『 蝶の夢 ― (4) ― 』
サア ヨ〜ク 見テネ 〜〜〜
宙にぽよ〜んと浮かんだ赤ん坊は にんまり笑った。
ぷっくらふくらんだほっぺが ぷるる〜〜ん・・・と震えた。
「 う うん ・・・ ぽっちゃり天使さん 」
ナニ? ナンカ言ッタ ?
「 いえいえ〜〜〜 なにも言ってなんかいません〜〜 」
フウン ソンナライイケド ・・・ ホウラ〜〜〜 シッカリ見ルンダ〜〜
ぽわぽわぽわ〜〜〜〜〜ん ・・・
灰色の雪空の下に ぱあ〜〜〜っと明るい光が射し始めた。
「 うわ ・・・? う? 誰か ・・・ いる? あ ! 」
茨の森の奥には 羽根布団に包まれてすやすや眠る姫君の姿が浮かびあがった。
「 あ〜〜〜 フランっ!! フランソワーズぅ〜〜〜〜〜 ! 」
シッテルひとカイ?
「 知ってるよ! よ〜〜〜く知ってるってば!
ね! このコ どこのいるのかい? あ この 茨の奥かなあ〜〜 」
ジョーはもうそわそわ・・・ バカでかい蝙蝠傘でガサガサ、茨の蔓を掻きまわしはじめた。
チョイ待チ。 ア〜〜〜 君ハせっかちナンダネエ・・・
「 え だって! ぼく〜〜〜 彼女を探してここまで来たんだよ?
フラン〜〜〜 お〜〜〜い フラン〜〜〜 聞こえるか〜〜〜い !! 」
チョイ待テッテバ! ・・・ 彼女ハコナイ。 コラレナインダ。
「 え! どうして? あ 眠っているから?? 起きて〜〜〜 フラン〜〜 」
ジョーはもうガンガン怒鳴りっぱなしだ。
チョット〜〜 少シ静カニシテクレルカナア・・・
彼女ハ 起キナイ。
「 ・・・ 起きない?? あ! BGかなんかに捕まったのかい??
もしかして・・・! あの性懲りもないコンピュータ野郎が また! 」
こんぴゅ〜た〜ヤロウ? 誰 ソレ。
「 あ・・・ あ〜〜 忘れてください。 ねえ フラン、どうして眠っているのかい?
眠っててもキレイだなあ〜〜 ・・・ き キスした・・・い ・・・! 」
フ〜〜ン ・・・ 君ナラ魔法ヲ解ケルカモナ〜〜〜
「 ま 魔法?? 」
ソウサ。 彼女・・・金ノ妖精サンは たまあら二騙サレタノサ。
「 たまあら?? あ 悪い魔女 かい?? 」
マアソンナトコダネ。 ホラ、コッチノ道カライクトイイヨ。
ぽわん。 ― ガサ ガサ ガサ ガササササ〜〜〜
赤ん坊天使がちっちゃな手をかざすと 壁みたいに絡み合っていた茨がば〜〜っと
左右に別れて路を開けた。
「 ひえ・・・ すげ〜〜〜 ねえ? この調子でフランの側まで
てれぽ〜〜としてくれないかなあ? 」
ダメダメ。 自分ノ道ハ自分デ切リ開キ給エ。 ぐっど らっく☆
ぽよぽよ〜〜 と手を振ると小太りな天使はぽすっと消えてしまった。
「 あ ・・・ あ〜〜〜 ・・・ 居なくなっちゃったあ ・・・
う〜〜〜 ま いっか。 このまま進むっきゃないもんな〜〜〜 」
バサ。 彼は例の蝙蝠傘を開くと深呼吸をした。
「 よ〜〜し。 フラン〜〜〜〜 待っててくれよ〜〜〜〜〜〜 」
ガサガサガサ ・・・ 彼は茨の茂みを掻き分けて進みだした。
「 ・・・ いてっ! うっひ〜〜〜 えいっ! ぐ〜〜〜
うっひゃ〜 茨ってこんなに痛かったっけ〜〜 ?
ああ 防護服 欲しいよ〜〜う ・・・ えいっ えいっ 」
茨にあちこちを引っかかれ ジョーの顔も手足も傷だらけになってしまった。
「 う ・・・ いって〜〜〜〜 ああ 痛い ってこんな感じだったんだ?
ふ ふん 引っ掻き傷だ、なんてことないさ! そうだ! え〜と ・・・・」
ジョーは背負ってきた袋を下ろし ごそごそやっている。
「 ・・・ あ これ! これを巻いてゆけっていわれたんだっけ。 」
毛皮でできた脛宛と手甲みたいなものを引っぱりだすと くるりと巻きつけた。
「 グレートに似たおっさんが作ってくれたのさ。 よ〜〜し これで 少しは
茨に勝てる かなあ〜 よくぞ・・・! 」
ガサ ・・・ ! ばきぼき ・・・
茨を掻きわけてゆくと ・・・
「 ? あれ? 雪が降らなくなった よ? 」
チクチクな棘で守られた中は ― 冬景色が消えていた。
「 ここは ・・・ 真冬じゃないんだ?? 雪は残ってるけど・・・
あ 向うに見えるのは もしかして王城かな? うん きっとそうだよ。
よお〜〜し! ゆくぞ〜〜 」
ぶんっ! 彼は蝙蝠傘を大きく振りかざした。
「 いらっしゃいませ 旅の御方 」
「 へ??? 」
突然 彼の目の前に 紫の薄もやを漂わせた姿が現れた。
「 だ だれだっ??? 」
「 わたくしは この森に棲む タマアラ と申します。 」
「 ! じゃ じゃあ〜〜 オマエが 悪い魔女 なのか?! 」
ザザザッ ! ジョーはぱっと飛び下がり身構えた。
「 お前が〜〜〜 フランにちょっかいを出したんだなっ ! 」
「 ああ ・・・ あなたまでそんなことをおっしゃるのですか ・・・ 」
薄紫の女は よよよ〜〜〜と泣き崩れた。
「 わたくしは ただ ・・・ 素敵な御方を待っているだけですのに ・・・ 」
「 ふ ふん ! 泣いたってダメさ! ちゃ〜んと聞いてきたんだから 」
ジョーは蝙蝠傘を構え じり じり・・・っと間合いを縮めていった。
「 お前を倒して フランを眠りから解き放つんだ〜〜
そんでもって ここの冬を終わらせるんだ! 」
「 フラン ・・・? 」
「 そうさ! ぼくの大切な女性 ( ひと ) なんだっ 」
「 そう ・・・ きっと美しい方なのでしょうね 」
「 でしょうねって! お前が! フランに呪いをかけたって聞いたぞ! 」
「 呪い ですって?? まあ〜〜〜 そんな恐ろしいこと、いたしませんわ 」
「 だってこの国の人々がそう伝えられているって ・・・・ 」
「 わたくしは ただ ・・・ 素敵な殿方をお待ちしていただけです・・・
ねえ 異国から来た旅の御方 ・・・ あなたは王子様ですか? 」
「 お おうじ??? と〜んでもない〜〜 ぼくはただのサイボーグ ・・・
あ〜〜 ・・ いや ただの え〜〜 風来坊さ。 」
「 まあ それならば。 この地にとどまってわたくしと豊かなこの国を統べて
くださいませんか 」
「 はへ?? 」
「 この地の王としてご一緒にこの地を治めていってくださいませ。
わたくし一人のチカラではとても とても ・・・ 」
よよよ〜〜〜 薄紫の女は 再び涙に暮れた。
「 そ ・・・ そ〜ゆ〜ことは 他の人に頼むんだな。 」
「 お願いいたします、 きっとこの地にはわたくしたちの素晴らしい子孫たちが
増えて ・・・ 」
「 ふ ふんっ! 騙されないぞ〜〜 ぼ ぼくには フランが ・・・
フランソワーズ ぅ 〜〜〜〜〜〜〜〜 !!
ぽわん。
ジョーの叫び声に反応したのか 目の前に 艶やかな笑みを浮かべた
金の髪の妖精、 いや フランソワーズの姿が現れた。
じょー。 ホラ 君ノふらんダヨ ・・
彼の耳元で あの小太りな天使の声がした。
「 ああ ! ありがとう〜〜〜 イワン!
フラン〜〜〜 すぐにきみのところまでゆくからね 〜〜〜 」
ジョーは 蝙蝠傘を構えつつじりじり・・・ タマアラに接近していった。
「 まあ そんな恐ろしいモノなど引っ込めてくださいましな。
ねえ ・・・ ステキな旅の御方・・・・ 二人で仲良く暮らしましょう? 」
ぴと。 白い手が彼の胸に伸びてきた。
「 ! さ 触るなッ そこをどいてぼくを通せ。 」
「 わたくしがこんなにお願いしても ダメですの? 」
「 ぼくは ! フランを助けるッ! 」
「 〜〜〜 そうか〜〜〜〜 これほど頼んでもお前は〜〜〜 」
「 ??? な ?? 」
どろどろどろ〜〜〜〜〜 うす紫の女の容貌が灰色の老婆に変わりはじめた。
「 ! やっぱり! お前は 悪い魔女 なんだな〜〜
去れ〜〜〜〜〜〜 ・・・・ !! 」
ジョーはなかり滅茶苦茶に蝙蝠傘を振り回した ― すると
「 えい ッ やあ〜〜〜〜〜 う〜〜〜 当たらないなあ〜〜 えいっ !! 」
「 いひひひひ〜〜 そんなへっぴり腰で当たるもんか〜〜
」
「 くっそ〜〜〜 サイボーグの時は百発百中だったのになあ・・・
う〜〜 ぼくってこんなにノーコンだったのかなあ〜〜 えいっ えいっ ! 」
さんざん空振りを繰り返していると ・・・
ぼわ〜〜〜〜〜ん ・・・・っ
「 うぎゃ??? 」
突然手応えがあり 傘がぐにゃり、と撓んだ。
あれぇ ?? あ ??? 当たったぁ〜〜〜
まぐれ当たり一打は 大場外ホームラン? となり ・・・
― タマアラは ぴゅ〜〜〜〜・・・っと飛んでいった。
「 は・・・ 当たっちゃったのかなあ ・・・・? 」
じょ〜〜 ヨクヤッタネ ! 悪イ魔女ハ凍リツイテ飛ンデ行ッタヨ!
例の 小太りな天使 が ぼてん、と現れた。
「 え ホントに?? 」
ウン。 チョイト加速シテヤッタカラ 宇宙ノ果テヘ飛ンデイッチャッタヨ
「 ・・・ え ・・・ それって ・・・ 大丈夫??? 」
ウ〜〜ン?? 魔女ダカラ ナントカスルダロ?
マタ 通リスガリノ旅人ヲ誑カシタリシテ サ
「 ふうん ・・・ あ! 早く フランを起こしに行かなくちゃ!
このまま 進んでいいだよね? 」
サア ? ソレハ自分デ探シ給エ。
じゃあね〜〜 ・・っとぷっくら天使は ぽわん、 と宙に消えてしまった。
「 あ ・・・ あ〜〜〜 もう〜〜
ふん いいさ、いいさ。 お城はもう目の前だもんな〜〜 この傘で茨を あれ? 」
サ サワサワ〜〜〜〜
今さっきまで鋭い棘を四方八方に突き出し、侵入者を防いでいた茨の蔓が ―
ゆらゆら ・・・ ゆっくりと揺れはじめた。
「 ? な なんだ?? 茨が ・・・ あれれ 薔薇の蔓に変わったよ?
つぼみが あっちこっちにあるなあ〜〜 あ 咲いてきた ・・・ 」
恐ろしい茨の帳は 香り高い花を揺らす優美なカーテンをなった。
「 へえ ・・・ キレイだなあ〜〜 ちょっとゴメンね〜〜 入れてくれる? 」
ジョーは身を屈め 薔薇のアーチをくぐった。
「 ・・・ ここは もしかして・・・ 宮殿の庭 かなあ ・・・
あれれ? あっちこっちで人が倒れてる ?? 」
慌てて駆け寄ってみれば ― 倒れている人、 召使い風の女性やら 兵士っぽい男性も
皆 よ〜〜〜く眠っているのだった。
「 もしも〜〜し?? お城に入るのはこっちからでいいんですか〜〜〜 ? 」
近寄って顔を覗きこんで 終いには肩をゆさゆさ・・・やってみたのだが ・・・・
ぐ〜〜〜〜〜 すぴ〜〜〜〜〜
むにゃ むにゃ むにゃあ ・・・
召使いさんも兵士クンも よ〜く眠っていて全然目覚めないのだ。
「 う〜〜ん?? やっぱフランを起こさないとダメなのか・・・ 」
しょうがないや、と ジョーは蝙蝠傘を背負い直すとてくてく歩き始めた。
「 ひっろ〜〜いなあ〜〜〜 ・・・ 加速そ〜〜ち! ってやれば一秒であのお城まで
着くのになあ ・・・ あ そうだ〜 ジェットとかアルベルトは いないのかな 」
広い庭園を突っ切り、寝入っている人々の間を通り、やっとお城のテラスまでやってきた。
「 ふうん ・・・? ここは春なんだ?? 薔薇がキレイだなあ 」
実は ジョーがタマアラの呪いを破ったときに この地の永遠の冬が終わっていたのだ。
「 おじゃましま〜〜す?? 」
テラスには 煌びやかな衣装の人々が これもぐっすりと寝入っている。
「 ふうん・・・? この辺にいるのはやっぱ身分の高いヒト達ってことか ・・・
あ! あれ〜〜 ジェットじゃないか〜〜 お〜〜い 起きろよぉ〜〜〜 」
見慣れた顔が ぐ〜ぐ〜寝込んでいるのを発見し駆け寄った。
「 ジェット〜〜 起きろよ〜〜 」
「 〜〜〜 むぐぐぐぐ 〜〜〜〜 」
良く知っているはずの顔なのだが やけにキラキラした装飾過多の服を着ていて
どんなにゆすってもかなり手荒に頬を叩いても ― むにゃむにゃ言っているだけだ。
「 ダメかあ ・・・ 普段から寝起き、悪いもんなあ
誰が 他にもいないのかな え〜と・・・? 」
きょろきょろしていると 馴染みの顔があちこちに見つかった。
「 あ〜〜 アルベルト〜〜〜 おい 起きてくれよ〜〜〜 ・・・ ダメかあ
こっちには あ ピュンマ! ・・・ え〜と・・ このヒト 誰だろ?
どっかで見たような感じなんだけど 」
アルベルト、 ピュンマ ・・・ いや 彼らにそっくりの人達の側に
金髪の青年が やはり滾々と眠っている。
「 誰だっけ? なんだか ぼくがよ〜〜く知っている人に似てるような気がするんだけど 」
ジョーはしげしげと彼の顔を眺めた。
「 ・・・ きっとこのヒト・・・ 青い目だよ。 なんでかわかんないけど・・・
ねえ ぼく 貴方に会ったこと ありますか? 」
「 ・・・・ ファン ・・・ 」
「 え? 起きてくださいよ〜う ・・・ だめかあ ・・・
このヒトも立派な身なりをしているけど ・・・ ようし っと。
ここから お城の中だな〜 きっと。 お〜〜い 入ってもいいですかあ〜〜 」
彼は庭から テラスへ そして 立派な設えの王城の中へと足を踏みいれた。
「 ・・・ わあ ・・・ すご〜〜い〜〜〜〜 なんか昔絵本で読んだ < おしろ >
そっくりだなあ 」
侍女やら 警護の兵士やらがそこここで眠っている。
大きなテ―ブルがそちこちにあり その上にはご馳走が並んでいる。
「 へ ・・え ・・・ でもこれ 皆傷んでいるんじゃないのかなあ
だってさ、 この地の冬はもう40年続いているって グレートみたいなおっさんが
言ってたもんなあ 」
ジョーはそうっとテーブルの上の料理に顔を近づけてみた。
「 ! なんか ・・・ 全然フレッシュだ! こっちのレラスなんか今 採れたばっか
みたいに瑞々しいよ? どうしてなんだ?? 」
壁に近いところには豪華な椅子が置いてあり、そこに座って寝込んでいる御仁は
― 年配の立派なみなりの人が多かったが ― 酒杯を手にしていた。
「 ・・・ 酒? ワイン かな ・・ あ そうだよ〜〜 キレイな色だなあ
クンクン ・・・ うん これもたった今 注がれたッて感じだ 」
ふうん ・・・? ジョーは 寝入っている人々の間を慎重に抜けてゆく。
「 ・・・ こっちは あ 寝室かな〜〜 あの〜〜 シツレイします〜〜〜
不審者 じゃありませんよ〜〜〜 ごめんください〜〜〜 」
その部屋の入口は白やらピンクのふわふわした薄物が幾重にも掛かっていた。
中には やっぱりふわふわした布のカタマリが見える。
「 あ ベッド? 誰か ・・・ 寝てる? 」
ジョーは 駆け寄りたい衝動をおさえ そう・・・っと近づいた。
傍らには 豪華な身なりの貴婦人が眠り、すぐ隣の椅子には王冠を頂いた貴人が
眠りにおちていた。
「 コンニチハ… あ 王様と王妃さま かなあ・・・ うん? 」
真ん中のベッドには ふんわり 横たわっている姿があった。
! あ〜〜〜〜〜 フラン! フランソワーズぅ〜〜〜
もう ジョーは全てを忘れ 愛しいヒトの側に跳んでいった。
「 フラン? フランソワーズ〜〜〜 起きてよ〜 」
抱き起こして ゆさゆさ … いささか乱暴だが もう夢中で揺さぶった。 しかし ―
「 ? なんで 目覚めないんだよ〜〜〜 なんで〜
」
ジョーはっもう 半ベソだ。 彼が泣きわめいても彼女は気持ちよさそう〜〜に
眠り続けているのだ。
「 フラン フランってば〜〜 ・・・ 顔色はいいし 寝息は確かだし・・・
でもどうして目覚めないんだよ?? フラン〜〜〜 」
きゅうう・・・ ! 彼は眠り続ける姫君を 思わずわが胸に抱きしめていた。
ダメダナア〜〜 ワカッテナイネ じょ〜〜
ぽわん。 またまた宙に 小太り天使 が出現した。
「 あ! イワン! ねえ 助けてくれよ〜 フランが起きないんだ〜〜
ずっとく〜く〜眠り続けているだけで・・・ 」
ジョーは 涙も隠さずに訴える。
きす ニキマッテイルダロ〜
天使は 事も無げに言った。
「 え き きす?
」
ソウサ。 ア オデコヤホッペニ ちゅ ジャナイカラネ!
「 ・・・ぼく 歯 磨いてない ・・・ マウス・ペッ〇
か リ〇テリン、
もってないかい? 」
何ソレ。 じょ〜 ぽけっとガ ナニカイイ香リダヨ?
「 え・・・? あ! シナモン スティック〜〜
よ〜〜し この匂いだったらきっと ・・・ えいっ 」
彼はシナモン・スティックを噛むと
よ よ〜〜し ・・・ 行くぞ〜〜〜 フラン〜〜〜 !
決死の覚悟! で 彼は 滾々と眠る彼の恋人の唇に口づけをした。
ぽぽぽぽ ぽぽぽわ〜〜〜〜〜〜ん ぽぽぽ ぽわ〜〜〜〜〜ん
「 な なんだ??? 」
周囲は一瞬にして シナモンの香のする白い煙でいっぱいになった。
「 ・・・ ジョー おはよう 〜〜 」
爽やかな声が煙の中から聞こえてきて ― するり、と白い手が彼の首に巻き付いた。
「 う わ??? あ フラン〜〜〜 起きた? 」
「 ええ ・・・ ああ いい気持ち ・・・ たっくさん眠ったからとっても
いい気持ちなの 」
懐かしい碧い瞳が 彼を見上げてにっこり 微笑む。
「 フラン〜〜〜 ああ よかった! 目覚めてくれたんだね! 」
ゆっくりと彼女を抱き起こす。
「 なんか さ ・・・・ 魔女の呪いとかできみはず〜〜っと眠っていたんだって 」
「 ! あ そうよ〜〜 ローズ・アダージオ 踊ったのよ! あ! 」
「 へ??? 」
フランソワーズは ジョーを押しのけると ふわふわ〜なベッドから降りたった。
「 皆さま さあ 舞踏会の続きをいたしましょう。
父上さま 母上さま ・・・ お目覚めになりまして? 」
彼女は軽い足取りで 国王夫妻のもとにゆき膝を折って丁寧にお辞儀をしている。
「 ・・・ おお 姫 ・・・ 」
「 姫! 無事でしたか ・・・ ! 」
目覚めた国王夫妻は 嬉しそうに養女の姫に微笑みかける。
「 はい。 さあ〜〜 皆さま お目覚めください〜〜 」
彼女はずっと軽いステップを踏みつつ 寝室から大広間に移る。
そして 眠りこけている人々やら 葉を下げている木々やら
花びらを閉じている花に触れたり キスを落としたりしつつ進んでゆく。
ざわ ざわ ざわ 〜〜 たちまち王城は賑やかな人声やら笑い声が戻ってきた。
庭園を望むテラスに出れば 煌びやかな衣装の王子が四人、寝入っていた。
「 皆さま〜〜 お目覚めください〜〜 」
うにゃあ・・? う〜む ・・・ うん? ! 姫!
四人の王子たちは 彼女の呼びかけで次々に目覚めた。
「「「「 金の妖精の姫君〜〜〜〜 」」」 」
「 王子さま方 わたしの大切なヒトを紹介しますね。 」
フランソワーズは にっこり微笑むとジョーに振り向いた。
「 あ ・・・ え〜〜 ジョー です 」
「 ジョーが わたしを そして この国を 魔女の呪いから解き放ってくれました。
ありがとう〜〜 ジョー 」
「 あ・・・ は どういたしまして 」
ふわり。 彼女の唇がジョーの唇に触れた。
う わ〜〜〜お 〜〜〜〜〜〜〜 ♪♪
「 ジョー さあ 踊りましょう? 」
フランソワーズは ぼ〜〜っとしている彼の手を取った。
「 え! ぼ ぼく〜〜〜 芝居とダンスは で できないよ〜〜う 」
「 大丈夫よ ほうら・・・・ 小鳥さんや 蝶々さんも一緒に踊りますって。
あら 樹の上にはリスさんがいるわよ? イタチさんも来たわ。 」
「 わ! すげ・・・ 恐がらないんだね〜〜 」
「 ね? 今まで皆の眠りを 鳥や 虫や 蝶たちが 守っていたのですって。
魔女の呪いで この地が冬になっても 完全に凍り付かないようにしてくれていたの 」
「 へ え・・・ ??? ああ それで ・・・
すごいなあ〜〜 こんな小さな鳥やら蝶々が ・・・ ありがとう! 皆 ! 」
「 うふふ … 皆喜んでいるわ。 さあ 手を出して、ジョー ? 」
「 手? ・・・ こ これで いいの かな ・・・ 」
おずおずと差し出された大きな彼の手に 彼女はそっと白い手を預けた。
「 さあ ・・・ 結婚式のグラン ・ パ ・ ド ・ ドゥ よ〜〜〜
」
「 !!! うっそ〜〜 ぼく バレエなんて全然 ・・・ え? 」
ひら ひら ひら チチチ ・・・・ キュウ 〜〜 ピチュ ピチュ ピチュ〜
二人の周りに 小鳥やら蝶々、小動物たちが寄ってきた。
いっしょに おどりましょう〜〜
おねがいします ・・・ わたしたちのすむこのちをまもってください
「 うん わかった。 ぼくもこの地が好きだよ 」
「 ジョー さあ 踊りましょう! 」
二人は手に手を取って 花だらけの庭にでた。
ふわ〜〜〜ん ・・・ 花の香りが二人を包みこむ。
「 わあ いい香だなあ 」
「 ほんとうね 素敵 ・・・! 」
ほんの一瞬 二人は目を閉じ花の香りを楽しんだ ― はずだったのだけど。
え ・・・? あ あらら ・・・?
「 ぼく ・・・ ? 」 ジョーは 大きな楡の樹に寄りかかっていた。
「 ・・・ あ ら? 」 フランソワーズは 樹の低い枝に腰をかけていた。
「 あれぇ ・・・ ぼく 居眠りでもしてたのかなあ 」
「 わたしも ウトウトしちゃったのかしら・・・ 」
二人は 顔を見合わせちょっと笑った。
目覚めてみれば 眠っていたのはほんのひと時 ― だって花畑の外れでは
まだジェットと少年が蝶を追って騒いでいた。
「 ・・・ 何だったんだろうなあ… 」
「 真夏の昼の夢 かしら ・・・ 」
ひら ひらひら 〜〜〜 花畑には蝶々が舞い 小鳥たちが歌っている。
「 この風景 ・・・ ずっと続けたいなあ 」
「 そうよねえ 原生花園とかにできないかしら
」
「 うんうん ・・・ 博士のご友人と相談してみようよ 」
「 ええ ・・・ ああ いい夢 みちゃった 」
「 うん♪ ・・・ キスしたし してもらったし♪ 」
「 え? なあに? 」
「 いや〜〜 うん いい夢だったね。 」
ジョーとフランソワーズは 静かに微笑みあった。
目覚めてみれば ほんのうたかた いや 現世 ( うつしよ ) こそが夢 ・・・
************************* Fin.
************************
Last updated : 06,28,2016.
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************** ひと言 ************
やっと終わりました〜〜〜〜
滅茶苦茶話〜 ラストの一行が書きたくて
延々〜〜〜〜 引っぱりましたにゃ (*´▽`*)