『 龍の花嫁 ― (3) ― 』
ざわざわ ・・・・
抑えた話声 と共にやはり潜めた足音が どうしても耳に入ってくる。
部屋の外には 多くのヒト達がうろうろしているのかもしれない。
にがす とか わかりゃしない とか そんな言葉が行き交っていた。
「 ・・・・ 」
彼女は 深く息をして心のなかに立つ波をおさめようとした。
だめ よ ・・・
心を鎮めないと ― 聴こえないわ
あの方のお声が 聞こえてこない わ ・・・
はらり。 長い髪が一筋 肩からすべり落ちた。
ま新しい白い着物は 身体になかなか馴染まない。
さむい ・・・
ああ あの方に会いたい ・・・ !
「 ― あ ? ここは ・・・? 」
その場面を 自分は見つめているのか それとも 彼女が自分なのか ―
混乱したフランソワーズは 思わず声をかけてしまった。
「 ・・・ あなたは だあれ? ここは どこ 」
その乙女は ゆっくりと顔をあげると彼女をじっと見つめた。
黒目がちな大きな瞳が かっきりとこちらに向けられる。
わたしは 花嫁さん
わたしは あなた
あなたは わたし
わたしは 龍の花嫁 ・・・
「 ?? りゅうの はなよめ?? え ? 」
― あ ・・・
自分自身の声で 目が覚めた。
「 ・・・ あ あら やだ。
わたし ・・・ こんなところで転寝してしまったみたい・・・ 」
見回せば ここは古びた役場の資料室跡。 空気は黴くさくほこりっぽい。
「 こほ・・・ん。 ジョ―・・・? あら ヘンねえ
着替えてくるって ― それっきり戻ってこないじゃない? 」
古い緞子張りのソファから立ち上がると 彼女は木綿のワンピースの裾を
払った。
「 さっきの ・・・ あれは 夢だったのかしら ・・・
でもなんだかとてもリアルで ― あのお部屋は、そう畳だった 」
足の裏に あの独特の感触がまだ残っていた。
「 わたし あのお部屋にいたのかしら それとも 外から眺めていたのかしら
・・・ よくわからない でも ・・・ 」
わたしは あなた
あなたは わたし
なぜかその言葉が耳の奥に残っている。
「 いえ 夢 よ。 だってこのお屋敷には和室はないわ。
ヘンな時間に転寝なんかするから ・・・ 資料に夢中になってて
妄想しちゃったみたい ・・・ 」
フランソワーズは アタマを振った。
「 ストレッチしよ! そうよ それがいいわ 」
ソファの上で ストレッチと腹筋運動をした。
「 〜〜〜〜 ん〜〜 少しはすっきりしたかも。
ここは本当に不思議なお屋敷ねえ ・・・ 時代の記憶が眠っているのかも・・・
・・・ これ 全部年代記 ・・・?
」
改めて周囲の書架を見まわす。
「 きっとすごい資料なのね ・・・ 専門家には垂涎の的かも・・・
ふうん ・・・ ピュンマがいたら面白がったわね きっと。
それにしてもジョー ?? どこまで行っちゃったのかなあ 」
彼女は 灯を消し部屋を出た。
パタン。 そこはまた 時の埃が積った廃墟に戻っていった。
ことん。 一冊 古い資料が机から落ちた。
ぱた ぱた ぱた ―
「 あ ごめん 〜〜 ! 」
中央の舘に戻る途中、 ジョーはあたふた駆けてきた。
「 ジョー ・・・ 」
「 ごめん! 二人の博士の手伝い、頼まれてさ ・・・
東翼は ばっちり最新式の研究棟になっているよ
」
「 へえ ・・・ 研究って防災学の? 」
「 ウン。 防災の設備にAIをどの程度まで組み込めるか、というのが
目下の 沼本博士の課題なんだって 」
「 ああ それでギルモア博士と 」
「 そうらしい。 書斎でさ 二人のハナシはどんどん発展していってさ
ぼくは完全にただの聞き手になってた 」
「 うふふ ・・・ 二人とも専門のことになると夢中になっちゃうから 」
「 そうだよな〜〜 と〜〜っても楽しそうだけどね 」
「 避暑に来たのに 熱くなってる? 」
「 ははは ここは涼しいからいいんじゃない?
で ごめん、資料の方はどうだった? なにかわかった? 」
「 う〜〜ん ・・・ < 伝説 > は わかったけれど ・・・
実際のところはどうなのか ― 取材してみたいの 」
「 取材かあ ・・・ う〜〜ん ・・・ どうかなあ〜
それより 普通の世間話〜〜 って感じにした方が
地元のヒトは話してくれると思うよ 」
「 世間話??? ジョーって そういうのに興味あるの? 」
「 そうじゃないけど ・・・ オバチャンとか おばあちゃんって
なんでもないハナシの中でいろいろ喋るみたいだから さ 」
「 う〜〜ん ・・・ あ それじゃ また買い物のオーダー
取りにゆきましょうか? ご注文は って 」
「 あ それいいね! いちおう < 村長さん > の
了解を取っておこうよ 」
「 そうね 」
雨は 午後になっても降り続いた。
二人は傘を手に 点在する家々を尋ねてまわった。
「 そうかね〜〜 村長さんとこの ・・・ ありがたいね〜〜〜 」
その家の年老いた主婦は ジョーたちを拝む恰好すら、してくれた。
「 あ そんな ・・・ なんでも注文してください。
あ 手数料なんて取りませんから〜〜 」
「 あはは 正直だねえ 兄チャン。 ・・・ キレイな髪だねえ
ガイジンのお嬢さん 兄チャンの友達かい? 日本見物? 」
「 あ・・・ ぼ ぼくの ふぃ・・・ あ 許婚 です 」
「 ほへ〜〜〜 許婚さんかい〜 お嬢さん。 気をお付け 」
「 はい? 」
「 長い髪 ・・・ 龍神さまに ・・・ いやいや 」
「 あの〜〜〜 」
「 ありがとさん、ほんとに助かったよ。
村長サンに ヨロシク ・・・ 池の祭をやらにゃいかん、と
伝えておくれ。 今の村長サンは ― よく知らんのだから 」
「 ・・・ あの なにを知らないのですか? 」
「 あ なに ・・・ その 」
「 わたし達 あの池がとても気に入ったんです。
だから ・・・ いろいろ知りたいな〜〜って 」
「 ・・・ 気をお付け。 池に引きこまれんようになあ ・・・ 」
「 池に ・・・? 」
「 ああ。 あの池には ― だから祭をやらにゃならんのですワ 」
「 池のためのお祭 ですか 」
「 ・・・ 池の。 龍神様を祀るのさ。
どうぞ 村に害をなさんでください 村人を引きこまないでください ってね。
そのために 外からきた髪の長い乙女を ・・・ あ いやいや・・・
聞かんかったことにしてくれや ・・・ 」
おばあさんは そそくさ〜〜〜と家の中に引っ込んでしまった。
「 ふうん ・・・ やっぱりね 」
「 ? なにが やっぱり なんだよ フラン 」
「 ウン・・ あの古い資料に載っていたことは ず〜〜っと
この地で 代々語り継いできたことなんだわ。
そして その昔、あのことは 本当にあった出来事 ― 」
「 あのこと ? 」
「 そう。 昔 池の神様をなだめるために 乙女を生贄にしたってこと。
きっと 池に沈めたんだわ 」
「 え ・・・ そんなヒドイことが ここで??
伝説だろう? 日本の昔話にはそういう類のが多いんだよ 」
「 ずっと伝えられてきたってことは その地域の記憶なのよ。
だから ― 伝説通りじゃなくても似たようなことが
この地域、 つまりあの池に纏わる出来事があったのだと思うわ。 」
「 う〜〜ん どうなんだろうなあ ・・・
確かに あの池には吸いこまれそうな魅力があるけど 」
「 ・・・ 主様 が 呼んでいるから ・・・ 」
「 ? え なんだい? 」
「 ・・・ ? なあに? なにも言ってないわよ 」
「 呼んでる とか 言わなかった? 」
「 言ってないわよ〜〜 ジョー 大丈夫? 」
「 え ・・・ 空耳かなあ ・・・ 」
「 いやあねえ〜 あ 雨が ・・・ 」
「 ホントだあ〜 ちょっと強くなってきたね 戻ろうか 」
「 そうね。 ・・・ぶるる ・・ なんか寒いわ 」
「 こっちおいでよ。 一緒に 」
ジョーは彼女を引き寄せると 一本の傘に一緒に入った。
「 あ ・・・ 」
「 ごめん! でもこやってれば少しは暖かいだろ?
さあ〜〜 沼本屋敷まで急ごう 」
「 うふ ・・・ あ 加速装置 はやめてね? 」
「 あはは 了解。 服を燃やしたくないもんな 行くよ 」
「 了解〜〜 」
寄り添って 相合傘で ― 二人は農道を走っていった。
雨脚は だんだんと強くなってきていた。
サ −−−−−−− ・・・・
低い音を響かせ 雨は降り続く。
雨はどんどん激しくなってゆく。
屋敷は鎧戸を閉じ カーテンを下ろし ― 本来ならまだ明るいはずの時間も
明りを灯すことになった。
お茶の時間、 今までとは打って変わって屋敷の雰囲気は
深刻なものになっていた。 雨の音に会話も途切れがちだ。
カチャン。 沼本氏はカップをソーサーに置いた。
「 マズイな。 このままでは山の東側が危ない。 」
沼本氏は 厳しい表情を見せている。
「 ! 崖崩れが起きる危険があるのですか 」
「 うむ ・・・ 観測の精度を上げてみようと思うのじゃ。
ちょっと失礼しますぞ 」
「 沼本博士! あのう お手伝いします!
ぼくに出来ること、あると思います。 」
「 島村くん ・・・ 」
「 沼本くん。 彼はワシの助手もやってくれておる。
機材の取り扱いも 任せて安心じゃよ 」
「 そうか! それはありがたい 」
「 あの! 観測なら! わたしの専門ですわ 」
「 お嬢さん? 」
「 ははは そうなんじゃ。 雨雲も 地域の様子も 彼女に
任せてくれたまえ。 なあ 皆で災害に備えようじゃないか 」
「 ギルモアくん ・・・ ! ありがとう!
避暑に招いておいて ・・・・ 本当に申し訳ない〜〜 」
「 そんなこと! さあ 行きましょう ! 」
四人は 東翼の研究室へと急いだ。
バタン。 気密性の高いドアが閉じた。
「 さあ 諸君。 ここがこの邸の中枢、ワシの研究室じゃ 」
「 ! う ・・・わあ 〜〜〜 」
「 ・・・ すごい ・・・ 」
若い二人は 目を見張った。
ドアの外は歳月を経たアンテイークな洋館なのだが ― 内側は
超現代的、いや 少々未来的でもある最新の研究室だった。
「 ほほ〜 こりゃすごい設備じゃなあ〜〜 ウチの旧式とは
随分の差じゃよ〜〜 沼本クン 」
「 いやいや 設備ばかりじゃダメだよ、それを使い熟せんとなあ
と・・・ 余談は置いて ともかく詳しい現状の把握じゃ。
お嬢さん この装置が扱えるかな 」
「 フランソワーズ と呼んでください。
・・・ あ 超精密なレーダーですね うわあ 観察ポイントがものすごく
たくさん ・・・ 」
「 うむ 村の人々に頼んで 各家やら敷地内に小型観察機をおいてもらって
いるんじゃ どうだね? 」
「 ・・・ まだ床上浸水などの被害は ないようですね 」
フランソワーズは 装置を動かしつつも時折 じ・・・っと目を凝らしている。
ジョーとギルモア博士には < よくわかる > ので
なるべく沼本氏を 彼女から離すように心がけた。
もっとも彼は 得られた情報を分析するのに集中していて
フランソワーズの動向には 関心を払ってはいなかった。
「 ・・・ 危険だ。 住民に避難を呼びかける。 」
「 気象庁や地元自治体はなにも言ってきておらんなあ 」
「 ふん こんな僻地、誰も注意を払わんのじゃよ、中央のヤツら。
ワシはこれから近所のヒトたちを連れてくる。 」
沼本氏は ぱっと立ち上がった。
「 え・・・ 連れてくるってこの雨の中を ? 」
「 そろそろ暗くなりますし お年寄りが多いですよね 」
「 ふふふ ― ワシには秘密兵器があるのさ 」
「「「 秘密兵器?? 」」」
これじゃ いつもと立場が逆だよな〜
・・・ わたし達のセリフ、 取られちゃったわねえ
ジョーとフランソワーズは 目と目で会話した。
「 なんじゃね それは
」
「 一緒に車庫まで来てくれ。 ああ 母屋の外れが車庫さ。
もともとは馬車を置いていた場所なのでな やたらと広い。 」
「 急ぎましょう 」
彼らは 広い邸の中を小走りに抜けてゆく。
はたして ―
沼本氏の愛車、あの四駆は 水陸両用車に < ヘンシン > していた!
「 う わ・・・ すげ〜〜〜〜 」
「 これが ― 駅から乗ってきた あの車ですか? 」
「 ほう ・・・ 沼本くん、 これを手掛けたのは 君か? 」
口々の賛辞に沼本氏は ふふん、と得意気だ。
「 いや〜〜 ・・・・ ちょいと まあ 違法改造したんだが。
ま このド田舎では 他のクルマと出会うことも稀じゃし な 」
今から出発する、と 彼は運転席のドアをあけた。
「 あ ぼくが運転します ! 」
さっと ジョーが飛び出した。
「 しかし これは特殊な車で 」
「 任せてください、 乗りモノの運転は得意なんです。
博士には中枢で指揮をとっていただかないと ・・・ 」
「 わたし、 ナヴィをするわ。
この 小型レーダーをナヴィに接続すれば クルマでも精度の高い
探査ができます。 任せてください。 」
「 ・・・ ギルモアくん きみの家族は ・・ すごいなあ 」
「 いやいや しかし安心して彼らに任せておくれ。
沼本クン、 君は住民のヒトたちに連絡を入れておけ。
彼がすぐに動けるように
」
「 わかった。 それでは 島村くん、お嬢さん ・・・ いや
フランソワーズさん、 お願いします。 」
「 はい! 行ってきます。 フラン 頼むよ 」
「 了解。 」
「 お〜〜っと 二人とも。 合羽を着てゆけ〜〜 」
防護服はやめておけ ・・・ と ギルモア博士な目顔で二人に告げた。
「 はい。 ぼくは濡れたって平気ですよ、夏の雨ですから 」
「 ダメだ、島村クン。 ここの雨は都会の雨とは違う・・・・
濡れ続ければ身体の芯から冷えてしまうよ。
ウチの合羽は ― ワシが開発したモノで JAXAさんからも
注文がきたんだ。 体温保持、軽い、濡れない の三拍子そろっておる。
在庫はたくさんある、避難するヒト達の分ももっていってくれ。 」
「 はい! さすがですねえ・・・ 沼本博士 ・・・
村長さんならでは の気配りですねえ 」
「 それより 君達、くれぐれも気をつけておくれ。 」
「「 はい。 ではみなさんをこちらのお屋敷にご案内します 」」
「 うむ。 連絡は密にいれてくださいや。 」
「「 了解。 では出発します 」」
若者たちは 颯爽と出かけていった。
「 なんと ・・・ 君が羨ましいのう ギルモア君。
頼もしい息子君と娘さんじゃないか 」
「 ・・・ ああ ワシには勿体ない二人じゃよ。
さ! 我らは現状の分析と情報を彼らに送らねばならんよ 」
「 そうじゃった ! おお 住民全員に避難要請の知らせが届いたようだよ。
・・・ うん 全員 確認 の返信をよこしたよ 」
沼本氏は モニターをチェックしつつ 明るい声をあげた。
「 ほう・・・ 住民全員に情報伝達媒体を持ってもらっておるのかい 」
「 ああ。 災害の時は必ず身につけてほしい、と頼んでいる。
ただ なあ・・・ 大きさが・・・
もっとコンパクトで操作も簡単にできんか と思っているんだ 」
「 そういうコトは ワシに任せろ。
なに、ここにいる間に改良品を作りあげてみせるさ 」
「 お〜〜 頼もしいなあ 君の専門分野というわけか 」
「 まあ な。 この雨じゃ 今夜は皆、この邸でそれぞれの
思いやら 仕事に耽るのもよかろうて。 」
「 なるほど〜〜 ま ここは高台だし、鉄砲水の道筋からも
外れておるからな。 住民たちも安心してくれるじゃろ 」
「 しかし よく降るなあ ・・・ 」
ザ ―――――――― 雨脚は時間と共に激しくなっていった。
ヴァ 〜〜〜〜〜 水が窓より高く跳ね上がる。
ジョーはハンドルを握りつつ 眉を寄せた。
「 ・・・ 水中専用に切り替えた方がいいかな 」
フランソワーズはじっと目を凝らす。
「 う〜〜ん と ・・・あ まだ普通車で大丈夫だと思うわ。 」
「 そうか。 ありがとう! それじゃ ・・・ え〜〜と
避難誘導の開始だな。 一番遠い家はどこだい。 」
「 え・・・っと。 ー あ GPSの情報を直接脳波通信で送るわ。 」
「 サンキュ。 〜〜〜〜 了解。 それじゃ! 」
「 はい。 」
バシャ ・・・ ! ジョーはハンドルを切って農道を進んでいった。
「 村長さんの使いできました〜〜 沼本館に避難してください〜〜 」
「 お荷物もどうぞ! わたし達が運びます 」
二人は点在する民家を 回ってゆく。
「 村長さんから? 助かるよ ありがとう〜〜 」
「 え これももってくれるのかい? ・・・ ありがとうね 」
「 ・・・ワシは脚が ・・・ え? おぶってくれるって? 」
「 このコは わしらの子供同然で置いては・・・ え? 勿論一緒にって? 」
「 キュゥ〜〜〜ン ワ ワンッ ! 」
「 こ こら ハナ。 大人しくせい 」
「 ・・・ キュウン ・・・ 」
「 すまんです、ずっと一緒に暮らしてきて ・・・ なあ ミケや 」
「 にゃあ〜〜ん 」
「 かまわんですか! ああ ああ ありがたい・・ ミケやミケや〜 」
沼本館から一番遠くにある民家を皮切りに ジョーとフランソワーズの
避難誘導は続けていった。
幸いどの家も まだ床上浸水には至っていなかった。
しかし 床下には濁流が迫り、先行きは楽観できない。
「 急ごう! 」
「 そうね。 皆さ〜〜ん ご気分の悪い方 遠慮なくおっしゃってください
怪我をなさった方 いらっしゃいませんか? 」
年配者ばかりなので 二人は彼らの手を引き肩を貸し、
時にはおんぶをして車に移ってもらった。
避難用の荷物も出来る限りあずかり車に詰め込んだ。
特殊改造した四駆には密封できる大きなトランクが
ちゃんと装備されているのだ。
人々に定員一杯乗ってもらい、荷物もぎっちり。
そして ― ジョーの足元には大事なペットのワンコが座り
フランソワーズの膝には 可愛がられているにゃんこが四匹 抱かれている。
「 はい〜〜〜 沼本館に出発しま〜〜す 」
「 お兄さん ・・・ ヤマダさんとこが まだ避難してない・・・・ 」
「 ハヤシさんちも ・・・ 」
「 はい。 館にみなさんをご案内してすぐに取ってかえします。
村の方 全員避難していただけます。 沼本さんがお待ちですよ 」
「 そうか そうか ・・・ああ さすがに代々の名主さんじゃ 」
「 今は村長さんじゃがね〜〜 」
「 あ そうじゃったなあ 」
「 スズキのじいちゃん、あんた いつまでも明治時代じゃね 」
「 失礼な! ワシは立派に 昭和生まれじゃ! 」
「 ははは〜〜〜 ここにおるのは み〜〜〜んな昭和生まれじゃがな 」
「 ちがいね〜〜 明治生まれは墓の下 さ 」
車内には 軽い笑いも聞かれるくらいになっていった。
結局 三往復し 地域の人々を全員 沼本館に避難してもらうことができた。
「 みなさん どうぞ この二階を使ってください。
個室じゃなくて申し訳ないのですが 広い部屋三つ、お使いください。
間仕切りはすぐに用意しますから 」
館につけば フランソワーズが人々を誘導した。
「 お姉さん いいよ いいよ。 わしら 一緒の方が安心だ 」
「 そうだよぉ〜〜 ず〜〜っと隣近所で一緒に生きてきたで・・・・
こんな広い部屋を使わせてくれるのかい・・・ 」
「 すまんですなあ〜〜 ありがたい ありがたい 」
住民たちは荷物を置き 畳の部屋で脚をのばしほっとした表情だ。
「 濡れたものはこちらに ・・・ はい 洗濯機も乾燥機もあります。
あ すぐにお食事も用意しますから 」
「 お姉さん ゆっくりでいいから・・・ 」
「 そうだよう〜〜 外国のヒトなのに日本語も上手だし気も利くねえ〜〜 」
「 キレイなおひとじゃなあ〜〜 」
「 え? あのお兄さんの許婚? そりゃ〜〜 いいワ
お似合いだよ〜〜う 」
「 いいねえ〜〜〜 いいねえ 」
「 兄さん アンタ 果報ものだねえ〜〜 」
みんなに温かく声をかけてもらい ジョーは真っ赤になりつつも嬉しそうだ。
「 あ あら・・・ ありがとうございます ・・・ うふふ・・
あ 猫ちゃんには この毛布を。 ワンちゃん、このタオルどうぞ 」
フランソワ―ズも頬を染めつつも 人々の間を走り回る。
「 皆さん〜〜 ご無事でなにより 」
「 おお〜 村長さん〜〜 」
「 村長さん すまんですなあ 」
夕飯を一緒に運びつつ 沼本氏は住民たちに挨拶をして行く。
「 ちょいと窮屈かもしれんが ・・・ 今晩はここですごしてくだされ。
必要なもの、なんでも言ってもらって 」
「 村長さん ・・・ ほんにありがとさんで 」
「 ここは安全です、安心して過ごしてください。
ああ 皆さんの家も床上浸水にはなっておらんのでご安心を 」
おお〜〜 と安堵のため息があがる。
「 それではなにもないですが・・・温かい味噌汁で晩飯にしてくだされや 」
「 こちらにはご飯と煮物があります、どうぞ 」
「 さあ 今お配りしますよ〜 」
「 お嬢さん そのくらい 私らばあちゃんにやらせておくれ。
あんた ず〜〜〜っと動きづめじゃないか 」
「 そうだよ。 兄ちゃんも少し休みなよ 」
一息つくと 人々はごく自然に自分たちで動きはじめた。
人々はいつの間にか 一室に集まってきて一緒に夕餉を取っている。
「 あ お部屋ごとに準備しますよ? 」
「 窮屈じゃないですかな 」
「 あ〜〜 村長さん、 お嬢さん。 わしら ・・・一緒の方がいいんで
安心じゃし なあ? 」
「 そうそう! ・・・ あ〜〜 あったけ〜〜〜 うめ〜〜〜な〜 」
「 ・・・ ああ 本当に ・・・ 」
皆 湯気の上る夕食を囲み ほっとした表情だ。
「 わんちゃん や 猫さんたち ・・・ ドッグ・フードや キャット・フード
ありますよ〜 」
「 ありがとう! うん 非常持ち出しに猫メシもちゃんと入れてきたけど
足りないかなあ〜って心配してたんだ 」
「 どうぞ どうぞ〜〜 」
食事が終わり、 部屋は和やかな雰囲気になってきた。
しかし まだ雨は降り続いているのだ・・・
「 ― やはり 祭をせにゃ あかん
」
古老の一人が ぽつん、と言った。
「 祭り だって? 」
「 そうだ。 龍神様の祭 だ 」
「 んだな。 ・・・ この雨は 大地の怒りが招いたんじゃ 」
「 ・・・ もう何年 ・・・ 放っておいてしまったか・・・ 」
「 仕方なかんべ ・・・ ヒトもおらんし 」
「 なあ。 この雨が上がったら ― 祭 やろうじゃねえか 」
「 ・・・ そう だな。 これだけでも いればできるし 」
話はだんだんと熱を帯びてきた。
「 祭には ― ほれ あれが必要だろ? 奉納の舞 がさ 」
「 あ ・・・ そうだなあ 〜 」
古老の一人が フランソワーズをじっと見つめた。
「 ワシ 若い頃に 剣の舞 をみとったよ。 今でもしっかり覚えとる。
お嬢さん 教えるけ、舞っておくれ 」
「 え? わ わたし ですか???
あの ・・・ 日本の踊りは やったこと、ないんです。 」
「 大丈夫。 あんた 姿勢いいし、なにより動きが滑らかだ。
踊れるよ 」
「 え・・・ 」
「 ワシ 教えたるで ・・・ 覚えておくれでないか 」
「 わたし この村の出身ではありません。
それどころか 違う国から来た者なんですよ 」
老婆が にんまり笑って口を挟む。
「 それがどうしたね? 奉納の舞はね ソトから来た長い髪の乙女 が
舞うことに決まっているのさ 」
「 そうそう ぴったりじゃないか 」
「 え ・・・ 」
なんだか もう 祭の開催に続き剣の舞の奉納は 決定 になってしまった。
「 安心せいや 大昔みたいに生贄になんぞしやせん。 」
「 当たり前じゃあ〜 いやあ〜〜 綺麗な髪じゃねえ 」
「 ウチにね! 乙女の舞の装束、あるはずなんだよ〜〜〜
納戸の奥に ・・・ 浸水せんかったら 」
「 大丈夫ですよ。 必要なら ぼく、これから取ってきますから 」
ジョーは 話の頃合いを見て 座を立った。
村のヒト達は 和やかにのんびり〜 おしゃべりを続けている。
「 ・・・ ジョー。 どこに行くの 」
すぐにフランソワーズが追ってきた。
「 あ うん。 雨が気になるから見回りしてくる。 」
「 え? だって豪雨 ・・・ 」
「 豪雨だから さ。 沼本博士の研究を生かして この地を護らなければ 」
「 そうね。 この邸は無事でも村が ・・・ 」
「 ウン。 ・・・ ぼくが護るから。 」
「 はい? 」
「 あは なんでもないよ〜〜 ちょっと準備してくる。
皆さんと それから・・・ 動物たちを頼む 」
「 はい。 」
彼は静かに滞在している部屋に向かった。
生贄 ・・・・ なんて そんなこの現代にあるわけないし。
でも なにがあっても フランは ぼくが護る!
ジョーは 防護服に身を固めると そっと闇夜に消えた。
「 ジョー ! 気をつけて・・・ 」
「 大丈夫。 山崩れと鉄砲水は防がないと 」
「 でも ・・・ 」
「 おいおい ぼくを誰だと思っているのかい? 009 だぜ 」
「 でも ひとりでは ・・・ 」
「 おっほん。 ワシを忘れてくれちゃ 困るな 」
博士が 咳払いしつつ出てきた。
「 博士〜〜 」
「 ふふふ ・・・ 沼本クンのクルマをちょいと弄らせてもらった。
あれに乗ってゆけ。 重機並の働きをするぞ 」
「 ありがとうございます 博士! 」
「 うむ。 行ってこい 009。 きみの能力 ( ちから ) を
存分に発揮せよ 」
「 はいっ! じゃ 003 後を頼む 」
「 了解! 舘と住民の安全は 003に任せて 」
二人は がっちりと手を握りあった。
そして ―
避難しているヒトたちも 寝静まった頃 ・・・
フランソワーズは館の見回りをしていた。
廊下の窓からじっと闇夜に目をこらす。
― すると ・・・
激しい雨脚の中 なにかが見えた。
「 ・・・ あ ・・・?
え あれは ?? 」
雨の夜空で 白い龍と黒髪の乙女が戯れていた。
フランソワーズは 思わず窓を開けてしまった。
「 ! あ あなた達は ・・・ ? 」
「 ふふ ・・・ 私 この池の龍神さまに恋をして
こうして ずっと一緒に居るものです。
ええ 最初に 剣の舞を踊ったのは私ですわ。 」
「 ・・・ あなたは 生贄になった乙女 なのですか? 」
「 生贄? とんでもない。 私は龍神様の腕に飛び込んだだけ・・・
ええ ず〜〜〜〜っと幸せです。
はい 今まで 舞いを舞った乙女 は 皆 逃がしてあげています。
」
「 え そうなのですか? 」
「 ええ。 うふふ・・・ 皆さん 恋人さんが助けに来てくれてましたし・・・
どなたも幸せになりました 」
「 そうなですか ・・・・ 貴女も幸せなのですね? 」
「 はい。 ただ ・・・ 淋しくて 皆と会える祭がないと・・・ 」
「 ・・・ あ 」
「 池を どうぞ潰さないでください ・・・ この地は 私達が
きっと護りますから 」
お願いします あなた、長い髪の異国の乙女さん
龍と乙女は悠々と雨の空に消えて行った。
「 はい・・・ ! きっと。 」
フランソワーズは 降りしきる雨にむかい約束をした。
翌日は からり、と晴れ上がり紺碧の空が広がった。
鉄砲水はなかった。
いや 実際に土砂崩れによる洪水はあったのだが ・・・
あの池が 全てを呑みこんでくれたのだ。
そして これは知る人はないのだが。
洪水の道筋を池へと変えたのは 赤い服を纏った若者だった。
「 祭 やらにゃならん。 祭やって池の龍神様に 御礼せにゃならん! 」
住民たちは奮い立った。
三日後 ― 村を上げての大祭となった。
祭だ 祭だあ〜〜〜〜〜 ドンドンドン〜〜〜
奉納の舞があるよ〜〜〜 ぴ ぴ ぴ〜〜ひゃらら〜〜〜
年老いた親たちを心配して 都会から家族たちも駆け付けてきた。
そして
「 今 着きましたで〜〜〜
ギルモアせんせのお友達の一大事、やて!
ワテの料理 ふるまいまっせ〜〜〜〜 」
食材を山ほど積んで 大人とグレートがトラックを転がしてきた。
「 おお〜〜〜〜 これはありがとう! 」
「 村長はん? よろしゅう〜〜〜
さあ 皆さん ご一緒に おいしいモン 頂きましょなあ〜〜 」
わあ〜〜〜〜 祭は一段と盛り上がる。
池の畔、仮設舞台で金髪の乙女が剣の舞を踊る。
― さら さら さらり。
水面からの風に 金の髪が揺れる。
その風には 秋の香が含まれていた。
ありがとう ありがとう ・・・ みなさん
晴れ上がった空に 龍と乙女が軽やかに戯れあってる。
うふ ・・・ 髪 ・・・ 切るわ
フランソワーズは ひとり、こころに決めていた。
*********************** Fin.
**************************
Last updated : 12,25,2018.
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**************** ひと言 ****************
やっと終わったです〜〜〜〜
クリスマスに 真逆の季節のハナシで
たいして甘くもなくて すいません〜〜〜 <m(__)m>