『 秋の日の ― (2) ― 』
タッ タッ タッ −−−−
「 〜〜〜〜 ん〜〜〜 こりゃ けっこうキツいぃ〜〜〜 」
ジョーは 両手に下げたレジ袋 ― ぱんぱん ― を持ち替えた。
ギルモア邸の門までは 下の公道からなが〜くて急な坂が続いている。
住人たちは普通 車をつかったり、ワカモノたちは自転車をガリガリ漕いだりしている。
いかに急坂とはいえ ― サイボーグたちにはどうってことはない ・・・と
思われていた のだが。
「 あ 買い物? ぼくが行く。 買ってくるモノのリスト 書いてくれる? 」
地下ロフトで フランソワーズのレッスンを見学した後 ジョーはまっさきに
申し出た。
「 え ・・・ いいの? 今日の当番はわたしよ? 」
「 いいよう〜〜 きみはもっとレッスンしてなよ。
ジャマモノがいてやりにくかっただろ? ごめんね 」
「 あら ジャマだなんて・・・ ムカシも見学してるヒトはいたし・・・
パリの稽古場では 画家を目指す学生さんたちがデッサンに来たりしたわ 」
「 へえ〜〜〜〜 」
「 だから 気にしてません って
」
「 そう? でも 今日は 買い物はぼくが行ってくる。 」
「 だってジョー、予定があるでしょう? 」
「 な〜んもないもん。 受け持ちの庭掃除と花壇の水やりはやっちゃったしね。
あ 買い物リストは大人に聞いたほうがいい? 」
「 え ええ その方がいいかも ・・・ ありがとう ! ジョー! 」
「 えへ きみはレッスン、続けてなよ 」
「 ・・・ いいの? 」
「 いいよ〜う きみはきみの < 受け持ち仕事 > 終わってるんだろ ? 」
「 ええ。 洗濯とイワンのミルクはもうとっくに 」
「 だったら好きなこと、していいじゃない? 皆 好き勝手にやってるもん 」
「 そ う ・・・? でも ジョーは 」
「 あは ぼく さ、 < やりたいこと > ってみつからないんだ。
あ いま やりたいこと は 買い出し さ 」
「 ・・・ メルシ ジョー ・・・ ! 」
「 おわ?? 」
ほわ〜〜っと温かい身体が近寄ってきて 良い匂いが彼をつつみ ・・
ちゅ。 彼のほっぺに小さなキスが落ちてきた。
「 う ・・・ わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・ ! 」
彼はそのまま 宙を飛ぶみたいな足取りで ロフトから出ていった。
うわ〜〜 うわ〜〜〜〜 うわ〜〜〜
き きす してもらっちゃったァ〜〜〜〜
「 ― ダイジョブやろか 」
ほわほわした足取りで 門とでてゆく茶髪少年を 料理人は首を傾げ、見送った。
「 わっはは〜〜〜〜ん 〜〜〜 ♪ 」
彼は 本当に雲の上を歩いていたのかも しれない。
「 ・・・ わっほ わっほ ・・・ これで全部かな〜〜〜 」
ジョーは リストと山盛りの買い物カートをチェックした。
地元の商店街もかなり充実した品揃えなのだが ― なにせ今は10人所帯・・・
絶対的に 量 が必要なので 駅向こうにある大型・安売りスーパーに
行くことになる。 食費だけでも膨大なのだ・・・
「 お米だろ〜 肉・・・ えっとチキンと豚さん。 サカナは < おまかせ > ?
う〜〜ん ぼくがしってるのは鮭に鱈の切り身と え〜とあとは鯵の干物 !
次は 野菜〜〜っと 」
リストと首っぴきで 売り場をうろうろ・・・ 押している買い物カートは
あっと言う間に山盛りになってゆく。
ぎ ぎ ぎぎ ・・・ 車輪がいや〜〜な音をたてる。
「 え〜〜と あとは あ お菓子! 好きなの、買っていいよ〜って
言われたもんな〜〜 よ・・っと 」
普通なら重くて押せそうもないカートを 彼は器用に操って売り場を移動してゆく。
「 ・・・ あのう〜〜 お客さま ? 」
売り場にいた店員サンが 声をかけてきた。
「 お菓子〜〜っと ・・・ ? あ はい なんですか 」
「 あのう ・・・ まだ お買いもの、なさいますか 」
「 え? はい あとお菓子〜〜 」
「 あのう・・・ すみませんが一回清算してくださいませんか 」
「 え ? あ 売り場ごとの会計ですか? 」
「 いえいえ ・・・ 本来なら全部一度の精算で結構なんですが
あのう ・・・ これ以上商品を積まれますとカートが壊れますので 」
「 え? あ〜〜〜 すいませんね〜〜 じゃ お菓子はぼくが
もってきますね〜〜
」
ずずず ぎぎぎぎ ・・・ 軋むカートを茶髪少年は実に巧みに操り
なおかつ 片手にスナック菓子やまもり〜な買い物カゴをもって 悠々と
レジに向かった。
「 ・・・ すっげ・・・ あのコ 見かけによらん力持ちなんだ〜〜〜 」
店員さんは 呆れて見送るのだった。
「 ありがと〜〜 ございました〜〜〜 」
「 わお〜〜 ゆくぞ〜〜〜 わっせ わっせ〜〜〜 」
ジョーは精算を終えた買い物の山を ざざざざ〜〜っとレジ袋に積みこみ、
背中のリュックにおしこみ、さらに両手に持ち どんどん歩き始めた。
「 ・・ すっげ ・・・ 」
レジ袋に脚が生えたみたいなその後ろ姿を 先ほどの店員はため息〜で眺めていた。
たっ たっ たっ !!!
「 ただいま帰りましたァ〜〜〜〜 」
ご機嫌ちゃんな声がインターフォンから響いてくる。
「 ん? ジョーか? 」
グレートがPCから目を上げた。
「 あ ジョーはん、帰りはったか〜〜〜 」
大人がキッチンからぱたぱた〜〜 駆けてきた。
「 出かけていたのか ボーイは
」
「 ふん。 お使いさん、頼んだのや 」
「 へえ〜〜 」
「 今 開けるで〜〜 お帰り ジョーはん お疲れサン〜〜〜 」
料理人は 文字通り転がるように玄関に出ていった。
「 ほんなら キッチンに運んでや〜 」
「 うん ・・・ あ〜〜 足元、よく見えないやあ 」
「 ほっほ〜 そのまんままっすぐ やで〜〜〜 ま〜〜 仰山買うてきて
くれはっておおきに〜〜 助かりまっせ〜〜〜 」
「 えへへ ・・・ 中身のチェック、お願いしまあ〜す 」
「 ほいほい これはお菓子の袋やな。 ジョーはんのオヤツや。 ほい! 」
大人は スナック菓子いりのレジ袋を渡してくれた。
「 わ〜ぉ サンキュ。 これ 皆で食べるね 〜〜 」
「 ほっほ〜〜 ま お若い子ォらで食べなはれ。 ワテらは遠慮しときます 」
「 そう? じゃ ジェットやフランと食べようっと
あ 飲み物 を 」
「 ほい、 これやろ? 」
ガチャ ・・・・ ぶん〜〜 コーラのペット・ボトルが飛んできた。
「 わ(^^♪ サンキュ〜 じゃ ちょっと休憩しま〜す 」
「 ええよ ゆっくり遊んでや 」
茶髪少年は スナック菓子を持ってにこにこキッチンを出ていった。
「 え〜っと? あ フラン、食べるかなあ ・・・ 」
菓子の袋を持ったまま 彼は地下ロフトへの階段を降りた。
「 ・・・ あ 音楽 ・・・ まだレッスンしてるのかなあ 」
彼は自然に足音を小さくし そ〜〜〜っとロフトの中を覗いてみた。
「 ! ・・・ う わ ・・・ 」
シュッ ・・・ ! トンっ !
彼女は ― 舞っていた。
軽く そして 音と共に 宙を飛び 音を踊っていた。
「 ・・・ すっ ・・・ げ ・・・ !
! ジャマしちゃいけないよね ― あとでオヤツ 持ってくるからね〜 」
彼女の舞姿を しっかりと目に焼きつけてから ジョーはこそ・・・・っと
ロフトの前を離れた。
「 ホントに宙に浮いてたよなあ・・・ 003ってもしかしてジェットよか
優秀な飛行装置でも搭載してあるのかも・・・ すっげ〜〜
ウン、 オヤツはちゃ〜んととっておくからさ 」
彼は足音を忍ばせ階段を上っていった。
「 ふ〜〜ん ・・・ アルベルト は〜〜 あれ まだ読書中かあ ・・・
? うん? ・・・ アルベルト 何 読んでるんだ? 」
ジョーはテラスに向かって目を凝らせた。
004は まだテラスの籐椅子に座っていたが 彼の前に広げられているのは ―
「 え ・・・ あれって 楽譜?? え〜〜 よくわかんないけど・・・
多分 ピアノの楽譜 だよね?
」
邪魔をしたら怒られるし でも気になるし。
彼はますます凝視する。
「 ・・・ あ れ ・・・? アルベルトの指 ・・・?
テーブルの上で 動いてるよ ね? あ。 ・・・ そっか 」
そう ― 004は楽譜を前に運指練習をしていたのだ。
「 ・・・ そっかあ〜〜 音楽学校に通ってたってチラっと聞いたけど
ピアノ、 弾いてたんだ 」
リビングには アップライトだがピアノが置いてある。
時々 グレートが鍵盤を鳴らすのだが、 ジョーはそれを聞くのが好きだった。
「 ふうん ・・・ リビングのピアノ、弾けばいいのに。
そうだ! 今度 弾いてくれる? って頼んでみよう!
ぼくが知ってる曲って ・・・・ 聖歌 ( 讃美歌のこと。 カトリックでは
聖歌 という ) と あと・・・ あ! えり〜ぜのために くらいだけど
頼んでみようっと。 ・・・ 殴られる ・・・ こと、ないよね〜〜〜 」
またまた彼は 足音を忍ばせテラスから離れようとした ―
「 おい ジョー。 逃げなくてもいいぞ 」
アルベルトの声が追いかけてきた。
うひゃ。 少年は首を竦め 固まってしまった。
「 あ ・・・ ご ごめん その ・・・ 」
「 ふん。 謝る必要はないさ。 こんなトコで楽譜を広げていたんだ、
妙に思うのは当然だ。 」
「 あ あの ・・・ ピアノ ・・・ 弾いてたんだよね? 」
「 ああ。 」
「 あ あのう〜〜 さ。 あのぅ そのぅ〜〜 ・・・ 」
「 なんだ! 」
「 今度さ 弾いてください。 リビングにピアノあるし・・・
ぼく ・・・ 聞きたいんだ 」
「 聞きたい? ロックとか今風のモノは弾けんぞ 」
「 あ ぼく 教会育ちだから 」
「 クリスマス・ソングか 」
「 ・・・ってか 聖歌 とか ・・・ 弾いてくれますか 」
「 ほ〜〜 お前 ローマン・カトリックか 」
「 あ〜〜 うん 多分。 」
「 ふうん ・・・ 一応 博士に許可を得てから な 」
「 わ♪ ありがと〜〜 なんか懐かしくて 」
「 ― ありがとう な。 」
「 え? 」
「 いや なんでもない。 」
「 そ そう? じゃ ね ・・・ 」
ジョーは どぎまぎしつつそそくさ〜〜〜と立ち去った。
「 ふ ん ・・・ 聖歌 か ・・・ 俺は教会のオルガン弾きじゃね〜ぞ?
でも 久々にホンモノの鍵盤を弄れる な 」
アイツ ・・・ なかなか 気配りなヤツだな ―
アルベルトは 茶髪少年を少し見直した らしい。
「 ひゃ〜〜〜 ・・・汗 かいたぁ〜〜〜 へへ 冷や汗かも〜〜
水 飲んでこっと。 ・・・ あれ? 」
張大人が磨きあげたぴかぴか〜なキッチンには誰もいなかったが ―
ガシッ ガシッ ・・・ ザ ザザ ・・・
少し開いた窓から 音が聞こえてきた。
「 ? なんの音 ・・・ 土でも掘ってるのかなあ 」
勝手口から ひょい、と顔を出してみたが 裏庭には誰の姿も見えない。
「 あれえ ? ・・・ あ ! 温室の中だあ なにやってるんだろ? 」
ジョーは 庭用サンダルをつっかけると裏庭に飛び出していった。
裏庭に建てられた温室では ジェロニモ Jr. が 熱心に土を返している。
「 わあ ・・・ すごいなあ 」
中に入るなり声を上げたジョーを 巨躯の仲間は穏やかに迎えてくれた。
「 土 掘ってるんだ? なにか作るの? 」
「 よい土 よい野菜をつくる
」
「 へ〜〜〜 あ 肥料とかたくさんいれるんだろ? 」
「 肥料 入れるまえに柔らかくする。 落ち葉 肥料になる。 」
「 ふうん ・・・ あ ぼくも手伝うよ! スコップあるかな 」
「 ジョー。 水 汲んできてくれるか 」
「 うん! え〜と? このバケツ使っていい? 」
「 頼む。 入口に 水道、ある。 」
「 おっけ〜〜〜 」
ジャバ バシャ バシャ ・・・ 大きなバケツが運ばれてくる。
「 もってきたよ〜〜 ここに撒くの? 」
「 すこしづつ撒く。 土に水、飲ませる 」
「 土に? ふうん ・・・ そうかあ〜〜 じゃ じわ〜〜〜〜〜っと ・・・ 」
「 上手いぞ ジョー。 」
「 えへへ そう? こっちの方もじゅわわ〜〜〜〜 っと ・・・
ねえ ここになにを植えるの? 」
「 ここはトマトだ。 向こうは キュウリ。 」
「 ふうん 美味しそうだね〜〜 こっちは棚になってるんだ? 」
「 そこは 苺棚だ。 」
「 イチゴ? うわ〜〜〜お〜〜〜〜♪ ぼく、大好きさ。
ウチでイチゴがとれるなんて〜〜 最高! 」
「 初夏、楽しみにしていろ。 」
「 ウン! あ 水やりはぼくが引き受ける 」
「 頼む。 」
「 えへへ〜〜 フランと一緒にイチゴ摘み〜〜〜♪ なんちゃって♪
なんかさ〜 土を相手にするっていいね 」
「 遊び ちがう 」
「 わかってる。 真面目に世話、したいんだ。 教えてください。 」
「 よし。 」
「 あ そうだ〜〜 フラン、ちょっと誘ってくるね?
彼女、 花壇の世話とか好きだし。 温室の世話もしてくれると思うんだ 」
「 そうか、 頼む 」
「 うん! そろそろレッスンもお終いだと思うから。 ちょっと待っててくれる? 」
「 まだまだ仕事 ある。 俺 午後中ここにいる 」
「 そっか ありがと! 」
ジョーは カラになったバケツを持つと温室から出ていった。
ひゅるる〜〜〜〜〜 外は 秋の風が吹き抜けていた。
彼は思わず首を竦め トレーナーのファスナ―を引き上げた。
「 わ・・・ ! やっぱり温室の中 あったかいんだなあ ぶるるる 」
カタカタカタ ・・・ 庭サンダルを鳴らし、玄関に回った。
「 だから〜〜〜 ちょい、飛んでみれば〜〜 」
「 ダメだよ、 ちゃんと計画し計算してからだよ。 」
「 んなコト、時間 かかるだけじゃんか〜〜 」
「 必須だってば。 ジェット、君のアイディアは画期的だと思うよ。
だけど その可能性と実効性をきちんと検証しなくちゃ。 」
たとえば・・・ と ピュンマは工学的見地から意見を述べ始めた。
「 それで空気抵抗と 君の飛行能力を計算にいれて 一番効果的な飛行経路は 」
「 んなことよりもよ〜〜 実際に飛んで 」
「 ! だめだよっ 真昼間に〜〜 レーダー網びっしりなこの国でさ 」
「 ちぇ・・・ 」
「 だから! こうしてシュミレーションするんだってば。
ね この式を見てくれよ 」
ピュンマは落ちていた木の枝で 地面にすらすら幾通りもの数式を書いてゆく。
「 ! オレは〜〜 数学と付き合いはねぇ! 」
「 付き合いって・・・ 君が飛行できるのは こういう数式が支える理論から
なりたっているわけで それを理解しなければ飛べないよ? 」
「 ん〜〜なことね〜ぞ? オレ様は ― 飛ぼう! と思えば 飛べる! 」
「 そりゃ君はそうかもしれないけど? その飛行テクニックを改良するためには
だね
」
「 わ〜〜った わ〜ったぜ。 だったらオレに出来るコトを言ってくれ。
テスト飛行とかやるから 」
「 ! いきなりテスト飛行だなんて。 事故ったらどうするんだよ 」
「 へ〜き へ〜き♪ オレっちはよ〜〜 も〜 何回も何十回も墜落したり
暴走したりして 飛行形態をマスターしてきたんだぜ? 」
「 ・・・ 壮絶だな 」
「 へへん。 オレらの時代は荒っぽかったからな〜〜 墜落してぶっ壊れた
サイボーグ、結構あったぜ 」
「 ― ジェット。 」
「 あ わりぃ ・・・ 悪気はね〜んだ 」
「 それは十分わかっているけどね。 う〜ん じゃあ 僕が計算してみて
飛行経路を考えてみるから ― アタマの中で飛んでみてくれるかな 」
「 めんど〜じゃん、ちょいと飛んで 」
「 だめだってば! 」
今にも地を蹴って飛び出そうとする赤毛ののっぽを ピュンマは必死で止める。
「 ち。 たる〜〜〜 」
「 あのね! まだヒトが飛んじゃいけないんだよ、ふつ〜の世の中は! 」
「 へいへい 」
「 でも改良は必要だからね〜〜 どんどんアイディアをだしてほしいな 」
「 へいへい な〜〜〜 どっかでコソ・・・っと〜〜 」
「 ダメだってば! ・・・ あ そうだ、夜にさ、 裏山の雑木林の中なら 」
「 んなトコで飛べるかよ〜〜〜 」
「 今は画面でのシュミレーションで我慢しなよ。 」
「 ちぇ 〜〜 」
「 で さ。 さっきのアイディアだけど 」
ピュンマはまた地面にすらすらと数式を書き連ねてゆく。
「 ・・・ ひゃあ ・・・ ぼく、全然わからないよ ・・・
数学、苦手だもんなあ 」
ジョーは遠目に眺め 大きく迂回をし二人の邪魔をしないようにテラスから
こそ・・・っと 室内に戻った。
「 ふ〜〜〜 ちょっと水、飲んでからにしよ。 」
カタン。 キッチンはドアまでぴかぴかになっている。
「 あれ ジョーはん お腹 空いたアルか? 」
調理台の前には 当家のシェフが茶葉の量を計っていた。
「 大人〜 あ 咽喉乾いたなあ〜〜って 」
「 ほな お茶、淹れるで。 」
「 あ・・ 冷たいモノの方が 」
「 さよか。 ほな もう一本・・・ 」
まるまっちい手が冷蔵庫を開けると ― ぶんっ !
コーラのペットボトルが飛んできた。
「 うわ・・・っと〜〜 サンキュ 」
「 それ 飲んだらなあ〜 このお茶、ギルモアセンセに持ったってや〜 」
「 博士に? いいよ〜〜 〜〜〜ん〜〜 んまかった。 」
彼はペットボトルを片づけると お茶のトレイを受け取った。
コン コン コン。 一番奥の部屋のドアをノックする。
「 はかせ〜〜〜 入ってい〜ですか〜 ジョーです〜 」
「 ・・・ 開いとるよ 」
「 は〜い ・・・ 失礼しま〜す。 大人からお茶・・・もってきましたァ 」
「 おお ありがとうよ 」
ジョーはトレイをささげたまま そろそろ〜〜と書斎の中に入った。
「 え〜〜と どこに置けばいいですかあ〜〜 」
「 適当に置いておくれ。 机の上でも 床でも 」
「 床なんてダメですってば。 机って ・・・うひゃ〜 空き地、ありませんよ? 」
「 は 資料の上に置いてかまわんよ〜 」
「 だって汚したら
」
「 いい いい。 あ ここに置けばよいよ 」
ザ ・・・ 博士は実に無頓着に机に積まれた紙類を薙ぎ払った。
「 ・・・ い いいんですか? 大切なものじゃ・・・ 」
「 ゴミじゃ ゴミ。 それよりお茶をいただこうかの 」
「 あ はい 今 淹れますね〜〜 」
「 おお おお すまんな 〜〜〜 ん〜〜 美味い! 」
博士は熱いお茶を ずず〜〜〜っと飲み乾した。
「 ふう〜〜 やれやれ ・・・・ 」
「 博士、お疲れですか? 新しい研究ですか 」
「 新しい? いやいや そうじゃなあ いわば、改良だな。 」
「 へえ ・・・ ドルフィン号とかの? 」
「 いや。 きみらが できればメンテナンス・フリーになれるためには ・・・
ああ これはワシの一生の課題なのじゃ 」
「 へ ・・え ・・・ すご ・・・ 」
「 ワシの命に代えてもやらねばならんのだよ。 ワシの使命じゃ。 」
「 え・・・博士、 ぼくは 」
「 そのために ワシは一日でも長く生きてワシ自身の所業の責任を取る。
いや そうしなければならないのだよ。 」
「 博士。 ぼくは ― 皆といられて ・・・ シアワセです。
皆に会えてよかったって本当に思っているんです。 」
「 ・・・ ありがとうよ ジョー。 」
博士のシワ深い顔が くしゃり、と歪んだ。
「 あ 邪魔しちゃって〜〜 すいません。 もう一杯お茶・・・
淹れておきますね〜〜 」
「 ・・・ うむ うむ ・・・ 」
ジョーはことさら明るい調子で言うと 新しいお茶を淹れた。
「 大人〜〜 博士にお茶 届けたよ〜〜 」
ジョーはキッチンに顔を出した。
「 ほっほ〜〜 ジョーはん、おおきに。 」
「 あれ? 皆 ・・・? 」
キッチンのテーブルには グレートにアルベルト、そしてフランソワーズが
ティー カップを囲んでいた。
「 ふふふ お茶タイムよ。 ジョーもどう? 」
「 わお〜〜 オヤツたいむ〜〜〜 」
「 ジョーはん、いろいろお疲れサン。 ミルク・ティやで。 甘いで 」
コトン。 彼の前に湯気のたつカップが置かれた。
「 わ〜〜〜 ありがとう 大人〜〜 」
「 お使いさんやら ジェロニモはんの助手やら ・・・ ギルモアせんせに
お茶やら ぎょ〜さんやってくれはってなあ〜 」
「 えへ ぼく ・・・ヒマだから さ 」
「 え? 」
「 皆 いいなあ〜〜 って思って。 」
「 なにが 」
「 それぞれ やりたいコト があってさ 」
「 え ジョーは ・・・ ないの、ずっとやりたかったコトとか いろいろ 」
「 あんまり ね ・・・ よくわかんないんだ、何 やりたい とか 」
「 え ・・・ご ごめんなさい ! 」
「 ! すまんな。 」
「 あ そんなことないよ〜〜〜 皆の楽しそうな顔 とか 夢中になってるとことか
見てても楽しいもん。 」
「 ジョー ・・・ 」
お茶タイムを楽しんでいた面々は 思わずこの茶髪少年の顔を見つめてしまった。
「 ぼく さ。 なにもできないし なにをしていいかわからないんだ。
でも ! ううん だから。
< 大切なもの > がある皆の 平穏な日々を護りたい。
護るが ぼくの生きる目標なんだ。 なんか今 わかった。 」
「 おいおい? 俺だってここの平和を護れるぞ? 」
「 あ〜 もちろんだよ〜 アルベルト。 」
「 吾輩のチカラを侮るなよ ボーイ? 」
「 あら わたしの目と耳がなくちゃ なにもできなでしょ? 」
「 ほっほ〜〜 腹が減ってはなんもできへんで〜〜
ほい 熱々の蒸しケーキと杏仁豆腐やで 」
当家のシェフが 大きなトレイを運んできた。
「「 わお〜〜〜 皆 呼んでこよう 〜〜〜
」 」
― そして それから。 何年後か そんなに遠くないある秋の日。
ファン ファン ファン 〜〜〜〜
サイボーグ達の脳裏に 緊急信号が鳴り響いている。
全員が赤い特殊な服に身を包み 屋敷はバリアで完全に封印された。
「 ぼくが 護る。 皆の大切な日々を護る。 」
「 ジョー ・・・ ! 」
「 おめ〜だけに良いカッコさせね〜よ〜 」
「 ふふん ・・・ 9人のチカラを見せるぞ。 」
頼もしい声が あちこちから響く。
「 ― いくぞ。 」 「 おう! 」
ジョーは 最強のサイボーグ009 になった。
秋の日の ヴィオロンの ためいきの
・・・・・ 過ぎし日の おもひでや
*********************************** Fin.
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Last updated : 11,21,2017.
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***************** ひと言 ******************
つまり〜〜〜 < すぎしひの おもひでや > を
こまごま 書きたかったわけなのです〜〜〜
あ イワン 出すの 忘れた ・・・・ ごめん!