『  やさしいひと  ― (1) ― 』 

 

 

 

 

*****  お断り *****

この作品は 2005年5月に発行したオフ本 『 Fermata 』 に掲載されたものを

加筆・訂正したものです。 

 

 

 

 

 

・・・あとすこし、あとすこし。 このまま・・・・・・プリンス、その位置にいてね・・・!

 

フランソワ−ズはこころの中で念じつつ ぱっとパートナーの青年の腕に飛び込みポ−ズを決めた。

彼は彼女をふわり、と掬いあげ次の瞬間、頭上に高々とリフトをした。

同時に華やかな音楽がぷつり、と消えふたりの荒い息遣いだけがスタジオに響いた。

「 オッケ−。 悪くないわ。 ヨハン、あなたが踊ると海賊の首領も気品があるわ、結構ですよ。 

 フランソワーズ、よく彼について行ったわね。 でもまだまだよ。 頑張りなさい。 」

芸術監督のマダムがぱん、と手を叩き満足気に二人を見やった。

青年はフランソワーズを静かに降ろすと 金髪をゆらして優雅に会釈を返した。

「 ありがとうございます。 ・・・あの、マドモアゼル・フランソワ−ズ? 」

「 ・・・ はい?  ・・・ え?? 」

ポ−ズを解くと同僚達に プリンス と呼ばれているその青年は いきなりフランソワ−ズの前に片膝をついた。

そして ―

 

「 どうぞ 僕と結婚してください! 」

 

真剣な雄叫びに スタジオ中がフリーズした。

勿論、当の亜麻色の髪の乙女も碧い瞳をますます大きく見開いて呆然と目の前の青年を見つめているのだった。

 

 

 

 

知り合ったのはまだ春の息吹も感じられない季節、それもおよそ普通の人間が足を踏み入れることが

ない山岳地帯だった。

N.B.G.の残党が欧州の過激組織を煽っている、との情報を得て早急に都合がつくメンバーが集合し

とりあえず現場へとドルフィン号で飛んだ。

季節は厳冬、現地は大雪 ― しかし 武器庫とたいして変わらないお粗末な基地を見つけ出し、

完全に壊滅させるのに大して時間はかからなかった。

撤収前の最終確認に廻ったとき。  ―  彼と彼女とは出会ったのだ。

そう ・・・ それはどんな状況であれ確かに A boy meets a girl だった。

所謂 運命の出会い、というヤツではある。

かつて。 太平洋の孤島で ジョーが経験した瞬間を 同じく・・・!

< プリンス > は彼の理想の < プリンセス > と出会ってしまったのだ。

 

「 ・・・あ? 鳥 ・・・ いえ、なにか動物がいるわ…? 」

「 この緯度では鳥はいないよ。 季節も季節だしね。 野ウサギとかの小動物だろう? 」

「 ううん、ううん。 だって・・・聞こえるもの、声? 歌? ・・・ああ? もしかして・・・ 」

「 ・・・ おい! 003、何処へ行くんだ? 気をつけろ、雪庇を踏み抜くな。 」

ジョ−の声などてんで耳に入らずに フランソワ−ズは雪の中を駆け出した。

 

 ― ジョ−。 こっちよ! 来て!

 ― 了解。

 ― あっ・・・!

 ― 003?!  おい、どうした?! なにがあったんだ?

 

「 003!いったいなにが… あ? 」

瞬時の加速を解いたジョ−の前には 岩陰に向かって屈みこんでいる003の姿が現れた。

彼女はそこに横たわっている人物を懸命に岩の間から引っ張り出そうとしていた。

「 009。 手を貸してちょうだい。 この方、ここに足が嵌っているのよ。

 ・・・大丈夫ですか?  しっかりして! 今、岩をどけますからね! 」

腕の中でかすかにうめき声をあげた人物に 003は懸命に声を掛けた。

「 O.K. ・・・今、この岩をずらすから。 きみが彼を抱えだしてくれ。 ・・・ いいかい? 」

「 ええ。 わかったわ、 合図して。  ・・・ はい!」

 

    ズ ・・・・ズズズ ・・・

 

ジョーが巨大な岩を難無く動かすと ばらばらと積もっていた雪が落ちてきた。

「 きゃ 冷たい・・  えい・・・! あ・・・脚がやっと岩の間から外れたわ! 」

「 よし ・・・ ああ、こっちに洞窟があるな、とりあえず彼をここに運ぼう。 」

「 ええ、お願い。 あ・・・ちょっと待って! わたしのマフラーを敷くから。 」

フランソワーズはしゅるり、とマフラーを外すと 洞窟のなるべく乾いた場所に広げた。

二人が助け出したのはまだ二十歳を少し越えたか、と思われるヨーロッパ系の青年だった。

端正な横顔には擦り傷が無数に走り、金髪が纏わりつく額には打撲の痕も見え隠れしている。

「 大丈夫かしら。 ・・・ああ擦り傷や切り傷が沢山・・・ 」

「 うん ・・・ でも呼吸も脈もしかっりしているから。 とりあえず命に別状はなさそうだ。 」

「 よかった・・・! あ、キレイな雪を取って来るわ。 打撲は冷やした方がいいわね。 」

「 ああ、ぼくが行くよ。 きみはここにいたまえ。 少しは温かいだろう? 」

「 ジョー ・・・ ありがとう。 」

ぽん、とフランソワーズの頭に軽く手を当て、ジョーは洞窟を出ようとした ― その時 ・・・

「 ・・・ う ・・・ う・・・ん ・・・ あ・・・僕は ・・・ ? 」

「 あ、気がつきましたか? よかったわ・・・ もう大丈夫ですよ。 」

岩の間から救出した青年は ゆっくりと目を開いた。

「 ・・・ う・・・ あ。 あなた方は ・・・?  あいつらとは違う・・・? 」

「 はい。 ぼくらはあいつらを追って来た者です。 どうぞご安心ください。

 あなたは ヤツらに監禁されていたのですね? 」

「 はい、僕は突然に拉致されて・・・ なにがなんだかわからないまま、閉じ込められていました。  

 そうですか・・・。 あいつらが<敵>と言っていたのはあなた方のことだったのですね。 」

彼を拉致した組織についてなにか知っているか、とのジョ−の問いに青年は首を横に振った。

「 全然。 なにしろ、街を歩いていて突然車に引っ張り込まれて・・・薬臭い布で顔を覆われてしまって。

 気が付いたら見たこともない部屋に拘束されていました。 」

「 ・・・ そうですか。  あなたは何処で拉致されたのですか。 」

「 パリです。 すこしばかり人気のない場所を歩いていたのですが。 

 帰りが遅くなって近道をしたばっかりに とんだ目にあってしまいました。 」

フランソワーズが は・・・・っと息を呑んだ。 顔色が変わっている。

ジョーはさり気無く彼女を後ろ手に隠し、青年と話を続けた。

「 そうですか。 お怪我は? いや、今の脱出の時の傷以外で、ですが。 」

「 いえ、やつらは僕に危害を加えることはありませんでした。 しかしね・・・

 あなた方の侵入を知ると、あいつらはさっさと逃げて行きましたよ。

 監禁されたまま僕はあっさり置いてきぼりです。」

   ― ふう〜 ・・・ 

大きく溜息をつくと 青年はあたりときょろきょろと見回した。

「 爆発が始まって、僕はなんとか地上まで這い出したのですが・・・

 最後の衝撃で吹っ飛んでしまったようです。 ・・・ ああ、岩にぶつからなくてよかった・・・ 」

「 ごめんなさい。 基地を破壊する前に取り残されている人がいないかどうか確認したのですが・・・

 彼らとは無関係のあなたを巻き込んでしまいましたわ。 」

「 いや、そんな・・・。 あなた方のせいじゃないですよ。 こうして助けて頂きましたし。」

「 もうすぐぼくらの仲間が迎えに来ます。お国までお送りします、ミスタ−え ・・・と? 」

どうやら なんとか人心地ついた様子の青年に ジョ−はほっとして問いかけた。

「 ここは・・・中央ヨ−ロッパに近いようですね。 僕の故国はもっと南なんです。 」

「 もっと南? 南欧ですか、それとももっと・・・中近東 アフリカ ・・・? 

応急手当をしていたフランソワ−ズは改めてじっと青年の顔を見つめた。

「 あの。 失礼ですけど、あなたは ヨハン・ハインリヒ・ク−ルゲさん ・・・ではありませんか? 」

「 ・・・え、ええ。 そうですが・・・ どうして僕の名前を? 」

「 ああ、やっぱり! わたし、あなたのステ−ジを拝見しています。オペラ座のガラ公演でも

 何回か拝見しましたわ。 ふふふ・・・実は密かにファンなんです。 

 あのね、ジョー。 この方はパリでも人気の若手バレエ・ダンサーでいらっしゃるの。 」

ちょっぴり頬を染めたフランソワーズを 青年  ― いや、クールゲ氏は不思議そうに見つめている。

「 あなたは、 あなた方はいったいどういう方々なのですか? 

 どこかの国の特殊組織とか・・・公安関係の方なのでしょうか。 

 その服装や銃器にしても・・・ 」

「 ぼく達はあなたを監禁していた組織を壊滅することを目的としているものです。

 仔細はお話できませんけれど、決して怪しいものではありません、ご安心ください。

 ああ、フランソワーズは・・・彼女もダンサ−なんですよ。 舞台に立つこともあります。 

 ぼくは彼女の一番のファンですよ。 」

「 まあ・・・ ジョ−ったら。 」

ぽん、と肩に手を置かれたフランソワ−ズはみるみる頬を紅潮させた。

青年は、そんな二人を微笑みつつ眺めていたが、ちょっとためらった後、ゆっくりと話始めた。

「 命の恩人のあなた方には本当のことを話しておいたほうがよさそうですね。

 僕は確かにバレエ・ダンサ−ですが・・・ 」

青年は地中海沿いのとある小国の王族の一人だという。

「 ・・・え! そうなんですか??  王子さま・・・ですか。 」

「 そんなに驚かないでください。王国といっても歴史以外なにもない貧乏国です。 

 カ−レ−スを招致できるほどの場所もないですし有名なカジノもありません。

 その上、僕は三男坊の冷や飯くいですから・・・ なんにも持っていませんし期待もしていません。

 でも、それだけ自由もあるわけで・・・ それで自分の力を試したくてフランスにバレエ留学していたのですが
                              突然拉致されてしまったのです。」

「 有名人の子弟を誘拐してその国や地域に支配の手を伸ばすのはやつらの常套手段ですよ。

 あなたのお国にやつらの魔手が伸びなくてよかった。 」

「 あなた方は命の恩人です、本当にありがとうございました。 」

「 ムッシュ・クールゲ。 まずはこの脚をきちんと治さないといけませんわ。

 ダンサーにとって最大の財産じゃありませんか。 」

「 ええ・・・ 折れちまったかなァ ・・・ 参ったな、どうも。 」

青年は やっと脚のことを思い出したのだろう、そろり、と脚を動かしてみてたちまち顔を顰めた。

「 ・・・ 痛ェ・・・・! 」

「 ああ、無理に動かしてはダメです。 」

「 あの・・・ わたし、名医を知っています。 ちょっと回り道になるけど、是非。 

 どこの医者よりも的確な診断と治療をしてくれます。  お勧めしますわ。 」

「 ・・・ 名医? この脚を ・・・ 元通りにしてもらえるのですか? 」

「 ええ。  多分 ・・・ 骨折ではないと思いますわ。 」

「 彼女のカンは当りますよ。 」

ジョーはにっこりとフランソワーズを見返った。

 

≪ ・・・ <見た> んだね。 ≫

≪ ええ・・・つい、ね。 大丈夫、骨と腱は無事よ。 外傷と打撲、あとは脚の軽い捻挫ね。 ≫

≪ よかった。  ・・・なあ。 彼のファンって本当かい。 初耳だぞ? ≫

≪ あら。 ヨハンを知らないパリジェンヌなんていないわ。 

 ふふふ〜〜 天性の貴公子って 当然だったのね。 王子サマか♪ ふふふ・・・ ≫

≪ ・・・ やけに機嫌がいいじゃないか。 ≫

≪ あら。 なによ、その言い方。 

≪ ・・・ 別に。 ≫

≪ もう〜〜 なんなのよ、ジョーってば ≫

 

「 あのう・・・ それではお言葉に甘えさせて下さい。 」

青年は青い瞳をぱちぱちさせていたが きっぱりと返事をした。

「 あ・・・それは よかった。 それではご案内します。  

 おっと、申し遅れました、 ぼくは ジョー・島村 と言います。 どうぞ宜しく。 」

「 わたしは フランソワーズ。 フランソワーズ・アルヌールです。 ムッシュウ・クールゲ。

 あ・・・ プリンス、とお呼びした方がいいのでしょうか。 」

「 どちらも不要ですよ、 マドモアゼル・フランソワーズ? 」

青年はフランソワーズの手を取ると す・・・っと口付けをした。

「 ・・・ あら。 では なんと? 」

「 ぼくは ヨハン。 それで結構です。 マドモアゼル。 ムッシュウ・島村。  」

青年、 いや ヨハンはにっこり笑うとジョーに向かって握手を求め手を差し出した。

「 まあ。 それでしたら、ヨハン。 わたしはフランソワーズ、 彼は ・・・ 」

「 ジョー です。 ・・・ ヨハン。 」

「 ありがとう! 僕達は友人ですね。 ははは・・・ これはヤツらに感謝すべきかもしれません。 

 アイツらのおかげで僕はこんなに素敵な友人達と出会えましよ。 」

「 そうですわね、ヨハン。 」

雪が残る厳寒の洞窟に 明るい声が響いた。

ミッションは終末になって意外な展開をみせ、ジョー達はヨハン青年を日本に案内した。

 

 

ドルフィン号に目を白黒させているヨハンを乗せ、彼らは急ぎ帰国した。

ギルモア博士の診断は フランソワーズの<診たて>どおり、 外傷と軽い捻挫だけだった。

外傷がだいたい癒えるとヨハン青年は 真っ先にフランソワーズが通う稽古場に顔を出した。

そして ― ダンサーとしての活動に専念し始めた。

稽古場で 彼 ヨハン・H・クールゲ は まさに水を得た魚、となった・・・!

 

 

「 ねえねえ、ジョー、聞いて。 ヨハンったらね、ウチのバレエ団のオーディションにトップで合格よ!

 まあえね、彼の実力なら当然だけど。 」

「 ジョー〜〜 聞いて! 今日もクラスでね、ヨハンったら マダムの集中攻撃だったの。 

 でもね、最後に < ヨハン。 悪くないわ。 > ですって♪ すご〜い・・・! 

 これってね、最高の褒め言葉なの〜〜 」

「 あのね、聞いてよ、ジョー。 ヨハンね〜 次の公演で早速ソロをもらったのよ! 

 凄いわあ〜〜 ふふふ・・・すごく楽しみ♪ 」

 

・・・ 毎日のレッスンから帰宅すると フランソワーズは楽しげに話しだす。

頬を染め 熱心に語る彼女に ジョーは相変わらず黙って聞いていたが。

 

   ・・・ ああ なんてきみは今、 キレイなんだ・・・!

   そんな瞳で カレのことを見ているのかい。  そんな笑顔を カレに見せているのかな。

   ・・・ そんなに ・・・ カレがお気に入りかい・・・?

 

「 それは よかったね。 」

静かに相槌をうつジョーの胸の内は ・・・ どうやら彼女には通じていないらしかった。

「 それでね、お店とかお買い物の方法とか・・・いろいろ教えてあげたのよ。 」

「 へえ? 彼って東京に住むんだ? 」

「 そうなの! 一応、故国のご家族に報告してね、お許しがでたのですって。 」

「 ふうん・・・ 王子サマは気楽でいいな。 リッチなマンション住まいかい。 なんとかヒルズとかでさ。 」

「 ジョー? どうしてそんな風に言うの。 ヨハンってとってもいい人でしょう?

 全然 そんな・・・王子サマとか・・・気取ったとこなんかないし。 」

「 それは・・・そうだけど。 でもやっぱりぼく達とは違う世界のヒトだろ。 」

「 あら・・・でもね、彼のお家は普通の小さなマンションよ? この研究所の方がよっぽど広いわ。 

 学生が住むようなところ。 お隣さんも皆、普通のヒト達みたいだったわ。 」

「 ・・・ フランソワーズ。 彼の家に行ったんだ。 」

「 ええ。 キッチン用品とかいろいろ・・・ 家財道具とかな〜んにもないでしょ。 

 もっともヨハンは最低限のものでいいんだ、って言ってるけど。 」

「 ・・・ふうん ・・・ 」

「 バレエ団のお友達もお引越し、手伝ってあげてね。 もう彼はすぐに人気モノなの♪ 」

「 ・・・ ふうん ・・・ 」

「 いつか、ね。 彼と組んで踊れたらなあ〜って思っているコ、沢山いるわ。 

 勿論ね、見かけだけじゃないのよ。 ヨハンのテクニックは本物だわ〜 」

「 ・・・ フランソワーズ、きみも? 」

「 え。 なにが。 」

「 だから、さ。  きみも彼と、ヨハンと組んで踊ってみたいのかい。 」

「 え・・・ ええ。 ジョーには隠すこと、ないわよね。 わたし、踊りたいわ〜〜 ヨハンと!

 えへへへ・・・でも、これはナイショよ、 わたしなんかまだまだ下っ端だから・・・ 」

「 そうか。 ・・・ 夢が叶うといいね。 」

「 う〜ん ・・・ 叶わないから 夢、なのかも。  あ、そうそう、ジョーの好きな苺、買ってきたのよ。

 ほら、真っ赤で美味しそうでしょ。 今晩のデザートね♪ 」

フランソワーズはぱたぱたとキッチンに行ってしまった。

 

    こんなに嬉しそうなきみって ・・・ 初めて見るかもしれない ・・・

    ・・・ カレと踊るのが・・・ きみの夢、なのかい ・・・

 

楽しげに彼女が口ずさむメロデイーを聞きつつ、ジョーの気分はますます曇ってゆくのだった。

 

 

 

 

「 ヨハン・・・! まあまあ あなた・・・本当に無事だったのね・・・! 」

彫刻のある瀟洒なドアをあけ、中年の女性が飛び込んできた。

金髪をゆったりと結い上げ、優美なスーツ姿だったがカーペットを蹴立て、小走りにやってきた。

そして、部屋の中央に立つ青年にまっすぐ突進すると 固く抱き締めた。

「 ああ・・・ 本当によかったわ・・・! 」

「 姉上。 ご心配をおかけいたしました。 

青年も 女性を優しく抱き返し頬にキスを返している。

「 心配なんてものではありませんよ! もう・・・生きた心地がしなかったわ。 」

「 申し訳ありません。 あの・・・ 今回のことは父上だけに・・・ 」

「 ええ、ええ。 わかっています。 お父様とわたくしとウチの主人しか知りません。 安心なさい。 」

「 ああ、よかった・・・! こんなコトで国に連れ戻されてはたまらないですから! 」

「 もう・・・ 本当に困ったひとねえ・・・ 」

青年と女性は仲良く腕を組んで豪華なソファに並んで腰をおろした。

「 ・・・ それで 今度はトウキョウで踊るの? 」

「 はい。 ご報告しました通り、これは!と思うカンパニー ( バレエ団のこと ) を見つけましたので。 」

「 そう。 ・・・もう何も言わないわ。 ヨハン、あなたは好きなだけ踊ったらいいわ。 」

小さな溜息をもらし、女性は青年の手をぽんぽんと軽く叩いた。

「 ありがとうございます! ・・・子供の頃から姉上はいつだって僕の味方をしてくださいましたね。 」

「 ・・・ふふふ・・・ わたくしはね、亡きお母様譲りのこの髪と瞳の <ちいさなヨハン> には勝てないの。 」

「 マリア姉さま ・・・ いえ、姉上。 」

「 姉さま、でいいのよ。  ― それで ・・・ そのお嬢さんと出逢ったのね。 」

「 はい! 」

「 単刀直入に聞きますよ。  その方を心から愛している? 」

「 はい、勿論。 」

「 どんな時、どんな状況でも 彼女を護り共に生きぬくことができるかしら。 」

「 はい、姉上。 ・・・僕は彼女と共にただのダンサーとして生きてゆきたいのです。 」

「 そう・・・  あとはあなたの努力次第ね。 彼女の幸せを一番に考えるのよ、よくって? 」

「 はい! マリア姉さま。 」

「 健闘を祈っているわ。  お父様にはわたくしからご報告しておくわね。 」

「 ありがとうございます! あ・・・ 義兄上にもどうぞよろしく・・・ 」

「 はいはい。 クリスマスくらいには一度、帰っていらっしゃいね。 < みんな > も待ってますよ。 」

「 ・・・・・・・ 」

黙って微笑む弟を しょうがないコ・・・と苦笑して姉は、もう一度かるく抱擁し頬にキスをした。

「 ・・・ ヨハン。 いつもあなたの幸せを祈ってますよ。 」

「 姉上。 僕も ・・・ 」

 

都心の一角、瀟洒な在日大使館の一室で姉弟の穏やかな一時が流れていた。

 

 

 

 

「 お国にお帰りにならなくてもいいのですか? 国王さまもご心配なさっていらっしゃるでしょう?  」

「 し〜。 その言葉は禁句にしてください。 僕はただのヨハン・ク−ルゲ、一介のダンサ−です。 」

毎日自分達と一緒のバ−に掴まりレッスンに汗をながす青年に フランソワ−ズはそっと訊ねた。

「 丁度、一番上の姉が来日したので、連絡を頼みました。」

「 でも ・・・ 」

取りあえず義務は果たしたし・・・と青年は屈託無く笑う。

「 僕にはやらなくちゃならないコトが山ほどありますよ。 ここのカンパニ−(バレエ団のこと)で

 踊らせてもらえるチャンスをしっかりモノにしなければ。 」

「 ヨハン、あなたは本物のダンサ−ね。   ねえ、知ってる?あなたのアダナ。

 ここの皆が、うふふ・・・ 特に女の子たちがあなたのことを何て呼んでるか。 」

「 ? さあ・・・ 日本語ってなかなか難しいですし。 う〜ん ・・・  デクノボウとか? 」

「 あのね。 プリンス、よ 」

「 ・・・ まいったな。 」

「 いいじゃない? 楽しいわ。 みんな ヨハン、あなたのこと、好きだし。」

「 それで、あなたは? 」

「 ・・・ え ? 」

「 おっと、僕の番だ。 」

 

  Next !  Boys 〜! 

 

マダムの声がひびき、男性ダンサーたちが すた・・・っ!とセンターに進み出た。

 

「 〜〜 で、最後にトゥール・ザンレール。 わかった? それじゃ はい、どうぞ。 」

優雅にピアノが響き始め ダンサー達が踊りだす。

 

 ― ヨハン ・・・・・・

 

軽々と宙を舞う金髪の青年を フランソワ−ズはたった今までとは全然ちがった面持ちで見つめていた。

 

プリンス。 プリンス・チャ−ミング。 白馬に乗った王子様。

 

いつか自分を迎えに来てくれる王子様を 夢見ない女の子なんてこの世にはいないだろう。

・・・でも。

わたしにはもう。 そんな資格は、ない。  <普通の> 女の子ではない自分には・・・

いつもなら 踊っている間は全てを  ― 自分を縛り付けている運命の鎖を ― 忘れていられた。

戦闘用の兵器・視聴覚強化型サイボ−グ・プロトタイプ003 そんな<レッテル>は

きれいさっぱりと剥がれ落ち、ただの踊ることが大好きな・女の子、フランソワ−ズ・アルヌ−ルに

戻ることができたのだ。

でも 今は。

 

 ― ・・・ あなたも?  ヨハン、あなたも踊っている間だけ<普通の男の子>なの?

 

第一線でバリバリに活躍している男性ダンサー達に混じって 

ホンモノの王子サマは 堂々と爽やかに <王子> を踊っていた。

 

 

 

「 え〜と・・・鍵・・・部屋の鍵は・・? お・・・とっと・・・! 」

「 きゃ・・・ 気をつけて〜 ヨハン〜〜 その紙袋はわたしが持つわ? 」

「 いえ・・・ これは重いから。 フライパンとかミルクパンが入っていて・・・ ああ、あった! 」

ごそごそとズボンのポケットを探り、ヨハンはやっと部屋の鍵を引っ張り出した。

「 わ・・・ 袋が破れそうよ? 鍵、貸してくださる、わたしが開けるわ。 」

「 ありがとう〜〜 助かった・・・ おっと・・・! 」

ヨハンは大きな紙袋を3つも抱え、フランソワーズの後についてよろよろしつつ彼の部屋に入った。

「 キッチンはこちらかしら。 ・・・ あ あの。 開けてもいいですか。 」

「 え〜 ? なんですか? ・・・ ああ、勿論、どこでも勝手にやってください。 」

「 ヨハン、食器は? ・・・ これだけ?? 」

「 えっと フライパンとミルク・パンはここに入れて・・・と。 え? 食器ですか。

 マグ・カップと大皿とスープ皿があれば充分でしょう? あと・・・ナイフ、フォーク、スプーン、と。 」

ヨハンのマンションは典型的な独身者用で キッチンはガス台もひとつでシンクも狭い。

しかし、それで充分な人間が住む部屋なのだろう。

書棚よりも狭い食器入れには 皿とマグカップがひとつづつ、ちんまりと収まっていた。

フランソワーズは荷物の片付けを手伝いつつ、とうとうクスクス笑い始めた。

「 ふふふ・・・ オトコノコのお部屋って皆似たり寄ったりね。 必要なものしかおいてないの。

 その方がお掃除とか楽でいいのかもしれないわね。 」

「 ・・・ フランソワーズ。 」

冷蔵庫に食料を突っ込んでいたヨハンが ふ・・・っと手を止め、顔をあげた。

「 はい?  なあに。 」

「 ・・・ オトコノコの部屋って。 それは誰の・・・? 」

「 え・・・ 」

「 あの、失礼は承知で聞きます。 島村氏 とはどういうご関係なのですか? 

 彼は貴女の フィアンセ か 恋人 なのですか。 」

青い瞳がまっすぐにフランソワーズを見つめている。 

「 あ・・・ あの・・・ い、いいえ。 フィアンセなどではありませんわ。 彼は ・・・ わたしの仲間です。 」

「 仲間? 」

「 はい。 仲間なんです。 わたし達、この世界にたった9人しかいない、<仲間>なのです。 」

「 フランソワーズ。 なにか込み入った事情があるのなら 僕はこれ以上は聞きません。

 無理に話す必要はありませんよ? 僕は ただ・・・貴女と島村氏のことが知りたかっただけです。 」

「 ヨハン。 ・・・どうぞ聞いてください。 わたし達がなぜ、あんな・・・あんな場所であなたと出会ったのか。

 わたしの話でお判りになります。  」

「 ・・・ あの、雪山での事故のことですか。 」

「 そうです。 わたし達・・・ジョーとわたしと仲間達の <仕事> についてもお話します。 」

「 ・・・ それじゃ、こんなキッチンでなく あちらへ。 狭いけど椅子くらいありますから。 」

「 あ・・・ ありがとうございます。 よかったらカフェでも ・・・あ。 カップが一つだけ、でしたわね。 」

「 僕は スープ皿で、飲みますから。 」

「 ・・・まあ・・・! 」

二人は見つめあい、思わず吹き出してしまった。

結局、 歯磨き用のカップを持ってきてともかく二人はコーヒーを淹れた。

 

  ― そして

 

フランソワーズはゆっくりと語り始めた。

「 ヨハン。 わたしもアナタと似ています。 」

「 え? 似ている・・・? 」

「 ええ。 わたしもパリの街角を歩いていて ― 兄を迎えに急いでいたので裏通りを近道しました。

 そこで突如 拉致されてしまったのです  ・・・・ そして悪夢が始まりました。 」

「 ・・・・・・・ 」

 

こーヒーがすっかり冷え切ってしまった頃、 フランソワーズの話はやっと終った。

 

「 ― わたし、そんな女です。 いえ、そんな存在なんです。

 ごめんなさい、貴方と慣れなれしくしては失礼ですよね。 」

フランソワーズはハンカチで目尻を拭った。 そして すっと立ち上がり膝を折ってお辞儀をした。

「 お邪魔しました。 帰りますね ヨハン。 」

「 フランソワーズ! ・・・ ああ・・・! 」

ヨハンは椅子から飛び立つと 彼女の手をしっかりと握った。

「 ・・・ ますます貴女が愛しくなりました! ああ、やはり貴女は思った通りの女性 ( ひと )だ!

 僕は・・・ 僕の判断は間違っていなかった・・・! 」

「 ・・・ ヨハン・・・・? 」

「 貴女が、どんな運命を背負っていても。 僕はソレも全て、丸ごと全部 ・・・ 愛しています!

 そして しっかりと前を見つめて生きている貴女を尊敬しますよ。 」

彼はそのまま 彼女の手にこころを込めて口付けをした。

「 どうぞ 今まで通りに付き合ってください。 

 僕は ヨハン・クールゲ。 貴女は フランソワーズ・アルヌール。  それでいいじゃないですか。 」

「 ヨハン ・・・ 貴方は 本当にホンモノのプリンスなのね。 」

ヨハンは彼女の言葉には応えず、満面の笑みを見せただけだった。

「 次の school performance ( 発表会のようなもの ) で 貴女と組めたらなあ。 」

「 え・・・!? そんな・・・わたし。 まだ下級生だし・・・ 」

「 何事も経験ですよ? う〜ん、イメージを変えて 『 海賊 』 なんかどう? 」

「 ・・・ ますます夢みたいよ。 」

「 それなら実現に向かって・・・! 乾杯〜 」

「 ええ?? ・・・ふふふ・・・乾杯・・・ 」

カチン・・・とマグカップと歯磨き用のコップを合わせ、二人は冷え切ったコーヒーで乾杯をした。

 

 

 

季節も日常の生活にも 穏やかな時が流れるようになったある日、

フランソワ−ズはお茶の時間にヨハンが研究所を訪ねたがっているがいいか、と博士に尋ねた。

「 ほう?・・・あの、青年か。 足の具合はその後どうだね、レッスンで支障はないかな。」

「 ええ、博士の治療のお陰で、もう全然元気ですわ。  

 わたし・・・今度、彼と パ・ド・ドウを踊るんです。 公演じゃないけど・・・  」

「 それはよかったなあ。 お前達、二人とも頑張っているといことじゃな。 」

「 はい。 それもあって・・・ヨハンはちゃんと御礼に来たいんですって。」

「 礼などいらぬがな。 お前のパートナーじゃもの、是非お招きしなさい。 」

「 はい、ありがとうございます。 じゃあ、今度の休日にでもお茶にご招待しますね。 」

「 我輩もちょいと興味があるな。 是非その<プリンス>のご尊顔を拝したいですな。 」

研究所に顔を出していたグレートが茶々を入れる。

「 ふふふ・・・ 本当に普通のヒトなのよ。 」

「 いやいや。 我らが姫君のお眼鏡に叶ったヤツなら 十分<特別>のはず。

 お茶の時間に 遅刻する不埒などこかの坊やとは段違いですな。 」

「 まあ、グレ−トったら。 ・・・ジョ−の遅刻にはもう慣れてしまったわ。 」

まろやかなお茶の香りとくすくす笑いと。 優しい時間に皆がすっかり寛いでいた。

 

 

後片付けも終わり、みながそれぞれの仕事に戻った頃、ようやくジョ−が玄関のドアを開けた。

「 あら・・・ お帰りなさい、ジョ−。 お茶の用意してあるわよ。 」

「 ごめん、遅くなって。 ・・・ただいま。 」

「 スコ−ンはもう一度レンジで暖め直した方が美味しいと思うわ。 サンドイッチは冷蔵庫よ。 

 ジョーの好きなハムと胡瓜の、ちゃんと取ってあるわ、安心して。 」

「 うん、ごめん・・・ ありがとう、フラン。 」

「 なるべく早く食べちゃってね? お夕食が入らなくなるわよ。」

「 ・・・ フランソワ−ズ? 」

「 なあに。 」

「 いや・・・その。 楽しそうだね、このごろ ・・・ 」

「 え、そう? 」

「 いつもミッションから帰るとちょっと元気ないだろ、でも今回は ・・・ 」

「 そうかしら。 ・・・そうかも知れないわ。 いつもは破壊のイヤな後味しか残らないけど、

 今度はイイコトがあったでしょう、だからよかったな、と素直に思えるみたい。 」

「 ・・・ そんなにアイツのこと ・・・ 」

「 ・・・ え? 」

「 ごめん、なんでもないんだ。」

そう?と小首を傾げ、フランソワ−ズはヨハンをお茶に招いたことをジョ−に報告した。

「 ・・・ そうなんだ。 うん、きみが良ければ、きみの望みなら・・・ぼくに依存はないよ。 うん・・・ 」

「 ジョ−もちゃんと居てね。 彼は皆さんに御礼を言いたいからって言っているのよ。

 ・・・ あ・・・ あのね。 わたし・・・ 彼にわたし達のこと・・・話してしまったの。 」

「 ぼく達のこと・・・? もしや サイボーグだっていうことを、かい。 」

「 ええ・・・ だって あんな状況で出逢ったし。 いろいろと・・・その・・・ 」

「 ・・・フランソワーズ? それは・・・軽率だと思うな。 」

「 ごめんなさい。 でもヨハンは < 気にしていない > って。 」

「 気にしていない?? 」

「 ええ。 彼にとってそんなに重要なことではないみたい・・・ 」

「 ふうん ・・・ まあ、彼も特別な地位を持つヒトだから理解があるのだろうけど。

 フラン、今後は気をつけたまえ。 」

「 ・・・ ごめんなさい。 はい、気をつけます。 ねえ、それでお茶会の件だけど、お願い、ジョーも

 一緒に居てくださる? 」

「 ・・・うん、なるべく間に合うように帰ってくるよ。 ちょっと、遠出しなくちゃならないけど。 」

「 遠出? お仕事なの。 ・・・ まさか ・・・ 」

なんとなく歯切れの悪いジョ−の口調に、フランソワ−ズははっとした。

 

   ― ・・・まさか。 なにかのミッション ? また、どこかで争いの種が ・・・

 

「 そんな顔しないで? まだ調査段階なんだ。 この前の残り火ってヤツかな。とにかく行って見る。 」

「 わたしも行くわ。 調査なら、なおさらわたしの能力( ちから )は不可欠のはずよ。 」

「 いや。 前回でヤツらも警戒してるから、今度は一人の方がいいんだ。 徹底的に極秘行動だからね。 」

ジョ−は普段と変わらない穏やかな表情だったが きっぱりとした口調で言った。

「 大丈夫、心配はいらないよ。 戦闘じゃないし。 ふふふ・・・お茶の時間に間に合うよう帰る。」

「 ・・・ そう。 本当に気をつけてね。 」

「 うん、わかったよ。 」

こくん、と素直に頷くとジョ−はすたすたと階段を上っていった。

 

  ― ジョ− ・・・ !

 

追い縋ってその広い背中に縋り付きたい・・・そう願いながらもフランソワ−ズは一歩も踏み出せなかった。

 

 

 

「 ・・・ あ、ヨハン、次の信号で左に折れて。  海岸通りへ出てちょうだい。」

「 了解〜。 」

初めての道に神経を使いながらも ヨハンはどこか楽しげにみえた。

彼の巧みなハンドルさばきが 上質の走りを尚一層滑らかなものにしている。

くしゃくしゃとかき上げた金髪が 白皙の横顔に淡い陰を落とす。

 

 − ほんとうに・・・ <プリンス>ねえ ・・・

 

「 ・・・え、なに? なにか言いましたか。」

「 え!いいえ、いいえ! なんにも。 」

急に尋ねられ、フランソワ−ズは真っ赤になって首をふる。

「 そう? 」

「 あ・・・ あの、ね。 この前 ・・・ びっくりしちゃったわ。」

「 この前? ・・・ああ、リハーサルの時のことですか。 」

「 ええ、そう。 ・・・ あなたって ほんとうに素敵なユ−モアのセンスがあるのね。

 皆も 一瞬本気かと思ってドキドキしちゃった・・・って笑ってたわ。 」

「 フランソワ−ズ。 」

「 ・・・ ヨハン ・・・? 」

黙って急に車を路肩に寄せた彼を フランソワ−ズはいぶかしげにながめた。

「 僕はいつだって真剣ですよ。 」

「 ・・・ ヨハン、それって   ・・・ あ 」

すっと伸びてきた長い腕が フランソワ−ズの肩をしっかりと抱き寄せる。

整ったヨハンの顔が 思いもよらない近さにあった。

稽古場での彼の腕とは比べ物にならない力強さに フランソワ−ズは強張った表情で身を捩った。

「 やめて・・・ 悪フザケは・・・ よして。 プリンスらしくないわ。 」

「 ・・・ pardon, Mademoiselle ・・・… 」

ヨハンはきっちりと真正面に向き直ると 再び滑らかに車を発進させた。

 

「 もっともっと上手くなりたい・・・! マダムが仰ったでしょう、<一流のダンサーを目指しなさい!>って。

 僕は まだまだやらなくちゃならないコトが山ほどあります! 」

ヨハンは普段と同じ声で でも充分に情熱を込めて話しだした。

「 ヨハン。 あなたならきっと出来るわ!  ・・・ 『 海賊 』 、足を引っ張ってしまってごめんなさい・・・

 わたしも! 頑張ります! 」

フランソワーズは気を悪くさせたか・・・と心配していたが、彼の屈託のない様子にほっとしていた。

「 足を引っ張るなんて、とんでもない! 君は上手だよ、ただ、パ・ド・ドゥの経験が足りないだけです。

 トウキョウではあまり踊るチャンスがなかった? 」

「 ・・・ あ・・・あのね。 わたし・・・ ブランクが ― 長いブランクがあったから・・・ その・・・ 」

「 ・・・! ごめん。 無神経なことを言ってしまいましたね。 」

俯いて口篭った彼女の様子に 彼はすぐに <事情> を察した。

「 いいえ・・・・いいの。 だって本当にことですもの。 せっかくのチャンスですからね、わたし必死よ?

 もう〜〜 皆から いいわね〜〜っ 羨ましいわ〜って言われちゃってるし。 」

「 ・・・ そんなに <よく> ないですよ。 僕にも問題は山ほど・・・! 」

「 え・・・ どこが? だってあなたのヴァリエーションも マダムのオッケーがでたでしょう? 」

「 そうですけど。 でも 覚えてますか、アダージオのリハーサルの時。 マダムの言葉。 」

「 ・・・ え ・・・ ああ、海賊の首領でも気品があるわね、って褒めてくださったわね。 」

「 う〜〜ん・・・ 褒めたのかなあ。 だって、海賊なんですよ? 王子 じゃなくて。

 そりゃ・・・ 問題です、大いに! 」

「 そう・・・かしら。 ヨハンの踊りには貴方にしかない雰囲気があって素敵だわ。 」

「 雰囲気、かあ・・・そう、僕にはどうも 気迫のある雰囲気が欠けているのです。 」

「 そんなこと。 貴方のやさしさが自然に滲みでてくるのからじゃないかしら。

 ・・・ 皆、 貴方のこと、好きだと思うわ。 優しいプリンス・・・ 」

「 前にも同じこと、聞いたけど。 それで 貴女は。 フランソワーズ? 」

「 ・・・ え ・・・? 」

「 あ・・・ この道を曲がっていいのですか? 私道みたいだけど・・・ 」

「 ええ。 このまま登ってください。 あ、ちょっと待ってね。 」

フランソワーズは窓から手を出し、ギルモア邸のゲート・セキュイリティ・システムのセンサーに

合図を送った。

「 はい、これで大丈夫。 あとは・・・イッキに行って! 」

「 O.K.!  坂道も僕を応援してくれてるみたいだ・・・! よし、行くぞ〜〜〜! 」

「 ・・・???? 」

目をぱちくりさせているフランを乗せ、王子サマはアクセルを力いっぱい踏んだ・・・!

 

 

 

 

「 お願いがあります。 お嬢さんを僕にくださいっ!」

 

ギルモア邸のリビングに またまた例の真剣な雄叫びが響いた。

 

<プリンス>としてのにこやかな挨拶のあと、突如の彼の咆哮にギルモア邸の住人は皆固まってしまった。

桜も名残の花びらをちらほらと含んだ風に レ−スのカ−テンだけがさざめき揺れている。

博士は目を白黒させ、グレ−トのティ−カップは宙に止まり、張大人は砂糖の壷を取り落としそうになった。

当のフランソワーズは 碧い瞳を張り裂けんばかりに見開き ・・・ やはり固まっていた。

 

 

 

Last updated :  06.16.2009.                      index              /             next

 

 

 ********* 途中ですが 

 

 え〜冒頭にも記しましたが  このお話はオフ本掲載作品の加筆訂正版です。

一応平ゼロ設定らしい・・・  ( なにせ4年も前のモノですから〜(^^;))) 詳しい経緯とか忘れちゃったです★

文体も微妙に違うし  )  のですが、読み返してみるとこりゃ〜新ゼロ・ジョー君かも?(+_+) 

もし 本をお持ちでしたら比べて頂くのも一興かと (((^_^;) 

そして あと一回 続きます〜 どうぞお宜しければお付き合いくださいませ <(_ _)>

激多忙週間ゆえ・・・新しいお話を書く時間がなくて・・・ 申し訳ありません〜〜〜 (;_;)