『 ウチの庭には ― (2) ― 』
たったっ たっ ・・・・ !
まだ午後も早い時間に 大きな荷物をもった女性が駆けている。
き・・・っと前方を見つめ、思いつめた表情だ。
輝く金髪はひっつめ気味に結ばれ、ジャケットからスカーフがはみ出しているが
そんなことにはかまっちゃらんない! といった雰囲気が漂う。
はッ はっ はっ! あ〜〜〜 急がなくちゃ〜〜〜
まさに髪振り乱し ほほを紅潮させ 息を弾ませ ― 彼女は走る!
デートに遅れるのかなあ〜〜 ・・・ なんて憶測は 誰も抱かなかった。
― なぜなら 彼女は両手にぱんぱんのレジ袋を下げていたから。
そして 袋からはネギやらセロリやら牛蒡やら が顔をだし・・・
ずっしり重そうな中には ミカンやらジャガイモが見える。
背中のバッグからは コドモ煎餅の大袋が覗いていた。
はっ はっ はっ ・・・ あ すいません〜〜〜〜
彼女は ひたすら前を見つめ それでも周囲へ気を使いつつ ― 走る!
「 ― すいませんっ !! 急いでますぅ〜〜
コドモたちが待っていますので! 」
「 ・・・ ! 」
美人だなあ〜〜〜 と見惚れていた男性諸氏は 慌てて道を開けてくれた。
30分のバスに乗れたら! オヤツに間に合うわ〜〜〜
が がんばる!
ううう 博士〜〜 どうしてわたしにも 加速装置、搭載してくれなかったの??
― 今度 お願いしてみるわ! 今からだって遅くないもの!
だだだだだ〜〜〜〜
駅前ロータリーのバス停めざし 彼女は駅のコンコースを駆け抜けていった。
「 ゆっくりしてきていいよ? 」
「 そうじゃよ、 久し振りじゃて、友達と積るハナシもあるだろう ・・・ 」
「 そうだね〜〜 ほら みちよちゃんだっけ?
お茶とかしておいでよ。 ぼく? ぜ〜〜んぜん平気さ。
任せてくれよ。 」
「 そうそう。 お前はお前の 仕事 に邁進しなさい。 」
< 家族 > は そういって彼女を送りだしてくれた。
「 え・・・ いいの? 」
「 当然だよ。 きみはきみだけの生活を楽しむべきさ。 」
「 うわあ〜〜 それじゃ ちょっとだけ お茶 してこようかな? 」
「 いいよ いいよぉ ちょっとだけ、じゃなくて ゆっくり どうぞ。
チビの世話と晩御飯は 任せてくれたまえ。 」
彼女の夫は どん、 と胸を叩いた。
「 え ・・・ 大丈夫? 」
「 あ〜〜 ぼくの調理能力、しらないな〜〜〜 安心しろよ、チビ達向けのものだって
・・・ あ〜〜〜 離乳食パックを使って できる さ! 」
「 あは あの ね。 チビ達 ほとんどなんでも食べられるわ。 」
「 へ??? 」
「 あんまり大人向けのモノはダメだけど・・・ 普通のゴハンで平気よ。 」
「 そ そうか〜〜 それなら どん! と任せて ゆっくりしておいで。 」
「 ありがと! ジョー〜〜〜 わたし レッスン、頑張ってきます〜〜 」
「 うん うん ・・・ あ〜〜 すぴか〜〜 一緒に遊ぼうよ〜〜 すばる も〜〜」
ジョーは 腰を浮かせて、チビ達のほうへ駆けていった。
「 ・・・ 博士? 」
「 ほい なんじゃ? 」
「 あの・・・キッチンの棚に レトルト食品も離乳食パックも ありますから 」
「 ほっほ〜〜 了解。 まあ 安心していっておいで 」
博士は ばちっとウィンクしてくれた。
「 ありがとうございます♪ 」
― そして ある朝。
フランソワーズは 意気揚々とレッスンに向かったのだ が。
その日の午後 彼女は血相を変え?大荷物を抱え駆け戻ってきたのだった・・・
さて。 時計の針は少々逆戻りさせよう。
イッテキマス と ジョーの愛妻は魅惑の笑顔で 出かけていった。
コドモたちはいつもより少し早めの朝ご飯 ( お母さん製 ) を
機嫌よく平らげていた。
「 いってらっしゃ〜〜い 頑張れよ〜〜〜 」
彼も最高の笑顔で ぶんぶん手を振り、送りだした。
「 ほ〜ら すぴか すばる? お母さんに いってらっしゃい しよう? 」
ジョーは両手に抱いた我が子たちに語りかけた。
「 おか〜〜〜しゃ〜〜〜〜ん ばいばあ〜〜〜〜い 」
娘はすぐに 伸びあがりわさわさ・・・小さな手を振った。
「 ・・・ おか しゃん ・・・ どこ?? どこぉ〜〜〜 」
息子は不安そうにきょときょとしている。
「 ほら あそこだよ? 坂を降りてゆくだろう? 」
父は子供たちに示してやった。
「 おか〜しゃん ・・・ いない ・・・ 」
「 ああ ちょっとお出かけさ。 お父さんと一緒にお留守番してような〜 」
「 おか〜しゃん ・・・おか〜〜しゃ〜〜ん うっく うっく 」
すばるのセピアの瞳に涙が盛り上がってきた。
「 お〜〜っと? どうしたのかな〜〜 すばるは??
ほ〜ら お父さんがいるだろう? 一緒にお母さんの帰りを待とうね 」
「 うん! おと〜しゃん あそぼ〜〜〜 」
娘はもうご機嫌ちゃんで ジョーの肩によじ登ろうとむちゃむちゃしている。
「 ほいほい ・・・ 肩車するかい? 」
「 うん♪ かたぐゆまあ〜〜〜〜 」
「 うっく うっく ・・・ おか〜しゃ〜〜ん ・・ 」
「 ほら すばるも 肩車するかい? 順番でな〜〜 」
「 やだっ! おか〜しゃん おか〜〜しゃん ・・・ うっく 」
「 おと〜しゃん かたぐゆま〜〜〜 」
「 ほいほい それじゃ お部屋にもどって遊ぼうか? 」
「 かたぐゆま〜〜 」
「 おか〜しゃん ・・・ うっく 」
「 ほいほい わかった わかった。 ともかくウチに入ろうな〜 」
「 あたち おそと! 」
すぴかは 断固主張する。
「 僕ぅ・・・ おか〜しゃん ・・・ 」
すばるは めそめそしている。
「 了解 了解。 そうだな〜 ちょっと早めのお昼ご飯、作ろうかな?
お父さんもお腹減ったんだ〜〜〜 さあ ご〜はんだ ごはん〜〜だ♪ 」
ジョーは ごちゃごちゃ動く双子を よいせっと抱き留めると 悠々・・・玄関に戻っていった。
ふふふ〜〜〜 なんて嵩張って 温かいんだ♪
ぼくの 家族。 ぼくの娘と息子だよ〜〜〜〜
ぼくの、 ぼくとフランの子供たちなんだ!
・・・ ああ なんて重たくって柔らかくて 可愛いんだ!
さあて お父さんの料理の腕前をしっかり味わわせてやるかな〜
彼は余裕しゃくしゃく〜 に〜んまりしつつ家に戻ったのだが。
「 おと〜しゃん! かたぐゆま! 」
「 ・・・ おか〜しゃん いない ・・・ 」
リビングに入っても コドモたちは父親にまとわりついたままだ。
「 ほいほい さあ〜〜 ご飯作るからね〜 ちょっと二人で遊んでいてくれるかな 」
「 やだ〜〜〜 かたぐゆまあ〜〜〜 」
「 おか〜しゃん おか〜〜しゃん〜〜〜 うっく 」
「 すぴか〜〜 ちょっと待っててくれるかな? ご飯が出来たら一緒に
遊ぼうね〜〜〜 」
ジョーは娘を抱き上げ ちゅ。 そして 息子も抱き上げ ちゅ・・・と思ったら。
「 かたぐゆま〜〜〜〜 」
すぴかは ぴたっ! 父親に抱き付き離れない。
「 う〜〜 すぴか〜〜 すばるの番だから。 かわりばんこだよ
「 やっ! かたぐゆま〜〜〜 」
「 僕も 僕も 僕もお〜〜 だっこお〜〜〜 」
すばるも父親の脚にくっついている。
「 すばる? ほらちょっと待ってくれるかな〜〜 そこにひっつかれると
お父さん 歩けないよ〜〜
」
「 やだ〜〜〜 僕もぉ 僕もぉ〜〜〜 」
がっちり両手両足で すばるは父の脚に張り付いているのだ。
「 う ・・・ なあ 二人とも〜〜 お父さん ご飯つくりたいだけど・・・
ちょっと離れてほしいなア 」
「「 やだっ!!! 」」
彼は 息子と娘の連合軍に強烈に NO! を喰らってしまった。
う〜〜 こ これだな・・・
フランの言ってた < 連携攻撃 > って!
う〜〜 さすが ぼくの子供たちだなあ
だけど このままじゃな〜〜 う〜〜〜ん??
さすがの009も 両足を拘束され窮地に立たされてしまった。
・・・ 虎穴に入らずんば虎子を得ず だ!
「 すぴか〜〜 すばる〜〜〜 さあ お父さんとこにおいで 」
ジョーは彼の娘と息子に差し伸べた。
「 わあ〜〜〜い かたぐゆまぁ〜〜〜 」
「 えへ・・・ おと〜しゃ〜〜ん 」
すぴかもすばるも ご機嫌ちゃんだ ― すぴかは念願の?肩車をしてもらい
おんぶヒモで 父のアタマに繰り付けられている。
すばるは 父の胸に抱かれこれは抱っこヒモで固定されている。
「 はいはい ・・・ すぴか ちょっとじっとしててくれよ〜〜
すばる? 火 使うからね、 そのままだよ 」
「 ウン♪ おと〜しゃん〜〜 」
「 おと〜しゃ〜〜ん わい♪ 」
そう 後ろと前に我が子を括りつけ 昼食の準備に精をだしていた。
う〜〜〜 ・・・ さ さいぼーぐ でよかった・・・!
ジョーは心の底から博士に感謝しつつ 前後のひっつく大荷物を抱えなおした。
「 えっと・・・・ 昼は大人はサンドイッチ だな〜〜 いいハムがあるんだ。
美味そう〜〜 チビたちは スクランブル・エッグとかポテトサラダだな 」
冷蔵庫の中から卵やハムを取りだし 野菜室を吟味する。
「 う〜ん 最初にサンドイッチ作っておいてっと ・・・ チビたちのゴハンはその
後にするか〜 えっと パンは ・・・ああ 買い置きあるもんな よ〜し 」
彼はジャガイモを洗い ポテトサラダ作製にとりかかる。
「 ふんふん〜〜〜 ポテトサラダはチビたち用にコショウを控えて・・・っと。
大人用にはわさび いれよっと♪ そうだ! フランのオヤツにも取っておこうっと。
そしてたら オムレツ・サンドもいいよなあ〜〜
あら ジョー オムレツ上手になったのね〜〜 おいしわあ〜〜 なあんて♪ 」
愛妻の笑顔を思い浮かべれば ふんふんふ〜〜ん♪ハナウタの一つも零れてくる。
「 あっは♪ ぼくって天性の イクメン かもな〜〜〜
すぴか〜〜 すばる〜〜〜 ほら お父さんの料理の腕前、見てくれくよ 」
ちょいちょい・・と前後にくっついてる子供たちをゆらしたみた。
「 おと〜しゃん あっち いく〜〜〜 」
ジョーの耳が ぐいっと引っ張られた。
「 ! い いたいよ〜〜〜 すぴか〜〜〜 離してくれ 〜 」
「 ? いたい の おと〜しゃん 、
「 ああ イタイ いたい〜〜 耳を離しておくれ 」
「 みみ ?? 」
「 ! すぴかが! いま つまんでるモノさ! 」
「 これえ?? 」
ちっちゃな指が さらにジョーの耳を摘みあげる。
「 わっ やめろ やめてく〜〜れ 耳 とれちゃうよぉ〜〜〜 」
いかに最強の 009 だって ちっちゃな指できゅいっと耳をつままれたら
― イタイのである。
「 これぇ?? こっち? 」
今度反対側の耳が攻撃され始めた。
「 !!! こらあ〜〜 やめてくれ〜 マジで取れちゃうぜ〜〜〜 」
ジョーは慌ててガスの火を止め アタマに張り付いている小悪魔に手を伸ばした。
「 すぴか。 じっとしてて 」
「 う? じ〜〜〜 」
彼はおんぶヒモを解き ぴたっと動きを止め固まっている娘を肩から下ろした。
「 ? やっ!!! や〜〜〜〜〜っ かたぐゆまあ〜〜〜 」
「 すぴか。 耳 引っぱったら痛いんだよ? ひっぱったらだめ。 いいかい。 」
「 いい。 ひっぱったらだめ
」
「 そうだよ。 ちゃんとお父さんの肩でじっとしていられる? できるかな〜 」
「 できるっ! 」
「 ようし それなら ・・・ ほらもう一回 肩車〜 」
「 わ〜〜い! 」
「 おと〜しゃん おしっこ! 」
だっこヒモの中で すばるがもぞもぞし始めた。
彼は 父親の調理をじ〜〜〜〜〜っと熱心に見つめていたのであるが・・・
「 え?? あ ・・・ じゃあ 降りようね ちょっとまって・・・ 」
「 う〜〜〜〜 もれちゃう 僕ぅ〜〜〜 」
「 わ! 待て まて〜〜〜 ・・・・っと ほい トイレ行っておいで 」
「 うん! 」
「 ・・・ アタシも〜〜 」
すぴかももじもじし始めた。
「 え! じゃあ すばるの後にね。 あ ・・・ 大丈夫? 」
「 う 〜〜〜 わかんない ・・・ 」
「 !! それじゃ 二階のトイレ 行こうね! ちょっと我慢して〜〜 」
ジョーは娘を抱き上げると 階段を二段とびでぶっとんでいった。
ガンガンガン ! チャンチキ チャンチキ〜〜
鍋の蓋 が鳴っている。 フライ返しとお玉がクロスしている。
「 きゃ〜〜〜 」
「 えへへ〜〜〜 」
「 そこで遊んでいてくれるかな〜〜〜 」
「「 うん!! 」」
包丁を使うジョーの足元で すぴか と すばる はご機嫌ちゃんだ。
すぴか は鍋のフタを叩き すばるはフライ返しとお玉を打ち合っている。
「 そっか〜〜〜 エライね〜〜〜 お父さん 頑張って二人のお昼ご飯
作ってるからね〜 もうすぐできるからね〜〜 」
「 おひるごはん? 」
「 そうだよ〜〜 すぴか 皆で食べようね 」
「 わあ〜い おひる おひるぅ〜〜 」
「 おひるごはん・・・? 」
すばるがお玉を持ったまま じっと見上げてきた。
「 そうだよ すばる〜〜 お昼ご飯。 一緒に食べようね 」
「 みんな で ごはん ? 」
「 そうだね〜〜 すぴかとおじいちゃまとおとうさんと。 一緒だよ 」
「 ・・・ おか〜しゃん は ・・・? 」
「 え あ〜 お母さんはもうちょっと後だな〜 今ごろレッスン中だ 」
「 おか〜しゃん ・・・ いない ・・・ おか〜しゃん〜〜〜 」
ご機嫌ちゃんだったすばる、涙声になってきた。
「 あちゃ・・・ ほら〜〜もうすぐごはんだよ〜〜〜
ご〜はんだ ごはん〜〜〜だ♪ 」
「 きゃ〜〜 ごはん ごはん〜〜〜 」
「 ご はん ・・ 」
ガンガン 〜〜 チャンチキ ちゃんちゃん 〜〜〜
キッチンは大合奏の場と化した。
ひえ・・・ ま 泣きわめくよりいっか・・・
今のうちに仕上げだあ〜〜〜
「 ほいほい 賑やかじゃなああ〜〜 さあ 父さんは忙しそうじゃて
こっちにおいで。 ワシと一緒に遊ぼうよ。 」
博士が にこにこ ・・・ キッチンに来てくれた。
「 あ 博士〜〜 煩くてスイマセン 」
「 いやいや 放っておいてすまんなあ ・・・ あとはワシが相手をしておるから
昼食の方を頼むよ え〜と ・・・菜箸とチビさん達の箸を借りるぞ 」
「 はい これでいいですか? 」
「 おお ありがとう。 さあ 二人とも〜〜リビングにおいで、遊ぼうなあ 」
「 わ〜〜〜〜 おじ〜ちゃまあ〜〜〜 」
「 おじ〜〜ちゃ・・・ 」
「 お願いします 博士〜 」
「 さあ 美味しいご飯ができるまで一緒に遊ぼうな。 さあ おいで。 」
「「 うん!! 」」
二人は 鍋の蓋もお玉を放りだしころころ博士に纏わりついていった。
「 おじ〜ちゃまあ〜〜 なにするのぉ? 」
「 うん そうじゃな。 ほら これはなにかな〜 」
「 おはし! 」
「 ・・・ おは しぃ〜〜
」
「 そうじゃね〜 ではこれで・・・こうしてつまんでごらん? 」
ほ〜ら・・・と 博士は菜箸で器用に新聞をめくってみせた。
「 う わ〜〜 おじ〜ちゃま すご〜〜い〜〜〜 」
「 ・・・・ すご ・・・ 」
「 すごくなんかないさ。 ちゃんと持てばすぐにできる。 やってみよう
できるかな〜? 」
「 あたし! できる! 」
すぴかはすぐに自分の赤い箸を握った。
「 う〜〜〜ん?? うん?? 」
「 ほら すぴか。 こうやってもってごらん? ほ〜ら 箸が動くじゃろ? 」
博士は 孫娘の握り箸を矯正してやった。
「 うにゅう??? むにゅ〜〜〜 ・・・ あ! ぱっくん ぱっくん〜〜〜 」
「 おお 上手じゃな〜〜 そうじゃよ その調子〜〜 」
「 わきゃ〜〜〜 ぱっくん ぱっくん〜〜 わにさんのおくち〜〜 ぱっくん!」
手先が動くすぴかは すぐに箸を扱えるようになった。
「 新聞紙 つまめるかな? 」
「 う・・・んと ・・・ う〜〜 ぱ〜〜〜っくん・・・・っ!
あ できたあ〜〜〜〜 」
小さな赤い箸が 新聞紙を摘み上げた。
「 おお 上手い 上手い〜〜 うん? すばるはどうかな? 」
「 ・・・ 僕 ・・・ うっく ・・・・ わにさん おくち、むん。 」
「 ウン? どうれ・・・ 」
すばるは青い箸を握ったまま 顔を赤くしふんふん鼻息を荒くしている。
「 ほれ そんなに力いっぱい持たなくてもいいんじゃよ。
すばる・・・そうじゃな、虫さんをつかむみたいにもってごらん? 」
「 むしさん? だんご虫さん ? 」
「 そうじゃよ。 こうして こうして ・・・ そっともって・・・ 」
「 こ う? あ・・・! 」
チカラを抜きすぎ 青い箸はから〜んと落ちた。
「 あ・・・ うっく ・・・ 」
「 大丈夫。 拾ってもう一回やってみよう 」
「 すばる〜〜〜 こうやって〜〜 」
すぴかはかなり達者に箸をつかってみせた。
「 ・・・ こ う ? 」
「 そうじゃよ ほら ちゃんと箸がべつべつに動くだろう? 」
「 うん! すぴか〜〜 みて みて 」
「 あ すばるも〜〜 えいっ! 」
「 うん えいっ! 」
二人で新聞紙を 上手につまみあげた。
「 おお〜〜 上手 上手 ・・・ それじゃあなあ コレはできるかな? 」
「 なになに〜〜〜 おじいちゃま〜〜〜 」
「 なになに? 」
博士は新聞紙を細かく千切り始めた。
「 さあ〜〜 集められるかな〜〜〜 」
「 アタシ できるっ! 」
「 ぼ 僕もぉ〜〜〜 」
双子は 熱心に箸を使い始めた。
「 ほう〜〜〜 上手じゃなあ 二人とも。 ジョー? そっちは任せたよ 」
「 はい 博士! 」
キッチンからは元気な声が返ってきた。
ご飯の用意をしつつ 009の耳はちゃ〜〜んとチビたちの声を拾っていた。
さすが博士! そっか〜〜 お箸でも遊べるんだなあ
よ・・・っと。 サンドイッチはこんなもんか・・・
よし あとはミルク・ティの準備だ〜〜〜
ジョーはほっとしつつ冷蔵庫からミルクをとりだした。
「 さあ〜〜〜 おひるごはんだよ〜〜〜 すぴか すばる〜〜〜 」
「 わ〜〜〜〜 おひる〜〜〜 」
「 おひるぅ〜〜〜 」
トタトタトタ〜〜〜 タタタタ ・・・・
二人が駆けてきた。
「 おと〜しゃん ごはん〜〜 」
「 ごはん〜〜〜 」
「 はい どうぞ。 二人ともイスに座って? 」
「「 は〜〜〜い 」」
「 はい どうぞ。 」
こと。 こと。 ― お行儀よく自分の席に座った子供たちの前に お皿が置かれた。
「 ・・・ これ なに。 」
「 ごはん は? 」
すぴか も すばる も ジョー苦心のポテト・サラダとスクランブル・エッグを
じ〜〜〜〜っと見つめている。
「 なに って。 お昼ごはんだよ。 さあ 食べよう 」
「 ・・・ これ ごはん? 」
「 ごはん じゃない 」
チビ達は 父の力作になかなか手を出さない。
「 えっと? それじゃ すぴかはなにが食べたい? おかゆさんかな〜〜 」
「 あたし きゅうり! 」
「 きゅ うり??? きゅうりって あのきゅうり? 緑の? 」
「 きゅうり! 」
「 え ・・・ 食べさせて大丈夫かなあ ・・・ すばるは?
すばるも きゅうり かい? 」
「 ・・・ ごはん。 」
「 うん だからご飯になにを食べたいかな〜 」
「 僕ぅ ごはん 」
「 だから ・・・ あ <ご飯>かな? 白いご飯? 」
「 ごはん! 」
「 え〜〜 お粥とかの方がいいんじゃないだろうか?? 」
「 ごはん! 僕 ごはん! 」
「 博士、キュウリとかご飯とか・・・食べさせて大丈夫ですかね? 」
「 ああ ・・・ すぴかはよくキュウリを齧っておるよ。
すばるもなあ 普通の白米を食べてるなあ 」
「 そ うですか・・・ キュウリ、あったかなあ ・・・ 」
ジョーは慌ててキッチンに飛んでいった。
結局。
すぴか はキュウリと父親の分の オムレツ・サンドイッチ をお腹いっぱいにつめこんだ。
すばる は白いご飯を < たまごごはん > にして、フリカケをかけ大満足だった。
「「 ごちそ〜さま〜〜 」」
「 はい ・・・ 遊んできていいよ 」
「「 わ〜〜〜い 」」
なぜか どっと疲れた父親をほっぽって コドモたちは駆けだしていった。
ああ ・・・ 力作が ・・・
ジョーは 少々パンチの欠けた味の < コドモ向けポテト・サラダ > と
ぐちゃ・・・っとしたスクランブル・エッグ をのろのろと口に運んだ。
疲労困憊の昼食作戦だったが。
ジョーは帰宅した妻には よゆ〜〜〜 の笑顔を見せた。
「 た ただいまっ! すぴかは?? ウチの中で走り回っていない?
すばるは?? 泣いてないかしら ?? 」
息を弾ませ 彼の愛妻は玄関に立っていた。
「 お帰り〜〜 レッスンはどうだった? もっとゆっくりしてくればよかったのに ・・・ 」
「 ねえ すぴかとすばるは?? 」
「 うん? ああ 今 お昼寝の最中さ。 」
「 あ ・・・ ああ そんな時間ね ・・・ 」
はあ 〜〜〜〜 ・・・!
フランソワーズは大息をつくと ぺたん、と上がり框に座り込んだ。
「 あれ 大荷物だねえ キッチンに運ぶよ。 」
「 ありがと ・・・ ねえ チビたち・・・? 」
「 ははは お腹いっぱいお昼たべて機嫌よく遊んでいたよ? 」
ジョーはにこにこしつつ ちゅ・・・っと愛妻の頬にキスを落とした。
「 まあ〜〜 ジョーって本当に育児の天才! すごいわね〜〜 」
「 いや ― 実はさ ・・・ 告白しちゃうと ― 大苦戦さ 」
「 ええ? 」
「 昼食は完敗さ 」
「 完敗?? 」
「 うん・・ 」
ジョーは顛末を説明した。
「 ・・・ わたしもね ・・・ チビ達のことが気になって・・・
ちっともレッスンに集中できなかったのよ ・・・ 」
「 お母さん、 ありがとう。 」
「 ううん ・・・ きっちり切り替えなくちゃダメよねえ ・・・ 」
「 無理ないって。 でもな〜 フラン。 きみって スゴイなあ〜〜〜
手強いウチのチビ達相手にさ・・・ 」
「 うふふ〜〜〜 ・・・最強コンビでしょう? 」
「 ああ。 もうしっかりタッグ組んでくるかなあ。
ごめん きみだけに押し付けてきて ・・・ ぼくも参戦しなくちゃ。 」
「 わたし達共同戦線、張らないとね 」
「 おし! では 」
ジョーはさっと手を差し出した。
「 了解。 頑張りましょ 」
きゅ。 フランソワーズはその手を握り返した。
その日の午後 ― お昼寝から目覚めたチビ達は・・・
アタシも〜〜〜 アタシも〜〜
僕・・・ 僕も ・・・ おか〜しゃ〜〜ん !
リビングにがんがん泣き声の合唱が響いている。
「 ?? お〜〜い フラン〜〜〜 ? 」
ジョーがきょろきょろしていると ― キッチンの裏口からフランソワーズが顔をだした。
「 どうしたんだい? チビたち 大泣きだぜ? 」
「 ・・・ 花壇に 球根 植えてて・・・あと 温室の手入れも 」
「 あ ぼくがやるのに〜〜〜 」
「 わたし やりたかったの ・・・ 」
「 そうだよなあ・・・ きみ 大好きだもんな
」
「 ええ ・・・ お庭に花壇 とか 温室って小さな時からの夢だったの・・・
パリではずっとアパルトマン暮らしだったから 」
「 うん そうだよねえ ・・・ あ。 」
「 なに ? 」
「 チビたちもまぜようよ 」
「 え! だって ・・・ 汚いわ。 細菌とかウィルスとかが 」
「 だ〜いじょうぶだって。 だってその温室から採れるもの、食べているんだぜ?
野菜類や苺は そのまま食べてるじゃないか 」
「 それは そうだけど 土 なんていじらせても いいのかしら 」
「 いいに決まってるさ。 適当量な よごれ で 免疫力アップさ! 」
「 そ そうかしら・・・ 」
「 そうさ。 ここは特別な場所だもの。 」
「 え なにか・・ あ 博士が土壌改革してくださったの? 」
「 それもあるかも でも ね。 ここは ウチの庭には さ
スペシャルなものがあるんだ♪ 」
「 あ わかった。 」
「 わかった? 奥さん 」
「 ええ。 幸せ が棲んでるんでしょ 」
「 あ たり♪ 」
「 それじゃ すぴか〜〜 すばる〜〜〜 おいで〜〜〜 」
「 さあさあ 一緒にね〜 」
きゃわ〜〜〜〜 わ〜〜〜い おか〜しゃ〜〜ん
庭はたちまち子供たちの歓声でいっぱいになった。
**********************
・・・ もう何年、いや何十年経ったのかな ・・・
茶髪の青年は 急な坂を登ってゆく。
岬の崖の上の土地は 農園 になっていた。
「 ええ ここって空に近いからかな・・・ なんでもよくできるんですよ
ちょっと通うのが大変だけど 」
都会からこの市に移り住んできたという若者は 爽やかに笑い案内してくれた。
青年は ちょっと眩しそうに目を細め空を見上げた。
そっか そうだよなあ ・・・ 空に 天に 近いんだ・・・
お〜〜〜い 皆 見てるか〜〜〜い
すぴか 〜〜 すばる 〜〜〜 見えるだろう?
フラン ・・・ ああ きみはいつでもぼくの側にいるよね。
もうすぐ ― そっちにゆくから さ・・・
うん。 ウチの庭には 幸せ のタネが植えてあるの さ ・・・
******************************** Fin. *******************************
Last updated : 11.22.2016.
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************* ひと言 **************
泣いて笑って怒って ― でも 至福の日々 ですよね(^◇^)