『 旅路  − (2) − 』

時間が違うだけでずいぶんと印象が変ってくるものね・・・

すぴかは入り口にある櫟の樹の脇で立ち止まり、目の前に拡がる緑の苑に遥か遠く視線を飛ばせた。
そう ・・・ 初めてここを訪れた時 夕闇は夜気を帯び取り巻く木立はますます暗い影を落としていた。
めぐる石畳の小路はまるで冥界への迷路のようで さすがのすぴかも少々心細かったものだ。

それが 今朝。
まだ早い午前中のまっさらな光の下、広い苑内で樹々は稚い葉や枝を拡げ人々を散策に誘い
小鳥達は賑やかに飛び交っている。
早春のひんやりとした空気を すぴかは胸いっぱいに吸い込んだ。

   − ここは 皆の場所なのね。 生きているヒトにも ・・・ すでに眠った人々にも。

1年前の冬、 ここは見知らぬ人々が眠る冷え冷えとした墓所だった。
そして 今。
あの時とはまったく違った場所に思えるのは 時間や季節のせいだけではないだろう。

   ・・・ そうか。 ここは アタシの肉親の眠る場所、待っている人達がいる所なんだ。

異国の見知らぬ墓地は懐かしい地となってすぴかを迎えてくれている。
さあ、今 <みんな> を連れてゆくね。
すぴかは心の中で呼びかけ、広い苑内に父母と弟の先にたって入っていった。


「 ・・・ ここ。 」
いくつかの角をまがり、見覚えのある天使像やらマリア像を目の隅で確かめて
すぴかは あの墓碑の前で歩みを止めた。

「 ここが ・・・ お祖父さんとお祖母さん、・・・ ジャン伯父さんと・・・ 」
「 ・・・ わたしの名前も刻んであるのね。 」
「 お母さん・・・ そうなの。 伯父さんの名前の下に ・・・ ほら。 」
すぴかは墓碑の前に屈みこむと一番新しい文字を指差した。

   Francoise Arnoul

生まれ年しか掘り込まれていない。
「 ・・・・ 嬉しいわ。 わたし ちゃんとアルヌ−ル家の一員なのね。
 パパ ・・・ ママン ・・・・ お兄さん・・・   
 わたし ・・・ 帰ってきました。 やっと ・・・ 皆のところに 帰って・・・ 」
フランソワ−ズは 一歩墓碑に近づいたが、ふらりと足元がよろけてしまった。
「 ・・・! 」
ジョ−が咄嗟に彼女の腕を取った。
「 ・・・ ああ、ありがとう ジョ−。 」
「 お兄さん達を心配させてしまうよ。 」
「 大丈夫・・・ こんな素敵なヒトが支えてくれるのよ、って報告するわ。 」
二人は笑みを含んだ瞳で見つめあった。
見上げる彼の顔は あの日絶海の孤島で初めて見つめあった時のままだ。
寄り添う彼女の姿は 一緒に行こうと呼びかけてくれた時と寸分も変らない。

・・・ そう、今日 ジョ−とフランソワ−ズはありのままの彼らの姿なのだ。
永遠の時をとめられたしまった あの日 のまま、輝ける18歳の青年と乙女が並び立つ。

そんな両親を 二人の子供たちは一歩引いて静かに見守っている。

「 パパ、ママン。 お兄さん。 わたし、今日はね、報告に来たの。 あの・・・ 」
「 ・・・ お願いがありますっ! 」
フランソワ−ズの言葉を遮り、ざ・・・っと音をたてジョ−が突然墓碑の前に正座をした。

「 ・・・ ジョ− !? 」
「 フランソワ−ズのお父さん、お母さん。 そして ジャンお兄さん。
 お願いがあります。 ぼくは ・・・ 島村ジョ−といいます。
 どうか ・・・ お嬢さんを 妹さんを ・・・ ぼくに 下さいっ !! 」
ジョ−は叫ぶように言い放つと がば・・・っと墓碑に向かって頭を下げた。

「 ・・・・・・ 」
「 お父さん ・・・・ 」
声もでない母の後ろで すぴかが低く呟いた。

「 一生のお願いです。 きっと。 きっとお嬢さんを幸せにします、誓いますっ!
 どうぞ ・・・ 皆さんの大切なヒトを ぼくに 任せて下さい・・・! 」

「 ・・・ オレが保証します。 」
「 ・・・ すばる?! 」
今まですぴかの隣で一言も発せずにじっと両親を見つめていたすばるが
静かに口を切った。
淡々と、でもはっきりとした彼の声が アルヌ−ル家の墓碑に話かける。
「 アルヌ−ルのおじいさん、おばあさん。 そして ジャン伯父さん。
 オレが保証しますよ。 この ・・・ 島村ジョ− ってヤツはさ、ほっんとうに誠実なオトコだよ。
 こんなヤツ、めったにいないです。 
 母さん・・・いや、御宅の娘さんを絶対に絶対に幸せにできるヤツです。 」
すばるはしばらく言い澱むと ちょっとはにかんだ口調で付け加えた。

「 ・・・ 愛するヒトを最期の最期までしっかりと守りきれるヤツだよ。 
 だから ・・・ どうか願いをきいてやってください。 」
「 ・・・・・・・ 」
ジョ−は垂れた頭を上げることができなかった。
ぽた ・・・ ぽたぽた ・・・
彼の膝に 目の前の石畳に 涙の雫が水玉模様を描いてゆく。

「 うん、大丈夫。 これでオッケ−さ。 」
「 すばる ・・・ 」
すぴかがそっと目尻を払い、すばるの背をとん、と叩いた。
「 ・・・・・・・ 」
フランソワ−ズは静かにジョ−の側に歩みよると黙ったまま 彼の腕をとった。
「 ・・・ お願いしますって。 こんな娘ですがどうぞ ・・・ よろしくって・・・
 パパとママンが言ってるわ。 お兄さんも ・・・ 不機嫌な顔してるけど ・・・
 ほら ・・・ 妹を頼むって。」
「 フランソワ−ズ。 」
「 さあ! 二人ともこっちへ来て。 パパ達に紹介するから。 」
「 お母さん・・・ 」
フランソワ−ズはまだ涙の滲む瞳で微笑み、彼女の子供たちの手を引いた。
「 これが ・・・ 長女のすぴか。 あ、知ってるわね? 去年来たでしょう。 
 こっちが 長男のすばる。 ねえ、ママン? わたし、双子のお母さんになったのよ。 」
うきうきと語りかける母の両側で すばるとすぴかは神妙な顔をしていた。
「 お祖父さま お祖母さま ・・・ ジャン伯父さま。 こんにちは。島村すぴかです。
 これからも どうぞ宜しくお願いします。」
すぴかが滑らかなフランス語で 墓碑に語りかける。
「 島村すばるです。 こんにちは! 」
すばるはちょっと怒ったみたいな顔で ・・・ ごちごちしたフランス語を話した。
「 お兄さん、素敵な姪っ子と甥っ子でしょう?
 それで ・・・ さっきから吼えているのが ジョ−。 わたしの大事な夫で子供たちのお父さん。 」
ジョ−の手もひっぱり、フランソワ−ズは皆で墓碑の前に並んだ。
「 アルヌ−ル家のいっとう近い親戚の 島村ファミリ− よ。 どうぞよろしく。 
 お兄さん ・・・ お友達にも近所の人にも自慢してね。
 オレの妹は 日本で幸せにくらしてるんだ・・・って・・・ ね・・・ お兄ちゃん ・・・ 」
ジョ−は涙で言葉が途切れたフランソワ−ズの肩にそっと腕を回した。
「 お義父さん お義母さん ・・・ ジャンお兄さん。 
 ありがとうございますっ! ・・・ お兄さん ・・・ あの、一発くらいなら殴ってくれても・・・イイです。 」
「 まあ・・・ ジョ−ったら。 そんなコト言うとぼこぼこにされちゃうわよ? 
 パパ、ママン、お兄さん。 どうぞ安心してね。
 わたし。 こんなに ・・・ こんなに幸せよ。 これまでも これからもずっと 幸せよ・・・ 」
さわさわと早春の風が セピアや亜麻色の髪を揺らして吹きぬける。
優しい光の中で ただそれぞれの愛の想いだけが静かに満ちていた。

フランソワ−ズは 今度は夫と子供たちに笑顔を向けた。
「 さあ。 ご挨拶も終ったし。 皆でお茶でも飲みにゆきましょ。 」
「 賛成〜〜 オレ、腹へって・・・ 」
「 も〜〜 あんたっていっつも <腹減った> なのね〜〜 」
「 いいじゃん、 オレ、育ち盛りなんだから。 」
「 へえ?? これ以上でっかくなるつもりなの? 」
「 ふん。 すぴかが縮んだんじゃねえの。 」
すばるは傍らの姉を見下ろし、ひょいと彼女の頭を撫ぜた。
「 ま〜〜〜 生意気っ! 泣き虫・すばるのクセに 〜〜 」
「 なんだよぉ〜 」
「 これ。 こんなトコで喧嘩しないで頂戴。 ここは 静かに過すところよ。 」
フランソワ−ズは 眉を顰めて子供たちを叱った。

「 ・・・ すばる。 」
「 なに、父さん。 」
「 ・・・ そのネクタイ ・・・ お前〜〜 勝手に・・・!? 」
「 あ? あはは ・・・ 気がついたってか。 いいじゃん、貸してくれよ。
 ってか、コレって若向きだし。 オレにバシッとあってるよ。 もらってもいい? 」
「 だめだ! 返せよ〜〜 」
「 え〜〜 ケチ! いいじゃん、父さんネクタイなんかた〜〜くさん持ってるじゃんか。
 ヴァレンタインにバ−スディに いっぱい届くの、知ってるぜ。 」
「 ・・・ ソレはそんなんじゃないんだ。 
 博士から頂いた大事なモノなんだ! お前にだってやれないよ。 
 だいたい・・・ ハタチ前の若造に似合うわけないじゃないか。 さあ、返せ。 」
「 や〜だよ〜〜 」
「 ・・・あ、 このぉ〜〜 待て〜〜〜 すばるっ! 」
ぱっと駆け出した息子の後を ジョ−はかなり本気で追いかけ始めた。












「 ・・・ ちょっと ・・・ なに、あれ。
 お父さん、かなりムキになってない? 」
「 え? ・・・ ふふふ、そうねえ。 あのネクタイ、お父さん本当に大切にしてるから・・・
 すばるにだって渡したくないんじゃない。 」
「 まあね〜 アタシもまだすばるには似合わないと思うけど。
 あ〜あ ・・・ あんなに派手に騒いで・・・ お母さん、なんとかしてよ。 」
「 あらら・・・ 皆見てるわね。 友達同士か兄弟だって思われてるかも・・・ 」
「 お母さん、さっき言ってたでしょう、ここは静かにする場所だって。 」
「 そうだけど ・・・ 大丈夫よ、もうすぐ・・・ あ、ほら。 ね? 」
「 え ・・・ あ〜 お父さんすごい〜〜 すばるに追いついたわ? 」
「 ふふふ・・・ まだまだ息子になんか負けたくないんでしょ。
 さ・・・ わたし達も行きましょう。  」
まさか加速装置を使うこともできないから ・・・ ジョ−ったらコドモみたいにムキになって・・・
フランソワ−ズはクスリ、と笑うともう一回、懐かしい人々の眠る墓碑を振り返った。

「 パパ、ママン。 お兄さん。 また、来ますね。 」
「 ・・・ 喜んでいるわよ、みんな。 」
「 ・・・ ありがとう、すぴか。 」
「 お母さん ・・・ 」
久し振りに母に くしゃり、と髪を撫ぜられ頬にキスをもらい、
すぴかはガラにも無く盛り上がってきた涙に 自分自身驚いていた。

   ・・・ ヤダ。 アタシってば ・・・ まだお母さんが恋しいのかしら。

そんな娘の様子をそっと目の端でとらえ、フランソワ−ズは微笑んで歩き出した。
墓地の出口ちかくの大樹の下で、彼女の夫と息子が脚を投げ出して座り込んでいる。
「 ジョ−・・・! すばる〜〜〜 」
フランソワ−ズは大きく手を振った。
今、陽はだんだんと中天めざしその輝きを増してきている。
早春の光の下、広大な苑は柔らかな緑に満ち訪れては去って行く人々を優しく見送っていた。



「 ・・・ なあに、どうしたの。 ここの管理人さんでしょう? 」
「 ・・・ そうよ。 そうなんだけど・・・さ! 」
父母と弟に追いついてきたすぴかは ちょっと膨れッ面をしていた。
派手な追いかけっこをして、折角の大他所行きのス−ツをぐしゃぐしゃにしていた
島村家のオトコどもと合流し、フランソワ−ズ達はメトロの駅に向かった。
墓地の外にある事務所の前を通りかかったとき、一家の様子を眺めていた管理人が
すぴかをなにやら呼び止めたのである。

「 なにか御用? お父さん達が騒いだから・・・? 」
「 ううん。 そんなんじゃないの。 そんなんじゃないんだけど・・・さ! 」
「 なんなの? 」
フランソワ−ズは少し心配になって傍らの娘の顔を覗き込んだ。
「 あの管理人! ・・・ 美人の姉さんによろしく、だって! 」
「 ・・・ まあ ・・・ ! 」
「 ったくな〜〜 18才の<いもうと>としては大いに傷ついちゃうわ〜〜 
 ・・・ あれ? ねえ、アレ・・・誰? 」
「 え? どこ。 」
「 ほら、お父さんと話しているヒト。 パ−プルのコ−トを羽織った女のヒトよ。 美人ね〜 」
「 ・・・ さあ? こちらには知り合いはいないと思うわ。」
「 そうよねぇ。 ・・・ すばる〜〜 」
すぴかは先にメトロの入り口に立っている弟のところへ駆けていった。


「 やあ、待たせてごめん。 さあ、どこへ行こうか? え・・・っと ・・・? 」
自分を待っている妻と子供たちのもとに、ジョ−は小走りにやってきた。
「 お父さん ・・・ 知り合い? 」
すぴかは伸び上がり、父親が来た方角を眺めた。
件( くだん )の美女は 薄紫のコ−トの裾を翻し、墓地の方へ去ってゆく。
一瞬 ジョ−はきょとんとした顔をしたが、すぐにさりげなく答えた。
「 ああ・・・今のヒトかい。  道を聞かれただけだよ。 」
「 ふ〜〜ん ・・・随分と綺麗なヒトね〜 」
「 そうだね。 お母さんの国の女性はみんな綺麗だよ。 」
・・・ まただよ〜〜  
ジョ−の後ろで すばるが必死で笑いをこらえている。
そんな二人を見つめ すぴかはますます膨れっ面である。
「 さあさあ、行きましょ。 とりあえず、シャンゼリゼに出ましょうか。 」
フランソワ−ズは笑いをこらえ、家族を促した。
「 ・・・いいけど。 また いろ〜んな女のヒトがお父さんに道を聞くんじゃな〜い? 
 ね〜〜 お父さん! 」
「 え?? どうして。 お父さんはパリの道には全然詳しくないよ。 」
「 ふ〜〜ん ・・・ 訊くほうはお父さんの顔だけしか見てないわよ。 
 ・・・ さ、すばる。 行こ。 」
すぴかは弟の腕をひっぱってずんずんホ−ムに降りていってしまった。
「 なんだ、あいつ。  なに怒っているんだ? 」
「 さ〜あね。 すぴかだってお年頃だってことよ。 
 あらやだ、ジョ−ったら・・・・ Yシャツもネクタイもぐしゃぐしゃじゃないの。 」
フランソワ−ズは手を伸ばし、ジョ−のシャツの襟を整えた。
「 あは。 久し振りにさ、かなり本気で走ったよ。 
 ああ・・・ 咽喉カラカラだ・・・ 」
「 すばるの方が速そうに見えたわ。 さあ、カフェで美味しいオ・レでも飲みましょう。 」
「 賛成。 ・・・ そうだ、こっちのカフェ・オ・レって甘くないねえ?
 え・・・ なに、なんか可笑しなコト、言ったかなぼく。 」
フランソワ−ズはくすくす・・・笑いだしてしまった。
「 あのね。 あ〜んなに甘いカフェ・オ・レは 島村家だけなのよ。 」
「 へえ? そうなんだ。 でもいいや、ぼくは 」
「 お砂糖もミルクもたっぷり、が好き・・・・ なんでしょ。 」
「 あたり♪ 」
「 すばるもおんなじみたいね。 さ、それじゃあま〜〜いケ−キでも食べましょうか。 」
「 賛成。 あ、でもまたすぴかが怒るかな〜 」
「 ふふふ ・・・ あの子は辛党ですものね。 クロック・ムッシュウでも食べるでしょ。 」
「 あ、それも食べたいな。 朝っぱらから本気で走って・・・ 腹減ったよ。 」
「 いい運動だったんじゃないの。 ジョ−、 またすこし鍛えないとすばるに負けるわよ? 」
「 え・・・ そうかな? う〜〜〜ん・・・??? メタボリック・シンドロ−ムには・・・
 なってないと思うけどなあ・・・  」
ジョ−は真剣な顔で 自分のお腹の辺りを触っている。
「 さあ、どうかしら? ジョ−だって油断は禁物じゃないの。 あ・・・ メトロ、来たわね。
 すぴか〜〜 すばる? 乗りますよ〜 」
フランソワ−ズは先に行った子供たちに手を振って合図をした。




パリ滞在中、島村ファミリ−は古風で落ち着いた雰囲気のホテルに泊まっていた。
賑やかな大通りから二筋ほど反れているので 街の喧騒は遠く響いてくるだけだった。
その夜もすぴかとすばるは 両親の部屋でひと時お喋りを楽しみ <おやすみなさい>をして
別室に引き取っていった。

「 さ・・・ わたし達もそろそろ休みましょうか。 ジョ−、先にバスをどうぞ。
 わたし、すこし荷物の整理をしなくちゃ。 」
「 そんなの、明日やろうよ。 ぼくも手伝うからさ。 きみだって疲れただろう? 
 ・・・ なあ、一緒にはいるか。 ・・・ 風呂 。 」
「 ま・・・ 急にどうしたの。 この街の雰囲気に染まっちゃったの? 」
一瞬目を見張り、フランソワ−ズはくすくすと笑いだしてしまった。
「 あ〜 笑うことないだろ? アイツらが生まれる前はよく一緒に入ったじゃないか。 」
「 それは ・・・ 新婚の頃のことでしょ。 もう何年前のことだと思っているのよ。 」
「 何年前でも ・・・ いいよ。 ぼくは ぼくの奥さんにず〜〜っと夢中なだけさ。 」
「 ジョ−ったら・・・ あっ、なのするの〜〜 きゃ・・・ 」
ジョ−は後ろからフランソワ−ズを抱きすくめ そのままふわりと抱き上げた。
「 な? 一緒に入ろうよ。 ・・・突然 <腹減った〜 なんかない〜? > って顔出す息子もいないし。
 <お母さ〜〜ん、家庭科の宿題、手伝って〜〜> って夜中に縫い物を持ち込んでくる娘も
 今晩は邪魔しにこないから・・・ 」
「 あ・・・ やだ・・・ ジョ−ったら ・・・ 本気なの ? 」
ジョ−は喋りながら フランソワ−ズのブラウスのボタンをつぎつぎと外してゆく。
今夜の彼は 珍しく口数が多い。 

  ・・・ ジョ−ったら ・・・ どうしたの。 

夫はすこし酔っているのかもしれない、とフランソワ−ズは思った。
「 たまにはさ ・・・ そのままの ・・・ 18歳の姿っていいなって思ったよ。 今日 ・・・ 」
「 ・・・ そうね。 あなたと出合った頃のまま ・・・ きゃ♪ 」
「 ふふふ ・・・ きみはちっとも変らないね・・・・ ううん、見かけだけじゃいよ。
 気持ちもずっと ・・・ 乙女のまんまだ・・・ 」
「 ・・・ や ・・・ ねえ、本気なの? ・・・ お風呂 ・・・ 」
「 もちろん。 ウチじゃこんなこと出来ないだろ。 うん、あの頃のつもりでもいいよね。 」
「 あの頃? 」
「 そう。 あの頃 ・・・ すばるもすぴかも ・・・ まだ天国で眠りこけていた頃さ。
 新婚のころ・・・ 今日は ハネム−ンだってコトにしてさ。 」
・・・ ぱさり、と蝉の羽みたいなキャミソ−ルが床に落ちた。
「 ・・・ ジョ− ・・・ あなたって ・・・ 」
「 さあ お風呂ですよ〜〜 ぼくの奥さん♪ 」
ジョ−は鼻歌交じりに フランソワ−ズを抱えたままバスル−ムに消えていった。



圧倒的な烈しさで押し寄せた熱い波は なかなか退いてはゆかなかった。
二人は 浜辺に打ち上げれた藻屑みたいに芳しい疲れにひっそりと身を寄せ合っていた。

時折 ・・・ ぴくり ・・・ とフランソワ−ズの白い肢体が揺れる。
彼女は 緩慢に退いてゆく彼女自身の潮にゆらゆらと身もこころも任せていた。

 ・・・ あ ・・・

ジョ−の指が 亜麻色の髪を一房二房 気紛れに梳きあげる。
「 ・・・ なあ ・・・ 」
「 ・・・ なに。 」
言葉の無い時間のあとの掠れ声に お互い目と目で笑いあう。
異国のリネンの中で 二人は笑みを含んで見つめ合った。
「 ・・・ 久々の故郷はどう? 懐かしいものばっかりかな。 」
「 そうね。 変らないものもあれば 全然知らないものも沢山。
 ・・・ でもそれでいいんだと思うの。 ・・・ C`est le Paris, mon Paris!( それが私のパリなの ) 」
「 うん・・・。 ぼくもね、イイコト見つけたよ。 」
「 まあ、なあに。 」
「 ぼくの知らない街でぼくのしらない きみ の魅力を発見したよ。
 ・・・ きみは ・・・ 素敵だ・・・! 」
「 ・・・ あなたも、ジョ−。 パパ達にちゃんと挨拶してくれて・・・ ありがとう。
 わたし ・・・ すごく嬉しかったの。 すばるにもちょっとびっくりしたけど。 」
「 あは・・・ そうだね〜 アイツがあんなコト言うなんてな。 」
「 息子に借りが出来ちゃったわね。  ・・・それで、ネクタイどうしたの。
 すばるに譲ってやったの。 」
「 冗談じゃないよ! アレはぼくの宝物なんだ。 世界中に一本しかなくて
 しかもぼくのネ−ム入りなんだよ。 ちゃんと取り返したさ。 ・・・ ほら! 」
ジョ−は腕を伸ばし、サイド・ボ−ドの上から問題のネクタイを取り上げた。
「 まあ ・・・ ふふふ ・・・ ジョ−ったら。 コドモみたいよ?
 本気になって追いかけていたでしょ。 」
「 ふん。 アイツにはまだ早いって。 まだ・・・ もうすこし。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
はっとして見上げた夫の瞳は 静かに彼女に頷いてみせた。
そう・・・ そうね。 < その時 >まで。 まだ ・・・ もうすこし。
フランソワ−ズも 黙って頷き ・・・ 目を閉じた。
目尻から一筋 ・・・ 涙が零れ落ちる。

  もうすこし。 もうすこし・・・だけ。 

  そうだね。 ・・・ もうすこし 

別れの日はそんなに遠くはないのだ。

「 ・・・ お休みなさい ジョ− ・・・ 」
「 お休み ・・・ フランソワ−ズ 」
ハネム−ンよりも 甘やかに。 新婚時代よりも 烈しく熱く。
二人の巴里の夜は しずかに更けていった。




「 え・・・っと。 それじゃ ・・・ A votre sante! ( 乾杯 ! ) 」
ジョ−はシャンパン・グラスを持ち上げると家族一同を見回した。
「 きゃ♪ お父さんったらカッコつけちゃて〜〜 」
「 あら、ここはパリですもの。 当然じゃない? 」
「 ・・・ も〜 すぐ庇うんだから〜〜 お母さんはぁ ・・・ 」
「 ・・・ 母さん、砂糖ない? 」
「 すばる! あんたっていったいどういう舌もってるのよ〜〜 」

ディナ−のテ−ブルを囲んで 島村さん一家は相変わらず賑やかである。
もっとも ・・・ 周りのテ−ブルもそれぞれに笑いやお喋りに溢れていたから
彼らに特別の目を向ける人もいなかった。

「 う〜ん ・・・ なんだかあっという間の10日間だったな 〜  」
「 そうね。 毎日楽しかったわ。 いろいろなところに行けて。 
 エッフェル塔でしょう、凱旋門に聖マドレ−ヌ寺院、ル−ブルも半分くらい見られたし。 」
フランソワ−ズは楽しげに指折って数え上げた。
「 いろいろなトコって、 ここはお母さんが生まれ育った街でしょう? 
 ・・・ も〜 今更エッフェル塔に登るとは思わなかったわよ。 」
「 でもね・・・ お母さん、一度も行ったことないんですもの。 」
「 そんなもんだよ。 そういえば ・・・ お父さんも東京タワ−、まだ登ってないなあ? 」
「 オレら 遠足で行ったよ。 チビの頃。  」
「 あら・・・ そうだったわね。 ジョ−、今度一緒に行きましょうよ、東京タワ−。 」
「 うん、いいね♪ ウチが見えるかなぁ ・・・ 」
「 ・・・ ったくな〜〜 すぐに<一緒に>なんだもん、ウチのお父さんとお母さんは〜〜
 可哀想にすばる君〜〜 アンタは疎外されてるのね。 」

次々と運ばれてくる懐かしい故郷の味に フランソワ−ズは沢山は手をつけなかった。
「 どうしたの。 きみ、あまり食欲がないね。 」
「 ううん ・・・ じっくりと味わっているの。 ああ・・・ ここのソ−ス、ちっとも変ってないわ。
 ムカシと同じ。 美味しい ・・・ 」
「 そう、よかった・・・ 」
相変わらず賑やかなすぴかと 黙々と皿をカラにしてゆくすばる、そんな子供達を
にこにこと眺め、フランソワ−ズはそっとフォ−クを置いた。
「 あのね。 ジョ−にも話してなかったけど。
 ここ・・・ あの ・・・ 昔にお兄さんと最後に一緒にお食事をした店なの。 」
「 ・・・ お兄さんと? 」
「 ええ。 わたしのバレエ団の入団祝いだって・・・ 二人でね。 」
「 そうなんだ・・・ 」
「 ・・・ こんな風に ちょうど兄はジョ−のところに座っていたわ。
 二人であれこれ・・・ これからの事とか話て ・・・ ここのお料理を楽しんだの。 」
「 ・・・ 素敵なお兄さんだね。 」
「 それが ・・・ 最後だったわ。 今でも ・・・ こうして顔を上げたら
 そこに ・・・ 兄の笑顔がわたしを見つめている気がして・・・ 
 ごめんなさい、ジョ−。 わたし ・・・ もうちゃんと <卒業> したはずなのに・・・ 」
細い指で押さえた口から 嗚咽が漏れる。
フランソワ−ズはほとんどテーブルに突っ伏すほど俯いてしまった。
「 いいんだよ、フランソワ−ズ。 ちょっと ・・・ 出ようか。 」
「 ・・・ ええ  ごめんなさい、せっかく皆で ・・・ 」
「 いいって。 ぼくらはまたいつでも一緒に食事できるよ。 そうだろ? 」
「 ええ・・・ 」



ちょっと先に帰るから・・・と 父はほとんど母を抱き抱えて席を立っていった。
そんな両親を すぴかとすばるは微笑んで見送った。
「 お父さん ・・・ これ、お母さんに・・・ 夜は冷えるから・・・ 」
「 ありがとう、すぴか。 」
自分のショ−ルを手渡してくれた娘にジョ−はにっこりと礼を言った。

「 ・・・ねえ? あの二人って ・・・ 確かハネム−ンに行ってないのよね。 」
「 ふうん ・・・ 」
「 こんどの旅行ってさ。 照れ屋のお父さんが アタシ達も巻き込んで
 じつは<新婚旅行>のつもりなのかも。 」
「 オレらはダシってことかあ・・・ ま、いいけど。 
 それよか、すぴか〜 教えてくれよ。 オペラ座の近くに激ウマのチョコレ−ト屋があるって、
 知ってる? 」
「 チョコレ−ト?? すばる、あんたね〜〜 」
「 あ、オレんじゃないって。 ほら、わたなべのとこのおばさんにオミヤゲさ。 」
「 あら、それはいいわね。 アタシの分も頼もうかな。
 ああ、わたなべ君のおばさんのケ−キ ! 懐かしいなあ〜〜 
 実はさ、アタシが唯一美味しい!って思うケ−キっておばさんのケ−キだけなんだ。 」
「 あ〜 母さんのは〜 」
「 ・・・ ウチのお菓子って甘すぎよ。 」
「 あはは・・・ そういえばすぴかってオヤツ全部オレにくれて、
 自分は煎餅とか齧ってたよな。 」
「 アタシは甘いものは苦手なの。 アンタとはちがうのよ。 双子だっても! 」
「 ふん、同じでたまるかよ。 」
ぽんぽん言い合って 二人はに・・・っと笑いあう。

「 すばる・・・。 あんたのこと、見直したわ。 あの墓地でさ・・・。
 あんた ・・・ いいとこ、あるじゃん。 」
「 なに、すぴかって今頃気がついたわけ? おっせ〜〜 」
ふふん ・・・ 
すぴかはワイン・グラスを弄び珍しく言い返さなかった。

「 アタシね このごろウチから来る手紙、開けるの怖いんだ。 」
「 母さんってさ、絶対メ−ルとかしないんだよね。
 なんかいっつもキッチンのテ−ブルでこしょこしょ書いてる。 」
「 うん ・・・ ウチからのはメ−ルより手紙の方がアタシも好きだな。
 お母さんの丁寧な日本語、好きよ。 でも ・・・ さ。 あの ・・・ あ ・・ 」
「 すぴか。 落とす。」
すばるは手をのばして姉のグラスを押さえた。
「 すぴか。 < その時 >は オレがちゃんと連絡するよ。 
 だから 安心してていいよ。 」
「 うん、 ありがと。
 すばる、アンタはいつだって現実をしっかり見つめていられるのね。 勇気があるね。
 お母さんにそっくりだわ。 」
「 オレさ ・・・ 弓、やってるだろ。 」
「 ああ、ずっと続けてるんだ。 <島村主将> 」
すばるは中学生の頃から和弓を始め、高校時代は弓道部の主将を務めていた。
「 うん。 弓ってさ。 目を逸らしちゃダメなんだ。
 放った矢がどこへゆくか 外れる時もその行方をしっかりと見定めるのが作法でもあるんだ。
 だから ・・・ な〜んか醒めてるっていうのかなあ。 トシヨリっぽい? 」
「 そんなことない。 立派よ。
 アタシさ、高校に入るときにこっちに来たじゃない? アタシ・・・ あの家が、お父さんとお母さんと
 あんたとの暮らしが大好きで ・・・ 失くすのが怖かったんだ。 」
「 ・・・ うん、なんとなく そう思ってた。 」
「 ふ〜ん、さすがアタシの片割れだわね。
 アタシは ・・・ 勇気がないのかもしれないわ。
 あの坂道の上の家に帰れば。 玄関を開ければ ・・・
 いつだって お父さんとお母さんの笑顔が待ってるんだって ・・・ずっと思っていたいのね。
 アタシが遠くの外国にいるだけで、みんなはちゃんとあの家にいるって。 」
「 すぴからしいよ。 オレこそ、そんな勇気はないよ。 」
「 ・・・ アタシは 甘チャンなだけ。 ふふふ・・・ お父さんと同じよ。 」
デザ−ト、追加しようか・・・とすぴかは給仕に合図した。
やがて クリ−ムをたっぷり添えたナポレオン・パイとシャンパンのソルベが運ばれてきた。
「 ・・・ アタシの弟は 蟻さんだった ・・・ 」
「 ふん。 オレの姉は ウワバミかよ。 」
悪態をついて、二人はフォ−クとスプ−ンを取り上げた。
「 オレさ、 まだ医学の入り口の前でウロウロしてるだけだけど。
 できれば  ・・・ 小児科、やりたいんだ。 
 オレら、チビの頃具合悪い時に父さんや母さん、ず〜っと側にいてくれたよな。
 ・・・ あんな風な医者になりたい、なれればいいなって思う。 」
「 いいよ〜〜 小児科って アンタにぴったりじゃない? 
 アタシは いつか、そう、絶対にね ・・・ 島村ジョ−とフランソワ−ズ・アルヌ−ルの恋物語を
 文章にしたいの。 こんなに素敵な恋人達がいたんだよ・・・って形に留めておきたいの。 」
「 うん・・・ いいんでない。 すぴかにしかできないよ。
 頑張れよ ・・・ 姉さん。 」
「 ・・・ ふふふ ・・・ ありがとう。 アンタもね! すばる君! 」
双子の姉弟は がっちりと握手しあった。
「 オレらさ。
 幸せだよな。 あの父さんと母さんのコドモでさ・・・ 」
「 うん。 絶対に。 
 何回生まれ変わっても ・・・ またあのお父さんとお母さんのコドモがいいな。
 アンタと双子でも ・・・ ガマンするわ。 」
「 ふん! 次はオレが兄貴ですぴかは妹だ! 」
「 お兄ちゃん、よろしく〜〜 」
「 おう、任せとけって。 妹よ。 」
すばるはクリ−ムいっぱいのケ−キを ばくり、と頬張った。














まだ冷え込む早春の夜も、パリの恋人達の情熱に水を差すことは出来ないらしい。
セ−ヌ沿いはもとより、すこし離れたこの公園もそこここに愛を囁きあう姿が見え隠れしている。

「 ・・・ 多分、ここだったと思うな。 」
「 そう ・・・ 公園を抜けると高台に廃墟があったわね。 」
「 うん。 ああ ここだよ、やっぱり。 この見晴らしは覚えがある。 」
「 ・・・ ええ 。 本当・・・ 」
ジョ−とフランソワ−ズはぴたりと寄り添って、夜道を歩いてきた。
フランソワ−ズがBGの基地から脱出後初めて故郷を訪れ、 迎えに来たジョ−は
彼女をここにあった廃墟で見つけたのだった。
ステンド・グラスの残る崩れかけた建物はとっくに取り壊され、今では街を見下ろせる展望台になっていた。

低い柵の彼方に落ち着いた色合いの光の海が広がっている。
パリの夜は黄金色 ( こがねいろ ) の灯りで満ちていた。
ジョ−はフランソワ−ズを抱き寄せたまま、展望台に出た。

「 ここで ・・・・ きみと花火をみたね。 おぼえてる? 」
「 ええ。 ジョ−と過した初めてのクリスマスだったわ。 」
「 そうだったね。 ぼくは・・・、きみの名前を呼ぶのがとても恥ずかしかったんだ。 」
「 まあ・・・ そうなの? わたし ・・・ ぼんやりしてて気がつかなかったわ。 」
「 ふふふ・・・ またきみに撃たれるのはゴメンだよ。 
 あ、もうとっくに打ち抜かれているよな。  ハ−トをね・・・ 」
「 いやな ・・・ ジョ−・・・ 」

フランソワ−ズは小さく笑い、背伸びをしてジョ−に向き合った。
「 あの時から、ね・・・ わたし ・・・ ジョ−が 好き。 」
「 ぼくもさ。  
 あの日から 今日まで・・・ ありがとう。 」
「今日から ずっと先の明日まで ・・・ またお願いね。 」

  ・・・うん、ずっとね
  
  ええ、いつまでも・・・

返事の代わりに恋人達は視線を絡ませ 熱く唇を重ねた。

今日もね ・・・ きっと。 飛行機が・・・ お兄さんの飛行機が飛んでいるの。 
あの夜空から 見守っていてくれるわ きっと・・・

うん。 必ず。 

パリの夜空は あの時と寸分も変わらず数多の恋人たちを優しくその闇色の衣に
包んでくれていた。






「 じゃあ ・・・ すぴか、元気で頑張れよ。 」
「 お父さん。 任せといて。 」
搭乗案内のアナウンスを聞き、ジョ−はすぴかをきゅっと抱きしめた。
「 すぴか。 バカンスの時期には帰っていらっしゃい。 ね? 」
「 お母さん。 お母さんこそ、また故郷に帰ってきてね。 」
「 もう・・・ このコは・・・ 」
フランソワ−ズは涙を滲ませ、娘の頬にキスをした。
「 そんじゃ。 」
「 うん、 じゃね。 」
「 まあ・・・ なんなの? あなた達の挨拶って。 」
呆れ顔の母の前で姉と弟は に・・・っと笑いあっただけだった。

「 ねえ、お父さん? アタシね〜お母さんから手紙が来るたびにドキドキしてるんだから。
 ふふふ♪ < 実は新しく弟か妹が出来ることになりました > って書いてあったらどうしよう〜って。」
「 あ、オレどうせならカワイイ妹がいいな。 年の離れた妹を滅茶苦茶に可愛がってやるぜ? 」
「 な・・・なにを ・・・ すぴか ・・・ すばるも〜 」
「 ま・・・! この子達ったら。 」
「 あはは・・・ お母さん、真っ赤になって。 か〜わい〜〜〜♪ 」
「 父さ〜ん、なんとかフォロ−してやれよ〜 」
明るい笑い声をあげ、手を振り合ってジョ−達はパリを発って行った。


「 ・・・ ああ、もうすぐナリタね・・・ すばる? 起きなさい。 」
「 だめだな〜 ぐっすりだよ。 」
ジョ−は通路を隔てた席を見て、肩をすくめた。
最後の機内食で、母の分の<お寿司>まで平らげ、すばるはぐっすり眠っている。

「 子供たち ・・・ もう、しっかり自分の足で歩き始めたのね。
 自分の道を見つけたんだわ。 ・・・ どこへ続く道なのかしら。 」
「 さあね。 彼らだけが知っているのさ。 」
「 そう ・・・ そうね。 それで いいのね。 」

ジョ−は いつもずっと隣にいる彼の最愛の恋人の手をきゅ・・・っと握った。
そして ・・・
こっそり・こそこそ ・・・ 囁いた。

「 ねえ・・フラン? あの、さ。 
 ・・・ もう一人くらい ・・・ いいよね? 」
「 まあ、ジョ−まで!  ふふふ ・・・ それは神様にお任せしましょ。 」


ジャンボ機は翼を煌かせ 東の果ての島国めざし高度を落とし始めた。





*******  Fin.  ********


Last updated : 03,27,2007.                   back     /     index




****  ひと言  *****
最後の < 廃墟で云々〜 > < きみにまた撃たれるのはゴメン〜 > は、
はい、皆様ご存知の平ゼロ 『 幻影の聖夜 』 のあの場面のことです。

やっと終りました〜〜〜〜
家族それぞれの旅、こころの旅路・・・ 終点であり、また出発点・・・
そんな想いを篭めてめぼうき様といろいろお話しつつ お話をつくりました。

どうぞ ・・・ 島村さんち の人々がいつも微笑んでいられますように・・・・

お読みくださいましてありがとうございました。 ひと言なりとご感想を頂けましたら
幸いでございます。 <(_ _)>           ばちるど拝


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イラスト:めぼうき
テキスト:ばちるど