『 冬がきた ― (1) ― 』
特別なことがあったわけでは ない。
その日も ごく普通の朝、いつもと同じ朝を迎えていた。
いつもの時間にアラームを止め 窓を開けた時 ―
ふう〜〜っと なにか を感じた。
・・・ あ ・・・?
それが何なのか ただの気のせいなのか それすらも判らないほどの
ごく僅かな ― なにか。
「 ?? お天気が変わるのかしら ・・・?
ずっと晴れが続いてたから ・・・ う〜〜ん ? 」
フランソワーズは 空をしばらく見上げていたが・・・
海に近いこの土地で 空はとても豊かな表情を見せる。
ここに住むようになってから 空 には たくさんの色合いが
あることを知った。
春はねえ ・・・ 白っぽい青 でしょ
梅雨の時には 灰色で湿っぽい色なの。
夏はねえ あんなぴかぴかに光る青、初めてみたわ。
それが秋になると なんだか空が高くみえるの
青い色がね 遠くなるわ
そして ね。 冬には つう〜〜〜ん ・・・と
空気が澄んできて ぱりぱり音がするの 空からよ!
・・・ 空って ほんとうに す て き ♪
「 う〜〜ん? わからないな〜 ・・・ 雨は降らない感じ ・・・
カサは必要ないわね〜〜 冬が来る のねえ ・・・・ 」
う ・・・ん ! と ひとつ、大きくのび〜〜〜をすると
窓辺から離れた。
「 さ〜〜〜 のんびりしてられないわ! 洗濯機 on にして
朝ご飯〜 作るわ! 」
ぱん、と軽く自分の頬を叩き 彼女はぱたぱた朝の支度を始めた。
さささ・・・っと着替えると バスルームに飛んで行く。
顔を洗い 髪を整える。
「 おはよ〜〜 フランソワーズ〜 今日もいい日しましょ♪ 」
鏡の中の自分にキスをひとつ、投げる。
「 さあ〜〜 ジョーを起こして〜〜〜 ご飯です 」
ぱたぱたぱた〜〜〜 廊下を駆け階段の側の部屋のドアを叩く。
どんどんどんっ! 思いっ切り 叩く。
「 ジョー〜〜〜〜〜〜 起きて 朝っ !!! 朝ごはんッ 」
返事は確認しない。
「 あとは〜〜 自己責任。 ごはん 作っておくから〜〜
起きないと〜〜 バイトに遅れるわよ 〜〜 」
声をかけてから また階段を駆け下りる。
「 おっはよ〜〜ございます〜〜 」
キッチンには 東の窓から朝の光がいっぱい差し込んでいる。
「 ふ〜〜〜 ああ いい朝〜〜〜
えっと ・・・ 卵とミルク。 オレンジもね 」
冷蔵庫の中から 必要なものを取りだし ― 朝の活動を開始する。
「 博士〜〜 冷蔵庫にオレンジ、入ってますから〜 」
「 おお ありがとう。 ここは片しておくから ・・・
もう出かけないと間にあわんぞ 」
ギルモア博士 も少しウロウロと動き回っている。
「 はい ありがとうございます。
あ お昼のサンドイッチも冷蔵庫です。 ジョーのお弁当も ・・・ 」
「 わかった わかった ありがとうよ。 アイツは? 」
「 一応 声はかけましたけど・・・ 」
「 ま〜〜〜ったく ・・・ ! ああ 出かけなさい 」
「 はい 行ってきます〜 」
「 気をつけてな 」
「 はいっ 」
玄関で送ってもらい、外に飛び出す。
うふふ ・・・ 今日も 踊れるんだわ !
頑張っちゃう〜〜〜♪
門を開けて 家の前の坂を駆け下りる。
ひゅるん〜〜
一筋 風がスカーフを揺らす。 その中に ひやり、と冷たいものがある、
と感じたのは ・・・ 季節のせいか・・?
「 ? 風が ・・・ 変わったの? 冬 ・・・・? 」
彼女は一瞬、立ち止まったけれど すぐに また走りだした。
「 バス〜〜〜〜 15分のバスに乗らないとぉ〜〜〜 」
タタタタタ ・・・・ 坂道を駆け下り バス停まで走る。
バスで駅まで出て JR と メトロ を乗り継ぎ 稽古場に行く。
今 彼女はバレエ団の研究生として 毎朝レッスンに通っている。
都心近くの 中堅どころのバレエ・カンパニーで 主宰者のマダムは
若い頃 パリに留学し海外で踊ってきた人物だ。
稽古場の更衣室に 飛びこめば ―
「 おっはよ〜〜ございます〜〜〜 」
「 あら フランソワーズ おはよう〜 」
「 おはよ〜〜 」
仲間たちが 挨拶を返してくれる。
「 フランソワーズ〜〜 おはよ 」
「 あ みちよ〜〜 おはよう〜〜 」
隅っこで髪を結っていたコが 手を振っている。
「 いそげ〜〜〜 もうすぐ始まるよ 」
「 うん ・・・ 」
・・・ かそくそ〜〜ち! ・・・
彼女は こそっと心の中で唱え、ばさばさ着替えだす。
「 きゃ〜〜 頭セット どこ??? あ あった〜〜
わ わ〜〜〜 急がなくちゃ〜〜 」
あたふた着替え 荷物を持ってスタジオへ。
「 フランソワーズ〜〜〜 」
隅っこのバーで みちよがひらひら手を振っている。
「 ふぁ〜〜〜 な なんとか ・・・ ふう〜〜 」
バーにタオルを掛け、 大急ぎでポアントを履く。
「 う〜〜 入れ〜〜 えいっ 」
「 そんなに焦らなくても大丈夫だよ
ピアニストさん まだ来ないし 」
「 そ そう? ん〜〜〜 っと ・・・ 」
「 あ 靴 おニュ〜 ? 」
「 ううん 昨日 バーだけ履いたの。 」
「 ふうん キレイだねえ 」
「 バーだけだもん。 少し柔らかくなったかな 」
「 ホントにさ〜 ちょうどいい時って短いよね 」
「 ホント ホント・・・ あっと言う間に ぐに〜〜 だもんね 」
「 おはよう。 さあ 始めますよ 」
初老の女性が ぴ・・・っと背筋を伸ばし鏡の前に立った。
彼女はこのバレエ・カンパニーの主宰者で 芸術監督も兼任している。
朝イチの プロフェッショナル・クラスでは 団員、研究生全員、
二時間ちかく 彼女のレッスンを受けるのだ。
「 わ わ〜〜 始まっちゃう・・・ 」
「 靴? はけた? 」
「 う うん ・・なんとか・・・ ふう〜〜 」
「 はい 二番から。 ドウミ 二回 ぐら〜ん・プリエ〜〜 アームス
アンオー から〜〜 ・・・ はい どうぞ 」
〜〜〜〜 ♪
ピアノが響きだし ダンサー達は一斉に動き始める。
パキ パキ ポキ ・・・ そちこちから関節が鳴る音がする
フランソワーズも集中する ― 自分自身の身体に。
おはよう わたしの脚さん 足さん。
ご機嫌 いかが?
「 タンジュね〜 ・・・ 」
クラスはどんどん進んでゆき、 やがてセンター・ワークになる。
「 はい アダージオね〜〜 プレパレーションから〜〜 」
マダムの説明を聞き ステップを頭の中で組み立てる。
・・・で ここでエカルテ・デリエールね
そのまま グラン・ロンデジャンブ 〜〜
フランソワーズも 他の仲間たちと一緒にぶつぶつ〜〜 繰り返しつつ
ごそごそ・・・動いている。
「 ・・ で 五番で アームス、アンオーね〜〜
はい ファースト・グループから。 」
すぐに ピアノが鳴りだす。
ファースト・グループは このバレエ・カンパニーのプリマさんやら
ソリスト達で マダムの振りを正確に踊ってゆく。
「 あ ・・・ そっか。 こっちで〜〜 ・・・
最後のピルエットは ゆっくり、 ね・・ うん わかった・・・ 」
ぶつぶつ・・・自習しているうちに あっと言う間に自分の番になった。
「 はい。 NEXT プリーズ。 ラスト・グループですよ 」
たた・・・っと フランソワーズや 若手のダンサー達が並ぶ。
〜〜 ♪♪ ピアノの音と共に踊り始めた。
・・・で 最後に 〜〜〜 ピルエット・アンディオール ・・・。
あ ・・・?
カタン。 回転の途中で 軸足が落ちた。
「 ちゃんと降りて〜〜 はい まあまあね。 じゃ 」
マダムな次の指示をだす。
「 ? ・・・ ポアント、潰れた? 」
フランソワーズは 後ろに外れ靴をチェックしたが ―
「 そんなはず、ないわよねえ? まだ固いもん ・・・
なんかタイミング、外したかなあ 」
「 フランソワーズ・・・ 次だよ〜〜 」
みちよが こそ・・っと教えてくれた。
「 え?? わ〜〜〜 やば〜〜〜 順番・・・ 」
「 前の組 見なよ。 ・・・ これ 前にやったこと あるじゃん? 」
「 ? ・・・あ そうね ありがと みちよ! 」
じ〜〜〜っと見つめつつ、順番をアタマに叩きこむ。
あ ホントだわ これ・・・前にやったわ・・・
・・・ 最後が違うのね
ここで〜〜 反転して アンデダン〜〜 っと
なんとか順番を呑みこみ センターでラスト・グループに並んだ。
〜〜〜 って そうよね ここで・・・
で ・・・ もって 降り返って ・・・
カタン。
・・・ またピルエットの途中で降りてしまった。
「 最後まで気を抜かない。 はい 右側 もう一度ね 〜〜 」
レッスンはどんどん進んでゆく。
邪魔にならないよう、すぐに後ろに下がったけれど ―
フランソワーズは 首を傾げ続けている。
なんで ・・・? どうして 落ちる の?
隅の空いている場所で 何回も回ってみる。
「 ・・? いつもと・・・ なんか 違う?
あ ・・・ そういえば アダージオでも ぐらぐらしてた・・・
やだ ・・・ どうしたのかしら。 」
ポアントの先を触ってみたけれど まだ柔らかくはなっていない。
「 ヘンねえ ・・・ 足も痛くないのに ・・・
タイミング、ずれているのなかなあ〜〜 」
仲間たちの後ろで ごそごそ・・・やっていたが ―
「 ほら ラスト・グループ ですよ 」
「 ! 」
マダムの声に はっとした。
いっけな〜〜〜 今度こそ・・・っ
たたた・・・っと センターに並んだ。
「 まあ フランソワーズ 寝てたの? 」
「 ・・・ い いえ 」
「 ふふ 冗談よ、 はい お願い〜 」
〜〜 ♪♪♪ ピアニストさんが 速い曲を弾き始める
「 ・・・・・ 」
ラスト・グループの後列、フランソワーズは 慎重に慎重に・・・
回転モノは 全てシングル・ターンに落としていた。
「 クラスではね、もっとアグレッシブにならなければダメ。
アタックするの。 クラスで失敗してもいいのよ、
チャンレンジしないことを 恥じなさい。
え〜と それじゃ グラン・ワルツね〜〜 」
マダムは どんどんクラスを進めてゆく。
「 ・・・・・ 」
フランソワーズは 一番後ろでこそ・・・っと踊っていた。
「 は〜い お疲れさま〜〜〜 皆、チャレンジしてね〜 」
マダムは朗かに挨拶をし ダンサー達は優雅にレヴェランスを返し
朝のプロフェッショナル・クラスは 終わった。
・・・・ もう ・・・ !
フランソワーズは レヴェランスで下げた顔を、上げられなかった。
そのまま タオルの中に顔を埋めた。
「 どしたの ? 」
みちよが こそ・・・っと声をかけてくれた。
「 ・・・ え 」
「 元気 ないよ? どっか 痛い? 」
「 え あ ううん ・・・ なんか〜〜 うまく行かなくて 」
「 え そう? 」
「 ウン。 ピルエット 全敗だし。 グラン・フェッテも落っこち 」
「 あ〜 そうだったっけ? 」
「 ・・・ウン ・・・ 」
「 なんか気にしないほうがいいよ 」
「 ・・・ でも・・・ 酷すぎると思うわ ・・・
全然元気で来たのに・・・ 絶不調 ・・・・ 」
「 ま〜 そういう日もある よ? 」
「 そう・・・? 」
「 うん。 なんていうのかな〜〜 なにやっても上手くゆかないってか 」
「 みちよ も? 」
「 あるよ〜〜 」
「 だけどみちよって いつだって回転モノ、上手だわ。 」
「 あ〜〜 アタシ、チビの頃からなんでか くるくる回ってたんだよね〜
どうやって・・・って聞かれても 自分自身でもよくわかんない。
マダムが いろいろ解説するじゃん? あ〜 そうなのか〜〜 って
思うこと 多いもん。
」
「 ふうん ・・・ 」
「 多分ね〜 アタシは 本能で回ってる のだと思う、自分でも。 」
「 ほ 本能?? 」
「 そ。 わんこが わんわん鳴いたり にゃんこが くるん、とまん丸に
なったりするのと 同じかもね〜〜 」
「 え〜〜 そうなの? 」
「 そ。 だけど 他のことはさ〜 てんでダメなわけ。
あ〜やって こ〜やって。 左の脇を軸に〜〜 とか
もう〜 必死であれこれアタマの中で復習しないと ・・・
できないのよ 」
「 へ え ・・・ 」
「 皆もさあ いろいろだと思うよ?
うま〜〜く行く日もあれば 全滅の日も あるってこと 」
「 そ そう ・・・? 」
「 そ! だから〜〜 そんな顔 やめてさ。
ねえ 帰りにアイスでも食べて帰ろうよ 」
「 あら アイス?? いいわね〜〜〜
わたしね、 あの青いソーダ味の、好きなの〜
なんて名前だっけ? とっても好きなの 」
「 あ〜 がりがりくん? パリにはないの? 」
「 あの味は初めて食べたの。 も〜〜 衝撃的に すき! 」
「 あはは いいね〜〜 じゃ一緒に食べよ アタシも好きだもん。
裏通りなら歩きながら食べても平気だよん。 さ 着替えようよ 」
「 ウン・・・ ありがと、 みちよ 」
フランソワ―ズは やっと笑顔になり荷物を取り上げた。
ガタン ガタン −−−−
疲れた時、電車の規則的な揺れは 眠気を誘うものだ。
帰路、電車の中で フランソワーズは隅っこの空席に座った。
「 あ〜 ・・・ 朝のラッシュはも〜大変だけど
帰りは天国よねえ・・・ふぁ〜〜〜 ・・・ 」
毎日の行き帰りはいつも音楽を聞いている。
今日もイヤホンをずっと付けているのだけれど ・・・・
ふぁ〜〜〜 かっくん かっくん かっくん ことん。
船を漕ぎつつ ― すっかり眠り込んでしまった。
ガッタン 〜〜〜 !
「 ・・・わ ?! 」
電車が動きだした、その衝撃で 目が覚めた。
! あ あ〜〜 降りなくちゃ ・・・!
「 ! きゃ? 眠っちゃった!? 」
荷物を掴んで がばっと立ち上がったが ・・・
「 ・・・ あ あ〜〜〜〜〜〜 」
ガタン ゴトーン −−− ゴトン
見慣れたいつもの・毎日乗り降りしている駅のホームが ・・・
遠ざかってゆく。
やあ〜〜〜ん 降りすごしちゃったぁ〜〜〜
電車は どんどん速度を上げてゆく。
「 ・・・ううう 居眠りしてても いつもちゃんと目が覚めるのにぃ〜
あ〜あ ・・・ 次の駅まで・・・ 長いなあ〜 」
しゅん としてシートに座り込んだ。
次の駅で降りて 反対の、上り電車を待った。
「 う〜〜 来ない〜〜 え? あと10分もあるの?? 」
普段でもローカル線、それも平日の午後なので電車の間隔は空きまくっている。
「 ・・・ わ〜〜〜ん 時間、ロスだわあ〜〜〜
えっと帰りにマーケットに寄って ・・・
卵 でしょ ミルクでしょ。 あ ヨーグルト! そうだわ 今日は
お肉の特売日! あと〜〜セロリにトマトに あ レモン! 」
ぶつぶつ・・・繰り返し ホームでうろうろしている時間は
とてつもなく長く感じた。
も〜〜〜 わたしってば〜〜〜 !
プア ン ・・・ やっと上り電車が の〜〜んびりやってきた。
ダダダダ −−−− ! 門から玄関までもダッシュした。
「 ただいま〜〜 帰りましたっ ! 」
ドアのロック解除もまどろっこしく、 こじ開けるみたいに飛びこんだ。
「 おお お帰り。 ? どうしたね そんなに慌てて・・・ 」
迎えに出てくれた博士は 驚いた顔をしている。
「 え あ あの・・・ 遅くなって・・・ 」
「 あ? ・・・ そんなに慌てなくてもよいよ
まあ ゆっくりお茶でも飲んで 」
「 いえ 晩ご飯の準備が 」
「 それはゆっくりでいいよ。 ワシも手伝うからな。
なにをしておいたらいいかい 」
「 ・・・ ありがとうございます〜〜〜
あ それじゃ ・・・ ジャガイモ 洗っておいてくださいますか 」
「 おう。 何個かい 」
「 えっと・・・三個! 」
「 了解じゃ。 ああ 炊飯器のスイッチも入れて置こうな 」
「 わ〜〜〜 ありがとうございます〜〜
あ 荷物おいてすぐに降りてきますから〜〜〜 」
「 ああ これこれ そんなに慌てんで・・・
買い物は冷蔵庫に入れておくから。 お前はすこし落ち着きなさい。
・・・ 汗 びっしょりだぞ? 」
「 え ・・・ あ・・・ 」
「 シャワーでも浴びてすっきりしておいで。
ジョーもおっつけ戻るし 手伝ってもらうさ。 」
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ 」
「 ほらほら そんな顔、せんで。
食事作りを全部引き受ける必要はないのだよ? 」
「 ・・・ でも ・・・ 」
「 ワシだって そこそこやるぞ? さあさあ 荷物を置いてきなさい。 」
「 ・・・ はい 」
フランソワーズは ようやく落ち着いた表情になり ゆっくりと自室に
上っていった。
ほわ〜〜〜ん ・・・
オーブンから取りだした皿からは 香ばしい匂いが盛大に立ち上った。
「 お〜〜〜 これは美味しそうじゃな 」
「 ふふ ・・・ どうかしら。 いいチキンがあったから・・・
てりやき っていうの、この前、大人に教わったんです。 」
「 ふ〜ん・・・ いい香りじゃのう〜 」
「 ええ 下にジャガイモを薄切りにして並べてあるんです。 」
「 お〜〜〜 すごいなあ 」
「 えへ ・・・ ちょっと手抜き料理なんですけど・・・ 」
「 いやいや 素晴らしい! 」
「 あと・・・ サラダと ジョーが好きな < 澄まし汁 > です。
あ 御飯も! 」
「 おう〜 ますます凄いなあ〜〜
なあ ジョーのヤツ、 早く帰ってこんかね〜〜 」
「 ふふふ もうすぐ戻りますよ。 」
ああ ・・・ なんとか なったわ ・・・
レンジ・チン にかなり助けてもらったけど
テーブルを整えていると 玄関のチャイムが鳴った。
「 あ ジョー ! お帰りなさ〜〜い ! 」
笑顔で玄関に迎えに出ることができた。
ジョーは アタマにタオルを被り、なにやら衣類を抱えていた。
「 ? どうしたの、ジョー それ。 」
「 ただいま〜〜 え? あの さ。 さっきから雨 降ってきて・・・ 」
「 え?? そうなの? 」
「 ウン もう 30分くらい前からだけど ・・・ 」
「 まあ 全然気がつかなかったわ。 ごめんなさい、ジョー。
迎えに行けなくて・・・ 」
「 あは いいよ これしき〜〜 いいシャワーさ。」
「 まあ。 あ! 洗濯モノ〜〜〜 」
「 今 先にね取り込んできたよ あは ちょっと濡れちゃったかなあ 」
はい・・・と 彼は抱えていた洗濯モノを差し出した。
「 ありがと〜〜 ジョー ・・・ ああ ぼんやりしてて ごめんなさい
また 洗いなおしね ・・・ 」
「 いいよ〜う リビングにでも乾しけば乾く程度だもん
あ ぼく やるよ すぐに乾くさ 」
「 ありがとう ・・・ジョー 」
「 うん? なんかすご〜〜〜くいい匂いがするんだけど・・・
晩ご飯 なに? 」
ジョーは 鼻をクンクン・・・いわせている。
「 あ あのね・・ チキンのてりやき。 」
「 うわ〜〜〜お〜〜 やた〜〜〜 !!!
ぼく 大好物〜〜〜 」
「 あ そうなの? よかったあ 」
「 わおわお〜〜 大急ぎで洗濯モノ、乾すね〜〜 」
「 ありがとう ジョー ・・・ 」
「 わっはは〜〜〜ん♪ 照り焼きチキン〜〜〜 ♪ 」
「 うふ ・・・ じゃあ 仕上げ、してくるわね 」
「 お願いしま〜す〜〜 」
その夜 三人はとても とてもとても美味しく 晩ご飯を頂いた。
「 ふう ・・・・ 」
後片付けは ジョーが引き受けてくれたので
フランソワーズは早めに 寝室に引き上げた。
明日こそ ・・・ !
レッスン 頑張るわ ・・・ !
ぴかぴかに晴れた夜空に 彼女は最高の笑みを送った。
― 翌朝
トントン トン −−−−
フランソワーズは軽い足取りで キッチンに降りてきた。
「 え〜と ・・・ 卵 に ミルク ・・・ あら? 」
!!! パン ! パン がない!
あ ! 昨日 ・・・ 買うの、忘れた ・・・
「 どうしよう・・・ これからご飯、炊く時間ないし・・・
そうだわ、 海岸通りの商店街のパン屋さん・・・
開いているかしら ちょっと買いに・・・ 」
パタパタパタ −−−
コートを羽織り 玄関へ急ごうと・・・
「 おっはよ〜〜 どしたの? 」
二階から降りてきたジョーと 鉢合わせをした。
「 え あ あの ・・・ パン 買ってなくて
買うの、忘れてて・・・ 今から買ってくるわね 」
「 あ〜 下のパン屋さん? う〜〜ん まだ開いてないと思うな〜 」
「 え・・・ 朝ごはん ・・・ お弁当 どうしよう 」
なんだか 涙声になってしまった。
「 あ ・・・ あ! そうだ! ねえ ちょっち 待って 」
ジョーは 彼女の手を握った。
「 ねえ 手伝ってくれる? 」
「 え?? 」
「 朝ご飯さ〜〜 うん 多分 あると思うな〜 」
「 ?? 」
ジョーは 彼女を手を引いてキッチンに飛びこんだ。
「 え〜〜と ・・・? 」
彼は 食糧の棚を覗きこんでいる。
「 あ あった あった! これこれ〜〜 」
「 なあに ・・?? 」
ジョーの手には 四角い箱が見えた。
「 まあ 見ててよ。 これはぼくでもできるんだ〜〜
あ 卵、使っていい? 」
「 ええ もちろん。 」
「 サンキュ え〜と・・・? 」
― そして。
ジュワ 〜〜〜〜〜〜 !!!
「 ん〜〜〜 はい 熱々の朝ご飯〜〜 」
「 わあ ・・・・ 美味しそう〜〜 」
大皿の上には ほかほかの、でっかいパンケーキ が鎮座していた。
「 すごいわ〜 ジョー ! 」
「 あは これ、使えば誰でもできるんだ〜 ほら 」
トン。 彼は さっきの箱を見せた。
「 ほっとけーき みっくす・・・? 」
「 そ。 魔法の粉 じゃないよ〜 さあ 熱いうちに食べようよ 」
「 あ 待って! ハムがあるわ レタスとトマトも 」
「 あ コーヒ―も淹れるね 」
「 ありがとう ジョー ! 」
「 あ〜 いっぱい食べよう! ね レッスン、 頑張りなよ 」
「 うん! 頑張るわ 〜〜 」
うわあ〜〜 エネルギー ・ チャージ! だわ
ええ きっと 今日は上手くゆく。
そう なんだって よ!
フランソワーズは おおいに張り切っていた ― のだが。
Last updated : 11,05,2019.
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********* 途中ですが
まあ 人生、いろんな時があるもんですよね〜
いつだって にっこり なんて人は
ほとんどいないのじゃないかなあ ・・・
ねえ ジョー君 フランちゃん ・・・