『 サイレント・ワールド  ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

 

 

      ・・・・・・・   ・・・・・・・・

 

 

目覚めると  音 が なかった。

 

「 ・・・?  まだメンテナンス・ルームなのかしら ・・・ 」

 

フランソワーズはゆっくりと首を動かした。

目に映るのは ― 見慣れた自分の部屋 ・・・・

お気に入りのレースのカーテンも きちんと引いてある。

 

「 ・・・ ふうん  じゃ ここはわたしのベッド なのね ・・・

 でも なぜ なにも音が聞こえないのかしら  」

 

首を動かし 次には指先から手、 そして 脚 をゆっくりと動かす。

「 ・・・ 大丈夫 ね? 運動機能に損傷は ない わ 

 起きても 平気 ・・・ よね。 」

肘をつき そろそろ・・・上半身を起こす。

眩暈がしたり 頭痛がすることもなく すんなりと起き上がることができた。

「 ・・・ ふ うん ・・・  気分も 悪くない わ 

 ― ということは わたしのメンテナンスは終了 ね。 」

 

  ぽん。  思い切ってベッドから降りた。

 

「 ふ〜〜〜ん ・・・ あ〜〜〜 よく眠ったあ〜〜って気分。

 着替えて出歩いてもいいわよねえ ・・・  いつまでもパジャマってのも・・

 レデイとしては みっともないと思いますわ。 シツレイ〜〜 

フランソワーズは ウオーク・イン・クローゼットに飛び込んだ。

 

 

  

「 え? システム・ダウンしてメンテナンス ですか? 」

フランソワーズは 少し不安な顔をした。

「 うむ。 久々に本格的なメンテナンスをしようと思うのじゃ。

 お前の能力は ほとんどが頭部に集中しており繊細な対応が必要なのだ。

 無駄な負担はかけたくない。 」

「 ・・・ でも ・・・ 」

「 安心して  ひと眠りしておくれ。 その間に済ませるから 」

「 ・・・・ 」

「 フラン。 ぼく、助手できっちりフォローするよ。

 大丈夫さ、楽しい夢を見ている間に 終わるさ。 」

不安気な彼女に ジョーは明るい声をかけた。

「 ・・・ ジョー ・・・ 」

「 あは それともぼくが助手じゃあ かえって不安かな〜〜〜 

「 やだ そんなこと 」

「 冗談だよ。 ぼくのメンテって 最低でも三日は掛かっちゃうだろ?

 いつも あ〜〜〜 よく寝た って気分だよ? 」

「 まあ そうなの? 

「 ウン。 ただね〜〜  あ 腹減った〜〜 って気分が強いけどさ 

「 ははは そうじゃのう、ジョーはいつも長期戦になってしまうからなあ 」

「 ずっとね ・・・ あなたが目覚めるまで心配で仕方がないの。 」

「 だから〜〜 平気だってば。 本人はいい気分で寝てるんだし。

 せいぜい 腹ペコなのが気になるくらいでさ 

「 でも ・・・ ほら 以前、予定よりすこし早く目覚めてしまったって

 言ってたでしょう? 

「 あ ・・・ ああ ・・・ うん、そんなこともあったっけ 」

「 おお そうじゃったな。 あの時は君にメモを書いておいたのだが 

「 はい 大丈夫でしたよ。 」

「 本当? 」

「 ホントさ。 ちょっと余分な休みがあったな〜〜って感じさ。 」

「 そう・・・? それなら  いいけど 」

「 もう忘れてたし ―  あれは加速装置のメンテだったから

 きみのメンテとは違うもの。 

「 ・・・・・ 」

ジョーは あの体験 を 誰にも詳しくは語っていない。

博士も フランソワーズも 彼がたまたま少し早めに目覚めた、という程度にしか

聞かされてはいないのだ。

 

    ・・・ 思い出したくない。

    どんな闘いも 恐ろしいと思ったことは 一度もないんだ。

    生き抜くために、敵を倒すために必死になっている時に

    恐怖は 感じないよ。

 

       ― でも。   あの恐怖は  嫌だ。

 

    ココロの底から凍る想いは  もう沢山なんだ。

 

    あんな恐怖は 二度と味わいたくない。

 

    そして 仲間の誰にも味わってほしくない

    ぼくを最初で最後にしてくれ ・・・ !

 

 

ジョーは 自分自身の意識の中でも < 封印 > し、

ことさらココロの奥の奥に 閉じ込めていた。

 

 

 

「 フランソワーズ。 主要なメンテナンスは地下の研究室で行うがな

すぐに 自室に戻す。 あとは データをチェックしつつ

しばらく眠っているだけじゃ。 」

「 はい、 心配はしていません。  あ 心配なことは 」

「 うん なんだね? 」

「 食事です! 」

「 食事?  ああ ちゃんと点滴で栄養補給はする、心配ないよ。 」

「 いえ わたし、 じゃなくて。

 わたしが眠っている間の 博士とジョーの食事です〜〜〜

 ・・・ チン!の連続になっちゃう?? まさか ・・・ カップ麺・・」

「 あ 最近のカップ麺って 美味いんだぜ〜〜

 それにね カップ飯もあって なかなか食べられる。 」

「 だめよ、冗談じゃあないわ。

 いいわ、 わたしのメンテの間の分、作り置きしておくわ ! 

「 ありがとうよ、しかしなあ 気にするな。

 いざとなれば 我らが料理人に頼む、という手がある。 」

「 あ いいですね〜〜〜 張々湖飯店の晩御飯〜〜なんて最高♪ 」

「 おいおい? 二人で食事当番、するぞ? それが基本。

 大人に助け船を求めるのは 最後の手段じゃ 」

「 へ〜〜い ・・・ レトルト食品、買いこんでこよ ・・・ 」

「 ふふん ワシが手料理を食わせてやる。 

 お前は 皿洗いに徹するんじゃな 」

「 うわ〜〜〜お ・・・ 博士の  手料理  !!! 」

「 なんだ、そんな大事か? ワシだってな、学生時代は自炊して

 おったのだぞ?  」

「「 え〜〜〜〜〜  」」

「 おいおい フランソワーズまで・・・ 

「 あ あら ・・・ ごめんなさい 博士 でもちょっと意外で 」

「 ふん。 なんとでも言うがいい。 ワシのチキンのトマト煮は

 かなり評判じゃった。 これは本当だ 

「「 ひえ 〜〜〜  あ ごめんなさい でもぉ〜〜 くふふふ・・・ 」」

若い二人は 笑いが止まらない。

「 ふん! 重ね重ね失礼なヤツらだな。 

 いいチャンスじゃ、ジョー しっかりワシのメシを味わってみろ 」

「 は はい 」

「 ・・・ジョー あとで感想 教えて ・・・ 」

「 う うん ・・・ フラン。 胃薬、買い置き ある? 」

「 ええ あとで ね 」

「  ― なんじゃと? 」

「 なんでもありませ〜〜〜〜ん  」」

 

 メンテナンス前日は 明るい雰囲気ですごすことができた。

 

 

そして 翌日 ―

「 では リラックスして・・・ これを飲んでおくれ 」

博士は カップを差し出した。 温かい湯気が漂っている・・・

「 はい ・・・ 

「 まあ 睡眠導入剤のようなものだ。 自然な眠気がやってくるのでな

 そのまま眠っておくれ。 」

「 はい。  ・・・・ 美味しい ! 

「 ふふふ ・・・ 飲み物には煩いイギリス紳士に協力してもらったよ 」

「 まあ それで・・・ ミルク・ティみたいな優しい味 ・・・ 」

  ふぁ ・・・・   彼女は小さな欠伸をもらした。

「 さあさ そのまま眠ってよいよ 」

「 はい ・・・ お休みなさい ・・・ 」

フランソワーズは カップを置くと、ゆっくりと身体を倒し横になると

ごく自然にまぶたが落ちてきた。

 

「 ふむ ・・・ 」

最小限の計測端子を装着し 博士は慎重にデータを読んでいる。

「 ・・・ よし。 ジョー? 開始するぞ 」

「 はい 博士。 」

防菌服を身に着け ジョーが静かに入ってきた。

 こうして 003の定期メンテナンスが開始された。

 

 

 

 トン トン トン ・・・

 

階段を降りる足取りは 軽く弾んでいる。

「 う〜〜ん ・・・ ああ 本当によ〜く眠った〜〜〜って

 気分よ。 メンテの後って いつもなんとなく頭痛がしたりしていたけど

 今回は  とっても気持ちがいい ・・・・ 」

 

 

自室で着替えをすませ しばらくベッドに腰かけていた。

「 ・・・ うん どこも不具合はないわ ね?

 じゃあ ・・・ ちょっとストレッチしよっかな〜〜

 随分眠ってたみたいよね、身体が強張っているわ。 」

床にペタン、と座ると いつものストレッチを始めた。

お気に入りのパンツ姿で 彼女は悠々と腕脚を伸ばし 関節を動かし

自由に動ける爽快さを 味わっていた。

 

   うん ・・・っと。    あら ―  ?

 

   それにしても  なんだか静か過ぎない? 

 

外の音、いつも聞こえる遠くの国道を通るクルマの音 がない。

そして なにより四六時中 響いてくる潮騒が  ・・・ 聞こえない。

 

「 あ  きっと博士がわたしの部屋の周囲を 防音シールドしてくださったのかも・・・ 

そうよね  メンテの最中って 不要な音まで拾ってしまって

 後から頭痛のモトになったりするもの 」

今まで 003のメンテナンスは簡易的なものが多く 半日ほどで終了していた。

完全なシステム・ダウンではなく 半覚醒状態が多かった。

 

「 いろいろ考えてくださったのね〜〜

 う〜〜ん  なんかすっきりいい気分。 これなら外に出ても大丈夫だわ。 」

ストレッチをし、さっぱりした気分になった。

カーテンの隙間からは 温かい日差しが床に伸びている。

「 ・・・ あら いいお天気だわ。 きっと外はもっと気持ちがいいわね。

 さあ 普通の生活 開始〜〜 」

フランソワ―ズは ぽん、と立ち上がり さささ・・っと服装を直した。

「 うふふ〜〜  博士もジョーも 予定より早く覚醒したのにびっくりよ?

 ああ こんなにすっきりした気分、久し振り〜〜 

 そうよ きっちりメンテナンスして頂いて システムのバグが一掃されたのね 」

 

   カチャリ。  寝室から 彼女は軽い足取りで 出ていった。

 

 

「 あら 温かい?  今日はお天気がいいのね〜〜    あ ら ? 

 

 

    鳥の声が 聞こえない。  木々の葉擦れが 聞こえてこない。

 

 

「 ?? ど うしたの?? だって風は少しあるみたいだし ・・・

 この陽射しなら スズメさん達がいっぱい来てる はず ― 」

 

彼女は あわててリビングの窓際に駆け寄った。

陽射しの温か味を十分に感じつつ   ガラリ。  窓を大きくあけた。

まだ少し冷たい空気が 流れ込む。

 

    ・・・ ああ 気持ちいい ・・・

 

        !!

 

      音が    ない ・・・?

 

「 なぜ ?! 」

庭サンダルをつっかけると 中庭に駆けだした。

 

   サク サク サク ・・・ !

 

見慣れた庭、歩きなれた庭なのだが ― 足触りもいつもの通り なのだけれど。

 ― 音が 聞こえない。

 

「 !   あ。  < 耳 > のスイッチを完全オフにしているんだわ〜 

 いやねえ ・・・ もう。 あわてん坊さん ・・・ 」

 

  ・・・。  意識の中で < 耳 > のスイッチを入れる。

試しに 最高レベルにあげてのスイッチ・オン にしてみた。

 

 すぐに 雑多な音が溢れ雪崩こんでくる  ―  はず ・・・ 

 

それは騒音とほぼ変わらないので、彼女は身構えた。

一種、< ココロの耳セン > をしていないと 精神的にたまらない。

「 ・・・ っと ・・・? 」

 

            ・・・・・・・・・・

 

     え??  ウソ?   スイッチが 入らない???

 

            ・・・・・・・・・・・・・・  

    

      人工聴覚はなにもキャッチしないのだ。

 

「 やだ ・・・ メンテナンスのせいかしら。 ・・・ ん! 」

 

003の 超視覚 と 超聴覚 へのスイッチは完全に 意識下で

行われる。 彼女が < 視よう >  < 聴こう > と 意識することで

補助脳とリンクしてあるスイッチが稼働するのだ。

 

       しかし。 

 

今 何回 意識しても ― 耳からは なんの音も入ってこない。

 

「 う ・・・そ?  メンテナンスで聴覚をシステム・ダウンしてるの? 」

でも、 と 彼女は思う。

「 さっき わたしは自分の部屋のベッドで目覚めたわ? 

 状態を記録するための端子は アタマにも身体にも

 どこにも付いていなかった ・・・

 メンテナンスは 終了しているはず、よ ! 」

 

  しかし。 何十回 トライしても < 耳 > のスイッチは入らない。

彼女の周囲は 無音の空間がどこまでも深々と広がっている。

 

「 ! これ トラブルよね?  博士〜〜〜 < 耳 > が

 なにかヘンなんです〜〜〜 」

 

フランソワーズは 慌てて博士の書斎へ駆けていった。

 

    ドンドン ドン ・・・ !

一階の奥にある部屋の ドアを叩く。

「 博士 博士〜〜〜〜  フランソワーズです〜〜 あの 」

 

  ・・・ いくらドアを叩いても 返答がない。

 

普段、在室であれば ドアは少し開いているし、 カタチばかりのノックをすれば

すぐに 『 開いているよ 』 の穏やかな声が聞こえてくる。

 「 ?  博士、 お休みなのですか?  ― 失礼します〜〜 』

 

   カチャ。  思い切って ドアを開けた。

 

部屋の主は いつもと同じに大きな机の前に座っていた。

「 あ 博士〜〜〜 あのう < 耳 > が 」

彼女は 中に駆けこむと すぐに訴えた。

「 ・・・・・ 」

博士は 机に向かってなにか書きモノをしているふうなのだが。

「 ? 博士?  あの ・・・ 聞こえます? わたしの < 耳 > が 」

「 ・・・・ 」

自然に声が大きくなって ― 叫んでしまった。

 

   しかし。   大きな背中は 振り向いてもくれないのだ。

 

「 ?  博士!?  ギルモア博士ってば? 」

思わずその肩に 手を伸ばしてしまったが。  

 

    す ・・・ 。

 

彼女の手は 博士の肩を通りすぎてしまった。

「 え !?  ・・・ うそ??  もしかして ・・・

 わたしのこと  見えてない の?

 わたしの声   聞こえてない の? 」

不躾、とは思いつつも 机の前に周り、博士の顔を覗きこんだ。

「 博士! わたしです、フランソワーズ ・・・ 003 ですっ 」

声高な響きは 空間に吸いこまれ誰も応えてくれない。

「 ・・・ わたし、 壊れてしまったの???

 でも  故障を直せるのは 博士だけ なのに ・・・ ! 

 博士〜〜〜 ねえ ギルモア博士ってば〜〜〜 」

ゆさゆさ・・・ いつも頼もしい、と思っている広い肩を揺らしたいのに

 

    す ・・・ 彼女の手は肩に触れることができないのだ。

 

「 ・・・ な なに??  わたしの手 ・・・ 素通りしてしまう?? 

 ! 博士が なにか書いていらっしゃる わ ! 」

博士は 机の上にノートを広げ 手にはペンを持っている。

「 な なにを?  え?  Francoise ・・・・?  

 わたし に?  ああ やっぱりなにかあったんだわ!

 博士〜〜〜 ねえ わたし、どうしちゃったんですか 

 

「 ・・・・ 」

ところが 博士は書きモノの手を止めると立ち上がった。

「 ・・・・ 」

「 え なに? なにを仰ってるんですか? 」

「 ・・・・ 」

博士は 彼女の言葉、必死の呼びかけなどまるで眼中になく ドアに向かって

声を上げている ・・・ ふうなのだ。

「 博士〜〜〜  どうしたんですか 〜〜 

 

  ガチャ。  ドアが開いた。

 

「 !?  誰?   ―  あ  ジョー 〜〜〜 ! 」

ドアの向うには 茶髪の青年が立っている。

「 ジョー!  ねえ  < 耳 > の不具合が起きたみたいなの!

 あのね 全然聞こえないし 〜〜  ・・・? 

 

「 ・・・・ 」

ジョーは にこやかにそして穏やかに 博士の書斎に入ってきた。

「 ・・・・ ・・・・ 」

博士も 穏やかに話をしている。

 うん うん・・・と ジョーが頷く。

ぽんぽん・・・博士が彼の肩を軽くたたく。

二人は いつもの通り、ごくごく自然に そして 穏やかに話をしている。

 

 ― しかし。

 

「 !? ねえ!  二人でなにを話しているの??

 わたしの声、 聞こえないの?  ・・・ ねえ わたしのこと・・・

 みえてる?? 」

 

彼女は 彼らの周りを飛び回り、必死になって声をかけた。

ジョーの肩を ジョーの腕を 引いてみるのだが ―

 

   す か ・・・。  彼女の手は 彼の身体をすり抜けてしまうのだ。

 

「 ・・・ わたし ・・・ ! 」

 

彼女は きゅ・・・っと手を口に当て後ずさりで博士の書斎を出ていった。

 

 

 

リビングは 温かい日差しが溢れている。

レースのカーテンが引かれているが 室内はほんわりと温かい。

テーブルの上、 シクラメンの鉢植えがまだまだピンク色の花を豪勢に

咲かせている。 

サイド・ボードの上にある花瓶には つん・・・と伸びた枝に桃の花が

あちこちを向いて開いている。

 

  チ −−−−−  チチチ  ・・・・ !

 

ベランダに遊びにきた小鳥たち、 輪切りのミカンを啄み 戯れている。

ソファの上には 読み止しの新聞が置きっぱなしだ。

これはいつもの博士の習慣、というか 癖で 毎朝フランソワーズが

少々ため息をつきつつ・・・ 端のラックに片づける。

 ― いつもの 静かで穏やかで 当たり前のギルモア邸のリビング風景だ。

 

 

最近 晴れた日には ベランダでランチを取ることもある。

「 博士〜〜  とっても気持ちがいいですから こちらでお昼にしましょう〜 」

「 お いいなあ ・・・ う〜〜ん 太陽の光はいいのう 」

「 ねえ?   ジョー テラス・チェアを運んでくれるう? 」

「 オッケ〜 あ ついでにランチも運ぶから ・・・ 準備は? 」

「 あとは紅茶を淹れるだけ よ 」

「 そっか♪  そっちは任せるよ 」

「 ええ。  ふ〜〜ん ・・・ なんかいい香ね? 」

「 どれ? ・・・ おお 沈丁花がそろそろ開くのではないかな  

「 じんちょうげ?  香水みたいにいい香り〜〜

 こんなにいい香〜〜 お花の匂いなの? 」

「 あ〜 沈丁花かあ  うん 木に着く花なんだ。

 ぼくの育った教会にはさ たくさん沈丁花が咲いてて・・・

 この匂いがすると あ〜〜〜 春だあ〜 って思ったな 」

「 ふうん ・・・ ね ウチにもその木 あったの? 」

「 ははは  玄関の脇に白とピンクが植えてあるんじゃよ。

 まあ 地味で小さな木じゃから 

春になって花が咲かないと気がつかんだろうな 

「 まあ・・・ 春のお知らせさん なんですね?

 ふ〜〜〜ん ・・・ 冷たくて甘い かな? 」

「 上手いこと、言うね フランソワーズ。

 裏庭の梅が咲いて 玄関脇の沈丁花が咲いて  あとは桜さ! 

「 そうさなあ ・・・ ここは荒地じゃったが お前たちがいろいろ・・・

 花木を植えてくれたので 豊かな春を楽しめる。 

「 ふふふ・・・ そうですね〜〜 ウチはいっつもなにかの花が 

 咲いてますものね  」

「 なんかさ ・・・ いいよね〜〜 こういうの 」

「 ええ いいわね♪ 

「 ぼく ・・・ 好き だなあ ・・・ きみにぴったり。 」

「 え なあに? 」

「 い いや ・・・ あ さあ ランチにしようよ〜〜 

「 そうね ああ いい気持ち〜〜   あ。 フォークがないわね 

 すぐに持ってくるわ  」

「 あ いいよ〜〜  今日のランチなら ほら 指で摘まんでたべようよ

 〜〜〜ん ・・・ ウマい♪ 」

「 あまり行儀がいいとはいえんが  こんな春の日にはぴったりかもなあ

 ふふふ ・・・ ピクニックにきたみたいじゃ 」

「 ね?  へへへ ・・・ このソーセージ、美味いね〜 」

「 あらあら ・・・ ま いっか。 うふふふ  美味しいわね 」

 

    春の陽射しは ベランダ・ランチの最大のご馳走だった。

 

 

屋敷の裏庭には 温室があったり広い洗濯もの干場がある。

「 さ〜て と。  お洗濯もの 乾しましょう〜〜 」

朝一番に洗い上げた洗濯ものを籠いっぱいにして フランソワーズは庭下駄を鳴らす。

 

    ひゅん 〜〜〜〜   小さなつむじ風が吹いてくる。

 

「 ・・・ さむ ・・・ 風が結構強いわねえ ・・・

 でも きば〜〜っと ばっちり乾くわね 

ここはかなり温暖な地域なのだが 冬の晴れ日は やはり空っ風がふきぬける。

「 えっと ・・・ 」

洗濯カゴの中から ロープを出してず〜〜〜っと引っ張る。

「 うん ・・・ しょ・・・っと   あ? 」

 

   ビン ッ !   撓んでいたロープがきっちりと伸びた。

 

「 ??  あ  ジョー ・・・ 」

「 こっちはぼくが引き受ける。  きみは 洗濯もの、干してゆけよ。 」

「 わあ ありがとう〜〜  うふふ ぱりっと乾くわよ 」

「 そうだよね〜〜  」

「 ・・・ あ。 ジョーは 洗濯ものは乾燥機、のひと?

 だったら ・・・ 天日乾しは イヤ ? 」

「 あ ううん ううん〜〜  施設じゃさ〜 皆 こう だ〜〜〜っと

 ロープ張って だ〜〜〜っと干してた 

「 うふ じゃあ いいわね。

 あのね わたし ・・・ お日様の匂いって いいなあ〜〜〜って。

 このお家に来てからすごく思うの。 」

「 あ そうだよね。 ぱりっと乾いたタオルとか いい匂いだよね〜

 ・・・へへへ ・・・ シャツやパンツも ・・・・ 」

「 わたしの兄もそう言ってたわ。  だから ほ〜〜ら ・・・ 」

「 ・・・ あは ・・・ 」

フランソワーズが ぱっと広げた手の先には  満艦飾の洗濯ものが

関東の冬の風に へんぽんと翻っているのだった。

「 えへ ・・・ ウチの匂い って これかな〜〜 」

「 え? 

「 あ  あの さ。 このごろ 思うだけど。

 お日様の匂いが ウチの匂いかな〜〜〜って。 」

「 そうよねえ  あ ジョー お布団、 乾した? 」

「 ウン。  ブランケットも自分の部屋のベランダにひっかけてきた 」

「 今晩は お日様の匂いの中で眠れるわね 」

「 そだね〜〜  ・・・ えへ  きみもいつもお日様の香、するよ 」

「 え そう?? 」

「 ウン。   特にさ〜 その・・・ 髪が ・・・・ 」

「 髪??  え そう?? 

彼女は思わず自分の髪の裾を 指に巻いてみた。

「 ウン。 金色で お日様の香がしてさ〜〜  ぼく 大好きなんだ 」

「 うふふ ・・・ 髪 だけ? 」

「 え!?  そ そんなこと ・・・ ないよぉ〜〜 

 髪だけじゃないよ きみ全部が  ― あ〜〜 そのぅ〜〜 」

「 ふふふ  ジョー。 わたしも お日様の匂いがするジョーが 好き♪ 」

「 !?  う わ〜〜お〜〜〜 」

「 ね ここは本当に素敵なお家ね 

「 うん そうだね〜  ― ぼく  やっと見つけた ・・・ ウチ をさ 」

「 ・・・ ジョー ・・・ 」

 

   冬の最中でも この家の住人たちは自然を愛で穏やかに暮らしている。

 

       ああ   こんな日が ず〜〜っと続いてほしい ・・・ !

 

 それは フランソワーズだけではなく仲間たち 皆の望みなのだ。

 

 

           それ なのに。

 

 

 

 

     ことん。  ソファの隅に金色のアタマが縮こまっている。

 

腕と脚を縮め 膝に額を当てる。 ぎゅ・・・っと拳で両耳を抑えた。

 

      きこえない ・・・ なにも! 

      身体の音、さえ 聞こえない ・・・ ! 

 

      誰も わたしのこと、見ない。 

      わたしの声が とどかない。

 

    この世界に わたし ただひとりきり。 

   

      ああ   この孤独には  ・・・ 

      耐えられない ・・・ !

 

 

Last updated : 03,05,2019.               index     /    next

 

 

***********   途中ですが

原作・あのお話 の フランちゃん版〜〜〜☆

< あの事故> は 誰のメンテでも起こる ・・・ かも?

体調不良で 短くて ・・・ すみません〜 <m(__)m>