『 それでは! ― (1) ― 』
§ ジョー
「 博士〜〜 ちょっと買い物 行ってきます〜〜〜 」
玄関でジョーが声を張り上げている。
「 おう ご苦労さん 悪いがついでにワシのパイプ・煙草を頼めるかのう 」
「 はい〜〜 あ でも下の煙草屋で売ってますかあ 」
「 ああ この前 あの店のご隠居から推薦してもらったものなのだよ。 」
「 あ そですか それじゃ〜 」
「 うむ うむ ・・・ ついでに頼んで悪いなあ この銘柄を頼む。 」
博士はメモを手に玄関に出てきた。
「 はい 了解です。
」
「 紙オムツの買い置きは十分だしミルクも・・・ まあ 今は夜の時間じゃから ・・・
お? 」
玄関へのドアを開け 博士は目を見張った。
ジョーが 買い物カートをひっぱり ― 背中にはすやすや眠っている赤ん坊。
「 ・・・ つれてゆくのかい。 眠っておるのじゃから置いていっても
」
「 ええ そうなんですけど ・・・ ぼくがイワンに助けてほしくて 」
「 助ける?? なにかあるのかい?? ・・・よからぬ予兆とか 」
「 え いいえ いいえ〜〜 そんなんじゃなくて・・・
あは そのう〜〜 イワンをおんぶしていると ・・・ そのう〜 いろいろ・・・
話しかけてくる人、減るかも〜って思って・・・・ 」
「 あ ・・・ あ〜〜 なるほどなあ ・・・ 一種の < 虫よけ > か 」
「 え ・・・ まあそんなトコです じゃ いってきます〜〜 」
「 ああ 頼むよ。 」
「 はい。 さ〜〜 それじゃ お出かけしような〜〜 イワン? 」
彼は背中の赤ん坊を 優しく揺すりあげるとカートをがらがらひっぱり
地元の商店街へと 家の前の坂道を降りていった。
「 ほ・・・ アイツも妙〜な苦労が多いのう・・・ 」
博士は ため息で見送った。
ここしばらく ― というかこの数週間、ギルモア邸のおさんどんはジョーが担当している。
「 博士 今晩のリクエスト なにかありますか? 」
午後になると 博士の書斎のドアが 叩かれる。
「 リクエスト とな??? 」
「 はい! 晩ご飯の〜 」
ジョーがにこにこ顔で立っている。
「 あ〜〜 ジョー? 無理せんでよいよ? ほれ この国では チン! ですむ
オイシイ食品がたくさんあるではないか。
ワシの改良したレンジなら 時間もほんの数秒、味は極上〜 じゃ 」
えっへん・・・ 博士は得意気だ。
「 ま〜 そうですけど・・・ ぼくだって一応! 料理、できますよ〜〜
地元の美味しい食材使って ちゃんと食事つくりますから なにか食べたいモノ
ありますか?? 」
「 そ そうかい・・・ あ いやあ〜 なんでも・・・この国は美味しいものばかりじゃ
ジョーの手料理を楽しみにしておるよ。 」
「 はい! それじゃさっそく買い物にいってきます〜〜 」
彼は 張り切って駅近くにある大きな食料品専門のスーパーに買い出しへと通い始めた。
ザワザワ わいわい ・・・
本日のお買い得〜〜〜 精肉売り場からのお知らせで〜 タイム・サービス!!!
スーパーは 相変わらず賑やかで多くの人と音!が満ちていた。
「 わ〜〜 すごいなあ・・・ え〜と? じゃがいも! 野菜売り場は ・・・ 」
彼はショッピング・カートを押してずんずん進んでゆく。
「 あった〜〜 えっと・・・? 」
野菜売り場、 ジャガイモのコーナーで吟味を始めた。
「 こっち・・ いや これかな ・・・ 」
「 あらあ〜〜 坊や? お使いなの、エライわねえ〜〜〜
あのね ジャガイモはこれがオイシイの。 これにしなさい、ね! 」
どん。 勝手にジャガイモの袋が彼のカートに入ってきた。
「 え・・・・? 」
「 うふふ〜〜 いいのよ いいのよ、おばさん、野菜には詳しいのよ〜〜 」
後ろにいた中年のご婦人は ぽん、と彼の背中を叩き去っていった。
「 ! なんなんだ・・・? これは・・・煮込みには向いてないんだ。
ちゃんと用途別に選ばなきゃだめなんだよ〜〜
アルベルトにしっかり仕込まれてるんだもんな〜 」
よいしょ・・・と ジャガイモの袋を交換する。
「 もう ・・・ よし あとは人参とキャベツだ。 えっと・・・?
おわ??? 」
どごん。 またまたキャベツが勝手に侵入してきた!
「 ・・・ 」
隣には < 妙齢 >の化粧の濃い顔が に〜〜んまりしている。
「 あ あの〜〜 これは ぼくのカゴで ・・・ 」
「 ええ あのね あたくし、キャベツにはちょっとウルサイのよ〜〜
これ! これが絶対にオイシイの。 それにね〜 すぐに剥けて使いやすいのね〜
食べてね〜〜〜 イケメンく〜〜ん♪
」
もわ〜〜ん ・・・ 強烈な香水の匂いが攻めてきた。
う ・・・! ち 窒息する・・・
た 体内の酸素ボンベ、使用〜〜 する か??
ほんの一瞬だが 本気で考えた!
「 あ あの・・・ 」
じ〜〜〜〜〜っと穴のあくほどジョーの顔を眺めると 化粧オバサンはまたまた
に〜〜んまり・・・して行ってしまった。
「 冗談じゃないよ〜〜 キャベツは巻きがしっかりしてるのがオイシイんだ!
ジェロニモ Jr にちゃ〜んと教わっているんだからあ〜〜 」
ぶつぶつ言いつつ彼はキャベツを交換、そして隣にあった人参をそそくさ〜〜と
カートに入れた。
「 あのぉ〜〜〜 」
「 ! ( もう〜〜〜 ) これが ぼくが好きなんですっ! 」
「 はい? 」
うんざりして振り向けば ― 白い三角巾の人が にっこり。
「 新発売の よ〜ぐると・ジャムです〜〜 ご試食 どうぞ〜〜〜〜 」
「 ・・・ あ ・・・ど ど〜も・・・ 」
「 はい あ〜〜ん♪ 」
「 え??? 」
ぽかん、と半開きにしていた口の中に やたら甘ったるいゲル状のものが突っ込まれて!
「 ( うぐ!!! ) ・・・・ 」
「 如何ですか〜〜 え? 美味しすぎてなんにも言えね〜って?? ま〜〜ウレシイ♪
こちらのお客様 ご推薦の よ〜ぐると・ジャム〜〜 新発売ですぅ 〜〜〜
新鮮お野菜に乗せれば 最高のドレッシングでぇすぅ〜〜〜
」
「 ・・・ う ・・・・ 」
ジョーは 目を白黒〜〜〜 そして涙目になりつつ なんとか口の中のモノを呑みこんだ。
「 ・・・ う・・・ げ・・・・ 甘すぎ〜〜〜〜〜 ああ 水 水 〜〜 」
カートをガラガラ押して 彼は野菜売り場から退散した。
「 な な なんなんだあ ・・・・ もう〜〜〜 放っておいてくれよぉ〜〜 」
彼はカートを隅に寄せ テイッシュで必死に口元をぬぐった。
ねえ ・・・ あのコ♪ かっわいい〜〜〜
うふふ〜〜〜 独り暮らしかなあ〜〜 自炊してるかな〜〜
うふ♪ 料理しますよ〜 なんて キッカケかも♪
ね ね! 声 かけてみよっか〜〜〜
あらァ〜〜〜 料理できるのかしらねぇ
ふふ・・・ チン! だけなんじゃない?
そうねぇ ウチのムスコもそうだったもの〜〜
そうそう チン!のカレー と カップ麺だけ ってね
ジョーの耳には とんでもない??会話がびんびん入ってくる。
「 ! じょ じょ〜だんじゃ ないよ〜〜〜
あ ぼくが一人で買い物してるから か ・・・ よ〜〜し それなら明日からは! 」
彼は うんうん〜〜 ぐっど・あいでぃあ〜〜♪ と ご満悦だった。
― そんなワケで 翌日。
ジョーはひっじょ〜に幸いに! < 夜の時間 > で ぐ〜〜〜っすり眠っている赤ん坊を
よいしょ・・・っとオンブして 買い物にでかけたのだ。
「 あは ・・・意外と軽くないんだね〜〜〜〜 イワン ・・・ 」
実際は 博士考案の < 自在・便利ヒモ > のお蔭で 彼は楽々〜〜イワンを
おんぶしているのであるが・・・
「 ふんふん ふ〜〜〜ん♪ これで ウルサイ外野からは逃れられるぞ〜〜
今日は トマトとセロリ、長ネギに・・・ あと鶏肉! もも肉のいいの、あるかな〜
焼き鳥風にするんだ〜、 きっとウマイぜえ〜〜 」
背中の赤ん坊を揺すりあげ 彼は意気揚々と買い物にでかけた。
ざわ ざわ ざわ ・・・
いつも賑わっているスーパー、食料品エリアは特に賑やかなのだが。
一人の青年が進むにしたがって ― なぜ〜〜〜か周囲に空間が広がってゆ
ねえ アレ ・・・ みて
え? あらま〜〜〜〜
・・・ なんか そそられるわあ〜〜
そ! きゅんきゅんしちゃう〜〜〜
コソコソ ひそひそ・・・ 囁き声が彼の進行方向へと着いてゆく。
「 ねえ ・・・ 兄弟? 」
「 う〜〜ん? あんまし似てないわよ? 叔父ちゃんと甥っこ とか? 」
「 まさか 父子・・・? 」
「 まあ! オクサン、どうしたのかしら・・・ 」
「 あ 病気とか?? それで若いオットが 〜〜 」
「 ・・・ も もしかして ・・・ シングル・パパ とか・・?? 」
「 うわ うわ〜〜〜 あたし、お手伝いしたいぃ〜〜〜 」
「 なにそれ〜〜 下心みえみえ〜 」
チラ見視線は どんどん強く絡みついてくる。
う・・・ なんだよ〜〜う ???
ぼく そんなにヘンな恰好してるか〜〜
・・・ チャックはちゃんと閉まってるし。
ズボンの尻だって破れてないぜ
ジョーは 憮然としてイワンを揺すりあげる。
「 ぼくは! 買い物に来ただけだ! え〜と 長ネギ〜〜〜 」
外野?の騒めきを決然と 突破 ― 彼はずいっとネギの束を買い物カートに放り込むと
精肉売り場に進んでいった。
「 あの ! 」
「 ! 自分のモノは自分で選べます! 」
「 うふ♪ 新製品です、どうぞ〜〜〜 」
「 わ??? 」
どごん。 紙おむつのカタマリが 買い物カートに飛び込んできた。
「 坊やちゃんにど〜ぞ〜〜〜♪ あ・・・ 男の子クンですよね?? 」
「 ・・・です。 」
「 弊社の自信商品でぇ〜〜す♪ ぜひぜひご感想をお願いいたしますぅ〜〜〜^
うふ♪ ワタクシへのメールでもよろしくってよん(^^♪ 」
むぎゅ。 いきなり手を握られ一緒にハガキ状のモノとメモが押し付けられた。
「 よ ろ し くう〜〜〜 お願いしまあ〜〜す (^^♪ 」
「 ・・・・・ 」
ジョーは口を真一文字に結ぶと とっととフロアを横切っていった。
な なんなんだ〜〜〜〜
ふん。 イワンのオムツは! お気に入りのメーカーがきまってるのさ!
それ以外は NG!だから 直接送ってもらってるのさ!
「 あ これ・・・どうぞ! 」
「 は はい? ? 」
出入り口付近ですれちがった赤ん坊連れのカートに 彼は先ほどの試供品を押し付けた。
「 新製品だそうです、 どうぞ〜〜〜 」
「 あ ど どうも ・・・・ 」
「 いいえ 」
も〜〜〜〜 ・・・・!!
このコは ぼくの 年の離れた弟 でも 甥っ子 でも 息子 でもありません!
ぼくは! 独身男子 です! シングル・ふぁ〜ざ〜 ではありません!
彼は 背中のイワンを揺すり上げ ふん! っと鼻息荒く? スーパーを後にした。
「 ただいま戻りました 〜 」
「 おお お帰り お帰り ・・・ ご苦労さんじゃったなあ 」
玄関を開けると 博士が飛んできてくれた。
「 いえ ・・・ 」
「 ほい イワンは引き受けるぞ。 おや ジョー、汗をかいておるなあ 着替えるかい? 」
「 あ じゃあ お願いします。 ぼく ついでにバス・ルームの掃除 してきます 」
「 少し休んでからにしたらどうかね? 」
「 いや ついでですから ・・・ ちょっと気になってることもあって ・・・ 」
「 そうかい、それじゃ・・・ イワンは任せておくれ。 」
博士はかなり慣れた手つきで 眠っている赤ん坊を抱きとってくれた。
「 はい お願いします。 じゃあ ぼくは えっとまずは・・・ 」
彼は カートの中身をキッチンに運び冷蔵庫へ入れた。
「 とりあえずこっちは おっけ〜・・・っと。
あ! 今晩のチキン、 下味つけとかないとな〜〜〜 」
鶏肉を取りだすと 塩と粒コショウ そしてニンニクスライスと一緒に
料理酒に漬け込む。 ちょいと醤油も加えてみた。
「 これで よ〜し・・・っと。 あとは 野菜だもんな〜 」
キッチンの窓から裏庭を眺めれば シャツやらタオルが午後の陽射しの下、風に揺れている。
「 え〜っと? 洗濯ものはもうちょっち風に当てたいな〜〜
今日は珍しくいい天気だし。 梅雨の晴れ間ってヤツだな〜〜
よし。 今から風呂場の掃除だ! 」
彼は 腕まくりをすると 意気揚々とバスルームに行った。
この邸のバス・ルーム、最初は所謂 < 西洋風 > なバスタブのあるスタイルだったの
だが ―
「 なんで〜〜〜 にっぽんの風呂にしね〜〜んだよお〜〜〜 」
「 博士 お願いがありますの。 あの〜〜日本式のお風呂に変えてくださいません? 」
「 あ〜 ・・・ わが祖国のバス・タブは最高なんですがなあ〜
なにせこの気候だ。 日本の風呂 がよいと思うのですが 」
仲間から 猛烈なリクエストが出、早速コズミ博士のツテを頼り ― 純和風な お風呂
に改築したのだ。
一度日本式の風呂を味わってしまったら ― もう他では ・・・ ダメなのだ。
「 ふんふんふ〜〜〜ん ・・・ さあ〜〜 掃除するぞ〜〜〜 」
ジョーは 博士特製の 亀の子タワシ を握り、戦闘開始だ。
「 お〜〜〜 相変わらずいいなあ〜〜 すぐにぴっかぴかだよ〜〜
うん? あ〜〜 また 天井に黴〜〜〜 よおし カ○キラーで〜〜〜
うん? タイルの目地の汚れが ・・・ よおし 古歯ブラシで〜〜〜
うん? 窓ガラスが曇ってるなあ よおし ガラスク○〜ン で〜〜〜 」
くるくる くるくる動き回り ― 風呂場はたちまちぴかぴかになった。
「 ふうう・・・ ま これでいっかな〜〜〜 あ〜〜 今晩は気持ちよ〜〜く
風呂に入れるなあ〜〜 ふんふんふ〜〜〜ん♪ 」
バス・ルームの窓を全開にすると 彼はご機嫌ちゃんで引き上げた。
「 さあ〜て・・・ そろそろ洗濯もの、取り込んで・・・っと。
あ! 夏物のカーテンとか タオルケットも出しておかなくちゃな〜〜〜
うん、カーテンについては フランと相談だな〜〜 ふんふんふ〜〜ん♪ 」
キッチンに降りてゆけば チキンにいい下味がついていた。
「 お♪ いいぞ〜〜〜 ふふふ〜〜〜ん♪ 美味そう〜〜〜
そうだ! マッシュ・ポテト、付け合わせにしよう〜〜 」
彼はに〜〜んまり、野菜室からジャガイモを取りだす。
ふんふんふ〜〜ん♪ キッチンにはご機嫌ちゃんのハナウタが満杯だ。
「 あは ・・・ ぼくって。 家事に向いてるかも〜〜 」
最強のサイボーグ戦士は に〜〜まり・・・満足そう〜〜に笑った。
今晩のご飯も 美味しいよね ジョー君!
§ 張々湖
ザザザザ ・・ トントントン タタタタ グツグツグツ
厨房は 活気に溢れている。 人々は忙しく手を動かしているが、そのリズミカルさ、
その無駄のなさ はどの手も素晴らしかった ・・・ もっとものんびり眺めている暇人など
一人もいないけれど。
「 ボス。 一番出汁の味見、頼みます 」
「 アイヤ〜〜 ・・・ エエで。 この調子でやってみなはれ 」
「 は! 」
「 野菜、 確認ねがいます! 」
「 アイヤ〜〜〜 エエで エエで〜 腕 上げたナ 」
「 は! 」
「 スープ、この味でよいですか 」
「 アイヤ〜〜〜 美味しゅうおまっせ〜〜〜 」
「 は! 」
きりり!とコック服に身を包んだ人々は黙々と、そして嬉々として作業をし
定期的に 丸まっちい人物のもとに駆けよってくる。
彼は 終始にこにこ・・・彼らが差し出すモノをさっと口の含み、称賛する。
「 エエで エエで〜〜〜 あんさん エエで〜〜〜 」
彼に褒め言葉を貰い彼らは嬉しさを全身ににじませ、
ますます張り切ってそれぞれの持ち場に戻るのだった。
― ヨコハマ中華街の一画、 表通りからは二筋、奥に入ったところに
この厨房は ある。
表の店舗には < 準備中 > の札が下がっている。
ランチ・タイムが終わり、休憩タイムをすごすと ―
『 中華飯店 張々湖 』は 夜の開店に向かって全料理人がすでに戦闘を開始している。
「 ホッホ〜〜〜 皆はん エエで エエで〜〜〜
今日もな えろ〜〜きばって、腕 奮ってや。 お客はんらが 待ってまっせ〜〜 」
丸まっちい人物は 厨房の中を周りつつ、ちょい ちょい・・・と料理人たちの
手元を確認している。
「 そうやった。 前菜のチームはん、ちょいと寄ってや〜 」
「 はいっ 」
「 ただいま! 」
「 はっ! 」
ぱらぱらと三人のワカモノが駆け寄ってきた。
「 これなんやけど 」
どん。 丸まっちい人物は中くらいの段ボール箱を調理台の横に置いた。
「 あの な〜 」
がさがさ ・・・・ 丸っこい手が瑞々しいキュウリを2〜3本 掴みだした。
「 キュウリ ですか 」
「 そや。 コレな。 えろうおいしおまっせ〜〜〜〜 ワテ、市場でかじらしてもろて
唸りましてん。 今晩の 冷菜につこうてや。 蛇腹切り がええ。 」
「 美味しそうですね 」
「 ほれ まずあんさんらも食べてみなはれ〜〜〜 ほい ほい ほい。 」
「 あ ども・・・ 〜〜〜〜〜 んま〜〜〜〜! 」
「 〜〜〜〜 ! すげ うま〜〜〜 」
「 キュウリ臭くて さいこ〜〜〜
」
一口 齧った若者たちはてんでに賛辞の声をあげた。
「 ほっほ〜〜〜 美味しやろ? ワイもこんなんええお味のん、初めてやで〜〜〜 」
「 どこのですか? 」
「 登米産、やて。 どこでん、オイシイもんはすぐに使いまひょな〜〜 」
「「「 はいっ 」」」
彼らは 嬉々としてキュウリを手に自分たちの調理台に戻った。
「 ほっほ〜〜〜 ええ なあ〜〜〜 さあ ワイも2〜3本 もろうて・・・と 」
調理場の奥から少し年配の男性が出てきた。 コック服がもうばっちり身についている。
「 あ 店長。 本日は 」
「 お〜〜 厨房長はん。 そうなんや〜〜〜 これとこれ・・・えっと これもな〜〜
ちょいと材料 貰うてかまへんか? 」
彼は 野菜やら肉を指す。
「 どうぞ! ご自由に〜〜 ああ もっとお持ちください 」
「 うんにゃ・・ 先生と坊と嬢やとワテだけやよって・・・ これで十分やで。 」
「 それでよろしいんで? 」
「 ハイナ。 」
彼は ホールのケーキを入れるくらいな箱に食材を詰め込んだ。
「 ほんなら ワテ、 お先させてもらいまっせ〜〜〜
厨房長はん、 支配人はん よろしゅう頼みまっせ。 」
「 はいっ! 」
「 かしこまりました。 」
「 すんまへんな〜〜 ほな・・・ ほ? 」
裏口の近く、巨大なシンクの側で まだまだかなり若いバイト君が一生懸命
フォークとナイフを磨いていた。
「 バイトクン、 あんさん ええ心がけやで〜〜 しっかり頼むナ 」
「 あ! 店長〜〜 」
「 えろうキレイに磨いてくれはって・・・ おおきに〜〜〜
あんさん、 今にええ料理人になれまっせ〜〜 」
「 は はいっ!! が ガンバリます! 」
バイト君は 頬を真っ赤にして頭をさげた。
「 ほっほ〜〜〜 みなはん〜〜〜 お願いしまっせ〜〜〜〜
ラスト・オーダーの前には 戻ってくるよってに〜〜 」
「 いってらっしゃい 店長〜〜 」
全員の声の送られ 張大人は店の裏口から出ていった。
『 中華飯店・張々湖 』 は 決して豪勢な構えの店ではない。
しかしその料理の味、丁寧なもてなし、そして リーズナブルな値段・・・などが
いつしか密かな評判を集めるようになってきた。
所謂有名人や お偉いサンらも予約を入れてくる。
しかし 店主は優遇はしない。
「 順番やで。 」
混み合うランチ・タイムも 完全に < 順番 >、 抜け駆けやら横入りなどは
論外なのだ。 それでますます人気が高まるのだが・・・
料理人たちにも人気だ。
この店の修業はキビシイ。 掛け値ナシにキビシイ。
先輩も厨房長も店主も 決して優しくはないし、時にはバシッ! と雷が落ちる。
しかし 誰であれ地道な努力や熱意はちゃ〜〜んと正当に評価してもらえる。
だから 辞めるモノはまず、いない。
皆 いつかは! この店を背負って立つ! と張りきっているのだ。
「 ほっほ〜〜 ええ按配やな〜〜 おんや 雨かいな〜〜 」
張大人は ぱし・・・っと傘を広げた。
「 ふんふん〜♪ ほな 晩御飯の差し入れ、参りまひょか〜〜〜
フランソワーズはんは お忙し〜〜 やし・・・
ジョーはん そろそろ音ぇを上げてる・・・いんや ギルモア先生が参ってはるかいな。
ほっほ ・・・ ワテの出番やなあ〜〜 」
彼は 飄々とメトロの駅へと階段を降りていった。
Last updated : 08,23,2016.
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*********** 途中ですが
ふふふ〜〜 原作 あのお話 の 前哨戦??
キュウリ云々〜〜 は 本当の話です、
ゼロナイ仲間さま の呟き から拝借しました〜 (^_-)-☆