『 その木 何の木 ― (1) ― 』
ピンポ −−− ン ・・・・
何回かチャイムを押したが 邸の中から返答がない。
きっちり背広を着込んだイギリス人は ネクタイを緩めため息を吐いた。
「 ・・・ 誰もおらんのかね。 吾輩の到着を忘れたのかい 」
よっこらしょ・・・と小型のスーツ・ケースを持ち上げ ―
「 あ! ごめんなさ〜〜〜い グレート〜〜〜 庭にいたのよぉ〜〜 」
軍手を泥だらけにし 長靴を履いた乙女が庭から駆けてきた。
手には 小型のシャベルを持っている。
「 いらっしゃ〜〜い グレート! 」
「 おう マドモアゼル。 < ただいま > 」
「 うふふ・・・ ごめんなさい、玄関のロックをすぐにはずすわ 」
「 メルシ マドモアゼル ご精がでるなあ 」
「 ?? なにも出ないわよ? ちょっと待っててね〜〜 」
シャベルを振り回しつつ 彼女は庭の方に引っ込んだ。
カチャ カチャン ・・・
銀盆に乗せたティーセットが 香高い湯気をふりまきつつ
運ばれてきた。
「 はい お茶 どうぞ〜〜〜 」
「 おう これは忝い ・・・ ん〜 よい香りであるな 」
「 ふふふ これねえ ここの、地元のフレーバーなの。
今 ウチ中で気に入っていて。 是非 グレートに吟味して欲しいわ 」
「 ふむ・・・? 」
「 わたしも〜〜〜 っと。 」
ぽすん。 カチャ トポポポポ〜〜〜
彼女はイギリス紳士の向かいに座ると 自分のカップに
ミルクを盛大に注いだ。
カップを持ち上げたまま 紳士は少々眉を顰めた。
「 マドモアゼル。 まずはそのまま香を だな 」
「 わ〜かってますって。 でもね〜〜〜 わたし ミルクたっぷり、
が好きなの。 ・・・ん〜〜っと 」
「 やれやれ ・・・ 今時のワカモノは 」
イギリス紳士は肩を竦めると ゆっくりとカップを傾けた。
ん ・・・ ああ 〜〜〜 これは。
彼は ふう〜〜〜〜っと吐息を漏らす。
「 なるほど ・・・ これは 太陽の、この地域の陽の香が
昇ってくるなあ 」
「 でしょ? まだね ここの商店街で売ってるだけなんだけど
皆がファンなの。 ミルクいれると もっと優しい味になるのよ 」
「 ふん ・・・? 茶髪ボーイあたりは 砂糖も 」
「 はい〜 どばどば☆ ミルクもどぼどぼ。
そして お〜〜いし〜〜〜〜 って ごくごく飲み乾すの 」
「 は ・・・! そりゃ この上質な茶葉への冒涜だ! 」
「 え〜〜 でもね 美味しく飲むのが最高 でしょう? 」
「 ふ ・・・ では 吾輩は正式に優雅にいただこう。
・・・・ ん ・・・ これは帰国前に買いこんでおくとしよう 」
「 ね! 宣伝して? 皆でね〜 地域ブランドを応援したいの 」
「 ほう? マドモアゼル、この地域にも馴染んできたかい 」
「 ええ。 ・・・ のんびりしたいい土地ね 」
「 そうだなあ ・・・ 」
伯父姪ほど 年齢の離れた二人だが 同じ想い を分け合っていた。
この地に住みついて。 ・・・ようよう慣れてきた。
気候にも この国の生活習慣にも ― そして ニンゲンにも。
地元の人々と 自然に交流し始めている。
商店街では 顔なじみとなりいろいろ・・・ 教えてもらっている。
博士も 煙草屋のご隠居と懇意になったことを皮切りに
< 岬のご隠居さん > として碁会所でも親しまれている。
「 美味しいパン屋さんもみつけたし?
あ わたしね レッスンも始めたの! バレエ団の研究生よ 」
「 ほう それはよかったなあ ・・・
ん? 時に < ご隠居さん > と 茶髪ボーイはどうしたね 」
「 ああ ジョーってば博士のお供でヨコハマまで買い物 よ 」
「 ほう それはいいなあ ・・・ん〜〜 んまい! 」
「 ふふふ あ サンドイッチ あるのよ〜
キュウリとチーズの。 ちょっと待っててね 」
「 おお 忝い 」
パタパタパタ ・・・
彼女は足取りも軽くキッチンに駆けて行った。
「 ・・ ふうん ・・・ 」
グレートは残りの紅茶をゆっくりと飲み干していた。
「 シアワセ なんだろうなあ ・・・ お嬢さんや 」
ここは 案外暮らしやすい土地 らしいな
憶えているだろう?
− 来週は 誕生日 なんだよなあ ・・・
お嬢さん、きみの ね。
美味しいため息とは 少し色合いのちがう吐息が漏れる。
実は ―
グレートぉ〜〜〜 教えて!
フランの誕生日なんだけど
なにを贈ったらいいと思う??
アドバイスして〜〜〜
この日の朝 ・・・ジョーから半ベソのメールが届いていたのだが。
「 な〜にを甘エタを言っているのか〜〜
んなこと 自分で探せ! − といいたい所だが 」
グレートはため息吐息で スマホを置いた。
「 そりゃ あのシャイ・ボーイには逆立ちしても無理〜〜
なのだろうよ ・・・
しっかし なんだってアイツが 009 なのかね?
・・・ まあ それは置いといて。 」
彼はもう一度 スマホを手にとった。
「 仕方ないなあ ・・・ 手伝ってやるか。
はて どうしたものかね
そりゃ ちょいと探りは入れてみるが なあ ・・・ 」
ふむ・・・? ううむ ・・・
彼はスマホを眺めつつしばらく考えを巡らしていたが
やがて ぽん、と手を打った。
そして うんうん・・・と頷くと 上着を着て身支度を始めた。
「 では。 マドモアゼル? ちょいと出掛けて参る 」
「 あら そうなの? 晩ご飯にはかえってきてね 」
「 了解。 」
洒落た背広に中折帽、イギリス紳士はさすがに蝙蝠傘はもたずに
出掛けて行った。
― 翌日のこと・・・
カッコロ。 庭下駄をならしグレートはテラスから降りてきた。
昼過ぎ、 冬だけれどたっぷりの陽射しでそこそこ温かい。
緑の多い庭の片隅で フランソワーズがシャベルを動かす。
「 マドモアゼル。 ご精がでるなあ
」
「 え? ああ グレート。 なにも出ないって昨日も言ったけど・・・ 」
「 あ いやいや ・・ 」
「 ?? ねえ ここ、花壇したの。 頑張ったのよ〜〜
時期的には ちょっと遅くなってしまったから
チューリップの苗を植えたいの。 」
「 ほう それは いい。 よい春になるな 」
「 そうしたくて ・・・ 本当なら秋のうちに球根を植えたかったわ。
でもね 商店街の植木屋さんで 苗をいっぱい並べてたし
種もね〜〜 今から蒔けば春から夏に花、咲くんですって 」
泥だらけの手で それこそ春の陽射しみたいに笑う。
「 詳しいなあ マドモアゼル。 園芸がご趣味かな? 」
「 え ? うう〜〜〜ん パリではずっとアパルトマン住まいですもの
お庭ってものすごく憧れていたのよ。
ここ ・・・ 好きにいじっていいよ って博士が・・・
もう 嬉しくて いろいろ計画中です 」
「 なあるほど・・・ ここは花壇だろ。 その他はどうしたいのかな 」
グレートは 彼女と一緒になって土の側に屈みこむ。
そ・・・っと触ってみれば 黒い土はしっとりしていた。
「 そうねえ う〜〜〜ん 庭木も欲しいわ 」
「 それであれば 門の側には松 がこの国の定番であるな。 」
「 ふうん そうなの? 」
「 マドモアゼルは 薔薇のアーチなど計画しているのかい
ロンドンの庭園では定番に近いが 」
「 う〜〜ん ・・・ それはちょっと ・・・
この庭には あまり合わないと思うのね〜〜
それよりもねえ 垣根の代わりになにか庭木を植えたいのよ 」
「 垣根? こんな辺鄙なところでは必要ないだろうが 」
「 あ・・ フェンスっていう意味じゃなくて・・・
なんかこう〜〜 庭の奥にずら〜っと木がならんでいたら
素敵じゃない ? だんだん育ってゆくのよ
ねえ どんな木がいいかしら 」
「 ほうほう なるほどなあ。
そうだなあ 例えば 櫟とか 欅とか山茶花とか ? 」
「 よくわからないけど ・・・ この国の木でポピュラーなのが
いいな 大きくなってもいいのよ 」
「 ふうん? 日本式のガーデニングか
うむ これはコズミ老に相談してみるとよいかもしれんよ 」
「 あ そうね 」
「 あそこには なかなか手入れのいい庭があるし な
」
「 あ ほんとうね! ちょっと見学させて頂こうかなあ
お家にはよく伺うけど お庭はちゃんと拝見したこと ないのよ 」
「 ああ それならばちょうどよいぞ
なあ これからコズミ老のご都合を伺ってみようじゃないか 」
「 え・・・ でも ・・・ 」
「 なに、吾輩もちょいとお尋ねしたいことがあってなあ
新年のご挨拶も兼ねて ご一緒願えませんかな マドモアゼル? 」
「 あら ・・・ ふふふ 」
グレートは泥まみれの彼女の手を すっと取りキスの真似事をした。
「 はい 喜んで。 あら もうこんな時間なのね?
お茶にしましょう グレート。 シフォン・ケーキを焼いたの。
お好みのアール・グレイもあります。 」
「 お それはいいなあ。 マドモアゼルのケーキは天下一品(^^♪ 」
「 ま〜あ 相変わらずお上手ねえ ちょっとここを片して・・・
手を洗ってくるわ 」
「 ほい 片づけなら吾輩がやるぞ。
時にジョーはどうした? ウチにおるのだろう? 」
「 あ〜 なんかね バイトみつけた〜って。 出掛けているの 」
「 ほう? では博士と我らで美味しいケーキを独占だな 」
「 そうしましょ。 」
冬の午後、それでも少しは温かい日溜りで 笑い合った。
コズミ邸の庭は 奥の方に広がっていてかなり手入れが行き届いていた。
気楽に枝伸び放題・・・といった庭木は見当たらない。
この季節だが花壇では 和水仙が白い花をたくさん咲かせている。
顔を近づけるだけで 甘い芳香を楽しむことができる。
「 わあ ・・・ 綺麗ですねえ 」
「 ほっほ そう言っていただけると嬉しいですよ お嬢さん 」
「 いつもお手入れしていらっしゃるのですか? 」
「 いやあ 背の高い樹木は昔からウチに出入りしてくれている
植木屋の親方に頼んでいます。 彼はウチの庭の風景を熟知して
いましてなあ どの季節にも最高にマッチした風景になるよう
手入れをしてくれています。 」
「 ああ やはり プロの手が必要なんですね 」
「 いやあ 花壇でしたら 気楽に楽しめますぞ
・・・ お嬢さんは園芸がご趣味かな 」
「 あ いえ ・・・そのう 庭のあるお家って初めてなので・・・
花壇づくりに憧れてました
」
「 それはよかったですなあ で 花壇には春向きの花を植えて
いなさるのかな? 」
「 はい。 チューリップやパンジーの苗、商店街の植木屋さんで
売っていました。 」
「 おお あの植木屋ですかあ あそこは確かな店ですよ。 」
「 はい お店の方にいろいろ教えていただきました。
そのうち ウチの垣根をね 植木で作りたいなあ〜〜って思って 」
「 ほうほう それはよろしいなあ〜〜
え〜と 今は ・・・ なにか植わっていますかな 」
「 いいえ 普通に柵があって周りは雑草がぼうぼう・・・ 」
「 なるほど〜 ま これからじっくりのんびり作って行かれれば
よいでしょうね 」
「 はい! それで・・・ こちらのお庭を参考に拝見したいです。 」
「 おお おお どうぞ どうぞ。
まあウチの垣根は植木屋の親方に任せてあるのですけどね
内側には ― 一応 泥棒避け を置いてますが 」
「 ・・・ ふふ < どろぼうよけ > ですわね〜〜 」
コズミ老のとぼけた調子に 彼女も合わせた。
もちろん 003の眼 は 内側のセンサー付きの防御体勢ほぼ完璧に
近い 低い鉄柵 をしっかりと確認していた。
コズミ家の奥庭は 花壇がたくさんあり はやつぼみを見せる
早咲きの春の植物が 元気な顔でならんでいる。
「 ほうほう ・・・ ここは亡くなったバアサンの丹精でなあ・・・
ワシはそれを引き付いて そのまま球根なんぞを植えています 」
「 わあ ・・・ 素敵ですね!
こちらの花壇は ・・・ これから種蒔きですか 」
「 そう・・・こっちの半分は先週 撒きましたよ。
夏の花がほとんどですが 」
「 そうなですか? なるほど・・・ え 夏の花って? 」
「 ポピュラーなものですが〜〜 例えば 」
庭をめぐりつつフランソワーズは あれこれノートに書きつけ
情報収集? に余念がなかった。
すてき!
ウチはどんな配色にしようかしら・・・
ねえ 夏にも色彩が溢れるって最高よね!
フランソワーズはコズミ家の奥庭で空想の庭を幾通りも
想い描いていた。
よっこらしょ ・・・ コズミ博士がなにやら新聞紙に
包んだモノを運んできた。
「 あ! 運びますよ〜〜 」
「 なに お嬢さん、大丈夫。 まだまだこのくらい 運べますぞ 」
「 ふふふ 失礼しました〜〜 」
「 そんなに重くはないです。 ほら ご覧なさい 」
「 ? 」
よっこらしょ。 博士は巻いてある新聞紙を開いた。
「 あら 可愛い! 」
新聞紙で包んであったのは 小さな木の苗で ちらほら・・・
赤い花の蕾がついている。
「 これはなあ 寒椿 といいましてなあ。
冬から春にかけて真っ赤な花を 咲かせますよ。
花言葉は 紅一点。 お嬢さんにぴったりと思うがなあ 」
「 ・・・ きれい ・・・ ! 」
「 うちの奥庭にちょうどよい木がありましたぞ。
親木の側にいたほんの子供の木ですが 実生です。
これから ・・・ 大きく育ちますよ。
これを 是非お宅の庭に仲間入りさせてください 」
「 え!! いいのですか・・・ 嬉しい〜〜〜 」
「 日当たりのよい処に植えて 水やりをしてやって・・・
椿は花はもちろん、この艶々した葉が、ですなあ
日本人にはとても好まれるのですよ。
そう 万葉の昔からね 」
「 へ え・・・ すごい ・・・ ああ 可愛い ・・・
はい。 しっかり世話してウチのコになってもらいますね 」
「 よい花を咲かせるよう 言い聞かせておきましたよ。
・・・ 持てますかな? 」
「 はい! ありがとうございます! ・・・ 可愛い・・・
あ お庭を拝見させて頂き ありがとうございました 」
仏蘭西娘は ぺこん、とアタマをさげると
新聞紙の包を抱え 実に軽い足取りで帰っていった。
― さて その頃ギルモア邸では
ズルズルズル 〜〜〜〜 バクバク ・・・
「 ん〜〜〜 はあ〜〜・・・ あったまるぅ〜〜〜 」
キッチンの隅で 茶髪ボーイがカップ麺を堪能していた。
「 今 戻ったぞ〜 ・・・ ジョー? いるか〜〜 」
リビングから やけに透る声が響いてくる。
「 むぐむぐむぐ〜〜 むぐ? ・・・ ん ぐ。 」
ジョーは箸を止め 咀嚼中の麺を呑み込んだ。
「 い いるよぉ〜〜〜 だいどころ! 」
「 はあん? だいどころ とはどこかね? 」
「 だから〜〜〜 台所だってばさ 」
バタン。 キッチンのドアが開きスキン・ヘッドが見えた。
「 − ここにおったのか。 おや 食事中かい 」
「 あ〜 お帰り〜〜 グレート。 あ〜 うん ・・・ なに? 」
「 ふふん。 お主のリクエストに応えるべく奔走してきたぞ。
< なに? > はなかろうが 」
「 あ〜〜 ごめん〜〜〜 今 食べちゃうからさあ 」
ずるずるずる〜〜〜〜〜
彼は盛大な音とともに カップを空にした。
「 ・・・ それはお主の主食かね 」
グレートはどうしても眉を顰めてしまう。
「 んぐんぐんぐ ・・・ へ?
あ〜〜 まあ そんなトコかなあ 最近はねえ いろいろな味が
できてさあ〜〜 美味しいんだよぉ 」
「 ・・・ ヒトの好みはそれぞれ というが・・・
まあ 目を瞑ろう・・・
ところで マドモアゼルは? 私室かい 」
「 フラン? ううん なんかね〜 コズミ先生んちに行ったよ。
なんかね〜 聞きたいことがあるんだって 」
「 ・・・ お主 送り迎えする、とかしないのか
」
「 え〜〜〜 なんでえ? ぼく 運転手じゃないよ? 」
「 いや そういう意味じゃなく ・・・
まあ いい。 ところでな お前さんの疑問に答えるぞ。 」
「 ― ぎもん? ・・・ なんだっけ ・・・
ぼく なにか訊いたっけか 」
「 は・・・!? 」
コイツは ・・・ 本当に
恋するオトコ なんだろうが?
イマドキのワカモノは ようわからん
英吉利紳士は密かに吐息をもらしたが そこは巧みに隠した
そして ひょい、と身を屈め 茶髪ボーイに耳打ちした。
「 ガーデニングだ ボーイ。 そのセンで攻めてみろ 」
「 へ??? ・・・・ が が〜でにんぐ ?? 」
「 庭いじりのことさ。 」
「 その位は知ってるけど ・・・ なんで いきなり 庭いじり??
あ ギルモア博士の用事かい? 」
「 おい〜〜!! お前さんが 吾輩に泣きついてきたんだろうが!
マドモアゼルの好みを教えてくれ〜〜〜 と! 」
「 ・・・ あ あ〜〜 あ ・・・
そんなコト 言った・・・・かも ・・・? 」
「 おいおいおい〜〜〜〜 」
「 あ ごめん〜〜 あ 教えて 教えて〜〜〜 ください・・・
へえ ・・・ フランって渋い趣味だなあ 」
「 そうかね?? まあいい ちょいとその方面に話題を振ってみろ
そして 彼女の好みに探りをいれるのさ 」
「 あ ・・・ な〜るほど さすが〜 グレート♪ 」
「 ボーイ。 今頃気付いたのかね
吾輩はお主の倍以上 人生というものと付き合っておるのだよ 」
「 ふうん ・・・ 大変だねえ 」
「 ・・・ あ? あ ああ ・・・ まあ な ・・・ 」
「 ぼくにはとても出来ないなア すごいよ グレート 」
「 ・・・・ 」
はあ〜〜〜 ・・・・
グレートは 盛大に遠慮ナシに 特大のため息を吐き
この気のいい・ジャパニーズ・ボーイの笑顔をつくづくと眺めるのだった。
「 ただいまあ〜〜 帰りましたァ 」
玄関で明るい声が聞こえてきた。
「 ! フラン〜〜〜 お帰り〜〜〜 あ? それ なに? 」
ジョーはすぐに玄関に飛び出していったが・・・
彼女は新聞紙で包んだモノを 大事そう〜に抱えていた。
「 うふふ 〜〜〜 これ ねえ。 わたしの木。 」
「 へ?? きみの き?? 」
「 そうなの♪ コズミ先生から頂いたの〜〜 」
「 き って ・・・ あの 木? 」
「 そうよ。 ねえ 見て・・・ 」
「 ・・・ うん ・・ 」
フランソワーズは 包を本当にそ〜〜っと玄関の三和土に置いた。
・・・ なんかイワンを抱っこてる時みたいだな〜
え。 でも 木 って言ってたけど・・・?
な なんかベツモノなのかなあ
・・・ まさか動物・・・?
ジョーはなぜかドキドキしてきてしまった。
カサカサ カサ ・・・ 新聞紙を開く。
「 ほら みて。 かんつばき っていうのですって。 」
「 ・・・ へ え ・・・ 」
ジョーの前には プラスチックみたいに艶々した葉っぱがついた
小さな木 がひょろりん、と立っていた。
「 ねえ ここに蕾がついてるでしょ? 真っ赤な花が咲くの。
この子の親の木さんはねえ もう花盛りで・・・
木が真っ赤にみえるほどなのよ〜〜
この子もいつかあんな木になるといいなあ 」
「 ・・・ 椿 かあ ・・・ 」
「 あら ジョー 知ってるの? 」
「 ウン わりとポピュラーな木でさあ 教会の庭にもあったよ 」
「 わあ それなら育て方、詳しいわよね? よかったぁ〜 」
「 え ・・・ 育て方って・・・
( ぼく 当番の日に水を掛けてただけ なんだけど・・・ )
あ ま まあね ・・・ 一応 知ってるけど 」
「 そうなの? 頼りにしているわ〜〜 」
「 あ え へへ・・・ 」
ジョーが微妙〜〜に笑っていると グレートが顔をだした。
「 マドモアゼル。 この木をどこに植えるのかね 」
「 グレート。 あのね ・・・ 庭の端っこよ。
わたし、木で垣根を作りたいの。 」
「 垣根?? ああ そんなことを聞いたぞ。 」
「 あら 覚えていてくれた?
この木 ・・・ わたしの木 なの。 」
「 ほう? 椿は日本人に人気があるぞ 」
「 そう? いっぱい花が咲くようにって陽当たりのいいとこに
植えたいな・・・ 」
そしてね と彼女はにこにこ続ける。
「 垣根には 皆のね 樹を植えたいな。 」
「 皆の木?? 」
「 そうよ。 アルベルトは 樅の木ね
大人は ・・・ う〜ん 果物の木がいいかしら・・・
桃 ?? グレートはオークかな ピュンマは なにかしら
・・・ ジェット?? 植物に興味はなさそだし・・・・
ジェロニモは ああ 彼こそ 松 かなあ 」
「 ほう? 吾輩はオークかい。 それは嬉しいなあ 」
「 英吉利って気分よねえ? 大きくてどっしり・・・
ね ジョーは? なにがいいと思う? 」
「 それは ヤツは 白いバラ だな 」
「 え〜〜〜 白薔薇ぁ??? 」
「 ・・・ フラン〜 その驚き方ってなに〜〜 」
「 あ あら ごめんなさい でも ジョーが ぷぷぷ・・・
白薔薇の君? きゃあ〜〜〜〜 ぷぷぷぷ ・・・ 」
「 え ・・・ なんか 照れるなあ 〜 薔薇かあ 」
「 ジョ―、お前さんの誕生日の花は 薔薇 だよ 」
「 え〜〜 そう なんだ?? 」
「 うむ そして 花言葉は 愛 さ。 」
「 きゃあ〜〜〜〜〜〜 すごい〜〜〜〜 」
フランソワーズは 本当にお腹を抱えて笑い始めた。
・・・ なんか ちょっと。
そりゃ ぼくも え〜〜って思うけど
なんかキズつく なあ・・
「 うふふ ・・・ ああ ごめんなさい〜〜
ね こんど 白薔薇の苗、 買ってきましょ・・・ 白薔薇君♪ 」
「 あ ・・・ うん ありがと 」
「 ふふふ さあて と。 この寒椿さん、土に植えてあげなくちゃ、
ちょっと 庭いじり してくるわね 」
「 おや ・・・ 冷えるからなあ 気をつけて
「 はあい。 ちゃんと着込んでゆくから 」
けらけら笑いつつ 彼女は着替えてに行ってしまった。
そんな彼女の後姿を ジョーはほれぼれ ・・・ 見つめている。
つんつん・・・ グレートは思い切り脇腹を突いてやった。
「 ・・・って〜 なに? 」
「 おい! 手伝ってやれよ〜〜〜 」
「 え ・・・? 」
「 え じゃないぞ? ほら 園芸を共通話題で盛り上がれ 」
「 あ うん・・・ 」
「 皆の木を植える ・・・と言っておっただろう?
手伝ってやれ いろんな種類の木を探すんだ! 」
「 園芸かあ ・・・ う〜〜〜〜 ん・・・
木 かあ 〜〜 ・・・よし。 裏山をさがしてみる!
垣根を作りたいって言ってたもんな〜〜
・・・ あと なにか 可愛い木 ・・・ プレゼントするだ! 」
そうだよ!
フラン〜〜 誕生日 なんだよっ
「 頑張れよ、ボーイ。 うんと点数を稼いで好感度 アップ!
・・・ バレンタイン・デー が目の前だぞぉ 」
「 !!! う うん ぼく がんばる! 」
「 頑張るのはいいが ― なにかアテがあるのかね?
木を探すんだろう? 」
「 う ・・・ ん ・・・ あのう さあ 裏山 行ってくる 」
「 裏山ぁ? ・・・ この邸の裏の雑木林のことかい 」
「 そ。 一応あそこもウチの地所なんだって。
だから 生えてる木とか 草とか 掘ってきていいって
博士に確かめたんだ。 」
「 ふ ・・・ ん ? まあ 頑張れよ〜 」
「 うん。 フランにはバイトに行った〜 って言っといてくれる? 」
「 ああ 了解。 」
「 じゃ ・・・ 」
ジョーは 着古したジャージーにダウン・コートをひっかけ
裏庭の柵を越えて ぼうぼうの雑木林の中に入っていった。
「 ・・・ 恋するオトコは 辛いなあ〜〜
しっかし。 マドモアゼルは 樅の木 とか オーク とか
言っておったぞ? あそこでみつかるかいな ・・・ 」
ま、美味しいサンドイッチでも用意しておいてやるか ・・・
グレートは アタマを振り振り、キッチンの食糧庫を覗き始めた。
― そして ジョーは
「 だっぴゃ〜〜〜 なんだ ここ?? 」
Last updated : 01.18.2022.
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********* 途中ですが
一応 フランちゃん はぴば♪ 話 のはずです ・・・・
こりゃ もう平ゼロ 93 でしょう。
原作のギルモア邸は もっと崖っぷちに建ってますよね
・・・ 続きます ・・・ (*_*;