『 わたしのゆめ ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

*******  はじめに  *******

このお話は めぼうき様の 【 島村さんち 】 設定を

拝借しております。

 

 

 

 

 

  ことん。  テーブルの上にこそっとカップを置いた。

 

「 ・・・ ふ〜ん ・・・ いいにおい ・・・ あ〜〜〜あ ・・・ 

フランソワーズはカップの横にずさ・・・っと突っ伏してしまった。

テーブル・クロスのシワが ほっぺたに当たる。

「 ・・・ やだ〜〜 取り替えるの、忘れてたわ〜〜 ああ でももうかったるい〜〜 」

ころん。 寝がえりを打つみたいに身体の向きを変えてみた。

シワからは外れたけれど ぼ〜〜っと眺めていても雑然としたリビングが丸見えになった。

「 あ ・・・ もう〜〜〜 イヤぁ〜〜 ・・・  」

もそもそ起き上がって カップに手を伸ばす。

「 せっかく淹れたのですものね〜〜 熱いうちに飲まなくちゃね ・・・ 」

  ズ ・・・ ズズズ ・・・  ちょっとばかり行儀悪くカフェ・オ・レを啜る。

「 ふふ ・・・ いつもすぴかに怒っているのにね〜〜  あ〜〜 もうくたくた 〜 」

半分飲むと それでも少しは元気が出てきた。

「 ・・・ とりあえず〜〜 ゴミ、纏めとかなくちゃ。 明日の朝は ・・・

 ああ パンはあるし なんとかなるわ ・・・ 」

よっこらせ、と立ち上がると彼女は残りのカフェ・オ・レを飲み乾した。

「 ・・・ もう冷めてるぅ〜〜  けど 美味しいわね。

 あ〜〜〜〜 もう ・・・せっかくの < お休み > のはずだったのに〜〜〜 」

エプロンのヒモを締め直し、シンクでカップを洗い・・・ついでに生ごみをまとめた。

なんだかいつもより量が多い。  食べかけ で捨てたものがたくさんある。

「 ・・・ も〜〜〜  ああ 思い出すのもイヤだわ 〜〜

 あつ〜〜〜いシャワー 浴びてさっさと寝るわ! 」

 

  ドン!  バンッ  ガタ! ザザザ〜〜〜〜〜   きゅっ! 

 

キッチンには いつもよりかなり派手な音が聞こえていたが ―

 

  どん。  カチリ。   ・・・ ぱたぱたぱた ・・・・

 

やがて電気が消えて いつもよりかなり派手な足音が二階へと消えて行った。

 

 

  ― この週末 ジョーは急な取材で出張することになった。

「 ごめん 出張なんだ〜〜 う〜〜〜 せっかくの週末なのに〜〜 」

水曜日、帰宅するなりジョーはかなり不機嫌な顔で言った。

「 え しゅっちょう?  なあに それ。 」

異国で生まれ育った妻は きょとん、とした顔をしている。

「 あ〜〜  わかんないか〜〜 う〜〜ん つまり 泊りがけの仕事ってこと。 」

「 ああ お仕事なの? それならば仕方ないわ。 いつ出発するの? 」

「 ・・・ そりゃ仕方ないけど  さ。 う〜〜なにも週末に〜〜 」

あっさり納得した妻に ジョーはなんとなく釈然としない。

「 だってジョーのお仕事なのでしょう? 何週間くらいかかるの? 」

「 え・・・ そんなに行ってたまるかよ〜〜  金曜の夜にでて日曜には戻るよ。 」

「 あら そう。 それならたいしたことないわ。 ほんの二日じゃない? 」

「 だって! 週末に〜〜 ウチにいられないんだよ??  きみや子供たちと一緒に

 過ごせないし〜〜 皆でわいわい晩御飯も食べられないんだよ?? 」

「 だって ず〜〜っと ・・・じゃないでしょ、今週末だけ、でしょう? 」

「 当たり前だよ! ず〜〜っと なんてとんでもない! 」

「 それじゃ 来週末を楽しみにしましょ。  えっと金曜日の何時くらいに出かけるの? 」

ジョーの愛妻は あくまでも明るくとて〜〜も前向きにご亭主の仕事に向き合っている。

「 ・・・ 朝 普通に出勤して。 昼過ぎに一旦帰って・・・ 夕方 でるよ。」

「 それなら朝から旅行の支度して出勤すれば? いちいちウチまで帰ってくるのは

 大変でしょう?  なんだか時間の無駄 ・・・ 」

「 ぼくは! 家族の顔がみたいの!  それから出張に行きたいんだ。 」

「 あら そう 」

フランソワーズは 何気な〜く肩を竦めてやり過ごした・・・

勿論ジョーの < こだわり > については、よ〜〜〜く分かっている。

結婚して以来、そして 双子の子供達が生まれて以来 彼はそれはそれは家族と過ごす時間を

 そして 家庭ですごす時間を大切にしている。

もう 暇さえあればとっとと帰ってくるのだ。

殊に 週末 は彼の最大の楽しみで、家で、家族皆で食事したりリビングやら裏庭、 

そしてすぐ下の海岸で遊んだりすることを 至上の喜び、と感じている ・・・ らしい。

加えて 家庭の雑用 も喜んで引き受ける。

最近 フランソワーズは夫のために雑用( 浴室の黴落とし とか カーテンの掛け替え とか ) を 

< 取っておく > ことにしているほどだ。

 

   ・・・ ふうん ・・・ オトコのヒトって。

   自分の世界 が大切なんじゃないのォ〜〜〜

   オトコにしかわからんのだ! とか言ってさ

   オンナ・子供立ち入り禁止〜 みたいなオーラびしばしで

 

   お兄ちゃんだって パパもそんなカンジだったわ

   アルベルトや グレートも そうよねえ・・・

   そうそう タクヤだってそんなトコ あるわよ?

 

だからそんな夫の行状を知ったとき、初めは驚いた。

「 ・・・だって うるさくない? 週末くらいは一人で釣りとか・・・

 そうよ、カフェでのんび〜り ・・・とか。 」

「 どうして家族の声が煩いのさ? カフェに一人でいてもつまらないよ。 」

「 ウチは今、動物園 よ? はっきり言うけど。 」

「 ・・・ ぼく  ずっと憧れだったんだ ・・・ 家族で過ごす週末 って。

 ぼくには なによりもなによりも大切な時間なんだ。 」

「 ・・・ あ ・・・  ごめんなさい ・・・ 」

「 いや いいんだ・・・ ちゃんと説明してないぼくだって悪いよ。

 だからね ぼくには週末ってものすご〜〜く大切な時間なのさ。 

「 わかったわ。  ・・・ でも今週末はお仕事なんですから。

 ね? また次の週末には楽しく過ごしましょ。 お弁当もって下の海岸に行ってもいいし。

 子供たちも大喜びよ。 

「 そ そうかな・・・ 小学生になればもう ・・・ 

「 そんなコトないわ。 お父さんも一緒にお弁当〜〜 なんて♪ 二人ともきっと

 大はしゃぎよ〜〜  あ お弁当のリクエスト、考えておいてね? 」

「 ・・・・ ん 〜〜〜〜 」

 ちゅ・・・・  ほっぺにキスまでもらってしまえば ジョーの不機嫌面もたちまち緩む。

 

  ―  そんな理由 ( わけ ) で。

フランソワーズのご亭主は 金曜日のお昼を回ってほどなく帰宅した のである  が。

 

「 ただいま〜〜〜 」

「 お帰りなさい!  お昼は ? 」

「 きみの弁当を美味しく頂きました。  ・・・ あ〜〜でも なにかちょっと〜〜 」

「 はいはい < 小腹が空いた > のでしょ?

 昨日焼いたバナナ・シフォン・ケーキが まだあるわ、 それでいい? 」

「 うん♪ ・・・ って  あれ。  きみこそ〜〜 レッスンは ? 」

「 ちゃ〜〜んと受けてきたわよ?  終わってから 加速装置〜〜 で帰ってきたわけ。」

「 ・・・へ ???? 」

「 さあ ともかく < しゅっちょう > の準備 していらしたら?

 その間に 美味しいお茶を淹れておくわ。 」

「 わお♪ さ〜〜すがフラン〜〜〜 ふんふんふ〜〜〜ん♪ 

フランソワーズのご亭主は まことに上機嫌で二階の寝室に上がって行った。

 

   ふ〜〜〜〜 ・・・ よかった〜〜〜〜

   駅から自転車すっ飛ばして帰ってきて ・・・

 

   う〜〜〜 ・・・ 脚が ・・・ 大根だわあ〜〜

 

ずりずり・・・ 玄関の陰に放り込んでおいた大きなレッスンバッグを 引っぱりだした。

あとでこっそり部屋にもって行くつもりだ。

 

   ま いいか。 今晩はカンタンなのでいいし〜〜

   チビたちの好きな ピザ とか カレーをチン! で・・・

   ボルシチの冷凍があるから 博士にはそれを差し上げればいいわ

 

   ふふふ〜〜〜 たまにはの〜〜〜んびりした夜もいいわね〜〜

   そうそう 見たいDVDも溜まってるし〜〜♪   

 

「 お〜〜〜い フラン〜〜〜〜 」

二階から ジョーが叫んでいる。

「 あらやだ。 なにかしら・・・  は〜〜〜い? 

たたたた・・・っと 身軽に階段を上がってゆく。

「 はい なあに? 」

夫婦の寝室のドアを開ければ  ジョーはベッドの上にカメラやらワード・ローブを

広げていた。

「 シャツや下着ならいつもの引き出しよ? 」

「 うん それはわかってる。 なあ ぼくの洗面具 どこ。 」

「 ??? せんめんぐ?  なあに それ。 」

「 あ〜〜 歯ブラシとか歯磨きとか。 石鹸とかシェイヴィング・ローションとか。 」

「 バス・ルームにあるでしょ。 べつに動かしてないわ。 」

「 そりゃいつものは・・・ だから旅行用の! こう〜〜コンパクトになってるヤツ。 」

「 ??? だって・・・ジョーの、でしょう? ジョーが知ってるでしょ?

 わたしは新しく買った記憶はないですけど? 」

「 え〜〜〜 出張って言ったらさあ〜〜 洗面具とか ささっと奥さんが出してくれて〜 」

「 あなたの歯ブラシをなんでわたしが出すの? 買い置きはいつもの場所にありますけど。」

「 ふ〜〜ん ・・・ まあ 今回は仕方ないけど。

 準備しておいてくれる? 次の時からはすぐにもってゆけるようにさ! 」

少しばかりイラついた顔で ジョーはバス・ルームに飛んでいった。

 

   な〜〜に〜〜〜 ・・・・ 自分のモノでしょう???

   な〜〜んでわたしが用意しなくちゃいけないわけ??

 

仏蘭西乙女は憮然として それでも良人のシャツをきちんとたたみ直した。

「 お兄さんだって軍務であちこち行ったけど・・・準備はきちっと自分でやってたし。

 パパは ・・・ あまり覚えてないけど少なくともママンにやらせてはいなかったわ。 

 ・・・アルベルトやピュンマなんて ものすご〜〜くきっちりパッキングするし。

 そうよ〜〜〜 タクヤだって ぐちゃぐちゃ詰めでも自分で用意してるわよねえ〜 」

彼女の身近な男性たちは 皆( 程度の差はあっても ) 自分のコトは自分でできる

人々だったのだ。

「 すばるじゃあるまいし。  あ! そうよ〜 すばるだって学校の明日の準備は

 ちゃ〜んと自分でやるわよねえ〜 」

呆れつつも ハンカチと下着を日数分、チェストから取り出した。

「 ジョーだって〜〜 今までは ・・・ あ。 一人での一泊以上の旅行って

 もしかしたら ・・・ 初めて かしら?? 

ことん。  なんとなくベッドに腰かけて考えこんでしまう。

「 一泊で・・・ってのは何回かあるわよねえ〜 でも < りょかん > には

 歯ブラシとか使い捨てのものがあったし。

 あ・・ わたし達ハネムーンには行ってないし〜〜〜 う〜〜ん 」

彼らにとって長期の旅 となれば ミッション絡み、したがってドルフィン号での旅、

ということになる。 どんぱちの最中には当然歯磨きとか洗面などの暇はない。

「 ・・・ あ〜〜 そうだわ ドルフィンには個人キャビンの簡易洗面所に石鹸とか

 歯ブラシ、置いてあったっけ。 でもあれは備品管理として当番が補充してただけだし 」

「 あ〜〜 なんとか詰め込んだ! なあ 今度からちゃんと用意しておいてくれ。」

ジョーがせかせかと戻ってきた。

「 え ?  ・・・ ああ  はい。 」

細君の生返事などに耳を貸すヒマはなく、彼はごそごそ荷物をスーツ・ケースに詰め込む。

「 う〜〜〜 っと ・・・ これでよし、と。  お もうこんな時間かあ〜

 フラン、それじゃ行ってくるから。 留守 頼んだよ。 」

「 はい はい 行ってらっしゃい。 」

「 うん。」

ガバっと革ジャンを羽織ると 彼はうんしょっとスーツ・ケースを持ち上げ 

さっさか階段を降りていった。

「 ・・・ ふ〜〜ん  ふつ〜〜キャリッジで引っ張るわよねえ〜〜 」

「 フラン〜〜〜!! 

「 はいはい ・・・ 」

フランソワーズはため息をしっかり吐いてから ぱたぱたと階段を降りていった。

・・・結局 シフォン・ケーキはショルダー・バッグに詰め込むことになった。

 

  いってらっしゃ〜〜〜い ♪   坂の上で夫のクルマが公道へ出るまで見送った。

 

見慣れたジョーのクルマは 滑らかに角を曲がり消えていった。

「 ・・・ やった♪ 」

フランソワーズは門の前で 心の中で特大Vサイン〜〜〜を振りかざした。

「 わ〜〜お〜〜〜 自由な週末だわ〜〜〜〜 

もう〜 スキップしたい気分で彼女は戻ってきた。

玄関を開けると 博士がせかせかと奥から出てくるところだった。

「 ・・・ あら 博士。 お出かけですか。 お買いものならわたしが・・ 」

「 ああ フランソワーズ・・・ ジョーは無事に出かけたかの。 」

「 ええ なんだか不機嫌そうでしたけど。 週末がつぶれてイヤみたいですわ。 」

「 ははは ・・・ まあ仕事じゃからな〜 仕方あるまいよ。

 ちょいとコズミ君のところまで行ってくるよ。 今電話が入ってな・・・

 ああ、晩飯はいらんよ。 長引くかもれん。 」

「 はい。 どうぞお気をつけて・・・ 」

「 もしかしたらむこうに泊まりになりかもしれんのだ。 ・・・大丈夫かい。 」

「 え ・・・ 」

「 ジョーがおらんからのう〜〜 できればなんとか帰ってきたいのだが・・・ 」

「 あら どうぞお気づかいなく〜〜 わたしだって 003 ですから♪ 」

「 ははは それはそうじゃがな。 ともかく戸締りには気をつけてな。」

「 はい。 ふふふ ウチのセキュリティは鉄壁ですもの。 」

「 それはそうじゃが・・・万が一、ということもあるからな。チビさん達がおるからの〜。」

「 よ〜く点検しておきます。 いってらっしゃい。 」

「 うむ 行ってくる。 ああ 見送りはいいよ。 じゃあな 」

博士は小さなカバンを持って早足で出かけて行った。  

その足取りはまことに達者なので感心するほどだった。

 

「 ふ〜〜〜〜 ・・・・ ん ・・・・ 」

リビングに戻って 彼女は大きく伸びをした。

「 あっは ・・・ 子供達が帰ってくるまで〜〜〜 天国だわ♪ 」

彼女は勿論 夫のことは十分に愛していたし博士との夕食も楽しんでいるが・・・

 

    だって 気楽に好きなモノで済ませるのは  ―  格別よ♪♪

 

「 では〜〜 わたしだけのために特別丁寧にカフェ・オ・レを淹れましょ♪ 」

今度は本当にスキップしつつ  彼女はキッチンに向かった。

 

 

「 アタシ〜〜〜 ふくじんづけ たべたい〜〜〜 」

すぴかはスプーンを握ったまま 喚いている。

「 ・・・ ふくじんづけ ・・・? 

「 ウン。 あの赤いの! ビンにはいってるの! 」

「 !  あ〜〜 アレね〜 」

「 そ。 いろんなのが入ってて〜 」

「 ・・・ え〜と ・・・ らっきょう じゃダメなの? 

「 らっきょう もスキだけど〜〜 ふくじんづけ〜〜〜 」

夕食は 簡単カレーのチン!するだけ と これはさすがに手作りの野菜サラダ。

三人だけの食卓に 母はにこにこと並べたのだが。  

「 すばる、あなたも食べたいの? 」

「 僕はぁ〜〜 れ〜ずん があるからいい。 」

すばるは いただきます の直後からむぐむぐカレーに夢中だ。

「 ああ そう・・・ ねえ すぴかさん。 ふくじんづけ、今日は <売り切れ> なの。

 今度買っておくから。 今日はらっきょうでいいでしょ? 」

「 え〜〜〜〜〜 ふくじんづけ なしぃ〜〜 ? 」

「 ごめんね。 でもこのカレーはとっても美味しいと思うけど・・・ 」

「 ・・・ う〜〜〜 ん  アタシ もっと辛いのがいい〜〜〜 」

今晩のカレーは お子様向け・甘口 をチン! したのだ。

いつも母の手作りの時は もう少し辛口だ。

「 あらあ  そう?  じゃあ ・・・ あ ドライ・カレーを掛けてみる? 」

「 ・・・ いいよ コレで ・・・ 」

「 ねえ ねえ お母さん〜〜 僕! 僕 かけてみたい〜〜 」

スプーンを舐めていたすばるが口を挟んだ。

「 すばる君!お行儀が悪いですよ! え ドライ・カレーを??だってから〜〜〜いのよ? 

「 ううん〜〜 どらいかれ〜 じゃなくて〜ハチミツ〜〜〜♪ 」

「 え カレーにハチミツ、掛けるの?? 」

「 うん。 だってこれ。りんごとはちみつ入り って書いてあったも〜ん 」

にこにこ顔のムスコは 冷凍パッケージをつまみ上げた。

「 あら ・・・ え〜 と はちみつはちゃんとカレーの中に入っています。

 だから掛ける必要はありません。 

「 え〜〜 だってどらい・かれ〜 は掛けるんでしょ〜 」

「 それは ・・・ すぴかはもっと辛い方が好きだから 」

「 アタシ これでいい。 ふくじんづけ があれば〜〜〜 」

「 僕 もっと甘いのがいい〜〜〜 」

子供たちは てんでに文句を言い始めた。

「 ほらほら 二人とも? ご飯の時に騒いではダメでしょう? 静かにきちんと食べましょう。

「 だから〜〜〜 ふくじんづけ 〜〜〜 」

「 はちみつ かけてくれたらみんなたべる。 」

母の小言に 静かになるどころか二人はますます騒ぎ始めた。

  ― 島村さんち の食卓はいつも賑やかだ。

特に家族みんなが揃う週末の晩御飯は 皆がいろいろなお話をしたり笑ったり 

時にはお母さんの小言が降ってきたり・・ でも楽しい雰囲気でいっぱいだ。

子供たちが学校でのコトを話せば お父さんは一生懸命聞いてくれるし

おじいちゃまはいつも面白い・楽しいお話をしてくれる。

お母さんは お行儀 にとても煩いけれど 普通にしていればそんなに叱らない。

だから ― 双子たちは 皆でご飯 が大好きだ。

 

  ― それなのに。

 

「 ね〜〜〜 お母さん。 お父さん、遅いの? 」

すぴかが <ふくじんづけ> コールを中断して訊いた。

「 お父さんは お仕事で出張です。 日曜日にお帰りよ。 

「 え〜〜〜〜〜 明日 土曜日なのにお父さん いないのオ〜〜〜 」

「 お母さん。 おじいちゃまも しゅっちょう? 」

のんびりむすこは むぐむぐむぐ〜〜〜カレーを咀嚼しつつもごもご質問してきた。

「 すばる君、 お口に食べ物を入れたままお話してはいけません。 」

「 ん〜〜〜〜〜  ごっくん  ・・・ あのさ〜 」

「 ねえ おじいちゃまは? やっぱりしゅっちょうなの? 」

「 あ〜〜〜〜 すぴか〜〜 僕が言うっていってたのに〜〜〜〜 」

「 ふん。 アンタのろまさんなんだもん。  ね〜〜 お母さん〜〜 おじいちゃまは〜 」

「 ぼ 僕!  のろまさん じゃないもんっ ! 」

「 へ〜〜ん のろまさんじゃん。 ねえ おじいちゃまは〜〜 ? 」

「 のろまさんじゃないやい! のろまさんじゃ 」

「 うるさ〜〜い アタシは今 お母さんにしつもんしてるの〜   ねえ ねえってば 」

   ごん。  すばるはついに実力行使? に出て すぴかの背中を叩いた。

「 あ いった〜〜〜〜〜い〜〜〜   おか〜さ〜〜ん すばるってば〜〜〜 ぼうりょくてき! 

なんにもしないのに〜〜 アタシのせなか ぶった〜〜 」

「 ぼ 僕 ! のろまさんじゃない〜〜〜 」

「 ぶった〜〜 ぼうりょくはんた〜〜〜い !! 」

「 ぼ 僕 〜〜〜 !! 」

「 ―  二人とも  ストップ! 」

最初は無視していた母も 食卓の大騒ぎにたまりかねついに <介入> した。

「 今はご飯中です。 ご飯を食べている時に騒いでもいいのですか。 」

「 ・・・ いくない 」

「 騒いでもよくないデス 」

「 はい それじゃあ二人とも静かにご飯を食べましょう。 」

「 だってすばるが〜 」

「 僕!  のろまさんじゃ〜 

「 ご飯を食べましょう。 」

「「 ・・・ は〜〜い  」」

お返事だけはちゃんとしたけれど ―  大人しくご飯を食べ始めたけれど。

 

   ごと!  ・・・ ばんっ!  ぼこ。  がんッ 

 

テーブルの下で蹴りあいが始まった。 これはよちよち歩きのころからの家庭行事なので

母としては シカト。

  

   あ〜 もう・・・ そうね お腹の中から二人してぼこぼこやってたわね! 

   ・・・ ったく〜〜〜!  知りませんから。

   青痣だらけになって どっちかが泣き出しても

   お母さんは知りませんからね!

 

フランソワーズは そっと自身の脚を避難させ素知らぬ顔でカレーライスを食べていた。

「 ほら サラダもちゃんと食べてましょう。 すぴかさんの好きなぷちトマトよ?

 すばる君、ほらマヨネーズかけたら? 」

「「 ・・・ は〜〜〜い 」」

今度もお返事だけはとてもすばらしい。 が ― 本当はポテト・サラダが食べたいのだ。

島村さんち では カレーにはポテト・サラダ が定番である。 いつもは。

そりゃ ・・・ ちゃ〜んとわかっているけれど。

  

    ・・・ だって面倒くさいんだもの。

    グリーン・サラダ だって美味しいはずよ??

 

本日のメニュウ変更は < お母さんの個人的事情 > のため、らしいのだった。

 「「 ごちそうさまでした   」」

ご挨拶だけは満点で 子供たちは神妙な顔で晩ご飯の席を立っていった。

「 はい。 自分の食器はシンクに運んでね。 」

「「 は〜〜〜い 」」

「 すばる、 TVつけといて〜〜〜 アニメ! 」

「 うん すぴか。 

「 二人とも? 宿題は終わっているのでしょうね?? 」

「「 は〜〜い 」

またまた最高のお返事を残して子供たちはそそくさ〜〜とリビングに行ってしまった。

「 ・・・ ふう ・・・  あ〜〜〜 あ  」

フランソワ―ズは 盛大にため息をつき、食卓を台拭きでぬぐった。

カレーは残り すばるはジャガイモが足りない! と不満げだった。

いつもの < ウチのカレー > は ジャガイモ ニンジン 玉ねぎ ごろごろ〜 なのだ。

 

    ・・・ しょうがないでしょ、チン! しただけなんだから

 

サラダも残り すぴかはぷちトマトばかり食べ すばるはマヨネーズ漬けにしてきゅうりを

数枚、やっと食べた。

島村さんちのポテトサラダは いろいろな野菜をさっと茹でマッシュ状にちかくなっている

ジャガイモで和えてある。 マヨネーズは風味づけ程度でオトナはフレンチ・マスタードを

足したりしている。 サラダといってもハムなどを足せば主役にもなれる一皿だ。

 

    ウチのポテト・サラダなら全部食べるくせに〜〜〜 

    ふん いいです、 わかりました。

    もうこれからは当分グリーン・サラダ ですからねっ

 

母はぷりぷりして ざざ〜〜っと食器を洗いキッチンを片づけた。

「 ・・・ あ〜〜〜  もう ・・・ ま いいわ。

 今晩はゆっくりできるし。  ああ そうだわ、ポアントのリボンつけておかなくちゃ。

 そうそう ニットがほつれていたっけ ・・・ 」

気を取り直し、子供たちの分もお茶を淹れた。

「 すぴかさん すばるクン ・・・ お茶よ 」

 

  ―  リビングでは  子供たちがTVに張り付いていた。

 

「 ・・・・ あ〜〜〜〜 ダメじゃん〜〜 

「 すぴか うるさい。 

「 アンタこそ うるさいよっ  ( どこ。 ) 」

「 いった〜〜〜〜 」

「 すばる うるさい! 」

「 すぴか ぶった〜〜〜 」

「 アンタがうるさいから! 」

「 うるさいのは すぴか! 」

「 う〜〜〜〜〜 ・・・! 」

「 あ〜〜〜 ぶっぶ〜〜〜 はんそく〜〜 髪 ひっぱるの、はんそく〜〜 」

 

   カチ。  TVが急に消えた。

 

「「 え ?? 」」

瞬時にして TV前のケンカは停戦した。

「 おか〜さ〜ん TV こわれた〜〜 

「 ていでん じゃないよね〜 」

子供たちは わらわらとフランソワーズが座るソファにやってきた。

「 ― 壊れてませんし、停電でもありません。 お母さんが消しました。 」

母はリモコンを差し出した。

「 え〜〜〜〜 なんで〜〜〜 」

「 ど〜して〜〜〜 」

「 あなた達 ケンカで忙しいのでしょ! そんな人達にTVはいりません。 

「 え〜〜〜・・・ ごめんなさい〜  もうケンカしません〜 

「 ・・・ ごめんなさ〜い   もうしません ・・・ 」

すぴかとすばるは お互いにつんつんしつつ 神妙な声でいった ― 一応。

「 静かに見ますか。 」

「「 はい 」」

「 もうケンカしませんか 」

「「 は〜〜い 」」

「 今度騒いだら 本当にTVお終いにしますよ。 」

「「 はい さわぎません 〜 」」

 

    ・・・ カチ。  再びアニメが始まった。

 

「 ・・・ もう〜〜〜 

フランソワーズはため息を吐くのもうんざりしてきて テーブルに子供たちのカップを置くと

ソファに戻った。

 

    ふん。  もう知りません!

    さあ〜〜  リボン 付けなくちゃ・・・

    ちょうどいいわ、 3足くらい頑張っちゃう〜

 

針箱にしているバスケットを持ってきて 彼女はポアントにリボンを縫い付け始めた。

子供たちは まあまあ大人しくアニメを見ている。

「 ・・・ おかあさん 」

突然 目の前にすぴかの顔が入ってきた。

「 ?!?  うわ ・・・   あ  あ〜〜 すぴかさん ・・・ 」

フランソワーズは夢中になってリボンを縫い付けていたので ものすごくびっくりしてしまった。

「 ・・・ あ〜〜 驚いた・・・ なあに 」

「 あのさ〜〜 お母さん。  アタシ ・・・ 新しいおけいこぎ ほしい〜〜〜 」

「 あら この前、水色のを買ったばかりでしょう?

 もう小さくなってしまったの?  それとも穴でもあいたの? 」

「 ・・・ う  ううん  ・・・ 」

「 それならば クリスマスまで我慢。 濃い青のも 黒もあるでしょう? 」

「 ん〜〜〜 でもね 今の水色ね〜 」

「 すぴかが大きくなってきつくなったり 破けちゃったりしたのなら別だけど。 

 ね? クリスマスに好きなの、サンタさんにお願しましょ?

 ほら ・・・ ふりふりのスカート付でもいいのよ。 」

「 すぴか〜〜 ふつ〜のでいい。 でもね 今のね ・・・ 」

「 クリスマスまでによ〜く考えておいてね? ああ バレエ・シューズは大丈夫? 」

「 ・・・ ウン。 」

「 そう、破けたりキツクなったらすぐに言ってね。 」

「 ウン ・・・ 」

すぴかはなにかまだ言いたい風だったが 黙ってじ〜っと母の手元を見ている。

「 ・・・ トウ・シューズ  いいなあ〜〜 」

「 ふふふ 4年生になったら履けるのでしょ? もうすぐよ。 」

「 ウン ・・・ 

「 すぴかもポアントを履くようになったらお裁縫、出来なくちゃね〜 」

「 え ・・・ おさいほう? 」

「 そうよ。 ポアントのリボンを縫い付けるのはね、バレリーナはみ〜んな自分でやるの。」

「 え?! みんな?  えり先生とかも?? 」

すぴかは目を丸くしている。

「 勿論。 どこのバレエ団のプリマさんだってみ〜〜んな よ。

 だからね すぴかさんにもお裁縫、教えてあげるわ。 お母さんのお裁縫道具、

使っても いいわよ。 」

「 え ・・・ すぴか ・・・できるかなあ〜〜 」

「 大丈夫、 お母さんもちっちゃい頃に習ってできたから。 」

「 う うん ・・・ 

「 〜〜〜っと これでよし、っと。  あ そうだわ、果物たべる? 」

フランソワーズは針仕事を置いた。

「 わ〜〜い たべる〜〜〜 なに? 」

「 え〜と ・・・ 梨かオレンジ。 どっちも冷えてるから美味しいわ。  あとバナナ。 」

「 アタシ ばなな!!  す〜〜ばる〜〜〜 ばなな たべるよね〜〜? 」

「 うん たべる〜〜〜! 」

TVの前から即行で返事がきた。

「 あ・・・ そ。 今持ってくるわ。 」

「 わ〜い ばなな〜〜 ばななだよ〜〜ん♪ 」

 

   ・・・旬の梨の方がず〜〜っと美味しいのに ・・・

   オレンジだって糖度保証の冷え冷えなのになあ 

   ま いいわ、 コドモにはバナナで十分 よね

 

またまたぶつくさ心の中で呟いて フランソワ―ズはトレイにバナナを乗せて戻ってきた。

「 はい 二人とも〜〜 バナナよ〜 」

「 わ〜〜〜 ばなな〜〜〜 」

すばるがどたどた駆け寄ってきた。

「 はい すばる。 あ 皮はちゃんとお皿に乗せてね。 ・・・ すぴか〜 バナナよ。 」

「  ―  あ ・・・ 」

すぴかは ソファに座り母の裁縫箱の側にいた。

「 ? すぴか〜 ほら バナナ。 あら どうしたの。 」

「 ・・・ え。 あ〜〜 アタシ ・・・ 」

「 ・・・?  ―  すぴかさん!  なにをするつもりなの! 」

「 ・・・ あ  アタシ・・・ 」

母の声のトーンが飛び上がり すぴかはびくっと身体を固くした。

彼女の手には 母の裁ち鋏と彼女の水色のレオタードが握られていた。

 

 

 

 

 ― カチ。   TVが消えると 急に静寂が襲ってきた。

ごろん。   ジョーはリモコンを置くとソファにひっくり返った。

「 〜〜〜〜 一人で見てても〜〜  ち〜〜っとも面白くない〜〜〜 」

  ・・・ ごろごろごろん。  

清潔で空調完備、防音ばっちり、のホテルの一室で ジョーは仏頂面で寝ころんでいる。

出張先は地方都市、 目的の打合せは無事終了しホテルに戻ってきた。

先方は明日がレース本番ゆえ 今夜はとっとと早仕舞。

飲みに行きませんか と主催者側は誘ってくれたが ― 愛想よく断った。

 

「 ・・・ フラン〜〜〜 ・・・ すぴか〜〜 すばる〜〜〜 ・・・ 」

 

金曜・夜、オトコ一人で出張〜〜♪の自由な夜♪〜〜〜 に。

 島村ジョーはひたすら妻子との楽しい時間を思い浮かべ 一人悶々としているのだった。

 

 

Last updated : 09,30,2014.                    index       /      next

 

 

********   途中ですが

続きます! 相変わらずなにも起きませんが・・・

双子ちゃんは小2〜3くらいです。