『  ゆめの浮橋    ―  (3)  ―   』 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファンタリオン星の王宮は小高い丘の上に壮麗な宮を連ねていた。

一見、やわらかい曲線に囲まれた古風な佇いだったが、かなりのハイテク防備が施され、

しかもそれらは巧みに目につかぬような設定になっていた。

王家や王家に仕える人々、そして民衆達も少し古風に見えるゆったりとした服装をしているが

この星は高い文明と科学力をもつ惑星らしい。

 

「 さあさあ・・・ どうぞお寛ろぎになってください。 」

「 ありがとうございます、国王陛下。 あの・・・ わたし共は少々先を急ぐ旅なのです。

 拉致された仲間を救出しなければなりません。 」

「 おお! それは大変なことですね。 

 ヤツらはわが姫だけでなく 他でも悪事を重ねておるのですか! 」

「 はい。 でも・・・ たまら姫はご無事でお父様の許にお連れできました。 

 ・・・ あの ・・・ そろそろ失礼をしなければ・・・ 」

「 なにを仰ると思えば! 長旅でお疲れでしょう、どうぞゆっくりなさっていってください。

 いえ・・・できれば貴女にはずっとこの星に留まっていただければ・・・どんなにか・・・ 」

国王陛下は宮殿の豪華な一室で 深い深い溜息を吐いている。

案内された王宮の内部は調度も装飾品も立派なものだったが どことなく侘しさがただよっていた。

仕える召使の数も多いのに 華やいだ雰囲気がない。

フランソワ−ズはそれとなく辺りを眺めていたが そっと頷いた。

 

   そうか。 この宮殿には王妃様がいらっしゃらないのね・・・

 

女主人がしっかりと守っていてこそ、<ホ−ム>なのだ。

国王陛下の溜息が ほんの少し気の毒な気がした。

「 陛下。 どうぞたまら姫様をたくさん抱き締めてあげてください。

 恐い目にあっても 健気に耐えていらしたのですから。 」

「 姫が無事にもどったのもあなたのおかげです。 ああ、やはりあなたしかいない・・! 」

「 ・・・ あの? 

「 私は今、運命という名の出会いに感謝を捧げていたところです。

 ああ・・・! やっと やっと ・・・ めぐり逢うことができました。 」

「 ・・・ は・・? 」

「 そう、これは運命です。 ファンタリオンの神も祝福して下さるでしょう!

 ああ、そして勿論私の国民達も どんなにか喜んでくれることか・・・おお・・・! 」

「 ・・・ あの〜〜〜 陛下? わたしどもはもう出発・・・・ 」

どうもかみ合わない会話が不安になり フランソワ−ズがそろそろと腰を上げだしたとき。

 

わんわんわんわん・・・ !

きゃ〜〜〜 ぴ〜ちゃん、 ぴ〜ちゃん〜〜 待って〜〜

たまら姫様 〜〜 お待ちください〜〜 

これ、たまら姫! そんなに駆けたらころびますよ〜〜

きゃ〜〜 おにいちゃま〜〜〜 おばちゃま〜〜〜 きゃ〜〜〜

わんわんわん! わんわんわん・・・・

 

賑やかというよりも騒音のカタマリが突如、豪華なドアをぶち開け飛び込んできた。

仔牛ほどもある大きな黒い犬とコドモがもつれあってはしゃいでいる。

「 ・・・!! なんでしょう・・・・あら。 」

「 おお!!  ・・・ 姫! お客人の前ですよ、はしたない・・・・ 」

「 おとうちゃま〜〜〜 きゃ〜〜〜 」

「 ・・・ 姫。 こら、ぴ〜らら! 静かに。 」

国王は飛びついてきた愛娘を抱き上げ、纏わりつく犬を制止した。

たまら姫と一緒に駆け込んできた <ぴ〜ちゃん> は

ふさふさした長い尾を左右に振ったまま素直に主人の側に控えた。

「 申し訳ない・・・ 躾が行き届かなくて。 生まれてすぐに母を亡くした不憫な娘です・・・ 」

「 まあ・・・ そうですの・・・・ 」

「 ついつい甘やかしてしまいましてな。 これの叔母にいつも叱られていますよ。 」

「 ああ 叔母様がいらっしゃるのですね。 」

「 はい、妃亡きあと、彼女の妹がずっと・・・ 姫を育ててくれました。 」

「 たまら姫〜〜 どこです?? ・・・ あ! これは国王陛下! 失礼しました。 」

幼女と犬をおって今度はジョ−が飛び込んできた。

「 いや、よいよい・・・。 姫もキミに懐いているようだな。 ああ・・・ ソニア。 」

「 ・・・ 義兄上様・・・ ああ・・・・たまら姫・・・ ぴ〜ららも・・・・ 」

最後に小柄な女性が駆け込んできて大息をついている。

「 艦長殿。 いえ・・・これは無粋な呼び名ですな。 どうか・・・フランソワ−ズ殿と

 お呼びすることをお許しください。 」

「 はい、どうぞ。 陛下。 」

カタ・・・ 部屋の隅から低い音が聞こえた。

控えている赤い服の従者が ほんの少しだけ姿勢を崩したのだ。

もっともそれに気が付いたのはフランソワ−ズだけだったけれど・・・

 

< ・・・ ジョー? どうかしたの。 >

< ! な、なんだよ!? コイツ・・・・ 馴れ馴れしい! >

< し・・・! 我慢して、お願い、ジョ−。 相手は仮にも 国王陛下 なのよ・・・ >

< それでも・・! おい、フラン。 もういい加減でここを発とうよ。 >

< ええ。 なんとか切り出してみるから・・・ もうちょっと我慢してね >

< ・・・ わかった。 従者クン はしっかり職務にはげんでいるよ。 >

< まあ・・・ ジョ−ったら・・・ >

 

何食わぬ顔で二人は素早く脳波通信を交わした。

「 ご紹介します、亡き王妃の妹・・・ 姫の叔母にあたる ソニアです。

 ソニア。 こちらは姫をにっくきゾアの手から救ってくださった・・・フランソワ−ズ殿。

 あの優美な船の艦長どのだ。 」

「 ソニアと申します。 この度はたまら姫のこと・・・ 本当にありがとうございました。 」

「 フランソワ−ズです。  たまら姫様がご無事で本当によかったですわ。 」

「 おお、そうだ。 ソニア、貴女からもお願いしてください。

 フランソワ−ズ殿に いま少しこちらにご滞在ください・・・と。 」

「 あら・・・ お帰りになると仰っていらっしゃるのですか。  」

「 ソニア様。 わたし達は ゾアに拉致された仲間を救出しなければなりません。

 美しいこの星を拝見できまして、本当に幸せでした、ありがとうございました。 」

フランソワ−ズはなんとか辞去のきっかけをつかもうと、苦心惨憺しているのだが・・・

「 おお〜〜 この星をお気に召して頂けましたか! それは光栄です。

 ああ、本当にこれは運命の出会いですね!  いや、姫が齎してくれた幸せでしょう。 」

「 ・・・ あのォ・・・・ 」

「 明日、姫が無事に戻りましたのを祝してささやかな宴を催す予定にしています。

 フランソワ−ズ殿、 どうかご出席を賜りたく・・・ お願いいたします。 」

「 ・・・え・・・ あの・・・陛下・・・ 先ほども申し上げましたが わたし共は・・・ 」

「 姫? 姫からもお願いしなさい。 フランソワ−ズ殿に 姫の宴にいらしてくださるよう・・・ 」

「 おとうちゃま? ・・・ パーテイ? うわあ〜〜い♪ たまら、大好き〜〜 

 たまら、お兄ちゃまと〜 だんす するの。 ね、お兄ちゃま♪ 」

たまら姫は 父親の腕の中からフランソワ−ズの後ろに控えているジョ−に向かって

さかんに手を伸ばしている。

「 おお、 おお そうか そうか。 フランソワ−ズ殿? 姫もこのように申しています。

 どうか・・・従者君共々ご参加ください。 」

「 ・・・陛下・・・ ありがたい仰せですが・・・・ わたし達は闘いの旅の途中なのです。

 御目出度い席に招いて頂きましても 相応しい恰好すらできませんわ。 」

「 そのようなこと、お気遣い無用です。 今お召しの服も大層お似合いですが・・・

 よろしければ亡き王妃のドレスを・・・ ソニア、お願いします。 」

「 ・・・は、はい。 義兄上さま。 」

「 ご配慮、恐れ入ります、陛下。  

 それではたまら姫様へのお祝いの気持ちとして・・・ ご招待をお受けいたしますわ。 」

「 おお! そうですか、ありがとうございます。 姫、そなたからもお礼もうしあげなさい。 」

「 ・・・ ありがとうございます、 おねえちゃま。 」

たまら姫は父王の腕の中で ぺこり、とアタマを下げた。

「 まあ・・・ お可愛いこと。  陛下。 明日、必ず参上いたします。

 本日はイシュメ−ルに残る部下達との打ち合わせもございますのでこれで失礼させて頂きます。 」

フランソワ−ズはきっぱりと言うと 優雅に会釈をした。

「 このまま今宵、この宮殿にお泊りになって構わないのですよ。

 いや、できればそうして頂きたいのですが。  あなたとゆっくりした時間を過したい・・・ 」

コツン ・・・!

従者の靴が床を踏みしめる微かな音が響いた。

フランソワ−ズは 咄嗟に小さな姫君に腕を差し出した。

「 姫君にお約束いたします。 明日の夜には 楽しいひと時をご一緒しましょう、と・・・

 ねえ、たまら姫さま ? 

「 ・・・ お姉ちゃま・・・ ばいばい、はいや。 たまら、お兄ちゃまと〜ぴ〜ちゃんと〜

 もっとあそぶの。 おにわにゆきましょう、きれいなお花がいっぱいよ〜 」

たまら姫は フランソワ−ズの腕の抱きとられつつも後ろにいるジョ−に向かって

小さな手をひらひら振っている。

「 おお、おお そうか、姫。  姫もこのように申しておりますから 是非に・・・ 」

 

< おい! フラン! 冗談じゃないぞ! このなんたら24世・・・ なにを企んでいるのか・・・

 油断できないヤツだ! >

< ジョ−! 落ち着いて。 仮にも一国の君主なのよ? 無茶な真似なんかなさらないでしょう。 >

< フラン〜〜 君主もへったくれもあるかい! オトコなんだよ?? きみは無防備すぎるよ〜〜 >

< ・・・ ジョ−のやきもち焼さん♪ ・・・ そうね、それじゃあ・・・ ね? >

< ・・・ え?え? なにか言ったかい。 >

< ふふふ・・・黙って はい って艦長命令に従ってね? >

< ・・・ いいけど・・・ >

 

「 陛下。 それでは・・・ 姫君のお遊びのお相手にこの従者を、今宵こちらに留めておきますわ。 

 ねえ、姫様? それでしたら お許し頂けますか? 」

 

< えええ〜〜〜〜!!! >

< しッ!  艦長命令よ! ・・・ 約束でしょ。 ちゃんと明日の夜、迎えにくるわ。 >

< ええ〜〜〜 そんなあ〜〜〜  フランソワ−ズゥ〜〜〜 >

 

「 わ〜い わ〜い♪ お兄ちゃま〜〜〜 いっしょにごはん、たべましょう。 

 お兄ちゃま、いっしょにねんねしてね。 あのおふねの中とおんなじがいいわ〜

 たまら、お兄ちゃま、だ〜〜い好き♪  」

「 ・・・ 姫君 ・・・ こ、光栄でございます。 」

従者はなんだか引き攣った顔で がくん・・・と膝を折ってお辞儀をした。

「 そうですか・・・ 残念ですが・・・ では あなたとゆっくり過す機会はまたの日にいたしましょう。 」

国王陛下は しぶしぶ頷いた。

 

 

 

 

・・・・ ぷっ ・・・!

誰が吹き出したのかは わからなかったが。 

でもその小さなきっかけでイシュメ−ルのコクピットは笑いの大渦に包まれてしまった。

 

  わははははは ・・・・!  ヤツはまた 御守か!

 

  いひひひひ〜〜〜 今度はジョ−が人質かよ〜〜

 

  うふふふふ・・・・ 大変だろうねえ〜〜 おままごとの相手もさ・・・

 

  ほえっほえっほえっ〜〜 ジョ−はん、どないな顔してはるかいな!

 

  ふふふ・・・・  姫はご機嫌だな。

 

  わっはっはっ!!! さぞかし ・・・ 情けない顔をしていたであろうな。

 

「 ・・・ そんなに 笑わなくてもいいじゃないの・・・ 」

なかなか収まらない爆笑の中で フランソワ−ズは憮然とした面持ちである。

「 だってね! そうでも言わなかったら帰してくれない雰囲気だったんですもの。

 あの国王サマ ・・・ 悪気とか陰謀ではないのでしょうけれど・・・ 」

「 うふふふ・・・ 判るよ! いるよね〜〜 そういう類のヒトってさ。 」

ピュンマは涙までこぼして笑い転げている。

「 そうそう! 完全に自分中心の世界を突っ走っているのだな。

 国王サマなら、まあ仕方があるまいよ。 」

「 グレ−トったら・・・ でもね、ともかく明日の晩はその・・・ 宴 には出席しないと・・・ 」

「 いっひっひ・・・・ ヤツを救出しなくちゃなんね〜よな!

 フラン〜〜 気ィつけろ〜〜 お前、油断しってとあのチビ姫に取られるぜえ〜 」

「 ? 取られるって・・・ なにを? 」

「 ヤツを、さ! お前、ほっんとノンキだよなあ〜 」

「 あら・・・ だって。 あのコはまだみっつかよっつよ? ジョ−はきっと恰好の遊び相手なのよ。 」

「 ・・・ ふん! それも一理あるぞ。 それで俺たちは<警護の従者>か? 」

アルベルトもようやく笑いを収め、真面目な顔で聞いた。

「 ええ。 内輪の宴だ・・・と国王様は仰っていたけれど・・・ でも、ね。

 一応それなりの礼儀を尽くさないと・・・と思うの。 ねえ、サバ。 」

「 はい? 」

「 この ・・・ ファンタリオンという星は随分と豊かな星なのねえ。

 よく今までゾアの餌食にならなかったものだわね。 」

「 それは僕も不思議に思っていたのですが・・・ でもなんとなく判った気がしているのです。 

 勿論、これは僕の憶測にすぎませんが。 」

「 まあ、なんなの? 是非、教えてくださいな。 」

「 ええ・・・ でもお話する価値があるかどうか・・ 」

「 価値があるか、よりも情報が欲しいわ。 ゾアとの闘いに参考になるでしょう? 」

「 そうですね。 ・・・ これは父に聞いた話なのですが、ファンタリオン星にはいつの時代も

 必ず 一人か二人、強いテレパスが生まれていて、彼らの強い 念 が、母星を守っている、

 というのです。 」

「 テレパス・・・? それじゃ あのチビが・・・ 」

「 アルベルト。 あのコはこの星の姫君なのよ。 」

「 あ、ああ。 それじゃ・・・ ゾアはそれを知っていてあのチ・・・いや、たまら姫を拉致したのか! 」

「 恐らくそうでしょう。 ・・・ でも殺すことなどとても出来ずにああやって。

 しかし、どんなに離れていてもテレパスの強い<思い>がある限り、ファンタリオンは無事なのです。 」

「 なあるほどなぁ〜〜 それじゃあのチビっこ姫が 『 おうちに帰りたい〜 』 と思っている限り、

 あの星は鉄壁の守りがあるというわけだな。 」

「 そういうことだと思います。 ですからこの星は今後 あの姫が オウチが大好き♪ と思っていれば

 ずっと・・・ ダガス軍団とて攻め滅ぼすことは不可能なのでしょう。 」

「 ・・・ すげ〜〜 一つの星がチビのご機嫌次第ってコトかよ〜 」

「 ちょっと・・・ ニュアンスは違いますが・・ まあ、端的にいえばそうでしょうね。 」

「 んならよ〜〜 このままあのチビ姫にゾアを倒せって念じてもらえばイッパツじゃん? 」

「 う〜ん、どうでしょうねえ? 恐らくテレパスの<想い>は平和なことにしか反応しないのでは

 ないでしょうか。  攻撃的な事柄には無反応なのだと推測されます。 」

「 へえ? 凄いねえ。 文字通り、チビっこ姫の笑顔が宇宙を救うってわけだよね。

 へえ・・・・ あの、チビっ子がねえ・・・? 」

「 ・・・ なんだかちょっと・・・ 可哀想な気がするわ。 」

「 ま、今のところは <おうちが大好き> で 楽しい遊び仲間もいて、

 チビッコ姫は いたく満足して幸せ気分なのだろう。 」

「 そうなの・・・ それじゃ明日の晩は!どうしてもあの超テレパス姫との約束を守らないといけないわね。 」

「 あ、 パ−チ−だったな! どうぞ我らがマドモアゼルの魅力で異星の宮廷を虜にしてきなさるといい。 」

「 でもどうするんだい? この ・・・ 防護服で出掛けるのかい。 」

「 それなんだけど。 あの国王サマがね、亡くなった王妃さまのドレスをどうぞ・・・って仰るの。 」

「 ひえ〜〜〜 気前、いいじゃんか。 」

「 ・・・ フラン。 気をつけろ。 」

「 え? なにですって? 」

「 気をつけろ。 ・・・ そのなんとか42世陛下はお前に気があるな。 」

「 <24世>よ。 え!? まさか そんな。  あちらは一国の君主様なのよ? 」

「 おう、アルベルト。 流石だな。 視点が鋭いぞ。 」

「 ふん、オトコの心理、そのまんまじゃねえか。 うちのお嬢さんがあまりに無防備なのに

 心配になっただけだ。 」

「 まあまあ・・・ そうムキになるなって。 

 それじゃとりあえず我輩らは <警護の従者>となって我らが姫君をしっかりと

 御守いたそうではないか、諸君! 」

「 ・・・ それと、ジョ−の <救出> だよね。 」

ピュンマがぽつり、と言った。

「 ・・・ 気の毒に。 今晩はきっと・・・徹夜だろうなあ。 」

「 ああ。 ヤツは明日、使いモノにならんかもしれん。 」

「 あら! 一晩くらい徹夜したってジョ−は大丈夫よ。 そんなヤワなヒトじゃないわ。 」

「 へえ〜〜 よくご存知で〜〜 」

「 ・・・え あ・・・ あの ・・・ あ、ほら! ミッションの時なんか徹夜は度々あったじゃない。

 ジョ−はいつだって冷静だったわ。 」

「 はいはい・・・ そういうコトにしておきましょ 」

「 ・・・ もう〜〜 ジェットもピュンマも〜 」

フランソワ−ズは真っ赤になって両手で顔を覆ってしまった。

「 ふふん。 フランソワ−ズ? 今晩は早めに休め。 あとは俺たちで段取りをしておく。 」

「 あら。 まだこんな時間じゃない? 大丈夫、わたしは疲れてなんかいないわ。 

 艦長としての責任もあるし。 」

「 だから、な。 艦長の責任として しっかり休んで美貌を磨いておけ。

 明日の宴はファンタリオン国と我々・・・地球との一種の外交折衝だ。 」

「 左様。 マドモアゼルは地球代表としてこの星の王家の招待を受けるのだからして。

 われら <部下> としても最上の御姿で出席願いたいですな。 」

「 アルベルト・・・ グレ−トも。 わかったわ。  

 それでは 明日の作戦については、004。 お願いします。 明日の朝、詳細を報告してください。 」

「 了解。 」

「 それじゃ・・・ みなさん、お先に・・・ 」

「 ああ、ゆっくり休め。 」

フランソワ−ズは仲間達全員に微笑みかけ コクピットを出ていった。

 

「 さ〜て♪ 姫君のお供はどうする?? 」

「 おい、これは真面目な作戦なんだ。 チビっこ姫のテレパスをどうにかイワンの救出に

 協力して貰えるか、が最終目標だからな。 」

「 そうだね。 ゾアを倒すことができればサバの目的も叶うことだしね。 」

「 ありがとうございます、ピュンマさん! 僕も出来るだけ情報を探します! 」

「 よし ・・・ それではまず王宮の見取り図を頼む。 」

「 了解! 」

コクピットでは深夜まで明りが消えなかった。

満天の星空のもと、ファンタリオン星の人々は穏やかに眠りに就いていた。

 

 

 

 

「 陛下。 本日はたまら姫さまの宴へご招待頂きまして光栄でございます。 」

フランソワ−ズは軽く膝を折り、優美に挨拶をした。

「 おお・・・おお・・・・!! これはなんと・・・ お美しい・・・!!! 

 あ、いやこれは失礼をいたしました。 貴女様のあまりの美しさについ我を忘れてしまった・・・ 」

ファンタリオン国の現国王、ファンタリオン24世は居ずまいを正した。

そして玉座から威厳をもって挨拶を返した。

「 ようこそ、イシュメ−ルの艦長どの。 わが姫の命の恩人にこころから御礼いたします。 

 ああ・・・ それにしても。 亡き妃のドレスが本当によくお似合いだ・・・ 」

「 恐れ入ります、陛下。 ・・・ 時にたまら姫様は? 」

フランソワ−ズはふわりとした裳裾を巧みに捌き居流れる家臣達にも軽く会釈をした。

彼女が身じろぎするたびに うす紫の雲が纏わり翻る。

ほう・・・・ と 家臣達の間から賞賛の吐息があがっている。

 

  ・・・ なんと! お美しい方よ・・・!

 

  これは・・・素晴しい! どこぞの星の王家の姫君か?

 

  ううむ ・・・ 亡き王妃様に勝るとも劣らないこの気品・・・!

 

  ・・・ こんな御方が陛下の後添いになってくだされば宮廷も明るくなるというもの・・・ 

 

  たまら姫様のお幸せのためにも、是非・・!

 

感嘆の小声があちこちから聞こえてくる。

おそらく、国王の耳にも達しているのだろう。 

「 姫ですか? はい、もう貴女の従者君のことが大層気に入ってしまいましてね。 」

国王陛下はくつくつと声を上げて笑い、控える侍従になにやら小声で命じた。

「 どうぞ、舞踏室へ。 姫がお気に入りの部屋なのです。 」

「 ・・・ はあ・・・ では失礼いたします。 」

 

  これ以上 ここに居たら大変だわ。 国王サマがまた妙なコトを言い出す前に・・・

 

フランソワ−ズは足早に侍従の後を追った。

謁見の間とは別棟に <舞踏室> があった。

「 こちらでございます。 ・・・ 姫様? たまら様? 失礼いたします。 」

侍従は大きくノックをすると華麗な彫刻をしたドアを大きく開いた。

 

「 失礼いたします、たまら姫さま?  ・・・ まあ ・・・! 」

フランソワ−ズは戸口で会釈をしたが 顔をあげて思わず小さな感嘆の声を洩らした。

「 ・・・ 素晴しいわ・・・! まるで鏡の間、ね。 たまら姫さま・・? 」

「 きゃ〜〜〜〜 お姉ちゃまだ〜〜  こんにちは! 」

「 ・・・ ひ、姫君・・・・ お待ち・・・・ください〜〜 」

「 あらら・・・ 」

フランソワ−ズの目の前にふんわりしたピンクのドレスを着たたまら姫が駆けてきた。

「 こんばんは、たまら姫さま。 」

「 おね〜ちゃま〜! わあ〜〜〜 きれい! あ、 こんばんは。 」

まあるいほっぺを桜いろに染め、小さな姫君はちょっと気取ってお辞儀をしてみせた。

ゆったりとウエ−ブをえがくプラチナブロンドの髪が笑顔を縁取り、ますます愛らしい。

「 姫様、素敵なドレスですこと。 あの・・・わたしの従者はどこにおりますか? 」

「 え〜 とォ。 お兄ちゃま〜〜? 」

「 は・・・ こ、 ここに ・・・!  ああ・・・! ふ、フランソワ−ズ・・・じゃなくて 艦長!! 」

柱の向こうから赤い防護服姿が現れた、が。

フランソワ−ズの姿を見るなり、 がっくりと膝を突いてしまった。

そんなジョ−の後ろから はやり足元を縺れさせつつ小柄な女性が登場した。

「 ひ、姫・・・ もうわたくしは・・・ あ・・・ ああ! いらっしゃいませ ・・・」

「 まあ、どうしたの? ・・・  あ、ソニア様・・・  こんばんは、お招きありがとうございます。 」

ぼう・・・っとした目でフランソワ−ズを眺めつつ、ジョ−がぼそりと呟いた。

 

「 ・・・ よ・・・ よく来てくれたね・・! 」

 

 

 

 

「 それで ずっと? あの姫様のお相手をしていたの? 」

「 そうだよ・・・ 昨夜はず〜〜っと! 夕食からお休みまでず〜〜っと一緒さ。

 お休みなさい、をしてからも絵本を読んだり、お話したり・・・ やっと眠ったな〜と

 おもったら防護服の裾をしっかり握っているんだもの。 ・・・ しょうもなくて<一緒に>お休み、さ。 」

「 まあ・・・ ぷッ! ジョ−・・・ <初めての体験> は如何でした? 」

フランソワ−ズは肩を震わせて必死に笑いを飲み込んでいる。

「 冗談じゃあないよ〜〜 もう・・・くたくたさ。 コドモのエネルギ−って無限大だね・・・ 」

「 あのソニア叔母様もごいっしょ。 」

「 あ・・・ うん、そうだった。 あのヒトがお風呂とか着替えを受け持ってくれたんだ。

 気さくなヒトでさ、姫君の世話は乳母や召使まかせにしないし。 

 たまら姫も一番懐いているみたいだった。 」

「 ふうん ・・・ 良い方なのねえ・・・ 」

フランソワ−ズは <従者>を引き連れやっと控え室に引き取ることができた。

ジョ−は。

寝癖のせいでただでさえクセっ毛な髪は てんでな方向を向き爆発している。

妙な姿勢で添い寝したせいか、さすがの万能防護服も少々縒れている風だ。

マフラ−にいたってはくしゃくしゃ・よれよれに近く皺が寄っている。

・・・ 要するにかなり草臥れた、いややつれた面持ちだったのだ。

 

  あ〜らら・・・ これはかなり奮戦しちゃったのねえ・・・

  ちっちゃいコのパワ−に最強のサイボ−グもタジタジだったってわけね。

 

「 それでね、今日の作戦なんだけど。 」

「 作戦? ・・・ なにか起こったのか!? まさか・・・ゾアが? 」

「 いいえ、安心して頂戴。 今晩の宴でね、なんとかたまら姫の協力を得たいの。 」

「 協力? だってこんな小さなコに? 」

「 いいえ、小さくてもこの星を護っている強力なテレパスなのよ。

 だからゾアとの闘いにプラスになる方法はないかと思って。 

「 ふうん・・・ あんまり他人頼みはしたくないけど。 

 でもテレパスなら <ゾアを殲滅させてくれ!> で一発だろう? 」

「 いいえ、それがね。 どうも攻撃的なことには効かないのですって。 平和目的、とでもいうのかしら、

 大切なモノとかヒトを護る、という点では鉄壁だそうよ。 」

「 へえ・・・ テレパスにもいろいろあるんだねえ。 」

「 でもね、よかったわ。 本人の意志を無視して軍事目的とか攻撃手段として使われたら・・・

 小さな姫君のこころはどんなに傷つくかしら。 

 それは わたし達自身がいちばんよく知っていることでしょう? 」

「 ・・・ そうだ・・・ そうだったよ。 

 ぼく達は ・・・ ぼく達の正体は兵器だものな。 忘れちゃいけない。 」

「 ええ、そうよ。 どんなに辛くても決して忘れてはいけないのよね・・・ 」

ぽつり・・・・と一粒、涙がフランソワ−ズの足元に落ちた。

「 ほら・・・ 折角の盛装が台無しだよ? さあ 微笑んでくれよ。 

 きみの笑顔がぼく達を支えているんだって言ったじゃないか。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・! 」

「 あれ・・・・ どうしたんだい? なんだか急に甘えん坊になっちゃったねえ・・・ 」

ドレス姿のまま しがみ付いてきた彼女をジョ−は笑って抱き締めた。

「 ・・・ 昨夜 ・・・ 淋しかった・・・ ジョ−がいない夜があんなに淋しいなんて・・・

 わたし ・・・ 眠れなかったわ。 わたし・・・ あの小さな姫君に・・・ 嫉妬したわ・・・ 

「 ばっかだなあ・・・ ほら、せっかくのドレスがくしゃくしゃになっちゃうぞ? 」

「 ・・・ いいの。 ドレスなんて ・・・ ジョ−・・・ キスを頂戴・・・ 」

「 ・・・ ん。 ごめん、側にいられなくて・・・ 」

「 まあ・・・だってわたしがお願いしたのよ、姫君の御守を。 」

「 そうだけど・・・ 昨夜、きみがどんな想いで過したのかと思うとさ・・・ おいで。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ んんん・・・・ 」

「 ・・・ ああ ・・・! ここが王宮じゃなかったら! キスだけじゃ・・・とても・・・ 」

「 わたしもよ ・・・ ジョ−・・・ 

「 この部屋さ、 鍵が掛かる・・・かな? 」

「 まあ! ジョ−ったら。 」

「 だってもう・・・ こんなに綺麗なきみを見たらさ。 ああ・・・ たまらないよ! ね、いいだろ? 」

ジョ−の指がするり、とドレスの胸元から忍びこんできた。

「 ・・・ ジョ−・・・ だ、だめよ。 もうすぐパ−ティ−が・・・・ 」

「 いいさ、遅刻しよう。 イシュメ−ルの艦長と従者は<作戦会議>に忙しいのさ。 」

「 まあ・・・ 」

「 ・・・ ほら、このソファ・・・ 豪華だしゆったりしてるし。 」

「 じゃあ・・・ ちょっと待って? このドレスは拝借したものだから。 汚さないように・・・ 」

「 ぼくが脱がしてやるって♪ ・・・ ほら・・・ 背中のボタンを♪ 」

「 あ・・・ もう・・・ ジョ−ってば・・・ 」

 

   バン ・・・!!

 

「 お兄ちゃま〜〜〜〜!! 」

突如、ドアがあいてピンクのふわふわなカタマリ・・・いや、たまら姫が飛び込んできた。

「 !!!??  た、たまら姫 !! 」

< きゃ・・・! ジョ−! あなた、鍵を・・・! >

< え! だってちゃんと掛けたよ! >

< だってこのコ・・・ あ!そうか、超能力で開けちゃったのかしら・・・ >

< ・・・ ああ・・・・ そうかも・・・ >

「 お兄ちゃま! はやくはやくゥ〜〜 ぱーちーよォ〜 たまらをえすこーとしてちょうだい。 」

「 ・・・ は。 姫君。 」

「 わあい♪ あれぇ・・・? お姉ちゃま〜〜 ドレスのおせなか・・・ぼたんがとれてる〜〜 」

「 え・・・ あ、いえ・・・あの・・・、は、はい、姫様 恐れ入ります・・・ 」

フランソワ−ズは真っ赤になって俯くとあわてて身づくろいをした。

「 ぱーちー♪ ぱーちーよ♪ お兄ちゃま、だんす できる? たまらとだんすしてちょうだい。 」

「 ・・・ 姫君〜〜 そればかりはご勘弁を・・・ 」

< ごめん! ・・・ その・・・大丈夫かい・・・・ ドレス? >

< え・・・ええ・・・。 なんとか・・・ >

王宮の大広間からは 典雅な調が流れて来ていた。

 

 

 

ふうう・・・

少しづつ 少しづつ・・・フランソワ−ズはメインの人波を離れ、やっと窓に近い隅のカウチに辿り着いた。

裳裾を広げ そっと腰を下ろす。

緊張し続けていたのかもしれない、思わず小さな溜息が漏れてしまった。

「 ・・・・・・・・ 」

擦り足で近づいてきた召使が銀盆に乗せたカット・グラスを差し出した。

「 ・・・ああ、ありがとう。 これは・・・ お水ですか。 」

「 はい、 ファンタリオン一番の泉からくみ上げました湧き水でございます。 」

「 まあ、ありがとう。  ・・・・ ああ 美味しい♪ 」

召使は深々と頭をさげて静かに立ち去った。

 

  ・・・ ジョ−は・・・ どこかしら。 ずっとたまら姫と一緒なのかしら。

  あら・・・いやね、わたしったら。

  あんなちいさなコに ヤキモチを妬くなんて・・・

 

国王から紹介された後、家臣達から次々にダンスを申し込まれ <作戦> にとりかかるヒマなど皆無だった。

いや、肝心の姫君ともまったくはぐれてしまっていた。

なんとかしないと・・・と焦る気持ちは募るのだが・・・

宮廷中の人々が 満面の笑みを浮かべ小さな姫君の無事を祝っているのだ。

ひとり、無粋な行動にでるわけにも行かない。

 

  困ったわ・・・ でも、これは他人を頼るな、ということなのかしら。

  わたし達の仲間は わたし達で救出しなさい、と神様のご意志なのかも・・・

 

「 おお! こんなところにいらしたのですか! 」

「 ・・!?  国王陛下・・・ 」

突如 陽気な声が降ってきて 気が付けば目の前にはルドルフ・ファンタリオン24世陛下が

にこやかに立っていた。

「 これは・・・ 失礼をいたしました。 」

フランソワ−ズは慌てて立ち上がり、腰を屈めて会釈をした。

「 ああ、堅苦しいことは抜きにしましょう。 おや、お疲れですか? 」

「 え・・・いえ。 あんまり素晴しい宴なので・・・ 逆上せてしまいました。 少々涼んでおりましたの。 」

「 おお、 それでは丁度いい。 素晴しいものをお見せいたしましょう。 ・・・ どうぞこちらへ? 」

「 ・・・? 」

国王はフランソワ−ズの手を取って 窓辺にすすみ控えていた家臣の合図をした。

カタン ・・・

窓は大きく開き その先には御影石にも似た建材のテラスが広がっている。

そして彼方にはさわさわと針葉樹の林が 気持ちよく揺れる。

 

「 こちらなら・・・ 夜風が貴女の火照った頬に心地よいでしょう? 」

「 まあ・・・・ ああ、本当に。 陛下のお国は豊かな自然に恵まれていらっしゃいますのね。 」

「 はい、ありがたいことに。 さあ、そしてこちらをご覧ください。 」

「 はい? ・・・・ああ ・・・ これは・・・! 素晴しいですわ・・・ 」

かなり広いテラスの先端からは。 目路はるか一面にファンタリオンの都市が広がっていた。

天空の星のごとく、街の明りが散りばめられ黄金色の光を放っている。

「 これが ファンタリオンです。 この豊かな星を、どうか一緒に統べてはいただけませんか。 」

「 ・・・ は・・?? 」

「 フランソワ−ズどの。 貴女の知性、貴女の勇気 貴女の気品・・・・ そして貴女の美しさに

 私はもう・・・驚嘆し貴女の魅力にしっかりと絡め捕られてしまいました!

 どうか 私の妃として、そしてたまら姫の母としてこの星に留まってください! 」

「 ・・・ あの・・・ 陛下? どうぞ お気を確かに? あの・・・御酒をお過ごしのようですわ。 」

フランソワ−ズはじりじりと後退りを始めた。

目の前の男性は どうも酔った上での戯言・・・とは思えない真剣な面持ちなのである。

「 ああ・・・ そろそろお暇しなければ。 陛下・・・それでは今宵はこれにて・・・ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ! あ、いえ失礼いたしました。 つい、気が昂ぶってしまいました。

 フランソワ−ズ殿! このようなことは戯れに口にはできません。

 私は本気です。 心底・・・ 貴女に夢中なのです、ああ〜〜私にまだこんなにも人を愛する

 情熱があったとは! 我ながら驚いていますよ。 」

「 ・・・ は、はあ・・・。 あのゥ・・・姫様もきっともうオネムの時間ですわよね?

 お休みなさい、のご挨拶をして・・ わたし共はこの辺で・・・ 」

「 フランソワ−ズどの! 私が・・・嫌いですか。 それは・・・こんな子持ちの中年男など

 とんでもない、と思われるでしょうけれど・・・ 」

 

   ああ・・・! そんな目をしないで〜〜

   ほっんとうにこのヒトの瞳ってジョ−に似ているのよね・・・

   ・・・ ジョ−に見つめられているみたい・・・ あ・・・あダメ、惑わされては・・・

 

「 陛下! そんなこと、ありませんわ。 陛下はご立派な方です。たまら姫はお可愛いらしいですし・・・

 陛下こそ、こんな異星のものになどお心を惑わされてはなりませんわ。 」

「 いえ! この恋は・・・! 宇宙を超えた運命の恋なのです! 

 ああ、貴女が妃となってくださったら! 私達の素晴しい子孫がこの星をますます繁栄に導いて

 くれるでしょう! 姫も沢山の弟妹を得て喜びますし、民たちも王家の安泰を言祝いでくれましょう。 」

はっし! と国王はフランソワ−ズの手を握った。

 

   ・・・ うわ! きゃ〜〜〜 どうしましょう?? このヒト、本気だわ??

   素晴しい子孫に 沢山の弟妹、ですって??  冗談じゃないわよ〜〜

 

フランソワ−ズはもじもじと手を放そうとするのだが・・・

「 これは! 運命なのです!  姫が導いてくれた、この星の進むべき道なのですよ、フランソワ−ズ! 」

「 陛下。 お言葉を返すようではございますが。

 わたしには使命が・・・ ゾアに拉致された仲間を救出し部下達と共に地球に帰らねばなりません。」

「 ああ、どうぞご心配なく。 お仲間をお助けし皆さんを無事に地球までお送りしますよ。

 貴女がお心を煩わせる必要はまったくありません。 全て夫たる私にお任せください。 」

国王陛下は どん、と胸を叩き鷹揚に頷いた。

 

   ちょ! ちょっとちょっと〜〜 待ってよ、オッサン!

   夫、ですって??  勝手に突っ走らないでくれる〜〜???

   ・・・ でも、このヒト、本当にちょっとジョ−に似ているのよね・・・

 

「 あの! 陛下。 実はわたしには・・・ そのう ・・・ 許婚者( いいなづけ ) がおります。 」

「 その方は・・・? 地球に? 」

「 え・・・い、いえ! 一緒にイシュメ−ルで! あのゥ・・・ ジョ−はわたしの許婚者ですの。 」

「 ・・・ ジョ−・・・? はて・・・ 何方でしたか。 ・・・おお! 姫のお気に入りの!

 あのセピア色の髪の青年がお気に入りですか。  

 それならばますます好都合ですな。 彼に姫を差し上げましょう! 」

「 ・・・ はあ??? 」

「 姫も彼が気に入っている様子・・・ あれが16になりましたら、降嫁させましょう。

 そうすれば彼は一生、あなたの身近に伺候できますよ。 うん、それがいい!

 ははは・・・あなたの義理の息子になるわけですから。 」

 

   ・・・ ぷっちん ・・・・!

 

国王陛下の無邪気すぎる笑い声を聞いた途端  ―  彼女の中でなにかが音をたてて 切れた。

そう。 フランソワ−ズはまさに < 切れて > しまったのだ。

す・・・っと手を引くと、彼女はまっすぐに国王陛下を見上げた。

 

「 あの! ですね! よ〜〜くお聞きなさい ! 」

「 ??? フランソワ−ズ ?? どうなさったのですか。 ご気分でも優れないのでは・・・ 」

「 いいえ! わたしは元気ですわ。 さあ、お口を閉じてしっかりとお聞きなさい。 いいですね!? 」

「 ・・・ はい。 」

たった今までの優雅な美女の突如の変身に 国王サマは度肝を抜かれたようだ。

フランソワ−ズの指示に素直に頷き、テラスの石造りのベンチに腰を降ろした。

「 陛下。 わたしは。 わたしには心から愛するひとがおります! それは 」

 

 

   ド−−−− ン ッ!!!!  ダダダ −−−−−!!!!

 

突然夜空の一角がパァ〜〜っと明るくなり同時に爆音が響き渡った。

 

「 ?! な、何事だ?? 」

「 ! ・・・ ダガス軍団だわ! それも大戦隊がファンタリオン上空に集結しています。 」

フランソワ−ズは素早く目と耳をフル稼働させた。

「 な、なんですと? そんなバカな・・・! わが国の領空にはヤツラは侵入できないはず・・・ 」

「 でも現実に居ます!  < ・・・ 皆、聞こえる? 総員戦闘配置につけ! > 」

< 了解! >

こっそり飛ばした脳波通信に、仲間達からの頼もしい答えがすぐに返ってきた。

「 陛下。 三軍の長は陛下でいらっしゃいますね? 各軍の長官を招集なさってください。

 イシュメ−ルは全力を挙げて貴国の防衛に協力いたします。 」

「 ・・・ 申し訳ないが。 わが国には軍隊というものは存在しないのです。 」

「 ・・・ は???? 」

「 ご存知と思いますが。 現在、この星を護るのはたまら姫です。 

 姫がいる限り、邪悪なものはこの星に手出しはできません。 」

「 でも! 現実に ほら! 上空には・・・きゃ!! 」

 

   バリバリバリ −−−−ッ !!

 

上空からレ−ザ−にも似た光が地上の街々を攻撃し始めた。

「 う〜〜〜ん・・・?? おかしいなあ・・・ 姫〜 姫はどうしているのか? 」

「 陛下! 早くなんとか・・ ええい、いいわ。 ともかくわたし達が相手だわ! 

 < 皆〜〜〜 敵艦の数と座標を送るから! <ゴミ掃除>をお願い!!> 」

「 義兄上様! 大変です! ・・・ああ、フランソワ−ズ様も・・・ 」

「 ソニア様!  姫様は? たまら姫様はどこです。 」

テラスに飛び出してきたソニアは 真っ青になっていた。

「 はい、今ここに。 もうず〜っとジョ−様とご一緒でご機嫌でいらっしゃいますが・・・ 」

「 まあ、よかった。 でもおかしいですわね。 たまら姫が <おうちが大好き> って

 思っていらっしゃる限り誰もこの星に侵略の手は伸ばせない、と聞いたのですが・・・ 」

「 さあ・・・ それはわたくしにも。 ああ、たまら姫〜〜 」

「 あら・・・ ジョ−ったら・・・ 」

ジョ−が小さな姫を抱いて ― いや、たまら姫がぴたり、とジョ−に抱きついて ― テラスへ現れた。

「 おお、姫! 姫・・・ そなたの一番好きなものはなにかな。 お父様に教えておくれ。 」

「 あ〜 おとうちゃま。 なあに? たまらの好きなもの? 」

「 そうだよ。 さあ、ちょっとお父様のところにおいで。 」

「 ・・・ たまら・・・ お兄ちゃまがいいの。 たまら、お兄ちゃまがいっと〜〜う好き♪ 」

小さな姫君は父王の顔を見つめつつも 相変わらずジョ−に抱きついている。

 

「 わかったわ! ・・・ 姫さま、ほんの少しだけ。 こちらにどうぞ。

 従者には <お仕事> があります。 ちょっとだけお暇をくださいな。 」

< ジョ−! イシュメ−ルを呼んだわ。 もうすぐ王宮の上空に来るから合流して! それで >

< 了解! それで思いっきりダガス軍団を叩きのめす! それじゃ! >

幼女をフランソワ−ズの腕に託すと、 ジョ−は静かに柱の陰に退き ― 次の瞬間彼の姿が消えた。

 

< ふふふ・・・ Good luck ・・・! >

「 お姉ちゃま。 お兄ちゃまは? 」

たまら姫はアメジストの瞳でフランソワ−ズを見つめている。

「 姫様。 ジョ−はすぐに戻って参ります。 その前にひとつ、お教えください。

 姫様が一番お好きなものはナンですか? ああ、ジョ−のほかに。 」

「 ・・・ おうち! ひめはおうちが一番すき♪ おとうちゃまと〜おばちゃまと〜 ぴ〜ちゃんと。

 あ! あとお兄ちゃまと。 お姉ちゃまも〜〜 みんなでおうちであそびたいの♪ 」

「 はい、ありがとうございます。 」

フランソワ−ズは微笑んでたまら姫を抱き締めた。 

「 それでは・・・ もうちょっとご一緒させてくださいね。 」

 

その腕に幼女を抱き。 薄紫の裳裾を翻し ― 彼女はテラスの先端に立つ。

そして 天空に向かい高らかに宣言をした。

 

「 邪悪なる者共よ!  この星から立ち去るがよい!! 

 

    ババババババ  −−−−−− !!!

 

一瞬、怯みを見せたダガス軍団に 回り込んできたイシュメ−ルの白い船体が集中砲火する。

< 艦長どの? ノヴァ・ミサイルはいつでも 発射準備オッケ−です! >

< 009! ご苦労様! ・・・ それでは ノヴァ・ミサイル、発射せよ! >

< 了解! >

夜気を切り裂く低い音が伝わり そのすぐ後で

 

    ズガ  −−− ン ・・・・!!

 

大気を震わす大音響とともに 夜空を明るく染め上空の大軍団は殲滅した。

 

「 ・・・ お見事 ・・・ あなたは素晴しい部下をお持ちだ・・・ フランソワ−ズ殿・・・ 」 

「 いいえ、陛下。 すべては この姫君のお心ですわ。 ねえ、たまら姫様?  」

フランソワ−ズは呆然と見守っていた国王と家臣たちに笑顔で応えた。

そして

抱きかかえたちいさな姫君の頬に優しく唇を寄せた。

「 わあ〜〜い♪ ひめ、おうちが一番すき〜 ひめ、 みい〜〜んな すきよ♪ 」

屈託のない笑顔が すべての人々の胸に暖かい想いを振りまいていた。

 

 

 

 

「 よ! 懐かしの地球じゃ〜ん! 帰ってきたぜ〜〜 」

「 アイヤ〜〜 行きはえろう時間食うたけんど、帰りはあっと言う間ァやったアルな〜 」

「 ・・・ ふん、さすがテレパス殿だな。 」

「 うん、凄いね。 ヒトの精神には計り知れないものがあるねえ・・・ メカなんかとても

 足元にも及ばないや・・・ 」

「 狭き門より入り 我ら帰還せり、というところだな。 」

メンバ−達は一様にほっとし、眼前に迫ってきた青い惑星を眺めている。

あとは自動操縦と国際宇宙研究所の地上クル−がイシュメ−ルを導いてくれる。

彼らの長い旅は 今  終ろうとしていた。

 

 

 

 

母星を侵略の手から護った小さな姫が 彼らを無事に おうち に送り届けてくれたのだ。

 

「 姫様。 わたし達も  おうちがだいすき なのです。 」

侵略者どもを片付けた後、

フランソワ−ズの一言に たまら姫は大きく目を見張っていたが・・・こくん、と頷いた。

「 たまら、 おうちが一番すき。 ・・・ お兄ちゃまもお姉ちゃまも おうち がすきなのね? 」

「 はい、姫様。 

「 ・・・ ひめ・・・ みいんな ・・・ すき。 みんな、にこにこしてるのがすき。 

 おうち にかえりたい? お姉ちゃま・・・ 」

「 はい、姫様・・・・ わたし達、皆一緒に帰りたいのです。 」

「 ・・・ うん ・・・ わかった・・・・ 」

たまら姫は父王の胸にしっかりと抱きついたまま、こくん・・・と頷いた。

そして。

   ・・・ かれらの白い船は捕らわれていた仲間も一緒に故郷の星へ還ってきたのだ。

 

 

 

 

フランソワ−ズは静かに艦長席から離れ コクピットを出ていった。

 

   ・・・ フランソワ−ズ・・・?

 

ジョ−は目の端で彼女の姿を見ていたが、しばらくして目立たぬように後を追った。

 

   きっとあそこだ!  ・・・うん、絶対に。

 

ジョ−はまっすぐに艦尾デッキに向かった。

予想どおりにデッキの最後尾に、彼女の姿があった。

「 フランソワ−ズ・・・ どうした。 疲れたのかい。 」

「 ・・・ ジョ−?  まあ、どうしてここに居るとわかったの? 」

「 ふふふ・・・ だってここはきみのお気に入りの場所だもの。 

「 ええ・・・ そうね。 あなたとの・・・ 思い出の場所ね。 」

「 そうだな。 ・・・ 帰ってきたね。 なんだか夢のようだけど。 」

「 あら、夢なんかじゃなくてよ。 ・・・あ・・・ でも そんな気持ちもするわ・・・

 この星々のはるか彼方に あの美しい星があってあの可愛い姫が 」

「 し。 もう・・・ 忘れようよ?  あれは ・・・ ひと夜の夢、さ。 」

「 ジョ− ・・・ 」

「 なあ、フランソワ−ズ。 これから・・・ きみはどうするんだい。 」

「 どうって・・・ ジョ−、あなたは・・・ あなたの次のレ−スは? 」

「 うん、モナコなんだけど。  あのゥ〜〜 もしよかったら・・・ そのゥ・・・一緒に 」

「 え? 

「 えっへん。 あの! 一緒に来てくれませんか。 そして ・・・ 結婚してください!! 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ どうしたの、急に?? 

「 うん・・・ ちょっとね、思うトコロあってさ。 

 フランソワ−ズ。 お願いです。 ぼくと結婚してください。 」

 

   そうさ! ・・・ どこからどんな邪魔が入るかわかったもんじゃないからな・・・!

   あの国王サマだって ・・・ あのチビ姫だって・・・!

   ひょっこり現れたらどうするんだよ〜〜 

   とにかく! ・・・ 早いもの勝ちってことさ!

 

ジョ−は えへん! と咳払いをした。

「 この星々にかけて。 青い地球にかけて。 生涯きみを愛します・・・! 」

「 ジョ−・・・ 夢みたい・・・ 本気? ほんとう・・・? 」

「 ヤだなあ・・・ 信じてくれないかい? それじゃ・・・ 

「 ・・・ きゃ・・・ ジョ− ・・・ もうすぐ地球・・・や・・・・ 」

ジョ−はくい、とフランソワ−ズを抱き寄せると かなり強引にその唇を奪った。

イシュメ−ルはぐん・・・と高度を落とし 青い母なる星にその翼を降ろしていった。

 

 

 

   この世のことは何もかも 過ぎてしまえば夢のまたゆめ

  

   それでは今宵もご一緒に しばし甘き想いにこの身をゆだね

 

   ゆめの浮橋を渡りましょう・・・

 

 

 

 

 

******   内緒のおまけ   ******

 

「 え? ソニアおばちゃまがおかあちゃまになるの? 」

まん丸な瞳をした姫を 父王は優しく抱き上げた。

「 そうだよ。 お父様は身近にこんなに素敵な方がいるのに気がつかなかったのだ。 」

「 わ〜いわ〜い♪ おかあちゃま〜 ひめのおかあちゃまね。 

 ひめもね、おとうちゃま。 ないしょのおはなし、おしえてさしあげる。 」

「 うん、なにかな、たまら姫 」

たまら姫は父王の腕の中で にっこり微笑みはっきりと宣言したのだ!

「 ひめはね! おおきくなったらあのお兄ちゃまのおよめちゃまになるの〜 おやくそくしたもの♪ 」

 

これは とおいとおい異星のお話。  でも。 ちっちゃな姫のチカラにはダガス軍団だって敵わない。

いつの日か。  ・・・ そう、いつの日にか。

艶然と微笑む あのヒトがこの星にやってくる・・・かもしれませぬ。

 

・・・ ジョ−君? さあ、どうする??

 

 

 

 

****************************      Fin.     *********************************

 

Last updated : 11,04,2008.                      back           /          index

 

 

**************     ひと言   *****************

・・・  うは ・・・・ やっと、や〜〜っと終りました〜〜〜 ★★★

延々お付き合いくださいまして ありがとうございました <(_ _)>

なんかね〜 全然タイトルが浮いちゃったのですが・・・ ま、夢のよ〜な体験でした〜ってコトで(^_^;)

と〜もかく!  フランちゃんによる フランちゃんのための フランちゃんの! 超銀 が

書きたかったのでした〜〜〜 ♪♪

ぱろ・こめ♪ と割り切って どうぞ寛大にお読み流しくださいませ。

・・・ そして! 例によって 戦闘シ−ンは見ないフリ〜〜 で通り過ぎてくださ〜〜い (泣)

一言なりともご感想を頂戴できますれば 望外の幸せでございます <(_ _)>