『 帰還 ― (1) ― 』
~ part 1 星の子供たち ~
****** はじめに ******
ご存知・ 島村さんち シリーズです。
【Eve Green】 さまでの設定を拝借しております。
・・・ ほっんとうにさ! オトコノコっていつまでたってもガキンチョなんだから・・・!
うるさい うるさい うるさいよ~~ !
― あ 間違えちゃったじゃないかぁ~ !!
島村すぴか はごしごしと消しゴムでノートを擦った。
ぷんすか怒っているし、めちゃくちゃ狭いトコだし・・・ 算数の宿題がちっとも進まない。
も~~~ !! アイツらのせいだよッ!
怒りのエネルギーは どうやらすぴかのアタマの回転を加速させた ・・・ らしい。
がしがしがし・・・ 今度は猛然とした勢いで計算問題を解いてゆく。
う~ん ・・・ そっか そっか・・・ ここで間違えたんだ?
おじいちゃまが言ってたっけな~ 目をかえてみろって・・・
・・・ う~ん ・・・ こ~ゆ~コトかァ! そんじゃ・・・
がしがしがし・・・ すぴかの鉛筆がノートを埋めてゆく。
あとちょっとでお終いだ!
コレがおわったら えみちゃんとヨーカドーに ビーズを買いに行く約束なんだ♪
え・・・っと。 次・・・ 文章問題はけっこう 好きなんだよね・・・ ふんふん・・・?
亜麻色のアタマは熱心に宿題プリントの上を行き来している。
そんな彼女の背中の向こうでは ―
「 こちら すばる望遠鏡! だいち・・・ 聞こえますか! 」
「 ガガガ ・・・ ぴ~~~ はい こちら 人工衛星だいち! 感度良好です! 」
「 だいち! 今日のレポートを送ってください。
すばる望遠鏡より 全世界へ送信します < 本日も衛星・だいち の状態は良好です。> 」
「 ぴ== ぴ=== すばる望遠鏡! 大変です! りあくしょん・ほい~る の具合が・・ ガガガ 」
「 だいち! ・・・ きこえますか だいち! ちきゅうかんそくえいせい・だいち! 」
「 ガガガ ・・・ ガガガ ・・・ 」
「 だいち! 今 MV-5 ろけっと で助けにゆくぞ~~ ばびゅ~~ん! 」
「 ・・・ ガガガ ああ ・・・ しせいせいぎょ ふのうです~ ガガガ ・・・ 」
どったん ばったん じたばた どたばた・・・・
すぴかが 避難しているソファの周りでは 二人の男の子が大騒ぎを繰り広げている。
茶色のアタマ と 黒のくせっ毛あたま ― すばる と しんゆう の わたなべ君である。
すぴかは ノートを抱えてソファと壁の間で宿題をしているのだが・・・
<すばる望遠鏡> と <衛星・だいち> は 彼女の頭の上に浮遊している・・つもりらしい。
わざわざソファに登ったり降りたり ころげまわったり ・・・ 大騒動なのだ。
本人たちに言わせれば ― 宇宙だもん むじゅうりょくくうかんさ! ・・・だそうである。
「 大変です 大変です ~~ このままでは電波もはっしんできなく ・・・ ガガガ ・・・!
あ・・・! ねんりょうの ひどらじん がもれて ・・・ ガガガ ・・・ 」
「 だいち! 諦めてはいけない! いま 助けるぞぉ~~ 」
ぼっこぼこ ぼっこ~ん ・・・!
すばるがソファの上を歩き飛び降り ついでに すぴかの脚を踏んずけた。
「 ! いったぁ~~~~い!!! も~~~ うるさいってば!!! 」
「 うちゅう・怪獣が吠えていますが。 だいち! だいち~~ がんばれ! 」
「 ガガガ ・・・ あ すぴかちゃん、ごめ~ん ・・ 」
どたどたどた ・・・! ばっこ~~ん ・・・!
うるさい うるさい うるさい~~~!!!
ぴ=== ぴ=== だいち! どこにいますか!?
・・・・リビング中の騒音が 最高潮に達したとき。
「 ただいま ・・・ あら、 わたなべ君、いらっしゃい 」
かたん・・・とドアが開いて 双子たちのお母さんが帰ってきた。
島村さんちの宇宙戦争は ひとまず休戦になった。
その年の初夏 多くの人々が一心に空を見上げていた。
日ごと・夜ごとにその数は増え 皆泣き笑いみたいな顔ではるか星の彼方を見つめている。
人々の想いは ただひとつ。
― 還ってくる ・・・! おかえり! ― おかえりなさい・・・!
遠い天体までゆき お使い を果たし。 満身創痍になり戻ってくる小さな探査機を人々は心待ちにしていたのだ。
岬の突端に建つ洋館でもご同様で 住人たちはネットや新聞で情報を集め見入っていた。
一番熱中していたのは すばる だ。
すばる ― 星の名を持つ男の子。 ジョーとフランソワーズの息子は今年小学五年生になる。
そして彼の <しんゆう> は 偶然にもこの国の人工衛星と同じ名前をもっていた。
わたなべ だいち君である。
「 ほう・・・ お前たちも宇宙に関心があるのかい。 」
「 おじいちゃま! うん! すごく! 」
「 そうか そうか ・・・ うん、お前たちは宇宙の子だものなあ。 」
「 うちゅうのこ? 」
「 そうじゃよ。 すばる はな、星の名であり 大きな天文台の望遠鏡の名前でもあるんだ。
そっちの君は だいち君 だったな。 」
「 はい、すばる君のおじいちゃま。 僕 わたなべだいち。 」
「 ほうほう・・・いい名前じゃなあ。 だいち は2006年に打ち上げられた地球観測衛星じゃ。
今も宇宙を飛んでおるぞ。 」
「「 え・・・ ほんとう?? 」」
「 本当じゃとも。 二人とも生まれながらにして宇宙と縁があるんじゃなあ。 」
― ギルモア博士のこのひと言が 二人の男の子の宇宙熱に点火してしまった・・・
以来 ― この二人はヒマさえあれば うちゅうごっこ に夢中になっている。
「 あ! お母さん! おかえり~~~♪♪ 」
「 しまむら君のおばちゃん、 コンニチワ 」
・・・・ うわ・・・ また やってたのね・・・
フランソワーズは リビングの惨憺たる状態をちらり、と見て 一瞬、固まったが。
すぐに笑顔になった。
「 さあさ オヤツにしましょう? すぴかは お部屋かな 」
「「 うわ~~い ♪ 」 」
オトコのコたちは 大歓声をあげている。
「 すぴかさ~~ん? オヤツよ~~ あら 聞こえないかしら。 」
「 うちゅう怪獣なら ソファの後ろにいるよ ねえねえ オヤツ なに? 」
「 宇宙怪獣? ・・・ すぴかは出かけたのかしら。 す~ぴか~さん! 」
フランソワーズは リビングのドアを開け二階へ声をかけた。
「 ・・・ ここにいるよ。 」
「 あ・・? あら・・・ 」
ソファの後ろから 母と同じ色のアタマが ひょっこりと出てきた。
「 そんなトコでなにしてたの? オヤツにしましょ。 」
「 ・・・ 宿題。 」
「 宿題? いい子だけど。 お部屋でやったら? ここ、うるさいでしょう。 」
「 ・・・ やってたよ! そしたら~~ すばる達がさ、子供部屋で <宇宙ごっこ> 始めて。
うるさいからアタシ、リビングに来て宿題 やってたんだ。
そしたら!! コイツら こっちにも降りてきて ! 」
「 宇宙はひろいんだから! 50億キロ飛んでも やっと小惑星まででさ! 」
「 すばる、地球との往復で 50億キロだよ 」
「 あ そうだよね~ だから! ず~~っと家中を僕たちは旅してゆくんだ~
いおん・えんじん 点火 ~~ ! 」
「 はいはい、 わかりましたよ。 ほら、オヤツよ~
食べたらね、その宇宙の旅の続きは あなた達の小屋でやりなさい。 いい?
お庭中 宇宙にすればいいでしょ。 ね! 」
フランソワーズは 窓の外を指差した。
「 ! お母さん!! こや じゃないよっ! 僕たちの ひみつきち!! 」
すばるが珍しく 母に大声を上げている。
側で わたなべ君も真剣顔で うんうん・・・と頷く。
「 はいはい・・・ 秘密基地、ね。 そこならいくらでも騒いでいいから。 」
「 了解! あ そうだ! オヤツ、 ひみつきち で食べてもいい? 」
「 ええ いいわよ。 マカロンとお煎餅だけど 持っていったらいいわ。
じゃあ 飲み物は麦茶をペット・ボトルにいれておくから。 」
「 うわ~~~!! わたなべ隊員、 それでは出撃! 」
「 らじゃ! しまむら隊員! 出発~~!! 」
オトコのコたちはぶんぶん腕を振りつつ・・・ 庭へ駆け出していった。
「 ちょっと! あなた達~~ ゴミはちゃんと持って帰るのよ!! 」
母の金切り声は どうも宇宙の深遠には届かなかったようだ。
裏庭の奥に博士が 簡易天文台 をつくってくれた。
天文台、といってもロフトに転がっている廃材を利用した博士の手作り、もちろんジョーも
そしてすばるもお手伝いをした。 望遠鏡もご同様に手作りである。
( 見かけのわりには抜群の精度なのだが。 )
掘っ立て小屋 か 物置 に近いけれど すばるは大喜びで、さっそく しんゆう と
秘密基地ごっこ を始めた。
設立者として 博士も適当に混じって楽しんでいる模様だ。
「 おじいちゃま・・・じゃなくて! ぎるもあ博士! 僕たちに指令をください! 」
「 ほうほう・・・ それじゃ、な。 隊員諸君! まずは掃除じゃ。
我々の基地はきちんと整頓されていなければなあ。 」
「 りょうかいしました! 」
「 りょうかい! すぐにそうじにかかります! 」
オトコノコたちは 嬉々としておんぼろ基地の掃除にとりかかっている。
掘っ立て小屋 はだんだんと天文台に近くなってきた。
休日にはジョーも時々顔をだしているらしい。
「 あれでさ 博士も楽しんでいらっしゃるようだよ? だんだん装置が増えてきた。
すばる達は夢中だけど・・・ なんとか隊の隊員なんだってさ。 」
「 そうなの? ・・・ 家の中で大騒ぎされるよりいいけど。 」
フランソワーズは なにやらあまり機嫌が良くない。
今まで子供たちが庭でキャンプなどをすれば 喜んで食料の調達をしたり 一緒になって
飯盒炊爨に興じるたりしていたのだが・・・
ふうん? あんまり関心、ないのかなあ・・・
・・・ あ そういえば 宇宙の話題って興味ないみたいだっけ
電子工学を学ぶほどの女性なら 宇宙科学にも興味はあるだろうと思っていた。
ジョーはすこしばかり意外に感じていた。
「 あれ。 裏庭で 洗濯モノを干すのにじゃまかなあ。 」
「 ううん・・・全然平気よ。 あのコたちは ほとんど小屋の中に篭っているし。 」
「 小屋 じゃなくて 秘密基地 だそうだよ? 」
「 え? あ ああ ・・・ そんなこと、言ってたわね。 」
「 ・・・ フラン? なにか気に触ること、言ったかい。 」
ジョーは読み止しの新聞をたたみ、彼の細君をじっと見つめた。
「 ・・・ あ ごめんなさい・・・・
ジョー。 わたし ね・・・・ あの ・・・すばる達のせいじゃないんだけど・・・
あの ・・・ 基地 とか 隊員 とか・・・ そういうの、あんまり好きじゃないのよ。 」
「 ・・・ ああ そうか。 うん ・・・ そうだね
ぼくこそ ・・・ 無神経で ごめん。 」
「 ううん ・・・ わたしこそ。 すばる達にとっては遊びなんですものね。
変に拘って ・・・ごめんなさい。 」
「 いいんだ。 いんだよ・・・無理にガマンするな。 ― 誰のせいでもないんだから・・・ 」
ジョーはすい・・・とフランソワーズの腕を引き寄せた。
「 ぼく達の家はここ。 ぼく達はごく普通にこうして・・楽しく平和に暮らしている。
家族そろって元気に仲良く ね。 そうだろ? 」
「 ・・・ ん。 ごめんなさい ・・・ ジョー ・・・ 」
「 ばか・・・あやまる必要なんかないよ。 」
「 ん ・・・ 」
フランソワーズは涙の筋の残る頬で ひっそりと微笑んだ。
「 ・・・・・! ・・・ 」
ジョーは たまらなくなって彼女を抱き締めた。
秘密基地 や 隊員 。 指令 や 復唱 や ・・・作戦。
すばるやだいち君には 遊びでも。
― ジョーたちにとっては 現実 なのだ。
今 この仮初めの平和な暮らしもいつまた <あの日々> に転じてしまうか、それは誰にもわからない。
子供達が無邪気に口にする言葉はどうしても 過去の日々 を、出来れば忘れたいあの日々を連想させてしまう。
ごめん ・・・ ごめんね。
ジョー。 あなたこそ謝る必要なんか ・・・ ないのよ?
うん ・・・ それでも・・・
あなたがいれば ジョー。 わたしは元気よ。
それは ぼくのセリフだ。
二人なら。 どんな辛いことでも乗越えてゆけるから。
ジョーとフランソワーズは こころからお互いの存在を愛しいと思っていた。
「 なあ・・・ あんまり気にするなよ? アイツら ・・・・すぐに飽きるさ。 」
「 さあ ねえ・・・? うん、 でも もう平気。
わたしこそ変に気を回してごめんなさい。 」
「 ん ・・・ そうやって笑っててくれよな。 ぼくの奥さん。 」
「 ・・・ ありがと、ジョー。 」
そんな訳で 最近ではオトコノコたちは裏庭の掘っ立て小屋に篭ることが多い。
今日みたいに 家の中で大騒ぎするのは珍しかった。
「 ・・・ ああ ・・・ やっと静かになった・・・!
すぴかさん? オヤツよ。 ほら・・・あなたの好きなお煎餅。 」
「 うん ・・・ あ ・・・ ほうじ茶がいいな~ アタシ。 」
「 そう? それじゃ・・・ 」
宇宙空間 から いつものリビング に戻った中ですぴかがのんびりお煎餅を齧っている。
フランソワーズも カフェ・オ・レを淹れ、隣に座った。
「 煩いわねえ・・・ すばるたち。 」
「 うん。 男の子って。 いっつまでも赤ちゃんだね、お母さん。
ごっこ遊び なんて幼稚園生みたい! 」
「 ほんと! ・・・ ねえ、すぴか。 お部屋 ・・・ すばると別々にしましょうか。 」
「 え・・・? 別々って ちがうお部屋にするってこと? 」
「 そうよ。 もうすぐ中学生でしょ? すぴかだって一人のお部屋・・・欲しくない? 」
「 ・・・ 一人ってさ。 寝る時も一人ってことだよね。 」
「 ええ 勿論。 すぴかさんの好きな風に飾ったらいいわ。 お花模様の壁紙して・・・
カーテンはピンクがいいかしら。 あ、すぴかさんはグリーンが好きよね。
ねえねえ 素敵なレースのカーテン、一緒に探しに行かない? 」
フランソワーズは すでに娘と二人でショッピングにゆく気になりウキウキしている。
「 それでね~ ベッドも選んでいいのよ? 今のじゃそろそろ小さいでしょう?
北欧調がいい? それとも・・・ 」
「 ・・・ アタシ。 今のまんまでいいや。 」
「 それとも 現代風の ・・・ え? 今のまんま・・・? 」
「 ウン。 すばると一緒でいいや。 ずっと一緒だもん、あいつ ・・・一人だと さ。
お寝坊したり くつ下 びっこたっこだったり・・・ 放っておけないもん。 」
「 でも ・・・すぴかだけの一人のお部屋、欲しくない? 」
「 う~ん ・・・まだ いい。 あ アタシ えみちゃんとヨーカドー、行って来る! 」
「 あ・・・ ああ そう・・・? あの 気をつけてね。 5時までには帰るのよ。 」
「 ウン。 お煎餅、おいしかった~~ あ。 お母さん? 」
「 なあに。 」
「 お父さんもさ~ オトコノコ だからさ。 お母さん、大変だね~~ 」
「 え? 」
「 お父さんもさ、 お寝坊だし パンツはどこだ~ とか ネクタイが上手く結べない・・!とか
いつも騒いでるじゃん? 」
「 ・・・ え あ ああ そう、 ね。 」
「 だから お母さんもお父さんと一緒のお部屋なんでしょ? いろいろ・・・大変だよねえ・・・
オトコノコの世話ってさあ。 」
「 あ ・・・ え ま、まあ ね。 ・・・確かに、オトコノコ、だわねえ、お父さんも。 」
「 うん。 じゃね! イッテキマス~~ 」
すぴかは相変わらずのバミューダ・ショーツ、スニーカーの軽い足音をひびかせ出かけてしまった。
「 ・・・ あ いってらっしゃい・・・ 」
ごたごたしていたリビングは 急にし~~んとして。
ポリリ ・・・・
フランソワーズはぼんやりとマカロンを齧った。
なんだか ・・・・ つまんないなあ・・・
すぴかもすばるも ― お友達と一緒の方がいいのねえ・・・
おかあさん ・ おかあさん ・ おかあさん~~~
ついこの間まで小さな手が両側から ぎっちり彼女のスカートを握っていた。
おかげで フランソワーズのスカートはまず両側が伸びたり破れたりし、上等なものは着られなかった。
お気に入りのワンピースも裾の両側がびろ~ん・・・と変形してしまった・・・
その二つの小さな手は ― 今、外の世界に向かっていっぱいに伸ばされている。
「 ・・・ ふふふ ・・・ 可笑しいわねえ。 ヒマになって静かになったのにぼんやりしてる、なんて。
ああ そうだわ! 今日はジョーも早く帰れそう・・・って言ってたっけ。 」
それじゃ・・・! 彼女は勢いよくソファから立ち上がった。
「 うん! とびっきり美味しい 晩ゴハン~~つくっちゃう♪
ウチの 大きなオトコノコのためにがんばっちゃうわ。
ジョー ~~ 待っててね~~ 今晩はジョーの好きなラタントゥイユよ! 」
この家の女主人はエプロンを片手に 意気揚々とキッチンに向かった。
「 あのね あのね~~ 今日はね、月のかんそく、したんだ~~ 」
「 ヨーカドーにはねえ あんましビーズなかったんだ。 こんどヨコハマに行きたいなあ。 」
「 これ・・・ 美味しいね! うん・・・最高~♪ フラン、また料理の腕あがったね! 」
「 こ~んなにねえ 月がおっきく見えてさ。 ね! おじいちゃま。 」
「 おお そうだったなあ。 ・・・ うん、フランソワーズ、これは実に美味いぞ。 」
「 まあ ありがとうございます、博士。 ジョー、大好物でしょ? 」
「 うん。 ウチの夏はな~ これがなくっちゃ・・・ うん、美味い! 」
「 ねえ お母さん。 東京にも ビーズのおみせ、 ある? 」
「 そうねえ ・・・それじゃ今度 ゆざわや にでも一緒に行きましょうか。 」
カチャカチャ・・・ 食器の触れ合うおとやら 椅子を動かす音 そしてたまには・・・
「 すばる! お口に食べ物を入れたまま お喋りしないの! 」
「 すぴか。 ず~ ・・・ってお味噌汁を飲まないでちょうだい! 」
母の小言も聞こえてきて ― 島村さんち は晩御飯の真っ最中である。
今日は 約束通りジョーも早目に帰宅し、ひさびさの家族そろったテーブルは
いつもにも増してにぎやかなのだ。
ふふふ・・やっぱり皆で 一緒に食べるのが美味しいわね。
あ・・・ いいなあ・・・・ うん、これが我が家なのさ・・・!
わいわい・ごたごた、あまりお行儀はよくないけれど ジョーはこんな雰囲気が好きなのだ。
・・・ 彼がずっと憧れ続けてきた 家庭 ・・・ それを今、存分に味わっている。
フランソワーズも小言を言いつつも、ついつい口元が綻びてしまう。
愛する夫と 愛する子供たち。 父親とかわらぬ博士の暖かい微笑み・・・
今 彼女は余りある幸せを両腕いっぱいに抱えている。
「 それでね!! 本当に還ってくるんだ!! 帰ってくるんだよ! 」
すばるが一段と 声を張り上げている。
「 知ってるよ。 理科の授業で習ったじゃん。 でもさ~ 燃えちゃうんでしょ。 最後はさ。
ハヤテ君がそう言ってたよ。 」
「 たいきけん突入~~なんだよ~ とびっきりの流れ星になるんだ! 」
カチャ・・・ン ・・・!
一瞬、 食卓のおしゃべりが止まった。
テーブルの下に フランソワーズの湯呑が落ちて ― 割れた。
「 ・・・ あ ご、ごめんなさい。 手がすべって・・・ 」
「 フラン? 大丈夫かい。 手は・・・・ 」
「 お母さん! アタシ、お雑巾もってくるから。 すばる! あんた、カケラ拾って。 」
「 う うん ・・・ 」
「 ああ ああ いいわ、すばる。 手を切ったら大変 ・・・ あとでお母さんが自分で片付けるから・・・
すぴかもお雑巾、ありがとう・・・ あとはお母さんがやるわ。 」
「 よ~し それじゃ。 すぴか すばる。 お父さんと一緒に後片付けだ!
お父さんがお皿を洗うから お前たちで綺麗に拭いて片付けるんだ。 できるかな。 」
「 でっきるよ~~! アタシ、きゅっきゅ・・!ってお皿を拭くの 大得意~~ 」
「 僕だって 僕だって~~ 」
ジョーは上手く子供たちを キッチンにさそっていった。
そんな夫の背を フランソワーズは温かい涙をうかべ眺めていた。
「 ・・・ 大丈夫かね。 すこし疲れているのではないかな うん? 」
「 博士 ・・・ ごめんなさい・・・ちょっと眩暈が・・・ 」
「 うん ・・・ 気にするな。 すばるやすぴかは何も知らんよ。
あのコたちは単に探査機の話をしていただけだ。 ・・・ 気にするな・・・ 」
「 ・・・ 博士 ・・・ 」
フランソワーズは思わず顔を上げ じっと博士を見つめてしまった。
「 ・・・・・・・・ 」
博士は 黙って ― 大切な < ひとり娘 > の髪を撫でてくれた。
「 ・・・・・・・・・ 」
彼女もまた ひっそりと涙を拭っていた。
ふんふんふん ・・・ すぴかは歯を磨きながらハナウタまで出てきた。
ふんふんふ~ん♪ 新しいビーズ、買いにゆくんだ~ お母さんと♪
顔を洗っても 拭いても すぴかのハナウタは続いていた。
すばるはまだリビングで おじいちゃまに張り付いて てんたいかんそく の話を聞いている。
アタシだってちゃんと知ってるも~ん。
ハヤテ君が教えてくれたし・・・
・・・ あ。 流れ星 ・・・って
もしかして。 お母さん ・・・ 好きじゃない のかなあ・・・
バスルームを出たところで すぴかの脚は止まってしまった。
― あれ。
お母さん さ ・・・ もしかして 泣いて・・・た・・・?
「 すぴか? 」
「 ?! あ お父さん ・・・ 」
後ろから声を掛けられて すぴかはちょっとびっくりしてしまった。
「 なに~ お父さん。 」
「 うん ・・・ フラン・・・いや お母さんから聞いたんだけど。
すぴかはさ、 ソファの後ろで宿題、してたんだって? 」
「 あ・・・ うん。 だってさ~~ すばるとだいち君がさ~ 家中で大騒ぎしてたんだもん。
アタシ、シェルターに避難してたの。 」
「 シェルター ・・・ねえ。 なあ、すぴか。 すぴかも ひみつきち、 欲しくないかい。 」
「 ひみつきち!? ・・・ お庭にもういっこ小屋をつくるの?? 」
「 いや ・・・ そうじゃないけど。
すぴかだけの ひみつのばしょ ほしくないかな~~って思ったんだけど。 」
「 ・・・ アタシだけの・・・? 」
「 うん。 誰にもナイショな場所。 ・・・どうかな? 」
「 ・・・ ほしい !! 」
「 よし。 じゃあ ・・・ 付いておいで。 」
「 うん、お父さん! 」
ジョーはすぴかを連れて二階の奥にある狭い階段を上がっていった。
「 ここ? 」
「 うん。 すぴか、来たことあるかい。 」
「 うん。 大掃除の時! お母さんと冬のカーテンを仕舞いにきた。 ここ・・・物置でしょ? 」
「 そうなんだけど。 ― でも違うんだ。 」
ジョーは バチ・・・!とウィンクをして そのドアを開いた。
ジョーはすぴかを連れて家の三階に来ていた。
三階、といっても天井は傾斜していて、通常に使う部屋はない。
中央の一室は 住人たちの不用品やら季節のものを仕舞う空間になっていた。
ドアをあけると 埃臭い熱気がもわ・・・っと流れ出てっくる。
「 ・・・ うわ・・・ぷ・・・ ここ 暑いね~ お父さん。 」
「 換気、してないからなあ・・・ ちょっと待っておいで。 ああ電気のスイッチは右側だよ。 」
「 ウン わかった ・・・ あ これだァ 」
パ・・・っと照らしだされた室内には ―
すぴかも見覚えのあるイスやら 大きな箱やら埃が積もった包みがごたごた重ねてあった。
灯りも届かない隅っこの方には 埃と一緒にねばっこい闇が澱んでいる。
「 ・・・ ひゃあ ・・・ すご・・・ 」
「 あは、 やっぱ一回 大掃除した方がいいかもな・・・ 換気扇、まわそうか。
ま いいや。 すぴか こっちへ来てごらん。 」
「 うん お父さん ・・・ あれ? ソファがあるね 」
部屋の奥、大きな荷物の陰にやっぱり古くなったソファが置いてあった。
古いけど。 でも その辺りはぽっかりと空間が広がっていた。
板張りの床も割りと綺麗で ところどころに小型のラグが敷いてある。
「 あ! このタンス~~ アタシたち、幼稚園生のころにつかってた! 」
すぴかは目敏く ソファに脇にあるタンスを見つけた。
「 ここなんだ。 実はさ、お父さんの 秘密基地 なんだけど。
特別に すぴかも使っていいよ。 すぴかだけのひみつきち さ。 」
「 ・・・え~~ ほんとう ?? ここ ・・・ すぴかだけの??
お父さんは もう使わないの? ・・・オトコノコなのに・・・ 」
「 ??? う~ん 時々はヒミツで仲間にいれてくれるかな。 いいかい、すぴか。 、」
「 うん ・・・! お父さんさ、ここで 何してたの? 宇宙ごっこ? 」
すぴかは そ・・・っと古いソファに座ってみる。
「 うちゅう・・? いや その・・・いろいろ考えごととかしてたのさ。
うん、まだ お前達が生まれる前 ・・・ お母さんと結婚する前だったけど。 」
「 ・・ ふうん ・・・ 」
「 先にね、ここを見つけたのはお母さんだったんだ。 ナイショでお父さんに教えてくれた・・・ 」
「 ふうん・・・ あ! わかった~~ 二人で ここで で~と してたんだ?
そんでもって ちゅう~~ってしてたんでしょ! 」
「 ち・・・ 違うよ! ( ・・・ ホントはしてたけど・・・ )
あ、あのな この部屋が一番ステキなのはね・・ そこに座って、うん ちょっとそのまま な。 」
「 ・・・・??? 」
ジョーは 戸口の方に戻り電気を消した。
「 うわっ? お父さん! 停電だよ~~ 」
「 ちがうよ、お父さんがスイッチを切っただけ。 すぴか・・・ そこで真上と見てごらん。 」
「 え ・・・ 真上? 」
― う わあ~~~ ・・・・・ !!!!
すぴかの声は いつしか溜息に変わっていた・・・
屋根裏部屋には 普通の窓はない。 その代わり かなり大きな天窓があった。
強化ガラスで覆われたそこからは 真下に寝転べば 滔々と流れる銀河が見える。
「 な? すごいだろ。 お父さんも お母さんも。 ぼ~~っと 眺めていたのさ・・・
( あはは ・・・ それはちょっと・・ウソだけど。 ) 」
「 ・・・ わ・・・ ぁ ・・・・・ 」
「 これが 好きでさ。 ・・・ どうだい? 」
「 ・・・・・・・ 」
ジョーが 天窓の下に回ってくると 彼の娘は言葉もなく天上の流れを見つめていた。
「 すばるは望遠鏡で見てるから。 すぴかは ここで眺めたらどうかな。 」
「 ・・・ うん ・・・ すごい ・・・ すごいね、お父さん! 」
「 最初に見つけたのはお母さんでね。 やっぱりそうやって星を眺めてたよ・・・・ 」
「 ふうん ・・・ ね、ホントにいいの? ここ・・・ すぴかが来ても。 」
「 ああ いいさ。 すぴかも星のコだもの。 」
「 星のコ ? あ 名前のことでしょ。 知ってるもん。 」
「 うん ・・・ お父さんさ、あの星が大好きなんだ。 お母さんの目の色に似てるしね。 」
「 ・・・ うん 知ってる。 」
「 だから すぴかが生まれて・・・ すぴかがお母さんとそっくりの瞳を持ってるってわかって
すごく嬉しかったんだ。 このコはお父さんの 星 だ!って思った。
それでな、 女の子は すぴか にしようか・・・って言おうとしたらさ。
お母さんが すぴか って名前にしてもいい?って先に言ったんだ。 」
「 え。 お父さんが決めたんじゃないの? 」
「 同時・・・というか 同じ意見だったんだ。
それで お母さんと同じ瞳の女の子は すぴか って名前になったんだよ。 」
「 ・・・ そうなの ・・・! お母さんも・・・! 」
「 お父さんもお母さんも すぴか って名前が大好きなんだ。 すぴかは? 」
「 ・・・・・・・ 」
すぴかは何にも言わないけど お首をこくこく・・・ お下げを一緒に揺らした。
「 なあ すぴか。 ここ・・・すぴかの秘密基地なんだ、好きに使っていいよ。
・・・ お母さんにもすばるにも ナイショにしておくからさ。 」
「 お父さん~~ ありがとう!! アタシ、しばらくここにいてもいい? 」
すぴかは ぱっとジョーに抱きついた。
「 うん ・・・ でもあんまり夜更かし、するなよ。 」
「 うん。 」
「 じゃ・・・ お休み、 すぴか。 」
「 お休みなさ~い お父さん ・・・ 」
ジョーは静かにドアをしめ 屋根裏から下りていった。
きれいだなあ・・・ 電気なんかつけなくても 明るいや・・・
すぴかはしばらく夜空を眺めていたけれど ふと ・・・・部屋の中に視線を戻した。
ソファの回りは片付いているけれど、あとはガラクタの山だらけみたいだ。
すぴかは自分たちの古いタンスを開けてみた。
「 ・・・ あれ。 ここにご本とかノートがあるね・・・ 」
からっぽかと思った引き出しには 本が数冊とノートがはいっていた。
「 ・・・ あ! これ。 この絵、知ってる! ・・・ 『 星の王子さま 』 だ・・・! 」
取り出した本には 見たことのあるイラストと Le Petit Prince のタイトルがあった。
ぱらぱらと捲ってみても 知っている絵ばかり ー でも文章はまるでわからない。
「 これ ・・・ お母さんのだ! これ ・・・ フランス語だよ きっと! 」
絵本と一緒にしまってあったノートは表紙に花模様が浮き出ていて洒落たデザインだ。
そ・・・っと捲れば。 ブルーの手書きの字でどのページもいっぱいになっていた。
ところどころに日付らしい数字が見える。 どうやら 日記らしい・・・
「 ・・・ これも お母さんのだ! お母さんの字・・・・ フランス語 ・・・・ 」
お母さん・・・・
お母さん、ここでさ。
こんな綺麗なお星さま 眺めて
・・・ なにを書いていたの・・・・?
なにを 考えていたの かなあ・・・
すぴかは 全然わからない言葉で埋まっているノートをじっと見つめていた。
星たちが 天窓から亜麻色の髪をした女の子を優しく照らしていた。
キシ ・・・・
ドアの軋む音が聞こえた。
すぴかははっと気が付いた。 どうやら ・・・ あのノートを抱えたままソファで眠っていたみたいだ。
いっけない・・・!
夜更かしするなよってお父さんに言われたのに・・・
・・・・ 今 何時かなあ・・・・
・・・・ あ あれれ・・・? ここ ・・・ウチの屋根裏・・・???
慌てて回りをみれば ― やっぱりごたごたいろいろなものが置いてあるのだけれど。
なんとなく 違う。 第一、ソファの脇にあったすぴか達の古いタンスは消えていた・・・
「 ・・・ アタシ ・・・? どこにいるんだろ・・・・ 」
― タタタ ・・・・
小さな足音が近づいてくる。 すぴかはソファの上できゅ・・・っと身体を固くしていた。
カタン ・・・ 物凄く大きくて古めかしいトランクの陰から ひょい・・・と女の子現れた。
「 ・・・!?? あ ・・・ あなた だれ? 」
女の子は目も口もまん丸にあけて じっとすぴかを見ている。
多分 ・・・ すぴかと同じくらいの年頃で よく似た色の髪が肩先でくるくるカールしている。
「 ・・・ あ ・・・ あ ・・・ アタシ ・・・ す すぴか・・! 」
「 すぴか? ・・・ あ。 もしかして・・・ 星の妖精? 」
「 ・・・ あ ・・・さ さあ・・? 」
「 わかったわ! あなた、星の子ね? あの窓から遊びにきてくれたのね! 」
女の子は つい、と上を指差した。
「 ・・・ あ 天窓 ・・・ 」
あれ? ウチのと ちょっと違うよ・・・?
ウチの窓は もっと広かったけど。
その部屋の天井にも 明り取りの天窓が切ってあった。
すぴかは目を凝らしてみたけれど 夜空に星が見えるだけだ。
・・・ ちょっと・・・ さっきと違う・・・かあなあ・・・・ よく わかんないけど・・・
「 ね♪ アナタはあそこから入ってきたのでしょ。
ふふふ・・・ ようこそ♪ わたしの隠れ家へ・・・ すぴかちゃん。 」
女の子はふんわり広がったスカートをちょっとつまんで きれいにお辞儀をした。
「 あ ・・・ あの アタシ ・・・ 」
「 ず~っとね、待ってたの! いつか ・・・ 星のこが遊びに来てくれないかなあ・・・って思ってたの。
Le Petit Prince みたいに。 でも お兄ちゃんったら そんなこと、あるもんか! って笑ったけど。
やっぱりママンが話してくれたとおりだったわ。 ね? おしゃべりしましょ。 」
ぽすん。 亜麻色の髪を揺らし女の子はすぴかの隣に座った。
「 あの。 あなたは・・・・ 」
「 あ、いっけない。 わたしってば、一人で喋ってたわ。
わたし、ファンションっていうの。 」
「 ・・・ ふぁんしょん・・・? 」
「 そうよ。 このお部屋に天窓があるのを見つけたのはわたしなの。 」
「 あ ・・・ そうなんだ? 」
「 うふふ・・・ ねえ? すぴかちゃんとわたし、髪の色、そっくりね。 」
「 あ ほんとう・・・! ふぁ ふぁんしょん・・・ちゃん。 」
「 あ・・・綺麗なノートね! すぴかちゃんの? 日記帳? 」
女の子は すぴかが抱えているノートに目を留めた。
「 え ・・・ あ ・・・う、うん、 そうなの。 」
「 ふうん ・・・ きれいねえ。 わたしもね、ここで日記を書いたりしているの。
パパやママンはお仕事で忙しいし、お兄ちゃんもリセからの帰りが遅いの。
だから・・・ レッスンがない日にはいつもここにいるのよ、わたし。 」
「 レッスン? 」
「 ええ。 わたしね、 バレリーナになるの。
そうして・・いつか 星の煌きみたいな踊りを踊りたい。 それがわたしの夢。
銀河を流れる星たちの踊り・・・ わたしが振り付けて踊るのよ! 」
ぱっとソファから立ち上がると 女の子はくるくると回転してみせた。
ふんわりしたスカートがひろがって とても綺麗だ。
「 ・・・じょうずだね、バレエ。 」
「 うふ・・・メルシ♪ ねえ、すぴかちゃんは? すぴかちゃんの夢はなあに。 」
「 え ・・・ アタシ? 」
「 そうよ。 あ。 そっか すぴかちゃんはきらきらう~んと素敵に輝くお星様になるのよね。 」
「 う・・・そ そうかな・・・・ 」
「 それじゃ 決めたわ! わたしの振り付けるバレエは すぴか ってタイトルにするわ。 」
「 え 本当? 」
「 ええ! すぴか って。 わたしの大切なものの名前にしたいな。 」
「 うわ・・嬉しい・・・! すぴかも自分のお名前大好きなんだ。
あ・・・ふぁんしょん ってお名前も好きだよ。 」
「 メルシ♪ 本当はねえ ・・・・・ っていうのよ、でも家族もお友達もみんな
ファンションって呼ぶの。 」
「 え? 」
すぴかには 女の子の <本当の名前> がよく聞き取れなかった。
「 ・・・あら? ママンが帰ってきたみたい。 ちょっと待っててね、すぴかちゃん。
お帰りなさ~~い ・・・! 」
女の子は ぽん・・・とソファから飛び降りると屋根裏部屋から駆け出していった。
「 すぴかちゃん、 ママンがねえ 一緒に食べなさいって ・・・ あら? 」
早足で女の子が戻ってきたとき ― 屋根裏部屋には もう誰もいなかった。
「 ・・・ 帰っちゃったのかしら。 すぴかちゃん ・・・ 」
わたしと同じ目の色だった・・・ 星の女の子 ・・・
・・・ また 逢えるかしら。
亜麻色の髪の女の子は 天窓からじっと星空を見上げていた。
その日、 すばるは朝から大騒ぎだった。
「 ネットでね 見るんだ! だいち君も一緒だよ。 」
「 おじいちゃま! おじいちゃまも・・・ じゃなくて、 ぎるもあ博士も!
僕たちと一緒に ひみつきち に集合してください! 」
「 ねえねえ オヤツ、持っていってもいい? 麦茶も~~ ねえねえ お母さんってば~~ 」
「 ああ いいよ。 お父さんがお母さんに頼んでおくから。
夜中まで起きているんだろう? 昼寝をしておいた方がいいんじゃないのか。 」
たまたま日曜日だったので ジョーがもっぱら相手をしてくれた。
フランソワーズは朝から口数も少なく 顔色も冴えない様子だ。
お母さん。 おなか いたいのかな。 おたま いたいのかな。
すぴかは 本当はビーズを買いに東京へ連れてって!とおねだりするつもりだったけど。
お口が自然に閉じてしまった。
「 お母さん! アタシ・・・ 冷たいむぎ茶 もってこようか? 」
「 え・・・ あら ありがとう、すぴか。 でもできたら温かいお茶が欲しいの、お母さん。 」
「 温かいの? うん! ちょっと待っててね! 」
へえ・・・? 今日ってこんなに蒸し暑いのに・・・・
お母さんってば 温かいお茶が飲みたいんだ・・・?
・・・ あれ。 さっき お母さんの手 ・・・ ひんやりしてた・・・
すぴかは変だなあ・・・と思ったけど、大急ぎでキッチンに行った。
お昼ごはんが終るとすばるはますますそわそわし テラスへ出て空を眺めたり、
お父さんにたのんでネットを見てもらったり・・・大騒ぎが続いている。
「 だいち君のお家にはちゃんとお話したの? 」
フランソワーズが言ったのはそのひと言だけだった。
お昼すぎに だいち君がお母さんと一緒にやってきて ― 双子のお母さんはちょっと笑顔を見せた。
「 本当にお邪魔してごめんなさいね。 あの・・・夜には主人がクルマで迎えにきますから。 」
「 ええ ええ。 楽しんでいますから・・・ご心配なく。 」
すぴかはちょっとだけ安心した。
・・・ いいや。 ビーズは来週、買いにいけば・・・
お母さんが元気になってからが いいもん。
「 すぴか。 フランソワーズもさ、ぼく達も天体観測しないかい。 」
「 え。 でもさ~ ウチには望遠鏡はないよ、お父さん。 」
「 ・・・ わたしは いいわ。 すぴかさん、お父さんに付き合ってあげて? 」
晩御飯が終わり、 オトコノコ達に引っ張られ博士も ひみつきち に篭ってしまった。
リビングではテレビだけが 声をだしていたのだけれど。
ジョーは 新聞を畳むと妻と娘に声をかけた。
二人とも あまり乗り気ではない。
「 まあ、いいからさ。 二人ともおいでよ。
フランソワーズもさ、 気分が晴れるよ、きっと。 さあさあ・・・ 」
ジョーはフランソワーズの肩を抱き すぴかの手を引いてリビングを出た。
「 お父さん どこ、行くの。 」
「 ― お父さんの秘密基地・・・! 」
「「 ・・・ え~~~ ??? 」」
結局、彼は女性軍を屋根裏部屋まで連れ行き、天窓の下に立った。
「 あ ここでなら お星様、よく見えるね~~ 」
「 そうねえ・・・ 綺麗ねえ、本当に・・・ 」
「 うん。 でも もっとよく見える場所があるんだ~
すぴか ・・・ じゃ ちょっと背が足りないか。 フラン、ぼくの肩に立ってくれるかな。 」
「 え?? ・・・肩の上?? 」
「 そうさ。 ほら ・・・ あの天窓。 開けて欲しいんだ。 」
ジョーは頭上の窓を指した。
「 ・・・ あの窓、開くの? 」
「 開く。 ずっと前にね・・・ 博士がそんなことを仰っていたもの。 ほら・・・窓枠の横にレバーがあるだろ。」
「 ・・・ ああ 本当ね。 でも ・・・ 届くかしら。 」
「 だからさ ぼくの肩に乗って きみが開ける! それですぴかをひっぱり上げる!
・・・ いいかい? ほらしゃがむから ・・・肩に乗れ。 」
「 ・・・うわ・・・! ジョー!!! 急に立ち上がらないで・・・! 」
「 うん ・・・ いいか~ 行くぞ! 」
「 え ええ ・・・ あ! ジョーってば! 上、見ないで・・・・! 」
「 なんで? 」
「 ・・・ お母さん ぱんつ、丸見え~~ 」
「 おお♪ いい眺めだなあ~ ( 今更 ・・・ きみのぱんつは毎晩見てるって♪ ) 」
「 もう~~~ ・・・ あ、レバーに届いたわ! 」
・・・ こちらも大騒ぎをして 親子3人はなんとか天窓から屋根の上に這い出した。
中天には 星々が冷たい炎を揚げ 静かに滔々と流れを作っていた
「 ・・・うわ~~~・・・ すごい~~ 」
「 ああ ・・・ 凄いなあ。 」
「 ・・・・・・・・ 」
すぴかは父と母の間に挟まって 目をまん丸にしている。
「 お父さん。 今晩さ、・・・ 流れ星になるんだね。 あの探査機。 」
ぴくん・・・ フランソワーズの身体が微かに揺れた。
「 ここからは見えないけどね。 今晩、帰ってくるんだよ・・・皆のところに、ね。 」
「 そうだね~~ おかえり~~~っていってあげなくちゃね。 」
「 そうだなあ・・・ 頑張ってお使い、してきたんだものな。 」
「 うん。 おかえり~~~ おかえりなさ~~~い・・・! 」
すぴかの甲高い声が 夜空に吸い込まれてゆく。
フランソワーズはただじっと・・・星を見つめている。
「 ・・・・・・ 」
ジョーは腕を伸ばし フランソワーズの肩を抱いた。 細い肩は小刻みに震えている。
「 どうした、寒いのかい? 」
「 ・・・ ううん。 ・・・ 感じるの。 流れ星が・・・ 見えないはずなのに・・・ 」
・・・ ああ ・・・! 星が ・・・!
ああ ああ ・・・ あの時と ・・・ 同じ・・・
屋根の上で フランソワーズはしっかりと目を閉じ そして 涙を流し続けていた。
― その晩から フランソワーズは熱を出した。
Last updated
: 07,06,2010.
index
/ next
********* 途中ですが
す、すみません、続きますです~~ <(_ _)>
例の はやぶさネタ@島村さんち です~~ あの流れ星 はゼロナイ・ファンには
一際 インパクトが強かったと思います。
そして今回も めぼうき様 との合作であります♪
前半は一応 ふたごちゃんの話 後半は親御さんたちの話になります。
例によって な~~~んにも起きません。
皆が仲良くのほほ~ん・・・と過しています。
およろしければあと一回、お付き合いくださいませ <(_ _)>
ご感想をひと言でも頂戴できますれば 望外の僥倖でございます <(_
_)>