******** クリスマス・スペシャル ********
ゼロナイ、それも 93 でクリスマス♪ といえば 『 幻影の聖夜 』 で決まり♪♪
平ゼロ・another version は さんざん書いてきましたので・・・・
今宵は < 幻影の聖夜・ 五段活用 > いえ < 四段活用 > で参ります。
前半は 原作 と 超銀★★ 後半は 旧ゼロ と 新ゼロ
では ・・・ しばしご笑読くださいませ。 by ばちるど
『 幻影の聖夜 ― (1) ― 』
§ 原作93 『 幻影の聖夜 ( イリュージョナル・イヴ ) 』
・・・ パシャ ・・・・・
闇の中でセーヌの川面がかすかに揺れ、ボーパスの船腹を波が洗った。
「 ― 足元 気をつけて。 」
「 大丈夫 ・・・ ありがとう ・・・ 」
人通りの絶えた河畔の道に 女性がひとり、上陸した。
彼女を追ってボーパスの中から声が聞こえる。
「 それじゃ ・・・ ここで待っているから。 時計を合わせよう、今 ・・・時 分。
待ち合わせ時間は23:30。 いいね? 」
「 23:30 ・・・ 了解。 」
彼女はすこし首を傾げ船内へ微笑んでみせた。
「 ・・・ 大丈夫か。 やっぱりぼくも一緒に 」
「 大丈夫よ。 ― わたしだって003なのよ? 」
「 ・・・・・・・・・ 」
少しおどけた口調で応えたけれど、浮かべた笑みは淋しすぎて ・・・
ボーパスの中からの応えはなかった。
「 ・・・ じゃ いってきます。 」
「 うむ。 ・・・ 気をつけて。 Bon voyage ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
今度は振り向くこともなく、彼女は河畔の道を歩き出した。
その姿が闇の中に溶け込んでしまうまで 彼はじっと見つめていた。
・・・・ パシャ ・・・・!
川面の揺れに 彼はやっと我にかえった。
「 ・・・ 聖夜 ( イヴ ) か。 神の御加護を、と祈りたくなるな ・・・ 」
ふと、掌に握っているものに視線と落とす。
「 よし・・・ 稼働状態は良好だな。
ぼくがこうして見守っているから ― きみは故郷に聖夜 ( イヴ ) を楽しみたまえ。 」
彼は左右の護岸に油断なく目を配ると そっと船内に戻った。
「 なんじゃと。 上陸したい・・・? 」
「 はい。 半日 ・・・ いえほんの2〜3時間でいいのです。
大丈夫、一人で行けますわ ・・・ わたしの生まれ育った街ですもの。 」
「 しかし 003 ・・・ 」
ドルフィン号のコクピットの片隅で老人と若い女性がぼそぼそと話していた。
― ヴィン ・・・・
ドアが開いてセピアの髪の青年がコクピットに入ってきた。
「 当直、交代するよ。 ・・・ あれ? どうしたんですか 博士。 003となにか? 」
「 あ ・・・ 009 ・・・ 」
「 おう 009。 つぎはお前が当番か。 」
「 はい。 それにしてもなにかあったのですか? 」
「 い いえ、なにも。 009、それじゃ引継ぎをお願いね。 」
「 あ ああ。 でも・・・? 」
「 009。 実は003がな、上陸したいと言い出してな。 」
「 博士! 」
「 まあまあ・・・一応はリーダーの意見を聞こうじゃないか。 なあ 009。 」
「 いや ・・・ ぼくがどうこう言える立場じゃないですけど。
でも 上陸ってここで、ですか。 え〜と・・・至近距離はセーヌ河 ・・・ あ そうか。 」
「 ええ そうよ。 ここから少しセーヌを遡ればすぐにパリだわ・・・ わたしの故郷 ・・・ 」
口篭っていた003は 意を決して話はじめた。
「 ・・・ 2〜3時間でいいの。 ちょっと・・・ ほんの少しだけパリの空気を吸えれば・・・
生まれ育った街を歩いてきたいの。 」
「 そうか そうだったよな。 うん、それじゃ2〜3時間などではなくて
一日くらい行ってこいよ。 きみは ・・・ 家族がいたよな。 」
「 家には・・・帰れないわ。 こ こんな姿で ・・・ 兄には会えない ・・・ 」
「 ― 003 ・・・ 」
「 いいの。 兄にはもう・・・わたしのことは忘れてほしい ・・・
死んだと諦めて欲しいの。 」
「 そんな ・・・ なんてことを言うんだ! 」
「 いいの。 もう・・・わたしは 普通の人間じゃない・・ わかっているわ。
最後の思い出に ・・・ パリの街を、そう パリのイヴの夜を見ておきたいの・・・ 」
「 そうか・・・ わかった。 それじゃ ぼくが途中まで送って行こう。
日付が変わるときまで楽しんでくるといい。 」
「 009 ・・・ いいのか。 」
「 大丈夫ですよ、博士。 ぼくがボーパスで待機していますから。 それに 」
「 ええ わたしだって003ですから。 」
「 ・・・ すまんなあ ・・・ 」
「 博士。 もう・・・それは言いっこなし、ですよ。 なあ 003。 」
「 え ええ ・・・ それじゃ ホントに上陸してもいいのかしら。
スケジュールに影響はでない? 」
「 別に構わないだろう? 急ぐ旅でもないし。 故郷なら迷うこともない。 」
「 ええ ・・・ もうこれで最後にするから。 ・・・お別れ してくるの ・・・
わたしが わたしであった時代 ( とき ) に ・・・ 」
青い瞳が はるか遠くを見ている。
「 003 ? 」
「 なにもないと思うけれど、一応スーパーガンを持ってゆくわ。 でも心配しないでね。
じゃあ ― 仕度、してきます。 出発は夕刻ですよね。 」
「 あ うん ・・・ 」
003は マフラーをひるがえし、コクピットを出ていった。
「 ― 博士。 彼女・・・ どうしてお兄さんと会いたくないのでしょうか。 」
彼女の消えたドアを 009はじっと見つめている。
「 009。 お前は ・・・ 知らんのかね。 」
「 え? なにをですか。 」
「 うん ・・・ あの子の兄さんは・・彼女が拉致された時、最後まで追ってきたそうじゃ。 」
「 ・・・ ・・・・ 」
「 そんな妹思いの兄を これ以上悲しませたくないのだろうよ・・・ 」
「 博士 ・・・ 」
「 009、頼む。 彼女を護ってやってくれ。 それがワシのせめてもの償いじゃ・・・ 」
「 はい 必ず。 あれ ・・・ これは ・・・ ? 」
チリン ・・・ 彼のブーツの先が何かを飛ばした。 彼は屈んで床からそれを拾い上げた。
「 ? これ・・・ ピン、かなあ・・・ 」
「 ああ 彼女のだろう? あとで渡してやるといい。 」
「 はい。 003・・・ ぼくが きっと護る・・! 」
009は ― 掌に乗せた金色のヘア・ピンを眺めていた。
― あと ・・・ 5分か ・・・・
009は腕時計にチラリ、と視線をながしすぐに船窓から辺りを見回した。
真っ暗な河畔だが 彼の偏光レンズ眼には白昼と同じように映るのだ。
「 ・・・ 周囲に怪しい影はなし。 ・・・サイボーグやアンドロイド、その他の大型メカの反応もなし。 」
手元のパネルをいくつか操作し、彼は安全を確認した。
「 もうすぐ、だな。 ああきっともうあの角の向こうまできているかもしれない。
楽しいイヴを過せただろうか ・・・ 003 ・・・ 」
ふ・・・っと吐息をもらした。
「 そうか ・・・ そうだよなあ・・・ 彼女の故郷なんだもの。
でも お転婆の男勝りでもやっぱり女の子なんだなあ〜〜 ふふ・・可愛いや。 」
009は独り 楽しげに笑う。
彼にとって 003 は 有能なサイボーグ戦士、そしてサイボーグとしての闘い方を
教えてくれた先輩でもあった。
「 ・・・ クリスマス・イブ か。 ふん、ぼくには無縁の日さ、いつだって・・・ 」
鼻白んだ気持ちでどさり、と椅子にひっくり返った。
「 ・・・? うん・・・・ なんだ? なにか固いモノが・・・ 」
彼はごそごそとポケットを探り ― やがて小さな星が9つついた飾りを引きだした。
「 ? あ ああ そうだ! 彼女に貰ったんだっけ・・・」
指先できらきらと9つの星が煌きあう。
「 ふふふ ・・・ こんなカワイイもの、貰ったのは初めてだよなあ・・・
あは そもそも女の子からのクリスマス・プレゼントなんて 初めてかも 」
「 あのね。 これ ・・・ ちょこっと作ったの。 」
「 え? なに・・・ 」
コクピットでなんとなく海図を眺めていたら 軽い足音が後ろから近づいてきた。
009の眼の前にキラキラ輝き揺れるものが降りてくる。
「 ・・・??? 」
「 うふふ・・・ ツリーの飾りにっておもったけど。 こんなとこじゃツリーは無理だし。
ね・・・ キーホルダーにでもくっつけて。 」
「 あ ・・・ ありがとう。 へえ きみの手作りなんだ? 」
「 廃材の利用よ。 ごめんなさいね、こんなクリスマス・プレゼントで ・・・
昔、兄が古いボタンでこんなのを作ってくれたの。 それを思い出して・・・ 」
「 ・・・ あ。 クリスマス なんだっけ・・・ 」
009は今やっと気が付いたらしい。 眼を丸くして慌ててカレンダーなんかを見ている。
「 ご ごめん・・・ぼく、全然忘れてて・・ その・・・プレゼント、全然準備してない ・・・ 」
「 あら いいのよ。 これを受け取ってくれれば 嬉しいわ。 」
「 ん。 ありがとう・・・! 」
009は掌の星を そうっと摘まみ上げ眺めている。
「 よし これ、キーホルダーに加工するよ。 ずっと持っていたいから。 」
「 まあ ・・・ ありがとう、ジョー ・・・ 」
003はぱっと頬を染め小さく笑った。
― あれは昨日の朝だった ・・・
そして 今日。 出発の時刻よりずっと早く彼女はコクピットに現れた。
「 ・・・・・・・・ 」
ごく普通の若い女性の服装をしコートを羽織った003に 009は眼を奪われた。
ああ ・・・! 可愛いなあ・・・ そうだよ、これが本来の彼女・・・
「 それじゃ ・・・博士 、皆 ・・・ 行ってきます。 」
「 うむ。 気をつけてな。 ・・・ よい休暇を ・・・ 」
「 へへ・・・ イブを楽しんできな〜〜 」
「 ― 気をつけろ。 油断するな。 」
「 はい。 大丈夫、明日 ・・・ と言っても日付が変わったら帰ってきます。 」
「 さあ それじゃ 出発しよう、003。 」
「 009 ・・・ お願いね。 」
「 うん。 あ そうだ ・・・ これ。 きみのピンだろ? 」
「 ・・・? まあ そうよ。 失くしたとおもってがっかりしていたのよ。 」
「 コクピットで拾ったんだ。 あの ・・・ ちょっと付け加えたんだけど・・・気に入ってくれるかな。 」
金色のヘア・ピンのアタマにはガラスの星が付いていた。
彼は躊躇いつつ 003に渡した
「 ええ ええ。 うふふ・・・ 可愛いお星様ね。 ありがとう、ジョー。 」
003は指で星をなでると、す・・・っと髪にとめた。
「 ― どう? 似会うかしら。 」
「 うん すごく・・・! 」
「 うふふ・・・ ジョー、クリスマス・プレゼント、 ありがとう ! 」
「 ・・・・え ? えええ〜〜 う わ ・・・ 」
003は すい、と背伸びをすると009の頬にキスをした。
「 わ〜〜 いいな いいな〜〜 マドモアゼルからキス〜 我輩も〜〜 」
「 ブリテンはん、五月蝿いがな! おっちゃんは引っ込んどき。 」
仲間たちがワイワイと囃したてる。
「 そ それじゃ ・・・ 003。 出発しよう。 」
「 はい。 」
009は前髪で顔を隠しそそくさとコクピットから出てゆく。
003は黙って彼の後に付いてゆく ― その頬には笑みはなかった。
「 ― おかしいな。 彼女が遅れるなんて。 」
帰還時刻を5分 過ぎた。
常に時間厳守な彼女には考えられないことだ。
先ほどから彼自身とボーパスの探索機能を最大レベルに上げているが 彼女の姿は見えない。
「 こんなこと あってほしくなかったけど ・・・ 」。
009は席を立つと 防護服のポケットから小さな受信機を取り出した。
「 あのヘアピンの飾りにGPS機能を装着しておいたんだ。 これで調べれば ・・・
ともかく彼女の位置だけは わかる・・・はず ・・・ 」
彼はスイッチを入れ しばし画面を追っていたが。
「 ! 003 ・・・・ ! 」
ガタン ・・・! シュ −−−−−− ・・・・・ ・・・ ・・ ・ ・ !
椅子が倒れ ― ボーパスの中から人影が消えた。
― トン トン ・・・・ トン トン ・・・・
辺りを憚るようなノックが 先ほどからずっと続いている。
最初は おや? と思ったが無視をした。
ふん。 こんな時間に! 真っ当なヤツじゃないな
ジャンは耳にフタをし、コーヒーを淹れ何本目かの煙草を咥え新聞をひろげ ー
― トン トン トン
音はまだ続く。 かなり執拗な感じがする。
「 〜〜〜ったく! 煩いな! わかった わかった 今 出るよ!! 」
ジャンは新聞を投げ捨てると、椅子を鳴らして立ち上がった。
「 おい! 誰だッ 」
・・・・ ジョー・シマムラ といいます
「 ジョー? そんなヤツ、知らんな。 帰れ! 」
・・・・ こんな時間にすみません。 でも大切な話があって。
「 大切な話? ふん、なら真っ当な時間に来い。
おい、これ以上煩くすると警察を呼ぶぞ。 」
・・・・ すみません。 ジャンさん。 妹さんの、フランソワーズさん のことで・・・
「 ?! なんだって? ・・・ てめェ〜からかっているのか!? 」
・・・・ ちがいます。 妹さんは今 ・・・ この街に居ます。
「 ?! 」
― ガチャ ・・・!
戸を開けたジャンは そこに奇妙な赤い服を纏った青年を見つけた。
「 な!? なんだ、お前。 手の混んだ嫌がらせか!? 」
「 ち ちがいます。 ぼくは ジョー・シマムラ。 手を貸してください、ジャンさん。 」
「 ・・・ だからなんなんだ。 妹が ・・? 」
「 そうです。 妹さんは今・・・ この街の中をなぜか逃げ回っている。 」
「 どうしてお前がそんなコトを知っている? お前は妹の何なんだ? 」
「 ぼくは ・・・ 妹さんの ・・・ な 仲間です。 あ ほら これ・・・ 」
「 ・・・ ?? 」
その青年は俯いてポケットからなにかを引っ張り出した。 セピアの髪が揺れる。
「 これ! ・・・ 昔、 これとよく似たものをお兄さんに作ってもらったって・・! 」
「 うん・・・? ! こ これは ・・・
そうだ、こんなのを学生の頃チビだったアイツに作ってやった・・・
星の数は違うが ・・・ しかしなんでお前が持っているんだ? 」
「 ・・・ク クリスマス・プレゼントに 貰いました、 ふ フランソワーズさんから ・・・
ともかく、彼女を捜さなくては。 力を貸してください、ぼくはこの服では街中を歩けない。 」
「 よし。 お前の事情はよくわからんが・・・ともかくファンを追うぞ。 」
「 あ ありがとうございます! 」
「 ちょっと待て。 すぐに仕度してくる。 」
ジャンはドアを細目にすると 部屋の奥に引っ込んだ。
そしてすぐに厚いコートを着込んで飛び出してきた。
「 ・・・ そら お前 これを羽織れ。 俺の古いヤツだがすこしは目立たなくなる。 」
ジャンは青年にコートを差し出した。
「 ありがとうございます! これを見てください、切れ切れですが彼女の足取りが 」
「 ・・・ うん? これは・・・レーダー装置のようなものか? 」
「 はい。 」
「 う〜む ・・・ なんだ、これは。シャンゼリゼやオペラ座なんかの中心部からどんどん外れてゆくな。 」
「 こちらは 郊外ですか。 」
「 うん? ・・・ ああ そうだな。 行こう! え・・・っと・・?? 」
「 ジョーです。 そう呼んでください! 」
「 おう。 ああ! 昼間なら飛行機が使えるんだが・・・
くそ・・・! 夜間には個人の飛行は禁止なんだ 」
「 心当たりはありませんか。 この先にはなにか あるのですか 」
青年は機械の画面を指した。
「 ・・・ う〜ん ・・・ この方向・・・ あ! あの 教会かも・・! 」
「 教会 ? 」
「 ああ。 ・・・・いや もう廃墟になりかけているんだが。 俺たちの両親の墓があるんだ。
つまり、墓地が広がっているってことさ。 」
「 墓地・・・! じゃあ ・・・フランソワーズはそこに? 」
「 多分 な。 しかし ・・・ なんだってこう、うろうろしているんだ? 」
「 これは推測ですが。 なにかから逃げている、または追われているのではないかと。 」
「 ! 行くぞ! あの教会に先回りしよう。 近道があるんだ。 来い! 」
「 はいッ ! 」
ジャンと青年は イヴの街中を駆け抜けて行った。
「 ― こないで! それ以上近づけば 撃つわ!
わたし パパとママンが待っているの! 邪魔すると 撃つわ。 」
003が崩れかけたテラスでスーパーガンを構えている。
「 003! ぼくだ、009だ。 銃をおろせ。 」
「 ファン ・・・ ファンション! お前 ・・・ 生きていたんだな・・・ 」
青年とジャンは懸命に彼女に話かける。 しかし彼女の瞳は虚ろで二人を捉えてはいない。
「 やめて! 来ないで〜〜 ! 」
「 フランソワーズ ・・・! 」
彼女の声と共に 一条の光線が夜の闇を貫いた。
― シュ ・・・!
その瞬間、青年の姿が消え周囲に焦げ臭い匂いがただよった。
「 やめるんだ・・・! 」
「 え? あ きゃあ〜〜 ・・・ 」
「 な ・・・ なんだ?? 」
光線はあらぬ方向に逸れ ―
ドサ・・・! ジャンの眼の前には妹の銃を押さえる青年の姿があった。
「 ?? ジ ジョー ・・?? なんだ、どうしたんだ お前・・・ 」
「 003! しっかりしろ! 眼を覚ませ! 」
「 ・・・ う ・・・ ううう 」
青年は倒れた妹を抱き起こし しきりと肩をゆすっている。
「 催眠コントロールされているのか? 003 ? 」
「 お おい! 妹は ・・・妹は無事なのか! 」
「 ジャンさん、 大丈夫、命に別状はありません。 ただ意識が ・・・ 」
「 !? ファン! 俺だよ、 ジャンだ! 」
ジャンは妹の身体を青年から強引に抱き取ると きゅ・・・っと抱き締めた。
― コツン ・・・
彼女の首筋から 足元へ小さなモノが落ちた。
「 ? ペンダントか・・・ ピアスか 」
「 いや、アクセサリーじゃない。 これ ・・・ なんだ? なにかの装置か? 」
「 ― 装置? なだってこんなモノがファンの首についていたんだ? 」
「 ・・・ う ・・・ う 〜 ・・・ ん ・・・ 」
「 ファン! 気がついたのか! 」
「 003! ああ 意識が戻った・・・ 」
二人の青年が見守る中 003はゆっくりと眼を開けた。
「 ・・・ う わ わたし ・・・ 」
穏やかな青い瞳が じっと・・・ 兄と<仲間>に向けられた。
「 ・・・ 009 こ ここは ・・・? あっ お お兄さん ・・?! 」
顔色は悪いが態度も物腰も完全に <いつもの> 003だ。
「 ・・・ ああ ・・・ よかった ・・・! 」
ジャンと009は 彼女をそっとテラスの奥に座らせた。
003はしっかり意識を取り戻していたが 記憶は曖昧らしい。
「 よく・・・わからない の ・・・ 街中を歩いていて・・・そう、誰かにぶつかったわ。
そこまでははっきり覚えているのだけれど ・・・ 」
「 ぶつかった? ふむ ・・・ ( そうか その時にコレを ) 」
009は掌ににぎった装置を さらにつよく握り締めた。
「 それで なぜかパパとママンが呼んでいるみたいで・・・ここまで・・・
どうしてもこの墓地に来なくちゃ って気がして。
でもそのうちに 何かが追いかけてくるみたいで ― 夢中でここまで来たの・・ 」
「 ファン ・・・ お前 ・・・生きて・・・無事だったんだな・・・ 帰ってきたんだな! 」
「 ・・・ お兄ちゃん ・・・ わ わたし・・・ 」
003は言い難そうに言葉を切ると 俯いてしまった。
「 ・・・? 」
009は 慌てて言葉を継いだ。
「 あの。 す すいません、ジャンさん。 拝借したコート・・・ こんな具合に・・・ 」
「 え・・・ な なんだァ?? 」
ジョーは身体に纏わり付いている燃え滓 を指した。 焦げ臭い匂いはまだ残っていた。
「 これ ・・・ なんです、あのコート。 」
「 燃えたのか?? 」
「 はい、 あの・・・ぼくは超高速で動けます、 マッハの領域まで。
その際に普通の服は空気との摩擦で燃えてしまう。 」
「 超高速? あ ああ それで さっき・・・ファンの銃を? 」
「 ― はい。 ぼくの身体は 普通の人間ではないのです ・・・・ 」
「 お兄ちゃん ・・・ わ わたしも。 わたしの身体も ・・・ 」
三人の瞳が じっと見つめ合った。
・・・・ ぱた ぱた ぱた
青い瞳から大粒の涙が足元に落ちる。
「 はん ・・・ よ〜し お前、え〜っと・・・ジョー! それじゃ新品を返しにウチまで来い。
ファンと二人で、な。 」
「 ジャンさん・・・! 」
「 お お兄ちゃん ・・・ 」
「 その時でいい、 すっかり説明してくれ。
今日は ・・・ イヴだ。 お前に逢えた幸せを天に感謝するだけでいい ・・・ 」
― パーーーン ポポ ーーーー・・・・ン パーン・・・・!
夜空が急に明るくなり 光の華がつぎつぎと開きはじめた。
「 あ・・・ 花火・・? 」
「 ええ。 ちょうど12時になったのよ。 ああ パリのクリスマスね・・・ 」
「 お前と見ることができるなんて ・・・ 幻影じゃないのか・・・ 」
「 お兄ちゃん。 ジョー ・・・・ ありがとう 」
崩れかけたテラスに三人で並ぶ。 フランソワーズは兄と恋人の手をしっかりと握った。
天には御栄 ( みさかえ ) 地には平和を ― 人々の祈りと共に花火が爆ぜる。
メリー・クリスマス ・・・ フランソワーズ
ジョー ・・・! メリー・クリスマス ・・・!
お兄ちゃん メリー・クリスマス !
§ 超銀93
『 愛はまぼろし 星降るイヴに 』
― チャプ チャプ チャプ ・・・・・
海面はどこまでも凪いでいて 夕陽を写しオレンジ色に金色に輝いている。
連絡艇は その小振りな船体を静かに海面に漂わせていた。
穏やかな夕暮れだったが ― 船の内部は ・・・
「 ・・・・ え? 来ない? それ ・・・どういう意味ですか。 」
「 いやいや。 来ないのではない。 遅れる、ということだ。 」
「 でも ・・・ そんなこと、聞いていませんでしたわ。
その ・・・ 彼がパリに迎えに来てくれたときには ここで会おうって言ってました。 」
操舵室の奥に やや広めな船室があり、そこに数人の姿が見えた。
客 ・・? 乗組員? ・・・ 国籍も年齢もちがう人々だった。
その中で白髭を蓄えた老人に若い女性が 戸惑った口調で問いかける。
「 うむ・・・ しかし出発までにはまだ時間がある。 大丈夫じゃよ。 」
「 ・・・ それは ・・・ そうですけれど・・・ 」
彼女は 言葉を濁し俯いた。
「 マドモアゼル? まだ全員集まっておらんのだから・・・ 心配ご無用ですぞ。 」
「 ハイナ〜〜 出発までワテの料理、た〜〜んと味わってや〜 」
他の男達は のんびりした様子で彼女を宥めている。
「 え ・・・ええ ・・・ 」
「 ふん。 時間はまだ十分にある。 」
「 そうじゃよ。 まあ ・・・ すこしのんびり待っておるがいい、フランソワーズ。 」
「 ・・・ はい ・・・・ 」
彼女は微かにうなずくと そっと席を立った。
― チャプ チャプ ・・・・
海面は相変わらず穏やかだ。
フランソワーズは 静かに後部デッキに出るとぼんやりと水面を眺めた。
きっときてくれると思ってた ・・・ そう言って ・・・
そう言って 抱き締めてくれたのに ・・・
きみを待っていた・・・ きみを ・・・ そう言って・・・
そう言って 微笑んでくれたのに・・・
「 ・・・ ジョー ・・・ 遅れる、なんてひと言も言ってくれなかったわ・・・ 」
細い指が 首にかけた細いチェーンをまさぐる。 チェーンの先には赤い輝石が揺れている。
「 一緒に行ってくれるのが嬉しい・・って また一緒だね・・・ってキスしてくれて。
あの時 ― ジョー、あなたはとても嬉しそうだったわ ・・・ 」
夕陽の輝きを散りばめた海に フランソワーズは重い視線を投げる。
― そう ・・・ あの夜。 『 白鳥〜 』 の千秋楽だったわ・・・
わたし、初めて主役を踊ったのよ。
楽屋に大きな薔薇の花束が届いて ・・・ メッセージが入っていたのよ。
わたし・・・着替えもそこそこ、メイクも十分に落とせていなかったけど。
楽屋口に急いだの。
「 お疲れさま〜〜 よかったよ! 」
「 あ ありがとうございます、 お疲れ様でした 」
途中で行き会うゲスト・ダンサーの方達に御挨拶しながら わたし、走ったわ。
― だって ・・・
ぼくの白鳥姫 楽屋口で待つ J
そんなメッセージ・カード読んで 放っておける女の子がいると思う?
「 ・・・・ ジョー・・・・ ! 観にきてくれたのね・・・! 」
ええ、字を見ただけで分かったわ ・・・ J ・・・ あのひと、わたしの J ・・・
セピアの瞳、 彼の深い大地の色の瞳がすぐに眼に浮かんだわ。
うふ ・・・ <わたしのJ> なんていったけど、 それはちょっとウソ。
わたし達 ・・・ わたしと彼とは <仲間> 、そうね 戦友っていったほうがいいかも。
ある事情でわたし達はずっと一緒に闘ってきたわ。
ええ、文字通り生きるか死ぬか、の闘いだったの。
その中で 彼と ― ジョー・シマムラ と出会ったの。 一目で魅かれた わ ・・・
セピアの髪の間から見え隠れする瞳は 冷たく冴えきっていた・・・
でも 彼の微笑みの温かさ ・・・ これを知っているのはわたしだけかもしれないけれど・・・
その温かさにわたしはすっかり捕り込まれてしまったの。
・・ そうね、出会ったころはそんなに親しくはなかったわ。
でも ある時、闘いの中で ・・・
「 ― 危ない ! 」
「 ・・・ あ ・・・ あなたが連れ出してくださったの・・・ 」
「 ふう〜〜〜 危機一髪だったな。 さ、もうお転婆はお終いだ。 」
「 お転婆なんかじゃないわ! 」
「 ははは ・・・ 元気がいいんだね、 美人さんの003は 」
ちょっと微笑むと 彼はわたしの髪をくしゃり、と撫でたの、 そして ―
「 よ〜し! あと一息だな、 行くぞ!! 」
仲間達の先頭を切って出撃していったの。
― 彼は 強かった ・・・!
ジョー ・・・! ちょっと勝手で強引だけど素敵なヒト・・・
その時から彼はわたしの心に棲み着いたわ。
でも 闘いが終るとわたし達はそれぞれの故郷に帰り ― 会うことはなくなったわ。
彼の活躍は ― F1の花形レーサーですもの、新聞で時折見ていたけど・・・
電話はおろか手紙さえ きたことはなかったの。
それが あの日、楽屋にいきなり花束が届いたのよ!
大きな花束 ― 全部、わたしが大好きな薔薇 ・・・ 真っ赤な薔薇よ。
その花束をしっかり抱いて、 楽屋口を出たの。
もう外は真っ暗で 外灯がぼんやりした光の輪を舗道に落としていたわ。
「 ・・・?? ジョー・・・? どこ・・・ 」
きょろきょろしてすこし駆け出した時 ・・・
「 やあ ・・・ ようこそ、パリのプリマドンナ♪ 」
懐かしい声が暗闇から聞こえてきて ― そこに彼がいたの。
「 ・・・ ジョー ・・・! 」
「 フランソワーズ。 お疲れ様。 久し振りだね。 」
彼は笑って腕を広げてくれたの。 わたし、走ってきた勢いで飛び込んでしまったわ。
「 ジョー! 」
「 ・・・ おっと 〜〜 ふふふ 相変わらず小鳥みたいに軽やかだね。 うん・・? 」
「 ・・・ きゃ ・・・・ 」
彼はすい、と軽く唇にキスをしたわ。
「 ・・・ んんん ・・・もう ・・・ ジョーったら・・・ いきなり・・・ 」
「 ふふふ ・・・ 元気そうだね、よかった・・・ 」
「 ええ ・・・ あ、この花束、どうもありがとう! すごく嬉しかったわ! 」
「 ふ・・・ 花束よりもきみが ずっと素敵だな。
どうだい、小奇麗なレストランを予約しているんだ。 夜食でも・・・ 」
「 まあ ・・・ でもわたし・・・ 舞台終ってこんな恰好だし・・・ 」
わたしはジーンズに厚手のセーター。 上に羽織ったコートも毎日着古しているものなの。
「 うん? それじゃ ・・・ ちょっとブティックにでも寄ってゆこうか。 おいで 」
ジョーはわたしの肩に腕をまわすと 歩き始めた。
・・・ 相変わらずなのね、 ジョー。 ちょっと勝手で強引なのね・・・
一目でわかるブランド・スーツをさり気無く着こなし、夜でもサングラスをかけて。
彼はわたしをつれて夜の街にでたわ。
半時間後 わたしは彼と有名なレストランの席に向き合っていたの。
ここ・・・予約するのも大変、って聞くわ。
ひくくピアノの音がながれ、 テーブルの上にはガレのランプのレプリカが灯っていたわ。
わたしは彼が選んだジバンシイのドレスを着て 彼のまっすぐな視線に頬を染めたの。
彼はじっとわたしを見つめて ・・・ ポケットから小さな箱をとりだしたの。
「 素晴しい舞台だったよ・・・ ぼくのオデット姫 ・・・
ほら これは今夜の記念に。 気に入ってくれると嬉しいな。 」
「 え ・・・ これ ・・・? 」
「 うん、そのドレスにも合うと思うな。今、着けて欲しい。 」
「 はい。 ・・・ わあキレイ ・・・ 」
それはね、赤い宝石のチョーカーだったの。
ガーネットね? って聞いたの。 わたしの誕生石よ。
「 いや。 これはルビーさ、取り巻いているのはダイヤだよ。 」
「 え ・・・ そんな高価なものを・・・ 」
「 ふふふ、これはぼくからのこころばかりのお祝い、そして お願いでもあるんだ。 」
ジョーの顔から 笑みが消えたわ。
「 ・・・・ なに か・・・ あるのね? 」
「 ああ。 そうだな、食事の前に気になることは済ませてしまおう。
― 実は ・・・ 」
そして ジョーは今、始まろうとしているミッションについて話だしたの。
そう ・・・ 宇宙へ 星の彼方まで出てゆく、というミッションよ。
びっくりしたし ・・・ とても困ったの。
だってわたし、やっと新人公演で主役をもらえたのよ?
今 <いなくなる> のは ・・・ 辛かった。 踊りを捨てるのは ・・・辛いわ。
「 ごめん。 きみの心を悩ませてしまったね。 すまない。
そうだな。 きみはきみの道をゆけ。
もう 忘れてくれ。 今度のミッションはぼく達だけでいい。 」
「 ぼく達だけって・・・どういうこと? 」
「 きみは ・・・ バレエに打ち込んでくれ。
きみには殺伐とした闘いなんか相応しくない。 きみは ・・・ ほら この宝石のように 」
「 ジョー ・・・ 」
彼は手を伸ばしてわたしの首にかかるチョーカーに触れたの。
・・・ ジョーの ・・・ 指が ・・・
わたし、動くことが出来なかったわ。
「 いつも輝いていてほしい。 きみには美しいバレエや芸術の世界が似合っているよ。 」
「 ・・・ ジョー ・・・ でも でも・・・ わたしがいなかったら・・・
皆の < 眼と耳 > は どうするの? 」
「 なあに、なんとかなる。 ぼくはきみのこの微笑を胸に闘いにゆく ― 宇宙の果てまで 」
「 ・・・ ジョー・・・! い いいえ いいえ!
あなたを一人で行かせたりはしないわ! わ わたしも ― 行きます! 」
「 本当かい? 無理はしていないだろうね? 」
彼はね、す・・・っと手を伸ばしてきて、わたしの手を握って じっとわたしを見つめたの。
彼の長い指の中に わたしの手はすっぽり包まれてしまったわ。
・・・ ああ ・・・! この指 この瞳・・・
ああ 身体もこころも痺れて ・・・
・・・で わたし。 うわ言みたいに口走ってしまったの。
「 勿論よ。 わたしの幸せは ― ジョー、あなたと共に居ること、なの。 」
「 フランソワーズ ありがとう。 ・・・ このワインで 乾杯しよう 」
「 ええ ・・・! 」
カチン ・・・ グラスの向こうに彼の微笑みがゆらいでいたわ。
サンテミリオンの赤ワインが 揺れて・・・ わたし、すっかり舞い上がってしまったの。
― レストランでのことは あんまりよく覚えていないわ。
気が付いたら 星空の下にいたの。 吐く息が白かったっけ・・・
「 ・・・ わあ 星がきれい・・・ 」
「 うん? ああ そうだな。 寒くないかい、フランソワーズ。 」
「 ううん ちっとも。 ・・・ ジョーと一緒だもの。 」
わたし、ジョーにぴったり寄り添って 彼は肩を抱いてくれたわ。
・・・ 二人で星空の下、ゆっくり歩いたの。
― それじゃ、国際宇宙研究所で。
そう言って 彼はまた夜の街に消えて行った・・・ 勿論 熱い口付けを残して。
ひとりで帰るのはちょっと・・・残念だったけど でも彼は紳士だわって嬉しかった・・・
チョーカーはわたしの宝モノよ。
でも。 集合に遅れる、なんてひと言も言わなかったわ!
「 ― フランソワーズ? 」
不意に後ろから アルトの声が響いてきたの。 びっくりしたわ・・・
「 ? まあ ・・・ アルベルト 」
振り向いたら銀髪のドイツ人が、そうよ、アルベルトが立っていたの。
「 どうした? 顔色がよくないぞ。 」
「 そ そう・・? 海風に当たりすぎたかしら ・・・ 」
「 ふん・・・ ちょっと出かけないか。 」
「 ・・・え? 」
「 時間があるんだ。 ちょいと故郷を眺めてこないか。 」
「 故郷 ・・・? 」
「 せっかくここまで来ているんだ、我々の大陸は眼と鼻の先。 それに明日はクリスマス 」
「 まあ ・・・ あら 本当・・・ 今日はイブだったのね。 」
「 どうだ、故郷のクリスマスを見て ― ついでにアイツを迎えに行こう。 」
アルベルトったらね、口の片端をあげてに・・・って笑ったの。
「 ・・・ ! 彼の・・いえ、ジョーの居場所を知っているの? 」
「 居場所、というか。 なんでもレース関係で世話になった人物に会いに行った。
その御仁からの頼みを断れなかった、とさ。 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
「 アイツもクリスマスには向こうを発つはずだ。 合流しようじゃないか。 」
「 ありがとう・・・! アルベルト。 」
― というわけで アルベルトとわたしはイヴの夜にパリの街に上陸したの。
イルミネーション輝く大通りを 恋人たちが寄り添って行き交い、笑いあう家族が通る。
この時期、オープン・カフェは案外人気がある。
分厚い外套や毛皮のコートに包まってそんな風景を眺めるのも、また楽しいものだ。
そんなカフェの片隅に 輝く金髪の女性と銀髪の男性が席を占めていた。
「 ・・・ 賑やかだな。 」
「 ・・・・ え ・・? 」
「 ほらほら・・・ワインがこぼれるぞ。 イヴの夜に俺なんかとじゃ不満だろうがな。 」
「 そんなことないわ。 ごめんなさい、ちょっと・・・ぼうっとしてしまって・・・ 」
フランソワーズは あわてて目の前にいる男性に視線を戻し、微笑んだ。
「 ふふん・・・ 無理しなくていい。 」
「 無理なんて ・・・ この、ね 人々の声とか雰囲気とか・・・覚えておきたいなって思って 」
「 ― 次は 宇宙の彼方 だからな・・・ なにが起こるかわかったものじゃない。 」
「 ・・・ そう ね。 見納め ・・・ かもしれないわ。 」
「 おいおい ・・・ 縁起でもないことを言うな。 ま、故郷の音を楽しむのはいいがね。 」
「 ありがとう アルベルト。 ねえ、ドイツへはこれから行くの? 」
「 いや ・・・ ここでいい。 俺は 故郷にはあまりいい思い出はないんでな。 」
彼は煙草をアシュ・トレイにひねると、ワイン・グラスを空けた。
「 え・・・ それじゃ・・・ わたしに付き合ってくれたの? 」
「 ふふん ・・・大切な妹を一人歩きさせられないからな。
ま、アイツと合流ってのも目的の一つだがね。 」
「 合流? ジョーは ・・・ パリにいるの? 」
「 うむ ・・・ 黙っている約束だったんだがな。 まあ そういうことだ。
理由は教えただろう? 」
「 ええ・・・ それならひと言、言ってくれたらよかったのに。 」
「 プライベートだから、とか言ってたぞ。 それにちょいと気になることもある。 」
「 ― 気になること? 」
「 ああ。 どうもな・・・俺たちの行動にちょいちょい妨害がはいるんだ。
例のミッション絡みじゃないといいのだが ・・・ 」
「 まあ! それならば早くジョーと合流しましょう。 」
「 ・・・ よし ・・・ それではぼちぼち行くか ・・・ 」
アルベルトは立ち上がると ひょい、と彼女に腕を差し出した。
「 マドモアゼル? 」
「 ふふふ・・・ ダンケシェーン♪ 」
絵になるカップルが一組 夜の街に消えていった。
「 ― 反応はあるか。 」
「 ・・・ まって。 もう少し ・・・レンジを広げてみるわ ・・・ 」
「 頼む。 ≪ 脳波通信に切り替えよう ≫
≪ 了解 ≫
セーヌ河畔 ・・・ それも中心部からすこし離れ人影もない場所で二人は待っていた。
しかし 予定時間になっても 009は現れなかった。
≪ すこし歩いてみる。 お前はここにいて探索しろ ≫
≪ 了解。 一旦 スイッチを切るわ。 ・・・ あ! ≫
≪ ? なんだ! 見つけたのか? 座標を送れ! ≫
「 あ・・・あそこ! あの樹の陰に ・・・ 」
突然音声会話に切り替えた003に 004はちら・・・と訝しげな視線を投げてから前方を注視した。
009 が歩いてくる ― 黒髪の女性を抱きかかえるようにして。
「 やあ 004。 遅くなってすまん。 ・・・ん? 003?? 」
「 おい。 時間厳守のはずだぞ。 」
「 いやあ すまん。 この人を介護していたので ・・・ 」
「 ・・・ このヒト・・・? 」
ジョーに寄りそう女性は 怯えた表情で彼にしがみ付く。
「 大丈夫ですよ、お嬢さん。 ぼくの仲間たちです。 さ すぐに救急病院まで送ります。 」
「 え ええ・・・ 」
「 おい。 どうしたんだ、この女性。 」
「 ああ さっき人混みでぶつかってしまって ・・・ 足を挫いたらしくて歩けない。」
「 はあああん・・・? 」
「 ・・・ すみません 私がぼんやりしていたのがいけないんです。 」
美女が泣きそうな声で 言う。 彼女はジョーにすがりついたままだ。
「 いや、ぼくも前方不注意でしたから。 003 悪いが救急病院を捜してくれるかい。 」
「 了解。 」
003は 黙ってスイッチを入れ ― 次の瞬間 彼女はスーパーガンを構え
「 ・・・ 009 ! 危ないッ !! 」
「 003! な なにをするんだ?? 」
パシュ −−−−−− ・・・・!
スーパーガンからの光線が夜の闇を切り裂き ― ガアーーーーーーー!!
ジョーの側にいた黒髪の美女の身体が 宙に跳ね飛んだ。
「 行カセナイ ・・・! オマエタチ ユカセナイ! 」
「 !! あ あれは !? 」
「 そうよ、009! あれは ・・・ サイボーグ・・・! 」
「 ― クソッ !! 」
ヴィ −−−−−−−−− !!
ジョーのスーパーガンが火を吹いた。
再び件の美女・サイボーグが地に降りたとき、ソレは完全に機能停止に陥っていた。
三人のゼロゼロ・ナンバーたちは 密かに戦闘の痕跡を廃棄・消去し、その地を去った。
・・・ともかくとんだクリスマスだったのよ。
それでね、連絡艇に戻った時、彼はわたしを後部デッキに誘ったの。
「 ・・・ フランソワーズ。 ありがとう。
一緒に行こう。 あの星々の彼方に ・・・ 」
星空を振り仰ぐジョーの瞳 ― なんだかとても淋しそうで わたしは胸が苦しくなってしまったわ。
ジョー ・・・ わたしが ・・・わたしが居るわ!
わたし。 ちょっぴり心配だったけど・・・彼のセピアの瞳には勝てなかったの。
「 そう ・・・ね。 いつも一緒にいるわ ・・・ 」
「 フランソワーズ !! 」
彼はわたしを抱き寄せて 熱くキスをしたのよ。
その星の彼方に何が待っているか ― その時 わたしは考えてもみなかったの ・・・
********* こめんと 平ゼロ93 *********
「 原作先輩 カッコイイなあ〜〜 」
「 ・・・ いいわね・・・ ジャン兄さんに会えるのね・・・原作フランさん・・・ 」
「 あ! ・・・で でもでも ほら・・・ぼく達だって・・・ お兄さんの飛行機、見たじゃないか。 」
「 え ええ ・・・ 」
「 なんかさ〜〜 カッコ付けすぎじゃね? ムッシュ・超銀★ 」
「 そう? レストランでデート・・・なんて素敵だわ〜 薔薇の花束とか♪ 」
「 ・・・で でも! コイツ〜〜 手が早すぎるよ! 」
「 そうねえ・・・ 超銀フランさん・・・苦労するわねえ・・・ 」
「「 で 続きま〜〜す <(_ _)> 」」