『 蝶の夢  ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

 

「  わ あ ・・・・ ステキ ・・・ ! 」

「 うん 風が いや 空気が全然ちがうねえ〜〜〜 」

車から出るなり、 二人は感嘆の声をあげた。

「 本当ね! ああ 風の音も そうね お日様の光も全然別だわ ・・・

 ああ いい気持ち〜〜  ふう〜〜〜 」

フランソワーズは すこし歩いては立ち止まり深呼吸をくりかえす。

「 そうだねえ  ああ 空気がオイシイ って このことなんだな〜 」

ジョーも手をふりまわし息をすったり吐いたりしている。

「 ウチの周りだっていい空気だけど ― この季節に ここは天国だわ 

「 うん ・・・ あ〜〜〜 生き返ったよ〜〜〜 

「 うふふ ・・・ 大袈裟 じゃあないわねえ。  ね 肌もさらさらよ?

 き〜もちい〜〜〜 ふふふ 

フランソワーズは 袖をめくり白い腕を空にむかってひらひら揺らしている。

「 ははは ・・・ 泳いでいるみたいだよ、フラン〜〜 」

「 うふ 泳げそうよね〜〜 す〜いすい・・って。 あ〜〜 ふう〜〜〜

 あ !  ね ジョー、 休憩はこれくらいで 

「 あ そうだね!  博士とジェットが待ちくたびれているかも〜〜 」

「 そうよ〜〜 誰かさんは 食糧をまっているのでしょうけどね  

「 だ ね。 博士の煙草も〜〜  さ 行こうか。 あと少しだ 

「 ええ 」 

二人はもう一回深呼吸をすると クルマに戻り出発した。

 

 ―  その年の夏 ・・・ 彼らは北海道にやってきていた。

 

 

「 ・・・ う〜〜〜 ああもうすごい湿気ねえ ・・・ 」

フランソワーズは窓を開けたが すぐに閉じてしまった。

崖っぷちの邸の頭上には ど〜んより灰色の空が広がっていて ― その雲間から

こまかい雨が 際限もなく落ちてきている。

「 洗濯モノもず〜〜っと外に乾せないし ・・・・ ああ 肌がべたべただわ 

「 ふむ ・・・ エアコンのドライをつよくするかい  」

ソファで書物を広げていた博士も 顔をあげた。

「 そうですねえ ・・ 本当は外の空気が好きなんですけど 

「 この季節は仕方がないよ。  どれ ・・・ 」

博士は リモコンを操作した。

「 お願いします。  洗濯モノ・・・ 一応乾燥機で仕上がりますけど

 本当はお日様にあててさっぱりしたいんです、わたし。 」

「 しばらくは無理じゃなあ 」

「 子の国の他の季節は大好きなんだけど ・・・ ああ どうも梅雨だけは ・・・ 」

「 ふむ ・・・ 稲作を始め農業には必要、とは理解できるがなあ 

 感覚的にはどもう馴染めんなあ  」

「 ねえ? 出かけるのも億劫になってしまいますわよねえ  普通。 」

フランソワーズは またちょっと大きくため息をついた。

「 ― アイツは またふらふら出歩いているのかい 

博士は苦笑しつつ聞いた。

「 ええ ・・・ なぜなのかしら ・・・ 

 なんだってこんな季節に わざわざ歩き回るのでしょう〜〜 ??? 」

「 さあ なあ・・・ アイツなりのストレス解消法なのかもしれんよ 」

「 え〜〜〜 ・・・ じとじと雨に濡れて ハネあげまくって・・・ドロドロになって

 帰ってくることが ですか  

「 う〜〜む ・・・ まあ 青少年のココロはようわからんが ・・・ 」

「 他の洗濯はもう済ませたから ・・・ 戻ってきたら身ぐるみ剥いで

 洗濯機行き! だわ〜〜 も〜〜〜 ジョーってば! 

「 ははは ・・・ 

「 わたし達は 美味しいお茶でもいただきましょう 」

「 そうじゃなあ アイツは まあ・・・  夕方までには戻るじゃろ 」

「 もう知りません。  実はね、ブラマンジェをつくってありますの。

 そろそろ冷えたと思います、 庭のミントを摘んできますね 」

「 おお いいのう・・・ では 紅茶はワシが準備しておこうか 」

「 わあ ありがとうございます、じゃ ちょっと温室までいってきますね 」

フランソワーズは キッチンの裏口から庭に出ていった。

 

梅雨時期になり 鬱陶しい天気が続いている・・・のだが。

岬の崖っ淵に建つギルモア邸では 見かけとは裏腹に快適に過ごそうと思えば

一年中 快適温度・湿度の中で生活することができる。

しかし そこに住まう人々はそれを潔しとはしなかった。

彼らは 自然の季節の移り変わりに沿って 静かに穏やかに暮らしていた。

  

 そして  なぜかこの雨の多い季節になると ジョーはふらり、と出かけていって

フランソワーズいわく < ゲデゲデになって > 戻ってくることが多い。

 「 ふう ・・・ いったいなんだってこんなに濡れてくるわけ??

 傘 もってでなかったらコンビニとかで買ったらいいのに 

ぐちょぐちょの服を摘み上げ 彼女はふか〜〜〜くため息を吐く。

もちろん < 最強最新・洗濯機 > に放り込めばあっと言う間にふんわり・・・

 仕上がるのであるが。

「 でもね〜〜 やっぱりお日様に乾してパリっとアイロン、かけたいのよね〜 」

やれやれ…と 彼女はその げでげで服 を洗濯機に放り込むのだった。

 

その日も ジョーのジーンズは裾から色が変わり 茶髪のクセッ毛は

しんなりアタマにへばりついていた。

「 タダイマ・・・  

「 おかえりなさい。 〜〜〜! 」

フランソワ―ズの顔色がさっと変わり    ひゅん!  バスタオルが ジョーの顔に飛んできた。

「 バスルーム 直行! 

「 わかってる。   あ 博士 ・・・ 手紙 きてましたよ 」

彼は 湿った封筒を差しだした。

「 おお ありがとうよ ・・・ やあ 彼からか・・ ふん? 」

博士は早速封を切り熱心によみ始めた。

「 あ〜あ・・・ またゲデゲデ帰宅 ・・・ 」

ため息吐息で 彼女は立ち上がった。

「 着替え、ちゃんとあるのかしら?? 古いTシャツとか出しておいたほうが 」

「 ふむ。  おい 避暑にゆこう。 」

博士が ぱっと顔をあげ高らかに宣言をした。

「 はい??? 」

「 旧知の友からのよい誘いじゃ。 この夏は 北海道ですごすぞ! 」

「 ほっかいどう ?? 」

「 そうじゃ  彼の別荘があってなあ ・・・ 一月ほど留守にするので

 よかったら使ってくれ ・・・ といってきてくれた。 」

「 まあ ・・・ 昔からのお友達なのですか? 」

「 ああ 学生時代からじゃなあ〜〜 ちょっと変わったヤツでなあ 

 生物学から始まって 今では昆虫学の大家じゃよ 」

「 こんちゅう・・・って。 む 虫 ですか? 」

フランソワーズは一瞬 固まった。

 

   ウソ・・・ お家の中とか 虫だらけ とか??

 

「 うん? あ〜 昆虫といってもなあ  アイツは蝶が専門で ・・・

 まあ 趣味が嵩じて仕事になった というところかな。 

 家には貴重な蒐集品がたくさんあるのじゃと。 」

「 まあ … そんな大切なモノがあるお家にお邪魔してもいいのでしょうか 」

「 ああ 蒐集品は別棟にまとめてあるそうじゃから ― 安心じゃよ。

 さあ〜〜〜 快適な夏を過ごそうな 」

「 嬉しいわあ〜〜  ふふふ ・・・ ジョーも ゲデゲデにならないですわね? 」

「 ははは 北海道には梅雨はないでの、その心配もない。 」

「 きゃ♪  ね〜〜 ジョー! ステキなニュースよお〜〜 

「 ・・・ 脱水して乾燥機に入れてきた。  え なに? 」

ジョーはぼさぼさ頭で戻ってきた。

「 ね! ゲデゲデにならない夏よ〜〜〜 」

「 はい?? 

 

  そんなワケで  彼らは北の大地にやってきていた。

 

 

濃い緑の間をぬって レンタカーが走る。

「 え〜〜と?? あ その先の小路を右 みたい 」

「 うん ・・・ 」

「 あ 見えた! ほら 林の向こうにお家がみえる! 」

「 え〜〜〜 どこ ・・・? 」

「 ほら あの木の間よ!  あ ジェットのクルマかしら?? 真っ赤なスポーツ・カーが

 止まってる〜〜 」

「 ・・・ 見えねぇってば  003の目じゃないんだよ〜  」

「 はい? 」

「 いえ ナンデモありません。  やれやれ・・・博士 無事かなあ・・・ 」

「 あ そうねえ  でも案外 楽しまれたかもよ? 」

「 ・・・そうだといいだけど。 急ごう 」

「 そうね 

ジョーはアクセルを踏んだ。

 

 

避暑旅行出発直前に 珍客がやってきた。

スーツ・ケースを前にあれこれ入れたり出したり 大騒ぎをしている最中に玄関のチャイムが鳴った。

「 だから〜〜〜〜  え? 誰かきたわ? 」

「 身軽がいいよ〜〜  あ? ああ そうだね 誰だろ 宅配さんかな〜 なにか頼んだ? 」

「 いいえ?  じゃあ ・・・ 郵便屋さんかしら 」

「 あ ぼくがでるよ〜 

ジョーは少し用心をしていたのだが。

「 あら いいわよ。 わたしがゆくから ジョーは荷物 詰めて? 」

「 わかった。 ぼく、着替えなんていらない 

「 ダメよ、ちゃんともって行くの。  は〜〜い 今 開けます〜〜 

彼女はぱたぱた ・・・玄関に駆けていった。

 

「 よ!  」

 

メールも電話すらなく 突如長身の赤毛が現れた。

「 ま ・・・ ジェット〜〜〜 どうしたの??? 」

玄関のドアを開けて フランソワーズは一瞬固まってしまった。

「 どうしたって〜〜 ちょいと息抜きに来たけさ 

 ま サマー・ヴァケーションって さ。  いけね〜か〜 」

「 いいえ いいえ そんなことないわ。 いらっしゃい〜〜〜 」

「 ほ♪ しばらく厄介になるぜ 」

ほっぺに挨拶のキスをもらってご機嫌ちゃんだ。

「 っけどよ〜〜 っとに べたべた・・・ あっついって〜〜 

彼は ぱたぱた・・・Tシャツの裾で扇いでいる。

「 そうなのよ〜 日本の雨季はちょっと堪らないわよねえ ・・・ 

 あ! そうだわ〜 博士〜〜 お願いがあるんですけど 

「 フラン〜  コーク、もらうぜぇ〜 」

ぱたぱた・・・奥に走っていった彼女の背に叫ぶと、 彼はキッチンの冷蔵庫前に

突進した。

「 ん〜〜  あん? ナンだよ〜〜〜 どっかゆくのか〜〜 」

彼は広げられていたスーツ・ケースやら衣類にちらっと目をやった。

「 あ 〜〜  うん そうなんだけど 

 

 ―  そんなワケで。 北海道避暑旅行 は直前になって + 一名さま と相成った

 

   シュ −−−−− ・・・

ジョーのクルマは 軽快に幅の広い道路を走ってゆく。

やがて幹線道路から枝道に入った頃から 対向車はおろか他のクルマの姿すらも

まったく見えなくなった。

「 すご〜〜い ・・・ ねえ ここも日本なの? 」

「 あは ・・・ぼくもさ〜 この辺りは初めてなんだけど ・・・

 本土とは全然ちがうね 」

「 ね? 空気もお日様の光も全然別よ〜〜 ああ 樹の種類とかも違うわね〜

 あ ほら! 遠くに山がみえる〜 」

「 ホントだ ・・・ へへへ ちょっとスピードアップ〜〜〜 」

「 あら 制限速度は 」

「 いいじゃん 他に誰もいないし〜 」

「 ・・・じゃあ ちょっと待って。 50キロ四方の安全をナヴィするから 」

「 ・・・ え〜〜 そんなのめんどくさ・・・ 」

「 え? なに?? 」

「 ナンデモアリマセン。 お願いします。 」

ジョーは路肩に車を寄せた。

「 ん〜〜〜〜 ・・・・  オッケ〜。 行きましょ! 」

ささ・・・っとぐるりを見回すと 003はオッケーマークをだした。

「 よっし♪ それじゃ ・・・ 加速そ〜〜〜ち! なんちゃって〜〜〜 」

「 きゃ♪ わあ〜〜〜〜〜 きもちいい〜〜〜 」

だ〜れもいない道を ジョーのクルマは爆走していった。

 

  ( ヨイコハ 真似ヲシテハイケマセン )

 

博士とイワンはジェットと先に出発している。

レンタカーの店先で ジェットは当然・・・といった顔で主張した。

「 あ〜 二台 借りてくれや 」

「 二台?  オトナ4人だもの、一台で十分だよ? 」

「 だ〜から。 オレが〜〜〜 たたっと博士を乗せてく! お前らはいちゃいちゃ・・・

 後から来な! 」

「 でもイワンは 

「 ふん。 オレに任せろっての。 いいか? イワンは 001。

 オレ 002。  そんでもってお前 009。 これ わかる? 」

「 ・・・ わかったよ。  」

「 じゃ・・・ これ イワン用のバッグよ、 お任せします。 

フランソワーズは 替えオムツやら着替え、ミルクやらが詰まったバッグを渡した。

「 おう、任せな〜〜  ほんじゃ博士〜〜〜 どぞ! 」

「 あ ああ ・・・ イワン それじゃ 」

「 あ オレが。 イワン〜〜 ほら ベビー用はこっちだ。 」

彼は案外丁寧な手つきで 眠っている赤ん坊を後部座席のチャイルド・シートに

寝かせた。

「 博士〜 ま ちょいと居眠りしている間に到着っすよ〜〜

 えっと・・・・ ナヴィもセットしたし。 ほんじゃ ま おっさき〜〜〜 」

 

  パパパ〜〜〜〜   派手にクラクションを鳴らし 彼は制限速度ぎりぎりで

市街地を抜けていった。

 

 

別荘は 外見は木造、内部は最新の設備を備えたかなり凝った造りだった。

資料保存館 としての別館があり、そちらは自動空調完備の博物館並だそうだ。

二階には客用個室が並び 一階には広いラウンジめいたリビングとキッチンがある。

 

「 わあ・・・ ロマンチック〜〜〜  この窓 懐かしい〜〜 カーテンも素敵♪ 

 あら ・・・ すご〜〜い ・・・ ずっとお庭なの?? 」

フランソワーズは鎧戸の着いた窓を開け目の前に広がる景色に目をみはる。

「 うふふ〜〜 ステキなお部屋に外もステキ〜〜 エアコンなくても

 天然の風がきもちいいわぁ〜〜 」

窓からの風に金髪を揺らし、彼女は深呼吸をくりかえす。

「 ・・・ フラン? 」

「 ?  あ ジョー〜〜〜 」

外から声が・・・と思い、顔をだすと隣の窓で ジョーが手を振っている。

「 あらあ〜〜 お隣さん、ヨロシク〜〜 」

「 あっは♪  ・・・ そっち行ってもいい〜〜 その・・・夜にさ 

「 ど〜ぞ♪  あ ちゃんとドアから来てね? 窓からコンバンワ は NGよ? 」

「 えへへへ・・・ ざ〜んね〜〜ん ♪ 」

「 もう〜〜  ねぇ 本当に素敵なお家ね〜   

「 ウン。 それに北海道って ・・・ すごいなあ〜〜 空とか色も味も全然ちがうね 」

「 味?? 」

「 あ ・・・ 空気の味 かな〜〜 」

ジョーは 空中に顔をだし口をぱくぱくやっている。

「 ふふふ そうねえ  ああ 空気がお花の香りがするわね 」

「 ふ〜〜〜 そうだねえ・・・ ここからず〜〜っと花畑だもの ・・・ 」

「 ねえ 明日はこの辺りを散歩しましょうよ? 」

「 ウン いいね 〜〜  道なんてないけど それも楽しいかも 

「 そうよ ランチをもってピクニックなんてのもいいわね  

「 賛成〜〜  食糧はたっぷり買い込んできたしな 」

「 いいわね♪  あ そろそろ晩御飯の支度しなくちゃ 」

「 手伝うよ〜 」

「 ふふふ 下で 腹減った〜〜 の声が聞こえるわ 」

「 あ  は  ・・・ 」

 

 その晩は 皆でオイシイ空気に触発され?おおいに楽しい食卓を囲んだ。

そして ― 恋人たちは 涼しい大地で熱い夜を過ごした。

 

 

 

 わ 〜〜  ほら そっちだ!  えいっ!  あ あれれ・・・

 

南の斜面いっぱいにひろがる花畑から 賑やかな声が響いている。

色とりどりの花が咲き競う野原で 少年とのっぽの赤毛が補虫網を振り回し < 戯れて >いた。

「 ふふふ 楽しそうね 」

「 … 同年代なんだろ〜 ・・・ 精神年齢が さ 

「 まあ !  聞こえたら大変よぉ〜〜 ・・・ 正解だと思うけど 」

「 だろ? 」

「 ええ  うふふふ ・・・ 」

ジョーとフランソワーズは 声を上げ笑った。

 

別荘の前庭は なだらかな斜面になっていて一面の草原になっていた。

そこに夏の盛りの今、 野の花が咲き乱れている。

< 避暑旅行 > にやってきた翌日 彼らは広い庭に出てランチを広げることにした。

「 この別荘の敷地はものすごく広いんですねえ・・・ 」

ジョーは 周囲を見回し感心した様子だ。

瀟洒な建物の周りには近くは花畑が そして だんだんと背の高い木々が枝葉を揺らす。

玄関までの細い私道の先には ・・・ よほど目を凝らさないと大きな道はみえないのだ。

「 うん?   ああ いや そんなに広くはないらしいよ。

 ここいらはまだ開発されていない土地が多いだけだ、とアイツは言っていたからなあ 」

「 博士のお友達は 研究のためにここに? 」

「 うむ ・・・ ヤツの専門は昆虫学での、ここは貴重な研究材料が豊富なんじゃと。 」

「 そうでしょうね  植物もたくさんありますしねえ 

「 ふむ。 この家の本当の庭はそんなに広くはないしい ・・・・

 周囲は手つかずの原野だから まあ ・・・ 歩き回るくらいなら構わんのさ。 」

「 なるほどねえ ・・・ ああやって昆虫採集で騒いでもオッケーってわけか 」

ジョーは 転げまわっている<昆虫採集>の二人を目で追った。

「 ははは ・・・ そうじゃなあ ・・・

 ああ しかしな、やはりなんというか そろそろ開発の手も伸びてきたらしい。

 ここいらの原野も 掘り返してレジャー施設を作る計画があるんじゃと。 」

「 まあ ・・・ このままのほうがいいのに ・・・ 」

「 そうだよねえ ・・・ このままで立派な < レジャー地 > だよ。 」

「 ふむ ・・・ そうは考えない向きも多いしなあ ・・・

 アイツはそんな施設ができたらここからは引き上げる、と言っておったよ 」

「 でしょうね。  ああ ・・・ この景色 ・・・変わらないでほしいわ ・・・ 」

フランソワーズは背筋をのばし ぐるりを見回す。

「 ほんに別天地じゃな。 ああ そうそう ・・・ そういえばアイツがなあ 」

博士はごそごそ・・・手紙をポケットから引っぱりだした。

「 え〜 と? 妖精に化かされないようご用心  じゃとさ。 」

「 妖精ですって?  え〜〜 妖精って あの羽根とか生えてる?? 

「 う〜〜む?  仔細はわからんが。  ご用心 ・・・と 書いてあるがなあ〜 」

「 なんのことでしょう ? 」

「 アイツはファンタジーなどとは全く無縁なヤツだと思っていたが ・・・

 わざわざ追伸で書いてあるんじゃ 」

「 へえ ・・・ あんまりキレイな場所だから、かしら 

「 わ〜〜 早く食べようよ〜〜 ぼく も〜〜腹ペコ! 」

 

彼らは南の斜面にある小高い丘の上でランチを楽しんだ。

背にしているのは四方に大きく枝を張った楡の樹で 優しい日蔭を提供してくれている。

博士は相変わらず書物を開き 足元には眠りっぱなしのイワンのクーファンが鎮座。

バスケットの中のランチも大方 なくなっていた。

「 ふぁ〜〜〜  ジェットじゃないけどさあ なんだかやたらと腹ペコだよ〜 」

ジョーは バスケットの中をがさがささぐっている。

「 うふふ・・まだリンゴとオレンジがあると思うわよ? 」

「 ・・・あ み〜〜つけた! 」

彼はリンゴを探り当てると きゅきゅっとシャツで拭い、齧りついた。

「 ん〜〜〜〜〜 んま〜〜〜〜〜 

「 ふふ それね、ここの来たとき、駅前の八百屋さんで買ったの。

 地元産みたいね。  小さいけど甘酸っぱくて・・・ すごく美味しいわね 」

「 ん〜〜 あ〜〜〜 リンゴだねえ 」

「 え? なに その感想・・・・ 」

「 だってさ… ん〜〜 やたら甘いだけ・・・っての、ぼく好きじゃないんだ。 」

「 うふ わたしも。  ええ 勿論この国の大きくてとびっきり甘いりんごも好きよ。

 でも ・・・ わたし、故郷の街で齧っていたちょっとすっぱいリンゴがね

 懐かしいのよ。 

「 ふうん ・・・ ぼくもそんなリンゴ 食べてみたいなあ〜

 柑橘類はね〜 口が曲がるほど酸っぱいのとか食べたことはあるんだ。 」

「 まあ この国にもそんなに酸っぱいオレンジがあるの? 」

「 あ・・・ いや アレは多分 夏ミカン だったんだと思うんだ〜

 チビの頃・・・へへ ヨソの家に生ってるの、こっそり さ  」

「 あ〜〜 うふふ・・・ なんて言うんだっけ? あ〜〜〜 ???

 そうそう バチがあたった っていうんでしょ? 」

フランソワーズはケラケラわらい転げている。

「 え〜〜 まあ そんなトコかもなあ 柿もね 空き地に生ってるのはシブかったし 」

「 ここのリンゴ、本当にオイシイわ。  この素敵な空気とお日様がぎゅ・・っと

 詰まっているみたい 

「 あは いいこと、いうなあ〜 ん〜〜〜 うまい♪ 

なだらかな丘の下の方では 昆虫採集組 が相変わらず補虫網を振り回している。

地元の少年と ジェットはすぐに打ち解けて意気投合した ・・・らしい。

 

  さわさわさわ ・・・  爽やかな風が楡の梢を揺らす。

 

「 本当に素敵。 ねえ 妖精 って 本当にいると思う? 」

「 よ  妖精??  ・・・ ああ さっきの博士の話かい 

「 そうよ〜〜 ここに住んでいる方がおっしゃるんですもの、本当かもよ? 」

「 この時代に?  きっと博士の友達は ぼく達をからかいたかっただけさ。 」

「 そうかなあ〜〜  あ ちょっと ・・・ 

「 え??  うわ??? 」

フランソワーズは 齧りかけの林檎をジョーに押し付けると  ―

今まで背にしていた樹、楡の大木に ぱっと飛び付いた。

「 ね〜〜 ちょっと上までのぼってくるわ〜〜〜  遠くまで見えるかな〜〜 」

「 う 上まで・・って??  わ あ ・・・ 」

彼女は靴を脱ぎ飛ばすと 身軽くとするするっと楡の木立の中に消えていった。

「 え〜〜〜 ウソ・・・ フラン〜〜〜 お〜〜い 無事か〜〜い 」

「 ん〜〜〜〜 えい・・・っ!  わ〜〜〜 上に出てたわあ〜〜〜 」

「 はや・・! 上はどうかな〜〜 

「 すっご・・・いわよう〜〜 ず〜〜っとねえ 花畑の先までみえるの〜〜

 林の向こうには わあ〜〜〜 ひろ〜〜〜い草原よ 〜〜 

「 へえ ぼくも登ってもいいかなあ 

「 あ・・・ 上の方ってちょっと枝とか細いのね ・・・ 」

「 ぼくだと折れちゃうかな ・・・ 」

「 あ ジョーならジャンプすればいいんじゃない? ぴょ〜〜ん・・って? 」

「 あれは。 防護服とブーツがないとな〜 それにホラ・・・ 観客 もいるし

 マズいよ〜〜 」

「 ああ そうねえ。 ふ〜〜〜 気持ちいい〜〜〜 

 ふふふ 上からね〜 博士とイワンもちゃんと見えるのよ。 」

「 ね〜〜〜 降りておいでよ〜〜 」

「 うふ ・・・ ごめんなさい、 あんまり気分がいいから ・・・

 えっと? あ こっちの・・・ そうね東側の大きな枝から飛び降りるわ〜〜 」

「 え え〜〜 どこ どこ? 」

楡の木の下で ジョーは大焦り・・ウロウロしている。

「 こ こ♪ ね? 受け止めてぇ〜〜〜 」

「 え??  わ〜〜〜 待って 待って !!   あ みつけた! 」

「 いい? 行くわよぉ〜〜〜〜 

ジョーは 彼女の姿を確認し枝のほぼ真下に立った。

「 いいよぉ〜〜〜 

「 は〜〜い  さあ 蝶々になるわ〜〜 わたし 〜〜〜 」

ぽ〜〜ん ・・・ !  フランソワーズは握っていた枝を蹴った。

 

   ふわり ・・・ 金色の髪を翻し 彼女は宙に浮いた。

 

さあ くるぞ! ジョーは両腕を広げ ―

 

       え??  ・・・   ふっ と 彼女の姿が消えた ・・・!

 

「 !?!? な なんだ???  フラン!! フランソワーズ! 

 どこにいるんだ??  フラン 〜〜〜〜〜 !  」

ジョーは咄嗟に脳波通信をオンにしたが 応答はなかった。

 

     フランソワーズ !!  どこだ 〜〜〜〜〜 

 

梢を見上げ 地を蹴った瞬間  ― ぐらり、と彼の足元が揺らめき そのまま

地の中に吸いこまれてしまった。

 

   う  わ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・ !!!

 

 

Last updated : 06,07,2016.                 index      /     next

 

 

**********   途中ですが

え〜〜〜 原作あのお話 がバックですが〜〜

中心人物は やっぱり 93♪ 

これは ふぁんたじ〜〜 かも〜〜〜 (*´▽`*)