『 サイレント・ワールド ― (1) ― 』
・・・・・・・ ・・・・・・・・
目覚めると 音 が なかった。
「 ・・・? まだメンテナンス・ルームなのかしら ・・・ 」
フランソワーズはゆっくりと首を動かした。
目に映るのは ― 見慣れた自分の部屋 ・・・・
お気に入りのレースのカーテンも きちんと引いてある。
「 ・・・ ふうん じゃ ここはわたしのベッド なのね ・・・
でも なぜ なにも音が聞こえないのかしら 」
首を動かし 次には指先から手、 そして 脚 をゆっくりと動かす。
「 ・・・ 大丈夫 ね? 運動機能に損傷は ない わ
起きても 平気 ・・・ よね。 」
肘をつき そろそろ・・・上半身を起こす。
眩暈がしたり 頭痛がすることもなく すんなりと起き上がることができた。
「 ・・・ ふ うん ・・・ 気分も 悪くない わ
― ということは わたしのメンテナンスは終了 ね。 」
ぽん。 思い切ってベッドから降りた。
「 ふ〜〜〜ん ・・・ あ〜〜〜 よく眠ったあ〜〜って気分。
着替えて出歩いてもいいわよねえ ・・・ いつまでもパジャマってのも・・
レデイとしては みっともないと思いますわ。 シツレイ〜〜 」
フランソワーズは ウオーク・イン・クローゼットに飛び込んだ。
「 え? システム・ダウンしてメンテナンス ですか? 」
フランソワーズは 少し不安な顔をした。
「 うむ。 久々に本格的なメンテナンスをしようと思うのじゃ。
お前の能力は ほとんどが頭部に集中しており繊細な対応が必要なのだ。
無駄な負担はかけたくない。 」
「 ・・・ でも ・・・ 」
「 安心して ひと眠りしておくれ。 その間に済ませるから 」
「 ・・・・ 」
「 フラン。 ぼく、助手できっちりフォローするよ。
大丈夫さ、楽しい夢を見ている間に 終わるさ。 」
不安気な彼女に ジョーは明るい声をかけた。
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
「 あは それともぼくが助手じゃあ かえって不安かな〜〜〜 」
「 やだ そんなこと 」
「 冗談だよ。 ぼくのメンテって 最低でも三日は掛かっちゃうだろ?
いつも あ〜〜〜 よく寝た って気分だよ? 」
「 まあ そうなの? 」
「 ウン。 ただね〜〜 あ 腹減った〜〜 って気分が強いけどさ 」
「 ははは そうじゃのう、ジョーはいつも長期戦になってしまうからなあ 」
「 ずっとね ・・・ あなたが目覚めるまで心配で仕方がないの。 」
「 だから〜〜 平気だってば。 本人はいい気分で寝てるんだし。
せいぜい 腹ペコなのが気になるくらいでさ 」
「 でも ・・・ ほら 以前、予定よりすこし早く目覚めてしまったって
言ってたでしょう? 」
「 あ ・・・ ああ ・・・ うん、そんなこともあったっけ 」
「 おお そうじゃったな。 あの時は君にメモを書いておいたのだが 」
「 はい 大丈夫でしたよ。 」
「 本当? 」
「 ホントさ。 ちょっと余分な休みがあったな〜〜って感じさ。 」
「 そう・・・? それなら いいけど 」
「 もう忘れてたし ― あれは加速装置のメンテだったから
きみのメンテとは違うもの。 」
「 ・・・・・ 」
ジョーは あの体験 を 誰にも詳しくは語っていない。
博士も フランソワーズも 彼がたまたま少し早めに目覚めた、という程度にしか
聞かされてはいないのだ。
・・・ 思い出したくない。
どんな闘いも 恐ろしいと思ったことは 一度もないんだ。
生き抜くために、敵を倒すために必死になっている時に
恐怖は 感じないよ。
― でも。 あの恐怖は 嫌だ。
ココロの底から凍る想いは もう沢山なんだ。
あんな恐怖は 二度と味わいたくない。
そして 仲間の誰にも味わってほしくない
ぼくを最初で最後にしてくれ ・・・ !
ジョーは 自分自身の意識の中でも < 封印 > し、
ことさらココロの奥の奥に 閉じ込めていた。
「 フランソワーズ。 主要なメンテナンスは地下の研究室で行うがな
すぐに 自室に戻す。 あとは データをチェックしつつ
しばらく眠っているだけじゃ。 」
「 はい、 心配はしていません。 あ 心配なことは 」
「 うん なんだね? 」
「 食事です! 」
「 食事? ああ ちゃんと点滴で栄養補給はする、心配ないよ。 」
「 いえ わたし、 じゃなくて。
わたしが眠っている間の 博士とジョーの食事です〜〜〜
・・・ チン!の連続になっちゃう?? まさか ・・・ カップ麺・・」
「 あ 最近のカップ麺って 美味いんだぜ〜〜
それにね カップ飯もあって なかなか食べられる。 」
「 だめよ、冗談じゃあないわ。
いいわ、 わたしのメンテの間の分、作り置きしておくわ ! 」
「 ありがとうよ、しかしなあ 気にするな。
いざとなれば 我らが料理人に頼む、という手がある。 」
「 あ いいですね〜〜〜 張々湖飯店の晩御飯〜〜なんて最高♪ 」
「 おいおい? 二人で食事当番、するぞ? それが基本。
大人に助け船を求めるのは 最後の手段じゃ 」
「 へ〜〜い ・・・ レトルト食品、買いこんでこよ ・・・ 」
「 ふふん ワシが手料理を食わせてやる。
お前は 皿洗いに徹するんじゃな 」
「 うわ〜〜〜お ・・・ 博士の 手料理 !!! 」
「 なんだ、そんな大事か? ワシだってな、学生時代は自炊して
おったのだぞ? 」
「「 え〜〜〜〜〜 」」
「 おいおい フランソワーズまで・・・ 」
「 あ あら ・・・ ごめんなさい 博士 でもちょっと意外で 」
「 ふん。 なんとでも言うがいい。 ワシのチキンのトマト煮は
かなり評判じゃった。 これは本当だ 」
「「 ひえ 〜〜〜 あ ごめんなさい でもぉ〜〜 くふふふ・・・ 」」
若い二人は 笑いが止まらない。
「 ふん! 重ね重ね失礼なヤツらだな。
いいチャンスじゃ、ジョー しっかりワシのメシを味わってみろ 」
「 は はい 」
「 ・・・ジョー あとで感想 教えて ・・・ 」
「 う うん ・・・ フラン。 胃薬、買い置き ある? 」
「 ええ あとで ね 」
「 ― なんじゃと? 」
「 「 なんでもありませ〜〜〜〜ん 」」
メンテナンス前日は 明るい雰囲気ですごすことができた。
そして 翌日 ―
「 では リラックスして・・・ これを飲んでおくれ 」
博士は カップを差し出した。 温かい湯気が漂っている・・・
「 はい ・・・ 」
「 まあ 睡眠導入剤のようなものだ。 自然な眠気がやってくるのでな
そのまま眠っておくれ。 」
「 はい。 ・・・・ 美味しい ! 」
「 ふふふ ・・・ 飲み物には煩いイギリス紳士に協力してもらったよ 」
「 まあ それで・・・ ミルク・ティみたいな優しい味 ・・・ 」
ふぁ ・・・・ 彼女は小さな欠伸をもらした。
「 さあさ そのまま眠ってよいよ 」
「 はい ・・・ お休みなさい ・・・ 」
フランソワーズは カップを置くと、ゆっくりと身体を倒し横になると
ごく自然にまぶたが落ちてきた。
「 ふむ ・・・ 」
最小限の計測端子を装着し 博士は慎重にデータを読んでいる。
「 ・・・ よし。 ジョー? 開始するぞ 」
「 はい 博士。 」
防菌服を身に着け ジョーが静かに入ってきた。
こうして 003の定期メンテナンスが開始された。
トン トン トン ・・・
階段を降りる足取りは 軽く弾んでいる。
「 う〜〜ん ・・・ ああ 本当によ〜く眠った〜〜〜って
気分よ。 メンテの後って いつもなんとなく頭痛がしたりしていたけど
今回は とっても気持ちがいい ・・・・ 」
自室で着替えをすませ しばらくベッドに腰かけていた。
「 ・・・ うん どこも不具合はないわ ね?
じゃあ ・・・ ちょっとストレッチしよっかな〜〜
随分眠ってたみたいよね、身体が強張っているわ。 」
床にペタン、と座ると いつものストレッチを始めた。
お気に入りのパンツ姿で 彼女は悠々と腕脚を伸ばし 関節を動かし
自由に動ける爽快さを 味わっていた。
うん ・・・っと。 あら ― ?
それにしても なんだか静か過ぎない?
外の音、いつも聞こえる遠くの国道を通るクルマの音 がない。
そして なにより四六時中 響いてくる潮騒が ・・・ 聞こえない。
「 あ きっと博士がわたしの部屋の周囲を 防音シールドしてくださったのかも・・・
そうよね メンテの最中って 不要な音まで拾ってしまって
後から頭痛のモトになったりするもの 」
今まで 003のメンテナンスは簡易的なものが多く 半日ほどで終了していた。
完全なシステム・ダウンではなく 半覚醒状態が多かった。
「 いろいろ考えてくださったのね〜〜
う〜〜ん なんかすっきりいい気分。 これなら外に出ても大丈夫だわ。 」
ストレッチをし、さっぱりした気分になった。
カーテンの隙間からは 温かい日差しが床に伸びている。
「 ・・・ あら いいお天気だわ。 きっと外はもっと気持ちがいいわね。
さあ 普通の生活 開始〜〜 」
フランソワ―ズは ぽん、と立ち上がり さささ・・っと服装を直した。
「 うふふ〜〜 博士もジョーも 予定より早く覚醒したのにびっくりよ?
ああ こんなにすっきりした気分、久し振り〜〜
そうよ きっちりメンテナンスして頂いて システムのバグが一掃されたのね 」
カチャリ。 寝室から 彼女は軽い足取りで 出ていった。
「 あら 温かい? 今日はお天気がいいのね〜〜 あ ら ?
鳥の声が 聞こえない。 木々の葉擦れが 聞こえてこない。
「 ?? ど うしたの?? だって風は少しあるみたいだし ・・・
この陽射しなら スズメさん達がいっぱい来てる はず ― 」
彼女は あわててリビングの窓際に駆け寄った。
陽射しの温か味を十分に感じつつ ガラリ。 窓を大きくあけた。
まだ少し冷たい空気が 流れ込む。
・・・ ああ 気持ちいい ・・・
!!
音が ない ・・・?
「 なぜ ?! 」
庭サンダルをつっかけると 中庭に駆けだした。
サク サク サク ・・・ !
見慣れた庭、歩きなれた庭なのだが ― 足触りもいつもの通り なのだけれど。
― 音が 聞こえない。
「 ! あ。 < 耳 > のスイッチを完全オフにしているんだわ〜
いやねえ ・・・ もう。 あわてん坊さん ・・・ 」
・・・。 意識の中で < 耳 > のスイッチを入れる。
試しに 最高レベルにあげてのスイッチ・オン にしてみた。
すぐに 雑多な音が溢れ雪崩こんでくる ― はず ・・・
それは騒音とほぼ変わらないので、彼女は身構えた。
一種、< ココロの耳セン > をしていないと 精神的にたまらない。
「 ・・・ っと ・・・? 」
・・・・・・・・・・
え?? ウソ? スイッチが 入らない???
・・・・・・・・・・・・・・
人工聴覚はなにもキャッチしないのだ。
「 やだ ・・・ メンテナンスのせいかしら。 ・・・ ん! 」
003の 超視覚 と 超聴覚 へのスイッチは完全に 意識下で
行われる。 彼女が < 視よう > < 聴こう > と 意識することで
補助脳とリンクしてあるスイッチが稼働するのだ。
しかし。
今 何回 意識しても ― 耳からは なんの音も入ってこない。
「 う ・・・そ? メンテナンスで聴覚をシステム・ダウンしてるの? 」
でも、 と 彼女は思う。
「 さっき わたしは自分の部屋のベッドで目覚めたわ?
状態を記録するための端子は アタマにも身体にも
どこにも付いていなかった ・・・
メンテナンスは 終了しているはず、よ ! 」
しかし。 何十回 トライしても < 耳 > のスイッチは入らない。
彼女の周囲は 無音の空間がどこまでも深々と広がっている。
「 ! これ トラブルよね? 博士〜〜〜 < 耳 > が
なにかヘンなんです〜〜〜 」
フランソワーズは 慌てて博士の書斎へ駆けていった。
ドンドン ドン ・・・ !
一階の奥にある部屋の ドアを叩く。
「 博士 博士〜〜〜〜 フランソワーズです〜〜 あの 」
・・・ いくらドアを叩いても 返答がない。
普段、在室であれば ドアは少し開いているし、 カタチばかりのノックをすれば
すぐに 『 開いているよ 』 の穏やかな声が聞こえてくる。
「 ? 博士、 お休みなのですか? ― 失礼します〜〜 』
カチャ。 思い切って ドアを開けた。
部屋の主は いつもと同じに大きな机の前に座っていた。
「 あ 博士〜〜〜 あのう < 耳 > が 」
彼女は 中に駆けこむと すぐに訴えた。
「 ・・・・・ 」
博士は 机に向かってなにか書きモノをしているふうなのだが。
「 ? 博士? あの ・・・ 聞こえます? わたしの < 耳 > が 」
「 ・・・・ 」
自然に声が大きくなって ― 叫んでしまった。
しかし。 大きな背中は 振り向いてもくれないのだ。
「 ? 博士!? ギルモア博士ってば? 」
思わずその肩に 手を伸ばしてしまったが。
す ・・・ 。
彼女の手は 博士の肩を通りすぎてしまった。
「 え !? ・・・ うそ?? もしかして ・・・
わたしのこと 見えてない の?
わたしの声 聞こえてない の? 」
不躾、とは思いつつも 机の前に周り、博士の顔を覗きこんだ。
「 博士! わたしです、フランソワーズ ・・・ 003 ですっ 」
声高な響きは 空間に吸いこまれ誰も応えてくれない。
「 ・・・ わたし、 壊れてしまったの???
でも 故障を直せるのは 博士だけ なのに ・・・ !
博士〜〜〜 ねえ ギルモア博士ってば〜〜〜 」
ゆさゆさ・・・ いつも頼もしい、と思っている広い肩を揺らしたいのに
す ・・・ 彼女の手は肩に触れることができないのだ。
「 ・・・ な なに?? わたしの手 ・・・ 素通りしてしまう??
! 博士が なにか書いていらっしゃる わ ! 」
博士は 机の上にノートを広げ 手にはペンを持っている。
「 な なにを? え? Francoise ・・・・?
わたし に? ああ やっぱりなにかあったんだわ!
博士〜〜〜 ねえ わたし、どうしちゃったんですか 」
「 ・・・・ 」
ところが 博士は書きモノの手を止めると立ち上がった。
「 ・・・・ 」
「 え なに? なにを仰ってるんですか? 」
「 ・・・・ 」
博士は 彼女の言葉、必死の呼びかけなどまるで眼中になく ドアに向かって
声を上げている ・・・ ふうなのだ。
「 博士〜〜〜 どうしたんですか 〜〜 」
ガチャ。 ドアが開いた。
「 !? 誰? ― あ ジョー 〜〜〜 ! 」
ドアの向うには 茶髪の青年が立っている。
「 ジョー! ねえ < 耳 > の不具合が起きたみたいなの!
あのね 全然聞こえないし 〜〜 ・・・? 」
「 ・・・・ 」
ジョーは にこやかにそして穏やかに 博士の書斎に入ってきた。
「 ・・・・ ・・・・ 」
博士も 穏やかに話をしている。
うん うん・・・と ジョーが頷く。
ぽんぽん・・・博士が彼の肩を軽くたたく。
二人は いつもの通り、ごくごく自然に そして 穏やかに話をしている。
― しかし。
「 !? ねえ! 二人でなにを話しているの??
わたしの声、 聞こえないの? ・・・ ねえ わたしのこと・・・
みえてる?? 」
彼女は 彼らの周りを飛び回り、必死になって声をかけた。
ジョーの肩を ジョーの腕を 引いてみるのだが ―
す か ・・・。 彼女の手は 彼の身体をすり抜けてしまうのだ。
「 ・・・ わたし ・・・ ! 」
彼女は きゅ・・・っと手を口に当て後ずさりで博士の書斎を出ていった。
リビングは 温かい日差しが溢れている。
レースのカーテンが引かれているが 室内はほんわりと温かい。
テーブルの上、 シクラメンの鉢植えがまだまだピンク色の花を豪勢に
咲かせている。
サイド・ボードの上にある花瓶には つん・・・と伸びた枝に桃の花が
あちこちを向いて開いている。
チ −−−−− チチチ ・・・・ !
ベランダに遊びにきた小鳥たち、 輪切りのミカンを啄み 戯れている。
ソファの上には 読み止しの新聞が置きっぱなしだ。
これはいつもの博士の習慣、というか 癖で 毎朝フランソワーズが
少々ため息をつきつつ・・・ 端のラックに片づける。
― いつもの 静かで穏やかで 当たり前のギルモア邸のリビング風景だ。
最近 晴れた日には ベランダでランチを取ることもある。
「 博士〜〜 とっても気持ちがいいですから こちらでお昼にしましょう〜 」
「 お いいなあ ・・・ う〜〜ん 太陽の光はいいのう 」
「 ねえ? ジョー テラス・チェアを運んでくれるう? 」
「 オッケ〜 あ ついでにランチも運ぶから ・・・ 準備は? 」
「 あとは紅茶を淹れるだけ よ 」
「 そっか♪ そっちは任せるよ 」
「 ええ。 ふ〜〜ん ・・・ なんかいい香ね? 」
「 どれ? ・・・ おお 沈丁花がそろそろ開くのではないかな
」
「 じんちょうげ? 香水みたいにいい香り〜〜
こんなにいい香〜〜 お花の匂いなの? 」
「 あ〜 沈丁花かあ うん 木に着く花なんだ。
ぼくの育った教会にはさ たくさん沈丁花が咲いてて・・・
この匂いがすると あ〜〜〜 春だあ〜 って思ったな 」
「 ふうん ・・・ ね ウチにもその木 あったの? 」
「 ははは 玄関の脇に白とピンクが植えてあるんじゃよ。
まあ 地味で小さな木じゃから
春になって花が咲かないと気がつかんだろうな 」
「 まあ・・・ 春のお知らせさん なんですね?
ふ〜〜〜ん ・・・ 冷たくて甘い かな? 」
「 上手いこと、言うね フランソワーズ。
裏庭の梅が咲いて 玄関脇の沈丁花が咲いて あとは桜さ! 」
「 そうさなあ ・・・ ここは荒地じゃったが お前たちがいろいろ・・・
花木を植えてくれたので 豊かな春を楽しめる。 」
「 ふふふ・・・ そうですね〜〜 ウチはいっつもなにかの花が
咲いてますものね 」
「 なんかさ ・・・ いいよね〜〜 こういうの 」
「 ええ いいわね♪ 」
「 ぼく ・・・ 好き だなあ ・・・ きみにぴったり。 」
「 え なあに? 」
「 い いや ・・・ あ さあ ランチにしようよ〜〜 」
「 そうね ああ いい気持ち〜〜 あ。 フォークがないわね
すぐに持ってくるわ 」
「 あ いいよ〜〜 今日のランチなら ほら 指で摘まんでたべようよ
〜〜〜ん ・・・ ウマい♪ 」
「 あまり行儀がいいとはいえんが こんな春の日にはぴったりかもなあ
ふふふ ・・・ ピクニックにきたみたいじゃ 」
「 ね? へへへ ・・・ このソーセージ、美味いね〜 」
「 あらあら ・・・ ま いっか。 うふふふ
美味しいわね 」
春の陽射しは ベランダ・ランチの最大のご馳走だった。
屋敷の裏庭には 温室があったり広い洗濯もの干場がある。
「 さ〜て と。 お洗濯もの 乾しましょう〜〜 」
朝一番に洗い上げた洗濯ものを籠いっぱいにして フランソワーズは庭下駄を鳴らす。
ひゅん 〜〜〜〜 小さなつむじ風が吹いてくる。
「 ・・・ さむ ・・・ 風が結構強いわねえ ・・・
でも きば〜〜っと ばっちり乾くわね 」
ここはかなり温暖な地域なのだが 冬の晴れ日は やはり空っ風がふきぬける。
「 えっと ・・・ 」
洗濯カゴの中から ロープを出してず〜〜〜っと引っ張る。
「 うん ・・・ しょ・・・っと あ? 」
ビン ッ ! 撓んでいたロープがきっちりと伸びた。
「 ?? あ ジョー ・・・ 」
「 こっちはぼくが引き受ける。 きみは 洗濯もの、干してゆけよ。 」
「 わあ ありがとう〜〜 うふふ ぱりっと乾くわよ 」
「 そうだよね〜〜 」
「 ・・・ あ。 ジョーは 洗濯ものは乾燥機、のひと?
だったら ・・・ 天日乾しは イヤ ? 」
「 あ ううん ううん〜〜 施設じゃさ〜 皆 こう だ〜〜〜っと
ロープ張って だ〜〜〜っと干してた 」
「 うふ じゃあ いいわね。
あのね わたし ・・・ お日様の匂いって いいなあ〜〜〜って。
このお家に来てからすごく思うの。 」
「 あ そうだよね。 ぱりっと乾いたタオルとか いい匂いだよね〜
・・・へへへ ・・・ シャツやパンツも ・・・・ 」
「 わたしの兄もそう言ってたわ。 だから ほ〜〜ら ・・・ 」
「 ・・・ あは ・・・ 」
フランソワーズが ぱっと広げた手の先には 満艦飾の洗濯ものが
関東の冬の風に へんぽんと翻っているのだった。
「 えへ ・・・ ウチの匂い って これかな〜〜 」
「 え? 」
「 あ あの さ。 このごろ 思うだけど。
お日様の匂いが ウチの匂いかな〜〜〜って。 」
「 そうよねえ あ ジョー お布団、 乾した? 」
「 ウン。 ブランケットも自分の部屋のベランダにひっかけてきた 」
「 今晩は お日様の匂いの中で眠れるわね 」
「 そだね〜〜 ・・・ えへ きみもいつもお日様の香、するよ 」
「 え そう?? 」
「 ウン。 特にさ〜 その・・・ 髪が ・・・・ 」
「 髪?? え そう?? 」
彼女は思わず自分の髪の裾を 指に巻いてみた。
「 ウン。 金色で お日様の香がしてさ〜〜 ぼく 大好きなんだ 」
「 うふふ ・・・ 髪 だけ? 」
「 え!? そ そんなこと ・・・ ないよぉ〜〜
髪だけじゃないよ きみ全部が ― あ〜〜 そのぅ〜〜 」
「 ふふふ ジョー。 わたしも お日様の匂いがするジョーが 好き♪ 」
「 !? う わ〜〜お〜〜〜 」
「 ね ここは本当に素敵なお家ね 」
「 うん そうだね〜 ― ぼく やっと見つけた ・・・ ウチ をさ 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
冬の最中でも この家の住人たちは自然を愛で穏やかに暮らしている。
ああ こんな日が ず〜〜っと続いてほしい ・・・ !
それは フランソワーズだけではなく仲間たち 皆の望みなのだ。
それ なのに。
ことん。 ソファの隅に金色のアタマが縮こまっている。
腕と脚を縮め 膝に額を当てる。 ぎゅ・・・っと拳で両耳を抑えた。
きこえない ・・・ なにも!
身体の音、さえ 聞こえない ・・・ !
誰も わたしのこと、見ない。
わたしの声が とどかない。
この世界に わたし ただひとりきり。
ああ この孤独には ・・・
耐えられない ・・・ !
Last updated : 03,05,2019.
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*********** 途中ですが
原作・あのお話 の フランちゃん版〜〜〜☆
< あの事故> は 誰のメンテでも起こる ・・・ かも?
体調不良で 短くて ・・・ すみません〜 <m(__)m>