『 銀河より愛♪をこめて − (3) − 』
「 ・・・ 諾 ( うん ) とは言っていただけませんか ・・・ 」
辛うじて平静を保っているが タマル王子の声音はショックを隠せない。
防護服で彼と対座しているフランソワ−ズは 微笑んだままそっと頭を下げた。
「 姫君・・・ もう少し理由 ( わけ ) を伺っても宜しいでしょうか。
ミッションのため結婚できない、というのでは私には承服しかねます。 」
「 王子様。 ・・・ わたしからも伺ってもよろしいですか? 」
「 なんなりと。 」
タマル王子は椅子の肘掛をぐっと握り締め、まっすぐにフランソワ−ズを見つめている。
「 貴方は ・・・ コレは運命の出会い、とおっしゃいましたわね。
伝説に導かれて わたし達は出会い 伝説の通りに ・・・ なるべきだ、と。 」
「 そうです。 その伝説もお話しました。 」
「 では ・・・
貴方は伝説に沿って、その通りに あの・・・ わたしにプロポ−ズなさったのですか?
たまたま わたしが伝説のヒロインの条件に合っていたから・・・? 」
王宮の豪奢な貴賓室で タマル王子は椅子を鳴らせて立ち上がった。
「 姫君! とんでもない!
たしかに ・・・ 伝説に導かれるまま、姫君と私は運命の出会いをしました。
そして 私は一目で・・・貴女を愛しました。
人を愛するのに 理由が必要でしょうか。 愛とは緻密な理屈を求めますか。
そういう人もいるでしょう、 ・・・ でも。
私は 私の直感を信じています。
たとえ ・・・ 貴女が黒髪にグレ−の瞳をもっていても私は貴女を愛しました。 」
「 きっとそう仰ると思いましたわ。 」
「 フランソワ−ズ姫 ・・・ では ・・? 」
「 王子様。 貴方と同じ理由でわたしは ・・・ 貴方のプロポ−ズをお断りするのです。」
「 ・・・ 同じ理由? 」
「 はい。 王子様 ・・・
わたしには 愛するヒトがおります。」
「 姫君 ・・・ 」
すとん、と腰を落とした王子に フランソワ−ズは真顔で語りかけた。
「 そのひとは ・・・ なにも もっていません。
財産も 立派な血筋も 名誉も ・・・ 家族すら いません。
・・・ でも。 彼は 愛のこころを持っています。
そんな 彼をわたしは 誰よりも・・・ いえ、彼はわたしのただ一人の愛するひとなのです。」
・・・深い・深い吐息が タマル王子の口から零れた。
「 ・・・姫君には 愛が すべて、 なのですね・・・
正直にお話くださって ありがとう。
・・・ああ、 その果報者は どこの誰なのでしょうね。 」
「 王子様 ・・・ 貴方に相応しい方はきっとこの星にいらっしゃいますわ。 」
「 貴女のそのお言葉を 唯一の心の支えにして生きてゆきましょう。 」
ショックを隠しきれないタマル王子だったが、さすがに王族としての威厳を保ち
フランソワ−ズに丁寧に一礼した。
「 ・・・ これからわたし達はミッション遂行のため、この星を離れます。
ご助力をありがとうございました。 ファンタリオン王家とこの星のご繁栄をお祈りしていますわ。 」
「 ・・・ 姫君 ・・・・ そうですか。
・・・ では せめて城門までお見送りさせてください。 」
「 ありがとうございます。 」
フランソワ−ズは静かに立ち上がると タマル王子に手を差し出した。
「 お目にかかれて光栄でしたわ。 」
「 ・・・ 私もです。 」
きゅっと握り返してくれたタマル王子の手は ・・・ 大きくて温かかった。
− ・・・ ああ ・・・ 王子様 ・・・ どうか貴方に素敵な方が現れますように・・・
あなたのこのホンモノの温かさは ・・・ 相応しい方に
わたしは ・・・ このツクリモノの身体には 似合いません ・・・
陽の光のもと、王宮の庭園はさまざまな緑の輝きに満ち溢れていた。
従者を城門に待たせ、 王子とフランソワ−ズはゆっくりと木々の間の小道を辿って行く。
小鳥達がにぎやかに囀り、二人の上を飛び交っている。
「 ・・・ 可愛い小鳥さんたち・・・ 楽しそうですね。 」
「 彼らも 恋の季節なのですよ。 今年も沢山のつがいがまさに愛の巣を作るでしょう。 」
「 幸せの森ですね、ここは。 」
「 ・・・ ああ ・・・ 姫君 ・・・ いや・・・ フランソワ−ズ ・・・ !
貴女を帰したくない・・・! こんなに、こんなに愛しているのに!
お願いだ、この愛をまぼろしにしないでくれ。 」
肩を並べていたタマル王子は急に向き直ると がば・・・っとフランソワ−ズを抱き締めた。
「 あ ・・・ ! 王子様 ・・・ なにを・・・! 」
「 タマル、と呼んではくださらないのですか。 愛してます、フランソワ−ズ・・・!
伝説なんかじゃなくて 私は ・・・ 私は ・・・ 」
( ・・・ ジョ− --- ! )
「 王子様 ・・・ どうか、お願いです。
あなたは宿命の恋を信じているとおっしゃいましたわね・・・
わたしも わたしの愛する人と運命の出逢いをしました。 」
「 ・・・・ 運命の ・・・? 」
「 はい。 常識ではとても考えられない、とんでもない出逢いでしたけれど・・・
わたしは ・・・ 全ての負の運命を背負っても 彼とめぐり合えた事に感謝しています。 」
「 貴女にも 運命の人が ? 」
「 ・・・ はい。 わたし達の人生は 黒い運命に翻弄されてしまいましたが
この愛だけは わたし達の意志です、想いです。 誰にも邪魔させません。 」
「 姫君 ・・・ 」
タマル王子は腕を緩め、フランソワ−ズの顔をつくづくと眺めた。
「 貴女に それだけのことを言わせるのはいったいどんなオトコなのか・・・・
会いまみえてみたいものです。 」
さっと赤い旋風が緑の木々を揺らして吹き込んできた。
「 ジョ− ! 」
「 島村ジョ−といいます。 タマル殿下 」
ジョ−は加速を解くと フランソワ−ズの背後に静かに立った。
「 ・・・ 君は ・・・ 姫君の従者ではないか・・・ 」
「 王子様。 彼は、ジョ−は わたし達のリ−ダ−です。 」
「 ・・・ リ−ダ− ・・・ 」
フランソワ−ズを中に 二人の男が対峙している。
どちらも穏やかな表情だが ・・・ その視線はまさに火花を散らしぶつかりあった。
ジョ−も タマル王子も。
微動だにせず お互いを焼き尽くす視線は一歩も引かない。
「 ・・・ 王子様 わたしが今、彼を呼びました。 」
フランソワ−ズの言葉に 王子はふ・・・っと淡い笑みを浮かべた。
「 君、島村君といいましたね。
もし ・・・ たとえば私が姫君をこのまま城に閉じ込めて 二度と君達の ・・・
君の元に帰さない、と言ったらどうしますか。 」
「 ・・・ ぼくは ・・・ 」
ジョ−も静かに口を切った。
「 ぼくも、この城に留まります。 」
「 私が姫君を私の妃としても、ですか。 」
「 はい。 」
初めてジョ−は王子から視線をはずし、フランソワ−ズの顔を見つめた。
「 ぼくは いつまでも側にいる、と約束しました。
どのような状況になってもぼくは・・・ この生命 ( いのち ) が終わるその瞬間まで
彼女の側にいる、と誓ったのです。 」
彼の声音な淡々と静かだったけれど、真摯な響きが溢れていた。
「 ・・・ だからぼくは。 それはとても辛い ・・・ 生き地獄だろうけれども・・・
彼女が望んで ・・・ 貴方の手を選んだのなら ・・・
ぼくは 喜んでただ彼女の側に居て彼女を見護り続けるでしょう。 」
「 君は ・・・ 自分の愛する女性 ( ひと ) が 他の男のものになっても
平気なのですか。 」
「 ぼくが望むのは 彼女の幸せだけです。 」
ジョ−は静かにフランソワ−ズの肩に腕を回した。
フランソワ−ズはその腕にそっと手を重ねる。
「 王子様。 わたしも ・・・ わたしの唯一の願いはジョ−の、彼の幸せです。
そのためなら この命もかけますわ。 」
小鳥の鳴き声だけが 明るい森にこだまする。
稚い緑の香りを乗せて、風が三人の髪を揺らし通り過ぎる・・・
ほう・・・っと タマル王子の吐息が漏れた。
「 そうですか。
フランソワ−ズ姫、あなたがこの星に留まっていただけない本当の理由が
今やっと わかりました。 」
「 ・・・ タマル様。 」
「 貴女は運命の愛を信じ、私も宿命の恋を信じています。
・・・ ですから 今回は私は身を引きましょう。
まことに残念ですが、私は貴女に出会うのが 遅すぎたようですね。 」
「 ・・・・・・ 」
フランソワ−ズは微笑んで小さく会釈をした。
王子はそんな彼女を まだ惚れ惚れと見つめていたが
ようやく視線を引き剥がし、ジョ−に声をかけた。
「 きみ、私はファンタリオン王家の主として敬意をもって姫君を
お送りしたいのです。 ほんのしばらく・・・城門まで
二人だけの時を頂いても宜しいだろうか。 」
「 タマル殿下。 どうぞ・・・ 」
ジョ−はフランソワ−ズの手を取ると、タマル王子の側に導いた。
「 003、殿下に失礼の無いように・・・ ぼくは先にイシュメ−ルに戻っている。 」
「 はい、009。 わたしも直に戻ります。 」
「 では タマル殿下。 これにて失礼をいたします。 」
ジョ−は王子に軽く頭を下げ ・・・ 再び赤い旋風が二人の足元を吹きぬけた。
「 ・・・ では、姫君。 お別れまで ほんのしばし、ご一緒させてください。
私には 一生の思い出となるでしょう・・・ 」
「 王子様。 ・・・ 愛は たとえ叶わなくても まぼろしにはなりませんわ。
どんな結果になっても その熱い想いは ・・・ 思い出となってこころに残ります。 」
「 ・・・ ありがとう ・・・ 」
再び、王子とフランソワ−ズは肩を並べて城門へのなだらかな小道を辿り始めた。
「 ・・・あっ! 大変だわっ!! 」
「 え? ・・・なにか・・・ どうかなさいましたか。 」
「 来るわ! ・・・戦闘機、無人戦闘機だわ・・・ 凄い数・・・ゾアの大軍がまもなくやってくる! 」
フランソワ−ズはじっと空の一点を仰ぎ、悲鳴を上げた。
「 それは・・・・! 誰か。 大至急将軍を呼べ。 」
さっと振り返ると王子は 後方に控えている護衛に命じた。
「 殿下、ではわたしはこれで失礼をいたします。
わたし達も臨戦態勢に入らなければなりません。 」
「 ご一緒に闘いましょう・・・! 二度とゾアの侵略を許すことは出来ません。 」
「 はい。 仲間たちも ・・・ あっ・・・!! 危ないっ!! 」
フランソワ−ズの叫び声を掻き消して 一発の小型ミサイルが空を切って王宮に命中した。
ズガ−−−ン --- !!
続いてばらばらと超小型の焼夷弾が降り注いできた。
「 王子様っ! こちらへ! 」
「 あ・・・っ! フランソワ−ズッ --- 」
王子の手を引こうとした時、逆にフランソワ−ズはぐい、と力強く抱えこまれた。
タマル王子の香りがふわり、と全身を包んだ・・・と思ったと同時に
頭上から吹き飛ばされた樹々の枝や城の瓦礫がどっと降り注いだ。
幸いにも王宮への攻撃が続く気配はなかった。
「 ・・・ 王子様 ・・・? 大丈夫ですか? 」
もうもうと立ち昇っていた煙幕がすこし収まるのを待ってフランソワ−ズは
自分に覆いかぶさっている王子に声をかけた。
かなりの衝撃を受けたが どうやら自分自身に怪我はないようだ。
「 王子様 ・・・ タマルさま??? 」
つう・・・っと生暖かい液体がフランソワ−ズの頬に落ちた。
− ・・・ ? ・・・ 血?!
「 王子様っ!! しっかりしてっ!! 」
「 ・・・ う ・・・・ フ ・・・ ラン ・・・ ソワ−ズ ・・・
ご ・・・ 無事ですか ・・・ 」
「 はい、あなたがこうして庇ってくださいましたから。
王子様、何処が一番痛みますか? ああ・・・動かないで・・・! 」
瓦礫を掻き分け 王子の手がフランソワ−ズの頬を探り当てた。
「 ・・・ああ ・・・ 温かい・・・!
あなたを ・・・ 護れてよかった・・・
あの青年に ・・・ 胸を張ってあなたを・・・ 委ねることが ・・・ できます・・・ 」
「 ・・・ 王子様 ・・・ いえ・・・ タマル! しっかりしてっ! 」
「 ・・・ あ・・・ありがとう ・・・ やっと タマル と呼んでくださいましたね ・・・ 」
フランソワ−ズや自分の身体に掛かる重みが がくんと増したのを感じた。
「 ・・・ 王子様・・・? ・・・ タマル様? ・・・ タマルっ!! 」
自分達の上にかなりの量の瓦礫が折り重なっていて、いかにサイボ−グとはいえ
フランソワ−ズの力ではどうにもならない。
ようやっと手を動かし、探りあてた王子の身体は ・・・ 徐々にその温か味を失いだしていた。
( ジョ− ------- !!! )
フランソワ−ズは全身全霊をこめて ジョ−を呼んだ。
「 いかがかな? 王子サマの容態は・・・ 」
「 グレ−ト ・・・ 大丈夫。 イシュメ−ルに積んできた医療キットで
なんとか・・・。 」
グレ−トが病間となった王子の私室のドアをそっと開け、顔をのぞかせた。
「 ほう、 それはよかった・・・! 」
「 ええ。 まだ麻酔が効いているけれど。 ゾアは? あれ以上追っ手は来ないの? 」
「 斥候も兼ねていたらしい。 無人戦闘機は一掃したよ。 」
「 ・・・ しばらくは ・・・ 時間が稼げるわね。 」
王宮を狙ってきたゾア軍は イシュメ−ルからのサイボーグ達の迎撃でひとまずは壊滅した。
フランソワ−ズの悲鳴を聞き付けたジョ−が加速装置全開で飛び込んできて、
瓦礫の下から二人を引っ張り出した。
タマル王子はかなりの重傷だったが 幸いにも一命は取り留めた。
フランソワ−ズや王子が庇ってくれたのでほんの掠り傷を負っただけですんだのだ。
「 一応、全部叩いた。 しかしやはり根本を潰さなければ駄目だな。 」
「 そうね。 それがわたし達の使命ですものね。 」
「 左様。 ・・・ いつまでもココに寄り道はしておられんのだよ。 」
「 ・・・ ヴォルテックス ・・・ ね。 」
「 ああ。 その前にマドモアゼル・・・ 王子サマのご家来衆がえらく心配していてな。 」
「 まあ・・・ そうよね、当然だわ。 」
フランソワ−ズは昏々と眠り続ける王子にちらり、と視線を送った。
「 なんとか皆が納得する手段はないものかね。 このまま、去るわけには行くまい。 」
「 イシュメ−ルの修復も手を貸してもらったし。
王子様は ・・・ わたしを庇わなかったらこんな怪我はしないで済んだのですものね・・・ 」
「 それは ・・・ マドモアゼルが思い悩むコトではなかろう? 」
「 ・・・ でも ・・・。 なにか・・・ う〜ん・・・? 」
フランソワ−ズは王子の私室をぐるりと見回した。
豪華な調度が広い部屋を飾っていたが、ふと彼女は壁にかけられたタピストリ−に目をやった。
極彩色の糸で丹念に織られたそれは 例の伝説をテ−マにしているようだった。
緑溢れる大地を 赤い服の乙女が空から祝福している。
金髪が風に靡き、 青い瞳の穏やかな視線が眼下の地に注がれていた。
「 ・・・ そう・・・ そうだわ。 ね、グレ−ト。 ちょっと手を貸してくださる? 」
「 何かな。 」
「 あのね ・・・ 」
相変わらず色艶のいい禿頭と亜麻色の頭が寄り合った。
ひそひそ話が続く。
「 ・・・ へ? ・・・ああ、そりゃァ。 ・・・うん、そりゃいい!
しかし、マドモアゼル。 お主も ・・・ ノルなあ〜 」
「 あら、だって・・・・ 伝説には伝説で応じたほうが 皆納得するんじゃない? 」
「 なるほどな。 よし ・・・ 皆にも応援を頼もう。 」
「 お願いね。 」
「 かしこまりました、姫君〜♪ 」
大仰な身振りでお辞儀をすると グレ−トは静かにドアを閉めた。
半壊した王宮の大広間では家臣たちが不安な面持ちで集まっている。
タマル王子負傷の知らせは彼らにいち早く伝わっており、
命に別状無し、とすぐに続報があったとはいえ皆心配をしていた。
「 ・・・あ〜 ・・・ オッホン! ファンタリオン王家に仕える方々・・・ 」
従者姿のグレ−トが壇上に現れ、びん・・・と響く声で群臣たちに呼びかけた。
ざわついていた家臣らは ぴたり、と口を噤んだ。
「 フランソワ−ズ姫から皆の衆に お言葉を賜ります。 」
防護服姿のフランソワ−ズが 凛とした面持ちで進み出た。
赤い異国の服に 黄金 ( きん ) の髪、 蒼穹 ( そうきゅう ) の瞳・・・
伝説のヒロインそのものの彼女の姿に 並居る群臣たちは息を呑み言葉もでない。
彼らの目の前に・・・ まさにこの星の救世主が姿を見せたのだ。
「 ファンタリオン王家の忠実な家臣の皆様・・・ どうぞご安心ください。
悪しきゾアの一味はわたくしの勇敢な従者達が撃退いたしました。
そして・・・ わたくしを庇って負傷されたタマル殿下もお命に別状はありません。 」
ほう・・・っと安堵のどよめきが群臣らの間に広がった。
「 ただ・・・ ゾアは殿下に魔法をかけました。」
ふたたび、大広間はし・・・んと水を打ったように静まり返ってしまった。
「 今、殿下は眠っていらっしゃいます。
この眠りを、ゾアの呪いを解く方法をお教えしましょう。
これは 伝説の真の幸福な結びです。
すべての国民の中で16歳以上の殿下を慕う乙女達、タマル殿下にキスをして差し上げてください。
殿下をお目覚めに導いた方、その方がこの星の女王様になる方です。 」
おお ・・・ 今度は感嘆の声が上がる。
「 そして、ファンタリオン王家と この美しい星は 永遠に栄えるでしょう。 」
( マドモアゼル・・・ あんまりいい加減なこと、言わないほうが・・・
それに 大丈夫なのか、この王子サマ。 )
( 大丈夫・・・ 麻酔がちょっと効きすぎているだけよ。
そのうち 自然に目がさめるわ。 丁度その時キスした誰かがシンデレラになるの♪ )
( きみも結構悪ノリするんだねぇ・・・ )
( あら、ジョ−。 うふふふ・・・ 終りよければ全てよし、ってね。
なんだって 楽しいほうが ・・・ いいでしょう? )
( マドモアゼル〜〜〜 それは我輩が〆で言おうとした台詞であるよ〜〜 )
そんな会話を楽しんでいる素振りもみせずに、
フランソワ−ズ姫は従者・グレ−トを従え 並居る群臣の間を軽やかな足取りで
歩み去っていった。
「 ほら・・・ 王宮の前にあんなに沢山の女性達が・・・ねえ、見て? 」
イシュメ−ルの艦橋から フランソワ−ズは復旧中のお城を指差してジョ−を振り返った。
「 わぁ ・・・ あれって ・・・ 皆、花嫁志願者 ・・・? 」
「 そうみたいね〜 ・・・ふふふ・・・ 誰が王妃の座を射止めるのかしら。
ちょっと覗いてみたい気もするわ。 」
「 う〜ん ・・・ 何かさ。 なんにも知らずに眠ってる王子様が気の毒・・・みたいだな。 」
「 あ〜ら、ジョ−? ・・・ それなら、わたし、ココに残るほうがいいのかしら? 」
「 そ、そんなコトないよっ! 」
ジョ−は慌ててフランソワ−ズの腕をつかみ窓辺から引き寄せた。
「 ダメだよ。 ・・・あ・・・き、きみの能力 ( ちから ) はミッションに不可欠だし
それに・・・ そのぅ ・・・あ〜〜 」
「 ・・・ ジョ−? 正直に言って。
王子様の前とは ずいぶん違うんじゃない? 」
「 ・・・ ウ ・・・・ う〜 ・・・ ぼくの側にいてください ・・・ そのぅ・・・一生 ・・・ 」
「 はい♪ 」
フランソワ−ズは 伸び上がってジョ−の首に腕を絡め ・・・ こっそりキスをした。
眠れる王子を残し、イシュメ−ルはふわり・・・とその翼を広げ宙に飛び立った。
・・・ さようなら ・・・ 王子様 ・・・
緑したたる大地は次第に遠ざかっていった。
「 フラン? ・・・ フランソワ−ズ?
こんなところで転寝をしては ・・・ 風邪をひくよ ? 」
「 ・・・ え ・・・・ あ・・・ぁ・・・・ジョ− ・・・
イシュメ−ルは・・・? もう、ヴォルテックスに着いたの? 」
「 ? なに言ってるのかい? 夢でも見た? 」
「 ・・・ あ ・・・ ? 」
キャビンにしては柔らかな光がいっぱいだわ・・・とフランソワ−ズは目を細めた。
あれ。
防護服・・・じゃないわ。 普通の ・・・ お気に入りのワンピ−ス ・・・
え ・・・ ココって。
・・・ やだ、ウチのリビングじゃない ・・・ !
ばさり、と手の下から何かが落ちた。
「 ほら・・・ 本が落ちたよ。 」
ジョ−が身を屈めて色彩豊かな本を数冊拾い上げた。
『 眠れる森の美女 』 『 シンデレラ 』 『 ライオンと魔女 』
青い服を着たりりしい女の子の絵がついたアニメ本もあった。
「 はい。 イワンに読んであげてたのかい。 」
「 ・・・ イワン ・・・? え・・・ 帰ってきたの?? 」
「 ? おい、まだ寝ぼけてるの? イワンは ほら、ずっとそこに ・・・
ソファの横のク−ファンで寝てるよ? 」
「 え・・・ ああ。 ああ・・・ そう、そうだったわね。 」
「 ふふふ・・・ ほっぺたに。 本の跡がついてる。 」
「 やだ・・・! どこ? ・・・ ここ? 」
「 ブ−・・・ こ ・ こ ♪ 」
「 きゃ・・・・ 」
ジョ−は彼女を引き寄せると 桜いろの唇にキスを落とした。
「 ジョ−さん。 ソコは頬じゃないんですけど? 」
「 何かさ、楽しい夢をみていたの? きみ、眠りながら笑っていたよ。 」
「 そう・・・? そう、そうね。
う〜んと楽しい夢だったわ! あのね、わたし、王子様にプロポ−ズされたの♪ 」
「 また別の王子様かい? 今度は ファンタジ−の中で出逢ったの? 」
「 ・・・ え? 別の? ・・・ え? 」
「 お〜い。 もしもし? ちゃんと目が覚めてますか〜? 」
ジョ−は笑ってフランソワ−ズの肩を揺すった。
「 ・・・ ああ ・・・ああ、そうよね。 あの後、激しい闘いがあって ・・・ それで ・・・。
ファンタリオンに居たのは夢じゃないわよね。 」
ジョ−の腕の中で、 でもフランソワ−ズの視線はふらふらと宙を彷徨う。
「 地球に沢山のファンタジ−があるってことは・・・
ず〜っと昔にどこかの星からお姫様が来たことがあったのかもしれないよね。 」
ジョ−はソファに散らばる色とりどりの絵本にちらりと目をやった。
「 ・・・ ウン ・・・ どこかの星でお姫様に出逢った男の子も居たかもしれないし・・・
王子様は ・・・ この宇宙のどこかで待っているのよ。 」
はあ・・・っとフランソワ−ズは吐息を漏らす。
「 あの・・・さ。 ファンタリオン星の事は もうオシマイ。
あの王子サマだって ・・・ 今頃は素敵な王妃様と幸せにやってるさ。 」
「 ・・・ ええ、そうね。 そうよね。
えっへん♪ なにせ 伝説の乙女が堂々と予言したのですものね。 」
「 だからさ。 <めでたし・めでたし> で 終り。 」
「 ハッピ−・エンドよ。 <そして 皆幸せに暮らしました > 」
フランソワ−ズはうっとりと目を閉じた。
たった今、夢に蘇っていたファンタリオンでの日々に想いを馳せる。
物語みたいな世界が 現実だったまさに夢みたいな日々・・・
「 ・・・ ふ〜ん ・・・ 」
ジョ−はちょっと悔しそうな・羨ましそうな顔をした。
あの星々の彼方での出来事はどうもジョ−にはあまりよい思い出・・・
とはいえないらしい。
「 じゃあ・・・ 今晩は二人で同じ夢を見ようよ ・・・・ ね? 」
「 ・・・ ジョ−ったら ・・・・ 」
フランソワ−ズの手元から ぱさり、と本が落ちた。
床に開いたペ−ジには 濃紫のチュニックをつけたりりしい王子が描かれている。
・・・ あ ・・・? タマル王子さま ・・・?
ちょっと懐かしい笑顔に向けた彼女の視線はたちまちジョ−に引き戻されてしまった。
「 ・・・ ジョ− ・・・ 昼間から ・・・ あ ・・・! 」
「 ちょっとだけ・・・ 今晩のリハ−サルさ ・・・ 」
「 リハ−サルって ・・・ や・・だ・・・ 」
穏やかな昼下がり、爽やかな風がギルモア邸のリビングを吹き抜ける。
梅雨明けも もう間近である。
フレンチ・ドアは開け放したまま、フランソワ−ズはそっとベッドに戻った。
海風と背後の山を抜けてくる涼風に恵まれ、昼間でもギルモア邸はあまりエアコンを必要としない。
ことに夜は 爽やかな風が邸中を吹き抜ける。
− カサリ ・・・
夏掛けに包まっているジョ−の隣に 静かに身を横たえた。
馴染んだ彼の香に 身体も心もゆったりと委ね、フランソワ−ズはうっとりと目を閉じた。
す・・・っとジョ−の指が頬に触れた。
「 ・・・ あ ・・・? 」
「 ・・・ なにをしていたの。 」
指と一緒にジョ−は フランソワ−ズのうなじに唇を寄せた。
「 あ・・・ごめんなさい、起こしちゃった? 」
よく寝ているとばかり思っていたのに ・・・
フランソワ−ズは 身体の向きをかえジョ−の胸に顔を埋めた。
「 ううん ・・・ ちょっと前に目が覚めてた ・・・きみ、いないんだもの。
ねえ、なにしてたの。 」
額に、頬に。 首筋に うなじに ・・・
彼は点々と 熱い刻印を落としてゆく。
「 ・・・・ あ ・・・・ ぁ ・・・・ 」
「 ・・・ ねえ、おしえて。 ぼくを置いて ひとりでなにしてたの。 」
ジョ−の指が フランソワ−ズの唇をなぞる。
軽く 羽のように ・・・ 密やかに 触れて離して ・・・
「 教えて ・・・ 」
「 空を ・・・ 星をみていたの。 とっても 綺麗よ 」
「 星 ・・・ ? どうして。 」
「 ・・・ なんとなく。 」
「 やだな。 そんな綺麗な瞳でうっとりと星なんか見ないでほしいな。 」
「 なあに・・・ お星さまにヤキモチ妬いてるの、ジョ−? 」
くすり、とフランソワ−ズが笑う。
「 う ・・・・ うん、そうさ。 きみがその瞳を向けるもの、 きみがそのこころを傾けるもの・・・
全てにぼくは嫉妬するよ。 許さない・・・! 」
「 ジョ−ったら ・・・ 淋しがり屋サンのヤキモチ妬き屋さん♪ 」
「 ・・・ だって・・・ きみが悪いんだ。 そんなに綺麗で そんなに愛らしくて・・・
ねえ、お願いだよ、こっちを向いて ・・・ ぼくを見て。 」
「 ふふふ ・・・ わかったわ。 」
フランソワ−ズはジョ−の指に軽く口付けをする。
− だって。 ・・・ 忘れられないもの。
フランソワ−ズはこっそりと呟いた。
・・・ そうよ。
この空の彼方に。 それは美しい星があって。
そこには 素敵な王子様がいて。
わたしは 羽みたいに軽々と王子様と踊っていたの。
そうしてね
王子様は わたしにプロポ−ズしたのよ・・・!
青い瞳は 天井を、夜空を越えて遥か星々の彼方を眺めている。
「 だめだ、だめだよ! 」
ジョ−は ぱっと身を起こすと真上からフランソワ−ズを見つめた。
「 星を見ることは ・・・ ぼくが禁じる。 夜には ・・・ ぼくだけを見て! 」
「 ・・・ ジョ−ったら ・・・ 」
「 うん、こうやって ・・・ 見えなくしちゃう。
ね? ・・・・ ぼくが見えるのは きみだけ。 きみが見えるのも ぼくだけ・・・ 」
「 ・・・ きゃ ・・・ あ ・・・・ 」
ぱさり、とジョ−はそのまま彼女に覆いかぶさると キスの雨を降らし始めた。
ねえ?
夢に見るって ・・・ とても強くて深い 想い があるからだと思うの。
そうよ・・・
ねえ、タマル王子さま。 貴方は ちゃんといるのよね・・・
そう ・・・ あの星空の どこかに。
ジョ−はもう忘れようっていうけど ・・・
それにね・・・
ジョ−、あなたもなかなか素敵だったわ
どんなことがあっても ずっと側にいるって すごく嬉しかった ・・・
・・・・ でも、ね。
この星々の彼方に わたしを想ってくれた人がいるんだってコトは
・・・ なんだか とびきり美味しい砂糖菓子を隠している気分なの。
ちょっと素敵な わたしだけの 思い出♪
ちょっと切ない あなたにはナイショの お ・ も ・ い ♪
おやすみなさい ジョ− ・・・ よい夢を。
そして
・・・ おやすみなさい、タマル王子さま。 幸せな夢を ・・・ 今宵もまた ・・・・
フランソワ−ズから 王子様へ・・・
そうね、銀河より愛をこめて ・・・・ ♪
******* Fin. *******
Last updated:
06,20,2006. back / index
*** ひと言 ***
はあ・・・ やっと終わりました〜〜〜
結局、こちらの世界?ではタマラ様は存在しません???
J &
F が ベルばら みたくなってしまった(^_^;)
お姫様なフランちゃんが書けて楽しかったです。
ま・・・御笑い小噺〜と読み流してくださいませ。<(_
_)>