『 誰( だれ )のために ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

 

  ぴんぽ〜〜〜ん  ぴんぽ〜〜ん

 

玄関で珍しくチャイムが連打された。

 「 ?  はあ〜〜い 」

ジョーは声を張り上げ返事をし ちらり、とリビングの隅にある

モニターに視線を向けた。

小さな画面なのだが 玄関周りのサーチだけではなく 邸全体を俯瞰像

門から玄関までの映像、そして ご丁寧に赤外線仕様の画面も

見ることができる。

 

「 ?? あれえ  いつもの宅配便のお兄さんだけど・・・

 彼、 フリーパスの登録してあるんだけどなあ  

 はい〜〜〜〜 今 でまあす〜〜 」

 

ジョーは玄関にとんでいった。

玄関前のポーチには いつもの・宅急便さん の姿があるだけなのだ。

 

   ガチャ。  

 

レーザー光線も跳ね返す鉄壁の扉を ごくふつ〜に開ける。

もっともこの扉も 外見は磨きこまれたごくふつ〜のマホガニー製に見える。

 

「 おまたせしましたあ〜〜 」

「 あ お荷物です〜〜 えっと ・・・ しまむらさん宛 デス 」

「 ?? ぼ ぼく?  なんだろ?  

ジョーは差し出された伝票をしげしげと眺めた。

「 あのお〜 でっかいんで ・・・ 中に 入れます? 」

 

  がらがら  ・・ 宅急便さんは台車ごと押した。

 

「 うわ ・・・ あ ぼく  やりますから〜〜〜

 はい これ伝票。 ハンコおしました ご苦労様でしたあ 」

「 あ ども。 ・・・ 大丈夫っすか? 」

「 あ  は はい 」

ジョーは かなり苦心している様子で荷物を台車から降ろす・・・フリをする。

本当は 片手でひょい、と持てる程度なのだが。

「 あ〜あ〜 俺、やりますよ〜  せ〜の〜〜〜 」

「 あ すいません〜〜〜 せ〜の〜〜 せっ 

二人は 協力して荷物を台車から降ろした ( 風にジョーは演技した )

「 あ〜〜〜 すいません〜〜〜〜  

 え ・・・ ぼく宛?  ・・・通販の会社からだよなあ 」

 

    トタトタトタ ・・・

 

「 わあ〜〜 届いたのね♪  ありがとうございまあす 」

ジョーが荷物の前で首を捻っていると

軽い足音が 駆けだしてきて ― 荷物の前ににこやかに立った。

「 ・・・ あ  ど  ども ・・・ 」

「 重かったでしょう? ごめんなさいね〜〜〜

 ね これ チョコなんだけど どうぞ! またよろしく〜〜 」

「 え わ あ はい  ども〜〜 」

宅急便さんは 美人さんに微笑んでもらい 大にこにこ・・・

ちょぴっとホッペを染めて帰っていった。

「 あらあ  よっぽどチョコが好きなのねえ 

フランソワーズもにこにこ・・・ 見送っている。

「 むす。 ( おいおいおい〜〜〜 なんだよ その満面の笑顔〜〜

 アイツは チョコじゃなくて きみの笑顔をもらったんだゾ )

ジョーは お腹の中でだけ ぶつぶついい 黙って荷物を

玄関の上がり框に引きずり上げた。

 

「 ねえ フラン。 これ ぼく宛なんだけど・・・

 頼んだ覚え、ないんだ。  ・・ 送り主 きみだよねえ 」

ジョーは 箱に貼られた伝票をつくづく見ている。

「 え? ああ そうなのよ〜〜〜

 ごめんなさい、ジョーの名前を借りたの。 」

「 いいけど・・・ これ なに? 

「 うふふ なんだかわかる? 」

「 ・・・ ( わからないから聞いてるんじゃないか〜 ) 

ちょいとむすっとしている彼を前に 彼女はころころと笑う。

「 ふふふ〜〜  あのね 明後日は お正月 でしょう? 」

「 うん。 どこの家でもそうだと思うけど 

「 で ね。 今年こそ本格的なニッポンのお正月 を

 やりたいな〜〜って思ったのよ 」

「 ほ 本格的な ??? 

「 そ!  そのために必須なものを ポチっとな したの。 」

「 ???  もしかして・・・門松 とか・・? 」

ジョーは いや〜〜〜な記憶が蘇る。

 

     ・・・ おいおい〜〜

     揉め事は ゴメンだよう〜〜

 

     リビングをガラスのカケラだらけにするの、

     勘弁してくれよ

     ・・・ 掃除 大変なんだぜ!

 

「 いいえ。 あんなコトはもうしません? 」

彼女はきゃらきゃらと笑い 明朗に否定した。

「 あ・の・ね♪ 

 お節料理!  ニッポンのお正月に必須 でしょう? 」

「 え!!? ま まさか ・・・ これ 全部???

 もしかして有名ホテル製とかのセット??

 あ そうか〜 それを皆に配る とか?? 」

ジョーは 平成っ子・・・そして育ちも育ちなので

お節料理 は セットで買うモノ、が常識である。

「 それとも冷凍お節セット かなあ アレなら海外に送っても

大丈夫だよ きっと 

「 い〜え。 ちがいます。 」

「 ??  じゃあ ・・・ コレ なに? 

「 うふふ だからねえ お節料理 の 材料デス。

 まだお正月本番までほんのちょっと日にちがあるでしょう?

 今年はね。 本格的な お節料理 を 手作り するわ! 」

「 て づくり ??? お節料理 を? 

 てか 明日はもう大晦日だよ?? 」

「 ですから。 そのために日本各地から取り寄せたの

 ・・・って実際は あまぞん で検索したのですが(^^

 選りすぐりの本格派・お節 目指そうと思って。 」

「 手作り・・・って そのう〜〜 きみ が? 」

「 そうよ〜〜 あ ジョー 手伝ってね〜 

「 ・・・ 洗いモノくらいしかできませんが 

「 あらあ 教えるから手伝ってね。 」

「 ハイ・・・ あ じゃあ これって・・・? 

 もしかして 全部・・・ 」

「 そうで〜〜す♪ 

 これは。 お節料理の本格的な材料を ネット通販したの〜〜 」

「 え ・・・ 」

「 あのね あのね ネットで調べてね〜〜

 材料をね その有名な産地のサイトから取り寄せたのよ。 」

 

    あ ・・・ ともかく

    日本中 駆けずり回って買い物・・・ からは

    解放だあ 〜〜

 

ジョーは そっと胸をなでおろした。

いつぞやのように 松やら竹をさがして遠方にまで

< 加速そ〜ち!! > するのは もう御免被りたい・・・

「 ・・・ あのう さあ  つかぬことを伺いますが 」

「 はい? 」

「 あのう ・・・ きみ お節料理の作り方 知ってるのかい? 」

「 あらあ これからネットで調べるのよぉ  

フランソワーズは 最高の笑顔でそう宣うのだった・・・

 

    え こ これから ・・・?

 

「 さ これ キッチンまで運んでくださる?? 」

「 あ 了解。  よ・・っと 」

彼は ひょい、とその大きな段ボール箱を片手で持ち上げた。

「 ねえ 入れ物とかは? 

「 入れ物?? 」

「 そう お節料理の入れ物。 重箱さ 

 あ わかるかなあ こう・・・ 箱が重なったみたいなヤツ 

「 それはねえ コズミ先生から わじまぬり の 三段重を

 拝借しました。  すごく素敵ね! 食べ物じゃなくて

 アクセサリーとか仕舞っておきたいわ。

 ねえ ねえ さんだんじゅう って ライフルのことじゃあないのね 」

「 ??  あの ・・・? 」

「 あ そこに置いて。  え〜〜と まずなにから作ろうかしら 」

「 開けて いい? 

「 お願いね 」

「 おっけ〜〜  ・・・ うわ ぎっちり・・・ 」

ジョーはでかい段ボール箱から こまごました包を取り出し始めた。

 

   黒い豆  すこし大きいこれも豆。 

   かまぼこ 小魚  なにやら冷凍の箱・・・は 魚? 魚卵?

   ビン詰めの栗  赤身の牛肉 変わった野菜

   など など など・・・

 

「 うひゃあ〜〜 たくさん買ったねえ 」

「 えっと・・・ 時間のかかるモノから始めるといいってコズミ先生が。

 う〜〜ん ・・・? 」

フランソワーズはスマホで <家庭で作る簡単おせち> の記事を

検索しつつ 荷物の内容を点検している。

「 あ・・・ なんか普通 マメを煮る から始めるみたいだよ? 」

「 まめ?  あ この小さい黒いのかしら  」

「 くろまめ っていうんだ。  

「 ふうん・・・ ふむ ふむ ・・・ 」

 

   ざらざらざら〜〜〜〜 

 

ジョーは 黒豆をザルにあけた。

「 うわ〜〜〜 なんか光ってる?  へえ・・ 

「 ねえ これって・・・お汁粉 とかになるお豆?  

「 あ・・・ どうかな〜〜  多分・・・そう かも ? 」

( 頼りない日本人である! )

「 あ あったわ〜〜 くろまめのレシピ!

 ふむ ふむ ・・・ そっか・・・

 あ ジョー!  買い物 お願いね 

「 おっけ〜〜  でもこれ以上、なにを買うんだい? 」

「 あのね  これ。 」  

 

   ずむ。  しっかりしたメモが渡された。

 

「 ・・・? 」

「 ここいら辺りは 有名な野菜の産地なのよ。

 お煮モノ用のお野菜 買ってきて。 

 あ ニンジンはねえ 京人参 買ったからいいわ  」

「 もしかして それって・・・ にしめ っていうんだ 確か・・・ 」

「 に し め?  へえ 面白いのねえ

 じゃ その にしめ 用のお野菜 お願いね〜 」

「 ・・・ 結局は 買い出しかあ・・・・ 」

「 下の商店街までよ。 お願いね〜〜 

 その間に わたし くろまめ を煮るわ。

 あとね!  これよこれ。 だてまき って。 すごく素敵じゃない?

 これ・・・ たまごやき なのでしょ? 」

「 あ〜〜 ちょっち違うかなあ ・・・

 でもね 甘くてオイシイんだ。 チビの頃は伊達巻にきんとん、

 取り合いだったっけ・・・ 

「 たまごやき なら任せて!  あ はんぺんを使うとすぐにできますって。

 はんぺん・・・ は ウチにあるわ! 」

「 へえ・・・ はんぺん かあ  」

「 ねえ くりきんとん って どんなの? 」

「 う〜〜んと ・・・ 甘く煮た栗の周りにさ やっぱ甘いジャムみたいな

 のが絡まってるんだ 」

「 ジャム?? 栗のジャムかしら。 」

「 ・・・ 多分 」

( またしても! 頼りない日本人である! )

「 あ〜ら それなら この瓶詰めの栗さんを マロン・ペーストで

 包むっていうのはどう? 」

「 わ♪ 美味しそう〜〜〜 いいね いいね 」

「 うふふ きんとん は決まりね! じゃ お使い、お願いね〜〜 」

「 おっけ〜〜 」

ジョーは ダウン・ジャケットをひっかけ自転車で飛び出していった。

 

「 さあて と。 だてまき に挑戦よ!

 え〜〜と ・・・? あら 丸いフライパンでできるのね?

 ・・・ あらあ〜〜 これはオムレツです(^^♪ 」

彼女はご機嫌ちゃんで 卵を割りはじめた。

 

   じゅわ〜〜〜〜  

 

フライパンいっぱいに < だてまき >の素? が広がった。

「 ふう〜〜ん ・・・ いい香りねえ〜 

 はんぺんってこんな風に溶けるんだ・・・ わあ〜〜 」

ふんわ〜〜りふっくら・・・ 丸いお焼き?ができあがる。

「 うふ ・・ 美味しそう〜〜  なんかこのまま切って食べたいわね?

 そうだわ! 上にバターを乗せてみようかな・・・

 ふんふんふ〜〜〜ん ・・・ いい香〜  だてまき って素敵だわ 」

大皿に盛った < だてまき > の出来栄えに彼女は大満足だった。

 ・・・ どうみても 和風ほっとけーき っぽい ・・・

 

「 えっと おにしめ は ジョーが帰ってから でしょう?

 あと こうはくなます これも野菜が必要ね。

 たつくり  こぶまき  まつかさごぼう  か・・・ 」

キッチンで スツールに座りスマホ検索に熱中している。

 

「 ん〜〜 ・・・ たつくり って健康オヤツ みたいねえ

 美味しくカルシウム摂取が目的かしら。 ふうん ・・ 」

 

     rrrrrrr ・・・ どこかで音が聞こえる

 

「 ・・・あ? 電話・・・? いやだ リビングの固定電話だわ 」

彼女は 全てを放りだし飛んでいった。

「 ・・・ アロー??  セ ギルモア・ラボ・・・ 」

咄嗟にはどうしても母国語が出る。

「 ? ・・・ あらあ〜〜 アルベルト〜〜 」

彼女の顔が ぱあ〜〜っと明るくなった。

固定電話の受話器を持ったまま ぽん、とソファに座り込んだ。

「 元気〜〜?  ・・・ ええ ええ 博士もジョーも元気よ〜〜

 そっちはどう?  寒い?  ・・・ うん  うん・・・

 え え〜〜〜〜 ウソぉ〜〜〜〜 

彼女は受話器をちょいと下げると 声を張り上げた。

「 博士ぇ〜〜〜〜  アルベルトがね 来ますって!!!

 もう ナリタに着いてるんですって 」

「 え? ああ 今ねえ 博士にお知らせしたとこ。

 ジョー?   買い物に行ってもらってるの。 

 そうそう 晩ご飯のね それとねえ  うふ・・・言っちゃおっかな〜〜 」

フランソワーズは受話器を持って くすくす笑っている。

幼いころみたいなその笑顔は 電話の相手の存在を感じさせる。

彼女は この銀髪の独逸人を兄のごとくに慕っていたし

アルベルトも この金髪の少女を年の離れた妹として可愛がっていた。

「 え〜〜〜 うふふ あのねえ〜〜

 ことしのお正月はあ 日本風 にしました♪ 」

「 え?? あ ちがうの ちがうの、飾りとかじゃなくて・・・

 お節料理!  つくってるのよ〜〜 

「 おせちりょうりってね 日本特有のお正月の食べものなの。

 それをねえ さんだんじゅうに あ ライフルじゃないのよ

 食べ物の入れ物。 それに入れて 皆で食べるの。 」

「 そう そうなのよ〜〜 期待してて〜〜

 あ 今から ライナー 乗るのね?  じゃあ晩御飯には間に合うわね

 うん うん・・・ キタアカリ、買ってあるわ〜 

 うん ・・・ 待ってるわ 気をつけてね〜〜 」

 

  カチャン。  電話を切ると 彼女は両手を上げた。

 

「 うわあ〜〜い♪  これで包丁を使うこと、頼めるわ!

 え・・・っと 大根とニンジンのお料理、 あるわよね〜 」

早速スマホに頼むと 

 

   紅白膾 ( こうはくなます )

 

という言葉があらわれ 見た目は赤白華やかでぱらり、と添えた

柚子がとても美しく美味しそうだった。

 

「 よおし! アルベルトが来たらこれ・・・ 頼も! 」

 

    ガチャ ・・・ ただいまあ〜〜〜〜

 

「 あ 帰ってきた〜〜  ジョー〜〜〜 お帰りなさい〜〜

 あのね あのね 」

フランソワ―ズは 玄関に飛んでいった。

 

 

  どごん。  ごろん。  

 

アルベルトの前には 白いでかい・蕪みたいな野菜 と 濃いオレンジの細っこい野菜が 

まな板の上で待機している。

「 これは なんだ 」

「 あのねえ ソレで こうはくなます を作ってほしいの 」

フランソワーズが 彼の顔を見ないで ― つまりそっぽを向いて ― 言う。

「 だから これはなんなんだ? 野菜・・・? 

「 ぴんぽん。 だいこん と にんじん です  

「 だいこん・・・? 俺の知っているこの国の大根とは

 太いがもう少し縦長だ。 同じく人参は もっと短くオレンジ色だ。

 しかるに この・・・ 童話に出てきそうなモノは なんなんだ! 」

 

   ごろん。  彼が突くと ソレはごろり、と転がった。

 

「 あ 知ってるわ! 『 おおきなかぶ 』 でしょ!?

 みいんなで ひっぱるヤツよね〜〜〜 

「 これは その蕪なのか? 」

「 い〜え。 それは 立派な大根です。 ジョーが買ってきました。 」

ね? と彼女は隅っこで牛蒡を切っているジョーを振り返る。

「 ・・・ あ  あ〜  うん ・・・

 地域の野菜で大根! って言ったら コレ が出てきたんだ・・・ 」

どうやらジョーは 三浦だいこん を買ってきた ― らしい。

「 ね!? だから これはこういうダイコンなの。

こっちの真っ赤なのは きょうにんじん。  これは京都の特産ですって 」

「 ・・・ で? 」

「 はい この二つで こうはくなます を作りマス。

 まずは 千切りにしてください。

 桂剥き とか出てたけど あんなのむりむりむり〜〜〜〜だから

 ウチは 千切りで行きます! 」

「 ・・・ これ ・・・を 切る? 」

「 そ! こまか〜〜〜く 切って! 

 え・・・っと  せんろっぽん にしてクダサイ。 」

「 は? 1006本 に切り分けるのか? 」

「 そ〜じゃなくて〜〜 うんとこまかくってことよ。

 あ 微塵切りとはちがうのよ?  こう〜〜細いの、いっぱい  

「 ・・・ わかった ・・・・ こっちの赤いヤツも、だな 」

「 そうです。 それでねえ まぜてビネガーで食べるんですって。

 バルサミコ酢 つかってみよかしら 」

「 はあん そりゃいいな   ぷぷぷ 誰かさんだったら

 マヨネーズどばどば〜〜〜 だろうなあ 」

「 ぷぷぷ 本当!! そのうち まい・まよねーず 持ち歩くかも 

「 容器から直接 食うかも 」

「 きゃ〜〜〜 やめて〜〜  そ〜いうの まよら〜〜 って

 いうんですって 

「 まよら?  迷ってるからなあ 

「 きゃはははは 」

 

    だ〜〜れが 迷ってる ってんだよ〜〜〜

 

突然 キッチンの窓の外で凄みのある声が聞こえた。

「 !? やだ! ホンモノよ! 」

「 !  ・・・ まさかここまで飛んできた のか! 」

「 いくらなんでもそれは・・・ マズくない? 」

「 うむ。 いくらなんでも な 」

 

    おい〜〜〜  わちゃわちゃ言ってね〜で

    開けてくれ〜〜〜

    ここ 寒いんだよぉ〜〜

 

「 あ  うふふ ごめんなさ〜い  」

「 俺が開ける。  ったく ! 

 

    カタン。  アルベルトはキッチンの窓を開け放った。

 

「 ひょ〜〜〜  いい匂いだなあ〜〜 

赤毛ののっぽは ひょい、と窓からキッチンに降り立った。

「 ジェット〜〜 いらっしゃい ! 

 連絡くれれば 空港まで迎えに行ったのに 」

「 お キレイちゃん♪  い〜ってことよ 俺 飛んできたから 

「 え。 ずっと・・・ そのう? 

「 お〜。 マッハでひとっ飛びってヤツ〜〜 」

「 ・・・ マジ?? 」

「 お前はあ〜〜〜 レーダー網に引っ掛かるぞ!

 この地域にはベースもあるんだ 」

「 へ  このジェット様はそんなドジ 踏むかっての。

 なあ この美味そう〜〜な匂い〜〜〜 なに?? 」

ジェットは クンクン鼻を鳴らす。

「 煮しめ、作ってるんだ。 こっちは黒豆。 」

すみっこで鍋の番人をしていたジョーが ぼそ・・・っと言った。

「 およ? ジョー〜〜 オマエ 料理人か 

 え・・・晩飯は お前がつくる・・・? うえ  」

「 これは! お正月用のお節、作ってるんだよ 」

「 オセチ? それ なんだ? 」

「 あのねえ 日本の伝統的なお正月のお料理。

 すご〜〜くいろいろあって 美味しいの。 

「 ・・・ へ。 フラン、お前 食ったこと あるのか? 」

「 いいえ。 でもね 長い間日本のヒト達がおいしい〜って

 食べてきたのですもの、 美味しいに決まっているわ 」

「 若干 論理が甘い気もする が 」

「 なあに アルベルト? 」

「 ・・・ いや。 独り言だ、気にするな 」

「 はい。 だ〜か〜ら。

 ジェット、貴方も手伝ってね 」

「 オレ 料理はできね〜ぜ 」

「 それは よ〜〜〜く知ってるよ。 

 ねえ ちょっとこの鍋 見ててくれないかなあ 」

ジョーはガス台の前に 赤毛ののっぽを引っ張っていった。

「 鍋? じ〜〜〜っと見つめるのか? 」

「 あの! 今 黒豆を煮てるんだ。 とろ火でゆ〜っくり ね。

 ぼく もう一回買い物に行ってくるからさ 

 焦がさないように 見てて。 」

「 え。  あ オレが買い物に 」

「 なに買うかわかんないだろ?  

 人数 増えた分 晩ご飯の材料、増やさないと〜 」

「 あ わりぃ〜〜 

「 いいのよぉ 多い方が楽しいもの。

 あ ジェット あとでリネンの棚から皆の分、出してね 」

「 お〜らい♪  フランは? 」

「 わたし 伊達巻つくったから 今から 晩御飯の準備!

 御煮しめは こっちの鍋で煮始めたわ。 

 本当はね 材料別に煮なくちゃいけないんだけど ・・・

 時間もないから 一緒。  美味しそうでしょう? 」

「 はあん? 」

ジェットは あまり彼が見なれていない野菜がごろごろ・・

ぐつぐつ煮られているのに目を見張った。

「 これ・・・ 野菜だけ? 」

「 そうよ。 」

「 ・・・ ふうん ・・・ 」

「 あ 黒豆 見るなら こっちもお願い。

 焦がさないでね。 わたし、晩御飯の準備に集中するから 」

「 わ〜った ・・・ 

「 お願いね。 」

「 へいへい    ふうん? 」

彼は 手持ち無沙汰に何回も鍋の蓋をあけ 中を覗く。

「 くろまめ とか言ってたな〜〜 ジョーのヤツ・・・

 あ はあん?  ・・ これって < オシルコ > でね〜の??

 ひゃっほ〜〜 オレ あれ好きなんだ 

こそ・・・っと端っこの豆を摘まむ。

「 ん〜 ・・・ 甘さ たんね〜な 

どばば。 大量の白い砂糖が 黒豆の鍋に消えていった・・・

「 こっちは おにしめ だったっけか?

 ・・・ 野菜ばっか かあ〜〜 つまんねぇなあ〜〜

 肉・・肉  ねえのかよ〜〜〜  

こそ・・・っと冷蔵庫を漁れば ベーコンが発掘された。

「 お〜〜 上等じゃんか。 これ 入れて・・・  」

 

    ぼとぼと ぼと。  

 

サトイモやら人参、シイタケ タケノコ 牛蒡 なんかの間に 

ベーコンが沈んでいった。

「 おう オッサンいるじゃん  ポテトだよ〜〜〜 ポテト! 

 お トマトもあるじゃん?  ニンニク! これも入れちまえ 

 じっくり煮込むと 美味いんだぜ  お なかなかいい匂い〜〜」

御煮しめ は 熱いラタン・ト・ウィユ になった・・・

 

「 おっさん?  そっちはどうだよ 」

ガス台とは反対側で 先ほどからアルベルトは熱心に

< 作業 > に取り組んでいる。

「 ・・・ 邪魔するな 」

「 なにつくってんだよ? 」

「 こうはくなます だそうだ。 」

「 へ・・・?  それ・・・ サラダ か? 」

「 ― おそらく。 」

アルベルトが担当している 紅白膾 は 

彼が切った大根とニンジンの千六本のヘルシー・サラダ と化していた。

 

唯一の地元民、ジョーは買い出し。

ネットで見本を検索した・はずの フランソワーズは晩御飯作り。

しかし < ニッポンのお正月 > の準備は粛々と

進められてゆく・・・

  

   ドンドン  バタン。  玄関のドアが威勢よく開いた。

 

「 みなはん! おまっとさん〜〜〜

 お供え餅 もてきたで〜〜〜 搗きたての特大やで〜〜 」

大人が大きな包をささげ 入ってきた。

「 あらあ〜〜 大人〜〜 ありがとうございます♪ 」

「 ほっほ〜〜 ご注文の お供え餅 やで。 特注や! 」

「 嬉しい♪ これでお正月の準備 ばっちりよ 」

 

   ガサガサ ゴソ。  包の中から巨大な鏡餅が現れた。

 

「 わあ〜〜 ケーキみたいね! テーブルの真ん中に飾りましょう! 」

 

 

   ギルモア邸の < 本科的・お節料理 > の行く末は―

 

 

Last updated : 01,12,2021.             index       /      next

 

 

**********    途中ですが

時季遅れもイイとこなのですが ・・・

正月ってたら あのハナシでしょうって?

いやいや お節料理ハナシ だって あり かも?