〜 
 しゅるぽん だみにょん ろにぱす ろにだむ〜〜 」
ジョーは 自然にデュポン先生に教わった童謡を口ずさむ。
「 ! ジョー!  知ってるの!? 」
「 え あ  うん ・・   きみも? 」
「 もっちろん♪  しゅるぽん だみにょん ろにぱす とうざご♪ 」
「 う っわ〜〜〜 ぼくの歌 わかったんだ〜〜 」
「 もっちろんよ ジョー 発音 上手くなったわね  」
「 え へへへ ・・・  この歌、ぽぴゅらー? 」
「 ええ チビの頃から歌ってたもの。  みいんな 知ってるわ
 あ  日本語でも ・・・? 」
「 うん。 あのさ こんな感じ 」
   あびによんのはしで〜〜 ♪
「 ろ〜にぱす ろ〜にだむ♪  きゃ 一緒ねえ  」
フランソワーズは すぐに声を合わせてくれた。
「 そだね〜〜 」
「 ふふふ フランス語と日本語って案外相性いいのかも 」
「 うん! ・・・ ぼ ぼく達も ・・・  」
「 うふん♪ 」
ぱっちん☆ 彼女は カフェ・オ・レ のカップ越しに
ウィンクを送ってくれた。
     わっははは〜〜〜〜ん♪
     ・・・ 決めたァ
  
ジョーは 春の風に舞いあがる花びら 状態になっていた。
― ハラジュクの人通りの多い小路にある店で。 
「 じゃ このセンで仕入れてくから。
 お前 接客 頼むな。 」
「 は はい・・・ ! 」
ついこの間までは単なるバイトの店番・少年、
今は 接客主任 となったパスカルは 胸を張った。
    ・・・ おし。
    任せとけ。
    毎晩 ラジオでフランス語番組 聞いてるし。
    お オレには デュポン先生 がいるんだあ!
パスカルがバイトをしている店は 接客で定評を得て固定客が付き始めた。
やり手の店長は 徐々に仕入れを婦人物中心にかえてゆき
バイトの店番を接客主任にした。
店は どこにでもある古着屋 から 洗練されたブティック に変わっていった。
   カラン〜〜  店のドア・カリヨンが鳴る。
「 あ いらっしゃいませ〜〜 」
長身の少年が飛んでいってドアを押さえる。
「 ぼんじゅ〜る まだむ 」
「 ぼんじゅ〜る もん・ぷち。 」
少し年配の灰色の髪の婦人が にこやかに入ってきた。
( 以下 フランス語会話 )
「 お天気 いいわねえ〜 日本の春は早いわ 
 ねえ 今日はお友達を誘ってきたの。 」
「 初めまして マダム。 ようこそいらっしゃいました 」
少年は 慇懃に身をかがめ 後ろにいた年配婦人の手の甲にキスをした。
「 ぼんじゅ〜る   まあ 素敵な店員さんね 」
「 ありがとうございます  さあ  どうぞ どうぞ 」
彼は さりげなく二人に椅子を進める。
「 マダム方。 花見はなさいましたか 」
「 これから行こうかな って思って 」
「 そうですか  花見によく映えるジャケットが入りましたよ 
 合わせるスカーフもあります 」
「 あら そう? みせて みせて  」
「 どうぞ こちらへ 」
彼の行き届いた接客態度に口コミで外国人客が増えて行った。
 「 ・・・ マダム。 申し訳ありません、こういう時には
 なんと言えばよいのですか 」
「 あらあ パスカル。 それはね  」
彼はわからない時は 素直に質問し教えを乞う。
そんな素直な態度も 大いに気に入られる要因となった らしい。
    お オレ。 
    もっと着易い服 つくる。
    おばちゃん や ばあちゃんが 
    楽しく着れる  服 !
    オレが作る オレの服 !
パスカルは 目的に向かって密かに驀進して行った。
 ―  こんな風に フランス語初級 のクラスは 一年間続いた。
最後には 三人ともめでたくフランス語検定準2級 ( 大3修了程度 )
に合格し。
「 とれびや〜〜ん!!!  め ぞんふぉん〜〜〜〜 とれびあん!! 」
デュポン先生は 自分のコトみたいに大喜びをしてくれた。
「 えっへっへ〜〜〜  」
「 あっはっは〜〜〜 」
「 でへへへ〜〜〜  」
    やったぜ〜〜〜   俺ら〜〜〜    ぶらヴぉ〜〜〜〜
それぞれが 全力で文字通り獅子奮迅の努力の結果掴んだ < 勝利 >、
彼らは初めて自分自身の手で掴んだ < 勝利 > に
しっかりと背中を押してもらった。
   講座終了後 ―
少年たちはそれぞれが 人生の奮闘時代 に突入し 
なんとなく疎遠になってしまった。
 それが ・・・
ひょんなキッカケで パスカルはジャックと仕事で巡りあう。
 ( この辺りは 『 言霊 』 参照してくださいネ )
「 ・・・ なあ パスカル。 デュポン先生 どうしているかなあ 」
「 あ 先生?  うん お元気だよ〜 」
「 そっか〜〜   なあ こんどさあ   できたら ・・・ 」
「 お。 ルイ 誘ってみる。 」
「 ん! 頼むわ パスカル。 」
三人は なんとか < 万障繰り合わせ > 現役引退の老神父を訊ねた。
老デュポン先生は 大喜び、昔と変わらぬ張りのある声で
彼らに話しかけてくれた。
「 ぶらヴぉ〜〜 みんな 大きくなりマシタ ・・・! 」
「 あっは 神父さま〜 俺ら もうオジサンっすよ〜 」
「 そうですよ ぼく 双子のチビっこのおと〜さんです 」
「 オレも ルイも <ぱぱ> になりました 」
「 ぼん! ぼん! とれびや〜〜ん   め・ぞんふぉん〜〜 」
「「「 えへへへへ・・・・ 」」」
「 そうです そうです、 三人に 卒業証書 をあげましょ。 」
「 え ・・・ でもオレら 卒業試験 うけてないですよ? 」
「 い〜え 皆 フランスのマドモアゼルを射止めました。
 ちゃんと フランス語で口説けた証拠。  」
不思議なことに ルイ パスカル ジャック は
三人とも フランス人の嫁さん をもらっていた。
「 え ・・・ あ  いやあ〜〜 」
「 だはは・・・ 」
「 僕 未だに嫁に発音 直されてるし? 」
「 ぼん ぼん! とれびや〜〜ん  め・ぞんふぉん〜〜 」
老神父は 立派になった教え子たちの姿ににこにこしっぱなしだ。
中年オヤジ達3人で 老恩師を囲んで そして写真。
「 そうだ ・・・ 俺 ずっと持っているんだ  コレ 」
「 ! 俺もさ!  」
「 ・・・ うん! 」
三人は ぼろぼろになった古い写真を
それぞれがとても大事そう〜〜に 取りだした。
がらんとした教室で ぼさぼさした雰囲気のワカモノが三人。
ぎこちな〜〜く笑っている・・・
机の上には 開いたノートに教科書 食べかけのパン。
お世辞にも 楽しい学生時代 には見えない。
ホンモノの19歳が 若さと不安定さでいっぱいの若者たちの
ぎこちない笑顔。 ちょっと感じる不安な視線。  
    でも そこには紛れもなく 青春 がある。
      ふふふ   ははは   あははは・・・
親となり 社会でばりばり働く三人の < オジサン > は
まことに屈託なく 声をあげて笑い合う  ―  だって 同級生 だから。
       この思い出があるから また進める。
    あな〜たは  わたしの。    せいしゅん そのもの〜〜♪
*******  オマケ ******
「 ふ〜〜ん  不思議ねえ  」
フランソワーズは 二枚の写真をしげしげと眺めている。
「 あ? なにが。 」
「 この写真・・・ ジョーの顔 よ 」
「 え。 なんか ヘン? 」
「 んん〜〜ん。 こっちの古い方は 確かに18歳の顔 で
 この前撮ったのは ちゃ〜んとオジサンの顔だわ 」
「 お オジサン・・・って〜〜 あのな〜〜
 きみ ぼくを誰だと〜〜〜  」
「 だって ほら。
 これって 二人の子持ちのサラリーマン って顔になってるわよ  」
「 !  そ  そりゃ?   妻子を抱えて〜 日々 苦労多くて 」
「 ふふふ そうねえ〜〜 」
「 あ でも。 きみだって〜〜 しっかりオバサンだぜ? 
 ぼくの奥さん! 」
「 !  ま まあ ・・・ 
 ・・・ いいわ 確かに。 わたし達 そういうトシですものね 」
 「 だろ? 」
009 と 003 は、いや 島村夫妻は 
に〜〜んまり ・・・と ふか〜〜い笑顔を交わしあうのだった。
**********************        Fin.     
**********************
Last updated : 03,30,2021.              
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**********   ひと言   *******
ジョー君にだって こんな 青春 があってもいいよね?
自分的に大切な思い出 は いつも自分の背中を
押してくれますよね〜〜〜 (*^_^*)
ジョーく〜〜ん  がんばれぇ〜〜〜〜