『 プレゼント ― (2) ― 』
タタタタ ・・・・ 軽い足音が近づいてきて さっとドアが開いた。
「 おはようございます〜〜〜 」
「 あ〜 おはよう。 」
「 あ! おはようさん〜〜 シマムラくん〜〜 」
「 おはよう〜〜 バイト君〜 」
開店前の大きな店舗の中から 次々に返事がかえってきた。
「 シマムラく〜ん さっそくなんだけど〜 今日の分、届いているんで
カーゴで取りにいってくれる? 」
「 はい! え〜〜と 裏の集配口ですよね 」
「 そうそう 」
「 あ〜〜 一人で平気かな? 」
「 あ 大丈夫っすよ〜 」
「 そう? でも ・・・ 結構重いよ?? 」
「 大丈夫で〜す 」
「 あ このコ、すっご〜い力持ちなのよ、カーゴ一台分くらい、軽く運んじゃうの 」
「 ほお〜〜〜?? 」
「 見かけ 細っこいんだけど〜 なんか筋力もりもり だよね〜 」
「 あは いやあ〜 そんなコトないっすよ〜〜 あは こっち、軽いから〜 」
自分のアタマをちょん、と叩くと 彼は笑って走っていった。
「 ・・・ な なんか ・・・ 胸キュン〜〜 」
「 でしょ?? オバちゃんキラーかも〜〜 」
「 いいコだよねえ ・・・学生? 」
「 う〜〜ん? フリーターって本人は言うんだけど。 ここに来る前にもういっこ
バイトしてくるんだって。 」
「 へえええ??? なになに? 」
「 うん ・・・ 引っ越し屋 だって。 朝イチ引っ越しってなんか人気のサービスらしい 」
「 ひえ〜〜〜 すご・・・ 」
「 ほらほら〜〜 皆 手が止まってるよ〜〜 シマムラ君に追い抜かされるよっ 」
「 あ すいませ〜〜ん 店長〜〜 」
オバちゃん達はてんでに担当の商品を仕分け、陳列の作業に散っていった。
― ここは広いパーキングエリアを擁したベビー・子供用品総合店 ・・・
どの街の郊外にも必ずみかけるチェーン店の一つだ。
車で立ち寄る客が大半なので 開店は昼からとなり、主にパートやアルバイトが働いている。
紙オムツから粉ミルク、哺乳瓶から始まり服やらオモチャやらベビーカーやら ・・・
要するにコドモ用品はなんでもあり、の広大な店舗なのだ。
その店で 茶髪の青少年・シマムラ君 は 午後からの仕分けバイトに精をだす。
午前中の引っ越し屋 プラス 午後の仕分け …と 双方ともかなり体力を必要とするが ・・・
う〜〜〜ん サイボーグでよかった〜〜〜 ♪♪
彼は内心小躍りしつつ、熱心に働き、 < 若いのにスゴイ力持ち > となかなか
評判がいい。
特に 子供用品の店ではただの < 仕分け・バイトの兄ちゃん > ではなくなりつつある。
仕分け、といっても客からは普通の店員に見えるから いろいろ質問が飛んでくる。
「 あの〜〜 △△社のミルク、あります? 」
ある日、粉ミルクの缶を運んでいた彼に一人の客が尋ねた。
「 はい? ・・・ ああ アレルギー体質専用のミルクですよね? それはこちらの棚に 」
ジョーはすたすたと客を案内した。
「 まあ ありがとう! 」
「 あ 重いですよ〜〜 レジまでもってきます! 」
「 あらあ すみません〜〜 」
「 いえ ・・・ 」
― この出来事には多くの < 目撃者 > がいたのだ!
あの店員さんはなんでも知っているわ〜〜
うふふ〜〜 イケメン君だし〜 キモチいい受け答えだし〜
荷物、運んでくれるし〜〜〜
彼がいるなら毎日だって通っちゃう〜〜♪
・・・ ってことで。
翌日から何気なく、実際は明らかに彼目当ての客が増えはじめた。
この < 仕分けバイトの兄ちゃん > は 力仕事をしてくれるだけじゃなく!
ベビー用品についてやたらと詳しいのである。
「 哺乳瓶なんですけど〜〜 外出用には ・・・ 」
「 あ これなんか軽くて丈夫ですよ〜 」
「 生後半年の赤ちゃん用のベビー服って 大きさは 」
「 あ〜 だいたいこのコーナーでいかがですか〜 」
「 ベビー・フードで持ち歩きやすいのが欲しいんですけど 」
「 あ こっちのが軽量です。 いくつか組み合わせてどうぞ〜 」
― つまり < マニュアル通り > の受け答えではなく、実際の < 経験 > に
基づいた答えが返ってくる。
「 ふうん ・・・? バイト君、なかなか人気じゃないか。 」
店長はちゃんと見ている。 売り場のチーフに話かけた。
「 ・・・ 彼は一応 < 仕分け > 担当ですから、注意します? 」
「 仕分けは終わっているのだろう? 」
「 はい。 とっくに完了です。 彼、仕事早いですよ 」
「 なら いいんじゃないか? 商品知識もあるみたいだし ・・・ 」
「 はい。 年の離れた兄弟でもいるんですかね? 」
「 事情はなんっだって客が増えるなら大歓迎だ。 問題ないよ。 」
「 ですね。 まあ 頑張ってもらいます。 」
「 ありがとうございました〜〜 」
買い物カート満載の商品をパーキングまで運び 車のトランクに押し込んだ。
車を見送り一礼 ・・・ やれやれと空を見あげた。
ふう〜〜〜〜 ・・・ああ いい天気だなあ〜〜
イワン〜〜〜〜 仲間でいてくれて ありがとう!!
あは・・・イワン、君からいろいろホンネを聞かされてて助かったよ〜
うん、 君のお気に入りのミルク、宣伝しといたよ〜〜
「 うん、そうだよね。 イワンにお土産にベビー用おせんべい 買ってゆこ!
アレ 人気なんだよね〜〜 」
さあ〜〜 仕事しごと〜〜 ! ・・・ 人気バイト君は駆けていった。
朝方は冷え込んだけれど、お昼ごろにはうらうらお日様が注ぐ温かい空模様になった。
「 あら 暖かいわあ〜〜〜 海がキラキラ・・・キレイですね。 」
「 うん? ああ ほんになあ〜 この辺りは温暖じゃな 」
「 気持ちのいい土地ですよねえ・・ 」
博士とフランソワーズは のんびりと坂道を降りて地元商店街へと歩いてゆく。
「 園芸店って・・・ありましたっけ? 」
「 うむ ・・・ 通りの奥の方だがな。 もともとは植木の職人さんの店だったそうだよ。 」
「 うえきのしょくにん?? 」
「 庭木の手入れなどをする専門家じゃよ。 この国では庭木を大切にする家が多かったのだろうな。 」
「 この辺りでも大きなお家が壊されて マンションとか小さなお家がたくさん建ったりして
ますね。 それでもまだまだ緑が多いけれど ・・・ 」
「 ほんになあ ・・・ ああ ほら、あそこじゃよ。 」
「 あら。 わたし、今まで全然気が付いていなかったわ。 あ いろいろな苗とか
植木がたくさん! 」
「 そうじゃなあ ・・・ ほい、こんにちは ・・・ いい日和ですなあ 」
二人は広い敷地に鉢物やら苗を多く並べている店に入っていった。
< 花屋 > というより、園芸店で肥料やら簡単な農機具とかも扱っているらしい。
ガラリ ・・・ と懐かしいようなガラスの引き戸を開けると店主がすぐに現れた。
「 いらっしゃい〜〜 お これは岬のご隠居さん〜〜 こちらさんは? 」
「 これは 植辰のご主人さん。 ああ これは娘ですじゃ、フランソワーズといいます。 」
「 フランソワーズです、こんにちは 」
フランソワーズは丁寧に挨拶をした。
「 ほえ〜〜〜 すげ〜〜美女さんですな 」
「 はっは どうぞヨロシク〜〜 これからずっとこちらで一緒に暮らしますでな
」
「 そりゃ〜〜いいねえ〜 いやあ〜 美人サン大感迎〜〜
この商店街にもね〜〜 買い物の来てくださいよ 」
「 はい、いろいろなお店があって楽しいですね。 」
「 ぜひぜひ〜〜 あ それで今日はなにを? 」
「 初心者向けの盆栽をみつくろってくれませんかなあ〜 最近 はまっていますんで ・・・
あ 娘はなにか鉢物が欲しいらしいんで・・・ 」
「 はいはい ・・・ ご隠居、 盆栽はこっちの棚とあちらの敷地にも置いてありますよ。
ああ お嬢さん、鉢物はこっち、あと球根類もありますよ〜 」
「 はい ありがとうございます 」
― 結局 小一時間、二人はこの元植木屋の店でウロウロした結果
博士は枝ぶりのよい松の鉢とちらほらつぼみを付けた紅梅の小鉢をご満悦で抱え
フランソワーズは 開き始めた花をつけた白梅の細い木を持ち 二人は大ニコニコで店を出た。
「 う〜〜む〜〜 この枝ぶりは素晴らしいのう〜〜〜 」
「 これ ・・・ どこに植えましょう? 玄関脇? ううん いつでも見られるように
やっぱりテラスの横 かしら 」
「 剪定については やはりコズミ君に教えを請うべきじゃなあ 〜 」
「 秋用の球根やら種も頼んだし。 鉢植えのヒヤシンスとチューリップも買いましたわ。
後で届けますよ〜って。えっと 玄関の横の白いお花は す い せ ん でしたよね
とってもいい香りなんです。 」
「 そうそう 白い小さな花が咲いておるな。 そうか〜〜香もいいのか!
ふうむ ・・・ これもよい香じゃな〜 フランソワーズ? 」
博士は 彼女が抱えている細い木の花に顔を近づける。
「 うふふ どんな香水よりも素敵ですよねえ その赤い花は香は? 」
「 あ〜〜 こちらはあまり香はないらしいよ。 しかし・・・カワイイのう〜
ちんまりと咲いておるところが気に入ったよ。 」
「 博士、ひとつ私が持ちますから ・・・ 」
フランソワーズは 紅梅の鉢を受け取った。 彼女とてサイボーグ、軽々ともってゆく。
「 いつか・・・ウチの庭にもウメの木がたくさん花を咲かるようになればいいですね 」
「 そうじゃなあ 海っ端なので潮風が少々気になるが・・・ 」
「 あ それじゃ裏庭に植えようかしら。 でも やっぱり皆がすぐに気がつく
テラスの側に植えたいです 」
「 おお いいアイディアじゃな。 ワシまでわくわくしてきたぞ 」
「 ステキですよね♪ 春は勿論だけど、季節ごとにたくさんのお花が咲くお庭って・・・
裏庭には ハーブとか植えたいです。 」
「 いいのう〜〜 そうじゃ 温室でも作ってみるか?
なに、男手には不自由せんからなあ〜 出入りするヤツらにちょいとスコップと
親しんでもらうさ。 」
「 まあ ・・・ うふふ 文句の嵐が飛んできそうですわ。 」
「 お前の頼みなら 皆張り切るじゃろうよ。 ほれ、ウチの青少年を筆頭になあ 」
「 ふふふ ・・・ わたしだって頑張りますわ。
ともかく! 春の支度を大急ぎ〜〜〜 もうすぐそこまで来てますよね。 」
「 そうじゃ そうじゃ ・・・ 冬は寒いなんぞいっておられんわい。 」
博士もフランソワーズも花談義に夢中で 家の前の急坂は いつもより全然短く緩くて
あっという間に 玄関に到着したのだった。
「 〜〜〜〜 いい香♪ 」
フランソワーズは 玄関脇の水仙にそっと顔を近づける。 博士も一緒に屈みこんだ。
「 うむ ・・・ なんとも清澄な香りじゃな 」
― この日から フランソワーズの姿が頻繁に庭で見られるようになる。
自分の家のお庭 ってなんてステキなの〜〜〜
う〜んとちっちゃい頃、 バカンスでゆく夏のお家にはお庭があったけど・・・
花壇作ったり 木を植えたりできる <ウチの庭> は初めてよ!
え〜〜と? ここからこう〜〜〜 花壇にして・・・
縁取りにレンガとか埋めたいわあ〜
あ ここって荒地だからずっと掘り返して土壌を変えないと〜〜
うわ〜〜〜 頑張っちゃう〜〜♪
大きな麦わら帽子をしっかりかぶり ブカつく軍手をはめ ― もう彼女は夢中だった。
冬真っ盛りだけれど、この地域昼間はお日様がぽかぽか暖かい。
ふう ・・・ なんだか暑いくらい ねえ ・・・
あ お水、もってくればよかったなあ ノド、乾いちゃう〜
― あ ! イワンのミルクっ!!!
「 たいへん〜〜〜 そうよ! いつものミルク、切れてたのよね〜〜〜
え〜〜っと?? 駅前のドラッグ・ストアで売ってるかしら! 」
如雨露とシャベルを置くと フランソワーズはぱたぱたと家の中に駆けこんだ。
ガラガラガラ ・・・ 荷役用カートを引いてバイト君が店舗内を通過してゆく。
「 失礼しま〜〜す 申し訳ありませ〜〜ん 」
土曜の午後、かなり混み合っているのだが 彼は巧にカートを引いてすいすい歩く。
― もっとも ・・・
「 あ! あのイケメン・バイト君がくるぅ〜〜 ♪ 」
「 きゃ♪ う〜〜ん 細っこいのにすごい力持ちなのよね〜〜 彼 」
「 そうそう! この前ね、ピュア・ウオーター箱買した時なんかね〜 ひょいっと
片手でもってレジまで運んでくれたのよ〜〜 」
「 わあ〜〜〜 いいなあ〜〜 私も箱買しよ! 彼にもってもらうわ〜〜 」
「 棚の上の紙おむつのパックとかも取ってくれるし♪
」
「 ベビー・フードもねえ やたら詳しいの! 」
「 本当? じゃ これからは全部この店で買うわ! 彼にアドバイスしてもらうの〜〜 」
「 アタシも〜〜 」
・・・ つまりはお客さん達が自発的に道を空けてくれる、というか 遠巻きに
彼を眺めている という雰囲気なのだ。
「 ん〜〜〜っと。 これで仕分け本日分は完了だな〜。 あ そうだ〜 倉庫に保管してる分、
すこし回しておこうかな。 紙おむつの回転、最近早いもんなあ 〜 」
彼はぶつぶつ言いつつ てきぱきと仕事を片づける。
「 ・・ ふう〜 引っ越し屋とここの仕分けでなんとか軍資金、足りる かな ・・
どうしても! あのアクセサリ・・・ フランにプレゼントするんだ!
うお〜〜〜 頑張るぞ〜〜〜 」
密かにガッツ・ポーズをし、うんうん・・・と頷く。
誕生日に何を贈るか??? さんざん迷いまくり・思案を重ね・途方にくれて。
結局 彼はかなり平凡なセンに落ち着いた。 ( というか これ以上もう考えられなかった ・・・ )
よし。 あのきらきら・ぴかぴかした宝飾店にあった アレ!
そうさ、がんがん寒い日なのに店のドア全開で暖気を派手にまき散らしていたあの店!
あそこのウィンドウにあった アレ にする。
― で。 とりあえず 資金調達だ。
そんなわけで、ぐちゃぐちゃ悩んでいた時間的ロスもあり、今島村ジョー君はバイトの鬼!と
化しているのだった。
「 ふ〜〜・・・ しっかしなあ〜〜 こんな時にはサイボーグであることに感謝! だな〜
何でも持てるもんな〜 」
ガシャン ガシャン ・・・ 荷役用カーゴを複数まとめて折りたたみ駐車場の隅の所定位置に 固定した。
これで一応 < バイト君 > のノルマは終了なのだが ・・・
「 あ! シマムラく〜〜〜ん!? 悪いんだけどぉ〜〜〜 品出し、ヘルプしてくれない?」
売り場主任のオバサンが どたばた走ってきた。
「 あ は〜〜い 」
「 ごめんね〜〜 なんか今日 すごく混んで・・・・ ミルクとかオムツ・パックの棚が
どんどん出てるのよ〜〜 」
「 はい わかりました。 奥の倉庫にも在庫 ありますから 〜 」
「 お願いしてもいい? 島村くんのノルマはもう終わっているんだけど 」
「 オッケーです、すぐに運んで品出ししておきます。 」
「 わ〜〜 助かるわぁ〜〜 じゃ 」
「 はい。 ぼく、直接倉庫に行きますから 」
バイト君は爽やかな笑顔を残し 走って行った。
「 ・・・は あれじゃ〜 人気でるワケだわな・・・
バイトさん 今日は休み? って何回聞かれたかわかんないもんねえ 」
ま 客が増えるんだからいいけどさ・・・ 主任のオバサンは肩を竦め、彼女もまたどたばたと
店舗へと戻っていった。
台車に紙おむつパックと粉ミルクの缶を山積みして 店舗へのドアを開けると ―
「 ・・・ うわ??? こ こんなに混むっけ? わは ・・・
あ 〜〜 シツレイします〜〜〜 いらっしゃいませ〜〜〜 」
ジョーは 巧みに客のあいまをすり抜けてゆく。
きゃ♪ あのバイトクンよぉ〜〜〜
いたいた! あの子よ あのコ〜〜〜 ミルク、かっちゃお!
わはは〜〜〜ん♪ カワイイ〜〜〜 あ オムツパック くださ〜〜い
「 あは いらっしゃいませ〜〜 ただいま 陳列いたしますので〜〜〜
はい? はい、アレルギーのある赤ちゃん用のは 向かいの棚です。
はい? あ どうぞ〜〜 はい? すいません、このサイズのみ、なんです。
はい? 箱買いですか ありがとう存じます〜 あ レジまで運びますから 」
たちまひ四方八方から声がかけられ・・・ ジョーはてんてこ舞いだ。
そして 紙おむつ・パック も 粉ミルク缶もどんどんはけてゆく。
「 いらっしゃいませえ〜〜〜 」
さすがのジョーも額に汗を浮かべ 商品の前だしをしていた。
「 あの〜 ・・・・ すみませんが 」
棚に向かっていたのでちょうど客には背を向けているとき、遠慮がちな声がきこえた。
「 はい? ・・・ お〜〜っと ・・・ ! 」
ジョーはすぐに振り向ことしたが ミルク缶が転げそうになり、咄嗟に足と手で止めた。
「 あの ・・・ ○×社のミルク ・・・ ありますかしら。 」
「 あ ○×社の・・・ ぐんぐん・みるく ですね? それでしたら こっちの・・・・
・・・!?!? あれ??? 」
振り向いた彼の目の前には ― 赤ん坊を抱いた亜麻色の髪の女性が立っていた。
「 ・・・ ふ ふ フラン〜〜〜 !? 」
「 ? あ〜〜〜〜 ジョーぉ〜〜〜 」
かなりの客がざわざわしている中で 二人は突っ立ったまましげしげと相手を見つめている。
― その時。 無邪気な声が ・・・
「 ぱぱ 〜〜〜 ぱぱ♪ 」
「「 !! い い イワン 〜〜〜〜 」」
赤ん坊の声に 二人は飛び上がる。
赤ん坊は小さな手を伸ばして ジョーのシャツを握りしめた。
「 あ ・・・ おっとっと・・・
」
ジョーはあわてて このイタズラ坊主を抱き取った。
≪ へへへ・・・ 二人トモ 何ボ〜〜ットシテルノサ? ≫
イタズラっぽい<声> が 二人のアタマの中に響いてきた。
「 ぱ ぱぱ って 〜〜〜〜 なんなのよ? 」
≪ シ・・・ 脳波通信デ応エテヨ、 まま ≫
「 ま ママ ですってぇ〜〜 ? 」
≪ ホラホラ・・・ ぱぱ ガ固マッテルヨ〜〜〜 ≫
「 え? あ ・・・ ああ あの〜〜〜 ジョォ? 」
ちょんちょん ・・・ 目の前に突っ立っている彼の肩をちょいと突いた。
「 ・・・ !? ・・・ あ あ〜〜〜 いらっしゃいませ? 」
「 ちょっと? ねえ 寝ぼけてないで・・・ 」
「 !? あ! ご ごめん ・・・ ちょっとアタマの中 真っ白で ・・・ 」
≪ アハハ ・・・ 最強ノ009デモ ソンナコトガアルンダ? ≫
「 イワン〜〜〜〜 いきなりの発言はぁ〜〜 」
≪ ホラホラ ・・・ ムズカシイ話ハ脳波通信シテヨ ぱぱ ≫
「 あ ごめん ごめん ・・・ いや あの その ・・・ 」
ジョーは真っ赤になって 大汗ぼとぼと・・・である。
「 あ あの ! ○×社の 〜〜 」
「 あ あ そ それでしたらっ 今 社員を呼びますから〜〜 主任さ〜〜〜ん〜〜 」
彼は大慌てで 赤ん坊を彼女に預け・・・振り向いたが ・・・
「 あらあ〜〜〜 シマムラくん〜〜〜 いいのよ、気にしなくて??
奥さんと坊やを案内してあげて? 」
後ろには売り場主任がいともにこやか〜〜〜に立っていたのだ。
「 しゅ しゅにんさん〜〜〜 」
「 そっか〜〜〜 君ってば < 現役・ぱぱ > だったのね〜〜
ああ だからベビー用品とかに詳しいのね〜〜 」
「 主任さん! そ・・・ んなんじゃあ〜〜 」
「 ウン、君のアドバイスはじつに的確で行き届いている〜〜って評判なんだよ〜
売上も伸びてるし・・・ ちょっと休憩、 おっけ〜よん
奥さんと坊やを案内してあげたら? ・・・ と 主任さんはにこにこ顔で行ってしまった。
う〜〜〜〜 ご ご 誤解だあ〜〜〜〜
え ・・・そりゃイワンはカワイイし〜 フランと若夫婦に見られたのは
すんご〜くうれしいけど・・・ けど!
・・・ ふ フラン〜〜 ・・・ お 怒ってる?
ジョーはついさっきじ〜〜っと見つめ合っていた彼女の顔を 見ることができない。
怒っていたら ・・・ いや 泣き出してしまったら ― どうしよう??
「 ・・・ あ ・・・ あの ・・・ 」
「 ・・・ あの。 ○×社の粉ミルク どこでしょうか。 」
「 ・・・ は ? 」
怒っても 泣いても いない、 ごく普通の声で彼女は再び尋ねてきた。
う ・・・? ま まさ か・・・
いや! ものすごく ものすご〜〜く 怒ってる のか??
「 あ は はい! こちら ですぅ〜〜〜 」
ジョーはぎくしゃくと先に立ち、 < 妻子 > を案内していった。
結局。 亜麻色の髪のとても若い母親? は 粉ミルクを箱買いし、にこやかな
微笑みを残し帰っていった。
「 ― ごめん!! すみませんでしたっ !! 」
その夜、帰宅するなり ジョーはリビングに駆けこんだ。
「 ??? ジョー・・・・どうしたの?? 」
ソファで編み物をしていたフランソワーズはびっくり仰天、大きな瞳をまん丸にしている。
「 あ あ あの! 昼間のこと! ごめん! 本当にごめん! 」
ジョーはもう平身低頭・・・真っ赤になって謝り続ける。
「 昼間のこと? ・・・ ああ あのお店でのこと? 」
「 そう! ごめんね! 店の主任サンが勝手にヘンなこといって・・・
怒ってるよね・・・ 本当にごめん! 不愉快だったよね ・・・ 」
「 どうして? 」
「 だ だって! ・・・ その〜〜〜 子・・・子持ち なんかと思われて・・・ 」
「 あら イワンと一緒にいれば そう思われるのは当然でしょ?
別にどうも思ってないわ? 怒るなんてそんな ・・・ 」
「 けど! ・・・ そ それに ・・・ あの〜〜〜 その〜〜〜
あ ・・・ ぼ ぼくの お オクサン なんて いわれて・・・ 」
彼の声はもう 蚊の鳴くよ〜〜なレベルになり前髪はますます深く垂れてきた。
「 ・・・ ジョーは ・・・ イヤだった? 」
「 ? え な なにが? 」
「 だから ・・・ わたしがジョーのオクサンだってお店の人に思われて
ジョーは 迷惑でイヤだった? 」
「 !!!!!!! 」
ジョーは なにも言えずに ただ ただ・・・ 首をぶんぶんと横に振り続けた。
そ そ そんな!! イヤだ、なんて ・・・!
ぼく ものすごくものすごく嬉しかったんだ、滅茶苦茶うれしかったんだよ〜〜〜
涙も飛ばす必死の形相から 彼女はちゃんと彼の想いを読み取ってくれた。
「 ・・・ うふ ・・・ アリガト。 わたし とっても嬉しかったわ。 」
「 ・・・ え ・・・ 」
「 びっくりしたのはね、ジョーがとっても生き生き仕事してたから・・・
ステキだなあ〜〜って。 そりゃ ・・・ イワンのイタズラには ちょっとは
驚いたけど ・・・ 」
「 あ ・・ あは ・・・ そ そうだよね ・・・ 」
「 でしょ? でも イワンだってたまには − お茶目なこと、してもいいわよね? 」
「 ウン ・・・ そうだよ ね ・・・ 」
「 あ それに粉ミルク! 車まで運んでくれてありがとう!
すご〜く助かっちゃったわ。 」
「 ウン ・・・ 」
「 ね? お腹 空いてるでしょ? 今日はシチュウよ〜〜 ずっと煮込んでいたから
美味しくできたの。 手を洗ってきて? 」
「 あ あ ・・・! う うん! 」
ドタドタドタ ・・・ 彼はコドモみたいにバス・ルームに駆けていった。
「 〜〜〜〜 ・・・ ご馳走様でした。 」
スプーンを置くと、ジョーは目を閉じて手を合わせた。
「 ・・・あの・・・? 美味しかった? カレーの方がよかったかしら 」
「 ウウン・・・ あんまり美味しすぎて・・・ <幸せ> を味わってるとこ! 」
「 よかった♪ たくさん食べてくれてうれしいわあ 」
「 あは・・・実はね〜〜もうお腹ぺこぺこでさ マジ、目が回りそうだったわけ。 」
「 うふふ ・・・ ご飯はもう炊飯器からっぽよ。 あら ランチは? 」
「 今日ね、急にあの店に早出してくれるって言われて・・・食べてる暇なかったんだ〜 」
「 まあ 大変 〜〜 じゃ まだ入るでしょう? 」
フランソワーズは新しいお皿と深紅色の林檎をもってくると 剥きはじめた。
「 デザートよ ・・・ 生クリームかけて ・・・ 」
「 うわ うわ うわ〜〜〜♪ 」
「 ねえ バイト ・・・ 引っ越し屋さんじゃなかったの? 」
「 え? ああ 引っ越し屋は午前中なんだ。 午後は あの店 ・・・ 」
「 まあ ・・・ すごいのねえ・・・ 」
「 えへ ・・・ ちょ ちょっとね〜〜 頑張ってるんだ〜 」
「 そう? あ なにか欲しいモノがあるの? 」
「 え?? まあ欲しいっていえばそうなんだけど・・・ うん 欲しいモノかな。
あ あの さ。 たとえば の話なんだけど? 」
「 はい? 」
「 あ〜〜〜 女の子ってさ〜〜 プレゼントになにが欲しいのかなあ 」
「 プレゼント? 」
「 ウン。 大切な日にもらいたいモノって なにかなあ 」
「 ・・・ そうねえ・・・ 欲しいモノって人によって違うと思うけど・・・ でも 」
「 ― でも? 」
「 ええ ・・・ どんなモノでもいいの。 あの ・・・ 大切に想う人からのプレゼントなら
女の子はなんだってとっても嬉しいわ。 」
「 え そ そう?? 何でも? 」
「 ええ。 ワタシのこと、想って選んでくれたんだもの。 」
「 ! そっか〜〜〜〜 そうなんだあ? 」
「 ・・・ と わたしは思うけど ・・・ 」
「 ウン! ありがとう〜〜 フランソワーズ♪ あ このリンゴ、と〜ってもオイシイかった〜〜
ご馳走様でした♪ 」
ジョーはまたまた食卓で手を合わせて とてもとても嬉しそうに笑った。
「 あ 食器洗いは任せて! 」
彼あハナウタを歌いつつ 食器をシンクに運んでいった。
・・・ プレゼントを送りたいおんなのこがいるのね ・・・ 当然よねえ
ジョーだって年頃の男の子なんだもの・・・
フランソワーズの目の前で 赤いリンゴの皮がぽとん・・・と落ちた。
その日 ― 一月の二十四日。
朝から島村クンはてんてこ舞いの大忙しだった。
まず 早朝引っ越し が二件! これはサイボーグ009の名に懸けて体力勝負で片づけた。
そして コドモ用品大規模店へと駆け付け ― ここも土曜日だったのでもうてんやわんやの
大賑わい〜〜〜 ジョーは品出しと仕分けに加え 客対応にもてんてこ舞いだった。
はっはっは ・・・ はっはっは ・・!
ジョーは本気で全力で走っていた。 加速装置を使えないのが本気で悔しかった。
辺りはもうとっぷり暮れていて 車のライトが眩しい時間だ。
閉店ぎりぎりまでバイトしてて ・・・ 気がついた時には え もうこんな時間???
と真っ青になってしまった。
今からじゃ ・・・ 店はもう閉まってるかも〜〜〜!!
大慌てで モトマチの < キラキラ・ピカピカのアクセサリー店 > に駆け付けたが。
無情にも closed のロール・カーテンが降りていた。
「 ・・・ あ ・・・ああ ・・・ どうしよう ・・・ 」
がっくり、あやうく道に膝を突いてしまいそうになった。
「 ・・・ ! うん ? 」
落ち込んだ目の前に ・・・ 夜の街灯の元でも鮮やかな色彩があった。
「 ? ・・・ ああ 花屋かあ ・・・ 」
路肩に店を広げていた花屋が 店じまいを始めていた。
「 花 ! 花束! ・・・ あ〜〜 花束も売り切れ かあ ・・・ 」
またまたがっくりした彼の目に 白い花の鉢植えが数鉢、残っていた。
「 ! そ それ!! 水仙ですよね! ください!!!! 」
えっほ えっほ えっほ ・・・
ジョーは花がもう盛りをすぎた水仙の鉢を両腕に抱え、家の前の急坂を上ってきた。
「 ただいま〜〜〜 」
「 お帰りなさい ジョー ・・・ お仕事、お疲れさま 」
がさ。 彼女の目の前に鉢植えの白い花の群れが差し出された。
「 フランソワーズ。 誕生日 おめでとう〜〜 ! 」
「 メルシ ・・・ Merci beaucoup 〜〜〜〜 ジョー〜〜〜〜
すごく すごく すごく 嬉しいわ〜〜〜 このお花、大好きなの! 」
「 ・・・ フランソワーズ ・・・ 」
「 これ すいせん っていうのでしょう? これね、ウチの玄関までず〜〜っと
植えたいなあ〜って思ってたのよ。 どうしてわかったの? 」
「 え ・・・ あ あの。 ごめん、知らなかったんだ・・・
この花しか ・・・ 買えなくて ・・・ こんな時間で店も開いてなくて ・・・ 」
「 謝らないで、ジョー。 ジョーが選んでくれたんですもの、すごくうれしいわ 」
「 ぼく ・・・きみのことなら なんでもわかるさ! って言えるようになる! 」
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
ファンのことなら なんだってわかるさ ― 父母や兄の声が蘇る。
「 ジョー・・・ ああ ジョー ・・・ 」
「 フランソワーズ。 あの・・・気に入ってくれた? 」
「 ありがとう ・・・ ね! これ ウチの庭で育てましょうよ
あの ・・・ 一緒に 二人で・・・ 」
「 う うわ〜〜〜〜〜 」
薄暗い玄関で少し萎れかけた植木鉢の花を間に ジョーとフランソワーズは ( はあと )
**************************** Fin. ****************************
Last updated : 01,27,2015.
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************* ひと言 ************
いや まあ その。 ゴチソウサマ というところですよね♪
仲良きことは美しき哉 であります (^◇^)