『  冬がきた ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

 

特別なことがあったわけでは ない。

その日も ごく普通の朝、いつもと同じ朝を迎えていた。

 

いつもの時間にアラームを止め 窓を開けた時 ―  

ふう〜〜っと なにか を感じた。

 

 

    ・・・ あ ・・・?

 

それが何なのか ただの気のせいなのか それすらも判らないほどの

ごく僅かな ― なにか。

 

「 ??  お天気が変わるのかしら ・・・?

 ずっと晴れが続いてたから ・・・  う〜〜ん ? 」

フランソワーズは 空をしばらく見上げていたが・・・

 

 

海に近いこの土地で 空はとても豊かな表情を見せる。

ここに住むようになってから 空 には たくさんの色合いが

あることを知った。

 

    春はねえ ・・・ 白っぽい青 でしょ

    梅雨の時には 灰色で湿っぽい色なの。

 

    夏はねえ  あんなぴかぴかに光る青、初めてみたわ。

    それが秋になると  なんだか空が高くみえるの

    青い色がね 遠くなるわ

 

    そして ね。 冬には つう〜〜〜ん ・・・と

    空気が澄んできて  ぱりぱり音がするの 空からよ!

 

    ・・・ 空って ほんとうに す て  き ♪

 

 

「 う〜〜ん? わからないな〜 ・・・ 雨は降らない感じ ・・・

 カサは必要ないわね〜〜   冬が来る のねえ ・・・・ 」

 

う ・・・ん ! と ひとつ、大きくのび〜〜〜をすると

窓辺から離れた。

 

「 さ〜〜〜 のんびりしてられないわ! 洗濯機 on にして

 朝ご飯〜 作るわ! 

 

ぱん、と軽く自分の頬を叩き 彼女はぱたぱた朝の支度を始めた。

さささ・・・っと着替えると バスルームに飛んで行く。

顔を洗い 髪を整える。

 

「 おはよ〜〜 フランソワーズ〜  今日もいい日しましょ♪ 」

 

鏡の中の自分にキスをひとつ、投げる。

「 さあ〜〜 ジョーを起こして〜〜〜  ご飯です 」

ぱたぱたぱた〜〜〜  廊下を駆け階段の側の部屋のドアを叩く。

 

   どんどんどんっ!  思いっ切り 叩く。

 

「 ジョー〜〜〜〜〜〜  起きて 朝っ !!! 朝ごはんッ 」

 

返事は確認しない。 

「 あとは〜〜 自己責任。 ごはん 作っておくから〜〜 

 起きないと〜〜 バイトに遅れるわよ 〜〜 」

声をかけてから また階段を駆け下りる。

 

「 おっはよ〜〜ございます〜〜 」

キッチンには 東の窓から朝の光がいっぱい差し込んでいる。

「 ふ〜〜〜  ああ いい朝〜〜〜

 えっと ・・・ 卵とミルク。 オレンジもね 」

冷蔵庫の中から 必要なものを取りだし ―  朝の活動を開始する。

 

 

「 博士〜〜  冷蔵庫にオレンジ、入ってますから〜 」

「 おお ありがとう。  ここは片しておくから ・・・

 もう出かけないと間にあわんぞ 」

ギルモア博士 も少しウロウロと動き回っている。

「 はい ありがとうございます。  

 あ お昼のサンドイッチも冷蔵庫です。 ジョーのお弁当も ・・・ 」

「 わかった わかった ありがとうよ。  アイツは? 」

「 一応 声はかけましたけど・・・ 」

「 ま〜〜〜ったく ・・・ !  ああ 出かけなさい 」

「 はい 行ってきます〜 

「 気をつけてな 」

「 はいっ 

玄関で送ってもらい、外に飛び出す。

 

    うふふ ・・・ 今日も 踊れるんだわ !

    頑張っちゃう〜〜〜♪

 

門を開けて 家の前の坂を駆け下りる。

 

  ひゅるん〜〜   

 

一筋 風がスカーフを揺らす。 その中に ひやり、と冷たいものがある、

と感じたのは ・・・ 季節のせいか・・?  

 

「 ?  風が ・・・ 変わったの?  冬 ・・・・?  」

彼女は一瞬、立ち止まったけれど すぐに また走りだした。

「 バス〜〜〜〜  15分のバスに乗らないとぉ〜〜〜 」

 

    タタタタタ ・・・・  坂道を駆け下り バス停まで走る。

 

バスで駅まで出て JR と メトロ を乗り継ぎ 稽古場に行く。

今 彼女はバレエ団の研究生として 毎朝レッスンに通っている。

都心近くの 中堅どころのバレエ・カンパニーで 主宰者のマダムは

若い頃 パリに留学し海外で踊ってきた人物だ。

 

稽古場の更衣室に 飛びこめば ―

「 おっはよ〜〜ございます〜〜〜 」

「 あら フランソワーズ おはよう〜 」

「 おはよ〜〜 

仲間たちが 挨拶を返してくれる。

「 フランソワーズ〜〜 おはよ 

「 あ みちよ〜〜 おはよう〜〜 」

隅っこで髪を結っていたコが 手を振っている。

「 いそげ〜〜〜 もうすぐ始まるよ  」

「 うん ・・・ 」

 

   ・・・ かそくそ〜〜ち!  ・・・

 

彼女は こそっと心の中で唱え、ばさばさ着替えだす。

「 きゃ〜〜 頭セット どこ???  あ あった〜〜

 わ わ〜〜〜  急がなくちゃ〜〜 」

あたふた着替え 荷物を持ってスタジオへ。

「 フランソワーズ〜〜〜 

隅っこのバーで みちよがひらひら手を振っている。

「 ふぁ〜〜〜  な なんとか ・・・ ふう〜〜 」

バーにタオルを掛け、 大急ぎでポアントを履く。

「 う〜〜  入れ〜〜 えいっ 

「 そんなに焦らなくても大丈夫だよ   

 ピアニストさん まだ来ないし 

「 そ そう? ん〜〜〜 っと ・・・ 」

「 あ 靴 おニュ〜 ? 」

「 ううん 昨日 バーだけ履いたの。 」

「 ふうん キレイだねえ 」

「 バーだけだもん。  少し柔らかくなったかな

「 ホントにさ〜 ちょうどいい時って短いよね 」

「 ホント ホント・・・ あっと言う間に ぐに〜〜 だもんね 」

 

「 おはよう。  さあ 始めますよ 」

 

初老の女性が ぴ・・・っと背筋を伸ばし鏡の前に立った。

彼女はこのバレエ・カンパニーの主宰者で 芸術監督も兼任している。

朝イチの プロフェッショナル・クラスでは 団員、研究生全員、

二時間ちかく 彼女のレッスンを受けるのだ。

 

「 わ わ〜〜 始まっちゃう・・・ 」

「 靴? はけた? 」

「 う うん ・・なんとか・・・ ふう〜〜 」

 

「 はい 二番から。 ドウミ 二回 ぐら〜ん・プリエ〜〜 アームス

 アンオー から〜〜 ・・・  はい どうぞ 

 

   〜〜〜〜 ♪  

 

ピアノが響きだし ダンサー達は一斉に動き始める。

 

  パキ パキ   ポキ ・・・ そちこちから関節が鳴る音がする

 

フランソワーズも集中する ― 自分自身の身体に。  

 

     おはよう わたしの脚さん 足さん。 

     ご機嫌 いかが?

 

 「 タンジュね〜 ・・・ 」

クラスはどんどん進んでゆき、 やがてセンター・ワークになる。

 

「 はい アダージオね〜〜  プレパレーションから〜〜 」

マダムの説明を聞き ステップを頭の中で組み立てる。

 

     ・・・で ここでエカルテ・デリエールね 

     そのまま グラン・ロンデジャンブ 〜〜

 

フランソワーズも 他の仲間たちと一緒にぶつぶつ〜〜 繰り返しつつ

ごそごそ・・・動いている。

 

「 ・・ で 五番で アームス、アンオーね〜〜

 はい ファースト・グループから。  」

すぐに ピアノが鳴りだす。

ファースト・グループは このバレエ・カンパニーのプリマさんやら

ソリスト達で マダムの振りを正確に踊ってゆく。

 

「 あ ・・・ そっか。 こっちで〜〜 ・・・

 最後のピルエットは ゆっくり、 ね・・ うん わかった・・・ 」

 

ぶつぶつ・・・自習しているうちに あっと言う間に自分の番になった。

 

「 はい。  NEXT プリーズ。 ラスト・グループですよ 」

たた・・・っと フランソワーズや 若手のダンサー達が並ぶ。

 

  〜〜 ♪♪  ピアノの音と共に踊り始めた。

 

 ・・・で 最後に 〜〜〜 ピルエット・アンディオール ・・・。

       あ ・・・?

 

  カタン。  回転の途中で 軸足が落ちた。

 

「 ちゃんと降りて〜〜  はい まあまあね。 じゃ 」

マダムな次の指示をだす。

 

 「 ?  ・・・ ポアント、潰れた? 」

フランソワーズは 後ろに外れ靴をチェックしたが  ―

「 そんなはず、ないわよねえ?  まだ固いもん ・・・

 なんかタイミング、外したかなあ 」

「 フランソワーズ・・・ 次だよ〜〜 」

みちよが こそ・・っと教えてくれた。

「 え??  わ〜〜〜  やば〜〜〜 順番・・・ 」

「 前の組 見なよ。 ・・・ これ 前にやったこと あるじゃん? 」

「 ? ・・・あ そうね  ありがと みちよ! 」

じ〜〜〜っと見つめつつ、順番をアタマに叩きこむ。

 

   あ  ホントだわ これ・・・前にやったわ・・・

   ・・・ 最後が違うのね 

      ここで〜〜 反転して アンデダン〜〜 っと

 

なんとか順番を呑みこみ センターでラスト・グループに並んだ。

 

   〜〜〜 って そうよね ここで・・・

   で ・・・ もって 降り返って ・・・

 

       カタン。  

 

・・・ またピルエットの途中で降りてしまった。

 

「 最後まで気を抜かない。 はい 右側 もう一度ね 〜〜 」

レッスンはどんどん進んでゆく。

邪魔にならないよう、すぐに後ろに下がったけれど ―

フランソワーズは 首を傾げ続けている。

    

   なんで ・・・?  どうして  落ちる の?

 

隅の空いている場所で 何回も回ってみる。

 「 ・・? いつもと・・・ なんか 違う?  

 あ ・・・ そういえば アダージオでも ぐらぐらしてた・・・

 やだ ・・・ どうしたのかしら。 」

ポアントの先を触ってみたけれど まだ柔らかくはなっていない。

 「 ヘンねえ ・・・ 足も痛くないのに ・・・ 

 タイミング、ずれているのなかなあ〜〜 」

仲間たちの後ろで ごそごそ・・・やっていたが ―

 

「 ほら ラスト・グループ ですよ 」

「 ! 」

マダムの声に はっとした。

 

   いっけな〜〜〜  今度こそ・・・っ 

 

たたた・・・っと センターに並んだ。

「 まあ フランソワーズ 寝てたの? 」

「 ・・・ い いえ 」

「 ふふ 冗談よ、 はい お願い〜 」

 

  〜〜 ♪♪♪  ピアニストさんが 速い曲を弾き始める

 

 「 ・・・・・ 」

ラスト・グループの後列、フランソワーズは 慎重に慎重に・・・

回転モノは 全てシングル・ターンに落としていた。

 

「 クラスではね、もっとアグレッシブにならなければダメ。

 アタックするの。  クラスで失敗してもいいのよ、

 チャンレンジしないことを 恥じなさい。 

 え〜と それじゃ グラン・ワルツね〜〜 」

 

マダムは どんどんクラスを進めてゆく。

 

「 ・・・・・ 」

フランソワーズは 一番後ろでこそ・・・っと踊っていた。

 

「 は〜い お疲れさま〜〜〜  皆、チャレンジしてね〜 

マダムは朗かに挨拶をし ダンサー達は優雅にレヴェランスを返し

朝のプロフェッショナル・クラスは 終わった。

 

 

     ・・・・  もう ・・・ !

 

フランソワーズは レヴェランスで下げた顔を、上げられなかった。

そのまま タオルの中に顔を埋めた。 

 

「 どしたの ? 」

みちよが こそ・・・っと声をかけてくれた。

「 ・・・ え 」

「 元気 ないよ?  どっか 痛い? 

「 え あ  ううん ・・・ なんか〜〜 うまく行かなくて 」

「 え そう? 」

「 ウン。 ピルエット 全敗だし。 グラン・フェッテも落っこち 」

「 あ〜 そうだったっけ? 」

「 ・・・ウン ・・・ 」

「 なんか気にしないほうがいいよ  」

「 ・・・ でも・・・ 酷すぎると思うわ ・・・

 全然元気で来たのに・・・ 絶不調 ・・・・ 」

「 ま〜 そういう日もある よ? 」

「 そう・・・? 」

「 うん。 なんていうのかな〜〜 なにやっても上手くゆかないってか 

「 みちよ も? 」

「 あるよ〜〜 」

「 だけどみちよって いつだって回転モノ、上手だわ。 」

「 あ〜〜 アタシ、チビの頃からなんでか くるくる回ってたんだよね〜

 どうやって・・・って聞かれても 自分自身でもよくわかんない。

 マダムが いろいろ解説するじゃん?  あ〜 そうなのか〜〜 って

 思うこと 多いもん。  

「 ふうん ・・・ 」

「 多分ね〜 アタシは 本能で回ってる のだと思う、自分でも。 」

「 ほ 本能?? 」

「 そ。 わんこが わんわん鳴いたり にゃんこが くるん、とまん丸に

 なったりするのと 同じかもね〜〜 」

「 え〜〜 そうなの? 

「 そ。 だけど 他のことはさ〜 てんでダメなわけ。

 あ〜やって こ〜やって。  左の脇を軸に〜〜 とか 

 もう〜 必死であれこれアタマの中で復習しないと ・・・

 できないのよ 」

「 へ え ・・・ 」

「 皆もさあ いろいろだと思うよ?

 うま〜〜く行く日もあれば 全滅の日も あるってこと 

「 そ そう ・・・? 」

「 そ! だから〜〜 そんな顔 やめてさ。 

 ねえ 帰りにアイスでも食べて帰ろうよ 」

「 あら アイス?? いいわね〜〜〜 

 わたしね、 あの青いソーダ味の、好きなの〜 

 なんて名前だっけ? とっても好きなの 」

「 あ〜 がりがりくん?  パリにはないの? 

「 あの味は初めて食べたの。 も〜〜 衝撃的に すき! 

「 あはは いいね〜〜  じゃ一緒に食べよ アタシも好きだもん。

 裏通りなら歩きながら食べても平気だよん。 さ 着替えようよ 」

「 ウン・・・ ありがと、 みちよ 

フランソワ―ズは  やっと笑顔になり荷物を取り上げた。

 

 

 

      ガタン ガタン −−−−

 

疲れた時、電車の規則的な揺れは 眠気を誘うものだ。

 

帰路、電車の中で フランソワーズは隅っこの空席に座った。

「 あ〜 ・・・ 朝のラッシュはも〜大変だけど 

 帰りは天国よねえ・・・ふぁ〜〜〜 ・・・ 」

毎日の行き帰りはいつも音楽を聞いている。

今日もイヤホンをずっと付けているのだけれど ・・・・

 

   ふぁ〜〜〜   かっくん かっくん かっくん  ことん。

 

船を漕ぎつつ ― すっかり眠り込んでしまった。

 

    ガッタン 〜〜〜 !

 

「 ・・・わ ?! 」 

 

電車が動きだした、その衝撃で 目が覚めた。

 

     ! あ あ〜〜 降りなくちゃ ・・・!

 

「 !  きゃ? 眠っちゃった!? 」

荷物を掴んで がばっと立ち上がったが ・・・

「 ・・・ あ  あ〜〜〜〜〜〜 

 

     ガタン ゴトーン  −−− ゴトン 

 

見慣れたいつもの・毎日乗り降りしている駅のホームが ・・・

 遠ざかってゆく。

 

     やあ〜〜〜ん  降りすごしちゃったぁ〜〜〜

 

電車は どんどん速度を上げてゆく。

「 ・・・ううう 居眠りしてても いつもちゃんと目が覚めるのにぃ〜

 あ〜あ ・・・ 次の駅まで・・・ 長いなあ〜 」

しゅん としてシートに座り込んだ。

 

次の駅で降りて 反対の、上り電車を待った。

「 う〜〜  来ない〜〜  え? あと10分もあるの?? 」

普段でもローカル線、それも平日の午後なので電車の間隔は空きまくっている。

「 ・・・ わ〜〜〜ん  時間、ロスだわあ〜〜〜

 えっと帰りにマーケットに寄って ・・・

 卵 でしょ ミルクでしょ。 あ ヨーグルト! そうだわ 今日は

 お肉の特売日! あと〜〜セロリにトマトに あ レモン! 」

ぶつぶつ・・・繰り返し ホームでうろうろしている時間は

とてつもなく長く感じた。

 

     も〜〜〜 わたしってば〜〜〜 !

 

プア ン ・・・ やっと上り電車が の〜〜んびりやってきた。

 

 

   

  ダダダダ −−−− !  門から玄関までもダッシュした。

 

「 ただいま〜〜 帰りましたっ ! 」

ドアのロック解除もまどろっこしく、 こじ開けるみたいに飛びこんだ。

 

「 おお お帰り。 ? どうしたね そんなに慌てて・・・ 」

迎えに出てくれた博士は 驚いた顔をしている。

「 え  あ あの・・・ 遅くなって・・・ 」

「 あ? ・・・ そんなに慌てなくてもよいよ 

 まあ ゆっくりお茶でも飲んで 」

「 いえ 晩ご飯の準備が 」

「 それはゆっくりでいいよ。 ワシも手伝うからな。

 なにをしておいたらいいかい 」

「 ・・・ ありがとうございます〜〜〜

 あ それじゃ ・・・ ジャガイモ 洗っておいてくださいますか 」

「 おう。 何個かい 」

「 えっと・・・三個! 」

「 了解じゃ。 ああ 炊飯器のスイッチも入れて置こうな 」

「 わ〜〜〜 ありがとうございます〜〜 

 あ 荷物おいてすぐに降りてきますから〜〜〜 」

「 ああ これこれ そんなに慌てんで・・・

 買い物は冷蔵庫に入れておくから。 お前はすこし落ち着きなさい。

 ・・・ 汗 びっしょりだぞ? 」

「 え ・・・ あ・・・ 」

「 シャワーでも浴びてすっきりしておいで。

 ジョーもおっつけ戻るし 手伝ってもらうさ。 」

「 ・・・ ごめんなさい ・・・ 」

「 ほらほら そんな顔、せんで。 

 食事作りを全部引き受ける必要はないのだよ? 」

「 ・・・ でも ・・・ 」

「 ワシだって そこそこやるぞ?  さあさあ 荷物を置いてきなさい。 」

「 ・・・ はい 」

フランソワーズは ようやく落ち着いた表情になり ゆっくりと自室に

上っていった。

 

 

  ほわ〜〜〜ん ・・・  

 

オーブンから取りだした皿からは 香ばしい匂いが盛大に立ち上った。

「 お〜〜〜 これは美味しそうじゃな 」

「 ふふ ・・・ どうかしら。 いいチキンがあったから・・・

 てりやき っていうの、この前、大人に教わったんです。 

「 ふ〜ん・・・ いい香りじゃのう〜 

「 ええ 下にジャガイモを薄切りにして並べてあるんです。 」

「 お〜〜〜 すごいなあ 」

「 えへ ・・・ ちょっと手抜き料理なんですけど・・・ 」

「 いやいや 素晴らしい! 」

「 あと・・・ サラダと ジョーが好きな < 澄まし汁 > です。

 あ 御飯も! 」

「 おう〜 ますます凄いなあ〜〜 

 なあ ジョーのヤツ、 早く帰ってこんかね〜〜 」

「 ふふふ  もうすぐ戻りますよ。 」

 

    ああ ・・・ なんとか なったわ ・・・

    レンジ・チン にかなり助けてもらったけど

 

テーブルを整えていると 玄関のチャイムが鳴った。

 

「 あ ジョー !  お帰りなさ〜〜い ! 

 

笑顔で玄関に迎えに出ることができた。

ジョーは アタマにタオルを被り、なにやら衣類を抱えていた。

 

「 ? どうしたの、ジョー それ。 」

「 ただいま〜〜  え? あの さ。 さっきから雨 降ってきて・・・ 

「 え??  そうなの? 」

「 ウン もう 30分くらい前からだけど ・・・ 

「 まあ 全然気がつかなかったわ。 ごめんなさい、ジョー。

 迎えに行けなくて・・・ 」

「 あは いいよ これしき〜〜 いいシャワーさ。」

「 まあ。   あ!  洗濯モノ〜〜〜 」

「 今 先にね取り込んできたよ  あは ちょっと濡れちゃったかなあ 」

  はい・・・と 彼は抱えていた洗濯モノを差し出した。

「 ありがと〜〜 ジョー ・・・ ああ ぼんやりしてて ごめんなさい

 また 洗いなおしね ・・・ 」

「 いいよ〜う  リビングにでも乾しけば乾く程度だもん

 あ ぼく やるよ  すぐに乾くさ 」

「 ありがとう ・・・ジョー 」

「 うん? なんかすご〜〜〜くいい匂いがするんだけど・・・ 

 晩ご飯 なに? 」

ジョーは 鼻をクンクン・・・いわせている。

「 あ あのね・・  チキンのてりやき。 」

「 うわ〜〜〜お〜〜   やた〜〜〜 !!!

 ぼく 大好物〜〜〜 」

「 あ そうなの? よかったあ 」

「 わおわお〜〜 大急ぎで洗濯モノ、乾すね〜〜 」

「 ありがとう ジョー ・・・ 」

「 わっはは〜〜〜ん♪  照り焼きチキン〜〜〜 ♪ 

「 うふ ・・・ じゃあ 仕上げ、してくるわね 」

「 お願いしま〜す〜〜 」

 

その夜 三人はとても とてもとても美味しく 晩ご飯を頂いた。

 

 

「 ふう ・・・・ 」

後片付けは ジョーが引き受けてくれたので

フランソワーズは早めに 寝室に引き上げた。

 

   明日こそ ・・・ !

   レッスン 頑張るわ ・・・ !

 

ぴかぴかに晴れた夜空に 彼女は最高の笑みを送った。 

 

 

 ― 翌朝

 

   トントン トン −−−−

 

フランソワーズは軽い足取りで キッチンに降りてきた。

 

「 え〜と ・・・ 卵 に ミルク ・・・  あら? 」

 

     !!!  パン !  パン がない!

     あ !  昨日 ・・・ 買うの、忘れた ・・・

 

「 どうしよう・・・ これからご飯、炊く時間ないし・・・

 そうだわ、 海岸通りの商店街のパン屋さん・・・

 開いているかしら ちょっと買いに・・・ 

 

  パタパタパタ −−−

 

コートを羽織り 玄関へ急ごうと・・・

 

「 おっはよ〜〜   どしたの? 」

二階から降りてきたジョーと 鉢合わせをした。

「 え  あ あの ・・・ パン 買ってなくて 

 買うの、忘れてて・・・ 今から買ってくるわね 」

「 あ〜  下のパン屋さん? う〜〜ん まだ開いてないと思うな〜 」

「 え・・・ 朝ごはん ・・・ お弁当 どうしよう 

なんだか 涙声になってしまった。

「 あ ・・・ あ! そうだ! ねえ ちょっち 待って 

ジョーは 彼女の手を握った。

「 ねえ 手伝ってくれる? 」

「 え?? 」

「 朝ご飯さ〜〜 うん 多分 あると思うな〜 

「 ?? 」

ジョーは 彼女を手を引いてキッチンに飛びこんだ。

 

「 え〜〜と ・・・? 

彼は 食糧の棚を覗きこんでいる。

「 あ あった あった! これこれ〜〜 」

「 なあに ・・?? 」

ジョーの手には 四角い箱が見えた。

「 まあ 見ててよ。  これはぼくでもできるんだ〜〜  

 あ 卵、使っていい? 」

「 ええ もちろん。 」

「 サンキュ  え〜と・・・? 」

 

  ― そして。

 

 ジュワ 〜〜〜〜〜〜 !!!  

 

「 ん〜〜〜  はい 熱々の朝ご飯〜〜 

「 わあ ・・・・ 美味しそう〜〜 」

 

大皿の上には ほかほかの、でっかいパンケーキ が鎮座していた。

 

「 すごいわ〜 ジョー ! 」

「 あは これ、使えば誰でもできるんだ〜 ほら 」

 

  トン。  彼は さっきの箱を見せた。

 

「 ほっとけーき みっくす・・・? 」

「 そ。 魔法の粉 じゃないよ〜 さあ 熱いうちに食べようよ 」

「 あ 待って! ハムがあるわ レタスとトマトも 」

「 あ コーヒ―も淹れるね 

「 ありがとう ジョー ! 」

「 あ〜 いっぱい食べよう!   ね レッスン、 頑張りなよ 」

「 うん!  頑張るわ 〜〜 」

 

    うわあ〜〜 エネルギー ・ チャージ! だわ

    ええ きっと 今日は上手くゆく。

 

    そう なんだって よ!

 

フランソワーズは おおいに張り切っていた ―  のだが。

 

 

Last updated : 11,05,2019.                 index     /    next

 

 

*********   途中ですが

まあ 人生、いろんな時があるもんですよね〜

いつだって にっこり なんて人は 

ほとんどいないのじゃないかなあ ・・・

 ねえ ジョー君 フランちゃん ・・・