『 まぼろしの沼 ― (2) ― 』
パリ パリ もぐもぐ ・・・ ごくん。
「 ・・・ おいしい わ このキュウリ 」
フランソワーズは手に残った半分を 改めて眺めた。
かなり無理矢理に口に押し込んだサンドイッチだったけれど
採れたてのキュウリとチーズの取り合わせは 絶妙だった。
おじいさん農家さんから貰った、取り立てのキュウリとトマト。
カタチはイビツだったけど めちゃくちゃ美味しいのだ。
早速 厚切りとトマトとハム 厚切り胡瓜とチーズ でサンドイッチを作った。
「 おいし〜〜〜♪ これならジョーも好きよね〜〜
博士にも差し入れして・・・ うふふ ジョーとランチするわ♪ 」
もう〜〜 最高に るんるん気分 で張り切ってサンドイッチを作った。
涼しい中 論文執筆に邁進しているギルモア博士に届けてから
着替えをした ― もってきた服を全部並べ、あれこれまよったけれど
オール・お気に入りで すっきりまとめてみた。
うふふ〜〜ん ♪
避暑地の午後〜〜〜 ランチをご一緒に
きゃ♪
そして 勇んで発掘現場に出かけたのだ が。
ふうん ・・・
こんな美味しいの 初めて かも
キュウリも トマトも
・・・ 後で買いに行こっかな
「 ふう〜〜〜 ・・・・ 」
残りのサンドイッチを平らげ 気持ちも少し、晴れてきた。
「 ・・・ あれ ・・・ ここ ・・・ どこ?
別荘の近くかしらね ・・・ あら キレイな池・・・ 」
改めて 周囲を見回してみた。
気がつけば 見知らぬ池の側の岩に座って
ぼんやりランチの包を開けサンドイッチを 口に運んでいたのだ。
「 やあね わたしったら ・・・ 」
ふう〜〜〜 もう一度だけ 溜息を吐く。
「 ・・・ サンドイッチは美味しいし ここはキレイな景色だし
風は涼しくて気持ちいいのに ・・・・ 」
カサリ ―
フレア・スカートの裾をちょこっと整える。
お気に入りのサンダル そして ストッキングも履いて・・・
大好きな日傘ももってきた。
パチン。 その日傘、お日様に向かって広げて見る。
「 やっぱりこの色、最高ね! お日様の光に映えるわあ〜〜
日傘もちょっと傾けて あ ほら 光がきれい ・・・ 」
ランチの包を横におき、自分自身の装いを点検し ―
最初に漏らした満足の吐息は だんだんとブルーになってゆく。
・・・ 皆 上手くいったのに。
スカートもサンダルも 日傘も・・・
完璧に素敵な 避暑地の午後 に
なると思ってたの に ・・・
それなのに ・・・
「 ・・・ もう〜〜 ・・・ ジョーの ばかぁ 」
スン ・・・ 涙が滲んできてしまった。
「 やだ ・・・ もう〜〜 」
ゴシゴシ ― レエスのハンカチは 涙を拭うには全く向いていない と
妙に納得してしまった。
「 ― 帰ろっか ・・・ ここに居ても仕方ないわ 」
ランチの包を纏めて 立ち上がろうとした。
その きゅうり ― たべたいなあ
突然 足元から声が聞こえた。
「 ・・????? え え??? な なに ・・・ 」
フランソワーズは 咄嗟に 003の眼と耳 にスイッチon しそうになった
が なんとか ブレーキが間に合った。
「 ? なに だあれ ・・? 」
だから さ きゅうり 一口おくれ〜〜
「 ・・・ だ れ ・・・? 」
ワタシさあ 〜〜〜
どんどんどろろ〜〜〜〜 と 白煙は ・・・でなかったが。
気付けば 足元に ちっこい緑色のイキモノが座っていた。
え? もしかして ― カエル ?
「 きゅうり・・・? カエルがキュウリ たべるの? 」
「 食ったらわるいか? 」
「 い いえ・・・ カエルって 虫 とかたべるって思ってて 」
「 キュウリを食べるカエルだって いるんだ 」
「 ― あのう・・ これ、キュウリって 毒にならない?
そのう ・・・ カエル いえ アナタにとって 」
「 わざわざ毒を所望するほど ヌケサクではないぞ 」
「 ・・・ わかったわ はい どうぞ 」
フランソワーズは 包に残っていたキュウリの端っこを差し出した。
ぱし。 カエルはかなり器用に受け取った。
もぐもぐ・・・
「 ・・・ あの ・・・ おいしい?
」
「 ああ? 」
「 そのキュウリ おいしいかしら 」
「 ん〜〜 まあまあ だな あ ありがとサン 」
カエルは キュウリを齧りつつ ― きょろり と目を向けた。
「 俺さ ― ホントは ニンゲンなんだ 」
「 え〜〜〜〜〜〜 」
「 ワルい魔法使いに カエルにされた 王子サマ なんだぜ 」
「 ・・・ ま まほうつかい?? 」
「 そんでもってぇ 若い娘にキスしてもらうと
魔法が解けるのさ 」
・・・ うっそぉ〜〜〜〜〜
こんなに涼しい日なのに フランソワーズはなんだかアタマが
クラクラしてきた。
― ほんの数十分前 のこと ・・・
「 えっと・・・? 発掘現場の作業小屋はこっちね 」
フランソワーズは 軽やかな足取りで < 現場 > に戻ってきた。
手にしたバスケットには サンドイッチ・ランチ。
あの今朝取れの野菜を使った自信作だ。
「 ふっふっふ〜〜 ホントに美味しかったのよ♪
ジョーの好きな卵サンド も作ったわ・・
一緒に頂きましょ? 食休みには お散歩よ 」
ふんふんふん ♪ ・・・・ ご機嫌ちゃんで作業小屋までやってきた。
あはは そうなんですか〜 うふふ そうですよぉ
小屋の中からは 楽しそうな声が流れてくる。
燥いでいる というカンジではないが 気の合う仲間たちといった雰囲気だ。
「 あ らあ なんだかとても賑やかねえ 」
邪魔するのに気が引けて 彼女はしばらく佇んでいた。
ジョーは 現場で学生さんの助手さんたちと盛り上がっている様子だ。
フランが来るのが遅かったので 昼ご飯には皆からお握りなんかを
分けてもらってらしい。
楽し気な彼の声が聞こえてくる。
・・・ あら。
なんか すごい陽気ね
< 島村クン > ?
「 ごめんね〜 なんか古めかしいお弁当で 」
「 そ〜そ〜 漬け物なんか嫌いでしょ 食べられる? 」
「 え〜〜 そんなこと ないっすよぉ 浅漬けって美味しいし〜
ぼく おにぎり 大好きなんです!
なんか ウチはパンが多いけど ・・・ ぼく ゴハン派 」
「 あは よかったあ〜〜 ただの梅干しお握りだけど 」
「 うっは・・・ 梅干し 大歓迎っす〜
なんか久しぶりだなあ〜 ・・・ うまあ〜 」
ゴハン派 ですって?
! なら そう言ってよね!
炊飯器くらい わたしだって使ってますよ?
「 ― やだ 立ち聞きなんかしたくないわ 」
とんとん とん ・・・ 失礼します?
ドアは半分開いているけど 一応 ノックした。
― 急に 室内の声はぴたり、と聞こえなくなった。
「 ・・・ はい? どちらさまでしょうか 」
硬い声が返ってきた。
「 あのう ・・・ こちらに 島村さん 来てますよね? 」
フランソワーズは 少し迷い かなり <余所行き> の声で訊いた。
「 あ ・・・ は はい。 お呼びしますが
失礼ですが どちらさまで・・・? 」
「 あ ぼくです〜〜 大丈夫ですよ 」
後ろから 聞き慣れた声が近づいてきて ―
ガタ ― ドアが全開、茶髪の笑顔が現れた。
「 やあ フラン。 博士から なにか・・・? 」
彼は ランチを頼んだことを完全に忘れているとみえる。
「 これ ・・・ 」
ずい。 バスケットごとサンドイッチの箱を差し出した。
「 あ 弁当! フラン ありがと〜〜
わるい そこの棚に置いてくれるかな 」
「 ・・・え ここ? 」
「 そう 」
「 ・・・ 」
「 ごめん〜〜 今 ぼく 手が汚れてて ・・・ あ 」
ジョーの言葉を全部聞かないうちに 彼女は作業小屋から
離れて行ってしまった。
「 あ ・・・ 」
「 島村さん! ・・・あのぅ お姉さん ですか 」
「 え あ まあ ・・・ 」
「 うわあ〜〜 キレイな方! ウチの男性陣がいたら大騒ぎですよぉ 」
「 え ・・ あ そのう・・・ 」
「 ねえ ねえ お弁当をわざわざ届けくださったんですか??
うわ〜〜〜 親切ぅ〜〜〜 」
「 いや そのう ・・・ あ 皆でたべませんか
さっき ぼく お握り、頂いちゃったし・・・ さ どうぞ! 」
ジョ―は 手を丁寧に拭いてからバスケットからランチ・ボックスを取り出し
皆の前に置いた。
「 え〜〜〜〜 いいんですかあ 」
「 うわ うわ 美味しそう〜〜 」
「 あは ホントだ ・・・ ウチのサンドイッチ、美味いですよ
どうぞ〜〜 」
「 きゃ〜〜 」 「 わあ〜〜 すてき! 」
小屋の中はたちまち歓声でいっぱいになった ・・・
この歓声を受けるべき人物は ― とっくに離れていってしまっている。
ぼこ ぼこぼこ ・・・
泥の道に お気に入りのサンダルのヒールがめり込んでしまう。
「 ・・・ あ ん ・・・ もう〜〜 」
ぼんやり歩いていたら ― 気が付いたら キレイな池の側にいた。
「 ・・・あら ここ キレイね・・・
いいわ ここでお昼ご飯にするから ― ふん ! 」
カサカサ。 トート・バッグの中から包をとりだした。
― そして。 あの カエルさん と出会ったので ある。
もぐもぐもぐ カエルは美味そうにキュウリを食べている。
「 ねえ カエルさん。 ニンゲンに、いえ 王子サマに戻りたい の? 」
「 あ〜 ? べつにどっちでも・・・
カエル生活も なかなかいいもんで さ 」
「 へ え・・・ 普通はなんとかしてニンゲンに戻りたい〜
とか思うんじゃないの? 」
「 俺は 普通 じゃないらしいよ 」
「 カエルさんは 普通のカエルさん じゃ ないの? 」
う〜ん?? カエルはちょっと考えている風だった。
「 そうさなあ〜〜 う〜〜ん ・・・
あ 以前にやっぱりふら〜っと来たオンナノコがいてさ。 」
「 ― へえ 」
「 そのコ わざわざ魔法使いをやっつけちまってさ。
ヤツの魔法を解いたんだ 」
「 え。 だってさっきアナタは魔法使いにカエルにされたって
言ってましたよね 」
「 あ〜 やられたのは先代の魔法使い。 すぐに二代目が来た・・
ま そんで一時は み〜〜〜んな呪いの魔法は解けて
どいつもこいつも ニンゲンに戻ったんだ ・・・ けど。
― ま〜〜 ひどい騒ぎ さ。 」
「 ・・・ 騒ぎ ・・・ ? 」
「 ん。 略奪やら暴行やら ― 動物でいた方が全然平和さ 」
「 ・・・・ 」
「 あ? あのコ アンタにちょっと似てるかも?
な〜んか奇妙なキンキラキンの赤い服 着てたけど ・・・
親戚かい ? 」
「 さ さあ ・・・ し 知らない けど ( どき )」
「 ふうん ま いいけど。
あ〜 なあ キレイな娘さん まだキュウリ ある? 」
「 ・・・ サンドイッチならあるわ たべる? 」
「 おう。 くれる? サンキュ〜〜〜 」
カエルは キュウリとチーズのサンドイッチを嬉々として
頬張りはじめた。
このカエルさん ・・・
え あの夢の中の カエル王子??
ウソでしょう〜〜〜
「 ね え ・・・? カエルさん。
そのう ・・・ 一緒に踊ったり き キスしたり しなくて いいの 」
「 はああ? キスしたいのか 俺と 」
「 え ・・・ ううん ううん 」
フランソワーズは かなり真剣に首を振った。
「 なら そんなこと、言わんほうがいいぞ 」
「 そ うね ・・・
でも でもね。 本当に人間に戻りたくはないの? 」
「 あ〜〜 ・・・ まあ なあ このカエル姿、結構気に入ってるし。
それに ― この方が平和なのさ 」
「 あ ・・・ さっきの話? 」
「 そ。 国の大臣やら高官たち 多くの国民たち も
み〜〜んな フナやら ミズスマシなんかになってるけど
いい感じに生きてる。 平和でいいよ〜 」
「 ・・・ こ この池 で? 」
「 あ〜。 あ〜〜 ほら メダカいるだろ ? 」
カエルは サンドイッチを持ったまま水面を見ている。
「 え・・・ あ ほんとう! 列になって泳いでるわ かわいい 」
「 国防軍の軍人たち さ。 あれで楽しんでる 」
「 ・・・ へ え ・・・ 」
「 ん〜〜〜まかった♪ なあ このサンドイッチ、娘さん、あんたが
作ったのかい 」
「 そうよ。 この村の美味しいお野菜を頂いたから 」
「 ふ〜ん ・・・ ありがと。
なあ よかったら ― 池の中 案内しようか 」
「 え?? こ この中 ?? 」
「 ふふん 見た目よかず〜〜〜っと深くて広いんだぜ?
あ 勿論 カエルの姿になってもいいなら だけど。 」
「 ・・・・ いい! カエルになっても いいわ。
でも そのままず〜〜っとカエルのままってのはちょっと・・・ 」
「 当ったり前。 ちゃんと今のアンタにもどるよ。
なあに ちょっとばかりこの池を案内したくなっただけさ。
なにせ 美味いキュウリをご馳走になったからな 」
「 ・・・ ん わかったわ。
わたしも このキレイな池の中、 見てみたい。 」
「 おっけ〜〜 そんじゃ ・・・ ちょっと目を閉じて? 」
「 ・・・ ん ・・・ あの キスしても いいわよ? 」
「 しないってば。 安心しな〜 ほい! 」
ぽん。 顔の側でなにか小さな音が聞こえ ・・・
「 さあ〜〜 案内するよ 飛び込め〜〜 」
「 え え〜〜〜〜 」
ぱしゃ〜〜ん ・・・ !
気がつけば 透明でひんやりした水の中にいた。
「 ?? うわ〜〜〜 ?? 」
「 ほい 付いておいで〜〜 娘さん 」
「 え? あ 待って〜〜〜 」
すい〜〜〜〜 ぷくぷくぷく・・・・
フランソワーズは 目の前をゆく緑色の姿を追った。
「 わあ〜〜 キモチいい〜〜〜 すごいキレイな水ね
え あの池ってこ〜〜んなに広いんだ?? 」
「 お〜い 娘さ〜ん 大丈夫かい 」
先に行ったカエル王子は 立ち泳ぎ?で待っていてくれる。
「 はあ〜い ねえ すっごく気持ちいいんですけど 」
「 はは なかなか上手に泳ぐねえ カエルの素質 あるぜ 」
ほい、と出してくれた吸盤付きの緑の肢に 差し伸べる肢も緑色で。
うわあ〜お〜〜〜
マジ カエルなんだ〜〜 わたし?
へえ へえ へえ〜〜〜・・・
カエルの後ろ肢ってすごく強いのね??
きゃ〜〜 ばっちりアンディオールで すごい♪
最高にキレイな二番のグラン・プリエ〜〜〜
ジャンプだって 男子に負けないかも〜〜
みてみて〜〜 わたしの ぐら〜〜ん・ジュッテ♪
「 うふふ うふふ これは王子様〜〜 ごきげんよう 」
フランソワーズは カエル王子にレヴェランス〜〜
水中で よくよく見れば このカエルさん、なかなかハンサム?? で
カッコイイのだ。
なにより力強い脚で 華麗に水をけってゆく。
「 ぼんじゅ〜る ムスメさん さあ 泳ごうぜぇ〜〜 」
「 きゃ いいですね〜〜 」
二匹のカエルは 先にり後になり時に交差したり並走したり・・・
池の中を縦横無尽に泳ぎ回る。
「 うふふ うふふ〜〜 ああ キモチいい〜〜
すご〜く息の合うパートナーと踊っている気分だわ
・・・ なんか ステキよ、カエルさん 」
そう ― カエル王子 は 池の中では、なかなかカッコイイ。
あらあ〜〜
これは素敵な パ・ド・ドウかも ♪
夢なら醒めないで ・・・!
さあ 踊りましょう
「 お? なかなか上手いじゃんか〜〜 」
「 ふふふ メルシ〜〜〜 ムッシュウ〜 」
す〜いすいすいすい〜〜〜
ぱしゃ・・・ す〜〜い ・・・
戯れているカエルたちの下を 黒い真鯉と緋鯉がゆっくりと泳いでゆき
湖底では カメがのんびり首を伸ばす。
ツイ −−−− アメンボが水面を滑って行った。
全て世は異もなし ― 平和で穏やかな世界 の昼下がり・・・
カタカタ ゴトン。
椅子とテーブルの配置を戻し 午後の作業への準備を始めた。
「 あ それ ぼくが運びますよ〜〜〜 重いから 」
「 ありがと! うわ〜 助かるわあ〜 」
「 えへへ・・・ チカラしか取り柄、ないっすから〜 」
「 あら そんなこと、ないわよ?
ねえ 将来考古学、専攻してみない? 興味、あるのでしょう 」
「 え・・・ あ そうなんですけど・・・ 」
「 ね〜〜 先輩? 皆 待ってますよね 」
学生さんが 午後の作業をチェックしていた助手さんに声をかけた。
「 ん? そうね〜 とても丁寧に作業してくれて 助かるわ 」
「 いやあ・・・ 土の中からいろいろなものが出てくるって
すごいなあ〜〜 って 」
「 そうでしょ?? それが考古学の魅力よぉ〜〜 」
「 そうかあ・・・ そうなんですねえ 」
ガタガタ ・・・
土塊山盛りの箱が運び込む。 午後はこれを洗浄するのだ。
「 わあ なにが出てくるかなあ・・・
考古学の魅力 かあ 〜 そうなんだなあ 」
わくわくする思いで ジョーは土塊を眺めた。
全体を確認している助手さんが何気なくジョーに話しかけた。
「 島村クン。 ランチ、ご馳走様。 本当に美味しかったわ 」
「 あ いやあ〜〜〜 ぼくこそ 皆さんにお弁当、
分けてもらって・・・ すいません〜 」
「 ね。 聞いてくれる? 」
「 ・・・ はい? 」
「 あの方 彼女さん でしょ。 届けて下さった金髪さん。
お姉さんじゃないわよね。 」
「 ・・・ あ は はい ・・・ そのう〜〜 」
「 ね ちゃんと言わなくちゃ ダメだよ
彼女の気持ち 考えてあげなくちゃ 」
「 ― え ・・・ あの ・・・ 」
「 とっても丁寧に作ったサンドイッチだった ・・・
彼女さん きっと島村くんと一緒に食べたかったのよ 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 ウチに帰って ちゃんと謝って。
そしてね こんどはちゃんと紹介するのよ?
姉じゃないですって。 大切なヒトです って。」
「 ・・・ あの なんか洞察力 すごいですね 」
「 あらあ 想像力って言って?
付け加えるとね 考古学って 想像力 が必須。
だって こんな石ッころから むか〜〜しのヒトの生活を
< 想像する > のですもの。 」
「 そ そうですねえ 」
「 だ〜からわかっちゃう。 島村くんだって あの彼女が
と〜〜っても大切 でしょ?
だから バスケット、汚したくなかったのよね 」
「 え あ・・・ なんか 参ったなぁ 」
「 それにね。 言っとくけど。
あんなに素敵なヒト ・・・ 放っておいたら 取られるよ? 」
「 ― え 」
「 学部でも院でも どこででも! 」
「 ・・・ そ そっか ・・・ ( がび〜〜ん ) 」
ジョーは 真実顔色が変わっている。
「 うふふ・・・ 年上女子を甘く見ちゃ だめだよ〜〜
ヤキモチ妬きの 島村く〜〜〜ん?
」
「 う 〜〜 なんか ぐさっと来たデス 」
「 うふふふ 健闘を祈る! さあ 午後の作業 開始しましょ 」
「「 はい〜〜〜 」」
ジョーも 学生さん達に混じって 土塊 との格闘を開始した。
・・・ フラン〜〜〜
ごめん ・・・!
ホント ごめん!
きみは ぼくの一番大切なヒトだよ
うん、 もう皆に宣言する !
ふうん そりゃよかったねえ 頑張れよ〜〜
ちゃんと言うのよ? しっかり捕まえとかなくちゃね
土塊の中から いろんな声が応援してくれている と
ジョーは確信していた。
― 避暑地の 穏やかな午後が始まった。
「 え。 王子サマに出会った?? 」
その日の夕方 ― 別荘のキッチンにて。
ジョーは ジャガイモの皮を剥いていたが 思わず声を上げてしまった。
人参を切っていたフランソワーズは すこしヘンな顔をした。
「 ― え? そうよ。 幻の池 でね 」
「 そ そいつって! か カエルかなんかの姿に 変えられて とか?
ワルイ魔法使いに さ 」
「 へえ よく知ってるわね 」
「 だいたいそういうコトになってるから ・・・
あ! で そいつと そのカエルと き キスすると
魔法が解ける とか??? 」
「 あ〜 なんかそんなこと、言ってたわねえ カエルさん ・・・ 」
「 そ それで ・・・? 」
「 それでって ・・・ 湖の畔でお話をしていただけよ 」
「 オハナシ ・・・ ??
は! も もしかして その王子サマと あ〜〜 なんだったっけか
あ < ぱ ど どう > を踊った・・・? 」
「 はああ?? わたし達 ランチを食べながら
お話をしていたの。 それだけ よ 」
「 ! それだけ・・・って。 そんなはず ない ・・・ 」
「 そんなはず? どんなはずならあるって言いたいの? 」
「 あ い いや ・・・ そのう ・・・
あ ほ ほら 美女と野獣 みたいに さ ・・・ しんじつの愛〜 」
「 はあああ?? 妙に勘ぐるの、やめて頂きたいわ。 」
「 べ べつに勘ぐっている訳では ・・・ ないけど ・・・ 」
「 それにね どこでだれと過ごそうが わたしの自由でしょ。
< お姉さん > なんでしょ わたし。 」
「 ・・・ あう〜〜〜 ( 聞こえてた ・・・ ああ 彼女は 003 ・・・ ) 」
「 すてきなカエルさんでした。 ええ 素敵な王子さまです。
わたし達 とても素晴らしいひと時を過ごしたの 」
「 う ・・・ ( がび〜〜ん ) 」
「 最高の思い出になったわ。 避暑地のひと時の思い出(^^♪ 」
ひとときの 恋 ― なぜかジョーの耳にはそう聞こえた!
「 え!!! そ そのカエル どこだ?? どこにいる?
け ・・・ けっとうだ! 」
「 ?? カエルとなにをするって?? 」
「 だ だから ― 決闘。
だって きみは ・・・ あ〜〜 ぼくの 」
「 は? 」
「 ぼ ぼくの! 大切なヒトだから!
か カエルには 渡さないよ〜〜〜〜 」
「 ・・・ まあ ・・・ 」
「 ちょっと ― その池 探してくる〜〜〜 すぐ戻る! 」
ジョーは ジャガイモと包丁を置くと
勝手口から 駆けだしていった。
「 あ らあ 〜〜〜 」
クスクスクス ・・・
ねえ カエルさん?
こんな結末も あり、だわねえ
そうなのだ。
― 池から上がると ・・・ いつもの姿に戻っていた。
「 ムスメさん キモチよかったかな? 」
カエル王子は ぴょん、とフランソワーズの掌に跳んできた。
「 ええ と〜〜〜っても・・・ !
この池の中って 神秘的でステキね
あ ・・・ カエルさん あなたも♪ 」
「 ふへへへ ・・・ まあ な
またいつでもおいで。 ひと泳ぎすると すっきり だろ 」
「 ええ 最高〜〜 だったわ ・・・
ありがとう・・・ カエルの王子様♪ 」
フランソワーズは 手に乗っているカエルに そ・・・っと唇を ―
「 おわ?? お〜〜っと 美女のキス はご遠慮だなあ
すごく残念だけど・・・ 」
「 え・・・ 」
「 だってさあ ニンゲンに戻っちまったら いろいろ・・・ 大変だもんな 」
「 ― あ 」
「 俺さ このカエルの姿 か〜なり気に入ってるんだ。
ムスメさん あんたも だろ? 」
「 え ええ そうね そうね
すごく楽にたか〜〜く跳べたし プリエはばっちりだし 」
「 ・・・ そこかい? ・・・
ま いっか。 なあ たまにはガツン と一言 言ってやんな
その 鈍感度100%のヤツに さ 」
「 え・・ あははは そうね そうね 」
「 な? そうやって笑ってる顔、さいこ〜だよぉ〜〜 」
じゃ な〜〜 ぽ〜〜〜〜ん ・・・・ !
緑の小カエルは見事な放物線を描き 池の中に消えた。
「 うふふふ ああ 最高に素敵な避暑地の午後 だったわあ 」
人参を切りながら フランソワーズは楽し気に笑い続けていた。
はっ はっ はっ ・・・ あのう すいませ〜〜ん !
「 この辺に まぼろしの沼 って ありますか!? 」
かなり真剣な顔で走ってきた青年の問いかけに
地元の爺様たちはからから〜〜〜 と笑った。
「 まぼろしの沼あ? そんなん あるかね? 」
「 はあん? ああ アレかあ ・・・
ガキ共は けろけろ沼 なんていってるぞ 」
「 そうそう 梅雨時にはカエル共がウルサイほど鳴いてるな 」
「 だな〜〜 普段は湿地で 雨がだ〜〜〜っと降ると 池になる
ま 池ってか水溜りの親分の 沼 ってとこかなあ 」
「 日照りの年には消えちまうしな〜〜
ま たしかに < 幻の沼 > だけどよ。
あの沼が残る年は まあまあの豊作っていうな 」
「 そ〜そ〜 沼でカエルが鳴く夏は 実りの秋がやってくる ってさ 」
「 カエルに悪さしちゃなんねえぞ 兄ちゃん。
池の水神様のバチが当たるからなあ 」
「 あっはっは・・・ んだんだ 」
漬け物、食うかい? と 爺様方はジョーに鉢を回してくれた。
はあ ・・・いただきマス ポリリ。
キュウリの浅漬けは抜群に美味しかった。
― 避暑地の午後は ゆっくりとおだやかに過ぎてゆく
*************************
Fin.
************************
Last updated : 04.05.2022.
back
/ index
*********** ひと言 **********
避暑地の午後・・・・ってことで ・・・・
くだらないハナシですみません <m(__)m>
カエル王子 は きっとすごく素敵なんだと思いますにゃ☆