『 誰( だれ )のために ― (1) ― 』
ぴんぽ〜〜〜ん ぴんぽ〜〜ん
玄関で珍しくチャイムが連打された。
「 ? はあ〜〜い 」
ジョーは声を張り上げ返事をし ちらり、とリビングの隅にある
モニターに視線を向けた。
小さな画面なのだが 玄関周りのサーチだけではなく 邸全体を俯瞰像
門から玄関までの映像、そして ご丁寧に赤外線仕様の画面も
見ることができる。
「 ?? あれえ いつもの宅配便のお兄さんだけど・・・
彼、 フリーパスの登録してあるんだけどなあ
はい〜〜〜〜 今 でまあす〜〜 」
ジョーは玄関にとんでいった。
玄関前のポーチには いつもの・宅急便さん の姿があるだけなのだ。
ガチャ。
レーザー光線も跳ね返す鉄壁の扉を ごくふつ〜に開ける。
もっともこの扉も 外見は磨きこまれたごくふつ〜のマホガニー製に見える。
「 おまたせしましたあ〜〜 」
「 あ お荷物です〜〜 えっと ・・・ しまむらさん宛 デス 」
「 ?? ぼ ぼく? なんだろ? 」
ジョーは差し出された伝票をしげしげと眺めた。
「 あのお〜 でっかいんで ・・・ 中に 入れます? 」
がらがら ・・ 宅急便さんは台車ごと押した。
「 うわ ・・・ あ ぼく やりますから〜〜〜
はい これ伝票。 ハンコおしました ご苦労様でしたあ 」
「 あ ども。 ・・・ 大丈夫っすか? 」
「 あ は はい 」
ジョーは かなり苦心している様子で荷物を台車から降ろす・・・フリをする。
本当は 片手でひょい、と持てる程度なのだが。
「 あ〜あ〜 俺、やりますよ〜 せ〜の〜〜〜 」
「 あ すいません〜〜〜 せ〜の〜〜 せっ 」
二人は 協力して荷物を台車から降ろした ( 風にジョーは演技した )
「 あ〜〜〜 すいません〜〜〜〜
え ・・・ ぼく宛? ・・・通販の会社からだよなあ 」
トタトタトタ ・・・
「 わあ〜〜 届いたのね♪ ありがとうございまあす 」
ジョーが荷物の前で首を捻っていると
軽い足音が 駆けだしてきて ― 荷物の前ににこやかに立った。
「 ・・・ あ ど ども ・・・ 」
「 重かったでしょう? ごめんなさいね〜〜〜
ね これ チョコなんだけど どうぞ! またよろしく〜〜 」
「 え わ あ はい ども〜〜 」
宅急便さんは 美人さんに微笑んでもらい 大にこにこ・・・
ちょぴっとホッペを染めて帰っていった。
「 あらあ よっぽどチョコが好きなのねえ 」
フランソワーズもにこにこ・・・ 見送っている。
「 むす。 ( おいおいおい〜〜〜 なんだよ その満面の笑顔〜〜
アイツは チョコじゃなくて きみの笑顔をもらったんだゾ ) 」
ジョーは お腹の中でだけ ぶつぶついい 黙って荷物を
玄関の上がり框に引きずり上げた。
「 ねえ フラン。 これ ぼく宛なんだけど・・・
頼んだ覚え、ないんだ。 ・・ 送り主 きみだよねえ 」
ジョーは 箱に貼られた伝票をつくづく見ている。
「 え? ああ そうなのよ〜〜〜
ごめんなさい、ジョーの名前を借りたの。 」
「 いいけど・・・ これ なに? 」
「 うふふ なんだかわかる? 」
「 ・・・ ( わからないから聞いてるんじゃないか〜 )
」
ちょいとむすっとしている彼を前に 彼女はころころと笑う。
「 ふふふ〜〜 あのね 明後日は お正月 でしょう? 」
「 うん。 どこの家でもそうだと思うけど 」
「 で ね。 今年こそ本格的なニッポンのお正月 を
やりたいな〜〜って思ったのよ 」
「 ほ 本格的な ??? 」
「 そ! そのために必須なものを ポチっとな したの。 」
「 ??? もしかして・・・門松 とか・・? 」
ジョーは いや〜〜〜な記憶が蘇る。
・・・ おいおい〜〜
揉め事は ゴメンだよう〜〜
リビングをガラスのカケラだらけにするの、
勘弁してくれよ
・・・ 掃除 大変なんだぜ!
「 いいえ。 あんなコトはもうしません? 」
彼女はきゃらきゃらと笑い 明朗に否定した。
「 あ・の・ね♪
お節料理! ニッポンのお正月に必須 でしょう? 」
「 え!!? ま まさか ・・・ これ 全部???
もしかして有名ホテル製とかのセット??
あ そうか〜 それを皆に配る とか?? 」
ジョーは 平成っ子・・・そして育ちも育ちなので
お節料理 は セットで買うモノ、が常識である。
「 それとも冷凍お節セット かなあ アレなら海外に送っても
大丈夫だよ きっと 」
「 い〜え。 ちがいます。 」
「 ?? じゃあ ・・・ コレ なに? 」
「 うふふ だからねえ お節料理 の 材料デス。
まだお正月本番までほんのちょっと日にちがあるでしょう?
今年はね。 本格的な お節料理 を 手作り するわ! 」
「 て づくり ??? お節料理 を?
てか 明日はもう大晦日だよ?? 」
「 ですから。 そのために日本各地から取り寄せたの
・・・って実際は あまぞん で検索したのですが(^^♪
選りすぐりの本格派・お節 目指そうと思って。 」
「 手作り・・・って そのう〜〜 きみ が? 」
「 そうよ〜〜 あ ジョー 手伝ってね〜 」
「 ・・・ 洗いモノくらいしかできませんが 」
「 あらあ 教えるから手伝ってね。 」
「 ハイ・・・ あ じゃあ これって・・・?
もしかして 全部・・・ 」
「 そうで〜〜す♪
これは。 お節料理の本格的な材料を ネット通販したの〜〜 」
「 え ・・・ 」
「 あのね あのね ネットで調べてね〜〜
材料をね その有名な産地のサイトから取り寄せたのよ。 」
あ ・・・ ともかく
日本中 駆けずり回って買い物・・・ からは
解放だあ 〜〜
ジョーは そっと胸をなでおろした。
いつぞやのように 松やら竹をさがして遠方にまで
< 加速そ〜ち!! > するのは もう御免被りたい・・・
「 ・・・ あのう さあ つかぬことを伺いますが 」
「 はい? 」
「 あのう ・・・ きみ お節料理の作り方 知ってるのかい? 」
「 あらあ これからネットで調べるのよぉ 」
フランソワーズは 最高の笑顔でそう宣うのだった・・・
え こ これから ・・・?
「 さ これ キッチンまで運んでくださる?? 」
「 あ 了解。 よ・・っと 」
彼は ひょい、とその大きな段ボール箱を片手で持ち上げた。
「 ねえ 入れ物とかは? 」
「 入れ物?? 」
「 そう お節料理の入れ物。 重箱さ
あ わかるかなあ こう・・・ 箱が重なったみたいなヤツ
」
「 それはねえ コズミ先生から わじまぬり の 三段重を
拝借しました。 すごく素敵ね! 食べ物じゃなくて
アクセサリーとか仕舞っておきたいわ。
ねえ ねえ さんだんじゅう って ライフルのことじゃあないのね 」
「 ?? あの ・・・? 」
「 あ そこに置いて。 え〜〜と まずなにから作ろうかしら 」
「 開けて いい? 」
「 お願いね 」
「 おっけ〜〜 ・・・ うわ ぎっちり・・・ 」
ジョーはでかい段ボール箱から こまごました包を取り出し始めた。
黒い豆 すこし大きいこれも豆。
かまぼこ 小魚 なにやら冷凍の箱・・・は 魚? 魚卵?
ビン詰めの栗 赤身の牛肉 変わった野菜
など など など・・・
「 うひゃあ〜〜 たくさん買ったねえ 」
「 えっと・・・ 時間のかかるモノから始めるといいってコズミ先生が。
う〜〜ん ・・・? 」
フランソワーズはスマホで <家庭で作る簡単おせち> の記事を
検索しつつ 荷物の内容を点検している。
「 あ・・・ なんか普通 マメを煮る から始めるみたいだよ? 」
「 まめ? あ この小さい黒いのかしら 」
「 くろまめ っていうんだ。
」
「 ふうん・・・ ふむ ふむ ・・・ 」
ざらざらざら〜〜〜〜
ジョーは 黒豆をザルにあけた。
「 うわ〜〜〜 なんか光ってる? へえ・・ 」
「 ねえ これって・・・お汁粉 とかになるお豆?
」
「 あ・・・ どうかな〜〜 多分・・・そう かも ? 」
( 頼りない日本人である! )
「 あ あったわ〜〜 くろまめのレシピ!
ふむ ふむ ・・・ そっか・・・
あ ジョー! 買い物 お願いね 」
「 おっけ〜〜 でもこれ以上、なにを買うんだい? 」
「 あのね これ。 」
ずむ。 しっかりしたメモが渡された。
「 ・・・? 」
「 ここいら辺りは 有名な野菜の産地なのよ。
お煮モノ用のお野菜 買ってきて。
あ ニンジンはねえ 京人参 買ったからいいわ 」
「 もしかして それって・・・ にしめ っていうんだ 確か・・・ 」
「 に し め? へえ 面白いのねえ
じゃ その にしめ 用のお野菜 お願いね〜 」
「 ・・・ 結局は 買い出しかあ・・・・ 」
「 下の商店街までよ。 お願いね〜〜
その間に わたし くろまめ を煮るわ。
あとね! これよこれ。 だてまき って。 すごく素敵じゃない?
これ・・・ たまごやき なのでしょ? 」
「 あ〜〜 ちょっち違うかなあ ・・・
でもね 甘くてオイシイんだ。 チビの頃は伊達巻にきんとん、
取り合いだったっけ・・・ 」
「 たまごやき なら任せて! あ はんぺんを使うとすぐにできますって。
はんぺん・・・ は ウチにあるわ! 」
「 へえ・・・ はんぺん かあ 」
「 ねえ くりきんとん って どんなの? 」
「 う〜〜んと ・・・ 甘く煮た栗の周りにさ やっぱ甘いジャムみたいな
のが絡まってるんだ 」
「 ジャム?? 栗のジャムかしら。 」
「 ・・・ 多分 」
( またしても! 頼りない日本人である! )
「 あ〜ら それなら この瓶詰めの栗さんを マロン・ペーストで
包むっていうのはどう? 」
「 わ♪ 美味しそう〜〜〜 いいね いいね 」
「 うふふ きんとん は決まりね! じゃ お使い、お願いね〜〜 」
「 おっけ〜〜 」
ジョーは ダウン・ジャケットをひっかけ自転車で飛び出していった。
「 さあて と。 だてまき に挑戦よ!
え〜〜と ・・・? あら 丸いフライパンでできるのね?
・・・ あらあ〜〜 これはオムレツです(^^♪ 」
彼女はご機嫌ちゃんで 卵を割りはじめた。
じゅわ〜〜〜〜
フライパンいっぱいに < だてまき >の素? が広がった。
「 ふう〜〜ん ・・・ いい香りねえ〜
はんぺんってこんな風に溶けるんだ・・・ わあ〜〜 」
ふんわ〜〜りふっくら・・・ 丸いお焼き?ができあがる。
「 うふ ・・ 美味しそう〜〜 なんかこのまま切って食べたいわね?
そうだわ! 上にバターを乗せてみようかな・・・
ふんふんふ〜〜〜ん ・・・ いい香〜 だてまき って素敵だわ 」
大皿に盛った < だてまき > の出来栄えに彼女は大満足だった。
・・・ どうみても 和風ほっとけーき っぽい ・・・
「 えっと おにしめ は ジョーが帰ってから でしょう?
あと こうはくなます これも野菜が必要ね。
たつくり こぶまき まつかさごぼう か・・・ 」
キッチンで スツールに座りスマホ検索に熱中している。
「 ん〜〜 ・・・ たつくり って健康オヤツ みたいねえ
美味しくカルシウム摂取が目的かしら。 ふうん ・・ 」
rrrrrrr ・・・ どこかで音が聞こえる
「 ・・・あ? 電話・・・? いやだ リビングの固定電話だわ 」
彼女は 全てを放りだし飛んでいった。
「 ・・・ アロー?? セ ギルモア・ラボ・・・ 」
咄嗟にはどうしても母国語が出る。
「 ? ・・・ あらあ〜〜 アルベルト〜〜 」
彼女の顔が ぱあ〜〜っと明るくなった。
固定電話の受話器を持ったまま ぽん、とソファに座り込んだ。
「 元気〜〜? ・・・ ええ ええ 博士もジョーも元気よ〜〜
そっちはどう? 寒い? ・・・ うん うん・・・
え え〜〜〜〜 ウソぉ〜〜〜〜 」
彼女は受話器をちょいと下げると 声を張り上げた。
「 博士ぇ〜〜〜〜 アルベルトがね 来ますって!!!
もう ナリタに着いてるんですって 」
「 え? ああ 今ねえ 博士にお知らせしたとこ。
ジョー? 買い物に行ってもらってるの。
そうそう 晩ご飯のね それとねえ うふ・・・言っちゃおっかな〜〜 」
フランソワーズは受話器を持って くすくす笑っている。
幼いころみたいなその笑顔は 電話の相手の存在を感じさせる。
彼女は この銀髪の独逸人を兄のごとくに慕っていたし
アルベルトも この金髪の少女を年の離れた妹として可愛がっていた。
「 え〜〜〜 うふふ あのねえ〜〜
ことしのお正月はあ 日本風 にしました♪ 」
「 え?? あ ちがうの ちがうの、飾りとかじゃなくて・・・
お節料理! つくってるのよ〜〜 」
「 おせちりょうりってね 日本特有のお正月の食べものなの。
それをねえ さんだんじゅうに あ ライフルじゃないのよ
食べ物の入れ物。 それに入れて 皆で食べるの。 」
「 そう そうなのよ〜〜 期待してて〜〜
あ 今から ライナー 乗るのね? じゃあ晩御飯には間に合うわね
うん うん・・・ キタアカリ、買ってあるわ〜
うん ・・・ 待ってるわ 気をつけてね〜〜 」
カチャン。 電話を切ると 彼女は両手を上げた。
「 うわあ〜〜い♪ これで包丁を使うこと、頼めるわ!
え・・・っと 大根とニンジンのお料理、 あるわよね〜 」
早速スマホに頼むと
紅白膾 ( こうはくなます )
という言葉があらわれ 見た目は赤白華やかでぱらり、と添えた
柚子がとても美しく美味しそうだった。
「 よおし! アルベルトが来たらこれ・・・ 頼も! 」
ガチャ ・・・ ただいまあ〜〜〜〜
「 あ 帰ってきた〜〜 ジョー〜〜〜 お帰りなさい〜〜
あのね あのね 」
フランソワ―ズは 玄関に飛んでいった。
どごん。 ごろん。
アルベルトの前には 白いでかい・蕪みたいな野菜 と 濃いオレンジの細っこい野菜が
まな板の上で待機している。
「 これは なんだ 」
「 あのねえ ソレで こうはくなます を作ってほしいの 」
フランソワーズが 彼の顔を見ないで ― つまりそっぽを向いて ― 言う。
「 だから これはなんなんだ? 野菜・・・? 」
「 ぴんぽん。 だいこん と にんじん です
」
「 だいこん・・・? 俺の知っているこの国の大根とは
太いがもう少し縦長だ。 同じく人参は もっと短くオレンジ色だ。
しかるに この・・・ 童話に出てきそうなモノは なんなんだ! 」
ごろん。 彼が突くと ソレはごろり、と転がった。
「 あ 知ってるわ! 『 おおきなかぶ 』 でしょ!?
みいんなで ひっぱるヤツよね〜〜〜 」
「 これは その蕪なのか? 」
「 い〜え。 それは 立派な大根です。 ジョーが買ってきました。 」
ね? と彼女は隅っこで牛蒡を切っているジョーを振り返る。
「 ・・・ あ あ〜 うん ・・・
地域の野菜で大根! って言ったら コレ が出てきたんだ・・・ 」
どうやらジョーは 三浦だいこん を買ってきた ― らしい。
「 ね!? だから これはこういうダイコンなの。
こっちの真っ赤なのは きょうにんじん。 これは京都の特産ですって 」
「 ・・・ で? 」
「 はい この二つで こうはくなます を作りマス。
まずは 千切りにしてください。
桂剥き とか出てたけど あんなのむりむりむり〜〜〜〜だから
ウチは 千切りで行きます! 」
「 ・・・ これ ・・・を 切る? 」
「 そ! こまか〜〜〜く 切って!
え・・・っと せんろっぽん にしてクダサイ。 」
「 は? 1006本 に切り分けるのか? 」
「 そ〜じゃなくて〜〜 うんとこまかくってことよ。
あ 微塵切りとはちがうのよ? こう〜〜細いの、いっぱい
」
「 ・・・ わかった ・・・・ こっちの赤いヤツも、だな 」
「 そうです。 それでねえ まぜてビネガーで食べるんですって。
バルサミコ酢 つかってみよかしら 」
「 はあん そりゃいいな ぷぷぷ 誰かさんだったら
マヨネーズどばどば〜〜〜 だろうなあ 」
「 ぷぷぷ 本当!! そのうち まい・まよねーず 持ち歩くかも 」
「 容器から直接 食うかも 」
「 きゃ〜〜〜 やめて〜〜 そ〜いうの まよら〜〜 って
いうんですって 」
「 まよら? 迷ってるからなあ 」
「 きゃはははは 」
だ〜〜れが 迷ってる ってんだよ〜〜〜
突然 キッチンの窓の外で凄みのある声が聞こえた。
「 !? やだ! ホンモノよ! 」
「 ! ・・・ まさかここまで飛んできた のか! 」
「 いくらなんでもそれは・・・ マズくない? 」
「 うむ。 いくらなんでも な 」
おい〜〜〜 わちゃわちゃ言ってね〜で
開けてくれ〜〜〜
ここ 寒いんだよぉ〜〜
「 あ うふふ ごめんなさ〜い 」
「 俺が開ける。 ったく ! 」
カタン。 アルベルトはキッチンの窓を開け放った。
「 ひょ〜〜〜 いい匂いだなあ〜〜 」
赤毛ののっぽは ひょい、と窓からキッチンに降り立った。
「 ジェット〜〜 いらっしゃい !
連絡くれれば 空港まで迎えに行ったのに 」
「 お キレイちゃん♪ い〜ってことよ 俺 飛んできたから 」
「 え。 ずっと・・・ そのう? 」
「 お〜。 マッハでひとっ飛びってヤツ〜〜 」
「 ・・・ マジ?? 」
「 お前はあ〜〜〜 レーダー網に引っ掛かるぞ!
この地域にはベースもあるんだ 」
「 へ このジェット様はそんなドジ 踏むかっての。
なあ この美味そう〜〜な匂い〜〜〜 なに?? 」
ジェットは クンクン鼻を鳴らす。
「 煮しめ、作ってるんだ。 こっちは黒豆。 」
すみっこで鍋の番人をしていたジョーが ぼそ・・・っと言った。
「 およ? ジョー〜〜 オマエ 料理人か
え・・・晩飯は お前がつくる・・・? うえ 」
「 これは! お正月用のお節、作ってるんだよ 」
「 オセチ? それ なんだ? 」
「 あのねえ 日本の伝統的なお正月のお料理。
すご〜〜くいろいろあって 美味しいの。 」
「 ・・・ へ。 フラン、お前 食ったこと あるのか? 」
「 いいえ。 でもね 長い間日本のヒト達がおいしい〜って
食べてきたのですもの、 美味しいに決まっているわ 」
「 若干 論理が甘い気もする が 」
「 なあに アルベルト? 」
「 ・・・ いや。 独り言だ、気にするな 」
「 はい。 だ〜か〜ら。
ジェット、貴方も手伝ってね 」
「 オレ 料理はできね〜ぜ 」
「 それは よ〜〜〜く知ってるよ。
ねえ ちょっとこの鍋 見ててくれないかなあ 」
ジョーはガス台の前に 赤毛ののっぽを引っ張っていった。
「 鍋? じ〜〜〜っと見つめるのか? 」
「 あの! 今 黒豆を煮てるんだ。 とろ火でゆ〜っくり ね。
ぼく もう一回買い物に行ってくるからさ
焦がさないように 見てて。 」
「 え。 あ オレが買い物に 」
「 なに買うかわかんないだろ?
人数 増えた分 晩ご飯の材料、増やさないと〜 」
「 あ わりぃ〜〜 」
「 いいのよぉ 多い方が楽しいもの。
あ ジェット あとでリネンの棚から皆の分、出してね 」
「 お〜らい♪ フランは? 」
「 わたし 伊達巻つくったから 今から 晩御飯の準備!
御煮しめは こっちの鍋で煮始めたわ。
本当はね 材料別に煮なくちゃいけないんだけど ・・・
時間もないから 一緒。 美味しそうでしょう? 」
「 はあん? 」
ジェットは あまり彼が見なれていない野菜がごろごろ・・
ぐつぐつ煮られているのに目を見張った。
「 これ・・・ 野菜だけ? 」
「 そうよ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 」
「 あ 黒豆 見るなら こっちもお願い。
焦がさないでね。 わたし、晩御飯の準備に集中するから 」
「 わ〜った ・・・ 」
「 お願いね。 」
「 へいへい ふうん? 」
彼は 手持ち無沙汰に何回も鍋の蓋をあけ 中を覗く。
「 くろまめ とか言ってたな〜〜 ジョーのヤツ・・・
あ はあん? ・・ これって < オシルコ > でね〜の??
ひゃっほ〜〜 オレ あれ好きなんだ 」
こそ・・・っと端っこの豆を摘まむ。
「 ん〜 ・・・ 甘さ たんね〜な 」
どばば。 大量の白い砂糖が 黒豆の鍋に消えていった・・・
「 こっちは おにしめ だったっけか?
・・・ 野菜ばっか かあ〜〜 つまんねぇなあ〜〜
肉・・肉 ねえのかよ〜〜〜 」
こそ・・・っと冷蔵庫を漁れば ベーコンが発掘された。
「 お〜〜 上等じゃんか。 これ 入れて・・・ 」
ぼとぼと ぼと。
サトイモやら人参、シイタケ タケノコ 牛蒡 なんかの間に
ベーコンが沈んでいった。
「 おう オッサンいるじゃん ポテトだよ〜〜〜 ポテト!
お トマトもあるじゃん? ニンニク! これも入れちまえ
じっくり煮込むと 美味いんだぜ お なかなかいい匂い〜〜」
御煮しめ は 熱いラタン・ト・ウィユ になった・・・
「 おっさん? そっちはどうだよ 」
ガス台とは反対側で 先ほどからアルベルトは熱心に
< 作業 > に取り組んでいる。
「 ・・・ 邪魔するな 」
「 なにつくってんだよ? 」
「 こうはくなます だそうだ。 」
「 へ・・・? それ・・・ サラダ か? 」
「 ― おそらく。 」
アルベルトが担当している 紅白膾 は
彼が切った大根とニンジンの千六本のヘルシー・サラダ と化していた。
唯一の地元民、ジョーは買い出し。
ネットで見本を検索した・はずの フランソワーズは晩御飯作り。
しかし < ニッポンのお正月 > の準備は粛々と
進められてゆく・・・
ドンドン バタン。 玄関のドアが威勢よく開いた。
「 みなはん! おまっとさん〜〜〜
お供え餅 もてきたで〜〜〜 搗きたての特大やで〜〜 」
大人が大きな包をささげ 入ってきた。
「 あらあ〜〜 大人〜〜 ありがとうございます♪ 」
「 ほっほ〜〜 ご注文の お供え餅 やで。 特注や! 」
「 嬉しい♪ これでお正月の準備 ばっちりよ 」
ガサガサ ゴソ。 包の中から巨大な鏡餅が現れた。
「 わあ〜〜 ケーキみたいね! テーブルの真ん中に飾りましょう! 」
ギルモア邸の < 本科的・お節料理 > の行く末は―
Last updated : 01,12,2021.
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********** 途中ですが
時季遅れもイイとこなのですが ・・・
正月ってたら あのハナシでしょうって?
いやいや お節料理ハナシ だって あり かも?