『  金の瞳の  ― (3) ―  

 

 

 

 

 

 

 

  ― パチパチ ・・・  バチッ ・・・!

 

熾がひとつ、大きく爆ぜて派手に火の粉が散った。

いくつかは暖炉から飛び出し、 炉辺に敷いたラグに転がり出てきた。

「 ・・・ ! ・・・・ 」

ジョーは火掻き棒を取ると、散った火の粉を叩き消した。

「 ・・・ ああ これじゃ薪の組み方が滅茶苦茶だ。 ヤバいなあ、ヘタしたら火事になるぞ? 

彼はそのまま暖炉の前に屈みこみ、燃え盛る薪を積みなおしはじめた。

  ― やがて ・・・

 

      ゴウ −−−− ・・・・・

 

薪は勢いよく炎を上げ始め、熱気もどっと溢れてきた。

木の燃える香ばしい匂いが 部屋中にひろがってゆく。

 

     ああ  ・・・ いいなあ 暖炉は・・・・

     そうだ。 帰ったらギルモア邸の暖炉も掃除しておこう。

     ・・・ フランも 薪を組むのがヘタクソなんだよな・・・

     うん・・・・ それでも ・・・ 火は  いいな。

     この炎の色は なによりも悴んだ心を 暖めてくれる・・・

 

ジョーはいつしか じっと炎を見つめていた。

「 あらあら・・・ お客様がそんなことを・・・! 」

背後で 細い声がして、一緒に紅茶の香りが流れてきた。

ほっそりとした美女が ティーセットを捧げて立っていた。

裾の長い深緑のビロードのドレス、その背の中ほどまで見事な黒髪が覆っている。

「 ・・・ 勝手なことして すみません。 燃え止しが絨毯の上にまで飛んできたので・・・ 」

ジョーはゆっくり立ち上がり、声の主に軽くアタマを下げた。

「 まあ、謝らないでください。  ありがとうございます、私、薪をくべるのってやったことがなくて・・・

 どうやっていいか全然わからないのです。 適当に突っ込んだだけ・・・ 」

「 多分 これで巧く燃えると思いますよ。  部屋の温度もはやく上がります。 温かくなる・・・

 あの・・・失礼ですが普段はどうしているのですか。 」

「 え?  ・・・ よいしょ・・・ あ・・っ! 」

ガチャン ・・・ と陶器同士がぶつかって派手な音をたてた。

「 あ、このお盆、ぼくが持ちますから・・・ 手を放してください。 」

ジョーはあわてて彼女の側に駆け寄った。

「 ・・・ あ ・・・ すみません・・・・ 私、本当に何にもできなくて・・・ 」

結局 お盆もジョーが運ぶことになり、 黒髪の美女は肩を竦め情けない顔で微笑んだ。

 

 

 

    ネージュ ( neige 雪 ) ・・・ 彼女は微笑みつつ名乗った。

 

ジョーが辿り着いた山小屋 ― とっくに朽ち果てていると思う、と宿の主は言っていたのだが・・・・

そこには みどりの黒髪の美女が住んでいた。

驚くジョーに 彼女の方も目を丸くしていた。

 

「 ・・・ まあ スキーで?  そうですか・・・ここまでいらっしゃる方って滅多にありませんわ。 」

「 あなたは ― ここに住んでいるのですか。  ここは ・・・ 山小屋、と聞きましたが。 」

ジョーは 思わずきょろきょろと室内を見回してしまった。

尾根のもっと上に建つ、古い山小屋 ― そんなイメージはどこにも感じれられない。

がっちりとい堅牢な建物で、 内部は普通の、いやかなり豪奢な内装になっていた。

さり気無く置いてある家具調度も 立派なものばかりだ。

「 山小屋? ・・・ いいえ、ここは祖父の代に建てた別荘ですの。

 私は身体が弱いので ここで暮らしています。 ええ ずっと・・・・ 」

「 ここで?? 失礼ですが ・・・ お一人で住んでいらっしゃるのですか。 」

「 いえいえ・・・私、なんにもできませんもの。  裏の別棟に使用人達がおりますの。

 いつも 生活の全てを彼らに任せています。 

 あの・・・ お茶をどうぞ?  これぐらいは私にもできます。 」

彼女 ― ネージュ は 名前のごとく真っ白な手で 不器用にお茶を淹れ始めた。

 

暖炉には 火が盛んに燃えあがり、室内はほんのりと暖かくなってきた。

磨きこまれたフローリングの床には 至るところに毛足の長い毛皮のラグが敷いてあった。

壁にはゴブラン織りのタピストリーが掛かり、紫檀のテーブルは凝った手編みのレースが敷いてある。

  そう ・・・ まさにここは高級な冬の別荘そのものなのだ。

 

「 あの・・・麓の宿で このあたりには旧い山小屋の跡があるはずだ、と聞いたのですが。

 御宅とは違うようですね。 どこにあるか ご存知ですか?  」

「 さあ・・・? 私 ほとんど外には出ませんのでご近所のことは全然・・・

 ・・・ さあ・・・ お茶が淹いりましたわ。   どうぞ ・・・ えっと・・・? 」

「 ジョー。  島村ジョー といいます。 お嬢さん。 」

「 ・・・ ネージュ、と呼んでください。 」

「 ネージュさん ? 」

「 はい、 雪 という意味です。 この山荘をこよなく愛した父がつけてくれましたの。 」

「 ・・・ご家族の方は。 」

「 皆 亡くなってしまいました。  今 私は一人でここに住んでいます。 」

「 そうですか・・・ 」

「 裏手には使用人たちがいてくれますが・・・ こちらの山荘にいるのは私だけなのです。

 だから・・・ お客様がとっても嬉しくて・・・! さあ どうぞ、どうぞ 」

ネージュは頬を染め ジョーにお茶を進めた。

縁の薄い彩色豊かな茶器は ジョーにも高級品・・・と判る。  お茶もおそらく選りすぐりの品なのだろう。

「 ありがとうございます。 ・・・ ああ 美味しい! 紅茶の淹れ方、お上手ですね。 」

「 いえ ・・ ここは水がとても美味しいのです。 湧き水なのですが・・・峰に降った雪の贈りものですわ。 」

「 うん、本当に美味しい。  」

「 喜んでいただけて・・・ 山も嬉しがっています。  

 ここの清澄な空気と水のおかげで私はなんとか生きてこれたのですから・・・ 」

微笑みを浮かべる顔は 整っているが蒼白い頬に生気はあまり感じられない。

 

       どこか ・・・ 悪いのかな。

       綺麗なヒトだけど  生命のエネルギーが希薄だ

       名前の通り 淡い雪みたいな印象だなあ

 

ジョーはいい香りの湯気ごしに 何気なく彼女を観察していた。

「 ― ネージュさん。 ぼくがここまで登ってきたのは ・・・ ある人を捜しているからなのです。

 この付近で遭難したヒトを救助した、というようなウワサはありませんか 」

ジョーは静かにカップを置くと 彼女をまっすぐに見つめた。

「 さあ・・・ この付近に 他のヒトは住んでいません、としか私にはお答えできません。

 あ、そうだわ!  使用人たちならなにか知っているかもしれません。

 週に何回か麓の村にまで降りるものいますの。

 ちょっと待って・・・ 呼んでまいりますね。 」

「 あ ・・・そんな慌てなくても ・・・ 」

ネージュは ぱたぱた走っていってしまった。

 

      あは ・・・ 誰かにちょっとだけ似てる、かもなあ・・・

      綺麗な瞳だ ・・・ あれは 金色か 星の輝きみたいだ

      黄金 か。  珍しい眼だな ・・・  

      ・・・ うん?  どこかで見た・・かも?

 

ジョーが懸命に記憶をひっくり返していると ・・・ またしても後ろからいきなり声がかかった。

 

「 ネージュ嬢さまからのご命令ですだ。  なにかお聞きになりたい、と・・・ 」

ジョーの後ろに 巨躯なオトコが立っていた。

「 え?!?  あ ・・・ ああ ・・・ 君は? 」

さすがのジョーも 思わず飛び上がりそうになった。

「 アッシは このお邸にずっとお仕えしてる下男です。 へえ 嬢様がお生まれになる前から・・・ 」

オトコはぺこん・・・とアタマを下げた。

「 そうか ・・・ それじゃこの辺りの様子には詳しいですよね。

 ここ数日で遭難者はいませんでしたか? そんなウワサはないでしょうか。 」

「 ・・・ 下のコトはわからねェですだ。  ただここいらまで登ってきなさるお人はほとんど居ません。

 このお別荘にお客さんは 来ないですだ。 」

「 そうですか・・・ 知り合いが行方不明なんです、もしなにか情報があったら教えてください。 」

「 へえ・・・ 嬢さまにも言われてますで 必ず・・・  そんじゃ・・・ 」

「 あ そうだ、もう一つ。  この地方には 金の流星雨が降ると ヒトが消える・・・って

 言い伝えがあると聞きましたが。 ご存知ですか。 」

「 ・・・ ああ 爺様の頃から そう・・・聞いてますだ。

 金の星が降る夜には ・・・ 家に居れ、と。 星が 浚う、となあ。 」

「 ・・・ 星が 浚う・・・? 」

「 星さんがな、 淋しい 淋しいって 仲間を欲しがっておって。 金の雨は星さんの涙ですだ。

 やっぱり淋しい人間を連れてゆく・・・てなあ。 」

「 ・・・ 淋しい人間・・? 」

「 古い古いハナシですだ。  ・・・信じているモンはもうおりゃあしません。  ・・・そいじゃ・・・ 」

オトコは再びぺこん、とアタマを下げると 静かに部屋から出ていった。

 

      ここの住人は 皆 突然現れるんだな・・・

      ・・・ しかし ・・・・

      遭難者はいない・・・ということは。 

      まさか この雪の下 に・・・? 

 

      いや!  そんなはずはない。

      フランは 絶対にどこかに居る 

       ・・・ 生きている・・・! 絶対に。

      ああ 必ず捜しだす・・・!

 

ジョーはきゅっと拳を握り 燃え盛る暖炉の火を見つめた。

 

   ― コトン ・・・

小さな音がして、ネージュがゆっくりと入ってきた。

「 ・・・ ジョーさん? いかがでした?  なにかお判りになりまして。 」

「 ネージュさん・・・ ありがとうございます。

 でも ・・・ 使用人の方も知らないそうです。  

 あ お茶、御馳走さまでした。  とっても美味しかったです。 」

「 まあ 嬉しい・・・ もう一杯、いかが?  マドレーヌがありますの、お持ちしますわ。 」

「 いえ ・・・ もう失礼します。  いきなりお訪ねして失礼しました。 」

ジョーはテーブルの前に立ち上がると 丁寧にアタマを下げた。

「 あら・・・どうぞごゆっくりしていらしてくださいな。 麓の村のこととか・・・お話してください。

 それに今日はもう下に降りるのは ちょっと無理のようですわ・・・ 」

「 え ・・・? 」

ネージュは窓辺に寄ると そっとレースのカーテンを左右に払った。

「 ・・・ ほら。 雪が吠えてますわ。  スキーは無理です。 

 遭難してしまいます ・・・ いくら貴方でも。 」

「 ・・・ え ・・・? 」

「 え? ああ いくらスキーがお上手でも、という意味です。 」

「 そうですか。  ・・・ ああ 本当にすごい雪だ ・・・ 」

窓から見える景色は 本当に白一色だった。

今朝方の あのくっきりと晴れ上がった空とは別世界に思えた。

「 あの ・・・ お宜しければ 今晩 ・・・ お泊りになりません?  明日になればこの吹雪も

 綺麗に上がると思いますわ。 」

「 いや そんな・・・ 女性一人のお住いに泊まるなんてとても。 」

「 あら 女性一人だからこそ・・・ お願いしたいのです。  

 こんな夜は ・・・ 心細すぎますもの ・・・ 」

 

    ビョオ −−−−−−− ・・・・!

 

堅牢な壁を通しても 雪の唸りが聞こえてきた。

ジョーは 窓の外に目を凝らしたが 確かに酷い吹雪になっていた。 白い炎が燃え上がっている。

「 それじゃ・・・ お言葉に甘えまして。 ありがとうございます。 

 その代わり ぼくは火の番も兼ねてここで休ませてもらいますよ。 」

「 え ・・・ この暖炉の前で、ですか。 」

「 ええ。  お許しを頂けますか。 」

「 ・・・ ああ 負けましたわ。  それじゃ・・・後で毛布を持ってこさせます。

 あの バス・ルームは二階にありますのでどうぞご自由にお使いくださいね。 」

「 すみません、 勝手におしかけておいて・・・ 」

「 いいえ ・・・ とっても楽しいティー・タイムでしたわ。

 あの ・・・ 明日晴れたら・・・ 私自慢の温室に御案内いたします。 」

「 温室?  この雪の中に、ですか。 」

「 ええ。 南の崖を利用して大きな温室があります。 

 お花や果物が お日様の恵みをいっぱいに受けていますの、どうぞ覗いてやってください。 」

「 ありがとう・・・!  ネージュさん、あなたも気候の良い時期には麓に降りていらっしゃい。

 鄙びていて なかなかいい風情の温泉町ですよ。 町の人々も温かいです。 」

「 そう? ・・・ いつか ・・・ ね・・・ 」

ネージュの白い頬が淡く 染まった。

 

 

 

    ビュウ −−−−−・・・・・

 

 

夜が更けるにつれて 吹雪の勢いはどんどん激しくなっていった。

ジョーは 暖炉に薪を継ぎ足した。

「 ・・・ かなり吹雪いてきたな。  しかしそれにしても立派な山荘だ・・・由緒もありそうなのに、

 麓の町の人々はどうして知らないのだろう・・・ 」

山荘の中にいる限り、 外の吹雪はまったく他所事のようだった。

炉辺のラグに 手枕でひっくり返りつつジョーはとろとろとまどろんでいたらしい。

 

       カチャ ・・・ ン  ・・・・ !

 

部屋の外で なにかが割れる音がした。

「 ・・・ ん ?  なんだ・・・ なにか ・・・壊れたぞ・・・ 」

ジョーは起き上がると 部屋中を見回した。

暖炉の火は まだ充分にのこっていて室内は暖かい。  

「 ・・・ 外? こんな夜中に誰か・・・ ネージュ・・・? 」

ジョーはリビングからドアを開け 廊下に出た。  どっと冷気が襲ってきた。

「 う ・・・ わ ・・・ 寒いな・・・ うん、これが本来の気温なんだ・・・ 

 しかし。  これほどの山荘が暖房設備が暖炉だけなのだろうか。 」

確かに 全体の内装・調度から見ればセントラル・ヒーティング完備でもおかしくはない。

  ・・・ そう、 この山荘はどこかちぐはぐだった。

古いものと新しいものが ごっちゃまぜになっている。

 

    キシ ・・・・

 

階段に脚をかければ 硬い踏み板がかすかに軋み音をたてる。

ジョーはゆっくりと二階へと登ってゆく。

不意に 明るい女性の声と甲高い少年の声が 響いてきた。

 

   ふふふ  ふふふ ・・・ ほら こっちよ ・・・ こっち 

 

   まって! まってよ・・・ 

 

   せっかくいちごをこんなに摘んだのよ はやく ・・・ 

 

「 ・・・ な!? 誰か ・・・ いるのか??  あ! あの声は ・・・ 」

ジョーはぎくり、として脚を止め 油断なく周囲を見回す。

山荘の廊下や階段は ひっそりと静まりかえり常夜灯がにぶい光をなげかけているだけだ。

「 ・・・ げ 幻聴 ?  ・・・いや! あの声は確かに ・・・ フラン ・・・ 」

 

    ほうら こっち! こっちよ、ノエル ・・・

 

    まって!  ほら・・・ 薔薇だよ、フランソワーズの好きな色さ 

 

    まあ すてき ・・・ あ 棘を刺さないようにね

 

「 ?? ふ、フランソワーズ?? どこだ? どこにいる??   ああ ・・?!?? 」

階段の途中で棒立ちになっているジョーの横を  ―  す ・・・・っと 白い影が通り過ぎた。

亜麻色の髪が 常夜灯の暗い明かりにもきらり、と揺れている。

その後を 小さな影が追いかけてゆく・・・

   ― パタパタパタ ・・・・  タタタタタ ・・・・

軽やかな足音が二組、 階段を駆け上っていった。

「 ・・・ な  なんなんだ!? 今の は ・・・・ 

深々と冷え込む中、 ジョーはじっとりと汗ばんだ手を握り締めた。

 

   コト ・・・ン ・・・

 

「 今度は なんだ?? 」

ジョーは階段を駆け登り二階の廊下に出た。  誰も ―  いない。

「 ・・・ そんな  ぼくはどうかしちまったんだろうか・・・?   あ ・・・? 」

視界を端を 再び白い姿がちらり、と横切った。

「 あっちの端にも階段があるのか・・! 」

ジョーは廊下を駆け出した。

 

    ほら ・・・ 足元・・・ 気をつけて。  

 

    ありがとう ・・・ 素敵なドレス、嬉しいわ  ジョルジュ・・・

 

    ・・・ よく 似合っているよ フランソワーズ ・・・

 

水色のドレス姿の女性がゆっくりと階段を降りてゆく。  

彼女は隣にいる誰かに腕を預けている ・・・らしい。

幸せそうな、明るい声が 薄暗い天井に吸い込まれてゆく。

「 !?? ふ、フランソワーズ ・・・!!  フランソワーズなのか!? 」

ジョーが呼びかけた途端に  愛しい人のすがたはふ・・・っと闇夜の溶け込んだ。

 

    な ・・・ なんだ ・・??

    吹雪の音が見せた ・・・幻覚か ・・・?

 

誰もいない廊下で薄暗い常夜灯の照らす中、ジョーはただじっと虚空を見つめていた。

 

  ― キ ・・・!

 

廊下の奥のドアが 静かに開いた。

「 ・・・ あの ・・・ ジョーさん? なにか ・・・ありましたの? 」

ネージュの白い顔が 薄暗い廊下にほう・・・っと浮かんで見える。

ジョーの足音で 目が覚めてしまったのかもしれない。

「 いや なんでもないです。 吹雪の音ですよ・・・ 

 あんまりすごい雪なので気になって点検していました。 起こしてしまってすみません。 」

「 あら いいえ そんな。 こちらこそありがとうございます。  ・・・くしゅ・・・! 」

「 ああ ほら冷えますから。 どうぞ部屋に戻ってください。 

 ・・・ あ  あの。 ネージュさん。 こちらの邸で休んでいるのはあなただけ、ですよね? 」

「 え・・・ええ。  今晩はジョーさん、あなたがいらしてくださっていますけど・・・ 」

「 そうですか・・・  」

「 あの ・・・ なにか? 」

「 いや。 ぼくも寝ぼけたのかもしれません。 」

「 そう・・・?  あ ・・・ 吹雪の音が・・・ こんなに強いことって滅多にありません。

 なんだかこわい ・・・ こんな夜にお父様も亡くなったの・・・ お父様 ・・・ 」

ネージュは かくん、と膝をつくと そのまま床に蹲ってしまった。

ジョーは飛んで行き彼女を 助け起こした。

「 ! 大丈夫ですか?!  こんなところに座ってはだめです、さあ 部屋へ。 」

「 ・・・ え ええ ・・・ ありがとうございます ・・・脚が震えて・・・

 ・・・ 淋しいわ ・・・ 淋しすぎるの、この邸は・・・

 一人ではもう生きては行けない ・・・ ああ いっそ雪になってしまいたい・・・ 」

彼女の独り言はだんだんうわ言めいてきて、彼女の瞳は虚ろに宙に向いていた。

「 ネージュさん。 」

ジョーの腕に自然と力がはいった。

 

     この女性 ( ひと ) は。

     フランソワーズよりも もっと細いんだ・・・

     まるで ・・・ 少女みたいに 頼りない・・・

 

彼は震えているネージュを 半ば抱きかかえ彼女の部屋に連れていった。

 

 

   ビョオ −−−−−−−− ・・・・・

 

夜半すぎても吹雪は一向に止む気配はなかった。

 

 

 

 

 

「 今夜は荒れるね。  温かくしてお休み、フランソワーズ。 」

「 はい。  ・・・ あの風の音は ・・・ イヤね、なんだかとても不安になるわ。 」

「 大丈夫 ・・・ 僕がいる。 お休みのキスはしてくれないのかな? 」

「 ・・・・・ ・・・・・ 

「 また そんな困った顔をして。  ふふふ・・・冗談だよ。 お休み・・・ 

 ああ 暖炉はそのままで大丈夫だ。 もう 燃え残りもないからね。 」

「 はい。  お休みなさい、ジョルジュ・・・ 」

青年は ガウンの襟を掻き合わせ片手を上げると リビングから出ていった。

ドアが閉ると ― 急に吹雪の音が大きく聞こえてきた。

「 あ・・・ いや・・・!  ほんとうに早く寝てしまわなくちゃ・・・ 」

フランソワーズは ソファから立ちあがると、テーブルの上を片付けた。

 

   

   ビョオ −−−−−− ・・・・・ !

 

堅牢な邸の外では 冬将軍の軍勢が思いっ切り馳せまわっているとみえる。

最後に暖炉の火を確認し フランソワーズは部屋を出た。

「 ・・・ さむ ・・・  早くベッドに入ろう・・・ ノエルは温かくして休んだのかしら。 」

弟は風邪気味なので 先に休ませた ― ジョルジュはそんなことを言っていた・・・・

フランソワーズは足早に 階段を登って行った。

 

      ・・・・ あら ・・・?

 

二階まで登りきり、廊下を曲がると ― 奥の暗がりに 人の姿が見えた。

「 ・・・ ジョルジュかしら。  あ ・・・ 一人じゃないみたいだわ・・・ 

 あら、もしかして・・・ お友達でも呼んだのかしら・・・  」

彼が誰か女性と一緒なのか・・・・とフランソワーズは咄嗟に目を逸らそうとした。 

しかし 一瞬早く廊下の奥の光景が彼女の目の中に入った。

奥に立つ男性は プラチナ・ブロンドのジョルジュではない。  もっと濃い髪と ・・・ セピアの瞳。

 

「 ・・・ あ  あれは ・・・ あのヒトは ・・・・  ???  え ・・?? 」

 

 

     パシ −−−−−− ン ・・・・  

 

 

 

  彼女のアタマの中でなにかが弾けた。

 

そして 同時に、よく知っている、とても身近な笑顔が目の裏に浮かだ。

セピアの瞳が じっとこちらを見つめている。

そう ・・・ あの男性 ( ひと ) は  

 ―  わたしが待っていた ひと。  雪の中で ずっとずっと待っていた ひと。

わたしの恋しい ひと。 わたしの愛しい ひと。

 

 

    ―   ジョー ・・・・・  !!!

 

 

  ぽとり ・・・ ぽと ぽと・・・・

彼女の頬を熱い涙がころがり落ちた。  しかし  ― ほぼ同時に彼女は愕然とした。

彼は誰かを支えている風に見えた。 いや、しっかりと相手を抱きしめているのだ。

「 ま まさか ・・・ でも ・・・ あれは あの横顔は確かに・・・

 それじゃ。 あの ・・・ 黒髪の女性は ・・・誰?? 」

膝が がくがくと震えた。  身体中が かあ・・・・っと熱くなり直後に心が凍りついた。

 

     ふ 二人は  ・・・ 抱き合っていたわ ・・・!

 

息を呑み棒立ちになっている彼女の前方で 男女は縺れるようにして一室に消えた。

 

    ・・・ そ そんな ・・・・!?  

    ジョーが・・・・?

 

無理矢理足を前に押し出し フランソワーズは部屋の方へぎくしゃくと進んだ。

廊下には厚手の絨毯が敷き詰めてあるので 足音はほとんど聞こえない。

壁にすがりつつやっと辿ってゆくと、目の前にかっちりとしたドアが閉っていた。

このドアの向こうに ・・・ いるの ・・・ ?!

 

    ・・・ こ ・・・ こんなこと いけないコトよね・・・

    わたし ・・・ 最低なオンナだわ・・・!

 

きゅ・・・っと唇を噛み恥ずかしさに真っ赤になりつつ ― 彼女はドアに耳をよせる。

火照った耳に ドアがとても冷たい。

 ・・・ なにも聞こえない。  さすがに ちから を使う気にはなれなかった。

「 ・・・ あら・・・? 」

ほんのすこし、ドアが動いた・・・ 気がした。 慌てて身を引いたが重いはずのドアがほんの少し内側に動く。

細目に開いたドアの隙間からは 光は漏れてこない。 暖気すら漂ってこないのだ。

「 うそ・・・! そんな ・・・。  ??? 暗い・・・の? 」

 

     キ ィ ・・・・・・

 

かすかな軋みの音を洩らし 磨きこまれたマホガニーのドアがゆっくりと内に開いた。

「 ・・・??   えええ ・・・?  部屋ちがい? いいえ いいえ 確かにこのドアだったわ・・・! 」

フランソワーズは 開いたドアの前で棒立ちになっていた。

  ― ドアの中には。  し・・・ん と冷え切った客間があるだけ。 

  長い間 使われた形跡はなく、家具調度にはカバーがかかっていた。

 

「 ・・・ ど どういうこと ・・・? 」

 

 

     ビョオ −−−−−− ・・・・・ !

 

窓の外から 再び荒れ狂う雪の吠え声が聞こえてきた。

 

「 うそよ・・・! こんなこと、うそだわ・・・

 ここは ・・・ どこ??  本当はどこなの。  ・・・ジョー・・・ ジョーはどこ?? 」

誰もいない部屋のドアを閉め フランソワーズはそろそろと廊下を歩きだす。

「 わたし、ずっとなにをしていたのかしら。  

 そう・・・ここはとても気持ちがいいわ。  わたしの望みどおりのお家・・・憧れだわ。

 でも。 でも・・・! どうしてジョーのこと、思い出せなかったの? 

 ジョーがいない所は わたしの家じゃないのに・・・! 」

足元から冷気が忍び寄ってくる。 吹雪の夜はどんどん気温がさがってゆく・・・

身体中に あちこちから寒さが這い登ってきた。

フランソワーズはしっかりとガウンの襟を掻き合わせた。 

「 ジョーを見つけなくちゃ。 そして ここから脱出するのよ。 ・・・ 捜すわ、絶対に見つけるの。  

 だって わたしは003ですもの。 」

きゅ・・・っと唇を噛み締め、彼女は小走りに自室に戻っていった。

 

数日とはいえ寝起きしている部屋は やはりほっとする。

彼女は鍵を閉めると クローゼットに駆け込んだ。

「 今までなにをやっていたの。  いくら記憶がぼやけていたといっても・・・

 まったくだらしないわね、フランソワーズ! 」

クローゼットの一番奥に、 彼女のスキー・ウェアが仕舞ってあった。

「 ・・・ ふわふわドレスを着て 夢を見ていたのかしら。 温室の中でひらひら遊んでいたのね。

 さあ ― しゃきっと目を覚ませて ・・・ 考えるのよ! 」

スキー・ウェアに着替え、彼女はきり・・・っと髪を纏めた。

「 しっかり考えるのよ、フランソワーズ。  この邸は ・・・ いったいなんなのか。

 どこにあるのか。 そして ノエルやジョルジュは・・・・ 」

窓に近寄りそっとカーテンを開けてみれば 外はやはり白い闇 ― 吹雪が荒れ狂っていた。

「 ・・・ この天候はホンモノね。 でも・・・吹雪を利用して閉じ込めている・・・とも思えるわ。 

 ・・・ だめだわ。  < 耳 > も < 目 > も まったく使えない。

 ということは。  この吹雪は完全にバリヤーの役割なんだわ。 」

フランソワーズは ベッドに戻った。

「 今までのことを考えると ・・・  こちらに危害を加える目的は ないみたいね。

 ともかくここ・・・ この邸の中に留めて置きたいんだわ 」

 

     ここは  この邸は広すぎる ・・・

 

     ここは 僕たちだけなんだ ・・・

 

ジョルジュの言葉が脳裏に甦る。  そう ・・・ 彼は独り言のように繰り返していた・・・

「 ・・・淋しいから ・・・ わたしを引き止めていた、というわけ? 

 でも 兄弟以外にも使用人はいるし ・・・ 麓の村にも下りてゆけるでしょうに。 」

改めてこの部屋を見回す。

カーテンも絨毯も。 チェストの引き出しに香るハーブも ベッド・カバーもクッションまでも・・・ 

彼女の周りにあるものは全て ―

「 わたしのお気に入り。 欲しくて仕方がなかったものばかり、のようね。 

 ええ、ベッド・カバーの模様まで ・・・少女の頃、欲しかった柄だわ。 」

フランソワーズはゆっくりと立ち上がった。

「 夢見るお年頃のフランソワーズは 巧く目くらましにかかった・・・・ってわけね。

 でもね。 わたしは ― ジョーの妻になるの。 現実を 見据えるのよ! 」

自然と手が 胸元に下げた指輪を押さえていた。

 

     ジョー ・・・・ !

 

     わたしの願いは ― あなたと共に生きること。

 

     どんな状況でも  どんな時にでも・・・!

 

 

  ゆらり −−−−−− ・・・・・  ・・・・

 

「 ・・・ええ ・・・?? 」

突然、彼女の周りの光景が揺らめき その輪郭が崩れ始めた。

「 なに・・・? どうしたというの。  !  <眼>の レンジを最大限にして・・・  ああ?? 」

揺らめきはやがて徐々に収まり、眼の前に現れたのは ―

「 ここは・・・!  ギルモア邸の廊下・・・ 二階の廊下じゃないの?! 」

つい先ほどまで 眼の前にあった重厚な欧州調の邸は跡形もなく消えていた。

フランソワーズは、慣れ親しんだ <我が家> の廊下に立っているのだ。

「 ・・・ そんな?  あ・・・わかったわ・・・!  そうよ・・・ そうだわ!

 < わたしが願った > からなのね!? 」

 

    カツカツカツ ・・・・ カンカンカン ・・・!

 

廊下の端から階段を駆け上る音が聞こえてきた。

「 ― フランソワーズ!!  どうしたんだ?  」

「 ・・・ ジョルジュ。   わたし、わかったの。  わかったのよ。 

「 なにが?? これは・・・どういうことなんだ?? 」

ジョルジュは彼女の側に駆け寄ると 呆然と周囲を見回している。

「 なぜなんだ?? 今 この邸は・・・ 君の望みの通り だったのに! 」

「 やはりそうだったのね。   ええ、 そうよ。 

 今 わたしは  < わたしの家 > に帰りたい、と望んだの。 

「 ・・・ く ・・・!  君の望みは ― 少女の頃 夢見ていた暮らし 憧れていた邸で

 平穏に暮らすこと・・・だったはずだ! 」

プラチナ・ブロンドの気のいい青年の姿が 揺らめき始めた。

 

      ・・・・???  なに・・?

      ジョルジュも ・・・ 幻影 ・・・ だったというの?

      そんな ・・・

      それじゃ ・・・ ノエルは?  あの子も・・・?

 

「 フランソワーズ!! 僕は ・・・ 君の望みの世界で君の願う日々を過してほしかった・・・

 僕と一緒に・・・・ 」

「 ジョルジュ。   そうね、確かにこの邸は少女時代の憧れがいっぱい詰まっていたわ。

 ええ 大好きよ ・・・ 夢と微笑みだけでできた素敵な日々ね。 」

「 そうさ!  君が望んだから・・・!  君の淋しい心を知ったから・・・ 僕は・・・! 

 僕は ― 僕の淋しさを紛らわしたくて。  同じ淋しい心を集めて・・・・

 そして 微笑んで暮らせたら・・・いつまでも いつまでも・・・  」

ゆらゆら ・・・ ジョルジュの姿の輪郭が薄らいでくる。 

「 フランソワーズ!  ・・・ お願いだ、一緒に ・・・ 一緒にいて欲しい・・・

 淋しい ・・・ ここは 淋しすぎる ・・・ 」

「 ジョルジュ。   わたしの望みはね ― 今の世界に生きることなの。

 少女時代の ・・・ 夢から目覚めて、この現実を愛する人を生きてゆきたいのよ。 」

「 ・・・ 愛する ・・・ ヒト ・・・? 

「 ええ。 わたしは ジョーと 生きてゆきたいの。 ううん、 生きてゆきます。 」

「 ・・・ そいつは君を放っておいたじゃないか。 」

「 いいえ。 わたしは彼を信じているわ。  ちょっとでも疑ったのが恥ずかしい・・・

 愛しているから 信じているの。 」

「 ・・・ く ・・・ 本当に・・・? 」

「 ?? 」

眼の前から ふ・・・っとジョルジュの姿が消えた。

 

     コツコツコツ   コツ コッ ・・・・!

 

  ― 音が 聞こえた。

フランソワーズが一番よく知っている音が。  毎日毎日、耳を澄ませて待ちわびている音だ。

そう ・・・愛しいヒトの 帰ってくる靴音 ・・・

「 ・・・ ジョー ・・・・! 」

フランソワーズは 一瞬きゅ・・・っと眼を閉じてからぱっと廊下の奥を振り向いた。

しっかりと眼を見開く。  勿論能力なんか使わない。

たとえツクリモノでも 本当の眼 で見たいから・・・ あのヒトの姿を・・・!

 

    ・・・ コッ !!!

 

廊下の奥から 人影が駆け寄ってくる ・・・ !  長めの前髪にセピアの瞳のあのヒトが。

 

       ジョー ・・・・!!!

 

       フラン !??  フランソワーズ !!!

 

 

ジョーは半信半疑の表情で しかし猛烈な速さで駆け寄ってきた。

どたばた・・・派手な足音がなんだか可笑しい。

 

      ふふふ ・・・ 可笑しなヒト ・・・・

      ミッション中は 音もなくジャングルの中でも走るのに・・・

 

二人は 薄暗い廊下の真ん中でしっかりと抱きあった。

温かい ・・・ お互いの身のぬくもりはこころが蕩けそうに心地好かった。

フランソワーズの微笑はほろほろと満面の笑みに広がり涙が零れおちる。

「 ・・・ ジョー ・・・ジョー〜〜!!! 」

「 フラン!! ああ 無事だったんだね!! ああ ああ よかった・・・

 ここは何処なんだ?  はやく脱出しよう! 」

「 ジョー・・・ ここは ね   ここは ・・・ 」

す・・・っと白い影が ジョーの脇に現れた。 そう ・・・空気が集まって白い影になったのだ。

「 ・・・ ジョーさん。  私を置いてゆかないで・・・ 私を一人にしないで・・・  

 ・・・ 私を  愛して ・・・  」

ほっそりと頼りない姿が ジョーに縋りつく。

「 ネージュ。  ごめん。  ぼくの愛するヒトはフランソワーズだけなんだ。 」

「 ジョー ・・・ あなたの憧れ ・ あなたの望みは なあに。

 あなたの望みどおりにしようと思ったのに・・・ あなたの望みがわからなかったわ・・・ 」

「 ネージュ。  それは ね。

 ぼくの望み、 ぼくの憧れは ― フランソワーズと共にいる場所 なんだ。

 彼女が ぼくの全てなんだ。 」

「 ジョー ・・・ わたしも、わたしもよ。  少女時代の憧れは ・・・ 夢なの。

 夢は大切よ、素敵だわ。 でも ・・・わたしは現実の方が 好き。 

フランソワーズは 真正面からジョーを、そしてネージュを見つめている。

その青い瞳には 躊躇の影は一切見られない。

「 フラン ・・・ きみってひとは。  ああ ぼくの永遠の憧れだ・・・! 」

ジョーもかっきりと彼女を、彼女だけを見る。

 

       ああ ・・・ ああ  ・・・

       私は ・・・

       淋しかった ・・・ 淋しい夜は 一人は辛い・・・

       ・・・ 一人ぽっちの空は  ・・・ 淋しくて ・・・

 

ネージュの姿が揺らぎ ぼやけ・・・ ジョルジュ が現れ ノエルが現れ ― そして消えた。

 

       淋しい・・・淋しい ・・・ 一人は 淋しい ・・・

 

虚空に 細い声が響いた。 やがて仔猫の細い声が淋し気に聞こえた。

「 ・・・ああ!  ジョー・・・! あの仔猫ちゃんだわ。 ほら・・・駅で見つけた真っ白な仔猫! 」

「 ・・・ あの仔猫がこんな ・・・ 幻を作っていたのか? 」

「 わからない・・・・ でも あのコもほら・・・淋しい・・・って鳴いている。

 ねえ ・・・ 仔猫ちゃん? ううん、空にいる <淋しいひと>?

 あのね。 淋しいときには  愛すればいいの。  

 誰かを愛すれば  それで淋しさは消えるわ。 ええ、きっと ・・・ 」

「 ・・・ そうか  そうだね。

 ぼくはずっと一人だった。  でも今はきみが いる。 」

 

     愛するヒトが ・・・ 欲しい ・・・ 欲しかった ・・・

 

  ぐらり ・・・・

 

呟きにも似た低い声と共に 邸全体が大きく撓んだ。

「 危ない! フラン・・・! 」

ジョーはフランソワーズをしっかりと抱き締めた。

「 ジョー ・・・ 大丈夫よ。  多分 ・・・ 幻が消えてゆくだけだわ。 」

「 幻が? 

「 ええ。  淋しい魂が作りだしていた幻よ。  だからしばらく・・・こうしていて・・? 」

「 これで いいのかな・・・・ 」

「 ・・・ ええ ジョー ・・・ 」

二人は抱き合ったまま 静かに目を閉じた。

 

     ぐらり −−−−−  ・・・・

 

足元が大きく揺れ 一瞬二人の意識は途切れた。

 

 

 

 

「 ・・・ う ・・・・ああ・・・・? ここは ・・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

「 ・・・フラン!? おい、 フランソワーズ! 大丈夫か! 」

「 ・・・ ジョー ・・・ ここは・・・? 」

二人が次に眼を開けた時に見たものは  ―  それは古い山小屋の跡だった。

頑丈な石壁と天井はしっかりと残っていた。

窓ガラスは破れ跡形もなかったが氷付いた雪が 壁の役割をしていた。

「 ・・・ そうか。  ここが宿の主人が言っていた山小屋なんだな。 」

「 随分古いわね。 でも・・・もともとは立派な建物だったみたい。 」

「 そのようだね。  こっちにおいで、ここなら隙間風もこないよ。 

 ああ 暖炉があるな。  板を燃やそうか。 」

「 ええ。 わたし、廃材を集めてくるわね。 」

二人はなんとか燃えるものをかき集め 暖を取ることができた。

 

「 ・・・ とんだスキー旅行だったね、フラン。 」

「 そうね ・・・ でも  嬉しいことばっかりだったわ、わたし。 」

「 嬉しいこと?  」

「 ええ。  ジョーは 空中でプロポーズしてくれでしょ。 ちゃんと助けに来てくれたわ。

 ずっと一緒・・・・って それがすべてって言ってくれたわ。 」

「 フランソワーズ・・・! 」

ぱちぱちと燃える炎が 彼女の頬を照らす。

火照った頬から すんなり細い首へ そして 円やかな胸へ・・・ ジョーの視線が辿ってゆく。

「 ・・・ フラン ・・・フランソワーズ・・・ きみってひとは ・・・ 」

「 ジョー ・・・ 」

ゆっくりと白い腕が伸び、彼の首に巻きついた。

二人はそのまま・・・燃え盛る暖炉の前に絡みあったまま倒れた。

「「 ・・・ 愛してる・・・ 」」

 

   朽ち果てる寸前の山小屋の跡で 二人は結ばれた。

 

 

 

 

「 お世話になりました。 ありがとうございました。 」

「 いえいえ ・・・ こちらこそ。  昨夜遅くに奥様がいらしたのに・・・

 ご挨拶もいたしませんで 大変失礼いたしました。 」

「 あら いいえ。 車で来ましたし、もう遅かったので・・そっと主人の部屋に・・・

 わたしこそ失礼いたしました。 」

翌朝 宿の玄関で、主人は恐縮の態だった。

フランソワーズは昨夜遅くにこの地に着いた、ということになっていた。

 

  「 また 来ます!  」

  「 お待ちしております。 」

 

二人は手を繋いで宿を出た。

昨夜の吹雪はきれいさっぱりと上がり、空は 快晴。  新雪が眩しい。

 

「 なあ、フラン。 」

「 なあに。 」

「 あの な、 新婚旅行だけど。 」

「 はい。 

「 決めたんだ。  ― 巴里に行こう。  きみの生まれ育った街がみたいんだ。 

「 ・・・ ジョー ・・・! 」

「 うん。 」

 

   きゅ・・・っと 握りあった手に力がこもる。

 

そう ・・・ 愛するヒトがいれば 淋しくはない。

 

  ― 金の瞳をした仔猫は 今でも淋しい涙を散らしているのだろうか

 

フランソワーズは微笑みつつも 少しだけこころが痛んだ。

 

 

 

 

****************************       Fin.      ***********************

 

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Last updated :  08,10,2010.                   back       /       index

 

 

 

***********    ひと言    *********

やっと終わりました。

・・・ 全然不人気なので 途中で下げてしまおうか、と思ったのですが、

フランちゃんに悪い気がして ・・・ 最後まで書きました。

もし 最後までお付き合いくださった方がいらしたら 

ありがとうございました <(_ _)>   旧ゼロって面白いんですよ〜〜

チャンスがあったら是非・・・