『 その木 何の木 ― (2) ― 』
もじもじもじ。 ごそごそごそ ・・・
目の前の人物は俯き ― どうやら 顔を赤くしているらしい ―
自分の足元ばかり見つめているのだが。
「 はあん? なんじゃね ・・・
すまんが ジョー。 もう一回 言ってくれたまえ 」
ギルモア博士は いい加減イライラしつつもできるだけ穏やかに訊ねた。
さっきから ず〜〜っと。 この茶髪少年は もじもじ・ごそごそ を
繰り返しているのだ。
「 え ・・・ あ あのぅ ・・・ ですね ・・・
あのぅ ・・・ う 裏山に入って 木とか 草とか・・・
もってきても いいですか? 」
彼は押し出すみたいにやっと 全文を口から引っ張り出した。
「 裏山ぁ?? 裏山って ・・・・ ウチの後ろの薮のことかね 」
「 薮 ・・・ じゃあないと思いますけど ・・・
木とかもいっぱい生えてますよねえ 」
「 ああ? そうかね?? あそこのことは よくわからんのだよ。
地主のタナカさんがなあ とにかく一緒に持ってってくれ・・・と
強引に押し付けていった土地なんじゃが 」
「 え ・・・ 押し付けた ?? 」
「 そうじゃよ なんの価値もない土地で 置いておいても誰も
買ってくれんから と なあ・・・
もっとも ココも ― この邸の土地も引き取り手のない地所で
ほんに 二束三文で譲ってくれたのじゃよ 」
「 へ え・・・ ぼく ここ 好きですよ〜〜〜
お日様 いっぱいで眺めは最高だしね 」
「 そりゃ まあ ・・・ 」
「 それで あのう〜〜〜 裏山 入っていいですか
そんでもって 木 とか 花 とか取ってきても いい・・・? 」
「 別に構わんが ? しかし価値のあるモノはないよ 」
「 いいです ・・・ あのぅ あそこには雑木林があるだけですか 」
「 恐らくな。 ワシも詳しくは知らんのだよ。
あの向こうは一応国有林らしいが 放置状態と聞いたな 」
「 へえ ・・・ じゃあ あそこもウチの庭の一部ってことですね 」
「 登記上は な。 しかしなにもない ・・・ 」
「 いいんです〜 あのう ちょっと行ってきます〜〜 」
ジョーは キャップを被ると そそくさ〜と出ていった。
「 ・・・ ほんに変わったコじゃのう ・・・ 」
そんな彼を ギルモア老は首を捻りつつ見送った。
― さて。 裏山 とは ・・・
ギルモア邸の建つ地所に続いている荒れた山地。
ほぼ価値のない土地なので 地主さんは二束三文でもいいから
邸の土地と一緒に買ってくれたら嬉しい といった。
結局 博士は裏山も購入したが 現在は手つかずの状態。
いずれ こっそり格納庫や滑走路などを建築する計画は ある。
計画だけ は。 ― 実行するつもりは ・・・ はて どうだろう。
いまは 雑木林の集合体?で ハクビシンなんかの棲み家に
なっているようだが 詳細は不明・・・ というモノなのだ。
「 ま、 いろんな木があるから ・・・
フランの垣根に使えそうな木、見つかるかも 〜〜 」
ヒュウ −−−−−−
温暖といっても真冬のこと、乾いた北風が吹き抜ける。
「 うひゃあ・・・ さむ〜〜〜〜 やめよっかな・・・
! いや! 誕生日 なんだよ〜〜〜 フランの喜ぶもの、
準備するんだ〜〜〜〜 なんか見つかってくださあい〜 」
ジョーは実にあやふやで見通しの甘い魂胆で
裏山に足を踏み入れることにしたのだが。
キ ィ ・・・
裏庭の柵の隅にある扉は 軋み音をまき散らしつつ 開いた。
「 ・・・ へえ こんなトコに出口あるの、知らなかったなあ 」
ガサガサガサ −−−
彼は 膝丈まで伸び放題の枯草を踏み分けていった。
「 うわ・・・ すげ〜〜〜 ジャングル??
ひゃあ ・・・ ライオンとかヒョウがでてくるかも〜〜〜
野良でさ、いそう〜〜 がおお〜 ってさ ・・・うへえ 」
― ジョー君。 ここはニッポン。 野良ライオンとか野良豹は いません。
「 うわっぷ ・・・ 蜘蛛の巣 だあ〜〜 」
低木と枯草の中を行軍してゆく。
「 ・・・ な〜んかちっこい木とか草ばっかだなあ〜〜
え これってススキの枯れ残り?? すげ〜な〜〜 オバケみたい・・・
・・・ あれ ? 」
しばらく進み 低木の茂みを周り込むと ― 視界が開けた。
「 な・・・んだ? あ〜〜〜〜〜 池があるぅ〜〜〜 」
なんと 雑木林の奥には かなりの広さの水面が広がっていた。
ズブ ズブズブブブブ ・・・・
だんだん足元は柔らかくスニーカーは地にめり込み始めた。
「 あっちゃ〜〜 これ以上は ・・・ どぼん かあ? 」
足を止め 身を乗り出してみれば ― < 池 > は澄んだ水を湛えている。
「 へ え ・・・ あ〜〜 すごい〜〜〜
藻がわさわさだあ〜〜 お。 魚 いるじゃん??
こんど 釣りに来ようかな・・・ あ あの枝に座ってさあ 」
池の上には なにか大きな木が枝を差し伸べている。
水面は時折 風がさざ波をたててゆくだけ ・・・
「 ふう〜〜ん ・・・ ウチの裏にこんな自然があるんだ?
へえ〜〜〜 いつからこんなカンジなのかなあ 」
足元に気を配り、彼はそろそろと移動してゆく。
「 ・・・ な〜〜んか ちょっと感動だなあ〜〜
あれえ この辺でも小さな低木ばっかだなあ
なんかよさそうな木 ないかなあ ・・・ 」
目的の < 手頃な木 > は なかなか発見できない。
低木でも横にかなり広がっていたり 蔓草が絡みついていたり・・
「 う〜〜〜 引っこ抜くにも お持ちかえり にも便利なのって
どっかにないかなあ〜〜〜 」
・・・ ココは生花店じゃないからねえ・・・
池をすぎると 大きな樹も目立ち始めて薮というより林っぽくなってきた。
トントン ・・・ 硬い幹を叩いてみる。
「 でか〜〜い ・・・ あ ? この樹、みたことあるよ?
たぶん ドングリとか生るヤツじゃね? いいな〜〜〜 」
・・・ しかし コレを引っこ抜いてゆく のは 〜〜〜
「 ううう・・・ そりゃ できるけど さ。 でも〜〜 」
そう そりゃ確かにちょいとヤバいんじゃないかい ジョー君?
「 ・・・だよなあ ・・・
あ〜〜 どうしよう〜〜〜 なんか なんでもいいや ちっこい木
ないかなあ〜〜〜
」
適当に持ち帰り可 な サイズの木は・・・と 彼は辺りを見回す。
「 あれ・・・? この辺はでっかい樹ばっかじゃん?
じゃあ さっきの雑木林の辺りから 引っこ抜いてゆくか・・・
垣根にするっていうなら 種類に拘りはないだろうし 」
あれ ・・?
< さっきの雑木林 > に戻ろとして はた、と立ち止まってしまった。
「 ・・・・? 」
どの方向から来たのか ・・・ さっぱりわからないのだ。
「 え〜〜と? あの池を半分 回ったから ・・・
こっち側から行けば ・・・ いいよな? 」
太陽の位置を確かめようと 空を見上げたが急に雲がかかったのか
どんよりしている。
ジョーは ど〜んと大きな樹の下を抜け 左に行けば池にでるはず、
と見当をつけて歩き始めた。
足元が さらに緩くなってきたのを感じつつ 彼は進んでゆく。
「 うん ・・・ あ お日様 出てきた〜〜〜 ぼやっとしてるなあ
えっと こっちにあるから ・・・ この方向で
合ってるよな ・・・ たぶん 」
ザクザク ザク ・・・ 砂利が足の下に感じられる。
「 ・・・ あ なにか光った! 池だよね きっと 」
彼の足取りは 速くなってゆく・・・
― すると 突然
きゃ〜〜 あはは うわい〜〜 えへへ
光る水面を確認し池まで戻ってきた、とほっとした時 ― 子供の声がきこえた。
「 え ??? ・・・ 近所のガキんちょ か? 」
そもそもここは 一応私有地であるし
近所といえる地域に 民家はない。
「 え ・・・ 誰だ? どこから入ってきたんだ? 」
彼は 枯草の間から前方を見回した。
あ あれ ・・・ ?
ようく目を凝らすと 人影がちらちら動いているのが確認できた。
そんなはずない・・・と さらにじ〜〜っと見ていると ―
子供だ ・・ 二人 いるのか?
小さな子供が二人 歓声を上げて遊んでいる。
枯草の間を ひら ひらひら ・・・ 二人は走り回っているのだが
蝶々か小鳥が飛んでいるみたいに見える。
「 だ だれだ ・・・? よく顔 みえないけど・・・
え ・・・ 翼 ある・・・? 飛んでるよなあ 」
あははは ・・・ 金色の髪が光る
えへへへ ・・・ 茶色のクセッ毛がぴんぴん撥ねる
わあ〜 ちっこい木 だあ〜
うわお ねえ ねえ 木のあかちゃんだね〜
ふんだら だめだよ〜〜
うん あかちゃん木 だいじ だいじ〜〜
「 ・・・ 知らないけど ・・・ 知ってる?
なんかめっちゃ懐かしいけど ・・・ なんでかわかんない ・・・ 」
ジョーは呆然として眺めるばかり。
やがて その二人はこちらに気付いたらしい。
ひらひら 走りつつこちらにやってきた。
あ〜 ごよう おわったのぉ?
わあ〜〜い ・・・さあん!
「 ! ・・・ よく顔 みえないけど ・・・
なんか どうしたらいい?
あつ〜〜〜い気持ちが 溢れてくるんだ・・・
知らないのに 知ってる気もする ・・・ なんで?? 」
当惑の極致にいるジョーに 彼らは満面の笑顔で突進してくる。
だっこしてえ 〜〜
だっこ だっこぉ 〜〜〜〜
「「 おと〜さ〜〜ん 」」
うわっ!!??
子供達は ジョーにむかって駆けてきて ― 飛び付いた。
― そして。
すう〜〜っと ジョーの中に溶け込んでいった。
「 な な なんなんだ〜〜〜〜〜 」
大慌てでダウン・ジャケットを脱いでばさばさ振ってみたりしたけど。
あの笑顔は あの天使?達は もうどこにも見えなかった。
・・・ 幻影 ・・・・?
ぼく 陽に当たりすぎたのか・・・?
カアカア 〜〜〜〜 頭上をカラスが2〜3羽 飛び過ぎて行った。
「 ・・・ なにやってんだ ・・・?
ってかさっきの ・・・ 夢 でも見たのか ? 」
とにかく 池を目当てに道を見つけなければ、 と ジョーは
足を踏み出した。
カツン。 彼の足元からなにかが飛んでいった。
「 ?? なにか蹴っ飛ばした?? 石 ・・・ じゃないよなあ
あれれ ・・・? 」
気がつけば足元付近の地面には ころころするものが散らばっている。
「 なんだ これ・・・ 」
スニーカーの爪先で ちょいちょい・・・と突いてみれば。
「 ・・・ あ これ。 ドングリ じゃないか
へえ ・・・ 沢山あるなあ〜 丸っこいのと あ こっちのは
長っぽそいぞ? へえ〜〜 」
掌に拾いあげてみれば ― 形もさまざま 色合いも様々だ。
「 ふうん? あ それじゃこの近くにドングリの林があるのかなあ 」
振り返って辺りをきょろきょろしてみたが よくわからない。
「 ・・・ さっきのチビ達 これを拾ってたのかもなあ 」
コロロ コロン。 掌でドングリが転がる。
「 そっか ・・・ これがちっこい木になるんだよ・・・
そっか! 垣根って これを撒けばいいさ 」
ころん ころころ ・・・ ドングリは可愛いけどとても小さい。
「 でもなあ ・・・ コイツらが 垣根 になるまでは
多分10年とかじゃ足りないだろうなあ
でっかくなってゆくのを見るのは楽しみだけど さ 」
カッコロ。 ぽ〜〜ん ・・・
ひとつ 放り上げまた受け止めて。
「 ・・・ あ ・・・? 」
ジョーの視界には 周りの雑多な種類の木々が入ってきた。
「 ふうん ・・・ ここにはいろんな木がたくさんあるんだなあ
あ うん ・・・ この中から 選べばいいさ
わざわざちっこい木、引っこ抜いて行くこと、ないよな 」
うんうん・・・と一人で頷く。
「 もう一回 池の向う 周ってみよ〜〜
ちゃんとチェックしておくんだ。 それで・・・
うん 案内するんだ〜〜〜 一緒に さ♪
誕生日おめでとう〜〜 って いろんな樹 みるんだ
・・・きっと 楽しいじゃん? 」
ころころころん。
丸っこいドングリはポケットの中で転がる。
「 なんか可愛いよなあ〜 お。 ちがう種類のもある〜〜
あ こっちは帽子 かぶってる〜〜 えへ かわいい〜〜 」
いつのまにか ポケットはどんぐりで一杯になった。
えへへへ ・・・
な〜んか いいなあ
これって シアワセの種 だよなあ
ってことは さ。
どんぐりって シアワセの木 ってこと・・・?
・・・ なんか いいかも♪
ジョーは どんぐり をポケット一杯にして帰ってきた。
「 ただいまあ〜〜 かえりましたァ〜〜〜 」
玄関から奥に声をかけてから 彼は庭の方に周った。
「 フラン〜〜〜 寒椿 は無事に植えた? 」
フランソワーズは 軍手に長靴 といった園芸スタイルで
まだ花壇の側を行き来していた。
「 ジョー。 お帰りなさい〜〜
ええ。 ちゃんと肥料もお水もあげました♪ 」
「 あ どこに植えたの? 」
「 あのね 玄関にゆく路の側。
あそこだとねえ テラスからも見えるの。 」
「 へえ ・・・ どれ? どの木? 」
「 ほら あそこの ・・・ 葉っぱが光ってるでしょう?
」
「 光る? ・・・ あ〜〜てらてらしてる ・・・ あれ? 」
「 そうよ 実生の木でね まだ小さいのよ 」
「 実生って タネから生えた木ってことだよね
へえ〜〜〜 あ じゃあ 親の木もあるんだ? 」
「 コズミ先生のお家の庭に ね。 とても大きな木でね
もうたくさん花が咲いていたの 」
「 ふうん ・・・ なんかちっこくて可愛いなあ〜〜
あ そうだ、垣根のことなんだけど さ ・・・ 」
ころころ ころりん ・・・
ジョーは膨らんだポケットから 一掴み、ドングリを取りだした。
「 垣根の木なんだけどぉ〜〜 」
彼は < どんぐり計画 > について話し始めた。
「 ・・・ ってのは どう? そりゃ時間はかかるけど ・・・ 」
「 ― ジョー ・・・ 」
「 え あ。 ご ごめん ・・・
そんなの イヤだよね ・・・ ごめん ・・・
でもさ あの・・・ ぼく、木を買ってくるほど、お金なくて・・・
その ・・・ ごめん ・・・ 」
ううん ううん ううん !!!!
彼女は涙を飛ばしつつ ぶんぶん頭を振った。
「 ・・・ ち 違う〜〜の〜〜〜 」
「 へ??? 」
「 ありがと・・・ すごく すごく 嬉しい・・・!
わたしがやってみたいな〜って言ったこと、一生懸命考えてくれて・・ 」
「 え ・・・ だってさ ・・・
きみが と〜〜っても嬉しそ〜に楽しそ〜〜に 庭いじりしてるから
・・・ あの ・・・ きみの笑顔 みたくて 」
「 うふふ ・・・ 本当にありがとう!
ね 垣根にどんぐりを植えるってすごく素敵ね!
ふふふ 今にねえ この邸の周りはドングリの樹で取り囲まれるかも」
「 うわあお ・・・ 岬のどんぐり邸?? 」
「 きゃあ〜〜♪ 殺人事件 とか起きそう! 」
「 殺人・・・って〜〜〜 フラン〜〜 」
「 うふふ だって楽しいじゃない?
その屋敷の庭には なぜか一本だけ椿の樹があった
冬になると その樹は全体が真っ赤に見えるほど花が咲いた。
― そう 血の色のように ・・・
・・・ なあ〜〜〜んて〜〜〜〜♪ 」
「 フラン〜〜〜 ミステリー・ドラマの見過ぎ〜〜
女の子なら ふつ〜 もっとロマンチックに考えない? 」
「 あらあ〜 そう? じゃあ ね・・・
荒れた庭の隅には 薔薇の木があった。
雑草に埋もれつつも 毎年 小さいけれど白く香たかい花を
咲かせている。
― あれは ある少年の想いを伝えているんだよ
・・・村の古老はつぶやく。
ってのは どう? 」
「 ・・・ フラン。 ラノベ作家にでもなる? 」
「 らのべ?? とにかくねえ 樹って楽しいでしょ?
いろいろ想像できるんですもの。 」
フランソワーズは シャベルや如雨露を片し始めた。
「 あ ぼく 運ぶよ。
そうだよね〜 樹ってさ なんか妄想しちゃうな
きみが 寒椿 なら ・・・ 皆は 」
「 え グレートやアルベルトのこと? 」
「 うん・・・ 一応 ここは < 皆の家 > だし? 」
「 ああ そうねえ・・・ 皆の家 ・・・ か
家 ね ・・・・ おうち ・・・ 」
彼女の視線が 切なく遠くに飛んでゆく。
あ ・・・ やっぱ淋しいのかなあ・・・
パリに帰りたい ・・・ だろうなあ
ジョーは慌てて言葉を継いだ。
「 え〜と なにがいいかなあ 」
「 ・・・ え? 」
「 ねえ なんの木がいいと思う? たとえば さ。 」
「 え〜〜 みんなのこと? 」
「 うん 」
「 そう ねえ ・・・ 勝手に選ばせてもらえば ― 」
ジェット は 夏ミカンの木 ピュンマ は 蘇鉄
グレート はねえ 樫 大人は 柿 ジェロニモは そうねえ 銀杏かな
アルベルト 樅の木 あ クリスマス・ツリー のことよ!
ジョーは ドングリがいっぱい生る木
フランソワーズは 指折り数えつつ楽し気に語る。
ジョーは その笑顔を眺めているだけでめちゃくちゃに嬉しかった。
植物には疎いので 夏ミカン とか 柿 くらいしか
実際のイメージはつかめなかったけど・・・。
「 あはは ・・・ ぼく ドングリかあ〜〜
・・・ 言わせてもらえば 白薔薇 よかずっと賛成! 」
「 うふふふ ・・・ わたしとしては 白薔薇の君 も
捨てがたいのですが〜〜 」
「 フラン〜〜〜 」
「 だって素敵よ? ねえ 薔薇の隣で写真、撮らない?
大ウケだわ〜〜〜 ・・・多分。 」
「 受けなくていいよ なんか 薔薇にシツレイな気がするし・・
あ なあ。 あのさ もう一枚、ダウン、着ておいでよ 」
「 ? なんで 」
「 うん ・・・ 裏山って結構冷えるんだ・・・
あの < その木 > 見に行こう? 探してみようよ 」
「 探すって・・・ 裏山で? 」
「 そ。 博士は なにもない って言ってたけど。
いろんな木があったんだ〜 それにね 池! 池があったよ 」
「 え 池?? へえ ・・・ 」
「 キレイな池なんだ ・・・ 藻が茂ってるのが見える 」
「 ふうん ・・・ あ ・・・ 虫とか いない? 」
「 この季節だもの、いないよ 」
「 なら 行くわ! ちょっと待っててね〜〜 」
フランソワーズは ぱたぱたと玄関に駆け戻って行った。
「 えへ ・・・ やっぱ可愛いなあ ・・・
あ ここ 片しておくかあ 」
ジョーは 箒でこぼれた土やら枯草を集め始めた。
ガサガサ ― 枯れ草を分け進んでゆく。
「 ・・・ ここが裏山 なの? 」
「 そ。 なんか別世界だろ 」
「 ウン。 ちがう国にいるみたい ・・・ あ?
あっちが明るいわ 池・・・? 」
「 うん その薮を曲がるとね 池なんだ 」
「 ・・・ うわあ〜〜〜 ・・・・ きれい 〜〜! 」
フランソワ―ズは 池の水際までゆき、乗り出して中を覗きこむ。
「 すご〜〜い ・・・ 藻がいっぱい ・・・
あ お魚もいるわ〜〜 」
「 ね? すげ〜透明度だろ? 」
「 ええ ・・・ これ 湧き水かしらね 」
「 多分 ね なんかミステリアスだなあ
あ こっちに周ってくれる? 」
「 ええ 」
二人は池を過ぎて 薮を抜けてゆく。
「 ・・・ 大きな樹が増えてくるのね 」
「 そうなんだ。 あ ・・・ ほら あそこ。 」
「 え? ・・・ わああ〜〜〜〜 」
ジョーが指す先には 見上げるほどの椿の木があった。
遠目には 真っ赤に見えるほど花がついている。
フランソワーズは なんだか恐る恐る近寄っていった。
「 すご ・・・ 花、小さいけど色が濃いいわ たっくさん・・・ 」
「 な? 裏山の奥にさ、こんなキレイな花が咲いてるって
なんか 凄いよねえ 」
「 ええ ・・・ ああ すごい ・・・ すてき! 」
フランソワーズは 溜息をつきその木を見上げる。
何年も ここで咲いていたのね ・・・
これからも ずっと咲いていてください
・・・ わたし ずっと見てます。
ずっと ・・・ 一緒です
「 これ さ ・・・ きみの木だよね フランソワーズ 」
「 え ・・・ そうだったら すごく嬉しいわ 」
「 あの ぼく ― 椿さんにも聞いてほしくて。 」
「 ?? つばきさんにも?? 」
「 ウン。 あのう ・・・
フランソワーズさん。 す す ・・・ すき です。 」
「 ・・・?? なにが。 ああ 椿ね?
ええ ええ わたしも大好きよ〜〜 この樹 素敵よ
気に入ったわぁ〜〜〜
」
「 あ ・・・ あのぅ・・・ 」
「 ありがとう ジョー ! とっても嬉しいわ 」
「 ・・・ あ あのう ・・・ ( え〜〜〜ん ・・・ )
フランソワーズ ・・ 誕生日 おめでとう!
ぼく なにもプレゼント、できないけど ・・・ おめでとうって
言いたくて この樹の前で ・・・ 」
「 ジョー。 素敵なプレゼント、ありがとう!
最高に嬉しいわ 」
「 え ・・・ だって ぼく ・・・ なにも ・・・ 」
「 裏山を案内してくれて。 この椿の樹、見つけてくれて。
どんぐりをいっぱい集めてくれて。
わたし めちゃくちゃに嬉しい!
この国に来て ここのお家に来て。 ジョーと会えて。
― 最高に シアワセ よ! 」
ちゅ。
ジョーの想い人は 心を込めてキスしてくれた。
・・・ 彼のほっぺに。
「 あ は ・・・ あの ・・・ ありがと 」
「 うふふふ ああ すごく幸せなバースデイだわあ♪ 」
「 ・・・・・ 」
え〜〜〜〜〜ん ・・・
フランソワーズぅ〜〜〜
すきだよう〜〜〜〜〜〜 きみが !!!
彼の心の叫び ― 果たして彼女の耳に 届いたやらどうやら。
いくら 003の聴覚 だっても ココロの叫び は 無理だよねえ・・
カタン。 カタコト ・・・ カチャン。
・・・ふわ〜ん キッチンのドアがいい香と一緒に開いた。
「 ミルク・ティ 淹れたよ〜〜〜 」
「 いい香り! ありがとう ジョー〜〜
あ トレイ 大丈夫? 」
「 ん ・・・ あ さわらないで〜〜〜 」
ジョーはかなり危なっかしい手つきで テイーセットの載ったトレイを
テーブルに置いた。
「 ・・・ ふう〜〜 なんとか ・・・ セーフ! 」
「 すご〜い 全然こぼれてないわよ? 」
「 ま まあ こんなもんさ〜 さ 飲もうよ〜〜
やっぱ裏山は冷えるね〜 」
「 ホント・・・ 素敵なものをいっぱい見られたけど
・・・ ちょっと寒いかも 」
「 熱々の、飲もう〜〜 」
「 ええ ・・・ おいし〜〜 」
二人は湯気の立つカップを抱え ふ〜ふ〜 ・・・ 笑いあった。
「 ねえ ジョーの木 ね・・ あ 白薔薇じゃなくて。
あれ ・・・ ぴったりだと思うの。
ほら いっぱい可愛い実を落とす ドングリの木・・・
橡 ( くぬぎ ) っていうのですって コズミ先生に教わったの。 」
「 へえ〜〜 くぬぎ かあ 」
「 椎 ( しい )っていう木もどんぐりが生るんですって 」
「 ふうん ・・・ いろんな形のがあるよね〜〜
裏山には いろんな木があるからさ
」
「 そうね 裏山ってちょっとワンダー・ワールドよね 」
「 うん。 あ そうだ!
ぼくね 飛び回ってるチビっこ達に会ったんだよ
こう〜〜 ひらひら ひらひら〜〜〜 」
ジョーは 腕をはたはた・・・振ってみせた。
「 飛び回る子供? あ〜 それって きっとね 妖精よ 」
「 妖精?? 」
「 そう。 森の精かなあ ・・・ あのね 水辺によくいるですって。
ふうん ・・・ 裏山に妖精がいるのね 」
「 あ ・・・ うん ? 確かにひらひら飛んでたけど ・・・
妖精ってムードじゃなかった かも ・・・ 」
「 でも すう〜っと消えちゃったのでしょう? 」
「 ・・・ うん ぼくの中に溶けちゃったみたい 」
「 それなら 妖精さんです。 裏山は祝福されているんだわ 」
「 ・・・ それなら いいけど さ 」
ジョーは なんとなく煮え切らない気持ちだった けれど。
ま いっか ・・・
フランと仲良くなれるきっかけ、出来たもんな〜
裏山は この邸の第二の庭となり住人達は散歩を楽しむことも
多くなった。
雑木林の中には シアワセの木 が いろいろ・・・ あるのだろう。
その木 何の木? シアワセの木 さ。
*****************************
― さて 数年 いや 十数年後 ・・・
ギルモア邸は健在だし 裏山もまだまだ雑木林の巣 だ。
住人たちは 皆元気で活躍している。
島村さんち には新しい顔が二つ、加わっているけれど。
ドタドタドタ バタバタバタ
賑やかな足音と一緒に 双子たちが駆けてきた。
「 おか〜さ〜〜ん オヤツ〜〜〜 」
「 おかあさ〜〜〜ん 」
フランソワーズは キッチンから顔を覗かせる。
「 はいはい 手を洗ってきてね 」
はあい・・・ と お返事と一緒に足音はバス・ルームに消え
すぐにまた戻ってきた。
「
「 おとうさんね いたよ 」 」
「 え? 」
「 うらやまにね おと〜さん いた! 」
「 うん いけのさきにね〜〜 おと〜さん 」
「 あらあ お父さんはお仕事でトウキョウの会社よ?
二人とも 寝ぼけちゃったのかなあ? 」
「 え〜〜〜 でもぉ おと〜さん だったあ 」
「 うん おと〜さん 」
「 おと〜さ〜〜ん って言ったら にこにこ〜〜って。 」
「 僕たち だっこ〜 って言ったら 」
「「 きえちゃったんだ〜〜〜〜 」」
すぴかもすばるも かなり真剣な顔だ。
「 あらあら じゃあ お帰りになったら聞いてごらんなさい。 」
「「 うん !! 」」
「 それじゃ オヤツよ〜〜 焼きたてオーツ・ビスケット と
ミルク・ティ。 はい どうぞ 」
「「 わああ〜〜い 」」
二人は < きえた・おとうさん > のことは 忘れてしまった らしい。
― その夜。
フランソワーズは そっと彼女の夫に聞いてみた。
「 え? 裏山? ・・・ しばらく行ってないよ? 」
「 そうよね ・・・ あの子たち 夢でも見たのかしら 」
「 あ〜 コドモはさ 現実と夢がごっちゃになるもんさ
さて と。 ちょっと二人の寝顔 眺めてくるね 」
ちょいとオジサンっぽくなってきたジョーは 怪訝な顔をするだけで
そのまま 子供部屋に上がって行った。
彼の細君も それ以上は聞かなかったし すぐに忘れてしまった。
妖精達 は とっくに実体となって彼らの前に出現しているのに ね?
********************** Fin. ********************
Last updated : 01.25.2022.
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********** ひと言 ********
例によって な〜〜〜にも事件は起きません。
ごく平凡な日々 ・・・
でも それが一番大切 と思うのです (+_+)