『  それでは! ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

    § フランソワーズ

 

 

  きゅ キシ・・・・

 

ポアントはなかなか足に馴染まない。

「  ・・・ ん〜〜〜 もう・・・いつもと同じサイズなのにぃ〜〜〜 」

フランソワーズはきゅっと唇を噛み ぐいぐい靴のカカトをひっぱった。

「 んん〜〜〜!  入ってよぉ〜〜〜  お願い! 」

  キシ ・・・  布の靴は持ち主に負けずに不機嫌な音を立て 動かない。

「 もう〜〜! でもね! 今日はどうしてもキミを使いたいのっ

 だから〜〜〜〜 入って!   えいっ! 」

 

   キシ ・・・!     やっとカカトが入った。

 

「 はあ 〜〜〜 もう!  この季節はホントに ・・・! 」

キツめにリボンを締めあげると、 彼女はさっと立ち上がり足慣らしを始めた。

「 この国は大好きだけど ・・・・この季節だけは どうも ね・・・! 

 

  きゅ きゅ  きゅ・・・  

 

バーで足慣らしをすれば 布の靴はなんとか足の裏にも馴染んできた。

甲を押してゆけば 足の裏の革の部分がまた不愉快そうに鳴る。

「 ふうん ・・・ キミもこの季節 キライかあ・・・

 そうよねえ ・・・ 雨ばっかで服もクツもみ〜〜んな じとじと・・だものね  」

 ― でも!  ここは頑張らなくちゃ。 

 

彼女はぽん、と本日の相棒をなでると、センターに出ていった。

 

 

ず〜〜〜っと雨模様の日だ。  ざーざー降り・・・ではないのだが

朝からず〜〜〜〜っと ・・・ 細かい雨が空中に浮遊している。

かなり大きな傘をさしてみるのだが 雨粒は足元から巻き上がり・・・

結局 いつのまにかじっとり・・・全身が濡れてしまう。

「 あ〜あ・・・ レイン・コート着てきたのに〜〜〜 」

フランソワーズはぶつぶつ言いつつ バレエ団の玄関先で水滴を払う。

「 あ〜〜 おっはよ〜〜〜 早いね〜〜〜 」

ぽん、と肩を叩かれた。

「 あら みちよ〜〜 お早うございま〜す ねえ どうしても濡れちゃうわねえ・・・

「 え? ・・・ あ〜 この季節はね しょうがないよ。

 はは アタシなんかも〜 濡れてもいい服しか着てこないも〜ん 」

「 あ そう なの? 」

「 ウン。 そんでもってぱっぱと着替えた方がいいよ〜〜 」

「 ・・・ そうねえ ・・・ そうなのねえ ・・・ 」

「 そ。 荷物はますます増えるけどさ 」

Tシャツにジーンズで 大きな目をくるり〜〜とまわしみちよは笑った。

「 わたしもそうするわ!  これはもう暑いわ〜〜〜 」

 バサ・・・!  彼女はレインコ―トを脱ぐと大きく振った。

「 あ〜〜 うん それがいいよ。  湿気 すごいからね〜〜〜

 ポアントもさ〜〜〜 買い置きしておくと黴とか生えるよ 」

「 え ・・・ かび・・・? 」

「 そ。 セールとかで買いだめしてさ〜〜押し入れとかに保管しとくじゃん?

 梅雨を通るとさ な〜〜んかびみょ〜〜な固さになっちゃって・・・

 靴の裏、ほら 革じゃん? あそこに黴 生えたりするよ 」

「 うそ・・・  乾燥剤 ・・・ 入れるわ! 」

「 そ〜 そ〜 それいいよ〜〜〜ほら おせんべいの袋なんかに入ってるヤツ 」

「 そっか〜 捨てないで使うわ〜 

二人はおしゃべりしつつ更衣室に入っていった。

 

 ― ここは都心近くにある中堅どころのバレエ・スタジオ。

若い頃から欧州に留学しずっと活躍していた初老の女性が主宰している。

規模は決して大きくないが 実績ではかなり有名で優秀なダンサーを数多く輩出している。

フランソワーズは縁あって ここで再び踊りの世界へと足を踏み入れた。

 

    !  ああ ・・・!  

    また 踊れる なんて ・・・!

    本当に夢みたい!  

 

    ああ ああ またポアントを履けるなんて ・・・!

    これは現実なの? わたし・・・ 夢を見ているのじゃない??

 

    ―  感謝します!  すべてのことに ・・・!

 

本当に涙を流しつつ ― 嬉し涙 やら 悔し涙 やら いろいろだけど ―

彼女は毎日 遠路はるばる朝のレッスンを受けに通っているのだ。

 

「 はい お疲れ様 〜〜〜 」

二時間近くのレッスンは 全員のレヴェランスと拍手で終わった。

「 え〜〜っと?  リハはBスタね〜〜 12時から。 最後の、三幕の総踊り、

 固めるから 全員いてね  じゃ ・・・ 

てきぱきと指示をだすと マダム と団員たちから呼ばれている主宰者の女性は

さっさとスタジオからでていった。

 

「 ・・・ ふう ・・・ あ〜〜〜 ダメだわあ ・・・・ 」

「 あ〜〜〜 ・・・ つっかれたァ〜〜 そんでもって お腹減ったあ〜〜〜 」

後ろの方にいた二人、フランソワーズとみちよは クス・・っと笑って

顔を見合わせた。

「 うふ・・・ そうおどり って・・・ フィナーレのところのこと? 」

フランソワーズはタオルに顔を埋めつつ尋ねた。

「 そ。 全員上がってわちゃわちゃやるでしょ、 あそこ。 」

「 わちゃ わちゃ?  あは そうねえ・・・ マズルカ・ステップで 

「 そ〜そ〜 ・・・ でもさ〜 あの人数で合わせるの、大変だよねぇ 

「 そうね ・・・ 『 眠り〜  』 は大変よね 」

「 ま〜ね〜・・・ ウチはあんまし全幕ものとかやらないんだけどぉ〜〜

 なんかさ〜 記念行事らしいよ? 協会がらみだからマダムも張り切ってるみたい 

「 そうなの ・・・ じゃ コールドのわたし達にもキビシイのね 」

「 そ。 後ろの方〜〜にゴソゴソいるわけだけど ・・・

 結構目立つしね〜〜〜  

「 そうねえ ・・・ あ 準備しましょ? 皆 移動してるわ

「 ウン。 あ〜〜 お腹減ったぁ〜〜〜〜 」

凸凹コンビは クスクス笑いつつ先輩たちの後と追った。

 

 

  『 眠りの森の美女  全幕  』

 

 全員出演。 日程の調整必須! スケジュールは別紙参照のこと

 

そんな < お知らせ > が掲示されたのはほぼ二月前・・・

「 え!  なに〜〜  うそ〜〜〜 

「 げ。 やべ〜〜〜 もうちょっち早くいってくれよ〜〜〜 」

「 ・・・ やっぱりね〜 でも今からだと キツいねえ 」

団員たちは掲示板の前で ワイワイ ぶつくさ アレコレ 騒いでいたが

ともかく公演に向かって全員で出発〜〜〜 ということになった。

 

「 すご〜〜いわねえ ・・・ 」

フランソワーズは仲間たちの後ろから少しぼ〜〜っとして見ていた。

「 フランソワーズ?  全員参加 だよ? 全員。 わかってる?? 」

「 え ? 」

つんつん ・・・仲良しのみちよが 突っついた。

「 皆ってことでしょう?  『 眠り 〜  』 は人数いるものね 

「 あのね。 その < 皆 > に フランソワーズだって入ってるってこと!

 大丈夫??? 」

「 え!!!  わ わたしも ??? 」

「 そ。 ほら〜〜〜 キャスト表とスケジュール表 しっかりチェックしておかないと

 ダメだよ〜〜〜  」

「 ・・・・ う そ ・・・ 」

「 ウソじゃないよ〜〜 ジュニア以外、 いや ジュニアだって上級の子は

 何人か参加してるな〜〜  

「 え ・・・ え〜〜〜〜 うっそ〜〜 」

「 ほらほら〜〜 ちゃんとスケジュール写していきなよ 」

「 う うん ・・・ えっと ・・・? うわ〜〜 たいへ〜〜ん ・・・

 

ってことで。  フランソワーズもその騒ぎに巻き込まれ ―  次の週以来

レッスンの後にはリハーサルが始まったのだ。

 

 

 

「 ・・・ あのう ・・・ 博士。 ご相談が 」

「 おお お帰り。  うん? どうしたね?? 」

その日 帰宅すると彼女は少々もじもじしつつ言いだした。

「 あの ・・ しばらく帰ってくるのが遅くなるのですが・・・ いいでしょうか。

 あ 勿論ちゃんと晩御飯は作りますから。 」

「 ?? なにかあったのかね 」

「 はい あのう ・・・ 」

「 お帰り〜〜〜 フラン〜〜〜  シトロン・プレッセ 作ってみたよ〜〜  

ジョーが にこにこ顔で玄関に出てきた。

「 ただいま ジョー  まあ うれしいわあ〜〜 」

「 えへへ・・・ 商店街の八百屋さんでさあ 国産レモン が沢山でてて・・・

 早速ためしたみたんだ。  ねえ ねえ 味見してよ 」

「 ええ 美味しそうね 」

「 ウン!   あれ・・・・ どうしたの。 なにかあったの? 」

「 え ・・・ええ 実は ― 」

「 まあ ともかく上がって・・ 荷物を置きなさい、フランソワーズ。  」

博士が のんびりと口を挟む。

「 あ そうだよ〜〜 ほら 買い物袋、かして。 ぼく 運ぶからさ 

「 ええ ありがとう 」

「 えっと?  食品は一応冷蔵庫だね〜〜 こっちは・・・あ 洗剤だね 」

「 ありがとう ジョ― 」

「 ど〜いたしまして・・・っと。 よっ! 」

彼は嬉々として買い物袋をキッチンへと運んでいった。

 

 

「 ごちそ〜〜さまでした♪ あ〜〜〜 美味しかったあ〜〜〜  

ジョーは箸をおくと、きちんと手を合わせた。

「 うふふ・・・・ よかった〜〜  ジョー、酢豚とか好きでしょう?

 あ ・・・ 大人みたいな味じゃなかったかも ・・・ 」

「 ぼく、フランの味が好きさ。 あ〜〜 これ ウチの味って思うもの 」

「 そうじゃなあ〜 本当に美味じゃったよ、フランソワーズ。

 料理の腕、上げたなあ 」

博士も 満足気な表情でのんびり食後のお茶を飲んでいる。

「 ありがとうございます。  ここっていいお野菜がいっぱいあるし・・・

 ちょこっと大人のマネして、調味料にも凝ってみました。 」

「 うむ うむ ・・・ これはフランソワーズの味じゃよ、うん。 

「 そうですよね〜〜 博士。 あ〜〜〜 シアワセ〜〜♪ 」

「 ありがと、ジョー。  フルーツ・ジェリー 作ってあるの。 

 今 出すからリビングで待ってて? 」

「 あ それじゃ ぼく ちゃちゃ・・・っと皿洗いしちゃうよ〜〜 」

ジョーは ぱっと立ち上がると空の皿小鉢を集めた。

「 ありがとう〜〜〜 嬉しいわ   じゃあ わたしはジェリーの用意をするわね。 」

「 リビングは片しておくよ。 任せなさい。 」

皆がてんでに協力し食後も楽しいデザートタイムになった。

 

  カチャ カチャ ・・・ カチン。

 

フルーツいっぱのジェリ― を フランソワーズは上手に切り分けた。

「 はい どうぞ。 このフルーツもね、海岸通りの八百屋さんで買ったのよ 」

「 わ〜〜〜 オレンジと梨かな あ こっちはメロン??? すっげ〜 

「 そうなの、地元のメロン ですって。 あとバナナも入れたわ。 」

「 わ〜〜〜 いっただっきま〜〜す♪ 」

「 いただきます、 おお 色合いも美しいのう  

見た目も涼し気なジェリー、 ちょっぴりリキュールが使ってあるので

なかなかオトナの味になっている。

「 ふむ ふむ  これもオイシイなあ ・・・ 

 あ そうじゃ なにやら話があったのではないかな? 」

「 話って なに、フラン。 あ  ぼくが聞いてもいい? 」

「 え ええ ・・・ あの ・・・実は ・・・

 しばらく帰るのが遅くなってしまうので ・・・ あのう・・・ 」

「 それはちっとも構わんがね。 なにか用事があるのかい。 」

「 はい。 実は ― 」

フランソワーズはコトの顛末を < 家族 > に打ち明けた。

「 ほう〜〜〜 そんな大掛かりな公演があるのかい。 」

「 すご〜〜〜 フラン、大きな舞台に立つだね〜〜〜 会場はどこ?

 え わ〜〜〜 新国立劇場かあ〜〜〜 すげ〜〜 」

二人とも 大いに喜び、応援する! と言ってくれた。

 「 あのう ・・・ それで 晩ご飯が遅くなってしまうので ・・・ 

 ご迷惑をおかけしますけど ・・・ ちゃんと作りますから 」

「 おお そんな気づかいは無用じゃよ。

 ゆっくり練習しておいで。 ウチのことは心配せんでいい。 」

「 うん。  夕飯はね ぼくがつくる。 任せてくれ。 」

ジョーが 余裕〜〜な笑顔で どん、と胸を叩いてみせた。

「 え・・・・!  ジョー・・・大丈夫?? 」

「 あ〜〜〜 大丈夫って酷いなあ〜〜 ぼくだって料理できるよ 」

「 あ そ そうね・・・ レトルト食品とか チン!シリーズみたいなの

 たくさん買っておくわ。 」

「 その心配はいらない。 ぼく バイトは早く終わるから買い出しから

 ぼくがやる。 きみはね〜〜 きっちり練習していい舞台をめざせよ。 」

「 ジョー ・・・ ! 」

「 わしもな、 ジョーに協力するよ。 フランソワーズ、 今は舞台のことだけ

 考えなさい。 当日は皆で観に行くぞ。 

「 うんうん!  張大人もさそってさ〜〜〜  ね! 」

「 ・・・ 博士 ・・・ ジョー ・・・・! 」

「 あれぇ〜〜 やだなあ 泣くなってば。 家族で協力するのって当然だろ? 」

「 そうじゃよ。  夢への第一歩 じゃな。 」

「 は はい ・・・! 」

フランソワーズは目尻の涙を払い でも やっぱりぽとぽと・・・テーブルに

大粒の涙を落としてしまった。

 

    皆に迷惑かけるんだもの ・・・ 頑張らなくちゃ ・・・!

 

「 それではなあ フランソワーズの健闘を祈って ・・・ ブランディで前祝いじゃ 」

デザートを食べ終わると 博士は棚から酒瓶とグラスを出してきた。

「 わぁお〜〜〜 」

「 あら・・・ 嬉しい♪ 

「 そうじゃ ジョーの健闘も祈らんと・・・ な ジョー? 

「 えへへへ・・・・ 期待しててください。 フラン、帰ってくれば

 できたてのゴハンがまってるよぉ〜〜 

「 ・・・ ありがとう ジョー ありがとうございます 博士〜〜 」

「 なんの なんの  では ― 皆の健闘を祈って〜〜  」

  ティン ・・・ 磨き上げたグラスが澄んだ音をたてた。 

 

 翌日から フランソワーズの挑戦が始まった。

 

 

 

 

   § 張々湖 & ジョー

 

 

 

 トン トン トン ・・・ トン ・・・

 

かなり軽快な音がキッチンに響く。  包丁さばきは 決してマズイわけではない。

「 〜〜〜ん っと。 ニンジンに〜〜 ハスだろ? ジャガイモもいれる〜〜っと。

 野菜はこれでいいかなあ ・・・ え〜と  あ! そうだ そうだ ゴボウ! 

ジョーはぶつぶついいつつ 包丁と格闘している。

まな板の上にはかなりすっきりと切り分けた野菜たちが積まれている。

 「 えっと ・・・ 皮はぁ〜〜 こそげ落として ・・・ これでいっか・・・

 そんでもって ナナメに・・・だったよなあ〜〜 」

コト コト コト ・・・ ちょいと苦戦したけど根菜類は切り分けた。

「 こんにゃく おっけ〜〜  鶏肉は  ・・・ うん、下味、滲みてるよな〜 

 そんでもってぇ〜〜〜 あ〜〜っと鍋 鍋 鍋〜〜〜 最初にさっと炒めて・・っと 」

キッチンの中を右に左にうろうろしつつ ― なんとか 鍋はガス台の上で

ぐつぐつ いい音を立て始めた。

 

「 ふう〜〜〜 えっと ここから火は・・・ 細めに、だったよな〜〜〜 」

火加減を調節、 そっと鍋の蓋を持ち上げ中を覗きこむ。

「 ・・・ん〜〜〜 なんかいい感じ〜〜〜 えへへ ・・・あとは気長に煮込む〜〜っと

 よおし ・・・ あとは 何にしよっかなあ・・・ スープ、じゃないなあ

 味噌汁 でも作ろっかな〜〜 」

冷蔵庫を開けた時 ―

 

   ぴんぽ〜〜〜ん   ―  玄関のチャイムが鳴った。

 

「 ?  あ  は〜〜〜い 今 でますぅ〜〜〜〜〜 」

チラ・・・っとガス台を見て さらに火を弱くすると ジョーは玄関に飛んでいった。

 

 

外は相変わらず細かい雨が落ちていた。

 ケロロ〜〜〜  裏庭の池でカエルが一声 鳴いている。

 

「 わお〜〜 張大人〜〜〜 いらっしゃい〜〜 」

「 はい コンニチワ。 ほっほ〜〜 ジョーはん〜〜お邪魔しまっせぇ〜〜 」

ドアの外には 福々しい顔が満面の笑みを湛えていた。

「 さ はいって 入って〜〜 今 美味しいお茶、淹れるからさあ 」

「 おおきに〜〜〜  今日はなあ〜〜 差し入れに来たんやでぇ 」  

「 差し入れ? 」

「 はいナ。 フランソワーズはんがお留守や〜 て聞いてなア〜〜

 ほんならワテも手伝いせんとな〜 思て 

  ほい。 大人は大きな包みを差し出した。

「 ?? 

「 お土産でっせ〜〜〜 食材や。  キッチン、使こうてええでっか? 」

「 わ〜〜〜 どぞ!  博士〜〜〜 大人が来てくれましたよぉ〜〜〜 」

「 やあやあ〜〜 いらっしゃい 」

博士も満面の笑みで顔をだした。

「 博士〜〜 大人が 料理の差し入れ だそうです〜〜 」

「 おお〜〜 それはそれは ・・・ ふふふ  ジョーの腕前もなかなかじゃよ。

 チョイとみてやっておくれ。 」

「 はいナ〜〜〜 」

「 そ。 味見してくれる? お願いシマス〜〜〜 

キッチンは一気に賑やかになった。

 

「 ほんなら ジョーはんのお作 拝見しまっせ 」

大人は きちんと会釈してからキッチンに入った。

「 さあさあ ・・・ えへへ 細〜〜〜火にしといたから多分・・ 」

ジョーはぱたぱたガス台に駆け寄った。

 

   ふわ〜〜〜ん  ・・・ 鍋の蓋をあげると良い匂いが湧きたった。

 

「 え〜〜と・・・? ああ 大丈夫だな・・・ ほら これなんだけど。 」

ジョーは鍋の中身を慎重にチェックして 大人に披露した。

「 ふんふん〜〜 ええ匂いやなあ〜〜〜 煮物さんでっか 」

「 ウン。 筑前煮 のつもり。 かなり自己流なんだけど ・・・ あ 味見もして?   どぞ! 」

大人は ジョーが差し出した小皿を受け取り煮物を口に含んだ。 

「 ・・・  ど  どう?? 」

「 ・・・ ん 〜〜〜  お出汁も頂いてええでっか 

「 どぞ! 」

「 ん〜〜  ほっほ〜〜〜 ジョーはん、やるやないか〜〜〜 このお国の煮物はなあ

 なかなか奥が深うおまっせ〜〜〜 」

「 え へ・・・ なんかフランの作るの、見てて・・・   どうかな〜

「 ほ〜〜う・・・  ふん ・・・ こりゃ ジョーはんのお味 やな。 」

「 そ そう??? 」

「 はいナ。 フランソワーズはんの味とも違てる。 ええお味や 」

「 わ・・・ な なんかものすごく嬉しいなあ〜 」

「 ほっほ〜〜〜 ほんなら ワテは箸休めの冷菜やら 軽い炒め物、つくりまっせ〜 」

ほい ほい ・・・ と 大人は 瑞々しいキュウリやらトマト、ピーマンなどを

取りだした。

「 うわ〜〜〜 キレイだねえ  特にこのキュウリ! どこの? 」

「 ほっほ〜〜〜 これナ 登米産、いうてな〜 ちょいと < 掘りだしモノ > なんやで。  

ま〜ずはちょいと齧ってみなはれ 

「 はい。 頂きま〜す ・・・  ( ぽり しゃき しゃき しゃき ) 

 んま〜〜〜〜〜〜!!!  キュウリの味 ばっちり〜〜〜 」

「 ほっほ〜〜 ジョーはん あんさん エエ舌 もってはるなあ 」

「 そ そう? でもこれ ホント美味しいよぉ〜〜〜  なんもつけなくてもオイシイ!

 あ そだ! 味噌があるんだ アレ塗ってみる 」

「 ほ? ジョーはんやったら まよね〜ず やないんか 」

「 えへ ・・ フランソワーズがさあ マヨネーズどば〜とかイヤがるんだよねえ・・・

 ちゃんと食べてみてからマヨネーズかけて ってさ。 」

「 ほう? で 味噌でっか。 」

「 ウン。 味噌ってさ〜〜 ドレッシングにもなるよね ・・・え〜〜と これでいっか。 

頂きマス〜〜〜 (  こりぽり しゃき しゃき しゃき )  

 うっわ・・・ 激ウマ〜〜〜〜〜 最高だよぉ〜〜〜 」

「 ほっほ〜〜〜 ほんなら このキュウリさん使うて箸休めの酢のモノにしまっせ。

 それから トマトとピーマンと牛肉で熱々〜〜作りまっせ。  」

「 わあ〜〜〜〜 今晩は大ご馳走だあ〜〜〜  」

「 ジョーはん? あんさんの筑前煮がメインでっせ?

 最後まで手ぇ ぬかんとしっかり作ってやあ〜〜 」

「 は はい! 

「 時に フランソワーズはんのお帰りは?  お忙し、や伺うたで。 

「 うん あのね 公演のリハーサルなんだ。 晩ご飯の前までにはちゃんと

 帰ってくるよ。 

「 公演?  そりゃ〜〜ええなあ〜〜 いつでんねん?  皆で行きほ! 

「 あ チラシ あとで渡すね 」

「 ほっほ〜〜〜 ワテの店にも置かせてもらいまっせ〜〜〜  

「 わ〜〜 フラン 喜ぶよ〜〜〜 」

「 ほんなら フランソワーズはんのお顔を見てから炒め物、火ぃいれまひょ 」

「 楽しみ〜〜〜♪ 

「 ジョーはんのお料理も楽しみでっせ〜〜 」

「 あは ・・・ そっかな。 あ! 炊飯器 セットしとかなくちゃ! 」

ジョーはあわててお米の量を計り始めた。

「 張大人  ジョーの腕前、なかなかじゃろ?  」 

博士もキッチンに顔をだした。

「 ギルモア先生〜〜 いやあ〜〜 お上手でっせ。 今晩はおご馳走でんな 」

「 そうじゃなあ ・・・ うん、食後のコーヒーはワシが淹れるよ。

 先日 アルベルトにしっかりならったのでな 」

「 そら楽しみでんなあ〜〜   外は雨で鬱陶しけど、このオウチはいつでん、

 あったか〜 でんな 」

「 大人、ありがとう! 店 忙しいじゃろうに ・・・ 」

「 大事あらしまへんで〜〜〜 先生。  このオウチの方が大切ですよって 

 さ ジョーはん 気ぃぬかんで〜 仕上げしなはれや 」

「 ウン ・・・ あとは そうだ、浅漬け、出すね。 」

「 ほっほ〜〜 浅漬け! ほんなら次はこのキュウリ、つこうてや〜〜〜 」

「 うん! ありがとう〜〜  美味しいぜぇ〜〜〜 きっと! 」

「 せやな〜〜 

「 わあ〜い 晩ご飯 楽しみだあ〜 」

ジョーは幼い少年みたいに にこにこ・・・とんとん足踏みをした。

 

  外はしとしと ・・・ でも キッチンには期待の笑顔でいっぱい。

 

 

 

 

   § フランソワーズ、  そして  皆!

 

 

 トン トン ・・・ フランソワーズは形ばかりのノックした。

事務室のドアは半分以上開いていたし、見かけない人物がなにやら話込んでたから。

「 ・・・ あ あの〜〜 カギ 返します〜〜 

彼女は遠慮がちに小声でいうと 机の上にキイを置いた。

「 まあ そうなの? へえ〜〜〜〜 

「 面白いですねえ ・・  あ  フランソワーズさん、お疲れ様 」

「 あ シツレイします〜〜 」

中では 主宰者のマダムと事務室の女性、そして ラフな恰好をした男性が談笑していた。

男性は ― その体型から < この業界 > のヒトではないことは、すぐにわかる。

どうやらどこかのTV局のヒトらしかった。

「 や。 お邪魔〜〜 お。 カワイイねえ〜〜〜 

「 こらこら ・・・ ウチの生徒にチョッカイださないで頂戴。 」

マダムがぴし!っとクギをさす。

「 へ〜い すんませんね〜 キミ〜〜 公演頑張って〜 」

「 またァ! 

「 は はあ ・・・ あ あの失礼します・・・ 」

フランソワーズはとっとと事務室から離れたが ― ある言葉が聞こえてきた。

 

  へえ 〜〜〜 あの穴に?

  そうなんスよ〜〜 ま これはマル秘ってヤツですけど〜

  ここで言ってもいいの、アンタ。

  へへ ・・・ センセイは口が堅いから〜〜

  も〜〜 調子いいわねぇ

  あの特番は私も見ましたわ。 南米のあの穴にねえ・・・

  

「 ?? ・・・ 穴? あ!

  聞いちゃお♪  だって 穴 って。 あの < 穴 > よね〜〜〜 」

フランソワーズは 靴を履きつつ < 耳 > を欹てた。

 

 

帰路も雨 ・・・ じとじと・べたべた〜に閉口しつつ帰宅すれば ―

「 ただいま帰りましたァ ・・・  わあ〜〜 良い匂い〜〜〜 」

「 あ お帰り〜〜〜 フランソワーズ〜〜 」

最高に美味しくて 楽しい晩御飯が彼女を待っていた。

 

 そして ― 食後のコーヒー・タイム ・・・

「 ねえ? わたし ・・・ 面白い話を聞いてきたの。 」

「 ?? 」

皆が フランソワーズの顔を見た。

 

 

 

 

  カタ。  彼はゆっくりとキーボードを叩く。

 

「 ふん ・・・? 」

ジェロニモ Jr.は巨躯をかがめモニターを覗きこんだ。

「 ジョーから か・・・ 珍しい・・・ おお フランソワーズの舞台、大盛況・・・

 それはよかった ・・・ 」

彼の顔にも 笑みが浮かんだ。

「 そして ―  ふう?   悪戯への誘い   ふむ・・・ あの穴 か。

 少し退屈していた  ・・・ そうだな ・・・ 仲間たちの顔を見にゆく   」

彼は苦笑しつつ 背筋を伸ばした。

 

「 おい。 オレを忘れてもらっちゃ困るぜ〜〜〜 」

 

「 ・・・??  ― ジェット。 」

振り向けば 長身の赤毛が立っていた。

「 オレもさ 知らせもらって。 飛んできた。 ― 行こうぜ 」

「 ああ。  しかし 相変わらず身軽だな オマエ ・・・ 」

「 ふん ・・・ 」

アメリカ在住組は 合流地点へと出発した。

 

 

   数日後 サイボーグ逹は  南米大陸・サリサリニャーマへ旅だっていった

 

      「  それでは !  いってきま〜〜す ! 」

 

 

*************************      Fin.    ***************************

Last updated : 08,30,2016.                back      /     index

 

 

************    ひと言   **************

で。  あの  穴の話 の 前夜風景?  でした〜〜(^_-)-

ポアントに黴〜〜 云々 は ホントの話ですにゃ。