『 田舎町編 − (1) − 』
「 さあ。 これで <駆除作戦> はほぼ完了のはずだ。 」
( ・・・ オ−ライ♪ 水中も終ったよ。 綺麗なもんだ。 )
( オス! 上から見る限り 害虫どもはいないぜ♪ O.K.だ〜 )
「 そうだね。 反応のあった箇所は全て<掃除>したよ。
フランソワ−ズ? 悪いんだけど・・・ 最終チェックを頼んでもいいかな。 」
「 ふふふ ・・・ もうとっくに点検終ってるわ?
わたしの能力の及ぶ範囲内は <駆除済> 、大丈夫よ。 」
次々と入ってくる仲間達の連絡に フランソワ−ズは笑顔で頷いた。
「 そうか。 それなら、これで<本部>の博士達に報告だな。 」
「 あ・・・ グレ−トがまだだよ、アルベルト。 」
「 我輩ならちゃんとココにいるぞ。 」
がさがさと草むらを掻き分け、トラ猫がのっそりと現れた。
「 あら、可愛い猫ちゃん♪ ・・・ ご苦労様 」
フランソワ−ズは屈みこんでトラ猫の顎の下を撫ぜた ― 途端にその姿は消えた。
「 恐縮です、マドモアゼル。 しかし我輩としてはご褒美は ・・・・ 」
ぱっと変身を解き、グレ−トはそのままフランソワ−ズを両腕で抱き締めた。
「 ・・・ 姫君の熱いキスを♪ 」
「 お望みのままに ・・・ サ−・グレ−ト・キャット〜♪ 」
「 フ、フランソワ−ズゥ〜〜 ・・・! グレ−トも ・・・」
「 ・・・ 冗談よ。 」
「 う〜ん・・・我輩として少々残念であ
ジョ−の泣きそうな声に、グレ−トとフランソワ−ズは笑って絡めあっていた腕を解いた。
「 おい、お遊びタイムは終わりだ。 さ・・・ 本部へ集合だ。 」
アルベルトの声にメンバ−達はのんびりと歩き始めた。
そこは 地上の楽園だった。
足の下に広がるのは 土を踏みかめた路である。
小石がころがり両側は雑木林が迫ってきている。 下草があちこちで道路にはみ出ていた。
やがて周囲の藪が切れると、小さな渓流に木製の橋が架かっている。
底の小石まではっきりと見える流れには 魚影がちらちらし、上流からは涼しい川風が吹き降す。
樹々の間、枝から枝へと小鳥達が飛び交い可愛らしい声でおしゃべりをしている。
下草に咲く花にも蜜をもとめてやってきた蜂の羽音がした。
いつか・・・ そう、ずっと昔。 こんな風景があった・・・
自分の周りには 自然の息吹が満ち溢れていたっけ。
メンバ−の誰もが ほ・・・っと吐息をつき、一行の足取りはさらに緩やかになって行った。
「 ・・・ なんか ・・・ いいね、こういう場所って。 」
遥か前方にやっと<本部>の建物が見えてきたとき、ジョ−がぽつりと言った。
「 ふん。 本来なら当たり前の姿なんだがな。 」
「 ヒトは皆・・・ こういった大自然の一部なのだよ。 少年よ・・・ 」
「 そうね。 ここまで復元して維持してゆくのは大変なことでしょうね。 」
「 うん。 だから 人類の<未来の夢> なのかもしれないよ。 」
「 こんな町に住める人たちは幸せね。 」
「 今はまだ短期滞在者 ( visitor ) だけを受け入れるらしい。
いずれはもっと規模を拡大して 常住者を募るそうだ。 」
「 へえ・・・ 僕の国の環境とはちょっと違うけれど でもやっぱり土とか木陰っていいね。
あの川はどこまで流れてゆくのかな。 海がないのがちょっと残念! 」
「 そりゃあんさん、海まで抱えこむのはちょいと無理アルね。
そやけど、川にもぎょうさん魚がおったで、釣りがでけるかもしれへん。 」
今晩のご馳走は新鮮な魚料理かもしれないアル・・・と大人はにんまりしている。
「 このプロジェクトは成功す
アルベルトの冷静な声にも珍しくシニカルさは含まれていなかった。
メンバ−達は笑いを忍ばせて頷きあった。
「 ここにはなにもいない。 なんの声も聞こえない。 」
「 ・・・ え? 」
ぼそ・・・っと呟かれたひと言は ごく低いト−ンだったが充分全員の耳に届いた。
フランソワ−ズは思わず声をあげ、他のメンバ−達もいっせいに振り返り・・・
日頃は無口な巨躯の持ち主を見つめた。
「 なにもって ・・・ どういうこと? 」
「 ・・・・・・ 」
彼はただ、ゆっくりと首を振り目を閉じてしまった。
「 ・・・ 聞こえるのは機械音だけだ。 」
「 ・・・・ !? 」
フランソワ−ズはぎくり、と足を止め<耳>のレベルをmaxにした。
「 なにか聞こえる? フランソワ−ズ・・・ 」
「 ジョ− ・・・ 確かにメカニカル・ノイズは ・・・ 聞こえるけれど
あれは空調とか・・・このド−ム・シティを維持してゆくための音だと思っていたわ。 」
「 でも ・・・ 彼の感覚はメカニックを超えているからね・・・ 」
「 そうよね・・・ あら ・・・ 」
立ち止まっていたフランソワ−ズの肩先に ひらひら白い蝶が纏わりついていた。
「 ・・・ 避けろ! 」
信じられない速さで 大きな手が可憐な蝶を払った。
「 !? なにをするの? ・・・ ねえ、どうしたの。 」
小さな蝶は 巨漢の手であっけなく地に落ちて動きを止めてしまった。
フランソワ−ズは屈んで白い残骸をそっと掌に拾い上げた。
「 ・・・ よく見てみろ。 」
「 ? ・・・・・・ これは ・・・・ !? いやッ 」
「 フランソワ−ズ ? 」
急に彼女の手から放り棄てられたソレに、ジョ−は驚いて手を伸ばした。
「 ジョ−! 拾わないで。 」
「 でも ・・・ 急にどうしたんだい、きみもジェロニモも・・・ 」
「 ジョ−、よく見て。 ソレは ・・・・ ツクリモノよ。 」
ジョ−の指先から 精巧な薄物状のセラミックがはらり・・・と舞い落ちた。
「 ・・・ お疲れ様、 ジョ−。 」
「 きみも疲れたろう? ・・・ やあ、個室も完全にロッジ風なんだね。 」
「 ええ ・・・ でもここも見かけだけ、よ。 」
「 うん。 そうだね。 」
一見木製の素朴なドアを開け、ジョ−はフランソワ−ズの肩を抱いて中に入った。
<本部>に戻り、報告と簡単な打ち合わせをしメンバ−達はそれぞれに
提供された個室に引き取った。
ジョ−とフランソワ−ズにはツイン用の一室が用意されていた。
木の香も芳しい部屋は暖かく二人を迎え入れた・・・風に思えた。
「 だけど・・・ 本当にびっくりしたわ。 この・・・町がねえ。 」
「 うん。 ハイ・テクの粋を結集した、って聞いていたからね。
この町の運営とか自然の景観の維持に使われているのだと思ってたよ。 」
「 そうよね・・・ その技術をNBGが狙ったのだってね。 」
「 ・・・ いや、実際・・・あの<町長サン>は すごい工学者だよ。 」
二人は苦味のまじった笑顔で見詰め合った。
ははは ・・・
・・・ ふふふ
どちらからともなく笑い声が漏れ始め ・・・ 二人はキスをした。
そう・・・ こんなミッションの終わりにはご褒美がなくっちゃ。
「 ようこそ! この コンピュ−トピアへ! 」
<駆除作戦>から戻ってきたサイボ−グ達を この町の<町長>が出迎えた。
彼は満面の笑みを浮かべ 誰彼かまわずサイボ−グ達と握手しまくった。
「 いやあ・・・ どうもご苦労様です! 皆さんのおかげで危ういところを助かりました。
ギルモア博士と皆さんがたまたま来合わせてくださって本当によかった! 」
「 あ・・・ もう、どうかそんな・・・・ 」
町長にぶんぶんと腕を振られ、ギルモア博士は当惑気味である。
「 ・・・ コンピュ−トピア・・・? 」
「 そうです。 この素晴しい田舎町はス−パ−・コンピュ−タ−により完全制御された
夢の町・・・ コンピュ−トピアなのです。 」
NBGの残党を追跡していたサイボ−グ戦士たちは 逃走するヤツラを追って
偶然このド−ム・シティにやってきた。
そしてまさにド−ム・シティの中枢コンピュ−タを狙っていたNBGの別の一味に
出くわし まとめて<駆除>したのだった。
「 ・・・ あの ・・・ その夢の町なんですけど。 」
「 なんですかな、お美しい方。 」
おずおずと口を挟んだフランソワ−ズに 町長は満面の笑みを向けた。
「 あの・・・ こんなこと、申し上げても構いませんかしら。
ここの木や草や・・・ その・・・ 田舎町全ては人工のもの・・・なのですか。 」
「 ・・・ おお・・! さすがドクタ−・ギルモアのサイボ−グ戦士でいらっしゃる。
そう、ここの<自然>は 木の枝から草一本、石ころ一つに至るまで
全てが人工ブツなのですよ。 ・・・ よく見抜かれましたね。
さすが ・・・ 機械のチカラ、人工の眼力には勝てませんなあ!素晴しい! 」
「 ・・・ いえ。 」
フランソワ−ズはぷつり、と言葉を途切らせてしまった。
そんな彼女の不機嫌さにもお構いなしに町長は滔々と機械の優秀さと耐久性について
述べ続けていた。
「 いや〜〜 皆さんのご尽力に彼女も感謝していますよ。 それにしても・・・」
「 町長さん・・・ < 彼女 > ? 」
アルベルトが珍しく口を挟んだ。
いつまでも止みそうに無い町長のお喋りに不機嫌な顔で黙り込んでいたのだが、
ふと、顔を上げて話を遮った。
「 ですから・・・ え? 彼女? ・・・ああ!ええ、<彼女>です。
この町を支配・統括するメイン・コンピュ−タ−のことでして・・・
<母なる大地> とか言いますからな、 女性型でカ−ラ、と名づけています。 」
「 カ−ラ・・・? 」
「 いやぁ・・・ 恥ずかしながら私の亡き妻の名なんですが・・・
長年私の研究上でもよきパ−トナ−だった妻への せめてもの手向けにと思いましてね。 」
「 そうなんですか。 奥様もきっと喜んでいらっしゃいますわ。 」
「 いや、忝い・・・ そうです、明日は皆さんにじっくりとカ−ラが管理・統括する
素晴しいコンピュ−トピアをご案内いたしますよ! カントリ−ライフを存分にお楽しみください。 」
( ・・・ ふん。 すべてツクリモノのカントリ−・ライフか・・・ )
アルベルトがわざわざ全員にチャンネルを開いた通信に
メンバ−達は苦笑を隠すのに苦労してしまった。
そんなサイボ−グ達に目を遣る余裕もなく、町長はまだ一人で<演説>を続けていた。
とうとう堪りかね・・・仲間内の打ち合わせがあるから、と彼らは本部からロッジに逃げ帰った。
二人の部屋には暖炉があり、薪がいい香りを放って燃え盛っている。
まだ夜寒な早春に 炎の温かさは心を和ませる。
・・・ しかし。
手を伸ばせば感じる温かさも 実は天然のものではないのだ。
「 まったくね・・・ すっかり手付かずの自然だと思ってたよ。
この暖炉にしたって、薪から炎から・・・煙まで人工ブツなわけだろ。 」
「 そうらしいわ。 ・・・ ほら、手を翳せばちゃんと暖かいのに・・・ 」
「 ゴミも出ません、有毒な煙も発生しませんってことだろ。
枯れたり朽ちたりせずにいつまでもこのままです・・・ってね。 」
「 ・・・ なんだか ・・・ わたし達を鏡で映し出したみたい。
ねえ・・・ ジョ−、わたし。 あの ・・・ あまりココが好きにはなれないわ。 」
「 うん・・・ ぼくもさ。 今晩一泊して明日は帰路につこう。 ぼく達の家に帰るんだ。
この奇妙なツクリモノの町も今晩だけの辛抱だよ。 」
「 ・・・ ええ ・・・ そうね・・・ 」
「 なんだか浮かない顔だね。 ・・・ こっちへおいで、フランソワ−ズ・・・・ 」
ジョ−は窓辺に佇んでいたフランソワ−ズの腕を引いた。
「 そんなこと、全部忘れさせてあげるよ。 」
「 ・・・・ まあ、ジョ−ったら 」
「 二人の時には きみはぼくだけを見ていてくれればいいのさ・・・
折角だからツクリモノであっても カントリ−・ライフを楽しもうよ。 ・・・んん 」
「 ・・・ あ ・・・ ジョ− ・・・ もう・・・! 」
ジョ−はそのまま彼女を抱き締めると少々強引に唇を重ね ゆっくりとベッドに倒れこんだ。
清潔なリネンの上で、お互いの身体が次第に熱を帯びてくる。
その暖か味は。
そう ・・・ この町とおなじに人工のモノだけれど。 でも。
この微笑は この情熱は。 ・・・この愛は。 紛うこと無き真実なのだ。
・・・ ギシリ ・・・・
一見木製にみえるベッドが二人を抱え込み 軋みを上げた。
悲鳴みたい ・・・ え? 何の・・・・?
熱い波に翻弄されわずかな理性も流される寸前に フランソワ−ズはチラリと思った。
・・・ ここは ・・・ 好きでは ・・・ ない ・・・ わ ・・・ !
しばらく言葉の無い世界に浸り ・・・ 押し寄せる歓喜の波に自分の全てを預けていたが・・・
「 ・・・・ なあに ・・・どうしたの。 」
彼女の身体中に熱くて小さな炎を点じていたジョ−がふと動きを止めた。
「 うん ・・・ さっきから・・・ なんだか誰かに見つめられているカンジがするんだ。 」
「 ・・・ え ・・・? 」
「 まさか、プライベ−ト・ル−ムにまで監視カメラはないと思うけど。・・・ 」
やだ・・・! ・・・ 半分悲鳴をあげ、フランソワ−ズはばさ・・・っと シ−ツをかぶった。
「 フラン・・・? 大丈夫だよ、ほら・・・こうすれば・・・ 」
ジョ−はもぞもぞと彼女のシ−ツの中に潜りこんで来た。
「 きゃ・・・ ジョ−っ・・・ 」
「 ・・・ ね? ここなら見えないだろ。 ・・・ ぼく以外には・・・ ふふふ。 」
「 あ・・・ や ・・・ そんな ・・・ ジョ−ったら・・・ 」
「 し〜〜〜 聞こえちゃうよ? きみの声はぼくにだけ聞かせて・・・ 」
「 ・・・・ いやな ・・・ ジョ− ・・・・ あ ぁ ・・・ 」
<ツクリモノ>の身体を忘れたくて。 せめて忘れたフリがしたくて。
ジョ−はフランソワ−ズの内奥の火をかき立て フランソワ−ズはその炎でジョ−自身を包み込む。
いつになく 濃く熱い夜が簡素なベッドの中に訪れていた。
カ−テンの僅かな隙間から こればかりはホンモノの月の光が細い帯となって
木製を模した床に差し込んでいる。
人工の極致を尽くした田舎町にも 夜は平等にその帳を降ろしてくれるのだった。
「 ・・・ ねえ、ジョ−。 まだ誰かに見られている気がする? 」
「 え? ・・・ ああ、昨夜のか。 うん ・・・ 今はもうそんなには感じないかな。 」
翌朝、各個室に届けられたモ−ニング・ティ−を前に
フランソワ−ズはまだすこし表情を曇らせていた。
「 一応・・・ この部屋は<見た>けれど、隠しカメラとかは見当たらないわ。
お部屋自体はごく普通の田舎風のお部屋よ。 」
「 そうか。 昨日、本部で<名誉町民>だとかで指紋の登録をしたろ? あの時からなんだけど。 」
「 あら、そういえば・・・ 最後にジョ−が手を置いた時、ちょっとヘンだったわねえ? 」
「 うん・・・ ほんの一瞬だったけど。 小さくスパ−クしたみたいに感じたんだ。 」
「 ・・・ なにかしら。 なにか・・・悪いことじゃなければいいけど。 」
「 ふふふ・・・ 相変わらず心配性だね?
大丈夫、僕達はこの町を守ったのだし、それに今日中には出てゆくからさ。 」
「 そう・・・ そうね。 早くここを出ましょう?
なにか ・・・ あまりにも<自然>を装いすぎていて、不気味だわ。
最先端の設備なら いっそメカニック剥き出しの方がず〜っと自然よ。 」
「 わかったから・・・ さあ、もうそんな暗い顔はやめて笑ってごらん?
ぼくは 朝一番にはやっぱりきみの笑顔が眺めたいデス。 ・・・ ね? 」
「 きゃ・・・! もう・・・ジョ−ったら・・・ お茶が零れてしまうわ。 」
カップを渡そうと伸ばされた細い腕を ジョ−はその持ち主ごと引き寄せた。
「 お茶よりも ・・・ きみのキスがいいな♪ 」
「 お早うのキスはもう終りました。 」
「 ぼく・・・ 腹ペコなんだ〜 食べたい、きみが食べたいなあ〜 」
ジョ−はいい香りのする亜麻色の髪に顔をうずめ、熱い吐息を彼女の耳に吹きかける。
「 ・・・ あ ・・もう〜〜 朝からダメよ、ジョ−。
そろそろ集合時間でしょう? ねえ、できるだけ早く ここを発ちたいわ。 」
「 ちぇ。 まあ、いいさ。 ウチへ帰ってからな〜 」
「 ほらほら ・・・ 早く支度して? 博士や皆を待たせてしまうわよ。 」
「 ・・ う〜〜ん ・・・ 朝は・・・苦手だなあ・・・ 」
「 ジョ− ・・・ そんな子供みたいよ。 ・・・ね? 」
フランソワ−ズは伸び上がってかるくキスを返した。
「 はいはい。 それじゃ ・・・ またあのお喋り・町長サンの演説を聴きにゆくか・・・ 」
朝の光の下、<田舎町>はその素晴しさを際立たせていた。
唯一ホンモノの日光を浴び、微風がさわさわと朝の新鮮な空気を運んでゆく。
木々は若い緑を揺らし、下草は朝露を宿し新しい芽をぐん・・・と伸ばし始めている。
どこから見ても、そして肌で感じる全てが <自然> そのものに思えた。
「 ・・・ ふん。 あまりの完璧さにかえって鳥肌がたつな。 」
「 どうも気持ちのイイものじゃないね。 昨日、川で見た魚もきっと・・・ 」
「 はん! ちょっと見、楽しむならお手軽でいいんじゃねえの。 」
「 町長氏のご推奨だが・・・ あまりありがたいお誘いではないな。 」
「 うん。 その辺を適当に一回りして、帰還しようよ? 」
「 そうだな。 」
サイボ−グ戦士達は朝風にマフラ−を揺らし、ぶらぶらと<自然の森>を散策していた。
これで辞去する、という彼らを例の雄弁・町長氏はとんでもない!と大仰に喚いた。
「 いや! ご遠慮は無用ですぞ。 皆さんはこの町の<名誉町民>、カ−ラの恩人ですからな。
どうぞどうぞ ごゆっくり朝の散歩をお楽しみ下さい。
なにも有りませんが・・・ 手付かずの大自然を満喫してください。 それで・・・ 」
「 行くぞ。 」
これ以上、町長の演説を聞くに堪えなくて アルベルトはぼそりとひと言割って入った。
メンバ−達は一様に神妙な顔で − 内心ほっとしていたのだが − 彼に従った。
「 この橋は・・・ワテが乗って大丈夫アルかな・・・ 」
大人は丸木橋の片足をかけ、ぎしぎしと強度を確かめてみた。
グレ−トと二人で魚影を追ううちに急流を下に望んだ橋のたもとにやってきていた。
「 ふん、どうせ強化セラミック製だろ。 見掛けとは違うだろうよ。 」
「 そうアルな。 ほなら ・・・ 」
大人はそれでも そろり・・・と丸木橋に足を踏み入れた。
・・・ バキッ !!
「 !! わぁ〜〜〜 !! 」
「 な、なんだ?? ・・・!! 」
まるまっちい大人の身体が丸木橋ごと落下してゆく。
バサ・・・・
大きな羽音とともに一羽の鷲が急降下し、水没寸前で大人を嘴で拾い上げた。
「 ・・・ あ・・ああ! グレ−トはん!! おおきに・・・おおきに! 」
「 いやなに。 しかし・・・ おかしいぜ、こりゃ・・・ 」
「 ワテの体重・・・強化セラミックをぶち抜いたアルか・・・ 」
「 いや。 よく見てみろ? 丸木が折れたんじゃない。 橋桁が外れ・・・いや、外してあったんだ。 」
「 なんやて?? ・・・ そりゃ管理ミスやないか。 もし普通の人やったら・・・ 」
「 そう、大変なことにな
グレ−トは変身を解かずに大鷲のまま、首を捻っている。
「 まだ、なにか変アルか? 」
「 ココは、この町は 町長サン曰く、<ス−パ−・コンピュ−タ−による完全管理・制御>がウリ
なはずだろ? こんな単純な管理ミスが起きるわけはない。 」
「 ほなら・・・ ワテを落とそうと? 計画的に、ゆう事アルか?? 」
「 そう、なるかな。 しかし ・・・ 理由がない。 」
「 当たり前ヨ! これはすぐに町長はんに抗議せなあかん。 」
「 おい・・・ 待てよ、待てったら・・・ 」
怒りで顔を真っ赤にしてずんずん行ってしまう大人に声をかけ、グレ−トはあわててヘソのスイッチを押した。
「 なんだって? そっちもか?? 」
「 そっちも・・・って アルベルトはん、あんさんも? ・・・ どうしたアルね?」
本部に戻ってきた大人はアルベルトの姿に目を見張った。
彼の銀髪には無数の木屑がひっかかり、防護服は無事だが土埃にまみれていた。
「 ああ。 昨日はなんともなかった巨木が突如倒れてきた。
ご丁寧に下草が足元に絡みついて立ち往生しているその時にな。 」
「 うへ・・・ しかし、お主には木なんぞなんでもないだろう。 」
「 <木>ならばな。 ・・・ ここの<木>は 中味は特殊合金だ。
直撃を喰らったらオレでも無事ではすまされんよ。 」
「 下草が絡まった・・・って言ったよね? 」
「 ・・・ ピュンマ! お主もか? 」
「 そうなんだ。 あの大池に潜ってみたんだけど・・・ 」
トントンとピュンマは自分の頭を軽く叩いている。
「 それで・・・? 」
「 うん・・・ 一見普通の藻が急に足に絡み付いてきたよ。 勿論僕はその位なんでもないけど・・・
これがなかなか解けなくて、手間取っていたら今度はぐいぐい水底に引き摺り込むんだ。
仕方ないからス−パ−ガンで撃ち落したんだけどさ。 」
ふん、とピュンマは手にした藻の残骸をしげしげと眺めている。
「 天然の田舎町を謳っているところにこんなもの、必要かなあ・・・ 」
「 やはりな。 この町は少々・・・ 妙だ。 作為的な・・・悪意に近いモノを感じないか。 」
「 う〜む・・・ しかし、ココは例のス−パ−・コンピュ−タ−が管理しているのだろう?
機械に悪意があるかね。 」
「 ・・・・ ない、とは言い切れん。 」
「 ジョ−達は? フランソワ−ズも一緒だよね。 」
「 ああ。 どうもマドモアゼルはこの町がお気に召さないらしい。
すこしだけその辺りを回ってくるだけにしたいと言っておったよ。 」
「 それにしては遅い・・・ あれ?! 」
ピュンマの言葉が終らないうちに ジョ−が飛び込んできた。
彼の腕の中にはフランソワ−ズが両手で顔を覆い、ぐったりとしている。
「 博士!! いらっしゃいますか?! フランソワ−ズが・・・! 」
「 どうした?!」
全員が総立ちになり、平屋建ての宿舎は俄かに慌しい雰囲気に包まれた。
「 ・・・ ほれ、どうかな。 そっと目を開けてごらん。 ああ、ゆっくりな。 」
「 はい・・・ 」
「 大丈夫かい、痛みは? 光は感じるかい? それで・・・ 」
「 ジョ−! すこし静かにせんか。 」
「 ・・・ すみません・・・ 」
医務室ベッドの脇にジョ−はへばりついたままだった。
フランソワ−ズの半身をしっかりと抱きかかえ支えている。
ギルモア博士がそっとフランソワ−ズの目を覆っていたガ−ゼを取り除けた。
白い指が頬を伝い、瞼に触れ・・・ 顔全体を確かめている。
「 どうじゃ? ああ・・・ 顔の皮膚は大丈夫じゃよ。 少々ひりひりするかもしれんが・・・ 」
「 ・・・ はい。 目の痛みは ・・・ ほとんど無くなりました。 」
「 そうかそうか。 なんとか洗い流せたようじゃ。 」
「 ・・・ 博士 ・・・ ジョ− ・・・ ここは ・・・ 医務室、ですね?
カ−テンが引いてあります? すこし・・・薄暗いカンジ・・・ 」
「 そうじゃよ。 ジョ−、カ−テンを全部払ってくれ。 もう大丈夫じゃ。 」
「 ・・・ フランソワ−ズ・・! よかった・・・! 」
博士の言葉なぞ、てんで耳に入らずに、ジョ−はフランソワ−ズを抱き締めたままだ。
「 ジョ− ・・・ 」
「 ごめん! ぼくの不注意だ・・・! きみをこんな目にあわせて・・・ 本当にごめん・・・ 」
「 あなたのせいではないわ。 あの時、急に何かがわたしの足を拘束したのよ。 」
「 ・・・え ? 」
ジョ−は驚いてフランソワ−ズの顔を見つめた。
「 なんだって? そっちもか。 」
「 アルベルト。 あなたも? あなたもなにか・・・危険な目に遭ったの?? 」
遠巻きに彼女の様子を見ていたアルベルトが声を上げた。
「 オレだけじゃない。 大人もピュンマも ・・・ 全員が<攻撃>されたよ。 」
「 全員が? 」
「 ああ。 ジョ−、お前達は一体どうしたんだ? 」
「 どうもこうも・・・ ただ散歩していただけだよ。 フランがあまり遠くまで行きたくないって
言うし、ぼくもどうも気になることがあったからほら、あの雑木林の辺りを歩いてたんだ。 」
「 気になること? ジョ−、お前がか。 」
「 うん。 どう言ったらいいのかな。 昨日からなにか いつもどこかからか視線を感じるんだ。 」
「 監視カメラがあるのか。 」
「 いや。 フランに見てもらったけど、なかった。 多分・・・ 気のせいかな、と思うけれど。 」
「 ・・・ふん。 その雑木林で何があった。 」
「 何って・・・ あれは何の樹かなあ、小さなオレンジ色の実が生っていて・・・ 綺麗ね、って
フランソワ−ズが見上げていたら突然ばらばら落ちてきたんだ。 」
「 ・・・ ほう。 その実が薬品入りの<爆弾>じゃったのか。 」
「 博士・・・ そうです。 その時、フランは − さっき彼女が言っていましてたが 何かに足を
捕らえて動けずまともに落ちてくる実を受けてしまったんです。 」
「 ひどく稚拙なテじゃが・・・ あの中味はそんな生易しいモノではないぞ。
普通の人間ならひとたまりも無い、まず、失明は確実じゃろう。 」
「 そんなモノがあの実の中に? 」
「 浸入防止や攻撃用のトラップならわかるが。 やはり、な。 」
「 ・・・ 酷い! あの町長サンに抗議しますよ。 きちんと<カ−ラ>とやらのチェックをしろって! 」
ジョ−が珍しく顔を真っ赤にして怒っている。
「 ジョ−。 お前は? 」
「 やはりそのス−パ−・コンピュ−タに・・・ え? なに、アルベルト。 」
「 だから。 お前自身はどうなんだ? なにか妨害にあったか。 」
「 え ・・・? ぼく自身? 」
ジョ−はびっくりした顔でしばらく考えこんでいた。
そんな彼の腕の中から フランソワ−ズがしっかりとした声で応えた。
「 ジョ−は ・・・ あの時、落ちてくる実を払ってくれたりマフラ−で頭を覆ってくれたりしてましたから
多分自分のことはよく覚えていないと思います。 」
「 そうか。 」
「 とにかく! こんな物騒な町から早く出よう。
そのス−パ−・コンピュ−タ−はぼく達が気に入らないんだよ。 」
「 ・・・ ふん。 半機械人間は天然自然の町には相応しくない・・・ってワケか。 」
「 アルベルト・・・ なんというコトを・・・ 」
フランソワ−ズは眉を顰めたが、アルベルトは相変わらず眉間のシワを深めただけだった。
「 う〜ん・・・ ジョ−がアタマにきているのも判るけど。
でもホントにここはすこし変だよ。 出来ればその原因を究明したほうがよくないかな。 」
ピュンマが遠慮がちに、しかしきっぱりと言った。
「 あのなあ ジョ−よ・・・ マドモアゼルもせめて半日でもゆっくり休んだほうがよくないか。 」
「 ありがとう・・・グレ−ト。 でも・・・ わたしは大丈夫よ。 」
「 きみの<大丈夫>はアテにならないからね。
オッケー。 今日もう一日、ここに滞在して<カ−ラ>の真意を見極めてやろうじゃないか。 」
ジョ−は例のコンピュ−タ−に宣言しているんだな・・・
メンバ−達はみな、心の中でうなずいていた。
「 ふふん・・・ <カ−ラ>は随分と分が悪いぞ? 」
「 グレ−ト? 」
なにせ・・・、とグレ−トはフランソワ−ズの前にすたっ!と跪いた。
「 恋するオトコにかなうヤツは いないからなあ! 」
「 グ、グレ−ト! ぼく・・・ ぼく達はそんな・・・ 」
「 ・・・ばか。 今更なにをいうか。 」
ぼそ・・・っと吐き捨てたアルベルトのひと言に ジョ−以外の全員が声を上げて笑った。
ロッジの個室ならともかく安全だろう、とジョ−はフランソワ−ズを抱き上げた。
「 ジョ−・・・ 大丈夫、一人で歩けるわ。 ・・・ 離して。 」
「 いや。 なにが起こるかわからないからね。 部屋までぼくがしっかりガ−ドしてゆくよ。 」
ジョ−はしっかりと彼女を抱いたまま、平然と歩きだした。
「 おい、ボ−イ? 新婚旅行じゃないんだからな。
マドモアゼルを<休ませる>のが目的だぞ。 ・・・手出し無用だ! 」
「 無駄だよ、グレ−ト。 」
ピュンマが肩を竦め、ヒトリモノには目の毒だねえ?と呟いた。
「 ・・・なにか飲む? ここの簡易キッチン、使わせてもらおう。 」
「 大丈夫かしら・・・ 」
「 ぼくがやるから。 普通の火ならなにかあってもぼくには大したコトないよ。 」
「 そう? それじゃ・・・ お茶をお願い。 ティ−・バック、持ってきたのよ。 」
「 ああ、これなら安心だね。 すぐにお湯を沸かすよ。 」
「 気をつけてね、ジョ−。 」
オッケ−・・・と合図してジョ−はロッジの個室に設備されたレンジの前にたった。
「 ほら、ミルク・ティ−・・・。 パウダ−・ミルクで残念だけど。 」
「 ありがとう、ジョ−・・・。 」
「 ・・・ あ ・・・ いけね・・・ 」
なみなみと注いだカップから ミルク・ティ−が少々床に零れてしまった。
「 あらら。 シミになっちゃうかしら。 ・・・ えっとティッシュで拭けば・・・ 」
「 フランソワ−ズ。 」
ジョ−はじっと床を見つめたまま・・・ サイド・テ−ブルに置いたカップを手に取った。
「 よく ごらん。 」
「 ・・・ どうしたの。 あ・・・ あら ・・・ 」
ジョ−はだまって、二つのカップからたらたらとミルク・ティ−を床に垂らした。
床には淡色の絨毯が敷き詰められている。
・・・ うそ ・・・ っ!!
フランソワ−ズが悲鳴に近い声をあげた。
「 ティ−・バッグ ・・・ この部屋に置いてた? 」
「 え、ええ・・・。 荷物から出していつでも飲めるようにってこのテ−ブルに・・・」
「 ・・・・・・・ 」
ジョ−の視線は ・・・ イヤな色に腐食してゆく絨毯に吸い付いたままだった。
「 ・・・ ジョ− ・・・ これも? これも、まさか・・・? 」
「 ちょっとこっちに来てくれる? ごめん、休んでいなくちゃいけないのに・・・ 」
「 大丈夫よ。 何をすればいいの。 」
「 ちょっとレンジのスイッチを入れてみてくれる? いいかい、ぼくが加速してきみを守るから。 」
「 ・・・ わかったわ。 」
きゅ・・・っと口を引き締め、フランソワ−ズはレンジの前に立った。
彼女がスイッチに手を伸ばす瞬間、小さな音とともにジョ−の姿が消えた。
・・・ ジョ−。 あなたを信じているわ。
カチッ ・・・・ ボッ !!!!!
案の定、レンジは轟音を立て炎を吹き上げた。
しかしレンジの前には誰の姿もなかった。
「 やはり、な。 」
「 ・・・ ああ ・・・ ジョ− ・・・! 」
加速を解いたジョ−は フランソワ−ズをしっかりと抱き締めたまま、呟いた。
「 多分 ・・・ バス・ル−ムでコックを捻れば熱湯のシャワ−が噴出すだろうね。
ベッドの上にシャンデリアがあったね? ・・・ きっときみの上に落ちる仕掛けなんだ。 」
「 ・・・うそ・・・ どうして・・・ねえ・・・どうして?? わたし・・・を? 」
「 わからない。 」
ジョ−は脳波通信を全員にオ−プンにした。
( ・・・ みんな ! 無事かい?? )
( ・・・ああ? なにが・・・どうしたって? )
( 何事もない。 何かあったか、ジョ−。 )
( こっちは異常ないぞ。 なにがあった、ジョ−? )
( おい? マドモアゼルは無事か?? )
( どうしたんだい、ジョ−? 博士もイワンも無事だよ。 )
( そうか。 それなら・・・いいんだ。 )
ジョ−はぷつり、と自分の通信を切ってしまった。
( オイ?? ジョ−?? どうした! 009? )
仲間達の怒号をよそに、ジョ−はぐ・・・っと拳を握った。
・・・ この町は、いや、この町を管理する<カ−ラ>は フランソワ−ズを抹殺しようとしている・・・・!
Last
updated : 04,10,2007.
index
/
next
***** 途中ですが。
え〜・・・例のお話の <そうだったらいいのにな♪>編です (^_^;)
ですから 『 田舎町 』編 ではなく 『 田舎町編 』 なのです〜〜 ( どうでもイイのですが・・・)
ジョ−君、フランちゃんのピンチになるとなんだかシャキッとしてますねえ?
ほぼ原作設定、ちょこっと平ゼロ設定が加わっています。
・・・ でも! <カンちがい>じゃ〜ないんですってば!>>平ゼロ〜〜(-_-;)!
お宜しければあと一回、お付合い下さいませ。 <(_
_)>
ばちるど拝