『  秋の日の ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

   タッ  タッ  タッ  −−−−

 

「 〜〜〜〜 ん〜〜〜  こりゃ けっこうキツいぃ〜〜〜 」

ジョーは 両手に下げたレジ袋 ― ぱんぱん ― を持ち替えた。

 

ギルモア邸の門までは 下の公道からなが〜くて急な坂が続いている。

住人たちは普通 車をつかったり、ワカモノたちは自転車をガリガリ漕いだりしている。

いかに急坂とはいえ ― サイボーグたちにはどうってことはない ・・・と

思われていた   のだが。

 

 

「 あ 買い物?  ぼくが行く。 買ってくるモノのリスト 書いてくれる? 」

地下ロフトで  フランソワーズのレッスンを見学した後 ジョーはまっさきに

申し出た。

「 え ・・・ いいの?  今日の当番はわたしよ? 」

「 いいよう〜〜  きみはもっとレッスンしてなよ。

 ジャマモノがいてやりにくかっただろ?  ごめんね 

「 あら ジャマだなんて・・・  ムカシも見学してるヒトはいたし・・・

 パリの稽古場では 画家を目指す学生さんたちがデッサンに来たりしたわ 」

「 へえ〜〜〜〜  

「 だから 気にしてません って  

「 そう? でも 今日は 買い物はぼくが行ってくる。  」

「 だってジョー、予定があるでしょう? 」

「 な〜んもないもん。 受け持ちの庭掃除と花壇の水やりはやっちゃったしね。

 あ 買い物リストは大人に聞いたほうがいい? 」

「 え ええ その方がいいかも ・・・ ありがとう ! ジョー! 」

「 えへ  きみはレッスン、続けてなよ 」

「 ・・・ いいの? 」

「 いいよ〜う  きみはきみの < 受け持ち仕事 > 終わってるんだろ ? 」

「 ええ。 洗濯とイワンのミルクはもうとっくに 」

「 だったら好きなこと、していいじゃない?  皆 好き勝手にやってるもん 

「 そ う ・・・?  でも ジョーは 

「 あは ぼく さ、 < やりたいこと > ってみつからないんだ。

 あ いま やりたいこと は 買い出し さ 」

「 ・・・ メルシ ジョー ・・・ ! 」

「 おわ?? 」

 

ほわ〜〜っと温かい身体が近寄ってきて 良い匂いが彼をつつみ ・・

 

    ちゅ。    彼のほっぺに小さなキスが落ちてきた。

 

「 う ・・・ わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・・・・ ! 

彼はそのまま 宙を飛ぶみたいな足取りで ロフトから出ていった。

 

   うわ〜〜 うわ〜〜〜〜 うわ〜〜〜

   き  きす  してもらっちゃったァ〜〜〜〜

 

 

「 ― ダイジョブやろか 

ほわほわした足取りで 門とでてゆく茶髪少年を 料理人は首を傾げ、見送った。

「 わっはは〜〜〜〜ん 〜〜〜 ♪ 」

彼は 本当に雲の上を歩いていたのかも しれない。

 

「 ・・・ わっほ わっほ ・・・ これで全部かな〜〜〜 」

ジョーは リストと山盛りの買い物カートをチェックした。

地元の商店街もかなり充実した品揃えなのだが ― なにせ今は10人所帯・・・

絶対的に 量 が必要なので 駅向こうにある大型・安売りスーパーに

行くことになる。  食費だけでも膨大なのだ・・・

 

「 お米だろ〜 肉・・・ えっとチキンと豚さん。 サカナは < おまかせ > ?

 う〜〜ん ぼくがしってるのは鮭に鱈の切り身と え〜とあとは鯵の干物 !

 次は 野菜〜〜っと 」

 

リストと首っぴきで 売り場をうろうろ・・・ 押している買い物カートは

あっと言う間に山盛りになってゆく。

 

  ぎ  ぎ  ぎぎ ・・・  車輪がいや〜〜な音をたてる。

 

「 え〜〜と あとは あ お菓子! 好きなの、買っていいよ〜って

 言われたもんな〜〜  よ・・っと 

 

普通なら重くて押せそうもないカートを 彼は器用に操って売り場を移動してゆく。

「 ・・・ あのう〜〜 お客さま ? 」

売り場にいた店員サンが 声をかけてきた。

「 お菓子〜〜っと ・・・ ? あ はい なんですか 」

「 あのう ・・・ まだ お買いもの、なさいますか 」

「 え? はい あとお菓子〜〜 」

「 あのう・・・ すみませんが一回清算してくださいませんか 」

「 え ?  あ 売り場ごとの会計ですか? 

「 いえいえ ・・・ 本来なら全部一度の精算で結構なんですが

 あのう ・・・ これ以上商品を積まれますとカートが壊れますので 」

「 え? あ〜〜〜 すいませんね〜〜 じゃ お菓子はぼくが

 もってきますね〜〜  

 

  ずずず  ぎぎぎぎ ・・・ 軋むカートを茶髪少年は実に巧みに操り

 

なおかつ 片手にスナック菓子やまもり〜な買い物カゴをもって 悠々と

レジに向かった。

 

「 ・・・ すっげ・・・ あのコ 見かけによらん力持ちなんだ〜〜〜 」

 

店員さんは 呆れて見送るのだった。

 

「 ありがと〜〜 ございました〜〜〜 

「 わお〜〜 ゆくぞ〜〜〜  わっせ わっせ〜〜〜 」

ジョーは精算を終えた買い物の山を ざざざざ〜〜っとレジ袋に積みこみ、

背中のリュックにおしこみ、さらに両手に持ち どんどん歩き始めた。

 

「 ・・ すっげ ・・・ 」

 

レジ袋に脚が生えたみたいなその後ろ姿を 先ほどの店員はため息〜で眺めていた。

 

 

  たっ たっ たっ !!!

 

「 ただいま帰りましたァ〜〜〜〜 」

ご機嫌ちゃんな声がインターフォンから響いてくる。

「 ん? ジョーか? 」

グレートがPCから目を上げた。

「 あ ジョーはん、帰りはったか〜〜〜 」

大人がキッチンからぱたぱた〜〜 駆けてきた。

「 出かけていたのか ボーイは  

「 ふん。 お使いさん、頼んだのや 」

「 へえ〜〜  」

「 今 開けるで〜〜 お帰り ジョーはん お疲れサン〜〜〜   」

料理人は 文字通り転がるように玄関に出ていった。

 

「 ほんなら キッチンに運んでや〜 」

「 うん ・・・ あ〜〜 足元、よく見えないやあ 」

「 ほっほ〜 そのまんままっすぐ やで〜〜〜 ま〜〜 仰山買うてきて

 くれはっておおきに〜〜  助かりまっせ〜〜〜 」

「 えへへ ・・・ 中身のチェック、お願いしまあ〜す 」

「 ほいほい  これはお菓子の袋やな。 ジョーはんのオヤツや。  ほい! 」

大人は スナック菓子いりのレジ袋を渡してくれた。

「 わ〜ぉ サンキュ。 これ 皆で食べるね 〜〜 」

「 ほっほ〜〜 ま お若い子ォらで食べなはれ。 ワテらは遠慮しときます 

「 そう? じゃ ジェットやフランと食べようっと 

 あ 飲み物 を  

「 ほい、 これやろ? 」

  ガチャ ・・・・ ぶん〜〜  コーラのペット・ボトルが飛んできた。

「 わ(^^♪  サンキュ〜  じゃ ちょっと休憩しま〜す 」

「 ええよ  ゆっくり遊んでや 」

茶髪少年は スナック菓子を持ってにこにこキッチンを出ていった。

 

「 え〜っと?  あ フラン、食べるかなあ ・・・ 」

菓子の袋を持ったまま 彼は地下ロフトへの階段を降りた。

「 ・・・ あ 音楽 ・・・ まだレッスンしてるのかなあ 」

彼は自然に足音を小さくし そ〜〜〜っとロフトの中を覗いてみた。

「 !  ・・・ う  わ ・・・ 

 

  シュッ ・・・ !  トンっ !

 

彼女は ― 舞っていた。

軽く そして 音と共に 宙を飛び 音を踊っていた。

 

「 ・・・ すっ ・・・ げ ・・・ ! 

 !  ジャマしちゃいけないよね  ― あとでオヤツ 持ってくるからね〜 」

彼女の舞姿を しっかりと目に焼きつけてから ジョーはこそ・・・・っと

ロフトの前を離れた。

「 ホントに宙に浮いてたよなあ・・・  003ってもしかしてジェットよか

 優秀な飛行装置でも搭載してあるのかも・・・ すっげ〜〜 

 ウン、 オヤツはちゃ〜んととっておくからさ 」

彼は足音を忍ばせ階段を上っていった。

 

「 ふ〜〜ん ・・・ アルベルト は〜〜 あれ まだ読書中かあ ・・・

 ? うん? ・・・ アルベルト 何 読んでるんだ?  

ジョーはテラスに向かって目を凝らせた。

004は まだテラスの籐椅子に座っていたが 彼の前に広げられているのは ―

「 え ・・・ あれって  楽譜??  え〜〜 よくわかんないけど・・・

 多分 ピアノの楽譜 だよね?  

邪魔をしたら怒られるし でも気になるし。

彼はますます凝視する。

「 ・・・ あ れ ・・・?  アルベルトの指 ・・・?

 テーブルの上で 動いてるよ ね?   あ。  ・・・ そっか 」

そう ― 004は楽譜を前に運指練習をしていたのだ。

「 ・・・ そっかあ〜〜  音楽学校に通ってたってチラっと聞いたけど

 ピアノ、 弾いてたんだ 」

リビングには アップライトだがピアノが置いてある。

時々 グレートが鍵盤を鳴らすのだが、 ジョーはそれを聞くのが好きだった。

「 ふうん ・・・ リビングのピアノ、弾けばいいのに。

 そうだ! 今度 弾いてくれる? って頼んでみよう!

 ぼくが知ってる曲って ・・・・ 聖歌 ( 讃美歌のこと。 カトリックでは

 聖歌 という ) と あと・・・ あ! えり〜ぜのために くらいだけど

 頼んでみようっと。 ・・・ 殴られる ・・・ こと、ないよね〜〜〜 」

またまた彼は 足音を忍ばせテラスから離れようとした ―

 

「 おい ジョー。 逃げなくてもいいぞ 」

 

アルベルトの声が追いかけてきた。

  うひゃ。 少年は首を竦め 固まってしまった。

「 あ ・・・ ご ごめん  その ・・・ 」

「 ふん。 謝る必要はないさ。  こんなトコで楽譜を広げていたんだ、

 妙に思うのは当然だ。 」

「 あ  あの ・・・ ピアノ ・・・ 弾いてたんだよね? 」

「 ああ。 」

「 あ あのう〜〜  さ。 あのぅ そのぅ〜〜 ・・・ 」

「 なんだ! 」

「 今度さ 弾いてください。 リビングにピアノあるし・・・ 

 ぼく ・・・ 聞きたいんだ 」

「 聞きたい?  ロックとか今風のモノは弾けんぞ  」

「 あ ぼく 教会育ちだから 」

「 クリスマス・ソングか 

「 ・・・ってか 聖歌 とか ・・・ 弾いてくれますか 」

「 ほ〜〜 お前 ローマン・カトリックか 

「 あ〜〜 うん 多分。 」

「 ふうん ・・・ 一応 博士に許可を得てから な 」

「 わ♪  ありがと〜〜  なんか懐かしくて 

「  ―  ありがとう な。 」

「 え? 」

「 いや なんでもない。 」

「 そ そう?  じゃ ね ・・・ 」

ジョーは どぎまぎしつつそそくさ〜〜〜と立ち去った。

「 ふ ん ・・・  聖歌 か ・・・ 俺は教会のオルガン弾きじゃね〜ぞ?

 でも 久々にホンモノの鍵盤を弄れる な 」

  アイツ ・・・ なかなか 気配りなヤツだな ―

アルベルトは 茶髪少年を少し見直した  らしい。

 

 

「 ひゃ〜〜〜 ・・・汗 かいたぁ〜〜〜 へへ 冷や汗かも〜〜

 水 飲んでこっと。 ・・・ あれ? 」

張大人が磨きあげたぴかぴか〜なキッチンには誰もいなかったが ― 

 

  ガシッ  ガシッ ・・・ ザ ザザ ・・・

 

少し開いた窓から 音が聞こえてきた。

「 ? なんの音 ・・・ 土でも掘ってるのかなあ 」

勝手口から ひょい、と顔を出してみたが 裏庭には誰の姿も見えない。

「 あれえ ? ・・・ あ ! 温室の中だあ なにやってるんだろ? 」

ジョーは 庭用サンダルをつっかけると裏庭に飛び出していった。

 

裏庭に建てられた温室では ジェロニモ Jr. が 熱心に土を返している。

「 わあ ・・・ すごいなあ 」

中に入るなり声を上げたジョーを 巨躯の仲間は穏やかに迎えてくれた。

「 土 掘ってるんだ? なにか作るの? 」

「 よい土 よい野菜をつくる  

「 へ〜〜〜 あ 肥料とかたくさんいれるんだろ? 」

「 肥料 入れるまえに柔らかくする。 落ち葉 肥料になる。 」

「 ふうん ・・・ あ ぼくも手伝うよ! スコップあるかな 」

「 ジョー。 水 汲んできてくれるか 

「 うん! え〜と?  このバケツ使っていい? 」

「 頼む。 入口に 水道、ある。 

「 おっけ〜〜〜 

 

   ジャバ  バシャ バシャ ・・・  大きなバケツが運ばれてくる。

 

「 もってきたよ〜〜 ここに撒くの? 」

「 すこしづつ撒く。 土に水、飲ませる 」

「 土に? ふうん ・・・ そうかあ〜〜 じゃ じわ〜〜〜〜〜っと ・・・ 」

「 上手いぞ ジョー。 」

「 えへへ  そう?  こっちの方もじゅわわ〜〜〜〜 っと ・・・

 ねえ ここになにを植えるの? 」

「 ここはトマトだ。 向こうは キュウリ。 」

「 ふうん 美味しそうだね〜〜  こっちは棚になってるんだ? 」

「 そこは 苺棚だ。 

「 イチゴ?  うわ〜〜〜お〜〜〜〜♪ ぼく、大好きさ。

 ウチでイチゴがとれるなんて〜〜 最高! 」

「 初夏、楽しみにしていろ。 」

「 ウン!  あ 水やりはぼくが引き受ける 

「 頼む。 」

「 えへへ〜〜  フランと一緒にイチゴ摘み〜〜〜♪ なんちゃって♪ 

  なんかさ〜 土を相手にするっていいね 」

「 遊び ちがう 」

「 わかってる。 真面目に世話、したいんだ。 教えてください。 」

「 よし。 」

「 あ そうだ〜〜 フラン、ちょっと誘ってくるね?

 彼女、 花壇の世話とか好きだし。 温室の世話もしてくれると思うんだ 」

「 そうか、 頼む 

「 うん! そろそろレッスンもお終いだと思うから。 ちょっと待っててくれる? 」

「 まだまだ仕事 ある。 俺 午後中ここにいる 」

「 そっか ありがと! 」

ジョーは カラになったバケツを持つと温室から出ていった。

 

   ひゅるる〜〜〜〜〜  外は 秋の風が吹き抜けていた。

 

彼は思わず首を竦め トレーナーのファスナ―を引き上げた。

「 わ・・・ !  やっぱり温室の中 あったかいんだなあ  ぶるるる 」

カタカタカタ ・・・ 庭サンダルを鳴らし、玄関に回った。

 

「 だから〜〜〜 ちょい、飛んでみれば〜〜 」

「 ダメだよ、 ちゃんと計画し計算してからだよ。 」

「 んなコト、時間 かかるだけじゃんか〜〜 」

「 必須だってば。 ジェット、君のアイディアは画期的だと思うよ。

 だけど その可能性と実効性をきちんと検証しなくちゃ。 」

たとえば・・・ と ピュンマは工学的見地から意見を述べ始めた。

「 それで空気抵抗と 君の飛行能力を計算にいれて 一番効果的な飛行経路は 」

「 んなことよりもよ〜〜 実際に飛んで 

「 ! だめだよっ 真昼間に〜〜 レーダー網びっしりなこの国でさ 」

「 ちぇ・・・ 」

「 だから! こうしてシュミレーションするんだってば。

 ね この式を見てくれよ 

ピュンマは落ちていた木の枝で 地面にすらすら幾通りもの数式を書いてゆく。

「 ! オレは〜〜 数学と付き合いはねぇ! 」

「 付き合いって・・・ 君が飛行できるのは こういう数式が支える理論から

 なりたっているわけで それを理解しなければ飛べないよ? 」

「 ん〜〜なことね〜ぞ?  オレ様は ― 飛ぼう! と思えば 飛べる! 

「 そりゃ君はそうかもしれないけど?  その飛行テクニックを改良するためには

 だね  

「 わ〜〜った わ〜ったぜ。 だったらオレに出来るコトを言ってくれ。 

 テスト飛行とかやるから 」

「 ! いきなりテスト飛行だなんて。 事故ったらどうするんだよ 」

「 へ〜き へ〜き♪ オレっちはよ〜〜 も〜 何回も何十回も墜落したり

 暴走したりして 飛行形態をマスターしてきたんだぜ? 

「 ・・・ 壮絶だな 

「 へへん。 オレらの時代は荒っぽかったからな〜〜  墜落してぶっ壊れた

 サイボーグ、結構あったぜ 」

「  ― ジェット。 

「 あ わりぃ ・・・ 悪気はね〜んだ 」

「 それは十分わかっているけどね。  う〜ん じゃあ 僕が計算してみて

 飛行経路を考えてみるから ― アタマの中で飛んでみてくれるかな 

「 めんど〜じゃん、ちょいと飛んで  」

「 だめだってば! 」

今にも地を蹴って飛び出そうとする赤毛ののっぽを ピュンマは必死で止める。

「 ち。 たる〜〜〜 」

「 あのね!  まだヒトが飛んじゃいけないんだよ、ふつ〜の世の中は! 」

「 へいへい 」

「 でも改良は必要だからね〜〜 どんどんアイディアをだしてほしいな 」

「 へいへい  な〜〜〜 どっかでコソ・・・っと〜〜 」

「 ダメだってば!  ・・・ あ そうだ、夜にさ、 裏山の雑木林の中なら 」

「 んなトコで飛べるかよ〜〜〜 

「 今は画面でのシュミレーションで我慢しなよ。 」

「 ちぇ 〜〜 

「 で さ。 さっきのアイディアだけど  」

ピュンマはまた地面にすらすらと数式を書き連ねてゆく。

 

「 ・・・ ひゃあ ・・・ ぼく、全然わからないよ ・・・

 数学、苦手だもんなあ 

ジョーは遠目に眺め 大きく迂回をし二人の邪魔をしないようにテラスから

こそ・・・っと 室内に戻った。

 

「 ふ〜〜〜  ちょっと水、飲んでからにしよ。 」

 カタン。   キッチンはドアまでぴかぴかになっている。

「 あれ ジョーはん  お腹 空いたアルか? 」

調理台の前には 当家のシェフが茶葉の量を計っていた。

「 大人〜  あ 咽喉乾いたなあ〜〜って 」

「 ほな お茶、淹れるで。 」

「 あ・・ 冷たいモノの方が 」

「 さよか。 ほな もう一本・・・ 」

まるまっちい手が冷蔵庫を開けると ―  ぶんっ !  

コーラのペットボトルが飛んできた。

「 うわ・・・っと〜〜 サンキュ 」

「 それ 飲んだらなあ〜 このお茶、ギルモアセンセに持ったってや〜 」

「 博士に? いいよ〜〜  〜〜〜ん〜〜 んまかった。 」

彼はペットボトルを片づけると お茶のトレイを受け取った。

 

 

  コン コン コン。  一番奥の部屋のドアをノックする。

 

「 はかせ〜〜〜 入ってい〜ですか〜  ジョーです〜 

「 ・・・ 開いとるよ 」

「 は〜い ・・・ 失礼しま〜す。 大人からお茶・・・もってきましたァ 」

「 おお ありがとうよ 」

ジョーはトレイをささげたまま そろそろ〜〜と書斎の中に入った。

「 え〜〜と どこに置けばいいですかあ〜〜 」

「 適当に置いておくれ。 机の上でも 床でも 

「 床なんてダメですってば。 机って ・・・うひゃ〜 空き地、ありませんよ? 」

「 は 資料の上に置いてかまわんよ〜 」

「 だって汚したら  

「 いい いい。 あ ここに置けばよいよ 」

   ザ ・・・  博士は実に無頓着に机に積まれた紙類を薙ぎ払った。

「 ・・・ い いいんですか? 大切なものじゃ・・・ 」

「 ゴミじゃ ゴミ。  それよりお茶をいただこうかの 」

「 あ はい 今 淹れますね〜〜 」

「 おお おお すまんな   〜〜〜 ん〜〜 美味い! 」

博士は熱いお茶を ずず〜〜〜っと飲み乾した。

「 ふう〜〜  やれやれ ・・・・ 」

「 博士、お疲れですか?  新しい研究ですか 」

「 新しい?  いやいや そうじゃなあ いわば、改良だな。 」

「 へえ ・・・ ドルフィン号とかの? 」 

「 いや。 きみらが できればメンテナンス・フリーになれるためには ・・・

 ああ これはワシの一生の課題なのじゃ 

「 へ ・・え ・・・  すご ・・・ 」

「 ワシの命に代えてもやらねばならんのだよ。 ワシの使命じゃ。 」

「 え・・・博士、 ぼくは 」

「 そのために ワシは一日でも長く生きてワシ自身の所業の責任を取る。

 いや そうしなければならないのだよ。 」

「 博士。 ぼくは ― 皆といられて ・・・ シアワセです。

 皆に会えてよかったって本当に思っているんです。 」

「 ・・・ ありがとうよ ジョー。 」

博士のシワ深い顔が くしゃり、と歪んだ。

「 あ 邪魔しちゃって〜〜 すいません。  もう一杯お茶・・・

 淹れておきますね〜〜 」

「 ・・・ うむ  うむ ・・・ 」

ジョーはことさら明るい調子で言うと 新しいお茶を淹れた。

 

 

「 大人〜〜 博士にお茶 届けたよ〜〜 」

ジョーはキッチンに顔を出した。

「 ほっほ〜〜  ジョーはん、おおきに。 

「 あれ?  皆 ・・・? 」

キッチンのテーブルには グレートにアルベルト、そしてフランソワーズが

ティー カップを囲んでいた。

「 ふふふ お茶タイムよ。 ジョーもどう? 」

「 わお〜〜 オヤツたいむ〜〜〜 」

「 ジョーはん、いろいろお疲れサン。 ミルク・ティやで。 甘いで 」

コトン。 彼の前に湯気のたつカップが置かれた。

「 わ〜〜〜 ありがとう 大人〜〜 」

「 お使いさんやら ジェロニモはんの助手やら ・・・ ギルモアせんせに

 お茶やら ぎょ〜さんやってくれはってなあ〜 」

「 えへ ぼく ・・・ヒマだから さ 」

「 え? 」

「 皆 いいなあ〜〜 って思って。 」 

「 なにが 」

「 それぞれ やりたいコト があってさ 」

「 え ジョーは ・・・ ないの、ずっとやりたかったコトとか いろいろ 」

「 あんまり ね  ・・・ よくわかんないんだ、何 やりたい とか 」

「 え ・・・ご ごめんなさい !  」

「  !  すまんな。 

「 あ そんなことないよ〜〜〜 皆の楽しそうな顔 とか 夢中になってるとことか

 見てても楽しいもん。

「 ジョー ・・・ 

お茶タイムを楽しんでいた面々は 思わずこの茶髪少年の顔を見つめてしまった。

「 ぼく さ。  なにもできないし なにをしていいかわからないんだ。

 でも !  ううん  だから。

 < 大切なもの > がある皆の 平穏な日々を護りたい。

 護るが ぼくの生きる目標なんだ。  なんか今 わかった。 」

「 おいおい? 俺だってここの平和を護れるぞ? 」

「 あ〜 もちろんだよ〜 アルベルト。 」

「 吾輩のチカラを侮るなよ ボーイ? 」

「 あら わたしの目と耳がなくちゃ なにもできなでしょ? 」

「 ほっほ〜〜 腹が減ってはなんもできへんで〜〜  

 ほい 熱々の蒸しケーキと杏仁豆腐やで 」

当家のシェフが 大きなトレイを運んできた。

「「 わお〜〜〜   皆 呼んでこよう 〜〜〜  

 

 

 

    ―  そして それから。   何年後か そんなに遠くないある秋の日。

 

   ファン ファン ファン 〜〜〜〜  

 

サイボーグ達の脳裏に 緊急信号が鳴り響いている。

全員が赤い特殊な服に身を包み 屋敷はバリアで完全に封印された。

 

「 ぼくが 護る。  皆の大切な日々を護る。 

「 ジョー ・・・ ! 

「 おめ〜だけに良いカッコさせね〜よ〜 」

「 ふふん ・・・ 9人のチカラを見せるぞ。 」

頼もしい声が あちこちから響く。

 

「 ― いくぞ。 」    「 おう! 」

 

             ジョーは 最強のサイボーグ009 になった。

 

 

           秋の日の  ヴィオロンの ためいきの

 

                        ・・・・・  過ぎし日の  おもひでや 

 

 

 

***********************************    Fin.    **********************************

Last updated : 11,21,2017.                back        /       index

 

 

*****************    ひと言   ******************

つまり〜〜〜  < すぎしひの おもひでや >  を

こまごま 書きたかったわけなのです〜〜〜 

あ  イワン 出すの 忘れた ・・・・  ごめん!